(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】可撓性VDFポリマー
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20240801BHJP
C08F 214/22 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
C08J5/18 CEW
C08F214/22
(21)【出願番号】P 2020564339
(86)(22)【出願日】2019-05-16
(86)【国際出願番号】 EP2019062552
(87)【国際公開番号】W WO2019219789
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-04-18
(32)【優先日】2018-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513092877
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ブルソー, セゴレーヌ
(72)【発明者】
【氏名】アブスレメ, ジュリオ ア.
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-336213(JP,A)
【文献】特表2013-530256(JP,A)
【文献】特表2015-537077(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03075799(EP,A1)
【文献】特表2004-501991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00
C08J 5/00-5/24
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)フッ化ビニリデン(VDF)由来の繰り返し単位;
b)少なくとも1種のパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)モノマーであって:
- 式CF
2=CFOR
f1(式中、R
f1はC
1~C
6-パーフルオロアルキル基である)を満たすパーフルオロアルキルビニルエーテル;及び
- 式CF
2=CFOR
OF(式中、R
OFは1つ以上のエーテル酸素原子を含むC
1~C
12-パーフルオロオキシアルキルで
ある)を満たすパーフルオロオキシアルキルビニルエーテル;
からなる群から選択されるモノマー由来の繰り返し単位;並びに
c)式(I):
(式中、R
1、R
2、R
3のそれぞれは互いに等しいか又は異なり、独立して水素原子又はC
1~C
3炭化水素基であり、R
OHは、水素、又は少なくとも1個のヒドロキシル基を含むC
1~C
5炭化水素部分である)
の少なくとも1種の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)由来の繰り返し単位;
からなるフッ化ビニリデン(VDF)ポリマー(A)のフィルムであって、
繰り返し単位b)及びc)の合計量が、ポリマー(A)の繰り返し単位の総モル数に対して、最大15モル
%である、ポリマー(A)のフィルム。
【請求項2】
前記式(I)の少なくとも1種の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)が、アクリル酸(AA)、メタアクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(HEA)、2-ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)、及びそれらの混合物を含む群から選択される、請求項1に記載のポリマー(A)のフィルム。
【請求項3】
前記パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)が、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、パーフルオロエチルビニルエーテル(PEVE)、及びパーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)を含む群から選択される、請求項1に記載のポリマー(A)のフィルム。
【請求項4】
ポリマー(A)が、ターポリマーVDF-AA-PMVEである、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリマー(A)のフィルム。
【請求項5】
ポリマー(A)が、25℃でジメチルホルムアミド中で測定された0.25g/l~0.35g/lの固有粘度を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリマー(A)のフィルム。
【請求項6】
前記親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)由来の繰り返し単位が、ポリマー(A)の繰り返し単位の総モル数に対して0.05モル%~2モル
%の量で含まれる、請求項1~5のいずれか一項に記載のポリマー(A)のフィルム。
【請求項7】
前記(PAVE)モノマー由来の繰り返し単位が、ポリマー(A)の繰り返し単位の総モル数に対して0.2~10モル
%の量でポリマー(A)の中に含まれる、請求項1~6のいずれか一項に記載のポリマー(A)のフィルム。
【請求項8】
前記親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)由来の繰り返し単位が、ポリマー(A)の繰り返し単位の総モル数に対して0.2~1.5モル%の量で含まれ、前記(PAVE)モノマーがポリマー(A)の繰り返し単位の総モル数に対して0.2~3.8モル%の量で含まれる、請求項1~7のいずれか一項に記載のポリマー(A)のフィルム。
【請求項9】
ポリマー(A)が、
- ポリマー(A)の繰り返し単位の総モル数に対して0.2~1.5モル%のモノマー(MA)由来の繰り返し単位;
- ポリマー(A)の繰り返し単位の総モル数に対して0.2~3.8モル%の(PAVE)モノマー由来の繰り返し単位;及び
- VDF由来の繰り返し単位;
からなる、請求項1~8のいずれか一項に記載のポリマー(A)のフィルム。
【請求項10】
5~500マイクロメートルの厚さを有する、請求項1~9のいずれか一項に記載のポリマー(A)のフィルム。
【請求項11】
ポリマー(A)を含有する組成物をキャストすることを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載のポリマー(A)のフィルムの作製方法。
【請求項12】
不活性支持体の2つの箔の間で少なくとも200℃の温度でポリマー(A)を圧縮成形することを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載のポリマー(A)のフィルムの作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年5月17日出願の欧州特許出願公開第18305616.7号に基づく優先権を主張するものであり、この出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、親水性(メタ)アクリルモノマー由来の繰り返し単位とパーフルオロアルキルビニルエーテルモノマー由来の繰り返し単位とを含む、改善された可撓性を有するフッ化ビニリデンコポリマー、それらの製造方法、及び極めて優れた可撓性が必要とされる用途でのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
フルオロポリマーは、それらの固有の耐薬品性及び優れた機械的特性のために、様々な用途及び環境で使用される優れた材料であることが当該技術分野で知られている。
【0004】
熱可塑性フルオロポリマーは、例えば、電極及びセパレータのためのバインダーとしてリチウムイオン電池で使用することができるフィルムを形成するために、押し出し又は溶液キャストすることができる。
【0005】
そのようなフッ素化ポリマー系材料の例は、ポリフッ化ビニリデンホモポリマー(PVDF)及びフッ化ビニリデン(VDF)コポリマー樹脂、例えばポリ(フッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレン)(VDF-CTFE)、ポリ(フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン)(VDF-TFE)、ポリ(フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン)(VDF-HFP)、及びポリ(フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン)(VDF-TrFE)など、である。
【0006】
親水性(メタ)アクリルモノマー(例えばアクリル酸)由来の繰り返し単位を含むVDFコポリマーは、当該技術分野で周知である。
【0007】
欧州特許第2147029号明細書(Solvay Specialty Polymers Italy SpA)30/10/2008には、VDF骨格全体にランダムに分布した親水性(メタ)アクリルモノマー由来の繰り返し単位を含むVDF直鎖コポリマー、すなわち、親水性(メタ)アクリルモノマー由来の繰り返し単位が、VDFモノマーの2つの繰り返し単位の間にそれぞれ主に含まれているVDF直鎖コポリマーが開示されており、前記コポリマーは、親水性(メタ)アクリルモノマー及びVDFモノマーの不均一な分布を有するコポリマーと比較して、改善された熱安定性を示す。
【0008】
そのようなコポリマーは、VDFホモポリマーの機械的特性及び化学的不活性さに、例えばアルミニウムや銅のような金属に対する適切な接着性、又は親水性を追加することを目的として開発されてきた。
【0009】
フレキシブル電池などのいくつかの最近の用途では、薄膜形態のフルオロポリマーは、所定の構造又はデバイスにおいて、寿命の間に複数回曲げられなければならない。
【0010】
そのため、フルオロポリマー自体の機械的特性及び耐薬品性を維持しながらも非常に高い可撓性を特徴とするフルオロポリマーが必要とされている。
【0011】
フッ素化オレフィンモノマー由来の繰り返し単位とパーフルオロアルキルビニルエーテル単位由来の繰り返し単位とを含むフッ素化コポリマーは当該技術分野で公知であり、前記パーフルオロアルキルビニルエーテル単位の存在は、材料の特定の特性、特に熱安定性の改善に関連する。
【0012】
テトラフルオロエチレン及びパーフルオロアルキルビニルエーテルから誘導された溶融加工可能なフルオロポリマーは、パイプなどの成形品を製造するために適していることが当該技術分野において広く公知であり、典型的には前記パーフルオロアルキルビニルエーテルから誘導された繰り返し単位を1モル%~5モル%含む。
【0013】
しかしながら、パーフルオロアルキルビニルエーテルの反応性は非常に低く、フッ素化オレフィンモノマー由来の単位とPAVEモノマー由来の繰り返し単位とを含むフッ素化コポリマーは、通常非常に長い反応時間で得られ、これは工業的観点からは重大な欠点である。
【0014】
米国特許第4,487,903号明細書(Daikin Industries Ltd)29/09/1982では、TFEとパーフルオロビニルエーテルとを使用するフルオロエラストマーコポリマーの調製について言及されている。記載されているビニルエーテルの反応性は非常に低く、ポリマーは非常に長い反応時間で得られる(実験の部で96時間の重合が記載されている)。
【0015】
本発明の1つの目的は、優れた可撓性寿命、耐薬品性、及び基材への優れた接着性を有するフィルム形態で製造することができ、且つ生産性が改善された重合プロセスによって得られる、親水性(メタ)アクリルモノマー由来の繰り返し単位とパーフルオロアルキルビニルエーテルモノマー由来の繰り返し単位とを含むVDFに基づくポリマーを提供することである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
今回、出願人は、驚くべきことに、親水性(メタ)アクリルモノマーとパーフルオロアルキルビニルエーテルの両方に由来する繰り返し単位を、明確に規定された量でVDFに基づくポリマーにおいて組み合わせると、有利なことに、VDFホモポリマーの優れた固有の機械的及び化学的特性を維持しながらも、VDFに基づくポリマーの性能、特には可撓性の観点での性能を大幅に改善できることを見出した。
【0017】
従って、本発明の第1の目的は、
a)フッ化ビニリデン(VDF)由来の繰り返し単位;
b)少なくとも1種のパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)モノマーであって:
- 式CF
2=CFOR
f1(式中、R
f1はC
1~C
6-パーフルオロアルキル基である)を満たすパーフルオロアルキルビニルエーテル;及び
- 式CF
2=CFOR
OF(式中、R
OFは1つ以上のエーテル酸素原子を含むC
1~C
12-パーフルオロオキシアルキルであり、好ましくはR
OFは式-CF
2OR
f2又は-CF
2CF
2OR
f2の基であり、R
f2はC
1~C
6パーフルオロアルキルである)を満たすパーフルオロオキシアルキルビニルエーテル;
からなる群から選択されるモノマー由来の繰り返し単位;並びに
c)式(I):
(式中、R
1、R
2、R
3のそれぞれは互いに等しいか又は異なり、独立して水素原子又はC
1~C
3炭化水素基であり、R
OHは、水素、又は少なくとも1個のヒドロキシル基を含むC
1~C
5炭化水素部分である)
の少なくとも1種の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)由来の繰り返し単位;
を含むフッ化ビニリデン(VDF)コポリマー[ポリマー(A)]であって、繰り返し単位b)及びc)の合計量が、ポリマー(A)の繰り返し単位の総モル数に対して、最大15モル%、好ましくは最大7モル%、より好ましくは最大4モル%である、フッ化ビニリデン(VDF)コポリマー[ポリマー(A)]である。
【0018】
第2の目的では、本発明は、ポリマー(A)の調製方法を提供する。
【0019】
第3の目的では、本発明は、ポリマー(A)のフィルムの作製方法を提供する。
【0020】
更なる目的では、本発明は、改善された屈曲寿命を特徴とするポリマー(A)のフィルムを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
用語「二フッ化ビニリデン由来の繰り返し単位」(一般的にフッ化ビニリデン、1,1-ジフルオロエチレン、VDFとも示される)は、式(I):
CF2=CH2の繰り返し単位を意味することが意図されている。
【0022】
式CF2=CFORf1を満たす好ましいパーフルオロアルキルビニルエーテルとしては、特に、Rf1がパーフルオロアルキル基-CF3(パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE))、-C2F5(パーフルオロエチルビニルエーテル(PEVE))、-C3F7(パーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE))、-C4F9、又は-C5F11基であるものが挙げられる。
【0023】
式CF2=CFOROFを満たす好ましいパーフルオロオキシアルキルビニルエーテル基としては、特に、ROFが式-CF2ORf2のパーフルオロオキシアルキル基であり、Rf2が-CF2CF3や-CF3などのC1~C3パーフルオロアルキル基であるものが挙げられる。
【0024】
本発明のポリマー(A)に含まれる(PAVE)モノマー由来の繰り返し単位は、より好ましくは、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)由来の繰り返し単位である。
【0025】
「少なくとも1種の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)」という用語は、ポリマー(A)が、上述したような1種以上の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)に由来する繰り返し単位を含み得ることを意味するものと理解される。本明細書の残りの部分においては、表現「親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)」及び「モノマー(MA)」は、本発明の目的のためには、複数形及び単数形の両方、すなわち1種と2種以上の両方の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)を指すものと理解される。
【0026】
式(II)の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)の非限定的な例としては、とりわけ:
- アクリル酸(AA)、
- (メタ)アクリル酸、
- ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(HEA)、
- 2-ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)、
- ヒドロキシエチルヘキシル(メタ)アクリレート、
及びそれらの混合物、
が挙げられる。
【0027】
親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)は、好ましくは、以下の式(II):
(式中、互いに等しいか若しくは異なる、R
1、R
2及びR
3のそれぞれは独立して、水素原子又はC
1~C
3炭化水素基である)
を満たす。
【0028】
更により好ましくは、親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)は、アクリル酸(AA)である。
【0029】
本発明者らは、ポリマー(A)が直鎖の半結晶性コポリマーである場合に最良の結果が得られることを見い出した。
【0030】
用語「直鎖」は、(VDF)モノマー、(メタ)アクリルモノマー、及びパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)由来の繰り返し単位の実質的に直鎖の配列からできているコポリマーを表すことが意図されており;そのためポリマー(A)は、グラフト及び/又は櫛型ポリマーとは区別される。
【0031】
ポリマー(A)中の繰り返し単位b)及びc)の合計量が、ポリマー(A)の繰り返し単位の総モル数に対して最大15モル%、好ましくは最大7モル%、より好ましくは最大4モル%である場合に、優れた結果が得られた。
【0032】
本発明の好ましい実施形態では、ポリマー(A)において、式(I)の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)由来の繰り返し単位は、ポリマー(A)の繰り返し単位の総モル数に対して0.05モル%~2モル%、好ましくは0.1~1.8モル%、より好ましくは0.2~1.5モル%の量で含まれる。
【0033】
(PAVE)モノマー由来の繰り返し単位は、好ましくは、ポリマー(A)の繰り返し単位の総モル数に対して0.05~10モル%、好ましくは0.1~7モル%、より好ましくは0.2~3.8モル%の量でポリマー(A)に含まれる。
【0034】
本発明のより好ましい実施形態では、ポリマー(A)において、式(I)の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)由来の繰り返し単位は、ポリマー(A)の繰り返し単位の総モル数に対して0.2~1.5モル%の量で含まれ、(PAVE)モノマー由来の繰り返し単位は、ポリマー(A)の繰り返し単位の総モル数に対して0.2~3.8モル%の量含まれる。
【0035】
ポリマー(A)中のモノマー(MA)、モノマー(PAVE)、及びVDFの繰り返し単位の平均モルパーセントの決定は、任意の適切な方法によって行うことができ、NMRが好ましい。
【0036】
本発明のポリマー(A)は、上で定義したパーフルオロアルキルビニルエーテルとは異なる1種以上のフッ素化コモノマー(F)由来の繰り返し単位を更に含んでいてもよい。
【0037】
「フッ素化コモノマー(F)」という用語は、少なくとも1個のフッ素原子を含むエチレン性不飽和コモノマーを意味することが本明細書では意図される。
【0038】
好適なフッ素化コモノマー(F)の非限定的な例としては、とりわけ、以下のものが挙げられる:
(a)C2~C8フルオロ及び/又はパーフルオロオレフィン、例えばテトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ペンタフルオロプロピレン、及びヘキサフルオロイソブチレン;
(b)C2~C8水素化モノフルオロオレフィン、例えばフッ化ビニリデン(VDF)、フッ化ビニル、1,2-ジフルオロエチレン、及びトリフルオロエチレン;
(c)式CH2=CH-Rf0(式中、Rf0は、C1~C6パーフルオロアルキル基である)のパーフルオロアルキルエチレン;
(d)クロロトリフルオロエチレン(CTFE)などのクロロ-、及び/又はブロモ-、及び/又はヨード-C2~C6フルオロオレフィン。
【0039】
1種以上のフッ素化コモノマー(F)が存在する場合、本発明のポリマー(A)は、前記フッ素化コモノマー(F)に由来する繰り返し単位を典型的には0.1~10モル%、好ましくは0.3~5モル%、より好ましくは0.5~3モル%含む。
【0040】
それにもかかわらず、ポリマー(A)が前記付加的なコモノマー(F)を含有しない実施形態が好ましい。
【0041】
本発明の好ましい実施形態では、親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)は式(II)の親水性(メタ)アクリルモノマーであり、更に好ましくは、これはアクリル酸(AA)であり、(PAVE)モノマーはPMVEであり、ポリマー(A)はVDF-AA-PMVEターポリマーである。
【0042】
本発明の好ましい実施形態では、25℃でジメチルホルムアミド中で測定されるポリマー(A)の固有粘度は、0.20l/g~0.60l/gの間、好ましくは0.25l/g~0.50l/gの間、より好ましくは0.25g/l~0.35g/lの間含まれる。
【0043】
好ましくは、25℃でジメチルホルムアミド中で測定されるポリマー(A)の固有粘度は、約0.30l/gである。
【0044】
本質的に以下のものからなるポリマー(A)を使用して、非常に優れた結果が得られた:
- ポリマー(A)の繰り返し単位の総モル数に対して0.2~1.5モル%のモノマー(MA)由来の繰り返し単位;及び
- ポリマー(A)の繰り返し単位の総モル数に対して0.2~3.8モル%の(PAVE)モノマー由来の繰り返し単位;及び
- 94.7重量%~99.6重量%、より好ましくは96.0重量%~98.3重量%のVDF由来の繰り返し単位。
【0045】
鎖末端、欠陥又は他の不純物タイプの部分がポリマー(A)中に含まれる場合があるが、これらはその性質を損なわないということは理解されたい。
【0046】
ポリマー(A)は、典型的には、例えば国際公開第2007/006645号パンフレット及び国際公開第2007/006646号パンフレットに記載されている手順に従って、VDFモノマー、少なくとも1種の水素化(メタ)アクリルモノマー(MA)、少なくとも1種のモノマー(PAVE)、及び任意選択的な少なくとも1種のコモノマー(F)を乳化重合又は懸濁重合することによって得られる。
【0047】
重合反応は、通常、25~150℃の温度で、最大130barの圧力で行われる。
【0048】
ポリマー(A)は、典型的には粉末の形態で供給される。
【0049】
本発明の方法は、モノマー(MA)がポリマー(A)のVDF骨格全体にわたって実質的にランダムに分布しているポリマー(A)を提供する。
【0050】
出願人は、驚くべきことに、VDFを親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)とパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)の両方由来の繰り返し単位と組み合わせると、重合の生産性が大幅に改善され、ポリマー(A)がより短い時間で得られることを見出した。
【0051】
重合時間が長くなると、少なくとも懸濁液中で重合する場合には、反応器がより汚れることが知られており、これは、工業化が行われる際に重要な問題である。
【0052】
実施例で提供されるデータは、上で規定した(MA)モノマー及び(PAVE)モノマー由来の繰り返し単位を導入すると、(PAVE)モノマー由来の繰り返し単位が存在しない重合と比較して重合の生産性を改善しながらも、VDFに基づくポリマーの可撓性(屈曲寿命)を最適化できることをよく実証している。
【0053】
ポリマー(A)の可撓性フィルムは、ポリマー(A)を処理することによって得ることができ、前記フィルムは、低温で動的屈曲を受ける製品などの、極めて優れた可撓性が要求される用途で使用するのに十分な可撓性を有する。
【0054】
したがって、本発明の別の目的では、ポリマー(A)のフィルムが提供され、前記フィルムは、改善された屈曲寿命を特徴とする。
【0055】
本発明において、可撓性フィルムなどの「可撓性」製品は、形状変化を生じさせるために手で力を加えるだけで調整可能な形状を有する固体の非剛性物体である。
【0056】
適切には、ポリマー(A)のフィルムは、5~500マイクロメートルに含まれる厚さを有する。
【0057】
ポリマー(A)のフィルムは、ポリマー(A)を含む組成物を不活性支持体上にキャストすることによって、又は不活性支持体の2つの箔の間で少なくとも200℃の温度でポリマー(A)を圧縮成形することによって、ポリマー(A)を処理することにより作製することができる。
【0058】
本発明のポリマー(A)中の親水性(メタ)アクリルモノマーとパーフルオロアルキルビニルエーテルモノマー由来の両方の繰り返し単位の存在が、VDFに基づくコポリマーの金属への接着の改善にも関連することが見出された。
【0059】
好ましい実施形態では、ポリマー(A)のフィルムは、ポリイミドの2つの箔の間で約250℃の温度で圧縮成形することにより作製することができる。
【0060】
参照により本明細書中に組み込まれている任意の特許、特許出願、及び公開資料の開示が、これがある用語を不明確とし得る程度まで本出願の記載と対立する場合、本記載が優先するものとする。
【0061】
本発明をこれから以下の実施例を参照してより詳細に説明するが、その目的は例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0062】
原料
ポリマー(C1):25℃のDMF中で0.30l/gの固有粘度を有するVDF-AA(1.0モル%)ポリマー。
ポリマー(A-1):25℃のDMF中で0.294l/gの固有粘度を有するVDF-AA(1.0モル%)-PMVE(1.7モル%)ポリマー。
ポリマー(A-2):25℃のDMF中で0.31l/gの固有粘度を有するVDF-AA(0.9モル%)-PMVE(0.6モル%)ポリマー。
開始剤:イソドデカン中のt-アミル-ペルピバレート(イソドデカン中のt-アミルペルピバレートの75重量%溶液)、Arkemaから市販。
懸濁剤(B):Alcotex AQ38、Alcotex 80の38g/l水溶液:80%加水分解された高分子量ポリビニルアルコール、SYNTHOMERから市販。
【0063】
ポリマー(A)の固有粘度の測定
固有粘度(η)[dl/g]は、Ubbelhode粘度計を用い、ポリマー(A)を約0.2g/dlの濃度でN,N-ジメチルホルムアミドに溶解させることによって得られた溶液の、25℃での滴下時間に基づいて、以下の式:
(式中、cは、ポリマー濃度[g/dl]であり、η
rは、相対粘度、即ち、試料溶液の滴下時間と、溶媒の滴下時間との間の比であり、η
spは、比粘度、即ち、η
r-1であり、Γは、ポリマー(F)については3に相当する実験因子である)
を用いて測定した。
【0064】
DSC分析
DSC分析は、ASTM D 3418規格に従って行った;融点(Tf2)は10℃/分の加熱速度で決定した。
【0065】
実施例1:ポリマー(A)及び(C1)の調製のための基本手順:
650rpmの速度で作動するインペラーを備えた4リットルの反応器に、脱塩水及び1.5g/kgのMni(設定点温度の前に反応器に添加される初期のモノマー)の懸濁剤をこの順序で入れた。反応器を、11℃で一連の真空(30mmHg)でパージし、窒素をパージした。その後、5.0gの開始剤を入れた。880rpmの速度で、アクリル酸(AA)及びパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)を入れた。最後に、フッ化ビニリデン(VDF)を反応器に入れた。本発明のポリマー(A)の調製に使用されるポリマー(A)(及び比較ポリマー(C1))中のAA、PMVE、及びVDFの量は、表1に報告されている。反応器を55℃の設定点温度まで徐々に加熱し、圧力を120バールに固定した。重合中、表Bに記載されているAA濃度のアクリル酸水溶液を供給することにより、圧力を120バールに一定に保った。この供給後、それ以上の水溶液は導入されず、圧力は低下し始めた。大気圧に達するまで反応器を脱気することによって重合を止めた。表Aに記載の通りのモノマーの変換率に到達した。その後、このようにして得たポリマーを回収し、脱塩水で洗浄し、65℃で一晩中乾燥した。
【0066】
【0067】
表2には、重合の時間及び収率、並びに得られたポリマーの特性が報告されている。
【0068】
【0069】
実施例2:フィルム作製の基本手順
ポリマーを240℃の温度で2枚のアルミニウム箔の間で圧縮成形して、約300ミクロンの厚さのフィルムを製造した。
【0070】
実施例3:ポリマー(A)のM.I.T.屈曲寿命の測定
実施例1に記載の通りに作製したポリマーのフィルムを、M.I.T機(Tinius Olsen,testing machine Co,Willow Growe,(PA)からの折り畳み耐久性試験機)で、2ポンドの重量を用いて23℃で90サイクル/分の速度で試験した。サンプルが壊れた時に試験が終了したとみなした。
【0071】
MIT屈曲寿命の値は、各ポリマーについて少なくとも3枚のフィルムを試験することによって得られた値の平均である。
【0072】
表3には、3種のポリマーC1、A-1、及びA-2の屈曲寿命のデータが報告されている。
【0073】
【0074】
表3に示されているように、ポリマー(A-1)及び(A-2)のいずれかによって特に具体化される本発明のポリマー(A)は、有利なことには比較ポリマー(C1)と比較して大きい屈曲寿命を示す。
【0075】
上述した観点から、本発明のポリマー(A)又はその任意のフィルムは、極めて優れた可撓性が必要とされる用途における使用に特に適していることが判明した。