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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】手締用トルクナット
(51)【国際特許分類】
   F16B 31/02 20060101AFI20240801BHJP
【FI】
F16B31/02 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021026953
(22)【出願日】2021-02-24
(65)【公開番号】P2022128624
(43)【公開日】2022-09-05
【審査請求日】2024-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(73)【特許権者】
【識別番号】392028767
【氏名又は名称】株式会社日本アルファ
(74)【代理人】
【識別番号】100111095
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 光男
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 万美子
(72)【発明者】
【氏名】矢田 敏徳
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 弘貴
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0053443(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0097474(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105229358(CN,A)
【文献】特開平9-242729(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周に本体側突部が突出形成されてなる内筒部を有する、所定の締結対象に螺合されるナット本体と、
内周にリング側突部が突出形成されてなる外筒部を有するとともに、当該外筒部内に前記内筒部が挿通された外リングと、
前記本体側突部に前記リング側突部が係合された状態で前記外リングを回転させることにより、前記締結対象に対し前記ナット本体を螺合可能であるとともに、
前記締結対象に前記ナット本体を螺合する際に、前記締結対象に対する前記ナット本体の回転トルクが所定値を上回ると、前記リング側突部が前記本体側突部を乗り越えて前記本体側突部に対する前記リング側突部の係合が解除されるように構成され、かつ、
手締めによって、前記締結対象に対し前記ナット本体を螺合する手締用トルクナットであって、
前記ナット本体及び前記外リングの分離を規制する分離規制手段を有し、
前記本体側突部は、前記内筒部の中心軸を間に置く位置に一対のみ設けられ、
前記リング側突部は、一対の前記本体側突部と同時に係合されるように少なくとも一対設けられ、
前記外筒部は、前記本体側突部に前記リング側突部が係合された状態において、前記内筒部の外周部のうち前記一対の前記本体側突部間に位置する部位と対向する非形成部対向部を有し、
前記非形成部対向部は、前記リング側突部が前記本体側突部を乗り越える際に、前記本体側突部に阻害されることなく、前記外筒部の径方向内側に弾性変形可能に構成されていることを特徴とする手締用トルクナット。
【請求項2】
前記ナット本体は、前記内筒部の一端部に突出形成され、端面が座面を構成する鍔状の座面部を有し、
前記外リングは、
前記座面部の端面を露出させた状態で、当該座面部の外周に配置される円筒状のカバー部と、
前記外筒部の一端部及び前記カバー部の端部を連結する連結部とを備え、
前記外筒部は、前記リング側突部を間に置く位置に設けられるとともに、それぞれ当該外筒部の一端部にて開口する2つのスリットからなるスリットペアを有し、
前記連結部には、前記スリットペアを構成する2つの前記スリット同士を連通する窓部が貫通形成されていることを特徴とする請求項1に記載の手締用トルクナット。
【請求項3】
前記分離規制手段は、前記カバー部における前記連結部とは反対側の端部において内側に向けて突出するとともに、前記座面部が係止されることで前記外リングからの前記ナット本体の抜けを防止する抜止め部を備えることを特徴とする請求項2に記載の手締用トルクナット。
【請求項4】
前記締結対象に前記ナット本体を螺合する際に作業者が把手可能な把手部を有し、
前記把手部は、前記外筒部の外周に突出形成され、当該外筒部の周方向に沿って間隔をあけて設けられた複数の突起によって構成されており、
前記突起は、前記外筒部の外周のうち、当該外筒部の周方向において前記窓部及び前記スリットペアの各形成位置からずれた部位に突出形成されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の手締用トルクナット。
【請求項5】
一対の前記本体側突部と同時に係合可能な一対の前記リング側突部が、前記外筒部の周方向に沿った異なる位置に、少なくとも二組設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の手締用トルクナット。
【請求項6】
各組の前記リング側突部は、前記外筒部の軸方向に沿ってそれぞれ異なる位置に設けられており、
前記本体側突部は、前記内筒部の軸方向に延びる突条をなしており、各組の前記リング側突部のそれぞれと係合可能に構成されていることを特徴とする請求項5に記載の手締用トルクナット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手締めによって所定の締結対象に螺合されるとともに、トルクリミッタ機能を有する手締用トルクナットに関する。
【背景技術】
【0002】
外周に雄ねじ部を有してなる所定の締結対象に螺合されるナットは、各種技術分野において広く用いられており、例えば水回りに設置される装置の取付にも利用されている。水回りに設置される装置としては、例えば、槽体(例えば洗面ボウルや浴槽など)の排水口に対応して設けられた栓蓋を遠隔操作するための操作装置などがある。
【0003】
操作装置としては、往復移動可能な操作部(操作レバーや操作ボタンなど)、当該操作部の移動をガイドする筒状部材、及び、前記操作部の変位による駆動力を栓蓋側へと伝達する伝達部材(例えばワイヤ等)などを備え、操作部を移動させることで、栓蓋を上下動させて排水口の開閉状態を切換えるものが知られている(例えば、特許文献1等参照)。この操作装置では、筒状部材が締結対象に相当する。筒状部材は、その外周に鍔部及び雄ねじ部を備えている。筒状部材(雄ねじ部)にナットが螺合され、前記鍔部及びナットにより所定の設置対象部(洗面ボウルのカウンタ部や浴槽のフランジ部など)を挟み込んだ状態とすることで、筒状部材は設置対象部へと取付けられる。
【0004】
また、螺合時における回転トルクの過大を防止すべく、ナットとして、トルクリミッタ機能を備えたトルクナットを用いることがある。トルクナットとしては、多数の本体側突部(受け爪)が外周に環状に形成されてなるナット本体と、当該ナット本体の外周に配置されるとともに、前記本体側突部に対し係合可能な複数のリング側突部(押し爪)が内周に形成されてなる外リング(カバー部材)とを備え、ナット本体の回転トルクが所定値(最大許容トルク)を上回ると、本体側突部に対するリング側突部の係合が解除されるように構成されたものが知られている(例えば、特許文献2等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-226975号公報
【文献】特開平9-242729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のような操作装置などを設置する際には、過大な回転トルクの付与防止や作業スペースなどの観点から、工具などを用いることなく、手締めにより締結対象(筒状部材)に対しナットを螺合することがある。この場合、工具を用いる場合と比べて、ナットの回転トルクは比較的小さなものとなる。そのため、ナットとして上記のようなトルクナットを利用する場合、回転トルクが比較的小さな段階で本体側突部に対するリング側突部の係合が解除されるように、最大許容トルク(係合が解除される際の回転トルク)が比較的小さなトルクナットを用いる必要がある。そこで、本体側突部やリング側突部の角度や突出量などを調節することで、トルクナットにおける最大許容トルクを比較的小さなものに設定することが考えられる。
【0007】
しかしながら、トルクナット(ナット本体及び外リング)の製造にあたっては多少の形状誤差が生じる。そのため、製造されるトルクナットごとに、本体側突部やリング側突部の角度や突出量などは僅かに異なるものとなり、設定される最大許容トルクに多少の差が発生する。この差の絶対値自体は大きなものとはなりにくいが、設定目標の最大許容トルクが比較的小さなものである場合、この設定目標の最大許容トルクを基準とすると、実際の最大許容トルクが相対的に大きくばらつくおそれがある。従って、使用するトルクナットによって、手締め作業後における締結対象に対するナットの取付状態にばらつきが生じるといった事態が生じるおそれがある。
【0008】
尚、このような事態は、上記操作装置のような水回りに設置される装置に用いられるトルクナットのみならず、手締めにより締結対象へと螺合されるトルクナット全般において生じ得る。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、手締めによって締結対象に螺合される手締用トルクナットであって、最大許容トルクをより精度よく比較的小さな値に設定可能な手締用トルクナットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、上記目的を解決するのに適した各手段につき、項分けして説明する。なお、必要に応じて対応する手段に特有の作用効果を付記する。
【0011】
手段1.外周に本体側突部が突出形成されてなる内筒部を有する、所定の締結対象に螺合されるナット本体と、
内周にリング側突部が突出形成されてなる外筒部を有するとともに、当該外筒部内に前記内筒部が挿通された外リングと、
前記本体側突部に前記リング側突部が係合された状態で前記外リングを回転させることにより、前記締結対象に対し前記ナット本体を螺合可能であるとともに、
前記締結対象に前記ナット本体を螺合する際に、前記締結対象に対する前記ナット本体の回転トルクが所定値を上回ると、前記リング側突部が前記本体側突部を乗り越えて前記本体側突部に対する前記リング側突部の係合が解除されるように構成され、かつ、
手締めによって、前記締結対象に対し前記ナット本体を螺合する手締用トルクナットであって、
前記ナット本体及び前記外リングの分離を規制する分離規制手段を有し、
前記本体側突部は、前記内筒部の中心軸を間に置く位置に一対のみ設けられ、
前記リング側突部は、一対の前記本体側突部と同時に係合されるように少なくとも一対設けられ、
前記外筒部は、前記本体側突部に前記リング側突部が係合された状態において、前記内筒部の外周部のうち前記一対の前記本体側突部間に位置する部位と対向する非形成部対向部を有し、
前記非形成部対向部は、前記リング側突部が前記本体側突部を乗り越える際に、前記本体側突部に阻害されることなく、前記外筒部の径方向内側に弾性変形可能に構成されていることを特徴とする手締用トルクナット。
【0012】
上記手段1によれば、締結対象にナット本体を螺合する際に、締結対象に対するナット本体の回転トルクが所定値(最大許容トルク)を上回ると、リング側突部が本体側突部を乗り越えて本体側突部に対するリング側突部の係合が解除され、ナット本体に回転トルクが伝わらない状態となる。つまり、上記手段1の手締用トルクナットは、トルクリミッタ機能を具備している。従って、締結対象への螺合時に、ナット本体へと過大な回転トルクが付与されることをより確実に防止できる。
【0013】
また、上記手段1によれば、本体側突部は、内筒部の中心軸を間に置く位置に一対のみ設けられており、外筒部における非形成部対向部〔内筒部の外周部のうち、一対の本体側突部間に位置する部位(すなわち、内筒部の周方向において本体側突部の形成されていない範囲)と対向する部位〕は、リング側突部が本体側突部を乗り越える際に、本体側突部に阻害されることなく、外筒部の径方向内側に容易に弾性変形可能となっている。そのため、結果的に、リング側突部が本体側突部を乗り越える際に、外筒部が楕円状に弾性変形しやすくなって、外筒部のうちリング側突部の形成された部位を外筒部の径方向外側へと容易に弾性変形可能とすることができる。これにより、本体側突部に対しリング側突部が容易に乗り越え可能となるため、前記所定値(最大許容トルク)として比較的小さな値を設定することができる。その結果、手締めにより締結対象に対しナット本体を螺合するとき(通常、ナット本体の回転トルクが比較的小さなものとなるとき)において、トルクリミッタ機能をより確実に発揮させることができる。
【0014】
さらに、トルクナット(ナット本体及び外リング)の製造時に多少の形状誤差が生じたとしても、外筒部における弾性変形の生じやすさはほとんど変わらない。そのため、前記所定値(最大許容トルク)をより精度よく(ばらつき少なく)設定することができる。これにより、使用するトルクナットによって、締結対象に対するナット本体の取付状態にばらつきが生じることをより確実に防止できる。
【0015】
また、分離規制手段によって、ナット本体及び外リングの分離(外リングからのナット本体の抜け)を規制することができる。従って、トルクナットの管理(保管など)や手締め作業をより容易に行うことができる。
【0016】
手段2.前記ナット本体は、前記内筒部の一端部に突出形成され、端面が座面を構成する鍔状の座面部を有し、
前記外リングは、
前記座面部の端面を露出させた状態で、当該座面部の外周に配置される円筒状のカバー部と、
前記外筒部の一端部及び前記カバー部の端部を連結する連結部とを備え、
前記外筒部は、前記リング側突部を間に置く位置に設けられるとともに、それぞれ当該外筒部の一端部にて開口する2つのスリットからなるスリットペアを有し、
前記連結部には、前記スリットペアを構成する2つの前記スリット同士を連通する窓部が貫通形成されていることを特徴とする手段1に記載の手締用トルクナット。
【0017】
上記手段2によれば、スリットペア及び窓部を設けることによって、外筒部のうちリング側突部の形成された部位を外筒部の径方向外側へとより容易に弾性変形可能とすることができる。従って、前記所定値(最大許容トルク)をより小さな値に設定することが容易に可能となる。これにより、手締めにより締結対象に対しナット本体を螺合するときにおいて、トルクリミッタ機能をより一層確実に発揮させることができる。
【0018】
また、カバー部を設けることによって、座面部に対するダメージ付与をより確実に防止することができる。
【0019】
手段3.前記分離規制手段は、前記カバー部における前記連結部とは反対側の端部において内側に向けて突出するとともに、前記座面部が係止されることで前記外リングからの前記ナット本体の抜けを防止する抜止め部を備えることを特徴とする手段2に記載の手締用トルクナット。
【0020】
上記手段3によれば、分離規制手段を簡素な構造により実現することができ、製造コストの増大抑制などを図ることができる。
【0021】
また、抜止め部は、カバー部における連結部とは反対側の端部に設けられている。そのため、座面部に対し抜止め部が適切に係止されているか否かを外部から簡便に確認することができる。これにより、ナット本体及び外リングの相対位置関係が不適切な状態(両者が適切に組み合わされていない状態)のまま手締め作業を行ってしまうことをより確実に防止でき、作業に係る利便性を高めることができる。
【0022】
手段4.前記締結対象に前記ナット本体を螺合する際に作業者が把手可能な把手部を有し、
前記把手部は、前記外筒部の外周に突出形成され、当該外筒部の周方向に沿って間隔をあけて設けられた複数の突起によって構成されており、
前記突起は、前記外筒部の外周のうち、当該外筒部の周方向において前記窓部及び前記スリットペアの各形成位置からずれた部位に突出形成されていることを特徴とする手段2又は3に記載の手締用トルクナット。
【0023】
単に外筒部を持って手締め作業を行う構成とすると、把手位置(手で持つ位置)によっては、作業者の手から加わる内向きの力により、外筒部のうちリング側突部の形成された部位の弾性変形が阻害されて、前記所定値(最大許容トルク)が変動するおそれがある。
【0024】
この点、上記手段4によれば、把手部は複数の突起により構成されているところ、各突起は、外筒部の外周のうち、当該外筒部の周方向において窓部及びスリットペアの形成位置からずれた部位に突出形成されている。つまり、各突起は、内向きの力が加えられた場合であっても、その力が外筒部のうちリング側突部の形成された部位へと伝わりにくい位置に設けられている。これにより、把手部を利用して手締め作業を行うときに、作業者の手から加わる力によって、外筒部のうちリング側突部の形成された部位の弾性変形が阻害されることを防止できる。その結果、把手部を設けることによる作業性の向上を図りつつ、上記手段2による作用効果をより確実に発揮させることができる。
【0025】
また、手締め作業において、作業者はトルクナットの持ち位置を特段気にする必要はなく、単に把手部を利用しさえすれば、上記作用効果(弾性変形の阻害防止)が発揮されることになる。従って、作業に係る利便性をより向上させることができる。
【0026】
手段5.一対の前記本体側突部と同時に係合可能な一対の前記リング側突部が、前記外筒部の周方向に沿った異なる位置に、少なくとも二組設けられていることを特徴とする手段1乃至4のいずれかに記載の手締用トルクナット。
【0027】
リング側突部が本体側突部を乗り越えてしまうと、リング側突部や本体側突部が多少変形する(いわば、リング側突部や本体側突部が多少なめられた状態となる)おそれがある。従って、リング側突部が本体側突部を一度乗り越えた後に、再度、同じ本体側突部及びリング側突部を用いてナット本体の螺合を行おうとすると、本体側突部に対するリング側突部の係合が不十分となり、結果的に、適切な回転トルクをもってナット本体を螺合することができなくなるおそれがある。
【0028】
この点、上記手段5によれば、一対の本体側突部と同時に係合可能な一対のリング側突部は、外筒部の周方向に沿った異なる位置に少なくとも二組設けられている。従って、仮に一組のリング側突部が本体側突部を乗り越えたとしても、その他の(乗り越えの生じていない)組のリング側突部を本体側突部に係合させた状態で、締結対象に対するナット本体の螺合を行うことができる。これにより、リング側突部が本体側突部を乗り越えてしまった場合であっても、適切な回転トルクをもってナット本体を螺合することがより確実に可能となる。
【0029】
手段6.各組の前記リング側突部は、前記外筒部の軸方向に沿ってそれぞれ異なる位置に設けられており、
前記本体側突部は、前記内筒部の軸方向に延びる突条をなしており、各組の前記リング側突部のそれぞれと係合可能に構成されていることを特徴とする手段5に記載の手締用トルクナット。
【0030】
上記手段6によれば、各組の前記リング側突部は、外筒部の軸方向に沿ってそれぞれ異なる位置に設けられている。例えば、リング側突部が二組設けられる場合、一組のリング側突部は外筒部の軸方向一端側に設けられ、もう一組のリング側突部は外筒部の軸方向他端側に設けられている。また、本体側突部は、内筒部の軸方向に延びる突条をなしており、各組のリング側突部のそれぞれと係合可能に構成されている。従って、本体側突部のうちリング側突部が係合される部位は、各組のリング側突部ごとに異なることとなる。例えば、リング側突部が二組設けられる場合、本体側突部のうち、一組のリング側突部が係合される部位ともう一組のリング側突部が係合される部位とはそれぞれ異なることとなる。
【0031】
上記のようにリング側突部及び本体側突部が構成されることで、仮に一組のリング側突部が本体側突部を乗り越えたとしても、その他の(乗り越えの生じていない)組のリング側突部を、本体側突部のうち乗り越えの影響を受けていない部位に係合させた状態で、締結対象に対するナット本体の螺合を行うことができる。つまり、乗り越えの影響を受けていない部位同士を係合させて、ナット本体の螺合を行うことができる。これにより、リング側突部が本体側突部を乗り越えた後において、再度、締結対象に対しナット本体を螺合しようとする際に、前記所定値(最大許容トルク)を乗り越えが生じる前とほとんど変わらないものとすることができる。これにより、リング側突部が本体側突部を乗り越えてしまった場合であっても、適切な回転トルクをもってナット本体の螺合を行うことがより一層確実に可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】操作装置の断面模式図である。
図2】手締用トルクナットの斜視図である。
図3】内筒部側から見たときにおけるナット本体の斜視図である。
図4】座面部側から見たときにおけるナット本体の斜視図である。
図5】外リングの斜視図である。
図6】本体側突部に対するリング側突部の係合状態などを示すための手締用トルクナットの斜視図である。
図7】別の実施形態におけるリング側突部の構成を説明するためのナット本体の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1に示すように、本実施形態における手締用トルクナット3は、洗面ボウル100に取付けられる操作装置1の一部を構成するものである。尚、図1では、手締用トルクナット3を簡略化して示している。以下では、まず、洗面ボウル100及び操作装置1について簡単に説明し、その後、手締用トルクナット3についてより詳細に説明する。
【0034】
洗面ボウル100は、水等の貯水空間を形成するボウル状部分(不図示)と、当該ボウル状部分の上部から外側に向けて略水平方向に突出するカウンタ部101とを備えたものである。カウンタ部101には、その板厚方向に貫通する取付孔102が形成されている。取付孔102は、操作装置1の設置に利用される。また、前記ボウル状部分には、水等を排出するための排水口(不図示)が設けられている。
【0035】
操作装置1は、前記取付孔102に挿通された状態で前記カウンタ部101に取付けられており、筒状部材2、手締用トルクナット3、操作部4、伝達部材5及び閉塞部材6を備えている。本実施形態では、筒状部材2が「締結対象」に相当する。
【0036】
筒状部材2は、操作装置1のベースを構成する部品である。筒状部材2は、所定の樹脂等により形成されており、中心に貫通孔を有する筒状をなしている。筒状部材2は、外周に雄ねじ部21aが形成されてなる円筒状の本体部21と、当該本体部21の一端部から外側に突出する鍔部22とを備えている。また、本体部21の他端側外周には、閉塞部材6を取付けるための係止溝部21bが環状に形成されている。
【0037】
手締用トルクナット3は、筒状部材2をカウンタ部101へと固定するための部品である。手締用トルクナット3は、筒状部材2の外周において前記雄ねじ部21aに螺合されており、鍔部22との間でカウンタ部101を挟み込んだ状態で設置されている。これにより、筒状部材2がカウンタ部101に固定されている。手締用トルクナット3の詳細な構成については後述する。
【0038】
尚、カウンタ部101に筒状部材2を固定した状態においては、鍔部22及びカウンタ部101間に、弾性変形可能な材料(例えばゴム等)からなる環状のシール部材を介在させることが好ましい。当該シール部材を設けることで、取付孔102を通ったカウンタ部101の裏側への水の浸入防止を図ることができる。
【0039】
操作部4は、前記排水口を開閉する際の操作対象となる部品である。操作部4は、筒状部材2の内周に挿通された操作軸41と、当該操作軸41の一端部に取付けられた操作用のツマミ部42とを備えている。
【0040】
操作軸41は、棒状(本実施形態では、円柱状)をなしており、筒状部材2の内周面に沿って往復移動可能とされている。また、操作軸41の他端部には、伝達部材5を接続するための窪み状の凹部41aが設けられている。尚、筒状部材2内に浸入した水が伝達部材5側へと漏出することを防止すべく、操作軸41の外周面と筒状部材2の内周面との間に、弾性変形可能な材料からなる環状のシール部材を設け、操作軸41及び筒状部材2間を水密にシールすることが好ましい。
【0041】
伝達部材5は、例えば、ワイヤ等により構成されており、操作部4の変位による駆動力を、前記排水口に対応して設けられた栓蓋(図示せず)側へと伝達するためのものである。伝達部材5の端部には所定の端末接続部5aが固定されており、当該端末接続部5aが前記凹部41aに配置されることで、伝達部材5及び操作部4(操作軸41)が直列的に接続されている。
【0042】
また、伝達部材5は、筒状のチューブ部材7の内周に配置されており、当該チューブ部材7内を往復移動可能とされている。これにより、操作部4(ツマミ部42)に対する押引き操作に伴い、チューブ部材7内を伝達部材5が往復移動する。そして、伝達部材5が往復移動することに伴い前記栓蓋が上下動し、その結果、前記排水口の開閉状態が切換えられるようになっている。
【0043】
閉塞部材6は、チューブ部材7の端部を保持しつつ、筒状部材2の他端からの操作部4の抜けを防止するための部品である。閉塞部材6は、全体として筒状をなしており、自身の内周にてチューブ部材7の端部を保持している。また、閉塞部材6の端部には、内向きに突出する爪部6aが形成されている。そして、当該爪部6aが前記係止溝部21bに配置されて筒状部材2に係止された状態となることで、閉塞部材6は、筒状部材2に対しその他端側開口を塞ぎつつ取付けられた状態となっている。
【0044】
次いで、手締用トルクナット3の詳細な構成について説明する。手締用トルクナット3は、工具などを用いることなく、手締め作業により締結対象(本実施形態では筒状部材2)へと螺合されるものである。手締用トルクナット3は、図2に示すように、ナット本体31及び外リング32を備えている。
【0045】
ナット本体31は、筒状部材2に螺合される部品であって、ナットとしての本来的な機能を担う(つまり、締結対象へと螺着される)ものである。ナット本体31は、図3,4に示すように、内筒部311及び座面部312を備えている。
【0046】
内筒部311は、円筒状をなしており、その内周には、前記雄ねじ部21aへと螺合可能な雌ねじ部311aが形成されている。一方、内筒部311の外周には、本体側突部313が突出形成されている。
【0047】
本体側突部313は、内筒部311の中心軸CLを間に置く(中心軸CLを挟む)位置に一対のみ設けられている。また、各本体側突部313は、内筒部311の軸方向(中心軸CL方向)に沿って延び、内筒部311の端部(座面部312とは反対側に位置する端部)から座面部312にかけて連続する突条をなしている。さらに、各本体側突部313の外周面には、取外時被係合面313a及び螺合時被係合面313bが設けられている。
【0048】
取外時被係合面313aは、平面視したときに(中心軸CLに沿って見たときに)内筒部311の径方向(中心軸CLから本体側突部313に向けた仮想直線の延びる方向)とほぼ平行に形成された面である。取外時被係合面313aは、筒状部材2から手締用トルクナット3を取外す際に、後述するリング側突部323が係止される。
【0049】
一方、螺合時被係合面313bは、平面視したときに、内筒部311の外周面(当該外周面を通る接線)に対し比較的緩やかな傾斜角度をもって徐々に立ち上がる緩斜面である。すなわち、内筒部311の外周面に対する螺合時被係合面313bの傾斜角度は、内筒部311の外周面に対する取外時被係合面313aの傾斜角度よりも小さなものとなっている。螺合時被係合面313bは、筒状部材2に対し手締用トルクナット3を螺合する際に、後述するリング側突部323が係止される。
【0050】
座面部312は、内筒部311の一端部に突出形成された鍔状部位であり、その端面がナット本体31における座面を構成する。本実施形態では、操作装置1を設置した状態において、座面部312の端面がカウンタ部101と面接触する。
【0051】
また、座面部312は、前記端面(座面)の外縁に連続する小径部312aと、当該小径部312aよりも大径とされた大径部312bとを備えている。そして、座面部312の外周には、小径部312a及び大径部312bの径差に基づく段差部312cが形成されている。
【0052】
外リング32は、ナット本体31の外周に配置されており、筒状部材2に対する手締用トルクナット3の取付・取外時に作業者が持つことになる部品である。外リング32は、図5に示すように、外筒部321、連結部322、カバー部325及び把手部326を備えている。
【0053】
外筒部321は、内側に内筒部311が挿通される円筒状部位である。外筒部321の一端部内周には、リング側突部323が突出形成されている。
【0054】
リング側突部323は、一対の前記本体側突部313と同時に係合されるように少なくとも一対設けられている。本実施形態では、一対の本体側突部313と同時に係合可能な一対のリング側突部323が、外筒部321の周方向に沿った異なる位置に二組設けられている。
【0055】
加えて、外筒部321は、当該外筒部321の周方向に沿ってリング側突部323を間に置く位置に設けられるとともに、それぞれ当該外筒部321の一端部にて開口する2つのスリット324aを有している。これら2つのスリット324aは、スリットペア324を構成する。本実施形態では、計4つのリング側突部323が設けられているところ、これらリング側突部323に対応するようにして、計4組のスリットペア324が設けられている。
【0056】
さらに、外筒部321は、本体側突部313にリング側突部323が係合された状態において、内筒部311の外周部のうち一対の本体側突部313間に位置する部位と対向する非形成部対向部321aを有している(図6参照)。非形成部対向部321aは、外筒部321の周方向に沿った一定の範囲を占める部位であって、内筒部311の周方向に沿って当該内筒部311の外周部のうち本体側突部313の形成されていない範囲と相対向する部位である。
【0057】
連結部322は、外筒部321の一端部及びカバー部325の端部を連結する部位である。連結部322には、各スリットペア324に対応して、スリットペア324を構成する2つのスリット324a同士を連通する窓部322aが貫通形成されている。これにより、連結部322は、外筒部321のうち各スリットペア324の間に位置しリング側突部323の形成されていない部位と、カバー部325とを連結した状態となっている。
【0058】
カバー部325は、座面部312の外周に配置される円筒状部位であり、座面部312を保護する機能を有している。カバー部325における連結部322とは反対側に位置する端部の内周には、内側に向けて突出する抜止め部325aが突出形成されている。
【0059】
抜止め部325aは、カバー部325の周方向に沿って間隔をあけて複数(本実施形態では、等間隔に4つ)設けられている。各抜止め部325aは、座面部312(段差部312c)に係止されており、外リング32の一端側開口からのナット本体31の抜けを防止する。本実施形態では、座面部312と、当該座面部312を挟むようにして配置される抜止め部325a及び外筒部321とによって、ナット本体31及び外リング32の分離を規制する分離規制手段33(図2参照)が構成されている。
【0060】
尚、座面部312(段差部312c)に抜止め部325aを係止させた状態においては、座面部312の端面(座面)がカバー部325の外に露出するようになっている。換言すれば、手締用トルクナット3を側面視したとき、座面部312の端面が、カバー部325で隠れることなく視認可能な状態となっている。これにより、カバー部325の存在によって、カウンタ部101に対する座面部312の端面の面接触が阻害されないようになっている。
【0061】
把手部326は、手締め作業による筒状部材2に対するナット本体31の螺合をより容易なものとするためのものであって、筒状部材2に対しナット本体31を螺合する際に作業者によって把手されることを想定した部位である。把手部326は、外筒部321の外周に突出形成された複数(本実施形態では4つ)の平板状の突起326aによって構成されている。各突起326aは、外筒部321の外周のうち、当該外筒部321の周方向において窓部322a及びスリットペア324の各形成位置からずれた部位(つまり、各スリットペア324間に位置しリング側突部323の形成されていない部位)に突出形成されている。
【0062】
上記のように構成された手締用トルクナット3は、操作装置1を設置する際に、次のようにして筒状部材2に螺合される。尚、操作部4は、筒状部材2に手締用トルクナット3を螺合する前段階で、筒状部材2に対し予め挿通設置されている。一方、伝達部材5及び閉塞部材6等は、筒状部材2に手締用トルクナット3を螺合し、筒状部材2をカウンタ部101に取付けた後に設置される。
【0063】
まず、前記取付孔102に筒状部材2を挿通するとともに、当該筒状部材2の他端部を通して、当該筒状部材2の外周に手締用トルクナット3を配置する。そして、筒状部材2の雄ねじ部21aにナット本体31の雌ねじ部311aを接触させた状態で、外リング32を所定方向に回転させる。外リング32の回転は、作業者が把手部326を持った上で手作業により行われる。外リング32を回転させると、本体側突部313(螺合時被係合面313b)にリング側突部323が係合されて、外リング32とともにナット本体31が回転し、筒状部材2に対しナット本体31が螺合されていく。そして、筒状部材2に対するナット本体31の螺合が進むと、座面部312がカウンタ部101に接触し、鍔部22及びナット本体31によりカウンタ部101が挟み込まれた状態になる。
【0064】
その上で、外リング32をさらに回転させていくと、最終的に筒状部材2に対するナット本体31の回転トルクが所定値(最大許容トルク)を上回る状態となる。この状態になると、リング側突部323が本体側突部313を乗り越えて一対の本体側突部313に対する一対のリング側突部323の係合が解除され、外リング32はナット本体31に対し空回りする状態となる。この空回り状態は、筒状部材2に対しナット本体31が所定値のトルクで螺合された状態といえる。そのため、この空回り状態とすることで、筒状部材2に対するナット本体31(手締用トルクナット3)の螺合が完了する。
【0065】
尚、リング側突部323が本体側突部313を乗り越える際に、非形成部対向部321aは、本体側突部313に阻害されることなく、外筒部321の径方向内側に弾性変形する。従って、外筒部321のうちリング側突部323の形成された部位における径方向外側への弾性変形が比較的容易に生じることとなり、ひいては本体側突部313に対するリング側突部323の乗り越えについても比較的容易に生じさせることが可能となる。
【0066】
また、筒状部材2からのナット本体31(手締用トルクナット3)の取外しは、外リング32を取付時とは反対の方向に回転させることで可能である。このように回転させることで、本体側突部313(取外時被係合面313a)にリング側突部323を係合させて、ナット本体31を取付時とは反対の方向に回転させることができる。尚、取外時被係合面313aは螺合時非係合面313bよりも急峻に立ち上がる形状であるため、取外時被係合面313aにリング側突部323が係合した状態では、筒状部材2に対するナット本体31の回転トルクが所定値(最大許容トルク)をある程度上回ったとしても、リング側突部323が本体側突部313を乗り越えることはなく、本体側突部313に対するリング側突部323の係合が維持される。従って、筒状部材2からナット本体31(手締用トルクナット3)をより確実に取外すことができる。
【0067】
以上詳述したように、本実施形態によれば、筒状部材2にナット本体31を螺合する際に、筒状部材2に対するナット本体31の回転トルクが所定値(最大許容トルク)を上回ると、リング側突部323が本体側突部313を乗り越えて本体側突部313に対するリング側突部323の係合が解除され、ナット本体31に回転トルクが伝わらない状態となる。つまり、手締用トルクナット3は、トルクリミッタ機能を具備している。従って、筒状部材2への螺合時に、ナット本体31へと過大な回転トルクが付与されることをより確実に防止できる。
【0068】
また、本体側突部313は、内筒部311の中心軸CLを間に置く位置に一対のみ設けられており、外筒部321における非形成部対向部321aは、リング側突部323が本体側突部313を乗り越える際に、本体側突部313に阻害されることなく、外筒部321の径方向内側に容易に弾性変形可能となっている。そのため、結果的に、リング側突部323が本体側突部313を乗り越える際に、外筒部321が楕円状に弾性変形しやすくなって、外筒部321のうちリング側突部323の形成された部位を外筒部321の径方向外側へと容易に弾性変形可能とすることができる。これにより、本体側突部313に対しリング側突部323が容易に乗り越え可能となるため、前記所定値(最大許容トルク)として比較的小さな値を設定することができる。その結果、手締めにより筒状部材2に対しナット本体31を螺合するとき(通常、ナット本体31の回転トルクが比較的小さなものとなるとき)において、トルクリミッタ機能をより確実に発揮させることができる。
【0069】
さらに、手締用トルクナット3(ナット本体31及び外リング32)の製造時に多少の形状誤差が生じたとしても、外筒部321における弾性変形の生じやすさはほとんど変わらない。そのため、前記所定値(最大許容トルク)をより精度よく(ばらつき少なく)設定することができる。これにより、使用する手締用トルクナット3によって、筒状部材2に対するナット本体31の取付状態にばらつきが生じることをより確実に防止できる。
【0070】
加えて、分離規制手段33によって、ナット本体31及び外リング32の分離(外リング32からのナット本体31の抜け)を規制することができる。従って、手締用トルクナット3の管理(保管など)や手締め作業をより容易に行うことができる。
【0071】
また、分離規制手段33を構成する抜止め部325aは、カバー部325における連結部322とは反対側の端部に設けられている。そのため、座面部312に対し抜止め部325aが適切に係止されているか否かを外部から簡便に確認することができる。これにより、ナット本体31及び外リング32の相対位置関係が不適切な状態のまま手締め作業を行ってしまうことをより確実に防止でき、作業に係る利便性を高めることができる。
【0072】
加えて、カバー部325を設けることによって、座面部312に対するダメージ付与をより確実に防止することができる。
【0073】
併せて、スリットペア324及び窓部322aを設けることによって、外筒部321のうちリング側突部323の形成された部位を外筒部321の径方向外側へとより容易に弾性変形可能とすることができる。従って、前記所定値(最大許容トルク)をより小さな値に設定することが容易に可能となる。これにより、手締めにより筒状部材2に対しナット本体31を螺合するときにおいて、トルクリミッタ機能をより一層確実に発揮させることができる。
【0074】
さらに、把手部326は複数の突起326aにより構成されているところ、各突起326aは、外筒部321の外周のうち、当該外筒部321の周方向において窓部322a及びスリットペア324の形成位置からずれた部位に突出形成されている。つまり、各突起326aは、内向きの力が加えられた場合であっても、その力が外筒部321のうちリング側突部323の形成された部位へと伝わりにくい位置に設けられている。これにより、把手部326を利用して手締め作業を行うときに、作業者の手から加わる力によって、外筒部321のうちリング側突部323の形成された部位の弾性変形が阻害されることを防止できる。その結果、把手部326を設けることによる作業性の向上を図りつつ、トルクリミッタ機能をより確実に発揮させることができる。
【0075】
また、手締め作業において、作業者は手締用トルクナット3の持ち位置を特段気にする必要はなく、単に把手部326を利用しさえすれば、上記作用効果(弾性変形の阻害防止)が発揮されることになる。従って、作業に係る利便性をより向上させることができる。
【0076】
加えて、一対の本体側突部313と同時に係合可能な一対のリング側突部323は、外筒部321の周方向に沿った異なる位置に二組設けられている。従って、仮に一組のリング側突部323が本体側突部313を乗り越えたとしても、その他の(乗り越えの生じていない)組のリング側突部323を本体側突部313に係合させた状態で、筒状部材2に対するナット本体31の螺合を行うことができる。これにより、リング側突部323が本体側突部313を乗り越えてしまった場合であっても、適切な回転トルクをもってナット本体31を螺合することがより確実に可能となる。
【0077】
尚、上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。勿論、以下において例示しない他の応用例、変更例も当然可能である。
【0078】
(a)上記実施形態において、各組のリング側突部323は、それぞれ外筒部321の一端側に設けられており、外筒部321の軸方向に沿った各リング側突部323の形成位置は同一となっている。これに対し、図7に示すように、各組のリング側突部323を、外筒部321の軸方向に沿ってそれぞれ異なる位置に設けてもよい。そして、突条をなす本体側突部313が、外筒部321の軸方向に沿って異なる位置にあるリング側突部323のそれぞれと係合可能となるように構成してもよい。
【0079】
このように構成した場合、本体側突部313のうちリング側突部323が係合される部位は、各組のリング側突部323ごとに異なることとなる。従って、仮に一組のリング側突部323が本体側突部313を乗り越えたとしても、その他の(乗り越えの生じていない)組のリング側突部323を、本体側突部313のうち乗り越えの影響を受けていない部位に係合させた状態で、ナット本体31の螺合を行うことができる。つまり、乗り越えの影響を受けていない部位同士を係合させて、ナット本体31の螺合を行うことができる。これにより、リング側突部323が本体側突部313を乗り越えた後において、再度、筒状部材2に対しナット本体31を螺合しようとする際に、前記所定値(最大許容トルク)を乗り越えが生じる前とほとんど変わらないものとすることができる。これにより、リング側突部323が本体側突部313を乗り越えてしまった場合であっても、適切な回転トルクをもってナット本体31の螺合をより一層確実に行うことができる。
【0080】
尚、上記のように構成する場合には、外筒部321の他端部内周に位置するリング側突部323を間に置く2つのスリット327aからなるスリットペア327を外筒部321に形成し、各スリット327aが外筒部321の他端部にて開口するように構成することが好ましい。また、窓部322aに連通する各スリット324aの長さと、外筒部321の他端部にて開口する各スリット327aの長さとを同一とすることが好ましい。このように構成することで、外筒部321の一端側に設けられたリング側突部323が本体側突部313に係合されている場合と、外筒部321の他端側に設けられたリング側突部323が本体側突部313に係合されている場合とで、本体側突部313に対するリング側突部323の乗り越えやすさがほぼ変わらなくなる。そのため、いずれのリング側突部323が本体側突部313に係合されている場合でも、適切な回転トルクをもって筒状部材2にナット本体31を螺合することができる。
【0081】
(b)上記実施形態では、一対の本体側突部313と同時に係合可能な一対のリング側突部323が二組設けられているが、当該一対のリング側突部323を一組又は三組以上設けてもよい。
【0082】
尚、リング側突部323を三組以上設ける場合、各組のリング側突部323を外筒部321の軸方向における異なる位置にそれぞれ設けてもよい。この場合には、上記(a)と同様、リング側突部323が本体側突部313を乗り越えてしまった場合であっても、適切な回転トルクをもってナット本体31の螺合をより一層確実に行うことが可能となる。
【0083】
(c)上記実施形態において、本体側突部313は、内筒部311の端部から座面部312にかけて連続する突条をなしているが、必ずしも本体側突部を突条とする必要はない。従って、例えば、本体側突部を、リング側突部323の長さ(換言すれば、中心軸CLに沿ったリング側突部323の厚さ)と同程度の長さを有する突起によって構成してもよい。
【0084】
(d)操作装置1の取付対象は、洗面ボウル100に限定されるものではない。従って、例えば、浴槽のフランジ部やキッチンのカウンタなど、洗面ボウル以外の槽体や当該槽体の近傍に位置するものへと操作装置1を取付けることとしてもよい。また、洗面化粧台のバックガードや、浴槽の側方に配置されるエプロンなどに操作装置1を取付けてもよい。尚、バックガードやエプロンは、一般的には鉛直方向に延びる板状をなしているため、操作装置の筒状部材は、水平方向に延びる状態でバックガードやエプロンに取付けられることとなる。
【0085】
(e)上記実施形態において、手締用トルクナット3は、操作装置1に適用されているが、手締用トルクナット3の適用対象は操作装置のみに限定されるものではない。従って、手締用トルクナット3を、水回りに使用されるその他の装置(例えば、吐水口を有する水栓装置や、排水口に対応して設けられる排水栓装置など)に適用してもよい。勿論、水回り以外にて使用される各種装置や各種機器に対し、手締用トルクナット3を適用してもよい。
【符号の説明】
【0086】
1…操作装置、2…筒状部材(締結対象)、3…手締用トルクナット、31…ナット本体、32…外ナット、33…分離規制手段、311…内筒部、312…座面部、313…本体側突部、321…外筒部、321a…非形成部対向部、322…連結部、322a…窓部、323…リング側突部、324…スリットペア、324a…スリット、325…カバー部、325a…抜止め部、326…把手部、326a…突起。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7