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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】電気化学単セル
(51)【国際特許分類】
   C25B 9/63 20210101AFI20240801BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20240801BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240801BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20240801BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20240801BHJP
   H01M 8/0271 20160101ALI20240801BHJP
【FI】
C25B9/63
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B9/23
H01M8/02
H01M8/0271
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020062101
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021161468
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-02-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2018年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 水素利用等先導研究開発事業/水電解水素製造技術高度化のための基盤技術研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100169236
【弁理士】
【氏名又は名称】藤村 貴史
(72)【発明者】
【氏名】光島 重徳
(72)【発明者】
【氏名】長澤 兼作
(72)【発明者】
【氏名】黒田 義之
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-081952(JP,A)
【文献】実開昭64-038765(JP,U)
【文献】特開2002-302785(JP,A)
【文献】特開平11-097054(JP,A)
【文献】特表2023-520287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-9/77
H01M 8/0271
H01M 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ水電解、固体高分子水電解又は固体高分子形燃料電池の性能評価又は実機に用いられ、膜の一方の面に陰極及び陽極のうちの一方の電極を配置し、前記膜の他方の面に前記陰極及び陽極のうちの他方の電極を配置した膜・電極体の前記一方の電極側に、前記一方の電極用の開口部を有するガスケットと、電極流路プレートと、前記一方の電極用エンドプレートとを順次に配置し、前記膜・電極体の前記他方の電極側に、前記他方の電極用の開口部を有するガスケットと、前記他方の電極用エンドプレートとを順次配置し、締結部材にて前記一方の電極用エンドプレートと前記他方の電極用エンドプレートとに挟まれた前記膜を、前記一方の電極側のガスケット及び前記他方の電極側のガスケットと共に締付け固定する電気化学単セルであって、
前記他方の電極用エンドプレートが前記他方の電極と対向する位置に開口部を有し、前記開口部内に前記他方の電極に向けて押圧可能な電極流路ブロックを、前記他方の電極用エンドプレートとは独立して前記他方の電極に向かう方向に移動可能に配置し、かつ、前記電極流路ブロックに対する圧力調整機構及び圧力計測機構を配置したことを特徴とする電気化学単セル。
【請求項2】
請求項1記載の電気化学単セルにおいて、前記圧力調整機構が圧力調整用ばね及びばね縮み調整用ねじを有し、前記圧力計測機構が前記圧力調整用ばねのばね縮み量を読み取る目盛り付きバーを有することを特徴とする電気化学単セル。
【請求項3】
請求項2に記載の電気化学単セルにおいて、前記ばね縮み調整用ねじを回転させることによって前記圧力調整用ばねの伸縮量を調整し、前記圧力調整用ばねの弾性力を、前記電極流路ブロックを通じて前記電極に加えることで、セルを分解することなく前記膜・電極体にかかる圧力を精密かつ容易に調整することが可能なことを特徴とする電気化学単セル。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の電気化学単セルにおいて、前記電極流路プレート及び前記電極流路ブロックをそれぞれ交換可能な部品とすることで、前記陰極の流路パターン及び前記陽極の流路パターンの少なくとも一方を変更することが可能なことを特徴とする電気化学単セル。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の電気化学単セルにおいて、前記電極流路プレート及び前記電極流路ブロックをそれぞれ交換可能な部品とすることで、前記陰極の流路サイズ及び前記陽極の流路サイズの少なくとも一方を変更することが可能なことを特徴とする電気化学単セル。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の電気化学単セルにおいて、前記膜・電極体の電極サイズを0.5cm×0.5cmから4cm×4cmの範囲の大きさとすることで少量触媒の評価が可能なことを特徴とする電気化学単セル。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の電気化学単セルにおいて、前記電極流路プレート及び前記他方の電極用エンドプレートに参照極が設置され、膜の表面のうち電極が接触している部分とは異なる領域に対し、電解液を介して電気的に接触することにより、陰極電位及び陽極電位を測定することが可能なことを特徴とする電気化学単セル。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の電気化学単セルにおいて、前記電極流路プレートにカーボン素材を、前記他方の電極用エンドプレートにチタン素材を、前記電極流路ブロックに白金メッキしたチタン素材をそれぞれ使用することにより、アルカリ水電解及び固体高分子水電解のいずれかの測定に用いることを特徴とする電気化学単セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ水電解、固体高分子水電解や固体高分子形燃料電池の触媒等の材料性能を電気化学的試験によって評価するのに用いて好適な電気化学単セルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、板状部材が多数重ねられたセル積層体について、両エンドプレートを所定の圧力で均等に押圧して締付ける締付構造(特許文献1参照)や、複数部位に対して独立した締付力を付与可能な構造体を持つ固体高分子水電解セルが知られている(特許文献2参照)。例えば特許文献2の固体高分子水電解セルは、固体高分子電解質膜を用いたセルと、前記セルに積層されるエンドプレートと、前記セルと前記エンドプレートとを含む積層体を挟んで前記積層体に締付力を付与するための第1のフランジ及び第2のフランジ部と、支持部材と、前記支持部材に設けられ、前記第1のフランジ部の中央部の複数部位に対して、それぞれ独立した制御の下に押圧力を付与可能な複数の締付力調整部材とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-97054号公報
【文献】特開2002-302785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のアルカリ水電解、固体高分子水電解及び固体高分子形燃料電池の基本構造である単セルは、電解質膜及びその両面にそれぞれ配置した陽極及び陰極の電極からなるセルと、エンドプレートとが積層された構造となっており、積層による内部抵抗の増加を抑制するために、少なくとも片方のエンドプレートをもう一方のエンドプレート又は中間プレートに対して調整ボルト又は調整ばねによって所定の圧力で締付けて接触性を高め、接触抵抗を低く抑えている。
【0005】
例えば固体高分子形燃料電池において、電極及び集電体面にかかる加圧力の増加は接触抵抗を低く抑えるため性能向上効果を与えるが、同時に拡散層が加圧されることで空隙率が減少し、拡散の低下をもたらすことは性能の低下を引き起こす。
また、二枚のエンドプレートの内側の積層体は、積層面内においてガスケットと対向する領域(以下、「ガスケット面領域」ともいう。)と、隔膜又は電解質膜等の膜、電極、拡散層及び集電体等を有する領域(以下、「電極面領域」ともいう。)とがある。電極面領域への加圧力を高くする設計、すなわちガスケット厚の低減又はガスケット材を弾性変形し易い材料に変更することは、膜、電極、拡散層及び集電体の面内の接触抵抗の低減をもたらすが、同時にガスケットからの液漏れを引き起こすおそれがある。逆にガスケット厚の増加又はガスケット材を弾性変形し難い材料に変更することはガスケットからの液漏れを防止するが、電極面領域への加圧力が低くなり、膜、電極、拡散層及び集電体の面内の接触抵抗が増加し性能低下を引き起こすおそれがある。このためセル設計において性能を最適化するには、ガスケットからの液漏れを防止しつつ、電極面領域にかかる圧力を適切に調整すること、その領域の圧力を正確に把握することが必要である。
【0006】
しかしながら、エンドプレートに対して調整ボルト又は調整ばねによって所定の締結力で締付け、内部の積層体に圧力を付与する従来の構造は、エンドプレートの締結力により、ガスケット面領域と、電極面領域との二面域を同時に加圧するため、電極面領域にかかる圧力を正確に把握することは困難であった。
【0007】
アルカリ水電解や固体高分子水電解でも同様に、セル設計において性能を最適化するには電極にかかる圧力を正確に把握する必要があるところ、従来の構造においては、電極にかかる圧力を正確に把握することは困難であった。
【0008】
本発明は、上記課題に着目してなされたものでアルカリ水電解や固体高分子水電解や固体高分子形燃料電池において、電極に対する圧力を正確に測定し、調整することができる電気化学単セルを提供することを目的とする。このような電気化学単セルの実現により、電気化学単セルにおいて容易に加圧力の最適化を行うことができると共に、性能比較における評価結果の信頼性が向上し、更には標準化された試験装置、試験条件により膜や電極を評価することも可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の電気化学単セルは、膜の一方の面に陰極及び陽極のうちの一方の電極を配置し、前記膜の他方の面に前記陰極及び陽極のうちの他方の電極を配置した膜・電極体の前記一方の電極側に、前記一方の電極用の開口部を有するガスケットと、電極流路プレートと、前記一方の電極用エンドプレートとを順次に配置し、前記膜・電極体の前記他方の電極側に、前記他方の電極用の開口部を有するガスケットと、前記他方の電極用エンドプレートとを順次配置し、締結部材にて前記一方の電極用エンドプレートと前記他方の電極用エンドプレートとに挟まれた前記膜を、前記一方の電極側のガスケット及び前記他方の電極側のガスケットと共に締付け固定する電気化学単セルであって、
前記他方の電極用エンドプレートが前記他方の電極と対向する位置に開口部を有し、前記開口部内に前記他方の電極に向けて押圧可能な電極流路ブロックを、前記他方の電極用エンドプレートとは独立して前記他方の電極に向かう方向に移動可能に配置し、かつ、前記電極流路ブロックに対する圧力調整機構及び圧力計測機構を配置したことを特徴とする。
【0010】
本発明の電気化学単セルにおいて、前記圧力調整機構が圧力調整用ばね及びばね縮み調整用ねじを有し、前記圧力計測機構が前記圧力調整用ばねのばね縮み量を読み取る目盛り付きバーを有することができる。前記ばね縮み調整用ねじを回転させることによって前記圧力調整用ばねの伸縮量を調整し、前記圧力調整用ばねの弾性力を、電極流路ブロックを通じて前記電極に加えることで、セルを分解することなく膜・電極体にかかる圧力を精密かつ容易に調整することが可能である。
また、本発明の電気化学単セルにおいて、前記電極流路プレート及び前記電極流路ブロックをそれぞれ交換可能な部品とすることで、前記陰極の流路パターン及び前記陽極の流路パターンの少なくとも一方を変更することが可能であり、また、前記陰極の流路サイズ及び前記陽極の流路サイズの少なくとも一方を変更することが可能である。
前記膜・電極体の電極サイズは、例えば0.5cm×0.5cmから4cm×4cmの範囲の大きさとすることで少量触媒の評価が可能である。
前記電極流路プレート及び前記他方の電極用エンドプレートは参照極を設置することができる。これにより、膜の表面のうち電極が接触している部分とは異なる領域に対し、電解液を介して電気的に接触することにより、陰極電位及び陽極電位を測定することが可能である。
また、前記電極流路プレートにカーボン素材を、前記他方の電極用エンドプレートにチタン素材を、前記電極流路ブロックに白金メッキしたチタン素材をそれぞれ使用することにより、アルカリ水電解と固体高分子水電解の両電解の測定が可能である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電極に対する圧力を正確に測定し、調整することができる。したがって、電気化学セルにおける膜、電極、拡散層を変更したり、又は集電体の材質、構造、又は形状を変更したりしたときに、膜、電極、拡散層及び集電体への圧力を容易かつ精密に変更することができる。この結果、膜、電極、拡散層、又は集電体の材質、構造、又は形状の変更による性能評価の際、それぞれ別のガスケットを用意することなく、性能比較するときに加圧力の最適化を容易に行うことができ、かつ評価結果の信頼性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1の電気化学単セルを示す全体斜視図である。
図2】実施例1の電気化学単セルを示す分解斜視図である。
図3】実施例1の電気化学単セルにおいて陰極側部品であり交換可能な部品である陰極流路プレートの一例を示す側面図(a)及び正面図(b)である。
図4】実施例1の電気化学単セルにおいて陽極側部品であり交換可能な部品である陰極流路プレートの別の例を示す側面図(a)及び正面図(b)である。
図5】実施例1の電気化学単セルにおいて陰極側部品であり共通部品である陰極エンドプレートの一例を示す側面図(a)及び正面図(b)である。
図6】実施例1の電気化学単セルにおいて陽極側部品であり共通部品である陽極エンドプレートを示す側面図(a)及び正面図(b)である。
図7】実施例1の電気化学単セルにおいて陽極側部品であり交換可能な部品の一例である陽極流路ブロックを示す側面図(a)及び正面図(b)である。
図8】実施例1の電気化学単セルにおいて陽極側部品であり交換可能な部品の一例である陽極流路ブロックを示す側面図(a)及び正面図(b)である。
図9】実施例1の電気化学単セルにおいて圧力調整用部品であり共通部品であるバスバーを示す側面図(a)及び正面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の電気化学単セルの実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0014】
(実施例1)
実施例1の電気化学単セルは、電極に対する圧力をガスケットに対する圧力とは独立して、容易に加えることができる構造を持つ電気化学単セルである。実施例1の電気化学単セルにより、アルカリ水電解、固体高分子水電解の触媒や固体高分子形燃料電池の材料性能等を電気化学試験によって評価することができる。そのために実施例1の電気化学単セルは、膜の一方の面に陰極及び陽極のうちの一方の電極を配置し、前記膜の他方の面に前記陰極及び陽極のうちの他方の電極を配置した膜・電極体の前記一方の電極側に、前記一方の電極用の開口部を有するガスケットと、電極流路プレートと、前記一方の電極用エンドプレートとを順次に配置し、前記膜・電極体の前記他方の電極側に、前記他方の電極用の開口部を有するガスケットと、前記他方の電極用エンドプレートとを順次配置し、締結部材にて前記一方の電極用エンドプレートと前記他方の電極用エンドプレートとに挟まれた前記膜を、前記一方の電極側のガスケット及び前記他方の電極側のガスケットと共に締付け固定する電気化学単セルであって、前記他方の電極用エンドプレートが前記他方の電極と対向する位置に開口部を有し、前記開口部内に前記他方の電極に向けて押圧可能な電極流路ブロックを、前記他方の電極用エンドプレートとは独立して前記他方の電極に向かう方向に移動可能に配置し、かつ、前記電極流路ブロックに対する圧力調整機構及び圧力計測機構を配置したものである。
実施例1の電気化学単セルAについて、以下では、具体例として上記「陰極及び陽極のうちの一方の電極」を「陰極」とし、上記「陰極及び陽極のうちの他方の電極」を「陽極」とし、上記「電極流路プレート」を「陰極流路プレート」とし、上記「一方の電極用エンドプレート」を「陰極エンドプレート」とし、上記「他方の電極用エンドプレート」を「陽極エンドプレート」とし、上記「電極流路ブロック」を「陽極流路ブロック」とした例について述べる。
以下、実施例1の電気化学単セルAの構成を、「全体構成」、「陰極側部品構成」、「陽極側部品構成」「圧力調整用部品」に分けて説明する。
【0015】
[全体構成]
図1は、実施例1の電気化学単セルAを示す全体斜視図であり、図2は、実施例1の電気化学単セルAを示す分解斜視図である。図1図2に示す電気化学単セルAは、膜・電極体1の陽極側に、圧力調整機構及び圧力計測機構を配置している。
【0016】
電気化学単セルAは、図1及び図2に示すように、膜・電極体1と、ガスケット2と、陰極流路プレート3と、陰極エンドプレート4と、陽極エンドプレート5と、陽極流路ブロック6と、バスバー7と、ボアドスルー継手8と、圧力調整用ばね9と、目盛付きバー10と、固定プレート11と、ばね縮み調整用ねじ12と、回転棒13と、セル固定用ボルト14と、セル固定用スペーサ15と、固定プレート固定用ボルト16と、を備えている。
【0017】
これらの構成要素は、図2に示すように、膜・電極体1の電極のうちの陰極1b側は、ガスケット2と、陰極流路プレート3と、陰極エンドプレート4とを順次配置している。また、膜・電極体1の陽極1c側は、膜・電極体1の膜に対向する領域(ガスケット面領域)ではガスケット2と、陽極エンドプレート5とを順次配置し、膜・電極体1の陽極に対向する領域(電極面領域)では陽極流路ブロック6とバスバー7と圧力調整用ばね9と目盛付きバー10とばね縮み調整用ねじ12を順次配置している。陽極流路ブロック6は、陽極エンドプレート5に形成された開口部の内側において陽極に向けて移動可能に配置している。陽極流路ブロック6の外側端部にバスバー7がねじ結合されている。バスバー7はボアドスルー継手8を通して陽極エンドプレート5を貫通している。ボアドスルー継手8は陽極エンドプレート5に固定されている。バスバー7は、ボアドスルー継手8が未締結時は軸線方向に移動可能になっていて、締結後はボアドスルー継手8によって固定される。
陰極エンドプレート4、陰極流路プレート3、ガスケット2、膜・電極体1、ガスケット2、及び陽極エンドプレート5を貫通してセル固定用ボルト14を配置している。セル固定用ボルト14の先端は、棒状のセル固定用スペーサ15と螺合する。セル固定用スペーサ15は、両端がめねじとなっており、セル固定用スペーサ15の一方の端部とセル固定用ボルト14とが螺合することで膜・電極体1とガスケット2と陰極流路プレート3と陰極エンドプレート4と陽極エンドプレート5を締結する。セル固定用スペーサ15の他方の端部近傍には固定プレート11を貫通して配置し、セル固定用スペーサ15のめねじと、固定プレート固定用ボルト16とが螺合することで固定プレート11を固定する。固定プレート11は、バスバー7の軸線方向にねじ穴11aが形成されている。このねじ穴11aにばね縮み調整用ねじ12が螺合され、ばね縮み調整用ねじ12の回動により、ばね縮み調整用ねじ12は軸線方向に移動可能になっている。ばね縮み調整用ねじ12の基端近傍に、ばね縮み調整用ねじ12を正回転又は逆回転に回転させるための回転棒13が取り付けられる。もっとも、ばね縮み調整用ねじ12を回転させる手段は、図示した回転棒に限られない。例えば、ばね縮み調整用ねじ12に歯車を取り付けて、この歯車をモータで駆動してばね縮み調整用ねじ12を回転させるようにしてもよい。ばね縮み調整用ねじ12の先端は、目盛付きバー10の一端と当接している。目盛付きバー10は、バスバー7の一端に形成されたばね格納用穴7b内に格納された圧力調整用ばね9を押圧可能になっている。圧力調整用ばね9の弾性力により、バスバー7及び陽極流路ブロックを介して膜・電極体1の陽極1cに圧力を独立して加えることができる。
【0018】
膜・電極体1は、実施例1では、アルカリ水電解や固体高分子水電解用や固体高分子形燃料電池用の膜・電極体1を有する単セル構造の例を示している。図示した例では四角形の平面形状のイオン交換膜1aの両端面に、電極である陰極1bと陽極1cが設置又は接合されている。膜・電極体1は、イオン交換膜1aの代わりに、多孔質膜に電解質を含侵したイオン電導性の膜を有するものであってもよい。膜・電極体1は、一般に膜・電極接合体又はMEAと呼ばれるものを用いることができるが、膜と電極とが接合されたものに限られず、両者が非接合で接触しているものも含めて膜・電極体1という。また、膜・電極体1は、両電極の外側に拡散層又は集電体が設置されることがある。
電極である陰極1bと陽極1cの縦と横の長さによる電極サイズは様々であり、特に実験、研究に用いられるものでは、例えば、少量サンプルの性能評価を行う小サイズのものや量産に向けた実セルを見通した性能評価を行う大サイズものがある。なお、イオン交換膜1aには、図2に示すように、セル固定用ボルト14を挿通する位置決め用穴1dが開けられている。
【0019】
ガスケット2は同じ構成のものが一対用意される。ガスケット2は、中央部に電極用開口部2aを有し、膜・電極体1を陰極流路プレート3又は陽極流路ブロック6により挟持した状態で締め付け固定したときのガス又は液シール機能を発揮するシール部材である。ガスケット2は、例えば、フッ素ゴムシート等の電気絶縁素材からなる。なお、ガスケット2には、図2に示すように、位置決め用穴2b及び参照極用開口部2cが開けられている。
【0020】
膜・電極体1、ガスケット2、陰極流路プレート3、陰極エンドプレート4、及び陽極エンドプレート5の位置決め用穴1d、2b、3i、4b、5hは、全く同じ位置に開けられ、電気化学単セルAの組み付け時に、絶縁チューブの施されたセル固定用ボルト14を挿通する。また、固定プレート11の位置決め用穴11bは、固定プレート固定用ボルトを挿通する。これにより、膜・電極体1とガスケット2と陰極流路プレート3と陰極エンドプレート4と陽極エンドプレート5と固定プレート11との互いの位置ずれを抑えて適正な位置関係とする位置決めを行うことができる。
【0021】
セル固定用ボルト14と陰極エンドプレート4との間、セル固定用ボルト14と陽極エンドプレート5の間、及び、固定プレート固定用ボルト16と固定プレート11との間は、それぞればね座金、座金、及び絶縁座金が設けられる構成としている。絶縁座金は、例えば、ポリエーテルエーテルケトン素材等の耐薬品性、絶縁性部材からなる。
【0022】
[陰極側部品構成]
図3及び図4は、実施例1の電気化学単セルにおいて陰極側部品であって複数のバリエーションを用意して、相互に交換可能な部品である陰極流路プレート3の一例(図3)及び別の例(図4)を示し、図5は、実施例1の電気化学単セルにおいて陰極側部品であって共通部品である陰極エンドプレート4を示す。
【0023】
陰極流路プレート3は、膜・電極体1の陰極1bに対向して陰極液流路3aが形成され、膜・電極体1の陰極1bに対して電気化学反応に必要な反応基質(アルカリ水電解の場合は電解液、固体高分子水電解の場合は水、固体高分子形燃料電池の場合は燃料極として加湿水素)を送る機能を持つ。また、液充填管3bが陰極流路プレート3に埋設されている。液充填管3bはイオン交換膜1aに対向して参照極用開口部3cを有し、参照極17が、液充填管3bに充填された電解質液を通して、参照極用開口部3cにおいてイオン交換膜1aと電気的に接触する構造を持つ。液充填管3bは参照極用開口部3cまで電解液と周辺部材の間を電気的に絶縁するために、例えばポリエーテルエーテルケトン素材等の耐薬品性、絶縁性部材が用いられる。また陰極流路プレート3は、セル温度管理、計測用の熱電対用穴3d、電流及び電圧の印加、計測用の端子取り付け用穴3eを備えることができる。液充填管3b、参照極17、参照極17用のボアドスルー継手3f、入口継手3g、出口継手3hを除いた、この陰極流路プレート3の材質は、例えば、チタン素材やカーボン等の熱伝導性部材が用いられる。
この陰極流路プレート3の別の例としては、外形寸法(縦、横、高さ寸法)と材質(例えば、カーボン素材等の導電性部材)が同じであって、例えば流路パターンを変更した図4の陰極流路プレート3を用意することができる。なお、陰極流路プレート3には、図3に示すように、セル固定用ボルト14を挿通する位置決め用穴3iが開けられている。
【0024】
陰極エンドプレート4は、ヒーター用穴4aを有した熱伝導部材である。この陰極エンドプレート4は、例えばステンレス材で構成される。なお、陰極エンドプレート4には、図5に示すように、セル固定用ボルト14を挿通する位置決め用穴4bが開けられている。
【0025】
[陽極側部品構成]
図6は、実施例1の電気化学単セルにおいて陽極側部品であり共通部品である陽極エンドプレート5を示し、図7及び図8は、実施例1の電気化学単セルにおいて陽極側部品であり複数のバリエーションを用意して、相互に交換可能な部品である陽極流路ブロック6の一例(図7)及び別の例(図8)を示す。
【0026】
陽極エンドプレート5は、膜・電極体1の陽極1cに対向して開口部5aが形成され、この開口部5a内に陽極流路ブロック6を格納し、膜・電極体1の陽極1cに対して電解に必要な反応基質(アルカリ水電解の場合は電解液、固体高分子水電解の場合は水、固体高分子形燃料電池の場合は酸素極として加湿空気)を送る機能を持つ。また、液充填管5bが陽極エンドプレート5に埋設されている。液充電管5bはイオン交換膜1aに対向して参照極用開口部5cを有し、参照極17が液充電管5bに充填された電解質液を通して、参照極用開口部5cにおいてイオン交換膜と電気的に接触する構造を持つ。液充填管5bは参照極用開口部5cまで電解液と周辺部材の間を電気的に絶縁するために、例えばポリエーテルエーテルケトン素材等の耐薬品性、絶縁性部材が用いられる。また陽極エンドプレート5は、セル加熱用のヒーター用穴5dを備えることができる。液充填管5b、参照極17、参照極17用のボアドスルー継手5e、入口継手5f、出口継手5gを除いた、この陽極エンドプレート5の材質は、例えば、チタン素材やカーボン等の熱伝導性部材が用いられる。なお、陽極エンドプレート5は、図6に示すように、セル固定用ボルト14を挿通する位置決め用穴5hが開けられるとともに、バスバー7を移動可能に挿通したボアドスルー継手8を螺合するためのめねじ5iが開けられている。
【0027】
陽極流路ブロック6は、膜・電極体1の陽極1cに対向して陽極液流路6aを形成するとともに、バスバー7の一端を螺合するためのめねじ6bを形成している。めねじ6bに結合されたバスバー7から伝えられる圧力を膜・電極体1の電極面域に伝える機能を持つ。陽極流路ブロック6は陽極エンドプレート5の開口部5aに格納された状態で膜・電極体1の陽極1cに向けて進退する方向にのみ可動する。
この陽極流路ブロック6の別の例を図8に示す。図8の陽極流路ブロック6は、外形寸法(縦、横、高さ寸法)と材質(例えば、白金メッキしたチタン素材等の電気伝導性、熱伝導性、耐食性部材)が図7の陽極流路ブロック6と同じであって、例えば流路パターンを変更したものを用意することができる。
【0028】
[圧力調整用部品]
図9は、実施例1の電気化学単セルにおいて圧力調整用部品であって共通部品であるバスバー7を示す。
【0029】
棒状のバスバー7は、一端に形成されたおねじ7aが陽極流路ブロック6のめねじ6bと結合し、他端にばね格納用穴7bが形成されており、このばね格納用穴7bに圧力調整用ばね9が格納される。ばね格納用穴7b内で圧力調整用ばね9は、ばね縮み調整用ねじ12の軸線方向の移動により目盛付きバー10を介して圧縮され、その弾性力から得られる圧力を陽極流路ブロック6に伝える。また、バスバー7の端子用穴7cに設置された端子と陽極流路ブロック6との間を通電する機能を持つ。このバスバー7の材質は、例えば、チタン素材等の電気伝導性部材が用いられる。
【0030】
次に、本発明の電気化学単セルの作用効果を、実施例1の電気化学単セルAを具体例として説明する。本発明の電気化学単セルは、アルカリ水電解、固体高分子水電解、固体高分子形燃料電池の材料性能の評価等に用いて好適である。
【0031】
従来から、アルカリ水電解、固体高分子水電解、固体高分子形燃料電池の材料性能は、触媒は回転ディスク電極法による試験によって評価し、又は触媒を含むその他の材料は単セルを用いた電解による試験によって評価することが一般的である。
【0032】
回転ディスク電極法による三電極式試験による触媒評価は、実機に即した燃料電池用触媒評価と異なり、ガス発生反応であり、回転ディスク電極セルの構造上、触媒にガスが滞留するため、精度の高い測定は一般的に難しい。
【0033】
一方、単セルを用いた電解による試験によって評価するにしても、材料開発者が単セルまで設計製作して評価を行うことは困難である。そのため、試験研究用の単セルがいくつか販売使用されている。
【0034】
しかし、従来の試験研究用の単セルは、組み立てて電解評価を行うことには技術を要していた。また、セル組み技術の差による性能差が生じることがあり、従来の単セルを用いて材料を評価するときに、同じ材料であっても評価者ごとに性能が異なることが多く、ましてや異なる材料開発者間で性能を比較することは困難であった。それゆえ適切な材料評価が困難であった。
【0035】
従来の単セルにおいて、測定された絶対性能が試験ごとに、または評価者ごとに異なる大きな要因の一つが膜、電極、拡散層、集電体等にかかる圧力の制御が困難であることであった。これは単セルのエンドプレートをボルト及びナットで締結した圧力がセパレータに挟まれている電極とガスケットの両方にかかるため、電極にかかる圧力を精度良く知ることは難しいためである。また、圧力の調整もエンドプレートをボルト及びナットで締結する締結トルクの管理とその調整によって行われることから、精密に調整することが難しかった。
【0036】
また、電極にかかる圧力を制御し性能の最適化を行うことが材料開発の上で必要となるが、電極にかかる圧力はガスケットの厚さ、弾性、面積と膜、電極、拡散層、集電体等の厚さ、弾性、面積に影響される。更にガスケットのシール性も確保する必要も生じることから電極にかかる圧力を精度よく制御することは困難であった。
【0037】
一方、試作レベルの新規触媒等では、作製できるサンプル量が非常に少量であるため、例えば1cm角程度の小面積の触媒層しか作製できない場合がある。この場合、セルのハンドリングを考慮するとセル本体はある程度の大きさ(例えば5~10cm角程度)が必要となる。この設計では必然的に電極面積に対するガスケット面積の比率が大きくなり、ボルト及びナットで締結した圧力のほとんどがガスケットにかかってしまう。この為に電極面への加圧制御の困難さは電極小面積化することで更に増加する。
【0038】
これに対して、本発明の電気化学単セルでは、図面を用いて説明した電気化学単セルAのように陽極側において、電極面領域に接する部材を陽極流路ブロック6とし、ガスケット面領域に接する部材を陽極エンドプレート5として、それぞれ独立した別部品としている。陽極流路ブロック6をセル外部からバスバー7を介して圧力調整用ばね9の弾性により加圧することで、膜、電極、拡散層、集電体等にかかる圧力を精密に制御することが可能な構造を採用した。
【0039】
上記構造を採用した電気化学単セルAによって以下の作用効果が得られる。
・ガスケット2の厚さ、弾性、面積の影響及び膜・電極体1、拡散層、集電体等の厚さ、弾性、面積及びセル固定用ボルト14とセル固定用スペーサ15の螺合による電気化学セルの締結圧に影響されることなく膜・電極体1、拡散層、集電体等にかかる圧力を精密に制御できる。このため、ガスケット材料、形状の選定やセル締結圧の調整により、電極にかかる圧力を制御する時間が大幅に短縮される。
・電極面への圧力を段階的に変更し、電解性能を最適化する評価試験において、電気化学セルを分解することなく、実験中に容易かつ精度よく変更することができる。
・本電気化学単セルAのセル固定用ボルト14とセル固定用スペーサ15によるセル締結はガスケット2からの液漏れを防ぐことのみに注意すれば良いため、従来の電気化学セルで求められるセル締結の際の厳重な締結トルク管理が不要となる。
・評価者間のセル組み技術の差による性能差が極めて低く抑えられるため、材料開発者間で統一した基準での材料性能比較ができる。
【0040】
本発明の電気化学単セルの使用方法の一例として、触媒等の材料性能を評価する電気化学試験について、電気化学単セルの組み立て方法を含めて以下説明する。
膜・電極体1、拡散層、集電体等の性能を評価するために電気化学試験が実施される。この電気化学試験において、試作レベルの新規触媒等でサンプル量が非常に少量である場合には、電極サイズが小さい(例えば1cm角)電解セルを使用する。サンプル量が大量である場合であっても、電極サイズを例えば1cm角と標準化して、サンプル量が非常に少量である場合の電極サイズと統一することにより、標準化された試験を実施することができ、各サンプル同士の性能比較を容易に行うことができるようになる。電極サイズは1cm角のものに限られず、例えば0.5cm×0.5cmから4cm×4cmの範囲の大きさとすることができる。電極の平面形状は正方形に限られず、一辺が0.5~4.0cmの範囲の長方形とすることもできる。
【0041】
膜・電極体1のサイズに応じた最適なガスケット2、陰極流路プレート3、陽極エンドプレート5、陽極流路ブロック6、試験条件に応じた圧力調整用ばね9が選択される。そして、共通部品である陰極エンドプレート4、バスバー7、ボアドスルー継手8、目盛付きバー10、固定プレート11、ばね縮み調整用ねじ12、回転棒13、セル固定用ボルト14、セル固定用スペーサ15、固定プレート固定用ボルト16、参照極17と、用意された膜・電極体1、拡散層、集電体等と選択したガスケット2、陰極流路プレート3、陽極エンドプレート5、陽極流路ブロック6、圧力調整用ばね9とを組み合わせることで、電気化学単セルAが構成される。
【0042】
ボアドスルー継手8、ばね縮み調整用ねじ12、セル固定用ボルト14、セル固定用スペーサ15、固定プレート固定用ボルト16及び参照極17は市販の規格品を使用することが可能である。また、陰極流路プレート3の構成部材であるボアドスルー継手3f、入口継手3g、出口継手3hや、陽極エンドプレート5の構成部材であるボアドスルー継手5e、入口継手5f、出口継手5gもまた、市販の規格品を使用することが可能である。
【0043】
所定の膜・電極体1、ガスケット2、陰極流路プレート3、陰極エンドプレート4、陽極流路ブロック6を並べ置き、陽極流路ブロック6のめねじ6bにバスバー7のおねじ7aを螺合して陽極流路ブロック6を陽極エンドプレート5の開口部5aに挿入する。上記膜・電極体1、ガスケット2、陰極流路プレート3、陰極エンドプレート4及び陽極エンドプレート5のそれぞれの位置決め用穴1d、位置決め用穴2b、位置決め用穴3i、位置決め用穴4b、位置決め用穴5hにセル固定用ボルト14とセル固定用スペーサ15を螺合することでセルを締結する。この時セルの短絡を防止するため、セル固定用ボルト14のねじ部には絶縁チューブ、両端には絶縁ブッシュが取り付けられる。セル固定用ボルト14とセル固定用スペーサ15の締結トルクは厳密な最適化は不要であり、ガスケット2のシール性を確保する適切な値で良い。
【0044】
陽極エンドプレート5のめねじ5iとボアドスルー継手8を締結し、バスバー7とボアドスルー継手8は最初は未締結としてボアドスルー継手8内でバスバー7が軸線方向に移動可能にしておく。バスバー7のばね格納用穴7b内に圧力調整用ばね9、目盛り付きバー10の順に設置する。固定プレート11の位置決め用穴11baを通してセル固定用スペーサ15と固定プレート固定用ボルト16とを螺合することで締結する。ばね縮み調整用ねじ12を固定プレート11のねじ穴11aに取り付け、ばね縮み調整用ねじ12の回転棒用穴12aに回転棒13を取り付ける。
【0045】
回転棒13を用いてばね縮み調整用ねじ12を正回転させることで目盛り付きバー10が移動し、圧力調整用ばね9が圧縮し、ばね縮み調整用ねじ12を逆回転させることで目盛り付きバー10が移動し、圧力調整用ばね9が伸長する。この圧力調整用ばね9の弾性力がバスバー7、陽極流路ブロック6を経由して、膜・電極体1の陰極1b及び陽極1c及びイオン交換膜1aの電極面領域、拡散層、集電体等に圧力をかける。目盛り付きバー10には目盛りが付けられており、圧力調整用ばね9の自然長時と縮み時の目盛り付きバー10の位置から圧力調整用ばね9の縮み長さを求める。この長さと圧力調整用ばね9の弾性係数から容易に圧力を求めることができるとともに、ばね縮み調整用ねじ12を回転させて目盛り付きバー10を微小移動させることで、圧力の精密制御が可能である。
【0046】
所定の圧力に設定した後、バスバー7とボアドスルー継手8を締結する。
【0047】
図1に示す電気化学単セルAの組立て状態において、所定のセル温度で膜・電極体1の陰極1bと陽極1cに対して電解に必要な反応基質をそれぞれ送ることで電気化学試験が行われる。
【0048】
セル温度は陰極エンドプレート4のヒーター用穴4aと陽極エンドプレート5のヒーター用穴5dに設置されたロッドヒーターでセルを加熱し、陰極流路プレート3の熱電対用穴3dに設置された熱電対で温度計測及び制御を行う。熱電対の先端は陰極流路プレート3の陰極液流路3aの中心部近くに設置されるため、膜・電極体1の陰極1b及び陽極1c、拡散層、集電体等の温度に近い値を測定することができる。これは評価材料の実際の温度と設定したセル温度の間の乖離を最小限に抑え、実験精度が向上する効果を持つ。
【0049】
陰極側においては図3陰極流路プレート3において、供給された液が入口継手3g→入口管3j→入口マニホールド3kを経由して陰極液流路3a及び膜・電極体1の陰極1bに流れ込む。そして出口マニホールド3l→出口管3m→出口継手3hを経由して水素ガスと液が排出される。一方、ボアドスルー継手3fによって固定された参照極17は液充填管3bで充填された電解質液と接触している。電解質液は参照極用開口部3cを経由してガスケット2の参照極用開口部2cまで充填され、イオン交換膜と電気的に接触しているため、参照極17と端子取り付け用穴3eに接続した端子の間で陰極電位を測定することができる。
【0050】
陽極側においては図6の陽極エンドプレート5の開口部5aに図7の陽極流路ブロック6が挿入されており、図6の陽極エンドプレート5において、供給された液が入口継手5f→入口管5j→入口マニホールド5kを経由して図7に示す陽極液流路6a及び膜・電極体1の陽極1cに流れ込む。そして出口マニホールド5l→出口管5m→出口継手5gを経由して酸素ガスと液が排出される。一方、ボアドスルー継手5eによって固定された参照極17は液充填管5bで充填された電解質液と接触している。電解質液は参照極用開口部5cを経由してガスケット2の参照極用開口部2cまで充填され、イオン交換膜と電気的に接触している為、参照極17とバスバー7の端子用穴7cに接続した端子の間で陽極電位を測定することができる。
【0051】
セル全体の性能は陰極流路プレート3の端子取り付け用穴3eに取り付けられた端子とバスバー7の端子用穴7cに取り付けられた端子間で測定する。測定時にはセルを分解することなくばね縮み調整用ねじ12及び回転棒13を回転させることで膜・電極体1、拡散層、集電体等にかかる圧力を精密かつ容易に制御することができる。
【0052】
以上、本発明の電気化学単セルを実施例1に基づき説明してきた。しかし、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0053】
例えば、実施例1では、陰極流路プレート3、陽極流路ブロック6として、平行流路の場合(図3図7参照)と、流路なしの場合(図4図8参照)の2種類の流路パターンを用意している例を示した。しかし、陰極流路プレート3、陽極流路ブロック6の流路としては、この二種類に限られたものではなく目的に応じてサーペンタイン流路や櫛型流路等を用意しても良い。
【0054】
実施例1では、電気化学単セルとして、アルカリ水電解、固体高分子水電解、固体高分子形燃料電池の触媒等の材料性能を電気化学試験によって評価する電気化学単セルAの例を示した。しかし、本発明において開示した電気化学解単セルの構成を、実機における電気化学単セルの構成や技術思想として流用する例であっても良い。
【0055】
実施例1では、圧力調整機構は圧力調整用ばね9とばね縮み調整用ねじ12とを含むものであるが、圧力調整機構は、圧力調整用ばね9とばね縮み調整用ねじ12を含むものに限られない。陽極流路ブロック6及びバスバー7を直線的に移動可能な手段であればよく、例えば、リニアアクチュエータ等を圧力調整機構に用いることができる。もっとも、実施例1に示した圧力調整機構は、シンプルで機械的な構造により安価で故障の少ない圧力調整を実現することができる。
また、圧力計測機構は、圧力調整用ばね9に組み合わされた目盛付きバー10を含むものであるが、この目盛付きバー10を含むものに限られない。例えば、圧力調整用ばね9の変位量(圧縮量)を計測することができるセンサであってもよい。また、バスバー7に取り付けられたロードセルであってもよい。もっとも、実施例1に示した圧力計測機構は、シンプルで機械的な構造により安価で故障の少ない圧力計測調整を実現することができる。
【0056】
また、以上述べた実施例1では、電気化学単セルAは、膜・電極体1の陽極側に、圧力調整機構及び圧力計測機構を配置した例を示したが、圧力調整機構及び圧力計測機構は、膜・電極体1の陰極側に配置してもよい。この場合の電気化学単セルの構成は、膜の一方の面に電極のうちの陽極を配置し、前記膜の他方の面に前記電極のうちの陰極を配置した膜・電極体の前記陽極側に、前記陽極用の開口部を有するガスケットと、陽極流路プレートと、陽極エンドプレートとを順次に配置し、前記膜・電極体の前記陰極側に、前記陰極用の開口部を有するガスケットと、陰極エンドプレートとを順次配置し、締結部材にて前記陽極エンドプレートと前記陰極エンドプレートとに挟まれた前記膜を、前記陽極側のガスケット及び前記陰極側のガスケットと共に締付け固定する電気化学単セルであって、前記陰極エンドプレートが前記陰極と対向する位置に開口部を有し、前記開口部内に前記陰極に向けて押圧可能な陰極流路ブロックを、前記陰極用エンドプレートとは独立して前記陰極に向かう方向に移動可能に配置し、かつ、前記陰極流路ブロックに対する圧力調整機構及び圧力計測機構を配置している。すなわち、本発明の電気化学単セルにおいて、具体例として上記「陰極及び陽極のうちの一方の電極」を「陽極」とし、上記「陰極及び陽極のうちの他方の電極」を「陰極」とし、上記「電極流路プレート」を「陽極流路プレート」とし、上記「一方の電極用エンドプレート」を「陽極エンドプレート」とし、上記「他方の電極用エンドプレート」を「陰極エンドプレート」とし、上記「電極流路ブロック」を「陰極流路ブロック」とした構成とすることができる。この構成においても、図1図2を用いて先に述べた構成と同様の効果を有している。
【符号の説明】
【0057】
A 電気化学単セル
1 膜・電極体
1a イオン交換膜(多孔質膜)
1b 陰極
1c 陽極
1d 位置決め用穴
2 ガスケット
2a 電極用開口部
2b 位置決め用穴
2c 参照極用開口部
3 陰極流路プレート
3a 陰極液流路
3b 液充填管
3c 参照極用開口部
3d 熱電対用穴
3e 端子取り付け用穴
3f ボアドスルー継手
3g 入口継手
3h 出口継手
3i 位置決め用穴
3j 入口管
3k 入口マニホールド
3l 出口マニホールド
3m 出口管
4 陰極エンドプレート
4a ヒーター用穴
4b 位置決め用穴
5 陽極エンドプレート
5a 開口部
5b 液充填管
5c 参照極用開口部
5d ヒーター用穴
5e ボアドスルー継手
5f 入口継手
5g 出口継手
5h 位置決め用穴
5i めねじ
5j 入口管
5k 入口マニホールド
5l 出口マニホールド
5m 出口管
6 陽極流路ブロック
6a 陽極液流路
6b めねじ
7 バスバー
7a おねじ
7b ばね格納用穴
7c 端子用穴
8 ボアドスルー継手
9 圧力調整用ばね
10 目盛付きバー
11 固定プレート
11a ねじ穴
11b 位置決め用穴
12 ばね縮み調整用ねじ
12a 回転棒用穴
13 回転棒
14 セル固定用ボルト
15 セル固定用スペーサ
16 固定プレート固定用ボルト
17 参照極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9