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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物、成形体及び積層体
(51)【国際特許分類】
   C08L 53/02 20060101AFI20240801BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240801BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240801BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
C08L53/02
B32B27/00 A
B32B27/30 B
B32B27/32 C
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020139390
(22)【出願日】2020-08-20
(65)【公開番号】P2021075690
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2023-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2019204608
(32)【優先日】2019-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 政徳
(72)【発明者】
【氏名】佐野 二朗
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-502470(JP,A)
【文献】特表2003-502471(JP,A)
【文献】特開平08-277353(JP,A)
【文献】特開2018-095878(JP,A)
【文献】特開2009-149861(JP,A)
【文献】国際公開第2013/047690(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/216245(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08F
C08J
B32B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状ポリオレフィン(A)と、スチレン系エラストマー(B)とを含有する熱可塑性樹脂組成物であって、
該環状ポリオレフィン(A)が、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含むブロックコポリマーの水素化体である水素化ブロックコポリマーからなり、
該水素化ブロックコポリマーは、前記芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び前記共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有し、
該水素化ブロックコポリマーは、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を少なくとも2個有すると共に、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位を少なくとも1個有し、
前記スチレン系エラストマー(B)は、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含むブロックコポリマーの水素化体である水添ブロック共重合体からなり、
該水添ブロック共重合体は、前記芳香族ビニルモノマー単位からなる芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び前記共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有し、
前記水添ブロック共重合体を構成する芳香族ビニルポリマーブロック単位は水素化されていない熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記環状ポリオレフィン(A)100質量部に対して、スチレン系エラストマー(B)5~200質量部を含有する、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が90%以上の水素化レベルをもち、且つ、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位が95%以上の水素化レベルをもつ、請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が水素化ポリスチレンからなり、前記環状ポリオレフィン(A)中の含有率が30~99モル%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位が水素化ポリブタジエンからなり、前記環状ポリオレフィン(A)中の含有率が1~70モル%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記スチレン系エラストマー(B)中の芳香族ビニルポリマーブロック単位の含有率が25~35質量%である、請求項1~5のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記スチレン系エラストマー(B)の重量平均分子量が10,000~100,000である、請求項1~のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形体。
【請求項9】
医療用成形体、光学部品、又は電気・電子部品である、請求項に記載の成形体。
【請求項10】
前記医療用成形体が、プラスチックスライドガラス、点眼容器、薬瓶アンプル、バイアル、これらに用いるキャップ、試験管、採血管、検体容器、プレフィルドシリンジ、又は注射器シリンジである請求項に記載の成形体。
【請求項11】
ポリプロピレン系樹脂を含む基材層及び請求項1~のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなるヒートシール層を有する積層体。
【請求項12】
請求項11に記載の積層体を用いた輸液バッグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性、柔軟性及び低温ヒートシール性の優れた熱可塑性樹脂組成物及び成形体を提供することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含むブロックコポリマーの水素化体であり、前記芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び前記共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有する環状ポリオレフィンは、優れた透明性、耐候性を有し、医療、光学材料をはじめ、電気・電子部品の材料として、今後適用が期待されている。
この環状ポリオレフィンの利用については、本発明者等が種々検討しているが、公開された特許出願等の文献等はまだない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、本発明者等による環状ポリオレフィンの検討において、これをアンダーカット形状の医療用容器のキャップ等に適用する場合には、離型の際の割れを防ぐため、透明性を維持したまま柔軟性を向上する必要があることが見出されている。
また、フィルム用途に適用する場合には、柔軟性及びヒートシール性の向上が必要であり、特に180℃以下での低温ヒートシール性の向上が必要である。
本発明は、このような問題を鑑みてなされたものである。即ち、本発明の課題は、透明性、柔軟性及び低温ヒートシール性の優れた熱可塑性樹脂組成物及び成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は鋭意検討した結果、特定の環状ポリオレフィンと特定のスチレン系エラストマーを含有する熱可塑性樹脂組成物が、透明性、柔軟性及び低温ヒートシール性に優れることから、医療用成形体、光学部品、又は電気・電子部品の材料として好適に用いることができることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は以下の特徴を有する。
【0005】
[1]環状ポリオレフィン(A)と、スチレン系エラストマー(B)とを含有する熱可塑性樹脂組成物であって、該環状ポリオレフィン(A)が、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含むブロックコポリマーの水素化体である水素化ブロックコポリマーからなり、該水素化ブロックコポリマーは、前記芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び前記共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有し、該水素化ブロックコポリマーは、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を少なくとも2個有すると共に、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位を少なくとも1個有する、熱可塑性樹脂組成物。
【0006】
[2]前記環状ポリオレフィン(A)100質量部に対して、スチレン系エラストマー(B)5~200質量部を含有する、[1]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[3]前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が90%以上の水素化レベルをもち、且つ、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位が95%以上の水素化レベルをもつ、[1]又は[2]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[4]前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が水素化ポリスチレンからなり、前記環状ポリオレフィン(A)中の含有率が30~99モル%である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0007】
[5]前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位が水素化ポリブタジエンからなり、前記環状ポリオレフィン(A)中の含有率が1~70モル%である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[6]前記スチレン系エラストマー(B)が、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含むブロックコポリマーの水素化体である水素化ブロックコポリマーからなり、該水素化ブロックコポリマーは、前記芳香族ビニルモノマー単位からなる芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び前記共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有する、[1]~[5]のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[7]前記スチレン系エラストマー(B)中の芳香族ビニルポリマーブロック単位の含有率が25~35質量%である、[6]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0008】
[8]前記スチレン系エラストマー(B)の重量平均分子量が10,000~100,000である、[1]~[7]のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[9][1]~[8]のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形体。
[10]医療用成形体、光学部品、又は電気・電子部品である、[9]に記載の成形体。
【0009】
[11]前記医療用成形体が、プラスチックスライドガラス、点眼容器、薬瓶アンプル、バイアル、これらに用いるキャップ、試験管、採血管、検体容器、プレフィルドシリンジ、又は注射器シリンジである[10]に記載の成形体。
[12]ポリプロピレン系樹脂を含む基材層及び[1]~[8]のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなるヒートシール層を有する積層体。
[13][12]に記載の積層体を用いた輸液バッグ。
【発明の効果】
【0010】
この発明にかかる特定の環状ポリオレフィンとスチレン系エラストマーを含有する熱可塑性樹脂組成物及び成形体は、透明性、柔軟性及び低温ヒートシール性に優れることから、医療用成形体、光学部品、又は電気・電子部品の材料として好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
以下において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0012】
本願に係る発明は、環状ポリオレフィン(A)と、スチレン系エラストマー(B)とを含有する熱可塑性樹脂組成物についての発明である。
【0013】
<環状ポリオレフィン(A)>
本発明の環状ポリオレフィン(A)は、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含むブロックコポリマーの水素化体である水素化ブロックコポリマーからなる。
該水素化ブロックコポリマーは、前記芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び前記共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有する。
また、該水素化ブロックコポリマーは、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を少なくとも2個有すると共に、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位を少なくとも1個有するものである。
【0014】
本発明の環状ポリオレフィン(A)は、透明性及び耐候性の観点から、前記水素化ブロックコポリマーからなることが好ましい。
なお、「ブロック」とは、後記するように、本明細書において、コポリマーの構造的又は組成的に異なった重合セグメントからのミクロ層分離を表すコポリマーの重合セグメントをいう。このため、例えば「ブロック単位を少なくとも2個有する」とは、水素化ブロックコポリマーの中に、構造的又は組成的に異なった重合セグメントからのミクロ層分離を表すコポリマーの重合セグメントを少なくとも2個有することをいう。
【0015】
前記の芳香族ビニルモノマー単位の原料となる芳香族ビニルモノマーは、下記一般式(1)で示されるモノマーである。
【0016】
【化1】
【0017】
ここでRは、水素又はアルキル基、Arはフェニル基、ハロフェニル基、アルキルフェニル基、アルキルハロフェニル基、ナフチル基、ピリジニル基、又はアントラセニル基である。
【0018】
前記アルキル基は、ハロ基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシ基、シアノ基、カルボニル基、及びカルボキシル基のような官能基で単置換若しくは多重置換されたアルキル基であってもよい。また、前記アルキル基の炭素数は1~6がよい。
また、前記のArは、フェニル基又はアルキルフェニル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
【0019】
前記芳香族ビニルモノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン(全ての異性体を含み、特にp-ビニルトルエン)、エチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、ビニルビフェニル、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン(全ての異性体)、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0020】
前記の共役ジエンモノマー単位の原料となる共役ジエンモノマーは、2個の共役二重結合を持つモノマーであればよく、特に限定されるものではない。
共役ジエンモノマーとしては、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレンン)、2-メチル-1,3ペンタジエンとその類似化合物、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0021】
前記1,3-ブタジエンの重合体であるポリブタジエンは、水素化で1-ブテン繰り返し単位の等価物を与える1,2配置、又は水素化でエチレン繰り返し単位の等価物を与える1,4配置のいずれかを含むことができる。
【0022】
前記の芳香族ビニルモノマーや、1,3-ブタジエンを含む前記共役ジエンモノマーから構成される重合性ブロックの水素化体は、本発明で使用される水素化ブロックコポリマーに含まれる。好ましくは、水素化ブロックコポリマーは官能基のないブロックコポリマーである。
なお、「官能基のない」とはブロックコポリマー中に如何なる官能基、即ち、炭素と水素以外の元素を含む基が存在しないことを意味する。
【0023】
前記の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の好ましい例としては、水素化ポリスチレンを挙げることができ、前記の水素化共役ジエンポリマーブロック単位の好ましい例としては、水素化ポリブタジエンを挙げることができる。
そして、水素化ブロックコポリマーの好ましい一態様としては、スチレンとブタジエンの水素化トリブロック又はペンタブロックコポリマーを挙げることができ、他の如何なる官能基又は構造的変性剤も含まないことが好ましい。
「ブロック」とは、コポリマーの構造的又は組成的に異なった重合セグメントからのミクロ層分離を表すコポリマーの重合セグメントとして定義される。ミクロ層分離は、ブロックコポリマー中で重合セグメントが混じり合わないことにより生ずる。
なお、ミクロ層分離とブロックコポリマーは、PHYSICS TODAYの1999年2月号32-38頁の“Block Copolymers-Designer Soft Materials”で広範に議論されている。
【0024】
水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の含有率は、前記環状ポリオレフィン(A)に対して、好ましくは30~99モル%、より好ましくは40~90モル%である。
水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の比率が上記下限値以上であれば剛性が低下することがなく、上記上限値以下であれば脆性が悪化することがない。
【0025】
また、水素化共役ジエンポリマーブロック単位の含有率は、前記環状ポリオレフィン(A)に対して、好ましくは1~70モル%、より好ましくは10~60モル%である。
水素化共役ジエンポリマーブロック単位の比率が上記下限値以上であれば脆性が悪化することがなく、上記上限値以下であれば剛性が低下することがない。
【0026】
なお、前記のとおり、本願発明にかかるポリオレフィンは、「環状ポリオレフィン」であるが、この「環状」とは、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が有する、芳香族環の水素化により生じる脂環式構造のことをいう。
【0027】
本発明の水素化ブロックコポリマーはSBS、SBSBS、SIS、SISIS、及びSISBS(ここで、Sはポリスチレン、Bはポリブタジエン、Iはポリイソプレンを意味する。)のようなトリブロック、マルチブロック、テーパーブロック、及びスターブロックコポリマーを含むブロックコポリマーの水素化によって製造される。
【0028】
本発明の水素化ブロックコポリマーはそれぞれの末端に芳香族ビニルポリマーからなるセグメントを含む。このため、本発明の水素化ブロックコポリマーは、少なくとも2個の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を有することとなる。そして、この2個の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の間には、少なくとも1つの水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有することとなる。
【0029】
前記水素化ブロックコポリマーを構成する水素化前のブロックコポリマーは、何個かの追加ブロックを含んでいてもよく、これらのブロックはトリブロックポリマー骨格のどの位置に結合していてもよい。このように、線状ブロックは例えばSBS、SBSB、SBSBS、そしてSBSBSBを含む。コポリマーは分岐していてもよく、重合連鎖はコポリマーの骨格に沿ってどの位置に結合していてもよい。
【0030】
水素化ブロックコポリマーの重量平均分子量(Mw)の下限は、好ましくは30,000以上、より好ましくは40,000以上、更に好ましくは45,000以上、特に好ましくは50,000以上である。また、Mwの上限は、好ましくは120,000以下、より好ましくは100,000以下、更に好ましくは95,000以下、特に好ましくは90,000以下、最も好ましくは85,000以下、極めて好ましくは80,000以下である。
Mwが上記下限値以上であれば機械強度が低下せず、上記上限値以下であれば成形加工性が悪化しない。
本明細書のMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて決定される。
【0031】
水素化ブロックコポリマーの水素化レベルは、好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が90%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が95%以上;より好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が95%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が99%以上;更に好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が98%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が99.5%以上;特に好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が99.5%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が99.5%以上である。
なお、水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の水素化レベルとは、芳香族ビニルポリマーブロック単位が水素化によって飽和される割合を示し、水素化共役ジエンポリマーブロック単位の水素化レベルとは、共役ジエンポリマーブロック単位が水素化によって飽和される割合を示す。このように高レベルの水素化は、耐熱性及び透明性のために好ましい。
【0032】
水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の水素化レベルと水素化共役ジエンポリマーブロック単位の水素化レベルは、プロトンNMRを用いて決定される。
【0033】
本発明の環状ポリオレフィン(A)のメルトフローレート(MFR)は特に限定されないが、0.1g/10分以上であり、成形方法や成形体の外観の観点から、好ましくは0.2g/10分以上である。また、200g/10分以下であり、材料強度の観点から、好ましくは100g/10分以下、より好ましくは50g/10分以下である。
MFRは、ISO R1133に従って、測定温度230℃、測定荷重2.16kgの条件で測定した。
【0034】
環状ポリオレフィン(A)は、1種を単独で用いてもよく、モノマー単位の組成や物性等の異なる2種以上を併用してもよい。
本発明の環状ポリオレフィン(A)としては、市販のものを用いることができる。具体的には、三菱ケミカル(株)製:ゼラス(商標登録)が挙げられる。
【0035】
<スチレン系エラストマー(B)>
本発明のスチレン系エラストマー(B)は、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含む共重合体である。そしてこの共重合体の中でも、前記の両単位を含むブロックコポリマーやこのブロックコポリマーの水素化体である水素化ブロックコポリマーが好ましい。
このブロックコポリマーは、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位からなる芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位からなる共役ジエンポリマーブロック単位を有するスチレン系ブロック共重合体(以下、単に「ブロック共重合体」と称する場合がある。)である。
また、前記水素化ブロックコポリマーは、前記の芳香族ビニルモノマー単位からなる芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び前記共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有するスチレン系水添ブロック共重合体(以下、単に「水添ブロック共重合体」と称する場合がある。)である。
【0036】
前記のスチレン系ブロック共重合体やスチレン系水添ブロック共重合体の2つのブロック単位の関係は、下記式(2)又は式(3)で表すことができる。
S-(D-S)m …(2)
(S-D)n …(3)
(式中、Sは芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックを表し、Dは共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロック又はその水素化体(水添体)を表し、m及びnは1~5の整数を表す。)
【0037】
前記スチレン系エラストマー(B)としては、前記のスチレン系水添ブロック共重合体が特に好ましい。
また、前記スチレン系ブロック共重合体やスチレン系水添ブロック共重合体は、直鎖状、分岐状及び/又は放射状の何れであってもよい。
【0038】
前記スチレン系ブロック共重合体の原料となる芳香族ビニルモノマーとしては、スチレン又はα-メチルスチレン等のスチレン誘導体が好ましい。また、前記スチレン系ブロック共重合体の原料となる共役ジエンモノマーとしては、ブタジエン及び/又はイソプレンが好ましく、ブタジエンがより好ましい。
【0039】
前記スチレン系ブロック共重合体としては、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムやスチレン-イソプレン共重合体ゴムが特に好ましく、前記スチレン系水添ブロック共重合体としては、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムやスチレン-イソプレン共重合体ゴムのうち、ポリブタジエンブロック単位やポリイソプレンブロック単位が水素化(水添)されたものが特に好ましい。
【0040】
前記の式(2)及び/又は式(3)で表されるブロック共重合体が水添ブロック共重合体であり、Dのポリマーブロックがポリブタジエンブロック単位の水素化物(水添物)のみから構成される場合、Dのポリマーブロックのミクロ構造中の1,2-付加構造が20~70質量%であることが、水添後のエラストマーとしての性質を保持する上で好ましい。
【0041】
前記のm及びnは、秩序-無秩序転移温度を下げるという意味では大きい方がよいが、製造しやすさ及びコストの点では小さい方がよい。
スチレン系ブロック共重合体としては、ゴム弾性に優れることから式(2)で表されるブロック共重合体や水添ブロック共重合体が好ましく、mが3以下である式(2)で表されるブロック共重合体や水添ブロック共重合体がより好ましく、mが2以下である式(2)で表されるブロック共重合体や水添ブロック共重合体が更に好ましい。
【0042】
前記の式(2)及び/又は式(3)で表されるブロック共重合体や水添ブロック共重合体中の「Sのポリマーブロック」の割合は、スチレン系エラストマーの剛性の点から多い方が好ましく、また、一方、柔軟性及びブリードアウトのしにくさの点から少ない方が好ましい。
前記の式(2)のブロック共重合体や水添ブロック共重合体中の「Sのポリマーブロック」の割合は、15質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、25質量%以上が更に好ましい。また、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、35質量%以下が更に好ましい。
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物の透明性の観点から、スチレン系エラストマー(B)中の「Sのポリマーブロック」(芳香族ビニルポリマーブロック単位)の含有率は25~35質量%が特に好ましい。
【0043】
前記スチレン系エラストマー(B)の重量平均分子量(Mw)は、機械的強度の点では大きい方が好ましいが、透明性、成形外観及び流動性の点では小さい方が好ましい。
前記スチレン系エラストマー(B)の重量平均分子量(Mw)は、1万以上が好ましく、3万以上がより好ましい。また、10万以下が好ましく、8万以下がより好ましく、7万以下が更に好ましく、6.5万以下が特に好ましい。
【0044】
ここで重量平均分子量(Mw)は、GPCを用いて下記条件で測定したポリスチレン換算の数値である。
・機器:日本ミリポア(株)製「150CALC/GPC」
・カラム:昭和電工(株)製「AD80M/S」3本
・検出器:FOXBORO社製赤外分光光度計「MIRANIA」
・波長:3.42μm
・溶媒:o-ジクロロベンゼン
・温度:140℃
・流速:1cm/分
・注入量:200μL
・濃度:2mg/cm
・酸化防止剤として2,6-ジ-t-ブチル-p-フェノール0.2質量%を添加
【0045】
前記スチレン系エラストマー(B)の製造方法としては、上述の構造と物性が得られればどのような方法でもよく、公知の製造方法を用いることができる。
【0046】
前記水添ブロック共重合体の市販品としては、TSRC社製「タイポール(登録商標)」、クレイトンポリマー社製「クレイトン(登録商標)G」、(株)クラレ製「セプトン(登録商標)」、旭化成(株)製「タフテック(登録商標)」等が挙げられる。
【0047】
前記スチレン系エラストマー(B)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
<熱可塑性樹脂組成物>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、前記の環状ポリオレフィン(A)とスチレン系エラストマー(B)とを含有する。
前記熱可塑性樹脂組成物は、前記環状ポリオレフィン(A)100質量部に対して、前記スチレン系エラストマー(B)5~200質量部を含有することが好ましい。
【0049】
前記スチレン系エラストマー(B)の含有量は、前記環状ポリオレフィン(A)100質量部に対して、10質量部以上がより好ましく、20質量部以上が更に好ましい。また、150質量部以下がより好ましく、125質量部以下が更に好ましい。
前記スチレン系エラストマー(B)の含有量が上記範囲内であれば、透明性、柔軟性及び低温ヒートシール性が良好となる。
【0050】
前記熱可塑性樹脂組成物のヘーズは、好ましくは30以下、より好ましく20以下、更に好ましく10以下である。
また、前記熱可塑性樹脂組成物の曲げ弾性率は、好ましくは1800MPa以下、より好ましくは1700MPa以下、更に好ましくは1600MPa以下である。
また、前記熱可塑性樹脂組成物からなるフィルムの160℃におけるヒートシール強度は、好ましくは3N/15mm以上、より好ましくは4N/15mm以上、更に好ましくは5N/15mm以上である。
【0051】
<その他の成分>
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、その他の成分として、樹脂組成物に常用されている配合剤を、本発明の効果を損なわない範囲で含有させることができる。
このような配合剤としては、例えば、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、防錆剤、無機充填材、発泡剤及び顔料が挙げられる。
この内、酸化防止剤、特にフェノール系、硫黄系又はリン系の酸化防止剤を含有させることが好ましい。酸化防止剤は、前記熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して0.01~2質量部含有させることが好ましい。
【0052】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、前記環状ポリオレフィン(A)及び前記スチレン系エラストマー(B)以外の樹脂成分やエラストマー成分を含有させてもよい。
このような樹脂成分としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン-α-オレフィン共重合樹脂、プロピレン-α-オレフィン共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン-アクリル酸エステル共重合樹脂、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合体、アクリル系樹脂、及び石油樹脂スチレン-共役ジエンブロック共重合樹脂が挙げられる。
【0053】
またエラストマー成分としては、例えば、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、アクリル系エラストマー、ナイロン系エラストマーが挙げられる。
【0054】
その他の成分の配合は、熱可塑性樹脂の溶融混練に常用されている混練方法にて環状ポリオレフィン(A)及びスチレン系エラストマー(B)に添加してもよいし、環状ポリオレフィン(A)と共に有機溶媒へ溶解させて混合してもよい。
その他の樹脂成分の含有率は、全成分の50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。
【0055】
<熱可塑性樹脂組成物の製造方法>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、前記環状ポリオレフィン(A)、前記スチレン系エラストマー(B)、及び必要に応じて前記のその他の成分を、通常の押出機やバンバリーミキサー、ロール、ブラベンダープラストグラフ、ニーダーブラベンダー等を用いて常法で混練して製造することができる。
これらの製造方法の中でも、押出機、特に二軸押出機を用いることが好ましい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物を押出機等で混練して製造する際には、通常180~300℃、好ましくは220~280℃に加熱した状態で溶融混練する。
【0056】
<成形体及びその製造方法>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、成形することにより、各種成形体を得ることができる。
成形方法としては、通常の射出成形法、ガスインジェクション成形法、射出圧縮成形法、ショートショット発泡成形法等の各種成形法が挙げられる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、射出成形して成形体とすることが好ましく、射出成形する際の成形条件は以下の通りである。
成形温度は200~300℃であり、好ましくは220~280℃である。
射出圧力は5~100MPaであり、好ましくは10~80MPaである。
金型温度は0~100℃であり、好ましくは30~95℃である。
【0057】
<成形体の用途>
本発明の成形体は、透明性、柔軟性及び低温ヒートシール性に優れることから、医療用成形体、光学部品、又は電気・電子部品として好適に用いることができる。
前記医療用成形体としては、例えば、プラスチックスライドガラス;点眼容器、薬瓶アンプル、バイアル、これらに用いるキャップ等の医薬品収納容器;試験管、採血管、検体容器等のサンプリング容器;プレフィルドシリンジ、注射器シリンジ等のシリンジ類が挙げられる。
【0058】
前記光学部品としては、例えば、ケース、光学レンズ、導光板、プリズムシート、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、光ディスク、光ディスク基板、ブルーレーザー用光ディスク、ブルーレーザー用光ディスク基板、光磁気ディスク、光磁気ディスク基板、光カード基板、光導波路、拡散シート、集光シート、導光板が挙げられる。
前記電気・電子部品としては、例えば、コネクター、リレー、コンデンサ、センサー、アンテナ、ICトレイ、シャーシ、コイル封止、モーターケース、電源ボックスが挙げられる。
【0059】
<積層体>
次に本発明の積層体について説明する。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、成形することにより各種積層体を得ることができる。
本発明の積層体は、ポリプロピレン系樹脂を含む基材層、及び本発明の熱可塑性樹脂組成物からなるヒートシール層を有する。
本発明の積層体は、本発明のヒートシール層と前記基材層の間に中間層を介さず、本発明のヒートシール層と前記基材層とが直接隣接して接触させ、積層されていることが好ましい。
【0060】
本発明の積層体の製造法としては、上記の各層を積層一体化できる方法であればどのような方法であってもよく、例えば、ドライラミネーション、押出ラミネーション、共押出ラミネーション(Tダイ法、水冷インフレーション法、空冷インフレーション法)、ヒートラミネーション等、あるいはこれらの方法を組み合わせたラミネーション法を例示できる。これらの中でも積層体全体の透明性を得る観点、内層の密閉性を得る観点から、特に好ましいのは水冷インフレーション法である。
【0061】
本発明の積層体において、各層の厚みは使用目的に応じて適宜選択可能であるが、本発明のヒートシール層の厚みは、5~100μmであることが好ましく、特に10~50μmであることが好ましい。ヒートシール層の厚みが上記下限値以上であるとヒートシール強度の安定性の観点で好ましく、上記上限値以下であると積層体の全体の柔軟性の点で好ましい。
ヒートシール層が厚すぎると、剛性が高く割れやすくなってしまい、薄すぎると内容物の低吸着効果を得ることができなくなる虞がある他、水蒸気透過を抑制することができない場合がある。
【0062】
また、本発明の積層体において、本発明の基材層の厚みは100μm以上、例えば140~330μmが好ましく、特に150~250μmであることが好ましい。本発明の基材層は、主として本発明の積層体の外層として機械的強度、ヒートシール性の向上等を担うものであるが、基材層の厚みが上記下限値以上であると、機械的強度の観点で好ましく、上記上限値以下であると積層体全体の柔軟性の点で好ましい。
特に、本発明の積層体は、各層の厚み比が、(ヒートシール層):(基材層)=1:30~1:3であることが好ましい。
【0063】
<積層体の用途>
本発明の積層体は、透明性、柔軟性及び低温ヒートシール性に優れることから、医療用容器として好適に用いることができ、その中でも輸液バッグとして用いることが好適である。
医療用容器は、前記積層体を用いて、真空成形、圧空成形等のシート成形法(熱成形法)、多層共押出ブロー成形等のブロー成形法、あるいは所定の形状に切断した枚葉形態の積層体同士の周縁部を熱融着(強溶着)又は接着剤で接着して袋状物を作製する方法等を用いて製造することができる。
【0064】
本発明の医療用容器を製造するに当たり、容器内部を複数の収容室に区画する弱シール部は、ヒートシール温度を制御したバーシール等を用いて、対向する容器内壁面の一部同士を熱融着することにより形成することができる。
【0065】
この弱シール部を形成する際の熱融着温度は、本発明の水添ブロック共重合体の成分組成やヒートシール層及び積層体全体の厚み等によっても異なるが、通常140~160℃程度であり、容易に剥離可能な弱シール部のヒートシール強度としては、後述の実施例の項に記載される方法で測定される剥離強度として、10N/10mm未満、特に0.1~9N/10mmであることが好ましい。
弱シール部のヒートシール強度が大き過ぎるとこの弱シール部を容易に剥離させることができず、小さ過ぎると意図しないときに加えられた小さな衝撃で弱シール部が剥離してしまい、使用直前まで収容室を区画するという目的を達成し得ない。
【0066】
一方、例えば、所定の形状に切断した枚葉形態の積層体同士の周縁部を熱融着して強シール部を形成する場合の熱融着温度は、本発明の水添ブロック共重合体の成分組成やヒートシール層及び積層体全体の厚み等によっても異なるが、通常180~220℃程度であり、外界(外気)と容器内部とを遮断するための強シール部のヒートシール強度としては、後述の実施例の項に記載される方法で測定される剥離強度として、10N/10mm以上であることが好ましい。
強シール部のヒートシール強度が小さ過ぎると、複室容器として必要とされる強度を満足し得ない。強シール部のヒートシール強度は大きい程好ましいが、その上限は通常60N/10mm程度である。
【0067】
特に、弱シール部と強シール部のヒートシール温度のコントロールを容易とするために、弱シール部を形成する際の熱融着温度に対して強シール部を形成する場合の熱融着温度は10℃以上高い温度であることが好ましい。
【0068】
本発明の医療用容器は、通常、容器内部を2分するように線状の弱シール部が設けられ、2つの収容室が設けられた複室容器として提供されるが、これに限らず、複数の線状の弱シール部により、容器内部を3室以上に区画したものであってもよい。
本発明の医療用容器の形状は、ボトル、チューブ、バッグ、セル等特に限定されるものではない。
【0069】
<医療用容器の内容物>
本発明の医療用容器の収容室に収容する薬剤等の内容物については特に制限はないが、本発明の複室容器の優れた保存性等から、本発明の医療用容器は、アミノ酸や、糖、電解液、ビタミンからなる高カロリー輸液等を収容する複室容器として好適に用いることができる。
【0070】
<輸液バッグ>
本発明の医療用容器は、特に輸液バッグとして好適である。
輸液バッグは、通常、輸液バッグの本体、薬液を注入するためのポート部、薬液を取り出すためのゴム栓を含むキャップ等で構成されるが、本発明の医療用容器は、このようにポート部を有する輸液バッグにおいて、一般的にポート部に使用されるポリプロピレン系樹脂に対して、本発明のヒートシール層が高い融着性を有することから、容易に複合化が可能であり、好適に使用することができる。
【0071】
本発明の積層体にて輸液バッグを成形する方法は限定されないが、共押出法によってチューブ状(円筒状)のインフレーションフィルムとし、端部を融着する方法等を好ましく採用することができる。
【実施例
【0072】
以下、実施例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限または下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限または下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0073】
[物性]
<ポリマーブロックの比率>
[カーボンNMRによる測定]
・装置:Bruker社製「AVANCE400分光計」
・溶媒:o-ジクロロベンゼン-h/p-ジクロロベンゼン-d混合溶媒
・濃度:0.3g/2.5mL
・測定:13C-NMR
・共鳴周波数:400MHz
・積算回数:1536
・フリップ角:45度
・データ取得時間:1.5秒
・パルス繰り返し時間:15秒
・測定温度:100℃
H照射:完全デカップリング
【0074】
<水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、水素化共役ジエンポリマーブロック単位の水素化レベル>
[プロトンNMRによる測定]
・装置:日本分光社製「400YH分光計」
・溶媒:重クロロホルム
・濃度:0.045g/1.0mL
・測定:H-NMR
・共鳴周波数:400MHz
・積算回数:8
・測定温度:18.5℃
・水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の水素化レベル:6.8~7.5ppmの積分値低減率
・水素化共役ジエンポリマーブロック単位の水素化レベル:5.7~6.4ppmの積分値低減率
【0075】
<メルトフローレート(MFR)>
ISO R1133に従って、下記の条件で測定した。
・装置:(株)東洋精機製作所製「メルトインデクサー」
・温度:230℃
・オリフィス孔径:2mm
・荷重:2.16kg
【0076】
<ヘーズ>
得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて、インラインスクリュウタイプ射出成形機(住友重機械工業社製「SE18D」)により、射出圧力50MPa、シリンダー温度250℃、金型温度50℃にて、厚さ2mm×幅50mm×長さ50mmの試験片を成形し、ISO 14782に準拠して透明性の指標であるヘーズを測定した。
【0077】
<曲げ弾性率>
得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて、インラインスクリュウタイプ射出成形機(住友重機械工業社製「SE18D」)により、射出圧力50MPa、シリンダー温度250℃、金型温度50℃にて、曲げ弾性率測定用の試験片(厚さ4mm×幅10mm×長さ80mmの試験片)を成形した。
この試験片を用い、ISO178に準拠してスパン間64mm、曲げ速度2mm/分で、剛性の指標である曲げ弾性率を測定した。
【0078】
<ヒートシール強度>
得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて、同方向2軸押出機(テクノベル社製 KZW15-45MG Φ15、L/D=45)により、厚さ100μmのフィルムを作製した。
得られたフィルムを重ね合わせ、ヒートシーラー((有)佐川製作所製)を用いて、シールバー10mm幅、シールバー温度160℃、圧力0.3MPa、時間2.0秒の条件でヒートシールを行なった。
得られたヒートシールフィルムを15mm幅に切り出し、JIS Z0238に準拠して引張速度300mm/分でヒートシール強度を測定した。
【0079】
[原料]
<環状ポリオレフィン(A-1)>
三菱ケミカル(株)製 「ゼラス(商標登録)MC930」
・密度(ASTM D792):0.94g/cm
・MFR(230℃、2.16kg):1g/10分
・水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位:含有率65モル%、水素化レベル99.5%以上の水素化ポリスチレン
・水素化共役ジエンポリマーブロック単位:含有率35モル%、水素化レベル99.5%以上の水素化ポリブタジエン
・ブロック構造:ペンタブロック構造、合計水素化レベル:99.5%以上
【0080】
<環状ポリオレフィン(A-2)>
三菱ケミカル(株)製 「ゼラス(商標登録)MC932」
・密度(ASTM D792):0.94g/cm
・MFR(230℃、2.16kg):0.5g/10分
・水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位:含有率50モル%、水素化レベル98.7%の水素化ポリスチレン
・水素化共役ジエンポリマーブロック単位:含有率50モル%、水素化レベル99.5%以上の水素化ポリブタジエン
・ブロック構造:ペンタブロック構造、合計水素化レベル:99.2%
【0081】
<スチレン系エラストマー(B-1)>
クレイトンポリマー社製クレイトン(登録商標) G1652MU
〔スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体の水素添加物、芳香族ビニルポリマーブロック単位:30質量%、ブタジエンの水素添加率:99%以上、Mw:69,000〕
【0082】
<スチレン系エラストマー(B-2)>
クレイトンポリマー社製クレイトン(登録商標) MD1653
〔スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体の水素添加物、芳香族ビニルポリマーブロック単位:30質量%、ブタジエンの水素添加率:99%以上、Mw:60,000〕
【0083】
<スチレン系エラストマー(B-3)>
クレイトンポリマー社製クレイトン(登録商標) G1726MS
〔スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体の水素添加物、芳香族ビニルポリマーブロック単位:30質量%、ブタジエンの水素添加率:99%以上、重量平均分子量(Mw):42,000〕
【0084】
<スチレン系エラストマー(B-4)>
クレイトンポリマー社製クレイトン(登録商標) MD1648
〔スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体の水素添加物、芳香族ビニルポリマーブロック単位:20質量%、ブタジエンの水素添加率:99%以上、重量平均分子量(Mw):63,000〕
【0085】
<実施例1>
環状ポリオレフィン(A-1)100質量部とスチレン系エラストマー(B-1)43質量部を、同方向2軸押出機(クノベル社製 KZW15-45MG Φ15、L/D=45)にて2kg/hの速度で投入し、240℃の範囲で昇温させて溶融混練を行ない、熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
得られたペレットを用いて各種物性を評価した。結果を表1に示す。
【0086】
<実施例2~7、比較例1,2>
表1に示す配合に従い、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
実施例1と同様にして各種物性を評価した。結果を表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
表1より、本発明に該当する実施例1~7は透明性、柔軟性及び低温ヒートシール性の優れたものであることがわかる。
これに対して、スチレン系エラストマー(B)を含まない比較例1,2は柔軟性と低温ヒートシール性が劣ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の熱可塑性樹脂組成物及び成形体は、透明性、柔軟性及び低温ヒートシール性に優れるものであり、医療用成形体、光学部品、又は電気・電子部品の材料として非常に有用である。