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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】無電解パラジウムめっき浴
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/44 20060101AFI20240801BHJP
【FI】
C23C18/44
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020127473
(22)【出願日】2020-07-28
(65)【公開番号】P2022024720
(43)【公開日】2022-02-09
【審査請求日】2023-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000189327
【氏名又は名称】上村工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前川 拓摩
(72)【発明者】
【氏名】田邉 克久
(72)【発明者】
【氏名】柴田 利明
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-023693(JP,A)
【文献】特開2010-031361(JP,A)
【文献】特開2019-070173(JP,A)
【文献】特開昭62-124280(JP,A)
【文献】特開2004-010964(JP,A)
【文献】特開2012-082444(JP,A)
【文献】特開2020-045558(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00-18/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウム化合物と、還元剤と、錯化剤と、安定剤とを少なくとも含有するめっき浴であって、
前記安定剤が、複素環構造を有する化合物に2価の硫黄化合物が結合した有機化合物であり、該有機化合物がチオール基及びジスルフィド結合を有しておらず、
前記複素環構造を有する化合物が、イミダゾール、イミダゾリジン、イミダゾリン、オキサジアゾール、オキサジン、チアジアゾール、チアゾール、チアゾリジン、テトラゾール、トリアジン、トリアゾール、ピペラジン、ピペリジン、ピラジン、ピラゾール、ピラゾリジン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピロール、ピロリジン、ベンゾチアゾール、ベンゾイミダゾール、イソキノリン、チオフェン、テトラヒドロチオフェン、及びペンタメチレンスルフィドからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記2価の硫黄化合物が、チアジアゾール、チアゾール、チアゾリジン、ベンゾチアゾール、チオフェン、テトラヒドロチオフェン、メタンチオール、ベンゼンチオール、ペンタメチレンスルフィド、ジメチルスルフィド、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、アリルメルカプタン、チオプロピオン酸、チオ酢酸、エチルメチルスルフィド、1-プロパンチオール、2-プロパンチオール、2-アミノエタンチオール、2-メルカプトエタノール、ジメチルスルホキシド、チアゾリジン、チオ酢酸S-メチル、エチルスルフィド、メチルプロピルスルフィド、1-ブタンチオール、2-(メチルチオ)エタノール、3-メルカプト-1-プロパノール、2-メチルチアゾリン、シクロペンタンチオール、2-メチルテトラヒドロチオフェン、ペンタメチレンスルフィド、チオモルホリン、及びチオプロピオン酸S-メチルからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする無電解パラジウムめっき浴。
【請求項2】
前記安定剤の濃度が、0.01~10mg/Lであることを特徴とする請求項1に記載の無電解パラジウムめっき浴。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解パラジウムめっき浴に関する。
【背景技術】
【0002】
電子工業分野において、プリント基板の回路、ICパッケージの実装部分や端子部分などの表面処理法として、例えば、無電解ニッケル(Ni)/無電解パラジウム(Pd)/置換金(Au)法(Electroless Nickel Electroless Palladium Immersion Gold:ENEPIG)が使用されている。そして、このENEPIGプロセスを使用することにより、無電解ニッケルめっき皮膜、無電解パラジウムめっき皮膜、及び置換金めっき皮膜を順次施しためっき皮膜が得られる。
【0003】
また、パラジウム皮膜は、良好な電気伝導度を示すとともに、耐食性に優れ、更に下地ニッケルが熱履歴により金表面へ拡散することを防止する機能を有するため、上述のENEPIG工程において、重要な役割を果たすものである。
【0004】
ここで、一般に、めっき浴は安定性に優れることが要求され、従来の無電解パラジウムめっき浴においては、安定剤として、エチレンジアミン四酢酸やその塩等が使用されていたが、めっき浴が自然分解し易いため、安定性が不十分であるという問題があった。
【0005】
そこで、2価の硫黄を含有する有機化合物が配合された無電解パラジウムめっき浴が提案されている。そして、この2価の硫黄を含有する有機化合物を使用することにより、めっき浴の安定性が向上すると記載されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3972158号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、上記従来のめっき浴においては、2価の硫黄を含有する有機化合物を配合することにより、めっき浴の安定性は向上するが、ニッケルめっき皮膜上におけるパラジウムの析出性が低下するという問題が生じることがあった。
【0008】
また、近年、リン(P)を含有するニッケルめっき皮膜(皮膜中のリンの濃度が4~8%のニッケルめっき皮膜)により対応が可能であったデバイスにおける動作保証温度が上がるにつれて、動作保証温度が高いデバイスに対応可能なリンの含有量が低いニッケルめっき皮膜(皮膜中のリンの濃度が4%未満のニッケルめっき皮膜)の要請が高まっているが、上記従来のめっき浴においては、特に、このリンの含有量が低いニッケルめっき皮膜上におけるパラジウムの析出性が著しく低下するという問題があり、リンの含有量が低いニッケルめっき皮膜に対応可能な無電解パラジウムめっき浴の開発が切望されている。
【0009】
そこで、本発明は、上述の問題に鑑み、ニッケルめっき皮膜上におけるパラジウムの析出性の低下を抑制するとともに、めっき浴の安定性を向上することができる無電解パラジウムめっき浴を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の無電解パラジウムめっき浴は、パラジウム化合物と、還元剤と、錯化剤と、安定剤とを少なくとも含有するめっき浴であって、安定剤が、複素環構造を有する化合物に2価の硫黄化合物が結合した有機化合物であり、有機化合物がチオール基及びジスルフィド結合を有しないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ニッケルめっき皮膜上におけるパラジウムの析出性の低下を抑制するとともに、めっき浴の安定性を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の無電解パラジウムめっき浴について説明する。
【0013】
<無電解パラジウムめっき浴>
本発明の無電解パラジウムめっき浴は、パラジウム化合物と、還元剤と、錯化剤と、安定剤とを含有するめっき浴である。
【0014】
(パラジウム化合物)
パラジウム化合物は、パラジウムめっきを得るためのパラジウムイオン供給源である。このパラジウム化合物は水溶性であればよく、例えば、塩化パラジウム、硫酸パラジウム、酢酸パラジウム等の無機水溶性パラジウム塩や、テトラアミンパラジウム塩酸塩、テトラアミンパラジウム硫酸塩、テトラアミンパラジウム酢酸塩、テトラアミンパラジウム硝酸塩、ジクロロジエチレンジアミンパラジウム等の有機水溶性パラジウム塩が挙げられる。なお、これらのパラジウム化合物は、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0015】
無電解パラジウムめっき浴におけるパラジウムイオン濃度は、特に限定されないが、パラジウムイオン濃度が低すぎると、めっき皮膜の析出速度が著しく低下する場合があるため、0.1g/L以上が好ましく、0.3g/L以上がより好ましく、0.5g/L以上が更に好ましい。また、パラジウムイオン濃度が高すぎると、異常析出などにより皮膜物性が低下する場合があるため、10g/L以下が好ましく、5g/L以下がより好ましく、3g/L以下が更に好ましい。
【0016】
なお、パラジウムイオン濃度は、原子吸光分光光度計を用いた原子吸光分光分析(Atomic Absorption Spectrometry,AAS)により測定することができる。
【0017】
(還元剤)
還元剤は無電解パラジウムめっき浴において、パラジウムを析出させる作用を有するものである。この還元剤としては、各種公知の還元剤を使用でき、例えば、ギ酸またはその塩、ヒドラジン類、次亜リン酸またはその塩、亜リン酸またはその塩、アミンボラン化合物、ヒドロホウ素化合物、ホルマリン、アスコルビン酸またはその塩等が挙げられる。
【0018】
また、上述の塩としては、例えば、カリウム、ナトリウムなどアルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、第4級アンモニウム塩、第1級~第3級アミンを含むアミン塩等が挙げられる。
【0019】
また、アミンボラン化合物としては、ジメチルアミンボラン(DMAB)、及びトリメチルアミンボラン(TMAB)が例示され、ヒドロホウ素化合物としては、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)、及び水素化ホウ素カリウム(KBH)などの水素化ホウ素アルカリ金属塩等が挙げられる。
【0020】
なお、これらの還元剤のうち、めっき浴の安定性とめっき皮膜の析出性を両立させるとの観点から、ギ酸またはその塩(例えば、ギ酸ナトリウム)を使用することが好ましい。また、これらの還元剤は、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0021】
無電解パラジウムめっき浴における還元剤の含有量(単独で使用の場合は単独の量であり、2種以上を混合して使用する場合は合計量である。)は、めっき処理時の析出速度と、めっき浴の安定性を考慮して、適宜、調整すればよく、下限値としては、1g/L以上が好ましく、3g/L以上がより好ましく、5g/L以上が更に好ましく、10g/L以上が特に好ましい。また、還元剤の含有量の上限値としては、100g/L以下が好ましく、80g/L以下がより好ましく、50g/L以下が更に好ましい。
【0022】
(錯化剤)
錯化剤は、主に無電解パラジウムめっき浴におけるパラジウムの溶解性を安定化させる作用を有するものである。この錯化剤としては、各種公知の錯化剤を使用でき、例えば、アンモニア、及びアミン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種、より好ましくはアミン化合物である。アミン化合物としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ベンジルアミン、メチレンジアミン、エチレンジアミン、エチレンジアミン誘導体、テトラメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、エチレンジアミン四酢酸(Ethylene Diamine Tetraacetic Acid:EDTA)又はそのアルカリ金属塩、EDTA誘導体、グリシン等が挙げられる。なお、これらの錯化剤は、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0023】
無電解パラジウムめっき浴における錯化剤の含有量(単独で使用の場合は単独の量であり、2種以上を混合して使用する場合は合計量である。)は、上述のパラジウムの溶解性の安定化を考慮して、適宜、調整すればよく、下限値としては、0.1g/L以上が好ましく、1g/L以上がより好ましく、3g/L以上が更に好ましい。また、錯化剤の含有量の上限値としては、15g/L以下が好ましく、10g/L以下がより好ましい。
【0024】
(安定剤)
安定剤は、めっき浴の安定性、めっき後の外観向上、及びめっき皮膜形成の速度調整等の目的で添加されるものであり、本発明の無電解パラジウムめっき浴においては、下記式(1)で示す、複素環構造を有する化合物に2価の硫黄化合物(2価の硫黄を含有する化合物)が結合した有機化合物を用いることができる。
【0025】
[化1]
-R (1)
(式中、Rは、複素環構造を有する化合物であり、Rは、2価の硫黄化合物であって、R-Rは、チオール基及びジスルフィド結合を有しない有機化合物を表す。)
【0026】
複素環構造を有する化合物Rとしては、例えば、イミダゾール、イミダゾリジン、イミダゾリン、オキサジアゾール、オキサジン、チアジアゾール、チアゾール、チアゾリジン、テトラゾール、トリアジン、トリアゾール、ピペラジン、ピペリジン、ピラジン、ピラゾール、ピラゾリジン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピロール、ピロリジン、ベンゾチアゾール、ベンゾイミダゾール、イソキノリン、チオフェン、テトラヒドロチオフェン、ペンタメチレンスルフィド等の含窒素複素環構造または含硫黄複素環構造を有する化合物、及びその誘導体が挙げられる。
【0027】
また、2価の硫黄化合物Rは、例えば、チアジアゾール、チアゾール、チアゾリジン、ベンゾチアゾール、チオフェン、テトラヒドロチオフェン、メタンチオール、ベンゼンチオール、ペンタメチレンスルフィド、ジメチルスルフィド、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、アリルメルカプタン、チオプロピオン酸、チオ酢酸、エチルメチルスルフィド、1-プロパンチオール、2-プロパンチオール、2-アミノエタンチオール、2-メルカプトエタノール、4-メルカプトピリジン、ジメチルスルホキシド、チアゾリジン、チオ酢酸S-メチル、エチルスルフィド、メチルプロピルスルフィド、1-ブタンチオール、チオグリコール酸、2-(メチルチオ)エタノール、3-メルカプト-1-プロパノール、2-メチルチアゾリン、シクロペンタンチオール、2-メチルテトラヒドロチオフェン、ペンタメチレンスルフィド、チオモルホリン、チオプロピオン酸S-メチル、3-メルカプトプロピオン酸、及びその誘導体が挙げられる。
【0028】
また、上記式(1)で表される安定剤としては、例えば、2-(4-チアゾリル)ベンゾイミダゾール、2-(メチルチオ)ベンゾイミダゾール、2-(メチルチオ)ベンゾチアゾール、(2-ベンゾチアゾリルチオ)酢酸、3-(2-ベンゾチアゾリルチオ)プロピオン酸、2-(メチルチオ)ピリジン、(4-ピリジルチオ)酢酸、4,4'-ジピリジルスルフィド、2-メチルチオ-4-ピリミジノール、S-メチルチオバルビツル酸、4-アミノ-6-クロロ-2-(メチルチオ)ピリミジン、5-(メチルチオ)-1H-テトラゾール、5-(エチルチオ)-1H-テトラゾール、N-(フェニルチオ)フタルイミド、5-(メチルチオ)チオフェン-2-カルボキシアルデヒド等が挙げられる。なお、これらの安定剤は、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。また、これらの各安定剤の化学式を以下に示す。
【0029】
【化2】
【0030】
【化3】
【0031】
なお、本発明の無電解パラジウムめっき浴において、安定剤として使用される有機化合物(R-R)には、複素環構造を有する化合物Rと結合した2価の硫黄化合物Rが、チオール基(-SH)含有化合物から派生したものである有機化合物が含まれている。
【0032】
より具体的には、例えば、上述の2-(メチルチオ)ベンゾイミダゾールは、RであるベンゾイミダゾールとRであるメタンチオールとが結合した有機化合物(R-R)であり、R-Rの状態では、上記化学式に示したように、チオール基(-SH)を有していないが、Rと結合する前のR(メタンチオール)は、チオール基(-SH)を有しているため、Rと結合したRは、チオール基(-SH)含有化合物(メタンチオール)から派生したものである。また、2-(メチルチオ)ベンゾチアゾール(R:ベンゾチアゾール、R:メタンチオール)、2-(メチルチオ)ピリジン(R:ピリジン、R:メタンチオール)についても同様である。
【0033】
また、例えば、(2-ベンゾチアゾリルチオ)酢酸は、R-Rの状態(R:ベンゾチアゾール、R:チオ酢酸)では、上記化学式に示したように、チオール基(-SH)を有していないが、Rと結合する前のR(チオ酢酸)は、チオール基(-SH)を有しているため、Rと結合したRは、チオール基(-SH)含有化合物(チオ酢酸)から派生したものである。なお、(4-ピリジルチオ)酢酸(R:ピリジン、R:チオ酢酸)についても同様である。
【0034】
また、例えば、3-(2-ベンゾチアゾリルチオ)プロピオン酸は、R-Rの状態(R:ベンゾチアゾール、R:チオプロピオン酸)では、上記化学式に示したように、チオール基(-SH)を有していないが、Rと結合する前のR(チオプロピオン酸)は、チオール基(-SH)を有しているため、Rと結合したRは、チオール基(-SH)含有化合物(チオプロピオン)から派生したものである。
【0035】
また、例えば、4,4'-ジピリジルスルフィドは、R-Rの状態(R:ピリジン、R:4-メルカプトピリジン)では、上記化学式に示したように、チオール基(-SH)を有していないが、Rと結合する前のR(4-メルカプトピリジン)は、チオール基(-SH)を有しているため、Rと結合したRは、チオール基(-SH)含有化合物(4-メルカプトピリジン)から派生したものである。
【0036】
ここで、上述のごとく、2価の硫黄を含有する有機化合物を配合することにより、めっき浴の安定性は向上するが、ニッケルめっき皮膜上におけるパラジウムの析出性が低下するという問題があった。また、特に、リンの含有量が低いニッケルめっき皮膜上におけるパラジウムの析出性が著しく低下するという問題があった。
【0037】
そこで、本発明者らは、上記問題点について検討したところ、複素環構造を有する化合物に2価の硫黄化合物が結合した有機化合物(すなわち、上述のR-R)からなる安定剤を使用することにより、ニッケルめっき皮膜上におけるパラジウムの析出性の低下を抑制するとともに、めっき浴の安定性を向上することができることを見出した。
【0038】
また、本発明者らは、複素環構造を有する化合物に2価の硫黄化合物が結合した有機化合物のうち、チオール基またはジスルフィド結合を有するものを使用すると、めっき浴中の酸化還元反応(すなわち、チオール基の酸化反応によりジスルフィド結合が生成し、ジスルフィド結合の還元反応によりチオール基が生成する反応)により、チオール基またはジスルフィド結合が変質するため、パラジウムの析出性が変化するとともに、めっき浴の安定性が低下することを見出した。
【0039】
すなわち、安定剤として、複素環構造を有する化合物に2価の硫黄化合物が結合した有機化合物であって、チオール基及びジスルフィド結合を有しないものを使用することにより、パラジウムの析出性とめっき浴の安定性を両立することが可能になる。
【0040】
また、リンの含有量が低いニッケルめっき皮膜上における微小部に対しても、パラジウムを析出させることが可能になる。
【0041】
無電解パラジウムめっき浴における安定剤の含有量(単独で使用の場合は単独の量であり、2種以上を混合して使用する場合は合計量である。)は、めっき処理時のパラジウムの析出性と、めっき浴の安定性を考慮して、適宜、調整すればよく、下限値としては、0.01mg/L以上が好ましく、0.03mg/L以上がより好ましく、0.05mg/L以上が更に好ましい。また、安定剤の含有量の上限値としては、10mg/L以下が好ましく、5mg/L以下がより好ましく、1mg/L以下が更に好ましい。
【0042】
(その他の成分)
本発明の無電解パラジウムめっき浴は、上述の各成分の他に、めっき浴の分野で、通常、使用される各種添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、例えば、pH調整剤、緩衝剤、及び界面活性剤等が挙げられる。
【0043】
pH調整剤は、めっき浴のpHを調整する作用を有する添加剤であり、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、クエン酸、マロン酸、リンゴ酸、酒石酸、リン酸等の酸や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水等のアルカリが挙げられる。なお、これらのpH調整剤は、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0044】
また、pHが低すぎるとパラジウムの析出速度が低下しやすくなり、pHが高すぎると無電解パラジウムめっき浴の安定性が低下する場合がるため、本発明の無電解パラジウムめっき浴におけるpHは、4~10が好ましく、5~8がより好ましい。
【0045】
また、緩衝作用を有する緩衝剤を添加してもよい。この緩衝剤としては、例えば、クエン酸三ナトリウム2水和物等のクエン酸、酒石酸、リンゴ酸、フタル酸等のカルボン酸や、正リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸等のリン酸、またはそれらのカリウム塩、ナトリウム塩(例えば、リン酸三ナトリウム12水和物など)、アンモニウム塩等のリン酸塩、ホウ酸、四ホウ酸等が挙げられる。なお、これらの緩衝剤は、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0046】
また、界面活性剤は、安定性向上、ピット防止、めっき外観向上等の目的で、必要に応じて添加される。この界面活性剤としては、特に限定されず、非イオン性、カチオン性、アニオン性、及び両性の各種界面活性剤が使用できる。
【0047】
(用途)
また、本発明の無電解パラジウムめっき浴は、例えば、パラジウムめっき皮膜と、金めっき皮膜とを有する積層めっき皮膜用途に使用できる。パラジウムめっき皮膜を形成する下地は特に限定されず、アルミニウム(Al)やアルミニウム基合金、銅(Cu)や銅基合金など各種公知の基材、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅、亜鉛(Zn)、銀(Ag)、金、プラチナ(Pt)や、これらの合金といったパラジウムめっき皮膜の還元析出に触媒性のある金属で基材を被覆しためっき皮膜が挙げられる。また、触媒性のない金属であっても、種々の方法により被めっき物として用いることができる。
【0048】
また、本発明の無電解パラジウムめっき浴は、ENEPIGプロセスに適用できる。ENEPIGプロセスでは、例えば、電極を構成するアルミニウムやアルミニウム基合金、銅や銅基合金の上に、ニッケルめっき皮膜、次いで、上記パラジウムめっき皮膜、次いでその上に金めっき皮膜を有する積層めっき皮膜(無電解ニッケル/パラジウム/金めっき皮膜)が得られる。なお、各めっき皮膜の形成は、通常、行われている方法を採用すればよい。
【0049】
次に、上述のENEPIGプロセスに基づいて、本発明の無電解パラジウムめっき浴により形成されたパラジウムめっき皮膜を有する積層めっき皮膜の製造方法について説明する。なお、パラジウムめっき皮膜の形成条件はこれに限定されず、公知技術に基づいて、適宜、変更可能である。
【0050】
無電解ニッケルめっき浴を用いて無電解ニッケルめっきを行う際の、めっき条件及びめっき装置は特に限定されず、各種公知の方法を、適宜、選択できる。例えば、温度50~95℃の無電解ニッケルめっき浴に被めっき物を15~60分程度、接触させればよい。また、ニッケルめっき皮膜の膜厚は、要求特性に応じて、適宜、設定すればよく、通常は、3~7μm程度である。また、無電解ニッケルめっき浴には、ニッケル-リン合金、ニッケル-ホウ素(B)合金など各種公知の組成を使用できる。
【0051】
また、本発明の無電解パラジウムめっき浴を用いて無電解パラジウムめっきを行う際の、めっき条件及びめっき装置は特に限定されず、各種公知の方法を、適宜、選択できる。例えば、温度50~95℃の無電解パラジウムめっき浴にニッケルめっき皮膜が形成された被めっき物を15~60分程度、接触させればよい。パラジウムめっき皮膜の膜厚は要求特性に応じて、適宜、設定すればよく、通常は0.001~1.0μm程度である。
【0052】
無電解金めっき浴を用いて無電解金めっきを行う際の、めっき条件及びめっき装置は特に限定されず、各種公知の方法を、適宜、選択できる。例えば、温度40~90℃の無電解金めっき浴にパラジウムめっき皮膜が形成された被めっき物を、3~20分程接触させればよい。また、金めっき皮膜の膜厚は、要求特性に応じて、適宜、設定すればよく、通常は0.001~2μm程度である。
【0053】
また、本発明の無電解パラジウムめっき浴は、めっき皮膜を有する電子機器構成部品の用途にも有用である。この電子機器構成部品として、例えば、チップ部品、水晶発振子、バンプ、コネクタ、リードフレーム、フープ材、半導体パッケージ、プリント基板等の電子機器を構成する部品が挙げられる。
【0054】
<パラジウムめっき皮膜>
本発明のパラジウムめっき皮膜は、上述の本発明の無電解パラジウムめっき浴を用いることにより得られるが、パラジウムめっき皮膜には、純パラジウム皮膜および合金成分を含むパラジウム合金めっき皮膜の両方が含まれる。これは、使用する還元剤の種類によって、パラジウムめっき皮膜中にパラジウム以外の元素が含まれることがあり得るからである。なお、上記各種添加剤に由来する成分が含まれる場合もある。パラジウムめっき皮膜の残部は、パラジウム、及び不可避的不純物である。
【0055】
例えば、還元剤として、ギ酸またはその塩や、ヒドラジンまたはその塩を用いる場合は、純パラジウム皮膜が得られる。これに対し、これらのギ酸またはその塩等以外の還元剤として、次亜リン酸塩や亜リン酸塩などのリン酸化合物を用いる場合、リンを含有するパラジウムめっき皮膜が得られる。また、アミンボラン化合物、ヒドロホウ素化合物などのホウ素化合物を用いる場合、ホウ素を含有するパラジウムめっき皮膜が得られる。また、上記リン酸化合物およびホウ素化合物の両方を用いる場合、リンおよびホウ素の両方を含有するパラジウムめっき皮膜が得られる。
【実施例
【0056】
以下、実施例及び比較例に基づき、本出願に係る発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0057】
(実施例1~18、比較例1~8、参考例1)
(めっき浴の調製)
パラジウム化合物(パラジウム塩)と、錯化剤であるエチレンジアミンと、緩衝剤であるクエン酸三ナトリウム2水和物と、還元剤であるギ酸ナトリウムと、安定剤とを、表2~4に示す濃度となるように混合して攪拌することにより、実施例1~18、比較例1~8、及び参考例1(安定剤を含有しない例)のめっき浴を調製した。なお、めっき浴の温度(めっき処理の温度)を60℃、pHを6.0に設定した。
【0058】
また、比較例1~8において使用した各安定剤の化学式を以下に示す。
【0059】
【化4】
【0060】
(前処理)
無電解めっき皮膜を形成する前に、基体に対して、表1に示す前処理工程1~5を順次行った。
【0061】
工程1:MCL-16(上村工業社製、商品名:エピタス(登録商標)MCL-16)を用いて、基体(Si、TEGウエハー)に対して、脱脂洗浄処理を行った。
【0062】
工程2:次に、30質量%の硝酸液を用いて、酸洗処理を行い、基体表面に酸化膜を形成した。
【0063】
工程3:次に、MCT-51(上村工業社製、商品名:エピタス(登録商標)MCT-51)を用いて、基体に対して、1次ジンケート処理を行った。
【0064】
工程4:次に、30質量%の硝酸液を用いて、酸洗処理を行うことにより、Zn置換膜を剥離させ、基体表面に酸化膜を形成した。
【0065】
工程5:次に、MCT-51(上村工業社製、商品名:エピタス(登録商標)MCT-51)を用いて、基体に対して、2次ジンケート処理を行った。
【0066】
(めっき処理)
次に、上述の前処理が行われた基体に対して、表1に示すめっき処理工程6を行うことにより、基体上に無電解ニッケルめっき皮膜を形成した。より具体的には、ニッケルめっき浴(上村工業社製、商品名:ニムデン(登録商標)NPR-18)を用いて無電解めっき処理を行い、基体上に、リンを含有する無電解ニッケルめっき皮膜(皮膜中のリンの濃度が4~8%のニッケルめっき皮膜)を形成した。また、同様に、ニッケルめっき浴(上村工業社製、商品名:ニムデン(登録商標)NLL-1)を用いて無電解めっき処理を行い、基体上に、リンの含有量が低いニッケルめっき皮膜(皮膜中のリンの濃度が4%未満のニッケルめっき皮膜)を形成した。
【0067】
次に、上述のニッケルめっき皮膜が形成された基体に対して、表1に示すめっき処理工程7(実施例1~18、比較例1~8、及び参考例1のパラジウムめっき浴を用いた無電解めっき処理)を行い、基体におけるニッケルめっき皮膜(100μm×100μmのパット、及び2mm×3mmのパット)の表面に、パラジウムめっき皮膜を形成した。
【0068】
【表1】
【0069】
(パラジウムめっき皮膜の膜厚の測定)
次に、蛍光X線式測定器(フィッシャー・インスタメンツ社製、商品名:XDV-μ)を用いて、上述の各パットに形成されたパラジウムめっき皮膜の膜厚を測定した。以上の結果を表2~4に示す。
【0070】
(浴安定性の評価)
無電解パラジウムめっき処理後のパラジウムめっき浴中に、パラジウム粒子の析出が生じていないかを目視にて観察し、下記の基準により評価した。以上の結果を、表2~4に示す。
〇:めっき処理後1週間を経過しても、パラジウム粒子の析出を確認できなかった。
×:めっき処理後1週間以内に、パラジウム粒子の析出を確認した。
【0071】
【表2】
【0072】
【表3】
【0073】
【表4】
【0074】
表2~3に示すように、複素環構造を有する化合物に2価の硫黄化合物が結合した有機化合物であり、この有機化合物がチオール基及びジスルフィド結合を有しないものを安定剤として使用した実施例1~18においては、ニッケルめっき皮膜(100μm×100μmのパット、及び2mm×3mmのパット)上におけるパラジウムめっき皮膜の膜厚が、安定剤を含有しない参考例1におけるパラジウムめっき皮膜の膜厚と同様に維持されており、安定剤を使用した場合であっても、パラジウムの析出性の低下を抑制できていることが分かる。特に、リンの含有量が低いニッケルめっき皮膜(皮膜中のリンの濃度が4%未満のニッケルめっき皮膜)上においても、リンを含有する無電解ニッケルめっき皮膜(皮膜中のリンの濃度が4~8%のニッケルめっき皮膜)上と同等に、パラジウムが十分に析出されていることが分かる。
【0075】
また、めっき処理後1週間を経過しても、めっき浴中にパラジウム粒子の析出が確認されず、めっき浴の安定性に優れていることが分かる。
【0076】
一方、表4に示すように、複素環構造を有する化合物に、2価の硫黄化合物が結合していないものを安定剤として使用した比較例1~3、複素環構造を有する化合物に2価の硫黄化合物が結合した有機化合物であり、この有機化合物がチオール基を有するものを安定剤として使用した比較例4,6,8、及び複素環構造を有する化合物に2価の硫黄化合物が結合した有機化合物であり、この有機化合物がジスルフィド結合を有するものを安定剤として使用した比較例5,7においては、リンの含有量が低いニッケルめっき皮膜(100μm×100μmのパット)上において、パラジウムが全く析出されていないことが分かる。また、めっき処理後1週間以内に、めっき浴中にパラジウム粒子の析出が確認され、めっき浴の安定性に乏しいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、特に、パラジウムめっき皮膜と金めっき皮膜とを有する積層めっき皮膜や、ENEPIGプロセス等に使用される無電解パラジウムめっき浴に、好適に使用される。