(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】アンテナ装置、通信装置
(51)【国際特許分類】
H01Q 15/14 20060101AFI20240801BHJP
H01Q 1/44 20060101ALI20240801BHJP
H01Q 5/378 20150101ALI20240801BHJP
H01Q 13/08 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
H01Q15/14 Z
H01Q1/44
H01Q5/378
H01Q13/08
(21)【出願番号】P 2021053968
(22)【出願日】2021-03-26
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】牛越 大樹
(72)【発明者】
【氏名】山下 拓也
(72)【発明者】
【氏名】小出 士朗
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-032890(JP,A)
【文献】特開2009-278356(JP,A)
【文献】伊藤 淳, 道下 尚文, 森下 久,マッシュルーム型EBGを用いた逆Fアンテナ間の相互結合抑制法に関する一検討,電子情報通信学会技術研究報告〔アンテナ・伝播〕,信学技報 Vol. 107, No. 431, A・P2007-123,日本,社団法人電子情報通信学会,2008年01月16日,pp. 7 - 12,開催日:2008年1月23日~2008年1月25日, ISSN:0913-5685
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 15/14
H01Q 1/44
H01Q 5/378
H01Q 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の導体部材である地板(1)と、
非ループ状に形成されてあって任意の位置に給電点が設けられた、線状の導体部材である線状給電素子(6)と、
導体部材を用いてなる第1マッシュルームセル(2A)と、
導体部材を用いてなる第2マッシュルームセル(2B)と、を備え、
前記第1マッシュルームセル及び前記第2マッシュルームセルはそれぞれ、前記地板と所定の間隔をおいて配置された平板状の導体部材である対向導体板(3)と、前記対向導体板と前記地板とを電気的に接続する短絡部(4)と、を含み、前記短絡部が備えるインダクタンスと、前記地板と前記対向導体板とが形成する静電容量とを用いて所定の対象周波数で並列共振するように構成されており、
前記線状給電素子は、複数の前記対向導体板のそれぞれと、
0.02λ(λは前記対象周波数の電波の波長)未満の間隔を有するように配置されて
おり、
前記地板と前記対向導体板の間には、前記対象周波数の無線信号を送信又は受信するための信号処理を行う回路が配された回路基板を収容する金属製のシールドケース(10)が、前記地板と電気的に接続するように配置されており、
前記対向導体板の縁部の一部は、上面視において前記シールドケースの外側にはみ出すように形成されており、
前記第1マッシュルームセル及び前記第2マッシュルームセルは所定の並列方向に沿って所定の間隔をおいて配置されており、
前記対向導体板の前記並列方向に直交する方向である幅方向の長さは、前記シールドケースの前記幅方向の長さよりも大きく設定されているアンテナ装置。
【請求項2】
請求項
1に記載のアンテナ装置であって、
前記第1マッシュルームセル及び前記第2マッシュルームセルのそれぞれの前記対向導体板は矩形状であって、
各前記対向導体板は、前記幅方向の両側の縁部が前記シールドケースの外側にはみ出すように配置されているアンテナ装置。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載のアンテナ装置であって、
前記線状給電素子は、前記対向導体板の縁部の一部と近接するように形成されており
前記対向導体板において前記線状給電素子と近接する縁部である近接縁(31)には、当該近接縁から内側に向かって伸びる切り込み部(32)が設けられており、
前記線状給電素子は、前記切り込み部の内側に入り込むように形成された線状の枝部(63)を備えるアンテナ装置。
【請求項4】
平板状の導体部材である地板(1)と、
非ループ状に形成されてあって任意の位置に給電点が設けられた、線状の導体部材である線状給電素子(6)と、
導体部材を用いてなる第1マッシュルームセル(2A)と、
導体部材を用いてなる第2マッシュルームセル(2B)と、を備え、
前記第1マッシュルームセル及び前記第2マッシュルームセルはそれぞれ、前記地板と所定の間隔をおいて配置された平板状の導体部材である対向導体板(3)と、前記対向導体板と前記地板とを電気的に接続する短絡部(4)と、を含み、前記短絡部が備えるインダクタンスと、前記地板と前記対向導体板とが形成する静電容量とを用いて所定の対象周波数で並列共振するように構成されており、
前記線状給電素子は、複数の前記対向導体板のそれぞれと、
0.02λ(λは前記対象周波数の電波の波長)未満の間隔を有するように配置されて
おり、
前記線状給電素子は、前記対向導体板の縁部の一部と近接するように形成されており、
前記対向導体板において前記線状給電素子と近接する縁部である近接縁(31)には、当該近接縁から内側に向かって伸びる切り込み部(32)が設けられており、
前記線状給電素子は、前記切り込み部の内側に入り込むように形成された線状の枝部(63)を備えるアンテナ装置。
【請求項5】
請求項
3又は4に記載のアンテナ装置であって、
前記第1マッシュルームセル及び前記第2マッシュルームセルは所定の並列方向に沿って所定の間隔をおいて配置されており、
前記線状給電素子は、前記並列方向に沿って伸びる本線部(64)と、前記枝部とを含み、
前記枝部及び前記切り込み部は、前記本線部に対して直角に形成されており、
前記切り込み部は、前記枝部に対して
0.02λ未満の離隔を有するように形成されているアンテナ装置。
【請求項6】
請求項1
又は2に記載のアンテナ装置であって、
前記第1マッシュルームセルの前記対向導体板と前記第2マッシュルームセルの前記対向導体板は、同一の平面において、所定の並列方向に沿って所定の間隔をおいて配置されており、
前記線状給電素子は、前記並列方向に沿うように、前記対向導体板の上側又は下側に配置されており、
前記第1マッシュルームセル及び前記第2マッシュルームセルのそれぞれの前記対向導体板において、前記線状給電素子と対向する部分の一部には給電用のスロット(35)が形成されているアンテナ装置。
【請求項7】
平板状の導体部材である地板(1)と、
非ループ状に形成されてあって任意の位置に給電点が設けられた、線状の導体部材である線状給電素子(6)と、
導体部材を用いてなる第1マッシュルームセル(2A)と、
導体部材を用いてなる第2マッシュルームセル(2B)と、を備え、
前記第1マッシュルームセル及び前記第2マッシュルームセルはそれぞれ、前記地板と所定の間隔をおいて配置された平板状の導体部材である対向導体板(3)と、前記対向導体板と前記地板とを電気的に接続する短絡部(4)と、を含み、前記短絡部が備えるインダクタンスと、前記地板と前記対向導体板とが形成する静電容量とを用いて所定の対象周波数で並列共振するように構成されており、
前記線状給電素子は、複数の前記対向導体板のそれぞれと、
0.02λ(λは前記対象周波数の電波の波長)未満の間隔を有するように配置されて
おり、
前記第1マッシュルームセルの前記対向導体板と前記第2マッシュルームセルの前記対向導体板は、同一の平面において、所定の並列方向に沿って所定の間隔をおいて配置されており、
前記線状給電素子は、前記並列方向に沿うように、前記対向導体板の上側又は下側に配置されており、
前記第1マッシュルームセル及び前記第2マッシュルームセルのそれぞれの前記対向導体板において、前記線状給電素子と対向する部分の一部には給電用のスロット(35)が形成されているアンテナ装置。
【請求項8】
請求項1から
7の何れか1項に記載のアンテナ装置であって、
前記第1マッシュルームセルの前記対向導体板である第1対向導体板と、前記第2マッシュルームセルの前記対向導体板である第2対向導体板とは互いに寸法が異なっているアンテナ装置。
【請求項9】
平板状の導体部材である地板(1)と、
非ループ状に形成されてあって任意の位置に給電点が設けられた、線状の導体部材である線状給電素子(6)と、
導体部材を用いてなる第1マッシュルームセル(2A)と、
導体部材を用いてなる第2マッシュルームセル(2B)と、を備え、
前記第1マッシュルームセル及び前記第2マッシュルームセルはそれぞれ、前記地板と所定の間隔をおいて配置された平板状の導体部材である対向導体板(3)と、前記対向導体板と前記地板とを電気的に接続する短絡部(4)と、を含み、前記短絡部が備えるインダクタンスと、前記地板と前記対向導体板とが形成する静電容量とを用いて所定の対象周波数で並列共振するように構成されており、
前記線状給電素子は、複数の前記対向導体板のそれぞれと、
0.02λ(λは前記対象周波数の電波の波長)未満の間隔を有するように配置されて
おり、
前記第1マッシュルームセルの前記対向導体板である第1対向導体板と、前記第2マッシュルームセルの前記対向導体板である第2対向導体板とは互いに寸法が異なっているアンテナ装置。
【請求項10】
請求項1から9の何れか1項に記載のアンテナ装置であって、
前記第1マッシュルームセルの前記対向導体板と前記線状給電素子との離隔と、前記第2マッシュルームセルの前記対向導体板と前記線状給電素子との離隔は異なっているアンテナ装置。
【請求項11】
平板状の導体部材である地板(1)と、
非ループ状に形成されてあって任意の位置に給電点が設けられた、線状の導体部材である線状給電素子(6)と、
導体部材を用いてなる第1マッシュルームセル(2A)と、
導体部材を用いてなる第2マッシュルームセル(2B)と、を備え、
前記第1マッシュルームセル及び前記第2マッシュルームセルはそれぞれ、前記地板と所定の間隔をおいて配置された平板状の導体部材である対向導体板(3)と、前記対向導体板と前記地板とを電気的に接続する短絡部(4)と、を含み、前記短絡部が備えるインダクタンスと、前記地板と前記対向導体板とが形成する静電容量とを用いて所定の対象周波数で並列共振するように構成されており、
前記線状給電素子は、複数の前記対向導体板のそれぞれと、
0.02λ(λは前記対象周波数の電波の波長)未満の間隔を有するように配置されて
おり、
前記第1マッシュルームセルの前記対向導体板と前記線状給電素子との離隔と、前記第2マッシュルームセルの前記対向導体板と前記線状給電素子との離隔は異なっているアンテナ装置。
【請求項12】
平板状の導体部材である地板(1)と、
非ループ状に形成されてあって任意の位置に給電点が設けられた、線状の導体部材である線状給電素子(6)と、
導体部材を用いてなる第1マッシュルームセル(2A)と、
導体部材を用いてなる第2マッシュルームセル(2B)と、
所定の対象周波数の無線信号を送信又は受信するための信号処理を行う回路モジュール(91)と、を備え、
前記第1マッシュルームセル及び前記第2マッシュルームセルはそれぞれ、前記地板と所定の間隔をおいて配置された平板状の導体部材である対向導体板(3)と、前記対向導体板と前記地板とを電気的に接続する短絡部(4)と、を含み、前記短絡部が備えるインダクタンスと、前記地板と前記対向導体板とが形成する静電容量とを用いて前記対象周波数で並列共振するように構成されており、
前記線状給電素子は、複数の前記対向導体板のそれぞれと、
0.02λ(λは前記対象周波数の電波の波長)未満の間隔を有するように配置されて
おり、
前記地板と前記対向導体板の間には、前記対象周波数の無線信号を送信又は受信するための信号処理を行う回路が配された回路基板を収容する金属製のシールドケース(10)が、前記地板と電気的に接続するように配置されており、
前記対向導体板の縁部の一部は、上面視において前記シールドケースの外側にはみ出すように形成されており、
前記第1マッシュルームセル及び前記第2マッシュルームセルは所定の並列方向に沿って所定の間隔をおいて配置されており、
前記対向導体板の前記並列方向に直交する方向である幅方向の長さは、前記シールドケースの前記幅方向の長さよりも大きく設定されている通信装置。
【請求項13】
平板状の導体部材である地板(1)と、
非ループ状に形成されてあって任意の位置に給電点が設けられた、線状の導体部材である線状給電素子(6)と、
導体部材を用いてなる第1マッシュルームセル(2A)と、
導体部材を用いてなる第2マッシュルームセル(2B)と、
所定の対象周波数の無線信号を送信又は受信するための信号処理を行う回路モジュール(91)と、を備え、
前記第1マッシュルームセル及び前記第2マッシュルームセルはそれぞれ、前記地板と所定の間隔をおいて配置された平板状の導体部材である対向導体板(3)と、前記対向導体板と前記地板とを電気的に接続する短絡部(4)と、を含み、前記短絡部が備えるインダクタンスと、前記地板と前記対向導体板とが形成する静電容量とを用いて前記対象周波数で並列共振するように構成されており、
前記線状給電素子は、複数の前記対向導体板のそれぞれと、
0.02λ(λは前記対象周波数の電波の波長)未満の間隔を有するように配置されて
おり、
前記線状給電素子は、前記対向導体板の縁部の一部と近接するように形成されており、
前記対向導体板において前記線状給電素子と近接する縁部である近接縁(31)には、当該近接縁から内側に向かって伸びる切り込み部(32)が設けられており、
前記線状給電素子は、前記切り込み部の内側に入り込むように形成された線状の枝部(63)を備える通信装置。
【請求項14】
平板状の導体部材である地板(1)と、
非ループ状に形成されてあって任意の位置に給電点が設けられた、線状の導体部材である線状給電素子(6)と、
導体部材を用いてなる第1マッシュルームセル(2A)と、
導体部材を用いてなる第2マッシュルームセル(2B)と、
所定の対象周波数の無線信号を送信又は受信するための信号処理を行う回路モジュール(91)と、を備え、
前記第1マッシュルームセル及び前記第2マッシュルームセルはそれぞれ、前記地板と所定の間隔をおいて配置された平板状の導体部材である対向導体板(3)と、前記対向導体板と前記地板とを電気的に接続する短絡部(4)と、を含み、前記短絡部が備えるインダクタンスと、前記地板と前記対向導体板とが形成する静電容量とを用いて前記対象周波数で並列共振するように構成されており、
前記線状給電素子は、複数の前記対向導体板のそれぞれと、
0.02λ(λは前記対象周波数の電波の波長)未満の間隔を有するように配置されて
おり、
前記第1マッシュルームセルの前記対向導体板と前記第2マッシュルームセルの前記対向導体板は、同一の平面において、所定の並列方向に沿って所定の間隔をおいて配置されており、
前記線状給電素子は、前記並列方向に沿うように、前記対向導体板の上側又は下側に配置されており、
前記第1マッシュルームセル及び前記第2マッシュルームセルのそれぞれの前記対向導体板において、前記線状給電素子と対向する部分の一部には給電用のスロット(35)が形成されている通信装置。
【請求項15】
平板状の導体部材である地板(1)と、
非ループ状に形成されてあって任意の位置に給電点が設けられた、線状の導体部材である線状給電素子(6)と、
導体部材を用いてなる第1マッシュルームセル(2A)と、
導体部材を用いてなる第2マッシュルームセル(2B)と、
所定の対象周波数の無線信号を送信又は受信するための信号処理を行う回路モジュール(91)と、を備え、
前記第1マッシュルームセル及び前記第2マッシュルームセルはそれぞれ、前記地板と所定の間隔をおいて配置された平板状の導体部材である対向導体板(3)と、前記対向導体板と前記地板とを電気的に接続する短絡部(4)と、を含み、前記短絡部が備えるインダクタンスと、前記地板と前記対向導体板とが形成する静電容量とを用いて前記対象周波数で並列共振するように構成されており、
前記線状給電素子は、複数の前記対向導体板のそれぞれと、
0.02λ(λは前記対象周波数の電波の波長)未満の間隔を有するように配置されて
おり、
前記第1マッシュルームセルの前記対向導体板である第1対向導体板と、前記第2マッシュルームセルの前記対向導体板である第2対向導体板とは互いに寸法が異なっている通信装置。
【請求項16】
平板状の導体部材である地板(1)と、
非ループ状に形成されてあって任意の位置に給電点が設けられた、線状の導体部材である線状給電素子(6)と、
導体部材を用いてなる第1マッシュルームセル(2A)と、
導体部材を用いてなる第2マッシュルームセル(2B)と、
所定の対象周波数の無線信号を送信又は受信するための信号処理を行う回路モジュール(91)と、を備え、
前記第1マッシュルームセル及び前記第2マッシュルームセルはそれぞれ、前記地板と所定の間隔をおいて配置された平板状の導体部材である対向導体板(3)と、前記対向導体板と前記地板とを電気的に接続する短絡部(4)と、を含み、前記短絡部が備えるインダクタンスと、前記地板と前記対向導体板とが形成する静電容量とを用いて前記対象周波数で並列共振するように構成されており、
前記線状給電素子は、複数の前記対向導体板のそれぞれと、
0.02λ(λは前記対象周波数の電波の波長)未満の間隔を有するように配置されて
おり、
前記第1マッシュルームセルの前記対向導体板と前記線状給電素子との離隔と、前記第2マッシュルームセルの前記対向導体板と前記線状給電素子との離隔は異なっている通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、メタマテリアルの応用技術である0次共振を利用したアンテナを備えたアンテナ装置、通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、グランドとして機能する平板状の金属導体である地板と、当該地板に対向するように配置される平板状の金属導体であるパッチ部と、パッチ部の中央を地板に電気的に接続する短絡部と、を備える構造のアンテナが開示されている。この構造は、いわゆるマッシュルーム構造であり、メタマテリアルの基本構造と同じである。この種のアンテナ装置は、1つの側面において、メタマテリアル技術を応用したアンテナと解することができるため、メタマテリアルアンテナと称されることがある。
【0003】
メタマテリアルアンテナでは、地板とパッチ部との間に形成される静電容量と、短絡部が備えるインダクタンスとによって、その静電容量とインダクタンスに応じた周波数において並列共振を生じさせる。なお、メタマテリアルの分散特性のうち、位相定数βがゼロ(0)となる周波数で共振する現象は0次共振と呼ばれる。位相定数βは、伝送線路を伝搬する波の伝搬係数γの虚部である。上記アンテナは、1つの側面において、所望の動作周波数において0次共振モードで動作するように設計されたアンテナと解することができる。故に、上記アンテナは0次共振アンテナとも称されることもある。
【0004】
特許文献2には、メタマテリアルアンテナの動作周波数範囲の拡大を目的とした構成が開示されている。すなわち、特許文献2には、三角形のパッチ部と短絡部とを1セットとして備える6個のセルを全体として正六角形状となるように配置し且つその外側にループ状の導体部材であるループ部を配置した構成が開示されている。特許文献2の構成において給電点はループ部に設けられており、各セルにはループ部を介して給電される。なお、特許文献3には、特許文献2に開示の構成の改良版として、4個のセルとループを用いた構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-5663号公報
【文献】特開2017-153032号公報
【文献】特開2019-129439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アンテナ装置は小型化が要求されている。特許文献2-3に開示の構成によれば動作周波数の拡大効果が期待できるが、対象周波数で動作するセルを4個又は6個配置する必要があるとともに、ループ状の給電用導体が必要となる。そのため、サイズの観点で改善の余地があった。
【0007】
本開示は、上記の着眼点に基づいて成されたものであり、その目的の1つは、動作周波数範囲を増大しつつ、より小型化が可能なアンテナ装置、通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここに開示される第1のアンテナ装置は、平板状の導体部材である地板(1)と、非ループ状に形成されてあって任意の位置に給電点が設けられた、線状の導体部材である線状給電素子(6)と、導体部材を用いてなる第1マッシュルームセル(2A)と、導体部材を用いてなる第2マッシュルームセル(2B)と、を備え、第1マッシュルームセル及び第2マッシュルームセルはそれぞれ、地板と所定の間隔をおいて配置された平板状の導体部材である対向導体板(3)と、対向導体板と地板とを電気的に接続する短絡部(4)と、を含み、短絡部が備えるインダクタンスと、地板と対向導体板とが形成する静電容量とを用いて所定の対象周波数で並列共振するように構成されており、線状給電素子は、複数の対向導体板のそれぞれと、0.02λ(λは対象周波数の電波の波長)未満の間隔を有するように配置されており、地板と対向導体板の間には、対象周波数の無線信号を送信又は受信するための信号処理を行う回路が配された回路基板を収容する金属製のシールドケース(10)が、地板と電気的に接続するように配置されており、対向導体板の縁部の一部は、上面視においてシールドケースの外側にはみ出すように形成されており、第1マッシュルームセル及び第2マッシュルームセルは所定の並列方向に沿って所定の間隔をおいて配置されており、対向導体板の並列方向に直交する方向である幅方向の長さは、シールドケースの幅方向の長さよりも大きく設定されている。
本開示に含まれる第2のアンテナ装置は、平板状の導体部材である地板(1)と、非ループ状に形成されてあって任意の位置に給電点が設けられた、線状の導体部材である線状給電素子(6)と、導体部材を用いてなる第1マッシュルームセル(2A)と、導体部材を用いてなる第2マッシュルームセル(2B)と、を備え、第1マッシュルームセル及び第2マッシュルームセルはそれぞれ、地板と所定の間隔をおいて配置された平板状の導体部材である対向導体板(3)と、対向導体板と地板とを電気的に接続する短絡部(4)と、を含み、短絡部が備えるインダクタンスと、地板と対向導体板とが形成する静電容量とを用いて所定の対象周波数で並列共振するように構成されており、線状給電素子は、複数の対向導体板のそれぞれと、0.02λ(λは対象周波数の電波の波長)未満の間隔を有するように配置されており、線状給電素子は、対向導体板の縁部の一部と近接するように形成されており対向導体板において線状給電素子と近接する縁部である近接縁(31)には、当該近接縁から内側に向かって伸びる切り込み部(32)が設けられており、線状給電素子は、切り込み部の内側に入り込むように形成された線状の枝部(63)を備える。
本開示に含まれる第3のアンテナ装置は、平板状の導体部材である地板(1)と、非ループ状に形成されてあって任意の位置に給電点が設けられた、線状の導体部材である線状給電素子(6)と、導体部材を用いてなる第1マッシュルームセル(2A)と、導体部材を用いてなる第2マッシュルームセル(2B)と、を備え、第1マッシュルームセル及び第2マッシュルームセルはそれぞれ、地板と所定の間隔をおいて配置された平板状の導体部材である対向導体板(3)と、対向導体板と地板とを電気的に接続する短絡部(4)と、を含み、短絡部が備えるインダクタンスと、地板と対向導体板とが形成する静電容量とを用いて所定の対象周波数で並列共振するように構成されており、線状給電素子は、複数の対向導体板のそれぞれと、0.02λ(λは対象周波数の電波の波長)未満の間隔を有するように配置されており、第1マッシュルームセルの対向導体板と第2マッシュルームセルの対向導体板は、同一の平面において、所定の並列方向に沿って所定の間隔をおいて配置されており、線状給電素子は、並列方向に沿うように、対向導体板の上側又は下側に配置されており、第1マッシュルームセル及び第2マッシュルームセルのそれぞれの対向導体板において、線状給電素子と対向する部分の一部には給電用のスロット(35)が形成されている。
本開示に含まれる第4のアンテナ装置は、平板状の導体部材である地板(1)と、非ループ状に形成されてあって任意の位置に給電点が設けられた、線状の導体部材である線状給電素子(6)と、導体部材を用いてなる第1マッシュルームセル(2A)と、導体部材を用いてなる第2マッシュルームセル(2B)と、を備え、第1マッシュルームセル及び第2マッシュルームセルはそれぞれ、地板と所定の間隔をおいて配置された平板状の導体部材である対向導体板(3)と、対向導体板と地板とを電気的に接続する短絡部(4)と、を含み、短絡部が備えるインダクタンスと、地板と対向導体板とが形成する静電容量とを用いて所定の対象周波数で並列共振するように構成されており、線状給電素子は、複数の対向導体板のそれぞれと、0.02λ(λは対象周波数の電波の波長)未満の間隔を有するように配置されており、第1マッシュルームセルの対向導体板である第1対向導体板と、第2マッシュルームセルの対向導体板である第2対向導体板とは互いに寸法が異なっている。
本開示に含まれる第5のアンテナ装置は、平板状の導体部材である地板(1)と、非ループ状に形成されてあって任意の位置に給電点が設けられた、線状の導体部材である線状給電素子(6)と、導体部材を用いてなる第1マッシュルームセル(2A)と、導体部材を用いてなる第2マッシュルームセル(2B)と、を備え、第1マッシュルームセル及び第2マッシュルームセルはそれぞれ、地板と所定の間隔をおいて配置された平板状の導体部材である対向導体板(3)と、対向導体板と地板とを電気的に接続する短絡部(4)と、を含み、短絡部が備えるインダクタンスと、地板と対向導体板とが形成する静電容量とを用いて所定の対象周波数で並列共振するように構成されており、線状給電素子は、複数の対向導体板のそれぞれと、0.02λ(λは対象周波数の電波の波長)未満の間隔を有するように配置されており、第1マッシュルームセルの対向導体板と線状給電素子との離隔と、第2マッシュルームセルの対向導体板と線状給電素子との離隔は異なっている。
【0009】
上記構成において線状給電素子は各対向導体板との間隔が所定値未満となるように配置されていることによって対象周波数付近で電磁気的に結合する。そのため、各マッシュルームセルには線状給電素子を介して間接的に給電が行われることとなる。ただし、線状給電素子において、給電点から第1マッシュルームセルに至るまでの長さと、給電点から第2マッシュルームセルに至るまでの長さは相違する。そのため、各マッシュルームセルに接続する、線状給電素子由来のインダクタンス成分は微小量異なる。その結果、第1マッシュルームセルの共振周波数と第2マッシュルームセルの共振周波数もまた微小量(例えば対象周波数の5%程度)ずれる。その結果、装置全体としては動作帯域が広がる。また上記構成ではマッシュルームセルは少なくとも2つあればよく、4つ又は6つのマッシュルームセルを必要としない。加えて、線状給電素子もまたループ状である必要はない。故に上記構成によれば、動作周波数範囲を増大しつつ、より小型化が可能となる。
【0010】
また、ここに開示される第1の通信装置は、平板状の導体部材である地板(1)と、非ループ状に形成されてあって任意の位置に給電点が設けられた、線状の導体部材である線状給電素子(6)と、導体部材を用いてなる第1マッシュルームセル(2A)と、導体部材を用いてなる第2マッシュルームセル(2B)と、所定の対象周波数の無線信号を送信又は受信するための信号処理を行う回路モジュール(91)と、を備え、第1マッシュルームセル及び第2マッシュルームセルはそれぞれ、地板と所定の間隔をおいて配置された平板状の導体部材である対向導体板(3)と、対向導体板と地板とを電気的に接続する短絡部(4)と、を含み、短絡部が備えるインダクタンスと、地板と対向導体板とが形成する静電容量とを用いて対象周波数で並列共振するように構成されており、線状給電素子は、複数の対向導体板のそれぞれと、0.02λ(λは対象周波数の電波の波長)未満の間隔を有するように配置されており、地板と対向導体板の間には、対象周波数の無線信号を送信又は受信するための信号処理を行う回路が配された回路基板を収容する金属製のシールドケース(10)が、地板と電気的に接続するように配置されており、対向導体板の縁部の一部は、上面視においてシールドケースの外側にはみ出すように形成されており、第1マッシュルームセル及び第2マッシュルームセルは所定の並列方向に沿って所定の間隔をおいて配置されており、対向導体板の並列方向に直交する方向である幅方向の長さは、シールドケースの幅方向の長さよりも大きく設定されている。
本開示に含まれる第2の通信装置は、平板状の導体部材である地板(1)と、非ループ状に形成されてあって任意の位置に給電点が設けられた、線状の導体部材である線状給電素子(6)と、導体部材を用いてなる第1マッシュルームセル(2A)と、導体部材を用いてなる第2マッシュルームセル(2B)と、所定の対象周波数の無線信号を送信又は受信するための信号処理を行う回路モジュール(91)と、を備え、第1マッシュルームセル及び第2マッシュルームセルはそれぞれ、地板と所定の間隔をおいて配置された平板状の導体部材である対向導体板(3)と、対向導体板と地板とを電気的に接続する短絡部(4)と、を含み、短絡部が備えるインダクタンスと、地板と対向導体板とが形成する静電容量とを用いて対象周波数で並列共振するように構成されており、線状給電素子は、複数の対向導体板のそれぞれと、0.02λ(λは対象周波数の電波の波長)未満の間隔を有するように配置されており、線状給電素子は、対向導体板の縁部の一部と近接するように形成されており対向導体板において線状給電素子と近接する縁部である近接縁(31)には、当該近接縁から内側に向かって伸びる切り込み部(32)が設けられており、線状給電素子は、切り込み部の内側に入り込むように形成された線状の枝部(63)を備える。
本開示に含まれる第3の通信装置は、平板状の導体部材である地板(1)と、非ループ状に形成されてあって任意の位置に給電点が設けられた、線状の導体部材である線状給電素子(6)と、導体部材を用いてなる第1マッシュルームセル(2A)と、導体部材を用いてなる第2マッシュルームセル(2B)と、所定の対象周波数の無線信号を送信又は受信するための信号処理を行う回路モジュール(91)と、を備え、第1マッシュルームセル及び第2マッシュルームセルはそれぞれ、地板と所定の間隔をおいて配置された平板状の導体部材である対向導体板(3)と、対向導体板と地板とを電気的に接続する短絡部(4)と、を含み、短絡部が備えるインダクタンスと、地板と対向導体板とが形成する静電容量とを用いて対象周波数で並列共振するように構成されており、線状給電素子は、複数の対向導体板のそれぞれと、0.02λ(λは対象周波数の電波の波長)未満の間隔を有するように配置されており、第1マッシュルームセルの対向導体板と第2マッシュルームセルの対向導体板は、同一の平面において、所定の並列方向に沿って所定の間隔をおいて配置されており、線状給電素子は、並列方向に沿うように、対向導体板の上側又は下側に配置されており、第1マッシュルームセル及び第2マッシュルームセルのそれぞれの対向導体板において、線状給電素子と対向する部分の一部には給電用のスロット(35)が形成されている。
本開示に含まれる第4の通信装置は、平板状の導体部材である地板(1)と、非ループ状に形成されてあって任意の位置に給電点が設けられた、線状の導体部材である線状給電素子(6)と、導体部材を用いてなる第1マッシュルームセル(2A)と、導体部材を用いてなる第2マッシュルームセル(2B)と、所定の対象周波数の無線信号を送信又は受信するための信号処理を行う回路モジュール(91)と、を備え、第1マッシュルームセル及び第2マッシュルームセルはそれぞれ、地板と所定の間隔をおいて配置された平板状の導体部材である対向導体板(3)と、対向導体板と地板とを電気的に接続する短絡部(4)と、を含み、短絡部が備えるインダクタンスと、地板と対向導体板とが形成する静電容量とを用いて対象周波数で並列共振するように構成されており、線状給電素子は、複数の対向導体板のそれぞれと、0.02λ(λは対象周波数の電波の波長)未満の間隔を有するように配置されており、第1マッシュルームセルの対向導体板である第1対向導体板と、第2マッシュルームセルの対向導体板である第2対向導体板とは互いに寸法が異なっている。
本開示に含まれる第5の通信装置は、平板状の導体部材である地板(1)と、非ループ状に形成されてあって任意の位置に給電点が設けられた、線状の導体部材である線状給電素子(6)と、導体部材を用いてなる第1マッシュルームセル(2A)と、導体部材を用いてなる第2マッシュルームセル(2B)と、所定の対象周波数の無線信号を送信又は受信するための信号処理を行う回路モジュール(91)と、を備え、第1マッシュルームセル及び第2マッシュルームセルはそれぞれ、地板と所定の間隔をおいて配置された平板状の導体部材である対向導体板(3)と、対向導体板と地板とを電気的に接続する短絡部(4)と、を含み、短絡部が備えるインダクタンスと、地板と対向導体板とが形成する静電容量とを用いて対象周波数で並列共振するように構成されており、線状給電素子は、複数の対向導体板のそれぞれと、0.02λ(λは対象周波数の電波の波長)未満の間隔を有するように配置されており、第1マッシュルームセルの対向導体板と線状給電素子との離隔と、第2マッシュルームセルの対向導体板と線状給電素子との離隔は異なっている。
【0011】
当該構成によれば、上記のアンテナ装置と同様の理由により、動作周波数を増大しつつ、より小型化が可能となる。
【0012】
なお、特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図3】
図1に示すIII-III線に沿った断面を概念的に示す図である。
【
図4】
図1に示すIV-IV線に沿った断面を概念的に示す図である。
【
図5】メタマテリアルアンテナの基本構成を説明するための図である。
【
図6】メタマテリアルアンテナの基本構成の指向性を示す図である。
【
図8】提案構成において短絡部の半径を変化させたときの周波数ごとのVSWRを示す図である。
【
図9】提案構成(r=5mm)における1.2GHzでの指向性を示す図である。
【
図10】提案構成(r=5mm)における1.3GHzでの指向性を示す図である。
【
図11】比較構成と提案構成とのVSWR特性を並べて示す図である。
【
図14】第1変形構成のVSWR特性を示す図である。
【
図15】第1変更構成に対応する比較構成を説明するための図である。
【
図16】第1変形構成における1.16GHzでの指向性を示す図である。
【
図17】第1変形構成における1.32GHzでの指向性を示す図である。
【
図30】短絡部の半径を小さくするほどVSWRが3以下となる周波数が少なくなることを説明するための図である。
【
図31】第2変形構成(r=1mm)のVSWR特性を示す図である。
【
図32】第2変形構成(r=1mm)の810MHzでの指向性を示す図である。
【
図33】第2変形構成(r=1mm)の930MHzでの指向性を示す図である。
【
図37】
図36に示すXXXVII-XXXVII線に沿った断面を概念的に示す図である。
【
図39】
図38に示すXXXIX-XXXIX線に沿った断面を概念的に示す図である。
【
図40】第3変形構成におけるVSWR特性を示す図である。
【
図41】第3変形構成における指向性を試験した結果を示す図である。
【
図44】第4変形構成におけるVSWR特性を示す図である。
【
図45】第4変形構成の820MHzでの指向性を示す図である。
【
図46】第4変形構成の980MHzでの指向性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施形態について図を用いて説明する。なお、以降において同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。また、構成の一部のみに言及している場合、他の部分については先に説明した実施形態の構成を適用することができる。
【0015】
<前置き>
本開示のアンテナ装置100は、例えば、車両などの移動体に取り付けられて用いられる。アンテナ装置100は、国際電気通信連合によって規定されている、産業及び科学などの分野で汎用的に使うために割り当てられた周波数の帯域(いわゆるISMバンド)に属する電波を送受信可能に構成されている。便宜上、アンテナ装置100が送受信の対象とする帯域のことを対象周波数帯と称する。アンテナ装置100は、送信と受信の何れか一方のみに利用されても良い。電波の送受信には可逆性があるため、或る周波数の電波を送信可能な構成は、当該周波数の電波を受信可能な構成でもある。以下における送受信との記載は送信と受信の少なくとも何れか一方を意味する。
【0016】
送受信の対象とする帯域の中心周波数である主対象周波数は、ここでは一例として1.3GHzとする。アンテナ装置100は、主対象周波数だけでなく、主対象周波数を基準として定まる所定範囲内の周波数の電波もまた送受信可能である。例えばアンテナ装置100は、後述するように1.2GHzから1.4GHzまでの帯域(以降、1.3GHz帯)に属する周波数を送受信可能に構成されている。
【0017】
もちろん、主対象周波数は適宜設計されれば良く、他の態様として例えば760MHzや、850MHz、900MHz、1.17GHz、1.28GHz、1.55GHz、2.4GHz、5.9GHz等としてもよい。例えば、アンテナ装置100は、Bluetooth Low Energy(Bluetoothは登録商標)や、Wi-Fi(登録商標)等といった、近距離無線通信で使用される周波数帯の電波を送受信可能に構成されていてもよい。また、アンテナ装置100は、UWB-IR(Ultra Wide Band - Impulse Radio)通信で使用される周波数帯で動作するように設計されていても良い。
【0018】
以降における「λ」は、主対象周波数の電波の波長(以降、対象波長とも記載)を表す。例えば「λ/2」及び「0.5λ」は対象波長の半分の長さを指し、「λ/4」及び「0.25λ」は対象波長の4分の1の長さを指す。なお、真空中及び空気中における1.3GHzの電波の波長(つまりλ)は230.6mmである。以下の部材の寸法は、1.3GHzを想定した場合の一例であって、主対象周波数に応じて変更可能である。周波数と波長は反比例の関係にあるため、例えば、2.6GHzを主対象周波数とする場合には、以下に例示する寸法を1/2倍した値を目安として本開示を実施する事ができる。実効的な波長は誘電体による短縮効果を受けることを踏まえて、各部材の寸法は調整されうる。
【0019】
当該アンテナ装置100は、例えばケーブルを介して、車両に搭載されている通信用のECU(Electronic Control Unit)と接続されて使用される。アンテナ装置100が受信した信号は、通信用ECUに逐次出力される。また、アンテナ装置100は通信用ECUから入力される信号に基づいて動作し、電波を放射する。通信用ECUは、アンテナ装置100が受信した信号を利用するとともに、当該アンテナ装置100に対して送信信号を入力する装置である。
【0020】
ここでは一例としてアンテナ装置100と通信用ECUとは、AV線で接続する場合を想定して説明する。AV線は、自動車用低圧電線であって、軟銅より線を例えば塩化ビニルなどの絶縁材料で被覆することによって実現されている。AV線の「A」は自動車用低圧電線を指し、「V」はビニルを指す。アンテナ装置100に接続するAV線としては、接地電位を提供するためのAV線である接地用ケーブルと、信号が流れるAV線である信号用ケーブルとがある。なお、アンテナ装置100と通信用ECUとの接続ケーブルとしては、自動車用薄肉低圧電線(AVSSケーブル)や、自動車用圧縮導体超薄肉塩化ビニル絶縁低圧電線(CIVUSケーブル)なども採用可能である。AVSSの「SS」は極薄肉型を指す。CIVUSの「C」は圧縮導体型、「I」はISO規格、「V」はビニル、「US」は超極薄肉型を指す。また、アンテナ装置100と通信用ECUとを接続するケーブルとしては同軸ケーブルやフィーダ線など、その他の通信ケーブルを用いて接続しても良い。
【0021】
本開示での「平行」とは完全な平行状態に限らない。数度から15度程度傾いていても良い。つまり概ね平行である状態(いわゆる略平行な状態)を含みうる。本開示における「垂直」という表現についても、完全に垂直な状態に限らず、数度~15度程度傾いている態様も含まれる。本開示において対向とは、所定の間隔を有して向き合っている状態を示す。
【0022】
<アンテナ装置100の具体的な構成について>
以下、アンテナ装置100の具体的な構成について述べる。アンテナ装置100は、
図1等に示すように、地板1、第1マッシュルームセル2A、第2マッシュルームセル2B、支持部5、及び、線状給電素子6を備える。便宜上、
図1~
図4に示すアンテナ装置100は、別途後述する基本構成200や比較構成300と区別するために、提案構成とも称する。
【0023】
第1マッシュルームセル2A及び第2マッシュルームセル2Bはそれぞれ、対向導体板3と、対向導体板3の中央領域を地板1と電気的に接続する短絡部4とを備える。このような構造は、メタマテリアルの基本構造であるマッシュルーム構造に相当する。第1マッシュルームセル2A及び第2マッシュルームセル2Bは、以下に説明の通り、地板1との協働によりメタマテリアルアンテナとして動作するように設定されている。なお、
図2では地板1を明示するために、支持部5の図示を省略している。第1マッシュルームセル2Aと第2マッシュルームセル2Bを区別しない場合にはこれらをマッシュルームセル2と記載する。マッシュルームセル2は、共振器あるいは共振構造体と呼ぶこともできる。
【0024】
便宜上、第1マッシュルームセル2Aが備える対向導体板3と、第2マッシュルームセル2Bが備える対向導体板3とを区別する場合、第1マッシュルームセル2Aが備える対向導体板3のことを第1対向導体板3Aと記載する。また、第2マッシュルームセル2Bが備える対向導体板3のことを第2対向導体板3Bと記載する。第1短絡部4Aとの記載は第1マッシュルームセル2Aの短絡部4を指し、第2短絡部4Bとの記載は第2マッシュルームセル2Bの短絡部4を指す。第1マッシュルームセル2Aが備える要素と、第2マッシュルームセル2Bが備える要素とを区別しない場合には単に対向導体板3、短絡部4と記載する。
【0025】
本実施形態では一例として第1対向導体板3Aと第2対向導体板3Bは、同一形状に構成されている。また第1短絡部4Aと第2短絡部4Bも同一形状とする。
【0026】
第1マッシュルームセル2Aと第2マッシュルームセル2Bは、所定の間隔Dabをおいて所定の並列方向に沿って地板1の上側に形成されている。
図1等の種々の図に示すX軸は、第1マッシュルームセル2Aと第2マッシュルームセル2Bが並ぶ方向である並列方向を表している。つまりX軸方向が並列方向に対応する。また、X軸はアンテナ装置100にとっての高さ方向を示している。Y軸は、X軸及びZ軸に直交する軸である。Y軸方向が幅方向に対応する。これらX軸、Y軸、及びZ軸を備える3次元座標系は、アンテナ装置100の構成を説明するための概念である。以降では適宜X軸、Y軸、Z軸を用いてアンテナ装置100の構成について説明する。
【0027】
地板1は、銅などの導体を素材とする板状の導体部材である。地板1は、後述する板状の支持部5の下側面に沿って設けられている。ここでの板状には金属箔のような薄膜状も含まれる。つまり、地板1はプリント配線板等の樹脂製の板の表面に電気メッキ等によってパターン形成されたものでもよい。また、地板1は、複数の導体層及び絶縁層を含む多層基板の内部に配置された導体層を用いて実現されていても良い。この地板1は、例えば電源回路などを介して接地用のケーブルと電気的に接続され、アンテナ装置100におけるグランド電位(換言すれば接地電位)を提供する。
【0028】
地板1は、上面視において第1対向導体板3A及び第2対向導体板3Bなどを内包する大きさを有する。地板1は、長方形状に形成されている。X軸方向は地板1の長手方向に相当し、Y軸は地板1の短手方向に相当する。地板1の短辺の長さは、例えば、電気的に0.4λに相当する値に設定されている。また、地板1の長辺の長さは、電気的に1.2λに設定されている。ここでの電気的な長さとは、フリンジング電界や、誘電体による波長短縮効果などを考慮した、実効的な長さである。当該構成は、短手方向の長さが対象波長よりも短く、かつ、長手方向の長さは短手方向の2倍以上に設定された構造に相当する。なお、地板1の短辺の長さは、0.6λや、0.8λなどであってもよい。地板1の長手方向の長さは、1.0λや、1.5λなどであってもよい。なお、漏洩電流抑制、動作安定性、又はその他の観点において、地板1の各辺は、例えば0.75λ以上の長さを有していることが好ましい。
【0029】
なお、地板1の寸法は適宜変更可能である。また、地板1を上側から見た形状(以降、平面形状)は適宜変更可能である。地板1は上面視において各対向導体板の略全面と重なる大きさ/形状を有していればよい。ここでは一例として地板1の平面形状を長方形状とするが、他の態様として地板1の平面形状は、円形や、正方形状であってもよい。また、六角形や、八角形など、その他の多角形状であってもよい。矩形状との表現には、長方形と正方形とが含まれる。円形との表現には真円だけでなく楕円形も含めることができる。なお、地板1から対向導体板3に向かう方向、すなわちZ軸正方向がアンテナ装置100にとっての上方向に相当する。
【0030】
各対向導体板3は、銅などの導体を素材とする板状の導体部材である。ここでの板状には、前述の通り、銅箔などの薄膜状も含まれる。対向導体板3は、支持部5を介し、地板1と対向するように配置されている。対向導体板3もまた地板1と同様にプリント配線板等の、樹脂製の板の表面にパターン形成されたものでもよい。
【0031】
各対向導体板3は、地板1と対向するように配置されることで、対向導体板3の面積、及び、対向導体板3と地板1との間隔に応じた静電容量を形成する。対向導体板3は、短絡部4が備えるインダクタンスと主対象周波数において並列共振する静電容量を形成する大きさに形成されている。対向導体板3の面積は、所望の静電容量を提供するように適宜設計されればよい。所望の静電容量とは、短絡部4のインダクタンスとの協働により主対象周波数で動作する静電容量である。なお、動作周波数をf、短絡部4が備えるインダクタンスをLs、対向導体板3が地板1との間に形成する静電容量をCとすると、f≒1/{2π√(Ls・C)}の関係が成り立つ。当業者であれば、当該関係式をもとに、適正な対向導体板3の面積を決定することができる。
【0032】
例えば対向導体板3は、一辺が電気的に60mmの正方形状に形成されている。なお、60mmという値は、電気的に約0.25λに相当する。もちろん、対向導体板3の一辺の長さは適宜変更可能であり、20mmや、30mm、40mmなどであっても良い。対向導体板3の寸法は、対象波長や、誘電体の支持部5が提供する波長短縮効果などを鑑みて決定されうる。なお、対向導体板3の平面形状は、円形や、正八角形、正六角形などであってもよい。また、対向導体板3は、長方形状や長楕円形などであってもよい。
【0033】
第1対向導体板3Aと第2対向導体板3Bは、X軸方向に沿うように所定の間隔をおいて並んでいる。第1対向導体板3AのX軸正方向側の縁部と、第2対向導体板3BのX軸負方向側の縁部は互いに平行である。第1対向導体板3Aと第2対向導体板3Bとの間隔である導体板間隔Dabは例えば0.2mm~3mmなどに設定されている。
【0034】
導体板間隔Dab及び対向導体板3の寸法は、
図2に示す中心間距離Dcnがλ/4の奇数倍とならないように設定されている。中心間距離Dcnは、第1対向導体板3Aの中心から第2対向導体板3Bの中心までの距離に相当する。なお、対向導体板3の中心とは、例えば対向導体板3が正方形状や長方形状である場合には、対角線の交点に相当する。本開示では対向導体板3の中心のことを以降では導体板中心とも記載する。なお、対向導体板3が三角形である場合には、その内心を中心として採用することができる。三角形の対向導体板3の中心は、垂心や外心であってもよい。対向導体板3の中心は幾何的に決定される。
【0035】
中心間距離Dcnがλ/4の奇数倍ではない状態とは、λ/4の奇数倍となる値からさらにλ/40以上離れた値となっている状態を指す。中心間距離Dcnが1/λの奇数倍となると、特許文献1に開示のように第2マッシュルームセル2Bが第1マッシュルームセル2Aにとって反射素子として作動する恐れが生じる。中心間距離Dcnが1/λの奇数倍とならないように調整することで、指向性に偏りが生じることを抑制することができる。
【0036】
また、導体板間隔Dabは、第1対向導体板3Aと第2対向導体板3Bとが高周波的に結合する値に設定されていることが好ましい。高周波的な結合とは、1つの局面において、主対象周波数において容量結合することを指す。例えば導体板間隔Dabは0.2mmや0.5mm、1.0mmなど、3mm以下に設定されている。上記構成は、別の観点によれば、対向導体板3の2倍の長さを有する矩形状の導体パターンを、導体板間隔Dab相当の幅を有するスリットで2分割した構成に相当する。なお、主対象周波数において結合する間隔の上限値である結合限界値としては、例えば0.01λ~0.02λ程度の値が想定される。以降における「近接」とは、非接触であって、且つ、間隔が結合限界値未満の状態で互いに平行である配置態様を指す。
【0037】
各短絡部4は、地板1と対向導体板3とを電気的に接続する導電性の部材である。短絡部4は、導電性のピン(以降、ショートピン)を用いて実現されれば良い。短絡部4としてのショートピンの径や長さを調整することによって、短絡部4が備えるインダクタンスを調整することができる。短絡部4の半径(r)は、例えば5mmに設定されている。もちろん、半径は1mmや3mmであってもよい。
【0038】
なお、短絡部4は、一端が地板1と電気的に接続され、他端が対向導体板3と電気的に接続された線状の部材であればよい。アンテナ装置100がプリント配線板を基材として用いて実現される場合には、プリント配線板に設けられたビアを短絡部4として利用することができる。
【0039】
短絡部4は、例えば導体板中心に位置するように設けられている。なお、短絡部4の形成位置は、厳密に導体板中心と一致している必要はない。短絡部4は導体板中心から数mm程度ずれていてもよい。短絡部4は、対向導体板3の中央領域に形成されていれば良い。対向導体板3の中央領域とは、導体板中心から縁部までを1:5に内分する点を結ぶ線よりも内側の領域を指す。中央領域は、別の観点によれば、対向導体板3を6分の1程度に相似縮小した同心図形が重なる領域に相当する。
【0040】
支持部5は、地板1と対向導体板3とを、所定の間隔をおいて互いに対向配置するための板状部材である。支持部5は矩形平板状であり、支持部5の大きさは平面視において地板1とほぼ同じ大きさである。支持部5は、例えばガラスエポキシ樹脂など、所定の比誘電率を有する誘電体を用いて実現されている。ここでは一例として支持部5は比誘電率4.3のガラスエポキシ樹脂(換言すれば、FR4:Flame Retardant Type 4)を用いて実現されている。
【0041】
本実施形態では一例として支持部5の厚さは、例えば6.0~7.0mm程度に設定されている。支持部5の厚さは、地板1と対向導体板3との間隔Hに対応する。支持部5の厚さを調整することで、対向導体板3と地板1との間隔Hを調整することができる。支持部5の厚さの具体的な値は、シミュレーションや試験によって適宜決定されれば良い。もちろん、支持部5の厚さは、3.0mmや、5.0mmなどであってもよい。
【0042】
なお、支持部5は前述の役割を果たせればよく、支持部5の形状は適宜変更可能である。対向導体板3を地板1に対向配置するための構成は、複数の柱であってもよい。また、本実施形態において地板1と対向導体板3の間は、支持部5としての樹脂が充填された構成を採用するが、これに限らない。地板1と対向導体板3の間は、中空や真空となっていてもよい。支持部5としては、ハニカム構造などを採用することもできる。さらに、以上で例示した構造が組み合わさっていてもよい。アンテナ装置100がプリント配線板を用いて実現される場合には、プリント配線板が備える複数の導体層を、地板1や、対向導体板3として利用するとともに、導体層を隔てる樹脂層を支持部5として利用してもよい。
【0043】
支持部5の厚さは、短絡部4の長さを調整するパラメータ、換言すれば、短絡部4が提供するインダクタンスを調整するパラメータとして機能する。加えて支持部5の厚さは、地板1と対向導体板3とが対向することによって形成される静電容量を調整するパラメータとしても機能する。
【0044】
線状給電素子6は、各対向導体板3に対して間接的に給電するための線状導体である。ここでは一例として線状給電素子6は、X軸方向に伸びる直線状の導体である。線状給電素子6は、支持部5の上側面41において、第1対向導体板3A及び第2対向導体板3BのY軸負方向側に形成されている。すなわち、線状給電素子6は、第1対向導体板3A及び第2対向導体板3BのそれぞれのY軸負方向側の縁部と、所定の結合限界値以下の間隔を有するようにパターン形成されている。線状給電素子6と各対向導体板3との間隔D63は、例えば0.5mmや1.0mmなど、1.5mm未満に設定されている。
【0045】
当該配置態様は、別の観点によれば、線状給電素子6に沿うように第1マッシュルームセル2A及び第2マッシュルームセル2Bを並べた態様に相当する。なお、線状給電素子6は、各対向導体板3と高周波結合するように、各対向導体板3の少なくとも一部と近接するように形成されていればよく、配置態様は適宜変更可能である。
【0046】
便宜上、線状給電素子6が備える2つの端部のうち、X軸負方向側の端部を第1端部61と称するとともに、反対側の端部を第2端部62と称する。また、各対向導体板3において、線状給電素子6と近接する縁部のことを給電素子近接縁31とも記載する。
図1等に示す例では、各対向導体板3が備えるX軸に平行な2つの縁部のうち、相対的にY軸負方向側の縁部が給電素子近接縁31に相当する。
【0047】
線状給電素子6の一端、例えばX軸負方向側の端部(つまり第1端部61)には、給電点が形成されている。給電点は、送受信回路の信号用端子と線状給電素子6とが、例えばマイクロストリップ線路などを含む配線パターンを介して、電気的に接続される部分である。給電点は、電源又は給電線との接続箇所と解することができる。給電点は、線状給電素子6上の任意の位置に配置可能である。給電点は、線状給電素子6において、第1マッシュルームセル2Aと対向する区間に設けられていることが好ましい。給電点に対して近いほうのマッシュルームセル2が第1エレメントと解することができる。
【0048】
なお、線状給電素子6への給電方式としては、直結給電方式や電磁結合方式など多様な方式を採用可能である。直結給電方式は、線状給電素子6と送受信回路の信号用端子とが配線パターンやビアなどの導体を介して電気的に直接接続される方式を指す。電磁結合方式は、給電用のマイクロストリップ線路等と線状給電素子6との電磁結合を利用した給電方式を指す。
【0049】
線状給電素子6の長さ、換言すれば第1端部61と第2端部62の位置は、各対向導体板3への間接的な給電が可能な範囲において、適宜変更可能である。ここでは一例として線状給電素子6は、第1対向導体板3AのX軸負方向側の角部から第2対向導体板3BのX軸正方向側の角部まで形成されているものとする。線状給電素子6は、第1端部61が第1対向導体板3Aの中心よりもX軸負方向側に位置し、かつ、第2端部62が第2対向導体板3Bの中心よりもX軸正方向側に位置していることが好ましい。
【0050】
なお、線状給電素子6は各対向導体板3の周りに配置されていればよく、他の構成例として別途後述するように、線状給電素子6は、L字型であってもよいし、枝部などを有していてもよい。また、線状給電素子6は、対向導体板3の下側や上側に配置されていてもよい。第2端部62は開放端となっていても良いし、所定の抵抗値を有する抵抗素子で終端されていても良い。
【0051】
<メタマテリアルアンテナの基本構成とその作動について>
アンテナ装置100の作動を説明する前に、ここでは
図5、
図6を用いて、メタマテリアルアンテナの基本構成200とその動作原理について説明する。
図5はメタマテリアルアンテナの基本構成200を示したものであって、地板1と対向導体板3と短絡部4とを備える。給電点は、対向導体板3においてインピーダンス整合を取ることができる位置に配置される。ここでのインピーダンス整合とは、信号を送り出す側のインピーダンス値と信号を受け取る側のインピーダンス値を略同一とすることを指す。
【0052】
メタマテリアルアンテナは、メタマテリアルの分散特性のうち、位相定数βがゼロとなる周波数で共振する現象である0次共振を利用したアンテナである。メタマテリアルアンテナにおいては、地板1と対向導体板3との間に形成される静電容量と、短絡部4が備えるインダクタとのLC並列共振によって動作することを特徴とする。
【0053】
対向導体板3は、短絡部4が備えるインダクタと所望の周波数(動作周波数)において並列共振するキャパシタを形成する面積を有するように設計されている。また、対向導体板3は、その中央領域に設けられた短絡部4で地板1に短絡されている。なお、インダクタの値(インダクタンス)は、短絡部4の各部寸法、たとえば径およびZ方向長さに応じて定まる。
【0054】
このため、動作周波数の電力が給電されると、インダクタとキャパシタとの間のエネルギー交換によって並列共振が生じ、地板1と対向導体板3との間に、地板1に対して垂直な電界が発生する。すなわち、Z軸方向の電界が発生する。この垂直電界は、短絡部4から対向導体板3の縁部に向かって伝搬していき、対向導体板3の縁部において垂直偏波となって空間を伝搬していく。なお、ここでの垂直偏波とは、電界の振動方向が地板1や対向導体板3に対して垂直な電波を指し、地板垂直偏波と呼ぶこともできる。
【0055】
図6は基本構成200について、電磁界シミュレーションを行った結果を示している。LC並列共振によって生じる垂直電界の伝搬方向は、短絡部4を中心として対称であるため、アンテナ水平面における全方位に対して同程度の利得を有する。換言すれば、1つのメタマテリアルアンテナは、対向導体板3の中央領域から縁部に向かう全方向に指向性を有する。特に、地板1が水平となるように配置されている場合、メタマテリアルアンテナは水平方向に対して指向性を有する。
【0056】
なお、ここでのアンテナ水平面とは、地板1及び対向導体板3に平行な平面を指す。以降では、対向導体板3の中心からその縁部に向かう方向を、アンテナ水平方向とも称する。アンテナ水平方向は、別の観点によれば、Z軸方向に対して直交する方向であって、X軸方向やY軸方向を含む。アンテナ水平方向は、端的に言えば、アンテナ装置にとっての横方向(換言すれば側方)に相当する。
【0057】
また、アンテナが電波を送信(放射)する際の作動と、電波を受信する際の作動は、互いに可逆性を有する。以上では電波を放射する際を例にとって説明したが、上記構成によれば、アンテナ水平方向から到来する垂直偏波を受信できる。
【0058】
ところで、メタマテリアルアンテナの他に地板に対向する金属板を用いたアンテナとしては、パッチアンテナや板状逆Fアンテナがある。パッチアンテナや板状逆Fアンテナは電流の経路長がλ/4の整数倍となることで生じる共振現象を利用するアンテナであって、メタマテリアルアンテナとは動作原理からして異質なものである。また、パッチアンテナや板状逆Fアンテナは動作原理上、放射素子がλ/4の整数倍となる寸法を有する必要がある一方、メタマテリアルアンテナは対向導体板3がλ/4の整数倍の長さを有することを必要としない。さらに、指向性の観点においてもメタマテリアルアンテナは、パッチアンテナ及び板状逆Fアンテナとは異質である。すなわち、パッチアンテナや板状逆Fアンテナは地板に対して垂直な方向(つまり上方向)にビームを形成するのに対し、メタマテリアルアンテナは、基本的にアンテナ上方向ではなくアンテナ横方向にビームを形成する。このように動作原理及び指向性などの観点から、メタマテリアルアンテナは、パッチアンテナ及び板状逆Fアンテナとは異質なものである。
【0059】
<アンテナ装置100の動作について>
上記のメタマテリアルアンテナの基本構成200等を踏まえ、ここでは提案構成としてのアンテナ装置100の動作を説明する。上記構成において給電点は線状給電素子6に設けられており、且つ、線状給電素子6は各対向導体板3と近接配置されている。そのため、線状給電素子6から第1対向導体板3A、第1短絡部4Aを通って地板1に至る経路と、線状給電素子6から第2対向導体板3B、第2短絡部4Bを通って地板1に至る経路のそれぞれで電流が流れる。つまり、各マッシュルームセル2には線状給電素子6を介して間接的に給電が行われる。
【0060】
ここで、各マッシュルームセル2の対向導体板3は、それぞれその中央領域に設けられた短絡部4で地板1に短絡されており、かつ、対向導体板3の面積は、短絡部4が備えるインダクタンスと主対象周波数においてLC並列共振する静電容量を形成する面積となっている。
【0061】
このため、線状給電素子6を介して主対象周波数の電力が供給されると、各マッシュルームセル2ではLC並列共振が生じ、それぞれがメタマテリアルアンテナとして動作する。すなわち、地板1と対向導体板3との間に、地板1および対向導体板3に対して垂直な電界を形成し、アンテナ水平方向に向けて地板垂直偏波を放射する。
【0062】
図7は
図1等に示すアンテナ装置100の等価回路である。
図7に示すZ
SL1及びZ
SL2は、線状給電素子6のインピーダンスである。具体的に、Z
SL1は、線状給電素子6のうち、第1マッシュルームセル2Aが励振する際に電流が流れる区間のインピーダンスを表す。また、Z
SL2は、線状給電素子6のうち、第2マッシュルームセル2Bが励振する際に電流が流れる区間のインピーダンスから、Z
SL1を差し引いたパラメータに相当する。C
g1は、線状給電素子6と第1対向導体板3Aとの間隙によるキャパシタンスを表しており、C
g2は、線状給電素子6と第2対向導体板3Bとの間隙によるキャパシタンスを表している。C
eは、第1対向導体板3Aと第2対向導体板3Bとの間隙によるキャパシタンスを表している。L
e1は、第1対向導体板3Aにおいて電流が線状給電素子6から第1短絡部4Aまで流れる経路のインダクタンスを表している。L
e2は、第2対向導体板3Bにおいて電流が線状給電素子6から第2短絡部4Bまで流れる経路のインダクタンスを表している。L
v1は、第1短絡部4Aのインダクタンスを表している。L
v2は、第2短絡部4Bのインダクタンスを表している。C
1は、第1対向導体板3Aと地板1とによって形成されるキャパシタンスを表している。C
2は、第2対向導体板3Bと地板1とによって形成されるキャパシタンスを表している。
【0063】
図7に示すように第1マッシュルームセル2Aと第2マッシュルームセル2Bとでは電流が流れる経路が異なる。そのため、第1マッシュルームセル2Aが主体的に動作するモードと、第2マッシュルームセル2Bが主体的に動作するモードとで、線状給電素子6に由来するインダクタンス成分やキャパシタンスが微小量異なる。これに伴い、第1マッシュルームセル2Aと第2マッシュルームが良好となりうる共振周波数は微量相違する。第1マッシュルームセル2Aと第2マッシュルームセル2Bの共振周波数が微量ずれることにより、主対象周波数を中心に、全体としての動作帯域が広がるように作用する。ここでの微量とは、例えば主対象周波数の15%以下、すなわち200MHz以下を指す。より具体的には、第1マッシュルームセル2Aと第2マッシュルームセル2Bの共振周波数は、10MHz~100MHz程度相違しうる。
【0064】
加えて、第1対向導体板3Aと第2対向導体板3Bは電磁気的に(高周波的に)結合するように近接配置されている。当該構成も一因となって、第1マッシュルームセル2Aと第2マッシュルームセル2Bを含む全体において、電波放射に寄与する部分は、周波数に応じて連続的に変化する。その結果、基本構成200に比べて動作周波数は広帯域化しうる。なお、各マッシュルームセル2は、その共振周波数よりも低い周波数においては容量性リアクタンスとして作用し、共振周波数より高い周波数では誘導性リアクタンスとして作用する。2つのマッシュルームセル2の共振周波数は、仮に両者が完全に同一の寸法であっても前述の通り、給電経路の違いにより、共振周波数は微量に相違する。よって、周波数によっては片方のマッシュルームセル2に、他方のマッシュルームセル2が誘導性又は容量性インダクタンスとして並列接続しているように振る舞う。その結果、動作帯域はより一層増大しうる。
【0065】
図8は、提案構成において第1対向導体板3A及び第2対向導体板3Bの寸法を一定としつつ、短絡部4の半径rを変更した場合の周波数毎の電圧定在波比(VSWR:Voltage Standing Wave Ratio)の測定結果を示すグラフである。なお、半径rを変更することは、L
v1及びL
v2を変更することに対応する。
【0066】
図8に示すグラフの横軸は周波数を表しており、縦軸はVSWRを表している。点線がr=1mmの周波数毎のVSWRを表しており、破線がr=3mmの周波数毎のVSWRを、実線がr=5mmの周波数毎のVSWRを、それぞれ示している。
【0067】
図8に示すように、短絡部4の半径rが小さいほど、VSWRが劣化することがわかる。これは半径が小さくなるほど、インピーダンスのミスマッチングが増大することが要因として想定される。また、半径rを1mm、3mm、及び5mmの何れかとする構成の中ではr=5mmとする構成において最もVSWR特性が良好となり、広帯域で動作することがわかる。
【0068】
なお、通信用のアンテナの技術分野では一般的に、VSWRが3以下となる範囲が実用可能な周波数と見なされる事が多い。そのような当技術分野において慣用されている基準に則れば、提案構成は、主対象周波数用のアンテナとして十分に実用可能なレベルで動作することがわかる。また、提案構成によれば、1.2GHz~1.4GHzまでの周波数帯で、VSWRが3以下となる。つまり、200MHz程度の動作帯域を実現できる。ここでの動作帯域とは、信号の送受信に使用可能な周波数帯であって、便宜上、VSWRが3以下となる周波数の範囲を指すものとする。
【0069】
また、
図9及び
図10は短絡部4の半径r=5mmとした提案構成の、XY平面における指向性を示す図である。
図9は1.2GHzでの指向性を示しており、
図10は1.3GHzでの指向性を示している。
図9、
図10に示すように、提案構成においても、X軸方向において偏りは生じるものの、基本構成200と同様にアンテナ水平方向の全方位に対して放射が得られる事がわかる。
【0070】
また、
図11は、提案構成のVSWRを、2種類の比較構成300a、300bのVSWRと比較して示したグラフである。比較構成300aは、
図12の(A)に示すように、提案構成から線状給電素子6を除去し、且つ、第1対向導体板3Aにおいてインピーダンス整合がとれる位置に給電点を設けた構成である。比較構成300bは、直線状の線状給電素子6の代わりに、2つの対向導体板3を囲むようにループ状の導体素子であるループ部Rpを配置し、当該ループ部に給電点を設けた構成である。
【0071】
提案構成と比較構成300a、300bとは上記相違点以外の他の構成、例えば対向導体板3の寸法や短絡部4の半径等は同じである。例えば第1対向導体板3Aと第1対向導体板3Aは同一寸法である。なお、何れの構成も短絡部4の半径rは5mmに設定されている。
図12でも地板1を明示するために支持部5の図示を省略している。
【0072】
図11に示すグラフにおける実線は提案構成でのVSWRを示している。
図11のグラフ中の破線は比較構成300aでのVSWRを示しており、点線は比較構成300bでのVSWRを示している。
図11に示すように、比較構成300aでは主対象周波数の11.7%程度の動作帯域が実現される一方、提案構成によれば、主対象周波数の15.6%程度の動作帯域が実現される。このように提案構成によれば比較構成300aよりも動作帯域を拡張することができる。
【0073】
なお、比較構成300aにおいても、第2マッシュルームセル2Bが第1マッシュルームセル2Aと電磁気的に結合することで、第2マッシュルームセル2Bも電波を放射しうる。その際、第1マッシュルームセル2Aと第2マッシュルームセル2Bとでは給電点からの短絡部4までの経路が異なるため、共振周波数が微量相違する。その結果、比較構成300においても基本構成200より動作帯域を拡張させることができる。ただし、第1マッシュルームセル2Aに給電点が設けられていることに起因して、第2マッシュルームセル2Bが励振しにくい。その結果、比較構成300では提案構成ほどの帯域拡張効果は得られない。
【0074】
また、比較構成300bでは1.26GHz付近でループ部と対向導体板3との間隙に電界が集中し、反共振が生じてしまう。これに対し提案構成によれば反共振が生じることなく、約1180MHzから約1380MHzまで連続的にVSWRを3以下に抑制する事ができる。
【0075】
<提案構成の効果について>
上記提案構成は、1つの局面において、マッシュルームセル2を2つ並べ、それらの近傍に配置した非ループ状の線状給電素子6を介して間接的に各マッシュルームセル2に給電する構成に相当する。当該提案構成によれば、2つのマッシュルームセル2がそれぞれ電流経路の違いに由来して僅かに異なる周波数で動作するとともに、全体としての動作帯域は各マッシュルームセル2の動作帯域が結合した範囲となる。故に、基本構成200に比べて主対象周波数を中心として動作帯域を拡張することができる。比較構成300よりも動作帯域を増大することができる。
【0076】
さらに、本開示の提案構成によれば、複数の対向導体板を囲むようにループ状の線状導体を配置する必要がない。故に、給電用の線状素子の長さを短くすることができ、製造コストを低減可能となる。また、複数の対向導体板を囲むようにループ状の線状導体を配置する必要がないため、全体としてのサイズを抑制可能となる。
【0077】
以上、本開示の実施形態を説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されるものではなく、以降で述べる種々の補足事項や変形例も本開示の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。例えば下記の種々の補足や変形例などは、技術的な矛盾が生じない範囲において適宜組み合わせて実施することができる。なお、以上で述べた部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略することがある。また、構成の一部のみに言及している場合、他の部分については上記説明を適用することができる。
【0078】
<第2マッシュルームセル2Bの構造についての補足>
上述した1つの実施形態では第1対向導体板3Aと第2対向導体板3Bを同一寸法とする構成を開示したがこれに限らない。第1対向導体板3Aと第2対向導体板3Bは異なる大きさであってもよい。
【0079】
例えば
図13に示すように、第2対向導体板3BのX軸方向の長さである第2横長Wx2は第1対向導体板3AのX軸方向の長さである第1横長Wx1よりも長く設定されていても良い。なお、
図13に示すWy1は、第1対向導体板3AのY軸方向の長さである第1縦長を表し、Wy2は、第2対向導体板3BのY軸方向の長さである第2縦長を表している。
図13に示す例ではWy1=Wy2とした構成を示している。
【0080】
より具体的には、アンテナ装置100は、Wx1=50mm、Wx2=70mm、Wy1=Wy2=60mmとすることができる。なお、前述の実施形態として開示の提案構成は、Wx1=Wx2=Wy1=Wy2=60mmとした構成に相当する。便宜上、Wx1=50mm、Wx2=70mm、Wy1=Wy2=60mmとした
図13に示す構成を第1変形構成と称する。対向導体板3と地板1との間隔は例えば6.0mmなど、支持部5の比誘電率に応じた値が設定される。
【0081】
図14は、第1変形構成と、前述の提案構成と、第1変形構成に対する比較構成300のそれぞれにおけるVSWRの測定結果を示すグラフである。
図14に示す実線は第1変形構成におけるVSWRを示し、一点鎖線は提案構成におけるVSWRを示す。破線は、第1変形構成に対応する比較構成300でのVSWRを示す。
【0082】
第1変形構成に対応する比較構成300とは、
図15に示すように第1変形構成から線状給電素子6を除去し、且つ、第1対向導体板3Aのインピーダンス整合がとれる位置に給電点を設けた構成である。第1変形構成に対応する比較構成300と第1変形構成とは、上記相違点以外の部分、例えば対向導体板3の寸法や短絡部4の半径等は同じである。
図14に示すシミュレーションにおいては、Wx1=50mm、Wx2=70mm、Wy1=Wy2=60mm、r=5mmに設定している。
【0083】
図14に示すように第1変形構成によれば提案構成よりもさらに動作帯域を拡大することができる。具体的には提案構成の動作帯域が主対象周波数の15.6%程度であったのに対し、第1変形構成によれば動作帯域を主対象周波数の約20%(20.8%)まで拡大することができる。その要因としては、第1対向導体板3Aと第2対向導体板3Bの面積を異ならせることで、それぞれの動作周波数の乖離度が増大することが考えられる。
【0084】
また、
図16及び
図17は第1変形構成のXY平面における指向性を示す図である。
図16は1.16GHzでの指向性を示しており、
図17は1.32GHzでの指向性を示している。
図16、
図17に示すように、第1変形構成においても基本構成200及び提案構成と同様にアンテナ水平方向の全方位に対して概ね0dB以上の利得を備える事がわかる。また、第1変形構成によれば、提案構成よりもX軸正方向、すなわち第1マッシュルームセル2Aから見て第2マッシュルームセル2Bが存在する方向における利得の改善効果が得られることがわかる。
【0085】
なお、第1変形構成は、第2対向導体板3Bの面積を第1対向導体板3Aの1.4倍に設定した構成に相当する。第1対向導体板3Aに対する第2対向導体板3Bの面積の倍率(面積比)は、1.4に限らず、1.1や1.2、1.3などであっても良い。
【0086】
以上では第1対向導体板3Aと第2対向導体板3BのX軸方向の長さである第1横長Wx1と第2横長Wx2を異ならせる態様を開示したが、第1対向導体板3Aと第2対向導体板3Bとは
図18に示すようにY軸方向の長さが異なっていても良い。つまり第1縦長Wy1と第2縦長Wy2が異なっていても良い。一例として
図18では、Wy1>Wy2、Wx1=Wx2とした構成を示している。もちろん、さらなる他の構成として第1対向導体板3Aと第2対向導体板3Bは、Wx1≠Wx2、かつWy1≠Wy2となるように設計されていても良い。
【0087】
また、
図19に示すように、線状給電素子6と第1対向導体板3Aとの間隔D63Aと、線状給電素子6と第2対向導体板3Bとの間隔D63Bは相違していても良い。当該構成によっても上記提案構成などと同様に作動し、同様の効果が得られる。なお、
図19ではD63A>D63Bとした構成を示している。アンテナ装置100はD63A<D63Bとなるように構成されていてもよい。線状給電素子6と対向導体板3との間隔63を大きくするほど、対向導体板3と線状給電素子6との電磁的結合度合いが弱まる。具体的には
図7の等価回路に示すCg1が小さくなるように作用する。
【0088】
<マッシュルームセル2の配置数及びレイアウトについて>
以上ではマッシュルームセル2を2つ並べた構成を開示したがこれに限らない。アンテナ装置100が備えるマッシュルームセル2は
図20、
図21に示すようにマッシュルームセル2は3個配置されていても良い。
図20では第3マッシュルームセル2Cを第2マッシュルームセル2BのX軸正方向側に配置した構成、換言すれば、3つのマッシュルームセル2をX軸方向に並べた構成を開示している。また、
図21では前述の提案構成において、第3マッシュルームセル2Cを線状給電素子6のY軸負方向側に配置した構成を示している。
図21に示す構成は、線状給電素子6の片側に2つのマッシュルームセル2を並列配置し、且つ、その反対側に1つのマッシュルームセル2を配置した構成に相当する。各マッシュルームセル2の寸法は均一であってもよいし、不均一であってもよい。
【0089】
なお、
図21に示す構成では、第3マッシュルームセル2Cは、第1マッシュルームセル2Aや第2マッシュルームセル2Bと連動して動くというよりも、独立して動作する傾向が強い。よって、第3マッシュルームセル2Cは、主対象周波数とは異なる副対象周波数用のアンテナとして利用することができる。例えば主対象周波数が1.3GHzである場合、副対象周波数は700MHzや2.4GHzなどとすることができる。第3マッシュルームセル2Cは、副対象周波数で動作するように設計可能である。このように
図21に示す構成によれば、アンテナ装置100を複数の周波数帯で動作可能とする事ができる。
【0090】
<対向導体板3の形状について>
図22及び
図23に示すように、対向導体板3の形状としては多様な形状を採用可能である。例えば第2対向導体板3Bは、
図22に示すように、矩形状において1組の対角に切り欠き部を形成した形状であっても良い。また、
図23に示すように第2対向導体板3Bは、第1対向導体板3Aの縁部と対向する縁部と、線状給電素子6と対向する縁部を有する三角形状であっても良い。第2対向導体板3Bは、線状給電素子6及び第1対向導体板3Aのそれぞれと所定の結合限界値未満の間隔をおいて対向する縁部を有するように構成されていることが好ましい。
【0091】
図22、
図23では第2対向導体板3Bの変形例を示しているが、第1対向導体板3Aについても同様に多様な形状を採用可能である。第1対向導体板3Aは、線状給電素子6及び第2対向導体板3Bのそれぞれと所定の結合限界値未満の間隔をおいて対向する縁部を有するように構成されていればよい。
【0092】
<線状給電素子6の形状及び長さについて>
上述した実施形態では給電点を線状給電素子6のX軸負方向側の端部(つまり第1端部61)に設けた態様を開示したがこれに限らない
図24に示すように給電点は第1端部61と第2端部62の途中に形成されていても良い。また、上記実施形態では、線状給電素子6の長さを、第1横長Wx1及び第2横長Wx2の合算値以上に設定した構成を開示したがこれに限らない。
図25に示すように線状給電素子6の長さを、第1横長Wx1及び第2横長Wx2の合算値よりも短く設定されていても良い。なお、線状給電素子6は、第1横長Wx1及び第2横長Wx2の合算値よりも長くしたほうが動作帯域は向上することがシミュレーションにより確認できた。当該知見に基づき、線状給電素子6は、第1横長Wx1及び第2横長Wx2の合算値よりも大きく所定量設定されていることが好ましい。ここでの所定量は例えばλ/50以上であることが好ましい。例えば線状給電素子6は、第1横長Wx1及び第2横長Wx2の合算値よりも9mm~10mm(約λ/25)程度長く設定されていることが好ましい。
【0093】
また、以上では、線状給電素子6をX軸方向に平行な直線状とする態様を開示したが、これに限らない。
図26に示すように、L字型に折り曲げられていても良い。すなわち、線状給電素子6は、X軸に平行であって第1対向導体板3Aと近接する区間と、Y軸に平行であって第1対向導体板3Aと第2対向導体板3Bの間に延設された区間とを有するように構成されていても良い。便宜上、線状給電素子6においてX軸に平行な部分をX軸平行部6xと称するとともに、Y軸に平行な部分をY軸平行部6yと称する。
図26に示す例では、線状給電素子6において第1対向導体板3Aと第2対向導体板3Bの間に延設された部分がY軸平行部6yに相当する。Y軸平行部6yは、第1対向導体板3Aと第2対向導体板3Bのそれぞれに近接する。
【0094】
さらに、線状給電素子6は、
図27に示すようにY軸に平行な直線状に形成されていても良い。その場合、線状給電素子6は、第1対向導体板3Aと第2対向導体板3Bの間に配置される。その他、線状給電素子6は、
図28に示すように略T字型に形成されていても良い。
図28では給電点を中央からX軸負方向側に所定量ずれた位置に設けた構成を示しているが、給電点は中央に設けられていても良い。
【0095】
また、
図29に示すように各対向導体板3に給電素子近接縁31から導体板中心に向かう所定幅の切り込み部32を設けるとともに、線状給電素子6には当該切り込み部32の内部を通って導体板中心に向かう枝部63を設けてもよい。ここでの導体板中心は短絡部4と対向導体板3の接続点と読み替える事ができる。
図29に示すように、各対向導体板3の中央に向かって伸びる枝部63を線状給電素子6に設けた構成を第2変形構成とも称する。便宜上、線状給電素子6において枝部63以外の部分を本線部64と称する。
【0096】
切り込み部32は直線状である。切り込み部32の幅である切り込み幅Wcは、枝部63との非接触を保つことができる値に設定される。例えば切り込み幅Wcは、枝部63の幅よりも1mm~2mm大きく設定される。仮に枝部63の幅が3mmである場合には、切り込み幅Wcは5mm~6mm程度に設定されうる。また、枝部63の幅が2mmである場合には、切り込み幅Wcは4mm程度に設定されうる。切り込み部32は、例えば給電素子近接縁31のうち、導体板中心に最も近い位置に設けられている。換言すれば、切り込み部32は、導体板中心から給電素子近接縁31に下ろした垂線に沿うように形成されうる。なお、切り込み部32の形成位置は導体板中心よりも左右に所定量ずれていてもよい。
【0097】
切り込み部32のY軸方向の長さは、切り込み部32の奥側端部が短絡部4の真上までは至らないように、対向導体板3のY軸方向の長さの半分未満に設定される。切り込み部32の長さは、例えば、導体板中心から給電素子近接縁31までの距離の25%~99%の範囲で設定される。より具体的には、対向導体板3のY軸方向の長さが60mmである場合には、つまり導体板中心から給電素子近接縁31までの距離が30mmである場合には、切り込み部32の長さは20mmや、24mm、25mm、26mmなどに設定されうる。切り込み部32の長さは、後述するように、インピーダンス整合がとれるように設定される。枝部63は、上述した切り込み部32の内側において対向導体板3と接触しないように配置された線状導体である。
【0098】
メタマテリアルアンテナの基本構成200においては、対向導体板3に給電点を設けるため、インピーダンスを整合可能な任意の位置に給電点を設けることができる。一方、上述した提案構成としてのアンテナ装置100では、給電点は線状給電素子6上に設けられているため、インピーダンス整合を取りにくいといった製造上の課題を有する。そのような課題に対し、
図29に示す構成によれば、対向導体板3に対する実質的な給電箇所を調整可能となる。ひいてはインピーダンス整合を取りやすくなるといった利点を有する。
【0099】
ところで、短絡部4のインダクタンスが大きいほど、あるいは対向導体板3が形成するキャパシタンスが大きいほど、動作周波数を下げることができる。短絡部4のインダクタンスは短絡部4の半径rが小さいほど大きくなる。また、キャパシタンスは対向導体板3の面積が大きいほど大きくなる。つまり、実体的には、短絡部4の半径rを小さくするほど、あるいは、対向導体板3のサイズを大きくするほど、動作周波数を下げることが可能となる。ただし、対向導体板3の面積を大きくすることは装置サイズの増大につながるため、避けたいといった技術的要求がある。
【0100】
そのような事情に基づき、本開示の開発者らは、短絡部4の半径rを小さくすることでアンテナ装置100の動作周波数を下げることを検討した。しかしながら、開発者らは上記方針での検討を進めたところ、
図30に示すように短絡部4の半径を小さくするほど、VSWRが劣化するといった知見を得た。これの原因としては、半径rを小さくするほど、給電素子近接縁31から短絡部4までの距離が増大し、インピーダンスのミスマッチング度合いが増大するためであると考えられる。なお、
図30の点線はr=1mmとした場合のVSWRを、破線はr=3mmとした場合のVSWRを、実線はr=5mmとした場合のVSWRをそれぞれ示している。また、
図30は、
図29に示す構成のWy1=Wy2=60mm、Wx1=50mm、Wx2=60mm、Dab=0.2mm、Wc=5mm、切り込み部32の長さを26mmに設定した場合のシミュレーション結果である。
【0101】
そのような新規の課題に対しても、
図29に示す構成によれば、実質的な給電位置を給電素子近接縁31よりも内側に形成することができ、インピーダンス整合を取りやすくなる。つまり、線状給電素子6の構造として
図29に示すようにT字型を採用することで、アンテナサイズの増大を抑制しつつ、動作周波数の低下を実現可能となる。
【0102】
図31は短絡部4の半径を1mmとした場合において、切り込み部32の長さを24mm、切り込み部32の奥側端部から1mm手前まで枝部63を形成した場合のVSWRを測定した結果を示している。切り込み部32の奥側端部と導体板中心との距離は5mm、切り込み幅Wcは5mm、枝部63の幅は3mmとしている。当該構成によれば
図31に示すように対向導体板3の寸法を維持したまま、810MHz及び930MHzでもメタマテリアルアンテナとして動作させることが可能となる。なお、
図32は810MHzでの指向性を示しており、
図33は、930MHzでの指向性を示している。
図32及び
図33に示すように、主対象周波数以外の副周波数においても、アンテナ水平方向に対して無指向性を示しており、メタマテリアルアンテナとして動作していることがわかる。
【0103】
<全体構成についての補足>
上述した実施形態では一例として板状の支持部5の上面に対向導体板3を配置し、その裏面に地板1を配置した構成、換言すれば、対向導体板3と地板1との間に誘電体材料を充填した構成を開示したがこれに限らない。例えば
図34に示すように、表面に対向導体板3をパターン形成した誘電体板7と地板1との間は中空であっても良い。誘電体板7の厚みは、例えば0.8mmなど、0.5mm~2.5mmとすることができる。
【0104】
誘電体板7は、短絡部4で地板1に対して固定されても良いし、図示しない支柱としての部材で地板1に対して固定されていても良い。支柱の材料は、誘電体でもよいし導体でもよい。もちろん、対向導体板3はそれ単体で板状形状を維持可能な厚みを有する板金であってもよい。対向導体板3が板金で実現されている場合には、誘電体板7は省略可能である。
【0105】
また、アンテナ装置100は、対向導体板3等を収容するケース8を備えうる。対向導体板3及び線状給電素子6は、ケース8の内側面に一体的に設けられていても良い。当該構成によれば、対向導体板3を支持するための部材を省略することができる。なお、
図35はケース8内部の構成を概念的に示す図である。
図34及び
図35は
図4と同様、第1短絡部4Aと第2短絡部4Bとを通る断面を概念的に示したものである。
図34及び
図35では線状給電素子6は図示されていないが図示する断面とは別の位置に形成されている。
【0106】
ケース8は例えば上下方向に分離可能に構成されているアッパーケースとロアケースとが組み合わさることで構成されていてもよい。ケース8の構成は、実体的又は仮想的にケース底部81、側壁部82、及びケース天板部83に分けて取り扱うことができる。ケース底部81は、ケース8の底を提供する構成である。ケース底部81は、平板状に形成されている。ケース8内において、地板1は、地板1がケース底部81と対向するように配置されている。側壁部82は、ケース8の側面を提供する構成であって、ケース底部81の縁部から上方に向かって立設されている。ケース天板部83は、ケース8の上面部を提供する構成である。本実施形態のケース天板部83は平板状に形成されている。
【0107】
図35に示す構成例は1つの側面において、ケース天板部83の内側面に線状給電素子6を配置するとともに当該線状給電素子6に沿うように2つの対向導体板3を並列形成した構成に相当する。線状給電素子6は、例えば側壁部82の内側面等に沿って形成された給電線路と当接することで、給電されうる。側壁部82の高さは、対向導体板3と地板1とが所望の静電容量を形成する値となるように設計されている。
【0108】
ケース8は、例えばポリカーボネート(PC:polycarbonate)樹脂を用いて構成されている。なお、ケース8の材料としては、PC樹脂にアクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(いわゆるABS)を混ぜた合成樹脂や、ポリプロピレン(PP:polypropylene)など、多様な樹脂を採用できる。ケース天板部83の外側表面の形状としては、平板状に限らず、ドーム型など多様な形状を採用することができる。
【0109】
加えて、アンテナ装置100は
図36及び
図37に示すように、送受信回路91や電源回路92が形成された回路基板9を収容する金属製のシールドケース10を備えていても良い。シールドケース10は、マッシュルームセル2が放射する電波から種々の回路を保護するための構成であるため、回路保護ケースと呼ぶこともできる。
図37は
図36に示すXXXVII-XXXVII線に沿った断面での、アンテナ装置100の構成を概念的に示す図である。
図36及び
図37では、シールドケース10は下側面が開口した、扁平な直方体状に形成されてあって、地板1上に配置されることで地板1をシールドケース10の底部として利用する構成を示している。もちろん他の態様として、シールドケース10の底部は、地板1とは独立した部材として形成されていても良い。シールドケース10は、ここでは一例として地板1と電気的に接続されている。他の態様としてシールドケース10は地板1と電気的に接続されていなくとも良い。
【0110】
なお、送受信回路91は、無線信号の送信及び受信少なくとも何れか一方を行うための回路であって、種々の信号処理を実施する。送受信回路91は、変調、復調、周波数変換、増幅、デジタルアナログ変換、および検波の少なくとも何れか1つを実施する回路モジュールとすることができる。送受信回路91は例えばICチップなどを用いて実現されうる。電源回路92は、車両電源から供給されている電圧を、各回路の動作電圧に変換して出力する回路モジュールである。電源回路92は、通信ECUからの制御信号に基づき、アンテナ装置100が備える回路への電力の供給状態を切り替える回路とすることができる。
【0111】
図36等では、シールドケース10が対向導体板3の全面と対向する、十分なサイズを有する態様を開示したが、これに限らない。例えば
図38に示すように、シールドケース10は、各対向導体板3の一部がシールドケース10とは重ならない領域である非重なり部33が生じる寸法/位置関係に設定されていてもよい。便宜上、対向導体板3のうち、上面視においてシールドケース10と重なる部分、つまりシールドケース10と対向する領域を重なり部34とも記載する。
図36として先に示した例は、各対向導体板3全体が重なり部34となる例に相当する。
【0112】
図38において、相対的に密度の低いドットパターンのハッチングを施している部分が非重なり部33を示し、相対的に密度の高いドットパターンを付与している部分が重なり部34に相当する。
図38では地板1を示すために支持部5の図示は省略している。
図39はXXXIX-XXXIX線での断面を概念的に示した図である。
図38に示す構成は、第1対向導体板3A及び第2対向導体板3BのそれぞれのY軸正方向側に位置する縁部が上面視においてシールドケース10よりも外側に飛び出した構成に相当する。
【0113】
便宜上、
図38に示す構成を第3変形構成とも称する。第3変形構成において、線状給電素子6は、上面視においてシールドケース10と重なる位置、例えばシールドケース10のY軸負方向側の縁部に沿うように配置されている。もちろん、線状給電素子6は、シールドケース10と重ならない位置に設けられていても良い。
【0114】
また、給電点は、線状給電素子6において、第1対向導体板3AのX軸負方向側の縁部よりも所定のオフセット量WofだけX軸正方向側に配置されている。オフセット量Wofは、例えば16mmに設定されている。オフセット量Wofは0mm~20mmの範囲で、インピーダンス整合が取れる値に変更可能である。また、第3変形構成において、線状給電素子6は、Y軸負方向側の縁部よりもさらにX軸負方向側に飛出したスタブ部65を備える。スタブ部65は本線部64の一部に相当する。スタブ部65の長さWstは例えば40mmである。スタブ部65は、インピーダンスの整合性を高めるための任意の要素である。スタブ部65の長さWstは、10mmや20mmなど、適宜変更可能である。
【0115】
第3変形構成において地板1と対向導体板3との間隔Hは20mm、シールドケース10の上面と対向導体板3との間隔は6.5mmに設定されている。Wx1=Wx2=60mm、Wy1=Wy2=80mmに設定されている。これらの設定値は後述するシミュレーションの条件を示すパラメータとしての一例であって、適宜変更されうる。
【0116】
なお、
図36に示す例では、シールドケース10の上面部と対向導体板3とのZ方向距離によって対向導体板3が形成する静電容量が定まる。シールドケース10は地板1と電気的に接続されてあってグランド電位を提供する部材として機能するため、1つの側面においてシールドケース10は、地板1の一部とみなす事ができる。
【0117】
第3変形構成では、重なり部34とシールドケース10が形成する静電容量である重なり部容量と、非重なり部33と地板1が形成する静電容量である非重なり部容量の合計値に基づいて主対象周波数が定まる。なお、非重なり部容量は、対向導体板3と地板1との離隔と、非重なり部33の面積とに基づいて定まる。重なり部容量は、対向導体板3とシールドケース10との離隔と、重なり部34の面積と、に応じて定まる。当業者であれば所望の主対象周波数でアンテナ装置100が動作するように各構成の寸法を設定することができる。
【0118】
ところで装置を小型化しようとすると、地板1と対向導体板3との離隔は小さい方が好ましい。地板1と対向導体板3との離隔は小さいほど、装置の高さを抑制できるとともに、対向導体板3が地板1またはシールドケース10と協働して形成する静電容量が大きくなるため、対向導体板3の面積も低減可能となるためである。
【0119】
しかしながら、
図36に示すように対向導体板3全体がシールドケース10と対向するように配置した構成では、アンテナとしての電気的体積が小さく、放射抵抗が例えば給電線の一般的な抵抗値である50Ωの3分の1以下になりうる。放射抵抗が小さいほどインピーダンスが整合できる範囲が狭まり、アンテナ装置100としては狭帯域化してしまう。具体的には、50Ωの同軸ケーブルを用いる場合、アンテナのインピーダンスが18Ω以下となるとVSWRが3を超過してしまう。アンテナの放射抵抗をZL、通信ケーブルのインピーダンスをZ0とすると、定性的に、反射係数Γは、|(ZL-Z0)/(ZL+Z0)|で定まり、VSWRは(1+Γ)/(1-Γ)で求まる。なお、ΓはSパラメータのS11に相当する。この定性式からも放射抵抗が小さすぎると、VSWRが増大(悪化)することがわかる。
【0120】
そのような課題に対し、
図38に示すように非重なり部33を設けた構成によれば電気的体積が増大し、放射抵抗もまた増大する。その結果、VSWRが3以下となる周波数範囲を増大させることができる。つまり、非重なり部33を設けた構成によれば、アンテナ装置100の小型化と広帯域化とを両立可能となる。非重なり部33のY軸方向長さである飛出幅Wτは、所望の放射抵抗が得られるように適宜変更可能である。飛出幅Wτは入力インピーダンスと出力インピーダンスが整合するように設定することができる。飛出幅Wτは例えば10mmや、15mm、20mmなどに設定可能である。飛出幅Wτは、対向導体板3のY軸方向長さを調整することで調整されても良いし、シールドケース10のY軸方向長さを調整することで調整されても良い。なお、第1対向導体板3Aの飛出幅Wτと第2対向導体板3Bの飛出幅Wτは相違していても良い。
【0121】
図40は、
図38に示す第3変形構成と、所定の第3比較構成とのVSWRの測定結果を示すグラフである。ここでの第3比較構成とは、対向導体板3に非重なり部33を設けなかった構成、すなわち、対向導体板3の全面が重なり部となっている構成を指す。第3変形構成も第3比較構成も、第1対向導体板3A及び第2対向導体板3BのY軸方向長は何れも80mm、X軸方向長は60mmに設定されている。また、第3変形構成の飛出幅Wτは20mmに設定されている。
図40の実線は第3変形構成の周波数ごとのVSWRを示しており、破線は第3変形構成の周波数ごとのVSWRを示している。
図40では一例として相対的に650MHz~1000MHzの範囲でのVSWRの試験結果を示している。
【0122】
図40に示すように、第3変形構成によれば、非重なり部33によって電気的体積が増大することに伴って放射抵抗が増大し、インピーダンスの整合範囲の拡大、ひいては広帯域化を実現できる。
図41は第3変形構成での700MHz、800MHz、及び900MHzでの指向性をシミュレーションした結果である。
図41に示すように何れの周波数においてもアンテナ水平方向の全方位に対して放射特性を有すること、換言すればメタマテリアルアンテナとして動作している事がわかる。
【0123】
なお、
図40ではY軸正方向側に非重なり部33が生じるようにシールドケース10を配置した構成を開示したが、対向導体板3とシールドケース10との位置関係はこれに限定されない。例えば、Y軸負方向側に非重なり部33を形成しても良い。また
図42に示すように、第1対向導体板3Aと第2対向導体板3Bを包含する矩形領域の中央にシールドケース10を配置し、アンテナ装置100の中心から見て全方位に非重なり部33を形成しても良い。
【0124】
図42は、第1対向導体板3AのY軸正方向側の縁部、Y軸負方向側の縁部、及びX軸負方向側の縁部がシールドケース10の外側に飛び出した構成に相当する。また、
図42に示す構成は、第2対向導体板3BのY軸正方向側の縁部、Y軸負方向側の縁部、及びX軸負方向側の縁部がシールドケース10の外側に飛び出した構成に相当する。さらに、
図42に示す構成は、端的にいえば、並列方向に直交する方向の両側に位置する縁部が、シールドケース10の外側に飛び出すように配置した例に相当する。X軸方向の飛出幅WτとY軸方向の飛出幅Wτは同じであってもよいし、異なっていても良い。また、シールドケース10の寸法に応じてX軸方向の飛出幅Wτは0となってもよい。
【0125】
なお、上記のように非重なり部33を設けた構成や、種々の構成もケース8を備えうる。ケース8の内部には封止材としてのゲルが、各対向導体板3を覆うように封入されていてもよい。
【0126】
<給電方法の補足>
以上では、対向導体板3と同一平面に線状給電素子6を設け、対向導体板3の縁部と線状給電素子6とを電磁気的に結合させることにより対向導体板3に給電する構成を例示したが、対向導体板3への間接的な給電方法はこれに限らない。例えば
図43に示すように、対向導体板3の下側に線状給電素子6を配置するとともに、対向導体板3において線状給電素子6の上側にスロット35を設けることで、スロット35を介して給電するように構成されていても良い。便宜上、スロット35を介して給電するように変形した提案構成を第4変形構成とも称する。
【0127】
各対向導体板3に設けるスロット35は、短辺に対して長辺が3倍以上の長さを有する矩形状であって、上面視において長手方向が線状給電素子6に対して直角となる姿勢で設けられる。スロット35は、線状給電素子6の真上において、例えば長手方向の延長線上に導体板中心が位置する姿勢で設けられる。ここでは一例としてX軸方向に線状給電素子6が延設されているため、スロット35は長手方向がY軸と平行となる姿勢で設けられる。スロット35のY軸方向長は例えば5mm~25mmなどに設定されうる。スロット35のX軸方向長は例えば1mm~5mmなどに設定されうる。なお、スロット35の形状は、例えば結合度の改善を目的としてドッグボーン型など、長方形以外の形状を採用可能である。第1対向導体板3Aに設けるスロット35と第2対向導体板3Bに設けるスロット35は、X軸方向長やY軸方向長が相違していても良い。
【0128】
上記構成によれば、線状給電素子6を対向導体板3の上側または下側に配置することができるため、装置全体としてのY軸方向またはX軸方向の長さを低減可能となる。また、スロット35の位置を調整することでマッシュルームセル2への実質的な給電位置を変更可能となる。故に、提案構成に比べてインピーダンス整合を取りやすくなるといった利点を有する。
【0129】
スロット35を用いて対向導体板3の上側または下側から給電する構成によれば、
図44に示すように、複数の周波数で動作可能となる。なお、
図44は、Wy1=Wy2=57mm、Wx1=40mm、Wx2=70mmに設定した場合のVSWR特性を示している。なお、線状給電素子6は、対向導体板3よりも0.8mm下側となる平面において、短絡部4から11mm、Y軸負方向側となる位置に、X軸に平行な態様で形成されている。第1対向導体板3Aに設けたスロット35のX軸方向長さ(つまり幅)は2mm、スロット35のY軸方向の長さは23mmに設定している。第2対向導体板3Bに設けたスロット35の幅は1mm、Y軸方向の長さは23mmに設定している。
【0130】
上記構成によれば、
図44に示すように、820MHz付近と980MHz付近でメタマテリアルアンテナとして動作させることが可能となる。なお、
図45は820MHzでの指向性を示しており、
図46は、980MHzでの指向性を示している。
図45及び
図46に示すように、主対象周波数以外の副周波数においても、アンテナ水平方向に対して無指向性を示しており、メタマテリアルアンテナとして動作していることがわかる。これらの結果は、1.3GHzを主対象周波数とする構成に対し、対向導体板3等の寸法を大幅に変更することなく、相対的に低い周波数でメタマテリアルアンテナとして動作させること、及び、複数の周波数帯で動作させることが可能となることを意味する。
【0131】
<アンテナ装置100の使用方法について>
上述したアンテナ装置100は、例えば、車両のルーフ部の中央や中央よりも所定量前方または後方にずれた位置に取り付けられて使用される。アンテナ装置100はルーフ部を形成する略平坦な鉄板の上に載置されてもよいし、ルーフ部に設けられたアンテナ装置100を取り付けるための凹部または穴部に収容されてもよい。また、アンテナ装置100は車室内の天井面やダッシュボードの上面に取り付けられて使用されても良い。アンテナ装置100の指向性は、厚み方向に直交する方向に向いているため、上記の取り付け姿勢で取り付けられたアンテナ装置100は、水平方向または斜め上方から到来する電波を受信するための装置として機能しうる。より具体的には、3GやLTE、4G、5Gなどといった移動体通信システムを構成する無線基地局と通信するための装置として機能しうる。
【0132】
アンテナ装置100は、他の用途として、車両のピラーや、ドアパネル、バンパなどといった、車両の外側面において、地板1が取り付け先のボディ表面と略平行となる姿勢で取り付けて使用されてもよい。当該構成によれば車両のボディに沿う方向にビームが形成されるため、例えばユーザの携帯端末が車両の近傍に存在するか否かを判定するため通信機として利用することができる。あるいは車室内の床部または天井部の中央付近に取り付けられて、ユーザが携帯する携帯端末と無線通信するための装置として使用されても良い。
【0133】
上述したアンテナ装置100の他、当該アンテナ装置100を構成要素とする車両用通信システムや、当該アンテナ装置100を備える車両など、種々の形態も本開示の範囲に含まれる。また、上記のアンテナ装置100は車両で使用されるものに限定されない。建物内の通信装置や、道路沿いに配置される通信設備である路側機などに適用することができる。また、上記アンテナ装置100は、データ通信を実施するためのものに限らず、無線信号の送受信結果に基づいて通信相手の位置を特定する位置推定用のアンテナ装置としても利用可能である。つまり、アンテナ装置100は無線信号を用いた位置推定の技術分野におけるアンカーノードとして利用されても良い。
【符号の説明】
【0134】
100 アンテナ装置、1 地板、2 マッシュルームセル、2A 第1マッシュルームセル、2B 第2マッシュルームセル、3 対向導体板、3A 第1対向導体板、3B 第2対向導体板、4 短絡部、4A 第1短絡部、4B 第2短絡部、5 支持部、6 線状給電素子、7 誘電体板、8 ケース、9 回路基板、10 シールドケース、31 給電素子近接縁(近接縁)、32 切り込み部、33 非重なり部、34 重なり部、35 スロット、63 枝部、64 本線部、91 送受信回路(回路モジュール)。