(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】高圧水素ガス用蓄圧器
(51)【国際特許分類】
F17C 1/06 20060101AFI20240801BHJP
F16J 12/00 20060101ALI20240801BHJP
F16J 13/12 20060101ALI20240801BHJP
F17C 13/06 20060101ALI20240801BHJP
G01N 29/04 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
F17C1/06
F16J12/00 A
F16J13/12 A
F17C13/06 301Z
G01N29/04
(21)【出願番号】P 2021163714
(22)【出願日】2021-10-04
(62)【分割の表示】P 2018159116の分割
【原出願日】2018-08-28
【審査請求日】2021-10-20
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-23
(31)【優先権主張番号】P 2017169592
(32)【優先日】2017-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391018019
【氏名又は名称】JFEコンテイナー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100195785
【氏名又は名称】市枝 信之
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 周作
(72)【発明者】
【氏名】岡野 拓史
(72)【発明者】
【氏名】長尾 彰英
(72)【発明者】
【氏名】石川 信行
(72)【発明者】
【氏名】高野 俊夫
【合議体】
【審判長】有家 秀郎
【審判官】加藤 範久
【審判官】土屋 真理子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-158243号公報(JP,A)
【文献】特表平4-503559号公報(JP,A)
【文献】特開2009-293799号公報(JP,A)
【文献】特開2010-121210号公報(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 1/00
F17C 1/06
F16J 12/00
F16J 13/12
F17C 13/06
G01N 29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄圧部を構成するストレート形状の鋼製容器を備えた高圧水素ガス用蓄圧器であって、
前記鋼製容器の両端が、
一方の主面が前記蓄圧部に面し、前記鋼製容器の内周面との間をシールする円盤状のプラグと、
外周面にネジ山を有する円筒状であり、前記プラグの他方の主面と接するグランドナットとにより封止されており、
前記グランドナットの肉厚が20~60mm、内径が50~300mmであ
り、
前記鋼製容器の引張強さが1100MPa以下である、高圧水素ガス用蓄圧器。
【請求項2】
前記鋼製容器の外周面に炭素繊維強化樹脂層を有する、請求項
1に記載の高圧水素ガス用蓄圧器。
【請求項3】
前記炭素繊維強化樹脂層の厚さが一定である定常部が、前記鋼製容器の長手方向端部における前記グランドナットのネジ山との螺合部を覆っていない、請求項
2に記載の高圧水素ガス用蓄圧器。
【請求項4】
前記鋼製容器の内面が機械加工されている、請求項1~
3のいずれか一項に記載の高圧水素ガス用蓄圧器。
【請求項5】
前記鋼製容器の外面が機械加工されている、請求項1~
4のいずれか一項に記載の高圧水素ガス用蓄圧器。
【請求項6】
前記鋼製容器および前記グランドナットのいずれか一方または両方に、疲労き裂を検知するセンサーを備える、請求項1~
5のいずれか一項に記載の高圧水素ガス用蓄圧器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧水素ガス用蓄圧器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
CO2排出問題を解決すると共に、エネルギー問題を解決可能な燃料電池自動車は、今後の新たな自動車として期待されている。この燃料電池自動車に水素を供給するための水素ステーションには、80MPa以上の圧力で水素を蓄圧する蓄圧器と呼ばれる圧力容器が設置されている。
【0003】
このような高圧水素ガス用蓄圧器には、大きく2種類の形状がある。一つは管の端部に絞り加工を施して鏡部を作製したものボンベ型蓄圧器、もう一つはストレートな管の両端に蓋をしたストレート型蓄圧器である。
【0004】
ボンベ型蓄圧器は、ガスの出口に向けて容器内の断面積が減少する形状となっており、口金部は径の小さなネジ構造の留め金で封止される。この場合、口金のネジ部にかかる応力は低減されるため、圧力の封止に関する問題はない。しかし、ボンベ型蓄圧器には、以下のような問題があった。
【0005】
(1)絞り加工を行うことによって内面にしわが発生し、そのしわを起点に疲労破壊が発生する懸念がある。また、耐圧性能を向上させるために素材の肉厚を増加させた場合、そもそも絞り加工を行うことが困難となる。
【0006】
(2)水素ステーション用などの高圧水素ガス用蓄圧器では、使用開始後に定期的に内面検査を行う必要があるが、ボンベ型蓄圧器では蓄圧器の内面検査が困難である。
【0007】
(3)鋼製容器を備える蓄圧器を作製する場合には、通常、鋼製容器に熱処理が施されるが、ボンベ型蓄圧器の場合、鋼製容器内部への冷却水の導入および排出に時間がかかるため、熱処理時の冷却速度が遅くなり、鋼組織のばらつきが大きくなる。また、熱処理によって鋼製容器の内部表面に生成するスケールや脱炭層を除去することが困難であるため、内面を熱処理ままの状態で用いることとなる。その結果、鋼製容器の疲労特性が劣化する。
【0008】
そこで、上記のような問題を回避するために、ストレート型の蓄圧器を用いることが考えられる。ストレートな管の両端に蓋をした構造であれば、管の開口部が大きいため、熱処理時の冷却が容易になり、鋼材の組織を精密に制御することができる。そのため、ストレート型蓄圧器ではボンベ型蓄圧器に比べて疲労特性を向上させることができる。また、熱処理後に管の外面だけでなく内面を機械加工することができるため、熱処理時に生成する脱炭層やスケールの除去や内面粗度の管理を容易に行うことができる。さらに、検査時に蓋をあけることで内面疵の詳細な検査が可能となる。
【0009】
このようなストレート型の高圧水素ガス用蓄圧器としては、例えば、特許文献1、2に記載されたものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2016-089891号公報
【文献】特開2015-158243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のようなストレート型の高圧水素ガス用蓄圧器では容器の断面積がほぼ一定であるため、内部の圧力はすべて両端部に設けられた蓋で受圧される。したがって、ストレート型の高圧水素ガス用蓄圧器の蓋構造には、極めて高い圧力がかかる。そして、前記蓋は、管の内周面に設けられたネジ山と蓋の外周面に設けられたネジ山とを螺合させることによって固定されるため、ストレート型蓄圧器においてはボンベ型にはないネジ部からの疲労破壊を考慮した設計が必要となる。
【0012】
また、水素ステーションでは燃料電池自動車に水素を短時間で供給する必要があるため、水素ステーション用蓄圧器には車載用容器に比べてより高い圧力で水素を蓄えておくことが求められる。また、水素ステーション用蓄圧器は、水素充填・放出回数が圧倒的に多く、使用年数も長いため、車載用容器に比べて高い疲労特性が要求される。そのため、定期的に蓄圧器の健全性、特に、疲労き裂の発生の有無を確認することが必要であることに加え、使用中にも疲労き裂の発生モニタリングできることが望ましい。
【0013】
以上の理由から、実使用時におけるストレート型高圧水素ガス用蓄圧器の安全性を担保するためには、蓄圧器の両端に設けられた蓋構造のネジ部における疲労き裂の発生を、蓄圧器の使用中もしくは定期検査時に容易に検出できる技術が求められている。
【0014】
しかし、特許文献1、2に記載されているような従来の高圧水素ガス用蓄圧器においてネジ部におけるき裂を検知しようとすると、き裂を検知できるセンサー(例えば、アコースティックエミッションセンサーや超音波探傷センサー)を蓄圧器の外周面に設置することになる。そのため、鋼製容器(円筒シリンダ部)における亀裂の発生や進展を検知することはできるものの、該鋼製容器の端部にねじ込まれている蓋(ナット)におけるき裂の発生を検知することは不可能である。また、特許文献1、2に記載されているように、鋼製容器(ライナ)の外周面に炭素繊維強化樹脂層を設けた複合容器の場合には、鋼製容器の表面に直接センサーを設置することができないため、鋼製容器におけるき裂の検知も困難である。
【0015】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、ストレート形状の鋼製容器を備えた高圧水素ガス用蓄圧器において、使用中であってもネジ部における疲労き裂の検査を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために検討を行った結果、本発明者等は、蓋部を従来のような中実構造ではなく中空構造とすることにより、蓋部の内部にもセンサーを設置することができ、その結果、蓄圧器の使用中であっても、ネジ部における疲労き裂を容易に検知できることを見出した。
【0017】
本発明は前記知見に立脚するものであり、その要旨構成は次のとおりである。
【0018】
1.蓄圧部を構成するストレート形状の鋼製容器を備えた高圧水素ガス用蓄圧器であって、
前記鋼製容器の両端が、
一方の主面が前記蓄圧部に面し、前記鋼製容器の内周面との間をシールする円盤状のプラグと、
外周面にネジ山を有する円筒状であり、前記プラグの他方の主面と接するグランドナットとにより封止されており、
前記グランドナットの肉厚が20~60mm、内径が50~300mmである、高圧水素ガス用蓄圧器。
【0019】
2.前記鋼製容器の引張強さが1100MPa以下である、上記1に記載の高圧水素ガス用蓄圧器。
【0020】
3.前記鋼製容器の外周面に炭素繊維強化樹脂層を有する、上記1または2に記載の高圧水素ガス用蓄圧器。
【0021】
4.前記炭素繊維強化樹脂層の厚さが一定である定常部が、前記鋼製容器の長手方向端部における前記グランドナットのネジ山との螺合部を覆っていない、上記3に記載の高圧水素ガス用蓄圧器。
【0022】
5.前記鋼製容器の内面が機械加工されている、上記1~4のいずれか一項に記載の高圧水素ガス用蓄圧器。
【0023】
6.前記鋼製容器の外面が機械加工されている、上記1~5のいずれか一項に記載の高圧水素ガス用蓄圧器。
【0024】
7.前記鋼製容器および前記グランドナットのいずれか一方または両方に、疲労き裂を検知するセンサーを備える、上記1~6のいずれか一項に記載の高圧水素ガス用蓄圧器。
【0025】
また、他の実施形態における本発明の要旨構成は次のとおりである。
【0026】
1.蓄圧部を構成するストレート形状の鋼製容器を備えた高圧水素ガス用蓄圧器であって、
前記鋼製容器の両端が、
一方の主面が前記蓄圧部に面し、前記鋼製容器の内周面との間をシールする円盤状のプラグと、
外周面にネジ山を有する円筒状であり、前記プラグの他方の主面と接するグランドナットとにより封止されている、高圧水素ガス用蓄圧器。
【0027】
2.前記鋼製容器の外周面に炭素繊維強化樹脂層を有する、上記1に記載の高圧水素ガス用蓄圧器。
【0028】
3.前記炭素繊維強化樹脂層の厚さが一定である定常部が、前記鋼製容器の長手方向端部における前記グランドナットのネジ山との螺合部を覆っていない、上記2に記載の高圧水素ガス用蓄圧器。
【0029】
4.前記鋼製容器の内面が機械加工されている、上記1~3のいずれか一項に記載の高圧水素ガス用蓄圧器。
【0030】
5.前記鋼製容器の外面が機械加工されている、上記1~4のいずれか一項に記載の高圧水素ガス用蓄圧器。
【0031】
6.前記鋼製容器および前記グランドナットのいずれか一方または両方に、疲労き裂を検知するセンサーを備える、上記1~5のいずれか一項に記載の高圧水素ガス用蓄圧器。
【発明の効果】
【0032】
本発明の高圧水素ガス用蓄圧器においては、蓋部を構成するグランドナットが円筒状であるため、蓄圧器の使用中であっても前記グランドナットの内側にセンサーを設置してネジ部における疲労き裂の検査を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の第1の実施形態における高圧水素ガス用鋼製蓄圧器の構造を示す断面模式図である。
【
図2】本発明の第2の実施形態における高圧水素ガス用鋼製蓄圧器の構造を示す断面模式図である。
【
図3】本発明の第3の実施形態における高圧水素ガス用鋼製蓄圧器の構造を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
次に、本発明を実施する方法について具体的に説明する。なお、以下の説明は、本発明の好適な実施態様を示すものであり、本発明は以下の説明によって何ら限定されるものではない。
【0035】
[高圧水素ガス用蓄圧器]
本発明の蓄圧器は、高圧水素ガス用蓄圧器であり、鋼製容器を備えている。前記高圧水素ガス用蓄圧器は、例えば、水素ステーション用蓄圧器として用いることができるが、それに限定されることなく、任意の用途で用いることができる。
【0036】
本発明の高圧水素ガス用蓄圧器は、鋼製容器のみで構成されていてもよく、また、鋼製容器の表面の少なくとも一部に後述する炭素繊維強化樹脂(CFRP)層を有していてもよい。より具体的には、一般的に蓄圧器は以下の4種類に大別されるが、本発明の高圧水素ガス用蓄圧器はタイプ1もしくは2のいずれかタイプとすることができる。
・タイプ1:金属製容器からなる蓄圧器。
・タイプ2:金属製容器(ライナ)+CFRP(フープラップ)。
・タイプ3:金属製容器(ライナ)+CFRP(フルラップ)。
・タイプ4:樹脂製容器(ライナ)+CFRP(フルラップ)。
【0037】
[鋼製容器]
上記鋼製容器としては、ストレート形状のものを用いる。ここで「ストレート形状」とは、長手方向に垂直な面における断面積が略一定である、円筒状の形状を指すものとする。前記鋼製容器の両端は、後述するプラグおよびグランドナットにより封止される。そのため、前記鋼製容器両端部の内周面には、後述するグランドナットのネジ山と螺合するネジ山が設けられている。
【0038】
上記鋼製容器の材質としては、特に限定されることなく任意の鋼を用いることができるが、低コスト化の観点からは低合金鋼製の容器を用いることが好ましく、特に、クロムモリブデン鋼JIS SCM steel、ニッケルクロムモリブデン鋼JIS SNCM steelもしくはASME SA723、マンガンクロム鋼JIS SMnC steel、マンガン鋼JIS SMn steel、およびボロン添加鋼N28CB、N36CB、N46CBのうちいずれか1つを用いることが好ましい。中でも、材料強度との両立の観点からは、焼き入れ性を確保しやすいクロムモリブデン鋼もしくはクロムモリブデンニッケル鋼を用いることがより好ましい。例えば、クロムモリブデン鋼(SCM435)は、C:0.33~0.38質量%、Si:0.15~0.35質量%、Mn:0.60~0.90質量%、P:0.030質量%以下、S:0.030質量%以下、Cr:0.90~1.20質量%、Mo:0.15~0.30質量%である。
【0039】
蓄圧器に水素を収容する際には、素材の水素脆化を考慮する必要がある。水素脆化の観点からは、鋼製容器の引張強さTSを1100MPa以下とすることが好ましく、950MPa以下とすることがより好ましい。
【0040】
上記鋼製容器としては、特に限定されず、任意の方法で製造されたものを用いることができる。例えば、鋼材の内部をくり抜いて容器としたものであってもよく、鋼管を加工したものであってもよい。また、前記鋼管としては、電縫溶接鋼管やシームレス鋼管など、任意のものを用いることができるが、中でもシームレス鋼管からなる鋼製容器を用いることが好ましい。シームレス鋼管からなる鋼製容器は、くり抜きによって製造される鋼製容器に比べて靭性などの特性に優れることに加え、溶接部もないため、高圧水素ガス用蓄圧器の容器として極めて好適である。
【0041】
前記鋼製容器の表面は、機械加工されていることが好ましい。表面を機械加工することにより、熱処理時に表面に生じた脱炭層を除去することができる。また、機械加工によって表面を所望の粗度に仕上げることができる。機械加工における表面仕上げは、例えば、△△△等のレベルとすることができる。前記機械加工は、鋼製容器の内面および外面のいずれか一方または両方に施すことができる。前記機械加工としては、例えば、切削、研削など、任意の加工方法を、単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0042】
機械加工時に表面粗度を向上させることで、表面欠陥を除去するとともに、凹凸への応力集中を低減することができる。そしてその結果、疲労き裂の発生がさらに抑制され、耐疲労特性が一層向上する。具体的には、鋼製容器の少なくとも蓄圧部の内面における表面粗度Rzを20μm以下とすることが好ましく、10μm以下とすることがより好ましい。一方、Rzを2μmより小さくしても耐疲労特性の向上効果は少ない。そのため、Rzは2μm以上とすることが好ましい。ここで、Rzは、JIS B 0601:2001で規定される粗さ曲線における「最大高さ」を指すものとする。
【0043】
[蓋構造]
鋼製容器の両端は、プラグとグランドナットを有する蓋構造によって封止される。
【0044】
前記プラグは、対向する1対の主面(平坦な円形の面)を有する円盤状の部材であり、その周側面が鋼製容器の内周面に設置されたOリングと接することによってプラグと鋼製容器との間がシールされる。プラグの一方の主面は蓄圧部に面しており、前記プラグが蓄圧部の圧力を受ける構造となっている。なお、ここで「蓄圧部」とは、鋼製容器内部における、高圧水素ガスが貯蔵される空間を指すものとする。
【0045】
鋼製容器の両端に設置されているプラグのうち、少なくとも一方にはガスを出し入れするための貫通孔が設けられている。前記貫通孔は、一方のプラグにのみ設けることもできるが、両方のプラグに設けることもできる。また、1つのプラグに2またはそれ以上の貫通孔を設けてもよい。前記貫通孔には、任意に配管やバルブを接続することができる。
【0046】
グランドナットは、外周面にネジ山を有する中空円筒状の部材であり、グランドナットのネジ山は鋼製容器の内周面に設けられたネジ山と螺合している。グランドナットは、プラグ20の他方の主面と接しており、プラグを支持する働きを有している。
【0047】
上記のように中空円筒状のグランドナットを用いた蓋構造を用いることにより、後述するようにグランドナットの内周面にセンサーを設置することが可能となる。また、中空構造であるため、従来の中実構造の蓋に比べて大幅に蓋構造を軽量化することができる。
【0048】
プラグおよびグランドナットの寸法は蓄圧する水素の圧力および容量に依存して適切に設計するが、プラグはおおよそ厚み10mm~70mm、グランドナットは肉厚20~60mm、内径50~300mm、長さ100~300mm程度が好ましい。特にグランドナット内径は後述するように内部にセンサーを取り付ける場合にその設置スペースの確保が必要となり、50mm以上が好ましい。
【0049】
上記プラグおよびグランドナットの材質としては、特に限定されることなく任意の材料を用いることができるが、金属を用いることが好ましく、鋼を用いることがより好ましい。前記鋼としては、低コスト化の観点からは低合金鋼製の容器を用いることが好ましく、特に、クロムモリブデン鋼JIS SCM steel、ニッケルクロムモリブデン鋼JIS SNCM steelもしくはASME SA723、マンガンクロム鋼JIS SMnC steel、マンガン鋼JIS SMn steel、およびボロン添加鋼N28CB、N36CB、N46CBのうちいずれか1つを用いることが好ましい。中でも、材料強度との両立の観点からは、焼き入れ性を確保しやすいクロムモリブデン鋼もしくはクロムモリブデンニッケル鋼を用いることがより好ましい。例えば、クロムモリブデン鋼(SCM435)は、C:0.33~0.38質量%、Si:0.15~0.35質量%、Mn:0.60~0.90質量%、P:0.030質量%以下、S:0.030質量%以下、Cr:0.90~1.20質量%、Mo:0.15~0.30質量%である。
【0050】
上記プラグおよびグランドナットの材料として鋼を用いる場合、該鋼は鋼製容器の材料である鋼と同じであってもよく、異なっていてもよい。また、前記プラグおよびグランドナットの材料は、独立して選択することができ、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0051】
上記グランドナットとしては、特に限定されず、任意の方法で製造されたものを用いることができる。例えば、鋼材の内部をくり抜いて中空円筒状としたものであってもよく、鋼管を加工したものであってもよい。また、前記鋼管としては、電縫溶接鋼管やシームレス鋼管など、任意のものを用いることができるが、中でもシームレス鋼管からなるグランドナットを用いることが好ましい。シームレス鋼管からなるグランドナットは、くり抜きによって製造されるグランドナットに比べて靭性などの特性に優れることに加え、溶接部もないため、高圧水素ガス用蓄圧器の封止に極めて好適に用いることができる。
【0052】
[センサー]
本発明の一実施形態における高圧水素ガス用蓄圧器は、き裂を検知するためのセンサーを備えることができる。センサーの設置位置は特に限定されず、任意の位置に設置することができる。本発明の高圧水素ガス用蓄圧器では、蓋部に中空円筒状のグランドナットを用いているため、該グランドナットの内周面にセンサーを設置することができる。グランドナットの内側にセンサーを設置することにより、蓄圧器が使用中であるか否かにかかわらず、グランドナットに発生するき裂を検知することができる。
【0053】
また、鋼製容器の外周面にもセンサーを設置することができる。このように鋼製容器の外部にセンサーを設置することにより、鋼製容器に発生するき裂の検知も可能となる。
【0054】
上述したようにストレート型蓄圧器においては蓋構造のネジ部に高い圧力がかかるため、鋼製容器とグランドナットのネジ山が螺合しているネジ部の直下または直上にセンサーを設けることが好ましい。特に、ネジ部の負荷は蓄圧部側から3~5山程度の範囲において最も高くなるため、蓄圧部側から3~5山の位置におけるき裂を検知できるようにセンサーを設置することがより好ましい。
【0055】
センサーは、鋼製容器およびグランドナットの周方向に1つのみ設けてもよいが、2つ以上設けることもできる。複数のセンサーを用いることにより、より広い範囲におけるき裂を高い精度で検知することができる。センサーを周方向に2つ以上設ける場合には等間隔に設けることが好ましい。例えば、周方向に180°、120°、または90°間隔でセンサーを設けることが好ましい。
【0056】
前記センサーとしては、疲労によって発生するき裂を検知することができるものであれば任意のセンサーを用いることができる。前記センサーとしては、例えば、アコースティックエミッション(AE)センサーや超音波探傷センサーなどを挙げることができる。
【0057】
前記センサーを蓄圧器に固定した状態で該蓄圧器を使用することにより、リアルタイムでき裂の発生をモニターすることもできる。一方、リアルタイムでのモニタリングの必要がない場合には、センサーを固定しておく代わりに、定期検査の際などにセンサーを用いてき裂の検査を行うこともできる。その場合、超音波探傷センサーを用いてき裂の有無を検査することが好ましい。
【0058】
AEセンサーは、き裂が発生した際に生じる弾性波を検出することにより、き裂の発生を検知することができるセンサーである。弾性波は鋼の内部を伝播しやすいため、AEセンサーは鋼製容器の端部に設置してもよい。ただし、弾性波は空気層により著しく減衰するため、鋼製容器に発生するき裂は鋼製容器に設置されたセンサーで検知することが好ましい。同様に、ランドナットに発生するき裂はグランドナットに設置されたセンサーで検知することが好ましい。一方、弾性波は鋼管を伝播する際に減衰し、その影響はセンサーと亀裂発生位置との距離が離れるほど大きくなる。したがって、AEセンサーは、き裂発生個所に近い位置に設置することが望ましく、グランドナットを使用する場合には該グランドナットの内側に設置することが好ましい。
【0059】
なお、疲労き裂は鋼製容器の長手方向に発生、進展すると予想されるため、超音波探傷センサーとしては、斜角探触子を備える超音波探傷センサーを用い、斜角探傷を行うことが好ましい。前記超音波探傷センサーとしては、特に、フェーズドアレイ型の探触子を用いたセンサーを用いることが好ましい。フェーズドアレイ型センサーを用いた超音波探傷では、複数の素子を制御して合成波面を形成することにより、入射波を走査することや任意の位置に収束させることができる。そのため、センサー設置位置の自由度が高くなることに加えて、高感度での探傷が可能となる。
【0060】
また、超音波は直進性に優れていて、き裂面がその超音波の直線状に存在しない場合には検出感度が低下する。したがって、中空のグランドナットの内側に超音波センサーを設置すれば、グランドナット側に発生したき裂発生位置に対してほぼ真上で検査可能となるため、より高感度の検出が可能となる。
【0061】
[炭素繊維強化樹脂層]
上記鋼製容器の表面には、炭素繊維強化樹脂層を設けることができる。炭素繊維強化樹脂層は、強化材に炭素繊維を用い、これに樹脂を含浸させて強度を向上させた複合材料であり、CFRP(carbon-fiber-reinforced plastic)と呼ばれている。前記炭素繊維強化樹脂層を設けることにより、蓄圧器の耐圧性および疲労特性をさらに向上させることができる。前記炭素繊維強化樹脂層は、鋼製容器の外周面の一部を覆うことができるが、低コスト化の観点からは容器の周方向のみに炭素繊維を巻き付けたタイプ2容器とすることが好ましい。
【0062】
鋼製容器の表面(外周面)に炭素繊維強化樹脂層を設ける場合、通常は、炭素繊維強化樹脂層の厚さを一定とするが、炭素繊維強化樹脂層の巻き終わり部、すなわち、鋼製容器の長手方向両端部側部分では炭素繊維強化樹脂層の厚さが薄くなる。前記炭素繊維強化樹脂のまき終わり部は、容器性能を確保し、かつより低コスト化を指向し高価な炭素繊維使用量を低減するために、前記炭素繊維強化樹脂層の厚さが一定である定常部が、前記鋼製容器の長手方向端部における前記グランドナットのネジ山との螺合部を覆っていない、もしくはプラグ部とグランドナットの接触面から50mm程度まで巻くことが好ましい。さらには、CFRP巻終わり位置はプラグに接する部分から5山目程度までのネジの探傷を行うためには、プラグ上で巻き終わることがより好ましい。なお、炭素繊維強化樹脂層を用いる場合、前記鋼製容器は「ライナ」と称される。
【0063】
前記炭素繊維としては、特に限定されることなく、例えば、PAN系、ピッチ系など、任意のものを用いることができる。炭素繊維強化樹脂層における炭素繊維の体積含有率は、日本工業規格JIS K 7075(1991)に準拠して求めることができ、通常50%~80%の範囲とすることが好ましい。
【0064】
[防食層]
炭素繊維強化樹脂層を設ける場合には、さらに、鋼製容器(ライナ)の外周面に電蝕防止のための防食層を設け、該防食層上に前記炭素繊維強化樹脂層を設けることが好ましい。前記防食層を設けることにより、炭素繊維強化樹脂層にクラックなどが発生して外部から水分が侵入した場合でも、水分が鋼製容器に直接接触しないため、鋼製容器の腐食を防止できる。また、水分が鋼製容器と接触したとしても、防食層によって鋼製容器と炭素繊維強化樹脂層とが隔絶しているため、電食が発生せず、したがって腐食の進行を抑制することができる。
【0065】
前記防食層としては、例えば、粉体塗装による樹脂被覆や、ガラス繊維強化樹脂(GFRP)層を用いることができる。前記粉体塗装には、例えば、塩化ビニル系樹脂等をベースとする熱可塑性粉体塗料や、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂およびエポキシ樹脂等をベースとする熱硬化性粉体塗料を用いることができる。水素充填時の熱等を考慮して、熱硬化性粉体塗料を用いることが好ましい。また、ガラス繊維強化樹脂は炭素繊維強化樹脂よりも軟質であるため、ガラス繊維強化樹脂層を設けることで小石などによる疵付きを防止することもできる。
【0066】
次に、本発明の高圧水素ガス用蓄圧器の構造の例を、図面を参照しながらさらに具体的に説明する。
【0067】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の一実施形態における高圧水素ガス用蓄圧器1の構造を示す模式図であり、蓄圧器の中心軸を通る面における断面を表している。高圧水素ガス用蓄圧器1は、ストレート形状で断面円形の鋼製容器10を備えており、鋼製容器10の内部空間は蓄圧部11を構成している。
【0068】
鋼製容器10の両端には、円盤状のプラグ20および円筒状(円環状)のグランドナット30からなる蓋構造が設けられている。
【0069】
プラグ20は、対向する1対の主面(平坦な円形の面)を有する円盤状の部材であり、その周側面が鋼製容器10の内周面に設置されたOリングと接することによって、プラグ20と鋼製容器10との間がシールされる。プラグ20の一方の主面は蓄圧部11に面しており、プラグ20が蓄圧部の圧力を受ける構造となっている。
【0070】
鋼製容器10の両端に設置されているプラグ20の一方にはガスを出し入れするための貫通孔21が設けられており、貫通孔21には配管12が接続されている。配管12には図示されないバルブを任意に設けることができる。
【0071】
グランドナット30は、外周面にネジ山を有する中空円筒状の部材であり、グランドナット30のネジ山は鋼製容器10の内周面に設けられたネジ山と螺合している。グランドナット30は、プラグ20の他方の主面と接しており、これによりプラグ20が支持されている。
【0072】
円筒状であるグランドナット30の内周面には、センサー40(内側センサー40a)が設けられている。このようにグランドナット30の内側にセンサーを設置することにより、蓄圧器が使用中であるか否かにかかわらず、グランドナット30に発生するき裂を検知することができる。
【0073】
また、鋼製容器10の外周面にもセンサー40(外側センサー40b)が設置されている。このように鋼製容器の外部にセンサーを設置することにより、鋼製容器に発生するき裂の検知も可能となる。
【0074】
(第2の実施形態)
図2は、本発明の第2の実施形態における高圧水素ガス用蓄圧器1の構造を示す模式図である。なお、特に言及しない部分については上述した第1の実施形態と同様とすることができる。
【0075】
本実施形態では、鋼製容器10の外周に炭素繊維強化樹脂層50が設けられている。炭素繊維強化樹脂層50を設けることにより、蓄圧器の耐圧性および疲労特性をさらに向上させることができる。
【0076】
なお、
図2に示した例ではグランドナット30の内周面にのみセンサー(内側センサー40a)を設置している。これは、鋼製容器10のネジ部が炭素繊維強化樹脂層50によって覆われているためである。ただし、
図2のように鋼製容器10の端部に炭素繊維強化樹脂層50によって覆われていない領域がある場合には、前記領域を利用して、超音波斜角探傷によって鋼製容器10のネジ部の探傷を行うこともできる。上記観点からは、グランドナット30と炭素繊維強化樹脂層50とが重複する領域の、蓄圧器長手方向における長さdを100mm以下とすることが好ましい。
【0077】
(第3の実施形態)
図3は、本発明の第3の実施形態における高圧水素ガス用蓄圧器1の構造を示す模式図である。なお、特に言及しない部分については上述した第1、第2の実施形態と同様とすることができる。
【0078】
本実施形態では、第2の実施形態と同様に鋼製容器10の外周に炭素繊維強化樹脂層50が設けられているが、炭素繊維強化樹脂層50は蓄圧部11およびプラグ20部分のみを覆っており、グランドナット30部分を覆っていない。そのため、炭素繊維強化樹脂層を設けていない第1の実施形態の場合と同様に、ネジ部に外側センサー40bを設置することができる。
【実施例】
【0079】
ストレート形状の鋼製容器を備えた高圧水素ガス用蓄圧器を作成し、疲労試験を行って疲労き裂を検出できるかどうかを試験した。具体的な手順は以下のとおりとした。
【0080】
高圧水素ガス用蓄圧器としては、炭素繊維強化樹脂層を有さないタイプ1蓄圧器と、炭素繊維強化樹脂層を有するタイプ2蓄圧器の両者を作製した(表1)。いずれの蓄圧器においても、低合金鋼製の継ぎ目無し鋼管を内面研削して得た鋼製容器を使用した。タイプ2の蓄圧器は、前記鋼製容器(ライナ)の外周に、厚さ10mmとなるようにPAN系CFRPを巻き付けて作製した。タイプ1、タイプ2のいずれの蓄圧器においても、鋼製容器の寸法は、水素貯蔵部長さ:700mm、外径:300mm、肉厚:25mmとした。プラグ厚さは50mm、中空のグランドナットは厚み25mm、長さ200mmとした。中実のグランドナットは鍛造により素材を作製した。前記低合金鋼としては、ニッケルクロムモリブデン鋼であるSNCM439を用い、焼き入れ焼き戻しの熱処理を施し、引張強さ(TS)が900MPa程度となるように調整した。
【0081】
また、タイプ2蓄圧器については、炭素繊維強化樹脂層が
図2に示したようにネジ部まで覆っているもの(No.4~6)と、プラグ部までしか覆っていない(ネジ部を覆っていない)もの(No.7~9)の2種類を作成した。
【0082】
発明例の蓄圧器においては、
図1~3に示したように、円盤状プラグと中空円筒状のグランドナットからなる中空の蓋構造を採用した。また、比較のために、中実の蓋構造を用いた蓄圧器を作成した(No.3、6、9)。前記中実の蓋構造においては、中空円筒状のグランドナットに代えて中実のグランドナットを使用した。
【0083】
得られた蓄圧器の鋼製容器外側および中空グランドナットの場合はその内側に、中実グランドナットの場合は端部にき裂検知用のセンサーを配置した。使用したセンサーの種類は表1に示したとおりとした。
【0084】
上記のようにして作成した各蓄圧器を用いて、圧力サイクル試験を行った。圧力サイクル試験は、発明例の蓄圧器についてはき裂が発生する条件(水圧で最低圧力2MPa、最高圧力93MPa)およびき裂が発生しない条件(最低圧力2MPa、最高圧力35MPa)の両者で実施し、比較例の蓄圧器については、き裂が発生する条件(水圧で最低圧力2MPa、最高圧力93MPa)のみで実施した。き裂が発生する条件においては、疲労き裂がネジ部で進展する。
【0085】
上記圧力サイクル試験における実際のネジ部における疲労き裂の発生の有無と、上述したセンサーによるき裂検知の有無を表1に示した。この結果から分かるように、中空の蓋構造を有する発明例の蓄圧器では、鋼製容器側およびグランドナット側の何れにおいても、発生したき裂をセンサーで検知できることが分かる。
【0086】
【符号の説明】
【0087】
1 高圧水素ガス用蓄圧器
10 鋼製容器
11 蓄圧部
12 配管
20 プラグ
21 貫通孔
30 グランドナット
40 センサー
40a 内側センサー
40b 外側センサー
50 炭素繊維強化樹脂層