(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】排気処理装置、エンジンシステムおよび排気処理方法
(51)【国際特許分類】
F01N 3/24 20060101AFI20240801BHJP
F02M 21/02 20060101ALI20240801BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
F01N3/24 L ZAB
F01N3/24 R
F02M21/02 L
F02M21/02 P
F02D45/00 360A
F02M21/02 M
(21)【出願番号】P 2021081912
(22)【出願日】2021-05-13
【審査請求日】2023-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】日数谷 進
(72)【発明者】
【氏名】藤林 孝博
(72)【発明者】
【氏名】庄野 恵美
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-135808(JP,A)
【文献】特開2010-144563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/24
F02M 21/02
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気処理装置であって、
メタンを含むガスを燃料として用いるエンジンの排気が導入される処理筐体と、
前記処理筐体に収容され、前記排気に含まれる未燃焼のメタンを酸化させる触媒部と、
を備え、
前記処理筐体に導入される前記排気の温度である導入排気温度が150℃~350℃である場合、前記エンジンのチューニング状態が、前記排気に含まれる一酸化炭素の濃度が定常運転時よりも高い0.04体積%以上かつ2.5体積%以下となり、かつ、前記排気に含まれるメタンの濃度が定常運転時と同じく0.5体積%以上かつ1.5体積%以下となるように、所定のチューニング状態とされ、前記触媒部は、前記排気に含まれる一酸化炭素を酸化させて
、一酸化炭素の酸化反応熱を利用して
メタンの酸化開始温度よりも高い常用温度以上まで昇温することを特徴とする排気処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の排気処理装置であって、
前記所定のチューニング状態は、第1チューニング状態および第2チューニング状態を含み、
前記触媒部の温度が前記常用温度未満
かつメタンの酸化開始温度以上の温度である第1切替温度未満である場合、前記エンジンのチューニング状態は、前記排気に含まれる一酸化炭素の濃度が前記定常運転時よりも高い
前記第1チューニング状態とされ、前記触媒部の温度が前記第1切替温度まで昇温すると、前記エンジンのチューニング状態が、前記排気に含まれる一酸化炭素の濃度が前記定常運転時よりも高く、かつ、前記第1チューニング状態よりも低い
前記第2チューニング状態とされることを特徴とする排気処理装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の排気処理装置であって、
前記導入排気温度を測定する導入温度センサをさらに備えることを特徴とする排気処理装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1つに記載の排気処理装置であって、
前記処理筐体は、前記排気の流れ方向において、前記排気により回転するタービンよりも上流側に配置されることを特徴とする排気処理装置。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか1つに記載の排気処理装置であって、
前記処理筐体は、前記排気の流れ方向において、前記排気により回転するタービンよりも下流側に配置されることを特徴とする排気処理装置。
【請求項6】
エンジンシステムであって、
メタンを含むガスを燃料として用いるエンジンと、
前記エンジンの排気を処理する請求項1ないし5のいずれか1つに記載の排気処理装置と、
を備えることを特徴とするエンジンシステム。
【請求項7】
請求項6に記載のエンジンシステムであって、
前記エンジンは2ストロークエンジンであることを特徴とするエンジンシステム。
【請求項8】
メタンを含むガスを燃料として用いるエンジンの排気中の未燃焼のメタンを酸化させる排気処理方法であって、
a)150℃~350℃の排気を触媒部に供給する工程と、
b)前記排気に含まれる一酸化炭素を前記触媒部において酸化させて、一酸化炭素の酸化反応熱を利用して前記触媒部をメタンの酸化開始温度よりも高い常用温度以上まで昇温させる工程と、
c)前記b)工程よりも後に、前記常用温度以上の前記触媒部により前記排気中のメタンを酸化させる工程と、
を備え、
前記a)工程において、前記エンジンのチューニング状態が、前記排気に含まれる一酸化炭素の濃度が定常運転時よりも高い0.04体積%以上かつ2.5体積%以下となり、かつ、前記排気に含まれるメタンの濃度が定常運転時と同じく0.5体積%以上かつ1.5体積%以下となるように、所定のチューニング状態とされることを特徴とする排気処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気を処理する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液化天然ガス(LNG:liquefied natural gas)を運搬するLNG運搬船では、貨物であるLNGから不可避的に発生するBOG(boil off gas)を燃料ガスとして使用している。また、近年、LNG運搬船以外であってもLNGを燃料ガスとして使用する船舶が増加している。
【0003】
このようなLNGを燃料ガスとして使用する船舶では、エンジンにおける燃料ガスの燃焼温度が低い場合等、燃料ガス中のメタン(CH4)の一部が未燃焼の状態で排気中に残り、排気と共に大気中に放出されるおそれがある。メタンは、温暖化効果が比較的高いため、排気中のメタンを触媒等によって処理して大気中への放出を防止することが求められている。例えば、特許文献1の排ガス浄化装置では、ガスエンジンの排気中に含まれる炭化水素および一酸化炭素を酸化させる触媒が利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の触媒のメタン酸化可能温度は、350℃以上かつ500℃未満である。したがって、排ガス浄化装置に導入される排気温度が350℃未満の場合、排気中のメタンを好適に酸化させることが難しい。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、排気温度が低い場合であっても排気中のメタンを好適に酸化することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、排気処理装置であって、メタンを含むガスを燃料として用いるエンジンの排気が導入される処理筐体と、前記処理筐体に収容され、前記排気に含まれる未燃焼のメタンを酸化させる触媒部とを備える。前記処理筐体に導入される前記排気の温度である導入排気温度が150℃~350℃である場合、前記エンジンのチューニング状態が、前記排気に含まれる一酸化炭素の濃度が定常運転時よりも高い0.04体積%以上かつ2.5体積%以下となり、かつ、前記排気に含まれるメタンの濃度が定常運転時と同じく0.5体積%以上かつ1.5体積%以下となるように、所定のチューニング状態とされ、前記触媒部は、前記排気に含まれる一酸化炭素を酸化させて、一酸化炭素の酸化反応熱を利用してメタンの酸化開始温度よりも高い常用温度以上まで昇温する。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の排気処理装置であって、前記所定のチューニング状態は、第1チューニング状態および第2チューニング状態を含む。前記触媒部の温度が前記常用温度未満かつメタンの酸化開始温度以上の温度である第1切替温度未満である場合、前記エンジンのチューニング状態は、前記排気に含まれる一酸化炭素の濃度が前記定常運転時よりも高い前記第1チューニング状態とされ、前記触媒部の温度が前記第1切替温度まで昇温すると、前記エンジンのチューニング状態が、前記排気に含まれる一酸化炭素の濃度が前記定常運転時よりも高く、かつ、前記第1チューニング状態よりも低い前記第2チューニング状態とされる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の排気処理装置であって、前記導入排気温度を測定する導入温度センサをさらに備える。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の排気処理装置であって、前記処理筐体は、前記排気の流れ方向において、前記排気により回転するタービンよりも上流側に配置される。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の排気処理装置であって、前記処理筐体は、前記排気の流れ方向において、前記排気により回転するタービンよりも下流側に配置される。
【0014】
請求項6に記載の発明は、エンジンシステムであって、メタンを含むガスを燃料として用いるエンジンと、前記エンジンの排気を処理する請求項1ないし5のいずれか1つに記載の排気処理装置とを備える。
【0015】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載のエンジンシステムであって、前記エンジンは2ストロークエンジンである。
【0016】
請求項8に記載の発明は、メタンを含むガスを燃料として用いるエンジンの排気中の未燃焼のメタンを酸化させる排気処理方法であって、a)150℃~350℃の排気を触媒部に供給する工程と、b)前記排気に含まれる一酸化炭素を前記触媒部において酸化させて、一酸化炭素の酸化反応熱を利用して前記触媒部をメタンの酸化開始温度よりも高い常用温度以上まで昇温させる工程と、c)前記b)工程よりも後に、前記常用温度以上の前記触媒部により前記排気中のメタンを酸化させる工程とを備える。前記a)工程において、前記エンジンのチューニング状態が、前記排気に含まれる一酸化炭素の濃度が定常運転時よりも高い0.04体積%以上かつ2.5体積%以下となり、かつ、前記排気に含まれるメタンの濃度が定常運転時と同じく0.5体積%以上かつ1.5体積%以下となるように、所定のチューニング状態とされる。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、排気温度が低い場合であっても排気中のメタンを好適に酸化する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】一の実施の形態に係るエンジンシステムの構成を示す図である。
【
図3】他のエンジンシステムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の一の実施の形態に係るエンジンシステム10の構成を示す図である。エンジンシステム10は、例えば、液化天然ガス(LNG:liquefied natural gas)を運搬するLNG運搬船に搭載される。エンジンシステム10は、例えば、LNG運搬船の主機として使用される。
【0020】
エンジンシステム10は、エンジン1と、排気処理装置6とを備える。エンジン1は、メタン(CH4)を含むガスを燃料とするガスエンジンである。エンジン1は、例えば、2ストロークエンジンである。エンジン1は、例えば、燃焼方法がオットーサイクル、予混合燃焼、ディーゼルサイクルまたはサバテサイクル等の往復動内燃機関である。エンジン1は、例えば低圧エンジンである。エンジン1は、LNG(Liquefied Natural Gas)のBOG(Boil Off Gas)を燃料として用いてもよい。BOGは、例えば、LNG運搬船において貨物であるLNGが気化することにより発生するガスであり、メタンを含む。
【0021】
エンジン1は、シリンダ2と、ピストン3と、掃気流路41と、排気流路42と、空気冷却器43と、過給機5と、エンジン制御部7と、煙道81とを備える。シリンダ2は、
図1中の上下方向に延びる中心軸を中心とする有蓋略円筒状の部材である。ピストン3は、当該中心軸を中心とする略円柱状の部材であり、その上部はシリンダ2の内部に配置される。ピストン3は、上下方向に移動可能である。なお、
図1中の上下方向は、必ずしも重力方向に平行である必要はない。
【0022】
シリンダ2は、シリンダライナ21と、シリンダカバー22と、排気弁25とを備える。シリンダライナ21は、上記中心軸を中心とする略円筒状の部材である。シリンダカバー22は、シリンダライナ21の上部に取り付けられる有蓋略円筒状の部材である。シリンダカバー22の天蓋部には、排気ポート24が形成される。排気ポート24は、排気流路42に接続される。排気ポート24は、排気弁25により開閉される。
図1において実線にて示すように、排気弁25が排気ポート24から下方に離間することにより、排気ポート24が開放される。また、
図1において二点鎖線にて示すように、排気弁25がシリンダカバー22に接触して排気ポート24に重なることにより、排気ポート24が閉鎖される。シリンダライナ21の下端部近傍には、掃気ポート23が設けられる。掃気ポート23は、シリンダライナ21の側面に周状に配列して形成された多数の貫通孔の集合である。掃気ポート23は、掃気流路41に接続される。
【0023】
ピストン3は、ピストンクラウン31と、ピストンロッド32とを備える。ピストンクラウン31は、上記中心軸を中心とする厚い略円板状の部位である。ピストンクラウン31は、シリンダライナ21の内部に配置される。ピストンロッド32は、ピストンクラウン31の下面から下方に延びる略円柱状の部位である。ピストンロッド32の下端部は、図示省略のクランク機構に接続される。当該クランク機構により、ピストン3が上下方向に往復移動する。
図1では、当該往復移動の下死点に位置するピストン3を実線にて描き、上死点に位置するピストン3を二点鎖線にて描く。
【0024】
エンジン1では、シリンダライナ21、シリンダカバー22、排気弁25、および、ピストンクラウン31の上面(すなわち、ピストン3の上面)によって囲まれる空間が、燃料および空気を燃焼するための燃焼室20である。
【0025】
燃焼室20には、上述の掃気ポート23を介して、掃気流路41から掃気が供給される。掃気流路41は、掃気室411と、掃気レシーバ412とを備える。掃気室411は、シリンダライナ21の掃気ポート23の周囲に設けられる空間(すなわち、掃気配管)である。掃気ポート23は、掃気室411を介して掃気レシーバ412に連通する。掃気レシーバ412は、掃気室411へと掃気を供給する略円筒状の大型容器である。
【0026】
燃焼室20において燃料および空気の燃焼により生成されたガス(すなわち、燃焼ガス)は、排気ポート24を介して排気流路42へと排出される。排気流路42は、燃焼室20から排出されたガス(以下、「排気」という。)が流れる管路である。排気流路42は、排気配管421と、排気レシーバ422とを備える。排気配管421は、排気ポート24と排気レシーバ422とを接続する配管である。排気レシーバ422は、燃焼室20からの排気を受ける略円筒状の大型容器である。
【0027】
図示は省略するが、エンジン1では、複数組のシリンダ2およびピストン3が設けられており、複数の燃焼室20が、1つの掃気レシーバ412、および、1つの排気レシーバ422に接続されている。すなわち、掃気レシーバ412は、複数の燃焼室20に掃気を分配供給するための掃気マニホールドである。また、排気レシーバ422は、複数の燃焼室20から排出された排気が集められる排気マニホールド(排気集合管とも言う。)である。
【0028】
排気レシーバ422に集められた排気は、排気処理装置6により処理される。排気処理装置6では、燃焼室20からの排気中に含まれている未燃焼(すなわち、未反応)のメタンが酸化され、二酸化炭素(CO2)および水(H2O)が生成される。これにより、エンジンシステム10から大気中に排出される排気に含まれる未燃焼のメタンの濃度(以下、「スリップメタン濃度」とも呼ぶ。)が、所定の規定値以下とされる。排気処理装置6は、処理筐体61と、触媒部62と、触媒温度センサ63と、導入温度センサ64とを備える。
【0029】
排気処理装置6では、燃焼室20からの排気が処理筐体61の内部空間に導入される。処理筐体61は、例えば、略円筒状の反応容器である。処理筐体61の内部空間には、触媒部62が収容(すなわち、装填)されている。触媒部62は、例えば、ハニカム構造を有する酸化触媒である。具体的には、触媒部62は、ハニカム構造を有する担体に、触媒金属等の酸化触媒が担持された構造を有する。当該触媒金属は、例えば、パラジウム(Pd)や白金(Pt)等の貴金属を含む。排気処理装置6では、処理筐体61内に導入された排気が触媒部62を通過する際に、当該排気に含まれる未燃焼のメタンが触媒部62により酸化する。また、触媒部62は、当該排気に含まれる一酸化炭素(CO)も酸化させる。なお、処理筐体61および触媒部62の構造および形状は様々に変化されてよい。例えば、触媒部62の担体は、円筒状や平板状等の他の形状を有していてもよい。
【0030】
触媒温度センサ63は、触媒部62の温度を測定し、エンジン制御部7へと出力する。触媒温度センサ63は、処理筐体61の内部空間の温度を測定し、測定結果を触媒部62の温度としてエンジン制御部7に出力してもよい。導入温度センサ64は、処理筐体61に導入される時点の排気の温度を測定し、エンジン制御部7へと出力する。導入温度センサ64は、例えば、排気レシーバ422と処理筐体61とを接続する配管において、処理筐体61の導入口の直前に設けられる。触媒温度センサ63および導入温度センサ64としては、例えば、熱電対が利用可能である。
【0031】
排気処理装置6では、所定の常用温度が設定されており、触媒部62の温度が当該常用温度以上である場合、排気中のメタンの酸化が十分に行われ、スリップメタン濃度が上記規定値以下となる。当該常用温度は、例えば、スリップメタン濃度が当該規定値と等しくなるときの触媒部62の温度であってもよく、当該温度に所定のマージン(例えば、10℃~50℃)を加えた温度であってもよい。常用温度は、例えば、排気処理装置6またはエンジンシステム10を製造する製造者等により設定される。常用温度は、触媒部62の種類等により様々に変化するが、触媒部62への排気の供給流速が0.1m/sec~3.0m/secの条件下において、例えば400℃である。なお、触媒部62の温度が常用温度未満である場合、スリップメタン濃度は上記規定値を超過する可能性がある。
【0032】
過給機5は、タービン51と、コンプレッサ52とを備えるターボチャージャである。過給機5では、排気を利用して吸気を加圧し、掃気が生成される。具体的には、燃焼室20からの排気によりタービン51が回転し、コンプレッサ52は、タービン51にて発生する回転力を利用して(すなわち、タービン51の回転を動力として)、エンジン1の外部から吸気路82を介して取り込んだ吸気(空気)を加圧して圧縮する。加圧された空気(すなわち、上述の掃気)は、空気冷却器43にて冷却された後、掃気レシーバ412に供給され、掃気レシーバ412から燃焼室20へと供給される。タービン51の回転に利用された排気は、煙道81へと導かれ、煙道81からエンジン1の外部へと排出される。
図1に示す例では、タービン51は、煙道81と排気処理装置6の処理筐体61との間に配置される。換言すれば、処理筐体61は、燃焼室20から排出された排気の流れ方向において、当該排気により回転するタービン51よりも上流側に配置される。タービン51には、処理筐体61内の触媒部62により処理された後の排気が導入される。
【0033】
エンジン制御部7は、排気処理装置6の触媒温度センサ63からの出力(すなわち、触媒部62の温度)に基づいて、エンジン1のチューニング状態を制御する。エンジン制御部7は、例えば、プログラマブルロジックコントローラ(PLC:Programmable Logic Controller)である。当該PLCは、プロセッサと、メモリと、入出力部と、バスとを備える。バスは、プロセッサ、メモリおよび入出力部を接続する信号回路である。メモリは、プログラムおよび各種情報を記憶する。プロセッサは、メモリに記憶されるプログラム等に従って、メモリ等を利用しつつ様々な処理(例えば、数値演算等)を実行する。入出力部は、他の装置(例えば、排気処理装置6)からの信号入力や操作者からの入力を受け付け、また、他の装置への信号を出力する。当該PLCが所定のプログラムに基づいて処理を行うことにより、エンジン制御部7の機能が実現される。エンジン制御部7は、キーボードやディスプレイ等を備える一般的なコンピュータシステムであってもよく、あるいは、回路基板等であってもよい。
【0034】
エンジンシステム10では、エンジン1の始動時や低出力運転時等、燃焼室20から排気処理装置6に送られる排気の温度が比較的低い場合がある。例えば、導入温度センサ64からエンジン制御部7へと出力される温度(すなわち、処理筐体61に導入される時点の排気の温度)が、上述の常用温度未満の場合がある。このように処理筐体61に導入される排気の温度が比較的低温である場合、従来の排気処理装置では、触媒部62によるメタンの酸化がほとんど進まず、当該酸化により生じる酸化反応熱も少ないため、触媒部62の温度が上述の常用温度に達しない可能性がある。
【0035】
図2は、本発明に係るエンジンシステム10における排気の処理の流れを示す図である。エンジンシステム10では、触媒温度センサ63により触媒部62の温度が測定されている状態で、燃焼室20からの排気が触媒部62に供給される(ステップS11)。上述のように、処理筐体61に導入される排気の温度(すなわち、触媒部62に供給される排気の温度)が常用温度未満である場合、触媒部62の温度も常用温度未満の可能性がある。エンジン1の始動時や低出力運転時等は、処理筐体61に導入される時点の排気の温度(以下、「導入排気温度」とも呼ぶ。)は、例えば250℃未満であり、常用温度と導入排気温度との差(すなわち、常用温度から導入排気温度を減算した値)は、例えば90℃以上である。導入排気温度は、触媒部62による一酸化炭素の酸化開始温度(すなわち、一酸化炭素の酸化反応による発熱が開始する温度)以上である。導入排気温度は、例えば、150℃~350℃である。
【0036】
触媒温度センサ63からエンジン制御部7に送られる触媒部62の温度が所定の第1切替温度未満である場合(ステップS12)、エンジン制御部7によりエンジン1のチューニング状態が制御され、定常運転時のチューニング状態(以下、「基準チューニング状態」とも呼ぶ。)とは異なる第1チューニング状態とされる(ステップS13)。具体的には、エンジン1のチューニング状態が基準チューニング状態、あるいは、第1チューニング状態以外のチューニング状態である場合、エンジン制御部7により当該チューニング状態が第1チューニング状態へと切り替えられる。また、エンジン1のチューニング状態が第1チューニング状態である場合、第1チューニング状態が維持される。上述の第1切替温度は、常用温度未満の温度であり、例えば、メタンの酸化開始温度(すなわち、メタンの酸化反応による発熱が開始する温度)以上の温度である。第1切替温度は、エンジンシステム10の使用態様等に合わせて、予め適宜設定されている。
【0037】
第1チューニング状態では、基準チューニング状態に比べて、燃焼室20から排出される排気に含まれる一酸化炭素の濃度が高い。第1チューニング状態における排気中の一酸化炭素濃度は、例えば0.05体積%以上であり、好ましくは0.5体積%以上である。第1チューニング状態における排気中の一酸化炭素濃度は、例えば5体積%以下であり、好ましくは4体積%以下であり、より好ましくは2.5体積%以下であり、さらに好ましくは1体積%以下である。本実施の形態では、第1チューニング状態における排気中の一酸化炭素濃度は、0.05体積%以上かつ2.5体積%以下とされる。なお、上述の定常運転とは、エンジンシステム10が搭載される船舶の通常運航において予定されている航行時の運転状態であり、基準チューニング状態は、エンジン1の定常運転時における燃費や環境負荷を略最適とするように設定されている。基準チューニング状態における排気中の一酸化炭素濃度は、例えば、0.005体積%以上かつ0.04体積%未満である。
【0038】
また、基準チューニング状態における排気中のメタン濃度は、例えば、0.5体積%~1.5体積%である。第1チューニング状態における排気中のメタン濃度は、基準チューニング状態における排気中のメタン濃度と同じであってもよく、異なっていてもよい。本実施の形態では、第1チューニング状態における排気中のメタン濃度は、基準チューニング状態における排気中のメタン濃度と略同じであり、例えば、0.5体積%~1.5体積%である。排気中のメタン濃度が0.5体積%以上とされることにより、触媒部62におけるメタンの酸化を効率良く行うことができる。また、排気中のメタン濃度が1.5体積%以下とされることにより、触媒部62におけるメタンの酸化反応熱による触媒部62の過剰な昇温を防止することができる。
【0039】
エンジン1のチューニング状態の切り替えは、例えば、燃焼室20内に供給される燃料の量、燃焼室20に封入される空気量、および、燃焼室20の最高圧力(燃焼最大圧力ともいう。)のうち1つ以上が変更されることにより実現される。具体的には、例えば、燃焼室20内に供給される燃料の量(以下、「燃料供給量」とも呼ぶ。)を増大させると、燃焼室20内の空気量が相対的に減少し、燃焼室20から排出される排気中の一酸化炭素濃度が増大する。燃料供給量は、図示省略の燃料供給部における燃料供給ポンプの動作を制御すること等によって変更可能である。
【0040】
また、例えば、燃焼室20に封入される空気量(以下、「封入空気量」とも呼ぶ。)を減少させると、燃焼室20から排出される排気中の一酸化炭素濃度が増大する。燃焼室20の最高圧力を低くすることによっても、燃焼室20から排出される排気中の一酸化炭素濃度が増大する。封入空気量および燃焼室20の最高圧力は、ピストン3の下死点からの上昇時における排気弁25の閉鎖タイミングを制御すること等によって変更可能である。具体的には、例えば、上述の排気弁25の閉鎖タイミングを遅らせることにより、封入空気量が減少し、燃焼室20の最高圧力が低くなる。
【0041】
なお、エンジン1のチューニング状態の切り替えでは、上記以外の構成がエンジン制御部7によって制御されることにより、燃料供給量、封入空気量、および、燃焼室20の最高圧力のうちいずれか1つ以上が変更されてもよい。あるいは、燃料供給量、封入空気量、および、燃焼室20の最高圧力以外の要素が調節されることにより、エンジン1のチューニング状態が切り替えられてもよい。
【0042】
触媒部62による一酸化炭素の酸化開始温度は、常用温度および触媒部62によるメタンの酸化開始温度よりも低く、触媒部62に供給される排気の温度(すなわち、導入排気温度)以下である。したがって、当該排気中の一酸化炭素は、触媒部62により酸化される。触媒部62は、一酸化炭素の酸化反応熱により昇温する(ステップS14)。なお、触媒部62による一酸化炭素の酸化開始温度は、触媒部62の種類等により様々に変化するが、触媒部62への排気の供給流速が0.1m/sec~3.0m/secの条件下において、例えば200℃である。
【0043】
エンジンシステム10では、上述のように、エンジン1のチューニング状態が第1チューニング状態とされ、排気中の一酸化炭素濃度が増大されているため、触媒部62により酸化される一酸化炭素の酸化反応熱量も多い。したがって、触媒部62が速やかに昇温されて、上述のメタンの酸化開始温度に到達する。
【0044】
触媒部62がメタンの酸化開始温度まで昇温すると、触媒部62による排気中のメタンの酸化が実質的に開始される。触媒部62は、一酸化炭素の酸化反応熱およびメタンの酸化反応熱により、上述の常用温度以上の温度まで昇温する。そして、当該常用温度以上の触媒部62により、排気中の一酸化炭素およびメタンの酸化が継続的に行われる。
【0045】
排気処理装置6では、触媒温度センサ63による触媒部62の温度測定が継続的に行われており、触媒温度センサ63からエンジン制御部7に送られる触媒部62の温度が第1切替温度に到達すると(ステップS12)、エンジン制御部7によりエンジン1のチューニング状態が制御され、第1チューニング状態から第2チューニング状態へと切り替えられる(ステップS15)。なお、低出力運転時等であっても、触媒温度センサ63からエンジン制御部7に送られる触媒部62の温度が、最初から第1切替温度以上かつ常用温度未満である場合(ステップS12)等、エンジン1のチューニング状態は、第1チューニング状態を経ずに、第2チューニング状態とされてもよい(ステップS15)。
【0046】
第2チューニング状態では、第1チューニング状態に比べて、燃焼室20から排出される排気に含まれる一酸化炭素の濃度が低い。また、第2チューニング状態における排気中の一酸化炭素濃度は、基準チューニング状態における排気中の一酸化炭素濃度よりも高い。第2チューニング状態における排気中の一酸化炭素濃度は、例えば0.04体積%以上であり、好ましくは0.4体積%以上である。第2チューニング状態における排気中の一酸化炭素濃度は、例えば4体積%以下であり、好ましくは2体積%以下であり、より好ましくは0.75体積%以下である。本実施の形態では、第2チューニング状態における排気中の一酸化炭素濃度は、0.04体積%以上かつ2体積%以下とされる。すなわち、本実施の形態では、第1チューニング状態および第2チューニング状態における排気中の一酸化炭素濃度は、0.04体積%以上かつ2.5体積%以下である。なお、第1チューニング状態および第2チューニング状態における排気中の一酸化炭素濃度は、上記範囲には限定されず、様々に変更されてよい。第2チューニング状態における排気中のメタン濃度は、基準チューニング状態における排気中のメタン濃度と同じであってもよく、異なっていてもよい。本実施の形態では、第2チューニング状態における排気中のメタン濃度は、基準チューニング状態における排気中のメタン濃度と略同じであり、例えば、0.5体積%~1.5体積%である。
【0047】
上述のように、第2チューニング状態では、排気中の一酸化炭素濃度は第1チューニング状態よりも減少し、触媒部62における一酸化炭素の酸化反応熱量も減少する。一方、昇温された触媒部62では、一酸化炭素に加えてメタンの酸化も生じている。メタンの単位物質量あたりの酸化反応熱量(すなわち、燃焼熱)は、一酸化炭素の単位物質量あたりの酸化反応熱量よりも多いため、触媒部62の温度は、一酸化炭素の酸化反応熱およびメタンの酸化反応熱により、第1切替温度以上に昇温し、常用温度以上の所定の第2切替温度まで昇温する(ステップS16,S17)。第2切替温度も、第1切替温度と同様に、エンジンシステム10の使用態様等に合わせて、予め適宜設定されている。
【0048】
そして、触媒部62の温度が第2切替温度に到達すると(ステップS16)、エンジン制御部7によりエンジン1のチューニング状態が制御され、第2チューニング状態から基準チューニング状態に切り替えられる(ステップS18)。排気処理装置6では、触媒部62の温度が常用温度以上に昇温されているため、基準チューニング状態においても、燃焼室20から排出される排気中のメタンを、触媒部62により好適に酸化することができる。その結果、エンジンシステム10から大気中へのメタンの放出(すなわち、メタンスリップ)を抑制することができる。なお、触媒温度センサ63からエンジン制御部7に送られる触媒部62の温度が、最初から第2切替温度以上である場合、エンジン1のチューニング状態は、
図2に示すものとは異なり、第1チューニング状態および第2チューニング状態を経ずに、基準状態とされてもよい。
【0049】
以上に説明したように、排気処理装置6は、処理筐体61と、触媒部62とを備える。処理筐体61には、メタンを含むガスを燃料として用いるエンジン1の排気が導入される。触媒部62は、処理筐体61に収容されて、当該排気に含まれる未燃焼のメタンを酸化させる。触媒部62の温度が、所定の常用温度未満である場合、触媒部62は、当該排気に含まれる一酸化炭素を酸化させて一酸化炭素の酸化反応熱を利用して常用温度以上まで昇温する。これにより、触媒部62に供給される排気の温度が常用温度未満の場合であっても、触媒部62を常用温度以上まで速やかに昇温することができる。したがって、当該排気中のメタンを好適に酸化することができ、メタンスリップを好適に抑制することができる。その結果、スリップメタン濃度を上述の規定値以下とすることができる。
【0050】
上述のように、触媒部62の温度が常用温度未満である場合、エンジン1のチューニング状態が、排気に含まれる一酸化炭素の濃度が定常運転時よりも高い所定のチューニング状態(すなわち、第1チューニング状態および/または第2チューニング状態)とされることが好ましい。これにより、触媒部62における一酸化炭素の酸化反応熱量を増大させ、触媒部62の温度を上述の常用温度までさらに速やかに昇温させることができる。
【0051】
上述のように、エンジン1のチューニング状態が上記所定のチューニング状態とされる場合、排気に含まれる一酸化炭素濃度は、0.04体積%以上かつ2.5体積%以下であることが好ましい。当該一酸化炭素濃度を0.04体積%以上とすることにより、触媒部62における一酸化炭素の酸化反応熱量をさらに増大させ、触媒部62の温度を上述の常用温度までより一層速やかに(例えば、触媒部62への排気の供給開始から120分以内に)昇温させることができる。また、当該一酸化炭素濃度を2.5体積%以下とすることにより、高燃費の定常運転時と比較した際の上記チューニング状態(すなわち、第1チューニング状態および/または第2チューニング状態)における燃費悪化を抑制することができる。
【0052】
上述のように、好ましくは、触媒部62の温度が常用温度未満の第1切替温度未満である場合、エンジン1のチューニング状態は、排気に含まれる一酸化炭素の濃度が前記定常運転時(すなわち、基準チューニング状態)よりも高い第1チューニング状態とされる。また、好ましくは、触媒部62の温度が当該第1切替温度まで昇温すると、エンジン1のチューニング状態が、排気に含まれる一酸化炭素の濃度が定常運転時よりも高く、かつ、第1チューニング状態よりも低い第2チューニング状態とされる。これにより、触媒部62の温度が第1切替温度以上である状態において、触媒部62における一酸化炭素の酸化反応熱量を低減させ、触媒部62の過剰な昇温を防止することができる。また、エンジン1のチューニング状態が第1チューニング状態よりも基準チューニング状態に近づくため、定常運転時と比較した際の燃費悪化をさらに抑制することができる。その結果、運転開始時等のように排気温度が低い状態から定常運転時に至るまで、燃費悪化を抑制しつつメタンスリップを好適に抑制することができる。
【0053】
上述のように、排気処理装置6は、触媒部62に供給される排気の温度が常用温度よりも低い場合であっても、当該排気に含まれるメタンを好適に酸化することができる。したがって、排気処理装置6は、処理筐体61に導入される排気の温度(すなわち、導入排気温度)が低く、触媒部62が常用温度まで容易に昇温しない場合に特に適している。例えば、排気処理装置6は、処理筐体61に導入される排気の温度と常用温度との差が90℃以上である場合に特に適している。
【0054】
上述のように、排気処理装置6は、処理筐体61に導入される排気の温度(すなわち、導入排気温度)を測定する導入温度センサ64をさらに備えることが好ましい。これにより、導入排気温度が低く上述のチューニング状態の切り替え等が必要な状態を容易に検出することができる。
【0055】
上述のように、処理筐体61は、排気の流れ方向において、排気により回転するタービン51よりも上流側に配置されることが好ましい。これにより、タービン51通過後に比べて高温の排気を処理筐体61に導入することができる。その結果、触媒部62を常用温度までさらに速やかに昇温することができ、触媒部62によるメタンの酸化を効率良く行うことができる。
【0056】
なお、処理筐体61は、
図3に示すように、排気の流れ方向において、排気により回転するタービン51よりも下流側に配置されることも好ましい。これにより、タービン51通過前に比べて低圧の排気を処理筐体61に導入することができる。その結果、処理筐体61の構造を簡素化することができる。また、排気処理装置6の設置の際にエンジン1の主要構造を変更する必要が無いため、既存の船舶に対して排気処理装置6を容易に後付けすることができる。さらに、排気処理装置6は、上述のように、触媒部62に供給される排気の温度が低い場合であってもメタンを好適に酸化することができるため、タービン51通過によって降温した排気中のメタンを好適に酸化することができる。なお、
図3に示す例では、処理筐体61は、煙道81とタービン51との間に配置され、タービン51の回転に利用された排気が処理筐体61に導入される。
【0057】
図1および
図3に示すエンジンシステム10は、メタンを含むガスを燃料として用いるエンジン1と、エンジン1の排気を処理する上述の排気処理装置6と、を備える。これにより、排気の温度が低い場合であっても、エンジンシステム10からのメタンスリップを抑制することができる。したがって、エンジンシステム10は、排気温度が比較的低い2ストロークエンジンがエンジン1として用いられる場合に特に適している。また、エンジンシステム10は、高圧2ストロークエンジンに比べてメタンスリップが多くなる傾向を有する低圧2ストロークエンジンがエンジン1として用いられる場合に特に適している。
【0058】
上述の排気処理方法は、メタンを含むガスを燃料として用いるエンジン1の排気中の未燃焼のメタンを酸化させる方法である。当該排気処理方法は、所定の常用温度未満の排気を触媒部62に供給する工程(ステップS11)と、排気に含まれる一酸化炭素を触媒部62において酸化させて、一酸化炭素の酸化反応熱を利用して触媒部62を常用温度以上まで昇温させる工程(ステップS14)と、ステップS14よりも後に、常用温度以上の触媒部62により排気中のメタンを酸化させる工程(ステップS15)と、を備える。これにより、上記と同様に、触媒部62に供給される排気の温度が常用温度よりも低い場合であっても、触媒部62を常用温度まで速やかに昇温することができるため、当該排気に含まれるメタンを好適に酸化することができる。
【0059】
上述の排気処理装置6、エンジンシステム10および排気処理方法では、様々な変更が可能である。
【0060】
例えば、処理筐体61に導入される排気の温度と常用温度との差は、90℃未満であってもよい。
【0061】
また、燃焼室20から排出される排気の温度が一酸化炭素の酸化開始温度未満である場合等、触媒部62による一酸化炭素の酸化を促進するために、燃焼室20から処理筐体61へと送出された排気および/または触媒部62が、ボイラ蒸気やヒータ等により加熱されてもよい。当該加熱は、例えば、触媒部62の温度が一酸化炭素の酸化開始温度以上になるまで継続される。
【0062】
排気処理装置6では、必ずしも、触媒温度センサ63による温度測定結果に基づいてエンジン1のチューニング状態が切り替えられる必要はない。例えば、エンジン1の起動開始からの経過時間や出力(回転数)等の運転条件と、排気温度および触媒部62の温度との関係を示すテーブル等が予め準備され、実際の運転条件および当該テーブル等から排気温度および触媒部62の温度が推定されてもよい。この場合、触媒温度センサ63は省略されてもよい。また、排気処理装置6では、導入温度センサ64が省略されてもよい。
【0063】
エンジン制御部7によるエンジン1のチューニング状態の制御は、上記例には限定されず、様々に変更されてよい。例えば、エンジン1のチューニング状態が第1チューニング状態から第2チューニング状態に切り替えられた後、何らかの原因で触媒部62の温度が上述の第1切替温度未満に低下した場合、エンジン1のチューニング状態は、第2チューニング状態から第1チューニング状態に切り替えられてもよい。あるいは、エンジン1のチューニング状態は、第2チューニング状態から、排気中の一酸化炭素濃度が第1チューニング状態と第2チューニング状態との間になる第3チューニング状態に切り替えられてもよい。また、エンジン1のチューニング状態の制御では、第1チューニング状態から第2チューニング状態への切り替えは、必ずしも行われる必要はない。具体的には、例えば、エンジン1において第2チューニング状態は設定されず、触媒部62の温度が上述の第2切替温度未満である場合、エンジン1のチューニング状態は第1チューニング状態にて維持され、触媒部62の温度が第2切替温度に到達すると、第1チューニング状態から基準チューニング状態に直接的に切り替えられる。この場合、第1チューニング状態における排気中の一酸化炭素濃度は、0.04体積%以上かつ2.5体積%以下であることが好ましい。なお、エンジン1のチューニング状態の切り替えは、必ずしもエンジン制御部7により自動的に行われる必要はなく、オペレータが手動で行ってもよい。
【0064】
本発明の関連技術では、排気中の一酸化炭素濃度を定常運転時よりも高くする際には、必ずしも、エンジン1のチューニング状態を、定常運転時の基準チューニング状態から第1チューニング状態に切り替える必要もない。例えば、燃焼室20と処理筐体61との間にガス分離装置等を配置し、当該ガス分離装置等により、処理筐体61に導入される排気中の一酸化炭素濃度を増大させてもよい。あるいは、EGR(Exhaust Gas Recirculation)を行うことにより、掃気の酸素濃度を低下させ、排気中の一酸化炭素濃度を増大させてもよい。
【0065】
上記例では、触媒部62は、一酸化炭素およびメタンの酸化に利用される1つの酸化触媒を備えているが、上述のように、触媒部62の構造および形状は様々に変化されてよい。例えば、触媒部62は、一酸化炭素の酸化に利用される第1の酸化触媒と、メタンの酸化に利用される第2の酸化触媒と、を備えていてもよい。第1の酸化触媒と第2の酸化触媒とは、異なる種類の酸化触媒である。この場合、処理筐体61の内部における排気の流れの上流側に第1の酸化触媒が配置され、第2の酸化触媒は、第1の酸化触媒よりも下流側に配置される。第2の酸化触媒には、第1の酸化触媒を通過した排気が供給される。触媒部62では、処理筐体61に流入した排気が第1の酸化触媒を通過する際に排気中の一酸化炭素が酸化され、一酸化炭素の酸化反応熱により昇温した排気が第2の酸化触媒に供給される。この場合も、上記と略同様に、触媒部62の第2の酸化触媒を常用温度以上まで速やかに昇温することができる。したがって、当該排気中のメタンを好適に酸化することができ、メタンスリップを好適に抑制することができる。なお、第2の酸化触媒では、一酸化炭素およびメタンの双方の酸化が行われてもよい。
【0066】
エンジン1は、BOGではなく、エンジン1用の燃料として準備されているLNGを燃料として用いてもよい。あるいは、エンジン1は、メタンを含む燃料ガスと重油燃料とを切り替えて使用可能な二元燃料エンジンであってもよい。
【0067】
エンジン1は、4ストロークエンジンであってもよい。また、エンジン1は、燃焼方法がディーゼルサイクルまたは拡散燃焼である高圧エンジンであってもよい。
【0068】
エンジンシステム10は、LNG運搬船以外の船舶の主機として使用されてもよく、船舶の主機以外の用途に用いられてもよい。
【0069】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【符号の説明】
【0070】
1 エンジン
6 排気処理装置
10 エンジンシステム
51 タービン
61 処理筐体
62 触媒部
S11~S18 ステップ