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特許7530683ホイップドクリームの製造方法及びホイップドクリーム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】ホイップドクリームの製造方法及びホイップドクリーム
(51)【国際特許分類】
   A23L 9/20 20160101AFI20240801BHJP
   A23L 21/25 20160101ALN20240801BHJP
【FI】
A23L9/20
A23L21/25
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023183040
(22)【出願日】2023-10-25
(65)【公開番号】P2024079582
(43)【公開日】2024-06-11
【審査請求日】2023-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2022191224
(32)【優先日】2022-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】399084753
【氏名又は名称】日新蜂蜜株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140671
【弁理士】
【氏名又は名称】大矢 正代
(72)【発明者】
【氏名】岸野 逸人
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 恵已
(72)【発明者】
【氏名】澤山 侑季
【審査官】長谷川 莉慧霞
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-077253(JP,A)
【文献】米国特許第02052358(US,A)
【文献】特開2004-105179(JP,A)
【文献】特開平02-042943(JP,A)
【文献】ハチミツでホイップクリーム♪,クックパッド[online],2015年03月02日,<URL: https://cookpad.com/recipe/3043955>,[検索日:2024/1/18]
【文献】幸せの味 ハニーホイップロール,DELISH KITCHEN[online],2021年04月13日,<URL: https://delishkitchen.tv/recipes/222743210953277752>,WEBアーカイブ、[検索日:2024/1/18]
【文献】蜂蜜入りホイップクリームレシピ・作り方,楽天レシピ[online],2021年11月04日,<URL: https://recipe.rakuten.co.jp/recipe/1480021063/>,[検索日:2024/1/18]
【文献】香川芳子,七訂 食品成分表2016,2016年04月01日,第184頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蜂蜜、単離精製された乳清蛋白質、及び水を含有する混合溶液を、常温にて空気を含ませるように撹拌することにより、嵩を撹拌前の1.5倍以上とするものであり、
前記混合溶液において、蜂蜜及び前記乳清蛋白質に由来する固形分濃度を57.4質量%~76.7質量%とすると共に、蜂蜜の固形分100重量部に対する前記乳清蛋白質の割合を1.3重量部~32.3重量部とし、且つ、
前記混合溶液における蜂蜜の固形分の割合を、43.4質量%~75.7質量%とする
ことを特徴とするホイップドクリームの製造方法。
【請求項2】
前記混合溶液において、蜂蜜及び前記乳清蛋白質に由来する固形分濃度を67.0質量%~76.7質量%とす
とを特徴とする請求項1に記載のホイップドクリームの製造方法。
【請求項3】
前記混合溶液における蜂蜜の固形分の割合を、65.0質量%~75.7質量%とする
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のホイップドクリームの製造方法。
【請求項4】
前記混合溶液には、油脂を添加しない
ことを特徴とする請求項1または請求項に記載のホイップドクリームの製造方法。
【請求項5】
蜂蜜、単離精製された乳清蛋白質、及び水を含有し、
蜂蜜及び前記乳清蛋白質に由来する固形分濃度が57.4質量%~76.7質量%であると共に、蜂蜜の固形分100重量部に対する前記乳清蛋白質の割合が1.3重量部~32.3重量部であり、且つ、
蜂蜜の固形分の割合が、43.4質量%~75.7質量%である
ことを特徴とするホイップドクリーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイップドクリームの製造方法、及び、該製造方法により製造されるホイップドクリームに関するものである。
【背景技術】
【0002】
蜂蜜は、約8割が糖質からなりエネルギー源として優れていることに加え、種々のアミノ酸、ビタミン、ミネラルを含有する栄養成分であり、旧来より人の生活に馴染みが深い物質である。通常、蜂蜜は、そのままの状態で食品や飲料に添加されたり、甘味料として使用されたりしているが、本出願人はこれまでも、蜂蜜の旧来の使用態様を超えた新規な製品について提案を行っている(例えば、特許文献1,2を参照)。
【0003】
特許文献1は、ハーブエキスを添加・混合した蜂蜜を減圧濃縮する技術に関するものであり、飲料やアイスクリーム等の各種の菓子や料理に配合することにより、ハーブ特有の苦みや渋みを低減しつつ、ハーブと蜂蜜双方の栄養成分を摂取することができる。
【0004】
特許文献2は、蜂蜜由来の蛋白質または蛋白質加水分解物を使用した化粧料に関するものである。この化粧料は、従来では、蜂蜜の透明度を低下させる等の理由から蜂蜜から除去され、廃棄の対象となっていた成分を、化粧料の成分として有効活用しているものであり、コラーゲンの産生を促進する作用や保湿作用等に優れている。
【0005】
本出願人は、その後も蜂蜜を原料とする新規な製品を提供すべく開発・研究を進めているが、その過程で、蜂蜜を起泡したホイップドクリームを製造することを想到した。
【0006】
蜂蜜またはその水溶液をそのまま撹拌するだけでは起泡させることはできず、これまで、蜂蜜を主原料とするホイップドクリームの製造に関する提案はなされていない。蜂蜜と同様に糖分の多い原料を起泡させる提案としては、フルーツソースやジャムに、グルテン加水分解物と、寒天やアルギン酸ナトリウム等からなる糊料を添加して起泡させるというものがある(特許文献3を参照)。しかしながら、この提案によれば、グルテン加水分解物と糊料との双方を添加しなければ、保存性のよい泡とすることができないため、原料組成が複雑である。また、この提案では、フルーツソースやジャムにグルテン加水分解物及び糊料を添加した混合物を、90℃まで加熱して撹拌した後、更に常温まで冷却してから撹拌により起泡させるため、製造にも手間がかかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-189956号公報
【文献】特開2006-290844号公報
【文献】特開平7-79758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、上記実情に鑑み、蜂蜜を主原料とするホイップドクリームを、簡易に製造することができるホイップドクリームの製造方法、及び、該製造方法により製造されるホイップドクリームの提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明にかかるホイップドクリームの製造方法は、
「蜂蜜、乳清蛋白質、及び水を含有する混合溶液を、常温にて空気を含ませるように撹拌することにより、嵩を撹拌前の1.5倍以上とする」ものである。
【0010】
従来、蜂蜜を泡立ててホイップドクリームにするという発想はなかった。また、蜂蜜に水を加えただけでは、泡立てようとしても泡立たせることはできない。本発明者らは、多種の成分について検討した結果、蜂蜜及び水に、乳清蛋白質を加えることにより、泡立てることが可能となり、嵩を撹拌前の1.5倍以上とできることを見出した。
【0011】
従って、本製造方法によれば、蜂蜜の水溶液に、乳清蛋白質という一種類の物質を添加するのみで、しかも常温にて空気を含ませるように撹拌するだけで、非常に簡易に、蜂蜜を主成分とするホイップドクリームを製造することができる。
【0012】
また、本発明で製造されるホイップドクリームを菓子などの食品に載せたり挟んだり、或いは、飲料に浮かべることにより、新規な飲食料品を提供することができ、蜂蜜の新規な用途を創出することができる。また、蜂蜜は、保湿作用や抗菌作用など、肌によい作用を有する成分も含んでいるため、本発明で製造されるホイップドクリームを化粧料に用いることもできる。
【0013】
蜂蜜は粘性の高い流動体であり、容器に入れるときも容器から出すときも、垂れ落ちやすく扱いにくい。これに対し、ホイップドクリームとなった蜂蜜は垂れ落ちにくいため、扱いやすい利点がある。
【0014】
本発明にかかるホイップドクリームの製造方法は、上記構成に加え、
「前記混合溶液において、蜂蜜及び乳清蛋白質に由来する固形分濃度を57.4質量%~76.7質量%とすると共に、蜂蜜の固形分100重量部に対する乳清蛋白質の割合を1.3重量部~32.3重量部とする」ものであり、且つ、「前記混合溶液における蜂蜜の固形分の割合を、43.4質量%~75.7質量%とする」ものである。
【0015】
蜂蜜及び乳清蛋白質に由来する固形分濃度(以下、「総固形分濃度」と称することがある)は、蜂蜜、乳清蛋白質、及び水を混合した混合溶液における可溶性固形分の割合(質量%)である。すなわち、総固形分濃度は、蜂蜜の固形分と乳清蛋白質を合わせた固形分の混合溶液における割合(質量%)であって、Brix値と同義である。
【0016】
詳細は後述するように、検討の結果、総固形分濃度が小さくなるほど、すなわち混合溶液における水の割合が大きくなるほど、嵩の増加倍率(撹拌により嵩が撹拌前の何倍になったか)は高くなる一方で、総固形分濃度が高いほど、泡から蜂蜜が分離することなく保存できる期間が長く、泡の保存性が良好であることが判明した。ホイップドクリームとしては、嵩の増加倍率が高く、泡の保存性が良好であることが望ましい。また、乳清蛋白質の添加量が増加すると、食感に悪影響を及ぼすことも分かった。詳細は後述するように、蜂蜜、乳清蛋白質、及び水を混合した混合溶液における総固形分濃度、及び蜂蜜の固形分100重量部に対する乳清蛋白質の割合を、上記の範囲とすることにより、嵩の増加倍率が1.5倍以上であって、泡の保存性が良好であり、且つ、食感が良好なホイップドクリームを製造することができる。
【0017】
本発明にかかるホイップドクリームの製造方法は、上記構成に加え、
「前記混合溶液において、蜂蜜及び乳清蛋白質に由来する固形分濃度を67.0質量%~76.7質量%とする」ものとすることができる。
【0018】
詳細は後述するように、混合溶液における総固形分濃度を、上記の範囲とすることにより、泡の保存性がより良好なホイップドクリームを製造することができる。
【0019】
本発明にかかるホイップドクリームの製造方法は、上記構成に加え、
「前記混合溶液には、油脂を添加しない」ものとすることができる。
【0020】
通常のホイップドクリームは、乳製品である生クリームを原料としており、脂肪分30%以上がホイップに適していると言われている。また、乳製品ではない原料を泡立てたクリーム代替品も、植物性油脂などを原料としている。そのため、従来のホイップドクリーム、或いはクリーム代替品は、脂肪の含有率が高い。これに対し、本発明のホイップドクリームの製造方法では、原料である混合溶液に油脂を添加していないため、従来のホイップドクリームやクリーム代替品よりカロリーが低く、脂肪の含有率の高い食品の摂取を控えたい需要者の要請にかなっている。
【0021】
次に、本発明にかかるホイップドクリームは、
「蜂蜜、単離精製された乳清蛋白質、及び水を含有し、
蜂蜜及び前記乳清蛋白質に由来する固形分濃度が57.4質量%~76.7質量%であると共に、蜂蜜の固形分100重量部に対する前記乳清蛋白質の割合が1.3重量部~32.3重量部であり、且つ、
蜂蜜の固形分の割合が、43.4質量%~75.7質量%である」ものである。
【0022】
これは、上記の製造方法によって製造されるホイップドクリームの構成である。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明によれば、蜂蜜を主原料とするホイップドクリームを、簡易に製造することができるホイップドクリームの製造方法、及び、該製造方法により製造されるホイップドクリームを、提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】総固形分濃度に対して、嵩の増加倍率をプロットしたグラフである。
図2】蜂蜜の固形分100重量部に対する乳清蛋白質の割合に対して、嵩の増加倍率をプロットしたグラフである。
図3】総固形分濃度に対して、蜂蜜の固形分100重量部に対する乳清蛋白質の割合をプロットしたグラフである。
図4図3において蜂蜜の固形分100重量部に対する乳清蛋白質の割合が10重量部以下となる部分を、拡大したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態であるホイップドクリームの製造方法、及び、この製造方法により製造されるホイップドクリームについて説明する。
【0026】
本実施形態のホイップドクリームの製造方法は、蜂蜜、乳清蛋白質、及び水を混合した混合溶液を、常温で、空気を含ませるように撹拌する(泡立てる)ものである。この撹拌により起泡し、嵩(体積)が増加する。
【0027】
ここで、乳清(ホエイ、ホエー)はチーズを製造する際に、凝固した乳成分を乳から取り除いた後に残る液である。乳清蛋白質は、乳清から単離される球状蛋白質の混合物であり、ラクトアルブミン、ラクトグロブリン等を含んでいる。
【0028】
通常、生クリームをホイップする際、或いは、植物性油脂を泡立てて代替クリームとする際には、泡立てる操作を低温で行う必要がある。これに対し、本実施形態では、常温で撹拌しても起泡しやすく、簡易な操作でホイップドクリームとすることができる。なお、本実施形態では、ホイップドクリームの原料である混合溶液に、油脂を添加しない。
【0029】
このような製造方法により製造されるホイップドクリームは、蜂蜜を主成分とするものであり、蜂蜜に加えて乳清蛋白質、及び水を含有している。
【実施例
【0030】
蜂蜜の固形分100重量部に対する乳清蛋白質の割合を7.6重量部と一定にし、総固形分濃度(蜂蜜及び乳清蛋白質に由来する固形分濃度)を変化させた試料S-1~S-3、及び、総固形分濃度を約71質量%と一定とし、蜂蜜の固形分100重量部に対する乳清蛋白質の割合を変化させた試料S-4~S-6について、混合溶液を常温で撹拌した。
【0031】
蜂蜜としては、ハンガリー産蜂蜜(固形分含有率79.2質量%)を使用した。乳清蛋白質としては、ザクセンミルヒ社製の乳清蛋白質粉末(商品名「German Prot WPI」)を使用した。
【0032】
試料S-1~S-6について、撹拌前の比重と撹拌後の比重を測定し、撹拌による嵩の増加倍率(嵩が何倍に増加したか)を算出し、起泡の程度の指標とした。撹拌後の比重は、所定容積の容器を使用し、すりきり一杯分のホイップドクリームの質量を測定することにより、算出した。また、各試料について、泡の保存性、及び食感を、次の方法で評価した。
【0033】
<泡の保存性>
ホイップドクリームを容器に入れて温度5℃で保存し、泡から分離した蜂蜜が容器の底部に視認されるまでの時間を確認し、次のように四段階で評価した。
「○」:一週間以上経過しても蜂蜜の分離が確認されない。
「●」:蜂蜜の分離が確認されるまでの時間が24時間以上、一週間未満である。
「△」:蜂蜜の分離が確認されるまでの時間が5時間以上、24時間未満である。
「×」:蜂蜜の分離が確認されるまでの時間が5時間未満である。
【0034】
<食感>
ホイップドクリームのきめが細かく、口当たりが滑らかで味が良い場合を、食感が非常に良好であるとして「○」で評価し、少し粉っぽさが感じられるが味が悪くない場合を、食感が良好であるとして「△」で評価し、乳清蛋白質自体の味が強く感じられ、味が悪い場合を、食感が不良であるとして「×」と評価した。
【0035】
試料S-1~S-3についての評価結果を、組成等と合わせて表1に示す。また、試料S-4~S-6についての評価結果を、組成等と合わせて表2に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
表1及び表2に示したように、総固形分濃度と、蜂蜜の固形分100重量部に対する乳清蛋白質の割合は、共に嵩の増加倍率に影響した。総固形分濃度については、その値が小さく水の割合が大きいほど、嵩の増加倍率は大きい傾向があった。蜂蜜の固形分100重量部に対する乳清蛋白質の割合については、試料S-4と試料S-5との関係では、乳清蛋白質の割合の増加に伴って嵩の増加倍率も大きくなっているが、試料S-5と試料S-6との関係では、乳清蛋白質の割合の増加に伴って嵩の増加倍率が小さくなっている。このことから、乳清蛋白質はある割合までは嵩の増加倍率を高めるものの、ある割合を超えると嵩の増加倍率を低下させると考えられた。
【0039】
表1の結果から、泡の保存性は主に総固形分濃度に影響を受けると考えられた。表1から分かるように、2.5倍~9.9倍という大きな嵩の増加倍率で、食感が非常に良好で、泡を5時間以上保存できるホイップドクリームが得られた。更に、表2の結果から、食感については、主に蜂蜜の固形分100重量部に対する乳清蛋白質の割合に影響を受けると考えられた。表2から分かるように、2.2倍~5.0倍という大きな嵩の増加倍率で、食感が良好または非常に良好で、泡を24時間以上保存できるホイップドクリームが得られた。
【0040】
以上の結果を受け、総固形分濃度が、嵩の増加倍率、食感、及び、泡の保存性に及ぼす影響と、蜂蜜の固形分100重量部に対する乳清蛋白質の割合が、嵩の増加倍率、食感、及び泡の保存性に及ぼす影響を、それぞれ詳細に検討した。
【0041】
まず、総固形分濃度と、嵩の増加倍率、食感、及び、泡の保存性との関係を調べるために、蜂蜜の固形分100重量部に対する乳清蛋白質の割合を7.6重量部と一定にし、総固形分濃度を変化させた試料S1-1~S1-12について、上記と同様に嵩の増加倍率を求めると共に、上記の方法で食感、及び、泡の保存性を評価した。結果を組成と合わせて表3に示す。また、総固形分濃度に対して嵩の増加倍率をプロットしたグラフを図1に示す。図1におけるマーカーは、泡の保存性の評価における記号「○」、「●」、「△」、及び「×」と一致させている。
【0042】
【表3】
【0043】
図1から、総固形分濃度と嵩の増加倍率は、ほぼ線形の相関関係があり、総固形分濃度が小さくなるほど、すなわち水の割合が大きくなるほど、嵩の増加倍率は大きくなる。一方、泡の保存性は、総固形分濃度が高いほど良好であった。ホイップドクリームとしては、嵩の増加倍率が高く、泡の保存性が良好であることが望ましいため、総固形分濃度に対して相反する傾向をバランスさせる必要がある。試料S1-3~試料S1-9の範囲として、総固形分濃度を76.7質量%~59.0質量%とすれば、嵩の増加倍率が1.5倍以上で、且つ、泡の保存性が「○」、「●」、または「△」、すなわち、蜂蜜の分離が確認されるまでの時間が5時間以上であり、望ましい。
【0044】
また、試料S1-3~試料S1-8の範囲として、総固形分濃度を76.7質量%~64.5質量%とすれば、嵩の増加倍率が1.5倍以上で、且つ、泡の保存性が「○」または「●」、すなわち、蜂蜜の分離が確認されるまでの時間が24時間以上であり、より望ましい。
【0045】
更に、試料S1-3~試料S1-6の範囲として、総固形分濃度を76.7質量%~72.7質量%とすれば、嵩の増加倍率が1.5倍以上で、且つ、泡の保存性が「○」、すなわち、一週間を経過しても蜂蜜の分離が確認されない長期間の保存性を有しており、更に望ましい。
【0046】
また、これらの総固形分濃度の範囲それぞれにおいて、上限値を75.5質量%(試料S1-4の値)とすれば、嵩の増加倍率が2倍を超えており、一層望ましい。
【0047】
なお、蜂蜜の含有率が高く、嵩の増加倍率が1.5倍未満と低かった試料S1-1、及びS1-2は、食感の評価は「〇」であったものの蜂蜜に近い食感であり、ホイップドクリームの質感が重いものであった。
【0048】
次に、蜂蜜の固形分100重量部に対する乳清蛋白質の割合と、嵩の増加倍率、食感、及び、泡の保存性との関係を調べるために、水と蜂蜜の和に対する蜂蜜の割合を一定にし、蜂蜜の固形分100重量部に対する乳清蛋白質の割合を変化させた試料S2-1~S2-9、及び、試料S3-1~S3-10について、上記と同様に嵩の増加倍率を求めると共に、上記の方法で食感、及び、泡の保存性を評価した。ここで、試料S2-1~S2-9は、水と蜂蜜の和に対する蜂蜜の割合を90質量%と一定にしており、試料S3-1~S3-10は、水と蜂蜜の和に対する蜂蜜の割合を85質量%と一定にしている。
【0049】
試料S2-1~S2-9についての結果を組成等と合わせて表4に示すと共に、試料S3-1~S3-10についての結果を組成等と合わせて表5に示す。また、表4及び表5の結果を合わせ、蜂蜜の固形分100重量部に対する乳清蛋白質の割合に対して嵩の増加倍率をプロットしたグラフを図2に示す。なお、試料S2-1~S2-9の総固形分濃度は約71.0質量%であり、試料S3-1~S3-10の総固形分濃度は67.4質量%~74.6質量%であるため、表3及び図1を用いて既述した総固形分濃度の望ましい範囲76.7質量%~59.0質量%、及び、より望ましい範囲76.7質量%~64.5質量%に包含されている。図2におけるマーカーは、食感が「×」(不良)の試料について「*」で表示し、食感が「○」(非常に良好)または「△」(良好)の試料については、泡の保存性の評価における記号「○」、「●」、「△」、及び「×」と一致させている。なお、食感が不良の試料については、泡の保存性の評価を行わなかった。
【0050】
【表4】
【0051】
【表5】
【0052】
図2から分かるように、蜂蜜の固形分100重量部に対する乳清蛋白質の割合が13.7重量部(試料S3-7の値)に達するまでは、乳清蛋白質の割合の増加に伴って嵩の増加倍率も大きくなるが、蜂蜜の固形分100重量部に対する乳清蛋白質の割合が13.7重量部を超えると嵩は増加せず、乳清蛋白質の割合が22.1重量部に達するまでの試料S3-7、試料S3-8では嵩の増加倍率はほぼ同じであり、蜂蜜の固形分100重量部に対する乳清蛋白質の割合が32.4重量部を超えた試料S3-9、試料S3-10では、嵩の増加倍率が減少している。そして、試料S3-10では、食感の評価が「×」(不良)であった。
【0053】
このことから、蜂蜜の固形分100重量部に対する乳清蛋白質の割合は、ある値までは増加に伴って泡の嵩を増加させるが、多過ぎると嵩の増加倍率を減少させると共に、食感にも悪影響を及ぼすことが分かる。
【0054】
また、蜂蜜の固形分100重量部に対する乳清蛋白質の割合が、0.40重量部以下と小さい試料S2-1~S2-8では、嵩の増加倍率が小さいことに加え、泡の保存性の評価も「×」であった。泡の保存性については、蜂蜜の固形分100重量部に対する乳清蛋白質の割合が32.4重量部(試料S3-9の値)に至るまでは、その増加に伴って、より良好となっていることが分かる。
【0055】
以上の検討より、総固形分濃度、及び、蜂蜜の固形分100重量部に対する乳清蛋白質の割合は、何れも嵩の増加倍率、食感、及び泡の保存性に影響し、総固形分濃度と蜂蜜の固形分100重量部に対する乳清蛋白質の割合との間には望ましい数値範囲があると考えられた。そこで、嵩の増加倍率が1.5倍以上であって、食感については非常に良好または良好であり、且つ、泡の保存性の評価が「△」以上、すなわち、蜂蜜の分離が確認されるまでの時間が5時間以上であるホイップドクリームが製造される範囲を望ましい範囲とし、総固形分濃度と蜂蜜の固形分100重量部に対する乳清蛋白質の割合との関係における望ましい範囲を検討した。
【0056】
上記の検討結果から予想される望ましい範囲において、蜂蜜の固形分100重量部に対する乳清蛋白質の割合が上限値近傍となるように混合溶液の組成を調製した試料S4-1~S4-10、及び、蜂蜜の固形分100重量部に対する乳清蛋白質の割合が下限値近傍となるように混合溶液の組成を調製した試料S5-1~S5-9について、上記と同様の方法で、嵩の増加倍率、食感、及び、泡の保存性を評価した。評価結果を組成等と合わせて、それぞれ表6及び表7に示す。なお、ここでの検討に使用した蜂蜜は、ハンガリー産蜂蜜であるが、固形分含有率が79.4質量%、79.5質量%、79.6質量%、79.7質量%のものがあり、各試料については、それぞれ使用している蜂蜜の固形分含有率を使用して、総固形分濃度及び蜂蜜の固形分100重量部に対する乳清蛋白質の割合を算出している。
【0057】
【表6】
【0058】
【表7】
【0059】
表1~表7に示した結果を総合し、総固形分濃度に対して、蜂蜜の固形分100重量部に対する乳清蛋白質の割合をプロットしたグラフを図3に示す。また、図3では、縦軸の値が小さい範囲における各点の数値及び評価結果が分かりにくいため、蜂蜜の固形分100重量部に対する乳清蛋白質の割合が10重量部以下の部分を拡大したグラフを、図4に示す。図3及び図4におけるマーカーは、嵩の増加倍率が1.5倍未満の試料を「+」で表示し、食感が「×」(不良)の試料を「*」で表示すると共に、嵩の増加倍率が1.5倍以上で、且つ、食感が「○」(非常に良好)または「△」(良好)の試料については、泡の保存性の評価における記号「○」、「●」、「△」、及び「×」と一致させている。
【0060】
図3及び図4の結果から、総固形分濃度をX質量%とし、蜂蜜の固形分100重量部に対する乳清蛋白質の割合をY重量部としたとき、上記の望ましい範囲、すなわち、嵩の増加倍率が1.5倍以上であって、食感が非常に良好または良好であり、且つ、泡の保存性の評価が「△」以上であるホイップドクリームが製造される範囲は、次の条件イ、ロを満たす範囲であることが分かる。
・条件イ:57.4≦X≦76.7
・条件ロ:1.3≦Y≦32.3
【0061】
上記の望ましい範囲において、総固形分濃度が57.4質量%で、蜂蜜の固形分100重量部に対する乳清蛋白質の割合が32.3重量部のとき(図3のグラフに示す望ましい範囲である四角形における左上の角の点)、混合溶液における蜂蜜固形分の割合は最小値の43.4質量%であり、総固形分濃度が76.7質量%で、蜂蜜の固形分100重量部に対する乳清蛋白質の割合が1.3重量部のとき(図3のグラフに示す望ましい範囲である四角形における右下の角の点)、混合溶液における蜂蜜固形分の割合は最大値の75.7質量%である。つまり、混合溶液及び本実施形態の製造方法で製造されるホイップドクリームは、43.4質量%~75.7質量%という高い固形分割合で蜂蜜を含有している。また、図3及び図4において傾斜した破線で示した線は、混合溶液における蜂蜜固形分の割合が65.0質量%となる線である。つまり、上記の望ましい範囲において、この破線よりも右下の範囲は、混合溶液及び本実施形態の製造方法で製造されるホイップドクリームにおける蜂蜜固形分の割合が、65.0質量%~75.7質量%と非常に高い範囲である。上述したように蜂蜜は約8割という高い割合で糖質を含有しており、糖度の高い液体を泡立てることは難しいところ、このように高い割合で蜂蜜を含んでいるホイップドクリームは、この点でも非常に斬新である。本実施形態の製造方法で製造されるホイップドクリームは、糖度が高いため菌が繁殖しにくく、保存料などを添加しなくても長期にわたり保存できると考えられる。
【0062】
更に、図3及び図4の結果から、より望ましい範囲として、嵩の増加倍率が1.5倍以上であって、食感が非常に良好または良好であり、且つ、泡の保存性の評価が「●」以上(蜂蜜の分離が確認されるまでの時間が24時間以上)であるホイップドクリームが製造される範囲は、次の条件ハ、ロを満たす範囲であることが分かる。
・条件ハ:67.0≦X≦76.7
・条件ロ:1.3≦Y≦32.3
【0063】
本実施形態の製造方法では、ホイップドクリームの原料である混合溶液に油脂を添加していないため、乳製品である従来のホイップドクリームやクリーム代替物とは異なり、ほとんど脂質を含有していないホイップドクリームが製造される。ただし、乳清蛋白質にはごく僅かに脂質が含まれるため、製造されるホイップドクリームには、乳清蛋白質由来の脂質がごく僅かに含まれる。本実施形態で使用した乳清蛋白質に含まれる脂質の含有率は、1.0質量%以下である。よって、上記の望ましい範囲(条件イ、ロ)、及び、より望ましい範囲(条件ハ、ロ)において、製造されるホイップドクリームにおける脂質の含有率は、多くても0.2質量%未満であり、ごく微量である。
【0064】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0065】
例えば、上記では、蜂蜜、乳清蛋白質、及び水のみを原料とする場合を示したが、これらに加えて、微量の香料、着色料、乳化剤、増粘剤等を添加することができる。
【0066】
また、上記では、ホイップドクリームの食感を評価したが、製造されたホイップドクリームは、食品や飲料に用いる他、化粧料に用いることもできる。
図1
図2
図3
図4