(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】液体試料の濁度または色度を測定する測定装置および測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/27 20060101AFI20240801BHJP
G01N 21/59 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
G01N21/27 Z
G01N21/59 Z
(21)【出願番号】P 2020166913
(22)【出願日】2020-10-01
【審査請求日】2023-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】301078191
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 勝利
【審査官】比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-292328(JP,A)
【文献】特開2013-120064(JP,A)
【文献】特開平11-241987(JP,A)
【文献】特開平11-118699(JP,A)
【文献】特許第5811333(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2009/0098022(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N21/00-G01N21/958
G01J 1/00-G01J11/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDream3)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路構造内を流れる液体試料の濁度または色度を測定する測定装置であって、
前記流路構造に光を照射する第1光源と、
光を検出して検出信号を出力する第1光センサ
および第2光センサと、
前記検出信号に基づき、前記液体試料の濁度または色度を算出するコントローラと、
算出された濁度または色度を出力する出力装置と、
前記流路構造に光を照射する第2光源と、
を備え、
前記第1光源は第1波長の光を照射し、前記第2光源は前記第1波長とは異なる第2波長の光を照射し、
前記流路構造は、第1流路および第2流路を備え、
前記第1流路および前記第2流路はいずれも、少なくとも一部が、前記第1光源から照射される光の少なくとも一部を透過するように構成され
、
前記検出信号は、
‐前記第1流路および前記第2流路に基準液が流れており、前記第1光源が光を照射し前記第2光源が光を照射していない場合の前記第1光センサによる検出信号と、
‐前記第1流路および前記第2流路に基準液が流れており、前記第1光源が光を照射し前記第2光源が光を照射していない場合の前記第2光センサによる検出信号と、
‐前記第1光源と前記第2光源が光を照射していない場合の前記第1光センサによる検出信号と、
‐前記第1流路に基準液が流れており、前記第2流路に前記液体試料が流れており、前記第1光源が光を照射し前記第2光源が光を照射していない場合の前記第1光センサによる検出信号と、
‐前記第1流路および前記第2流路に前記液体試料が流れており、前記第1光源が光を照射し前記第2光源が光を照射していない場合の前記第1光センサによる検出信号と、
‐前記第1流路および前記第2流路に前記液体試料が流れており、前記第1光源が光を照射し前記第2光源が光を照射していない場合の前記第2光センサによる検出信号と、
‐前記第1流路および前記第2流路に前記液体試料が流れており、前記第2光源が光を照射し前記第1光源が光を照射していない場合の前記第2光センサによる検出信号と、
‐前記第1流路に基準液が流れており、前記第2流路に前記液体試料が流れており、前記第2光源が光を照射し前記第1光源が光を照射していない場合の前記第2光センサによる検出信号と、
を含む、
測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の測定装置において、前記第1光源から照射される光について、前記第1流路における光路長と、前記第2流路における光路長とは異なる、測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の測定装置において、
前記検出信号は、前記第1流路に
前記基準液が流れ、前記第2流路に前記液体試料が流れている場合の検出信号を含み、
前記第1流路における光路長は、前記第2流路における光路長より短い、
測定装置。
【請求項4】
請求項1に記載の測定装置において、前記第1光源は発光ダイオードである、測定装置。
【請求項5】
請求項
1に記載の測定装置において
、
前記検出信号は、
‐前記第1光源から照射され、前記流路構造内を透過する光を前記第1光センサによって検出した場合の検出信号と、
‐前記第1光源から照射され、前記流路構造内で散乱される光を前記第2光センサによって検出した場合の検出信号と、
‐前記第2光源から照射され、前記流路構造内を透過する光を前記第2光センサによって検出した場合の検出信号と、
を含む、測定装置。
【請求項6】
請求項
1に記載の測定装置において
、
前記コントローラは、前記流路構造内で散乱される光を前記第2光センサによって検出した場合の前記検出信号に基づき、参照濁度または参照色度を測定し、
前記濁度と前記参照濁度とに基づき、または、前記色度と前記参照色度とに基づき、警報を出力する、
測定装置。
【請求項7】
請求項
1に記載の測定装置において、前記測定装置は、前記液体試料の前記濁度および前記色度を測定する、測定装置。
【請求項8】
流路構造内を流れる液体試料の濁度または色度を測定する測定方法であって、
第1光源または第2光源から前記流路構造に光を照射するステップと、
第1光センサまたは第2光センサによって光を検出し、検出信号に基づき、前記液体試料の濁度または色度を算出するステップと、
算出された濁度または色度を出力するステップと、
を備え、
前記第1光源は第1波長の光を照射し、前記第2光源は前記第1波長とは異なる第2波長の光を照射し、
前記流路構造は、第1流路および第2流路を備え、
前記第1流路および前記第2流路はいずれも、少なくとも一部が、照射される光の少なくとも一部を透過するように構成され
、
前記検出信号は、
‐前記第1流路および前記第2流路に基準液が流れており、前記第1光源が光を照射し前記第2光源が光を照射していない場合の前記第1光センサによる検出信号と、
‐前記第1流路および前記第2流路に基準液が流れており、前記第1光源が光を照射し前記第2光源が光を照射していない場合の前記第2光センサによる検出信号と、
‐前記第1光源と前記第2光源が光を照射していない場合の前記第1光センサによる検出信号と、
‐前記第1流路に基準液が流れており、前記第2流路に前記液体試料が流れており、前記第1光源が光を照射し前記第2光源が光を照射していない場合の前記第1光センサによる検出信号と、
‐前記第1流路および前記第2流路に前記液体試料が流れており、前記第1光源が光を照射し前記第2光源が光を照射していない場合の前記第1光センサによる検出信号と、
‐前記第1流路および前記第2流路に前記液体試料が流れており、前記第1光源が光を照射し前記第2光源が光を照射していない場合の前記第2光センサによる検出信号と、
‐前記第1流路および前記第2流路に前記液体試料が流れており、前記第2光源が光を照射し前記第1光源が光を照射していない場合の前記第2光センサによる検出信号と、
‐前記第1流路に基準液が流れており、前記第2流路に前記液体試料が流れており、前記第2光源が光を照射し前記第1光源が光を照射していない場合の前記第2光センサによる検出信号と、
を含む、
測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体試料の濁度または色度を測定する測定装置に関する。たとえば、液体試料の吸光度を測定して濁度と色度を出力する吸光度式の濁度色度水質計に係り、より具体的な例では、浄水プロセスや上水配管網の水質を監視するため用いられるインライン水質計に関する。
【背景技術】
【0002】
濁度計の方式には透過光式、透過散乱光式、表面散乱光式、積分球式などがある。透過光式の例として、上水試験方法(1993年)では、600nm以上の波長の光源を用いて濁度を測定する。また、透過散乱光式の装置としては、試料水に含まれる濁質により散乱する光を検出して透過光との比を測定する方式の濁度計が知られている。
【0003】
色度の方式として、透過光式の例として、上水試験方法(1993年)では光源の波長を390nmとし、光の吸光度から色度に換算して測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術では、測定装置の状態が変化すると正確な測定ができなくなる場合があるという課題があった。
【0006】
前記の測定方法で用いられる透過光式の装置は、測定対象の液体試料に光を透過させる流路構造を有する。流路構造は透明な窓を有する。窓は、液体試料と外部とを隔てるものであり、ガラス等で構成される。窓において、測定対象の液体試料と接触する表面には、その液体試料に含まれる成分や異物、汚れなどが窓の表面に付着する場合がある。光源からの光は、流路構造に入射および出射する際に窓の表面に付着した異物や汚れに遮られて減衰するので、正確な測定ができなくなる。
【0007】
また、測定誤差の要因には、光源の光の強度の変動や、窓による光の吸収などもある。一般的な方法では、基準とするゼロ点基準液の吸光度と、測定対象の液体試料の吸光度とを比較することにより測定を行うが、窓の表面に付着した異物や汚れによる測定誤差を区別して補正することが困難であった。
【0008】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、測定装置の状態が変化しても、より正確な測定を行える測定装置を提供することを目的とする。
【0009】
ここで、「状態が変化する」とは、光源の光の強度の変動、窓による光の吸収量の変動、窓の付着物による透過光の減少、等を含む。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る測定装置の一例は、
流路構造内を流れる液体試料の濁度または色度を測定する測定装置であって、
前記流路構造に光を照射する第1光源と、
光を検出して検出信号を出力する第1光センサと、
前記検出信号に基づき、前記液体試料の濁度または色度を算出するコントローラと、
算出された濁度または色度を出力する出力装置と、
を備え、
前記流路構造は、第1流路および第2流路を備え、
前記第1流路および前記第2流路はいずれも、少なくとも一部が、前記第1光源から照射される光の少なくとも一部を透過するように構成される。
【0011】
本発明に係る測定方法の一例は、
流路構造内を流れる液体試料の濁度または色度を測定する測定方法であって、
前記流路構造に光を照射するステップと、
光を検出し、検出信号に基づき、前記液体試料の濁度または色度を算出するステップと、
算出された濁度または色度を出力するステップと、
を備え、
前記流路構造は、第1流路および第2流路を備え、
前記第1流路および前記第2流路はいずれも、少なくとも一部が、照射される光の少なくとも一部を透過するように構成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、測定装置の状態が変化しても、より正確な測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施例1に係る測定装置の要部構成を示す図。
【
図2】
図1の測定装置が濁度を測定する手順を示す図。
【
図3】
図1の測定装置が色度を測定する手順を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[実施例1]
図1は、本発明の実施例1に係る測定装置の要部構成を示す図である。測定装置は、たとえばインライン水質計に用いられる。インライン水質計は、浄水プロセスまたは上水配管網等において水質を監視するために用いることができる。
【0015】
測定装置は、本明細書に記載される測定方法を実行することにより、液体試料の濁度および色度を測定する。測定装置に関連して流路構造が配置される。流路構造は、第1流路9および第2流路10を備える。
【0016】
流路構造内には、液体が流れることができる。液体は、たとえば測定対象である液体試料または所定の基準液(以下「ゼロ点基準液」と称する)である。第1流路9および第2流路10は、たとえば並列に設けられる(すなわち、液体試料のうち第1流路9を通過した部分は第2流路10を通過しない)が、直列に設けられる構成もとくに除外しない(すなわち、液体試料の全体が第1流路9および第2流路10の双方を通過してもよい)。本実施例では、流路構造は測定装置に含まれないが、測定装置の構成要素として含まれてもよい。
【0017】
測定装置は、LED1(発光ダイオード;第1光源)およびLED1’(第2光源)を備える。LED1は、第1波長の光(
図1に「波長A」として示す)を含む光を照射する。LED1’は、第2波長の光(
図1に「波長B」として示す)を含む光照射する。第1波長および第2波長はそれぞれ異なる波長である。第1波長はたとえば660nmであり、第2波長はたとえば390mmである。ただし、第1波長および第2波長は、これらの波長に限らず、測定対象の液体試料を特徴付ける吸収波長に応じて選択することができ、たとえば紫外線から遠赤外線までの領域の光の波長を選択することができる。
【0018】
LED1および1’は、流路構造に光を照射する。より具体的には、第1流路9および第2流路10に光を照射する。光は2つの流路構造に直列的に照射される。すなわち、LED1から照射された光が、まず一方の流路(
図1の例では第1流路9)に入射し、これから出射した後に、他方の流路(
図1の例では第2流路10)に入射する。
【0019】
測定装置は、光センサ5(第1光センサ)および光センサ5’(第2光センサ)を備える。光センサ5および5’は、光を検出して検出信号(たとえば電気信号)に変換し、検出信号を出力する。光センサ5および5’は、たとえばSiフォトダイオードを用いて構成することができる。また、光センサ5および5’は、光電子増倍管、光導電セル、CCD、等を用いて構成することもできる。
【0020】
光センサ5は、第1流路9および第2流路10を介してLED1を見通せる位置に配置される。すなわち、LED1から照射される光の少なくとも一部は、第1流路9および第2流路10(いずれも内部の液体を含む)を透過した場合に、光センサ5に入射する。同様に、光センサ5’は、第1流路9および第2流路10を介してLED1’を見通せる位置に配置される。すなわち、LED1’から照射される光の少なくとも一部は、第1流路9および第2流路10(いずれも内部の液体を含む)を透過した場合に、光センサ5’に入射する。
【0021】
また、光センサ5は、LED1’を見通せない位置に配置される。すなわち、LED1’から照射される光は、実質的に反射または散乱がない限り、光センサ5には入射しない。同様に、光センサ5’は、LED1を見通せない位置に配置される。すなわち、LED1から照射される光は、実質的に反射または散乱がない限り、光センサ5’には入射しない。
【0022】
測定装置は検出回路6を備える。検出回路6は、光センサ5および5’から出力される検出信号を受信して増幅し、デジタル信号に変換する。なお、検出回路6は光センサ5および5’の一部として構成されてもよい。
【0023】
測定装置はコントローラ7を備える。コントローラ7は、検出回路6から出力される検出信号に基づき、液体試料の濁度および色度を算出する。コントローラ7はたとえば公知のコンピュータを用いて構成することができる。その場合には、コントローラ7は演算手段(たとえばプロセッサ)および記憶手段(たとえば半導体メモリ装置)を備え、記憶手段に記憶されるプログラムを演算手段が実行することにより、本明細書に記載される機能を実現する。
【0024】
コントローラ7は、図示しない切換弁等を用いて、流路構造に流れる液体を切り替えるよう制御することができる。たとえば、コントローラ7は、第1流路9および第2流路10それぞれ独立に、液体試料を流すか、またはゼロ点基準液を流すかを切り替えることができる。
【0025】
また、コントローラ7は、LED1および1’の発光(たとえば点灯および消灯)のタイミングを制御することができる。また、コントローラ7は、検出回路6から出力される検出信号を記憶手段に保存する。また、コントローラ7は、所定の演算手順(たとえば記憶手段に記憶されている)に従って、検出信号に基づいて数値計算処理を行う。数値計算処理の具体例は
図2および
図3を用いて後述する。このようにして、コントローラ7は、濁度および色度の値を計算する。また、コントローラ7は、計算された濁度および色度の値について判定を行い、判定結果に応じて警報信号を出力する。判定処理の具体例は
図2および
図3を用いて後述する。
【0026】
測定装置は出力装置8を備える。出力装置8は、コントローラ7によって算出された結果(すなわち、濁度および色度)を表す情報および警報を表す情報を出力する。たとえば、出力装置8は、濁度および色度を表す値を電気信号(たとえば4mA~20mAのアナログ信号)に変換し、外部の受信装置(図示せず。たとえば測定装置に接続されたもの)に送信する。また、警報信号を電気信号(たとえばON/OFF信号)に変換し、外部の受信装置に送信する。
【0027】
第1流路9は、その少なくとも一部が、LED1および1’からそれぞれ照射される光の少なくとも一部を透過するように構成される。同様に、第2流路10も、その少なくとも一部が、LED1および1’からそれぞれ照射される光の少なくとも一部を透過するように構成される。このような構成は、ガラス窓2,2’,3,3’,4,4’を用いて実現することができる。
【0028】
これらのガラス窓は、第1波長の光および第2波長の光の少なくとも一部(好ましくは実質的に全量)を透過させる。また、これらのガラス窓は、流路構造の環境および液体試料の性質に応じた材質(たとえば想定される範囲内の温度および圧力に耐え、腐食されない材質)で製造することができる。材料の具体例として、石英ガラス、サファイアガラス、透明高分子樹脂素材、等が利用可能である。
【0029】
これらのガラス窓は、フランジ、サニタリクランプ、等の固定器具(図示せず)を用いて、第1流路9および第2流路10に対して着脱可能に固定することができる。
【0030】
ガラス窓2,3,4は、LED1と光センサ5との間に、この順に配置される。LED1から放出された光の一部は、ガラス窓2を介して第1流路9に入射し、第1流路9内を透過してガラス窓3に達し、ガラス窓3を介して第1流路9から第2流路10に入射し、第2流路10内を透過してガラス窓4に達し、ガラス窓4を介して第2流路10から出射し、光センサ5に達する。
【0031】
同様に、ガラス窓2’,3’,4’は、LED1’と光センサ5’との間に、この順に配置される。LED1’から放出された光の一部は、ガラス窓2’を介して第1流路9に入射し、第1流路9内を透過してガラス窓3’に達し、ガラス窓3’を介して第1流路9から第2流路10に入射し、第2流路10内を透過してガラス窓4’に達し、ガラス窓4’を介して第2流路10から出射し、光センサ5’に達する。
する。
【0032】
第1流路9は、ガラス窓2とガラス窓3の間、およびガラス窓2’とガラス窓3’との間に液体が満たされるように、液体を供給口から排出口まで流通させることができる。また、排出口以外からは液体が流出しない構造とすることができる。同様に、第2流路10は、ガラス窓3とガラス窓4の間、およびガラス窓3’とガラス窓4’との間に液体が満たされるように、液体を供給口から排出口まで流通させることができる。また、排出口以外からは液体が流出しない構造とすることができる。
【0033】
LED1の光の、第1流路9における光路長(すなわち光路上におけるガラス窓2とガラス窓3との距離)は、LED1’の光の、第1流路9における光路長(すなわち光路上におけるガラス窓2’とガラス窓3’との距離)に等しい。この距離を距離Lとする。距離Lは第1流路9を特徴づける長さである。ここで、「等しい」の意味は当業者が適宜定義可能であるが、たとえば、厳密に等しい場合のみならず、実質的に等しい場合、および、測定結果に及ぼす影響が所定の許容範囲内(たとえば所定の規格に従った許容範囲内)である場合を含む。同様に、LED1の光の、第2流路10における光路長(すなわち光路上におけるガラス窓3とガラス窓4との距離)は、LED1’の光の、第2流路10における光路長(すなわち光路上におけるガラス窓3’とガラス窓4’との距離)に等しい。この距離を距離L’とする。距離Lは第2流路10を特徴づける長さである。
【0034】
なお、各ガラス窓において、液体に接触する面には、時間の経過に伴って付着物11が付着する場合がある。
図1の例において、ガラス窓2,2’では片面が液体に接触し、ガラス窓3,3’では両面が液体に接触し、ガラス窓4,4’では片面が液体に接触する。付着物11は、たとえば、液体試料に含まれる異物、成分、汚れ、等が固着または析出したものである。
【0035】
距離Lと距離L’は、それぞれ、測定対象の液体試料を光が透過する光路長に相当する。これらの距離は、当業者が適宜設計可能であるが、たとえば第1波長および第2波長の光に対する光路長(距離L+L’)の液体試料の吸光度が0.5~3の範囲内となるように設定することができる。
【0036】
本実施例では、L≠L’である。すなわち、LED1から照射される光について、第1流路9における光路長(距離L)と、第2流路10における光路長(距離L’)とは異なる。とくに、本実施例ではL<L’である。このように設定すると、後述する濁度および色度の算出において好適である。とくに、適切な範囲内でL’/Lがなるべく大きくなるようにすると好適である。ただし、L=L’としてもよく、L>L’としてもよい。
【0037】
図2に、実施例1の測定装置が濁度を測定する手順を示す。ステップS1において、コントローラ7は、第1流路9および第2流路10の双方にゼロ点基準液を流し、LED1を点灯し、LED1’を消灯し、この状態で光センサ5の検出信号Z1を取得する。検出信号Z1は、LED1から照射され、流路構造内を透過する光を光センサ5によって検出した場合の検出信号である。また、検出信号Z1は、第1流路9および第2流路10にゼロ点基準液が流れており、LED1が光を照射している場合の検出信号である。
【0038】
ステップS2において、コントローラ7は、ステップS1と同じ状態で光センサ5’の検出信号Z2を取得する。検出信号Z2は、LED1から照射され、流路構造内で散乱される光を光センサ5’によって検出した場合の検出信号である。
【0039】
ステップS3において、コントローラ7は、LED1および1’の双方を消灯し、この状態で光センサ5の検出信号T0を取得する。このステップS3において、第1流路9および第2流路10に流れる液体は任意である(いずれも流さないこともできる)。検出信号T0は、LED1および1’が光を照射していない場合の検出信号である。
【0040】
ステップS4において、コントローラ7は、第1流路9にゼロ点基準液を流し、第2流路10に液体試料を流し、LED1を点灯し、LED1’を消灯し、この状態で光センサ5の検出信号T4を取得する。検出信号T4は、第1流路9にゼロ点基準液が流れており、第2流路10に液体試料が流れており、LED1が光を照射している場合の検出信号である。
【0041】
ステップS5において、コントローラ7は、第1流路9および第2流路10の双方に液体試料を流し、LED1を点灯し、LED1’を消灯し、この状態で光センサ5の検出信号T1を取得する。検出信号T1は、第1流路9および第2流路10に液体試料が流れており、LED1が光を照射している場合の検出信号である。また、検出信号T1は、LED1から照射され、流路構造内を透過する光を光センサ5によって検出した場合の検出信号である。
【0042】
ここで、ステップS4およびS5を比較すると、第1流路9に流れる液体の種類のみが異なっている。すなわち、ステップS4の検出信号T4およびステップS5の検出信号T1の双方を用いることにより、後述するようにガラス窓の付着物11による影響を補正し、第1流路9に流れる液体の内容を正確に測定することができる。
【0043】
ステップS6において、コントローラ7は、ステップS5と同じ状態で光センサ5’の検出信号T2を取得する。検出信号T2は、第1流路9および第2流路10に液体試料が流れており、LED1が光を照射している場合の検出信号である。また、検出信号T2は、LED1から照射され、流路構造内で散乱される光を光センサ5’によって検出した場合の検出信号である。
【0044】
ステップS7において、コントローラ7は、A1=-log{(T1-T0)/(Z1-T0)}を計算する。ここで、T1-T0は液体試料の吸光度を表す値であり、Z1-T0はゼロ点基準液の吸光度を表す値であるということができる。A1は、液体試料の吸光度と、ゼロ点基準液の吸光度との比率を表す値であるということができる。
【0045】
ステップS8において、コントローラ7は、A2=-log{(T4-T0)/(Z1-T0)}を計算する。ここで、T4-T0は、液体試料の吸光度とゼロ点基準液の吸光度とに基づく値であり、Z1-T0は上述のようにゼロ点基準液の吸光度を表す値であるということができる。A2は、これら2つの値の比率を表す値であるということができる。
【0046】
ステップS9において、コントローラ7は、TB’=K’’’{(T2-Z2)/(T1-Z1)}を計算する。TB’は、後述のように濁度の判定に用いる参照濁度を表す。K’’’は所定の係数である。K’’’の値について、たとえば、液体試料に代えて所定の濁度基準液を用いた場合の上記T2の値を測定し、この値に基づいてK’’’の値を事前に算出し、コントローラ7の記憶手段に保存しておくことができる。
【0047】
ステップS10において、コントローラ7は、TB=K・(A1-A2)を計算する。TBは、液体試料の濁度を表す値である。Kは所定の係数である。Kの値について、たとえば、液体試料に代えて所定の濁度基準液を用いた場合の上記T1およびT4の値を測定し、これらの値に基づいてKの値を事前に算出し、コントローラ7の記憶手段に保存しておくことができる。
【0048】
TBの値は、上述のように、
‐LED1および1’が光を照射していない場合の検出信号T0と、
‐第1流路9および第2流路10にゼロ点基準液が流れており、LED1が光を照射している場合の検出信号Z1と、
‐第1流路9および第2流路10に液体試料が流れており、LED1が光を照射している場合の検出信号T1と、
‐第1流路9にゼロ点基準液が流れており、第2流路10に液体試料が流れており、LED1が光を照射している場合の検出信号T4と、
に基づいて算出される。なお、本実施例では検出信号Z1はTBを算出する過程で相殺されるので、参照濁度TB’の算出を行わない場合には検出信号Z1を取得する必要はない。
【0049】
このように、TBの値は、第1流路9にゼロ点基準液が流れており、第2流路10に液体試料が流れており、LED1が光を照射している場合の検出信号T4に基づいて算出される。このため、測定装置の状態が変化しても、より正確な測定を行うことができる。たとえば、ガラス窓の付着物11の影響でガラス窓の透明度が低下した場合であっても、2種類の液体の吸光度の違いに基づき、より正確に濁度を算出することができる。また、LED1および1’の光の強度が変動した場合、ガラス窓による光の吸収量が変動した場合、等においても、より正確に濁度を算出することができる。
【0050】
コントローラ7は、ステップS1~S10で取得された各検出信号および値を表すデータを、記憶手段に保存する。
【0051】
ステップS11において、コントローラ7は、濁度を表す値TBを出力する。この値は、上述のように出力装置8によって外部に送信される。
【0052】
ステップS12において、コントローラ7は、TB’-TBの値が所定の範囲内であるか否かを判定する。TB’-TBの値は、ガラス窓の付着物11が濁度の測定に与える影響の度合いを表す。TB’-TBの値が所定の範囲内である場合には、処理はステップS4に戻り、測定処理(ステップS4~S11)が繰り返される。
【0053】
TB’-TBの値が所定の範囲内でない場合には、ステップS13において、コントローラ7は警報を出力する。警報は、上述のように出力装置8によって外部に送信される。警報は、たとえば保守作業の実施を促す情報である。
【0054】
このように、コントローラ7は、流路構造内で散乱される光を光センサ5’によって検出した場合の検出信号T2に基づき、参照濁度TB’を測定し、濁度TBと参照濁度TB’とに基づき警報を出力する。このようにすると、濁度TBの測定値が適切か否かを参照濁度TB’に基づいて判定することができ、測定値の適切さが検証される。
【0055】
ステップS13の後、処理はステップS1に戻る。なお、ステップS13の後、ステップS1の前に、保守担当者による保守作業が実施されてもよい(図示せず)。これによって各ガラス窓の付着物が除去される。保守作業の後、付着物が除去された状態で、測定の基準となる検出信号Z1,Z2,T0が改めて取得され(ステップS1~S3)、その後、測定処理(ステップS4~S11)が再び実行される。
【0056】
図3に、実施例1の測定装置が色度を測定する手順を示す。ステップS21において、コントローラ7は、第1流路9および第2流路10の双方にゼロ点基準液を流し、LED1’を点灯し、LED1を消灯し、この状態で光センサ5’の検出信号Z1’を取得する。検出信号Z1’は、LED1’から照射され、流路構造内を透過する光を光センサ5’によって検出した場合の検出信号である。また、検出信号Z1’は、第1流路9および第2流路10にゼロ点基準液が流れており、LED1’が光を照射している場合の検出信号である。
【0057】
ステップS22において、コントローラ7は、LED1および1’の双方を消灯し、この状態で光センサ5’の検出信号T0’を取得する。このステップS22において、第1流路9および第2流路10に流れる液体は任意である(いずれも流さないこともできる)。検出信号T0’は、LED1および1’が光を照射していない場合の検出信号である。
【0058】
ステップS23において、コントローラ7は、第1流路9にゼロ点基準液を流し、第2流路10に液体試料を流し、LED1’を点灯し、LED1を消灯し、この状態で光センサ5’の検出信号T3’を取得する。検出信号T3’は、第1流路9にゼロ点基準液が流れており、第2流路10に液体試料が流れており、LED1’が光を照射している場合の検出信号である。
【0059】
ステップS24において、コントローラ7は、第1流路9および第2流路10の双方に液体試料を流し、LED1’を点灯し、LED1を消灯し、この状態で光センサ5’の検出信号T1’を取得する。検出信号T1’は、第1流路9および第2流路10に液体試料が流れており、LED1’が光を照射している場合の検出信号である。また、検出信号T1’は、LED1’から照射され、流路構造内を透過する光を光センサ5’によって検出した場合の検出信号である。
【0060】
ここで、ステップS23およびS24を比較すると、第1流路9に流れる液体の種類のみが異なっている。すなわち、ステップS23の検出信号T3’およびステップS24の検出信号T1’の双方を用いることにより、ガラス窓の付着物11による影響を補正し、第1流路9に流れる液体の内容を正確に測定することができる。
【0061】
ステップS25において、コントローラ7は、A1’=-log{(T1’-T0’)/(Z1’-T0’)}を計算する。ここで、T1’-T0’は液体試料の吸光度を表す値であり、Z1’-T0’はゼロ点基準液の吸光度を表す値であるということができる。A1’は、液体試料の吸光度と、ゼロ点基準液の吸光度との比率を表す値であるということができる。
【0062】
ステップS26において、コントローラ7は、A2’=-log{(T3’-T0’)/(Z1’-T0’)}を計算する。ここで、T3’-T0’は、液体試料の吸光度とゼロ点基準液の吸光度とに基づく値であり、Z1’-T0’は上述のようにゼロ点基準液の吸光度を表す値であるということができる。A2’は、これら2つの値の比率を表す値であるということができる。
【0063】
ステップS27において、コントローラ7は、ステップS7で得られたA1の値と、ステップS8で得られたA2の値とを取得する。
【0064】
ステップS28において、コントローラ7は、C=K’・(A1’-A2’)-K’’・(A1-A2)を計算する。Cは、液体試料の色度を表す値である。K’およびK’’は所定の係数である。これらの値について、たとえば、液体試料に代えて所定の色度基準液を用いた場合の上記T1’およびT3’の値を測定し、これらの値に基づいてK’およびK’’の値を事前に算出し、コントローラ7の記憶手段に保存しておくことができる。
【0065】
このように、コントローラ7は、LED1および1’と、光センサ5および5’の組み合わせを切り替えつつ測定を行う。たとえば実施例1では、
‐LED1から照射され、流路構造内を透過する光を光センサ5によって検出した場合の検出信号T1と、
‐LED1から照射され、流路構造内で散乱される光を光センサ5’によって検出した場合の検出信号T2と、
‐LED1’から照射され、流路構造内を透過する光を光センサ5’によって検出した場合の検出信号T1’と、
を用いる。このようにすると、1台の測定装置で濁度および色度の双方を測定することができる。
【0066】
ステップS29において、コントローラ7は、色度を表す値Cを出力する。この値は、上述のように出力装置8によって外部に送信される。
【0067】
ステップS30において、コントローラ7は、A1’-A2’の値が所定の範囲内であるか否かを判定する。A1’-A2’の値は、ガラス窓の付着物11が色度の測定に与える影響の度合いを表す。A1’-A2’の値が所定の範囲内である場合には、処理はステップS23に戻り、測定処理(ステップS23~S29)が繰り返される。
【0068】
A1’-A2’の値が所定の範囲内でない場合には、ステップS31において、コントローラ7は警報を出力する。警報は、上述のように出力装置8によって外部に送信される。警報は、たとえば保守作業の実施を促す情報である。
【0069】
ステップS31の後、処理はステップS21に戻る。なお、
図2の処理と同様に、ステップS31の後、ステップS21の前に、保守担当者による保守作業が実施されてもよい(図示せず)。
【0070】
以上説明するように、実施例1に係る測定装置によれば、測定装置の状態が変化しても、より正確な測定を行うことができる。
【0071】
上述の実施例1ではL<L’であり、ステップS4において、短い側の光路(第1流路9)にゼロ点基準液が、長い側の光路(第2流路10)に液体試料が流れる。このため、液体試料内の光路をより長く設定することができ、液体試料の濁度をより正確に測定することができる。
【0072】
実施例1では、光源としてLED1および1’、すなわち半導体発光素子である発光ダイオードを用いる。このため、特定の波長の光を抽出するための構成(分光器等)が不要である。分光器は、光源から単色光を抽出する分光素子(フィルタ式、プリズム式、回折格子式など)を使用するが、ガラス製の光学部品を含むため強い振動衝撃で壊れる心配があり、また構造も複雑になる傾向がある。さらに、光学部品の大きさを考慮すると配管に取り付ける用途に対して十分に小形軽量とすることが難しいため、測定装置を設置する架台を設けたり、液体試料を採取する配管に特殊な工事を行う必要があり、設置コストの低減が難しい。これに対し、実施例1ではLEDを用いるので、分光器が不要となり、測定装置をより小型または軽量にすることができる。また、光源を安価に構成することができる。さらに、発光ダイオードは故障が少なく、長期間安定して発光するので、長期間の連続測定でも波長ドリフトを小さく抑えることができる。
【0073】
とくに、従来技術に係る透過光式の濃度計は、光源にタングステンランプが使用される場合があり、そのような場合には、フィラメントが断線して突然使用できなくなる可能性がある。また、長時間の点灯でフィラメントの金属成分が揮発してランプ内面に付着し、このため発光強度が低下して測定に影響を与える可能性がある。実施例1ではタングステンランプでなくLEDを用いるので、このような問題を回避できる。
【0074】
実施例1では、LED1および1’がそれぞれ異なる波長の光を照射するので、2種類の波長によってより正確な測定を行うことができる。ただし、LED1および1’が同じ波長の光を照射する構成でも測定を行うことは可能である。
【0075】
実施例1では、LED1および1’の光がそれぞれ異なる光路を進行するので、光を分配するための光偏向光部品(反射鏡、プリズム、ハーフミラーなど)は不要である。光偏向部品はガラス製にせざるを得ない場合があるため、振動衝撃に対して弱くなり、また、光軸調整作業が必要となる。これに対し、実施例1では、光偏向部品を用いないのでこれらの問題を回避することができる。
【0076】
また、流路構造の内部に付着した汚れなどは、自動洗浄機能では完全に取り除けない場合があり、定期的に人手による保守を行って取除く必要がある。光偏向部品等の光学部品が多いと、分解して再び組立てるための作業量が加わるので、そのための保守費用は増えることになる。また、自動で定期的に洗浄を行う機能(自動洗浄機能)も、複雑になると故障する可能性が増加し、人手による保守の頻度を高めてしまう。これに対し、実施例1では、光学部品を用いないのでこれらの問題を回避することができる。
【0077】
実施例1では、ステップS12およびS13と、ステップS30およびS31とにより、警報を出力することができるが、これらのステップは省略してもよい。その場合には、参照濁度TB’の算出およびそのための各検出信号の取得も省略することができる。
【0078】
実施例1の測定装置は、濁度および色度の双方を測定し出力するものであるが、いずれか一方のみを測定し出力するものであってもよい。たとえば、
図3の手順を省略して
図2の手順のみを実行することにより、濁度のみを測定し出力することができる。なお、その場合には、LED1’および光センサ5’を省略することができる。
【0079】
また、
図2の手順において、ステップS7~S10の計算式を適切に変更することにより、濁度に代えて色度のみを測定し出力することができる。または、
図2の手順において算出されるTBの値を、色度を表す値として扱うことも可能である。そのような構成では、
図3の手順を省略することができる。また、色度のみを測定する場合には、コントローラ7は、流路構造内で散乱される光を光センサ5’によって検出した場合の検出信号に基づき、参照色度を測定し、色度と参照色度とに基づき警報を出力することができる。
【符号の説明】
【0080】
1…LED(第1光源)
1’…LED(第2光源)
2,3,4,2’、3’、4’…ガラス窓
5…光センサ(第1光センサ)
5’…光センサ(第2光センサ)
6…検出回路
7…コントローラ
8…出力装置
9…第1流路
10…第2流路