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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】固体電解質およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20240801BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20240801BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20240801BHJP
   H01M 12/08 20060101ALN20240801BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01B13/00 Z
C01B25/45 T
H01M12/08 K
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020117208
(22)【出願日】2020-07-07
(65)【公開番号】P2022022805
(43)【公開日】2022-02-07
【審査請求日】2023-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】南 浩成
(72)【発明者】
【氏名】泉 博章
(72)【発明者】
【氏名】今西 誠之
(72)【発明者】
【氏名】山本 治
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-191766(JP,A)
【文献】特開平02-250264(JP,A)
【文献】特開2017-157543(JP,A)
【文献】特開2019-067511(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06
H01B 13/00
C01B 25/45
H01M 12/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(I)を満たす固体電解質であって、
Li1+xM1M2Ti2-x-y(PO (I)
(但し、式中、M1は、Al、Cu、Fe、Ni、Ga、Cr、及びScから成る群から選ばれた一以上の3価の元素、M2は、Si、Ge、Sn、Hf、及びZrからなる群から選ばれた一以上の4価の元素であり、x及びyは、x+y≦1を満たす実数である。)
該固体電解質がNASICON型結晶構造を備え、
前記NASICON型結晶構造の空隙に、熱硬化性樹脂が充填されており、
前記NASICON型結晶構造の粒界に、潮解性を有するリチウム塩又はその水和物を備える、固体電解質。
【請求項2】
前記リチウム塩が、LiCl、LiBr及びLiIからなる群から選ばれた一以上のハロゲン化リチウムを含む、請求項1に記載の固体電解質。
【請求項3】
前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂である、請求項1又は2に記載の固体電解質。
【請求項4】
下式Iを満たす固体電解質の製造方法であって、
Li1+xM1M2Ti2-x-y(PO (I)
(但し、式中、M1は、Al、Cu、Fe、Ni、Ga、Cr、及びScから成る群から選ばれた一以上の3価の元素、M2は、Si、Ge、Sn、Hf、及びZrからなる群から選ばれた一以上の4価の元素であり、x及びyは、x+y≦1を満たす実数である。)
前記固体電解質を構成する組成を含む固体の粉体を混合する工程と、
前記混合された粉体を加熱、成形して成形体を得る工程と、
前記成形体に、潮解性を有するリチウム塩又はその水和物を混合した熱硬化性樹脂を含浸して、加熱硬化させる工程と
を含む、固体電解質の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質およびその製造方法に関し、より詳細には、水溶液系リチウム空気電池や、全固体電池等を構成する部材の1つである固体電解質およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車の普及のために、リチウムイオン電池よりもはるかに大きいエネルギー密度を有する空気電池や不燃性等の特徴を持つ全固体電池に期待が寄せられている。空気電池は、空気中の酸素を正極活物質に使用する。その中でも、負極活物質に金属リチウム、リチウムを主成分とする合金、又はリチウムを主成分とする化合物を使用するリチウム空気電池はエネルギー密度が高く、本格的EVの普及に必要とされる500Wh/kgのエネルギー密度を得られる電池として期待されている。このエネルギー密度は現在車載が始まっているリチウムイオン電池を大きく上回るものである。
【0003】
電解質の種類に着目すると、リチウム空気電池は水溶液系(水系)電解質、および非水溶液系(非水系)電解質を用いたものの2つに大別される。水溶液系のリチウム空気電池は、非水溶液のリチウム空気電池に比べて、空気中の水分の影響を受けない等の長所がある。しかし、負極活物質である金属リチウムは酸素や水と接触すると反応するため、水溶液系のリチウム空気電池ではリチウムイオン伝導性を有する隔離層を設け金属リチウムを大気や水溶液から保護する必要がある。この隔離層にはガラスセラミックなどの耐水性を有する固体電解質が用いられている。
【0004】
このような固体電解質として、NASICON型Li1+xAlTi2-x(POリチウムイオン伝導性固体電解質(以下、LATPと略す)が知られている。LATPは、水分に対して安定なので、開放空気中で調製することができ、電解液であるLiCl飽和水溶液と接触させても安定である。また、リチウムイオン伝導性も良好である。
【0005】
LATPにおいて、Tiの一部を別の元素で置換した固体電解質も知られている。例えばTiの一部をGeで置換したLi1+xAlGeTi2-x-y(PO(以下、LAGTPと略す)はLATPよりもリチウムイオン伝導性が良好であるという報告がある。
【0006】
更に、特許文献1には、LAGTPにおいて、NASICON型結晶構造の粒界にTiO等の金属酸化物を備える固体電解質が記載されている。特許文献1には、LAGTPをAlが0.45、Geが0.2の組成比になるように調整し、TiOの添加量を3≦x≦8wt%とした際に、そのイオン伝導率が1.0×10-3Scm-1以上となったことが記載されている。
【0007】
また、非特許文献1には、Li1.4Al0.4Ge0.2Ti1.4(PO(LAGTP)-10wt%TiOの複合体が8.7×10-4Scm-1のイオン伝導率を達成したことが記載されている。更に、非特許文献1には、LAGTP薄膜の細孔に約2wt%のエポキシ樹脂を加えることで、LAGTP薄膜の水透過を防ぐことができることが記載されている。そして、非特許文献1には、水に安定なリチウムイオン伝導性固体電解質を、水溶液系リチウム空気電池のリチウム負極と水系電解液間のセパレータとして使用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2019-67511号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】F. Bai et al. “High lithium-ion conducting solid electrolyte thin film of Li1.4Al0.4Ge0.2Ti1.4(PO4)3-TiO2for aqueous lithium secondary batteries”, Solid State Ionics, 2019, 338, 127-133
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、非特許文献1では、エポキシ樹脂をLAGTP内に含浸させたLAGTP-10wt%TiO-エポキシ樹脂の薄膜は、25℃において4.45×10-4Scm-1のイオン伝導率を示しており、このようにLAGTPにエポキシ樹脂を含浸させるとイオン伝導率が1/2程度に低下してしまうという問題がある。
【0011】
そこで本発明は、上記の問題点に鑑み、LAGTP等の固体電解質の水透過性を改善できるとともに、イオン伝導率の低下も防ぐことができる、優れた耐水性および高いイオン伝導性を有する固体電解質およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明は、その一態様として、下式(I)を満たす固体電解質であって、
Li1+xM1M2Ti2-x-y(PO (I)
(但し、式中、M1は、Al、Cu、Fe、Ni、Ga、Cr、及びScから成る群から選ばれた一以上の3価の元素、M2は、Si、Ge、Sn、Hf、及びZrからなる群から選ばれた一以上の4価の元素であり、x及びyは、x+y≦1を満たす実数である。)
該固体電解質はNASICON型結晶構造を備え、前記NASICON型結晶構造の空隙に、熱硬化性樹脂が充填されており、前記NASICON型結晶構造の粒界に、潮解性を有するリチウム塩又はその水和物を備えるものである。
【0013】
また、本発明は、別の態様として、下式Iを満たす固体電解質の製造方法であって、
Li1+xM1M2Ti2-x-y(PO (I)
(但し、式中、M1は、Al、Cu、Fe、Ni、Ga、Cr、及びScから成る群から選ばれた一以上の3価の元素、M2は、Si、Ge、Sn、Hf、及びZrからなる群から選ばれた一以上の4価の元素であり、x及びyは、x+y≦1を満たす実数である。)
前記固体電解質を構成する組成を含む固体の粉体を混合する工程と、前記混合された粉体を加熱、成形して成形体を得る工程と、前記成形体に、潮解性を有するリチウム塩又はその水和物を混合した熱硬化性樹脂を含浸して、加熱硬化させる工程とを含む。
【発明の効果】
【0014】
このように本発明によれば、固体電解質の水透過性を改善できるとともに、イオン伝導率の低下も防ぐことができる、優れた耐水性および高いイオン伝導性を有する固体電解質およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例、比較例1、比較例2の各固体電解質の薄膜のCole-Coleプロット図である。
図2】実施例、比較例2の各固体電解質の薄膜のXRDパターンである。
図3】水透過性試験に用いたH型セルの概要を示す模式図である。
図4】実施例、比較例1、比較例2の各固体電解質の薄膜の水透過性を示すグラフである。
図5】実施例の固体電解質の薄膜の経時的なCole-Coleプロット図である。
図6】充放電試験に用いたスウェージロック型のテストセルを示す分解斜視図である。
図7】実施例、比較例2の各固体電解質の薄膜を用いたセルの充放電試験の結果を示すグラフである。
図8】実施例の固体電解質の薄膜を用いたセルの充放電試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る固体電解質及びその製造方法の一実施の形態について、さらに詳細に説明する。
【0017】
本実施の形態の固体電解質は、下式(I)を満たす固体電解質である。
Li1+xM1M2Ti2-x-y(PO (I)
式中、M1は、Al、Cu、Fe、Ni、Ga、Cr、及びScから成る群から選ばれた一以上の3価の金属元素であり、これらのうち、Alが特に好適である。M2は、Si、Ge、Sn、Hf、及びZrからなる群から選ばれた一以上の4価の金属元素であり、これらのうち、Geが特に好適である。固体電解質は、セル抵抗のかなりの部分を占めており、上記の組成を有するNASICON型の種別に分類される固体電解質を用いることで、イオン伝導率を高くすることができるとともに、固体電解質の機械的強度も向上させることができる。
【0018】
式(I)中、x及びyは、x+y≦1を満たす実数である。x+y≦1とすることで、固体電解質の強度やリチウムイオン伝導率を向上できる。また、0<y<xであることが好ましい。3価の金属原子M1を含むことにより、固体電解質中のキャリアイオンを増加させることができ、リチウムイオン伝導率を向上でき、そして、y<xとすることにより、固体電解質の結晶格子定数を適切に設定できる。結果的に固体電解質の相対密度も高めることができる。伝導率の向上および相対密度を高めるため、0.2≦x≦0.6が好ましく、0.3≦x≦0.55がより好ましい伝導率の向上および相対密度を高めるため、0.1≦y≦0.4が好ましく、0.2≦y≦0.3がより好ましい。
【0019】
なお、「NASICON型結晶構造」とは、AM(XO(A:Li、Na、M:遷移金属、X:Si、P等)で表される化合物において、MO八面体とXO四面体が頂点を共有して3次元的に配列した構造をいう。この構造は、結晶構造中に大きな空隙、ボトルネックをもつため、Liイオンなどのカチオンのホスト材料になり得る。
【0020】
本実施の形態の固体電解質は、NASICON型結晶構造の空隙に、熱硬化性樹脂が充填されている。このようにエポキシ樹脂が空隙に充填されることで、電解液や水に対する固体電解質の耐浸透性を向上させることができる。熱硬化性樹脂としては、これらに限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂などが挙げられる。これらのうち、固体電解質のような微細な空隙を埋めるのに適し、且つ耐塩基性を有することから、特にエポキシ樹脂が好ましい。
【0021】
本実施の形態の固体電解質は、NASICON型結晶構造の粒界に、潮解性を有するリチウム塩又はその水和物を備える。NASICON型結晶構造の粒界とは、NASICON型結晶構造を構成する粒子同士の界面をいい、そこに潮解性を有するリチウム塩又はその水和物が存在している。なお、粒子同士が集まってできた隙間にも、潮解性を有するリチウム塩又はその水和物が存在してもよい。
【0022】
このようにNASICON型結晶構造の粒界に、潮解性を有するリチウム塩又はその水和物を備えることで、NASICON型結晶構造の空隙にエポキシ樹脂が充填されていても、イオン伝導率の低下を抑えることができるとともに、イオン伝導率の更なる向上ができる。これは、NASICON型結晶構造の空隙にエポキシ樹脂が充填された状態において、潮解性を有するリチウム塩又はその水和物がエポキシ樹脂に安定して保持されるため、NASICON型結晶構造を構成する結晶粒子間の界面抵抗が低減し、結晶粒子間のイオン伝導率が向上したことによるものと考えられる。
【0023】
潮解性を有するリチウム塩としては、これらに限定されないが、例えば、LiCl、LiBr、LiI等のハロゲン化リチウムが挙げられる。これらの水和物とは、LiCl・xHO、LiBr・xHO、LiI・xHOである。潮解性を有するリチウム塩であれば、空気中の水分を少量吸収して、この水がエポキシ樹脂で覆われて粒界に安定に存在することで、結晶粒子間のイオン伝導率が向上すると推測される。また、リチウム塩の水和物であっても、エポキシ樹脂で覆われていることから、固体電解質が水系電解液に接触した場合であっても、水系電解液に溶出せずに、安定に存在することができる。
【0024】
本実施の形態の固体電解質は、1.0×10-4S/cm以上のリチウムイオン伝導率を有することが好ましく、3.0×10-4S/cm以上がより好ましい。これにより自動車のような移動体に使用することができる。また、本実施の形態の固体電解質は、このように高いイオン伝導率を有することから、空気電池だけでなく、ポリマー電解質を使用した半固体電池や、液系電解液を使用しない全固体電池においても有利に使用することができる。
【0025】
次に、本実施の形態の固体電解質の製造方法について説明する。本方法は、前記式(I)を満たす固体電解質を構成する組成を含む固体の粉体を混合する混合工程と、この混合された粉体を加熱、成形して成形体を得る加熱成形工程と、この成形体に、潮解性を有するリチウム塩又はその水和物を混合した熱硬化性樹脂を含浸して、加熱硬化させる重合工程とを含む。各工程について、詳細に説明する。
【0026】
混合工程では、先ず、前記式(I)で表される固体電解質であって、所望する組成となるように、原料を混合する。例えば、前記式(I)のM1をAl、M2をGeとした場合、Li1+xAlGeTi2-x-y(PO(LAGTP)に対応する量の化学試薬グレードのLiCO、TiO、GeO、Al、及びNHPOの各粉末を、ジルコニア容器等の容器に投入する。なお、このとき、イソプロパノールやエタノール、ヘキサン等の分散剤を添加してもよい。分散剤としては、揮発性があり、材料と反応しない溶媒であれば良く、前記以外の溶媒でも良い。そして、遊星型ボールミルなどを使用して、混合粉砕を行う。
【0027】
加熱成形工程では、先ず、上記により得られた混合粉末を、例えば、750~850℃の温度で5~7時間にわたり加熱を行うことで、NASICON型結晶構造を有するLAGTPの粉末を得ることができる。なお、混合粉砕とその後の加熱は、繰り返し行ってもよい。
【0028】
また、上記により得たLAGTP粉末をラバープレス等で成形し、この成形体を、例えば、850~950℃の温度で5~10時間にわたり焼結した後、粉砕する。そして、これにより得られる粉末を、空気電池などに使用するために、テープキャスト法などを使用して薄膜などの所望する形状に成形する。薄膜としては、例えば、0.05mm~0.2mmの厚さを有することが好ましい。テープキャスト膜を作製するためには、ドクターブレード法を用いてもよい。このときに使用する溶媒としては、例えば、トルエンとエタノールの混合溶媒を用いることが好ましい。得られた薄膜は、脱溶媒した後、焼結することが好ましい。焼結は、例えば、850~950℃の温度で、10~24時間にわたり行う。
【0029】
重合工程では、先ず、熱硬化性樹脂の硬化前の液体状態に、潮解性を有するリチウム塩を添加する。例えば、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合、プレポリマーと硬化剤の2つの液体を用いる。この時、溶媒として、テトラヒドロフラン(THF)やトルエンを用いてもよい。また、潮解性を有するリチウム塩は、例えば、2wt%以上の濃度となるように添加することが好ましいが、できるだけ高い濃度にするために、飽和濃度まで添加してもよい。例えば、潮解性を有するリチウム塩として、LiClを用いる場合、約1wt%で飽和濃度に達する。
【0030】
そして、この混合溶液に、上記により得られたLAGTP薄膜を浸漬させる。浸漬時間は、LAGTP薄膜の空隙に混合液体が十分に含浸する時間であれば特に限定されないが、例えば、12~48時間がよい。また、空隙に十分に混合液体を含浸させるために、真空状態にすることが好ましい。そして、LAGTP薄膜を引き上げた後、加熱することでプレポリマーと硬化剤が反応して硬化が行われる。これによって、NASICON型結晶構造の空隙にエポキシ樹脂が充填され、NASICON型結晶構造の粒界に潮解性を有するリチウム塩又はその水和物を備えるLAGTP薄膜を得ることができる。
【0031】
なお、前記式(I)のM1をAl、M2をGeとした場合の固体電解質について説明したが、本実施の形態は、これに限定されず、M1を、Cu、Fe、Ni、Ga、CrまたはScの3価の金属元素とし、M2を、Si、Sn、HfまたはZrの4価の金属元素としても、同様に、NASICON型結晶構造を有する固体電解質を得ることができる。また、エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂でも、固体電解質の空隙に硬化前の液体状態の樹脂を含浸させることで、NASICON型結晶構造の空隙に熱硬化性樹脂を十分に充填させることができる。
【実施例
【0032】
[1.固体電解質の作成]
[1-1.比較例1の固体電解質の作製]
LAGTPとして、固相反応法を用いて、Li1.35Al0.35Ge0.2Ti1.45(POを合成した。原料のLiCO、Al、GeO、TiO、NHPOの各粉末の混合物に、イソプロパノールを分散剤とし添加し、遊星型ボールミルで混合粉砕した後、600℃、5時間にわたり加熱を行った。その後、再度ボールミルで粉砕し、800℃で4時間加熱して、NASICON型結晶構造を有するLAGTP粉末を作製した。
【0033】
さらに、LAGTP粉末をラバープレスで成形し950℃で7時間焼結した後、粉砕した粉末をテープキャスト膜の作製に用いた。テープキャスト膜の作製は、ドクターブレード法を用いた。ギャップが0.7mmと0.4mmのダブルブレードで、60cm/minのスピードでキャストした。得られた膜は5℃で24時間にわたり、ゆっくりと脱溶媒を行った。このシートを950℃で7時間焼結することによりLAGTP薄膜(厚さ0.2~0.3mm)を作製し、比較例1とした。
【0034】
[1-2.比較例2の固体電解質の作製]
エポキシ樹脂の原料である1,3-フェニレンジアミンと2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのTHF溶液(モル比0.5:1)に、比較例1で作製したLAGTP薄膜を24時間浸漬した。その後、溶液から引き上げて、17時間加熱し、重合を行った。これにより、NASICON型結晶構造の空隙にエポキシ樹脂が充填されたLAGTP薄膜を作製し、比較例2とした。
【0035】
[1-3.実施例の固体電解質の作製]
エポキシ樹脂の原料である1,3-フェニレンジアミンと2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのTHF溶液(モル比0.5:1)にLiClを飽和させた溶液中(LiCl約1wt%)に、比較例1で作製したLAGTPのテープキャスト膜を24時間浸漬した。その後、溶液から引き上げて、17時間加熱し、重合を行った。これにより、NASICON型結晶構造の空隙にエポキシ樹脂が充填され、NASICON型結晶構造の粒界にLiClを備えるLAGTP薄膜を作製し、実施例とした。
【0036】
[2.イオン伝導率の測定]
上記により得た実施例、比較例1、比較例2の各固体電解質の薄膜に、金をスパッタリングして電極を形成して試験薄膜(直径約12mm、厚さ0.25mm)を作製した。そして、この試験薄膜のイオン伝導率を、インピーダンス位相分析器(Solartron1260)を使用して、0.1Hzから1MHzの周波数範囲、10mVのバイアス電圧で測定した。その結果を表1および図1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
表1に示すように、比較例1のLAGTPのみの試験薄膜と比べ、LAGTPをエポキシ樹脂で埋めた比較例2の試験薄膜は、イオン伝導率が大幅に低下したが、エポキシ樹脂にLiClを添加した実施例の試験薄膜では、イオン伝導率が8.8×10-4S/cmと比較例2の2倍程度となった。また、エポキシ樹脂の無い比較例1の試験薄膜よりもイオン伝導率が向上した。
【0039】
図1は、実施例、比較例1、比較例2の各試験薄膜の25℃でのCole-Coleプロット図であるが、コンデンサ成分を含んでいる場合プロットは半円を描き、等価回路によるフィッティングを行った半円とその実軸(横軸)を切る点が抵抗値に相当する。図1に示すように、実施例は、比較例1や比較例2の各試験薄膜と比べて、抵抗が小さく、イオン伝導率が高いと考えられる。
【0040】
[3.X線回析(XRD)]
上記により得た実施例と比較例2の各固体電解質の薄膜について、Ar雰囲気下のグローブボックス内で、X線回折測定装置(株式会社リガク社製、品番:RINT-2500)を用いて、それらのXRDパターンを得た。その結果を図2に示す。図2に示すように、実施例のXRDパターンは、比較例2のXRDパターンと比べ、LiClおよびLiCl・xHOのピークが観測され、特に、LiCl・xHOのピークが強く観察された。よって、実施例の高いイオン伝導率は、NASICON型結晶構造の粒界に存在するLiCl・xHO相に起因するものと考えられる。
【0041】
[4.水透過性試験]
上記により得た実施例、比較例1、比較例2の各固体電解質のテープキャスト膜について、図3に示すH型セルを用いて、それらの水透過性を調べた。図3に示すように、H型セル10は、陽極室12と陰極室14とが連結部16を介して連結されているH字形状の容器である。陽極室12に飽和LiCl水溶液を満たし、陰極室14には純水を満たし、連結部16には隔膜として上記各テープキャスト膜を設置した。そして、経時的に陰極室14中のCl濃度を測定した。その結果を図4に示す。図4に示すように、エポキシ樹脂を含侵していない比較例1のLAGTP薄膜は、時間の経過にしたがいCl濃度が徐々に高くなり、容易に水が透過したことがわかった。一方、エポキシ樹脂を含侵させた実施例および比較例2のLAGTP薄膜は、長時間にわたりCl濃度は変化せず、エポキシ樹脂の含侵により水が透過しなくなったことが確認された。
【0042】
また、実施例の固体電解質の薄膜をLiOH-LiCl飽和水溶液に接触させた状態でのインピーダンスの経時変化を測定した。その結果を図5に示す。図5に示すように、経時的なインピーダンスの変化はなく、水系電解液であるLiOH-LiCl飽和水溶液に接触させても、実施例の高いイオン伝導率は維持された。これは、実施例のLAGTP膜がエポキシ樹脂によって覆われていることにより、NASICON型結晶構造の粒界に存在するLiClが、水系電解液に溶出するのを防いだと考えられる。
【0043】
[5.充放電試験]
上記により得た実施例の固体電解質の薄膜を使用して空気電池のテストセルを作製し、充放電試験を行った。
【0044】
[5-1.セルの作製]
図6に示すスウェージロック型のテストセルを作成した。図6に示すように、このテストセル20は、負極側プレート21、負極22、負極側シリンダ23、固体電解質の薄膜24、空気極側シリンダ25、空気極26、空気極側プレート27を順に重ね合わせて、4本のスクリューロッドで負極側プレート21と空気極側プレート27とを固定して電池評価試験用のセルとするものである。負極22には、膜厚0.2mmのリチウム箔を用いた。負極側シリンダ23に充填される有機電解液として、負極保護電解質の(LiFSI-2G4)-50vol%DOL(G4:テトラグライム、DOL:1,3-ジオキソラン)を、空気極側シリンダ25に充填される水溶液として、空気極電解質のLiOHとLiClの混合液を用いた。空気極26には、ケッチェンブラック(比表面積800m/g)とバインダー(結着剤)としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)との混合物を用いた。空気極混合物は直径12mmのTiメッシュ上に圧着した。
【0045】
[5-2.放電・充電試験]
上記により作製したセルについて、充放電試験装置(北斗電工社製、HJ1001SD8)を用いて、電流密度0.1mA/cm、0.2mA/cm、0.5mA/cm、1mA/cmで1時間の充電・放電を3サイクルずつ繰り返した。その際の電圧の推移について25℃の温度にて測定した結果を図7に示す。また、電流密度0.5mA/cmで1時間の充電・放電を50サイクル実施した際の結果を図8に示す。なお、図7には、比較例2の固体電解質の薄膜を用いて作製したセルについて同様の試験を行った際の結果を併記した。
【0046】
図7に示すように、実施例の固体電解質の薄膜を用いて作製したセルは、比較例2の固体電解質の薄膜を用いて作製したセルよりも充放電過電圧が低下した。充放電過電圧が大きいほど、電位の変動が大きいことを示し、電解液が分解する可能性、副反応が起こる可能性等が高まり、結果的に電池の寿命低下・劣化に繋がる。よって、実施例の固体電解質の薄膜を用いて作製したセルは、比較例2の固体電解質の薄膜を用いて作製したセルに比べて、充放電性能が向上したことが確認された。また、図8に示すように、実施例では、充電・放電を50サイクル実施しても安定した電位の変動を示し、このことからも潮解性を有するリチウム塩又はその水和物がNASICON型結晶構造の粒界に安定して存在することが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8