(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】シートベルトリトラクタ及びシートベルト装置
(51)【国際特許分類】
B60R 22/34 20060101AFI20240801BHJP
B60R 22/405 20060101ALI20240801BHJP
B60R 22/46 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
B60R22/34
B60R22/405
B60R22/46 142
(21)【出願番号】P 2019224022
(22)【出願日】2019-12-11
【審査請求日】2022-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】318002149
【氏名又は名称】Joyson Safety Systems Japan合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118267
【氏名又は名称】越前 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 清史
(72)【発明者】
【氏名】浅子 忠之
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-206285(JP,A)
【文献】特開2018-099943(JP,A)
【文献】特開2017-218086(JP,A)
【文献】特開2015-054650(JP,A)
【文献】国際公開第2009/123314(WO,A1)
【文献】特開2000-302012(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 22/00 - 22/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員を拘束するウェビングの巻き取りを行うスプールと、該スプールを回転可能に内包するベースフレームと、緊急時に前記ウェビングを巻き取り可能なプリテンショナと、前記ウェビングの引き出しを停止可能なロック機構と、前記スプールと前記ロック機構とを連結するロッキングベースと、を備えたシートベルトリトラクタにおいて、
前記プリテンショナは、前記ロッキングベースの軸部に配置されたリングギアと、前記リングギアを回転させる動力伝達部材と、を含み、
前記ベースフレームは、前記ロッキングベースを挿通する開口部と、該開口部の内周に形成され前記ロック機構の一部と係止可能なロック歯と、前記ロッキングベースの外周面の少なくとも一部に対峙するとともに前記開口部に沿って配置されたガイド部材と、を備え、
前記ガイド部材は、前記プリテンショナの作動開始から
、前記動力伝達部材が塑性変形しながら前記リングギアを回転させる状態である定常駆動状態に移行するまでの間は、前記ロッキングベースと前記ロック歯との接触を規制し、前記プリテンショナが定常駆動状態に移行した後は前記ロッキングベースと前記ロック歯との接触を許容するように構成されている、
ことを特徴とするシートベルトリトラクタ。
【請求項2】
前記ガイド部材は、前記プリテンショナが定常駆動状態に移行する前に前記ロッキングベースと接触するように構成されている、請求項1に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項3】
前記ガイド部材は、前記プリテンショナが定常駆動状態に移行したときに塑性変形するように構成されている、請求項2に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項4】
前記ガイド部材と前記ロッキングベースとの隙間αは、前記ロッキングベースと前記開口部との隙間βと同等以下の大きさに設定されている、請求項1に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項5】
前記ガイド部材は、その背面が前記ベースフレームとの間に所定の隙間γを有するように構成されている、請求項1に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項6】
前記ガイド部材は、前記動力伝達部材が前記リングギアを回転させる部分の反対側の領域に配置されている、請求項1に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項7】
前記ガイド部材は、かしめによって前記ベースフレームに固定されている、請求項1に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項8】
請求項1~請求項7の何れか一項に記載のシートベルトリトラクタを含む、ことを特徴とするシートベルト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートベルトリトラクタ及びシートベルト装置に関し、特に、スプールの回転軸の偏心量を調整することができる、シートベルトリトラクタ及びシートベルト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、一般に、乗員が着座する腰掛部と乗員の背面に位置する背もたれ部とを備えたシートに乗員を拘束するシートベルト装置が設けられている。かかるシートベルト装置は、乗員を拘束するウェビングと、ウェビングの巻き取りを行うシートベルトリトラクタと、シートの側面に配置されたバックルと、ウェビングに配置されたトングと、を備え、トングをバックルに嵌着させることによってウェビングにより乗員をシートに拘束している。
【0003】
また、シートベルトリトラクタは、一般に、ウェビングの巻き取りを行うスプールと、スプールを回転可能に内包するベースフレームと、緊急時に前記ウェビングを巻き取り可能なプリテンショナと、ウェビングの引き出しを停止可能なロック機構と、スプールとロック機構とを連結するロッキングベースと、を備えていることが多い。
【0004】
かかるプリテンショナを備えたシートベルトリトラクタにおいて、車両衝突時等の緊急時には、プリテンショナの作動時にスプールの回転軸が偏心し、ロッキングベースがベースフレームの開口部に形成されたロック歯に接触して摩擦抵抗が増大してしまうという問題がある。
【0005】
この問題を解決するために、特許文献1に記載された発明では、ロックベース(38)の外周を覆うカバープレート(26)に設けられ、ロックベース(38)を回転可能に支持するガイド(30)を設けている。なお、ロックベースはロッキングベースに相当し、カバープレートはプリテンショナカバーに相当する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、車両衝突時等のように乗員の上体が前方に移動した場合には、シートベルトリトラクタにプリテンショナ作動時以上の負荷が生じることもある。このような場合には、乗員に生じたエネルギーを吸収するために、ウェビングにある程度の抵抗を負荷しながら少しずつ引き出した方がよいこともある。
【0008】
しかしながら、上述した特許文献1に記載された発明では、ガイド(30)を配置したことにより、ロックベース(38)とカバープレート(26)の開口部に形成された内歯とが常に接触しない状態であることから、エネルギー吸収時におけるウェビングの抵抗が不足する可能性がある。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑み創案されたものであり、プリテンショナ作動時における摩擦抵抗の増大を抑制しつつ、エネルギー吸収時におけるウェビングに負荷される抵抗の増大を図ることができる、シートベルトリトラクタ及びシートベルト装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、乗員を拘束するウェビングの巻き取りを行うスプールと、該スプールを回転可能に内包するベースフレームと、緊急時に前記ウェビングを巻き取り可能なプリテンショナと、前記ウェビングの引き出しを停止可能なロック機構と、前記スプールと前記ロック機構とを連結するロッキングベースと、を備えたシートベルトリトラクタにおいて、前記プリテンショナは、前記ロッキングベースの軸部に配置されたリングギアと、前記リングギアを回転させる動力伝達部材と、を含み、前記ベースフレームは、前記ロッキングベースを挿通する開口部と、該開口部の内周に形成され前記ロック機構の一部と係止可能なロック歯と、前記ロッキングベースの外周面の少なくとも一部に対峙するとともに前記開口部に沿って配置されたガイド部材と、を備え、前記ガイド部材は、前記プリテンショナの作動開始から、前記動力伝達部材が塑性変形しながら前記リングギアを回転させる状態である定常駆動状態に移行するまでの間は、前記ロッキングベースと前記ロック歯との接触を規制し、前記プリテンショナが定常駆動状態に移行した後は前記ロッキングベースと前記ロック歯との接触を許容するように構成されている、ことを特徴とするシートベルトリトラクタが提供される。
【0011】
前記ガイド部材は、前記プリテンショナが定常駆動状態に移行する前に前記ロッキングベースと接触するように構成されていてもよい。
【0012】
さらに、前記ガイド部材は、前記プリテンショナが定常駆動状態に移行したときに塑性変形するように構成されていてもよい。
【0013】
また、前記ガイド部材と前記ロッキングベースとの隙間αは、前記ロッキングベースと前記ロック歯との隙間βと同等以下の大きさに設定されていてもよい。
【0014】
また、前記ガイド部材は、その背面が前記ベースフレームとの間に所定の隙間γを有するように構成されていてもよい。
【0015】
また、前記ガイド部材は、前記動力伝達部材が前記リングギアを回転させる部分の反対側の領域に配置されていてもよい。
【0016】
また、前記ガイド部材は、かしめによって前記ベースフレームに固定されていてもよい。
【0017】
また、本発明によれば、上述した何れか一つの構成を備えたシートベルトリトラクタを含む、ことを特徴とするシートベルト装置が提供される。
【発明の効果】
【0018】
上述した本発明に係るシートベルトリトラクタ及びシートベルト装置によれば、ロッキングベースの外周面と対峙する位置にガイド部材を配置したことにより、プリテンショナの作動開始時にスプールの回転軸が偏心した場合であっても、ロッキングベースがガイド部材に接触することによって、ロッキングベースとロック歯との接触を規制することができ、摩擦抵抗の増大を抑制することができる。
【0019】
また、ガイド部材は、プリテンショナが定常駆動状態に移行した後はロッキングベースとロック歯との接触を許容するように構成されていることから、プリテンショナの作動完了後における乗員のエネルギー吸収時にウェビングに負荷される抵抗の増大を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係るシートベルトリトラクタを示す部品展開図である。
【
図2】
図1に示したシートベルトリトラクタの組み付け状態における水平断面図である。
【
図3】ガイド部材の作用を示す断面図であり、(A)は初期状態、(B)はプリテンショナの作動開始状態、(C)はプリテンショナの定常駆動状態、を示している。
【
図4】プリテンショナの初期状態を示す図であり、(A)は
図2におけるA-A矢視断面図、(B)は
図2におけるB-B矢視断面図、である。
【
図5】プリテンショナの作動開始状態を示す図であり、(A)は
図2におけるA-A矢視断面図、(B)は
図2におけるB-B矢視断面図、である。
【
図6】プリテンショナの定常駆動状態を示す図であり、(A)は
図2におけるA-A矢視断面図、(B)は
図2におけるB-B矢視断面図、である。
【
図7】本発明の一実施形態に係るシートベルト装置を示す全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について
図1~
図7を用いて説明する。ここで、
図1は、本発明の一実施形態に係るシートベルトリトラクタを示す部品展開図である。
図2は、
図1に示したシートベルトリトラクタの組み付け状態における水平断面図である。なお、
図1及び
図2において、ウェビングの図は省略してある。また、
図2において、説明の便宜上、ガイド部材を灰色に塗り潰して図示してある。
【0022】
本発明の一実施形態に係るシートベルトリトラクタ1は、例えば、
図1及び
図2に示したように、乗員を拘束するウェビングの巻き取りを行うスプール2と、スプール2を回転可能に内包するベースフレーム3と、緊急時にウェビングを巻き取り可能なプリテンショナ4と、ウェビングの引き出しを停止可能なロック機構5と、スプール2とロック機構5とを連結するロッキングベース6と、を備え、ベースフレーム3は、ロッキングベース6を挿通する開口部32aと、開口部32aの内周に形成されロック機構5の一部と係止可能なロック歯32bと、ロッキングベース6の外周面の少なくとも一部に対峙するとともに開口部32aに沿って配置されたガイド部材7と、を備えている。
【0023】
スプール2は、ウェビングを巻き取る巻胴であり、シートベルトリトラクタ1の骨格を形成するベースフレーム3内に回転可能に収容されている。ベースフレーム3は、例えば、対峙する一対の第一端面31及び第二端面32と、第一端面31及び第二端面32を連結する側面33と、により構成されており、いわゆる角型のU字形状を有している。ベースフレーム3は、側面33と対峙し第一端面31及び第二端面32に接続されるタイプレート34を備えていてもよい。
【0024】
また、本実施形態に係るシートベルトリトラクタ1では、第一端面31側にスプリングユニット8が配置され、第二端面32側にプリテンショナ4及びロック機構5が配置されている。なお、スプリングユニット8、プリテンショナ4、ロック機構5等の配置は、図示した構成に限定されるものではない。例えば、第一端面31側にプリテンショナ4及びスプリングユニット8が配置され、第二端面32側にロック機構5が配置されていてもよい。
【0025】
ベースフレーム3の第一端面31には、スプール2の軸部を挿通する開口部31aが形成されており、ベースフレーム3の第二端面32には、ロック機構5のパウル(図示せず)と係止可能なロック歯32bを有する開口部32aが形成されている。また、ベースフレーム3の第二端面32の内面(第一端面31と対峙する側の面)には、プリテンショナ4の動力伝達部材42の通路を形成するプリテンショナカバー48が配置される。また、ベースフレーム3の第二端面32の外面(内面の裏側の面)にはロック機構5が配置され、ロック機構5はリテーナカバー53内に収容される。
【0026】
リテーナカバー53には、車体の急減速や傾きを検出するビークルセンサ9が配置されていてもよい。ビークルセンサ9は、例えば、球形の質量体と、質量体の移動によって揺動されるセンサレバーと、を有している。また、ビークルセンサ9は、ベースフレーム3の第二端面32に形成された開口部に嵌め込まれて固定されていてもよい。
【0027】
スプール2は、例えば、中心部に空洞を有し、軸心を形成するトーションバー21が挿通されている。トーションバー21は、第一端部211がスプリングユニット8のスプリングコア81に接続されており、第二端部212がロッキングベース6に接続されている。
【0028】
また、スプール2の第一端部2aは、トーションバー21の第一端部211を挿通可能かつ拡径部213に係合可能な開口部2bを有している。拡径部213の外周は、波形状又は角形状を有しており、開口部2bの内周は、拡径部213の外周を挿入可能な対応した形状を有している。
【0029】
したがって、スプール2は、第一端部2a側がトーションバー21に固定されている。すなわち、スプール2は、トーションバー21の第一端部211を介してスプリングユニット8に接続されており、スプリングユニット8に格納されたゼンマイバネによりウェビングを巻き取る方向に付勢されている。
【0030】
また、スプール2の第二端部2cは、ロッキングベース6の接続部61を挿通可能な円形状の開口部2dを備えており、開口部2dの内周面と接続部61の外周面とは相対回転可能に構成されている。
【0031】
なお、トーションバー21は必要に応じて省略してもよい。また、スプール2に巻き取り力を付与する手段は、スプリングユニット8に限定されるものではなく、電動モータ等を用いた他の手段であってもよい。
【0032】
ロッキングベース6は、例えば、
図2に示したように、スプール2の開口部2dに挿通される接続部61と、プリテンショナ4の作動によって回転されるリングギア41が配置される軸部62と、ベースフレーム3の第二端面32に形成された開口部32aよりも大きな径を有するフランジ部63と、開口部32aに挿通される略円柱形状又は略円筒形状の凸部64と、を備えている。
【0033】
接続部61は、例えば、円筒面形状の外形を有している。また、接続部61は、スプール2の開口部2dに挿通され、スプール2の第二端部2cと接続部61とは、周方向に相対回転可能に構成されている。軸部62は、例えば、角柱面形状の外形を有している。また、リングギア41は、軸部62の外形に対応した開口部を有しており、リングギア41は軸部62に嵌め合わされて固定される。また、軸部62には、リングギア41とスプール2との間に配置されるベアリング49が配置されていてもよい。
【0034】
フランジ部63は、ロッキングベース6の抜け止めとして機能する部分であるため、ベースフレーム3の開口部32aの孔径よりも大きな径を有している。凸部64には、側面部から出没可能に配置されたパウル(図示せず)が配置されている。ロック機構5の作動時には、パウルをロッキングベース6の側面部から突出させることにより、ベースフレーム3の開口部32aに形成されたロック歯32bに係止させ、ロッキングベース6のウェビング引き出し方向の回転を拘束する。
【0035】
したがって、ロック機構5が作動した状態で、ウェビング引き出し方向に荷重が負荷された場合であっても、トーションバー21に閾値以上の荷重が生じるまでは、スプール2を非回転状態に保持することができる。そして、トーションバー21に閾値以上の荷重が生じた場合には、トーションバー21が捻れることによって、スプール2が相対的に回転運動を生じ、ウェビングが引き出される。
【0036】
ロック機構5は、ロッキングベース6に隣接するように配置されたロックギア51と、ロックギア51に揺動可能に配置されたフライホイール52と、ロックギア51及びフライホイール52を収容するリテーナカバー53と、を備えている。そして、ウェビングが通常の引き出し速度よりも早い場合には、フライホイール52が揺動してリテーナカバー53に立設された壁部材53aに形成された内歯に係止する。また、ビークルセンサ9が作動した場合には、そのセンサレバーがロックギア51の外周面に形成された外歯に係止する。
【0037】
このように、ロックギア51は、フライホイール52又はビークルセンサ9の作動によりその回転が規制される。そして、ロックギア51の回転が規制されると、ロッキングベース6とロックギア51との間に相対回転が生じ、この相対回転に伴ってパウルがロッキングベース6(凸部64)の側面部から突出される。
【0038】
なお、ロック機構5は、図示した構成に限定されるものではなく、従来から存在している種々の構成のものを任意に選択して使用することができる。また、スプール2は、トーションバー21の代わりに、シャフトとワイヤ状又はプレート状の塑性変形部材との組み合わせによって構成される衝撃吸収機構を備えていてもよい。
【0039】
プリテンショナ4は、例えば、ロッキングベース6の軸部62に配置されたリングギア41と、リングギア41を回転させる動力伝達部材42と、動力伝達部材42を収容するとともに移動を案内するパイプ43と、動力伝達部材42に推進力を付与するガス発生器44と、動力伝達部材42の後端に配置され動力伝達部材42とパイプ43との隙間を封止するピストン45と、パイプ43の先端に配置され動力伝達部材42をリングギア41に案内するガイドブロック46と、リングギア41の外周に動力伝達部材42の移動空間を形成するガイドスペーサ47と、リングギア41及びガイドスペーサ47を収容するプリテンショナカバー48と、リングギア41及びスプール2の間に配置されるベアリング49と、を備えている。なお、リングギア41は駆動輪や回転部材と称することもある。
【0040】
動力伝達部材42は、例えば、
図1に示したように、樹脂製の細長いロッド形状を有しており、リングギア41の歯に噛み込まれて塑性変形しながら移動し、リングギア41を回転させるように構成されている。また、
図2に示したように、リングギア41の両側には、ロッキングベース6のフランジ部63及びベアリング49が配置されており、フランジ部63及びベアリング49のリングギア41と隣接する部分には動力伝達部材42と干渉しないように凹部が形成されている。
【0041】
なお、プリテンショナ4の構成は、図示した構成に限定されるものではない。例えば、動力伝達部材42として、金属製の球体を使用したものであってもよいし、棒状のラックを使用したものであってもよい。また、プリテンショナ4は、ガイドブロック46に代えて、パイプ43の一部を延長した部分で動力伝達部材42の移動を案内する構成であってもよい。
【0042】
また、本実施形態では、プリテンショナ4をベースフレーム3の内面側(第一端面31と対峙する側)に配置した場合を図示しているが、プリテンショナ4をベースフレーム3の外面側(第二端面32のロック機構5が配置される側)に配置してもよい。この場合、プリテンショナカバー48は、ベースフレーム3の第二端面32の外側に配置される。
【0043】
ガイド部材7は、例えば、
図1に示したように、略部分円環形状を有している。ここで、「略部分円環形状」とは、全体として部分円環形状であることを意味している。また、ガイド部材7を構成する部分円環形状は、例えば、約90°の中心角を有している。また、ガイド部材7は、一つの部材で部分円環形状を形成する場合に限定されず、複数の長さの短い部分円環形状を所定の間隔で配置することによって構成するようにしてもよい。また、ガイド部材7は、アルミニウム等の合金を金型内に圧入して成形した鋳造品(ダイカスト製品)であってもよい。
【0044】
ガイド部材7は、
図2に示したように、ロッキングベース6のフランジ部63の外周面に対峙するようにベースフレーム3の第二端面32に固定される。フランジ部63は、図示したように、ロッキングベース6の最大径部に相当する部分である。ここで、ガイド部材7とフランジ部63との隙間をαとし、ロッキングベース6の凸部64とベースフレーム3の第二端面32に形成されたロック歯32bの歯先との隙間をβとすれば、隙間αは隙間βよりも僅かに小さい大きさに設定される。なお、隙間αは隙間βと同じ大きさであってもよい。すなわち、隙間αと隙間βの大きさは、α≦βの関係を満たすように設定される。
【0045】
このように、隙間αを隙間βと同等以下の大きさに設定したことにより、例えば、プリテンショナ4の作動時にロッキングベース6がガイド部材7に向かって移動した場合であっても、ロッキングベース6のフランジ部63が最初にガイド部材7に接触し、ロッキングベース6の移動を規制することができる。したがって、ロッキングベース6(凸部64)のロック歯32bへの接触を抑制することができる。
【0046】
また、ガイド部材7は、ベースフレーム3の第二端面32に形成された複数の留め孔32cに固定される。ガイド部材7は、留め孔32cに各々挿通される複数の突起71を備えている。突起71は、留め孔32cに挿通された後、突起71をかしめる(加圧して塑性変形させる)ことによってベースフレーム3に固定される。なお、突起71の個数は二つ以上であればよく、図示した構成に限定されるものではない。
【0047】
また、ガイド部材7の固定方法は、かしめに限定されるものではなく、例えば、ボルト、ピン、接着剤等により固定してもよい。なお、ガイド部材7は、ロッキングベース6との狭い隙間αを調整する部材であるとともに一定の耐荷重が必要となる部材であるため、位置決め精度及び強度に優れたかしめを利用するとよい。
【0048】
また、
図2に示したように、ガイド部材7の背面は、ベースフレーム3を構成するタイプレート34との間に所定の隙間γを有するように構成されている。かかる隙間γを形成することによって、後述するように、ガイド部材7をタイプレート34に向かって塑性変形可能な空間を確保することができる。
【0049】
次に、上述したガイド部材7の作用について、
図3(A)~
図3(C)を参照しつつ説明する。ここで、
図3は、ガイド部材の作用を示す断面図であり、(A)は初期状態、(B)はプリテンショナの作動開始状態、(C)はプリテンショナの定常駆動状態、を示している。なお、各図において、説明の便宜上、ガイド部材を灰色に塗り潰して図示してある。
【0050】
また、ガイド部材7の作用は、プリテンショナ4の作動と関連していることから、
図4(A)~
図6(B)に示したプリテンショナ4の作動状態を適宜参照する。ここで、
図4は、プリテンショナの初期状態を示す図であり、(A)は
図2におけるA-A矢視断面図、(B)は
図2におけるB-B矢視断面図、である。
図5は、プリテンショナの作動開始状態を示す図であり、(A)は
図2におけるA-A矢視断面図、(B)は
図2におけるB-B矢視断面図、である。
図6は、プリテンショナの定常駆動状態を示す図であり、(A)は
図2におけるA-A矢視断面図、(B)は
図2におけるB-B矢視断面図、である。
【0051】
なお、
図4(B)、
図5(B)及び
図6(B)において、説明の便宜上、動力伝達部材42を点線で図示してある。また、
図4(B)、
図5(B)及び
図6(B)において、説明の便宜上、ロッキングベース6を灰色に塗り潰して図示してある。
【0052】
図4(A)に示したように、プリテンショナ4の初期状態、すなわち、作動前の状態では、動力伝達部材42は、リングギア41から離れた位置に待機している。このとき、プリテンショナ4からロッキングベース6に入力される荷重は存在しないことから、
図4(B)に示したように、ロッキングベース6は偏心していない状態にある。したがって、
図3(A)に示したように、ガイド部材7とロッキングベース6(フランジ部63)との間には隙間αが形成されている。
【0053】
プリテンショナ4が作動すると、
図5(A)に示したように、動力伝達部材42はパイプ43から押し出され、ガイドブロック46によって偏向され、リングギア41の歯に衝突する。このとき、動力伝達部材42の推進力Fdによって、リングギア41には図の左下方向(時計の短針で表現すれば略8時の方向)の荷重Fpが生じることとなる。
【0054】
リングギア41は、ロッキングベース6の軸部62に固定されていることから、ロッキングベース6は、
図5(B)に示したように、荷重Fpによって図の左下方向(時計の短針で表現すれば略8時の方向)に移動することとなる。このとき、
図3(B)に示したように、ロッキングベース6のフランジ部63は、ガイド部材7に向かって移動し、移動方向の断面において隙間αは消失(α=0)し、フランジ部63がガイド部材7に接触し、ロッキングベース6の移動が規制される。
【0055】
さらに動力伝達部材42が進行すると、
図6(A)に示したように、動力伝達部材42は、リングギア41とガイドブロック46との間に入り込み、塑性変形しながらリングギア41を回転させる。この状態を本明細書では「定常駆動状態」と称している。この定常駆動状態において、動力伝達部材42は、リングギア41とガイドブロック46との狭い隙間に押し込まれることから、動力伝達部材42の推進力Fdによって、リングギア41には動力伝達部材42の進入方向に対して略垂直な方向(時計の短針で表現すれば略10時方向)の荷重Fvが生じることとなる。
【0056】
リングギア41は、ロッキングベース6の軸部62に固定されていることから、ロッキングベース6は、
図6(B)に示したように、荷重Fvによって動力伝達部材42の進入方向に対して垂直な方向(時計の短針で表現すれば略10時方向)に移動することとなる。このとき、
図3(C)に示したように、ロッキングベース6は、ガイド部材7に向かって押し込まれて移動し、移動方向の断面において隙間βは消失(β=0)し、フランジ部63がガイド部材7を塑性変形させる。なお、ガイド部材7の背面に形成された隙間γは、ガイド部材7が塑性変形した場合であっても消失しないように設定されている。
【0057】
上述したように、本実施形態に係るガイド部材7は、プリテンショナ4の作動開始から定常駆動状態に移行するまでの間はロッキングベース6(凸部64)とロック歯32bとの接触を規制し、プリテンショナ4が定常駆動状態に移行した後はロッキングベース6(凸部64)とロック歯32bとの接触を許容するように構成されている。
【0058】
したがって、本実施形態に係るシートベルトリトラクタ1によれば、ロッキングベース6(フランジ部63)がガイド部材7に接触することによって、プリテンショナ4の作動開始時における摩擦抵抗の増大を抑制することができる。
【0059】
また、ガイド部材7は、プリテンショナ4が定常駆動状態に移行した後はロッキングベース6(凸部64)とロック歯32bとの接触を許容するように構成されていることから、プリテンショナ4の作動完了後における乗員のエネルギー吸収時にウェビングに負荷される抵抗の増大を図ることができる。
【0060】
また、シートベルトリトラクタ1がエネルギー吸収量の上限を制限するストッパーを有する場合に、事象によってはその上限を超える荷重がシートベルトリトラクタ1に負荷される可能性がある。このような場合であっても、本実施形態によれば抵抗の増大を図ることができ、エネルギー吸収量の上限を超える荷重に対しても耐えることができる。
【0061】
ところで、本発明の目的を達成するために、プリテンショナ4の作動が完了するまでロッキングベース6(凸部64)とロック歯32bとの接触を規制し、プリテンショナ4の作動完了後にロッキングベース6(凸部64)とロック歯32bとの接触を許容するように構成することも考えられる。
【0062】
この場合、ロッキングベース6(凸部64)とロック歯32bとを接触させるタイミングの管理が難しく、エネルギー吸収時における抵抗増大の効果が不安定になる可能性がある。そこで、本実施形態では、エネルギー吸収時における抵抗増大の効果を安定させるために、プリテンショナ4が定常駆動状態に移行した時点でロッキングベース6(凸部64)とロック歯32bとが接触可能な状態となるようにガイド部材7を構成している。
【0063】
また、ガイド部材7は、プリテンショナ4の作動時におけるロッキングベース6の移動を規制する部品であることから、動力伝達部材42がリングギア41と噛み込む部分(進入位置)の反対側の領域に配置することが好ましい。また、上述した実施形態では、ガイド部材7とロッキングベース6(フランジ部63)とは、時計の短針で表現した場合に略8時~略10時の範囲で接触することから、ガイド部材7は、少なくとも60°以上の中心角を有する部分円環形状であることが好ましい。
【0064】
次に、本発明の実施形態に係るシートベルト装置について、
図7を参照しつつ説明する。ここで、
図7は、本発明の実施形態に係るシートベルト装置を示す全体構成図である。なお、
図7において、説明の便宜上、シートベルト装置以外の構成部品については、一点鎖線で図示している。
【0065】
図7に示した本実施形態に係るシートベルト装置100は、乗員を拘束するウェビングWと、ウェビングWの巻き取りを行うシートベルトリトラクタ1と、車体側に設けられウェビングWを案内するガイドアンカー101と、ウェビングWを車体側に固定するベルトアンカー102と、シートSの側面に配置されたバックル103と、ウェビングWに配置されたトング104と、を備え、シートベルトリトラクタ1は、例えば、
図1に示した構成を有している。
【0066】
以下、シートベルトリトラクタ1以外の構成部品について、簡単に説明する。シートSは、例えば、乗員が着座する腰掛部S1と、乗員の背面に位置する背もたれ部S2と、乗員の頭部を支持するヘッドレスト部S3とを備えている。シートベルトリトラクタ1は、例えば、車体のBピラーPに内蔵される。また、一般に、バックル103は腰掛部S1の側面に配置されることが多く、ベルトアンカー102は腰掛部S1の下面に配置されることが多い。また、ガイドアンカー101は、BピラーPに配置されることが多い。そして、ウェビングWは、一端がベルトアンカー102に接続され、他端がガイドアンカー101を介してシートベルトリトラクタ1に接続されている。
【0067】
したがって、トング104をバックル103に嵌着させる場合、ウェビングWはガイドアンカー101の挿通孔を摺動しながらシートベルトリトラクタ1から引き出されることとなる。また、乗員がシートベルトを装着した場合や降車時にシートベルトを解除した場合には、シートベルトリトラクタ1のスプリングユニット8の作用により、ウェビングWは一定の負荷がかかるまで巻き取られる。
【0068】
上述したシートベルト装置100は、前部座席における通常のシートベルト装置に、上述した実施形態に係るシートベルトリトラクタ1を適用したものである。したがって、本実施形態に係るシートベルト装置100によれば、ガイド部材7によって、ロッキングベース6を含むスプール2の回転軸の偏心量を調整することができ、プリテンショナ4の作動時における摩擦抵抗の増大を抑制しつつ、エネルギー吸収時におけるウェビングに負荷される抵抗の増大を図ることができる。
【0069】
なお、本実施形態に係るシートベルト装置100は、前部座席への適用に限定されるものではなく、例えば、ガイドアンカー101を省略して後部座席にも容易に適用することができる。また、本実施形態に係るシートベルト装置100は、車両以外の乗物にも使用することができる。
【0070】
本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0071】
1 シートベルトリトラクタ
2 スプール
2a 第一端部
2b 開口部
2c 第二端部
2d 開口部
3 ベースフレーム
4 プリテンショナ
5 ロック機構
6 ロッキングベース
7 ガイド部材
8 スプリングユニット
9 ビークルセンサ
21 トーションバー
31 第一端面
31a 開口部
32 第二端面
32a 開口部
32b ロック歯
32c 留め孔
33 側面
34 タイプレート
41 リングギア
42 動力伝達部材
43 パイプ
44 ガス発生器
45 ピストン
46 ガイドブロック
47 ガイドスペーサ
48 プリテンショナカバー
49 ベアリング
51 ロックギア
52 フライホイール
53 リテーナカバー
53a 壁部材
61 接続部
62 軸部
63 フランジ部
64 凸部
71 突起
81 スプリングコア
100 シートベルト装置
101 ガイドアンカー
102 ベルトアンカー
103 バックル
104 トング
211 第一端部
212 第二端部
213 拡径部