(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】管接続部の離脱防止構造およびそれの組付け方法
(51)【国際特許分類】
F16L 57/00 20060101AFI20240801BHJP
F16L 21/08 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
F16L57/00 C
F16L21/08 A
(21)【出願番号】P 2020137309
(22)【出願日】2020-08-17
【審査請求日】2023-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】594087274
【氏名又は名称】神戸市
(73)【特許権者】
【識別番号】396020361
【氏名又は名称】株式会社水道技術開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】伊賀 正師
(72)【発明者】
【氏名】酒井 大介
【審査官】奈須 リサ
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-187996(JP,A)
【文献】国際公開第2020/012820(WO,A1)
【文献】特開2000-227186(JP,A)
【文献】特開2019-108939(JP,A)
【文献】特開平10-073190(JP,A)
【文献】米国特許第04652023(US,A)
【文献】国際公開第2015/056323(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 21/08、57/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の管部の挿口と他方の管部の受口との嵌合接続部を密封状態で囲繞する分割構造の金属製の継ぎ輪が前記両管部に亘って外装され、前記継ぎ輪と他方の前記管部の受口側との管軸芯方向で相対向する部位には、前記受口と前記挿口とが設定離脱距離だけ相対離脱移動したとき、管軸芯方向から当接してそれ以上の相対離脱移動を当接阻止する第1離脱阻止部が設けられ、前記継ぎ輪の管軸芯方向の一端側の管支持部には、前記挿口の外周面に食い込み可能な抜止め爪と、前記受口と前記挿口との相対離脱移動に伴って前記抜止め爪を食い込み側に誘導する食い込み誘導部と、を備えた第2離脱阻止部が設けられている管接続部の離脱防止構造であって、
前記継ぎ輪は、前記挿口及び前記受口に対してパッキンを介して外装可能な複数の分割継ぎ輪体と、管周方向で対向する前記分割継ぎ輪体の両フランジ部同士を密封状態に締結する締結具と、を備え、
前記分割継ぎ輪体には、前記受口よりも大径の半円筒状の周壁部と、周壁部の一端側から径方向内方側に一体的に延設される半円環状の側壁部と、側壁部の内径側端部から一端側に一体的に延設されて前記継ぎ輪の一端側の前記管支持部を構成する半円筒状の管支持部が備えられ、管周方向で相対向する前記分割継ぎ輪体の両フランジ部の分割面には、少なくとも前記第2離脱阻止部が存在する一端側において、前記締結具の締結操作によって面接触するメタルタッチ面が構成さ
れ、
前記継ぎ輪の一端側の前記管支持部には、複数の前記抜止め爪を管周方向に沿って収納する爪収納部が備えられ、前記爪収納部には、前記抜止め爪の各々を前記挿口の外周面側に押圧する押しボルトが螺合され、前記締結具の締結ボルトのうち、前記分割継ぎ輪体の前記両フランジ部の一端部に位置する締結ボルトは、前記メタルタッチ面において、前記爪収納部に収容されている前記抜止め爪よりも一端側で、且つ、前記分割継ぎ輪体の両フランジ部における管軸芯方向で前記周壁部に対応する部位に位置する締結ボルトよりも径方向内方側に配置されている管接続部の離脱防止構造。
【請求項2】
一方の管部の挿口と他方の管部の受口との嵌合接続部を密封状態で囲繞する分割構造の金属製の継ぎ輪が前記両管部に亘って外装され、前記継ぎ輪と他方の前記管部の受口側との管軸芯方向で相対向する部位には、前記受口と前記挿口とが設定離脱距離だけ相対離脱移動したとき、管軸芯方向から当接してそれ以上の相対離脱移動を当接阻止する第1離脱阻止部が設けられ、前記継ぎ輪の管軸芯方向の一端側の管支持部には、前記挿口の外周面に食い込み可能な抜止め爪と、前記受口と前記挿口との相対離脱移動に伴って前記抜止め爪を食い込み側に誘導する食い込み誘導部と、を備えた第2離脱阻止部が設けられている管接続部の離脱防止構造であって、
前記継ぎ輪は、前記挿口及び前記受口に対してパッキンを介して外装可能な複数の分割継ぎ輪体と、管周方向で対向する前記分割継ぎ輪体の両フランジ部同士を密封状態に締結する締結具と、を備え、管周方向で相対向する前記分割継ぎ輪体の両フランジ部の分割面には、少なくとも前記第2離脱阻止部が存在する一端側において、前記締結具の締結操作によって面接触するメタルタッチ面が構成され、
前記継ぎ輪の一端側の前記管支持部には、複数の前記抜止め爪を
管周方向に沿って収納する爪収納部が備えられ、前記爪収納部には、前記抜止め爪の各々を前記挿口の外周面側に押圧する押しボルトが螺合され、前記締結具の締結ボルトのうち、前記分割継ぎ輪体の前記両フランジ部の一端部に位置する締結ボルトは、管周方向の端部に位置する前記押しボルトの操作空間から外れた前記メタルタッチ面における径方向最外方側部位に配置されてい
る管接続部の離脱防止構造。
【請求項3】
前記メタルタッチ面は、前記分割継ぎ輪体の前記両フランジ部の分割面のうち、前記パッキンの装着領域から一端側に外れた部位に形成されている請求項1
又は2記載の管接続部の離脱防止構造。
【請求項4】
前記メタルタッチ面は、前記分割継ぎ輪体の両フランジ部の分割面のうち、前記パッキンの装着領域から一端側に外れた部位の第1メタルタッチ面と、前記パッキンの装着領域から他端側に外れた部位の第2メタルタッチ面と、を有し、前記第1メタルタッチ面の面積が、前記第2メタルタッチ面の面積よりも大に構成されている請求項1
~3のいずれか1項に記載の管接続部の離脱防止構造。
【請求項5】
前記分割継ぎ輪体は、前記両フランジ部の分割面に形成される管軸芯方向の第1パッキン溝と、前記両第1パッキン溝の一端部に連続する状態で一端側の管支持部の内面に形成される管周方向の第2パッキン溝と、前記両第1パッキン溝の他端部に連続する状態で他端側の管支持部の内面に形成される管周方向の第3パッキン溝と、が備えられ、
前記第2パッキン溝は、
管軸芯方向において、前記分割継ぎ輪体における前記第2離脱阻止部が存在する一端側の側壁部のうち、これの外面側に形成される補強リブを除く側壁本体部
の壁厚の範囲内に位置して当該側壁本体部と重合配置されている請求項1~4のいずれか1項に記載の管接続部の離脱防止構造。
【請求項6】
前記第3パッキン溝は、管軸芯方向に間隔をおいて二列状態で形成されている請求項5記載の管接続部の離脱防止構造。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の管接続部の離脱防止構造の組付け方法であって、
一端側の前記管支持部に形成された爪収納部内に前記抜止め爪を収納し、且つ、前記爪収納部内の前記抜止め爪を前記挿口の外周面側に押圧する押しボルトを螺合してある前記継ぎ輪の前記分割継ぎ輪体を、一方の前記管部の前記挿口と他方の前記管部の前記受口との前記嵌合接続部を密封囲繞する状態で前記両管部に亘って外装する継ぎ輪外装工程と、
管周方向で対向する前記分割継ぎ輪体の前記両フランジ部同士を前記締結具で締結する継ぎ輪締結工程と、前記押しボルトで前記爪収納部内の前記抜止め爪を設定食い込み状態に押圧操作する押しボルト操作工程と、をこの順番で実行する管接続部の離脱防止構造の組付け方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方の管部の挿口と他方の管部の受口との嵌合接続部を密封状態で囲繞する分割構造の金属製の継ぎ輪が前記両管部に亘って外装され、前記継ぎ輪と他方の前記管部の受口側との管軸芯方向で相対向する部位には、前記受口と前記挿口とが設定離脱距離だけ相対離脱移動したとき、管軸芯方向から当接してそれ以上の相対離脱移動を当接阻止する第1離脱阻止部が設けられ、前記継ぎ輪の管軸芯方向の一端側の管支持部側には、前記挿口の外周面に食い込み可能な抜止め爪と、前記受口と前記挿口との相対離脱移動に伴って前記抜止め爪を食い込み側に誘導する食い込み誘導部と、を備えた第2離脱阻止部が設けられている管接続部の離脱防止構造およびそれの組付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記の管接続部の離脱防止構造では、継ぎ輪と他方の管部の受口側との管軸芯方向で相対向する部位に設けた第1離脱阻止部により、挿口と受口との嵌合接続部に地震や不同沈下等に起因する離脱力が作用したとき、受口と挿口との相対離脱移動を設定離脱距離だけ許容する。これにより、挿口と受口との嵌合接続部に作用する大きな離脱力を吸収することができる。それでいて、受口と継ぎ輪との設定離脱距離以上の相対離脱移動に対しては確実に当接阻止することができるので、継ぎ輪の他端側の管支持部に対して受口が抜け出すことはない。
【0003】
また、継ぎ輪の管軸芯方向の一端側の管支持部側に設けた第2離脱阻止部の食い込み誘導部は、受口と挿口との相対離脱移動に伴って抜止め爪を食い込み側に誘導するので、全体として、一方の管部の挿口と継ぎ輪の一端側の管支持部とが第2離脱阻止部を介して一体的に強固に固定連結される。これにより、継ぎ輪の他端側の管支持部に対する受口の抜け出し移動、及び、継ぎ輪の一端側の管支持部に対する挿口の抜け出し移動をそれぞれ強固に阻止することができる。
【0004】
従来の管接続部の離脱防止構造に用いられる継ぎ輪は、例えば、特許文献1に開示されているように、挿口及び受口に対してパッキンを介して外装可能な二分割構造の分割継ぎ輪体と、管周方向で対向する両分割継ぎ輪体の両フランジ部同士を締結するボルト・ナットと、が備えられている。管周方向で相対向する両分割継ぎ輪体のフランジ部の分割面間には隙間が形成され、ボルト・ナットの締め付け操作により、パッキンを水密状態に圧縮するとともに、抜止め爪を挿口の外周面に喰い込ませるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の継ぎ輪では、ボルト・ナットの締め付け操作で抜止め爪を挿口の外周面に喰い込ませたとき、抜止め爪の締め付け反力で継ぎ輪の一端側の管支持部が挿口の外周面から浮き上がる現象が発生する。その結果、継ぎ輪の一端側の管支持部に収納されている抜止め爪の離脱阻止機能が不安定になる不都合がある。特に、第2離脱阻止部に、挿口の外周面に対して抜止め爪を食い込み側に押圧する押しボルトが備えられている管接続部の離脱防止構造においては、押しボルトの締め付け反力で継ぎ輪の一端側の管支持部が挿口の外周面から浮き上がる現象が発生し易い。
【0007】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、両分割継ぎ輪体の合理的な改造により、抜止め爪を挿口の外周面に喰い込ませるための締め付け反力に起因する継ぎ輪の一端側の管支持部での浮き上がりを抑制して、抜止め爪の離脱阻止機能の安定化を図ることのできる管接続部の離脱防止構造およびそれの有用な組付け方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1特徴構成は、一方の管部の挿口と他方の管部の受口との嵌合接続部を密封状態で囲繞する分割構造の金属製の継ぎ輪が前記両管部に亘って外装され、前記継ぎ輪と他方の前記管部の受口側との管軸芯方向で相対向する部位には、前記受口と前記挿口とが設定離脱距離だけ相対離脱移動したとき、管軸芯方向から当接してそれ以上の相対離脱移動を当接阻止する第1離脱阻止部が設けられ、前記継ぎ輪の管軸芯方向の一端側の管支持部には、前記挿口の外周面に食い込み可能な抜止め爪と、前記受口と前記挿口との相対離脱移動に伴って前記抜止め爪を食い込み側に誘導する食い込み誘導部と、を備えた第2離脱阻止部が設けられている管接続部の離脱防止構造であって、
前記継ぎ輪は、前記挿口及び前記受口に対してパッキンを介して外装可能な複数の分割継ぎ輪体と、管周方向で対向する前記分割継ぎ輪体の両フランジ部同士を密封状態に締結する締結具と、を備え、管周方向で相対向する前記両分割継ぎ輪体のフランジ部の分割面には、少なくとも前記第2離脱阻止部が存在する一端側において、前記締結具の締結操作によって面接触するメタルタッチ面が構成されている点にある。
【0009】
上記構成によれば、管周方向で対向する前記両分割継ぎ輪体のフランジ部同士を締結具で締結したとき、両分割継ぎ輪体のフランジ部の分割面のうち、少なくとも第2離脱阻止部が存在する一端側のメタルタッチ面が面接触する。そのため、第2離脱阻止部が存在する継ぎ輪の一端側の管支持部に、抜止め爪を挿口の外周面に喰い込ませるための締め付け反力が作用しても、一端側の管支持部が挿口の外周面から浮き上がることを、分割継ぎ輪体のフランジ部における分割面の一端側のメタルタッチ面において強力に阻止することができる。
したがって、分割継ぎ輪体のフランジ部における分割面の少なくとも一端側にメタルタッチ面を形成するだけの合理的な改造をもって、抜止め爪を挿口の外周面に喰い込ませるための締め付け反力に起因する継ぎ輪の一端側の管支持部の浮き上がりを抑制して、抜止め爪の離脱阻止機能の安定化を図ることができる。
【0010】
本発明の第2特徴構成は、前記メタルタッチ面は、前記分割継ぎ輪体の前記両フランジ部の分割面のうち、前記パッキンの装着領域から一端側に外れた部位に形成されている点にある。
【0011】
上記構成によれば、分割継ぎ輪体のフランジ部における分割面のうち、パッキンの装着領域に対応する部位にはメタルタッチ面が存在しない。そのため、両分割継ぎ輪体のフランジ部を締結具で締結する際、パッキンの装着領域に対応する部位においては、締結力のトルク管理によってパッキンを高いシール性能が発揮される状態に設定することができる。
【0012】
本発明の第3特徴構成は、前記メタルタッチ面は、前記分割継ぎ輪体の両フランジ部の分割面のうち、前記パッキンの装着領域から一端側に外れた部位の第1メタルタッチ面と、前記パッキンの装着領域から他端側に外れた部位の第2メタルタッチ面と、を有し、前記第1メタルタッチ面の面積が、前記第2メタルタッチ面の面積よりも大に構成されている点にある。
【0013】
上記構成によれば、管周方向で対向する両分割継ぎ輪体のフランジ部同士を締結具で締結したとき、両分割継ぎ輪体のフランジ部の分割面のうち、一端側の大きな面積の第1メタルタッチ面と他端側の小さな面積の第2メタルタッチ面の各々が面接触する。そのため、第1メタルタッチ面と第2メタルタッチ面の協働により、第2離脱阻止部が存在する継ぎ輪の一端側の管支持部に、抜止め爪を挿口の外周面に喰い込ませるための締め付け反力が作用しても、一端側の管支持部が挿口の外周面から浮き上がることをより強力に阻止することができる。
【0014】
本発明の第4特徴構成は、前記継ぎ輪の一端側の前記管支持部には、複数の前記抜止め爪を管周方向に沿って収納する爪収納部が備えられ、前記爪収納部には、前記抜止め爪の各々を前記挿口の外周面側に押圧する押しボルトが螺合され、前記締結具の締結ボルトのうち、前記分割継ぎ輪体の前記両フランジ部の一端部に位置する締結ボルトは、管周方向の端部に位置する前記押しボルトの操作空間から外れた前記メタルタッチ面における径方向最外方側部位に配置されている点にある。
【0015】
上記構成によれば、管周方向で対向する両分割継ぎ輪体のフランジ部同士を締結具の締結ボルトで締結したのち、押しボルトを螺合操作して抜止め爪を挿口の外周面に喰い込ませる。このとき、両フランジ部の一端部に位置する締結ボルトは、管周方向の端部に位置する押しボルトの操作空間から外れたメタルタッチ面における径方向最外方側部位に配置されているので、管周方向の端部に位置する押しボルトの螺合操作を締結ボルトに邪魔されることなく容易に行うことができる。
【0016】
本発明の第5特徴構成は、前記分割継ぎ輪体は、前記両フランジ部の分割面に形成される管軸芯方向の第1パッキン溝と、前記両第1パッキン溝の一端部に連続する状態で一端側の管支持部の内面に形成される管周方向の第2パッキン溝と、前記両第1パッキン溝の他端部に連続する状態で他端側の管支持部の内面に形成される管周方向の第3パッキン溝と、が備えられ、前記第2パッキン溝は、前記分割継ぎ輪体における前記第2離脱阻止部が存在する一端側の側壁部のうち、これの外面側に形成される補強リブを除く側壁本体部と管軸芯方向で重合配置されている点にある。
【0017】
上記構成によれば、第2離脱阻止部が存在する継ぎ輪の一端側の管支持部に、抜止め爪を挿口の外周面に喰い込ませるための締め付け反力が作用したとき、一端側の管支持部が挿口の外周面から浮き上がる側に変形しようとするが、分割継ぎ輪体の一端側の側壁部が存在する部位においては変形量が少ない。そのため、第2パッキン溝を、分割継ぎ輪体の一端側の側壁部のうち、これの外面側に形成される補強リブを除く側壁本体部と管軸芯方向で重合配置することにより、第2パッキン溝に装着されるパッキンの管周方向パッキン部の面圧変動を抑制することができる。
【0018】
本発明の第6特徴構成は、前記第3パッキン溝は、管軸芯方向に間隔をおいて二列状態で形成されている点にある。
【0019】
上記構成によれば、継ぎ輪と他方の管部の受口側との管軸芯方向で相対向する部位に設けた第1離脱阻止部により、挿口と受口との嵌合接続部に地震や不同沈下等に起因する離脱力が作用したとき、受口と挿口との相対離脱移動を設定離脱距離だけ許容する。これに伴って他端側の管支持部の第3パッキン溝に装着されたパッキンの周方向パッキン部が他方の管部の外周面に沿って摺動する。この第3パッキン溝は、管軸芯方向に間隔をおいて二列状態で形成されているため、一方の第3パッキン溝に装着されたパッキンの管周方向パッキン部が摩耗して面圧が局部的に低下しても、他方の第3パッキン溝に装着されたパッキンの管周方向パッキン部で所期の密封性能を維持することができる。
【0020】
本発明の第7特徴構成は、第1~6特徴構成のいずれか一つに記載の管接続部の離脱防止構造の組付け方法であって、
一端側の前記管支持部に形成された爪収納部内に前記抜止め爪を収納し、且つ、前記爪収納部内の前記抜止め爪を前記挿口の外周面側に押圧する押しボルトを螺合してある前記継ぎ輪の前記分割継ぎ輪体を、一方の前記管部の前記挿口と他方の前記管部の前記受口との前記嵌合接続部を密封囲繞する状態で前記両管部に亘って外装する継ぎ輪外装工程と、管周方向で対向する前記分割継ぎ輪体の前記両フランジ部同士を前記締結具で締結する継ぎ輪締結工程と、前記押しボルトで前記爪収納部内の前記抜止め爪を設定食い込み状態に押圧操作する押しボルト操作工程と、をこの順番で実行する点にある。
【0021】
上記構成によれば、継ぎ輪外装工程後の継ぎ輪締結工程において、先ず、挿口と受口との嵌合接続部を密封囲繞する状態で両管部に亘って外装されている分割継ぎ輪体の前記両フランジ部同士を締結具で締結する。これにより、両管部の外周面と複数の分割継ぎ輪体との間に介装されているパッキンを、高いシール性能が発揮される状態に設定することができる。
次に、継ぎ輪締結工程後において押しボルト操作工程を実行する。押しボルトで爪収納部内の抜止め爪を設定食い込み状態に押圧操作すると、第2離脱阻止部が存在する継ぎ輪の一端側の管支持部に、押しボルトの締め付け反力が作用しても、一端側の管支持部が挿口の外周面から浮き上がることを、分割継ぎ輪体のフランジ部における分割面の少なくとも一端側のメタルタッチ面において強力に阻止することができる。
したがって、パッキンの高いシール性能を維持しながら、抜止め爪を挿口の外周面に喰い込ませるための押しボルトの締め付け反力に起因する継ぎ輪の一端側の管支持部の浮き上がりを抑制して、抜止め爪の離脱阻止機能の安定化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】第1実施形態を示す管接続部の離脱防止構造の平面図
【
図9】第2実施形態を示す第2離脱阻止部の拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕
図1~
図4は、流体配管系統に用いられる管接続部の離脱防止構造を示す。この管接続部の離脱防止構造では、一方の管部の一例である流体管1の挿口1Aと他方の管部の一例である流体管2の受口2Aとが嵌合接続部20で接続されている。この嵌合接続部20を密封状態で囲繞する分割構造の継ぎ輪3は、両流体管1,2に亘って外装されている。
継ぎ輪3と他方の流体管2の受口2A側との管軸芯方向で相対向する部位には、
図3、
図4に示すように、受口2Aと挿口1Aとが設定離脱距離だけ相対離脱移動したとき、管軸芯方向から当接してそれ以上の相対離脱移動を当接阻止する第1離脱阻止部4が設けられている。
継ぎ輪3の管軸芯方向の一端側の管支持部30Dには、
図3、
図4、
図8に示すように、挿口1Aの外周面1aに食い込み可能な抜止め爪52と、受口2Aと挿口1Aとの相対離脱移動に伴って抜止め爪52を食い込み側に誘導する食い込み誘導部50と、を備えた第2離脱阻止部5が設けられている。
【0024】
上述の管接続部の離脱防止構造では、管部として流体管1,2を例に挙げたが、管部としては従来から種々の形態のものが存在する。例えば、図示はしないが、流体管に密封状態で外装固定される分割構造の割T字管の分岐管部や流体管に一体的に突出形成された分岐管部、流体機材の一部を構成する管部等を挙げることができる。
さらに、本実施形態の流体管1,2は、流体の一例である上水を輸送するための水道管を構成するダクタイル鋳鉄管であるが、その他の鋳鉄管や鋼管等を使用することができる。流体としても、上水以外に工業用水やガス等を挙げることができる。
【0025】
一方の流体管1の挿口1Aと他方の流体管2の受口2Aとの嵌合接続部20は、
図3、
図4に示すように、K形のメカニカル継手から構成されている。このK形のメカニカル継手では、挿口1Aの外周面1aと受口2Aのテーパー状の内周面2aとの間に、シール用の円環状のゴム輪21が装着されている。このゴム輪21を管軸芯方向から押圧可能な押圧部22aを備えた押輪22が挿口1Aに外装されている。押輪22のフランジ部22bと受口2Aのフランジ部2bとは、第1締結具23によって管軸芯方向から締結されている。第1締結具23は、複数のT頭ボルト23A・ナット23Bを管周方向に所定間隔を置いて配置してなる。この第1締結具23による締結操作により、受口2Aのフランジ部2bに引き寄せ固定される押輪22の押圧部22aでゴム輪21が密封状態(水密状態)に圧縮され、その密封状態が維持される。
【0026】
第1離脱阻止部4は、
図3、
図4に示すように、第1締結具23の複数のT頭ボルト23Aと、継ぎ輪3を構成する両分割継ぎ輪体30の他端側の側壁部30Cで、且つ、T頭ボルト23Aの頭部23aと管軸芯方向で相対向する部位に形成された離脱阻止壁部30eとを備える。この離脱阻止壁部30eの内面側のボルト当接面、及び、各T頭ボルト23Aの頭部23aの当接面の各々は、管軸芯に対して直交又は略直交する垂直面に構成されている。
両流体管1,2に亘って継ぎ輪3を外装する場合には、各T頭ボルト23Aの先端が両分割継ぎ輪体30の一端側の側壁部30Bの内面に当接する状態で組付ける。この組付け当初のT頭ボルト23Aの頭部23aの当接面と、他端側の側壁部30Cにおける離脱阻止壁部30eの当接面との間の対向面間距離が、挿口1Aと受口2Aとの相対離脱移動を許与する設定離脱距離となる。
【0027】
そして、
図3、
図4に示すように、挿口1Aと受口2Aとの嵌合接続部20に地震や不同沈下等に起因する離脱力が作用したとき、挿口1Aと受口2Aとの相対離脱移動を設定離脱距離だけ許容する。これにより、挿口1Aと受口2Aとの嵌合接続部20に作用する大きな離脱力を吸収することができる。それでいて、受口2Aと継ぎ輪3との設定離脱距離以上の相対離脱移動に対しては、嵌合接続部20の各T頭ボルト23Aの頭部23aと両分割継ぎ輪体30の他端側の側壁部30Cにおける離脱阻止壁部30eとの当接によって確実に阻止することができる。
【0028】
第2離脱阻止部5には、
図3、
図4、
図8に示すように、両分割継ぎ輪体30の一端側の管支持部30Dに、径方向内方に向かって開口する状態で形成された爪収納部51と、爪収納部51内に管周方向に沿って収納される複数の抜止め爪52と、抜止め爪52の各々を挿口1Aの外周面1a側に押圧する押しボルト53と、が備えられている。
抜止め爪52の内周面における管軸芯方向の二箇所には、管周方向に沿う横断面三角形状の爪部52aが形成されている。抜止め爪52の外側面における管周方向中央部の被押圧面52bは、受口2A側ほど大径となる傾斜面に形成されている。爪収納部51の天井壁51aには、抜止め爪52の被押圧面52bに直交する方向のネジ孔54が形成されている。このネジ孔54には押しボルト53が螺合されている。
抜止め爪52の傾斜面である被押圧面52bと、これに直交方向から当接する押しボルト53の先端部とをもって、受口2Aと挿口1Aとの相対離脱移動に伴って楔効果で抜止め爪52を食い込み側に誘導する食い込み誘導部50が構成されている。
【0029】
継ぎ輪3は、
図1~
図4に示すように、両流体管1,2の嵌合接続部20を囲繞する状態で両流体管1,2に亘って外装自在な二分割構造の鋳鉄製の両分割継ぎ輪体30から構成されている。両分割継ぎ輪体30は、同一形状に構成されている。
分割継ぎ輪体30には、
図1~
図4に示すように、受口2Aよりも大径の半円筒状の周壁部30Aと、周壁部30Aの管軸芯方向両端から径方向内方側に一体的に延設される半円環状の側壁部30B,30Cと、各側壁部30B,30Cの内径側端部から管軸芯方向に沿って外方に一体的に延設される半円筒状の管支持部30D,30Eと、が主要構成として備えられている。挿口1A側となる一端側の側壁部30Bは、管軸芯に対して直交又は略直交する垂直状側壁部に構成されている。受口2A側となる他端側の側壁部30Cは、それに連続する管支持部30E側ほど小径となるテーパー状側壁部に構成されている。
【0030】
図1、
図2、
図1~
図4に示すように、継ぎ輪3の両分割継ぎ輪体30の管周方向両端部には、外方側に水平方向に沿って突出するフランジ部30Fが一体形成されている。両分割継ぎ輪体30のフランジ部30Fは、複数の締結ボルト31A・ナット31Bを備えた第2締結具31の締結操作によって密封状態(水密状態)に固定連結されている。両分割継ぎ輪体30には、
図3~
図5に示すように、継ぎ輪3の内周面30aと嵌合接続部20を含む両流体管1,2の外周面1a,2cとの間に形成される囲繞空間32を外部に対して水密状態に密封するための環状のパッキン33が設けられている。
【0031】
パッキン33は、
図3~
図5に示すように、両分割継ぎ輪体30の各々に形成された環状のパッキン溝35に装着されている。
パッキン溝35は、両フランジ部30Fの分割面30Gに管軸方向に沿って形成された第1パッキン溝35Aと、挿口1Aの半外周面に対面する一端側の管支持部30Dの内面に形成された管周方向に沿う第2パッキン溝35Bと、受口2A側の流体管2の半外周面に対面する他端側の管支持部30Eの内面に管軸芯方向に間隔をあけて形成された管周方向に沿う二条の第3パッキン溝35Cと、を備える。第2パッキン溝35Bの管周方向両端部は、両第1パッキン溝35Aの一端部に連続する。二条の第3パッキン溝35Cの管周方向両端部は、両第1パッキン溝35Aの他端部に連続する。
【0032】
パッキン33について、全体図は省略しているので、
図6のパッキン溝35に符号を併記して説明する。パッキン33は、両第1パッキン溝35Aに装着される管軸方向に沿う第1パッキン部33Aと、第2パッキン溝35Bに装着される一端側の管周方向に沿う第2パッキン部33Bと、二条の第3パッキン溝35Cに装着される他端側の管周方向に沿う第3パッキン部33Cと、を一体成形して構成されている。
【0033】
継ぎ輪3と他方の流体管2の受口2A側との管軸芯方向で相対向する部位に設けた第1離脱阻止部4により、挿口1Aと受口2Aとの嵌合接続部20に地震や不同沈下等に起因する離脱力が作用したとき、挿口1Aと受口2Aとの相対離脱移動を設定離脱距離だけ許容する。これに伴って他端側の管支持部30Eの第3パッキン溝35Cに装着されたパッキン33の第3パッキン部33Cが他方の流体管2の外周面2cに沿って摺動する。この第3パッキン溝35C及び第3パッキン部33Cは、管軸芯方向に間隔をおいて二列状態で形成されているため、一方の第3パッキン部33Cの一部が摩耗又は変形して面圧が局部的に低下しても、他方の第3パッキン部33Cで所期の密封性能を維持することができる。
【0034】
パッキン溝35の第2パッキン溝35Bは、分割継ぎ輪体30における第2離脱阻止部5が存在する一端側の側壁部30Bのうち、これの外面側に形成される補強リブ30bを除く側壁本体と管軸芯方向で重合配置されている。
【0035】
両分割継ぎ輪体30の一端側の管支持部30Dに、抜止め爪52を挿口1Aの外周面1aに喰い込ませるための押しボルト53の締め付け反力が作用したとき、一端側の管支持部30Dが挿口1Aの外周面1aから浮き上がる側に変形しようとするが、分割継ぎ輪体30の一端側の側壁部30Bが存在する部位においては変形量が少ない。そのため、第2パッキン溝35Bを、分割継ぎ輪体30の一端側の側壁部30Bのうち、これの外面側に形成される補強リブ30bを除く側壁本体部と管軸芯方向で重合配置することにより、第2パッキン溝35Bに装着されるパッキン33の第2パッキン部33Bの面圧変動を抑制することができる。
【0036】
図2、
図6に示すように、分割継ぎ輪体30の両フランジ部30Fの分割面30Gには、少なくとも第2離脱阻止部5が存在する一端側において、第2締結具31を構成する複数の締結ボルト31A・ナット31Bの締結操作によって面接触するメタルタッチ面36が構成されている。メタルタッチ面36の領域は、
図6において薄墨模様で表示した部分である。
【0037】
そして、管周方向で対向する両分割継ぎ輪体30のフランジ部30F同士を第2締結具31で締結したとき、両分割継ぎ輪体30のフランジ部30Fの分割面30Gのうち、少なくとも第2離脱阻止部5が存在する一端側のメタルタッチ面36が面接触する。そのため、第2離脱阻止部5が存在する両分割継ぎ輪体30の一端側の管支持部30Dに、抜止め爪52を挿口1Aの外周面1aに喰い込ませるための押しボルト53の締め付け反力が作用しても、一端側の管支持部30Dが挿口1Aの外周面1aから浮き上がることを、両分割継ぎ輪体30のフランジ部30Fにおける分割面30Gの少なくとも一端側のメタルタッチ面36において強力に阻止することができる。
したがって、両分割継ぎ輪体30のフランジ部30Fにおける分割面30Gの少なくとも一端側にメタルタッチ面36を形成するだけの合理的な改造をもって、押しボルト53の締め付け反力に起因する継ぎ輪3の一端側の管支持部30Dの浮き上がりを抑制して、抜止め爪52の離脱阻止機能の安定化と共に、安定したシール性を維持することができる。
【0038】
本実施形態では、メタルタッチ面36は、
図2、
図5に示すように、分割継ぎ輪体30の両フランジ部30Fの分割面30Gのうち、パッキン33の第1パッキン部33Aの装着領域(以下、パッキン装着領域と記載する)から管軸芯方向の一端側に外れた部位の第1メタルタッチ面36Aと、パッキン装着領域から管軸芯方向の他端側に外れた部位の第2メタルタッチ面36Bと、から構成されている。
詳しくは、第1メタルタッチ面36Aは、両分割継ぎ輪体30の一端側の管支持部30Dに形成される爪収納部51よりも一端側に外れた部位に形成されている。第2メタルタッチ面36Bは、第3パッキン部33Cよりも他端側に外れた部位に形成されている。第1メタルタッチ面36Aの面積は、他端側の第2メタルタッチ面36Bの面積よりも大に構成されている。
【0039】
図2、
図5に示すように、両分割継ぎ輪体30のフランジ部30Fにおける分割面30Gのうち、第1メタルタッチ面36Aと第2メタルタッチ面36Bとの間に位置する部位は非接触面37に構成されている。そのため、パッキン装着領域は、両分割継ぎ輪体30のフランジ部30F同士を第2締結具31で締結したとき、管周方向で対向する両フランジ部30Fの分割面30Gにおける非接触面37間に隙間が発生する。
【0040】
そして、管周方向で対向する両分割継ぎ輪体30のフランジ部30F同士を第2締結具31で締結したとき、両分割継ぎ輪体30のフランジ部30Fの分割面30Gのうち、一端側の大きな面積の第1メタルタッチ面36Aと他端側の小さな面積の第2メタルタッチ面36Bの各々が面接触する。そのため、第1メタルタッチ面36A及び第2メタルタッチ面36Bの協働により、両分割継ぎ輪体30の一端側の管支持部30Dに、抜止め爪52を挿口1Aの外周面1aに喰い込ませるための押しボルト53の締め付け反力が作用しても、一端側の管支持部30Dが挿口1Aの外周面1aから浮き上がることをより強力に阻止することができる。
【0041】
しかも、両分割継ぎ輪体30のフランジ部30Fにおける分割面30Gのうち、パッキン装着領域に対応する部位は非接触面37に構成されている。そのため、両分割継ぎ輪体30のフランジ部30Fを第2締結具31で締結する際、パッキン装着領域に対応する部位においては、締結力のトルク管理によってパッキン33を高いシール性能が発揮される適正な圧縮状態に設定することができる。
【0042】
両分割継ぎ輪体30のフランジ部30Fには、第2締結具31の締結ボルト31Aに対する複数のボルト挿通孔38が形成されている。第1メタルタッチ面36Aと第2メタルタッチ面36Bとの間のパッキン装着領域には、複数のボルト挿通孔38が管軸芯方向に沿って所定ピッチで配置されている。第1メタルタッチ面36Aには、爪収納部51の天井壁51aに形成されている押しボルト53用のネジ孔54よりも一端側に離間した位置で管径方向に沿って二つのボルト挿通孔38が配置されている。そのうち、第1メタルタッチ面36Aの管径方向の最外側に位置するボルト挿通孔38は、管周方向の端部に位置する押しボルト53の操作空間から径方向外方側に外れた部位に配置されている。
【0043】
そして、管周方向で対向する両分割継ぎ輪体30のフランジ部30F同士を第2締結具31の締結ボルト31A・ナット31Bで締結したのち、押しボルト53を螺合操作して抜止め爪52を挿口1Aの外周面1aに喰い込ませる。このとき、両フランジ部30Fの一端部で、且つ、第1メタルタッチ面36Aの管径方向の最外側に位置する締結ボルト31A・ナット31Bは、管周方向の端部に位置する押しボルト53の操作空間から径方向外方側に外れた部位に配置されている。これにより、周方向の端部に位置する押しボルト53をボックスレンチ等の回転操作具で回転操作する際、第1メタルタッチ面36Aの管径方向の最外側に位置する締結ボルト31A・ナット31Bと回転操作具が干渉することがなく、押しボルト53の螺合操作を締結ボルト31A・ナット31Bに邪魔されることなく容易に行うことができる。
【0044】
次に、接続部の離脱防止構造の組付け方法について説明する。この方法では、継ぎ輪3の準備工程→継ぎ輪外装工程→継ぎ輪締結工程→押しボルト操作工程の順番で実行する。
(1)継ぎ輪3の準備工程
継ぎ輪3を構成する両分割継ぎ輪体30のパッキン溝35にパッキン33を装着し、一端側の管支持部30Dの爪収納部51内には、複数の抜止め爪52を管周方向に沿って収納する。爪収納部51の天井壁51aに形成されているネジ孔54には押しボルト53を螺合する。
【0045】
(2)継ぎ輪外装工程
継ぎ輪3の両分割継ぎ輪体30を、一方の流体管1の挿口1Aと他方の流体管2の受口2Aとの嵌合接続部20を密封囲繞する状態で両流体管1,2に亘って外装する。このとき、第1締結具23の各T頭ボルト23Aの先端が両分割継ぎ輪体30の一端側の側壁部30Bの内面に当接する状態で組付ける。この組付け当初のT頭ボルト23Aの頭部23aの当接面と、他端側の側壁部30Cにおける離脱阻止壁部30eの当接面との間の対向面間距離が、挿口1Aと受口2Aとの相対離脱移動を許与する設定離脱距離となる。
【0046】
(3)継ぎ輪締結工程
次に、管周方向で対向する両分割継ぎ輪体30のフランジ部30F同士を第2締結具31の締結ボルト31A・ナット31Bで締結する。この締結操作により、両分割継ぎ輪体30のフランジ部30Fの分割面30Gのうち、一端側の大きな面積の第1メタルタッチ面36Aと他端側の小さな面積の第2メタルタッチ面36Bの各々が面接触する。この分割面30Gにおける第1メタルタッチ面36Aと第2メタルタッチ面36Bとの間は非接触面37に形成されているため、パッキン装着領域に相当する非接触面37間に隙間が発生する。そのため、両分割継ぎ輪体30のフランジ部30Fを第2締結具31で締結する際、パッキン装着領域に対応する部位においては、締結力のトルク管理によってパッキン33を高いシール性能が発揮される適正な圧縮状態に設定する。
【0047】
(4)押しボルト操作工程
爪収納部51の天井壁51aの各ネジ孔54に螺合された押しボルト53の先端部は、抜止め爪52の傾斜面である被押圧面52bに対して直交方向から当接する。この当接状態にある各押しボルト53を締付け側に螺合操作し、爪収納部51内の抜止め爪52を設定食い込み状態に設定する。
押しボルト53の締め付け反力が作用しても、第1メタルタッチ面36A及び第2メタルタッチ面36Bの協働により、両分割継ぎ輪体30の一端側の管支持部30Dが挿口1Aの外周面1aから浮き上がることをより強力に阻止することができる。
したがって、パッキン33の高いシール性能を維持しながら、抜止め爪52を挿口1Aの外周面1aに喰い込ませるための押しボルト53の締め付け反力に起因する両分割継ぎ輪体30の一端側の管支持部30Dの浮き上がりを抑制して、抜止め爪52の離脱阻止機能の安定化を図ることができる。
【0048】
両分割継ぎ輪体30の一端側の管支持部30Dで、且つ、爪収納部51よりも一端側に位置する端部内周面30dは、一端側ほど大径となるテーパー面に構成されている。これは継手が曲がっているタイプに対応するためである。
【0049】
〔第2実施形態〕
図9は、第2離脱阻止部5の押しボルト53のネジ構造の改良を示す。このネジ構造では、両分割継ぎ輪体30の一端側の管支持部30Dにおける爪収納部51の天井壁51aに、押しボルト53を挿通自在な雌ネジのない馬鹿孔60を形成する。この馬鹿孔60の管径方向内方側部位には、押しボルト53と螺合する雌ネジ(図示省略)を備えたネジ部材61を脱着自在に回り止め状態で収納するネジ収納部62を連通形成する。
【0050】
本実施形態では、ネジ部材61としてJIS規格の六角ナットを用いる。ネジ収納部62は、六角ナットの対角距離よりも若干大きな通路幅で管軸芯に対して直交する方向に開口する第1通路部62Aと、第1通路部62Aの奥側において馬鹿孔60の中心線に対して直交する傾斜姿勢の第2通路部62Bと、を有する。第1通路部62Aの側壁部30B側の垂直内壁面62aと第2通路部62Bの側壁部30B側の傾斜内壁面62bとが「く」の字状に屈曲する。六角ナットは、第1通路部62Aから縦向き姿勢で挿入し、第2通路部62B内で天井壁51aの内面に沿う装着姿勢に回転する。この装着姿勢の六角ナットは、垂直内壁面62aと傾斜内壁面62bとの屈曲部位又はその近傍位置で抜け止め係止される。
【0051】
例えば、第1実施形態のように、爪収納部51の天井壁51aにネジ孔54を形成する場合では、ネジ孔54が管軸芯に対して傾斜し、且つ、分割継ぎ輪体30の管支持部30Dの管周方向に所定ピッチで複数個を形成されているため、重量物の管支持部30Dを特殊な治具で高精度に位置決めしてネジ加工する必要がある。そのため、ネジ加工に多数の手数を要し、分割継ぎ輪体30のコストが高騰化する。しかし、上述の第2実施形態の場合は、爪収納部51の天井壁51aに馬鹿孔60を形成し、この馬鹿孔60に連通するネジ収納部62に六角ナット等のネジ部材61を収納するだけで済む。これにより、ネジ加工の為の特殊な治具が不要で、手数も削減できるため、分割継ぎ輪体30のコストの低廉化を図ることができる。
尚、その他の構成は、第1実施形態で説明した構成と同一であるから、同一の構成箇所には、第1実施形態と同一の番号を付記してそれの説明は省略する。
【0052】
〔その他の実施形態〕
(1)上述の各実施形態では、一方の流体管1の挿口1Aと他方の流体管2の受口2Aとの嵌合接続部20として、K形のメカニカル継手を例に挙げて説明したが、受口2Aの内面にゴム輪21を装着しテーパー状の挿口1Aを挿入するのみで接合ができるプッシュオンタイプのT形のメカニカル継手であってもよい。
【0053】
(2)上述の各実施形態では、メタルタッチ面36を、パッキン装着領域から管軸芯方向の一端側に外れた部位の第1メタルタッチ面36Aと、パッキン装着領域から管軸芯方向の他端側に外れた部位の第2メタルタッチ面36Bと、から構成したが、第1メタルタッチ面36Aのみで実施してもよい。
さらに、両分割継ぎ輪体30のフランジ部30Fにおける分割面30G全体をメタルタッチ面36に形成しても良い。
【符号の説明】
【0054】
1 一方の管部(流体管)
1A 挿口
1a 外周面
2 他方の管部(流体管)
2A 受口
3 継ぎ輪
4 第1離脱阻止部
5 第2離脱阻止部
30 分割継ぎ輪体
30D 管支持部
30F フランジ部
30G 分割面
31 締結具(第2締結具)
31A 締結ボルト
33 パッキン
35 パッキン溝
35A 第1パッキン溝
35B 第2パッキン溝
35C 第3パッキン溝
36 メタルタッチ面
36A 第1メタルタッチ面
36B 第2メタルタッチ面
50 食い込み誘導部
51 爪収納部
52 抜止め爪
53 押しボルト