IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社田中化学研究所の特許一覧

特許7530701二次電池用正極活物質粒子及び二次電池用正極活物質粒子の製造方法
<>
  • 特許-二次電池用正極活物質粒子及び二次電池用正極活物質粒子の製造方法 図1
  • 特許-二次電池用正極活物質粒子及び二次電池用正極活物質粒子の製造方法 図2
  • 特許-二次電池用正極活物質粒子及び二次電池用正極活物質粒子の製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】二次電池用正極活物質粒子及び二次電池用正極活物質粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/52 20100101AFI20240801BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20240801BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240801BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240801BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240801BHJP
【FI】
H01M4/52
C01G53/00 A
H01M4/36 C
H01M4/505
H01M4/525
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018160771
(22)【出願日】2018-08-29
(65)【公開番号】P2020035625
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-08-11
【審判番号】
【審判請求日】2023-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】592197418
【氏名又は名称】株式会社田中化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】花村 直也
(72)【発明者】
【氏名】田中 聡
(72)【発明者】
【氏名】畑 未来夫
【合議体】
【審判長】井上 信一
【審判官】▲高▼橋 徳浩
【審判官】山本 章裕
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/020768(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 53/00
H01M 4/13- 4/1399
H01M 4/36- 4/62
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属及び/または金属化合物と、ニッケル含有複合化合物と、を含む二次電池用正極活物質粒子であって、
下記式(I)
X=(C-A)/B (I)
(式中、Aは、前記二次電池用正極活物質粒子のうち、累積体積百分率が90体積%の二次粒子径(D90)における前記ニッケル含有複合化合物の金属量に対する前記金属及び/または金属化合物の金属量のモル比であり、Bは、前記二次電池用正極活物質粒子のうち、累積体積百分率が50体積%の二次粒子径(D50)における前記ニッケル含有複合化合物の金属量に対する前記金属及び/または金属化合物の金属量のモル比であり、Cは、前記二次電池用正極活物質粒子のうち、累積体積百分率が10体積%の二次粒子径(D10)における前記ニッケル含有複合化合物の金属量に対する前記金属及び/または金属化合物の金属量のモル比であることを意味する。)で表されるXの値が0.00以上0.08以下であり、
前記金属及び/または金属化合物が、前記ニッケル含有複合化合物の被覆を形成し、
前記ニッケル含有複合化合物が、Niと、Co、Zn、Mg、Al、Mn及びYbからなる群から選択される少なくとも1種の異種金属元素と、を含み、前記金属が、Ni、Co、Li及びWからなる群から選択される少なくとも1種であり、前記金属化合物の金属が、Ni、Co、Li及びWからなる群から選択される少なくとも1種である、
二次電池用正極活物質粒子。
【請求項2】
前記異種金属元素の少なくとも一部が、前記Niに固溶している固溶元素であり、前記Niと前記固溶元素の合計100mol%に対する前記Niの組成が、50mol%以上99mol%以下である請求項に記載の二次電池用正極活物質粒子。
【請求項3】
ニッケル水素二次電池用である請求項1または2に記載の二次電池用正極活物質粒子。
【請求項4】
前記金属及び/または金属化合物が、Liを含み、前記Liの少なくとも一部が前記ニッケル含有複合化合物に含浸されている請求項1に記載の二次電池用正極活物質粒子。
【請求項5】
リチウム二次電池用である請求項1またはに記載の二次電池用正極活物質粒子。
【請求項6】
下記式(II)
Y=(D90-D10)/D50 (II)
(式中、D90は、前記二次電池用正極活物質粒子のうち、前記累積体積百分率が90体積%の二次粒子径であり、D50は、前記二次電池用正極活物質粒子のうち、前記累積体積百分率が50体積%の二次粒子径であり、D10は、前記二次電池用正極活物質粒子のうち、前記累積体積百分率が10体積%の二次粒子径であることを意味する。)で表されるYの値が0.80以上1.20以下である請求項1乃至のいずれか1項に記載の二次電池用正極活物質粒子。
【請求項7】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の二次電池用正極活物質粒子を用いた二次電池用正極。
【請求項8】
請求項に記載の二次電池用正極を用いた二次電池。
【請求項9】
ニッケル含有複合化合物を調製する工程と、
調製した前記ニッケル含有複合化合物を分級して、複数の前記ニッケル含有複合化合物の分級物を得る工程と、
前記複数の分級物に、金属及び/または金属化合物の原料を添加する工程と、
前記複数の分級物を一つにまとめる工程と、を含む
二次電池用正極活物質粒子の製造方法であり、
前記二次電池用正極活物質粒子が、前記金属及び/または金属化合物と、前記ニッケル含有複合化合物と、を含み、
下記式(I)
X=(C-A)/B (I)
(式中、Aは、前記二次電池用正極活物質粒子のうち、累積体積百分率が90体積%の二次粒子径(D90)における前記ニッケル含有複合化合物の金属量に対する前記金属及び/または金属化合物の金属量のモル比であり、Bは、前記二次電池用正極活物質粒子のうち、累積体積百分率が50体積%の二次粒子径(D50)における前記ニッケル含有複合化合物の金属量に対する前記金属及び/または金属化合物の金属量のモル比であり、Cは、前記二次電池用正極活物質粒子のうち、累積体積百分率が10体積%の二次粒子径(D10)における前記ニッケル含有複合化合物の金属量に対する前記金属及び/または金属化合物の金属量のモル比であることを意味する。)で表されるXの値が0.00以上0.08以下であり、
前記金属及び/または金属化合物が、前記ニッケル含有複合化合物の被覆を形成し、
前記ニッケル含有複合化合物が、Niと、Co、Zn、Mg、Al、Mn及びYbからなる群から選択される少なくとも1種の異種金属元素と、を含み、前記金属が、前記ニッケル含有複合化合物の金属元素とは異なり、且つCo、Al、Li及びWからなる群から選択される少なくとも1種であり、前記金属化合物の金属が、前記ニッケル含有複合化合物の金属元素とは異なり、且つCo、Al、Li及びWからなる群から選択される少なくとも1種である、二次電池用正極活物質粒子の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の正極に用いる正極活物質粒子、特に、体積抵抗率が低減されることで、優れた利用率を発揮できる二次電池用正極活物質粒子、該二次電池用正極活物質粒子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯機器や動力源として電気を使用または併用する車両等、広汎な分野で二次電池が使用されている。また、携帯機器の高機能化や動力源の高パワー化等の観点から、二次電池に対して、さらなる高出力化と利用率向上の要求がなされている。そこで、二次電池用正極活物質には、さらなる高出力化と利用率向上の観点から、優れた導電性が要求されている。
【0003】
導電性を有する二次電池用正極活物質の製造方法として、例えば、水溶液中で水酸化ニッケル粒子の粒子表面に水酸化コバルトを被覆する際に、水酸化ニッケル粒子を水に分散させた懸濁液中でのコバルト塩水溶液とアルカリ水溶液の拡散状態を制御することで、水酸化コバルトの被覆の均一性と密着性を確保して、アルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粒子に高い導電性を付与することが提案されている(特許文献1)。特許文献1では、アルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粒子に高い導電性が付与されることで、アルカリ二次電池の高出力化と利用率向上を図っている。
【0004】
また、導電性を有する二次電池用正極活物質として、例えば、被覆中のコバルトの価数が2.5以上であり、前記被覆水酸化ニッケル粒子20gを密閉容器中で1時間振盪したときの被覆の剥離量が、全被覆量の20質量%以下であることを特徴とするアルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粒子が提案されている(特許文献2)。特許文献2のアルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粒子も、特許文献1と同じく、水酸化コバルトの被覆の均一性と密着性を確保して、アルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粒子に高い導電性を付与するものである。
【0005】
上記したアルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粒子等の二次電池用正極活物質粒子では、所定の広がりを有する粒度分布幅を形成している。二次電池用正極活物質粒子が所定の広がりを有する粒度分布幅を形成していると、核(コア)となる水酸化ニッケル粒子にコバルト化合物を被覆して二次電池用正極活物質粒子を製造する際に、水酸化ニッケル粒子の粒子径の大小によってコバルト化合物の被覆量が相違してしまうことがある。具体的には、水酸化ニッケル粒子の粒子径が大きくなると、水酸化ニッケル粒子の構成成分であるニッケル1モルあたりの被覆コバルト量が少なくなっていき、水酸化ニッケル粒子の粒子径が小さくなると、水酸化ニッケル粒子の構成成分であるニッケル1モルあたりの被覆コバルト量が多くなっていく。
【0006】
上記から、特許文献1、2では、核となる水酸化ニッケル粒子の粒子径の大小によってコバルト化合物の被覆量が相違してしまうことで、アルカリ二次電池用正極活物質粒子の粒子径の大小によって、導電性が変動してしまうことがある。すなわち、特許文献1、2では、所定の広がりを有する粒度分布幅を形成するアルカリ二次電池用正極活物質粒子には、優れた導電性を有する粒子とそうではない粒子とが混在していることがある。具体的には、水酸化ニッケル粒子の粒子径が大きくなるとコバルト化合物の被覆量が低下して、結果として、導電性が低減してしまう。従って、特許文献1、2では、所定の広がりを有する粒度分布幅を形成する二次電池用正極活物質粒子全体としては、導電性の改善の余地があり、ひいては、利用率に改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-234819号公報
【文献】特開2014-103127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記事情に鑑み、本発明は、二次電池用正極活物質粒子の粒子径の大小による体積抵抗率の変動が抑制され、所定の広がりを有する粒度分布幅を形成する二次電池用正極活物質粒子全体として、優れた導電性を有する二次電池用正極活物質粒子及び該二次電池用正極活物質粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の構成の要旨は、以下の通りである。
[1]金属及び/または金属化合物と、ニッケル含有複合化合物と、を含む二次電池用正極活物質粒子であって、
下記式(I)
X=(C-A)/B (I)
(式中、Aは、前記二次電池用正極活物質粒子のうち、累積体積百分率が90体積%の二次粒子径(D90)における前記ニッケル含有複合化合物の金属量に対する前記金属及び/または金属化合物の金属量のモル比であり、Bは、前記二次電池用正極活物質粒子のうち、累積体積百分率が50体積%の二次粒子径(D50)における前記ニッケル含有複合化合物の金属量に対する前記金属及び/または金属化合物の金属量のモル比であり、Cは、前記二次電池用正極活物質粒子のうち、累積体積百分率が10体積%の二次粒子径(D10)における前記ニッケル含有複合化合物の金属量に対する前記金属及び/または金属化合物の金属量のモル比であることを意味する。)で表されるXの値が0.00以上0.08以下である二次電池用正極活物質粒子。
[2]前記金属が、Ni、Co、Al、Li及びWからなる群から選択される少なくとも1種であり、前記金属化合物の金属が、Ni、Co、Al、Li及びWからなる群から選択される少なくとも1種である[1]に記載の二次電池用正極活物質粒子。
[3]前記ニッケル含有複合化合物が、Niと、Co、Zn、Mg、Al、Mn及びYbからなる群から選択される少なくとも1種の異種金属元素と、を含む[1]または[2]に記載の二次電池用正極活物質粒子。
[4]前記異種金属元素の少なくとも一部が、前記Niに固溶している固溶元素であり、前記Niと前記固溶元素の合計100mol%に対する前記Niの組成が、55mol%以上99mol%以下である[3]に記載の二次電池用正極活物質粒子。
[5]前記金属及び/または金属化合物が、前記ニッケル含有複合化合物の被覆を形成している[1]乃至[4]のいずれか1つに記載の二次電池用正極活物質粒子。
[6]ニッケル水素二次電池用である[1]乃至[5]のいずれか1つに記載の二次電池用正極活物質粒子。
[7]前記金属及び/または金属化合物が、Liを含み、前記Liの少なくとも一部が前記ニッケル含有複合化合物に含浸されている[1]乃至[4]のいずれか1つに記載の二次電池用正極活物質粒子。
[8]リチウム二次電池用である[1]、[2]、[3]、[4]または[7]に記載の二次電池用正極活物質粒子。
[9]下記式(II)
Y=(D90-D10)/D50 (II)
(式中、D90は、前記二次電池用正極活物質粒子のうち、前記累積体積百分率が90体積%の二次粒子径であり、D50は、前記二次電池用正極活物質粒子のうち、前記累積体積百分率が50体積%の二次粒子径であり、D10は、前記二次電池用正極活物質粒子のうち、前記累積体積百分率が10体積%の二次粒子径であることを意味する。)で表されるYの値が0.80以上1.20以下である[1]乃至[8]のいずれか1つに記載の二次電池用正極活物質粒子。
[10][1]乃至[9]のいずれか1つに記載の二次電池用正極活物質粒子を用いた二次電池用正極。
[11][10]に記載の二次電池用正極を用いた二次電池。
[12]ニッケル含有複合化合物を調製する工程と、
調製した前記ニッケル含有複合化合物を分級して、複数の前記ニッケル含有複合化合物の分級物を得る工程と、
前記複数の分級物に、金属及び/または金属化合物の原料を添加する工程と、
前記複数の分級物を一つにまとめる工程と、を含む
二次電池用正極活物質粒子の製造方法。
【0010】
[1]の態様では、ニッケル含有複合化合物は二次電池用正極活物質粒子の前駆体由来の粒子であり、ニッケル含有複合化合物の金属量に対する金属及び/または金属化合物の金属量のモル比について、(D10の上記モル比-D90の上記モル比)/D50の上記モル比の値が0.00以上0.08以下の範囲に抑えられている。従って、二次電池用正極活物質粒子の粒子径の大小に関わらず、ニッケル含有複合化合物の金属量に対する金属及び/または金属化合物の金属量のモル比が均一化されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の二次電池用正極活物質粒子の態様によれば、二次電池用正極活物質粒子の粒子径の大小に関わらず、ニッケル含有複合化合物の金属量に対する金属及び/または金属化合物の金属量のモル比が均一化されているので、二次電池用正極活物質粒子の粒子径の大小による体積抵抗率の変動が抑制され、所定の広がりを有する粒度分布幅を形成する二次電池用正極活物質粒子全体として、優れた導電性を有する二次電池用正極活物質粒子を得ることができる。また、本発明の二次電池用正極活物質粒子の態様によれば、優れた導電性を有するので、二次電池の出力と利用率をさらに向上させることができる。
【0012】
また、本発明の二次電池用正極活物質粒子の態様によれば、式(II)Y=(D90-D10)/D50で表されるYの値が0.80以上1.20以下である粒度分布幅を有することにより、二次電池用正極活物質粒子のタップ密度とバルク密度が向上して二次電池の出力と利用率をさらに確実に向上させることができつつ、二次電池用正極活物質粒子全体としての充放電特性をより均一化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1、比較例1の複合水酸化物粒子の粒度分布幅を示すグラフである。
図2】実施例2、比較例2の複合水酸化物粒子の粒度分布幅を示すグラフである。
図3】実施例3、比較例3の複合水酸化物粒子の粒度分布幅を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の二次電池用正極活物質粒子について、詳細を説明する。本発明の二次電池用正極活物質粒子は、金属及び/または金属化合物と、ニッケル含有複合化合物と、を含む二次電池用正極活物質粒子である。本発明の二次電池用正極活物質粒子は、二次電池用正極活物質の前駆体由来の粒子であるニッケル含有複合化合物の内部及び/または表面部に、さらに金属及び/または金属化合物が備えられている粒子である。
【0015】
本発明の二次電池用正極活物質粒子の形状は、特に限定されないが、例えば、略球形を挙げることができる。また、本発明の二次電池用正極活物質粒子は、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子の態様である。
【0016】
本発明の二次電池用正極活物質粒子には、例えば、二次電池用正極活物質の前駆体由来の粒子であるニッケル含有複合化合物に金属及び/または金属化合物が被覆された態様、二次電池用正極活物質の前駆体にニッケル含有複合化合物とは異なる金属含有化合物を反応させて、前記前駆体由来の粒子であるニッケル含有複合化合物が該金属含有化合物由来の金属及び/または金属化合物を保持する態様等が挙げられる。ニッケル含有複合化合物に金属及び/または金属化合物が被覆された態様では、ニッケル含有複合化合物が核(コア)、金属及び/または金属化合物が前記核を被覆する被膜(シェル)を構成している。また、ニッケル含有複合化合物が金属含有化合物由来の金属及び/または金属化合物を保持する態様には、ニッケル含有複合化合物に金属含有化合物由来の金属及び/または金属化合物の少なくとも一部が含浸した態様が挙げられる。
【0017】
本発明の二次電池用正極活物質粒子は、所定の広がりを有する粒度分布幅を形成している。また、二次電池用正極活物質粒子は、下記式(I)
X=(C-A)/B (I)
(式中、Aは、二次電池用正極活物質粒子のうち、累積体積百分率が90体積%の二次粒子径(以下、単に「D90」ということがある。)におけるニッケル含有複合化合物の金属量に対する金属及び/または金属化合物の金属量のモル比であり、Bは、二次電池用正極活物質粒子のうち、累積体積百分率が50体積%の二次粒子径(以下、単に「D50」ということがある。)におけるニッケル含有複合化合物の金属量に対する金属及び/または金属化合物の金属量のモル比であり、Cは、二次電池用正極活物質粒子のうち、累積体積百分率が10体積%の二次粒子径(以下、単に「D10」ということがある。)におけるニッケル含有複合化合物の金属量に対する金属及び/または金属化合物の金属量のモル比であることを意味する。)で表されるXの値が0.00以上0.08以下に制御されている。
【0018】
上記から、本発明の二次電池用正極活物質粒子では、ニッケル含有複合化合物の金属のモル数に対する前記ニッケル含有複合化合物にさらに備えられている金属及び/または金属化合物の金属のモル数の比率が、二次電池用正極活物質粒子の粒子径の大小に関わらず、均一化されている。具体的には、二次電池用正極活物質粒子のD10、D50、D90におけるそれぞれの上記比率が均一化されており、D50の上記比率に対するD10の上記比率とD90の上記比率の差分の割合が、0.00以上0.08以下に制御されている。なお、D10、D50、D90は、レーザ回折・散乱法を用い、粒度分布測定装置で測定した粒子径を意味する。
【0019】
二次電池用正極活物質粒子の粒子径の大小に関わらず、ニッケル含有複合化合物の金属量に対する金属及び/または金属化合物の金属量のモル比が均一化されているので、二次電池用正極活物質粒子の粒子径の大小による体積抵抗率の変動が抑制され、所定の広がりを有する粒度分布幅を形成する二次電池用正極活物質粒子全体として、優れた導電性を有する二次電池用正極活物質粒子を得ることができる。また、本発明の二次電池用正極活物質粒子の態様によれば、優れた導電性を有するので、二次電池の出力と利用率をさらに向上させることができる。
【0020】
式(I)におけるXの値は0.00以上0.08以下であれば、特に限定されず、0に近いほど好ましいが、例えば、その下限値は、生産の容易さの点から0.01が好ましい。Xの値の上限値は、所定の広がりを有する粒度分布幅を形成する二次電池用正極活物質粒子全体として、より優れた導電性を得る点から0.07が好ましく、0.05が特に好ましい。上記した下限値、上限値は、任意で組み合わせることができる。
【0021】
また、本発明の二次電池用正極活物質粒子の粒度分布幅は、特に限定されず、所定の広がりを有している。本発明の二次電池用正極活物質粒子の粒度分布幅は、例えば、下記式(II)
Y=(D90-D10)/D50 (II)
で表されるYの値が0.80以上1.20以下と、ブロードな粒度分布幅を有していることが好ましい。
【0022】
上記ブロードな粒度分布幅を有することにより、二次電池用正極活物質粒子のタップ密度とバルク密度が向上、すなわち、二次電池用正極活物質粒子の充填時に充填密度が向上するので、二次電池の出力と利用率をさらに確実に向上させつつ、二次電池用正極活物質粒子全体としての充放電特性をより均一化することができる。
【0023】
上記粒度分布幅(Y)の下限値は、二次電池用正極活物質粒子の充填密度がさらに向上する点から0.85がより好ましく、0.90が特に好ましい。一方で、粒度分布幅(Y)の上限値は、二次電池用正極活物質粒子全体としての充放電特性をさらに均一化する点から1.10がより好ましく、1.00が特に好ましい。上記した下限値、上限値は、任意で組み合わせることができる。
【0024】
本発明の二次電池用正極活物質粒子のD50は、特に限定されないが、例えば、D50の下限値は、二次電池用正極活物質粒子の充填密度の向上の点から9.0μmが好ましく、10.0μmが特に好ましい。一方で、二次電池用正極活物質粒子のD50の上限値は、電解液との接触面を確保する点から、12.0μmが好ましく、11.0μmが特に好ましい。なお、上記した下限値、上限値は、任意で組み合わせることができる。本発明の二次電池用正極活物質粒子のD10は、特に限定されないが、例えば、D10の下限値は、二次電池用正極活物質粒子の充填密度の向上の点から3.0μmが好ましく、4.0μmが特に好ましい。一方で、二次電池用正極活物質粒子のD10の上限値は、電解液との接触面を確保する点から、8.0μmが好ましく、6.0μmが特に好ましい。なお、上記した下限値、上限値は、任意で組み合わせることができる。本発明の二次電池用正極活物質粒子のD90は、特に限定されないが、例えば、D90の下限値は、二次電池用正極活物質粒子の充填密度の向上の点から13.0μmが好ましく、15.0μmが特に好ましい。一方で、二次電池用正極活物質粒子のD90の上限値は、電解液との接触面を確保する点から、22.0μmが好ましく、20.0μmが特に好ましい。なお、上記した下限値、上限値は、任意で組み合わせることができる。
【0025】
二次電池用正極活物質粒子の前駆体由来の粒子であるニッケル含有複合化合物の金属成分は、ニッケル(Ni)を含有していれば、ニッケル(Ni)以外の異種金属元素は二次電池用正極活物質粒子の使用条件に応じて適宜選択可能であり、例えば、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、イッテルビウム(Yb)等の遷移金属元素を挙げることができる。また、上記異種金属元素の少なくとも一部が、ニッケル(Ni)に固溶している固溶元素となっていてもよい。固溶している異種金属元素とニッケル(Ni)との合計100mol%に対して、ニッケル(Ni)の割合は、二次電池用正極活物質粒子の使用条件に応じて適宜選択可能であり、例えば、50mol%以上99mol%以下である。
【0026】
本発明の二次電池用正極活物質粒子は、あらゆる二次電池の正極活物質として使用することができるが、例えば、本発明の二次電池用正極活物質粒子をニッケル水素二次電池の正極活物質として使用する場合には、ニッケル含有複合化合物の表面に金属及び/または金属化合物の層が被覆された二次電池用正極活物質粒子を使用することができる。ニッケル含有複合化合物の金属成分としては、例えば、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)等を挙げることができる。また、ニッケル含有複合化合物としては、上記金属成分を含有する水酸化物、オキシ水酸化物、酸化物を挙げることができる。
【0027】
また、本発明の二次電池用正極活物質粒子をリチウム二次電池の正極活物質として使用する場合には、ニッケル含有複合化合物に金属含有化合物由来の金属及び/または金属化合物の少なくとも一部が含浸した状態で保持された二次電池用正極活物質粒子を使用することができる。ニッケル含有複合化合物の金属成分としては、例えば、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)等を挙げることができる。また、ニッケル含有複合化合物としては、上記金属成分を含有する酸化物を挙げることができる。
【0028】
ニッケル含有複合化合物の内部及び/または表面部にさらに備えられている金属及び/または金属化合物の金属成分としては、二次電池用正極活物質粒子の使用条件に応じて適宜選択可能であり、例えば、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)、リチウム(Li)、タングステン(W)等の金属元素を挙げることができる。
【0029】
本発明の二次電池用正極活物質粒子をニッケル水素二次電池の正極活物質として使用する場合には、金属及び/または金属化合物の金属成分として、コバルト(Co)を挙げることができる。また、金属化合物としては、例えば、水酸化コバルト、オキシ水酸化コバルトを挙げることができる。
【0030】
本発明の二次電池用正極活物質粒子をリチウム二次電池の正極活物質として使用する場合には、金属及び/または金属化合物の金属成分として、リチウム(Li)を挙げることができる。また、金属含有化合物として、水酸化リチウム、炭酸リチウム等を挙げることができる。
【0031】
本発明の二次電池用正極活物質粒子のタップ密度(TD)は、特に限定されないが、例えば、正極活物質として使用した際における正極への充填度の向上の点から、1.5g/cm以上が好ましく、1.7g/cm以上が特に好ましい。
【0032】
本発明の二次電池用正極活物質粒子のバルク密度(BD)は、特に限定されないが、例えば、正極活物質として使用した際における正極への充填度の向上の点から0.8g/cm以上が好ましく、1.0g/cm以上が特に好ましい。
【0033】
本発明の二次電池用正極活物質粒子のBET比表面積は、特に限定されないが、例えば、密度の向上と電解液との接触面を確保することのバランスの点から、下限値は0.1m/gが好ましく、0.5m/gが特に好ましく、上限値は30.0m/gが好ましく、25.0m/gが特に好ましい。なお、上記した下限値、上限値は、任意で組み合わせることができる。
【0034】
次に、本発明の二次電池用正極活物質粒子の製造方法例について説明する。ここでは、ニッケル水素二次電池の正極活物質として使用する二次電池用正極活物質粒子、リチウム二次電池の正極活物質として使用する二次電池用正極活物質粒子を例にとって説明する。
【0035】
ニッケル水素二次電池の正極活物質として使用する二次電池用正極活物質粒子の製造方法
例えば、まず、必須金属元素としてニッケル、任意成分としてコバルト、マグネシウム、亜鉛等の異種金属を有する複合水酸化物粒子(以下、単に、「複合水酸化物粒子」ということがある。)を調製する。複合水酸化物粒子は、ニッケル水素二次電池用正極活物質の前駆体である。複合水酸化物粒子の調製方法は、まず、共沈法により、ニッケルの塩溶液(例えば、硫酸塩溶液)、異種金属の塩溶液(例えば、コバルトの塩溶液(例えば、硫酸塩溶液)、マグネシウムの塩溶液(例えば、硫酸塩溶液)、亜鉛の塩溶液(例えば、硫酸塩溶液))と錯化剤とpH調整剤を適宜添加することで、反応槽内にて反応させて、複合水酸化物粒子を調製して、複合水酸化物粒子を含むスラリー状の懸濁物を得る。懸濁物の溶媒としては、例えば、水が使用される。
【0036】
錯化剤としては、水溶液中で、ニッケル及び異種金属のイオンと錯体を形成可能なものであれば、特に限定されず、例えば、アンモニウムイオン供給体(硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、弗化アンモニウム等)、ヒドラジン、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ウラシル二酢酸、及びグリシンが挙げられる。なお、沈殿に際しては、水溶液のpH値を調整するため、必要に応じて、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)を添加してもよい。
【0037】
上記塩溶液に加えて、錯化剤を反応槽に連続して供給すると、ニッケル及び異種金属が共沈反応し、複合水酸化物粒子が製造される。共沈反応に際しては、反応槽の温度を、例えば、10℃~80℃、好ましくは20~70℃の範囲内で制御し、反応槽内のpH値を液温25℃基準で、例えば、pH9~pH13、好ましくはpH11~13の範囲内で制御しつつ、反応槽内の物質を、適宜、撹拌する。反応槽としては、例えば、形成されたニッケルを含む水酸化物粒子を分離するためにオーバーフローさせる、連続式を挙げることができる。
【0038】
上記のようにして得られた複合水酸化物粒子等を懸濁物から、ろ過後、水洗し、加熱処理することで、所定の広がりを有する粒度分布幅を形成している粉末状の複合水酸化物粒子が得られる。次に、得られた複合水酸化物粒子を、分級機により分級する。分級操作により、所定の広がりを有する粒度分布幅を形成している粉末状の複合水酸化物粒子を、例えば、13μm以上22μm以下の大粒子群の複合水酸化物粒子、9μm以上12μm以下の中粒子群の複合水酸化物粒子、3μm以上8μm以下の小粒子群の複合水酸化物粒子からなる3つの群に分級する。分級機としては、例えば、測定粒子をフィードエアで送り、分級するエルボージェット分級装置を挙げることができる。次に、大粒子群の複合水酸化物粒子、中粒子群の複合水酸化物粒子、小粒子群の複合水酸化物粒子に、それぞれ、水を添加して、大粒子群の複合水酸化物粒子を含む懸濁物、中粒子群の複合水酸化物粒子を含む懸濁物、小粒子群の複合水酸化物粒子を含む懸濁物とする。これら3つの懸濁物に、それぞれ、金属の塩溶液(例えば、Ni、Co、Al、Li、Wの塩溶液)とアルカリ溶液(例えば、水酸化ナトリウム水溶液等)と、を攪拌機で撹拌しながら添加して、中和晶析により、複合水酸化物粒子の表面に、金属及び/または金属化合物の被覆層を形成する。従って、金属及び/または金属化合物の被覆層は、金属の塩溶液(例えば、Ni、Co、Al、Li、Wの塩溶液)に由来する。上記被覆層を形成させる工程のpHは、例えば、液温25℃基準で、9~13の範囲に維持する。上記被覆工程により、金属及び/または金属化合物の被覆層が形成された複合水酸化物粒子を得ることができる。被覆層が形成された複合水酸化物粒子は、スラリー状の懸濁物として得ることができる。
【0039】
次に、被覆層が形成された複合水酸化物粒子を含む3つの懸濁物を1つにまとめて混合後、固相と液相に分離して、液相から分離された固相を乾燥することで、ニッケル水素二次電池の正極活物質として使用する二次電池用正極活物質粒子を製造することができる。なお、必要に応じて、被覆層が形成された複合水酸化物粒子に対して酸化処理を行ってもよい。酸化処理としては、例えば、固相と液相に分離後に、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ溶液を被覆層が形成された複合水酸化物粒子に添加して混合し、加熱する方法、被覆層が形成された複合水酸化物粒子を含む3つの懸濁物を1つにまとめて混合後、懸濁液を撹拌しながら、酸化触媒と接触させて空気を懸濁液に供給する方法等が挙げられる。また、上記した3つの懸濁物を1つにまとめて混合後、固相と液相に分離して、液相から分離された固相を乾燥することに代えて、3つの懸濁物をそれぞれ固相と液相に分離して、液相から分離された固相を乾燥後、得られた3つの乾燥物を1つにまとめて混合してもよい。なお、上記分級工程では、大粒子群の複合水酸化物粒子、中粒子群の複合水酸化物粒子、小粒子群の複合水酸化物粒子と、粒子径の大きさに応じて3つの粒子群に分級したが、必要に応じて、粒子径の大きさに応じて、2つの粒子群に分級してもよく、4つ以上の粒子群に分級してもよい。
【0040】
リチウム二次電池の正極活物質として使用する二次電池用正極活物質粒子の製造方法
例えば、まず、必須金属元素としてニッケル、任意成分としてコバルト、マンガン等の異種金属を有する複合水酸化物粒子または複合酸化物粒子(以下、単に、「複合水酸化物粒子等」ということがある。)を調製する。複合水酸化物粒子等は、リチウム二次電池用正極活物質の前駆体である。複合水酸化物粒子等の調製方法は、まず、共沈法により、ニッケルの塩溶液(例えば、硫酸塩溶液)、異種金属の塩溶液(例えば、コバルトの塩溶液(例えば、硫酸塩溶液)、マンガンの塩溶液(例えば、硫酸塩溶液))と錯化剤とpH調整剤を適宜添加することで、反応槽内にて反応させて、複合水酸化物粒子等を調製して、複合水酸化物粒子等を含むスラリー状の懸濁物を得る。懸濁物の溶媒としては、例えば、水が使用される。
【0041】
錯化剤としては、水溶液中で、ニッケル及び異種金属のイオンと錯体を形成可能なものであれば、特に限定されず、例えば、アンモニウムイオン供給体(硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、弗化アンモニウム等)、ヒドラジン、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ウラシル二酢酸、及びグリシンが挙げられる。なお、沈殿に際しては、水溶液のpH値を調整するため、必要に応じて、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)を添加してもよい。
【0042】
上記塩溶液に加えて、pH調整剤と錯化剤を反応槽に適宜連続して供給すると、ニッケル及び異種金属が共沈反応し、複合水酸化物粒子等が調製される。共沈反応に際しては、反応槽の温度を、例えば、10℃~80℃、好ましくは20℃~70℃の範囲内で制御し、反応槽内のpH値を液温40℃基準で、例えば、pH9~pH13、好ましくはpH11~pH13の範囲内で制御しつつ、反応槽内の物質を、適宜、撹拌する。反応槽としては、例えば、形成された複合水酸化物粒子等を分離するためにオーバーフローさせる連続式や、反応終了まで系外に排出しないバッチ式を挙げることができる。
【0043】
上記のようにして得られた複合水酸化物粒子等を懸濁物から、ろ過後、水洗し、加熱処理することで、所定の広がりを有する粒度分布幅を形成している粉末状の複合水酸化物粒子等が得られる。次に、得られた複合水酸化物粒子等を、分級機により分級する。分級操作により、所定の広がりを有する粒度分布幅を形成している粉末状の複合水酸化物粒子等を、例えば、13μm以上22μm以下の大粒子群の複合水酸化物粒子等、9μm以上12μm以下の中粒子群の複合水酸化物粒子等、3μm以上8μm以下の小粒子群の複合水酸化物粒子等からなる3つの群に分級する。分級機としては、例えば、測定粒子をフィードエアで送り、分級するエルボージェット分級装置を挙げることができる。次に、大粒子群の複合水酸化物粒子等、中粒子群の複合水酸化物粒子等、小粒子群の複合水酸化物粒子等に、それぞれ、リチウム化合物を添加して複合水酸化物粒子等とリチウム化合物との混合物を調製する。従って、分級の結果得られた3つの群について、それぞれ、複合水酸化物粒子等とリチウム化合物との混合物を調製して、3つの混合物を得る。リチウム化合物としては、リチウムを有する化合物あれば、特に限定されず、例えば、炭酸リチウム、水酸化リチウム等を挙げることができる。
【0044】
次に、得られた3つの混合物について、それぞれ、一次焼成を行う。一次焼成後、各一次焼成品を1つにまとめて混合し、さらに二次焼成を行うことで、リチウム二次電池の正極活物質として使用する二次電池用正極活物質粒子を製造することができる。ここで、リチウム化合物が、二次電池用正極活物質粒子の金属及び/または金属化合物を形成する。一次焼成の焼成温度は、例えば、700℃~1000℃、焼成時間は、例えば、5時間~20時間、昇温速度は、例えば、50~550℃/hが挙げられる。一次焼成の雰囲気については、特に限定されないが、例えば、大気、酸素などが挙げられる。一次焼成に用いる焼成炉としては、特に限定されないが、例えば、静置式のボックス炉やローラーハース式連続炉などが挙げられる。また、二次焼成の焼成温度は、例えば、600℃以上900℃以下、焼成時間は、例えば、1~20時間、昇温速度は、例えば、50~550℃/hが挙げられる。二次焼成の雰囲気については、特に限定されないが、例えば、大気、酸素などが挙げられる。二次焼成に用いる焼成炉としては、特に限定されないが、例えば、静置式のボックス炉やローラーハース式連続炉などが挙げられる。また、上記した一次焼成後、各一次焼成品を1つにまとめて混合し、さらに二次焼成を行うことに代えて、各一次焼成品についてそれぞれ二次焼成を行い、その後、各二次焼成品を1つにまとめて混合してもよい。なお、上記分級工程では、大粒子群の複合水酸化物粒子等、中粒子群の複合水酸化物粒子等、小粒子群の複合水酸化物粒子等と、粒子径の大きさに応じて3つの粒子群に分級したが、必要に応じて、粒子径の大きさに応じて、2つの粒子群に分級してもよく、4つ以上の粒子群に分級してもよい。
【0045】
次に、本発明の二次電池用正極活物質粒子を用いた正極について説明する。正極は、正極集電体と、正極集電体表面に形成された、本発明の二次電池用正極活物質粒子を用いた正極活物質層を備える。正極活物質層は、本発明の二次電池用正極活物質粒子と、バインダー(結着剤)と、必要に応じて導電助剤とを有する。導電助剤としては、例えば、二次電池のために使用できるものであれば、特に限定されず、二次電池の種類に応じて適宜選択可能であり、例えば、ニッケル水素二次電池では金属コバルトや酸化コバルト等、リチウム二次電池では、カーボンブラック等の炭素材料を用いることができる。バインダーとしては、特に限定されないが、ポリマー樹脂、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ブタジエンゴム(BR)、ポリビニルアルコール(PVA)、及びカルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等、並びにこれらの組み合わせを挙げることができる。正極集電体としては、特に限定されないが、Al、Ni、ステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を用いることができ、パンチングメタル、エキスパンドメタル、金網、発泡金属(例えば、発泡ニッケル)、網状金属繊維焼結体、金属めっき樹脂板などを挙げることができる。
【0046】
正極の製造方法としては、例えば、先ず、本発明の二次電池用正極活物質粒子と導電助剤と結着剤と水とを混合して正極活物質スラリーを調製する。次いで、上記正極活物質スラリーを正極集電体に、公知の充填方法で充填して乾燥後、プレス等にて圧延・固着することで正極を得ることができる。
【0047】
上記のようにして得られた二次電池用正極活物質粒子を用いた正極と、負極集電体と負極集電体表面に形成された負極活物質を含む負極活物質層を備える負極と、所定の電解質と、セパレータとを、公知の方法で搭載することで二次電池(例えば、ニッケル水素二次電池、リチウム二次電池等)を組み上げることができる。
【実施例
【0048】
次に、本発明の二次電池用正極活物質粒子の実施例を説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、これらの例に限定されるものではない。
【0049】
実施例及び比較例の二次電池用正極活物質粒子の製造
実施例1の二次電池用正極活物質粒子の製造
硫酸亜鉛と硫酸コバルトと硫酸ニッケルとを、所定割合にて溶解した水溶液に、硫酸アンモニウム水溶液(錯化剤)と水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、反応槽内のpHを液温25℃基準で12.0に維持しながら、攪拌機により連続的に攪拌した。生成した複合水酸化物は反応槽のオーバーフロー管からオーバーフローさせて取り出した。取り出した上記複合水酸化物に、水洗、脱水、乾燥の各処理を施して、図1に示す、所定の広がりを有する粒度分布幅を形成している、粉末状の、亜鉛とコバルトの固溶したニッケル含有複合水酸化物粒子を得た。前記複合水酸化物粒子は、二次電池用正極活物質の前駆体である。図1に示す粒度分布幅は、粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製、LA-950)で測定した(原理はレーザ回折・散乱法)。
【0050】
次に、得られた複合水酸化物粒子を、分級機により分級した。分級操作により、図1に示す粒度分布幅を形成している粉末状の複合水酸化物粒子(図1の実施例1の「MIX」)を、13μm以上22μm以下の大粒子群の複合水酸化物粒子(図1の実施例1の[大粒子A])、9μm以上12μm以下の中粒子群の複合水酸化物粒子(図1の実施例1の「中粒子B」)、3μm以上8μm以下の小粒子群の複合水酸化物粒子(図1の実施例1の「小粒子C」)からなる3つの群に分級した。分級機として、分級装置(日鉄鉱業株式会社製、エルボージェット分級装置EJ-L-3)を用い、分級エッジ距離Mを47.0mm、分級エッジ距離Fを8.5mm、エアー圧力を0.5Mpaで設定し、測定粒子をフィードエアで送り、分級した。
【0051】
コバルトを含む被覆層の形成
次に、大粒子群の複合水酸化物粒子、中粒子群の複合水酸化物粒子、小粒子群の複合水酸化物粒子に、それぞれ、水を添加して、大粒子群の複合水酸化物粒子を含む懸濁物、中粒子群の複合水酸化物粒子を含む懸濁物、小粒子群の複合水酸化物粒子を含む懸濁物を調製した。これら3つの懸濁物を、水酸化ナトリウムでpHを液温25℃基準で9~13の範囲に維持した反応浴中のアルカリ水溶液に投入した。投入後、該溶液を撹拌しながら、濃度90g/Lの硫酸コバルト水溶液を滴下した。この間、水酸化ナトリウム水溶液を適宜滴下して、反応浴のpHを液温25℃基準で9~13の範囲に維持して、前記複合水酸化物粒子の表面に水酸化コバルトの被覆層を形成させて、水酸化コバルトで被覆された、亜鉛とコバルトの固溶したニッケル含有複合水酸化物粒子の懸濁液を得た。
【0052】
水酸化コバルトで被覆された、亜鉛とコバルトの固溶したニッケル含有複合水酸化物粒子の酸化処理
次に、水酸化コバルトの被覆層が形成された複合水酸化物粒子を含む3つの懸濁物を1つにまとめて混合後、固相と液相に分離した。固液分離後、乾燥した水酸化コバルトの被覆層が形成された複合水酸化物粒子100gに、48質量%水酸化ナトリウム水溶液を10g添加して混合し、100℃で加熱する酸化処理を行って、オキシ水酸化コバルトの被覆層が形成された、実施例1のニッケル水素二次電池用である正極活物質粒子を得た。得られた実施例1のニッケル水素二次電池用である正極活物質粒子について、D90、D50、D10における亜鉛とコバルトの固溶したニッケル含有複合水酸化物粒子の金属量に対する被覆層であるオキシ水酸化コバルトの金属量のモル比は、ニッケル含有複合化合物(ニッケル含有複合水酸化物粒子)の金属量(モル数)に対する、被覆層である金属及び/または金属化合物(オキシ水酸化コバルト)の金属量(モル数)のモル比について、(D10の上記モル比-D90の上記モル比)/D50の式を用いて求めた。
【0053】
比較例1の二次電池用正極活物質粒子の製造
図1に示す粒度分布幅を形成している粉末状の複合水酸化物粒子に対して、分級操作をせずに、コバルトを含む被覆層を形成した以外は、実施例1と同様にして、比較例1の二次電池用正極活物質粒子を製造した。また、得られた比較例1のニッケル水素二次電池用である正極活物質粒子について、D90、D50、D10における亜鉛とコバルトの固溶したニッケル含有複合水酸化物粒子の金属量に対する被覆層であるオキシ水酸化コバルトの金属量のモル比は、実施例1と同様にして求めた。
【0054】
実施例2の二次電池用正極活物質粒子の製造
硫酸マンガンと硫酸コバルトと硫酸ニッケルとを、所定割合にて溶解した水溶液に、硫酸アンモニウム水溶液を滴下して反応槽内で反応温度30.0℃、液温40℃基準で反応pH11.9になるように水酸化ナトリウムを適時滴下し、コバルトとマンガンの固溶したニッケル含有複合水酸化物を得た。この複合水酸化物は、反応槽のオーバーフロー管から連続的にオーバーフローさせて取り出し、濾過後、水洗し、100℃乾燥の各処理を施して、図2に示す、所定の広がりを有する粒度分布幅を形成している、粉末状の、コバルトとマンガンの固溶したニッケル含有複合水酸化物粒子を得た。前記複合水酸化物粒子は、二次電池用正極活物質の前駆体である。図2に示す粒度分布幅は、粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製、LA-950)で測定した(原理はレーザ回折・散乱法)。
【0055】
次に、得られた複合水酸化物粒子を、分級機により分級した。分級操作により、図2に示す粒度分布幅を形成している粉末状の複合水酸化物粒子(図2の実施例2の「MIX」)を、13μm以上22μm以下の大粒子群の複合水酸化物粒子(図2の実施例2の[大粒子A])、9μm以上12μm以下の中粒子群の複合水酸化物粒子(図2の実施例2の「中粒子B」)、3μm以上8μm以下の小粒子群の複合水酸化物粒子(図2の実施例2の「小粒子C」)からなる3つの群に分級した。分級機として、分級装置(日鉄鉱業株式会社製、エルボージェット分級装置EJ-L-3)を用い、分級エッジ距離Mを46.0mm、分級エッジ距離Fを9.5mm、エアー圧力を0.5Mpaで設定し、測定粒子をフィードエアで送り、分級した。
【0056】
次に、乾燥粉末である、大粒子群の複合水酸化物粒子、中粒子群の複合水酸化物粒子、小粒子群の複合水酸化物粒子に、それぞれ、炭酸リチウム粉末を200g添加して混合し、複合水酸化物粒子と炭酸リチウムとの混合物を調製した。従って、分級の結果得られた3つの群について、それぞれ、複合水酸化物粒子と炭酸リチウムとの混合物を調製して、3つの混合物を得た。
【0057】
次に、得られた3つの混合物について、それぞれ、一次焼成を行った。一次焼成の焼成温度は740℃、焼成時間は8時間、昇温速度は200℃/hとし、一次焼成の雰囲気については、大気とした。また、一次焼成の焼成炉としては、ボックス炉を用いた。一次焼成後、分級された3つの一次焼成品を1つにまとめて混合し、さらに二次焼成を行った。二次焼成の焼成温度は940℃、焼成時間は8時間、昇温速度は200℃/hとし、二次焼成の雰囲気については、大気とした。また、二次焼成の焼成炉としては、ボックス炉を用いた。このようにして、少なくとも一部のリチウムがマンガンとコバルトの固溶したニッケル含有複合酸化物粒子に含浸した、実施例2のリチウム二次電池の正極活物質として使用する二次電池用正極活物質粒子を製造した。得られた実施例2のリチウム二次電池用である正極活物質粒子について、D90、D50、D10におけるマンガンとコバルトの固溶したニッケル含有複合酸化物粒子の金属量に対するリチウムのモル比は、ニッケル含有複合化合物(ニッケル含有複合酸化物粒子)の金属量(モル数)に対する金属及び/または金属化合物(炭酸リチウム)の金属量(モル数)のモル比について、(D10の上記モル比-D90の上記モル比)/D50の式を用いて求めた。
【0058】
比較例2の二次電池用正極活物質粒子の製造
図2に示す粒度分布幅を形成している粉末状の複合水酸化物粒子に対して、分級操作をせずに、炭酸リチウム粉末を200g添加して一次焼成を行った以外は、実施例2と同様にして、比較例2の二次電池用正極活物質粒子を製造した。比較例2のリチウム二次電池用である正極活物質粒子について、D90、D50、D10におけるマンガンとコバルトの固溶したニッケル含有複合酸化物粒子の金属量に対するリチウムのモル比は、実施例2と同様にして求めた。
【0059】
実施例3の二次電池用正極活物質粒子の製造
硫酸マンガンと硫酸コバルトと硫酸ニッケルとを、所定割合にて溶解した水溶液を用い、図3に示す粒度分布幅を形成している粉末状の複合水酸化物粒子(図3の実施例3の「MIX」)を用いて13μm以上22μm以下の大粒子群の複合水酸化物粒子(図3の実施例3の[大粒子A])、9μm以上12μm以下の中粒子群の複合水酸化物粒子(図3の実施例3の「中粒子B」)、3μm以上8μm以下の小粒子群の複合水酸化物粒子(図3の実施例3の「小粒子C」)からなる3つの群に分級した以外は、実施例2と同様にして、実施例3のリチウム二次電池の正極活物質として使用する二次電池用正極活物質粒子を製造した。実施例3のリチウム二次電池用である正極活物質粒子について、D90、D50、D10におけるマンガンとコバルトの固溶したニッケル含有複合酸化物粒子の金属量に対するリチウムのモル比は、実施例2と同様にして求めた。
【0060】
比較例3の二次電池用正極活物質粒子の製造
図3に示す粒度分布幅を形成している粉末状の複合水酸化物粒子に対して、分級操作をせずに、炭酸リチウム粉末を添加して一次焼成を行った以外は、実施例3と同様にして、比較例3の二次電池用正極活物質粒子を製造した。比較例3のリチウム二次電池用である正極活物質粒子について、D90、D50、D10におけるマンガンとコバルトの固溶したニッケル含有複合酸化物粒子の金属量に対するリチウムのモル比は、実施例2と同様にして求めた。
【0061】
実施例1~3、比較例1~3の成分組成、D90、D50、D10におけるニッケル含有複合化合物の金属量に対する金属及び/または金属化合物の金属量のモル比を、下記表1~3に示す。
【0062】
実施例1~3と比較例1~3の二次電池用正極活物質粒子の評価項目は、以下の通りである。
【0063】
(1)二次電池用正極活物質粒子の組成分析
組成分析は、得られた二次電池用正極活物質粒子を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析装置(株式会社パーキンエルマージャパン製、Optima7300DV)を用いて行った。
【0064】
(2)D10、D50、D90
粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製、LA-950)で測定した(原理はレーザ回折・散乱法)。
【0065】
(3)BET比表面積(BET)
比表面積測定装置(株式会社マウンテック製、Macsorb)を用い、1点BET法によって測定した。
(4)タップ密度(TD)
タップデンサー(株式会社セイシン企業製、KYT-4000)を用いて、JISR1628に記載の手法のうち、定容積測定法によって測定を行った。
(5)バルク密度(BD)
試料を自然落下させて容器に充填し、容器の容積と試料の質量からバルク密度を測定した。
【0066】
(6)体積抵抗率
株式会社三菱ケミカルアナリテック製、MCP-PD51型の粉体抵抗率システム(ロレスタ)を使用し、下記条件にて、実施例1~3と比較例1~3の体積抵抗率(Ω・cm)を測定し、比較例の体積抵抗率に対する実施例の体積抵抗率の割合を算出した。
使用プローブ:四探針プローブ
電極間隔:3.0mm
電極半径:0.7mm
試料半径:10.0mm
試料質量:3.00g
印加圧力:20kPa
【0067】
評価結果を下記表1~4に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
【表3】
【0071】
【表4】
【0072】
表4から、ニッケル含有複合化合物(実施例1ではニッケル含有複合水酸化物粒子、実施例2、3ではニッケル含有複合酸化物粒子)の金属量(モル数)に対する金属及び/または金属化合物(実施例1ではオキシ水酸化コバルト、実施例2、3ではリチウム)の金属量(モル数)のモル比について、(D10の上記モル比-D90の上記モル比)/D50の上記モル比の値が0.00以上0.08以下の範囲に抑えられている実施例1~3では、ニッケル含有複合化合物(比較例1ではニッケル含有複合水酸化物粒子、比較例2、3ではニッケル含有複合酸化物粒子)の金属量(モル数)に対する金属及び/または金属化合物(比較例1ではオキシ水酸化コバルト、比較例2、3ではリチウム)の金属量(モル数)のモル比について、(D10の上記モル比-D90の上記モル比)/D50の上記モル比の値が0.09以上である比較例1~3と比較して、体積抵抗率を低減することができた。従って、実施例1~3の二次電池用正極活物質粒子では、優れた導電性を有するので、二次電池の出力と利用率をさらに改善できることが判明した。
【0073】
また、表1~3から、実施例1~3では、従来の二次電池用正極活物質粒子に対応する比較例1~3と同等のタップ密度(TD)及びバルク密度(BD)が得られたので、実施例1~3の二次電池用正極活物質粒子は、優れた充填密度にて正極に搭載できることが判明した。二次電池用正極活物質粒子の前駆体である複合水酸化物粒子または複合酸化物粒子の粒度分布幅は、二次電池用正極活物質粒子の粒度分布幅にほぼ対応するところ、図1~3から、複合水酸化物粒子または複合酸化物粒子について(D90-D10)/D50の値が0.80以上1.20以下であることから、実施例1~3にて、良好なタップ密度(TD)とバルク密度(BD)が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の二次電池用正極活物質は、所定の広がりを有する粒度分布幅を形成する二次電池用正極活物質粒子全体として、優れた導電性を有するので、広汎な分野で利用可能であり、例えば、さらなる高出力化と利用率向上の要求がなされている携帯機器や車両等の移動体に搭載する二次電池の分野で利用価値が高い。
図1
図2
図3