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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】歯肉退縮抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/455 20060101AFI20240801BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20240801BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20240801BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20240801BHJP
   A23L 33/15 20160101ALI20240801BHJP
【FI】
A61K31/455
A61P1/02
A61Q11/00
A61K8/49
A23L33/15
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020100987
(22)【出願日】2020-06-10
(65)【公開番号】P2021195310
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 典敬
(72)【発明者】
【氏名】藤井 明彦
(72)【発明者】
【氏名】惣野 初美
(72)【発明者】
【氏名】河野 早和子
(72)【発明者】
【氏名】峯岸 慶彦
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-019713(JP,A)
【文献】国際公開第2008/111384(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/029895(WO,A1)
【文献】特表2006-510399(JP,A)
【文献】特開2019-116426(JP,A)
【文献】特開2017-095382(JP,A)
【文献】特表2002-521365(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0379045(US,A1)
【文献】特開2021-155363(JP,A)
【文献】特開2021-155364(JP,A)
【文献】特開2021-187774(JP,A)
【文献】特開昭61-293909(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0042711(US,A1)
【文献】Rodrigo F. Neiva, et al,Effects of Vitamin-B Complex Supplementation on Periodontal Wound Healing,Journal of Periodontology,2004年11月02日,Vol. 76, No. 7,1084-1091,DOI:10.1902/jop.2005.76.7.1084
【文献】「知覚過敏」に効果的なサプリとは...?,青山・表参道の審美歯科「ルネス青山デンタルクリニック」 ブログ,2017年10月31日,インターネット,[検索日:令和6年1月29日],<URL: https://www.renaissadc.com/diaryblog/2017/10/post_124.html>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
A61Q
A23L
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニコチン酸を有効成分とする歯肉退縮抑制剤。
【請求項2】
ニコチン酸を有効成分とする歯茎の痩せの予防又は改善剤。
【請求項3】
ニコチン酸を有効成分とする歯肉退縮抑制用食品。
【請求項4】
ニコチン酸を有効成分とする歯茎の痩せの予防又は改善用食品。
【請求項5】
前記剤において、組成物の総量に対する前記有効成分の含有量がニコチン酸換算で0.05質量%以上である、請求項1又は2に記載の剤。
【請求項6】
組成物が洗口剤の形態である、請求項に記載の剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯肉の退縮を抑制するための歯肉退縮抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
辺縁歯肉の位置が歯根方向へ移動し、歯根表面の露出範囲が広がる状態を意味する歯肉退縮は、主として、加齢による歯肉の老化や、過剰なブラッシング圧を付加する等の不適切な歯みがき方法が原因となって引き起こされる。こうした歯肉退縮は、歯の根面を露出させ、う蝕を誘発する要因となり得る上、知覚過敏を引き起こす要因ともなり得る。また、歯と歯又は歯肉との境目に隙間が生じ、審美性が損なわれるおそれもある。
したがって、歯肉退縮を効果的に抑制できる剤の実現が強く望まれている。
【0003】
一方、水溶性ビタミンB群の1種であるナイアシン(ニコチン酸とも称される)や、そのエステル化合物を含有する口腔内組成物には歯肉の血行を促進する作用があり、歯周疾患に有効であることが報告されている(特許文献1)。
しかしながら、歯肉の退縮に対するナイアシンの有効性については何ら報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭61-293909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、歯肉の退縮を抑制し、歯茎の痩せを予防又は改善する歯肉退縮抑制剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題に鑑み検討を行った結果、ナイアシン化合物が、歯冠長を短縮し、歯冠部面積を縮小する作用を有し、歯肉退縮抑制のために使用できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
1)ナイアシン化合物を有効成分とする歯肉退縮抑制剤。
2)ナイアシン化合物を有効成分とする歯茎の痩せの予防又は改善剤。
3)ナイアシン化合物を有効成分とする歯肉退縮抑制用食品。
4)ナイアシン化合物を有効成分とする歯茎の痩せの予防又は改善用食品。
【発明の効果】
【0008】
本発明の歯肉退縮抑制剤は、歯肉退縮の軽減、歯肉退縮の進行防止又は遅延作用を有し、歯茎の痩せの予防又は改善効果を発揮し得る医薬品、医薬部外品、化粧品等として、或いはこれらへ配合するための素材又は製剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ナイアシンの投与による歯冠長の短縮効果を示すグラフ。
図2】ナイアシンの投与による歯冠部の面積の縮小効果を示すグラフ。
図3】ナイアシンの投与による歯肉の腫れ(歯肉厚の増加)がないことを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に用いられるナイアシン化合物としては、例えばナイアシン(ニコチン酸)や、ニコチン酸アミド、ニコチン酸エステル、ニコチン酸塩等のナイアシン誘導体が挙げられる。
ニコチン酸エステルとしては、ニコチン酸の炭素原子数が1~6のアルキルエステルが好ましく、具体的にはニコチン酸メチル、ニコチン酸エチル、ニコチン酸プロピル、ニコチン酸イソプロピル、ニコチン酸n-ブチル、ニコチン酸イソブチル、ニコチン酸t-ブチル等が挙げられる。
ニコチン酸塩としては、ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩やマグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、リジン塩やアルギニン塩等の塩基性アミノ酸塩が挙げられる。
これらのうち、ナイアシン、ニコチン酸アミド、ニコチン酸エチル、ニコチン酸ナトリウム塩が好ましく、ナイアシン及びニコチン酸ナトリウム塩がさらに好ましい。
本発明で好ましく用いることができるナイアシンはビタミンBの1種であり、トリプトファンやピリジン等から合成される。過剰量のナイアシンを投与又は摂取しても、通常、体内の代謝系を経由して速やかに体外に排出される。そのため、ナイアシンを有効成分として用いることで、長期間の投与が可能な、摂取しても安全性の高い歯肉退縮抑制剤及び歯茎の痩せの予防又は改善を提供することができる。
【0011】
本発明で用いるナイアシン化合物は、常法に従い化学合成してもよいし、天然物から単離、精製等を行って入手してもよい。或いは、ナイアシン化合物として市販の化合物を使用してもよい。
本発明において、ナイアシン化合物の1種を単独で使用してもよい。或いは、2種以上を組合せて使用してもよい。
【0012】
後述の実施例で示すように、ナイアシンを投与することで、歯冠長が短縮し、歯冠部面積が縮小することから、ナイアシンには歯肉退縮抑制作用がある。
【0013】
したがって、ナイアシン化合物は、歯肉退縮抑制剤或いは歯茎の痩せの予防又は改善剤となり得、また、歯肉退縮抑制剤或いは歯茎の痩せの予防又は改善剤を製造するために使用することができる。すなわち、ナイアシン化合物は、歯肉退縮抑制剤或いは歯茎の痩せの予防又は改善のために使用することができる。ここで、使用は、治療的使用であっても非治療的使用であってもよい。「非治療的」とは、医療行為を含まない概念、すなわち人間を手術、治療又は診断する方法を含まない概念、より具体的には医師又は医師の指示を受けた者が人間に対して手術、治療又は診断を実施する方法を含まない概念である。
【0014】
前述のとおり、特許文献1には、ナイアシンによって血流を上げることで、歯周疾患を予防することが開示されている。しかしながら、歯肉炎が改善されても歯肉退縮が改善されるわけではないこと(日歯周誌、46(2), 137-142, 2004)、炎症をコントロールしても歯肉退縮は起こること(デンタルハイジーン 39(7), 703-706, 2019)、歯周病治療のメインテナンスを受けている患者においては、炎症が抑制され歯肉の腫れが改善されると歯肉退縮が起こりやすいこと(日歯周誌、34(3), 596-617, 1992)等の報告から解るように、歯肉退縮は、歯肉の炎症や歯周病と直接関係するわけでない。
【0015】
本発明において、「歯肉退縮」とは、辺緑歯肉の位置が,セメント-エナメル境(cemcnt-enamel junction:CEJ)から根尖側方向へ移動し、歯根表面が露出した状態を意味する。斯かる歯肉の状態は、所謂「歯茎の痩せ」とも称される。
歯根表面が露出すると、う鉱,摩耗、象牙質知覚過敏等の発生を招きやすくなる。
歯肉退縮は、加齢的なもの、誤ったブラッシングによる機械的なもの、辺縁歯肉の炎症、対合歯喪失による廃用性萎縮等によって生じるが、本発明においては加齢的又は機械的原因による歯肉退縮であるのが好ましい。
歯肉退縮は、歯冠長や歯冠部面積を測定し、その縮小の程度をもってその効果を判定することができる。
【0016】
本発明において、歯肉退縮の「抑制」には、歯肉退縮の軽減、進行(悪化)の防止又は遅延させることが包含される。また、歯茎の痩せの「改善」とは、歯茎の痩せを軽減することを意味し「治療」を含む意である。また、歯茎の痩せの「予防」とは、歯茎の痩せの防止、抑制又は遅延、或いは発症の危険性を低下させることをいう。
【0017】
本発明の歯肉退縮剤及び歯茎の痩せの予防又は改善剤は、ナイアシン化合物を単独で使用する形態であってもよく、またこれを含む組成物(例えば、医薬品組成物、食品組成物、化粧料組成物)の形態であってもよい。すなわち、本発明の歯肉退縮剤及び歯茎の痩せの予防又は改善剤は、歯肉退縮或いは歯茎の痩せの予防又は改善効果を発揮する医薬品、医薬部外品、食品(すなわち歯肉退縮抑制食品、歯茎の痩せの予防又は改善用食品)又は化粧品となり、或いはこれらへ配合するための素材又は製剤となり得る。
なお、上記の食品(「歯茎の痩せの予防又は改善用食品」とも称す)には、一般飲食品のほか、必要に応じてその旨を表示した食品、機能性食品、病者用食品、特定保健用食品、機能性表示食品、サプリメントが包含される。
【0018】
上記医薬品(医薬部外品を含む)は、任意の投与形態で投与され得るが、本発明においては、経口投与が好ましく、口腔内投与、口腔内局所投与がより好ましい。口腔内局所投与としては歯周組織へ投与する態様が好ましく、本発明の歯肉退縮抑制剤或いは歯茎の痩せの予防又は改善剤を歯肉注射剤、歯肉溝注入剤若しくは歯肉溝洗浄剤として歯周組織(好ましくは歯肉、より好ましくは歯肉溝)へ投与するための歯肉注射部、歯肉溝注入部若しくは歯肉溝洗浄部を備えた、局所投与具を用いた態様が好ましい。このような投与態様を採用することで、歯磨剤や洗口剤と比べて歯周組織へ効率的かつ局所的に投与することができる。ここで、歯肉注射具、歯肉溝注入具、又は歯肉溝洗浄具は、歯周局所へ投与しやすい注射具、注入具、又は洗浄具等であって、本発明の歯肉退縮抑制剤或いは歯茎の痩せの予防又は改善剤を収容する収容部を備えるものであれば、種々の局所投与具を採用することが可能である。
【0019】
上記医薬品は、投与形態に応じて、本発明の有効成分に、各種投与形態に適した固体又は液体の医薬用無毒性担体、例えば、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤、等張化剤、賦形剤等の慣用の添加剤を適宜添加し、製剤上の常套手段により調製することができる。
製剤組成物の形態としては、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の固形剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤等の液剤、凍結乾燥剤等が挙げられる。
【0020】
上記化粧品としては、好ましくは、練歯磨、液状歯磨、液体歯磨、粉歯磨等の歯磨剤及び洗口液、マウススプレー、歯肉マッサージクリーム等の口腔化粧料が挙げられる。
斯かる化粧品は、一般的な製造法により、本発明の有効成分を、製剤上許容し得る担体、例えば、各種油剤、界面活性剤、ゲル化剤、防腐剤、酸化防止剤、溶剤、アルコール、水、キレート剤、増粘剤、乳化安定剤、pH調整剤、色素、香料等と共に混合、分散した後、所望の形態(固形状、粉末状、液状、クリーム状、ゲル状等)に加工することによって調製できる。
また、この化粧品は、日本の医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律上、化粧品及び医薬部外品のどちらに属しても良い。
【0021】
上記食品は、食用又は飲用に適した各種製剤形態として調製できる。例えば、細粒剤、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、シロップ剤、液剤、ペースト剤等の形態が挙げられ、具体的には組成物が口腔内に長時間留まる、トローチ、チュアブル剤、キャンディ、チューイングガム等の形態が好適に挙げられる。また、食品には飲料や飼料も含まれる。
【0022】
斯かる医薬品、医薬部外品、化粧品又は食品には、本発明の効果を阻害しない範囲で、フッ化物、殺菌剤、抗炎症剤、歯石予防剤、水溶性ビタミン、知覚過敏予防改善剤、植物抽出物、その他薬効成分等を適宜配合してもよい。
【0023】
本発明の歯肉退縮抑制剤又は歯茎の痩せの予防又は改善剤における前記有効成分の含有量は組成物の形態に応じて適宜決定できる。例えば、組成物の総量に対する前記有効成分の含有量はナイアシン換算で0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.3質量%以上がさらに好ましい。また、その上限値は10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、1.5質量%以下がさらに好ましく、1質量%以下が特に好ましい。さらに、前記有効成分の含有量の数値範囲は、0.05~10質量%が好ましく、0.05~5質量%がより好ましく、0.05~1.5質量%がより好ましく、0.1~1質量%がより好ましく、0.3~1質量%がさらに好ましい。
【0024】
本発明の歯肉退縮抑制剤或いは歯茎の痩せの予防又は改善剤の投与対象は、好ましくは哺乳動物であり非ヒト哺乳動物を含むが、好ましくはヒトである。
【0025】
本発明の歯肉退縮抑制剤或いは歯茎の痩せの予防又は改善剤は、歯肉の退縮抑制を所望する対象、具体的には加齢による歯肉の老化や、過剰なブラッシング圧の付加等により歯肉の退縮が認められる対象又はその虞れがある対象に適用することができる。
【0026】
本発明の歯肉退縮抑制剤或いは歯茎の痩せの予防又は改善剤を前記対象に適用して歯肉退縮の抑制を図る場合において、適用量(投与量)は、個体の状態、体重、性別、年齢、素材の活性、投与経路、投与スケジュール、製剤形態又はその他の要因により適宜決定することができる。例えば、投与量は、成人(体重60kg)1人当たり、ナイアシン換算で3mg/日以上が好ましく、18mg/日以上がより好ましい。また、その上限値は、120mg/日以下が好ましく、100mg/日以下がより好ましく、45mg/日がより好ましい。さらに、前記有効成分の投与量の数値範囲は、3~100mg/日が好ましく、18~45mg/日がより好ましい。
なお前記有効成分は、1日1回~数回に分け、又は任意の期間及び間隔で摂取・投与され得る。また、前記有効成分の投与方法は特に限定されないが、前記有効成分を歯周組織へ局所投与することが好ましく、歯肉へ局所投与することがより好ましい。
【0027】
本発明においては上述した実施形態に関し、さらに以下の態様が開示される。
<1>ナイアシン化合物を有効成分とする歯肉退縮抑制剤。
<2>ナイアシン化合物を有効成分とする歯茎の痩せの予防又は改善剤。
<3>ナイアシン化合物を有効成分とする歯肉退縮抑制用食品。
<4>ナイアシン化合物を有効成分とする歯茎の痩せの予防又は改善用食品。
【0028】
<5>歯肉退縮抑制剤を製造するための、ナイアシン化合物の使用。
<6>歯茎の痩せの予防又は改善剤を製造するための、ナイアシン化合物の使用。
<7>歯肉退縮抑制用食品を製造するための、ナイアシン化合物の使用。
<8>歯茎の痩せの予防又は改善用食品を製造するための、ナイアシン化合物の使用。
【0029】
<9>歯肉退縮を抑制するための、ナイアシン化合物。
<10>歯茎の痩せを予防又は改善するための、ナイアシン化合物。
【0030】
<11>歯肉退縮を抑制するための、ナイアシン化合物の非治療的使用。
<12>歯茎の痩せを予防又は改善するための、ナイアシン化合物の非治療的使用。
【0031】
<13>ナイアシン化合物をそれを必要とする対象に摂取又は投与する、歯肉退縮抑制方法。
<14>ナイアシン化合物それを必要とする対象に摂取又は投与する、歯茎の痩せの予防又は改善方法。
【0032】
<15>前記<1>~<14>のいずれかにおいて、ナイアシン化合物は、ナイアシン、ニコチン酸アミド、ニコチン酸エステル(ニコチン酸の炭素原子数が1~6のアルキルエステルが好ましく、具体的にはニコチン酸メチル、ニコチン酸エチル、ニコチン酸プロピル、ニコチン酸イソプロピル、ニコチン酸n-ブチル、ニコチン酸イソブチル、ニコチン酸t-ブチルなどが挙げられる。)、及びニコチン酸塩(具体的にはナトリウム塩やカリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩やマグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、リジン塩やアルギニン塩などの塩基性アミノ酸塩などが挙げられる。)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物、好ましくはナイアシン、ニコチン酸アミド、ニコチン酸エチル、及びニコチン酸ナトリウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物、より好ましくはナイアシン、である。
<16>前記<1>、<3>、<5>、<7>、<9>、<11>及び<13>のいずれかにおいて、歯肉退縮は、好ましくは加齢的又は機械的原因による歯肉退縮である。
<17>前記<1>、<2>、<5>又は<6>の剤において、組成物の総量に対する前記有効成分の含有量は、ナイアシン換算で0.05質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、であり、10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下、である。
<18>前記<17>において組成物の形態は、洗口剤又は歯磨剤である。
<19>前記<1>~<15>のいずれかにおいて、ナイアシン化合物の投与又は摂取量は、成人(体重60kg)1人当たり、ナイアシン換算で3mg/日以上、好ましくは18mg/日以上、であり、120mg/日以下、好ましくは100mg/日以下、より好ましは45mg/日以下、である。
【実施例
【0033】
試験例1 ナイアシンによる歯肉退縮抑制効果
1.試験方法
(1)被験者の選定
口腔内疾患で受診していない30代から50代の男性40名を使用試験の参加者として選択した。この40名を、下記表1に示すプラセボ洗口剤、或いはナイアシン洗口剤のいずれかに20名ずつ割り当て、ダブルブラインドにて、以下に示す口腔指標に基づいて歯肉退縮に対する効果を試験した。
【0034】
【表1】
【0035】
1)歯肉炎症指数の測定:歯科衛生士がLoe & Silnessの評価基準に従い、歯肉の炎症状態を4段階で評価した(対象歯;智歯を除く全歯)。
0 炎症なし
1 歯肉に炎症・プロービングで出血なし
2 歯肉に炎症・プロービングで出血あり
3 自然出血、潰瘍形成
【0036】
2)出血指数の測定:歯科衛生士が歯科用プローブでプロービングを行い、歯周ポケットからの出血の有無を4段階で目視により評価した(対象歯;智歯を除く全歯)。
0 出血なし
1 点状出血
2 線状出血
3 自然出血
【0037】
3)歯周ポケットの深さの測定:歯科衛生士が歯周ポケットに歯科用プローブを挿入し、1mm単位で歯周ポケットの深さを目視により測定した(対象歯;智歯を除く全歯)。
【0038】
4)リセッションの測定:歯科衛生士が歯科用プローブを用いて、歯肉の退縮距離を1mm単位で目視により測定した(対象歯;智歯を除く全歯)
【0039】
なお、測定したいずれの口腔指標の初期値においても、群間での統計学的な有意差がないことを確認した(表2)。
【0040】
【表2】
【0041】
(2)被験品の処方と使用方法
1回に被験品20mLを30秒間、1日3回、8週間使用した。毎食後の使用としたが、歯磨きをする場合は歯磨き後とした。また、食事が3回未満の日は、食事相当時間に被験品のみを使用した。
なお、使用試験期間中は、指定のハミガキ剤(ガードハローC:花王(株)製)を使用した。ハブラシは日常使用しているものを継続して使用し、ハブラシの交換時期も自由とした。
【0042】
(3)歯肉修復度の評価
被験品使用前と8週間使用後の被検者から採取した印象を用いて石膏模型を作製し、3D形状測定顕微鏡(キーエンス社、VR-5200)で、石膏模型を撮影した。
1)歯冠の長さの測定:咬頭頂から歯肉縁までの水平距離を、特定の一歯面の5点(歯面を均等に5等分)求め、5点の平均を値とした。
2)歯肉の厚さの測定:歯牙の傾きを補正(歯牙表面の傾斜が真っ直ぐになるようにマルチファイル解析ソフトで補正)した上で、歯面から歯肉縁までの距離を、特定の一歯面の1点(歯面の中央)で求めた。
3)歯冠の面積の測定:特定の一歯の歯冠部をフリーハンドで設定し、Winroof解析ソフトにより歯冠の面積を求めた。
【0043】
2.試験結果
歯冠の長さについては、0週と8週後の変化量Δ値において、プラセボ洗口剤の0.111±0.097mmと比較し、ナイアシン洗口剤は-0.122±0.044mmであり、統計学的に有意な歯冠長の短縮が確認された(P<0.05)(図1)。
歯冠部の面積は、プラセボ洗口剤の0.491±0.938mm2と比較し、ナイアシン洗口剤は-2.648±0.778mmであり、統計学的に有意な歯冠部の面積の縮小が確認された(P<0.05)(図2)。
歯肉の厚さに関しては、プラセボ洗口剤が-0.008±0.048mmに対し、ナイアシン洗口剤は-0.105±0.055mmであり、有意な差は確認されなかった(図3)。
ナイアシン洗口剤使用によって生じた咬頭頂から歯肉縁までの距離を示す歯冠長の短縮及び歯冠部の面積の低下は、歯肉退縮が軽減されたことを意味する。一方、歯肉厚の増加はなく、歯肉の腫れは起こっていないことが確認された。
図1
図2
図3