(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】食品容器
(51)【国際特許分類】
B65D 65/40 20060101AFI20240801BHJP
B65D 81/34 20060101ALI20240801BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
B65D65/40 D
B65D81/34 V
B32B27/00 H
(21)【出願番号】P 2020217916
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2023-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】500199479
【氏名又は名称】PSジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【氏名又は名称】神 紘一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【氏名又は名称】貴志 浩充
(72)【発明者】
【氏名】野寺 明夫
【審査官】宮崎 基樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-020636(JP,A)
【文献】特開2020-169308(JP,A)
【文献】特開2020-019847(JP,A)
【文献】特開2023-095312(JP,A)
【文献】特表2020-506083(JP,A)
【文献】特開2020-132752(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 65/00-65/46
C08L 1/00-101/16
B32B 1/00-43/00
B65D 81/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系樹脂(a)40~95質量%と、
ヘミセルロース量が1%以上であり、かつリグニン含有量が10%以下であるセルロース系多糖体(b)5~60質量%と、を含有するスチレン系樹脂組成物から形成される食品容器であって、
食品を収容可能な凹部を有し、
前記凹部の開口部直径rに対する前記凹部の深さdの比
率(d/r)が、1.5以下である、食品容器。
【請求項2】
前記スチレン系樹脂(a)は、マトリクス中にゴム状重合体(A)の粒子が分散されたゴム変性スチレン系樹脂、若しくはスチレン系単量体単位を有するスチレン系共重合樹脂、又はこれらの混合物である、請求項1に記載の食品容器。
【請求項3】
前記スチレン系樹脂組成物からなるスチレン系樹脂組成物シートを成形したのち、賦形されることを特徴とする、請求項1または請求項2記載の食品容器。
【請求項4】
前記スチレン系樹脂組成物シートは、スチレン系樹脂(a)40~95質量%及びリグニン含有量が10%以下であるセルロース系多糖体(b)5~60質量%を含む第1層と、
前記第1層の表面にスチレン系樹脂、またはポリオレフィン系樹脂を含む表面層と、を有する積層体であることを特徴とする、請求項3に記載の食品容器。
【請求項5】
前記スチレン系共重合樹脂は、スチレン系単量体単位および不飽和カルボン酸系単量体単位を含む樹脂、又はスチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位および不飽和カルボン酸エステル系単量体単位を含む樹脂であり、前記スチレン系単量体単位、前記不飽和カルボン酸系単量体単位、及び前記不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、前記スチレン系単量体単位の含有量は69~98質量%である、請求項2に記載の食品容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品容器に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂は、成形性、透明性に優れ、比較的安価であることから、食品容器に多く使用されている。しかしながら、電子レンジなどにより食品容器とともに油分を含む食品を加熱した場合、当該食品容器を構成する材料の耐熱性、耐油性が不足し、食品と容器との接触部分などが変形する問題があった。また、温めた食品による火傷等の防止、および食品保温の観点より断熱効果が必要とされる。
一方、近年、環境保護の観点からバイオマス材料が注目されており、セルロースなどの天然由来化合物を食品容器に利用する技術が期待されている。
例えば、特許文献1、2にはスチレン系樹脂とセルロース系材料からなるスチレン系複合樹脂組成物が開示されている。また、特許文献3には親水化処理されたスチレン系樹脂フィルム上に特定のセルロース誘導体をコーティングした食品用容器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-173352号公報
【文献】特開平8-231795号公報
【文献】特開2007-77364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1,2の技術では、セルロース系材料が木粉、或いはパルプ等が使用されているが、食品容器としての用途、および効果については全く記載しておらず、リグニンが多く含まれるため、臭気、および着色が酷く食品容器に使用し難い。さらにリグニンが多く存在すると黒点となり、電子レンジで加熱した際、穴あきの原因となる。また、上記特許文献3の技術は、ポリスチレン中にセルロース誘導体を複合化させた材料を使用していないため、電子レンジ等で加熱した場合、型保持性が悪く容器が変形するほか、油などにより変形や穴あきが発生してしまう課題がある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、耐油性、断熱性に優れ臭気・着色が少ない熱型保持性が高い食品容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記問題点に鑑み、鋭意研究し、実験を重ねた結果、スチレン系樹脂(a)40~95質量%とリグニン含有量が10%以下であるセルロース系多糖体(b)5~60質量%とを含有することを特徴とする食品容器を用いることにより、上記の課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0007】
[1]本発明は、スチレン系樹脂(a)40~95質量%と、リグニン含有量が10%以下であるセルロース系多糖体(b)5~60質量%と、を含有するスチレン系樹脂組成物から形成される食品容器であって、
食品を収容可能な凹部を有し、
前記凹部の開口部直径rに対する前記凹部の深さdの比率(d/r)が、1.5以下である、食品容器である。
[2]本発明において、前記セルロース系多糖類のヘミセルロース量が1%以上であることを特徴とすることが好ましい
[3]本発明において、前記スチレン系樹脂組成物からなるスチレン系樹脂組成物シートを成形したのち、賦形されることが好ましい。
[4]本発明において、前記スチレン系樹脂シートは、スチレン系樹脂(a)40~95質量%及びリグニン含有量が10%以下であるセルロース系多糖体(b)5~60質量%を含む第1層と、
前記第1層の表面にスチレン系樹脂、またはポリオレフィン系樹脂を含む表面層と、を有する積層体であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐油性、断熱性に優れ臭気・着色が少ない熱型保持性が高い食品容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本実施形態の食品容器の一例を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、本実施形態の食品容器の製造に使用する金型の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」と言う。)について詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0011】
[食品容器]
本発明は、スチレン系樹脂(a)40~95質量%と、リグニン含有量が10%以下であるセルロース系多糖体(b)5~60質量%と、を含有するスチレン系樹脂組成物から形成される食品容器であって、食品を収容可能な凹部を有し、前記凹部の開口部直径rに対する前記凹部の深さdの比率(d/r)が、1.5以下である。
本発明の食品容器は、スチレン系樹脂組成物から形成され、かつ当該食品容器の凹部の開口部直径rに対する前記凹部の深さdの比率(d/r)が1.5以下であるため、液体を含む食品を収容しやすい構造である。そのため、電子レンジなどの加熱による、食品容器の底面部(特に、凹部の底面外周部など)の内壁と食品に含まれる油分との接触部の穴あきを効果的に抑制できる。
【0012】
以下、
図1及び
図2を用いて、本発明の食品容器の好ましい形態について説明する。
図1は、本発明に係る食品容器1の一例を示したものであり、
図1(a)は、主に麺類又はどんぶり類の食品を収容する食品容器本体2を示す斜視図であり、
図1(b)は、食品容器本体2の開口部6を覆う蓋部3である。
図1では、説明の便宜上、本実施形態の食品容器1の一例として、食品容器本体2と当該食品容器本体2の開口部6と嵌合可能な蓋部3とを示しているが、本実施形態の食品容器1は、食品容器本体2だけ有していればよい。
また、
図2は、
図1の食品容器1(特に、食品容器本体2)を製造する金型9の断面を示す概略図である。
【0013】
本実施形態の食品容器1の形状及びその形成方法について
図1を用いて以下説明する。
本実施形態の食品容器本体2は、食品を収容できる凹部4を有している。
図1では凹部4の一例として、1つの凹部4を有する食品容器1を示しており、内容物の量が外部から視認できるよう、食品容器本体2の内壁に溝5が全周にわたって形成されている。そして、食品容器本体2の底面部7の面積は、開口部6の面積より小さい。さらに、食品容器本体2の開口部6には、外方に突出された縁部7が設けられており、食品容器本体2の開口部6を覆う蓋部3と縁部とが嵌合されうる。
当該凹部4の形状は、特に限定されることはなく、例えば、(略)円筒形、又は多角筒形等が挙げられる。
また、本実施形態における食品容器は、複数の凹部4を有してもよい。複数の凹部4を有する食品容器の態様としては、市販のお弁当に用いられる食品容器のように、複数の食品であるおかずが仕切り壁によって区画されている形状が挙げられる。
【0014】
本実施形態における食品容器1は、例えば
図2に記載の金型9を用いて製造することができる。本実施形態の一例として、以下、
図2を用いて、食品容器1(食品容器本体2)が、スチレン系樹脂組成物を成形してなるスチレン系樹脂組成物シート10から一体成形される態様について説明する。
例えば、スチレン系樹脂組成物を押出成形により、100~1000μmの厚さのスチレン系樹脂組成物シート10を作製する。その際、スチレン系樹脂組成物シート10の表面層を1~100μmの厚さでポリスチレン、またはポリプロピレンで共押し、又はフィルムラミをしてもよい。その後、得られたスチレン系樹脂組成物シート10を150~250℃で5~60秒間予備加熱した後、当該加熱したスチレン系樹脂組成物シート10を金型9の凹部11を覆うように設置し、所定の成形方法により賦形する。例えば、凹部11を真空にすることによって、所望の形状の食品容器本体2に賦形できる。
また、金型9の凹部11を覆うようにスチレン系樹脂組成物シート10を設置した後、
加熱して所定の成形方法(例えば、熱圧成形、真空成形、圧空成形、プラグアシスト成形)により賦形してもよい。
本実施形態の好ましい態様の一例としては、食品容器1(特に、食品容器本体2)は、
当該金型9を用いて、加熱したスチレン系樹脂組成物シート10を、熱圧成形、真空成形、圧空成形又はプラグアシスト成形することによって賦形することができる。
また、深さの異なる食品容器1(特に、食品容器本体2)を製造する場合は、スペーサー12によって凹部の上面の直径(=開口部の直径)rに対する前記凹部の深さdの比率
(d/r)を変えることができる。
図2では、一例として、深さdの凹部11内に、深さd2又は深さd1となるようにスペーサー12を設けた状態を示している。
【0015】
本発明で用いる食品容器1の平均厚さ(肉厚)は0.05~3mmであり、好ましくは0.1~2mmであり、さらに好ましくは0.15~1.5mmである。0.05mmより薄いと容器の剛性が不足し、3mmより厚いと容器が重くなり材料コストが高くなるほか、嵩張ってゴミとして捨てにくい。
本実施形態において、食品容器の深さ/開口部直径の比率は、1.5以下であることが好ましく、1.25以下であることが好ましく、0.25以上1以下であることがより好ましい。当該比率が1.5より大きいと偏肉が発生し、容器強度が低下する。また、深さ/直径の比率が0.25未満であると、容器の形状が平板状になるため、偏肉が発生しにくく、また食品容器の底面部(特に底面部の外周部分)に油分又は油分を含む液体が残留することによる、耐油性の効果が発揮しにくい。一方、深さ/直径の比率が、0.25以上1.5以下であれば、比較的食品等の内容物を収容しやすくなるだけでなく、収容可能な食品のメニューに依存することなく、耐油性の効果を発揮しやすくなる。
本明細書における開口部直径とは、開口部の形状が円の場合はその直径を表し、開口部形状が楕円の場合は短径を、開口部形状が多角形の場合は対角線のうち最も短い長さを表す。
また、容器の密閉性を保つため、容器の上部は凸凹の形状を施し、嵌合性を高める設計をすることが好ましい。本発明で使用される食品容器は、熱による型保持性が良いため、嵌合性に優れる食品容器となる。
【0016】
本発明に係る食品容器の成型方法は、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、ブロー成形法、プレス成形法、熱圧成形、真空成形法、圧空成形、プラグアシスト成形及び発泡成形法等が使用され、成形方法に限定されない。本発明で使用される食品容器では、特に生産性とコストの面より、シート(フィルム)成形後に真空成形により賦形される方法が好ましい。
【0017】
本発明に係る食品容器は、スチレン系樹脂組成物シートから成形されることが好ましく、前記スチレン系樹脂組成物からなるスチレン系樹脂組成物シートを成形したのち、賦形されることがより好ましい。
【0018】
本実施形態において使用されるスチレン系樹脂組成物シートは、厚さ0.1~2mmであることが好ましく、より好ましくは0.2~1mmさらに好ましくは0.3~0.8mmである。0.1mmより薄いと容器にした場合、剛性が不足し、2mmより厚いと真空成形の生産性が低下する。
【0019】
本発明で使用されるスチレン系樹脂組成物シートの表面は平滑性や意匠性のため、スチレン系樹脂、またはポリオレフィン系樹脂で積層しても構わない。より詳細には、前記スチレン系樹脂シートは、スチレン系樹脂(a)40~95質量%及びリグニン含有量が10%以下であるセルロース系多糖体(b)5~60質量%を含む第1層と、前記第1層の表面にスチレン系樹脂、またはポリオレフィン系樹脂を含む表面層を有する積層体である。
本実施形態において、前記表面層の積層は、第1層に対して片面、あるいは両面に行なってもよい。表面層の厚さは、食品容器の性能が保持できる1~100μmが好ましい。
本実施形態において、食品容器を形成する材料に使用されるスチレン系樹脂は、後述するスチレン系樹脂が使用可能である。また、ポリオレフィンは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコールなどが使用され、それらは共重合物でも構わない。特にポリプロピレンが耐油性の観点より好ましい。第1層に対して表面層を積層する方法は、押出機による共押し、フィルム張り合わせなどの方法がある。本発明で使用されるスチレン系樹脂シートは、ポリオレフィンとの接着性に優れ、加熱等で剥がれることが少ない特徴がある。
以下、本実施形態における食品容器を形成する材料であるスチレン系樹脂組成物について詳説する。
【0020】
[スチレン系樹脂組成物]
本実施形態における食品容器を形成する材料としては、スチレン系樹脂(a)を40~95質量%と、セルロース系多糖体(b)を5~60質量%とを含有するスチレン系樹脂組成物が挙げられる。
【0021】
<スチレン系樹脂(a)(以下、(a)成分とも称する。)>
本実施形態におけるスチレン系樹脂組成物は、スチレン系樹脂(a)を含有する。当該スチレン系樹脂組成物中のスチレン系樹脂(a)の含有量は、スチレン系樹脂組成物全体(100質量%)に対して、40~95質量%であり、好ましくは50~95質量%、より好ましくは60.0~90質量%である。当該含有量を40質量%以上とすることにより、成形性を高めることができる。一方、当該含有量を95質量%以下とすることにより、セルロース系多糖体(b)の合計含有量を確保することができ、耐熱性、耐油性等を向上させることができる。
【0022】
本発明におけるスチレン系樹脂(a)のMFR(200℃、5kg)が3以上であることが好ましい。好ましくは5以上、より好ましくは8以上30以下であり、さらに好ましくは10上25以下である。セルロース(b)の着色、ヤケを防止するため、240℃以下の溶融混合が必要となるためである。
さらに、セルロース系多糖体(b)との密着性を向上させて、真空成型性を上げるためにスチレン系樹脂(a)は、不飽和カルボン酸系単量体単位を含むことが好ましい。当該不飽和カルボン酸系単量体単位の含有量は、好ましくはスチレン系樹脂(a)全体に対して2.0~16.0質量%、より好ましくは4~14質量%であり、さらに好ましくは8~13質量%である。
使用するスチレン系樹脂は、1種、または2種以上をブレンドして使用しても構わない。
【0023】
本実施形態で用いることができるスチレン系樹脂(a)は、スチレン系単量体単位を有する重合体であることが好ましく、スチレン系単量体単位を有する共重合体であることがより好ましい。また、スチレン系樹脂(a)は、スチレン系単量体と、当該スチレン系単量体と共重合可能な他のビニル単量体及びゴム質重合体より選ばれる1種以上の単量体を重合して得られるスチレン系共重合樹脂であることがさらに好ましい。本発明におけるスチレン系樹脂(a)は、特に限定されないが、例えば、ポリスチレン、マトリクス中にゴム状重合体(A)の粒子が分散されたゴム変性スチレン系樹脂、若しくはスチレン系単量体単位を有するスチレン系共重合樹脂、又はこれらの混合物が挙げられる。
【0024】
〈〈ポリスチレン〉
本実施形態において、ポリスチレンとはスチレン系単量体を重合した単独重合体であり、一般的に入手できるものを適宜選択して用いることができる。ポリスチレンを構成するスチレン系単量体としては、スチレンの他に、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン、ο-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、イソブチルスチレン、及びt-ブチルスチレン又はブロモスチレン及びインデン等のスチレン誘導体が挙げられる。特に工業的観点からスチレンが好ましい。これらのスチレン系単量体は、1種又は2種以上使用することができる。ポリスチレンは本発明の効果を損なわない範囲で、上記のスチレン系単量体単位以外の単量体単位を更に含有することを排除しないが、典型的にはスチレン系単量体単位からなる。
【0025】
〈〈ゴム変性スチレン系樹脂〉〉
本実施形態において、ゴム変性スチレン系樹脂とは、マトリクスとしてのスチレン樹脂中にゴム状重合体(A)の粒子が分散したものであり、ゴム状重合体(A)の存在下でスチレン系単量体を重合させることにより製造することができる。
【0026】
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂を構成するスチレン系単量体としては、上記ポリスチレンを構成するスチレン系単量体と同様である。
【0027】
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂に含まれるゴム状重合体(A)は、例えば、内側に上記のスチレン系単量体より得られるスチレン単量体単位含有樹脂を内包してもよく、及び/又は、外側にスチレン単量体単位含有樹脂がグラフトされてもよい。
【0028】
前記ゴム状重合体(A)としては、例えば、ポリブタジエン、ポリスチレンを内包するポリブタジエン、ポリイソプレン、天然ゴム、ポリクロロプレン、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体等を使用できるが、ポリブタジエン又はスチレン-ブタジエン共重合体が好ましい。ポリブタジエンには、シス含有率の高いハイシスポリブタジエン及びシス含有率の低いローシスポリブタジエンの双方を用いることができる。また、スチレン-ブタジエン共重合体の構造としては、ランダム構造及びブロック構造の双方を用いることができる。これらのゴム状重合体(A)は1種若しくは2種以上使用することができる。また、ブタジエン系ゴムを水素添加した飽和ゴムを使用することもできる。
このようなゴム変性スチレン系樹脂の例としては、HIPS(高衝撃ポリスチレン)、ABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)、AAS樹脂(アクリロニトリル-アクリルゴム-スチレン共重合体)、AES樹脂(アクリロニトリル-エチレンプロピレンゴム-スチレン共重合体)等が挙げられる。
【0029】
本実施形態において、ゴム変性スチレン系樹脂がHIPS系樹脂である場合、これらのゴム状重合体(A)の中で特に好ましいのは、シス1,4結合が90モル%以上で構成されるハイシスポリブタジエンである。該ハイシスポリブタジエンにおいては、ビニル1,2結合が6モル%以下で構成されることが好ましく、3モル%以下で構成されることが特に好ましい。
なお、該ハイシスポリブタジエンの構成単位に関する異性体としてシス1,4、トランス1,4、又はビニル1,2構造を有するものの含有率は、赤外分光光度計を用いて測定し、モレロ法によりデータ処理することにより算出できる。
また、該ハイシスポリブタジエンは、公知の製造法、例えば有機アルミニウム化合物とコバルト又はニッケル化合物を含んだ触媒を用いて、1,3ブタジエンを重合して容易に得ることができる。
【0030】
本実施形態において、ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体(A)の含有量は、ゴム変性スチレン系樹脂100質量%に対して、2~10質量%が好ましく、更に好ましくは3~8質量%である。ゴム状重合体(A)の含有量が2質量%より少ないとスチレン系樹脂の耐衝撃性が低下する虞がある。また、ゴム状重合体(A)の含有量が10質量%を超えると成形品外観が低下する虞がある。
なお本開示で、ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体(A)の含有量は、熱分解ガスクロマトグラフイーを用いて算出される値である。
【0031】
本実施形態において、ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体(A)の平均粒子径は、衝撃強度の観点から、0.5~2.5μmであることが好ましく、更に好ましくは0.8~2.0μmである。
なお本開示で、ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体(A)の平均粒子径は、以下の方法により測定することができる。
四酸化オスミウムで染色したゴム変性スチレン系樹脂から厚さ75nmの超薄切片を作製し、電子顕微鏡を用いて倍率10000倍の写真を撮影する。写真中、黒く染色された粒子がゴム状重合体である。写真から、下記数式(N1):
平均粒子径=ΣniDri3 /ΣniDri2 (N1)
(上記数式(N1)中、niは、粒子径Driのゴム状重合体(a)粒子の個数であり、粒子径Driは、写真中の粒子の面積から円相当径として算出した粒子径である。)
により面積平均粒子径を算出し、ゴム状重合体(A)の平均粒子径とする。本測定は、写真を200dpiの解像度でスキャナーに取り込み、画像解析装置IP-1000(旭化成社製)の粒子解析ソフトを用いて測定する。
【0032】
本実施形態において、ゴム変性スチレン系樹脂の還元粘度(これは、ゴム変性スチレン系樹脂の分子量の指標となる)は、0.50~0.85dL/gの範囲にあることが好ましく、更に好ましくは0.55~0.80dL/gの範囲である。0.50dL/gより小さいと衝撃強度が低下する虞があり、0.85dL/gを超えると流動性の低下により成形性が低下する虞がある。
なお本開示で、ゴム変性スチレン系樹脂の還元粘度は、トルエン溶液中で30℃、濃度0.5g/dLの条件で測定される値である。
【0033】
本実施形態において、ゴム変性スチレン系樹脂の製造方法は、特に制限されるものではないが、ゴム状重合体(A)の存在下、スチレン系単量体(及び溶媒)を重合する塊状重合(若しくは溶液重合)、又は反応途中で懸濁重合に移行する塊状-懸濁重合、又はゴム状重合体(A)ラテックスの存在下、スチレン系単量体を重合する乳化グラフト重合にて製造することができる。塊状重合においては、ゴム状重合体(a)とスチレン系単量体、並びに必要に応じて有機溶媒、有機過酸化物、及び/又は連鎖移動剤を添加した混合溶液を、完全混合型反応器又は槽型反応器と複数の槽型反応器とを直列に連結し構成される重合装置に連続的に供給することにより製造することができる。
【0034】
〈〈スチレン系共重合樹脂〉〉
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂とは、スチレン系単量体単位および不飽和カルボン酸系単量体単位、さらに不飽和カルボン酸エステル系単量体単位を任意に含む樹脂である。本発明におけるスチレン系共重合樹脂は、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、スチレン系単量体単位の含有量は69~98質量%であることが好ましく、より好ましくは74~96質量%であり、さらに好ましくは77~92質量%の範囲である。当該含有量を69質量%以上とすることにより、スチレン系樹脂(a)の屈折率を向上させることができる。一方、当該含有量を98質量%以下とすることにより、後述の不飽和カルボン酸系単量体単位及び任意成分である不飽和カルボン酸エステル系単量体単位を所望量存在させにくくなり、これらの単量体単位による後述の効果を得にくくなる。
【0035】
本実施形態のスチレン系共重合樹脂において、不飽和カルボン酸系単量体単位は耐熱性を向上させる役割を果たす。スチレン系共重合樹脂中のスチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、不飽和カルボン酸系単量体単位の含有量は2~16質量%であることが好ましく、より好ましくは4~14質量%であり、さらに好ましくは8~13質量%である。当該含有量を2質量%以上とすることにより、セルロースの分散性を向上させ、光透過性、外観、耐熱性をより向上させることができる。一方、当該含有量を16質量%以下とすることにより、樹脂の流動性と機械的物性を向上させることができる。
【0036】
一般に、スチレン系共重合樹脂の一例である、スチレン-メタクリル酸-メタクリル酸メチル共重合樹脂を含むスチレン-メタクリル酸系樹脂は、工業的規模ではほとんどの場合、ラジカル重合で生産されているが、本実施形態において、脱揮工程のゲル化反応を抑制するために、種々のアルコールを重合系中に添加して重合を行なうことができる。
【0037】
不飽和カルボン酸エステル系単量体は、不飽和カルボン酸系単量体との分子間相互作用によって不飽和カルボン酸系単量体の脱水反応を抑制するために、及び、樹脂の機械的強度を向上させるために用いることができる。更には、不飽和カルボン酸エステル系単量体は、耐候性、表面硬度等の樹脂特性の向上にも寄与する。
【0038】
本実施形態のスチレン系共重合樹脂において、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の含有量は0~15質量%であることが好ましく、より好ましくは1~12質量%、さらに好ましくは2~10質量%である。当該含有量を15質量%以下とすることにより、樹脂の光透過性と流動性を向上させることができる。また、不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の含有量を0質量%とすることにより、耐熱性の向上やコスト削減をすることができるが、上記の観点から不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の含有量を0質量%超とすることもできる。
【0039】
なお、不飽和カルボン酸系単量体と不飽和カルボン酸エステル系単量体単位とが隣り合わせで結合した場合、高温、高真空の脱揮装置を用いると、条件によっては脱アルコール反応が起こり、六員環酸無水物が形成される場合がある。本実施形態の共重合樹脂は、この六員環酸無水物を含んでいてもよいが、流動性を低下させることから、生成される六員環酸無水物の量はより少ない方が好ましい。
【0040】
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂中の、スチレン単量体単位(例えば、スチレン単量体単位)、不飽和カルボン酸系単量体単位(例えば、メタクリル酸単量体単位)及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位(例えば、メタクリル酸メチル単量体単位)の含有量は、それぞれ、プロトン核磁気共鳴(1H-NMR)測定機で測定したスペクトルの積分比から求めることができる。
【0041】
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂は、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び任意成分である不飽和カルボン酸エステル系単量体単位以外の単量体単位を、本発明の効果を損なわない範囲で更に含有することを排除しない。しかし、本発明における共重合樹脂は、典型的には、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位から構成されることが好ましい。
【0042】
本実施形態のスチレン系共重合樹脂を構成するスチレン系単量体としては、上記ポリスチレンを構成するスチレン系単量体と同様である。
【0043】
本実施形態のスチレン系共重合樹脂を構成する不飽和カルボン酸系単量体としては、特に限定されないが例えば、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられる。不飽和カルボン酸系単量体としては、耐熱性の向上効果が大きく、常温にて液状でハンドリング性に優れることからメタクリル酸が好ましい。これらの不飽和カルボン酸系単量体は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0044】
本実施形態のスチレン系共重合樹脂を構成する不飽和カルボン酸エステル系単量体としては、特に限定されないが例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、耐熱性低下に対する影響が小さいことから(メタ)アクリル酸メチルが好ましい。これらの不飽和カルボン酸エステル系単量体は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0045】
本実施形態のスチレン系共重合樹脂としては、スチレン-(メタ)アクリル酸メチル共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸エチル共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸プロパン共重合体、又はスチレン-(メタ)アクリル酸ブチル共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸メチル-メタ)アクリル酸ブチル共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸メチル-メタクリル酸共重合体が好ましい。
【0046】
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂の重量平均分子量(Mw)は100,000~350,000であることが好ましく、より好ましくは120,000~300,000、さらに好ましくは140,000~240,000である。重量平均分子量(Mw)が100,000~350,000である場合、機械的強度と流動性とのバランスにより優れる樹脂が得られ、またゲル物の混入も少ない。なお、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用い、標準ポリスレン換算で得られる値である。
【0047】
本実施形態のスチレン系樹脂(a)としては、上記ゴム変性スチレン系樹脂の1種又は2種以上と、スチレン系共重合樹脂の1種又は2種以上とをブレンドした混合物を使用してもよい。その場合、ゴム変性スチレン系樹脂とスチレン系共重合樹脂との混合比は使用目的に応じて適宜変更することができる。例えば、ゴム変性スチレン系樹脂がスチレン系共重合樹脂より少ない系においては、スチレン系樹脂(a)の総量(100質量%)に対して、スチレン系共重合樹脂を0.1~30質量%含有することが好ましい。一方、ゴム変性スチレン系樹脂がスチレン系共重合樹脂より多い系においては、スチレン系樹脂(a)の総量(100質量%)に対して、スチレン系共重合樹脂を70~99.9質量%含有することが好ましい。
【0048】
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂の重合方法は、特に制限はないが例えば、ラジカル重合法として、塊状重合法又は溶液重合法を好適に採用できる。重合方法は、主に、重合原料(単量体成分)を重合させる重合工程と、重合生成物から未反応モノマー、重合溶媒等の揮発分を除去する脱揮工程とを備える。
【0049】
<セルロース系多糖体(b)(以下、(b)成分とも称する。)>
本実施形態におけるスチレン系樹脂組成物は、セルロース系多糖体(b)を含有する。当該スチレン系樹脂組成物中のセルロース系多糖体(b)の含有量は、スチレン系樹脂組成物全体(100質量%)に対して、5~60質量%であり、好ましくは10~50質量%、より好ましくは15~40質量%である。セルロース系多糖体(b)の含有量を5質量%以上とすることにより、熱型保持性や耐油性を向上させることができる。一方、当該含有量が多すぎると、流動性低下により成形性を著しく低下させる。スチレン系樹脂組成物又は食品容器中のセルロース系多糖体(b)の含有量は、当該組成物又は食品容器の断片をスチレン系樹脂が溶解する溶媒に溶かし、未溶物を取出し、120℃、4時間の条件で乾燥させたものの質量を測ることでわかる。
【0050】
本実施形態におけるセルロース系多糖体(b)の形状は特に制限されることはなく、例えば、球状、不規則形状、粉体状、鱗片状、繊維状、棒状等の形状が挙げられる。当該セルロース系多糖体(b)の短軸d1、或いは長軸d2の平均長さの少なくとも一方は、0.03~80μmであり、好ましくは0.05~60μmであり、好ましくは0.1~50μm、さらに好ましくは0.2~30μmである。短軸及び長軸の平均長さが上記範囲外であると、熱型保持性が十分に発揮されない、あるいは成形性が低下してしまうことがある。一方、短軸及び長軸の平均長さが上記範囲内であると、セルロース系多糖体(b)同士の凝集を低減でき、かつスチレン系樹脂(a)に対する分散性が良好になり耐油性や成型性が向上する。
尚、本発明において、セルロース系多糖体(b)の短軸の平均長さd1は、透過型電子顕微鏡観察(5000倍に拡大)により100個のセルロース系多糖体(b)の短軸長(最小長さ)を測定し、その算術平均をとることにより求められる。一方、セルロース系多糖体(b)の長軸の平均長さは、透過型電子顕微鏡観察(5000倍)により100個のセルロース系多糖体(b)の長軸長(最大長さ)を測定し、その算術平均をとることにより求められる。また、セルロース系多糖体(b)の短軸長(最小長さ)は、画像上の最も細い(又は短い)箇所の長さをいい、セルロース系多糖体(b)の長軸長(最大長さ)は、画像上の最も長い箇所の長さをいう。熱型保持性はセルロース系多糖体(b)の形状に影響され、ファイバーの場合は短軸、鱗片状又は粒状のものは長軸の平均径に影響を受ける。
本発明におけるセルロース系多糖体(b)のアスペクト比(d1/d2)は、1~500であることが好ましく、1.2~300であることがより好ましく、1.5~200であることがさらに好ましく、2~100であることが特に好ましい。
【0051】
本発明におけるセルロース系多糖体(b)は、β-1,4-グルカン構造を有する多糖類をいい、セルロース及びヘミセルロースを含む。また、セルロース系多糖体(b)は、それ構成する繊維が、β-1,4-グルカン構造を有する多糖類で形成されている限り、セルロース系多糖体(b)の材質は特に制限されず、例えば、高等植物由来のセルロース繊維[例えば、木材繊維(針葉樹、広葉樹等の木材パルプ等)、竹繊維、サトウキビ繊維、種子毛繊維(コットンリンター、ボンバックス綿、カポック等)、ジン皮繊維(例えば、麻、コウゾ、ミツマタ等)、葉繊維(例えば、マニラ麻、ニュージーランド麻等)等の天然セルロース繊維(パルプ繊維)等、動物由来のセルロース繊維(ホヤセルロース等)、バクテリア由来のセルロース繊維、化学的に合成されたセルロース繊維[セルロースアセテート(酢酸セルロース)、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等の有機酸エステル;硝酸セルロース、硫酸セルロース、リン酸セルロース等の無機酸エステル;硝酸酢酸セルロース等の混酸エステル;ヒドロキシアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース等);カルボキシアルキルセルロース(カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシエチルセルロース等);アルキルセルロース(メチルセルロース、エチルセルロース等);再生セルロース(レーヨン、セロファン等)等のセルロース誘導体繊維等]等が挙げられる。これらのセルロース系多糖体(b)を構成する繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0052】
上記セルロース系多糖体(b)を構成する繊維のうち、セルロース系多糖体(b)を製造したときの分散性、剛性、耐衝撃性の観点で製造効率が高く、適度な繊維径及び繊維長を有する点から、植物由来のセルロース繊維、例えば、木材繊維(針葉樹、広葉樹、竹等の木材パルプ等)や種子毛繊維(コットンリンターパルプ等)等のパルプ由来のセルロース繊維が好ましい。
本実施形態において、セルロース系多糖類(b)に対し、リグニンが10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。リグニンが10質量%より多いと、熱加工時、臭気・着色が大きくなるほか、リグニン劣化物が炭状の黒点となり製品価値が低下するほか、電子レンジ加熱時の穴あきの原因となる。
さらに、本実施形態において、ヘミセルロースがセルロース系多糖体(b)に対し、1質量%以上含まれるものが好ましい。ヘミセルロースが含まれることにより、スチレン系樹脂(a)との分散性が向上し、剛性、成形外観を向上させることができる。本発明においては、セルロース系多糖体(b)の製造工程でこれらの成分を完全に除去するのではなく、好適な範囲内の含有量で残存させることが好ましい。ヘミセルロースは、マンナンやキシランなどの糖で構成される多糖類であり、セルロースと水素結合して、ミクロフィブリル間を結びつける役割を果たしている。また、ヘミセルロースの溶解度パラメータ(SP値)は、セルロースよりも疎水性側にあることから、ヘミセルロースは、スチレン系樹脂(a)とセルロース系多糖体(b)とのSP値差を緩和する効果を有すると考えられる。セルロース系多糖体(b)中のヘミセルロースの量は、ヘミセルロースの含有率が高い天然木材原料に対して、精製処理を施すことで所望の量に減らして調整することもできる。例えば、ヘミセルロースの含有率が低い原料を用いた場合は、別の原料から抽出処理して得られたヘミセルロースを添加することにより所望の量に調整することができる。このときヘミセルロースの末端などの構造が、精製や抽出処理によって部分的に天然物と異なる形になっていても構わない。
本実施形態において、スチレン系樹脂(a)とセルロース系多糖体(b)とのSP値差を緩和する目的で、へミセルロースがセルロース系多糖体(b)(100質量%)に対し、1質量%以上25質量%以下含まれることがより好ましく、2質量%以上20質量以下含まれることがさらに好ましく、3質量%以上20質量以下含まれることがよりさらに好ましく、5質量%以上19.5質量以下含まれることがさらにより好ましく、7質量%以上19.3質量以下含まれることが得に好ましい。
【0053】
<任意添加成分>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、上記(a)~(b)成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて公知の添加剤、加工助剤等の添加成分を添加することができる。これら添加剤、加工助剤等としては、分散剤、酸化防止剤、耐候剤、帯電防止剤、充填剤等が挙げられる。
添加剤及び加工助剤等の任意添加成分の合計含有量は、スチレン系樹脂組成物中、0.05~5質量%としてよい。
【0054】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、実質的に(a)成分~(b)成分及び任意添加成分のみからなっていてもよい。また、(a)成分~(b)成分のみ、又は(a)成分~(b)成分及び任意添加成分のみからなっていてもよい。
「実質的に(a)成分~(b)成分及び任意添加成分のみからなる」とは、スチレン系樹脂組成物の95~100質量%(好ましくは98~100質量%)が(a)成分~(b)成分であるか、又は(a)成分~(b)成分及び任意添加成分であることを意味する。
尚、本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で(a)成分~(b)成分及び任意添加成分の他に不可避不純物を含んでいてもよい。
【0055】
[食品容器の特性]
<熱型保持性>
本実施形態の食品容器の熱型保持性は、水を所定量添加した食品容器を電子レンジで加熱し底面の変化率を確認した。当該変化率は、以下の式(1)を用いた。
変化率(%)=[{加熱前底面部直径の長さL1(mm)-加熱後底面部直径の長さL2(mm)}/加熱前底面部直径の長さL1(mm)]×100
上記変化率は、10%以下が好ましく、さらに5%以下であることがより好ましい。この範囲の変化率であれば、食品容器として電子レンジに使用できる。
【0056】
<耐油性>
本実施形態の食品容器の耐油性は、サラダ油等の油を所定量添加した容器を電子レンジで加熱し、変形しないことが好ましい。
【0057】
[食品容器の製造方法]
本実施形態の食品容器は、スチレン系樹脂組成物を調製した後、所望の形状に合わせて、公知の成形方法(例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、ブロー成形法、プレス成形法、真空成形法又は発泡成形法等)を用いて製造する。なお、当該スチレン系樹脂組成物は、各成分を任意の方法で溶融混練することによって製造することができる。例えば、ヘンシェルミキサーに代表される高速撹拌機、バンバリーミキサーに代表されるバッチ式混練機、単軸又は二軸の連続混練機、ロールミキサー等を単独で、又は組み合わせて用いる方法が挙げられる。混練の際の加熱温度は、通常、180~250℃の範囲で選択される。
【0058】
本実施形態の食品容器は、総菜や弁当容器、電子レンジ用容器、どんぶり、カップ、トレイ等に好適に用いられる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明の実施形態を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0060】
<測定及び評価方法>
各実施例及び比較例で得られた食品容器の評価は、次の方法に基づいて行った。
(1)食品容器の外観及び臭気の評価
後述の方法で作製した食品容器の外観(凝集物の有無、色相)を目視で確認するとともに、チャック付きのポリ袋に23℃・24時間当該食品容器を入れた後の臭気の程度を以下の基準により判断した。
<外観の基準>
着色の有無と、凝集物の有無(白濁店の存在の有無)の両方を確認し、いずれも無い場合を、「良好」とした。
<臭気の基準>
〇:ほとんど臭気なし、△:若干臭気有り、×:臭気有り。
【0061】
(2)熱型保持性
後述の方法で作製した食品容器に水を30ml入れ、500W電子レンジで3分間加熱し、底面の変化率を求めた。底部周辺には薄肉部が存在し、特に薄肉部は変形しやすい。
【0062】
(3)耐油性
後述の方法で作製した食品容器にサラダ油(日清オイリオ株式会社製サラダ油)を5ml入れ、500W電子レンジで2分間加熱し、容器の状態を確認した。
【0063】
(4)断熱性
後述の方法で作製した食品容器に沸騰したお湯を50ml入れ、23℃で30分放置後のお湯の温度を測定した。
【0064】
(5)スチレン系樹脂(a)中のスチレン単量体単位、メタクリル酸単量体単位、及びメタクリル酸メチル単量体単位の含有量
プロトン核磁気共鳴(1H-NMR)測定機で測定したスペクトルの積分比から、樹脂組成を定量した。
・試料調製:樹脂ペレット30mgをd6-DMSO 0.75mLに60℃で4~6時間加熱溶解した。
・測定機器:日本電子(株)製 JNM ECA-500
・測定条件:測定温度25℃、観測核1H、積算回数64回、繰り返し時間11秒。
【0065】
(スペクトルの帰属)
ジメチルスルホキシド重溶媒中で測定されたスペクトルの帰属について、0.5~1.5ppmのピークは、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、及び六員環酸無水物のα-メチル基の水素由来のピーク、1.6~2.1ppmのピークはポリマー主鎖のメチレン基の水素由来のピーク、3.5ppmのピークはメタクリル酸メチルのカルボン酸エステル(-COOCH3)の水素由来のピーク、12.4ppmのピークはメタクリル酸のカルボン酸の水素由来のピークである。また、6.5~7.5ppmのピークはスチレンの芳香族環の水素由来のピークである。なお、本実施例及び比較例の樹脂では六員環酸無水物の含有量が少ないため、本測定方法では通常定量化は難しい。
【0066】
(6)メルトフローレート(MFR)
スチレン系樹脂(a)のメルトマスフローレート(g/10分)は、ISO 1133に準拠して測定した(200℃、荷重49N)。
【0067】
(7)セルロース系多糖体の平均長さの測定
試験片(b)から厚さ75nmの超薄切片を作製し、電子顕微鏡を用いて倍率50000倍の写真を撮影した。そして、写真を200dpiの解像度でスキャナーに取り込み、画像解析装置IP-1000(旭化成社製)の粒子解析ソフトを用いて、100個のセルロース系多糖体(b)の最小長さ及び最大長さをそれぞれ測定し、それぞれの算術平均を短軸の平均長さd1、長軸の平均長さd2とした。また、上記と同様に、セルロース系多糖体(b)単体も電子顕微鏡を用いて倍率50000倍の写真を撮影して、それぞれの算術平均を短軸の平均長さd1、長軸の平均長さd2を測定する。
【0068】
(8)リグニン量の定量
セルロース系多糖体(b)におけるリグニンの定量分析は、廃棄物資源循環学会論文誌 Vol22,N0.5,P293,2011に記載されているTGA法を参考とした。
より詳細には、当該TGA法において、熱重量解析装置((株)島津製作所製のDTG-60 型)を使用して、空気雰囲気下で昇温速度10℃/minの条件にて室温から900℃まで昇温した。分析する試料を70℃で2時間乾燥した後、前記分析する試料を3~5mg精秤し、熱分解による重量変化を測定した。なお試料容器は内径が5mmで高さ2mmの円盤状白金皿を使用し、すべての実験は一定条件の下で測定を行った。
(7)ヘミセルロース量の測定
セルロース系多糖体(b)におけるヘミセルロースの定量分析は、次の通りである。
セルロース系多糖体(b)の分散液から分散媒を除去し、セルロース残渣を回収して、105℃で乾燥して得た乾燥試料の質量を、以下の方法で測定した。
乾燥したセルロース残渣を粉砕して得た粉砕試料をソックスレー抽出器でアルコール(エタノール)/ベンゼン混合溶媒)で6時間抽出した。その後、アルコール(エタノール)/ベンゼン混合溶媒)でさらに4時間抽出を行って脱脂試料を得た。当該脱脂試料2.5gに蒸留水150mL、亜塩素酸ナトリウム1.0g、酢酸0.2mLを加えて、70~80℃で1時間加熱処理を行い、再び亜塩素酸ナトリウム1.0g、酢酸0.2mLを加えて、70~80℃で1時間加熱する操作を、試料が白く脱色するまで3~4回繰り返した。得られた試料をろ過して、水及びアセトンで洗浄し、105℃で乾燥してホロセルロース画分(α-セルロースとヘミセルロースとの合計量)を得た。このホロセルロース画分の質量を測定した。
続いて、ホロセルロース画分1.0gに17.5質量%水酸化ナトリウム水溶液25mLを加え、3分後、膨潤状態になるまでガラス棒で軽く潰した。その後、20℃で静置し、上記水酸化ナトリウム水溶液を加えてから30分後に、蒸留水25mLを加え、正確に1分間かき混ぜて、20℃で5分静置し、ガラスフィルターでろ過してろ液が中性になるまで洗浄した。さらに10質量%酢酸40mLを吸引ろ過し、次に沸騰水1Lを吸引ろ過して洗浄した試料を105℃で質量が一定になるまで乾燥して、α-セルロース画分を得た。このα-セルロース画分の質量を測定した。
上記のように求めたホロセルロース画分とα-セルロース画分との質量から、次式によってヘミセルロースの含有率を求めた。
ホロセルロース(%)=ホロセルロース画分(g)/試料(無水ベース)(g)×100
α-セルロース(%)=α-セルロース画分(g)/試料(無水ベース)(g)×100
ヘミセルロース(%)=ホロセルロース(%)-(α-セルロース(%))
【0069】
実施例及び比較例で用いた各材料は下記の通りである。
[スチレン系樹脂(a)]
[GPPS-1]
・MFR7.8のポリスチレン(GPPS、PSジャパン社製、HF77)を用いた。
[HIPS-1]
・MFR3.0のポリスチレン(HIPS、PSジャパン社製、HT478)を用いた。
[共重合-1]
スチレン(ST)70.0質量部、メタクリル酸ブチル(BA)15.0質量部、エチルベンゼン15.0質量部、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.025質量部から成る重合原料組成液を、1.1リットル/時の速度で、容量が4リットルの完全混合型反応器に、次いで、容量が2リットルの層流型反応器から成る重合装置に、さらに、未反応モノマー、重合溶媒等の揮発分を除去する単軸押出機を連結した脱揮装置に、連続的に順次供給し、スチレン系共重合樹脂である共重合―1を調製した。
重合工程における重合反応条件は、完全混合反応器は重合温度122℃、層流型反応器は重合温度120~142℃とした。脱揮された未反応ガスは、-5℃の冷媒を通した凝縮器で凝縮し、未反応液として回収した。
最終重合液中のポリマー分は、重合液を215℃、2.5kPaの減圧下で30分間乾燥後、式[(乾燥後の試料質量/乾燥前の試料質量)×100%]により測定したところ、65.6質量%であり、MFRは4.6であった。
[ブレンド―1]
・上記HIPS-2(475D)にSMA共重合体(POLYSCOPE社製、XIBOND250)を5質量%配合させたものであり、MFRは3.2であった。
【0070】
[セルロース系多糖体(b)]
・セルロースファイバー-1(セライト社製、SW-10、d1:20μm、d2:700μm、リグニン量0.5%、ヘミセルロース量11質量%)
・セルロースファイバー-2(セライト社製、SW-30、d1:60μm、d2:700μm、リグニン量0.5%、ヘミセルロース量15質量%)
・CNF:セルロースナノファイバー(中越パルプ工業株式会社製、CNF-10、d1:35nm、d2:約1μm、リグニン量0%、ヘミセルロース量15質量%)
・綿粉(株式会社ディーティーアイ製、綿100%粉砕品、球状体、d1:25μm、d2:35μm、リグニン量0.1%、ヘミセルロース量0.5%質量以下)
・木粉(株式会社那賀ウッド製、原料:杉、d1:120μm、d2:180μm、リグニン量23%、ヘミセルロース量18質量%)
【0071】
[分散剤]
・脂肪酸エステル:グリセリンモノステアレート(理研ビタミン社製:S‐100)
・テルペン:芳香族変性テルペン樹脂(ヤスハラケミカル社製:YSレジンTO-105)
【0072】
[添加剤]
(フェノール系酸化防止剤)
・3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアリル(BASF社製、Irganox1076)
(リン系酸化防止剤)
・トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト(BASF社製株式会社、Irgafos168)
【0073】
[実施例1~11]
表1に示す組成比で各成分を添加し、(a)と(b)成分100質量部に対して、酸化防止剤として、Irganox1076とIrgafos168とをそれぞれ0.2質量部ずつ添加後、また、一部分散剤を10質量部添加し予備混合した。得られた予備混合物を一括混合し、二軸押出機(東芝機械社製、TEM-26SS)を用い、180℃~220℃の範囲で溶融押出を行い、混練物としてスチレン系樹脂組成物のペレットを得た。この際、スクリュー回転数は150rpm、吐出量は10kg/hrであった。
得られた樹脂ペレットを用いて、非発泡押出シートを作製した。非発泡押出シートについては、創研社製の25mmφ単軸シート押出機を用いて、樹脂溶融ゾーンの温度を180~200℃とし、厚み約0.5mmのシートを作製した。また、実施例9については両面にGPPS(ポリスチレン(PSジャパン株式会社製680))、また、実施例10についてはPP(ポリプロピレン(プライムポリマー株式会社製E-100GV))を厚さ約0.05mmで共押出を行って、スチレン系樹脂層又はポリプロピレン樹脂層が積層化した0.5mmのスチレン系樹脂シートを作製した。
上記で得られたシートを用いて、
図1の食品容器を作製した。当該食品容器については、創研社製のシート容器成形機を用いて、加熱ゾーン200℃とし、20秒間加熱した後、前記凹部の開口部直径
rに対する前記凹部の深さdの比率
(d/r)が0.75の食品容器の金型に設置し、真空成形により食品容器を作製した。これらの評価結果を表1に示す。
【0074】
[比較例1~9]
比較例1~8は、表2に示すように組成を変更したこと以外は実施例1と同様に実施した。各物性の測定及び評価の結果を表2に示す。
【0075】
【0076】
【0077】
表1に示すように、実施例1~11は、耐熱性、耐油性、断熱性に優れる。
表2に示す比較例1~8のように、高温で変形したり、電子レンジで穴が開いてしまったりして、耐熱性、耐油性に劣る。比較例5のようにセルロ-スファイバーが多いと真空成形により製品を作ることができない。比較例7のように木粉を利用すると着色と臭気が酷く、耐油性も穴が開いてしまう。また、比較例9のようにPPで積層した場合、PP層とPS層で剥がれてしまい、接着性に劣る。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の食品容器は、トレイ、カップ、どんぶり、ふた等として好適に使用することができる。