(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】熱転写システムおよびその制御方法
(51)【国際特許分類】
B41J 17/38 20060101AFI20240801BHJP
B41J 35/38 20060101ALI20240801BHJP
B41J 2/325 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
B41J17/38 A
B41J35/38 A
B41J2/325 A
(21)【出願番号】P 2021003711
(22)【出願日】2021-01-13
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(72)【発明者】
【氏名】望月 弘毅
【審査官】佐藤 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-194893(JP,A)
【文献】特開2019-195927(JP,A)
【文献】特開2019-142038(JP,A)
【文献】実開平02-019558(JP,U)
【文献】特開2018-047619(JP,A)
【文献】特開2004-268513(JP,A)
【文献】特開昭61-010481(JP,A)
【文献】実開平03-031560(JP,U)
【文献】実開平02-121938(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 17/38
B41J 35/38
B41J 2/325
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持層とインク層とを有するインクリボンを用いて被転写体にインクを転写する熱転写システムにおいて、
前記インクリボンを送り出す送出部と、
前記送出部の下流側に配置され、前記インクリボンの支持層側に設けられた第1加熱体を有し、前記インクリボンのインク層のインクを前記被転写体に対して転写パターンで転写する第1転写装置と、
前記第1転写装置の下流側に配置され、インク転写済の前記インクリボンを巻き取る巻取部と、
前記巻取部の近傍に設けられ、前記巻取部に巻き取られたインク転写済の前記インクリボンに支持層側から当接して前記インクリボンを支持層側から加熱する第2加熱体であって、前記インクリボンのインク層のインクが当該インクリボンの内側に位置するインクリボンの支持層に転写されるよう、前記インクリボンを加熱する第2加熱体と、
制御部とを備え、
前記制御部は前記インクリボンを前記巻取部に巻き取りながら、前記第2加熱体を作動させて前記インクリボンを加熱して当該インクリボンの前記内側に位置するインクリボンの支持層に前記転写パターンと異なる第1かく乱パターンで前記インク層のインクを転写する工程と、
前記巻取部から前記インクリボンを巻き戻した後、前記巻取部へ前記インクリボンを再度巻き取る工程とを実行し、
更に前記巻取部から前記インクリボンを巻き戻す際、または前記巻取部へ前記インクリボンを再度巻き取る際、前記第2加熱体を作動させて前記インクリボンを加熱して当該インクリボンの内側に位置するインクリボンに前記転写パターンと異なる第2かく乱パターンで、前記インク層のインクを転写する工程を実行する、熱転写システム。
【請求項2】
前記第1かく乱パターンの形状と、前記第2かく乱パターンの形状は異なる、請求項1記載の熱転写システム。
【請求項3】
前記第1かく乱パターンと、前記第2かく乱パターンは同期して転写される、請求項1または2記載の熱転写システム。
【請求項4】
前記第1かく乱パターンと、前記第2かく乱パターンは一部重複して転写される、請求項1乃至3のいずれか記載の熱転写システム。
【請求項5】
前記第1かく乱パターンおよび前記第2かく乱パターンは、各々前記第2加熱体により前記第2加熱体の定格エネルギの60~100%のエネルギをかけて転写される、請求項1乃至4のいずれか記載の熱転写システム。
【請求項6】
前記第2かく乱パターンは、帯状ベタパターンまたは矩形状ベタパターンを含む、請求項1乃至5のいずれか記載の熱転写システム。
【請求項7】
前記巻取部から前記インクリボンを巻き戻す際、前記インクリボンのうち前記第2加熱体により加熱された領域が内側に位置するインクリボンから離れる地点に達する範囲内で巻き戻す、請求項1乃至6のいずれか記載の熱転写システム。
【請求項8】
支持層とインク層とを有するインクリボンを用いて被転写体にインクを転写する熱転写システムであって、前記インクリボンを送り出す送出部と、前記送出部の下流側に配置され、前記インクリボンの支持層側に設けられた第1加熱体を有し、前記インクリボンのインク層のインクを前記被転写体に対して転写パターンで転写する第1転写装置と、前記第1転写装置の下流側に配置され、インク転写済の前記インクリボンを巻き取る巻取部と、
前記巻取部の近傍に設けられ、前記巻取部に巻き取られたインク転写済の前記インクリボンに支持層側から当接して前記インクリボンを支持層側から加熱する第2加熱体であって、前記インクリボンのインク層のインクが当該インクリボンの内側に位置するインクリボンの支持層に転写されるよう、前記インクリボンを加熱する第2加熱体と、制御部とを備えた、熱転写システムの制御方法において、
前記制御部は前記インクリボンを前記巻取部に巻き取りながら、前記第2加熱体を作動させて前記インクリボンを加熱して当該インクリボンの前記内側に位置するインクリボンの支持層に前記転写パターンと異なる第1かく乱パターンで前記インク層のインクを転写する工程と、
前記巻取部から前記インクリボンを巻き戻した後、前記巻取部へ前記インクリボンを再度巻き取る工程とを実行し、
更に前記巻取部から前記インクリボンを巻き戻す際、または前記巻取部へ前記インクリボンを再度巻き取る際、前記第2加熱体を作動させて前記インクリボンを加熱して当該インクリボンの内側に位置するインクリボンに前記転写パターンと異なる第2かく乱パターンで前記インク層のインクを転写する工程を実行する、熱転写システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、支持層とインク層とを有するインクリボンを用いて被転写体にインクを転写する熱転写システムおよびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクリボンを用いて、カードなどの被転写体に文字などの像を印字する転写システムが、広く普及している。インクリボンは、帯状に延びるリボン(支持層)と、リボン上に形成され、染料等を含んだインク層と、を有している。インクリボンを用いた印字においては、印字されるべき所望の像に対応したパターンで、インクが被転写体に転写される。この場合、インク転写済のインクリボンには、被転写体への転写によりインクが抜けた部分が、印字された像に対応したパターンで存在している。このため、インク転写済のインクリボンから、印字された像を特定することが可能である。従って、インクリボンを用いて、被転写体にID情報などの秘匿すべき情報を印字する場合、インク転写済のインクリボンの取り扱いに注意が必要となる。
【0003】
このような問題に対応するため、例えば特許文献1において、巻取部に巻き取られた最外周のインクリボンを、加熱体を用いて加熱し、内側に位置するインクリボンにかく乱パターンでインクを転写するとともに、インクリボン同士を接着させる、熱転写システムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら加熱体を用いて最外周のインクリボンのインクをかく乱パターンで内側に位置するインクリボンに転写させ、最外周のインクリボンを内側に位置するインクリボンに接着させても、両者の接着力が弱いと、インク転写済のインクリボンを巻き戻す際、両者が剥がれてID情報などの秘匿すべき情報が読み取られてしまう。このような場合、加熱体に大きなエネルギを付加することも考えられるが、加熱体への付加エネルギには上限値があり、この上限値を超えてエネルギをかけることはできない。
【0006】
本開示は、このような点を考慮してなされたものであり、加熱体に大きなエネルギを付加することなく、転写済のインクリボンからID情報等の秘匿すべき情報を読み取ることが困難な熱転写システムおよびその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、支持層とインク層とを有するインクリボンを用いて被転写体にインクを転写する熱転写システムにおいて、前記インクリボンを送り出す送出部と、前記送出部の下流側に配置され、前記インクリボンの支持層側に設けられた第1加熱体を有し、前記インクリボンのインク層のインクを前記被転写体に対して転写パターンで転写する第1転写装置と、前記第1転写装置の下流側に配置され、インク転写済の前記インクリボンを巻き取る巻取部と、前記巻取部の近傍に設けられ、前記巻取部に巻き取られたインク転写済の前記インクリボンに支持層側から当接して前記インクリボンを支持層側から加熱する第2加熱体であって、前記インクリボンのインク層のインクが当該インクリボンの内側に位置するインクリボンの支持層に転写されるよう、前記インクリボンを加熱する第2加熱体と、制御部とを備え、前記制御部は、前記インクリボンを前記巻取部に巻き取りながら、前記第2加熱体を作動させて前記インクリボンを加熱して当該インクリボンの前記内側に位置するインクリボンの支持層に前記転写パターンと異なる第1かく乱パターンで前記インク層のインクを転写する工程と、前記巻取部から前記インクリボンを巻き戻した後、前記巻取部へ前記インクリボンを再度巻き取る工程とを実行し、更に前記巻取部から前記インクリボンを巻き戻す際、または前記巻取部へ前記インクリボンを再度巻き取る際、前記第2加熱体を作動させて前記インクリボンを加熱して当該インクリボンの内側に位置するインクリボンに前記転写パターンと異なる第2かく乱パターンで前記インク層のインクを転写する工程を実行する、熱転写システムである。
【0008】
本開示は、前記第1かく乱パターンの形状と、前記第2かく乱パターンの形状は異なる、熱転写システムである。
【0009】
本開示は、前記第1かく乱パターンと、前記第2かく乱パターンは同期して転写される、熱転写システムである。
【0010】
本開示は、前記第1かく乱パターンと、前記第2かく乱パターンは一部重複して転写される、熱転写システムである。
【0011】
本開示は、前記第1かく乱パターンおよび前記第2かく乱パターンは、各々前記第2加熱体により前記第2加熱体の定格エネルギの60~100%のエネルギをかけて転写される、熱転写システムである。
【0012】
本開示は、前記第2かく乱パターンは、帯状ベタパターンまたは矩形状ベタパターンを含む、熱転写システムである。
【0013】
本開示は、前記巻取部から前記インクリボンを巻き戻す際、前記インクリボンのうち前記第2加熱体により加熱された領域が内側に位置するインクリボンから離れる地点に達する範囲内で巻き戻す、熱転写システムである。
【0014】
本開示は、支持層とインク層とを有するインクリボンを用いて被転写体にインクを転写する熱転写システムであって、前記インクリボンを送り出す送出部と、前記送出部の下流側に配置され、前記インクリボンの支持層側に設けられた第1加熱体を有し、前記インクリボンのインク層のインクを前記被転写体に対して転写パターンで転写する第1転写装置と、前記第1転写装置の下流側に配置され、インク転写済の前記インクリボンを巻き取る巻取部と、前記巻取部の近傍に設けられ、前記巻取部に巻き取られたインク転写済の前記インクリボンに支持層側から当接して前記インクリボンを支持層側から加熱する第2加熱体であって、前記インクリボンのインク層のインクが当該インクリボンの内側に位置するインクリボンの支持層に転写されるよう、前記インクリボンを加熱する第2加熱体と、制御部とを備えた、熱転写システムの制御方法において、前記制御部は前記転写パターンと前記インクリボンを前記巻取部に巻き取りながら、前記第2加熱体を作動させて前記インクリボンを加熱して当該インクリボンの前記内側に位置するインクリボンの支持層に前記転写パターンと異なる第1かく乱パターンで前記インク層のインクを転写する工程と、前記巻取部から前記インクリボンを巻き戻した後、前記巻取部へ前記インクリボンを再度巻き取る工程とを実行し、更に前記巻取部から前記インクリボンを巻き戻す際、または前記巻取部へ前記インクリボンを再度巻き取る際、前記第2加熱体を作動させて前記インクリボンを加熱して当該インクリボンの内側に位置するインクリボンに前記転写パターンと異なる第2かく乱パターンで前記インク層のインクを転写する工程を実行する、熱転写システムの制御方法である。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、加熱体に大きなエネルギを付加することなく、かつ転写済のインクリボンから情報を読み取ることが困難となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態における熱転写システムを示す図。
【
図2A】
図2Aは、本発明の実施の形態において、インク転写済のインクリボンを示す図。
【
図2B】
図2Bは、本発明の実施の形態において、インクリボンのインクが転写パターンで転写された被転写体を示す図。
【
図3】
図3は、
図2Aに示すインク転写済のインクリボンのIII-III線に沿った断面図。
【
図4】
図4は、
図1の熱転写システムの巻取装置を拡大して示す図。
【
図5】
図5は、第2加熱体およびインクリボンを示す拡大図。
【
図6】
図6は、熱転写システムの制御方法を示すフローチャート。
【
図7A】
図7Aは、外側インクリボンのインク層のインクが、内側インクリボンの支持層に第1かく乱パターンで転写される様子を示す図。
【
図7B】
図7Bは、外側インクリボンのインク層のインクが、内側インクリボンの支持層に第1かく乱パターンで転写される様子を示す図。
【
図8A】
図8Aは、第1かく乱パターンが形成された後の外側インクリボンのインク層を示す図。
【
図8B】
図8Bは、第1かく乱パターンが形成された後の内側インクリボンの支持層を示す図。
【
図8C】
図8Cは、第2かく乱パターンが形成された後の内側インクリボンの支持層を示す図。
【
図8D】
図8Dは、変形例としての第2かく乱パターンが形成された後の内側インクリボンの支持層を示す図。
【
図9】
図9は、巻取部上のインクリボンを巻き戻す範囲を示す図。
【
図11】
図11は、本実施の形態による熱転写システムの変形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<本発明の実施の形態>
以下、
図1乃至
図8を参照して、本実施の形態について説明する。はじめに
図1を参照して、熱転写システム10の全体構造について説明する。
【0018】
図1に示すように、熱転写システム10は支持層11とインク層12とを有するインクリボン13を用いて被転写体14に所望パターンでインク12aを転写するものである。このような熱転写システム10は、矢印R1で示す方向にインクリボン13を送り出す送出部16と、送出部16の下流側に配置された第1転写装置17と、第1転写装置17の下流側に配置され、矢印R2で示す方向にインク転写済のインクリボン13を巻き取る巻取部21と、巻取部21の近傍に設けられ、インク転写済のインクリボン13を支持層11側から加熱する発熱体からなる第2加熱体23を含む第2転写装置22とを備えている。
図1に示すように、送出部16から送り出されたインクリボン13は、複数のガイドロール15に沿って巻取部21まで搬送される。
【0019】
図1に示すように、第1転写装置17は、被転写体14を支持するプラテンロール19と、インクリボン13および被転写体14を挟んでプラテンロール19と対向するよう設けられた第1加熱体18、例えば印字ヘッドと、を有している。
図1に示すように、第1加熱体18は、インクリボン13の支持層11側に設けられている。この第1加熱体18により、インクリボン13のインク層12のインク12aがID情報に対応する所定のパターン(転写パターン)で加熱され、これによって、インクリボン13のインク層12のインク12aが被転写体14に対して転写パターンで転写される(以下、印字されるとも言う)。
【0020】
図2Aは、インク12aが被転写体14に第1パターンで転写された後のインクリボン13をインク層12側から見た場合を示す図であり、
図2Bは、インクリボン13のインク12aが第1パターンで転写された被転写体14を示す図である。
図3は、
図2Aに示すインク転写済のインクリボン13のIII-III線に沿った断面図である。
図2Aおよび
図3に示すように、インク転写済のインクリボン13において、インク層12は、被転写体14に転写されずに残留しているインク12aと、被転写体14に印字されたID情報に対応するインク抜け部分12bとからなる。この場合、
図2Aに示すように、インク転写済のインクリボン13におけるインク抜け部分12bのパターンは、上述の第1加熱体18における転写パターンに対応している。このため、インク抜け部分12bのパターンに基づいて、被転写体14に印字されたID情報を特定することが可能となっている。
【0021】
次に
図4を参照して、熱転写システム10の巻取部21について詳細に説明する。上述のとおり、巻取部21は、インク転写済のインクリボン13を巻き取るロール状のものであり、巻取部21の近傍に、インク転写済のインクリボン13を支持層11側から加熱する第2加熱体23を含む第2転写装置(巻取装置用転写装置)22が設けられている。
【0022】
図4に示すように、本実施の形態の巻取部21においては、インクリボン13の支持層11がインク層12よりも外側に位置するようインクリボン13が巻き取られる。なお
図4に示すように、本実施の形態において、巻取部21に巻き取られているインクリボン13のうち最外周に位置するインクリボン13が外側インクリボン13Aと称され、外側インクリボン13Aよりも内側で巻取部21に巻き取られ、外側インクリボン13Aに隣接しているインクリボン13が内側インクリボン13Bと称される。
【0023】
次に
図5を参照して、第2転写装置22の第2加熱体23について詳細に説明する。なお、巻取部21にインクリボン13が巻き取られる際、巻き取られたインクリボン13は、実際には巻取部21のロール面に沿って湾曲するが、
図5においては、便宜上、湾曲状態を無視してインクリボン13が描かれている。また
図5においては、外側インクリボン13Aが第2加熱体23により押圧されて外側インクリボン13Aのインク層12の一部のインク12aが内側インクリボン13Bの支持層11に押し付けられる様子を説明するため、便宜上、外側インクリボン13Aと内側インクリボン13Bとの間に若干の隙間が描かれている。しかしながら、これに限られることはなく、外側インクリボン13Aと内側インクリボン13Bとが全面にわたって隙間無く接していてもよい。
【0024】
図5に示すように、外側インクリボン13Aが第2加熱体23によって外側(支持層11側)から加熱および押圧されると、外側インクリボン13Aのインク層12に残留しているインク12aの一部が、転写パターン25と異なる第1かく乱パターン26Aあるいは第2かく乱パターン26Bをもって内側インクリボン13Bの支持層11上に転写される。なお、第2加熱体23の温度は、外側インクリボン13Aのインク層12のインク12aが全域にわたって溶融され、これによって外側インクリボン13Aと内側インクリボン13Bとが接着されるという現象が生じない程度に、低く設定されている。
【0025】
ここで、第2加熱体23により内側インクリボン13Bの支持層11上に転写される第1かく乱パターン26Aおよび第2かく乱パターン26Bは、第1加熱体18における転写パターンとは異なるよう設定されている。このため、外側インクリボン13Aのインク層12に残留しているインク12aの一部を内側インクリボン13Bの支持層11上に転写することにより、外側インクリボン13Aのインク層12における、ID情報に対応する転写パターンからなるインク抜け部分12bのパターンを破壊することができる。このことにより、後に詳細に説明するように、インク抜け部分12bのパターンに基づいて被転写体14に印字されたID情報が特定されるのを防ぐことができる。
【0026】
なお、巻取部21においては、巻き取りが進むにつれて、巻取部21により巻き取られているインクリボン13により構成されるロール体の外径が増加していく。このようなロール体の外径の増加に対応するため、第2加熱体23は、ロール体の半径方向(
図4にお
いて矢印D1で示す方向)において移動可能となるよう支持機構(図示せず)により支持されている。また、このような支持機構によって第2加熱体23を支持することにより、巻取り駆動が停止されている場合や、第2加熱体23による加熱が不要な場合に、第2加熱体23を矢印D1方向に移動させて、巻取部21に巻き取られているインクリボン13との接触を任意に中止することが可能となる。
【0027】
また、本実施の形態による熱転写システム10の各構成部分は、制御部30により駆動制御される。
【0028】
<本実施の形態の作用>
次に、このような構成からなる本実施の形態の作用について
図6のフローチャートを用いて説明する。ここでは、熱転写システム10の第1加熱体18を有する第1転写装置17により、インクリボン13のインク12aが被転写体14にID情報に対応する転写パターン25で転写される(印字される)。その後、インク転写済の外側インクリボン13Aのインク層12のインク12aが、第2転写装置22により転写パターン25と異なる第1かく乱パターン26Aまたは第2かく乱パターン26Bで内側インクリボン13Bの支持層11上に転写される(印字される)作用について説明する。
【0029】
本実施の形態による熱転写システムは、制御部30により駆動制御されて運転される。
【0030】
まず、
図1に示すように、被転写体14を第1転写装置17に向けて搬送する。一方、インクリボン13を、送出部16から第1転写装置17に向けて送り出す。
【0031】
被転写体14が第1転写装置17の第1加熱体18とプラテンロール19との間に到達すると、第1加熱体18がインクリボン13を、ID情報に対応する転写パターンで加熱しながら被転写体14に対して押し付ける。これによって、インクリボン13のインク層12のインク12aがID情報に対応する転写パターンで被転写体14上に転写される。このことにより、被転写体14上にID情報が印字されるとともに、インクリボン13のインク層12に、ID情報に対応したインク抜け部分12bが形成される。
【0032】
第1転写装置17を経た後のインク転写済のインクリボン13は、巻取装置20の巻取部21により巻き取られる。この際、予め第2転写装置22の第2加熱体23は、降下しており、第2加熱体23は外側インクリボン13Aに当接している。そして、巻取部21によってインク転写済のインクリボン13が巻き取られている状態において、第2転写装置22の第2加熱体23により、外側インクリボン13Aが転写パターンと異なる第1かく乱パターンあるいは第2かく乱パターンで加熱される(第2転写工程)。以下、
図6、
図7A、
図7Bおよび
図8A乃至
図8Dを参照して、外側インクリボン13Aが第2転写装置22の第2加熱体23により第1かく乱パターンあるいは第2かく乱パターンにより加熱される作用について詳細に説明する。
【0033】
(第1かく乱印字工程)
はじめに第1かく乱パターンによるかく乱印字工程(第1かく乱印字工程ともいう)が開始される。
図7Aに示すように、第2転写装置22の第2加熱体23が外側(支持層11側)から第2加熱体23を外側インクリボン13Aに押し付ける。次に巻取部21によるインクリボン13の巻き取りが開始され、これによって、外側インクリボン13Aが第2加熱体23により外側から加熱される。このため、外側インクリボン13Aのインク層12に残留しているインク12aの一部が、内側インクリボン13Bの支持層11上に対して、加熱されながら押し付けられる。これによって、
図7Bにおいて符号12cにより示すように、外側インクリボン13Aのインク層12に残留しているインク12aの一部が、内側インクリボン13Bの支持層11上に第1かく乱パターン26Aにより転写される。このとき外側インクリボン13Aは内側インクリボン13Bにインクを介して接着される。
【0034】
図8Aは、第2転写装置22の第2加熱体23による転写が行われた後の外側インクリボン13Aをインク層12側から見た場合を示す図であり、
図8Bは、第2転写装置22の第2加熱体23による転写が行われた後の内側インクリボン13Bを支持層11側から見た場合を示す図である。
図8Aに示すように、外側インクリボン13Aのインク層12には、第1転写装置17の第1加熱体18におけるID情報の転写パターンに対応する転写パターン25を有するインク抜け部分12b(1)と、第2転写装置22における第2加熱体23による第1かく乱パターン26Aを有するインク抜け部分12b(2)と、が形成されている。
図8Aに示すように、外側インクリボン13Aのインク層12には、転写パターン25と第1かく乱パターン26Aとが混在しており、このため、ID情報に対応する転写パターン25からなるインク抜け部分12b(1)のパターンが、認識不可能な程度に破壊されている。このことにより、インク抜け部分12bのパターンに基づいて被転写体14に印字されたID情報が特定されるのを防ぐことができる。この場合、上述のように第1加熱体18により形成された転写パターン25と、第2加熱体23により形成された第1かく乱パターン26Aとは両者の形状が全く相違する。なお、
図8Aにおいて、便宜上、第1かく乱パターン26Aが丸形状、あるいは三角形状を有するため、転写パターン25が、第1かく乱パターン26Aによって十分にかく乱されていないようにも見えるが、実際は、第1かく乱パターン26Aはもう少し複雑な形状を有し、転写パターン25を第1かく乱パターン26Aによって確実にかく乱することができる。
【0035】
図8Bに示すように、内側インクリボン13Bの支持層11上には、第2転写装置22の第2加熱体23によって、外側インクリボン13Aから第1かく乱パターン26Aでインク12cが転写されている。また
図8Bに示すように、このインク12cには、部分的に、外側インクリボン13Aのインク層12の転写パターンからなるインク抜け部分12bに基づくパターンを有するインク抜け部分12dが形成されている。しかしながら、当該インク抜け部分12dは、
図8Bに示すように、第1かく乱パターン26Aと重複する領域において視認されるのみであり、従って、インク抜け部分12dのパターンに基づいて、被転写体14に印字されたID情報が特定されることはない。
【0036】
以上のようにして、第1かく乱印字工程が終了する。
【0037】
その後第1加熱体18により被転写体14に対して転写パターンで行われる転写工程が終了する。
【0038】
次に第2加熱体23が上昇して外側インクリボン12Aから離れる。
【0039】
ところで、上述した第1かく乱印字工程において、第2加熱体23はその定格エネルギに対して、60%~100%のエネルギをもって外側インクリボン13Aを外側から加熱する。このため第1かく乱印字工程において、第2加熱体23に対して過大なエネルギが加わることはなく、第2加熱体23が破損することはない。
【0040】
しかしながら第1かく乱印字工程において、上述した第2加熱体23へ加わるエネルギが定格エネルギに達しないため、外側インクリボン13Aのインク層12に残留しているインク12aが内側インクリボン13Bの支持層11上に十分に転写されないことも考えられ、この場合は、外側インクリボン12Aと内側インクリボン12Bの接着の程度が低下してしまう。
【0041】
このため、本実施の形態においては、第1かく乱印字工程に引き続いて、以下に示す巻き戻し工程と第2かく乱印字工程が行われる。
【0042】
(巻き戻し工程)
本実施の形態において、次に第1かく乱印字工程に引き続きインクリボン13が巻き戻される。
【0043】
まず送出部16を作動させて巻取部21に巻き取られたインクリボン13が所定距離だけ巻き戻される。インクリボン13を巻取部21から巻き戻す場合、第1かく乱印字工程において第2加熱体23により加熱された外側インクリボン13Aの領域L1が、内側インクリボン13Bから離れる地点Pに達する範囲L2より小さい範囲(範囲L2内の範囲)L3だけ巻き戻すことが好ましい(
図9参照)。
【0044】
このようにインクリボン13を巻取部21から巻き戻す範囲を定めることにより、第1かく乱印字工程において内側インクリボン13Bに接着された外側インクリボン13Aが内側インクリボン13Bから再び剥離してしまうことを防止することができる。また、第1かく乱印字工程で形成された第1かく乱パターン26A上に重ねて後述する第2かく乱パターン26Bを確実に形成することができる。
【0045】
なお、上記実施の形態において、送出部16を作動させて巻取部21に巻き取られたインクリボン13を巻き戻す例を示したが、これに限らず
図11に示すように、第1転写装置17と巻取部21との間に可動ローラ31を含むアキュームレータ31Aを設けてもよい。
図11において、アキュームレータ31Aの可動ローラ31を移動させることにより、送出部16を作動させることなく、巻取部21に巻き取られたインクリボン13を巻き戻すことができる。
【0046】
巻き戻し工程に引き続いて、第2かく乱印字工程が行われる。
【0047】
(第2かく乱印字工程)
まず、第2転写装置22の第2加熱体23が降下して第2加熱体23が外側(支持層11側)から第2加熱体23を外側インクリボン13Aに押し付ける。次に巻取部21によるインクリボン13の巻き取りが開始され、続いて、外側インクリボン13Aが第2加熱体23により外側から加熱される。このため、外側インクリボン13Aのインク層12に残留しているインク12aの一部が、内側インクリボン13Bの支持層11上に対して、加熱されながら押し付けられる。これによって、外側インクリボン13Aのインク層12に残留しているインク12aの一部が、内側インクリボン13Bの支持層11上に第2かく乱パターン26Bにより転写される。このとき外側インクリボン13Aは内側インクリボン13Bにインクを介して接着される。
【0048】
図8Cは、第2転写装置22の第2加熱体23による転写が行われた後の内側インクリボン13Bを支持層11側から見た場合を示す図である。
【0049】
図8Cに示すように、内側インクリボン13Bの支持層11上には、第1かく乱印字工程において第2加熱体23により形成された第1かく乱パターン26Aと形状が異なる第2かく乱パターン26Bが形成される。
図8Cにおいて、第2かく乱パターン26Bは、第1かく乱パターン26Aを覆うよう太字状に形成されている。
【0050】
本実施の形態において、第1かく乱印字工程において内側インクリボン13Bの支持層11上に形成される第1かく乱パターン26Aと、第2かく乱印字工程において内側インクリボン13Bの支持層11上に形成される第2かく乱パターン26Bは、いずれも第1転写装置17の第1加熱体18により形成される転写パターンと相違している。また、第1かく乱パターン26Aと第2かく乱パターン26Bを互いに同期させて内側インクリボン13Bの支持層11上に形成してもよい。この場合、第1かく乱パターン26Aを細字の丸形状、あるいは三角形状に内側インクリボン13Bの支持層11上に形成し、第2かく乱パターン26Bをこの第1かく乱パターン26Aを完全に覆うよう太字の丸形状、あるいは三角形状に内側インクリボン13Bの支持層11上に形成してもよい。
【0051】
なお第1かく乱印字工程において形成される第1かく乱パターン26Aと、第2かく乱印字工程において形成される第2かく乱パターン26Bを同期させて内側インクリボン13Bの支持層11上に設ける場合、巻取部21に巻き取られたインクリボン13を巻き戻す際、巻き戻し時における巻取部21の回転角度を制御し、その後に第2かく乱印字工程に入ることにより、第1かく乱パターン26Aと第2かく乱パターン26Bを精度良く同期させることができる。また、
図8Cに示すように、第2かく乱パターン26Bは第1かく乱パターン26Aを覆うよう太字状に形成されており、第1かく乱パターン26Aと第2かく乱パターン26Bを同期して形成する際、多少の位置ずれが生じても、第2かく乱パターン26Bによって第1かく乱パターン26Aを確実に覆うことができる。
【0052】
あるいは第1かく乱パターン26Aを丸形状あるいは三角形状に内側インクリボン13Bの支持層11上に形成し、第2かく乱パターン26Bを、第1かく乱パターン26Aと一部重複する帯状ベタパターン状あるいは矩形状のベタパターン状に内側インクリボン13Bの支持層11上に形成してもよい(
図8D参照)。
【0053】
このようにして第2かく乱印字工程が終了する。第2かく乱印字工程においては、第2加熱体23はその定格エネルギに対して、60%~100%のエネルギをもって外側インクリボン13Aを外側から加熱する。このため、第2かく乱印字工程において、第2加熱体23に対して過大な負荷がかかることはなく、第2加熱体23が破損することもない。
【0054】
その後巻取部21によるインクリボン13の巻き取りが終了して熱転写システムの運転が終了する。
【0055】
以上のように本実施の形態によれば、第1かく乱印字工程において、定格に対して60%~100%のエネルギをかけて第2加熱体23を作動させ、第2かく乱印字工程において定格に対いて60%~100%のエネルギをかけて第2加熱体23を作動させる。このため、第1かく乱印字工程および第2かく乱印字工程の各々において、第2加熱体23に過大な負荷をかけることはなく、第2加熱体23が破損することを未然に防止することができる。
【0056】
また本実施の形態によれば、例えば、
図10A乃至
図10Cに示すように、第1かく乱印字工程において定格に対して60%~100%のエネルギをかけて第2加熱体23を作動させる。その後第2かく乱印字工程において定格に対して60%~100%のエネルギをかけて第2加熱体23を作動させ、第1かく乱印字工程と第2かく乱印字工程で合わせて定格以上のエネルギを第2加熱体23にかけることができる(
図10A)。
【0057】
この場合、第1かく乱印字工程において、外側インクリボン13Aのインク12aの一部(インクの不十分な転写部分)12eが内側インクリボン13Bの支持層11上に不十分な状態で転写されることも考えられる(
図10B参照)。
【0058】
このとき第1かく乱印字工程において、外側インクリボン13Aのインク12aの一部12eは、内側インクリボン13Bの支持層11上に第1かく乱パターン26Aにより不十分な接着強度で形成される。
【0059】
次に第2かく乱印字工程において、外側インクリボン13Aのインク12aが第2かく乱パターン26Bにより内側インクリボン13Bの支持層11上に転写される。このとき第2かく乱パターン26Bを第1かく乱パターン26Aと同期させて形成することにより、第1かく乱印字工程において不十分に転写されたインク12aの一部12eは、第2かく乱印字工程において、確実に転写されたインク12cとなる(
図10C参照)。
【0060】
また第1かく乱印字工程において形成される第1かく乱パターン26Aを細字の丸形状あるいは三角状とし、第2かく乱印字工程において形成される第2かく乱パターン26Bを太字の丸形状あるいは三角状とし、第1かく乱パターン26Aを第2かく乱パターン26Bにより完全に覆うことにより、第1かく乱パターン26Aと第2かく乱パターン26Bを重複させることができる。このことにより、第1かく乱印字工程と第2かく乱印字工程により、インクリボン13に転写パターンを認識不能とするかく乱パターン26A,26Bを確実に形成することができる(
図8C参照)。
【0061】
この場合、第1かく乱パターン26Aを細字状とし、第2かく乱パターン26Bを太字状とすることにより、第1かく乱パターン26Aと第2かく乱パターン26Bが正確に同期していなくても、第1かく乱パターン26Aと第2かく乱パターン26Bを確実にさせることができる。
【0062】
また第1かく乱パターン26Aを丸形状あるいは三角形状に形成し、第2かく乱パターン26Bを第1かく乱パターン26Aと一部重複する帯状ベタパターン状あるいは矩形状のベタパターン状に形成することにより、第1かく乱パターン26Aと第2かく乱パターン26Bを精度良く同期させなくても、第1かく乱パターン26Aと第2かく乱パターン26Bを重複させることができる(
図8D参照)。
【0063】
なお、上記実施の形態において、第1かく乱パターン26Aを細字状に形成し、第2かく乱パターン26Bを太字状に形成した例を示したが、これに限らず第1かく乱パターン26Aを太字状に形成し、第2かく乱パターン26Bを細字状に形成してもよい。
【0064】
さらにまた、上記の実施の形態において、インクリボン13を巻取部21に巻き取りながら第1かく乱印字工程を実施し、その後で巻取部21上のインクリボン13を巻き戻し、その後インクリボン13を巻取部21に再度巻き取りながら第2かく乱印字工程を実施する例を示した。しかしながらこれに限らず、インクリボン13を巻取部21に巻き取りながら第1かく乱印字工程を実施し、その後、巻取部21上のインクリボン13を巻き戻しながら、第2かく乱印字工程を実施してもよい。
【0065】
さらにまた、上記本実施の形態において、第1かく乱印字工程において、第1かく乱パターン26Aを形成し、第2かく乱印字工程において、第2かく乱パターン26Bを形成する例を示したが、これに加えて第3かく乱印字工程において第3かく乱パターンを形成したり、更に第4かく乱印字工程において、第4かく乱パターンを形成してもよい。
【符号の説明】
【0066】
10 熱転写システム
11 支持層
12 インク層
12a インク
12b インク抜け部分
12c 第2加熱体により支持層上に転写されたインク
12e インクの不十分な転写部分
13 インクリボン
13A 外側インクリボン
13B 内側インクリボン
14 被転写体
15 ガイドロール
16 送出部
17 第1転写装置
18 第1加熱体
19 プラテンロール
20 巻取装置
21 巻取部
22 第2転写装置
23 第2加熱体
25 転写パターン
26A 第1かく乱パターン
26B 第2かく乱パターン
30 制御部
31 可動ローラ
31A アキュームレータ