(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】電力系統安定化装置および電力系統安定化方法
(51)【国際特許分類】
H02J 3/38 20060101AFI20240801BHJP
H02J 3/00 20060101ALI20240801BHJP
H02J 13/00 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
H02J3/38 120
H02J3/00 170
H02J13/00 301D
H02J13/00 301A
H02J13/00 311R
(21)【出願番号】P 2021033899
(22)【出願日】2021-03-03
【審査請求日】2023-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒田 英佑
(72)【発明者】
【氏名】小海 裕
(72)【発明者】
【氏名】吉原 徹
(72)【発明者】
【氏名】原口 瑠理子
【審査官】早川 卓哉
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-215710(JP,A)
【文献】国際公開第2021/024293(WO,A1)
【文献】特開2019-176584(JP,A)
【文献】特開2018-137925(JP,A)
【文献】特開2019-198202(JP,A)
【文献】特開平02-228220(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0144946(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J3/00-5/00
H02J13/00
H02M7/42-7/98
G06Q50/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生可能エネルギー電源の出力をモデル化した再生可能エネルギー電源モデルと前記再生可能エネルギー電源の制御系データとに基づいて、
発生が想定される故障ごとに当該想定故障で分離系統となるエリア内の周波数変化が再生可能エネルギー電源の疑似慣性制御によってどれだけ補正されるかを示す補正データを予め生成する補正データ生成部と、
発生が想定される故障ごとに当該想定故障で分離系統となるエリア内の予測周波数を前記補正データを用い
て予め生成する予測周波数生成部と、
前記予測周波数生成部によって生成された予測周波数が許容値範囲内であるか否かを判定し、範囲外の場合に前記分離系統となるエリア内の周波数を前記許容値範囲内に収めるために必要な制御量を演算し、前記想定故障と対応付けて制御テーブルに設定する制御量演算部と
、
電力系統で実際に発生した故障と想定した故障とを対応させ、前記制御テーブルから制御量を読み込む想定故障判定部と、
を備えたことを特徴とする電力系統安定化装置。
【請求項2】
前記予測周波数生成部は、定期的に前記予測周波数を生成して更新し、
前記制御量演算部は、
前記予測周波数が更新された場合に、最新の前記予測周波数を用いて前記制御量を演算
して、前記制御テーブルを更新する
ことを特徴とする請求項1に記載の電力系統安定化装置。
【請求項3】
前記補正データ生成部は、前記予測周波数の生成に合わせた周期で前記補正データを生成し、
前記予測周波数生成部は、最新の前記補正データを用いて前記予測周波数を生成することを特徴とする請求項2に記載の電力系統安定化装置。
【請求項4】
前記補正データ生成部は、前記予測周波数の生成とは異なるタイミングで前記補正データを生成し、
前記予測周波数生成部は、事前に生成された前記補正データを用いて前記予測周波数を生成する
ことを特徴とする請求項2に記載の電力系統安定化装置。
【請求項5】
前記補正データ生成部は、前記再生可能エネルギー電源モデル、前記電力系統に設置された系統設備、前記電力系統で計測した系統計測値
および、前記電力系統の制御に係る
1つ以上の設定値、に基づいて、
前記再生可能エネルギー電源の疑似慣性制御ありの場合の周波数偏差を、前記再生可能エネルギー電源の疑似慣性制御なしの場合の周波数偏差で除算して求めた補正率を前記補正データとすることを特徴とする、
請求項1に記載の電力系統安定化装置。
【請求項6】
前記予測周波数生成部は、前記補正データと、前記再生可能エネルギー電源モデル、前記電力系統に設置された系統設備、前記電力系統で計測した系統計測値
および、前記電力系統の制御に係る
1つ以上の設定値、に基づいて、前記予測周波数を演算することで、前記再生可能エネルギー電源の疑似慣性機能、周波数フィードバック機能
、の1つ以上の制御が加わった際の予測周波数を演算することを特徴とする、
請求項1に記載の電力系統安定化装置。
【請求項7】
前記制御量演算部は、前記予測周波数と、前記再生可能エネルギー電源モデル、前記電力系統に設置された系統設備、前記電力系統で計測した系統計測値
および、前記電力系統の制御に係る
1つ以上の設定値、に基づいて、分離系統内における前記再生可能エネルギー電源の影響を考慮した制御量を演算することを特徴とする、
請求項1に記載の電力系統安定化装置。
【請求項8】
前記制御量演算部により演算された制御量と、前記電力系統の状態と、前記発生した事故に関する情報とに基づいて、前記制御量を上回る最小の電制または負制対象を算出し、指令する制御指令部をさらに備えたことを特徴とする、
請求項1に記載の電力系統安定化装置。
【請求項9】
前記補正データ、前記予測周波数、前記制御量
および、前記電力系統に対する
1つ以上の制御に係る情報を画面表示する表示部を具備することを特徴とする、
請求項1に記載の電力系統安定化装置。
【請求項10】
電力系統安定化装置が、
再生可能エネルギー電源の出力をモデル化した再生可能エネルギー電源モデルと前記再生可能エネルギー電源の制御系データとに基づいて、
発生が想定される故障ごとに当該想定故障で分離系統となるエリア内の周波数変化が再生可能エネルギー電源の疑似慣性制御によってどれだけ補正されるかを示す補正データを予め生成する補正データ生成ステップと、
発生が想定される故障ごとに当該想定故障で分離系統となるエリア内の予測周波数を前記補正データを用い
て予め生成する予測周波数生成ステップと、
前記予測周波数生成ステップによって生成された予測周波数が許容値範囲内であるか否かを判定し、範囲外の場合に前記分離系統となるエリア内の周波数を前記許容値範囲内に収めるために必要な制御量を演算し、前記想定故障と対応付けて制御テーブルに設定する制御量演算ステップと、
電力系統で実際に発生した故障と想定した故障とを対応させ、前記制御テーブルから制御量を読み込む想定故障判定ステップと、
を含むことを特徴とする、電力系統安定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力系統安定化装置および電力系統安定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統の系統故障に伴う需給アンバランスを調整し、周波数を安定化する技術として、特開平10-108368号公報(特許文献1)がある。この公報には、「系統分断発生前の制御対象系統内発電量と連系線潮流に基づき、予め需給アンバランス率と周波数偏差の特性を、過渡的な周波数最高値,最低値,落ち着き先周波数について求めておき、電力系統に系統分断が生じて、分離された系統における発電機の発電力と負荷の消費電力との間に不均衡が生じた場合、前記需給アンバランス率と周波数偏差の特性を用いて発電力過剰時には過渡的な周波数上昇の最高値を、また発電力不足時には過渡的な周波数下降の最低値を、また落ち着き先周波数を求め、その周波数値が発電機の安定運転領域を外れると判定される時に、それぞれに応じた電源制限,負荷制限を行って発電機安定運転領域内に周波数を制御することを特徴とする周波数安定化方法。」と記載されている。
【0003】
また、特開2011-19362号公報(特許文献2)がある。この公報には、課題として「系統事故により幹線がルート断した場合、正確に需給バランスを取るには不確定要因が多いが、この不確定要因にも対応できる系統周波数安定化装置を提供する。」と記載され、解決手段として「電力系統周波数安定化装置において、系統内の発電機の出力と主要変電所の負荷潮流値を常時計測する手段と、事故検出時に前記系統周波数安定化手段へ事故信号を送信する事故信号送信手段と、系統内の電気回路モデルとオンラインデータを用いて系統事故発生時に必要な制御量を事前に計算する制御量事前演算部と、発電機脱落量,負荷脱落量,及び系統周波数変化の観測値に基づいて補正制御量を演算する補正制御量演算部とを備えた。」と記載されている。
【0004】
また、特開2013-225956号公報(特許文献3)がある。この公報には、課題として「単独分離系統が生じた場合に、自然エネルギー発電設備の出力変動による単独分離系統の崩壊を抑制することが可能な系統安定化方法を提供する。」と記載され、解決手段として「系統安定化装置は、単独分離系統を生じさせる事象の発生前に、電力系統の本系統と部分系統との間の連系線の潮流、部分系統に接続する負荷の潮流、および部分系統に接続する発電機の出力を含む系統情報に基づいて、単独分離系統を安定化させるための潮流の制御量である安定化制御量を算出する。そして系統安定化処理による潮流の制御量が安定化制御量となるように、負荷および発電機のうちから制御対象を選択し、それを事象と関連付けして制御テーブルに登録する。負荷を制御対象として選択する場合、当該負荷における自然エネルギー発電設備の設備容量あるいは自然エネルギー発電設備からの潮流またはその変動量で表される自然エネルギー設備導入量に基づいて、制御対象とする負荷を選択する。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-108368号公報
【文献】特開2011-19362号公報
【文献】特開2013-225956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の電力系統安定化装置の周波数安定化方法は、特許文献1に示すように、系統分断発生前の制御対象系統内の発電量と連系線潮流に基づき予め需給アンバランス率と周波数偏差の特性を使って、過渡的な周波数最高値、最低値、落ち着き先周波数を求めておき、この特性を用いて系統分断時の各周波数を算出し、必要な電源制限量(電制量)や負荷制限量(負制量)を決定し、周波数を安定化させる。
【0007】
また、特許文献2に示すように、発電機脱落や負荷脱落に対する補正制御量を算出し、制御したり、特許文献3に示すように、負荷における自然エネルギー発電設備(太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー:renewable energy)の影響を考慮した制御対象の負荷を算出したりする。
【0008】
しかし、これらの従来の電力系統安定化装置の周波数安定化方法は、疑似慣性制御をはじめとする再生可能エネルギー電源の制御効果および影響を反映できておらず、主制御(第1段制御)の量が適切に設定できないという課題があった。主制御量が適切でないと、制御の過不足が生じ、周波数を不安定化させたり、主制御後の補正制御の量が増加する恐れがある。
【0009】
また、需要増加が鈍化または減少に転じる中で、電力系統にインバータ(電力変換器)を介して連系する再生可能エネルギー電源が増加すると、同期発電機の連系比率が低下する、そして、再生可能エネルギー電源は天候によって出力変動するため、系統周波数はより変動しやすくなる。そのため、主制御量が適切でないと、制御の過不足が生じ、周波数を不安定化させたり、主制御後の補正制御の量が増加する恐れがある。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、その目的は、再生可能エネルギー電源を含む電力系統の周波数を安定化する電力系統安定化装置および方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、「再生可能エネルギー電源の出力をモデル化した再生可能エネルギー電源モデルと前記再生可能エネルギー電源の制御系データとに基づいて、前記再生可能エネルギー電源を含む電力系統の周波数の予測に係る補正データを予め生成する補正データ生成部と、前記補正データを用いて事故発生時の周波数を予測周波数として生成する予測周波数生成部と、事故発生時に、発生した事故に対応する予測周波数を用いて前記電力系統に対する制御量を演算する制御量演算部とを備えたことを特徴とする電力系統安定化装置」である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、再生可能エネルギー電源を含む電力系統の周波数を安定化することが可能となる。上記した以外の課題、構成及び効果は以下の実施の形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例に係る電力系統に接続された電力系統安定化装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図2】実施例に係る電力系統安定化装置の機能的な構成を示すブロック図である。
【
図3】
図2の電力系統安定化装置の主に再生可能エネルギー補正率演算処理を示すフローチャートである。
【
図4】
図2の電力系統安定化装置の主に再生可能エネルギー補正付き予測周波数演算と安定化制御量計算処理を示すフローチャートである。
【
図5】
図2の電力系統安定化装置の主に制御対象決定処理を示すフローチャートである。
【
図6】
図2の再生可能エネルギー補正率演算部および再生可能エネルギー補正付き予測周波数演算部における疑似慣性制御機能が考慮された計算の一例を示す図である。
【
図7】
図6に電源制限(電制)や負荷制限(負制)を組合わせた計算の一例を示す図である。
【
図8】
図2の再生可能エネルギー補正率演算部および再生可能エネルギー補正付き予測周波数演算部における周波数フィードバック機能が考慮された場合の計算の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている諸要素およびその組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【実施例】
【0015】
図1は、実施例に係る電力系統に接続された電力系統安定化装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【0016】
図1において、電力系統安定化装置10は、例えば、計算機システムで構成される。電力系統安定化装置10は、電力系統20の分離系統(単独系統)エリア32の再生可能エネルギー補正率、再生可能エネルギー補正付き予測周波数、安定化制御量を演算する。このとき、電力系統安定化装置10は分離系統内の再生可能エネルギーの影響を考慮した制御量を提供することができ、この制御量を用いて、故障発生時には制御指令をすることで、系統故障に伴う需給アンバランスが発生した時の周波数安定化や制御量の削減が可能となる。
【0017】
図1では、エリア32cの中にエリア32a及びエリア32bが含まれている。例えば、エリア32cで需給バランスを取っている状態で故障(事故)が発生し、エリア32aが分離系統となったならば、エリア32aで需給バランスを取る必要がある。このため、故障の発生時点でエリア32aの需給がアンバランスであれば、制御指令を発してバランスを取る。この制御指令による制御量は、発生しうる故障ごとに周波数の変化を予測して予め算定して起き、実際に発生した故障に対応する制御量を用いる。このとき、再生可能エネルギーについては、疑似慣性などの制御が行われる可能性があるため、かかる制御を考慮して予測周波数を補正することで、再生可能エネルギー電源が含まれる電力系統においても、効率よく周波数を安定化することができる。
【0018】
図1に示した電力系統安定化装置10は、表示部41、入力部42、通信部43、プロセッサ44、メモリ45および記憶装置46を備える。表示部41、入力部42、通信部43、プロセッサ44、メモリ45および記憶装置46は、バス47を介して接続されている。
【0019】
表示部41は、電力系統安定化装置10で扱われるパラメータおよび電力系統安定化装置10での処理結果などを表示する。表示部41は、ディスプレイ装置であってもよいし、ディスプレイ装置とともにプリンタ装置または音声出力装置などを用いてもよい。
【0020】
入力部42は、電力系統安定化装置10を動作させるための各種条件などを入力する。入力部42は、キーボードおよびマウスなどを使用できる他、タッチパネルまたは音声指示装置などの少なくともいずれか一つを備えるようにしてもよい。
【0021】
通信部43は、通信ネットワーク300に接続するための回路および通信プロトコルを備える。通信ネットワーク300は、インターネットなどのWAN(Wide Area Network)であってもよいし、WiFiまたはイーサネット(登録商標)などのLAN(Local Area Network)であってもよいし、WANとLANが混在していてもよい。
【0022】
プロセッサ44は、コンピュータプログラムを実行し、記憶装置46に記憶されている各種データベース内のデータの検索、処理結果の表示指示、電力系統20の再生可能エネルギー補正率・予測周波数・安定化制御量演算に関する処理などを行う。プロセッサ44は、CPU(Central Processing Unit)であってもよいし、GPU(Graphics Processing Unit)であってもよい。プロセッサ44は、シングルコアロセッサであってもよいし、マルチコアロセッサであってもよい。プロセッサ44は、処理の一部または全部を行うハードウェア回路(例えばFPGA(Field-Programmable Gate Array)またはASIC(Application Specific Integrated Circuit))を備えていてもよい。プロセッサ44は、ニューラルネットワークを備えていてもよい。プロセッサ44は、1つまたは複数の半導体チップとして構成してもよいし、計算サーバのようなコンピュータ装置として構成してもよい。
【0023】
メモリ45は、例えば、RAM(Random Access Memory)として構成され、コンピュータプログラムおよび計算結果データを記憶したり、各処理に必要なワークエリアをプロセッサ44に提供したりする。
【0024】
記憶装置46は、大容量の記憶容量を有する記憶デバイスであり、例えば、ハードディスク装置やSSD(Solid State Drive)である。記憶装置46は、各種プログラムの実行ファイルやプログラムの実行に用いられるデータを保持することができる。記憶装置46が保持するデータを便宜上、入力系データ群DB1及び出力系データ群DB2とする。入力系データ群DB1には、再生可能エネルギーモデル、系統設備、系統計測値、設定値などが含まれる。出力系データ群DB2には、再生可能エネルギー補正率、予測周波数演算結果、安定化制御量演算結果等が含まれる。また、記憶装置46は、再生可能エネルギー補正率・予測周波数・安定化制御量演算プログラムを保持することができる。再生可能エネルギー補正率・予測周波数・安定化制御量演算プログラムは、電力系統安定化装置10にインストール可能なソフトウェアであってもよいし、電力系統安定化装置10にファームウェアとして組み込まれていてもよい。
【0025】
入力系データ群DB1は、例えば系統故障や大電源脱落時の再生可能エネルギーの疑似慣性制御(イナーシャ制御)の変換器やその制御系の再生可能エネルギーモデル(分離系統内の周波数ボトムやピーク値を求めるための周波数安定性解析に必要となる再生可能エネルギーモデル)DB、系統構成(系統の母線と線路と電源と負荷と変圧器と各制御装置の一つまたは複数の接続関係)や線路インピーダンス(R+jX)や対地静電容量(アドミタンス:Y)や電源データなどからなる系統設備DB、系統各所の有効電力P・無効電力Q・電圧V・位相角δ・電流I・力率Φ・タップ値・電力系統とノードやブランチや変圧器やSCやShRなどの間の開閉器の入り切り情報などが含まれる系統計測値DB、再生可能エネルギー補正率演算や予測周波数演算や安定化制御量演算処理を実施するためのスラックノードや収束判定閾値などの諸元である設定値DB、の1つ以上を格納する。なお、系統設備DB・系統計測値DB(時刻スタンプ付きデータやPMUデータでもよい)・設定値DBは、監視制御装置や中央給電指令所やEMSから入手してもよいし、手動で入力されてもよい。手動で入力する際には、入力部42によって手動で入力し記憶する。なお、入力の際はプロセッサ44によって必要な画像データを生成して表示部41に表示する。入力の際は、補完機能を利用して、大量のデータを設定できるように半手動にしてもよい。
【0026】
出力系データ群DB2は、再生可能エネルギー補正率演算部11の演算結果である再生可能エネルギー補正率DB、再生可能エネルギー補正付き予測周波数演算部12の演算結果である予測周波数演算結果DB、安定化制御量演算・設定部13の演算結果である安定化制御量演算結果DB、の1つ以上を格納する。
【0027】
電力系統安定化装置10は、通信ネットワーク300を介して、電力系統20の計測情報などにアクセスすることができる。電力系統20は、複数の発電機23A~23Dおよび負荷25A~25Fが、母線(ノード)21A~21F、変圧器22A~22Dおよび送電線路(ブランチ)24A~24Eなどを介して相互に連系されたシステムである。ここで言う発電機23A~23Dは、例えば、火力発電機、水力発電機または原子力発電機である。ノード21A~21Fには、電力系統20の保護、制御および監視のための各種の計測器および遮断器が設置されている。また、各ノード21A~21Dには、蓄電池26Aおよび再生可能エネルギー電源27A~27Dが接続されている。再生可能エネルギー電源27A~27Dは、例えば、太陽光発電機、太陽熱発電機、風力発電機、ウィンドファーム、潮流発電、などインバータ介して系統連系する電源であり、HVDCを介して連系するものも再生可能エネルギー電源とする。
【0028】
電力系統安定化装置10は、必要に応じて、計測器で検知した信号などに、通信ネットワーク300を介してアクセスし、送変電設備の入り切り状態を示すSV(Super Vision)データや有効電力Pや無効電力Qや電圧Vや電流Iを示すTM(Telemeter)データの1つ以上を取得し、系統計測値DBに格納することができる。
【0029】
プロセッサ44が再生可能エネルギー補正率・予測周波数・安定化制御量演算プログラムをメモリ45に読み出し、再生可能エネルギー補正率・予測周波数・安定化制御量演算プログラムを実行することにより、分離系統(単独系統)エリア32の再生可能エネルギー補正率、再生可能エネルギー補正付き予測周波数、安定化制御量が演算され、故障発生時には故障リレー情報をもとに、どの故障であるかを判別し、この故障に対する制御量を用いて、制御指令をすることで、系統故障に伴う需給アンバランスが発生時の周波数安定化や制御量の削減が可能となる。
【0030】
再生可能エネルギー補正率・予測周波数・安定化制御量演算プログラムの実行は、複数のプロセッサやコンピュータに分担させてもよい。あるいは、プロセッサ44は、通信ネットワーク300を介してクラウドコンピュータなどに再生可能エネルギー補正率・予測周波数・安定化制御量演算プログラムの全部または一部の実行を指示し、その実行結果を受け取るようにしてもよい。
【0031】
また、
図1では、電力系統安定化装置10が、再生可能エネルギーモデル・系統設備・系統計測値・設定値データベースDB1と再生可能エネルギー補正率・予測周波数演算結果・安定化制御量演算結果データベースDB2と、を保持する例を示したが、少なくともいずれか1つをクラウドサーバに保持させるようにしてもよい。
【0032】
図2は、実施例1に係る電力系統安定化装置の機能的な構成を示すブロック図である。なお、以下の説明では、“~~部は”と動作主体を記した場合、
図1のプロセッサ44がプログラムである~~部を読み出し、DRAM(Dynamic Random Access Memory)にロードした上で~~部の機能を実現するものとする。
【0033】
図2において、電力系統安定化装置10は、入力系データ群DB1、出力系データ群DB2、再生可能エネルギー補正率演算部11、再生可能エネルギー補正付き予測周波数演算部12、安定化制御量演算・設定部13、想定故障判定部14、制御対象決定・制御指令部15、表示部41、を備える。
【0034】
再生可能エネルギー補正率演算部11は、再生可能エネルギーモデル・系統設備・系統計測値・設定値データの1つ以上を入力として、各分離系統(単独系統)故障が発生した場合の各エリア内でどのような周波数変化となり、再生可能エネルギー電源の疑似慣性(virtual inertia:VI)制御などによって、どれだけの周波数ボトムやピーク値に補正されるかという再生可能エネルギーの運転状態に対する再生可能エネルギー補正率を過渡安定度解析や周波数解析により演算し、再生可能エネルギー補正付き予測周波数演算部に出力する。
【0035】
再生可能エネルギー補正付き予測周波数演算部12は、前記再生可能エネルギー補正率と、再生可能エネルギーモデル・系統設備・系統計測値・設定値データの1つ以上に基づいて、予測周波数演算における周波数ボトムやピーク値を、再生可能エネルギー補正率を使用して補正して演算し、安定化制御量演算・設定部13へ出力する。
【0036】
安定化制御量演算・設定部13は、再生可能エネルギー補正付き予測周波数演算部12で計算された再生可能エネルギー補正付き予測周波数と、再生可能エネルギーモデル・系統設備・系統計測値・設定値データの1つ以上に基づいて、分離系統内の再生可能エネルギーの影響を考慮した制御量を演算することができる。
【0037】
想定故障判定部14は、故障リレー情報を読み出して、電力系統で実際に発生した故障と想定した故障とを対応させ、制御対象決定・制御指令部15に出力する。
【0038】
制御対象決定・制御指令部15は、安定化制御量演算・設定部13で演算された各故障に対する制御量と、系統設備(制御対象データを含む)・系統計測値(連系線潮流を含む)・設定値データと、想定故障判定部14から出力された故障情報の1つ以上に基づいて、故障発生時には制御指令をすることで、系統故障に伴う需給アンバランスが発生時の周波数安定化や制御量の削減が可能となる。
表示部41は、各種計算結果や、データベースの中身を表示する。
【0039】
図3、
図4、
図5は、
図2の電力系統安定化装置の処理を示すフローチャートである。
図3は、再生可能エネルギー補正率を演算するフローであり、一定周期もしくは運用者の任意のタイミングで計算し、各想定故障における再生可能エネルギーの運転状態に対する再生可能エネルギー補正率を演算する手順を示している。
図4は、一定周期で実施される各想定故障ケース発生時の前記再生可能エネルギー補正率を考慮した予測周波数演算と、安定化制御量計算・設定のフローを示している。ここで、一定周期とは
図3と同じであってもよいし、異なってもよい。
図5は、故障リレー情報をトリガに、想定故障が発生したか否かを判定し、前記安定化制御量のテーブルを参照し、制御対象を決定し、指令するフローを示している。
図5にて故障がない場合には、所定周期が経過した際に、
図4の安定化制御量計算・設定に移行する。
【0040】
以下、各ステップの詳細処理を説明する。
図3のステップS1では、再生可能エネルギーモデル(再生可能エネルギーの疑似慣性制御モデルや周波数フィードバック機能モデルなどを含む)・系統設備・系統計測値・設定値データをメモリに読み込み、ステップS2へ進む。ここで、ステップS1で読み込んだ系統計測値データと系統設備データと設定値データを用いて、ステップS4で用いる系統潮流断面データを作成する。系統潮流断面データは、状態推定および潮流計算により、不足情報を求めて作成することも可能である。ここで、状態推定と潮流計算について補足する。系統計測データと系統設備データと計算設定データを用いて、図面には示していない状態推定計算・潮流計算プログラムの計算により、系統計測時の系統状態を計算し、系統計測データベースに記憶する。なお、状態推定計算とは、変電所、発電所、送電線をはじめとした電力送配電機器の観測データ、ならびに接続データをもとに、観測データ中の異常データの有無を判定と除去を行い特定の時間断面におけるもっともらしい系統状態を推定する計算機能のことである。ここで、状態推定計算は、任意の従来技術を用いればよい。また、潮流計算では、状態推定結果と系統設備データと計算設定データの潮流計算に必要な各ノードの電圧Vと負荷の出力指令値PとQを用いて、電力系統中の発電機ノードと同期調相機と無効電力補償装置をPV指定し、変電所ノードと負荷ノードをPQ指定し、電力系統中に予め設定したスラックノードに予め設定したノード電圧Vと位相角θを指定し、系統データベースから作成したアドミタンス行列Yijと共に、ニュートンラプソン法を用いて、潮流計算を実施し、計算結果を記憶する。なお、潮流計算手法は、交流法を基本とする。
【0041】
ステップS2では、ステップS1で読み込んだ系統潮流断面データすべてに対して計算したか否かを判定し、実施済みの場合、終了、未実施のケースがある場合、ステップS3に進む。
【0042】
ステップS3では、ステップS1で読み込んだ系統の想定故障データすべてに対して計算したか否かを判定し、実施済みの場合、ステップS2に戻り、未実施のケースがある場合、ステップS4に進む。
【0043】
ステップS4では、当該断面において、当該想定故障によって、分離系統(単独系統)が発生した場合に単独系統エリア内でどのような周波数変化となり、再生可能エネルギー電源の疑似慣性(virtual inertia:VI)制御などによって、どれだけの周波数ボトムやピーク値に補正されるかという再生可能エネルギー補正率を周波数解析により演算する。
【0044】
ステップS2~S4を繰り返すことで、各故障における再生可能エネルギーの運転状態に対する再生可能エネルギー補正率を求めることができる。
【0045】
ここで、
図6を用いてステップS1~S4の再生可能エネルギー補正率の演算処理について説明する。
図6(a)では、ある分離系統発生時に、エリア内で発電量>負荷量における、再生可能エネルギーの疑似慣性制御ありなしの周波数偏差を示している。この時、再生可能エネルギー疑似慣性制御なしの場合のピークの周波数の際の周波数偏差をΔf
O1、疑似慣性制御ありの場合、ピークの周波数の際の周波数偏差をΔf
O1_REVI、とすると、再生可能エネルギー補正率は、(Δf
O1_REVI)/(Δf
O1)、となる。また、再生可能エネルギー疑似慣性制御なしの場合の落ち着き先周波数はΔf
O2、疑似慣性制御ありの場合、落ち着き先周波数はΔf
O2_REVI、として求まる。また、
図6(b)では、ある分離系統発生時に、エリア内で発電量<負荷量における、再生可能エネルギーの疑似慣性制御ありなしの周波数偏差を示している。この時、再生可能エネルギー疑似慣性制御なしの場合のボトムの周波数の際の周波数偏差をΔf
L1、疑似慣性制御ありの場合、ボトムの周波数の際の周波数偏差をΔf
L1_REVI、とすると、再生可能エネルギー補正率は、(Δf
L1_REVI)/(Δf
L1)、となる。また、再生可能エネルギー疑似慣性制御なしの場合の落ち着き先周波数はΔf
L2、疑似慣性制御ありの場合、落ち着き先周波数はΔf
L2_REVI、として求まる。ここでは補正率としたが、補正量であってもよい。
【0046】
再生可能エネルギー補正率は、再生可能エネルギー運転状況によって変化するため、各再生可能エネルギー運転状況(例えば再生可能エネルギー出力状態や需要に対する電源稼働の非同期発電機比率である SNSP(System Non-Synchronous Penetration)値)に対して、それぞれ計算し、関係式を一定周期または、運用者任意タイミングで計算し、設定しておく。これにより、ステップS7の予測周波数演算を現実的な速度で計算することを可能とする効果がある。もちろん、演算対象が少ない場合や、サーバの演算能力が高い場合には、ステップS1~S4と、S5~S8を同一周期で演算することも可能である。前記関係式は、線形回帰などで近似式として設定してもよい。これにより、次のステップで補正周波数を容易に得ることができる効果がある。また、ピークやボトム周波数および落ち着き先周波数を求めることで、周波数が規定値以内となるか、規定値外となり、制御が必要かどうか、その制御は、主制御か、補正制御領域か、が容易に判断できるようになる。これらを画面にも表示できるようにすることで、運用者が容易に、疑似慣性制御の影響や効果を把握できるようになる効果がある。
【0047】
また、
図3、
図4、
図5には示していないが、ステップS8で演算する安定化制御量を計算した制御(電制や負制)を実施した際に、さらに再生可能エネルギー補正率を再計算してもよい。
図7を用いて、この場合の、ステップS1~S4の再生可能エネルギー補正率の演算処理について説明する。
【0048】
図7(a)では、
図6で説明した点以外を述べると、ある分離系統発生時に、エリア内で発電量>負荷量における、電制時の再生可能エネルギーの疑似慣性制御ありなしの周波数偏差を示している。この時、再生可能エネルギー疑似慣性制御なしの場合のピークの周波数の際の周波数偏差をΔf
O1_GS、疑似慣性制御ありの場合、ピークの周波数の際の周波数偏差をΔf
O1_GS_REVI、とすると、再生可能エネルギー補正率は、Δf
O1_GS)―(Δf
O1_GS_REVI)/(Δf
O1_GS)、となる。また、再生可能エネルギー疑似慣性制御なしの場合の落ち着き先周波数はΔf
O2_GS、疑似慣性制御ありの場合、落ち着き先周波数はΔf
O2_GS_REVI、として求まる。
【0049】
また、
図7(b)では、ある分離系統発生時に、エリア内で発電量<負荷量における、負制時の再生可能エネルギーの疑似慣性制御ありなしの周波数偏差を示している。この時、再生可能エネルギー疑似慣性制御なしの場合のボトムの周波数の際の周波数偏差をΔf
L1_LS、疑似慣性制御ありの場合、ボトムの周波数の際の周波数偏差をΔf
L1_LS_REVI、とすると、再生可能エネルギー補正率は、(Δf
L1_LS_REVI)/(Δf
L1_LS)、となる。また、再生可能エネルギー疑似慣性制御なしの場合の落ち着き先周波数はΔf
L2_LS、疑似慣性制御ありの場合、落ち着き先周波数はΔf
L2_LS_REVI、として求まる。この計算結果を用いることで、電制や負制が実施された場合の予測周波数演算精度が高まり、適切な主制御を実施できるようになる効果がある。
【0050】
また、
図8を用いて、単独運転検出機能として周波数フィードバック機能が付加された再生可能エネルギーが導入された分離系統発生時の周波数変化を踏まえて、再生可能エネルギー補正率を求める例を示す。
図6で説明した点以外を述べると、ある分離系統発生時に、エリア内で発電量<負荷量における、再生可能エネルギーの周波数フィードバック機能ありなしの周波数偏差を示している。この時、周波数フィードバック機能なしの場合のボトムの周波数の際の周波数偏差をΔf
L1、周波数フィードバック機能ありの場合、ボトムの周波数の際の周波数偏差をΔf
L1_REFFB、とすると、再生可能エネルギー補正率は、(Δf
L1_REFFB)/(Δf
L1)、となる。この計算結果を用いることで、周波数フィードバック機能が付加された場合の予測周波数演算精度が高まり、適切な主制御を実施できるようになる効果がある。また、
図6、
図7と
図8の再生可能エネルギー補正率は、同時に考慮して求めることも可能である。当該分離系統エリアの再生可能エネルギーモデルを設定する際に、それぞれの制御モデルを設定することで、任意の精度で予測周波数演算を実施することが可能となる。
【0051】
ここまで、再生可能エネルギーモデルの制御として、疑似慣性制御や周波数フィードバック機能を取り上げたが、それ以外に分離系統周波数に影響を与えるものとして、再生可能エネルギーのP軸およびQ軸の制御系があげられる。例えば、再生可能エネルギー電源が分離系統内で大きい場合には、AVR・AQR・ApfR運転のどれかや、電圧低下時の容量リミッタ制御系がIp優先かIq優先か、そのパラメータ値がどう設定されているかなどによって、系統電圧は大きく変化する。当該系統電圧が変化すると負荷の電圧特性によって、負荷量が変化するため、需給バランスが変化し、周波数偏差も変化する。そのため、上記再生可能エネルギーモデルとして、上記の電圧に影響する制御モデルも考慮して、ステップS4の再生可能エネルギー補正率を計算してもよい。
【0052】
ここで、
図4を用いてステップS5~S8の再生可能エネルギー補正付き予測周波数演算処理と安定化制御量計算・設定処理について説明する。
ステップS5では、系統計測データ(電源状態、連系線潮流を含む)を一定周期で取得し、ステップS6へ進む。ここで、図面には記載していないが、設定値データに含まれる想定故障データなども読み込む。また、ここで、一定周期の間に同期発電機や再生可能エネルギー電源の出力が変化することを見込み、発電計画や風況や日射量の予測値から再生可能エネルギーの出力予測値を取得して、用いてもよい。これらを取得することで、一定周期の間に同期発電機や再生可能エネルギー電源の出力が変化が生じた場合に、分離系統故障が発生した場合にも精度よく安定化制御を実施することができる効果がある。
【0053】
ステップS6では、系統の想定故障データすべてに対して計算したか否かを判定し、実施済みの場合、終了となり、未実施のケースがある場合、ステップS7に進む。
ステップS7では、前記再生可能エネルギー補正率と、再生可能エネルギーモデル・系統設備・系統計測値・設定値データの1つ以上に基づいて、予測周波数演算における周波数ボトムやピーク値を、再生可能エネルギー補正率を使用して補正して演算し、ステップS8へ進む。ここで、ある想定故障時の予測周波数ピークをΔfO1’、再生可能エネルギーを考慮しない場合の予測周波数ピークをΔfO1、再生可能エネルギー補正率をαRE、とすると、ΔfO1’=αRE×ΔfO1、となる。もしくは、想定故障時の予測周波数ボトムをΔfL1’、再生可能エネルギーを考慮しない場合の予測周波数ピークをΔfL1、再生可能エネルギー補正率をαRE、とすると、ΔfL1’=αRE×ΔfL1、となる。これらを再生可能エネルギー補正付き予測周波数と呼ぶ。
【0054】
ステップS8では、ステップS7で求めた当該計測断面における当該想定故障時の周波数ピークとボトムである再生可能エネルギー補正付き予測周波数が許容値範囲内であるかどうかを判定し、範囲外の場合には、再生可能エネルギーモデル・系統設備・系統計測値・設定値データの1つ以上に基づいて、分離系統内の再生可能エネルギーの影響を考慮した制御量を演算し、設定する。なお、範囲内の場合は制御量を演算せず、設定値をゼロ制御量として設定し、ステップS6へ戻る。
【0055】
ここで、
図5を用いてステップS9~S13の制御対象決定・指令処理について説明する。
ステップS9では、故障リレー情報と設定値データに基づいて、系統の想定故障が発生したかを判定する。
図1における分離系統が発生する根元の線路ルート断故障などが登録されている。発生している場合、ステップS10へ進む。発生していない場合は、ステップS12へ進む。
【0056】
ステップS10では、前記ステップS8で設定した制御テーブルの情報を用いて、制御量を読み込み、ステップS11へ進む。
ステップS11では、前記制御量と、系統設備(制御対象データを含む)・系統計測値(連系線潮流を含む)・設定値データと、の1つ以上に基づいて、制御量を上回る最小の制御対象設備を決定し、電制や負制を指令する。ここで、制御対象設備は、別途設定した、優先順に従って選択してもよいし、ローテーションして公平性を確保してもよい。
【0057】
ステップS12では、所定周期経過したか否かを判定し、所定周期が経過した場合は、安定化制御量計算・設定のためのステップS5~S8を実施する。所定周期が経過していない場合は、想定故障ケース発生のトリガがくるか故障リレー情報を監視する。
【0058】
このように、故障発生時には制御指令をすることで、系統故障に伴う需給アンバランスが発生時の周波数安定化や制御量の削減が可能となる。
ここまでの周波数安定化制御は、第1段制御(主制御)のみのもので記載したが、従来技術の補正制御の方式と組合せてもよい。補正制御は事後計測値を元に実施されることが多いが、主制御としては、本特許を適用できる。このように、従来適用されている周波数安定化システムのアルゴリズムを拡張適用することが容易となる効果がある。
【0059】
上述してきたように、実施例に開示した電力系統安定化装置10は、再生可能エネルギー電源の出力をモデル化した再生可能エネルギー電源モデルと前記再生可能エネルギー電源の制御系データとに基づいて、前記再生可能エネルギー電源を含む電力系統の周波数の予測に係る補正データを予め生成する補正データ生成部としての再生可能エネルギー補正率演算部11と、前記補正データを用いて事故発生時の周波数を予測周波数として生成する予測周波数生成部としての、再生可能エネルギー補正付き予測周波数演算部12と、事故発生時に、発生した事故に対応する予測周波数を用いて前記電力系統に対する制御量を演算する制御量演算部としての安定化制御量演算・設定部13と、を備える。
かかる構成により、電力系統安定化装置10は、再生可能エネルギー電源を含む電力系統の周波数を安定化することができる。
【0060】
また、再生可能エネルギー補正付き予測周波数演算部12は、定期的に前記予測周波数を生成して更新し、安定化制御量演算・設定部13は、前記事故の発生時点における最新の前記予測周波数を用いて前記制御量を演算する。このため、再生可能エネルギーに対して行われる制御を考慮して主制御(第1段制御)を行うことができる。
【0061】
ここで、再生可能エネルギー補正率演算部11が前記予測周波数の生成に合わせた周期で前記補正データを生成し、再生可能エネルギー補正付き予測周波数演算部12は最新の前記補正データを用いて前記予測周波数を生成する構成としてもよい。
また、再生可能エネルギー補正率演算部11が前記予測周波数の生成とは異なるタイミングで前記補正データを生成し、再生可能エネルギー補正付き予測周波数演算部12は事前に生成された前記補正データを用いて前記予測周波数を生成する構成としてもよい。
予測周波数と同一の周期で補正データを求めれば、予測周波数と同程度に新しい情報を用いて補正を行うことができる。一方、予測周波数の生成周期とは独立したタイミングで補正データを生成すれば、十分に演算時間を確保して補正データを精密に求めることができる。
【0062】
また、再生可能エネルギー補正率演算部11は、前記再生可能エネルギー電源モデル、前記電力系統に設置された系統設備、前記電力系統で計測した系統計測値、前記電力系統の制御に係る設定値の1つ以上に基づいて、想定故障が発生した場合の分離系統内の周波数変化を前記再生可能エネルギー電源の疑似慣性機能、周波数フィードバック機能、電圧制御機能、無効電力制御機能、力率制御機能、の1つ以上の制御の有無によって、前記予測周波数に対する補正率を演算して求める。このため、再生可能エネルギー及び電力系統の状態に応じた補正率を補正データとして得ることができる。
【0063】
また、再生可能エネルギー補正付き予測周波数演算部12は、前記補正データと、前記再生可能エネルギー電源モデル、前記電力系統に設置された系統設備、前記電力系統で計測した系統計測値、前記電力系統の制御に係る設定値の1つ以上に基づいて、前記予測周波数を演算することで、前記再生可能エネルギーの疑似慣性機能、周波数フィードバック機能、電圧制御機能、無効電力制御機能、力率制御機能、の1つ以上の制御が加わった際の予測周波数を演算する。このため、再生可能エネルギー及び電力系統の状態に応じた予測周波数を得ることができる。
【0064】
また、安定化制御量演算・設定部13は、前記予測周波数と、前記再生可能エネルギー電源モデル、前記電力系統に設置された系統設備、前記電力系統で計測した系統計測値、前記電力系統の制御に係る設定値の1つ以上に基づいて、分離系統内における前記再生可能エネルギー電源の影響を考慮した制御量を演算する。このため、再生可能エネルギー及び電力系統の状態に応じた制御量を得ることができる。
【0065】
また、安定化制御量演算・設定部13により演算された制御量と、前記電力系統の状態と、前記発生した事故に関する情報とに基づいて、前記制御量を上回る最小の電制または負制対象を算出し、指令する制御指令部としての制御対象決定・制御指令部15をさらに備える。このため、再生可能エネルギー及び電力系統の状態に応じた制御を実行することができる。
【0066】
また、前記補正データ、前記予測周波数、前記制御量、前記電力系統に対する制御の1つ以上に係る情報を画面表示する表示部41を具備することで、電力系統安定化装置10の操作者に各種情報を提供することができる。
【0067】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除または置換をすることが可能である。また、上記の各構成、機能および処理部等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。
【符号の説明】
【0068】
DB1:入力系データ群、DB2:出力系データ群、10:電力系統安定化装置、11:再生可能エネルギー補正率演算部、12:再生可能エネルギー補正付き予測周波数演算部、13:安定化制御量演算・設定部、14:想定故障判定部、15:制御対象決定・制御指令部、20:電力系統、31:外部系統、32:分離系統(単独系統)エリア、41:表示部、42:入力部、43:通信部、44:プロセッサ、45:メモリ、46:記憶装置、47:バス、300:通信ネットワーク