(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】診断システム
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20240801BHJP
G01H 1/00 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G01H1/00 Z
(21)【出願番号】P 2020005793
(22)【出願日】2020-01-17
【審査請求日】2022-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】599090763
【氏名又は名称】ハラサワホーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原澤 浩毅
(72)【発明者】
【氏名】朝川 剛
【審査官】岩永 寛道
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-122175(JP,A)
【文献】特開2012-017614(JP,A)
【文献】特開2002-097713(JP,A)
【文献】特開2005-107796(JP,A)
【文献】特開2005-163260(JP,A)
【文献】特開2010-054422(JP,A)
【文献】特開2018-081038(JP,A)
【文献】共同研究成果報告書 木造住宅の耐久性向上に関わる建物外皮の構造・仕様とその評価に関する研究,国総研資料,第975号,日本,国土技術政策総合研究所,2017年06月,第6章1-6頁,<URL: https://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0975pdf/ks0975.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/92
G01H 1/00- 17/00
G01M 13/00- 13/045
G01M 99/00
G08B 21/20
G08B 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木造建物の躯体の周囲に設置された温度センサから得られた前記躯体の周囲の温度データを記憶する温度記憶部と、
前記躯体の周囲に設置された湿度センサから得られた前記躯体の周囲の湿度データを記憶する湿度記憶部と、
前記木造建物の直下の地盤に設置された第1センサで検出された入力振動と、前記木造建物の躯体に設置された第2センサで検出された応答振動と、に基づいて前記木造建物の推定振動モードを推定する振動モード推定部と、
前記温度記憶部に記憶された経時的な前記温度データと、前記湿度記憶部に記憶された経時的な前記湿度データと、前記推定振動モードから算出された前記木造建物の推定剛性と、に基づいて、前記躯体の腐食の有無を推定する腐食推定部と、
を有する診断システム。
【請求項2】
前記腐食推定部は、前記温度データが20℃以上、かつ前記湿度データが80%以上である状態が連続して半年以上の期間続いた場合、又は、前記温度データが20℃以上、かつ前記湿度データが80%以上である状態が半年未満の期間続き、累計で1年以上となった場合に温湿度条件を満たすと判定し、温湿度条件を満たすと判定した時点の6カ月前から6カ月後の1年間において前記木造建物の推定剛性が所定の割合で低下した場合に、前記躯体が腐食していると推定する、請求項1に記載の診断システム。
【請求項3】
前記腐食推定部は、前記温度データが20℃未満、かつ前記湿度データが80%未満である状態が一定期間以上続いた場合、前記累計をリセットする、請求項2に記載の診断システム。
【請求項4】
木造建物の躯体の周囲に設置された温度センサから得られた前記躯体の周囲の温度データを記憶する温度記憶部と、
前記躯体の周囲に設置された湿度センサから得られた前記躯体の周囲の湿度データを記憶する湿度記憶部と、
前記温度記憶部に記憶された経時的な前記温度データと、前記湿度記憶部に記憶された経時的な前記湿度データと、所定値範囲の前記温度データと前記湿度データが連続して続いた期間とに基づいて、前記躯体の腐食の有無を推定する腐食推定部と、
を有し、
前記腐食推定部は、
前記温度データが20℃以上、かつ前記湿度データが80%以上である状態が連続して半年以上の期間続いた場合、又は、前記温度データが20℃以上、かつ前記湿度データが80%以上である状態が半年未満の期間続き、累計で1年以上となった場合に、前記躯体が腐食していると推定し、
前記温度データが20℃未満、かつ前記湿度データが80%未満である状態が一定期間以上続いた場合、前記累計をリセットする、
診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建物の健全性や寿命等を診断する種々の診断システムが提案されている。例えば特許文献1には、風速計や振動計、温湿度計等の計器を用いて、風速や振動、温湿度等の住宅設備の周囲環境を測定し、測定されたデータを解析することによって住宅設備の健全性を診断する住宅解析診断システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示す住宅解析診断システムにおいて、例えば住宅設備の結露発生状況等は、温湿度等を測定することによって容易に推定することができる。しかしながら、木造建物の躯体の腐食の有無や、腐食による躯体の損傷度合等は、具体的な推定方法が確立されていなかった。
【0005】
本発明は、上記事実に鑑み、木造建物の躯体の腐食の有無、又は損傷度合を推定することができる診断システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の診断システムは、木造建物の躯体の周囲に設置された温度センサから得られた前記躯体の周囲の温度データを記憶する温度記憶部と、前記躯体の周囲に設置された湿度センサから得られた前記躯体の周囲の湿度データを記憶する湿度記憶部と、前記温度記憶部に記憶された経時的な前記温度データと、前記湿度記憶部に記憶された経時的な前記湿度データと、に基づいて、前記躯体の腐食の有無を推定する腐食推定部と、を有する。
【0007】
一般的に、木造建物の躯体を腐食させる腐朽菌は、酸素及び栄養素が存在する場合であっても、一定の温度下及び一定の湿度下では繁殖し難い。このため、上記構成によれば、木造建物の躯体の周囲に設置された温度センサ及び湿度センサから、躯体の周囲の経時的な温度データ及び経時的な湿度データを得ることで、この経時的な温度データ及び経時的な湿度データから躯体の腐食の有無を推定することができる。
【0008】
請求項2に記載の診断システムは、請求項1に記載の診断システムであって、前記腐食推定部は、前記温度データが20℃以上、かつ前記湿度データが80%以上である状態が連続して半年以上の期間続いた場合、又は、前記温度データが20℃以上、かつ前記湿度データが80%以上である状態が半年未満の期間続き、累計で1年以上となった場合に、前記躯体が腐食していると推定する。
【0009】
木造建物の躯体を腐食させる腐朽菌は、温度が20度以上、かつ湿度が80%以上の状況下で特に繁殖し易い。このため、上記構成によれば、温度データが20度以上、かつ湿度データが80%以上である状態が、躯体が健全な状態から連続して半年以上続いた場合、又は半年未満続いて累計で1年以上となった場合に、躯体が腐食したと推定することで、経時的な温度データ及び経時的な湿度データから躯体の腐食の有無を推定することができる。
【0010】
請求項3に記載の診断システムは、木造建物の設計情報から、新築時又はリフォーム時の初期振動モードを作成する振動モード作成部と、前記木造建物の直下の地盤に設置された第1センサで検出された入力振動と、前記木造建物の躯体に設置された第2センサで検出された応答振動と、に基づいて前記木造建物の推定振動モードを推定する振動モード推定部と、前記初期振動モードから算出された前記木造建物の初期剛性と、前記推定振動モードから算出された前記木造建物の推定剛性と、を比較して、前記木造建物の損傷度合を推定する損傷度合推定部と、を有する。
【0011】
上記構成によれば、木造建物の設計情報から、新築時又はリフォーム時の初期振動モードを作成する。また、地震、強風、及び交通振動等によって木造建物が揺れた際の地盤からの入力振動を第1センサで検出し、木造建物の応答振動を第2センサで検出することで、木造建物の推定振動モードを推定する。
【0012】
そして、初期振動モードから算出された新築時又はリフォーム時の木造建物の初期剛性と、推定振動モードから算出された現在の木造建物の推定剛性を比較することで、木造建物の損傷度合を推定することができる。
【0013】
なお、本発明において、「設計情報」とは、木造建物の躯体(柱及び梁)の長さ、躯体(柱及び梁)の断面積、構造形式、階数、材質の強度、BIMデータ、及びリフォーム設計図書等の、振動モードを作成することができる情報を指す。また、新築時又はリフォーム時に、木造建物に予め第1センサ及び第2センサが設置されている場合には、新築時又はリフォーム時の第1センサ及び第2センサのセンサデータを「設計情報」として用いてもよい。
【0014】
請求項4に記載の診断システムは、請求項3に記載の診断システムであって、前記損傷度合推定部で推定された前記木造建物の損傷度合は、前記躯体の腐食度合であるとみなす。
【0015】
上記構成によれば、地震、強風、及び交通振動等による木造建物の損傷は、躯体の腐食による木造建物の損傷に比べて無視できる程小さいため、損傷度合推定部で推定された木造建物の損傷度合は躯体の腐食度合であるとみなすことができる。これにより、木造建物の初期剛性と現在の推定剛性とを比較することで、躯体の腐食度合を推定することができる。
【0016】
請求項5に記載の診断システムは、木造建物の躯体の周囲に設置された温度センサから得られた前記躯体の周囲の温度データを記憶する温度記憶部と、前記躯体の周囲に設置された湿度センサから得られた前記躯体の周囲の湿度データを記憶する湿度記憶部と、前記木造建物の直下の地盤に設置された第1センサで検出された入力振動と、前記木造建物の躯体に設置された第2センサで検出された応答振動と、に基づいて前記木造建物の推定振動モードを推定する振動モード推定部と、前記温度記憶部に記憶された経時的な前記温度データと、前記湿度記憶部に記憶された経時的な前記湿度データと、前記推定振動モードから算出された前記木造建物の推定剛性と、に基づいて、前記躯体の腐食の有無を推定する腐食推定部と、を有する。
【0017】
上記構成によれば、温度データ及び湿度データに基づく躯体の腐食の有無の推定と、木造建物の推定剛性に基づく木造建物の損傷度合の推定と、を総合して木造建物の躯体の腐食の有無を推定することができる。これにより、木造建物の躯体の腐食に起因する木造建物の構造劣化を容易に推定することができる。
【0018】
請求項6に記載の診断システムは、請求項5に記載の診断システムであって、前記腐食推定部は、前記温度データが20℃以上、かつ前記湿度データが80%以上である状態が連続して半年以上の期間続いた場合、又は、前記温度データが20℃以上、かつ前記湿度データが80%以上である状態が半年未満の期間続き、累計で1年以上となった場合に温湿度条件を満たすと判定し、温湿度条件を満たすと判定した時点の6カ月前から6カ月後の1年間において前記木造建物の推定剛性が所定の割合で低下した場合に、前記躯体が腐食していると推定する。
【0019】
上記構成によれば、温度データが20度以上、かつ湿度データが80%以上である状態が、躯体が健全な状態から連続して半年以上続いた場合、又は半年未満続いて累計で1年以上となった場合に、躯体が腐食する温湿度条件を満たすと判定する。そして、温湿度条件を満たすと判定した時点の6カ月前から6カ月後の1年間において木造建物の推定剛性が所定の割合で低下した場合に、躯体が腐食していると推定する。これにより、躯体の腐食の有無の推定精度を高めることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る診断システムによれば、木造建物の躯体の腐食の有無、又は損傷度合を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態の一例に係る診断システムを模式的に示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態の一例に係る診断システムについて、
図1を参照して説明する。
【0023】
(全体構成)
図1に示すように、本実施形態の診断システム10は、木造建物12の躯体14の腐食の有無を推定する腐食推定装置16と、木造建物12の損傷度合を推定する損傷度合推定装置18と、を有している。
【0024】
ここで、躯体14の腐食の有無、及び損傷度合の推定対象である木造建物12は、地盤20上に建てられており、一例として2階建てとされている。なお、木造建物12は、2階建てに限らず、平屋や3階建て等であってもよい。また、木造建物12の躯体14は、木造の柱14A及び木造の梁14Bからなる。
【0025】
木造建物12の躯体14の周囲には、温度センサ22及び湿度センサ24がそれぞれ設置されている。温度センサ22は、設けられた位置の温度を所定の時間(例えば1時間)毎に検出し、経時的な温度データとして腐食推定装置16に送信する。同様に、湿度センサ24は、設けられた位置の湿度を所定の時間(例えば1時間)毎に検出し、経時的な湿度データとして腐食推定装置16に送信する。
【0026】
なお、
図1では、温度センサ22及び湿度センサ24は、躯体14としての2階の柱14Aの側面に1個ずつ設置されている。しかし、温度センサ22及び湿度センサ24の設置位置は2階の柱14Aには限らず、木造建物12の躯体14の複数箇所に、複数の温度センサ22及び複数の湿度センサ24をそれぞれ設置することが好ましい。
【0027】
また、木造建物12は、木造建物12の直下の地盤20上に設置された第1センサ26と、木造建物12の躯体14に設置された第2センサ28と、を備えている。本実施形態では、第2センサ28は、一例として2階の梁14B上に設置されているが、柱14Aの側面等に設置されていてもよい。
【0028】
また、第1センサ26は、少なくとも地盤20から木造建物12に入力される入力振動の振動データを取得することができる位置に設置されていればよい。具体的には、例えば木造建物12の基礎上、基礎下、基礎本体、地上階の床下空間、地上階の床上、地上階の床下、土台の上端、土台の側面、土台の下端、床根太の上端、床根太の側面、床根太の下端、地上階の柱下端、地上階の壁下枠部等に第1センサ26を設置することができる。
【0029】
第1センサ26及び第2センサ28は、例えば加速度センサからなり、設けられた位置の振動加速度を木造建物12が振動した際に検出し、センサデータとして損傷度合推定装置18へ送信する。具体的には、地震、強風、及び交通振動等によって木造建物12が揺れた際の地盤20からの入力振動を第1センサ26で検出し、そのときの木造建物12の応答振動を第2センサ28で検出する。
【0030】
(腐食推定装置)
腐食推定装置16は、例えばパーソナルコンピュータ及びサーバコンピュータ等の情報処理装置である。
【0031】
腐食推定装置16は、図示しないCPU(Central Processing Unit)、一時記憶領域としてのメモリ、不揮発性の記憶部、キーボードとマウス等の入力部、液晶ディスプレイ等の表示部、媒体読み書き装置(R/W)、及び通信インタフェース(I/F)部等を備えている。また、腐食推定装置16は、温度記憶部30と、湿度記憶部32と、腐食推定部34と、を有している。
【0032】
温度記憶部30は、木造建物12の躯体14の周囲に設置された温度センサ22から得られた躯体14の周囲の温度データを記憶する。同様に、湿度記憶部32は、木造建物12の躯体14の周囲に設置された湿度センサ24から得られた躯体14の周囲の湿度データを記憶する。
【0033】
また、腐食推定部34は、温度記憶部30に記憶された経時的な温度データと、湿度記憶部32に記憶された経時的な湿度データと、に基づいて、木造建物12の躯体14の腐食の有無を推定する。具体的には、腐食推定部34は、温度センサ22から得られた温度データが20℃以上、かつ湿度センサ24から得られた湿度データが80%以上である状態が連続して半年以上の期間続いた場合に、躯体14が腐食していると推定する。
【0034】
また、腐食推定部34は、温度データが20℃以上、かつ湿度データが80%以上である状態が半年以上の期間続いていない場合であっても、半年未満続いて累計で1年以上となった場合には、躯体14が腐食していると推定(判定)する。
【0035】
そして、腐食推定部34は、躯体14が腐食していると推定(判定)した場合には、判定結果を図示しない表示部に表示したり、インターネットを通じてスマートフォン等に表示したりすることで、木造建物12の居住者に報知する。なお、温度データの上限温度は特に限定されないが、一般的には約40℃が上限とされる。
【0036】
なお、腐食の有無の推定は、温度センサ22及び湿度センサ24を設置する躯体14の状態が健全、すなわち目視による腐食が無く、かつ含水率が20%以下であることが前提となる。このため、温度センサ22及び湿度センサ24の設置時点で躯体14の腐食が進んでいる場合(例えば健全な状態に比べて躯体14の剛性が20%以下の場合)には、腐食部分を交換修理した後で、温度センサ22及び湿度センサ24を設置することが好ましい。
【0037】
(損傷度合推定装置)
損傷度合推定装置18は、例えばパーソナルコンピュータ及びサーバコンピュータ等の情報処理装置である。
【0038】
損傷度合推定装置18は、図示しないCPU(Central Processing Unit)、一時記憶領域としてのメモリ、不揮発性の記憶部、キーボードとマウス等の入力部、液晶ディスプレイ等の表示部、媒体読み書き装置(R/W)、及び通信インタフェース(I/F)部等を備えている。また、損傷度合推定装置18は、振動モード作成部36と、振動モード推定部38と、損傷度合推定部40と、を有している。
【0039】
振動モード作成部36は、損傷度合推定装置18の記録部に記憶されている木造建物12の設計情報42から、木造建物12の新築時又はリフォーム時の初期振動モードを作成する。
【0040】
なお、設計情報42は、木造建物12の躯体14(柱14A及び梁14B)の長さ、躯体14(柱14A及び梁14B)の断面積、構造形式、階数、材質の強度、BIMデータ、リフォーム設計図書、又は第1センサ26、第2センサ28のセンサデータ等の、振動モードを作成することができる情報から適宜選択される。
【0041】
振動モード推定部38は、地盤20上に設置された第1センサ26で検出された入力振動と、木造建物12の躯体14に設置された第2センサ28で検出された応答振動と、に基づいて木造建物12の推定振動モードを推定する。
【0042】
具体的には、振動モード推定部38は、第1センサ26から得られたセンサデータから、木造建物12に入力される入力振動の振動データを取得し、第2センサ28から得られたセンサデータから、木造建物12の応答振動の振動データを取得する。そして、入力振動の振動データ、及び応答振動の振動データを解析することで、木造建物12の推定振動モードを推定する。
【0043】
損傷度合推定部40は、初期振動モードから算出された木造建物12の初期剛性と、推定振動モードから算出された木造建物12の推定剛性と、を比較して、木造建物12の損傷度合を推定する。
【0044】
具体的には、損傷度合推定部40は、振動モード作成部36によって作成された初期振動モードから、木造建物12の初期剛性を算出するとともに、振動モード推定部38によって推定された推定振動モードから、木造建物12の推定剛性を算出する。そして、木造建物12の初期剛性と推定剛性とを比較することで、木造建物12の剛性の変化、すなわち木造建物12の損傷度合を推定する。
【0045】
また、本実施形態では、損傷度合推定部40で推定された木造建物12の損傷度合を、躯体14の腐食度合であるとみなす。すなわち、木造建物12の損傷度合が所定度合(例えば20%)であると推定した場合には、躯体14の腐食度合も所定度合(例えば20%)であると推定する。
【0046】
そして、例えば初期剛性に対して推定剛性が一定割合(例えば20%)低下していた場合、又は、推定剛性が所定期間(例えば1年間)継続して低下していた場合等に、躯体14が腐食(損傷)していると判定する。そして、損傷度合推定部40は、躯体14が腐食(損傷)していると判定した場合には、判定結果を図示しない表示部に表示したり、インターネットを通じてスマートフォン等に表示したりすることで、木造建物12の居住者に報知する。
【0047】
(作用効果)
本実施形態の診断システム10は、腐食推定装置16を有しており、腐食推定装置16は、温度記憶部30と、湿度記憶部32と、腐食推定部34と、を有している。
【0048】
一般的に、木造建物12の躯体14を腐食させる腐朽菌は、酸素及び栄養素が存在する場合であっても、一定の温度下及び一定の湿度下では繁殖し難い。このため、木造建物12の躯体14の周囲に設置された温度センサ22及び湿度センサ24から、躯体14の周囲の経時的な温度データ及び経時的な湿度データを得ることで、この経時的な温度データ及び経時的な湿度データから躯体14の腐食の有無を推定することができる。
【0049】
特に、本実施形態によれば、腐食推定部34は、温度データが20℃以上、かつ湿度データが80%以上である状態が連続して半年以上の期間続いた場合に躯体14が腐食していると推定する。また、温度データが20℃以上、かつ湿度データが80%以上である状態が半年以上の期間続いていない場合であっても、半年未満続いて累計で1年以上となった場合には、躯体14が腐食していると推定する。
【0050】
木造建物12の躯体14を腐食させる腐朽菌は、温度が20度以上、かつ湿度が80%以上の状況下で特に繁殖し易い。このため、温度データが20度以上、かつ湿度データが80%以上である状態が、躯体14が健全な状態から連続して半年以上続いた場合、又は半年未満続いて累計で1年以上となった場合に、躯体14が腐食したと推定することで、経時的な温度データ及び経時的な湿度データから躯体14の腐食の有無を推定することができる。
【0051】
なお、一般的に、腐朽菌が繁殖し易い状況下では、カビやシロアリも繁殖し易い。このため、本実施形態の診断システム10によれば、躯体14の腐食の有無を推定するだけでなく、カビ及びシロアリの発生の有無も推定することができる。すなわち、躯体14が腐食していると推定した場合には、カビ及びシロアリも発生している可能性が高いと推定することができる。
【0052】
また、本実施形態の診断システム10は、損傷度合推定装置18を有しており、損傷度合推定装置18は、振動モード作成部36と、振動モード推定部38と、損傷度合推定部40と、を有している。
【0053】
このため、振動モード作成部36によって木造建物12の初期振動モードを作成するとともに、振動モード推定部38によって木造建物12の推定振動モードを推定し、初期振動モードから算出された新築時又はリフォーム時の木造建物12の初期剛性と、推定振動モードから算出された現在の木造建物12の推定剛性を比較することで、木造建物12の損傷度合を推定することができる。
【0054】
また、木造建物12では、地震、強風、及び交通振動等による木造建物12の損傷は、躯体14の腐食による木造建物12の損傷に比べて無視できる程小さいため、木造建物12の剛性の低下は、躯体14の腐食が要因であるとみなすことができる。このため、本実施形態では、損傷度合推定部40で推定された木造建物12の損傷度合は、躯体14の腐食度合であるとみなすことができ、木造建物12の初期剛性と現在の推定剛性とを比較することで、躯体14の腐食度合を推定することができる。
【0055】
すなわち、本実施形態の診断システム10では、腐食推定装置16によって木造建物12の躯体14の腐食の有無を推定するとともに、損傷度合推定装置18によって躯体14の腐食度合を推定することができる。これにより、腐食推定装置16による推定結果と、損傷度合推定装置18による推定結果の双方の推定結果を比較することで、推定結果の妥当性を確認することができるとともに、推定精度を高めることができる。
【0056】
また、本実施形態では、腐食推定部34は、躯体14が腐食していると判定した場合に、判定結果を図示しない表示部に表示したり、インターネットを通じてスマートフォン等に表示したりする。同様に、損傷度合推定部40は、躯体14が腐食(損傷)していると判定した場合に、判定結果を図示しない表示部に表示したり、インターネットを通じてスマートフォン等に表示したりする。これにより、躯体14が腐食していることを木造建物12の居住者等に報知することができ、居住者は躯体14を交換修理する等の対応をとることができる。
【0057】
(その他の実施形態)
以上、本発明について実施形態の一例を説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能である。
【0058】
例えば、上記実施形態では、腐食推定装置16による木造建物12の躯体14の腐食判定と、損傷度合推定装置18による木造建物12の損傷判定とを、それぞれ別個に行っていた。しかし、木造建物12の躯体14の腐食判定と、木造建物12の損傷判定とを総合して木造建物12の躯体14の腐食判定を行う構成としてもよい。
【0059】
すなわち、温度記憶部30に記憶された経時的な温度データと、湿度記憶部32に記憶された経時的な湿度データと、振動モード推定部38によって推定された推定振動モードから算出された木造建物12の推定剛性と、に基づいて、腐食推定部34によって躯体14の腐食の有無を推定する構成としてもよい。
【0060】
具体的には、腐食推定部34は、温度データが20℃以上、かつ湿度データが80%以上である状態が連続して半年以上の期間続いた場合、又は、温度データが20℃以上、かつ湿度データが80%以上である状態が半年未満の期間続き、累計で1年以上となった場合に、躯体14が腐食する温湿度条件を満たすと判定する。
【0061】
そして、温湿度条件を満たすと判定した時点の6カ月前から6カ月後の1年間において、木造建物12の推定剛性が所定の割合で低下していた場合に、腐食推定部34は、躯体14が腐食していると推定する。ここで、「所定の割合」とは、木造建物12の経年劣化による剛性の低下割合よりも高い割合(例えば20%程度)である。
【0062】
上記の構成とすることで、温度データ及び湿度データに基づく躯体14の腐食の有無の推定と、木造建物12の推定剛性に基づく木造建物12の損傷度合の推定と、によって木造建物12の躯体14の腐食判定を二段階で判定することができる。これにより、木造建物12の躯体14の腐食の有無の推定結果と木造建物12の損傷度合の推定結果とを総合して、躯体14の腐食やシロアリの発生等に起因する木造建物12の構造劣化を容易かつ精度よく推定することができる。
【0063】
また、上記実施形態では、温度データが20度以上、かつ湿度データが80%以上である状態が累計で1年以上となった場合に、躯体14が腐食したと推定していた。しかし、温度データが20度未満、かつ湿度データが80%未満である状態が一定期間(例えば1か月)以上続いた場合には、躯体14の含水率が低下する。このため、温度データが20度未満、かつ湿度データが80%未満である状態が一定期間以上続いた場合に、累計期間をリセットする条件としてもよい。
【0064】
また、上記実施形態では、診断システム10が腐食推定装置16及び損傷度合推定装置18の双方を有していたが、診断システム10が腐食推定装置16又は損傷度合推定装置18のどちらか一方のみを有する構成としてもよい。腐食推定装置16又は損傷度合推定装置18のどちらか一方のみの場合であっても、木造建物12の躯体14の腐食の有無、又は損傷度合の少なくとも一方を推定することができる。
【符号の説明】
【0065】
10 診断システム
12 木造建物
14 躯体
20 地盤
22 温度センサ
24 湿度センサ
26 第1センサ
28 第2センサ
30 温度記憶部
32 湿度記憶部
34 腐食推定部
36 振動モード作成部
38 振動モード推定部
40 損傷度合推定部
42 設計情報