(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】カチオン電着塗料組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 163/00 20060101AFI20240801BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240801BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20240801BHJP
C09D 175/00 20060101ALI20240801BHJP
C08G 18/50 20060101ALI20240801BHJP
C08G 18/80 20060101ALI20240801BHJP
C08L 75/08 20060101ALI20240801BHJP
C08L 47/00 20060101ALI20240801BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20240801BHJP
C25D 9/02 20060101ALI20240801BHJP
C23F 11/00 20060101ALI20240801BHJP
C25D 13/00 20060101ALN20240801BHJP
【FI】
C09D163/00
C09D7/63
C09D7/65
C09D175/00
C08G18/50 021
C08G18/80
C08L75/08
C08L47/00
C23C28/00 Z
C25D9/02
C23F11/00 C
C25D13/00 308Z
(21)【出願番号】P 2021028612
(22)【出願日】2021-02-25
【審査請求日】2023-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】593135125
【氏名又は名称】日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】中島 沙理
(72)【発明者】
【氏名】乗松 祐輝
(72)【発明者】
【氏名】岩橋 祐斗
(72)【発明者】
【氏名】印部 俊雄
【審査官】井上 莉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-214234(JP,A)
【文献】特開2008-297591(JP,A)
【文献】特開2015-193684(JP,A)
【文献】特開2020-189920(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0173216(US,A1)
【文献】国際公開第2012/008269(WO,A1)
【文献】特開昭60-220197(JP,A)
【文献】国際公開第99/021901(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
C08G
C08L
C23C
C25D
C23F 11/00
C25D 13/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミン化エポキシ樹脂、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤およびN置換ジアリルアミンセグメントを有するポリアミン重合体を含有するカチオン電着塗料組成物
であって、
前記ポリアミン重合体が、下記式(1):
【化1】
(式中、pおよびqはいずれも0または1を示し、pが1の時にはqは0で、pが0の時にはqは1である。R
1
は、同一または異なって、水酸基を有してもよい炭素数1~10のアルキル基または炭素数7~10のアラルキル基を示す。)
で表されるN置換ジアリルアミンセグメントまたはその酸付加塩を有する、カチオン電着塗料組成物。
【請求項2】
前記ポリアミン重合体が、N-置換ジアリルアミンセグメントを30~100モル%の量で含有する、請求項1記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項3】
前記N置換ジアリルアミンセグメントが、下記式(2):
【化2】
(式中、pおよびqは前記と同意義である。R
2は、同一または異なって、水酸基を有してもよい炭素数1~10のアルキル基または炭素数7~10のアラルキル基を示し、R
3は、同一または異なって、炭素数1~4のアルキル基または炭素数7~10アラルキル基を表し、D
-は、一価の陰イオンを示す。)
で表される第四級アンモニウム塩構造を有する、請求項
1記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項4】
前記ポリアミン重合体が、カチオン電着塗料組成物中に塗料固形分に対して10~5000ppmの量で存在する、請求項1~
3のいずれか1項に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のカチオン電着塗料組成物を塗装硬化したカチオン電着塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン電着塗料組成物、特に防食性を改善したカチオン電着塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン電着塗料は、自動車などの工業製品に防食性を付与するために下塗り塗料として多用されているもので、アミン化エポキシ樹脂およびブロック化ポリイソシアネート硬化剤を含むものである。カチオン電着塗料は、元々防食性を付与するために塗装されるものであるが、防食性をより高くする試みは常になされている。
【0003】
特許6099139号公報(特許文献1)には、カチオン電着塗料組成物に一級アミノ基を有するポリアミン重合体を配合したものが開示されている。このカチオン電着塗料組成物は、つきまわり性と防食性が良い効果を有する。しかし、この特許では、防食性について、ソルトスプレー試験だけで評価しているが、より高い腐食試験であるサイクル腐食試験では必ずしも十分な性能を達成できないことが解っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明では、より高い防食性、特にサイクル腐食試験でも良好な性能を示すカチオン電着塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち、本発明は以下の態様を提供する:
[1]
アミン化エポキシ樹脂、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤およびN置換ジアリルアミンセグメントを有するポリアミン重合体を含有するカチオン電着塗料組成物。
[2]
前記ポリアミン重合体が、N-置換ジアリルアミンセグメントを30~100モル%の量で含有する、[1]のカチオン電着塗料組成物。
[3]
前記ポリアミン重合体が、下記式(1):
【化1】
(式中、pおよびqはいずれも0または1を示し、pが1の時にはqは0で、pが0の時にはqは1である。R
1は、同一または異なって、水酸基を有してもよい炭素数1~10のアルキル基または炭素数7~10のアラルキル基を示す。)
で表されるN置換ジアリルアミンセグメントまたはその酸付加塩を有する、[1]または[2]のカチオン電着塗料組成物。
[4]
前記N置換ジアリルアミンセグメントが、下記式(2):
【化2】
(式中、pおよびqは前記と同意義である。R
2は、同一または異なって、水酸基を有してもよい炭素数1~10のアルキル基または炭素数7~10のアラルキル基を示し、R
3は、同一または異なって、炭素数1~4のアルキル基または炭素数7~10アラルキル基を表し、D
-は、一価の陰イオンを示す。)
で表される第四級アンモニウム塩構造を有する、[3]のカチオン電着塗料組成物。
[5]
前記ポリアミン重合体が、カチオン電着塗料組成物中に塗料固形分に対して10~5000ppmの量で存在する、[1]~[4]のいずれかに記載のカチオン電着塗料組成物。
[6]
[1]~[5]のいずれかに記載のカチオン電着塗料組成物を塗装硬化したカチオン電着塗膜。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、N置換ジアリルアミンセグメントを有するポリアミン重合体をカチオン電着塗料組成物に少量添加することにより、より高い防食性、特にいわゆるソルトスプレー腐食試験(「SST」と呼ぶこともある。)よりも高い防食性能を測定するサイクル腐食試験(「CCT」と呼ぶこともある。)でも、高い防食性を付与することができるカチオン電着塗料組成物を提供すること可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、アミン化エポキシ樹脂、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤およびN置換ジアリルアミンセグメントを有するポリアミン重合体を含有するカチオン電着塗料組成物を提供する。それぞれの要件について説明する。
【0009】
<アミン化エポキシ樹脂>
アミン化エポキシ樹脂は電着塗膜を構成する塗膜形成樹脂である。アミン化エポキシ樹脂として、エポキシ樹脂骨格中のオキシラン環(「エポキシ基」とも言う。)を、アミン化合物で変性して得られるものをいう。一般にアミン変性エポキシ樹脂は、出発原料樹脂分子内のオキシラン環を、1級アミン、2級アミンあるいは3級アミンおよび/またはその酸塩などのアミン化合物との反応によって開環して調製される。出発原料樹脂の典型例は、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フェノールノボラック、クレゾールノボラックなどの多環式フェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応生成物であるポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂である。また他の出発原料樹脂の例として、特開平5-306327号公報に記載のオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂を挙げることができる。これらのエポキシ樹脂は、ジイソシアネート化合物、またはジイソシアネート化合物のイソシアネート基をメタノール、エタノールなどの低級アルコールでブロックして得られたビスウレタン化合物と、エピクロルヒドリンとの反応によって調製することができる。
【0010】
上記出発原料樹脂は、アミン化合物によるオキシラン環の開環反応の前に、2官能性のポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ビスフェノール類、2塩基性カルボン酸などにより鎖延長して用いることができる。
【0011】
また、アミン化合物によるオキシラン環の開環反応の前に、分子量またはアミン当量の調節、熱フロー性の改良などを目的として、一部のオキシラン環に対して2-エチルヘキサノール、ノニルフェノール、エチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテルなどのモノヒドロキシ化合物またはオクチル酸などのモノカルボン酸化合物を付加して用いることもできる。
【0012】
上記エポキシ樹脂のオキシラン環とアミン化合物とを反応させることによって、アミン変性エポキシ樹脂が得られる。オキシラン環と反応させるアミン化合物として、1級アミンおよび2級アミンが挙げられる。エポキシ樹脂と2級アミンとを反応させると、3級アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂が得られる。また、エポキシ樹脂と1級アミンとを反応させると、2級アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂が得られる。さらに、ブロックされた1級アミンを有する2級アミンを用いることにより、1級アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂を調製することができる。例えば、1級アミノ基および2級アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂の調製は、エポキシ樹脂と反応させる前に、1級アミノ基をケトンでブロック化してケチミンにしておいて、これをエポキシ樹脂に導入した後に脱ブロック化することによって調製することができる。なお、オキシラン環と反応させるアミンとして、必要に応じて、3級アミンを併用してもよい。
【0013】
上記アミノ化合物としては、例えば、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、トリエチルアミン、N,N-ジメチルベンジルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミンなどの1級アミン、2級アミンまたは3級アミンおよび/もしくはその酸塩が挙げられる。また、ブロックされた1級アミンを有する2級アミンの具体例として、例えば、アミノエチルエタノールアミンのケチミン、ジエチレントリアミンのジケチミンなどが挙げられる。また、必要に応じて用いてもよい3級アミンの具体例として、例えば、トリエチルアミン、N,N-ジメチルベンジルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミンなどが挙げられる。これらのアミン類は1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
上記エポキシ樹脂のオキシラン環と反応させるアミン化合物は、2級アミンが50~95質量%、ブロックされた1級アミンを有する2級アミンが0~30質量%、1級アミンが0~20質量%の量範囲で含むものが好ましい。
【0015】
アミン化エポキシ樹脂の数平均分子量は、1,000~5,000の範囲であるのが好ましい。数平均分子量が1,000以上であることにより、得られる硬化電着塗膜の耐溶剤性および耐食性などの物性が良好となる。一方で、数平均分子量が5,000以下であることにより、アミン化エポキシ樹脂の粘度調整が容易となって円滑な合成が可能となり、また、得られたアミン化エポキシ樹脂の乳化分散の取扱いが容易になる。アミン化エポキシ樹脂の数平均分子量は2,000~3,500の範囲であるのがより好ましい。
【0016】
本発明のアミン化エポキシ樹脂のアミン価は、100~200(meq/固形分100g)の範囲内であるのが好ましい。アミン化エポキシ樹脂のアミン価が100(meq/固形分100g)より少ないと、中和点が減少し経時安定性低下の欠点を有する。一方で、アミン価が200(meq/固形分100g)を超えると、親水性が高くなり遮断性低下の欠点を有する。アミン化エポキシ樹脂のアミン価は、好ましくは130~190(meq/固形分100g)、より好ましくは150~180の範囲内である。
【0017】
アミン化エポキシ樹脂の水酸基価は、150~650mgKOH/gの範囲内であるのが好ましい。水酸基価が150以上であることにより、硬化電着塗膜において硬化が良好となり、塗膜外観も向上する。一方で、水酸基価が650以下であることにより、硬化電着塗膜中に残存する水酸基の量が適正となり、塗膜の耐水性を低下させるおそれがなくなる。アミン化エポキシ樹脂の水酸基価は、150~400mgKOH/gの範囲内であるのがより好ましい。
【0018】
<ブロック化ポリイソシアネート硬化剤>
ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(以下、単に「硬化剤」ということがある)は、電着塗膜を構成する塗膜形成樹脂である。ブロック化ポリイソシアネート硬化剤は、ポリイソシアネートを、封止剤でブロック化することによって調製することができる。
【0019】
ポリイソシアネートの例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(3量体を含む)、テトラメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)などの脂環式ポリイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートが挙げられる。
【0020】
封止剤の例としては、n-ブタノール、n-ヘキシルアルコール、2-エチルヘキサノール、ラウリルアルコール、フェノールカルビノール、メチルフェニルカルビノールなどの一価のアルキル(または芳香族)アルコール類;エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテルなどのセロソルブ類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールフェノールなどのポリエーテル型両末端ジオール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオールなどのジオール類と、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸などのジカルボン酸類から得られるポリエステル型両末端ポリオール類;パラ-t-ブチルフェノール、クレゾールなどのフェノール類;ジメチルケトオキシム、メチルエチルケトオキシム、メチルイソブチルケトオキシム、メチルアミルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム類;およびε-カプロラクタム、γ-ブチロラクタムに代表されるラクタム類が好ましく用いられる。
【0021】
ブロック化ポリイソシアネート硬化剤のブロック化率は100%であるのが好ましい。これにより、電着塗料組成物の貯蔵安定性が良好になるという利点がある。
【0022】
ブロック化ポリイソシアネート硬化剤は、脂肪族ジイソシアネートを封止剤でブロック化することによって調製された硬化剤と、芳香族ジイソシアネートを封止剤でブロック化することによって調製された硬化剤とを併用することが好ましい。
【0023】
ブロック化ポリイソシアネート硬化剤は、アミン化エポキシ樹脂の1級アミンと優先的に反応し、さらに水酸基と反応して硬化する。硬化剤としては、メラミン樹脂またはフェノール樹脂などの有機硬化剤、シランカップリング剤、金属硬化剤からなる群から選ばれる少なくとも一種の硬化剤を、ブロックイソシアネート硬化剤と併用してもよい。
【0024】
<ポリアミン重合体>
本発明では、カチオン電着塗料組成物に特定の基を有するポリアミン重合体を配合することで、防錆性が更に向上する。ポリアミン重合体は、N置換ジアリルアミンセグメントを有する必要がある。N置換ジアリルアミンセグメントは、具体的には、下記式(1):
【化3】
(式中、pおよびqはいずれも0または1を示し、pが1の時にはqは0で、pが0の時にはqは1である。R
1は、同一または異なって、水酸基を有してもよい炭素数1~10のアルキル基または炭素数7~10のアラルキル基を示す。)
で表される。
【0025】
上記化学式(1)は、より具体的には、以下の2種類に表すことができる:
【化4】
(式中、R
1は、前記と同意義。)
で表されるものをいう。化学式(1-1)が、化学式(1)でpが0でqが1の場合を示し、化学式(1-2)が化学式(1)でpが1でqが0の場合を示す。化学式(1-1)と(1-2)は、ポリアミン重合体中に混在していても良い。
【0026】
N置換ジアリルアミンセグメント中のジアリルアミンは、以下の式:
【化5】
を有する化合物であり、ジアリルアミンの窒素原子に結合する水素をR
1で置換して、以下の式:
【化6】
(式中、R
1は前記と同意義である。)
を有するN置換ジアリルアミンから、本発明のN置換ジアリルアミンセグメントを有するポリアミン重合体を形成する。
【0027】
N置換ジアリルアミンセグメントの置換基R1は、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基または炭素数7~10のアラルキル基である。水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基は直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、このようなものとしては、水酸基を有していてもよい炭素数1~4のアルキル基、具体的にはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基、2-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシプロピル基、3-ヒドロキシプロピル基などを、さらにはシクロヘキシル基を好ましく挙げることができる。また、炭素数7~10のアラルキル基の例としては、ベンジル基、フェネチル基などを好ましく挙げることができる。これらの中でも、水素原子、メチル基、エチル基、ベンジル基が特に好ましい。
【0028】
前記式(1-1)、(1-2)で表される構成単位の酸付加塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩、亜硫酸塩、リン酸塩、アミド硫酸塩、メタンスルホン酸塩などが挙げられる。これらの中でも、塩酸塩、臭化水素酸塩、酢酸塩が特に好ましい。
【0029】
前記N置換ジアリルアミンセグメントは、以下化学式(2):
【化7】
(式中、pおよびqは前記と同意義である。R
2は、同一または異なって、水酸基を有してもよい炭素数1~10のアルキル基または炭素数7~10のアラルキル基を示し、R
3は、同一または異なって、炭素数1~4のアルキル基または炭素数7~10アラルキル基を表し、D
-は、一価の陰イオンを示す。)
であらわされる第四級アンモニウム塩構造を有してもよい。
【0030】
上記化学式(2)は、より具体的には、以下の2種類に表すことができる:
【化8】
(式中、R
2およびD
-は、前記と同意義。)
で表される第四級アンモニウム塩構造を有する。化学式(2-1)が、化学式(2)でpが0でqが1の場合を示し、化学式(2-2)が化学式(2)でpが1でqが0の場合を示す。化学式(2-1)と(2-2)は、ポリアミン重合体中に混在していても良い。
【0031】
上記式(2-1)、(2-2)におけるR2は、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基または炭素数7~10のアラルキル基を示す。これらは前記R1で説明したとおりである。R3は炭素数1~4のアルキル基または炭素数の7~10のアラルキル基、Dーは一価の陰イオンを示す。
【0032】
前記R3のうちの炭素数1~4のアルキル基は直鎖状、分岐状のいずれであってもよく、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基が挙げられる。炭素数7~10のアラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基などが挙げられる。D-で表される一価の陰イオンとしては、例えばハロゲンイオン、メチルサルフェートイオンなどを挙げることができる。
【0033】
第四級アンモニウム塩構成単位の部分構造(一般式(2-1)および一般式(2-2)において、>N+R2R3・D-で表される部分構造)の具体例としては、N,N-ジメチルアンモニウムクロリド、N,N-ジエチルアンモニウムクロリド、N,N-ジプロピルアンモニウムクロリド、N,N-ジブチルアンモニウムクロリド、N-メチル-N-ベンジルアンモニウムクロリド、N-エチル-N-ベンジルアンモニウムクロリド、およびこれらのクロリド類に対応するブロミド類、ヨージド類、メチルサルフェート類などを挙げることができる。中でも、N,N-ジメチルアンモニウムクロリド、N-メチル-N-ベンジルアンモニウムクロリドが好ましい。
【0034】
本発明において、ポリアミン重合体としては、前記N置換ジアリルアミンセグメントの含有量が、好ましくは30~100モル%、より好ましくは50~100モル%である。前記N置換ジアリルアミンセグメントは、100モル%であってもよいが、その他の部分構造としては、例えば以下に示すアリルアミンセグメントであってもよい:
【化9】
この構造は、アリルアミン(NH
2-CH
2-CH=CH
2)をモノマーとして用いることにより導入することができる。
【0035】
本発明で用いるポリアミン重合体は、モノマーを極性溶媒中において、ラジカル開始剤の存在下にラジカル重合させることにより得られる。
【0036】
上記極性溶媒としては、例えば水、無機酸(塩酸、硫酸、リン酸、ポリリン酸など)またはその水溶液、無機酸の金属塩(塩化亜鉛、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなど)の水溶液、有機酸(ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸など)またはその水溶液、あるいは極性有機溶媒(アルコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなど)等を挙げることができるが、これらの混合物でもよい。また、これらの中で水系溶媒が好ましい。
【0037】
また、ラジカル開始剤としては、例えば分子中にアゾ基を有する水溶性ラジカル開始剤(以下、水溶性アゾ系開始剤と称すことがある。)や過硫酸塩系ラジカル開始剤を好ましく用いることができる。なお、本発明では、ラジカル開始剤として過硫酸塩系ラジカル開始剤が特に好ましい。
【0038】
前記の分子中にアゾ基を有する水溶性ラジカル開始剤としては、分子中にアゾ基とカチオン性窒素をもつ基とを有するラジカル重合開始剤が好ましく、具体的には2,2′-ジアミジニル-2,2′-アゾプロパン・塩酸塩[2,2′-アゾビス(2-アミジノプロパン)塩酸塩]、2,2′-ジアミジニル-2,2′-アゾブタン・塩酸塩、2,2′-ジアミジニル-2,2′-アゾペンタン・塩酸塩、2,2′-ビス(N-フェニルアミジニル)-2,2′-アゾプロパン・塩酸塩、2,2′-ビス(N-フェニルアミジニル)-2,2′-アゾブタン・塩酸塩、2,2′-ビス(N,N-ジメチルアミジニル)-2,2′-アゾプロパン・塩酸塩、2,2′-ビス(N,N-ジメチルアミジニル)-2,2′-アゾブタン・塩酸塩、2,2′-ビス(N,N-ジエチルアミジニル)-2,2′-アゾプロパン・塩酸塩、2,2′-ビス(N,N-ジエチルアミジニル)-2,2′-アゾブタン・塩酸塩、2,2′-ビス(N-ジn-ブチルアミジニル)-2,2′-アゾプロパン・塩酸塩、2,2′-ビス(N-ジn-ブチルアミジニル)-2,2′-アゾブタン・塩酸塩、3,3′-ビス(N,N-ジn-ブチルアミジニル)-3,3′-アゾペンタン・塩酸塩、アゾ-ビス-N,N′-ジメチレンイソブチルアミジン・塩酸塩;2,2′-アゾ-ビス(2-メチル-4-ジエチルアミノ)-ブチロニトリル・塩酸塩、2,2′-アゾ-ビス(2-メチル-4-ジメチルアミノ)-ブチロニトリル・塩酸塩、2,2′-アゾ-ビス(2-メチル-4-ジエチルアミノ)-ブチロニトリル・塩酸塩、2,2′-アゾ-ビス(2-メチル-4-ジエチルアミノ)-ブチロニトリルまたは2,2′-アゾ-ビス(2-メチル-4-ジメチルアミノ)-ブチロニトリルを、ジメチル硫酸またはp-トルエンスルホン酸メチルなどで四級化して得た第4アンモニウム塩型アゾニトリル;3,5-ジアミジニル-1,2-ジアゾ-1-シクロペンテン・塩酸塩、3-メチル-3,4-ジアミジニル-1,2-ジアゾ-1-シクロペンテン・塩酸塩、3-エチル-3,5-ジアミジニル-1,2-ジアゾ-1-シクロペンテン・塩酸塩、3,5-ジメチル-3,5-ジアミジニル-1,2-ジアゾ-1-シクロペンテン・塩酸塩、3,6-ジアミジニル-1,2-ジアゾ-1-シクロヘキセン・塩酸塩、3-フェニル-3,5-ジアミジニル-1,2-ジアゾ-1-シクロペンテン・塩酸塩、3,5-ジフェニル-3,5-ジアミジニル-1,2-ジアゾ-1-シクロペンテン・塩酸塩などが挙げられる。塩酸塩の場合、二塩酸塩でもよい。
【0039】
また、水溶性アゾ系開始剤として、2,2′-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]が使用できる。さらに、水溶性アゾ系開始剤として、2,2′-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]塩酸塩、2,2′-アゾビス(2-メチルブタンアミドキシム)塩酸塩なども好ましく用いることができる。これらの水溶性アゾ系開始剤としては、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
過硫酸塩系ラジカル開始剤としては、例えば過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムなどが挙げられ、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み
合わせて用いてもよい。
【0041】
また、その他のラジカル開始剤として、通常ラジカル重合に用いられる触媒、例えばベンゾイルパーオキシド、ジ-tert-ブチルパーオキシド、tert-ブチルヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、アスカリドールなどの有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソ酪酸アミドなどの有機アゾ化合物、さらには各種レドックス系触媒なども用いることができる。
【0042】
重合反応は、前述の極性溶媒中において常法に従って行われるが、重合が進行するに伴い生成した共重合体が沈殿してくる場合もある。ただし、水系溶媒中で重合を行う場合には、モノマーの種類や濃度によって、最後まで共重合体が析出してこない場合もある。
【0043】
生成した重合体は、そのままろ別されるか、または適当な溶媒によって沈殿させ、ろ別される。しかし、水系溶媒中で重合させた場合には、そのまま実用に供せられる場合もある。
【0044】
本発明のカチオン電着塗料組成物では、前記ポリアミン重合体が、カチオン電着塗料組成物中に塗料固形分に対して10~5000ppmの量で存在するのが好ましい。10ppmより少ないと、ポリアミン重合体の添加の効果が得られない。5000ppmより多いと、外観不良や耐水性の低下の欠点を有する。
【0045】
本発明のカチオン電着塗料組成物では、ポリアミン重合体を添加することにより、より高い防錆性が得られる。より高い防錆性は、ソルトスプレー試験(SST)だけではなく、サイクル腐食試験でも高い防錆性を付与することができる。N置換ジアリルアミンセグメントを含有するポリアミン重合体の添加が何故高い防錆性を付与することができるのかは、まだよく解っていないが、N置換ジアリルアミンセグメントが電着塗装時の電気泳動で金属表面に移行し、N置換ジアリルアミンセグメント以外の部分が非極性基となって、腐食因子が金属表面に移行または侵入するのを防ぐものと考えることができる。
【0046】
ポリアミン重合体は、カチオン電着塗料組成物中に添加する方法は特に限定されず、塗料を混合調製する時点で添加してもよく、また下記の樹脂エマルションの調製時に添加してもよい。好ましくは、カチオン電着塗料組成物を撹拌調製している時点に添加する。
【0047】
<樹脂エマルションの調製>
樹脂エマルションは、アミン化エポキシ樹脂およびブロック化ポリイソシアネート硬化剤それぞれを有機溶媒中に溶解させて、溶液を調製し、これらの溶液を混合した後、中和酸を用いて中和し、脱イオン水で希釈することにより、樹脂エマルションを調製することができる。中和酸として、例えば、メタンスルホン酸、スルファミン酸、乳酸、ジメチロールプロピオン酸、ギ酸、酢酸などの有機酸が挙げられる。本発明においては、アミン化エポキシ樹脂および硬化剤を含む樹脂エマルションを、ギ酸、酢酸および乳酸からなる群から選択される1種またはそれ以上の酸によって中和するのがより好ましい。
【0048】
樹脂エマルションの固形分量は、通常、樹脂エマルション全量に対して25~50質量%、特に35~45質量%であるのが好ましい。ここで「樹脂エマルションの固形分」とは、樹脂エマルション中に含まれる成分であって、溶媒の除去によっても固形となって残存する成分全ての質量を意味する。具体的には、樹脂エマルション中に含まれる、アミン化エポキシ樹脂、硬化剤および必要に応じて添加される他の固形成分の質量の総量を意味する。
【0049】
中和酸は、アミン化エポキシ樹脂が有するアミノ基の当量に対する中和酸の当量比率として、10~100%となる量で用いるのがより好ましく、20~70%となる量で用いるのがさらに好ましい。本明細書において、アミン化エポキシ樹脂が有するアミノ基の当量に対する中和酸の当量比率を、中和率とする。中和率が10%以上であることにより、水への親和性が確保され、水分散性が良好となる。
【0050】
<顔料分散ペースト>
本発明のカチオン電着塗料組成物は、必要に応じて顔料分散ペーストを含んでもよい。顔料分散ペーストは、電着塗料組成物中に任意に含まれる成分であり、一般に顔料分散樹脂および顔料を含む。
【0051】
顔料分散樹脂
顔料分散樹脂は、顔料を分散させるための樹脂であり、水性媒体中に分散されて使用される。顔料分散樹脂として、4級アンモニウム基、3級スルホニウム基および1級アミノ基から選択される少なくとも1種またはそれ以上を有する変性エポキシ樹脂などの、カチオン基を有する顔料分散樹脂を用いることができる。顔料分散樹脂の具体例として、例えば4級アンモニウム基含有エポキシ樹脂、3級スルホニウム基含有エポキシ樹脂などが挙げられる。水性溶媒としてはイオン交換水または少量のアルコール類を含む水などを用いる。
【0052】
顔料
顔料は、電着塗料組成物において一般的に用いられる顔料である。顔料として、例えば、通常使用される無機顔料および有機顔料、例えば、チタンホワイト(二酸化チタン)、カーボンブラックおよびベンガラのような着色顔料;カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカおよびクレーのような体質顔料;リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、トリポリリン酸アルミニウム、およびリンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛のような防錆顔料など、が挙げられる。
【0053】
顔料分散ペーストの製造
顔料分散ペーストは、顔料分散樹脂および顔料を混合して調製される。顔料分散ペースト中の顔料分散樹脂の含有量は特に限定されないが、例えば、顔料100質量部に対して樹脂固形分比で20~100質量部となる量で用いることができる。
【0054】
顔料分散ペーストの固形分量は通常、顔料分散ペースト全量に対して40~70質量%、特に50~60質量%であるのが好ましい。
【0055】
本明細書中において「顔料分散ペーストの固形分」とは、顔料分散ペースト中に含まれる成分であって、溶媒の除去によっても固形となって残存する成分全ての質量を意味する。具体的には、顔料分散ペースト中に含まれる、顔料分散樹脂および顔料および必要に応じて添加される他の固形成分の質量の総量を意味する。
【0056】
<カチオン電着塗料組成物の製造>
本発明のカチオン電着塗料組成物は、アミン化エポキシ樹脂およびブロック化ポリイソシアネート硬化剤を含む樹脂エマルション、そして顔料分散ペーストおよび添加剤などを、通常用いられる方法により混合することによって、調製することができる。本発明では、前述のように、N置換ジアリルアミンセグメントを有するポリアミン重合体も樹脂エマルションに添加される。ポリアミン重合体を添加することにより、高い防錆性、特にサイクル腐食試験でも優れた防錆性を提供することを特徴としている。
【0057】
本明細書中において「電着塗料組成物の固形分」とは、電着塗料組成物中に含まれる成分であって、溶媒の除去によっても固形となって残存する成分全ての質量を意味する。具体的には、電着塗料組成物中に含まれる、アミン化エポキシ樹脂、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤、そして必要に応じて含まれる顔料分散樹脂、顔料、他の固形成分の固形分質量の総量を意味する。
【0058】
本発明のカチオン電着塗料組成物の固形分量は、電着塗料組成物全量に対し、1~30質量%であるのが好ましい。カチオン電着塗料組成物の固形分量が1質量%未満である場合は、電着塗膜析出量が少なくなり、十分な耐食性を確保することが困難となるおそれがある。またカチオン電着塗料組成物の固形分量が30質量%を超える場合は、つきまわり性または塗装外観が悪くなるおそれがある。
【0059】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、pHが4.5~7であることが好ましい。カチオン電着塗料組成物のpHが4.5未満である場合は、カチオン電着塗料組成物中に存在する酸の量が過剰量となり、塗膜外観または塗装作業性が劣ることとなるおそれがある。一方で、pHが7を超える場合は、カチオン電着塗料組成物のろ過性が低下し、硬化電着塗膜の水平外観が低下する場合がある。カチオン電着塗料組成物のpHは、用いる中和酸の量、遊離酸の添加量などの調整によって、上記範囲に設定することができる。上記pHは、5~7であるのがより好ましい。
【0060】
カチオン電着塗料組成物のpHは、温度補償機能を有する市販のpHメーターを用いて測定することができる。
【0061】
カチオン電着塗料組成物の固形分100gに対する酸のミリグラム当量(MEQ(A))は40~120であるのが好ましい。なお、カチオン電着塗料組成物の樹脂固形分100gに対する酸のミリグラム当量(MEQ(A))は、中和酸量および遊離酸の量によって調整することができる。
【0062】
ここでMEQ(A)とは、mg equivalent(acid)の略であり、塗料の固形分100g当たりのすべての酸のmg当量の合計である。このMEQ(A)は、電着塗料組成物の固形分を約10g精秤し約50mlの溶剤(THF:テトラヒドロフラン)に溶解した後、1/10NのNaOH溶液を用いて電位差滴定を行うことによって、カチオン電着塗料組成物中の含有酸量を定量して測定することができる。
【0063】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、塗料分野において一般的に用いられている添加剤、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテルなどの有機溶媒、乾き防止剤、消泡剤などの界面活性剤、アクリル樹脂微粒子などの粘度調整剤、はじき防止剤、バナジウム塩、銅、鉄、マンガン、マグネシウム、カルシウム塩などの無機防錆剤など、を必要に応じて含んでもよい。またこれら以外に、目的に応じて公知の補助錯化剤、緩衝剤、平滑剤、応力緩和剤、光沢剤、半光沢剤、酸化防止剤、および紫外線吸収剤などを配合してもよい。これらの添加剤は、樹脂エマルション製造の際に添加されてもよいし、顔料分散ペーストの製造時に添加されてもよいし、または樹脂エマルションと顔料分散ペーストとの混合時または混合後に添加されてもよい。
【0064】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、上記アミン化エポキシ樹脂以外にも、他の塗膜形成樹脂成分を含んでもよい。他の塗膜形成樹脂成分として、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ブタジエン系樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂などが挙げられる。電着塗料組成物に含まれうる他の塗膜形成樹脂成分として、フェノール樹脂、キシレン樹脂が好ましい。フェノール樹脂、キシレン樹脂として、例えば、2以上10以下の芳香族環を有するキシレン樹脂が挙げられる。
【0065】
本発明のカチオン電着塗料組成物の析出電着塗膜は、110℃における塗膜粘度が5,000~1,000,000mPa・sの範囲内であることを条件とする。本明細書において「析出電着塗膜」とは、カチオン電着塗料組成物を電着塗装した際に被塗物上に析出する電着塗膜であって、未硬化の状態の塗膜をいう。析出電着塗膜にとって、110℃という温度は、電着塗膜に含まれる塗膜樹脂成分の硬化反応が開始する直前の温度ということができる。このような温度条件下における、電着塗膜の110℃における塗膜粘度が1,000,000mPa・s以下であることによって、加熱による電着塗膜のフローを確保することができ、硬化電着塗膜の膜厚不均一化を回避することができる。また、塗膜粘度が5,000mPa・s以上であることによって、加熱によって電着塗膜が過度にフローして流れ落ちるなどの不具合を回避することができる。上記110℃における塗膜粘度は、5,000~500,000mPa・sの範囲内であるのが好ましく、5,000~100,000mPa・sの範囲内であるのがより好ましく、6,000~20,000mPa・sの範囲内であるのが特に好ましい。
【0066】
析出電着塗膜の110℃における塗膜粘度は、次のようにして測定することができる。まず被塗物に膜厚約15μmとなるように180秒間電着塗装を行い、電着塗膜を形成し、これを水洗して余分に付着した電着塗料組成物を取り除く。次いで、電着塗膜表面に付着した余分な水分を取り除いた後、乾燥させることなくすぐに塗膜を取り出して、試料を調製する。こうして得られた試料を、動的粘弾性測定装置を用いて粘度測定することによって、110℃における塗膜粘度を測定することができる。
【0067】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、本発明のカチオン電着塗料組成物を鋼板に乾燥膜厚で15μmになるように塗装し170℃で20分焼き付けた後の残存OH官能基量が0.4~1.6(meq/固形分g)であることも必要である。これは塗料組成物を得た後の塗膜の性能を規定するもので、残存OH官能基量は電着塗装によって得られた電着塗膜を加熱硬化させた場合において、アミン化エポキシ樹脂と、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤が反応した後に塗膜中に残存することとなる、アミン化エポキシ樹脂に由来する残存水酸基量の理論値である。この理論残存水酸基量は、アミン化エポキシ樹脂の水酸基量(meq/固形分g)と1級アミン量(meq/固形分g)の合計から、硬化剤のイソシアネート基量(meq/固形分g)を減ずることで求めた。残存OH官能基量は、好ましくは0.6~1.4meq/固形分gで、より好ましくは0.8~1.2meq/固形分gである。この条件で塗装した塗膜の残存OH官能基量が0.4meq/固形分gより少ないと、塗膜に十分な密着性能を付与できず、1.6meq/固形分gより大きいと親水性が高くなり遮断性低下の欠点を有する。
【0068】
前記カチオン電着塗料組成物を鋼板に乾燥膜厚で15μmになるように塗装し170℃で20分焼き付けた後の電着塗膜は、上述の残存OH官能基数だけではなく、架橋密度が0.5~5.0mmol/ccおよび電着塗膜形成時の内部応力が7.5MPa以下であることが好ましい。
【0069】
<電着塗装および電着塗膜形成>
本発明のカチオン電着塗料組成物を用いて被塗物に対し電着塗装することによって、電着塗膜を形成することができる。本発明のカチオン電着塗料組成物を用いる電着塗装においては、被塗物を陰極とし、陽極との間に、電圧を印加する。これにより、電着塗膜が被塗物上に析出する。
【0070】
本発明のカチオン電着塗料組成物を塗装する被塗物としては、通電可能な種々の被塗物を用いることができる。使用できる被塗物として例えば、冷延鋼板、熱延鋼板、ステンレス、電気亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、亜鉛-アルミニウム合金系めっき鋼板、亜鉛-鉄合金系めっき鋼板、亜鉛-マグネシウム合金系めっき鋼板、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金系めっき鋼板、アルミニウム系めっき鋼板、アルミニウム-シリコン合金系めっき鋼板、錫系めっき鋼板などが挙げられる。
【0071】
電着塗装工程において、電着塗料組成物中に被塗物を浸漬した後、50~450Vの電圧を印加することによって、電着塗装が行われる。印加電圧が50V未満であると電着が不充分となるおそれがあり、450Vを超えると、塗膜外観が劣ることとなるおそれがある。電着塗装時、塗料組成物の浴液温度は、通常10~45℃に調節される。
【0072】
電圧を印加する時間は、電着条件によって異なるが、一般には、2~5分とすることができる。
【0073】
本発明のカチオン電着塗料組成物を用いた電着塗装において、析出させる電着塗膜の膜厚は、加熱硬化により最終的に得られる電着塗膜の膜厚が好ましくは5~60μm、より好ましくは10~25μmとなるような膜厚であるのが好ましい。電着塗膜の膜厚が5μm未満であると、防錆性が不十分となるおそれがある。
【0074】
上述のようにして析出させた電着塗膜は、必要に応じて水洗した後、例えば140~200℃、好ましくは140~170℃で、10~30分間加熱することによって、硬化させることができる。これにより、硬化電着塗膜が形成される。140℃~200℃での硬化は、通常の硬化温度よりひくく、低温硬化性を有している。低温で硬化することは、硬化時に使用するエネルギー量を大きく減少させる。
【実施例】
【0075】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0076】
製造例1 アミン化エポキシ樹脂(樹脂A)の製造
ブチルセロソルブ26部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER-331J、ダウケミカル社製)940部、ビスフェノールA380部、フェノール58部、ジメチルベンジルアミン2部を加え、反応容器内の温度を120℃に保持し、エポキシ当量が1100g/eqになるまで反応させた後、反応容器内の温度が110℃になるまで冷却した。ジエタノールアミン(DETA)60部、N-メチルエタノールアミン(MMA)20部、ジエチレントリアミンジケチミン(ジケチミン:固形分73%のメチルイソブチルケトン溶液)85部を添加し、140℃で1時間反応させることにより、アミン化エポキシ樹脂(樹脂A)を得た
【0077】
製造例2 ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(1)の製造
ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDI)1370部およびメチルイソブチルケトン(MIBK)732部を反応容器に仕込み、これを60℃まで加熱した。ここに、ブチルジグリコールエーテル300部、ブチルセロソルブ1330を60℃で2時間かけて滴下した。さらに75℃で4時間加熱した後、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、放冷後、MIBK27部を加えてブロック化ポリイソシアネート硬化剤(1)を得た。
【0078】
製造例3 顔料分散樹脂の調製
撹拌装置、冷却管、窒素導入管及び温度計を装備した反応容器にイソホロンジイソシアネート2220部及びメチルイソブチルケトン342.1部を仕込み、昇温し50℃でジブチル錫ラウレート2.2部を投入し、60℃でメチルエチルケトンオキシム878.7部を仕込んだ。その後、60℃で1時間保温し、NCO当量が348となっていることを確認し、ジメチルエタノールアミン890部を投入した。60℃で1時間保温しIRでNCOピークが消失していることを確認後、60℃を超えないよう冷却しながら50%乳酸1872.6部と脱イオン水495部を投入して四級化剤を得た。次いで、異なる反応容器にトリレンジイソシアネート870部及びメチルイソブチルケトン49.5部を仕込み、50℃以上にならないように2-エチルヘキサノール667.2部を2.5時間かけて滴下した。滴下終了後メチルイソブチルケトン35.5部を投入し、30分保温した。その後NCO当量が330~370になっていることを確認しハーフブロックポリイソシアネートを得た。
【0079】
撹拌装置、冷却管、窒素導入管及び温度計を装備した反応容器に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER-331J、ダウケミカル社製)940.0部メタノール38.5部で希釈した後、ここへジブチル錫ジラウレート0.1部を加えた。これを50℃に昇温した後、トリレンジイソシアネート87.1部投入さらに昇温した。100℃でN,N-ジメチルベンジルアミン1.4部を加え130℃で2時間保温した。このとき分留管によりメタノールを分留した。これを115℃まで冷却し、メチルイソブチルケトンを固形分濃度90%になるまで仕込み、その後ビスフェノールA270.3部、2-エチルヘキサン酸39.2部を仕込み125℃で2時間加熱撹拌した後、上記ハーフブロックポリイソシアネート516.4部を30分間かけて滴下し、その後30分間加熱撹拌した。ポリオキシエチレンビスフェノールAエーテル1506部を徐々に加え溶解させた。90℃まで冷却後、上記四級化剤を加え、70~80℃に保ち酸価2以下を確認して、顔料分散樹脂を得た(樹脂固形分30%)。
【0080】
製造例4 顔料分散ペーストの調製
サンドグラインドミルに製造例3で得た顔料分散樹脂106.9部、カーボンブラック1.6部、カオリン40部、二酸化チタン55.4部、リンモリブデン酸アルミニウム3部、脱イオン水13部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストを得た(固形分60%)。
【0081】
製造例5 電着塗料樹脂エマルション(EmA)の製造
製造例1で得たアミン化エポキシ樹脂(樹脂A)400g(固形分)と、製造例2で得たブロック化ポリイソシアネート硬化剤(1)160g(固形分)とを混合し、エチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテルを固形分に対して3%(15g)になるように添加した。次にギ酸を中和率40%になるように加えて中和し、イオン交換水を加えてゆっくり希釈して電着塗料樹脂エマルション(EmA)を得た。
【0082】
実施例1
ステンレス容器に、イオン交換水1394g、樹脂エマルション(EmA)560gおよび製造例4で得られた顔料分散ペースト41gを添加しその後40℃で16時間エージングして、電着塗料組成物を形成した。作製した電着塗料組成物に日東紡績株式会社から商品名PAS-M-1Aで市販のポリアミン重合体Aを混合撹拌中に塗料固形分に対して1000ppmの量で添加した。
【0083】
ポリアミン重合体Aは、以下の化学式のセグメントを有する重合体である:
【化10】
ポリアミン重合体Aは、窒素がメチル基で置換されたジアリルアミンセグメントを100モル%有する重合体であり、酢酸付加塩の形になっている。
【0084】
実施例2~4および比較例1~3
実施例1において、ポリアミン重合体Aの配合量を表1に記載するように変更したり、またポリアミン重合体を表1に記載するもの変更すること以外は、実施例1と同様に電着塗料組成物を形成した。配合量については、表1に記載するように電着塗料組成物の樹脂固形分に対する配合量で単位はppmである。ポリアミン重合体は、以下に示すポリアミン重合体B~Dを使用した。尚、比較例3は、ポリアミン重合体を含まない例を示す。
【0085】
ポリアミン重合体B
以下の化学式のセグメントを有する重合体である:
【化11】
(式中、mおよびlは、各セグメントの数を表す。)
ポリアミン重合体Cは、窒素が置換されていないジアリルアミンセグメントと、モノアリルアミンセグメントとを両方合わせて100モル%有する重合体であり、酢酸付加塩の形になっている。
【0086】
ポリアミン重合体C
日東紡績株式会社からPAS-21の名前で市販されている、以下のセグメントを100モル%有する2級アミンポリマー:
【化12】
【0087】
ポリアミン重合体D
日東紡績株式会社からPAA15Cの名前で市販されている、以下のセグメントを100モル%有する1級アミンポリマー:
【化13】
【0088】
電着塗装
冷延鋼板(JISG3141、SPCC-SD)を、サーフクリーナーEC90(日本ペイント・サーフケミカルズ社製)中に50℃で2分間浸漬して、脱脂処理した。次いで、ZrFを0.005%含み、NaOHを用いてpH4に調整したジルコニウム化成処理液中に、40℃で90秒間浸漬して、ジルコニウム化成処理を行った。次いで、実施例または比較例で得られた電着塗料組成物を、硬化後の電着塗膜の膜厚が20μmとなるように2-エチルヘキシルグリコールを必要量添加し、その後に鋼板を浸漬して、30秒昇圧180Vに達してから150秒間保持するという条件で電圧を印加して、被塗物上に未硬化の電着塗膜を析出させた。
【0089】
こうして得られた未硬化の電着塗膜を、160℃で15分間焼き付け硬化させて、硬化電着塗膜を有する電着塗装板を得た。得られた硬化電着塗膜に下記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0090】
密着性
硬化後の電着塗装板に対してカットを行い、0.01mAの電流値にて16時間電解後、テープ剥離を行い、その両側の剥離幅にて密着性を評価した。評価基準は以下の通りである。
【0091】
評価基準
○:剥離幅3mm未満
○△:剥離幅3mm以上5mm未満
△:剥離幅5mm以上10mm未満
×:剥離幅10mm以上
【0092】
サイクル腐食試験(Cycle Corrosion Test(CCT))
冷延鋼板を用いた硬化後の電着塗装板の塗膜に、基材に達するようにナイフでクロスカット傷を入れ、JASOM609-91「自動車用材料腐食試験方法」を100サイクル行った。その後、クロスカット部からの錆やフクレ発生を観察し、実際の腐食環境に即した耐食性を評価した。評価基準は以下の通りである。
評価基準
○:錆またはフクレの最大幅がカット部より7.5mm未満(両側)カット部以外にブリスターなし
○△:錆またはフクレの最大幅がカット部より5mm以上7.5mm未満(両側)カット部以外もブリスターあり
△:錆またはフクレの最大幅がカット部より7.5mm以上10mm未満(両側)
△×:錆またはフクレの最大幅がカット部より10mm以上12.5mm未満(両側)
×:錆またはフクレの最大幅がカット部より12.5mm以上(両側)
合格は○△以上である。
【0093】
塩水噴霧試験(Salt Spray Test (SST))
各試験片に、基材に達するようにカッターナイフで長さ10cmのクロスカット傷を入れ、JIS K 5600-7-1(JIS Z 2371)記載の耐中性塩水噴霧性試験法に従い、塩水噴霧試験機ST-11L(スガ試験機社製)で720時間、塩水噴霧試験(SST)を行った。試験終了後、下記基準に従い、外観を目視評価した。クロスカット部片側からの錆発生部部分の幅、フクレ発生部分の幅が3mm以内であれば合格と評価した。
○:フクレ発生部分の幅が3mm以内である。
△:フクレ発生部分の幅が3mmを超えて10mm以内である。
×:フクレ発生部分の幅が10mmを超える。
【0094】
エッジ防錆(エッジ腐食試験)
本試験の評価は、上記冷延鋼板ではなく、L型専用替刃(LB10K:オルファ株式会社製)を、サーフクリーナーEC90(日本ペイント・サーフケミカルズ社製)中に50℃で2分間浸漬して脱脂処理し、サーフファインGL-1(日本ペイント・サーフケミカルズ社製)で表面調整し、次いでリン酸亜鉛化成処理液であるサーフダインSD-5000(日本ペイント・サーフケミカルズ社製、リン酸亜鉛化成処理液)中に40℃で2分間浸漬して、リン酸亜鉛化成処理を行ったものを用いた。これに実施例1~4、比較例1~4の塗料を上記電着塗装と同様の条件で電着塗装し硬化電着塗膜を形成したのち、ソルトスプレーテスト35℃×168h試験後のL型専用替刃先端部錆個数を調べた。
評価基準
○:20個未満
○△:20個以上~50個未満
△:50個以上~100個未満
×:100個以上
合格は○△以上である。
【0095】
塗装作業性(GP:ガスピン性)
カチオン電着塗料組成物を含む電着浴に、化成処理を行なった合金化溶融亜鉛めっき鋼板(寸法:70mm×150mm、厚さ0.7mm)を浸した。この鋼板に電圧を印加し、30秒間かけて200Vの電圧に昇圧し、150秒間電着した。この時の浴温は28℃に調節した。その後、水洗し、150℃で25分間焼き付けて、硬化塗膜を得た。得られた塗膜の塗面状態を目視観察した。塗膜異常が認められない場合を○とし、それ以外を×とした。
○:ガスピンなし
×:ガスピンあり
【0096】
【0097】
上記表1から明らかなように、N置換ジアリルアミンセグメントを有するポリアミン重合体を所定量(塗料固形分に対して10~5000ppmの量)で存在するカチオン電着塗料組成物では、ソルトスプレー試験による耐食性だけではなく、より高い耐食性を必要とするサイクル腐食試験でも高い防食性が発揮できている。比較例1は、アリルアミンのポリアミン重合体を用いたもので、ソルトスプレー試験による防食性は満足しているが、その他の性能が不足している。比較例2は、ジアリルアミンのポリアミン重合体を用いたもので、N置換されていないものを用いた例で、ソルトスプレー試験による防食性は優れていてもサイクル腐食試験では性能が不足している。比較例3は、ポリアミン重合体を添加しないものであり、性能が大きく不足している。