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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】増殖性肝細胞を培養する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20240801BHJP
   C12N 5/02 20060101ALI20240801BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/02
C12Q1/02
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021514482
(86)(22)【出願日】2019-05-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-24
(86)【国際出願番号】 EP2019062649
(87)【国際公開番号】W WO2019219828
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】18305603.5
(32)【優先日】2018-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】514203362
【氏名又は名称】インセルム(インスティチュート ナショナル デ ラ サンテ エ デ ラ リシェルシェ メディカル)
(73)【特許権者】
【識別番号】523150772
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・レンヌ
(73)【特許権者】
【識別番号】520446399
【氏名又は名称】エコール デ オート エチュード エン サンテ パブリーク(イーエイチイーエスピー)
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ビュッフェ,ジョージ
(72)【発明者】
【氏名】ラングエ,ソフィー
(72)【発明者】
【氏名】イザン,フレデリック
(72)【発明者】
【氏名】ローズ,ソフィー
(72)【発明者】
【氏名】キュヴリエ,マリー
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-519598(JP,A)
【文献】国際公開第2018/036910(WO,A1)
【文献】国際公開第2003/010302(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/150294(WO,A1)
【文献】EXPERIMENTAL CELL RESEARCH,1996年,Vol. 223,p. 357-371
【文献】Lab on a Chip,2013年,Vol. 13,p. 2591-2598
【文献】Journal of Cellular Biochemistry,2015年09月01日,Vol. 117,p. 708-720,doi:10.1002/jcb.25356
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
C12Q 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
初代ヒト肝細胞(PHH)を培養して増殖性PHHを含むスフェロイドを得る方法であって、
a)まず、1時間~96時間非接着性培養容器中で前記PHHを培養することにより、PHHの凝集体を形成することと、
b)次に、0.25mg/mL~3mg/mLの範囲の濃度のコラーゲンまたは切り詰め型コラーゲン、すなわちゼラチンを最大40(w/v)%の濃度で含む培養培地に前記PHHを移し、それによりコラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックス中に前記PHHを埋め込むことと、
c)前記コラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックス中に埋め込まれたPHHを少なくとも2日間培養し、それにより増殖性PHHを含むスフェロイドを得ること
を含み、前記スフェロイドは中空内腔を有する腺房様構造を有する、方法。
【請求項2】
a)まず、1時間~96時間非接着性培養容器中で前記PHHを培養することにより、PHHの凝集体を形成することと、
b)次に、0.25mg/mL~3mg/mLの範囲の濃度のコラーゲンを含む培養培地に前記PHHを移し、それによりコラーゲンマトリックス中に前記PHHを埋め込むことと、
c)前記コラーゲンマトリックス中に埋め込まれたPHHを少なくとも2日間培養し、それにより増殖性PHHを含むスフェロイドを得ること
を含み、前記スフェロイドは中空内腔を有する腺房様構造を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップb)で前記PHHが、I型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン、V型コラーゲン、VI型コラーゲン、XI型コラーゲン、XXIV型コラーゲン、XXVII型コラーゲンおよびそれらのいずれかの混合物から選択される線維性コラーゲンを含む培養培地に移される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
a)まず、1時間~96時間非接着性培養容器中で前記PHHを培養することにより、前記PHHの凝集体を形成することと、
b)次に、メタクリル酸修飾ゼラチン(GelMa)を最大40(w/v)%の濃度で含む培養培地に前記PHHを移し、それによりGelMaマトリックス中に前記PHHを埋め込むことと、
c)前記GelMaマトリックス中に埋め込まれたPHHを少なくとも2日間培養し、それにより増殖性PHHを含むスフェロイドを得ること
を含み、前記スフェロイドは中空内腔を有する腺房様構造を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ステップb)で前記PHHが、1%(w/v)~20%(w/v)の範囲の濃度でメタクリル酸修飾ゼラチン(GelMa)を含む培養培地に移される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ステップa)で、前記非接着性培養容器は、前記培養容器の内面への細胞接着を妨げるコーティングの存在を特徴とする低接着性または超低接着性培養容器である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
d)前記コラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックス中に埋め込まれたPHHの培養物にMAPK MEK1/2-ERK1/2経路の阻害剤を添加し、それにより前記PHHの1つ以上のさらなる増殖の波を誘導すること
をさらに含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
e)コラゲナーゼまたはコラーゲン分解活性を有する酵素混合物と前記コラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックス中に埋め込まれた増殖性PHHを含むスフェロイドをインキュベートし、それにより前記コラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスから増殖性PHHを含むスフェロイドを単離すること
をさらに含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
コラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックス中に埋め込まれた増殖性初代肝細胞を含むスフェロイドであって、中空内腔を有する腺房様構造を有する、スフェロイド。
【請求項10】
前記増殖性初代肝細胞が、増殖性初代ヒト肝細胞(PHH)である、請求項9に記載のスフェロイド。
【請求項11】
人工肝臓モデルまたは人工肝臓臓器をin vitroで操作するための増殖性初代ヒト肝細胞(PHH)を含むスフェロイドの使用であって、前記スフェロイドが、中空内腔を有する腺房様構造を有する、使用。
【請求項12】
薬物または化合物のin vitroでの肝毒性、肝臓の遺伝毒性、および/または効果を評価するための増殖性初代ヒト肝細胞(PHH)を含むスフェロイドの使用であって、前記スフェロイドが、中空内腔を有する腺房様構造を有する、使用。
【請求項13】
薬物または化合物の毒性、遺伝毒性および/または効果を評価するin vitroでの方法であって、
a)請求項1~8のいずれか1項に記載の方法により、増殖性初代ヒト肝細胞(PHH)を含むスフェロイドを得ることであって、前記スフェロイドが中空内腔を有する腺房様構造を有する、スフェロイドを得ることと、
b)薬物または化合物と、前記増殖性PHHを含むスフェロイドを接触させることと、
c)前記増殖性PHHを含むスフェロイドに対する前記薬物または化合物の毒性、遺伝毒性、および/または効果を評価すること
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養、好ましくは肝細胞培養、特には3D細胞培養、好ましくは3D肝細胞培養の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
肝細胞は、肝臓の主要な実質細胞であり、肝臓の質量の最大70~85%を担う。肝細胞は、大部分の肝機能を行う著しく分化された細胞であり、特に代謝、解毒、および全身のホメオスタシスに関与する。肝臓において、肝細胞は通常、寿命の長い静止細胞である。しかしながら、損傷または機能的な質量の喪失を受けると、肝細胞は増殖でき、よって肝臓の再生を可能にする。
【0003】
肝細胞のin vitro培養の確立は、重要な肝機能を忠実に再現できるin vitroモデルを開発する目的で長い間追求されてきた。このようなモデルは、正常な肝機能を理解および試験するための研究で使用できる。またこれらは、肝臓の病態、たとえばウイルス性肝炎を理解および試験するために、および肝機能を回復させる候補薬物の特性を評価するために使用できる。さらに、代謝および解毒における肝臓の中心的な役割を考慮すると、肝細胞のin vitro培養物は、新規薬物の代謝および毒性を予測するための重要なモデルである。特に、初代ヒト肝細胞(PHH)の培養物は、in vitroでの薬物の代謝、薬物間の相互作用、および肝毒性を評価することに関する代表的なモデルとみなされている。最後に、初代ヒト肝細胞(PHH)のin vitro培養物はまた、たとえば臓器移植の代替案としての体外装置の開発、肝細胞移植、または3次元(3D)肝細胞構造物の移植を介する、肝臓の疾患または障害の処置において見込みのあるアプローチを表している。
【0004】
よって、多くの肝細胞培養系が、初代肝細胞、特に初代ヒト肝細胞の従来の2次元(2D)単分子層培養物を始まりとして設計されてきた。しかしながら、このような培養物では、初代肝細胞は脱分化し、肝細胞に特異的な機能を急速に失う。さらに、従来の2D単分子層培養物は、初代肝細胞を長期間生存させることができない。より複雑な培養系、特により長い生存および肝細胞に特異的な機能の良好な維持を可能にするための培養系が開発されている。たとえば、初代肝細胞は、サンドイッチ構成において、ゲル状の細胞外マトリックスタンパク質である2つの層の間で培養されている。また肝細胞は、たとえば非実質性肝細胞(Baffet et al., 1991)、肝細胞癌(HCC)細胞(Jang et al., 2016)、または3T3線維芽細胞(Berger et al., 2016)と共培養されている。さらに最近では、3次元(3D)培養物が、形態、バイアビリティ、および肝細胞に特異的な機能を保持できる安定な表現型を有する肝細胞を得るために特に適していることが示されている。特に、たとえば肝細胞を超低接着性プレートで培養する場合(Bell et al., 2016)、または肝細胞をマトリックスもしくはスキャフォールド、たとえばアルギン酸塩といった多糖類のスキャフォールドなどにカプセル化するまたは埋め込む場合(国際特許公開公報第2013/087843号)に、初代ヒト肝細胞遊離型の球状の凝集体を得ることができる。重要なことに、上述の培養系はいずれも、培養された初代ヒト肝細胞の増殖を可能にできない。
【0005】
増殖は、腫瘍を起源とするもしくは発がん性の不死化により(すなわち細胞の形質転換により)得られる肝細胞様細胞株または幹細胞由来の肝細胞様細胞などの、別の細胞系を使用して観察され得る。たとえば、HuH-7およびHepG2は、ほとんど分化しない機能を有するヒト肝細胞癌由来の肝細胞様細胞株である。Fa2N-4およびHepa RGは、ヒトの不死化細胞株であり、後者は、初代ヒト肝細胞の多くの特徴を保持している。しかしながら、これらの代替的な細胞系を用いる場合であっても、通常、増殖および分化は相互排他的である。さらに、がん細胞株および不死化細胞株は、生理的なヒト肝臓の生物学を再現するために最適なin vitroモデルを構成しない。
【0006】
今日まで、培養された初代肝細胞の増殖は、げっ歯類の肝細胞でのみ観察されている。自発的な増殖が、マウスの肝細胞で観察されており(Fremin et al., 2007)、増殖因子での刺激により、ラット肝細胞の増殖を誘導できた。たとえば、米国特許公開公報第2005/0244959号は、少なくとも1つのサイトカインおよび1つの増殖因子、好ましくはTNFαおよびEGFの添加を介してラットの肝細胞の能動的なin vitro増殖を誘導するための方法を記載している。しかしながら、がん細胞株および不死化細胞株と同様に、げっ歯類肝細胞培養物は、生理的なヒト肝臓の生物学を再現するための最適なin vitroモデルを構成しない。
【0007】
よって、in vitroモデルの使用を介して薬学的または治療上の適応について肝細胞の増殖性の能力を試験および利用することは、未だ主要な課題であり続けている。特に、ヒト初代肝細胞のin vitro増殖を可能にする3D培養モデルが依然として必要とされている。
【0008】
これを受けて、本発明は、増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物を得ることを可能にする動物細胞を培養する方法であって、上記増殖性動物細胞が、それらの表現型、たとえばそれらの分化状態およびそれらの機能を維持している、方法に関する。本発明の方法は、非接着性培養容器、好ましくは低接着性または超低接着性培養容器において動物細胞を培養する第1のステップと、コラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックス、特にGelMaマトリックスに動物細胞を埋め込む第2のステップと、コラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックス、特にGelMaマトリックスに埋め込まれた動物細胞を培養する第3のステップとを含む、方法に関する。本発明の方法は、初代ヒト肝細胞の培養に特に適しており、増殖性PHHスフェロイド、すなわち増殖性初代ヒト肝細胞を含む、中空内腔を有する腺房様構造を得ることを可能にする。また本発明は、人工肝臓モデルもしくは人工肝臓臓器を操作するための、または薬物もしくは化合物のin vitroでの毒性および/もしくは効果を評価するための、増殖性初代ヒト肝細胞を含むスフェロイドおよびその使用に関する。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、動物細胞を培養して増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物を得る方法であって、
a)まず、非接着性培養容器、好ましくは低接着性または超低接着性培養容器において上記動物細胞を培養することと、
b)次に、コラーゲンまたは切り詰め型コラーゲン、すなわちゼラチンを含む培養培地に上記動物細胞を移すことにより、コラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスに上記動物細胞を埋め込むことと、
c)上記コラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスに埋め込まれた動物細胞を培養することにより、増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物を得ること
を含む、方法に関する。
【0010】
一実施形態では、本発明は、動物細胞を培養して増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物を得る方法であって、
a)まず、非接着性培養容器、好ましくは低接着性または超低接着性培養容器において上記動物細胞を培養することと、
b)次に、コラーゲン、好ましくは線維性コラーゲンを含む培養培地に上記動物細胞を移すことにより、コラーゲンマトリックス、好ましくは線維性コラーゲンマトリックスに上記動物細胞を埋め込むことと、
c)上記コラーゲンマトリックスに埋め込まれた動物細胞を培養することにより、増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物を得ること
を含む、方法に関する。
【0011】
一実施形態では、本明細書中上述される方法のステップb)で、動物細胞を約0.25mg/mL~約3mg/mLの範囲の濃度でコラーゲン、好ましくは線維性コラーゲンを含む培養培地に移す。一実施形態では、上記線維性コラーゲンは、I型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン、V型コラーゲン、VI型コラーゲン、XI型コラーゲン、XXIV型コラーゲン、XXVII型コラーゲン、およびそれらのいずれかの混合物を含むかまたはそれらからなる群から選択される。
【0012】
一実施形態では、本発明は、動物細胞を培養して増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物を得る方法であって、
a)まず、非接着性培養容器、好ましくは低接着性または超低接着性培養容器において上記動物細胞を培養することと、
b)次に、メタクリル酸修飾ゼラチン(GelMa)を含む培養培地に上記動物細胞を移すことにより、GelMaマトリックスに上記動物細胞を埋め込むことと、
c)上記GelMaマトリックスに埋め込まれた動物細胞を培養することにより、増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物を得ること
を含む、方法に関する。
【0013】
一実施形態では、本明細書中上述される方法のステップb)で、動物細胞を約1(w/v)%~約20(w/v)%の範囲の濃度でメタクリル酸修飾ゼラチン(GelMa)を含む培養培地に移す。
【0014】
一実施形態では、本明細書中上述される方法のステップa)で、動物細胞を約1時間~約96時間の範囲の期間の間、非接着性培養容器、好ましくは低接着性または超低接着性培養容器において培養する。
【0015】
一実施形態では、本明細書中上述される方法のステップc)で、コラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスに埋め込まれた動物細胞を、少なくとも約2日間、培養する。
【0016】
一実施形態では、本明細書で上述される方法は、
d)コラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスに埋め込まれた動物細胞の培養物に、MAPK MEK1/2-ERK1/2経路の阻害剤を添加することにより、動物細胞の1つ以上のさらなる増殖の波(wave(s) of proliferation)を誘導すること
をさらに含む。
【0017】
一実施形態では、本明細書で上述される方法は、
e)コラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスに埋め込まれた増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物を、コラゲナーゼまたはコラーゲン分解活性を有する酵素混合物と共にインキュベートすることにより、コラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスから増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物を単離すること
をさらに含む。
【0018】
一実施形態では、本明細書で上述される動物細胞は、初代動物細胞である。一実施形態では、本明細書で上述される動物細胞は、初代肝細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞であり、本明細書で上述される増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物は、スフェロイドであり、好ましくは上記スフェロイドは、中空内腔を有する腺房様構造を有し、増殖性初代肝細胞、好ましくは増殖性初代ヒト肝細胞を含む。
【0019】
また本発明は、コラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスに埋め込まれた増殖性初代肝細胞を含むスフェロイドに関し、好ましくは上記スフェロイドは、中空内腔を有する腺房様構造を有する。一実施形態では、上記スフェロイドは、メタクリル酸修飾ゼラチン(GelMa)に埋め込まれている。一実施形態では、上記増殖性初代肝細胞は、増殖性初代ヒト肝細胞である。
【0020】
また本発明は、人工肝臓モデルまたは人工肝臓臓器を操作するための、増殖性初代ヒト肝細胞を含むスフェロイドの使用に関し、好ましくは上記スフェロイドは、中空内腔を有する腺房様構造を有する。
【0021】
また本発明は、薬物または化合物のin vitroでの肝毒性、特に肝臓の遺伝毒性、および/または効果を評価するための、増殖性初代ヒト肝細胞を含むスフェロイドの使用に関し、好ましくは上記スフェロイドは、中空内腔を有する腺房様構造を有する。一実施形態では、上記使用は、薬物または化合物のin vitroでの肝臓の遺伝毒性を評価するためであり、好ましくは上記スフェロイドは、中空内腔を有する腺房様構造を有する。
【0022】
また本発明は、薬物または化合物の毒性および/または効果を評価するin vitroの方法であって、
a)本明細書で上述される方法により、増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物、好ましくは増殖性初代ヒト肝細胞を含むスフェロイドを得ることと、
b)増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物、好ましくは増殖性初代ヒト肝細胞を含むスフェロイドを、薬物または化合物と接触させることと、
c)増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物、好ましくは増殖性初代ヒト肝細胞を含むスフェロイドに及ぼす薬物または化合物の毒性、遺伝毒性、および/または効果を評価すること
を含む、方法に関する。
【0023】
定義
本発明において、以下の用語は以下の意味を有する。
【0024】
数字に先行する「約」は、当該数字の値の±10%またはそれ以下を包有する。用語「約」が指す値もそれ自体が具体的であり、好ましくは開示されていることを理解されたい。
【0025】
「動物細胞」は、後生動物を起源とする細胞を指す。一実施形態では、動物細胞は、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、または哺乳類であり得る脊椎動物を起源とする細胞である。特定の実施形態では、動物細胞は、哺乳類細胞、好ましくはヒト細胞である。
【0026】
「コラーゲン」は、一般に超分子ネットワークの形成に関与する細胞外マトリックス糖タンパク質の不均一なスーパーファミリーを指す。コラーゲンは、同一であり得るかまたは同一ではなくてよい、3つのα鎖の存在を特徴とする。この3つのα鎖は、三重のらせんドメインを形成し、ここで3重のらせん構造は、上記3つのα鎖のコラーゲン性ドメインの結びつきからもたらされる右巻きのスーパーヘリックスに対応し、それぞれは、ポリプロリンII様の左巻きの立体構造を採用する。本明細書で使用される場合、用語「コラーゲン」は、限定するものではないが、線維性コラーゲン;非線維性コラーゲン、たとえば線維付随性コラーゲンおよび関連するコラーゲン;ビーズ状フィラメント形成コラーゲン;短鎖コラーゲンおよび関連するタンパク質;基底膜コラーゲンおよび関連するコラーゲン;膜貫通型コラーゲンおよびコラーゲン様タンパク質;ならびに他のコラーゲンおよびコラーゲン様タンパク質を含む、コラーゲンの異なるサブファミリーを包有する。本明細書で使用される場合、用語「コラーゲン」はまた、切り詰め型コラーゲンを包有する。切り詰め型コラーゲンは特に、より短いペプチドへと加水分解されたコラーゲンを包有し、これはゼラチンとも呼ばれ得る。
【0027】
「コラーゲンマトリックス」は、架橋した構造の形成からもたらされる3次元マトリックス、すなわちコラーゲン、特に線維性コラーゲンの重合により作製されるハイドロゲルを指す。よって、一実施形態では、線維性コラーゲンマトリックスは、線維性コラーゲンの重合により作製される架橋した構造の形成からもたらされる3次元マトリックスである。本明細書で使用される場合、用語「コラーゲンマトリックス」はまた、切り詰め型コラーゲン、すなわちゼラチンから作製される3次元マトリックスを指す。あるいは、切り詰め型コラーゲン、すなわちゼラチンから作製される3次元マトリックスは、「ゼラチンマトリックス」と呼ばれ得る。
【0028】
「単離されたスフェロイド」に関する「単離された」は、その培養環境から分離されているスフェロイドを指す。よって一実施形態では、単離されたスフェロイドは、コラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスに埋め込まれていないスフェロイドを指す。
【0029】
「ゼラチン」は、コラーゲン誘導体、すなわち、切り詰め型コラーゲンに対応する、より短いペプチドに加水分解されたコラーゲンを指す。またゼラチンは、変性されたコラーゲンとして定義され得る。ゼラチンは、コラーゲンの3重らせん構造をアンフォールディングし短いペプチドの形成をもたらす、I型コラーゲンなどのコラーゲンの加水分解、特に酸性またはアルカリ性の加水分解により得られる。よって、ゼラチンは、コラーゲンの化学組成と非常に類似する化学組成を有するが、より少ない位数の高分子構造を有する。特定の実施形態では、本発明のゼラチンは、メタクリル酸修飾ゼラチン(GelMa)である。
【0030】
「ゼラチンマトリックス」は、ゼラチンの重合、すなわち切り詰め型コラーゲンの重合により作製される、架橋された構造、すなわちハイドロゲルの形成からもたらされる3次元マトリックスを指す。特定の実施形態では、本発明のゼラチンは、メタクリル酸修飾ゼラチン(GelMa)であり、本発明のゼラチンマトリックスは、GelMaマトリックスである。
【0031】
「GelMa」、「Gel-MAa」、または「Gel-Ma」は、メタクリロイルゼラチン、ゼラチンメタクリラート、またはゼラチンメタクリルアミドとしても知られている、メタクリル酸修飾ゼラチンを指す。GelMaは、メタクリルアミドおよびメタクリラートの側鎖基でのリジンおよびヒドロキシル残基の修飾をもたらす、無水メタクリル酸とゼラチンの直接的な反応により得られる(Yue et al., Biomaterials. 2015 Dec;73:254-71)。
【0032】
「GelMaマトリックス」は、光重合開始剤により誘導されるメタクリル酸修飾ゼラチンの重合により作製される、架橋された構造、すなわちハイドロゲルの形成からもたらされる3次元マトリックスを指す。
【0033】
「ハイドロゲル」は、架橋された親水性ポリマーの水膨潤性(water-swollen)ネットワークを指す。本明細書で使用される場合、本発明に係るハイドロゲルは、ネイティブな細胞外マトリックス(ECM)の顕著なエレメントを模倣し、よって、動物細胞を培養する方法での使用に適している。
【0034】
「初代細胞」は、生きた、非がん性の組織から直接採取された細胞、たとえば対象の組織サンプルからまたは対象の生検から得られた細胞を指す。
【0035】
「増殖マーカー」は、細胞分裂を経る動物細胞、すなわち増殖性動物細胞で特異的に検出されるマーカーを指す。増殖マーカーの例として、限定するものではないが、DNA複製の間に新規に合成されたDNAにおけるBrdU(5-ブロモ-2’-デオキシウリジン)またはEdU(5-エチニル-2’-デオキシウリジン)などのヌクレオシド類縁体の組み込み、増殖性動物細胞に特異的に存在するタンパク質、たとえば核タンパク質(たとえばKi67、PCNA)、細胞周期タンパク質(たとえばサイクリンD1、Cdk2、PCNA、P21、P27)の発現が挙げられる。一実施形態では、増殖は、DNAにおけるBrdUまたはEdUなどのヌクレオシド類縁体の組み込みの検出を介して評価される。本明細書で使用される場合、BrdUまたはEdU陽性動物細胞(BrdUまたはEdU動物細胞)は、BrdUまたはEdUの組み込みが検出された動物細胞を指す。動物細胞におけるヌクレオシド類縁体の組み込みを検出するための方法は、当業者によく知られている。一実施形態では、増殖は、増殖性動物細胞に特異的に存在するタンパク質の発現の検出を介して評価される。本明細書で使用される場合、あるタンパク質について陽性の動物細胞は、上記タンパク質を発現する動物細胞である。たとえば、サイクリンD1について陽性の動物細胞(サイクリンD1細胞)は、サイクリンD1の発現が、それぞれで検出された動物細胞である。動物細胞におけるタンパク質の発現を検出するための方法は、当業者によく知られており、たとえばRT-PCTまたはRT-qPCRによる、mRNAレベルを測定するための方法、およびたとえばウェスタンブロッティングおよび免疫局在決定によるか、または免疫組織化学検査による、タンパク質の発現および/またはレベルを測定するための方法を含む。
【0036】
「増殖性初代肝細胞」は、in vitroで分裂でき、よって、in vitroで増殖できる初代肝細胞を指す。一実施形態では、初代肝細胞は、培養物中の初代肝細胞の総数の少なくとも約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、または80%,好ましくは少なくとも約20%、より好ましくは少なくとも約30%、さらにより好ましくは少なくとも約40%が、in vitro、たとえば以降の本明細書で定義される改変William’s E培地(WE HH)において、約37℃、約5%のCO、80~100%、好ましくは85~95%の湿度で増殖できる場合に、増殖性である。一実施形態では、本発明の方法に係る培養物中の初代肝細胞の増殖は、BrdUもしくはEdUの組み込みの測定、および/またはKi67陽性(Ki67)初代肝細胞、すなわちKi67を発現する初代肝細胞の検出を介して、評価され得る。あるいは、一実施形態において、本発明の方法に係る培養物中の初代肝細胞の増殖は、Cdk2、サイクリンD1、P21、および/またはP27などの細胞周期マーカーの発現の測定を介して評価され得る。一実施形態では、培養物中の初代肝細胞の総数は、初代肝細胞とみなされる、アルブミンを発現する細胞、すなわちアルブミン陽性細胞(Alb)でのアルブミンの検出を介して評価される。特定の実施形態では、初代肝細胞は、培養物中のAlb初代肝細胞の総数の少なくとも約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、好ましくは少なくとも約20%、より好ましくは少なくとも約40%が、たとえばBrdUの組み込み、EdUの組み込み、Ki67の発現、またはサイクリンD1の発現などの増殖マーカーに対して陽性である場合、増殖性である。一実施形態では、増殖性初代肝細胞は、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、または15日間、好ましくは少なくとも2日間の本発明の方法に係るコラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスにおける3D培養の後に、得られる。一実施形態では、増殖性初代肝細胞は、2日間~少なくとも15日間の本発明の方法に係るコラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスにおける3D培養で得られる。一実施形態では、本発明の方法に係るコラーゲンマトリックスにおける3D培養での増殖性初代肝細胞は、好ましくは3D培養の2日目~7日目に第1の波および3D培養の8日目~15日目に第2の波を伴う、少なくとも2つの増殖の波を経ることができる。一実施形態では、1つ以上のさらなる増殖の波が、本発明に係るコラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスに埋め込まれた初代肝細胞の培養物へMAPK MEK1/2-ERK1/2経路の阻害剤を添加することにより誘導される。
【0037】
「スフェロイド」は、自己集合する動物細胞による培養物で形成される非接着性の複数の細胞の3D構造物を指す。本発明では、動物細胞による培養物で形成される3D構造は、「オルガノイド」とも呼ばれ得る。本明細書で使用される場合、用語「スフェロイド」は、動物細胞の球状の凝集体を指す。一実施形態では、本発明の方法に係る培養物中の肝細胞、特に初代ヒト肝細胞は、中空内腔を有する腺房様構造を有するスフェロイドを形成し、また、ヘパトスフィア(hepatosphere)またはオルガノイドとも呼ばれ得る。よって一実施形態では、本発明に係るスフェロイドは、中空内腔を有する腺房様構造を形成する、良好に編成された動物細胞、特に初代肝細胞、好まししくは初代ヒト肝細胞の単層により区切られた球体として見える。一実施形態では、本発明に係るスフェロイドは、約50μm~約150μmの範囲の直径を有する。
【0038】
「3D培養」は、本発明の方法に係るコラーゲンマトリックス、またはゼラチンマトリックス、特にGelMaマトリックスに埋め込まれた動物細胞の培養を指す。本発明では、動物細胞は、非接着性培養容器、たとえば低接着性または超低接着性培養容器でまずインキュベートされ、次にコラーゲンまたは切り詰め型コラーゲン、すなわちゼラチンを含む培養培地に移された後に、コラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスで培養される。よって、本明細書で使用される場合、「3D培養」は、本発明の方法の第3のステップに対応する。
【0039】
「増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物」は、増殖性動物細胞、すなわち本発明の方法によりin vitroで増殖できる動物細胞の3D凝集体を指す。一実施形態では、3D動物細胞構造物は、スフェロイドである。
【0040】
詳細な説明
本発明は、動物細胞を培養する方法であって、
a)まず、非接着性培養容器において動物細胞を培養することと、
b)次に、コラーゲンまたは切り詰め型コラーゲン、すなわちゼラチンを含む培養培地に動物細胞を移すことにより、コラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスに動物細胞を埋め込むことと、
c)コラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスに埋め込まれた動物細胞を培養することにより、増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物を得ること
を含む、方法に関する。
【0041】
一実施形態では、本発明は、動物細胞を培養する方法であって、
a)まず、非接着性培養容器において動物細胞を培養することと、
b)次に、コラーゲンを含む培養培地に動物細胞を移すことにより、コラーゲンマトリックスに動物細胞を埋め込むことと、
c)コラーゲンマトリックスに埋め込まれた動物細胞を培養することにより、増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物を得ること
を含む、方法に関する。
【0042】
一実施形態では、本発明は、動物細胞を培養する方法であって、
a)まず、非接着性培養容器において動物細胞を培養することと、
b)次に、切り詰め型コラーゲン、すなわちゼラチンを含む培養培地に動物細胞を移すことにより、ゼラチンマトリックスに動物細胞を埋め込むことと、
c)ゼラチンマトリックスに埋め込まれた動物細胞を培養することにより、増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物を得ること
を含む、方法に関する。
【0043】
一実施形態では、本発明は、動物細胞を培養する方法であって、
a)まず、非接着性培養容器において動物細胞を培養することと、
b)次に、メタクリル酸修飾ゼラチン(GelMa)を含む培養培地に動物細胞を移すことにより、GelMaマトリックスに動物細胞を埋め込むことと、
c)GelMaマトリックスに埋め込まれた動物細胞を培養することにより、増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物を得ること
を含む、方法に関する。
【0044】
一実施形態では、動物細胞は、動物細胞の総数の少なくとも約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、または80%、好ましくは少なくとも約20%、より好ましくは少なくとも約40%が、たとえばBrdUの組み込みについて陽性(BrdU)、EdUの組み込みに対して陽性(EdU)、Ki67の発現に対して陽性(Ki67)、またはサイクリンD1の発現について陽性(サイクリンD1)などの、増殖マーカーについて陽性である場合、増殖性である。
【0045】
本発明の方法は、生存および分化するために細胞間相互作用を必要とする実質的に任意の種の動物細胞の培養に適している。
【0046】
一実施形態では、本発明の方法により培養される動物細胞は、初代動物細胞である。
【0047】
一実施形態では、本明細書で上述される動物細胞は、哺乳類細胞である。別の実施形態では、本明細書で上述される動物細胞は、霊長類細胞である。別の実施形態では、本明細書で上述される動物細胞は、ヒト細胞である。
【0048】
一実施形態では、本明細書で上述される動物細胞は、体細胞系であるかまたは分化した動物細胞である。別の実施形態では、本明細書で上述される動物細胞は、幹細胞、特に体性幹細胞である。
【0049】
一実施形態では、本明細書で上述される動物細胞は、ヒト胚性幹細胞ではない。
【0050】
本発明の方法により培養され得る動物細胞の例としては、限定するものではないが、実質性肝臓細胞、たとえば肝細胞;非実質性肝臓細胞、たとえばクッパー細胞、胆管細胞、線維芽細胞、類洞内皮細胞、および星細胞;肺細胞;心臓細胞;腎臓細胞;結腸細胞;皮膚細胞;精巣細胞;眼細胞;脳細胞;ならびにそれらの混合物が挙げられる。
【0051】
一実施形態では、本明細書で上述される動物細胞は、肝臓細胞、たとえば実質性肝臓細胞(たとえば肝細胞)および非実質性肝臓細胞(たとえばクッパー細胞、胆管細胞、線維芽細胞、類洞内皮細胞、および星細胞);肺細胞、たとえば肺細胞(pneumocyte);心臓細胞、たとえば心筋細胞、結節細胞、および心筋内分泌細胞;結腸細胞、たとえばエンテロサイト、杯細胞(ゴブレット細胞とも呼ばれる)、パネート細胞、および腸内分泌細胞;皮膚細胞、たとえばケラチノサイト、メラニン形成細胞、角質細胞;腎臓細胞、たとえば腎臓上皮細胞;精巣細胞、たとえばライディッヒ細胞およびセルトリ細胞;眼細胞、たとえば光受容細胞、眼性細胞、および角膜実質細胞;脳細胞、たとえば神経細胞およびグリア細胞;ならびにそれらの混合物を含むかまたはそれらからなる群から選択される。
【0052】
一実施形態では、本明細書で上述される動物細胞は、肝細胞、クッパー細胞、胆管細胞、線維芽細胞、類洞内皮細胞、星細胞、肺細胞、心筋細胞、結節細胞、心筋内分泌細胞、エンテロサイト、杯細胞(ゴブレット細胞とも呼ばれる)、パネート細胞、腸内分泌細胞、ケラチノサイト、メラニン形成細胞、角質細胞、腎臓上皮細胞、ライディッヒ細胞、セルトリ細胞、光受容細胞、角膜実質細胞、神経細胞、グリア細胞,およびそれらの混合物を含むかまたはそれらからなる群から選択される。
【0053】
一実施形態では、本発明の方法で培養される動物細胞は、肝細胞、クッパー細胞、胆管細胞、線維芽細胞、類洞内皮細胞、星細胞、およびそれらの混合物を含むかまたはそれらからなる群から選択され、好ましくは、上記動物細胞は、初代動物細胞、より好ましくはヒト初代細胞である。
【0054】
一実施形態では、本発明の方法で培養される動物細胞は、肝細胞、好ましくは初代肝細胞、より好ましくは初代ヒト肝細胞(PHH)である。
【0055】
一実施形態では、本発明の方法で培養される動物細胞は、単離された動物細胞である。一実施形態では、本発明の方法で培養される動物細胞は、以前に対象から採取された組織のサンプルから、たとえば以前に採取された生検から得られる。一実施形態では、本発明の方法で培養される動物細胞は、以前に対象から採取した肝臓のサンプルから得た後に凍結保存される。
【0056】
一実施形態では、本発明の方法で培養される初代ヒト肝細胞は、以前に対象から採取した肝臓組織のサンプルから得られる。一実施形態では、本発明の方法で培養される初代ヒト肝細胞は、以前に対象から採取した肝臓のサンプルから得られた後に凍結保存される。
【0057】
本発明の方法では、動物細胞を、まず非接着性培養容器で培養する。いずれの理論にも拘束されることを望むものではないが、本出願人は、非接着性培養容器での動物細胞の最初の培養が、動物細胞の凝集体の形成を可能にし、よって細胞間相互作用を高めることを示唆する。細胞間相互作用は、たとえばスフェロイドなどの増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物のその後の発達、構造化、および成長に重要である。
【0058】
実際に本出願人は、非接着性培養容器において最初に動物細胞を培養することなく、コラーゲンを含む培養培地に動物細胞を直接添加し、これによりコラーゲンマトリックスに埋め込まれた動物細胞を培養することが、増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物を得ることを可能にしなかったことを示した。特に本出願人は、増殖性初代ヒト肝細胞を含むスフェロイドを得るために、初代ヒト細胞を、コラーゲンまたはゼラチン、特にメタクリル酸修飾ゼラチン(GelMa)を含む培養培地に移し、コラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックス、特にGelMaマトリックスで培養する前に、まず非接着性培養容器で培養しなければならないことを示した。
【0059】
本明細書で使用される場合、用語「非接着性培養容器」は、上記容器に対する、細胞の、特に動物細胞の接着に対して伝導性でない、培養容器を指す。言い換えると、非接着性培養容器で培養される細胞、特に動物細胞は、上記培養容器の内面(すなわち上記培養容器の壁および/または底)に接着しないか、またはごくわずか接着するか、または拡散しない。
【0060】
非接着性培養容器としては、限定するものではないが、ガラスから作製された培養容器、未処理の培養容器、低接着性培養容器、および超低接着性培養容器が挙げられる。
【0061】
本明細書で使用される場合、用語「未処理の培養容器」は、培養容器への細胞の接着を高めるために培養容器に一般に適用される化学処理またはコーティングを経ていない培養容器を指す。細胞培養の分野では、一般に「処理された培養容器」は、培養容器の内面に対する細胞、特に動物細胞の接着を高めるための化学処理またはコーティングを経た、通常ポリスチレンから作製されたプレートまたはディッシュなどの培養容器を指す。実際に、ポリスチレンは、それに対し細胞が、特に動物細胞が接着することが非常に困難である、著しく疎水性のポリマーである。
【0062】
一実施形態では、本明細書で上述される非接着性培養容器は、ガラスから作製された培養容器、未処理の培養容器、低接着性培養容器、および超低接着性培養容器を含むかまたはそれらからなる群から選択され;好ましくは、上記非接着性培養容器は、低接着性または超低接着性培養容器である。
【0063】
低接着性培養容器および超低接着性培養容器の例としては、限定するものではないが、低接着性ディッシュおよび超低接着性ディッシュ、低接着性フラスコおよび超低接着性フラスコ、ならびに低接着性プレートおよび超低接着性プレート、たとえば低接着性マルチウェルプレートおよび超低接着性マルチウェルプレート、または低接着性マイクロプレートおよび超低接着性マイクロプレートが挙げられる。
【0064】
低接着性培養容器および超低接着性培養容器は、培養容器の内面に共有結合されたコーティング、通常は親水性ゲルの存在を特徴とする。上記コーティングは、特異的な固定化および非特異的な固定化を阻害し、よって、培養容器の内面への細胞接着を妨げ、それにより細胞を懸濁した状態に維持する。
【0065】
低接着性培養容器および超低接着性培養容器、特に低接着性プレート(LAP)および超低接着性プレート(ULA)は、供給者から容易に入手可能であり、たとえばCorning(登録商標)Costar(登録商標)、InSphero(登録商標)、S-Bio(登録商標)、またはPerkin Elmer(登録商標)の低接着性プレートおよび超低接着性プレートを含む。
【0066】
あるいは、低接着性培養容器、特に低接着性プレートを調製するための方法は、当業者によく知られている。このような方法としては、限定するものではないが、1%のアガロースでのコーティング未処理の培養容器、またはポリ-2-ヒドロキシエチルメタクリレート(ポリ-HEMAとも呼ばれる)でのコーティング未処理の培養容器が挙げられる。
【0067】
一実施形態では、本発明の方法で培養される動物細胞は、凍結保存されていた。よって一実施形態では、本発明の方法で培養される動物細胞は、最初に解凍される
【0068】
以前に凍結された動物細胞を解凍するための方法は、動物細胞培養の分野でよく知られている。
【0069】
一実施形態では、本発明の方法で培養される動物細胞は、まず、たとえばCorning(登録商標)Costar(登録商標)、InSphero(登録商標)、S-Bio(登録商標)、またはPerkin Elmer(登録商標)の低接着性プレートまたは超低接着性プレートなどの低接着性プレート(LAP)または超低接着性プレート(ULA)で培養される。
【0070】
一実施形態では、動物細胞は、少なくとも約1h、2h、3h、4h、5h、6h、7h、8h、9h、10h、11h、12h、13h、14h、または15hの間、上述される非接着性培養容器で培養される。
【0071】
一実施形態では、動物細胞は、最大約96h、84h、72h、60h、48h、36h、24h、23h、22h、21h、または20hの間、上述される非接着性培養容器で培養される。
【0072】
一実施形態では、動物細胞は、約1h~約96h、好ましくは約5h~約48h、より好ましくは約10h~約20hの範囲の期間の間、上述される非接着性培養容器で培養される。
【0073】
一実施形態では、動物細胞は、少なくとも約10、5×10、または10個の細胞/cmの濃度で、上述される非接着性培養容器で培養される。
【0074】
一実施形態では、動物細胞は、最大約10、5×10、または10個の細胞/cmの濃度で、上述される非接着性培養容器で培養される。
【0075】
一実施形態では、動物細胞は、約10~約10個の細胞/cm、好ましくは約10~約10個の細胞/cm、より好ましくは約1×10~約9×10個の細胞/cmの範囲の濃度で、上述される非接着性培養容器で培養される。
【0076】
一実施形態では、動物細胞は、約10~約5×10個の細胞/cm、好ましくは約2×10~約2.5×10個の細胞/cmの範囲の濃度で、上述される非接着性培養容器で培養される。一実施形態では、動物細胞は、約10~約5×10個の細胞/ウェル、好ましくは約2×10~約2.5×10個の細胞/ウェル(上記ウェルは、好ましくは約10cmの表面を有する)の範囲の濃度で、低接着性または超低接着性プレートで培養される。
【0077】
一実施形態では、動物細胞は、約10、10、10、10、または10個の細胞/cmの濃度で、上述される非接着性培養容器で培養される。
【0078】
一実施形態では、動物細胞は、約1×10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、または9×10個の細胞/cmの濃度で、上述される非接着性培養容器で培養される。
【0079】
一実施形態では、動物細胞は、少なくとも約5×10、10、または5×10個の細胞/ml(培養培地)の濃度で、上述される非接着性培養容器で培養される。
【0080】
一実施形態では、動物細胞は、最大約2×10、10、または5×10個の細胞/ml(培養培地)の濃度で、上述される非接着性培養容器で培養される。
【0081】
一実施形態では、動物細胞は、約5×10~約2×10個の細胞/ml(培養培地)、好ましくは約10~約10個の細胞/ml(培養培地)、より好ましくは約10~約10個の細胞/ml(培養培地)の範囲の濃度で、上述される非接着性培養容器で培養される。
【0082】
一実施形態では、動物細胞は、約10、10、10、または10個の細胞/ml(培養培地)の濃度で、上述される非接着性培養容器で培養される。
【0083】
動物細胞の培養に適切な条件を選択することは、当業者によく知られている。よって、本発明の方法に係る上述される非接着性培養容器で動物細胞を培養するために使用される培養条件、たとえば培養培地、温度、湿度、およびCOのレベルなどは、当業者に明らかであり、培養される動物細胞に応じて変化する。
【0084】
本発明の方法で使用され得る培養培地としては、たとえば血清含有培地、血清フリー培地、特にヒト細胞培養用のゼノフリー培地、タンパク質フリー培地、合成培地(chemically defined media)などの、天然の培地および合成の培地が挙げられる。
【0085】
培養培地の例としては、限定するものではないが、William’s E培地、BME(Basal Medium Eagle)、イーグル最小必須培地(EMEM)、最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、Ham’s F-10、Ham’s F-12培地、Kaighn’s modified Ham’s F-12培地、DMEM/F-12培地、およびMcCoy’s 5A培地が挙げられる。
【0086】
また本発明に係る培養培地は、特定の種類の動物細胞の培養に適した培地、たとえば、肝細胞の培養に適した培養培地(たとえばWilliam’s E培地)も含む。
【0087】
本発明では、培養培地は、塩、炭素供給源、アミノ酸、血清および血清成分、ビタミン、ミネラル、還元剤、緩衝剤、脂質、ヌクレオシド、抗菌剤、サイトカイン、および増殖因子などのさらなる物質を補充され得る。
【0088】
一実施形態では、本発明の方法で培養される動物細胞は、初代動物細胞、好ましくは初代ヒト細胞であり、これらは、初代動物細胞、好ましくは初代ヒト細胞の培養に適した培地において、上述される非接着性培養容器で培養される。
【0089】
初代動物細胞の培養に適した培地は、市販されている。初代動物細胞、好ましくは初代ヒト細胞の培養に適した培地は、当業者に明らかであり、培養される初代動物細胞(たとえば肝細胞、肺細胞、心筋細胞、ケラチノサイト、メラニン形成細胞、角質細胞、または神経細胞)に応じて変化する。
【0090】
一実施形態では、本発明の方法で培養される動物細胞は、肝細胞、特に初代肝細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞であり、これらは、肝細胞、特に初代肝細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞に適した培地において、上述される非接着性培養容器で培養される。
【0091】
肝細胞、特に初代肝細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞の培養に適した培地の例としては、限定するものではないが、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、William’s E培地、肝細胞培養培地、Basal HepaRG培地、HBM基本培地、および肝細胞基本培地が挙げられる。
【0092】
本発明では、上記肝細胞、特に初代肝細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞の培養に適した培地は、たとえばL-グルタミン、アルブミン、ペニシリン、ストレプトマイシン、インスリン、トランスフェリン、ピルビン酸ナトリウム、亜セレン酸ナトリウム、ヒドロコルチゾンもしくはデキサメタゾン、HGF(肝細胞増殖因子)、EGF(上皮増殖因子)および/またはFBS(ウシ胎児血清)とも呼ばれるFCS(ウシ胎仔血清)などを補充され得る。
【0093】
一実施形態では、上記肝細胞、特に初代肝細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞の培養に適した培地は、たとえばゲンタマイシン、L-グルタミン、アルブミン、ペニシリン、ストレプトマイシン、インスリン、トランスフェリン、ピルビン酸ナトリウム、亜セレン酸ナトリウム、ヒドロコルチゾンもしくはデキサメタゾン、HGF(肝細胞増殖因子)、EGF(上皮増殖因子)、および/またはFBS(ウシ胎児血清)とも呼ばれるFCS(ウシ胎仔血清)などを補充され得る。
【0094】
一実施形態では、本発明の方法により培養される動物細胞は、肝細胞、特に初代肝細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞であり、これらは、ペニシリン、ストレプトマイシン、インスリン、グルタミン(L-グルタミン)およびアルブミンを補充され、任意選択でトランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、ヒドロコルチゾン、HGF(肝細胞増殖因子)、EGF(上皮増殖因子)、および/またはFBS(ウシ胎児血清)とも呼ばれるFCS(ウシ胎仔血清)を補充された、WE HH((William’s E medium human hepatocyte)とも呼ばれるWilliam’s E培地において、低接着性または超低接着性培養容器、好ましくは低接着性または超低接着性プレートで、培養される。
【0095】
一実施形態では、本発明の方法により培養される動物細胞は、肝細胞、特に初代肝細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞であり、これらは、ペニシリン、ストレプトマイシン、インスリン、グルタミン(L-グルタミン)、アルブミンを含み、任意選択でFCS(ウシ胎仔血清)を含むWE HH培地において、低接着性または超低接着性培養容器、好ましくは低接着性または超低接着性プレートで、培養される。
【0096】
一実施形態では、本発明のWE HH培地は、約50~約200U/mL、好ましくは約100U/mLの範囲の濃度でペニシリン;約50~約200μg/mL、好ましくは100μg/mLの範囲の濃度でストレプトマイシン;約5~約30μg/mL、好ましくは約5μg/mL、または約15μg/mLの範囲の濃度でインスリン;約1~約10mM、好ましくは約2mMの範囲の濃度でグルタミン(L-グルタミン);約0.01~約1(w/v)%、好ましくは約0.1(w/v)%の範囲の濃度でアルブミン;および約0~約20(v/v)%、または1%~約20(v/v)%、好ましくは約10(v/v)%の範囲の濃度でFCS(ウシ胎仔血清)を含む。
【0097】
一実施形態では、本発明の方法で培養される動物細胞は、肝細胞、特に初代肝細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞であり、これらは、FCS(ウシ胎仔血清)を含まないかまたはこれを補充されていない培養培地、好ましくはWilliam’s E培地において、低接着性または超低接着性培養容器、好ましくは低接着性または超低接着性プレートで培養される。
【0098】
一実施形態では、本発明の方法で培養される動物細胞は、肝細胞、特に初代肝細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞であり、これらは、ペニシリン、ストレプトマイシン、インスリン、グルタミン(L-グルタミン)、アルブミン、およびヒドロコルチゾンを補充され、任意選択でトランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、HGF(肝細胞増殖因子)、EGF(上皮増殖因子)、および/またはFCS(ウシ胎仔血清)を補充されるWE HH培地において、低接着性または超低接着性培養容器、好ましくは低接着性または超低接着性プレートで培養される。
【0099】
一実施形態では、本発明のWE HH培地は、FCS(ウシ胎仔血清)を伴うかまたは伴わずに、ペニシリン、ストレプトマイシン、インスリン、グルタミン(L-グルタミン)、およびアルブミンを補充される。
【0100】
一実施形態では、本発明のWE HH培地は、FCS(ウシ胎仔血清)を伴うかまたは伴わずに、ペニシリン、ストレプトマイシン、インスリン、グルタミン(L-グルタミン)、アルブミン、ヒドロコルチゾン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、HGF(肝細胞増殖因子)、およびEGF(上皮増殖因子)を補充される。
【0101】
一実施形態では、本発明のWE HH培地は、約5~約30μg/mL、好ましくは約5~約15μg/mL、より好ましくは約5μg/mLまたは約15μg/mLの範囲の濃度でインスリン;約0~約10μg/mL、または約0.1~約10μg/mL、好ましくは約5.5μg/mLの範囲の濃度でトランスフェリン;約0~約10μg/mL、または約0.1~約10μg/mL、好ましくは約5μg/mLの範囲の濃度で亜セレン酸ナトリウム;約0.1~約50μM、好ましくは約1μmの範囲の濃度でヒドロコルチゾン;約0~約10ng/mL、または約0.1~約10ng/mL、好ましくは約2.5ng/mLの範囲の濃度でrhHGF(組み換え型ヒト肝細胞増殖因子);約0~約1ng/μL、または約0.01~約1ng/μL、好ましくは約0.05ng/μLの範囲の濃度でrhEGF(組み換え型ヒト上皮増殖因子);約0~約20(v/v)%、または約1(v/v)%~約20(v/v)%、好ましくは約10(v/v)%の範囲の濃度でFCS(ウシ胎仔血清);約1~約10mM、好ましくは約2mMの範囲の濃度でグルタミン(L-グルタミン);約0.01~約1(w/v)%、好ましくは約0.1(w/v)%の範囲の濃度でアルブミン;約50~約200U/mL、好ましくは約100U/mLの範囲の濃度でペニシリン;約50~約200μg/mL、好ましくは100μg/mLの範囲の濃度でストレプトマイシンを含む。
【0102】
一実施形態では、本明細書で上述されるWE HH培地は、ゲンタマイシンをさらに含む。
【0103】
よって、一実施形態では、本発明の方法により培養される動物細胞は、肝細胞、特に初代肝細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞であり、これらは、FCS(ウシ胎仔血清)を伴うかまたは伴わずに、ゲンタマイシン、ペニシリン、ストレプトマイシン、インスリン、グルタミン(L-グルタミン)、アルブミン、およびヒドロコルチゾンで補充されているWE HH培地において、低接着性または超低接着性培養容器、好ましくは低接着性または超低接着性プレートで培養される。
【0104】
一実施形態では、本明細書で上述されるWE HH培地は、約1~約100μg/mL、好ましくは約50μg/mLの範囲の濃度でゲンタマイシンを含む。
【0105】
よって一実施形態では、本発明の方法により培養される動物細胞は、肝細胞、特に初代肝細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞であり、これらは、約1(v/v)%~約20(v/v)%、好ましくは約10(v/v)%の範囲の濃度でFCS(ウシ胎仔血清)を伴うかまたは伴わずに、約1~約100μg/mL、好ましくは約50μg/mLの範囲の濃度でゲンタマイシン;約50~約200U/mL、好ましくは約100U/mLの範囲の濃度でペニシリン;約50~約200μg/mL、好ましくは100μg/mLの範囲の濃度でストレプトマイシン;約5~約30μg/mL、好ましくは約5~約15μg/mL、より好ましくは約5μg/mLの範囲の濃度でインスリン;約1~約10mM、好ましくは約2mMの範囲の濃度でグルタミン(L-グルタミン);約0.01~約1(w/v)%、好ましくは約0.1(w/v)%の範囲の濃度でアルブミンを補充されるWE HH培地において、低接着性または超低接着性培養容器、好ましくは低接着性または超低接着性プレートで培養される。
【0106】
一実施形態では、本発明の方法により培養される動物細胞は、ヒト細胞、好ましくは初代ヒト細胞、たとえば初代ヒト肝細胞などであり、これらは、約37℃、約5%のCOにおいて、非接着性培養容器、好ましくは低接着性または超低接着性培養容器で培養される。
【0107】
本発明の方法では、上述される非接着性培養容器において動物細胞を培養することは、上記動物細胞の凝集体を得ることを可能にする。
【0108】
一実施形態では、上述される非接着性培養容器において動物細胞を培養した後に、動物細胞の少なくとも約30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、または80%、好ましくは少なくとも約50%が、凝集する。
【0109】
細胞凝集体の形成を観察するための方法は、当業者によく知られておりたとえば、2光子励起蛍光(TPEF)顕微鏡などの蛍光顕微鏡を含む。
【0110】
本発明の方法では、最初に上述される非接着性培養容器において動物細胞を培養した後に、動物細胞は、コラーゲンまたは切り詰め型コラーゲン、すなわちゼラチンを含む培養培地に移され、したがってコラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスに埋め込まれる。いずれの理論によっても拘束されることを望まないが、本出願人は、コラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスに動物細胞を埋め込むことが、動物細胞の増殖および増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物の形成を可能にする微小環境を動物細胞に提供することを示唆する。特に本出願人は、コラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックス、特にメタクリル酸修飾ゼラチン(GelMa)に初代ヒト肝細胞(PHH)を埋め込むことが、PHHの増殖および本発明に係るPHHスフェロイド、すなわち中空内腔を有する腺房様構造を形成する良好に編成されたPHHの単層により区切られた球体の形成を可能にする微小環境を、PHHに提供することを示唆する。
【0111】
実際に、本出願人は、コラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスに動物細胞を埋め込むことなく上述される非接着性培養容器で動物細胞を継続して培養することが、増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物を得ることを可能にしなかったことを示した。特に本出願人は、増殖性初代ヒト肝細胞を含むスフェロイド(上記スフェロイドは、良好に編成されたPHH形成の単層により区切られた中空内腔を有する腺房様構造である)を得るために、低接着性プレートなどの非接着性培養容器でまず培養された初代ヒト肝細胞が、コラーゲンまたはゼラチン、特にメタクリル酸修飾ゼラチン(GelMa)を含む培地に移され、かつコラーゲンマトリックス、ゼラチンマトリックス、特にGelMaマトリックスに埋め込まれなければならないことを示した。
【0112】
本発明では、コラーゲンを含む培養培地を得るため、よって上記コラーゲンを含む培養培地において非接着性培養容器でまず培養された動物細胞を移すために、コラーゲンが、本明細書で上述される培養培地に添加される。
【0113】
本明細書で使用される場合、用語「コラーゲン」は、コラーゲンの異なるサブファミリーおよびゼラチンとも呼ばれる切り詰め型コラーゲンを包有する。
【0114】
よって一実施形態では、動物細胞は、切り詰め型コラーゲン、すなわちゼラチンを含む培養培地に移される。
【0115】
一実施形態では、動物細胞は、線維性コラーゲンを含む培養培地に移される。
【0116】
一実施形態では、動物細胞は、線維性コラーゲンに由来するゼラチンを含む培養培地に移される。
【0117】
線維性コラーゲンの例としては、限定するものではないが、I型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン、V型コラーゲン、VI型コラーゲン、XI型コラーゲン、XXIV型コラーゲン、およびXXVII型コラーゲンが挙げられる。
【0118】
一実施形態では、動物細胞は、I型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン、V型コラーゲン、VI型コラーゲン、XI型コラーゲン、XXIV型コラーゲン、XXVII型コラーゲン、およびそれらのいずれかの混合物を含むかまたはそれらからなる群から選択される線維性コラーゲンを含む培養培地に移される。
【0119】
一実施形態では、動物細胞は、I型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン、V型コラーゲン、VI型コラーゲン、XI型コラーゲン、XXIV型コラーゲン、XXVII型コラーゲン、およびそれらのいずれかの混合物を含むかまたはそれらからなる群から選択される線維性コラーゲンに由来するゼラチンを含む培養培地に移される。
【0120】
一実施形態では、動物細胞は、I型コラーゲン、III型コラーゲン、およびそれらのいずれかの混合物を含むかまたはそれらからなる群から選択される線維性コラーゲンを含む培養培地に移される。
【0121】
一実施形態では、動物細胞は、I型コラーゲン、III型コラーゲン、およびそれらのいずれかの混合物を含むかまたはそれらからなる群から選択される線維性コラーゲンに由来するゼラチンを含む培養培地に移される。
【0122】
一実施形態では、動物細胞は、I型コラーゲンを含む培養培地に移される。
【0123】
一実施形態では、動物細胞は、I型コラーゲンに由来するゼラチンを含む培養培地に移される。一実施形態では、動物細胞は、A型ゼラチン、特にI型コラーゲンに由来するA型ゼラチンを含む培養培地に移される。
【0124】
本発明の方法で使用され得るI型コラーゲンの例としては、限定するものではないが、ラットのI型コラーゲン、ウシのI型コラーゲン、ブタのI型コラーゲン、ヒト胎盤由来のヒトI型コラーゲン、組み換え型ヒトI型コラーゲン、ウサギの皮膚由来のI型コラーゲン、ヒツジのI型コラーゲン、ならびにクラゲおよび海洋物質由来のI型関連線維性コラーゲンが挙げられる。
【0125】
一実施形態では、動物細胞は、少なくとも約0.25mg/mL、0.30mg/mL、0.35mg/mL、0.40mg/mL、0.45mg/mL、0.5mg/mL、0.55mg/mL、0.6mg/mL、0.65mg/mL、0.7mg/mL、または0.75mg/mLの濃度にて本明細書で上述されるコラーゲンを含む培養培地に移される。別の実施形態では、動物細胞は、少なくとも約0.70mg/mL、0.71mg/mL、0.72mg/mL、0.73mg/mL、0.74mg/mL、または0.75mg/mLの濃度にて本明細書で上述されるコラーゲンを含む培養培地に移される。
【0126】
一実施形態では、動物細胞は、最大約4mg/mL、3.75mg/mL、3.5mg/mL、3.25mg/mL、3mg/mL、2.75mg/mL、2.5mg/mL、2.25mg/mL、または2mg/mLの濃度にて本明細書で上述されるコラーゲンを含む培養培地に移される。別の実施形態では、動物細胞は、最大約4mg/mL、3.9mg/mL、3.8mg/mL、3.7mg/mL、3.6mg/mL、3.5mg/mL、3.4mg/mL、3.3mg/mL、3.2mg/mL、3.1mg/mL、または3mg/mLの濃度にて本明細書で上述されるコラーゲンを含む培養培地に移される。別の実施形態では、動物細胞は、最大約3mg/mL、2.9mg/mL、2.8mg/mL、2.7mg/mL、2.6mg/mL、2.5mg/mL、2.4mg/mL、2.3mg/mL、2.2mg/mL、2.1mg/mL、または2mg/mLの濃度にて本明細書で上述されるコラーゲンを含む培養培地に移される。
【0127】
一実施形態では、動物細胞は、約0.25mg/mL~約3mg/mL、好ましくは約0.5mg/mL~約2.5mg/mL、より好ましくは約0.75mg/mL~約1.5mg/mLの範囲の濃度にて本明細書で上述されるコラーゲンを含む培養培地に移される。
【0128】
一実施形態では、動物細胞は、約0.75mg/mL、1mg/mL、1.25mg/mL、または1.5mg/mLの濃度にて本明細書で上述されるコラーゲンを含む培養培地に移される。
【0129】
一実施形態では、動物細胞は、少なくとも約15(w/v)%、20(v/w)%、25(w/v)%、30(w/v)%、35(w/v)%、40(w/v)%、45(w/v)%、または50(w/v)%の濃度にて本明細書で上述されるゼラチンを含む培養培地に移される。よって一実施形態では、動物細胞は、少なくとも約150mg/mL、200mg/mL、250mg/mL、300mg/mL、350mg/mL、400mg/mL、450mg/mL、または500mg/mLの濃度にて本明細書で上述されるゼラチンを含む培養培地に移される。
【0130】
一実施形態では、動物細胞は、最大約60(w/v)%、55(w/v)%、50(w/v)%、45(w/v)%、または40(w/v)%の濃度にて本明細書で上述されるゼラチンを含む培養培地に移される。よって一実施形態では、動物細胞は、最大約600mg/mL、550mg/mL、500mg/mL、450mg/mL、または400mg/mLの濃度にて本明細書で上述されるゼラチンを含む培養培地に移される。
【0131】
一実施形態では、動物細胞は、約15(w/v)%~約60(w/v)%、好ましくは約20(w/v)~約50(w/v)%の範囲の濃度にて本明細書で上述されるゼラチンを含む培養培地に移される。よって一実施形態では、動物細胞は、約150mg/mL~約600mg/mL、好ましくは約200mg/mL~約500mg/mLの範囲の濃度にて本明細書で上述されるゼラチンを含む培養培地に移される。
【0132】
特定の実施形態では、動物細胞は、メタクリル酸修飾ゼラチン(GelMa)を含む培養培地に移される。
【0133】
一実施形態では、GelMaは、無水メタクリル酸での本明細書で上述されるゼラチンのメタクリル化(methacrylation)により得られる。一実施形態では、GelMaは、無水メタクリル酸でのI型コラーゲンに由来するゼラチンのメタクリル化により得られる。一実施形態では、GelMaは、A型ゼラチンのメタクリル化により得られる。一実施形態では、無水メタクリル酸でのI型コラーゲンに由来するA型ゼラチンのメタクリル化により得られる。
【0134】
一実施形態では、動物細胞は、少なくとも約1(w/v)%、2(w/v)%、2.5(w/v)%、3(w/v)%、4(w/v)%、または5(w/v)%の濃度にて本明細書で上述されるGelMaを含む培養培地に移される。よって一実施形態では、動物細胞は、少なくとも約10mg/mL、20mg/mL、25mg/mL、30mg/mL、40mg/mL、または50mg/mLの濃度にて本明細書で上述されるGelMaを含む培養培地に移される。
【0135】
一実施形態では、動物細胞は、最大約20(w/v)%、15(w/v)%、10(w/v)%、9(w/v)%、8(w/v)%、7(w/v)%、7.5(w/v)%、6(w/v)%、または5(w/v)%の濃度にて本明細書で上述されるGelMaを含む培養培地に移される。よって一実施形態では、動物細胞は、最大約200mg/mL、150mg/mL、100mg/mL、90mg/mL、80mg/mL、70mg/mL、75mg/mL、60mg/mL、または50mg/mLの濃度にて本明細書で上述されるGelMaを含む培養培地に移される。
【0136】
一実施形態では、動物細胞は、約1(w/v)%~約20(w/v)%、好ましくは約2.5(w/v)%~約10(w/v)%、より好ましくは約4(w/v)%~約6(w/v)%の範囲の濃度にて本明細書で上述されるGelMaを含む培養培地に移される。よって一実施形態では、動物細胞は、約10mg/mL~約200mg/mL、好ましくは約25mg/mL~約100mg/mL、より好ましくは約40mg/mL~約60mg/mLの範囲の濃度にて本明細書で上述されるGelMaを含む培養培地に移される。
【0137】
一実施形態では、動物細胞は、約5(w/v)%、すなわち約50mg/mLの濃度でGelMaを含む培養培地に移される。
【0138】
一実施形態では、本明細書で上述される培養培地に含まれるコラーゲン、切り詰め型コラーゲン(すなわちゼラチン)、またはメタクリル酸修飾ゼラチンの濃度は、培養培地におけるコラーゲン、切り詰め型コラーゲン(すなわちゼラチン)、またはメタクリル酸修飾ゼラチンの最終濃度として表される。
【0139】
一実施形態では、動物細胞は、本明細書で上述されるGelMaを含み、光の曝露の後に重合を誘導するための光重合開始剤をさらに含む培養培地に移される。
【0140】
光重合開始剤の例としては、限定するものではないが、2,2’-アゾビス[2-メチル-n-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド](VA-086としても知られている)、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパノン(Irgacure 2959としても知られている)、リチウム フェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィナート(LAPまたはBioKeyとしても知られている)、2’,4’,5’,7’-テトラブロモフルオレセイン二ナトリウム塩(エオシンYまたはEYとしても知られている)が挙げられる。
【0141】
一実施形態では、光重合開始剤は、2,2’-アゾビス[2-メチル-n-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド](VA-086としても知られている)、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパノン(Irgacure 2959としても知られている)、リチウム フェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィナート(LAPまたはBioKeyとしても知られている)、および2’,4’,5’,7’-テトラブロモフルオレセイン二ナトリウム塩(エオシンYまたはEYとしても知られている)を含むかまたはそれらからなる群から選択され、好ましくは光重合開始剤は、リチウム フェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィナート(LAPまたはBioKeyとしても知られている)である。
【0142】
一実施形態では、動物細胞は、本明細書で上述されるGelMaを含み、少なくとも約0.01(w/v)%、0.05(w/v)%、0.075(w/v)%、0.1(w/v)%、0.25(w/v)%、または0.5(w/v)%の濃度にて本明細書で上述される光重合開始剤をさらに含む培養培地に移される。よって一実施形態では、動物細胞は、本明細書で上述されるGelMaを含み、少なくとも約0.1mg/mL、0.5mg/mL、0.75mg/mL、1mg/mL、2.5mg/mL、または5mg/mLの濃度にて本明細書で上述される光重合開始剤をさらに含む培養培地に移される。
【0143】
一実施形態では、動物細胞は、本明細書で上述されるGelMaを含み、最大約2(w/v)%、1.5(w/v)%、1(w/v)%、0.75(w/v)%、0.5(w/v)%、0.25(w/v)%、0.1(w/v)%、または0,05(w/v)%の濃度にて本明細書で上述される光重合開始剤をさらに含む培養培地に移される。よって一実施形態では、動物細胞は、本明細書で上述されるGelMaを含み、最大約20mg/mL、15mg/mL、10mg/mL、7.5mg/mL、5mg/mL、2.5mg/mL、1mg/mL、または0,5mg/mLの濃度にて本明細書で上述される光重合開始剤をさらに含む培養培地に移される。
【0144】
一実施形態では、動物細胞は、本明細書で上述されるGelMaを含み、約0.01(w/v)%~約2(w/v)%の範囲の濃度にて本明細書で上述される光重合開始剤をさらに含む培養培地に移される。よって一実施形態では、動物細胞は、本明細書で上述されるGelMaを含み、約0.1mg/mL~約20mg/mLの範囲の濃度にて本明細書で上述される光重合開始剤をさらに含む培養培地に移される。
【0145】
一実施形態では、動物細胞は、本明細書で上述されるGelMaを含み、約1(w/v)%の濃度、すなわち約1mg/mLの濃度にて本明細書で上述される光重合開始剤をさらに含む培養培地に移される。
【0146】
一実施形態では、コラーゲンまたはゼラチンを含む培養培地を得るためにコラーゲンまたはゼラチンが添加される培養培地、および本明細書で上述される非接着性培養容器で動物細胞を培養するために先に使用される培養培地は、異なる培地である。別の実施形態では、コラーゲンまたはゼラチンを含む培養培地を得るためにコラーゲンまたはゼラチンを添加する培養培地、および本明細書で上述される非接着性培養容器で動物細胞を培養するために先に使用される培養培地は、同じ培地である。
【0147】
本明細書で上述されるように、本発明の方法により使用される培養培地は、当業者に明らかであり、培養される動物細胞に応じて変化する。本発明の方法により使用され得る培養培地は、本明細書で上述される。
【0148】
一実施形態では、本発明の方法で培養される動物細胞は、肝細胞、特に初代肝細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞であり、これらは、肝細胞、特に初代肝細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞の培養に適する培地に移され、上記の培養培地は、本明細書で上述されるコラーゲンまたはゼラチンをさらに含む。
【0149】
肝細胞、特に初代肝細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞の培養に適切な培地の例は、本明細書で上に列挙される。
【0150】
一実施形態では、本発明の方法により培養される動物細胞は、肝細胞、特に初代肝細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞であり、これらは、本明細書で上に定義されるWE HHに移され、上記のWE HHは、本明細書で上述されるコラーゲンまたはゼラチンをさらに含む。一実施形態では、本発明の方法により培養される動物細胞は、肝細胞、特に初代肝細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞であり、これらは、本明細書で上に定義されるWE HHに移され、上記のWE HHは、本明細書で上述されるメタクリル酸修飾ゼラチンンをさらに含む。一実施形態では、本発明の方法により培養される動物細胞は、肝細胞、特に初代肝細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞であり、これらは、本明細書で上記に定義されるWE HHに移され、上記のWE HHは、本明細書で上述されるメタクリル酸修飾ゼラチンおよび光重合開始剤、好ましくはリチウム フェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィナートをさらに含む。
【0151】
一実施形態では、WE HH培地は、ペニシリン、ストレプトマイシン、インスリン、グルタミン(L-グルタミン)、アルブミン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、ヒドロコルチゾン、HGF(肝細胞増殖因子)、およびEGF(上皮増殖因子)、ならびに任意選択でゲンタマイシンおよび/またはFCS(ウシ胎仔血清)を補充される。
【0152】
一実施形態では、WE HH培地は、約50~約200U/mL、好ましくは約100U/mLの範囲の濃度でペニシリン;約50~約200μg/mL、好ましくは100μg/mLの範囲の濃度でストレプトマイシン;約5~約30μg/mLの範囲、好ましくは約5~約15μg/mLの範囲、好ましくは約15μg/mLの濃度でインスリン;約1~約10mMの範囲、好ましくは約2mMの濃度でグルタミン(L-グルタミン);約0.01~約1(w/v)%の範囲、好ましくは約0.1(w/v)%の濃度でアルブミン;約0~約10μg/mL、または約0.1~約10μg/mL、好ましくは約5.5μg/mLの範囲の濃度でトランスフェリン;約0~約10μg/mL、または約0.1~約10μg/mL、好ましくは約5μg/mLの範囲の濃度で亜セレン酸ナトリウム;約0.1~約50μM、好ましくは約1μmの範囲の濃度でヒドロコルチゾン;約0~約10ng/mL、または約0.1~約10ng/mL、好ましくは約2.5ng/mLの範囲の濃度でrhHGF(組み換え型ヒト肝細胞増殖因子);約0~約1ng/μL、または約0.01~約1ng/μL、好ましくは約0.05ng/μLの範囲の濃度でrhEGF(組み換え型ヒト上皮増殖因子);ならびに約0~約20(v/v)%、または約1(v/v)%~約20(v/v)%、好ましくは約10(v/v)%の範囲の濃度でFCS(ウシ胎仔血清);ならびに任意選択で約1~約100μg/mL、好ましくは約50μg/mLの範囲の濃度でゲンタマイシンを含む。
【0153】
一実施形態では、動物細胞は、少なくとも約10、5.10、または10個の細胞/ml(コラーゲンまたはゼラチンを含む培養培地)の濃度にて本明細書で上述されるコラーゲンまたはゼラチンを含む培養培地に移される。
【0154】
一実施形態では、動物細胞は、最大約10、5×10、または10個の細胞/ml(コラーゲンまたはゼラチンを含む培養培地)の濃度にて本明細書で上述されるコラーゲンまたはゼラチンを含む培養培地に移される。
【0155】
一実施形態では、動物細胞は、約10個の細胞/mL~約10個の細胞/mL、好ましくは約10個の細胞/mL~約10個の細胞/mL、より好ましくは約1×10~約9×10個の細胞/ml(コラーゲンまたはゼラチンを含む培養培地)の濃度にて本明細書で上述されるコラーゲンまたはゼラチンを含む培養培地に移される。
【0156】
別の実施形態では、動物細胞は、約3×10個の細胞/mL~約4.5×10個の細胞/mL、好ましくは約3.25×10個の細胞/mL~約4×10個の細胞/mL、より好ましくは約3.5×10個の細胞/mL~約3.75×10個の細胞/ml(コラーゲンまたはゼラチンを含む培養培地)の濃度にて本明細書で上述されるコラーゲンまたはゼラチンを含む培養培地に移される。
【0157】
一実施形態では、動物細胞は、約3×10、3.25×10、3.5×10、3.65×10、3.75×10、4×10、4.25×10、または4.5×10個の細胞/ml(コラーゲンまたはゼラチンを含む培養培地)の濃度にて本明細書で上述されるコラーゲンまたはゼラチンを含む培養培地に移される。別の実施形態では、動物細胞は、約3.65×10個の細胞/ml(コラーゲンまたはゼラチンを含む培養培地)の濃度にて本明細書で上述されるコラーゲンを含む培養培地に移される。
【0158】
一実施形態では、本明細書で上述されるコラーゲンまたはゼラチンを含む培養培地に動物細胞を移した後に、得られる混合物のpHを、約7~約8の範囲の値、好ましくは約7.4の値に調節する。培養培地のpHを調節するための方法は、当業者によく知られている。たとえば、培養培地のpHは、適切な容量のNaOH溶液の添加を用いて必要に応じて増大させてよい。あるいは、培養培地のpHは、適切な容量のHCl溶液の添加を用いて必要に応じて低下させてよい。
【0159】
動物細胞の培養に適した条件を選択することは、当業者によく知られている。よって、本発明の方法により使用される培養条件、たとえば培養容器、温度、湿度、およびCOのレベルなどは、当業者に明らかであり、培養される動物条件に応じて変化する。
【0160】
一実施形態では、本明細書で上述されるコラーゲンまたはゼラチンを含む培養培地に動物細胞を移すことからもたらされる混合物は、プレートまたはマルチウェルプレート、たとえば24ウェルプレート、48ウェルプレート、または96ウェルプレートなどの培養容器に注がれる。培養容器に注がれる容量が、培養容器の大きさ、たとえばプレートの大きさに応じて変化することは当業者に明らかである。マルチウェルプレートの場合、ウェルあたりに注がれる容量はウェルの大きさに、よってマルチウェルプレートの大きさに応じて変化する。
【0161】
よって、一実施形態では、本明細書で上述されるコラーゲンまたはゼラチンを含む培養培地に動物細胞を移すことからもたらされる混合物は、96ウェルプレートのウェルあたり約100μl注がれ、48ウェルプレートのウェルあたり約300μl注がれ、24ウェルプレートのウェルあたり約400μl注がれる。
【0162】
本発明の方法の一実施形態では、本明細書で上述されるコラーゲンまたはゼラチンを含む培養培地に動物細胞を移すことからもたらされる混合物は、少なくとも約10分、20分、30分、45分、1h、2h、3h、または4h、好ましくは少なくとも約2hの間、培養容器、好ましくはマルチウェルプレートでインキュベートされる。
【0163】
一実施形態では、本発明の方法により培養される動物細胞は、ヒト細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞であり、コラーゲンを含む培養培地に上記ヒト細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞を移すことからもたらされる混合物は、約37℃、約5%のCO、湿度80~100%、好ましくは85~95%で、本明細書で上述されるようにインキュベートされる。
【0164】
本発明の方法の一実施形態では、少なくとも約10分、20分、30分、45分、1h、2h、3h、または4h、好ましくは少なくとも約2hの37℃でのインキュベーションの後、本明細書で上述される培養培地に含まれるコラーゲンは重合され、よって動物細胞は、コラーゲンマトリックスに埋め込まれる。
【0165】
本発明の方法の別の実施形態では、本明細書で上述されるメタクリル酸修飾ゼラチン(GelMa)を含む培養培地に動物細胞を移すことからもたらされる混合物は、約250nm~約530nm、好ましくは約365~約405nmの範囲の波長を有する光で照射される。一実施形態では、本明細書で上述されるメタクリル酸修飾ゼラチン(GelMa)を含む培養培地に動物細胞を移すことからもたらされる混合物は、約365nmまたは405nmの波長を有する光で照射される。
【0166】
一実施形態では、本明細書で上述されるメタクリル酸修飾ゼラチン(GelMa)を含む培養培地に動物細胞を移すことからもたらされる混合物は、約10秒~約10分、好ましくは約30秒~約5分の範囲の時間の間、本明細書で上述されるように照射される。
【0167】
照射の時間が光の波長および強度に応じて変化することは、この分野でよく知られている。よって、光の強度は、光の波長および照射の時間に応じて変化する。
【0168】
光強度の例としては、約1mW/cm~約150mW/cmの範囲の強度が挙げられる。
【0169】
本発明の方法では、照射の後に、好ましくは約60秒間、約365nmまたは約405nmの波長を有する光を用いた照射の後に、本明細書で上述される培養培地に含まれるタクリル酸修飾ゼラチン(GelMa)は、重合され、よって動物細胞は、GelMaマトリックスに埋め込まれる。
【0170】
本発明の方法は、本明細書で上述されるコラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスに埋め込まれた動物細胞を培養し、よって増殖性動物細胞を含む、3D動物細胞構造物、好ましくはスフェロイドを得ることを可能にする第3のステップを含む。
【0171】
本発明の方法では、培養培地は、本明細書で上述されるコラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスを含む培養容器に添加される。
【0172】
一実施形態では、培養培地は、本明細書で上述されるコラーゲンまたはゼラチンを含む培養培地に動物細胞を移すことからもたらされる混合物の以前に添加された容量に対し約1.5:1~約1:1.5の範囲の比率で、本明細書で上述されるコラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスを含む培養容器に添加される。一実施形態では、培養培地は、本明細書で上述されるコラーゲンまたはゼラチンを含む培養培地に動物細胞を移すことからもたらされる混合物の以前に添加された容量に対し約1.5:1、1.4:1、1.3:1、1.2:1、1.1:1、1:1、1:1.1、1:1.2、1:1.3、1:1.4、または1:1.5の比率、好ましくは約1:1の比率で、本明細書で上述されるコラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスを含む培養容器に添加される。
【0173】
一実施形態では、本明細書で上述されるように添加される培養培地、および本発明のコラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスを得るために使用される培養培地は、異なる培地である。別の実施形態では、本明細書で上述されるように添加される培養培地、および本発明のコラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスを得るために使用される培養培地は、同じ培地である。好ましくは、同じ培地が、本発明の第2のステップおよび第3のステップにおいて使用される。
【0174】
本明細書で上述されるように、本発明の方法により使用される培養培地は、当業者に明らかであり、培養される動物細胞に応じて変化する。本発明の方法により使用され得る培養培地は、本明細書で上述されている。
【0175】
一実施形態では、本発明に係るコラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスに埋め込まれた動物細胞は、肝細胞、特に初代肝細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞であり、これらは、肝細胞、特に初代肝細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞の培養に適した培地で培養される。
【0176】
肝細胞、特に初代肝細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞の培養に適した培地の例は、本明細書で上に列挙される。
【0177】
一実施形態では、肝細胞、特に初代肝細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞は、本発明において、コラーゲンマトリックスにまたはゼラチンマトリックスに、特にGelMaマトリックスに埋め込まれ、本明細書で上に定義されるWE HHで培養される。
【0178】
一実施形態では、WE HH培地は、ペニシリン、ストレプトマイシン、インスリン、グルタミン(L-グルタミン)、アルブミン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、ヒドロコルチゾン、HGF(肝細胞増殖因子)、およびEGF(上皮増殖因子)、ならびに任意選択でゲンタマイシンおよび/またはFCS(ウシ胎仔血清)を補充される。
【0179】
一実施形態では、WE HH培地は、約50~約200U/mL、好ましくは約100U/mLの範囲の濃度でペニシリン;約50~約200μg/mL、好ましくは100μg/mLの範囲の濃度でストレプトマイシン;約5~約30μg/mL、好ましくは約5~約15μg/mL、好ましくは約15μg/mLの範囲の濃度でインスリン;約1~約10mM、好ましくは約2mMの範囲の濃度でグルタミン(L-グルタミン);約0.01~約1(w/v)%、好ましくは約0.1(w/v)%の範囲の濃度でアルブミン;約0~約10μg/mL、または約0.1~約10μg/mL、好ましくは約5.5μg/mLの範囲の濃度でトランスフェリン;約0~約10μg/mL、または約0.1~約10μg/mL、好ましくは約5μg/mLの範囲の濃度で亜セレン酸ナトリウム;約0.1~約50μM、好ましくは約1μmの範囲の濃度でヒドロコルチゾン;約0~約10ng/mL、または約0.1~約10ng/mL、好ましくは約2.5ng/mLの範囲の濃度でrhHGF(組み換え型ヒト肝細胞増殖因子);約0~約1ng/μL、または約0.01~約1ng/μL、好ましくは約0.05ng/μLの範囲の濃度でrhEGF(組み換え型ヒト上皮増殖因子);約0~約20(v/v)%、または約1(v/v)%~約20(v/v)%、好ましくは約10(v/v)%の範囲の濃度でFCS(ウシ胎仔血清);ならびに任意選択で約1~約100μg/mL、好ましくは約50μg/mLの範囲の濃度でゲンタマイシンを含む。
【0180】
動物細胞の培養に適した条件を選択することは、当業者によく知られている。よって、本発明の方法によりコラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスに埋め込まれた動物細胞を培養するために使用される培養条件、たとえば培地交換(medium renewal)、温度、湿度、およびCOのレベルなどは、当業者に明らかであり、培養される動物細胞に応じて変化する。
【0181】
一実施形態では、本明細書で上述されるコラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスを含む培養容器に添加される培養培地は、1、2、3、4日、またはそれを超える日数ごとに、好ましくは2日ごとに交換(change)される。
【0182】
一実施形態では、本明細書で上述されるコラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスを含む培養容器に添加される培養培地は、24h、36h、48h、60h、72h、またはそれを超える時間ごとに、好ましくは28hごとに交換される。
【0183】
培養培地を交換する頻度は、当業者に明らかであり、培養の目的に応じて変化する。
【0184】
一実施形態では、本発明の方法に係るコラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスに埋め込まれた動物細胞は、ヒト細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞であり、これらは、約37℃、約5%のCO、湿度80~90%、好ましくは85~95%で培養される。
【0185】
一実施形態では、本発明の方法に係るコラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスに埋め込まれた動物細胞は、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、または35日間、培養される。
【0186】
一実施形態では、本発明の方法に係るコラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスに埋め込まれた動物細胞は、少なくとも約1、2、3、4、5、または6週間、培養される。
【0187】
一実施形態では、本発明に係る、コラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックス、特にGelMaマトリックスに埋め込まれた動物細胞は、肝細胞、特に初代肝細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞であり、これらは、増殖性肝細胞を含む、3D動物構造物、好ましくはスフェロイドを得るために、少なくとも約2日間培養される。
【0188】
一実施形態では、初代肝細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞は、初代肝細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞の総数の少なくとも約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、または80%、好ましくは少なくとも約20%、より好ましくは少なくとも約30%、さらにより好ましくは少なくとも約40%が増殖マーカーについて陽性、たとえばBrdUの組み込みについて陽性(BrdU)、EdUの組み込みについて陽性(EdU)、Ki67発現について陽性(Ki67)、またはサイクリンD1発現について陽性(サイクリンD1)である場合、増殖性である。
【0189】
一実施形態では、初代肝細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞の総数は、たとえばアルブミン(alb)発現などの肝細胞マーカーの検出を介して評価される。
【0190】
一実施形態では、初代肝細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞は、Alb初代肝細胞の総数の少なくとも約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、または45%、好ましくは少なくとも約20%、より好ましくは少なくとも約30%、さらにより好ましくは少なくとも約40%が増殖マーカーについて陽性、たとえばBrdUの組み込みについて陽性(BrdU)、EdUの組み込みについて陽性(EdU)、Ki67発現について陽性(Ki67)、またはサイクリンD1発現について陽性(サイクリンD1)である場合、増殖性である。
【0191】
一実施形態では、初代肝細胞、特にAlb初代肝細胞の総数は、たとえばmRNA発現またはタンパク質の発現および/もしくはレベルの測定を介して、増殖マーカーを評価する際に観察または考慮される初代肝細胞、特にAlb初代肝細胞の総数に対応する。
【0192】
一実施形態では、本発明の方法は、本明細書で上述されるコラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスでの培養において動物細胞の1つ以上のさらなる増殖の波を誘導するステップをさらに含む。
【0193】
一実施形態では、本発明の方法は、本明細書で上述されるコラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスでの培養において動物細胞のMAPK MEK1/2-ERK1/2経路を一時的に阻害するステップをさらに含む。
【0194】
実際に本出願人は、本明細書で上述されるコラーゲンマトリックスでの培養において動物細胞のMAPK MEK1/2-ERK1/2経路を一時的に阻害することが、上記動物細胞のさらなる増殖の波を誘導したことを示した。特に、本出願人は、初代ヒト肝細胞が、培養物にMAPK MEK1/2-ERK1/2経路の阻害剤を添加することにより誘導されるさらなる増殖の波を経たことを示した。
【0195】
本発明で使用される場合、MAPK MEK1/2-ERK1/2経路の阻害剤は、MEK1/2阻害剤、MEK1阻害剤、MEK2阻害剤、ERK1/2阻害剤、ERK1阻害剤、およびERK2阻害剤を包有する。
【0196】
よって、一実施形態では、本発明の方法は、本明細書で上述されるように、コラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックス、特にGelMaマトリックスに埋め込まれた動物細胞の培養物にMEK1/2阻害剤、MEK1阻害剤、MEK2阻害剤、ERK1/2阻害剤、ERK1阻害剤、またはERK2阻害剤を添加する第4のステップ(すなわちステップd))をさらに含む。
【0197】
MEK阻害剤の例としては、限定するものではないが、U0126、PD98059、PD184352、CL-1040、FR180204、およびBUD-523が挙げられる。
【0198】
一実施形態では、上述されるMAPK MEK1/2-ERK1/2経路の阻害剤は、本発明に係るコラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスに埋め込まれた動物細胞の培養の開始から少なくとも7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20日後、またはそれを超える日数の後に、コラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスに埋め込まれた動物細胞の培養物に添加される。
【0199】
一実施形態では、上述されるMAPK MEK1/2-ERK1/2経路の阻害剤は、約24h、36h、48h、60h、または72h、好ましくは約48h、本明細書で上述されるコラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスに埋め込まれた動物細胞の培養物に添加される。
【0200】
よって一実施形態では、上述されるMAPK MEK1/2-ERK1/2経路の阻害剤を含む培養培地は、約24h、36h、48h、60h、または72h後、好ましくは約48h後に、MAPK MEK1/2-ERK1/2経路の阻害剤を含まない培養培地と交換される。
【0201】
一実施形態では、上述されるMAPK MEK1/2-ERK1/2経路の阻害剤の添加は、必要に応じてさらなる増殖の波を誘導するために反復される。
【0202】
一実施形態では、本発明の方法により得られる増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物、好ましくはスフェロイドは、コラーゲンマトリックスにまたはゼラチンマトリックスに、特にGelMaマトリックスに埋め込まれる。
【0203】
一実施形態では、本発明の方法は、コラーゲンマトリックスからまたはゼラチンマトリックスから、特にGelMaマトリックスから増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物、好ましくはスフェロイドを単離するステップをさらに含む。
【0204】
一実施形態では、増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物、好ましくはスフェロイドは、コラーゲンの酵素消化の後に、コラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスから単離される。よって一実施形態では、増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物、好ましくはスフェロイドは、コラゲナーゼまたはコラーゲン分解活性を有する酵素混合物とのインキュベーション後に、コラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスから単離される。
【0205】
一実施形態では、本発明の方法は、コラゲナーゼまたはコラーゲン分解活性を有する酵素混合物と、コラーゲンマトリックスにまたはゼラチンマトリックスに、特にGelMaマトリックスに埋め込まれた増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物、好ましくはスフェロイドをインキュベートする最後のステップ(たとえばステップe))をさらに含む。
【0206】
コラーゲン分解活性を有する酵素混合物の例としては、限定するものではないが、リベラーゼ(登録商標)およびAccutase(登録商標)が挙げられる。
【0207】
よって本発明は、動物細胞、好ましくは初代動物細胞を培養する方法であって、
a)まず、本明細書で上述される非接着性培養容器において動物細胞を培養することと、
b)次に、コラーゲンまたは切り詰め型コラーゲン、すなわちゼラチンを含む培養培地に動物細胞を移すことにより、コラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスに動物細胞を埋め込むことと、
c)コラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスに埋め込まれた動物細胞を培養することにより、増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物を得ることと、
d)任意選択で、コラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスに埋め込まれた動物細胞の培養物に、上述されるMAPK MEK1/2-ERK1/2経路の阻害剤を添加することにより、動物細胞の1つ以上のさらなる増殖の波(wave(s) of proliferation)を誘導することと、
e)任意選択で、コラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスに埋め込まれた増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物を、コラゲナーゼまたはコラーゲン分解活性を有する酵素混合物とインキュベートすることにより、コラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックスから増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物を単離すること
を含む、方法に関する。
【0208】
また本発明は、動物細胞、好ましくは初代動物細胞を培養する方法であって、
a)まず、本明細書で上述される非接着性培養容器において動物細胞を培養することと、
b)次に、コラーゲン、好ましくは線維性コラーゲンを含む培養培地に動物細胞を移すことにより、コラーゲンマトリックス、好ましくは線維性コラーゲンマトリックスに動物細胞を埋め込むことと、
c)コラーゲンマトリックスに埋め込まれた動物細胞を培養することにより、増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物を得ることと、
d)任意選択で、コラーゲンマトリックスに埋め込まれた動物細胞の培養物に、上述されるMAPK MEK1/2-ERK1/2経路の阻害剤を添加することにより、動物細胞の1つ以上のさらなる増殖の波(wave(s) of proliferation)を誘導することと、
e)任意選択で、コラーゲンマトリックスに埋め込まれた増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物を、コラゲナーゼまたはコラーゲン分解活性を有する酵素混合物と共にインキュベートすることにより、コラーゲンマトリックスから増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物を単離すること
を含む、方法に関する。
【0209】
一実施形態では、本発明は、動物細胞、好ましくは初代動物細胞を培養する方法であって、
a)まず、低接着性または超低接着性培養容器、好ましくは低接着性または超低接着性プレートにおいて動物細胞を培養することと、
b)次に、約0.25mg/mL~約3mg/mL、好ましくは約0.5mg/mL~約2.5mg/mL、より好ましくは約0.75mg/mL~約1.5mg/mLの範囲の濃度で線維性コラーゲン、好ましくはI型コラーゲンを含む培養培地に動物細胞を移すことにより、線維性コラーゲンマトリックスに動物細胞を埋め込むことと、
c)コラーゲンマトリックスに埋め込まれた動物細胞を培養することにより、増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物を得ることと、
d)任意選択で、コラーゲンマトリックスに埋め込まれた動物細胞の培養物に、上述されるMAPK MEK1/2-ERK1/2経路の阻害剤を添加することにより、動物細胞の1つ以上のさらなる増殖の波(wave(s) of proliferation)を誘導することと、
e)任意選択で、コラーゲンマトリックスに埋め込まれた増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物を、コラゲナーゼまたはコラーゲン分解活性を有する酵素混合物とインキュベートすることにより、コラーゲンマトリックスから増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物を単離することを含む、方法に関する。
【0210】
また本発明は、動物細胞、好ましくは初代動物細胞を培養する方法であって、
a)まず、本明細書で上述される非接着性培養容器において動物細胞を培養することと、
b)次に、メタクリル酸修飾ゼラチン(GelMa)を含む培養培地に動物細胞を移すことにより、GelMaマトリックスに動物細胞を埋め込むことと、
c)GelMaマトリックスに埋め込まれた動物細胞を培養することにより、増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物を得ることと、
d)任意選択で、GelMaトリックスに埋め込まれた動物細胞の培養物に、上述されるMAPK MEK1/2-ERK1/2経路の阻害剤を添加することにより、動物細胞の1つ以上のさらなる増殖の波(wave(s) of proliferation)を誘導することと、
e)任意選択で、GelMaマトリックスに埋め込まれた増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物を、コラゲナーゼまたはコラーゲン分解活性を有する酵素混合物とインキュベートすることにより、GelMaマトリックスから増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物を単離すること
を含む、方法に関する。
【0211】
一実施形態では、本発明は、動物細胞、好ましくは初代動物細胞を培養する方法であって、
a)まず、低接着性または超低接着性培養容器、好ましくは低接着性または超低接着性プレートにおいて動物細胞を培養することと、
b)次に、約1(w/v)%~約20(w/v)%、好ましくは約2.5(w/v)%~約10(w/v)%、より好ましくは約5(w/v)%の範囲の濃度でメタクリル酸修飾ゼラチンを含む培養容器に動物細胞を移すことにより、GelMaマトリックスに動物細胞を埋め込むことと、
c)GelMaマトリックスに埋め込まれた動物細胞を培養することにより、増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物を得ることと、
d)任意選択で、GelMaトリックスに埋め込まれた動物細胞の培養物に、上述されるMAPK MEK1/2-ERK1/2経路の阻害剤を添加することにより、動物細胞の1つ以上のさらなる増殖の波(wave(s) of proliferation)を誘導することと、
e)任意選択で、GelMaマトリックスに埋め込まれた増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物を、コラゲナーゼまたはコラーゲン分解活性を有する酵素混合物とインキュベートすることにより、GelMaマトリックスから増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物を単離すること
を含む、方法に関する。
【0212】
一実施形態では、本発明の方法で培養される動物細胞は、初代ヒト肝細胞(PHH)であり、ステップc)で得られる増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物は、増殖性PHHを含むスフェロイドである。
【0213】
一実施形態では、本発明の方法で培養される動物細胞は、初代動物細胞、特に初代ヒト細胞であり、本発明の方法は、増殖性初代動物細胞、特に初代ヒト細胞を含む3D動物細胞構造物を得ることを可能にする。
【0214】
一実施形態では、本発明の方法で培養される動物細胞は、肝細胞、特に初代肝細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞であり、本発明の方法は、増殖性肝細胞、特に増殖性初代肝細胞、好ましくは増殖性初代ヒト肝細胞を含むスフェロイドを得ることを可能にする。
【0215】
一実施形態では、本発明の方法で培養される動物細胞は、肝細胞、特に初代肝細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞であり、本発明の方法は、増殖性肝細胞、特に増殖性初代肝細胞、好ましくは増殖性初代ヒト肝細胞を含むスフェロイド(ここで上記スフェロイドは、中空内腔を有する腺房様構造を有する)を得ることを可能にする。
【0216】
また本発明は、初代肝細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞のin vitroでの増殖を誘導するための方法であって、
a)まず、非接着性培養容器、好ましくは低接着性または超低接着性プレートにおいて初代肝細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞を培養することと、
b)次に、本明細書で上述されるコラーゲンまたはゼラチン、特にメタクリル酸修飾ゼラチン(GelMa)を含む培養培地に初代肝細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞を移すことにより、コラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックス、特にGelMaマトリックスに初代肝細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞を埋め込むことと、
c)コラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックス、特にGelMaマトリックスに埋め込まれた初代肝細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞を培養することにより、増殖性初代肝細胞、好ましくは増殖性初代ヒト肝細胞を含むスフェロイドを得ることと、
d)任意選択で、コラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックス、特にGelMaマトリックスに埋め込まれた初代肝細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞の培養物に、上述されるMAPK MEK1/2-ERK1/2経路の阻害剤を添加することにより、初代肝細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞の1つ以上のさらなる増殖の波(wave(s) of proliferation)を誘導すること
を含む、方法に関する。
【0217】
本発明の別の目的は、初代肝細胞、好ましくは増殖性初代ヒト肝細胞(PHH)を含むスフェロイドである。
【0218】
本発明の一実施形態では、上記スフェロイドは、本明細書で上述されるコラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックス、特にGelMaマトリックスでの培養時間にわたり、それらの分化した状態および肝機能を保持する初代肝細胞を含む。
【0219】
本発明の一実施形態では、本発明の初代肝細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞を含むスフェロイドは、中空内腔を有する腺房様構造を有する。
【0220】
よって、一実施形態では、本発明に係るスフェロイドは、中空内腔を有する腺房様構造を形成する、良好に編成された初代肝細胞、好ましくは初代ヒト肝細胞の単層により区切られた球体として見える。
【0221】
初代肝細胞の分化した状態を評価するための方法としては、限定するものではないが、E-カドヘリンなどの上皮マーカーの検出および細胞内局在化;ならびにN-カドヘリン、ビメンチン、サイトケラチン8、およびサイトケラチン18などの間葉系マーカーの検出および細胞内局在化が挙げられる。
【0222】
本明細書で使用される場合、「肝機能」は、肝細胞に特異的な極性化、タンパク質発現、タンパク質分泌、および酵素活性を包有する。
【0223】
よって肝機能は、たとえば、フェトプロテイン、アルブミンおよび/またはアルドラーゼBの発現の決定;アルブミンの分泌の決定;フェーズI、フェーズII、および/またはフェーズIIIの酵素などの異物代謝酵素の発現、細胞内局在化、および/または活性の決定;MRP2および/またはMRP3などの薬物輸送体の発現、細胞内局在化、および/または活性の決定を介して、評価され得る。
【0224】
一実施形態では、本発明のスフェロイドは、少なくとも以下の:
極性化した増殖性初代肝細胞、好ましくは極性化した増殖性PHH;
フェトプロテイン、アルブミン、および/またはアルドラーゼB、好ましくはアルブミン、および/またはアルドラーゼBを発現する、増殖性初代肝細胞、好ましくは増殖性PHH;
アルブミンを分泌する、増殖性初代肝細胞、好ましくは増殖性PHH;
フェーズI、フェーズII、および/またはフェーズIIIの代謝酵素を発現する、増殖性初代肝細胞、好ましくは増殖性PHH;ならびに/または
MRP2および/またはMRP3などの薬物輸送体を発現する、増殖性初代肝細胞、好ましくは増殖性PHH;
の少なくとも1つであるとさらに特徴づけられる、増殖性初代肝細胞、好ましくは増殖性PHHを含む。
【0225】
一実施形態では、本発明のスフェロイドは、極性化した増殖性初代肝細胞、好ましくは極性化した増殖性PHHを含む。一実施形態では、本発明のスフェロイドは、フェトプロテイン、アルブミン、および/またはアルドラーゼを発現する、増殖性初代肝細胞、好ましくは増殖性PHHを含む。一実施形態では、本発明のスフェロイドは、アルブミンを分泌する、増殖性初代肝細胞、好ましくは増殖性PHHを含む。一実施形態では、本発明のスフェロイドは、フェーズI、フェーズII、および/またはフェーズIIIの代謝酵素を発現する、増殖性初代肝細胞、好ましくは増殖性PHHを含む。一実施形態では、本発明のスフェロイドは、MRP2および/またはMRP3などの薬物輸送体を発現する、増殖性初代肝細胞、好ましくは増殖性PHHを含む。
【0226】
一実施形態では、本発明のスフェロイドは、コラーゲンマトリックスにまたはゼラチンマトリックスに、特にGelMaマトリックスに埋め込まれる。別の実施形態では、本発明のスフェロイドは、コラーゲンマトリックスにまたはゼラチンマトリックスに、特にGelMaマトリックスに埋め込まれない。よって、一実施形態では、本発明のスフェロイドは、増殖性初代肝細胞を含む単離されたスフェロイドである。一実施形態では、本発明のスフェロイドは、初代肝細胞の培養に適した培地中の懸濁物である。
【0227】
一実施形態では、本発明のスフェロイドは、本明細書で上述される方法により得られるかまたは得られやすい。よって一実施形態では、本発明のスフェロイドは、
a)まず、低接着性または超低接着性培養容器、好ましくは低接着性または超低接着性プレートにおいて初代肝細胞を培養することと、
b)次に、本明細書で上述されるコラーゲンまたはゼラチン、特にメタクリル酸修飾ゼラチン(GelMa)を含む培養培地に初代肝細胞を移すことにより、コラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックス、特にGelMaマトリックスに初代肝細胞を埋め込むことと、
c)コラーゲンマトリックスにまたはゼラチンマトリックスに、特にGelMaマトリックスに埋め込まれた初代肝細胞を培養することにより、増殖性初代肝細胞を含むスフェロイドを得ることと、
d)任意選択で、コラーゲンマトリックスにまたはゼラチンマトリックスに、特にGelMaマトリックスに埋め込まれた増殖性初代肝細胞を含むスフェロイドを、コラゲナーゼまたはコラーゲン分解活性を有する酵素混合物とインキュベートすることにより、コラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックス、特にGelMaマトリックスから、増殖性初代肝細胞を含むスフェロイドを単離すること
を含む、方法に関する。
【0228】
一実施形態では、本明細書で上述される本発明のスフェロイドは、増殖性初代ヒト肝細胞を含む。
【0229】
一実施形態では、本発明のスフェロイドは、約50μm~約150μmの範囲の直径を有する。
【0230】
一実施形態では、本発明のスフェロイドは、約20μm~約130μm、好ましくは約30μm~約100μm、より好ましくは約40μm~約90μm、さらにより好ましくは約45μm~約80μmの範囲の直径を有する。
【0231】
一実施形態では、本発明のスフェロイドは、約4pL~約2000pL、好ましくは約100pL~約600pLの範囲の体積を有する。
【0232】
一実施形態では、本発明のスフェロイドは、約2~約150個の増殖性初代肝細胞、好ましくは約5~約100個の増殖性初代肝細胞、より好ましくは約5~約50個の増殖性初代肝細胞を含む。
【0233】
また本発明は、人工肝臓モデルまたは人工肝臓臓器を操作するための、本明細書で上述される増殖性初代肝細胞を含むスフェロイドの使用に関する。
【0234】
また本発明は、薬物または化合物のin vitroでの毒性および/または効果を評価するための、本明細書で上述される増殖性初代肝細胞を含むスフェロイドの使用に関する。
【0235】
薬物または化合物の毒性および/または効果を評価するために試験され得るパラメータの例としては、限定するものではないが、細胞の形態および運動性、マトリックスの再編成およびコラーゲンの合成、細胞死、細胞増殖、細胞代謝、細胞の極性、ならびに細胞の分化が挙げられる。
【0236】
肝細胞の形態および運動性を評価するための方法の例としては、限定するものではないが、光学位相差顕微鏡(contrast light microscopy)、共焦点顕微鏡、2光子励起顕微鏡でのイメージングによる肝細胞または肝細胞スフェロイドの自己蛍光イメージング;低速度撮影による運動性のイメージング、およびインベードソーム/pMLC、MLCK/RhoKinaseの免疫局在性が挙げられる。
【0237】
マトリックスの再編成およびコラーゲンの合成を評価するための例としては、限定するものではないが、第二次高調波発生(SHG)顕微鏡を用いた肝細胞スフェロイドのイメージングが挙げられる。
【0238】
細胞死を評価するための方法の例としては、限定するものではないが、核断片化のイメージング(TUNELアッセイ)、カスパーゼイメージングアッセイおよびカスパーゼ活性アッセイなどの肝細胞のアポトーシスを評価するための方法、ならびに肝細胞のネクローシスを評価するための方法(YOYOでの染色)が挙げられる。
【0239】
肝細胞の増殖を評価するための方法の例としては、限定するものではないが、3D zスタック画像の二光子細胞の計算、BrdU組み込みの決定、EdU組み込みの決定、有糸分裂指数の決定、ならびにKi67、β-チューブリン、サイクリンD1、サイクリンD2、サイクリンD3、サイクリンE、サイクリンA2、サイクリンB、Cdk1、Cdk2、および/またはAurora Aの発現の免疫組織化学染色または測定が挙げられる。
【0240】
肝細胞の異物代謝または肝機能を評価するための方法の例としては、限定するものではないが、CYP、GST、UGT、NATなどのフェーズIおよびフェーズIIの異物代謝酵素、および関連する核因子CAR、PXR、AhRの酵素活性、タンパク質およびmRNAの発現、調節を決定するためのアッセイ;FDA(蛍光性二酢酸塩)の処理を介したMRP2活性(胆汁うっ滞状態に関連);ならびにオイルレッド染色またはbodipy 493/503標識などの脂質含有量を決定するためのアッセイが挙げられる。
【0241】
一実施形態では、本明細書で上述される増殖性初代肝細胞を含むスフェロイドは、薬物または化合物の肝臓遺伝毒性を評価するために使用される。
【0242】
薬物または化合物の肝臓遺伝毒性を評価するために試験され得るパラメータの例としては、限定するものではないが、肝細胞増殖、DNA複製、染色体異常(たとえば一本鎖および二本鎖の切断、喪失、微小核の形成など)、DNA損傷の存在、および変異の存在が挙げられる。
【0243】
よって、たとえば、薬物または化合物の肝臓遺伝毒性は、本発明に係る増殖性PHHを含むスフェロイドで行われる微小核形成の検出、コメットアッセイ、ヒストンH2Axのリン酸化の検出、およびエキソンのシーケンシング(たとえば異物曝露に関連するホットスポットのシグネチャーを確立するためのシーケンシング)を介して評価され得る。
【0244】
また本発明は、薬物または化合物の毒性および/または効果を評価するin vitroでの方法であって、
a)本明細書で上述される増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物を得ることと、
b)増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物を、薬物または化合物と接触させることと、
c)増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物に及ぼす薬物または化合物の毒性および/または効果を評価すること
を含む、方法に関する。
【0245】
1つの好ましい実施形態では、上記in vitroでの方法は、
a)本明細書で上述される方法により増殖性初代ヒト肝細胞(PHH)を含むスフェロイドを得ることと、
b)増殖性PHHを含むスフェロイドを、薬物または化合物と接触させることと、
c)増殖性PHHを含むスフェロイドに及ぼす薬物または化合物の毒性および/または効果を評価すること
を含む、方法に関する。
【0246】
本明細書で上述されるように、増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物、特に増殖性PHHを含むスフェロイドに及ぼす薬物または化合物の毒性および/または効果を評価するために試験され得るパラメータとしては、限定するものではないが、細胞の形態および運動性、マトリックスの再編成およびコラーゲンの合成、細胞死、細胞の増殖、細胞の代謝、細胞の極性、および細胞の分化が挙げられる。
【0247】
一実施形態では、本発明の方法は、薬物または化合物の肝臓遺伝毒性を評価するためである。
【0248】
本明細書で上述されるように、増殖性PHHを含むスフェロイドに及ぼす薬物または化合物の肝臓遺伝毒性を評価するために試験され得るパラメータとしては、限定するものではないが、肝細胞増殖、DNA複製、染色体異常の存在(たとえば一本鎖および二本鎖の切断、喪失、微小核の形成など)、DNA損傷の存在、および変異の存在が挙げられる。
【0249】
よって、薬物または化合物の肝臓遺伝毒性は、本発明に係る増殖性PHHを含むスフェロイドで行われる微小核の検出、コメットアッセイ、ヒストンH2Axリン酸化の存在の検出、およびエキソンのシーケンシング(たとえば異物曝露に関連するシグネチャーを確立するためのシーケンシング)を介して評価され得る。
【0250】
一実施形態では、増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物、好ましくは増殖性PHHを含むスフェロイドは、本明細書で上述されるコラーゲンマトリックスまたはゼラチンマトリックス、特にGelMaマトリックスに埋め込まれる。
【0251】
一実施形態では、増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物、好ましくは増殖性PHHを含むスフェロイドは、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、または15日間のコラーゲンマトリックスでのまたはゼラチンマトリックスでの、特にGelMaマトリックスでの培養の後に、薬物または化合物と接触される。別の実施形態では、増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物、好ましくは増殖性PHHを含むスフェロイドは、最大15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、または2日間のコラーゲンマトリックスでのまたはゼラチンマトリックスでの、特にGelMaマトリックスでの培養の後に、薬物または化合物と接触される。
【0252】
動物細胞を培養するための本発明の方法は、増殖性動物細胞を含む3D動物細胞構造物を得ることを可能にし、ここで上記増殖動物細胞は、それらの表現型、たとえばそれらの分化状態、および機能を保持している。
【0253】
以下の実施例に示されるように、本出願人は、本発明の方法が、初代ヒト肝細胞の培養に特に適しており、増殖性初代ヒト肝細胞を含むスフェロイドを得ることを可能にすることを示した。特に興味深いことに、本発明の方法は、HGF(肝細胞増殖因子)および/またはEGF(上皮増殖因子)などの増殖因子が存在しない場合であっても、増殖性初代ヒト肝細胞を含むスフェロイドを得ることを可能にする。また本発明の方法は、FCS(ウシ胎仔血清)が存在しない場合であっても、増殖性初代ヒト肝細胞を含むスフェロイドを得ることを可能にする。
【0254】
特に、本出願人は驚くべきことに、初代ヒト肝細胞がそれらの分化状態およびそれらの肝機能を保持し、本発明の方法によるコラーゲンマトリックスでのまたはゼラチンマトリックス、特にGelMaマトリックスでの培養の最初の週の間に、少なくとも2回の細胞周期を含む第1の増殖の波を経ることができることを見出した。また本出願人は、初代ヒト肝細胞が、本発明の方法によるコラーゲンマトリックスでの培養の第2週の間に第2の増殖の波を経ることができることを見出した。さらなる増殖の波が、MEK阻害剤U0126などの阻害剤でMEK/ERKが一時的に阻害される場合に起こり得る。
【0255】
特に本出願人は、初代ヒト肝細胞が、本明細書で上述される本発明の方法により、コラーゲンマトリックスにまたはゼラチンマトリックス、特にGelMaマトリックスに埋め込まれ培養される前に、まず低接着性培養容器などの非接着性培養容器で培養される場合にのみ、初代ヒト肝細胞の増殖が起こることを示した。これまでにコラーゲンマトリックスにまたはゼラチンマトリックス、特にGelMaマトリックスに埋め込まれることなく、低接着性培養容器で継続的に同様の時間、同じ培養培地で培養した初代ヒト肝細胞は、増殖できなかった。また、同様の時間、同じ培養培地で、コラーゲンマトリックスに直接埋め込まれ培養された初代ヒト肝細胞も、増殖できなかった。
【0256】
よって本発明は、治療的適用および薬学的適用の両方でのin vitroモデルのさらなる開発のために重要な、形質転換されていない増殖性ヒト肝細胞を得ることを可能にする。たとえば、初代ヒト肝細胞を増殖させる特質は、対象において肝機能を回復させることを目的とする肝細胞スフェロイドまたはオルガノイドの移殖の発展に最も影響を与えるであろう。初代ヒト肝細胞を増殖させる特質はまた、候補薬物および環境上の混入物の肝毒性、特に肝臓遺伝毒性を予測するために使用されるin vitroのPHHを改善するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0257】
図1図1は、肝細胞などの動物細胞を培養するための本発明の方法を示す図である。(A)本発明の方法の第1のステップの実例:動物細胞を、低接着性または超低接着性プレートなどの非接着性培養容器で培養する。(B)本発明の方法の第2および第3のステップの実例:最初に非接着性培養容器で培養した動物細胞を、コラーゲンマトリックスにまたはゼラチンマトリックス、特にGelMaマトリックスに埋め込み(第2のステップ)、上記マトリックス内で培養する(第3のステップ)。
図2図2は、コラーゲンマトリックスでの3D培養における初代ヒト肝細胞(PHH)のスフェロイドの形成を示す写真のグループである。写真を、本発明の方法により確立された2日間(A、B)または7日間(C、D、E、F)の3D培養後に、2光子励起蛍光(TPEF)顕微鏡を使用して撮影した。100μMの深度の画像スタック(TPEFスタック)を、3Dの再構築に使用した(B、D、F)。第二次高調波発生(SHG)顕微鏡を、PHHスフェロイドの周辺(CS1)および間(CS2)のコラーゲンのシグネチャー(CS)を解析するために、本発明の方法により確立された15日間の3D培養の後に使用した(G、H)。A、C バーの尺度=100μM;E バーの尺度=20μM、H バーの尺度=50μM。
図3図3は、対照の2D培養(2D)またはコラーゲンマトリックスで本発明の方法により確立された3D培養(3D)における2、5、10、および15日間の培養後の(A)アポトーシス促進性因子(ホスホ-BAD、BAX、BAK、BID、BIM、およびPUMA)、ならびに(B)生存促進性因子(MCL1、BCL2XL、BCL2)のPHHでの発現を示すウェスタンブロットのグループである。βアクチンを、ローディング対照として使用する。データは、少なくとも3つの独立した実験の代表である。
図4図4は、間葉-上皮転換(MET)で実施される因子の発現を示すヒストグラム(A)およびウェスタンブロット(B)のグループである。(A)対照の2D培養(白色)でのまたはコラーゲンマトリックスで本発明の方法により確立された3D培養(黒色)における4日間および15日間の培養の後のPHHでのE-カドヘリン、N-カドヘリン、ビメンチン、サイトケラチン8およびサイトケラチン18のmRNA発現を示すヒストグラム。mRNA発現は、対照2D培養での4日間の培養の発現レベルに対する比率に対応する。(B)対照の2D培養(2D)でのまたはコラーゲンマトリックスで本発明の方法により確立された3D培養(3D)における2、5、10、および15日間の培養の後のPHHにおけるビメンチン、N-カドヘリン、およびE-カドヘリンの発現を示すウェスタンブロット。βアクチンを、ローディング対照として使用する。
図5図5は、対照の2D培養(白色)でのまたはコラーゲンマトリックスで本発明の方法により確立された3D培養(黒色)における4日間、15日間、および28日間(HNF4αのみ後期)の培養の後のPHHにおける肝細胞分化マーカー(A)、薬物を代謝するフェーズIの酵素(B)、薬物を代謝するフェーズIIの酵素(C)、薬物輸送体(D)、CYP制御因子(E)、24時間の3-MC誘導後のCYP1A2(5μM)(F)、およびHNF4α(G)のmRNA発現を示すヒストグラムのグループである。mRNA発現は、対照2D培養での4日間の培養後の発現レベルに対する比率に対応する。示された値は、少なくとも3つの独立した実験の1つの実験代表であった(平均±SD、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。(H)対照の2D培養(白色)でのまたはコラーゲンマトリックスで本発明の方法により確立された3D培養(黒色)における4日間および15日間の培養後のPHHにおける24時間の3-MCの誘導後のCYP1A(EROD)の活性(5μM)および基礎のCYP1A2(MROD)活性を示すヒストグラム。
図6図6は、コラーゲンマトリックスで本発明の方法により確立された3D培養において4日間、15日間、および28日後のPHHスフェロイドでの薬物輸送体MRP2およびMRP3、アルブミン、および核の局在化を示す蛍光顕微鏡で得られた写真のグループである。MRP2の機能的活性を、コラーゲンマトリックスで本発明の方法により確立された3D培養において4日間、15日間、および28日後のPHHスフェロイドの中心内腔での物質の明確な排出を示す、FDA CDFDAアッセイを使用して評価する。バーの尺度=25μm。
図7A図7Aは、コラーゲンマトリックスで本発明の方法により確立された3D培養において2、4、6、10、および15日後のPHHスフェロイドを示すHES染色後に得られた写真のグループである。バーの尺度=25μm。
図7B-C】図7B~Cは、培養時間の関数としてのPHHスフェロイドの平均直径(μm)(B)および培養時間の関数としての60μm超の直径を有するPHHスフェロイドの数(C)の発展を示すグラフのグループである。
図8図8は、(A)核における増殖マーカーKi67およびアルブミンの発現の定量化に基づく、コラーゲンマトリックスで本発明の方法により確立された3D培養におけるPHHの経時的な増殖(Ki67およびAlbである核のパーセンテージとして表現される);(B)対照の2D培養(白色)におけるまたはコラーゲンマトリックスで本発明の方法により確立された3D培養(黒色)における2日間および4日間の培養後のPHHでの増殖マーカーCdk2、サイクリンD1、PCNA、P21、P27のmRNA発現を示すグラフのグループである。mRNA発現は、対照2D培養における2日間の培養での発現レベルに対する比率に対応する。
図9図9は、(A)コラーゲンマトリックスで本発明の方法により確立された3D培養におけるBrdUの組み込みの定量化;(B)増殖マーカーKi67(灰色のボックス)およびBrdUの組み込み(黒色の線)の同時の定量化に基づく、コラーゲンマトリックスで本発明の方法により確立された3D培養におけるPHHの経時的な増殖(増殖している細胞のパーセンテージとして表現);(C)示されるようにKi67染色およびBrdUの組み込みを介して検出される異なるドナーの肝細胞由来のコラーゲンマトリックスで本発明の方法により確立された8つの3D培養における2日目~7日目での増殖の波の提示:を示すグラフのグループである。
図10図10は、(A)コラーゲンマトリックスで本発明の方法により確立された3D培養の13日間にわたるKi67/Alb核のパーセンテージの定量化;(B)コラーゲンマトリックスで本発明の方法により確立された3D培養の15日間のにわたるサイクリンD1/Alb核のパーセンテージの定量化;(C)コラーゲンマトリックスで本発明の方法により確立された3D培養の15日間にわたるBrdUの組み込みの定量化、を介するコラーゲンマトリックスで本発明の方法により確立された3D培養でのPHHにおける2つの増殖の波の存在を示すヒストグラムのグループである。
図11図11Aは、培養の最初の週の間(第1の増殖の波;平均して3日目~7日目)および培養の第2週の間(第2の増殖の波;平均して9日目~14日目)に、異なるドナーの肝細胞からコラーゲンマトリックスで本発明の方法により確立された3D培養で起こる増殖の波を示す図である。図11Bは、コラーゲンマトリックスで本発明の方法により確立された3D培養における10日後のPHHスフェロイドでの細胞周期のM期のマーカーであるホスホ-ヒストンH3、アルブミン、および核の免疫染色の図である。バーの尺度=25μm。図11Cは、コラーゲンマトリックスで本発明の方法により確立された3D培養の15日にわたるホスホ-ヒストンH3/Alb核の定量化である。
図12図12は、MEK-ERK経路の一時的阻害の後にPHHで観察される増殖を示す。(A)12日目~14日目にU0126(+)またはDMSO(-)を添加した、対照の2D培養(2D)でのまたはコラーゲンマトリックスで本発明の方法により確立された3D培養(3D)における培養の14日後のERKリン酸化の阻害を示すウェスタンブロット。(B)12日目~14日目にU0126でMEK阻害した後のコラーゲンマトリックスで本発明の方法により確立された3D培養におけるPHHの12日目~18日目の増殖。増殖を、増殖マーカーKi67の定量化(Ki67およびAlbである核のパーセンテージとして表現される)を介して評価する。陰性対照を、U0126の代わりにDMSOを使用して行った。(C)15日目~17日目にU0126でMEK阻害した後のコラーゲンマトリックスで本発明の方法により確立された3D培養におけるPHHの13日目~21日目の増殖。増殖を、増殖マーカーサイクリンD1の定量化(サイクリンD1およびAlbである核のパーセンテージとして表現される)を介して評価する。陰性対照を、U0126の代わりにDMSOを使用して行った。
図13図13は、対照の2D培養(2D)におけるまたはコラーゲンマトリックスで本発明の方法により確立された3D培養(3D)における指定された濃度での指定された遺伝毒性薬物とのインキュベーションの9日後の、個別のPHHにおけるtail DNAのパーセンテージにより評価されるDNA損傷を示すヒストグラムである。対照:非遺伝毒性薬物;AFB1 1:0.1μm;AFB1 2:0.5μM;4-ABP 1:1μm;4-ABP 2:10μM。
図14図14は、コラーゲンマトリックスで本発明の方法により確立された3D培養(3D)における指定された濃度での指定された遺伝毒性薬物とのインキュベーションの9日後の免疫染色により評価されるγH2Ax陽性PHHの数の定量化を示すヒストグラムである。T:非遺伝毒性薬物;CIS 1:5μg/mLのシスプラチン;CIS 2:10μg/mLのシスプラチン;AFB1 1:0.1μmのAFB1;AFB1 2:0.5μM;4-ABP 1:1μm;4-ABP 2:10μM。
図15図15は、メタクリル酸修飾ゼラチン(GelMa)マトリックスで本発明の方法により確立された3D培養(3D)において5、10、および15日後のPHHスフェロイドを示すHES染色後に得られる写真のグループである。バーの尺度=50μM。データは、3つの独立した実験の代表である。
図16図16は、メタクリル酸修飾ゼラチン(GelMa)マトリックスで本発明の方法により確立された3D培養(3D)において10日後のPHHスフェロイドでのN-カドヘリン、アルブミン、および核の局在化を示す蛍光顕微鏡で得られた写真のグループである。バーの尺度=50μM。データは、3つの独立した実験の代表である。
図17図17は、PHHにおける増殖マーカーサイクリンD1およびアルブミンの発現の定量化に基づく、メタクリル酸修飾ゼラチン(GelMa)マトリックスで本発明の方法により確立された3D培養(3D)におけるPHHの経時的な増殖を示すヒストグラムである(サイクリンD1およびAlbである細胞のパーセンテージとして表現される)。
【発明を実施するための形態】
【0258】
実施例
本発明を、以下の実施例によりさらに例示する。
【0259】
実施例1:
材料および方法
材料
細胞
ヒト肝臓サンプルを、Centre de Ressources Biologiques(CRB)-Sante of Rennes(CHRU Pontchaillou, Rennes, France)を介して、原発性肝細胞癌または肝臓転移のため肝臓切除術を受ける患者から入手した。研究プロトコルを、フランス政府のガイドラインおよび地方制度の倫理委員会の下で行った。ヒト肝臓サンプルの臨床的な特徴を、以下の表1に詳述する。
【0260】
【表1】
【0261】
ヒト肝細胞を、2つのステップのコラゲナーゼ灌流手法により単離し、実質細胞を、FCS(ウシ胎仔血清)(10(v/v)%)を伴いまたは伴わずに、ペニシリン(100U)、ストレプトマイシン(100μg/mL)、インスリン(15μg/mL)、グルタミン(2mM)、アルブミン(0.1(w/v)%)、トランスフェリン(5.5μg/mL)、亜セレン酸ナトリウム(5μg/mL)、ヒドロコルチゾン(1μm)、HGF(肝細胞増殖因子)(2.5ng/mL)、EGF(上皮増殖因子)(0.05ng/μL)を含むWE HH(ヒト肝細胞)と呼ばれる改変William’s E培地で維持した。
【0262】
試薬
細胞増殖試薬WST-1、リベラ―ゼ(10μg/mL)およびコルセミド(1μm)を、Rocheから入手した。シスプラチンを、Mylanから入手した。I型コラーゲン、エトキシレゾルフィン、メトキシレゾルフィン、ヘキスト、5(6)-カルボキシ-2’,7’-ジクロロFDA(CDFDA、10μM)、1×ITS(インスリン、トランスフェリン、セレン)、および抗βアクチン抗体(A-5441、1/1000)を、Sigma-Aldrichから入手した。BrdU(RPN201V、1:1000)および抗-BrdU抗体(RPN202、1:100)は、GE Healthcare(Chicago, USA)から入手した。rhEGFを、Promega(Fitchburg, USA)から入手し、rhHGFを、R&D Systemsから入手した。抗HSC-70抗体(sc-7298、1:5000)を、Santa-Cruz Biotechnologyから入手した。抗Ki67(MA5-14520、1:400)抗体を、Invitrogenから入手した。ホスホ-p44/42 MAPK(Thr202/Tyr204)(9106、1:1000)、E-カドヘリン(3195、1:100)、アポトーシス促進性Bcl-2ファミリー(1:500)、および生存促進性Bcl-2ファミリー(1:500)に対する抗体を、Cell Signalingから入手した。抗Nカドヘリン抗体(610921、1:100)は、BD Biosciencesから入手した。MRP2(ab3373、1:100)およびサイクリンD1(ab16663、1:100)に対する抗体を、Abcamから入手した。抗ビメンチン抗体(M0725、1:1000)を、Dakoから入手した。抗ホスホ-ヒストンH3(Ser10)抗体(06-570、1:100)を、Merkから入手し、抗アルブミン抗体(A80-229A、1:100)を、Bethyl Laboratories, Inc.から入手した。MEK阻害剤U0126(50μM)は、Promegaから入手した。
【0263】
方法
初代ヒト肝細胞2D培養
対照として、後述される低接着性プレートで形成される初代ヒト肝細胞(PHH)の凝集体を、標準的なマルチウェルプレートに播種し、同じ培地、すなわち本明細書で上述のWE HH培地で培養した。
【0264】
初代ヒト肝細胞3D培養
図1に示されるように、上述のように単離された初代ヒト肝細胞(PHH)を、まず低接着性プレートで培養した(図1A)。次に、これにより得られたPHHの凝集体を、コラーゲンマトリックス(コラーゲンゲルとも呼ばれる)に埋め込み、コラーゲンマトリックスでさらに培養した(図1B)。
【0265】
低接着性プレートでの培養:単離したヒト肝細胞を、6ウェルの低接着性プレート(Corning(登録商標)、Costar(登録商標))において、37℃、5%のCO2、湿度85~95%で一晩(約15~20h)、WEまたはWE HHにおいて、2×10~2.5×10個の細胞/ウェルの濃度でインキュベートした。
【0266】
コラーゲンマトリックス中の包含、続いてコラーゲンマトリックスに埋め込まれた肝細胞の培養:Sigma-Aldrich製の3mg/mLまたは6mg/mLのI型コラーゲンを、WE HH培養培地に希釈して、所望の濃度のコラーゲン溶液を得た。ヒト肝細胞を、3.65×10個の細胞/mLの濃度でコラーゲンを含むWE HHに添加し、pHを、0.1NのNaOHを用いて7.4に調節した。ヒト肝細胞とコラーゲンを含むDMEM HHの得られる混合物を、96ウェルプレート(100μl)または48ウェルプレート(300μl)に注ぎ、37℃、5%のCO2、湿度85~95%でインキュベートした。少なくとも2時間後に、ゲルを重合し、ゲルの体積に相当する体積のWE HH培地を添加した。ゲルマトリックスに埋め込まれた肝細胞を、37℃、5%のCO2、湿度85~95%で、少なくとも2時間、上述の改変WE HHで培養した。このように、コラーゲンマトリックスへの肝細胞の包含は、肝細胞の3D培養を可能にした。
【0267】
本明細書で以降では、実施例1において、用語「3D培養」は、本発明の方法による低接着性プレートにおけるPHHの最初のインキュベーション(または培養)、続くコラーゲンマトリックス中のPHHの包含を用いて、本明細書で上述されるように確立されたPHHの培養を指す。
【0268】
しかしながら、培養時間のいずれかの言及、たとえば5日目の培養、はコラーゲンマトリックス(または2D対照では標準的なマルチウェルプレート)における培養の時間を指す。言い換えると、本明細書にて以降で言及されるいずれかの培養時間は、低接着性プレートでのインキュベーション(または培養)の時間を含まない。
【0269】
パラフィン中のコラーゲンゲルの包含
ホルモル(ホルムアルデヒドとして知られている)での固定の後に、4%のコラーゲンゲルを、増加する濃度のアルコールおよびキシレン槽で連続してインキュベーションすることにより脱水した後、EXCELSIOR ESツール(Thermo Fisher Scientific, Waltham, USA)を使用してパラフィンに含侵させた。含侵の後、ゲルを、パラフィンブロックに包含し、4μmの切片を作製した。
【0270】
肝細胞DNA合成
チミジン類縁体BrdUの組み込みを、細胞増殖の指標として使用した。24時間の組み込みの後、コラーゲンゲル中の細胞を、エタノール-グリシンで固定し、上述のようにパラフィンに包含した。BrdU陽性細胞を、抗BrdU抗体(RPN202、1:100)を使用して検出した。
【0271】
免疫組織化学的検査
免疫組織化学染色を、Discovery Rhodamine kit(Ventana Medical Systems, Tucson, USA)を使用して、Discovery Automated IHC stainerで行った。75℃で8分間のVentana EZ Prep溶液での脱パラフィン化の後、抗原賦活化(antigen retrieval)を、Trisベースのバッファー溶液CC1(Ventana Medical Systems, Tucson, USA)を使用して95℃~100℃で36分間行った。内因性(Endogen)ペルオキシダーゼを、3%のH(Ventana Medical Systems, Tucson, USA)を用いて37℃で8分間阻害した。反応バッファー(Roche, Basel, Switzerland)ですすいだ後、スライドを、所望の一次抗体の適切な希釈物と、37℃で60分間インキュベートした。すすいだ後、シグナルの亢進を、Ventana Rhodamineキットを使用して行い、二次抗体抗ウサギHRP(Roche, Basel, Switzerland)とのインキュベーションを、16分間行った。器具から取り出した後、スライドを手ですすぎ、アルブミン(1:100)、アルブミン検出のため二次抗体(ロバ抗ヤギ655。1:250)、およびヘキスト(1:1500)で染色し、カバーガラスをかけた。
【0272】
RT-qPCR分析
細胞を、37℃、15分間のリベラーゼ酵素混合物10μg/mL(Roche, Basel, Switzerland)の作用によりコラーゲンゲルから抽出した。次に、総RNAを、NucleoSpin RNA(Macherey-Nagel, Hoerdt, France)を使用して細胞のペレットから抽出し、総RNAの濃度を、NanoDrop ND-1000(NanoDrop Technologies, Wilmington, USA)で測定した。総RNAを、High Capacity cDNA reverse transcription kit(Applied Biosystems, Saint Aubin, France)を使用するcDNA合成に使用した。すべての遺伝子についてのリアルタイムPCRを、製造社の推奨に従いPower SYBR Green PCR master mix(Applied Biosystems, Saint Aubin, France)およびCFX384 Real-Time System(Biorad)を用いるSYBR green技術を使用して行った。使用されるプライマー配列を、以下の表2および3に記載する。
【0273】
増殖曲線を、比較回帰法を使用するBiorad CFX Managerを用いて解析した。GAPDHを発現データの正規化に使用した。サンプル中の測定されたmRNAの相対量を、2-ΔΔCT法(ここでΔΔCT=(CT標的-CTGAPDH)サンプル-(CT標的-CTGAPDH)標準物質)を使用して決定した。最終的な結果を、試験されるサンプルにおける標的遺伝子発現の標準物質の平均発現値と比較する際のn倍差として表した。値を、少なくとも3回の独立した実験の1つの実験代表として提供する。
【0274】
【表2】
【0275】
【表3】
【0276】
イムノブロッティング解析
細胞を、37℃で15分間、リベラーゼ酵素混合物10μg/mL(Roche, Basel, Switzerland)の作用によりコラーゲンから抽出した。タンパク質サンプルを、細胞のペレットから抽出し、用量設定(dose)した。タンパク質サンプルを次に、SDS-PAGEを使用して分離し、転写バッファー(25mMのTris、200mMのグリシン、エタノール20%)中でニトロセルロース膜に移した。ブロットを、トリスバッファー生理食塩水(65mMのTris pH、7.4、150mMのNaCl)中5%の低脂肪ミルクで、室温で1時間ブロッキングした。このブロットを、所望の一次抗体と4℃で一晩インキュベートした。ブロットをTBSで洗浄し、TBS中5%の低脂肪ミルク中で、マウス―IgG HRPまたはウサギIgG HRP二次抗体(1:10000)と室温で1時間インキュベートした。これらのブロットを次に、TBSで洗浄した。免疫複合体を、イモビロン(Immobilon)ウェスタン化学発光HRP基質(Millipore, Merck, Darmstadt, Germany)を使用する化学発光反応の後にFujifilm LAS-3000撮像装置(Fujifilm, Tokyo, Japan)を使用して視覚化した。バンドの濃度測定解析を、MultiGaugeソフトウェア(Fujifilm, Tokyo, Japan)を使用して行った。
【0277】
MRP2の輸送体活性
蛍光ベースの排出アッセイを使用して、3D 初代ヒト肝細胞(PHH)培養におけるMRP2の輸送体活性を調査した。膜透過性および非蛍光性の基質5-(および-6)-カルボキシ-2’,7’-ジクロロFDA(CDFDA)は、肝細胞の中に進み、ここで細胞内の非特異的なエラスターゼによるこの物質の加水分解は蛍光産物をもたらす。膜輸送体MRP-2の基質であるこの産物は、肝細胞から毛細胆管中に排出される。
【0278】
3D培養を、CDFDA(10μM)と10分間インキュベートした。色素溶液を次に、2時間にわたり血清フリーの培地に交換した。培養物を、PBS溶液で2回洗浄した後、蛍光顕微鏡を使用して評価した。
【0279】
CVP活性の測定
それぞれCYP 1A1/2および1A2活性に関連するエトキシレゾルフィンO-脱エチル(EROD)およびメトキシレゾルフィン O-脱エチル(MROD)を、BurkeおよびMayer(Burke and Mayer, 1983)が記載するように培養された肝細胞で測定した。簡潔に述べると、細胞を、37℃にてリン酸塩バッファー生理食塩水で洗浄した後に、サリチルアミド(1.5mM)とインキュベートして、フェーズIIの結合酵素を阻害した。7-エトキシレゾルフィンまたは7-メトキシレゾルフィンを1分後に添加し、基質の酸化を、37℃にて20分間、2分ごとに蛍光検出により測定した。反応速度は時間と線形であった。P450 1A1/2および1A2の活性の評価の後、比色分析のWST-1ベースのアッセイを、生細胞の量で上記活性を正規化するために行った。値(pmol/分/OD)は、3連の測定値の平均値±標準偏差に対応する。
【0280】
有糸分裂指数
本発明の方法により確立された3D培養で培養されたPHHの有糸分裂指数を測定するために、微小管を脱重合する薬物のコルセミドを使用して中期の細胞を停止させた。細胞を、コルセミドで24時間処理した後、ホルモル4%で固定した。有糸分裂指数の定量化を、リン酸化したヒストンH3の免疫染色により行った。
【0281】
イメージング
培養した肝細胞の観察およびイメージングを、2光子励起蛍光(TPEF)顕微鏡(非線形、多光子、または2光子のレーザー走査顕微鏡とも呼ばれる)を使用して行った。TPEF顕微鏡は、深く解像度の高い3次元のイメージングに特に適している共焦点およびデコンボリューション顕微鏡の代替である。TPEFは、内在性の自己蛍光する染色されていないまたは染色されたサンプルの観察を可能にする。1型または3型のコラーゲンなどの過分極線維性タンパク質の観察を可能にする第二次高調波発生(SHG)と共に、これらの方法は、細胞およびコラーゲンマトリックスの空間的に解像された3次元構造の画像を提供する。SHGイメージングシステムは、DMI 6000倒立顕微鏡(Leica Microsystems)上に搭載され、MAITAIフェムト秒レーザー(Spectra Physics, Santa Clara, CA)を備えるconfocal SP5 scanning head(Leica Microsystems, Mannheim, Germany)からなった。高いNA水浸対物レンズ(LUMFL 60W×1.1NA;Olympus, Tokyo, Japan)を使用した。SHGシグナルを、水浸コンデンサー(S1,NA=0.9;Leica Microsystems)を使用して順方向で収集した。405-20バンドパスフィルターを、光電子増倍管および油浸対物レンズ10x/0.4HC PL APO oilまたは20x/0.7 HC PL APO oilの前に載置した。
【0282】
統計解析
結果を、平均値±標準偏差として表す。データを、両側スチューデントt検定で解析した。差異を、p<0.05(*)、p<0.01(**)、またはp<0.001(***)である場合、有意であるとみなした。すべての実験を、少なくとも3回行った。
【0283】
結果
LAPでの前培養後のコラーゲンマトリックスでの3D培養は、成年初代ヒト肝細胞の長期間の生存を可能にする。
本明細書で上述されるように、まず、初代ヒト肝細胞を、15時間低接着性プレートで培養した後、適切な増殖因子/サイトカインカクテルの存在下にてコラーゲンゲルに埋め込んだ。図2A~2Bに示されるように、コラーゲンゲルへの包含から2日後(d2)に、初代ヒト肝細胞は、膜の伸長を全く示さずかついずれの特定の編成も伴わない、単離された細胞または円形の細胞の小さなクラスターとして出現した(3D再構築に関しては図2Bを参照)。これらのクラスターは、著しく不均一な大きさを有し、良好に編成されなかった。しかしながら、図2C~Dに示されるように、コラーゲンゲルへの包含から7日後(d7)に、初代ヒト肝細胞のクラスターの数は多く、上記クラスターはより大きく、よって、コラーゲンマトリックスが培養時間にわたりクラスター形成に影響を与え得ることを示した。図2E~Fで例示されるように、7日目に行われたTPEFイメージングおよびZスタックの再構築は、初代ヒト肝細胞のクラスターが、中空内腔を有する異なる大きさの腺房様構造に編成されたことを示した。これらの腺房様構造は、ヘパトスフィアまたはスフェロイドとも呼ばれ、コラーゲンマトリックスに埋め込まれた良好に編成された肝細胞の1つの層の存在を特徴とした。コラーゲンゲルへの包含から15日後(d15)に、SHG顕微鏡は、スフェロイドから少し離れて、コラーゲン線維が、平滑であり無作為に配向されたナノ線維を伴い弛緩して現れたことを示した(図2G)。これらのコラーゲン線維は、スフェロイドの密接した微小環境中でより濃縮されかつまた伸長されるように現れることから、スフェロイドの体積を抑制している(図2H上のコラーゲンシグネチャーCS-1を参照)。特に、コラーゲン線維の平行線維束が、密接したスフェロイドと平行に分布した(図2H上のコラーゲンシグネチャーCS-2を参照)。よって、これらの全ての知見は、成年の初代ヒト肝細胞が、コラーゲンゲルに埋め込まれると、腺房様の構造、すなわちスフェロイドを形成し得ることを証明した。このプロセスは、動的であるように見え、スフェロイドは、経時的にコラーゲンマトリックスをリモデル化できるようである。
【0284】
次に、初代ヒト肝細胞(PHH)の長期間の生存を、アポトーシス促進性因子および生存促進性因子のパネルを解析することにより評価した。図3に示されるように、アポトーシス促進性因子(ホスホ-BAD、BAX、BAK、BID、BIM、PUMA)(図3A)および生存促進性因子(MCL1、BCL2XL、BCL2)(図3B)の培養時間にわたる発現を、対照2D培養でまたは本明細書で上述されるように確立された3D培養でのいずれかにおいて、PHHで評価した。評価された最もアポトーシス促進性の高いタンパク質の発現は、対照2D培養におけるPHHおよび3D培養におけるPHHで同様のように見えた。P-BADのみが、対照2D培養におけるPHHよりも3D培養におけるPHHで少なくリン酸化された。対照的に、生存促進性タンパク質の発現は、2D培養におけるPHHで顕著に減少し、3D培養におけるPHHでは、それらの発現は維持され、いくつかでは実際にアップレギュレートされた(BCL2XL、BCL2)。生存促進性タンパク質発現の差異は、5日目に明確にみられはじめ、その後、少なくとも培養の15日目まで増加した。さらに、切断されたカスパーゼ3は、3D培養におけるPHHでは検出できなかったが、カスパーゼ依存性アポトーシスは、シスプラチン処理により3D培養におけるPHHで誘導できた(データ不図示)。まとめると、これらのデータは、3D培養におけるPHHが、アポトーシスを経験しないことを示している。
【0285】
LAPにおける前培養後のコラーゲンマトリックスでの3D培養は、成年初代肝細胞の安定な分化を可能にする。
図4に示されるように、RT-qPCRおよびウェスタンブロッティングによる解析は、3D培養におけるPHHの長期間の生存が、上皮マーカー(E-カドヘリン)の発現の増加および間葉系マーカー(N-カドヘリン、ビメンチン、サイトケラチン8、サイトケラチン18)の発現の減少に関連していたことを示した。N-カドヘリンおよびビメンチンの発現は、mRNAレベル(図4A)およびタンパク質レベル(図4B)の両方で、対照2D培養におけるPHHよりも3D培養におけるPHH(これらは同じ増殖因子/サイトカインにより刺激された)で有意に低かった。特に、N-カドヘリンの発現は、対照2D培養でのPHHにおいて、培養の2日目からおよびそれ以降、迅速に増加した。mRNAレベルでのE-カドヘリンは、3D培養におけるPHHで著しく発現され、この発現は経時的にさらに増加した。さらに、PHHスフェロイドにおける免疫検出は、頂端膜、側膜、および基底膜でN-カドヘリンおよびE-カドヘリンの明確に異なる局在化を示した。より正確には、E-カドヘリン標識の増大が、頂端膜および側膜にて、5日目~15日目で明確にみることができ、一方でN-カドヘリンは、ヒト肝臓の肝細胞におけるそれらの特異的な局在化と一致して側膜および基底膜に優先的に位置していた(データ不図示)。興味深いことに、力を介して依存性(force-mediated dependent)であることが記載されている(Willer et al., 2017; Flouriot et al. 2014)、MKL1/MRTF-A 転写因子(巨核芽球性白血病1/ミオカルディン-関連転写因子)は、3D培養におけるPHHでのみ核局在化を示した。この転写因子は、核でも細胞質でも、2D培養におけるPHHでは検出できなかった(データ不図示)。
【0286】
まとめると、これらのデータは、本明細書で上述されるように確立された3D培養におけるPHHでのタンパク質発現が、対照2D培養におけるPHHの発現と顕著に異なり、in situでの肝細胞の発現と非常に類似していることを示す。
【0287】
LAPでの前培養後のコラーゲンマトリックスでの3D培養における成年初代ヒト肝細胞は、肝機能を呈する。
ヒト肝細胞の分化に及ぼす3D培養の影響を確認するために、RT-qPCRによる解析を行って、α-フェトプロテイン、アルブミン、アルドラーゼB、およびフェーズI-II-IIIの異物代謝酵素(解毒酵素とも呼ばれる)のmRNA発現レベルを調査した。図5Aに示されるように、αフェトプロテイン、アルブミン、およびアルドラーゼBのmRNA発現は、対照2D培養におけるPHHよりも3D培養におけるPHHで有意に高かった(これらは同じ増殖因子/サイトカインカクテルにより刺激された)。図5B~Dに示されるように、フェーズI(CYP1A2、CYP3A4、CYP2E1)、フェーズII(GSTA1/2、UGT1A1、NAT2)、およびフェーズIII(MRP2、OCT1)の解毒酵素もまた、3D培養におけるPHHで著しく発現された。
【0288】
RT-qPCR解析はまた、3D培養におけるPHHでの解毒経路の制御に関与する転写因子(CAR、PXR、およびAhR)の発現の、対照2D培養におけるPHHのものと比較して強力な誘導を示した(図5E)。CYP1A2(MROD)活性は、3D培養におけるPHHにおいて有意に増大し、興味深いことに、CYP1A(EROD)活性の3-メチルコラントレン(3-MC)誘導の相乗作用は、3D培養におけるPHHでのみ観察された(図5H)。上記相乗作用は、本明細書で上述される方法によりコラーゲンマトリックスに埋め込まれた初代ヒト肝細胞の高い解毒能力を示している。3D培養におけるPHHでのCYP1A活性の顕著な3-MCの誘導が、対照2D培養でのPHHのものと比較して有意に増大された3D培養におけるPHHにおけるCYP1A2 mRNA発現の観察で確認された(図5F)(これらは同じ増殖因子/サイトカインカクテルにより刺激された)。また核受容体HNF4αのmRNA発現も、4日目、15日目、および28日目で、2D培養におけるPHHのものと比較して3D培養におけるPHHで高かった(図5G)。
【0289】
図6に示されるように、薬物輸送体MRP2は、頂底-側膜領域および頂端/胆細管ドメインで排他的に局在した。さらに、FDA CDFDAアッセイを使用したMRP2機能的活性の評価は、4日目、10日目、28日目に、PHHスフェロイドの中心内腔での明確な排出を示した。薬物輸送体 MRP3は、頂端ドメインおよび側膜ドメインの両方で局在した。
【0290】
LAPでの前培養の後のコラーゲンマトリックスでの3D培養におけるPHHスフェロイドの形成
へパトスフェロイドの大きさおよび形態を、2週間の培養にわたり評価した(図7)。細胞を、ヘマトキシリン-エオジン-サフラン(HES)染色の後に観察し、スフェロイドの直径の平均を定量化した。2週間の培養にわたり、すべてのスフェロイドは、1層の細胞のみを示し、中空内腔を有する腺房様構造を呈した(図6および7A参照)。
【0291】
上述されるように、スフェロイドを形成するPHHは、特に頂底-側膜領域および頂端-胆細管ドメインで薬物輸送体MRP2の排他的な局在を伴い観察され得たため、極性化していた。さらに、上述されるように、スフェロイドを形成するPHHは、それらの分化した状態および肝機能を保持していた。
【0292】
低酸素および/またはアポトーシスのマーカーの発現は、本発明の方法で得られたスフェロイドで検出されなかった。さらに、スフェロイドの大きさは、3D培養の間経時的に減少しなかった。対照的に、図7A~Bに示されるように、スフェロイドの大きさは、経時的に徐々に増加した。
【0293】
LAPでの前培養の後のコラーゲンマトリックスでの3D培養における成年初代ヒト肝細胞の増殖
上述されるように、スフェロイドの大きさは、経時的に徐々に増加した。特に、60μm未満の直径を有する肝細胞-スフェロイドの数は減少し、一方で60μmを超える直径を有するスフェロイドの数は、漸進的に増加した(図7C)。以下の表4に示されるように、大きさの定量化は、2日目の47.62μm±1.61μmから、10日目の72.04μm±6.92μmへと、スフェロイドの平均直径の増加を示し、これは、スフェロイドの体積のおよそ3倍の増加に対応する。15日目に、スフェロイドの大きさは安定化し、またはわずかに減少し、それ以降一定した状態を保っていた(表4および結果は示されない)。
【0294】
【表4】
【0295】
次に、Ki67およびBrdU陽性細胞の数を、培養の最初の8日間にわたり定量化した。Ki67およびBrdUの両方は細胞増殖のマーカーであり、Ki67およびBrdU陽性細胞は、S期を経た細胞である。肝細胞を、8名の異なる患者(表1参照)から単離し、Ki67染色またはBrdU標識化を、3D培養および2D培養で解析した。アルブミンは、成熟した肝細胞の機能のマーカーであり、Alb肝細胞を定量化するための陽性対照として検出された。図8Aおよび9A~Bに示されるように、2日目~7日目に観察される多数のKi67/Albおよび/またはBrdU/Alb肝細胞は、本明細書で上述されるように確立された3D培養での増殖性初代ヒト肝細胞の存在を示した。Ki67肝細胞は、同じ増殖因子/サイトカインカクテルにより刺激された対照2D培養では検出できなかった。細胞周期マーカーCdk2、サイクリンD1、PCNA、P21、およびP27の発現のRT-qPCR解析は、上記細胞周期マーカーが、2日目の3Dならびに2日目および4日目の2Dと比較して4日目の3D培養で最も高く発現されたことを示した(図8B)。まとめると、8名の異なる患者由来の初代ヒト肝細胞の3D培養の解析は、著しく類似する結果を提供し(図9C)、マーカー発現の動態のわずかなバリエーションのみを伴う、多数のKi67/AlbおよびBrdU/Alb肝細胞の存在を示した。対照的に、対照2D培養におけるAlb肝細胞は、常にKi67およびBrdUであった(データ不図示)。全ての実験からのKi67/Alb肝細胞の累積/付加指標は、280%(±60%)に達し、初代ヒト肝細胞が、本明細書で上述されるように確立された3D培養の最初の週の間に少なくとも2回の細胞周期を経ることができたことを示した。
【0296】
これらの結果は初めて、本明細書で上述されるように確立されたコラーゲンゲルでの3D培養が、特に増殖因子カクテルの存在下で、成年初代ヒト肝細胞を増殖させることができる微小環境を提供することを明確に示す。対照的に、対照2D培養におけるPHHは、同じ増殖因子カクテルの存在下であっても増殖しなかった。
【0297】
Ki67の発現(図10A)およびサイクリンD1の発現(図10B)、およびBrdUの組み込み(図10C)の解析を、7名の異なるドナーから本明細書で上述されるように確立した初代ヒト肝細胞の3D培養での播種後最初の15日の間行った。図11Aに示されるように、上記3D培養での初代ヒト肝細胞は、ドナーに応じて8日目~15日目の間、培養の第2週の間に第2の増殖の波を経験できた。これらの2つの連続した増殖の波はまた、ホスホ-ヒストンH3免疫染色により検出され(図11B)、コルセミドでの24時間の処理の後の細胞周期のM期で阻害された細胞の比率の定量化を可能にした。累積的な有糸分裂指数(図11C)は、細胞の約300%が培養の第1の週の間M期にあり、約200%が第2の週の間M期にあることを示した。その後、Ki67、サイクリンD1、およびBrdU陽性細胞はもはや検出できなかった(結果不図示)。
【0298】
一時的なMEK/ERK経路の阻害は、新規の増殖の波を誘導する。
本明細書で上述されるように、異なるドナー(HL-a~HL-j、表1参照)から単離した肝細胞由来の本発明の方法により確立された全ての3D培養の解析は、ドナーに応じた増殖応答のわずかなバリエーションを伴う、2日目~15日目の成年ヒト肝細胞の増殖能力を示した。培養の2週間後には、さらなる増殖は検出できなかった。MEK/ERK経路の一時的な活性化がげっ歯類の肝細胞でDNAの複製を刺激すること、およびMEK/ERK経路の阻害がげっ歯類肝細胞の増殖を阻害することが、以前に示された。MEK/ERK経路の持続される活性化がラットの肝細胞の増殖に負の役割を有し得ること(Fremin et al., 2009)およびカスケードの過剰な活性化もヒト肝細胞癌細胞株HuH-7で細胞の複製を阻害し得ること(Guegan et al., 2015)もまた示された。初代ヒト肝細胞の増殖を、12日目または15日目に本明細書で上述されるように確立された3D培養においてMEK阻害剤U0126でMAPK MEK1/2-ERK1/2経路を48時間一時的に阻害した後に、評価した。ERK1/2リン酸化の対照は、すべての培養条件でU0126の終了時にERK1/2活性の強力な阻害を確認した(図12A)。MEK阻害剤を除去した後、累積的なKi67(図12B)およびサイクリンD1(図12C)陽性細胞は、細胞の50%~70%が新規細胞周期を経験し得た(Ki67/AlbおよびサイクリンD1/Alb)ことを示した。陽性細胞は、同様の一時的なMEK/ERK阻害の後のDMSO対照実験でまたは対照2D培養で検出できなかった(データ不図示)。
【0299】
実施例2
材料および方法
細胞
初代ヒト肝細胞(PHH)を、本明細書で上述されるように入手した。
【0300】
方法
初代ヒト肝細胞培養
初代ヒト肝細胞の3D培養を、本明細書で上述されるように(実施例1参照)設定した。簡潔に述べると、PHHをまず、低接着性プレートで培養した。次に、その結果得られるPHHの凝集体をコラーゲンマトリックスに埋め込み、コラーゲンマトリックスでさらに培養した。
【0301】
培養培地
PHHを、本明細書で上記に定義されるWE HH培地(実施例1参照)で培養した。
【0302】
免疫組織化学的検査
PHHの増殖を評価するために、免疫組織化学染色を本明細書で上述されるように行った。
【0303】
結果
本発明に係る3D培養におけるPHHの増殖での増殖因子の刺激の重要性を、さらに試験した。コラーゲンマトリックスにおけるPHHを、EGF、HGF、および/またはITS(インスリン、トランスフェリン、および亜セレン酸ナトリウム)を欠くWE EE培地中で、本明細書で上述されるように培養した。またコラーゲンマトリックス中のPHHを、FCSを欠くWE HH培地中にて本明細書で上述されるように培養した。以下の表5に示されるように、異なる培養培地で培養したPHHの増殖を、培養対照(WE HH培地)中の陽性細胞のパーセンテージに対するサイクリンD1/Alb細胞の数の定量化により評価し、検出された細胞数に関連させた。
【0304】
【表5】
データは、3つ実験の実験代表の1つに由来する。
【0305】
50μMの濃度のヒドロコルチゾン(「Hydro N」)、すなわち対照条件よりも50倍高い濃度のヒドロコルチゾンを含むWE HH培地で増殖される場合、PHHは、対照条件で増殖された場合に観察されるものと同様の増殖のパーセンテージを呈した。カクテルに存在する増殖因子(「-EGF」、「-HGF」、または「-ITS」)のそれぞれの単一の欠失は、PHH増殖の部分的な減少(最大30%の減少)のみをもたらした。さらに、EGF、HGF、およびITSの同時欠失(「-EGF/-HGF/-ITS」)もウシ胎仔血清(「-FCS」)の単一の欠失も、PHHの増殖を消失させなかった。よってこれらの結果は、PHHが、EGFの不存在下、HGFの不存在下、および/またはITSの不存在下であっても、本発明に係る3D培養で増殖できることを示した。注目すべきことに、観察された結果はまた、PHHが、ウシ胎仔血清(FCS)の不存在下であっても本発明に係る3D培養で増殖できることを証明した。
【0306】
また、PHHの増殖に及ぼすコラーゲンの剛性の作用を評価した。以下の表6に示すように、表記されたコラーゲンマトリックスで培養されたPHHの増殖を、コラーゲンマトリックス対照(1.5mg/mL)中の陽性細胞のパーセンテージに対するサイクリンD1/Alb細胞の数の定量化により評価し、検出される細胞の数に関連させた。1.5mg/mLから3mg/mLまたは4mg/mLへのI型コラーゲン濃度の増加は、それぞれ約50%および80%のPHH増殖の減少を誘導した。対照的に、1.5mg/mLから0.75mg/mLへのI型コラーゲン濃度の減少は、PHH増殖の減少を誘導しなかった。よってこれらの結果は、3Dマトリックスのコラーゲン濃度の増加、よってマトリックスの剛性が、濃度依存的に肝細胞の増殖を阻害することを証明している。
【0307】
【表6】
【0308】
注目すべきことに、低接着性プレートでの前インキュベーションを行うことなく3Dコラーゲンゲルに直接埋め込まれWE HH培地で培養されたPHHは、非常に低い比率の増殖を呈した(16.9%、表6参照)。同様に、これまでに3Dコラーゲンマトリックスに埋め込まれることなく、WEHH培地中にて低接着性プレートで培養されたPHHは、非常に低い比率の増殖を呈した(11.7%、表6参照)。
【0309】
まとめると、これらの結果は、3D微小環境および制御されたコラーゲンの剛性が、ヒト成年初代肝細胞の増殖の誘導にとって主要な因子であることを示している。さらにこれらの結果は、非接着性培養容器、たとえば低接着性プレートでのPHHの最初のインキュベーション(または培養)、およびその後のコラーゲンマトリックスへのPHHの包含が、成年PHHの増殖を誘導するために必要であることを示している。
【0310】
実施例3
材料および方法
細胞
初代ヒト肝細胞3D培養を、本明細書で上述されるように設定した(実施例1参照)。
【0311】
方法
初代ヒト肝細胞の培養
コラーゲンマトリックスにおける初代ヒト肝細胞の2D培養および3D培養を、本明細書で上述されるように(実施例1参照)設定した。PHHを本明細書で上述されるようにWE HH培地で培養した。
【0312】
コメットアッセイ
対照2D培養(2D)でまたはコラーゲンマトリックスで本発明の方法により確立された3D培養(3D)でのいずれかにおけるPHHを、培養の開始から、表記された濃度の表記された遺伝毒性薬物(表7参照)とインキュベートした。9日後に、PHHを、精製したコラゲナーゼの作用によりコラーゲンマトリックスから抽出した。細胞のペレットを、0.5%の低融点のアガロースに再懸濁し、通常のアガロースで覆われた従来の顕微鏡スライド上に載置した。電気泳動を処理し、ヨウ化プロピジウムで染色した後に、少なくとも100枚の画像を、蛍光顕微鏡を使用して獲得した。画像を、Comet Assay IVソフトウェアを使用して解析した。個々の細胞におけるDNA損傷の度合いを、tail DNAのパーセンテージにより評価した。
【0313】
【表7】
【0314】
PHHの処理の後のγH2Ax免疫染色
本発明の方法により確立されたコラーゲンマトリックスでの3D培養(3D)でのPHHを、培養の開始から、表記の濃度の表記の遺伝毒性薬物(表7参照)とインキュベートした。9日後に、免疫組織化学染色を、本明細書で上述されるように行って、PHH中の、DNA二本鎖切断のマーカーであるリン酸化H2AX(すなわちγH2Ax)の存在を検出した。
【0315】
結果
薬物により誘導される遺伝毒性を試験するためのモデルとしての増殖性PHHを含むスフェロイドの感受性を評価するために、上記スフェロイドに及ぼす2つのクラスの化合物:代謝されることなくDNAに直接的な作用を発揮する、アルカリ化剤、すなわちシスプラチン(リン酸化ヒストンγH2Axアッセイ、図14参照):代謝的活性化後にのみ遺伝毒性となる、2つの証明されている発がん物質、すなわち4-ABP(4-アミノビフェニル)およびAFB-1(アフラトキシンB1)(図13および図14)、の作用を試験した。初代ヒト肝細胞を、3D培養の開始から、増殖する期間の間、遺伝毒性薬物と9日間インキュベートした。
【0316】
対照2D培養、またはコラーゲンマトリックスで本発明の方法により確立された3D培養(3D)におけるこれらの化合物の誘導される遺伝毒性を比較するために、コメットアッセイを行った。2D培養では、4-ABPおよびAFB1は、非常に低レベル(約3%)の損傷のみをもたらした。対照的に、コラーゲンマトリックスで本発明の方法により確立された3D培養(3D)では、AFB-1は、高く用量依存的なレベル(最大約25%)のDNA損傷をもたらし、4-ABP 1は、より高い(約2倍の)用量依存的なレベルのDNA損傷をもたらした(図13)。
【0317】
これらの結果を確認するために、コラーゲンマトリックスで本発明の方法により確立された3D培養におけるγH2Ax陽性細胞の数を、免疫染色により定量化した。これにより非常に高いレベルのDNA損傷が、3つの試験した薬物で観察された:シスプラチンは、PHHの約90%にDNA損傷を誘導し、4-ABPはPHHの約50%で、およびAFB1は、PHHの約35%においてDNA損傷を誘導した。
【0318】
よってこれらの結果は、それらの非常に分化され増殖する状態で、増殖性PHHを含むスフェロイドが、環境上の化合物および化学化合物の遺伝毒性を試験するために重要なモデルを構成することを示す。
【0319】
実施例4
材料および方法
材料
細胞
初代ヒト肝細胞3D培養を、本明細書で上述されるように設定した(実施例1参照)。
【0320】
試薬
メタクリル酸修飾ゼラチンを、ART Bio-encres(Accelerateur de Recherches Technologiques de l’Inserm, Bordeaux)から入手した。リチウム フェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィナート(LAP)を、TCIから入手した。
【0321】
方法
ゼラチンメタクリラート(GelMa)での初代ヒト肝細胞の培養
図1に示される方法と同様の方法で、上述(実施例1参照)のように単離した初代ヒト肝細胞(PHH)を、まず、低接着性プレートで培養した(図1A)。次に、これにより得られるPHHの凝集体を、GelMaマトリックス(GelMaハイドロゲルとも呼ばれる)に埋め込み、GelMaマトリックスでさらに培養した(図1B)。
【0322】
低接着性プレートでの培養:上述のように(実施例1参照)、単離したヒト肝細胞を、6ウェルの低接着性プレート(Corning(登録商標),Costar(登録商標))において、FCS(ウシ胎仔血清)(10(v/v)%)を伴いまたは伴わずに、ゲンタマイシン(50μg/mL)、ペニシリン(100U/mL)、ストレプトマイシン(100μg/mL)、インスリン(5μg/mL)、L-グルタミン(2mM)、アルブミン(0.1(w/v)%)を含む改変William’s E培地中で、約3×10個の細胞/ウェルの濃度で、37℃、5%のCO2、湿度100%で2日間(約48時間)インキュベートした。
【0323】
5%のGelMaを含む培地の調製:凍結乾燥したGelMaの小さく粉砕したフラグメント(最大長2mm)を、FCS(ウシ胎仔血清)(10(v/v)%)を伴いまたは伴わずに、ゲンタマイシン(50μg/mL)、ペニシリン(100U/mL)、ストレプトマイシン(100mg/mL)、インスリン(15μg/mL)、L-グルタミン(2mM)、アルブミン(0.1(w/v)%)、トランスフェリン(5.5μg/mL)、亜セレン酸ナトリウム(5μg/mL)、ヒドロコルチゾン(1μm)、HGF(肝細胞増殖因子)(2.5ng/mL)、EGF(上皮増殖因子)(0.05ng/μL)を含む改変William’s E培地中で、最小8時間、37℃で溶解した。10mg/mLの濃度の容量のリチウム フェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィナート(LAP)を添加して、5g/100mLのGelMaの濃度、すなわち最終濃度5%のGelMa、および100mg/mLの最終濃度のリチウム フェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィナート、すなわち最終濃度0.1%のLAPを含む改変William’s E培地を得た。使用の前に、5%のGelMaおよび0.1%のLAPを含む培地を、37℃に保ち、光から保護した。
【0324】
GelMaマトリックス中の包含、次いでコラーゲンマトリックスに埋め込まれた肝細胞の培養:ヒト肝細胞を、エッペンドルフチューブ(1.5または2mL)またはFalconチューブ(15mL)などの適切な容器に移し、200gで2分間遠心した。この上清を除去し、5%のGelMaおよび0.1%のLAPを含む培地を添加して、GelMaマトリックス、すなわち5%のGelMaおよび0.1%のLAPを含む培地1mLあたり約10個のヒト肝細胞の濃度を得た。5%のGelMa、0.1%のLAP、およびヒト肝細胞を含む培地100μlを、96ウェルプレートのウェルに添加した。あるいは、5%のGelMa、0.1%のLAP、およびヒト肝細胞を含む培地300μlを、48ウェルプレートのウェルに添加した。GelMaマトリックスの重合を、365、405nmまたは530nmのLEDによる照射により30秒~10分間、好ましくは405nmmのLEDによる照射により60秒間、誘導した。GelMaマトリックスの重合の後、GelMaマトリックスの容量に相当する容量の同じ改変William’s E培地を添加した。GelMaマトリックスに埋め込まれた肝細胞を、上述のように改変William’s E培地中で2日間、37℃、5%のCO2、湿度100%で培養した。培地を、48時間ごとに変えた。
【0325】
結果
LAPでの前培養後のGelMaマトリックスでの3D培養におけるPHHスフェロイドの形成
へパトスフェロイドの大きさおよび形態を、2週間の培養にわたり評価した(図15)。これらの細胞を、ヘマトキシリン-エオジン-サフラン(HES)染色の後に観察した。2週間の培養にわたり、すべてのスフェロイドは、細胞の1層のみを示し、中空内腔を有する腺房様構造を呈した(図15および16参照)。
【0326】
コラーゲンマトリックスで培養したPHHスフェロイドと同様に、GelMaマトリックスで培養されたスフェロイドを形成するPHHは、特に頂底-側膜領域および頂端/胆細管ドメインで薬物輸送体MRP2の排他的な局在化を伴い観察され得るため、極性化されていた。
【0327】
LAPでの前培養後のGelMaマトリックスにおける成年初代ヒト肝細胞の増殖
GelMaマトリックスにおける初代ヒト肝細胞の増殖を、GelMaマトリックスで本発明の方法により確立された3D培養へ播種後30日間にわたるサイクリンD1およびアルブミン(Alb)の発現の解析を介して評価した(図17)。
【0328】
Alb/サイクリンD1PHHは、2日目から検出することができ、PHHが、GelMaマトリックスで本発明の方法により確立された3D培養で増殖できたことを示す。図17に示されるように、増殖の波の間、約60%の最大レベルの増殖が観察された。
図1
図2A-B】
図2C-H】
図3
図4A
図4B
図5A
図5B-C】
図5D-E】
図5F-H】
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B-C】
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【配列表】
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