(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】小型電動車両
(51)【国際特許分類】
A61G 5/04 20130101AFI20240801BHJP
B62B 3/00 20060101ALI20240801BHJP
A61G 5/10 20060101ALI20240801BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20240801BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20240801BHJP
【FI】
A61G5/04 707
B62B3/00 B
A61G5/10 717
B60L15/20 S
B60L3/00 H
(21)【出願番号】P 2021012216
(22)【出願日】2021-01-28
【審査請求日】2023-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】ラージャー ゴピナート
【審査官】大橋 俊之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/163035(WO,A1)
【文献】特開2011-218075(JP,A)
【文献】特開2006-43072(JP,A)
【文献】特開2019-14325(JP,A)
【文献】特開2004-350740(JP,A)
【文献】特開2014-64619(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 5/04
B62B 3/00
A61G 5/10
B60L 15/20
B60L 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
進退方向および幅方向を有する車体と、
前記車体の幅方向に離間して設けられた左右駆動輪と、
前記左右駆動輪に個別に動力伝達可能に接続された左右モータと、
ジョイスティック型の操作子を有する操作部と、
前記操作子の操作量に従って前記左右モータを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、走行中に前記操作子が中立位置に戻った場合は、減速停止制御を実行し、所定閾値以上の速度で前進走行中に前記操作子が後方に傾倒された場合は、左右方向の操作量に拘わらず急停止制御を実行するように構成されている、小型電動車両。
【請求項2】
前記急停止制御は、前記左右モータによる回生制動と、所定の低速度にて電磁ブレーキにより前記左右駆動輪または前記左右モータをロックすることを含む、請求項1に記載の小型電動車両。
【請求項3】
前記制御部は、前記急停止制御中に前記操作子が前方または中立位置に操作された場合、または、前記急停止制御による車両停止後に所定時間が経過した場合は、前記急停止制御を終了し、前記操作子の操作位置に応じた通常制御を実行するように構成されている、請求項1または2に記載の小型電動車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢者など歩行に負担を抱える利用者のための手押し車型の電動歩行補助車や電動車いすなどの小型電動車両が公知である。例えば、特許文献1には、ジョイスティック型操縦手段の操作子が真後ろに倒された場合は車両を停止させ、左右後方に倒された場合は定位置回転するように構成された小型電動車両(電動車いす)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の電動車では、通常は後退が禁止されており、後進する場合は、別のスイッチを操作して後進走行に切り替える必要があるうえ、その場合には前進走行が禁止されるので、前進と後進を繰り返して停止位置を調整するような場合の操作性に問題があった。また、緊急時に急停止させる機能はなく安全性に課題があった。
【0005】
本発明は、従来技術の上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、別途切り替えスイッチを用いず、ジョイスティック型操作子のみで前進・後進・旋回、停止・急停止を含む操作を行える小型電動車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る小型電動車両は、
進退方向および幅方向を有する車体と、
前記車体の幅方向に離間して設けられた左右駆動輪と、
前記左右駆動輪に個別に動力伝達可能に接続された左右モータと、
ジョイスティック型の操作子を有する操作部と、
前記操作子の操作量に従って前記左右モータを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、走行中に前記操作子が中立位置に戻った場合は、減速停止制御を実行し、所定閾値以上の速度で前進走行中に前記操作子が後方に傾倒された場合は、左右方向の操作量に拘わらず急停止制御を実行するように構成されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る小型電動車両は、上記のように、走行中に前記操作子が中立位置に戻った場合は、減速停止制御を実行し、所定閾値以上の速度で前進走行中に前記操作子が後方に傾倒された場合は、左右方向の操作量に拘わらず急停止制御を実行するように構成されているので、切り替えスイッチやブレーキレバーを用いず、ジョイスティック型操作子のみで前進・後進・旋回、停止・急停止を含む操作を状況に応じて実行でき、操作の簡潔性、利便性や安全性の向上、構造の簡素化、および、部品点数の削減に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】小型電動車両の制御系統を示すブロック図である。
【
図3】通常制御(a)および急停止制御(b)におけるジョイスティック制御マップである。
【
図4】通常制御および急停止制御における目標減速度を示す減速マップである。
【
図5】小型電動車両の通常制御および急停止制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1において、本発明実施形態に係る電動車両1は、移動ベース21(下部走行体)およびその後部(後側ベース24)に立設された上部フレーム22からなる車体2を備えており、図中実線で示される小型電動車モード(乗車モード1)と、図中2点鎖線で示される歩行補助車モード(1′)とで利用可能である。
【0010】
移動ベース21は、左右の駆動輪4(後輪)および上部フレーム22が設けられた後側ベース24(本体部)と、左右の従動輪5(前輪)が設けられた前側ベース25を備え、前側ベース25は、後側ベース24の前側に前後方向に摺動可能に連結されており、移動ベース21はホイールベースが伸縮可能に構成されている。
【0011】
左右の駆動輪4は、後側ベース24に搭載された左右のモータユニット40(40L,40R)により独立して駆動される。左右の従動輪5は、接地部に周方向の軸周りに回転可能な多数のローラ50を備えた自在輪(オムニホイール、全方位車輪)で構成されており、後述のように、電動車両1は、左右のモータユニット40L,40Rの制御のみで操舵および制駆動が可能になっている。
【0012】
上部フレーム22は、後側ベース24の左右両側部から上方に立設された左右一対の側部フレームの上端が車幅方向に延びる上端フレームで連結された逆U字状もしくは門形状をなし、上端フレームの車幅方向中央の結合部23には、リアハンドル3のステム31の下端部が剛結合されるとともに、シートバック6が支持されている。
【0013】
リアハンドル3は、ステム31の上端との接続部32から左右に延出した一対の把持部を有するTバー形状をなしている。リアハンドル3の左右の把持部には、利用者(または介助者)が把持している状態(ハンズオン)を検知する把持センサ30が設けられている。把持センサ30としては、静電容量センサや感圧センサなどのタッチセンサを用いることができる。リアハンドル3の左右の把持部は、利用者自身が歩行補助車モード(1′)で使用する場合、および、利用者をシート7に着座させた状態で介助者などが電動車両を操縦する場合の操作部となる。なお、
図1では省略されているが、リアハンドル3の中央の接続部32には、電磁ブレーキ解除スイッチ34とスピーカ35が設けられている。
【0014】
上部フレーム22(側部フレーム)の高さ方向中間の屈曲部には、アームレスト82のサポートフレーム81の基部が固定されている。
図1において奥側となる右側のアームレスト82の前端部には乗車モード操作部8を構成するジョイスティック83が設けられており、
図1において手前側となる左側のアームレスト82の前端部には同形状の把持部の上面に表示部80と走行許可スイッチ84が設けられている。
【0015】
ジョイスティック83は前後左右に傾動可能な2軸ジョイスティック、またはその機能を包含する多軸ジョイスティックを利用でき、不図示の付勢部材(スプリングなど)により、傾倒角度に応じて中立位置に向かう付勢力(復元力、操作反力)が作用するように構成されており、操作力が作用しない状態、すなわち、利用者の手がジョイスティック83から離れた状態では、中立位置に自己復帰するようになっている。
【0016】
上部フレーム22(側部フレーム)の屈曲部から前方に突出した枢支部27には、シート7(シートクッション)のサポートフレーム71が、車幅方向の軸7aで枢支される一方、サポートフレーム71の下端は、連結部7b(スロット)を介して前側ベース25(ピン)に回動可能かつ摺動可能に連結されている。
【0017】
上記構成により、図中実線で示される乗車モード(1)から、着座位置にあるシート7を、図中2点鎖線で示されるように前下方に回動させて折畳み位置(7′)に移動させると、それに連動して前側ベース25が後方にスライドし、移動ベース21が短縮され、利用者がリアハンドル3を把持して起立歩行しながら操作できる歩行補助車モード(1′)となる。
【0018】
逆に、歩行補助車モード(1′)から、折畳み位置にあるシート(7′)を後上方に回動させて着座位置7に移動させると、前側ベース25が前方にスライドし、移動ベース21が伸長され乗車モード(1)となる。この状態で、トレイ24bの前方に移動した前側ベース25の上面25bは、搭乗者のフットレストとして利用可能になる。
【0019】
なお、移動ベース21の内部には、前側ベース25を伸長位置および短縮位置のそれぞれにおいてロックするロック機構(スプリングなどの付勢部材で付勢されたロックピンなど)が設けられるとともに、各位置でのロック状態を検知する車両状態検知センサ28(メカニカルスイッチなど)が付設されている。さらに、伸長位置および短縮位置のそれぞれにおいて中間位置方向(解除方向)に付勢する付勢部材(スプリングなど)が設けられ、サポートフレーム71の上端部には、ロック機構とボーデンケーブルを介して連結された解除タグ26が設けられている。
【0020】
これにより、伸長位置および短縮位置のそれぞれにおいて解除タグ26を引いてロック機構を解除すると、付勢部材の付勢により車体2は中間位置となり、この状態から、付勢部材の付勢に抗してシート7(サポートフレーム71)を中間位置から前方または後方に回動すると、前側ベース25の伸長位置および短縮位置でロック機構がロックされるように構成されている。
【0021】
図2は、電動車両1の制御系統を示すブロック図であり、電動車両1は、左右のモータユニット40(40L,40R)に電力を供給するバッテリ9、左右のモータユニット40(40L,40R)の制御を行う制御部10を備え、制御部10は、車両状態検知センサ28に検知される各位置でのロック状態において、乗車モード(1)、歩行補助車モード(1′)のそれぞれに対応する制御を実施するインターロック機能を備えている。
【0022】
乗車モード(1)では、把持センサ30は無効になり、制御部10は、走行許可スイッチ84がオン操作された場合に、乗車モード操作部8を構成するジョイスティック83の操作(操作量、操作方向)と所定の制御マップに基づいて左右のモータユニット40(40L,40R)の速度制御(および後述する急停止制御)を実行する。なお、傾斜センサ20に所定閾値以上の傾斜が検知される場合は、傾斜に応じて作用する重力(負荷)を考慮して目標速度を補正する。
【0023】
一方、歩行補助車モード(1′)では、乗車モード操作部8は無効になり、制御部10は、傾斜センサ20、左右の回転速度センサ43などの検知情報と所定の制御マップに基づいて、左右のモータユニット40(40L,40R)のトルク制御を実行する。なお、傾斜センサ20に所定閾値以上の傾斜が検知される場合は、傾斜に応じて作用する重力(負荷)を相殺する補償トルクをトルク指令値に重畳する。把持センサ30は、利用者によるリアハンドル3の把持(ハンズオン/オフ)のみを検知し、モータユニット40のトルク制御には関与しない。
【0024】
制御部10は、上記各モードにおける制御を実行するためのプログラムやデータを記憶したROM、演算処理結果を一時記憶するRAM、演算処理を行うCPUなどからなるコンピュータ(マイコン)、左右のモータ41の駆動回路(モータドライバ)、バッテリ9の電力をオン/オフするリレーを含む電源回路などで構成されている。
【0025】
左右のモータユニット40(40L,40R)は、それぞれ、モータ41と、モータ41のロータをロックする電磁ブレーキ42と、モータ41の回転位置を検知する回転位置センサ(43)とを備えており、モータ41の駆動軸は不図示の減速ギアを介して駆動輪4(4L,4R)に動力伝達可能に接続されている。
【0026】
左右のモータ41は、回転位置センサ(43)で検出されるロータの位相に合わせて駆動回路で各相コイルの電流をスイッチングするブラシレスDCモータからなり、乗車モード(1)では、回転位置センサ(ホールセンサ)を電動車両1の速度を検知する車速センサ(43)として利用し、歩行補助車モード(1′)では、回転位置センサを回転速度センサ43として利用するようにしている。
【0027】
また、左右のモータ41の駆動回路はコイル電流を検出する電流センサを備えている。このコイル電流は左右のモータ41のトルクに対応しており、制御部10は、コイル電流を制御することにより左右のモータ41のトルク制御を実行する。
【0028】
電磁ブレーキ42は、無励磁状態でモータ41の駆動軸をロックし、励磁状態でロック解除する負作動型電磁ブレーキが好適である。負作動型電磁ブレーキとすることで、キーオフ時や停止中に電力を消費せずに確実に電動車両1を停止させることができる。
【0029】
一方、緊急時や非常時、例えば、モータ41の動力を使用せずに電動車両1を移動させたい場合や、バッテリ残量低下による走行不能時に、電磁ブレーキ42のロックを解除して電動車両1を移動できるように、電磁ブレーキ42の強制解除手段として、電磁ブレーキ解除スイッチ34が設けられている。電磁ブレーキ解除スイッチ34は、リアハンドル3の把持部に隣接して設けられるが、把持センサ30の把持検知とは無関係に操作可能である。
【0030】
電磁ブレーキ解除スイッチ34は、利用者が操作している状態で接点が閉じて電磁ブレーキ42のロックが解除され、利用者が電磁ブレーキ解除スイッチ34から手を離すと接点が開き電磁ブレーキ42はロックされるように、モーメンタリ動作の解除スイッチ(例えば押しボタンスイッチ)が好適である。
【0031】
これにより、電磁ブレーキ42を解除して電動車両1を移動中に、利用者の手が電磁ブレーキ解除スイッチ34から離れてしまった場合に、電磁ブレーキ42が直ちにロックされ、電動車両1の空走が防止される。なお、傾斜地で電磁ブレーキ42が解除されると、利用者の手が電磁ブレーキ解除スイッチ34から離れるまでの間は自重で空走する虞があるので、傾斜センサ20に検出される車体2の傾斜に応じた電磁ブレーキ42の解除条件が設定されている。
【0032】
また、制御部10は、モータ41の駆動中は、電磁ブレーキ解除スイッチ34の操作を無効にし、モータ41の停止中、かつ、回転速度センサ43に検知される回転速度が所定閾値未満の場合、すなわち、車速が実質的にゼロと見做せる場合のみ、電磁ブレーキ解除スイッチ34の操作を有効にする。
【0033】
傾斜センサ20は、車体2の移動ベース21(後側ベース24)の内部に搭載された制御部10の回路基板上に実装されており、車体2の前後方向および横方向の傾斜を検知する2軸傾斜センサまたは加速度センサ、あるいは、加速度センサと角加速度センサ(ジャイロセンサ)を一体化した多軸慣性センサを利用可能である。
【0034】
以上のように構成された電動車両1は、乗車モード(1)では、利用者によるジョイスティック83の操作(操作量、操作方向)に基づいて左右のモータユニット40(40L,40R)の回転速度が制御され、前進・後進・旋回、減速停止を含む通常制御、および、急停止制御が実行される。
【0035】
(乗車モードにおける通常制御)
すなわち、
図3(a)において、ジョイスティック83が中立位置から前方FWに傾倒された場合は、ジョイスティック83の操作量(傾倒角度)に応じて前進方向の目標速度(目標車両速度)となるように左右のモータユニット40(40L,40R)の回転速度が制御され、電動車両1は前進走行する。
【0036】
この際、ジョイスティック83の操作が左右何れかの方向成分(L,R)を含んでいる場合、左右のモータユニット40(40L,40R)に異なる目標速度が設定され、電動車両1は、ジョイスティック83の操作方向(L,R)に前進旋回する。
【0037】
一方、ジョイスティック83が中立位置から後方RWに傾倒された場合は、ジョイスティック83の操作量(傾倒角度)に応じて後進方向の目標速度が設定され、電動車両1は後進する。後進時においても、ジョイスティック83の操作が左右何れかの方向成分(L,R)を含んでいる場合、左右のモータユニット40(40L,40R)に異なる目標速度が設定され、電動車両1は、ジョイスティック83の操作方向(L,R)に後進旋回する。なお、後進方向RWの目標速度および最大目標速度は、前進方向FWに比べて小さい値に設定されている。
【0038】
上記のように、ジョイスティック83を前後左右何れかの方向に操作して、前進、後進、または、旋回走行している状態で、ジョイスティック83を中立位置に戻した場合、またはジョイスティック83が中立位置に自己復帰した場合は、電動車両1は、所定の減速度に従って減速停止する。
【0039】
(乗車モードにおける急停止制御)
ジョイスティック83を前方FWに操作して、所定閾値以上の車速で前進走行または前進旋回走行している状態で、
図3(b)に示されるように、ジョイスティック83が中立位置よりも後方RW′に反転操作された場合は、左右の方向成分に拘わらず急停止制御が実行される。
【0040】
すなわち、左右のモータユニット40(40L,40R)に減速停止時よりも大きな目標減速度が設定され、左右のモータユニット40による回生制動が実行され、電動車両1が所定の低速度以下となった状態で、電磁ブレーキ42により左右のモータユニット40がロックされ、電動車両1は完全停止される。
【0041】
また、上記急停止制御中にジョイスティック83が前方FWまたは中立位置に操作された場合(または自己復帰した場合)、または、急停止制御による車両停止後に所定時間(例えば4秒)が経過した場合は、急停止制御を終了し、その時のジョイスティック83の操作位置に応じた通常制御に移行する。
【0042】
すなわち、急停止制御終了時にジョイスティック83が前方FWに傾倒されていれば、電磁ブレーキ42を解除して前進または前進旋回を開始し、ジョイスティック83が後方RWに傾倒されていれば電磁ブレーキ42を解除して後進または後進旋回を開始し、ジョイスティック83が中立位置にあれば、電磁ブレーキ42のみを解除する。なお、その際、傾斜センサ20に所定閾値以上の傾斜が検知されている場合は、停止状態での保持トルクに、傾斜に応じて作用する重力(負荷)を補償する方向の補償トルクを重畳するようにしてもよい。
【0043】
図4は、通常制御の減速停止時と急停止制御時の目標減速度の設定例(減速マップ)を示している。
図4において、通常制御の減速停止時には、減速制御開始時の車速vに応じて、最大前進速度vaにおける目標減速度da、最大後進速度-vbにおける目標減速度dbから目標減速度d0まで緩やかに減少する目標減速度が設定される。このような設定により、スムーズで確実な減速停止が行えるようにしている。
【0044】
なお、最大前進速度va(例えば4.5km/h)に対して最大後進速度-vb(例えば-1km/h)は小さく設定されているため、後進時の目標減速度db(例えば7km/h/s)は前進時の目標減速度da(例えば5km/h/s)に比べて大きい値に設定されているが、前進時と同程度であっても良い。
【0045】
これに対して、急停止制御時には、急停止制御開始時の車速vに応じて、通常制御時に比べて十分大きい目標減速度da′(例えば15km/h/s)から、急停止制御の車速閾値va1における目標減速度d1(例えば5km/h/s)まで可及的短時間に確実に制動停止できるように目標減速度が設定される。
【0046】
なお、通常制御の減速停止時および急停止制御時の目標減速度は、それぞれに対応する固定値とすることもできる。その場合、上記の中間的な目標減速度、例えば、通常制御の減速停止時の目標減速度4km/h/s、急停止制御時の目標減速度8km/h/sとすることもできる。
【0047】
(乗車モードにおける基本的制御フロー)
以上のように構成された電動車両1は、キー11の操作で電源オンになりシステムが起動すると、起動時のフレーム形態に応じて乗車モード(1)または歩行補助車モード(1′)に設定される。なお、既に述べたように、電動車両1の停止状態では電磁ブレーキ42がロック状態にある。
【0048】
以下、起動時に乗車モード(1)になっているか、または、起動後の停止状態で利用者の操作により乗車モード(1)に設定された場合の制御について、
図4のフローチャートを参照しながら説明する。
【0049】
先ず、乗車モード(1)に設定された状態で(ステップ100)、利用者がシート7に着座して走行許可スイッチ84をオン操作すると、通常制御が実行され、ジョイスティック83が中立位置にて待機状態となり、ジョイスティック83を前後左右に操作すれば、前進、後進、左右旋回が可能である(ステップ101)。
【0050】
このような通常制御中に、ジョイスティック83を前方に操作して所定閾値(例えば0.5km/h)以上の車速で前進走行または前進旋回走行している状態で(ステップ102)、ジョイスティック83が後方反転操作された場合は(ステップ103)、左右の方向成分に拘わらず急停止制御が実行される(ステップ104)。
【0051】
急停止制御中にジョイスティック83が前方または中立位置に操作された場合(または自己復帰した場合)は(ステップ105)、急停止制御を中止してジョイスティック83の操作位置(前方または中立位置)に応じた通常制御(ステップ101)に移行する。
【0052】
一方、ジョイスティック83が後方反転操作状態に維持されたまま電動車両1が急停止され、電動車両1の車速が0km/hになった時点(電磁ブレーキ42がロックされた時点)で、所定時間の計時が開始され、所定時間(例えば4秒)が経過した場合には通常制御(ステップ101)に移行する。
【0053】
以上詳述したように、本発明に係る電動車両1は、走行中にジョイスティック83が中立位置に戻った場合は相対的に緩やかな減速停止制御を実行し、所定閾値以上の速度で前進走行中にジョイスティック83が後方に反転操作された場合は、左右方向の操作量に拘わらず急停止制御を実行するように構成されているので、別途切り替えスイッチやブレーキレバーを用いずに、電動車両1の走行状態に応じて、ジョイスティック83の操作のみで前進・後進・旋回、停止に加えて急停止操作を実行できる。
【0054】
特に、ジョイスティック83の後方反転操作による急停止は、電動車両1を緊急停止させたい状況で人間が自然に行う動作に合致しており、操作の簡潔性や利便性、安全性の向上に有利である。また、切り替えスイッチやブレーキレバー、急停止ボタンなどを搭載する必要がないので、構造の簡素化および部品点数の削減に有利である。
【0055】
また、急停止制御では、左右のモータユニット40による回生制動により所定の低速度まで減速してから電磁ブレーキ42をロックするので、電磁ブレーキ42のロックに伴う衝撃が小さく、確実に停車させることができる。
【0056】
さらに、急停止制御中にジョイスティック83が前方または中立位置に操作された場合や、急停止制御による車両停止後に所定時間が経過した場合は、急停止制御を終了し、ジョイスティック83の操作位置に応じた通常制御に移行するので、緊急停止の必要がなくなった場合に容易に通常制御に復帰できる。
【0057】
以上、本発明の実施の形態について述べたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいてさらに各種の変形および変更が可能である。
【0058】
例えば、上記実施形態では、電動車両1が、歩行補助車モードを備える場合について述べたが、本発明は、歩行補助車モードを備えない小型電動車両や電動車いすとしても実施可能である。
【0059】
また、上記実施形態では、従動輪5としてオムニホイールを用いる場合を示したが、キャスター形式の自在輪を用いることもできる。
【符号の説明】
【0060】
1 電動車両
2 車体
3 リアハンドル(歩行補助車モード操作部)
4 駆動輪(後輪)
5 従動輪(自在輪、前輪)
6 シートバック
7 シート
8 乗車モード操作部
9 バッテリ
10 制御部
20 傾斜センサ
21 移動ベース
22 上部フレーム
24 後側ベース
25 前側ベース
26 解除タグ
28 車両状態検知センサ
30 把持センサ
34 電磁ブレーキ解除スイッチ
40(40L,40R) モータユニット
41 左右モータ
42 左右電磁ブレーキ
43 左右回転速度センサ
80 表示部
82 アームレスト
83 乗車モード操作部
84 走行許可スイッチ