(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】刀削麺の連続製造方法
(51)【国際特許分類】
A21C 11/00 20060101AFI20240801BHJP
A21C 11/22 20060101ALI20240801BHJP
A21C 3/02 20060101ALI20240801BHJP
A23L 7/109 20160101ALI20240801BHJP
【FI】
A21C11/00 A
A21C11/22 A
A21C3/02 B
A23L7/109 B
A23L7/109 J
(21)【出願番号】P 2021215607
(22)【出願日】2021-12-30
【審査請求日】2023-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000151232
【氏名又は名称】シマダヤ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大田 啓司
【審査官】芝井 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-100315(JP,A)
【文献】特開2014-50378(JP,A)
【文献】特開2007-189955(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103766429(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107372695(CN,A)
【文献】中国実用新案第203952272(CN,U)
【文献】中国実用新案第204653560(CN,U)
【文献】中国特許出願公開第106614877(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21C 1/00 ー 15/04
A23L 7/109 - 7/113
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉を主原料とする麺生地を麺帯に成形し、成形した麺帯を両側ロールの隙間に挟み込み圧延するロール圧延工程と、その最終のロール圧延を行う両側ロールのうち、決められた片側ロールに付着した麺帯から、複数の湾曲刃(湾曲刃群)により麺線を並行して削り出す麺線削り出し工程と、を有する刀削麺の連続製造方法であって、
前記湾曲刃が、(1)片側ロールに付着した麺帯の回転軌道上で、湾曲刃の膨らんだ刃先と麺帯が対向する配置;(2)片側ロールに付着した麺帯の幅方向で、湾曲刃の膨らんだ刃先を互いにずらして配置;これら(1)と(2)の配置を共に満たすことを特徴とする刀削麺の連続製造方法。
【請求項5】
前記麺線削り出し工程で削り出した麺線を、任意の長さにカットすることで茹水中に直接切り落とすことを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の刀削麺の連続製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麺生地を麺帯成形しロール圧延を経た麺帯から刃物で麺線を削り出す、刀削麺の連続製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中国発祥の刀削麺といえば、曲がった金ヘラで麺線を器用に削り出しながら茹で釜に投入して茹で上げる職人技が知られる。削り出された麺線の横断面は三日月形または山形を成し、厚みのある中央部のコシと厚みの薄い側辺部のなめらかさとを併せ持つ食感は、日本国内でも好評を得ている。
【0003】
このような職人の行う製法では、手打ちうどんのように柔らかい生地を両手で伸ばしては折りたたんだ平滑な面に、伸ばした方向に金属ヘラを滑らせることで削り出す。伸ばして折り畳んだ直後の生地は適度に硬いため削り易いが、削り重ねることで窪みができる。削り難くなった生地は再び伸ばして折り畳みリセットする。生地を伸ばすことで形成されるグルテン組織の方向と削り出す麺線の方向は合っているから食感にも理想的で、麺線は削る毎に茹水中に投入されるから麺線間の接着も起きにくい合理的な製麺方法でもある。
【0004】
量産化を目的とした技術には以下の特許文献がある。特許文献1では、麺帯の搬送方向に対して略垂直な方向で且つ前記麺帯の厚さ方向に対して略垂直な方向にカッターを移動させ、前記麺帯の搬送終端における搬送変位分をカッターによって削り出すことを特徴とする刀削麺様食品の製造方法が開示されている。特許文献2では、本発明者が、型板に複数開けられた短冊の型に生地を押し込み、該型板の裏面に生地の一部を通過させる(1)生地押し込み工程と、同裏面の型に沿って刀をスライドし、型を通過した生地を麺線に削り出す(2)刀摺動工程による刀削麺の製造方法を開示した。
【先行技術文献】
【0005】
【文献】特開2007-189955号公報
【文献】特開2014-50378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、量産化を目的としたいずれの発明も製麺による組織の形成方向が、食感に好ましい麺線の削り出しの方向と合わせ難い問題や、両者の方向を合わせるには連続的に圧延した麺帯をカットして向きを変えたりするなど生地の供給に複雑な工程が必要になる問題があった。また、削り出した麺線の厚みを一定にし難い点は、麺の食感を適正に調整する為の重大な問題である。
【0007】
すなわち本発明が解決しようとする課題は、刀削麺に期待される良好な食感であること。同時に手づくり感が認められること。削り出す麺生地の連続供給が容易で、複数の麺線削り出しを並行できるなど、製造が合理的であること。以上を解決することで、手作り刀削麺同様に刃物で削り出す製法でありながら、量産可能な刀削麺の連続製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は、湾曲した刃物で麺線を削り出す際に、刃物を動かすのではなく刃物を固定し、麺生地または麺帯を動かして削り出すことを模索する中で、圧延によってロールに張り付いた麺帯は固定され削り出しに最適なことに思い至り、刀削麺の新たな連続製造方法に行き着いた。すなわち、本発明1は、小麦粉を主原料とする麺生地を麺帯に成形し、成形した麺帯を両側ロールの隙間に挟み込み圧延するロール圧延工程と、その最終のロール圧延を行う両側ロールのうち、決められた片側ロールに付着した麺帯から、複数の湾曲刃(湾曲刃群)により麺線を並行して削り出す麺線削り出し工程と、を有する刀削麺の連続製造方法であって、前記湾曲刃が、(1)片側ロールに付着した麺帯の回転軌道上で、湾曲刃の膨らんだ刃先と麺帯が対向する配置;(2)片側ロールに付着した麺帯の幅方向で、湾曲刃の膨らんだ刃先を互いにずらして配置;これら(1)と(2)の配置を共に満たすことを特徴とする刀削麺の連続製造方法に関する。また、本発明2は、前記ロール圧延工程の最終のロール圧延で、決められた片側ロールに麺帯を付着させる手段が、(A)最終圧延前に麺帯の片面に剥離素材を付着させ、その片面の粘着力を下げる;(B)最終圧延前に麺帯の片面を加湿し、その片面の粘着力を上げる;(C)両側回転ロールの片側ロールを離型素材で形成し粘着力を下げる;これら(A)~(C)のいずれか一つ以上を実施することを特徴とする、本発明1に記載の刀削麺の連続製造方法に関する。また、本発明3は、前記麺線削り出し工程が、第一の湾曲刃群が削り出したことにより新たに露出した麺帯から、第二の湾曲刃群により再度麺線を削り出すことを特徴とする、本発明1又は2に記載の刀削麺の連続製造方法に関する。また、本発明4は、前記麺線削り出し工程で麺線を削り出した後に残された麺帯を、溝部に沿って細断することで、麺線として利用することを特徴とする、本発明1~3のいずれかに記載の刀削麺の連続製造方法に関する。また、本発明5は、前記麺線削り出し工程で削り出した麺線を、任意の長さにカットすることで茹水中に直接切り落とすことを特徴とする、本発明1~4のいずれかに記載の刀削麺の連続製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のロールに付着した麺帯から麺線を削り出すことは、例えばノミを当てて削り出すろくろに固定された木製食器の如く回転軌道が安定する作用により、軟らかい麺帯でありながら麺線の厚みを一定に削り出すことができる。そして、形成されたグルテン組織の方向が麺線の方向と一致することで、食感良好な刀削麺が提供できる。2層削り出す場合は、麺線の断面に様々な形が得られることで、手づくり感を高めることができる。また、削り出しに必要な麺生地の供給は通常のロール製麺機が利用可能、かつ複数の刃物により並行して削り出すことができる。また、削り残しの麺帯を細断し麺線の一部とすることで、麺生地の再生処理が不要または最小限にでき、合理的な刀削麺の連続製造方法が実現できる。また、削り出した麺線の一本一本を個別に茹水に投入し熱凝固することで折り癖などのない麺に茹で上げることができる。以上により、刃物で削り出した本格的な刀削麺の量産が可能となって、新たな品質価値を麺市場に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】 本発明の実施例を説明する削り出し装置の側面断面
【
図2】
図1の湾曲刃ホルダー5a、5bの正面と側面
【
図3】 麺帯断面と湾曲刃5aw、5bwの刃先の軌跡
【
図4】 湾曲刃5aw、5bwによって削り出した麺線と残麺帯の断面
【
図5】 湾曲刃によって2層削り出し可能な削り出し装置の側面断面
【
図6】
図5の湾曲刃ホルダー15a~15fをロール14b側から見た展開図
【
図7】 麺帯断面における
図5の湾曲刃15aw~15fwの刃先の軌跡
【
図8】 湾曲刃15aw~15fwによって削り出した麺線と残麺帯の断面
【
図9】
図5の削り出し装置から麺線を茹槽に搬送する装置の側面
【
図10】
図5の削り出し装置から麺線を直接茹槽に切り落とす装置の側面
【
図12】 麺帯と湾曲刃の配置で、刃先の深さと湾曲刃の傾きを示す側面断面
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に適する原料は、小麦粉を主体として練り水で混錬すればどのような条件でも良いが、手作りの刀削麺同様にもちもちとしたコシと滑らかな食感を得る場合、うどんのように中力粉に食塩水を加えて混錬する。より望ましくは、加水率を手打ち式うどんの製麺条件に近づけ、食塩濃度5~10重量%の練り水を、中力粉に対し40~45重量%の範囲で加水調整する。更に食感を改良する場合は澱粉を配合しても良い。エーテル化タピオカ澱粉、エーテル化馬鈴薯澱粉、エーテル化小麦澱粉、アセチル化タピオカ澱粉、アセチル化馬鈴薯澱粉、アセチル化小麦澱粉などの加工澱粉を選択すれば茹麺で流通させる際に適する。その際、澱粉の混合比率が2割を超える場合は活性グルテンを添加すると良い。
【0012】
ミキサーは、胴部を貫通する回転軸に攪拌羽が放射状に固定されたタイプでも、攪拌羽のみが胴部内で回転するタイプでもよく、それら回転軸の向きは縦でも横でも良い。また、真空ミキサーであれば、茹麺で流通させる場合の外観と食感を効果的に良くすることができる。混錬された生地は、一定時間滞留させ熟成してもよく、解砕や切断により麺帯成形に適した形状に分割してもよい。なお、本発明では麺帯成形前の様々な状態の生地を一括りに麺生地と呼ぶ。
【0013】
麺生地を麺帯に成形する方法は、2枚の麺帯をロール成形する複合機を用いても、複合は行わず単式のロール成形機で1枚の麺帯にしてもいずれでも良い。麺帯成形後の麺帯厚は通常1~2cmあるから、ロール圧延工程では、最終のロール圧延を行うまでに、1~3段の圧延を行えば良い。また、生地を細かくして初めから麺帯の厚みを5~8mmに麺帯成形すれば、中間の圧延を行うことなく最終のロール圧延を行うこともできる。
【0014】
ロール圧延によりその直後に麺帯の粘着性や伸展性は低下する。そのような麺帯では、圧延によるロールへの粘着性も低下すると共に、湾曲刃により削り出す際の抵抗が強まることで、麺帯が剥がれ湾曲刃の内側に詰まる等のトラブルの原因になるから、麺帯を軟らかくし粘着性を回復させるために麺帯成形から最終のロール圧延の間に滞留時間をとって麺帯熟成を行うと良い。適する滞留時間は麺生地の加水率によって異なるが、室温20~25℃で5~60分、望ましくは最終のロール圧延の直前に10~30分行うことで麺帯の粘着性を回復させると良い。
【0015】
また、最終のロール圧延では通常より高めの圧延比にする。具体的には、ロール隙間1.5mmに対し、挿入する麺帯の厚みは3~8mm、望ましくは5~7mmとなるよう、ロール隙間に対し2~5倍の厚さの麺帯を供給すると良い。すなわち、麺帯熟成により麺帯の柔軟性と粘着性を高めた後に、最終のロール圧延を比較的高い圧延比で行うことで、その歪に耐えると同時に決められた片側ロールへ強く圧着することができる。
【0016】
最終のロール圧延の後に麺帯を付着させる片側ロールは隙間を調整する際に動かさない固定ロールにすれば、麺線削り出し工程で湾曲刃群の設置に都合良い。通常、圧延ロールは両側のロールを上下方向に配置し、ツバのある下側ロールを固定し、隙間の調整は上側のロールを上下するが、本発明に適する最終圧延ロールは、上側ロールにツバを設けて隙間の調整を行うと良い。すなわち、下側をツバ無しロールとして麺帯を付着させることで、湾曲刃の配置などに下側ロールの周囲を広く使うことができる。又、両側のロールを前後水平に配置する場合は、麺帯の進行の後先のうち後側のロールをツバのある隙間調整ロールとし、先側のロールを固定し麺帯を付着させることで、湾曲刃の配置に先側ロールの周囲を広く使えて良い。以上のように、ツバのある片側のロールで隙間調整しツバのないロールを固定し麺帯を付着させる組み合わせが本発明に適するが、ツバ部分にも麺帯を付着させる粘着性があるから、ツバのない側のロールにはそれ以上に粘着性を高める必要がある。
【0017】
最終のロール圧延で、決められた片側ロールの圧延面に麺帯を強く付着させるには、意図的に麺帯の表裏で粘着力に差をつけると良い。本発明2(A)の最終圧延前に麺帯の片面に剥離素材を付着させ、その片面の粘着力を下げる手段では、例えば、ロールを上下に配置して下側ロールに麺帯を付着させるように決めて、打ち粉澱粉等を麺帯の上面に散粉し、その向きのままロール隙間に挟み込めば良い。
【0018】
本発明2(B)の最終圧延前に麺帯の片面を加湿し、その片面の粘着力を上げる手段では、例えば、最終圧延前に麺帯搬送コンベアを設け、コンベアベルトの表面を、水分を含ませたスポンジや不織布などで拭き上げ、その上に麺帯を移載して搬送すれば麺帯の下面の粘着性を高めることができる。水を含ませたスポンジや不織布等は単に当てる状態でもロール状のものを転がすような状態でも良く、コンベアのベルトをムラなく湿らし、補給水の供給手段を備えると良い。その他の加湿手段は、粘着性を高めたい麺帯の片面に霧状の水滴や水蒸気を直接当てても良い。
【0019】
本発明2(C)の両側回転ロールの片側ロールを離型素材で形成し粘着力を下げる手段では、例えば、隙間調整のために動かす片側のロールの表面をフッ素樹脂などの離型素材とし、その圧延面の粘着力を下げ、その反対側ロールをSUS製、又は鉄製などにすれば、粘着性の差をはっきり付けられて良い。そして、反対側のロールに麺帯を付着させるように決め、湾曲刃を装着する。
【0020】
麺帯を付着させると決めたロールにより確実に麺帯を付着させるには、前記した手段を二つ以上組み合わせるといい。例えば、麺帯の上に打ち粉澱粉を散布しその麺帯の裏側を湿らす。更には、離型素材の上側ロールとSUS製下側ロールとで最終の圧延を行うことでより確実に下側ロールに付着させることができる。
【0021】
一方、前記した手段を特段講じなくて済む場合がある。例えば、最終圧延の直前にベルトコンベア等に麺帯を移載して搬送する麺帯熟成を行う場合、麺帯のベルトと接する面は麺帯内部からの水分拡散とベルトとの密着により自ずと加湿状態となり、ベルトに接しない上面は開放され適度な除湿状態になることで、結果的に麺帯のベルトに接していた面の粘着性は相対的に高まる。そのような条件を取り入れ、(A)の打ち粉の散粉や(C)のフッ素樹脂コーティング等と組み合わせると合理的で良い。
【0022】
本発明の麺線削り出し工程は、麺帯の表面から湾曲刃によって麺線を削り出す。その際、麺帯はロールに付着して回転し、回転する麺帯の軌道上で、麺帯に対し湾曲刃の湾曲する刃の刃先を向けて固定することで麺線を削り出すことができる。すなわち、湾曲刃群は、例えば、鉋(かんな)で木材を削るように、付着麺帯の表面から必要な深さと傾きで固定する。そして、麺帯の表一面を削り出すために、個々の湾曲刃を麺帯幅方向で互いにずらして固定する。
【0023】
本発明の湾曲刃の形は、四辺形の一辺が刃を形成して湾曲した、例えば、蒲鉾の半筒形の曲面状だが、直線の2辺は湾曲する2辺より短いと良い。すなわち、湾曲刃の刃先の膨らみとは、例えば、彫刻刀の丸刃の刃先のような形を成す。湾曲刃の厚みは全体に0.1~0.5mmで、刃先の角度は15~35度、湾曲の程度は内側半径6~20mmR、好ましくは10~15mmRが良い。回転進行する麺帯に、湾曲刃はその刃先を向けて固定するが、麺帯に刺さる湾曲刃の傾き(例えば、
図12の5w1k)は、5~25度、好ましくは10~20度が良い。麺帯に刺さる深さ(例えば、
図12の5wkf)は1.5~3mm、好ましくは2~2.5mmが良い。また、四辺形の一辺に刃を形成して湾曲した単一の湾曲刃の場合、直線の2辺を爪で固定し、それら湾曲刃と爪のセットは麺帯幅方向の1列のホルダーに等間隔で複数設けると良い。そして、湾曲刃のホルダーは前後2列(例えば
図2)、好ましくは3列以上のホルダーに分け、湾曲刃の各ホルダーを、麺帯幅方向にずらして配置し、ホルダーに固定された湾曲刃によって、麺帯表面をなるべく隙間なく削り取れば良い。
【0024】
麺線削り出し工程で設置する湾曲刃群は、削り出し可能なロール上の装着位置と、麺帯と接触しない離脱位置とを随時着脱可能にしておくと良い。その様な着脱機能は、食品の製造装置では清掃容易にする上で常識だが、本発明では湾曲刃による削り出しを安定的に開始するために有効である。以下、湾曲刃を着脱可能とした場合の削り出し開始の手順を述べる。1、湾曲刃は麺帯の軌道から外れた離脱位置で待機。2、最終の圧延によりロールに付着した麺帯をそのまま回転、麺帯の先端をカスリによりロールから剥離しその先まで頭出し。3、湾曲刃を麺帯の軌道上の削り出し位置に装着、麺線の削り出しを開始。この1~3の削り出し開始の手順に従えば、付着麺帯の先端が削り出し位置より進行側にあることで、麺帯は前後に張られた状態となって湾曲刃の切り込み抵抗を減らすことができ、ロール面に強く付着することで剥がれた麺帯が湾曲刃に詰まることなく、トラブルを防ぎスムーズに削り出すことができる。
【0025】
一方、湾曲刃を削り出し位置に常時固定する場合、スムーズに削り出すには、麺帯を徐々に厚くするような麺帯厚調整を行えば良い。しかしながら、湾曲刃を削り出し位置に常時固定する場合、湾曲刃をロール面に近づけるのに限界があり、製造中に麺帯が湾曲刃に詰まった際のトラブル解消や清掃上の不利がある。
【0026】
本発明3によれば麺線断面の形に変化が得られて良い。2層目の削り出しは、1層目の削り出した複数の湾曲刃の跡である溝と溝、それらの間の山脈部に沿って削る湾曲刃の配置にする。その結果、2層目の削り出しでは、比較的平滑な1層目の麺線断面と異なり、山脈部を含むことで起伏に富んだ断面形の麺線を得ることができる。2層目の削り出しを行う個々の湾曲刃を1層目の削り出しを行う幅方向で重なる湾曲刃と幅方向で適切に位置をずらすことで、刀削麺にふさわしい断面形に調整することができる。なお、2層削り出す場合、麺帯をそれに応じ厚くして供給する。本来、手作りの刀削麺は2層3層と重ねて削り出すものだから、2層目に削り出した麺線を含めることで、より手作り刀削麺に近づけることができる。
【0027】
本発明4によれば、残された麺帯を麺線として利用することができる。湾曲刃群による麺線の削り出しを終えた付着麺帯は、ロール上に設けられたカスリによって剥がされ、回転式の切り刃等で、湾曲刃による削り跡である溝部に沿って細断し、麺線として利用する。そのようにして得られた麺線にも湾曲刃の削り出しによって形成された山脈部があり、湾曲刃の膨らんだ刃先とロール面の隙間を小さく固定することで、刀削麺にふさわしい麺線にすることができる。また、残りの麺帯を麺線の一部とすることで、残麺帯の再生工程を無くすことができる。なお、そのような残麺帯を麺線利用か麺生地に再生利用かの判断は、細断された麺線の状態に応じ使い分ければ良い。
【0028】
本発明5によれば、削り出した麺線を、任意の長さにカットすることで茹水中に直接切り落とすから、削り出された麺線をコンベア等で搬送する必要がない。複数同時に削り出した麺線をカッター等に誘導して麺長カットするだけでいいから装置をシンプルにできる。削り出しから麺線を直接茹水に投入する工程は、手づくり刀削麺に準じた方法であり、その品質上の効果は、散粉することなく互いの付着を防止できると共に、削り出しされたままの形状で茹ることで折り癖のない綺麗な外観の茹麺を得ることができる。
【0029】
本発明5における茹槽への生麺投入に際しては、生麺投入口の接続された茹槽のヘッドスペースに排気塔を設け、排気塔からの吸引により生麺投入口に蒸気が入らない状態とすれば、凝結水による不具合は生じない。その際、生麺を投入する茹水の温度は90~95℃程度に調整して沸騰を抑えた予備茹工程とし、投入された生麺を熱凝固させたら順次本茹水槽に移行し茹上げると良い。
【実施例】
【0030】
実施例では、湾曲刃によって麺線一層のみを削り出すと共に、ロールに残された麺帯を溝部に沿って細断し麺線として利用する事例を
図1~4より説明する。なお、実施例では特定の削り出し装置を使用した工程について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0031】
<麺帯の調整>
北海道産きたほなみ単一の小麦粉100%に対し43重量%の塩水(食塩濃度8重量%)を練り水として加え、縦型真空ミキサーで、高速3分、低速5分、減圧度(ゲージ圧)80kPaで混錬し、見た目に均一でしっとりとしたソフトボール大の生地を得た。混錬生地は、30℃で10分ねかし厚さ10mmの麺帯に成形した後、厚さ6~7mmに圧延し、不透湿性ベルトのコンベア7上に1枚で拡げ、ポリエチレンシートでコンベア全体を覆い、乾燥しない状態で室温20分間、麺帯熟成を行った。
【0032】
<削り出し装置の構成>
実施例に用いた削り出し装置は
図1に、その湾曲刃の配置は
図2に示した。上下に配置した直径12cmのロール圧延機はSUS製の上下ロールで、上側ロール4aでロール隙間の調整を行い、下側ロール4b側に湾曲刃を取り付けた。湾曲刃は麺帯幅方向に一体の湾曲刃ホルダー5aと5bに分けて固定し、湾曲刃ホルダー5aと5bは支軸5cで回転自在、着脱可能とした。ロール幅200mmに対し、
図2の湾曲刃ホルダー5aが湾曲刃5枚、5bが湾曲刃6枚で実施した。湾曲刃は、固定状態の曲がり15mmR、最大有効幅(麺線を最も幅広に削れる幅)20mm、標準削り幅(設計上の麺線削り幅)15mm、ロール幅方向の取り付けピッチ30mm(等間隔)、湾曲刃11枚による標準削り幅165mmで、ロール4bのツバを避けるため両側其々18mmは麺帯のまま残した。また、湾曲刃装着時の膨らんだ刃先とロール表面の隙間は0.8mmとした。
【0033】
<最終のロール圧延>
20分の麺帯熟成を経た麺帯1は、ポリエチレンシートを外して上面にのみ打ち粉澱粉を散布した後、麺線削り出し装置の圧延ロール4aと4bの隙間1.5mmに挟み込み圧延したところ、麺帯1aは厚さ2.5mmでローラー4bに付着して回転し、先端部はカスリ6によりロールから剥がされ、ガイドローラー6aに沿う状態となった。
【0034】
<麺線の削り出し>
その後、湾曲刃ホルダー5aと5bを麺線削り出しの位置に装着し、削り出しを開始し、湾曲刃5awから麺線2aが、湾曲刃5bwから麺線2bを削り出した。その結果、湾曲刃合計11枚により、
図4の2a及び2bの断面の麺線を得た。なお、
図3は通過麺帯の断面と湾曲刃の刃先の軌跡を重ねて表示した。湾曲刃合計11枚により、削り幅165mmの内側は1面削り跡(溝)で覆われた麺帯3となって剥離した。
【0035】
<冷凍茹麺の調製>
実施例ではこの剥離麺帯3を溝部に沿って細断し上下に打ち粉を散布、その麺線を麺線削り出し工程で得た麺線2a、2bと混ぜて8分間茹上げ、冷却し、1食200gを凍結トレーに盛り付けて凍結し、冷凍茹麺を得た。冷凍茹麺は後日解凍し喫食したところ、削り出しによって得た麺線は、麺線の両側がプリーツ状の外観と刀削麺に特徴的な滑らか食感で、剥離麺帯3の細断によって得た麺線は中央の山脈状により断面山形の刀削麺に特徴的なコシが感じられ、両者混ざることでより好ましい食感になることを認めた。また両者とも湾曲刃で削られた面には縦に削られたことによる独特の模様があり、刃物で削ることでしか得られない、刀削麺としての本物感を得ることができた。
【0036】
<2層削り出し装置の構成>
次に、湾曲刃によって2層の麺線を削り出し可能な削り出し装置の構成について
図5~11より説明する。なお、麺帯11は削り出す麺線2層分に応じる為、必要な厚さに調整する。上下に配置された直径12cmと24cmで構成されたロール圧延機は、上側ロール14aは、ツバ付きのフッ素樹脂コーティングで、隙間調整では上下動させる。対する下側ロール14bは隙間調整では固定、湾曲刃は下側ロール14b側に着脱可能に取り付ける。
【0037】
湾曲刃は、麺帯幅方向で1台の湾曲刃ホルダー6台に固定し、6台の湾曲刃ホルダーはその両端を架台15に固定し、支軸15sを中心に可動、固定爪15hが圧延機フレーム10に突き当たる位置で固定することで、全ての湾曲刃を削り出す位置に装着できる。
麺帯の頭出しする際は、湾曲刃を離脱状態とする。次に、麺帯をカスリ16の先に通しておく。最後に、低速で回転させた付着麺帯を湾曲刃でゆっくりと挟み付け、全ての湾曲刃を削り出す位置に装着する。圧延された麺帯11aは片側ロール14bに付着して回転することで、湾曲刃ホルダー15a、15b、15cの其々4枚、計12枚の湾曲刃で麺帯11aの一層目を麺線に削り出し、続く湾曲刃ホルダー15d、15e、15fの計12枚の湾曲刃で続く二層目を麺線に削り出す。
【0038】
図6はロール14bから見た湾曲刃を平面に展開した状態を示し、矢印11ayは麺帯11aの移動方向を示した。湾曲刃は4枚がロール幅方向に等間隔で並列に連なった同一の湾曲刃ホルダー15a~15fの6台24枚構成としている。24枚全ての湾曲刃が麺帯幅方向で互いにずれた配置とするために、6台の湾曲刃ホルダー自体を麺帯幅方向で互いにずれた配置とした。なお、
図6の6台の湾曲刃ホルダーの麺帯幅方向のずれは、右端位置の破線で示した。
【0039】
図7では、
図6の湾曲刃15aw~15fwの全ての刃先の麺帯断面における軌跡を示し、
図8にはそれら湾曲刃によって削り出した麺線の横断面の形を示した。麺帯断面における軌跡と麺線の断面には、湾曲刃15aw、15bw、15cw、15dw、15ew、15fwの削り出しの順序が反映されている。湾曲刃15aw、15bw、15cwが1層目の麺線12a、12b、12cを削り出し、湾曲刃15dw、15ew、15fwが2層目の麺線12d、12e、12fを削り出す。これら麺帯通過順が異なり麺帯幅方向でずれた6枚の湾曲刃は、相対配置が同一の4組により並行して削り出すことで、麺帯1枚から24本の麺線を削り出す。
【0040】
削り出した麺線は上下に重ならないようにするため、
図9に示した3台のコンベア18a~18cで分けて搬送し、個々の麺線が互いに再接着しない状態で茹水中に投入する。湾曲刃の6台のホルダー15aと15bを8a、15cと15dを8b、15eと15fを8cに其々相乗りさせる。
【0041】
削り出しを終えた麺帯は、カスリ16(
図5)で剥離し回転式切り刃19で細断する。細断により得た麺線の中で、好ましい断面形状の麺線13aは定寸カットし、
図9に示したコンベア18dで茹槽に搬送する。除外すべき断面形状の麺線13b(
図5)は回収して麺生地として再生利用する。
【0042】
<茹水中に直接切り落とす装置の構成>
図10は、茹槽の上に
図5の削り出し装置を配置した状態で、削り出した複数の麺線を、互いに付着させることなく、茹水中に直接切り落とす装置の側面を表した。生麺投入口22cの接続されたヘッドスペース22aに排気塔22bを設けて他を密閉し、排気塔による吸引により生麺投入口22cに蒸気が上がらない状態とすれば、削り出し装置での凝結水による不具合を防ぐことができる。茹槽に投入された生麺は、予備茹樋22dを熱水流22fによって流される間に熱凝固し、反転茹でカゴ22e中に移載する。
【0043】
図11は、
図10の茹槽22の平面図で、予備茹樋22dの左右に振り分ける動きを表している。反転茹カゴ22e1のカゴを反転させる際には、麺の送りを一次的に停止し予備茹樋22dからの麺の排出を停止する。その後、予備茹樋22dの排出口の向きを反転茹でカゴ22e1から22e2に切り替える。なお、麺の送りを一次的に停止する手段は、熱水流22fを止める、麺の削り出しを止めるなどいずれでも良い。
【符号の説明】
【0044】
1 実施例で最終圧延する前の麺帯
1a 実施例で最終圧延した後の麺帯
1ah 最終圧延した後の麺帯の表面
2a 実施例の湾曲刃5awによって削り出した麺線
2b 実施例の湾曲刃5bwによって削り出した麺線
3 実施例で麺線削り出しを終えた残りの麺帯
4a 実施例の上側ロール
4b 実施例の下側ロール
4bs 下側ロール4bの湾曲刃5wの刃先位置における接線
4bh 下側ロール4bの表面
5 湾曲刃ホルダー
5a、5b 実施例の2台の湾曲刃ホルダー
5aw、5bw 実施例の湾曲刃
5awk、5bwk 湾曲刃5aw、5bwの膨らんだ刃先の軌跡
5c 湾曲刃ホルダー5a、5bの着脱回転支軸
5w 湾曲刃ホルダー5に固定された湾曲刃
5w1 湾曲刃5wの膨らみ部分の傾き線
5w1k 湾曲刃の傾き5w1のロール4bに対する角度
5wkf 麺帯表面1ahから湾曲刃5wの膨らんだ刃先の深さ
6 実施例1の下側ロールのカスリ
6a カスリ6で剥がされた麺帯を支持するガイドローラー
7 麺帯供給コンベア
8 削り出した麺線の搬送コンベア
9 実施例1の上側ロールのカスリ
10
図5における圧延機フレーム
11
図5における最終圧延する前の麺帯
11a 麺帯11の最終圧延した後の麺帯
11ah 麺帯11の最終圧延した後の麺帯の表面
11ay
図6における麺帯11の進行方向
12a、b 麺帯11aを湾曲刃ホルダー15a、bによって削り出した麺線
12c、d 麺帯11aを湾曲刃ホルダー15c、dによって削り出した麺線
12e、f 麺帯11aを湾曲刃ホルダー15e、fによって削り出した麺線
13a 麺帯11aの削り残りの麺帯を細断した麺線
13b 麺帯11aの削り残りの麺帯を細断した後の再生すべき麺生地
14a
図5の削り出しの装置の上側ロール
14at 上側ロール14aのツバ
14b
図5の削り出しの装置の下側ロール
14bh 下側ロール14bの表面
15 湾曲刃ホルダー15a~fの架台
15a~15f
図5の削り出しの装置の6台の湾曲刃ホルダー
15aw~15fw 6台の湾曲刃ホルダー15a~15fの其々の湾曲刃
15h 架台15の固定爪
15s 架台15の支軸
16 下側ロール14bのカスリ
16a カスリ16で剥がされた麺帯を支持するガイドローラー
17 麺帯11を供給するコンベア
18a~18c 削り出した麺線12a~12fを搬送するコンベア
18d 削り残りの麺帯を細断した麺線13aを搬送するコンベア
19 残麺帯細断用切り刃
20a 麺長カッター
21
図9の麺線削り出し装置に接続する茹槽
22
図10の麺線削り出し装置に接続する茹槽
22a 茹槽22の生麺投入口の接続されたヘッドスペース
22b ヘッドスペース22aの排気塔
22c 茹槽22の生麺投入口
22d 茹槽22の予備茹樋
22f 予備茹樋22dの熱水流
22e1 予備茹樋22dから麺を受ける反転茹カゴ(22dから見て左)
22e2 予備茹樋22dから麺を受ける反転茹カゴ(22dから見て右)