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特許7530893間葉系細胞を含む細胞集団、それを含む医薬組成物、及び、その製造方法
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  • 特許-間葉系細胞を含む細胞集団、それを含む医薬組成物、及び、その製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】間葉系細胞を含む細胞集団、それを含む医薬組成物、及び、その製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/077 20100101AFI20240801BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20240801BHJP
   A61K 35/50 20150101ALI20240801BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 21/04 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 37/00 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
C12N5/077
A61K35/28
A61K35/50
A61P1/04
A61P1/16
A61P3/10
A61P9/00
A61P9/04
A61P9/10
A61P11/00
A61P13/12
A61P17/00
A61P17/02
A61P17/06
A61P19/00
A61P19/02
A61P19/08
A61P21/04
A61P25/00
A61P27/02
A61P29/00
A61P29/00 101
A61P35/00
A61P37/00
A61P37/08
A61P43/00 105
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021526158
(86)(22)【出願日】2020-06-12
(86)【国際出願番号】 JP2020023208
(87)【国際公開番号】W WO2020251020
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2019111470
(32)【優先日】2019-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 産学共同実用化開発事業 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅田 伸好
(72)【発明者】
【氏名】小椋 康平
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-061520(JP,A)
【文献】特開2019-080580(JP,A)
【文献】Molecular Therapy,2012年,Vol.20, No.7,pp.1424-1433
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/077
A61K 35/28
A61K 35/50
A61P 1/04
A61P 1/16
A61P 3/10
A61P 9/00
A61P 9/04
A61P 9/10
A61P 11/00
A61P 13/12
A61P 17/00
A61P 17/02
A61P 17/06
A61P 19/00
A61P 19/02
A61P 19/08
A61P 21/04
A61P 25/00
A61P 27/02
A61P 29/00
A61P 35/00
A61P 37/00
A61P 37/08
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
羊膜に由来する、間葉系細胞を含む細胞集団であって、
前記細胞集団において、CD324陽性を呈する細胞の比率が70%以上であり、かつCD90陽性を呈する間葉系細胞の比率が90%以上であ
終濃度で1重量%~20重量%のヒト血小板溶解物を含む基礎培地で培養され、前記基礎培地で2回以上継代された、前記細胞集団。
【請求項2】
前記細胞集団において、CD326陽性を呈する細胞の比率が10%以下である、請求項1に記載の細胞集団。
【請求項3】
前記細胞集団において、CD73陽性を呈する間葉系細胞の比率が80%以上であり、CD166陽性を呈する間葉系細胞の比率が80%以上であり、CD45陽性を呈する細胞の比率が10%以下であり、かつCD105陽性を呈する間葉系細胞の比率が70%以上である、請求項1又は2に記載の細胞集団。
【請求項4】
羊膜に由来する、間葉系細胞を含む細胞集団を、終濃度で1重量%~20重量%のヒト血小板溶解物を含む基礎培地で培養し、前記基礎培地で2回以上継代する工程と、
前記間葉系細胞を含む細胞集団の中から、以下に示す(a)及び(b)の特性を有する細胞集団を選別する工程を含む、間葉系細胞を含む細胞集団の製造方法:
(a)前記細胞集団においてCD324陽性を呈する細胞の比率が70%以上であり、
(b)前記細胞集団において、CD90陽性を呈する間葉系細胞の比率が90%以上である。
【請求項5】
前記基礎培地が、終濃度で2重量%~10重量%のヒト血小板溶解物を含む、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記基礎培地が、終濃度で3重量%~7重量%のヒト血小板溶解物を含む、請求項4に記載の製造方法。
【請求項7】
前記基礎培地が、αMEM培地である、請求項4~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の細胞集団と、製薬上許容し得る媒体とを含む、医薬組成物。
【請求項9】
間葉系細胞の1回の投与量が1012個以下となるようにヒトに投与される、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記医薬組成物が注射用製剤である、請求項又はに記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記医薬組成物が細胞塊又はシート状構造の移植用製剤である、請求項又はに記載の医薬組成物。
【請求項12】
免疫関連疾患、虚血性疾患、下肢虚血、脳血管虚血、腎臓虚血、肺虚血、神経性疾患、移植片対宿主病、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、放射線腸炎、全身性エリテマトーデス、紅斑性狼瘡、膠原病、脳卒中、脳梗塞、脳内血腫、脳血管麻痺、脳腫瘍、肝硬変、アトピー性皮膚炎、多発性硬化症、乾癬、表皮水疱症、糖尿病、菌状息肉腫、強皮症、結合組織の変性及び/又は炎症から起こる疾患、関節軟骨欠損、半月板損傷、離弾性骨軟骨症、無腐性骨壊死、変形性膝関節症、炎症性関節炎、関節リウマチ、眼疾患、血管新生関連疾患、虚血性心疾患、冠動脈性心疾患、心筋梗塞、狭心症、心不全、心筋症、弁膜症、創傷、上皮損傷、線維症、肺疾患、筋ジストロフィー、慢性膵炎、慢性腎炎、並びに癌から選択される疾患の治療剤である、請求項11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学、生化学等の分野で利用することができる、間葉系細胞を含む細胞集団、該細胞集団を含む医薬組成物、及び、該細胞集団の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療は、体外で人工的に培養した幹細胞等を、患者の体内に投与することにより、損傷した臓器や組織を再生し、生体機能を回復させる医療である。近年、間葉系幹細胞や骨格筋芽細胞、上皮細胞などの細胞を患者に投与し、組織や臓器の再生や機能改善を促進する新たな治療法の実用化が急速に進んでいる。例えば、急性移植片対宿主病(GVHD)や脊髄損傷の患者を対象とした骨髄間葉系幹細胞製剤や、重症心不全の患者を対象とした骨格筋芽細胞シートが、再生医療等製品として国内で販売されている。
【0003】
再生医療等に用いられる細胞のほとんどは、培養基材に接着する性質を有しており、前記細胞製剤を製造する際は、細胞を培養基材に接着させて増殖培養する工程に加えて、培養基材に接着した細胞を剥離する工程を有する。上述した骨髄間葉系幹細胞も培養基材に接着する性質を有しており、細胞を培養基材に接着させた状態で増殖培養した後、細胞を培養基材から剥離する工程を経て、細胞懸濁液を回収する。前記細胞を培養基材から剥離する方法としては、例えば、トリプシンのようなタンパク質分解酵素や化学薬品を用いた化学的手段や、セルスクレーパーのような物理的に細胞を剥離する器具を用いた物理的手段が挙げられる。例えば、特許文献1は、トリプシンを培養基材に添加し、間葉系幹細胞を剥離させる方法を開示している。
【0004】
また、特許文献2には、温度によって細胞接着性が変化する温度応答性高分子を表面に被覆した培養基材用い、温度変化によって培養基材から細胞を剥離する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5394932号公報
【文献】国際公開WO2001/068799
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように間葉系幹細胞等の接着性細胞を培養基材から剥離させる方法が各種開発されている。しかしながら、特許文献1の方法は、トリプシンなどの化学物質により培養細胞が損傷を受ける。また、トリプシン処理によって培養細胞を培養基材から剥離すると、剥離された細胞は単細胞化し、細胞シートの形態では剥離できない。
【0007】
また、特許文献2の方法では、細胞培養の足場となる培養基材として、特定の材料を用いる必要があるため製造コストが上がってしまう。
【0008】
そこで本発明では、化学的手段や物理的手段、特殊な培養基材を用いることなく、培養基材から自発的に剥離する細胞集団、その製造方法、及び、それを含む医薬組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、CD324陽性を呈する細胞の比率が70%以上であり、かつCD90陽性を呈する間葉系細胞の比率が90%以上である間葉系細胞を含む細胞集団は、特殊な手段や器具を必要とせずに自発的に基材から剥離することを見出した。本発明はこの知見に基づいて完成された。
すなわち、本明細書によれば、以下の発明が提供される。
【0010】
(1)間葉系細胞を含む細胞集団であって、
前記細胞集団において、CD324陽性を呈する細胞の比率が70%以上であり、かつCD90陽性を呈する間葉系細胞の比率が90%以上である、細胞集団。
(2)前記細胞集団において、CD326陽性を呈する細胞の比率が10%以下である、(1)に記載の細胞集団。
(3)前記細胞集団において、CD73陽性を呈する間葉系細胞の比率が80%以上であり、CD166陽性を呈する間葉系細胞の比率が80%以上であり、CD45陽性を呈する細胞の比率が10%以下であり、かつCD105陽性を呈する間葉系細胞の比率が70%以上である、(1)又は(2)に記載の細胞集団。
(4)前記間葉系細胞が、胎児付属物に由来する、(1)~(3)のいずれかに記載の細胞集団。
(5)間葉系細胞を含む細胞集団を培養する工程と、
前記間葉系細胞を含む細胞集団の中から、以下に示す(a)及び(b)の特性を有する細胞集団を選別する工程を含む、間葉系細胞を含む細胞集団の製造方法:
(a)前記細胞集団においてCD324陽性を呈する細胞の比率が70%以上であり、
(b)前記細胞集団において、CD90陽性を呈する間葉系細胞の比率が90%以上である。
(6)(1)~(4)のいずれかに記載の細胞集団と、製薬上許容し得る媒体とを含む、医薬組成物。
(7)間葉系細胞の1回の投与量が1012個以下となるようにヒトに投与される、(6)に記載の医薬組成物。
(8)前記医薬組成物が注射用製剤である、(6)又は(7)に記載の医薬組成物。
(9)前記医薬組成物が細胞塊又はシート状構造の移植用製剤である、(6)又は(7)に記載の医薬組成物。
(10)免疫関連疾患、虚血性疾患、下肢虚血、脳血管虚血、腎臓虚血、肺虚血、神経性疾患、移植片対宿主病、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、放射線腸炎、全身性エリテマトーデス、紅斑性狼瘡、膠原病、脳卒中、脳梗塞、脳内血腫、脳血管麻痺、脳腫瘍、肝硬変、アトピー性皮膚炎、多発性硬化症、乾癬、表皮水疱症、糖尿病、菌状息肉腫、強皮症、軟骨等の結合組織の変性及び/又は炎症から起こる疾患、関節軟骨欠損、半月板損傷、離弾性骨軟骨症、無腐性骨壊死、変形性膝関節症、炎症性関節炎、関節リウマチ、眼疾患、血管新生関連疾患、虚血性心疾患、冠動脈性心疾患、心筋梗塞、狭心症、心不全、心筋症、弁膜症、創傷、上皮損傷、線維症、肺疾患、筋ジストロフィー、慢性膵炎、慢性腎炎、並びに癌から選択される疾患の治療剤である、(6)~(9)のいずれかに記載の医薬組成物。
(11)医薬組成物の製造のための、(1)~(4)のいずれかの間葉系細胞を含む細胞集団の使用。
(12)細胞治療剤の製造のための、(1)~(4)のいずれかの間葉系細胞を含む細胞集団の使用。
(13)心筋の再生、心筋細胞の産生、血管新生、血管の修復、又は、免疫応答の抑制に用いる医薬の製造のための、(1)~(4)のいずれかの間葉系細胞を含む細胞集団の使用。
(14)疾患の治療のために使用される、(1)~(4)のいずれかの間葉系細胞を含む細胞集団。
(15)前記疾患が、(10)に記載の疾患である、(14)に記載の細胞集団。
(16)患者又は被験者には投与して、心筋の再生、心筋細胞の産生、血管新生、血管の修復、又は、免疫応答の抑制のために使用される、(1)~(4)のいずれかの間葉系細胞を含む細胞集団。
(17)患者又は被験者に、治療有効量の(1)~(4)のいずれかの間葉系細胞を含む細胞集団を投与する工程を含む、患者又は被験者の疾患の治療方法。
(18)前記疾患が、前記(10)に記載の疾患であり、前記患者又は被験者が、前記疾患の治療を必要とする患者又は被験者である、(17)に記載の方法。
(19)患者がヒトであり、1回の投与量が1012個細胞以下である、(17)又は(18)に記載の方法。
(20)前記細胞集団が、細胞塊又はシート状構造を有する、(17)、(18)又は(19)に記載の方法。
(21)患者又は被験者に、治療有効量の(1)~(4)のいずれかの間葉系細胞を含む細胞集団を投与する工程を含む、患者又は被験者において、心筋の再生、心筋細胞の産生、血管新生、血管の修復、又は、免疫応答の抑制を行う方法。
(22)患者がヒトであり、1回の投与量が1012個細胞以下である、(21)に記載の方法。
(23)前記細胞集団が、細胞塊又はシート状構造を有する、(21)又は(22)に記載の方法。
【0011】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2019-111470号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一以上の実施形態に係る細胞集団は、化学的手段及び/又は物理的手段を用いなくとも自発的に培養基材から剥離する。
本発明の一以上の実施形態に係る細胞集団の製造方法は、上記の効果を有する細胞集団を効率的に製造することができる。
本発明の一以上の実施形態に係る医薬組成物は免疫関連疾患等の治療に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、評価1での、ドナー#1から調製した比較例1の5継代目の細胞集団の培養21日目の細胞形態の観察像(倍率40倍)である。
図2図2は、評価2での、ドナー#1から調製した実施例1の5継代目の細胞集団の培養10日目の細胞形態の観察像(倍率40倍)である。部分的な細胞の剥離が観察された。
図3図3は、評価2での、ドナー#3から調製した実施例2の2継代目の細胞集団の培養10日目の細胞形態の観察像(倍率100倍)である。部分的な細胞の剥離が観察された。
図4図4は、評価2での、ドナー#3から調製した実施例2の2継代目の細胞集団の培養11日目の細胞形態の観察像(倍率40倍)である。基材から剥離した細胞シートが凝集した塊状構造物(細胞塊)が観察された。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[1]用語の説明
本明細書における「間葉系細胞(Mesenchymal cells)」は、CD73陽性、CD90陽性、CD166陽性、CD105陽性、CD45陰性、及び、CD326陰性のうち少なくとも1つを呈する細胞を指し、典型的には、以下i)及びii)の特徴を満たす細胞を指し、「間葉系間質細胞(Mesenchymal stromal cells)」及び「間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cells:MSC)」も本発明の間葉系細胞に含まれる。
【0015】
「間葉系細胞」としては、各種組織及び器官から採取することができる体性細胞(組織細胞)のうち、CD73陽性、CD90陽性、CD166陽性、CD105陽性、CD45陰性、CD326陰性のうち少なくとも1つを呈する細胞、好ましくは、下記i)及びii)の特徴を満たす細胞、を使用することができる。前記体性細胞としては、特に限定されないが、例えば、脂肪細胞、脂肪幹細胞、神経細胞、神経幹細胞、心筋細胞、心筋幹細胞、肝細胞、肝幹細胞、上皮細胞、上皮幹細胞、骨格筋細胞、骨格筋幹細胞、造血細胞、造血幹細胞、間葉系細胞、間葉系幹細胞、羊膜由来の間葉系細胞、羊膜由来の間葉系幹細胞、羊膜上皮由来の間葉系細胞、羊膜上皮由来の間葉系幹細胞、羊膜細胞外基質層由来の間葉系細胞、羊膜細胞外基質層由来の間葉系幹細胞、消化管上皮細胞、消化管上皮幹細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、滑膜細胞、滑膜幹細胞などが挙げられる。
【0016】
本明細書における間葉系細胞の典型的な特徴
i)標準培地での培養条件で、プラスチックに接着性を示す。ここでいう標準培地とは、基礎培地(例:αMEM培地)に血清、血清代替試薬又は増殖因子(例:血清代替試薬であるヒト血小板溶解物)を添加した培地である。
ii)表面抗原のCD73、CD90が陽性であり、CD45、CD326が陰性。
【0017】
前記「間葉系細胞」は、CD73陽性、CD90陽性、CD166陽性、CD105陽性、CD45陰性、CD326陰性のうち少なくとも1つを呈する細胞であればよく、例えばCD73陽性、CD90陽性、CD45陰性及びCD326陰性を呈する細胞であることができ、骨、軟骨、脂肪等への分化能の有無については特に限定されない。本明細書における「間葉系細胞」には、間葉系幹細胞のように、骨、軟骨及び脂肪への分化能を有している細胞も含まれる。また、前記「間葉系細胞」には、CD73陽性、CD90陽性、CD166陽性、CD105陽性、CD45陰性、CD326陰性のうち少なくとも1つを呈するものの、骨、軟骨、脂肪への分化能を有していない細胞も含まれる。また、前記「間葉系細胞」には、CD73陽性、CD90陽性、CD166陽性、CD105陽性、CD45陰性、CD326陰性のうち少なくとも1つを呈するものの、骨、軟骨、脂肪のうち何れか1つ、又は2つにのみ分化する細胞も含まれる。
【0018】
本明細書において「胎児付属物」は、卵膜、胎盤、臍帯および羊水を指す。さらに「卵膜」は、胎児の羊水を含む胎嚢であり、内側から羊膜、絨毛膜および脱落膜からなる。このうち、羊膜と絨毛膜は胎児を起源とする。「羊膜」は、卵膜の最内層にある血管に乏しい透明薄膜で、内壁は分泌機能のある一層の上皮細胞で覆われ羊水を分泌する。羊膜の内層(上皮細胞層ともよばれる)は分泌機能のある一層の上皮細胞で覆われ羊水を分泌し、羊膜の外層(細胞外基質層ともよばれ、間質に相当する)は間葉系細胞を含む。
【0019】
本明細書における「間葉系細胞を含む細胞集団」は、その形態は特に限定されず、例えば、細胞ペレット、細胞凝集塊、細胞シート、細胞浮遊液、細胞懸濁液、これらの凍結物等が挙げられる。
【0020】
本明細書において、所定の表面抗原についての「陽性を呈する(間葉系)細胞の比率」とは、後記する実施例に記載の通り、対象となる細胞集団において、フローサイトメトリーによって解析した所定の表面抗原について陽性である細胞の比率を示す。本明細書において、所定の表面抗原について陽性を呈する細胞の比率は「陽性率」と記載されることがあり、また、所定の表面抗原について陰性を呈する細胞の比率は「陰性率」と記載されることがある。
本明細書において細胞集団中の所定の細胞の比率は、対象となる細胞集団の全細胞数に対する、前記所定の細胞の細胞数の割合を指す。
本明細書において「間葉系細胞」、「間葉系細胞を含む細胞集団」及び「胎児付属物」は、好ましくはヒトに由来するものである。
【0021】
[2]間葉系細胞を含む細胞集団
本発明の一以上の実施形態に係る細胞集団は、間葉系細胞を含む細胞集団であって、前記細胞集団において、CD324陽性を呈する細胞の比率が70%以上であり、かつCD90陽性を呈する間葉系細胞の比率が90%以上であることを特徴とする。CD324陽性を呈する細胞は間葉系細胞であってよい。
【0022】
この特徴を有する間葉系細胞を含む細胞集団を基材上で培養すると、一般的な化学的手段及び/又は物理的手段を用いなくても、間葉系細胞を含む細胞集団は、自発的に基材から剥離する。より好ましい態様においては、前記間葉系細胞を含む細胞集団は、細胞シートの形態として自発的に基材から剥離する。
【0023】
本明細書における「間葉系細胞を含む細胞集団」とは、少なくとも間葉系細胞を含む細胞集団であれば特に限定されず、他の細胞を含む集団であってもよい。特に限定されないが、前記間葉系細胞を含む細胞集団における間葉系細胞の比率は、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、97%以上、99%以上、100%でもよい。
【0024】
また、前記間葉系細胞を含む細胞集団における他の細胞の比率は、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下、3%以下、1%以下、0%でもよい。なお、前記他の細胞は、間葉系細胞以外であれば特に限定されないが、例えばリンパ球、顆粒球、赤血球などの血球系細胞を挙げることができる。
【0025】
表面抗原のCD324は、分化クラスター324を意味し、上皮カドヘリン(E-cadherin)としても知られているタンパク質である。
【0026】
表面抗原のCD90は、分化クラスター90を意味し、Thy-1としても知られているタンパク質である。
【0027】
前記細胞集団において、CD324陽性を呈する細胞の比率は、より好ましくは75%以上、80%以上、85%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上でもよい。
【0028】
前記細胞集団において、CD90陽性を呈する間葉系細胞の比率は、より好ましくは91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上でもよく、100%でもよい。
【0029】
本発明の一以上の実施形態の細胞集団は、好ましくは、CD326陽性を呈する細胞の比率が10%以下である。
【0030】
CD326は分化クラスター326を意味し、EpCAMとしても知られているタンパク質である。
【0031】
前記細胞集団において、CD326陽性を呈する細胞の比率は、より好ましくは5%以下(陰性率95%以上)、4%以下(陰性率96%以上)、3%以下(陰性率97%以上)、2%以下(陰性率98%以上)、1%以下(陰性率99%以上)でもよく、0%(陰性率100%)でもよい。
【0032】
本発明の一態様によれば、本発明により提供される間葉系細胞を含む細胞集団は、CD73陽性を呈する間葉系細胞の比率が90%以上である、CD166陽性を呈する間葉系細胞の比率が80%以上である、CD105陽性を呈する間葉系細胞の比率が70%以上である、CD45陽性を呈する細胞の比率が10%以下である、のうち1以上を満足することが好ましく、全てを満足することがより好ましい。更に、本発明の一態様によれば、本発明により提供される間葉系細胞を含む細胞集団は、CD34陽性を呈する細胞の比率が10%以下であることが好ましい。
【0033】
CD73は、分化クラスター73を意味し、5-Nucleotidase、或いはEcto-5’-nucleotidaseとしても知られているタンパク質である。
【0034】
CD166は、分化クラスター166を意味し、Activated leukocyte cell adhesion molecule(ALCAM)としても知られているタンパク質である。
【0035】
CD105は、分化クラスター105を意味し、Endoglinとしても知られているタンパク質である。
【0036】
CD45は、分化クラスター45を意味し、PTPRC(Protein tyrosine phosphatase,receptor type,C)、或いはLCA(Leukocyte common antigen)としても知られているタンパク質である。
【0037】
CD34は、分化クラスター34を意味し、Hematopoietic progenitor cell antigen CD34としても知られているタンパク質である。
【0038】
前記細胞集団においてCD73陽性を呈する間葉系細胞の比率は、より好ましくは91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上でもよく、100%でもよい。
【0039】
前記細胞集団においてCD166陽性を呈する間葉系細胞の比率は、より好ましくは85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上でもよい。
【0040】
前記細胞集団においてCD105陽性を呈する間葉系細胞の比率は、より好ましくは74%以上、75%以上、80%以上、85%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上でもよい。
【0041】
前記細胞集団においてCD45陽性を呈する細胞の比率は、より好ましくは5%以下(陰性率95%以上)、4%以下(陰性率96%以上)、3%以下(陰性率97%以上)、2%以下(陰性率98%以上)、1%以下(陰性率99%以上)でもよく、0%(陰性率100%)でもよい。
【0042】
前記細胞集団においてCD34陽性を呈する細胞の比率は、より好ましくは5%以下(陰性率95%以上)、4%以下(陰性率96%以上)、3%以下(陰性率97%以上)、2%以下(陰性率98%以上)、1%以下(陰性率99%以上)でもよく、0%(陰性率100%)でもよい。
【0043】
ここで、CD324陽性、CD90陽性、CD326陽性、CD73陽性、CD166陽性、CD105陽性、CD45陽性及びCD34陽性を呈する細胞又は間葉系細胞とは、それぞれ、CD324、CD90、CD326、CD73、CD166、CD105、CD45及びCD34の発現が陽性である細胞又は間葉系細胞を意味する。
【0044】
本発明の一以上の実施態様において指標とする発現マーカー(CD324、CD90、CD326、CD73、CD166、CD105、CD45又はCD34)は、当該技術分野において公知の任意の検出方法により検出することができる。発現マーカーを検出する方法としては、例えばフローサイトメトリー又は細胞染色が挙げられるが、これらに限定されない。蛍光標識抗体を用いるフローサイトメトリーにおいて、ネガティブコントロール(アイソタイプコントロール)と比較してより強い蛍光を発する細胞が検出された場合、当該細胞は当該マーカーについて「陽性」と判定される。蛍光標識抗体は、当該技術分野において公知の任意の抗体を使用することができ、例えば、イソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)、フィコエリスリン(PE)、アロフィコシアニン(APC)等により標識された抗体が挙げられるが、これらに限定されない。細胞染色において、着色するか若しくは蛍光を発する細胞が顕微鏡下にて観察された場合、当該細胞は当該マーカーについて「陽性」と判定される。細胞染色は、抗体を使用する免疫細胞染色であってもよく、抗体を使用しない非免疫細胞染色であってもよい。免疫細胞染色において使用される抗体についても特に限定されず、目的のマーカーを検出するのに一般的に知られている抗体を使用できるが、好ましくは後述する実施例で使用した抗体を用いる。例えば、CD324陽性を検出するために使用する抗体は特に限定されず、REA811、67A4、SPM381のクローンから作製した抗体を用いてCD324陽性を検出することができるが、その中でも、本発明の一以上の実施形態においては、REA811のクローンから作製した抗体を用いてCD324陽性を検出することがより望ましい。なお、発現マーカーと表面抗原は同義であり、両者は置き換えて使うことができる。
【0045】
本発明の一以上の実施態様の細胞集団は、分化能の有無は特に限定されないが、好ましくは、軟骨組織への分化能を有し、且つ、脂肪組織への分化能が低い又は有さず、好ましくは更に、骨組織への分化能が低い又は有さないものである。
【0046】
本発明の一以上の実施態様の細胞集団は、使用直前まで凍結状態にて保存することができる。上記の細胞集団は、間葉系細胞及び他の細胞以外に、任意の成分を含んでもよい。かかる成分としては、例えば、塩類、多糖類(例えば、HES、デキストランなど)、タンパク質(例えば、アルブミンなど)、DMSO、培地成分(例えば、RPMI1640培地に含まれる成分など)などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0047】
[3]間葉系細胞を含む細胞集団の製造方法
本発明の一以上の実施形態の、間葉系細胞を含む細胞集団の製造方法は、間葉系細胞を含む細胞集団を培養する工程と、前記間葉系細胞を含む細胞集団の中から、(a)前記細胞集団においてCD324が陽性を呈する細胞の比率が70%以上であり、(b)前記細胞集団において、CD90が陽性を呈する間葉系細胞の比率が90%以上である、という特性を有する細胞集団を選別する工程を含む方法である。
【0048】
本発明の一以上の実施形態に係る間葉系細胞を含む細胞集団の製造方法によれば、前記(a)及び(b)の特性を有する間葉系細胞を含む細胞集団を調製できる。前記特性は、基材から自発的に剥離できる間葉系細胞を含む細胞集団を取得する際の指標として有用である。また、前記特性は、剥離後の間葉系細胞集団を単細胞化された形態ではなく、細胞シートの形態で取得する際の指標としても有用である。
【0049】
前記細胞集団の製造方法において、間葉系細胞を含む細胞集団を培養する工程と、前記間葉系細胞を含む細胞集団の中から前記特性を有する細胞集団を選別する工程とは、別の工程であってもよいし、一体の工程であってもよい。例えば、後述するように、間葉系細胞を含む細胞集団を、上記(a)及び(b)の一方又は両方の特性を満たす細胞集団を選別できる特定の条件下において培養することが、前記二つの工程が一体の工程である例である。
【0050】
前記細胞集団の製造方法において、前記特性を満たす細胞集団を選別する工程は、前記特性を満たす細胞集団を選別できる工程であれば特に限定されない。そのような工程としては、例えばセルソーターにて(a)を満たす細胞集団を選択し、次いで、得られた細胞集団を(b)を満たす細胞集団を選別できる条件下において培養することが挙げられる。また、セルソーターにて(b)を満たす細胞集団を選択し、次いで得られた細胞集団を(a)を満たす細胞集団を選別できる条件下において培養してもよい。また、前記特性を満たす細胞集団の他の調製方法としては、細胞集団を、上記(a)及び(b)を満たす細胞集団を選別できる特定の条件下において培養することが挙げられる。培養条件や培養方法の詳細については以下で説明する。また、後述の細胞集団の選別方法で記載されたような方法を用いて、前記特性を満たす細胞集団を選別することもできる。
【0051】
本発明の一以上の実施形態に係る間葉系細胞を含む細胞集団の製造方法は、好ましくは、羊膜などの胎児付属物を酵素処理することにより、原料となる、間葉系細胞を含む細胞集団を取得する細胞集団取得工程を更に含むものでもよい。
【0052】
羊膜は、上皮細胞層と細胞外基質層からなり、後者には間葉系細胞が含まれている。上記の細胞集団取得工程は、羊膜を帝王切開により得る工程を更に含む工程でもよい。
【0053】
胎児付属物から採取した細胞を含む細胞集団は、より好ましくは、胎児付属物から採取した、上皮細胞層と間葉系細胞を含む細胞外基質層とを含む試料を少なくともコラゲナーゼで処理して得た細胞集団である。
【0054】
胎児付属物から採取した試料(好ましくは上皮細胞層と間葉系細胞を含む細胞外基質層とを含む試料)の酵素処理は、好ましくは、胎児付属物の細胞外基質層に含まれる間葉系細胞を遊離することができ、かつ上皮細胞層を分解しない酵素(又はその組み合わせ)による処理である。かかる酵素としては、特に限定されないが、例えば、コラゲナーゼ及び/又は金属プロテイナーゼを挙げることができる。金属プロテイナーゼとしては、非極性アミノ酸のN末端側を切断する金属プロテイナーゼであるサーモリシン及び/又はディスパーゼを挙げることができるが、特に限定されない。
【0055】
コラゲナーゼの活性濃度は、好ましくは50PU/ml以上、より好ましくは100PU/ml以上、さらに好ましくは200PU/ml以上である。また、コラゲナーゼの活性濃度は、特に限定されないが、例えば、1000PU/ml以下、900PU/ml以下、800PU/ml以下、700PU/ml以下、600PU/ml以下、500PU/ml以下である。ここで、PU(Protease Unit)とは、pH7.5、30℃において、FITC-collagen 1ugを1分間で分解する酵素量と定義する。
【0056】
金属プロテイナーゼ(例えば、サーモリシン及び/又はディスパーゼ)の活性濃度は、好ましくは50PU/ml以上、より好ましくは100PU/ml以上、さらに好ましくは150PU/ml以上、さらに好ましくは190PU/ml以上である。また、金属プロテイナーゼの活性濃度は、好ましくは1000PU/ml以下、より好ましくは900PU/ml以下、さらに好ましくは800PU/ml以下、さらに好ましくは700PU/ml以下、さらに好ましくは600PU/ml以下、さらに好ましくは500PU/ml以下、さらに好ましくは300PU/ml以下である。ここで、金属プロテイナーゼとしてディスパーゼを用いた態様において、PU(Protease Unit)とは、pH7.5、30℃において、乳酸カゼインから1分間に1ugのチロシンに相当するアミノ酸を遊離する酵素量と定義される。上記の酵素濃度の範囲において、胎児付属物の上皮細胞層に含まれる上皮細胞の混入を防止しながら、細胞外基質層に含まれる間葉系細胞を効率よく遊離させることができる。コラゲナーゼ及び/又は金属プロテイナーゼの好ましい濃度の組み合わせは、酵素処理後の胎児付属物の顕微鏡観察や、取得した細胞のフローサイトメトリーにより決定することができる。
【0057】
生細胞を効率的に回収する観点から、コラゲナーゼ及び金属プロテイナーゼを組み合わせて胎児付属物を処理することが好ましい。さらに好ましくは、前記組み合わせによって胎児付属物を同時一括に処理する。この場合の金属プロテイナーゼとしては、サーモリシン及び/又はディスパーゼを使用することができるが、これらに限定されない。コラゲナーゼ及び金属プロテイナーゼを含有する酵素液を用いて胎児付属物を一回のみ処理することにより、間葉系細胞を簡便に取得することができる。また、同時一括に処理することにより、細菌やウィルス等のコンタミネーションのリスクを低減することができる。
【0058】
胎児付属物の酵素処理は、生理食塩水やハンクス平衡塩溶液等の洗浄液を用いて洗浄した羊膜を酵素液に浸漬し、撹拌手段によって撹拌しながら処理することが好ましい。かかる撹拌手段としては、胎児付属物の細胞外基質層に含まれる間葉系細胞を効率よく遊離させる観点から、例えば、スターラー又はシェーカーを使用することができるが、これらに限定されない。撹拌速度は、特に限定されないが、スターラー又はシェーカーを用いた場合、例えば、5rpm以上、10rpm以上、20rpm以上、30rpm以上、40rpm以上又は50rpm以上である。また、撹拌速度は、特に限定されないが、スターラー又はシェーカーを用いた場合、例えば、100rpm以下、90rpm以下、80rpm以下、70rpm以下又は60rpm以下である。酵素処理時間は、特に限定されないが、例えば、10分以上、20分以上、30分以上、40分以上、50分以上、60分以上、70分以上、80分以上又は90分以上である。また、酵素処理時間は、特に限定されないが、例えば、6時間以下、5時間以下、4時間以下、3時間以下、2時間以下、110分以下、100分以下である。酵素処理温度は、特に限定されないが、例えば、15℃以上、16℃以上、17℃以上、18℃以上、19℃以上、20℃以上、21℃以上、22℃以上、23℃以上、24℃以上、25℃以上、26℃以上、27℃以上、28℃以上、29℃以上、30℃以上、31℃以上、32℃以上、33℃以上、34℃以上、35℃以上又は36℃以上である。また、酵素処理温度は、特に限定されないが、例えば、40℃以下、39℃以下、38℃以下又は37℃以下である。
【0059】
本発明の一以上の実施形態に係る製造方法において、所望により、遊離した間葉系細胞を含む酵素溶液からフィルター、遠心分離や中空糸分離膜、セルソーター等の公知の方法により遊離した間葉系細胞を分離及び/又は回収することができる。好ましくは、フィルターによって遊離した間葉系細胞を含む酵素溶液を濾過する。前記酵素溶液をフィルターによって濾過する態様においては、遊離した細胞のみがフィルターを通過し、分解されなかった上皮細胞層はフィルターを通過できずにフィルター上に残るため、遊離した間葉系細胞を容易に分離及び/又は回収することができるだけでなく、細菌やウィルス等のコンタミネーションのリスクも低減することができる。フィルターとしては、特に限定されないが、例えば、メッシュフィルターを挙げることができる。メッシュフィルターのポアサイズ(メッシュの大きさ)は、特に限定されないが、例えば、40μm以上、50μm以上、60μm以上、70μm以上、80μm以上、又は90μm以上である。また、メッシュフィルターのポアサイズは、特に限定されないが、例えば、200μm以下、190μm以下、180μm以下、170μm以下、160μm以下、150μm以下、140μm以下、130μm以下、120μm以下、110μm以下、又は100μm以下である。濾過速度に関しては特に限定されないが、メッシュフィルターのポアサイズを上記の範囲とすることにより、間葉系細胞を含む酵素溶液を自然落下により濾過することができ、これにより細胞生存率の低下を防止することができる。
【0060】
メッシュフィルターの材質としては、ナイロンが好ましく用いられる。研究用として汎用されるFalconセルストレーナーなどの40μm、70μm、95μm又は100μmのナイロンメッシュフィルターを含有するチューブが利用可能である。また、血液透析などで使用されている医療用メッシュクロス(ナイロン及びポリエステル)が利用できる。さらに、体外循環時に使用される動脈フィルター(ポリエステルメッシュフィルター、ポアサイズ:40μm以上120μm以下)も利用可能である。他の材質、例えば、ステンレスメッシュフィルター等も用いることが可能である。
【0061】
間葉系細胞をフィルター通過させる場合、自然落下(自由落下)が好ましい。ポンプ等を用いた吸引など強制的なフィルター通過も可能であるが、細胞に損傷を与えることを避けるため、できるだけ弱い圧力とすることが望ましい。
【0062】
フィルターを通した間葉系細胞を含む細胞集団は、倍量又はそれ以上の培地又は平衡塩緩衝液で濾液を希釈した後、遠心分離により回収することができる。平衡塩緩衝液としては、ダルベッコリン酸バッファー(DPBS)、アール平衡塩溶液(EBSS)、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)、リン酸バッファー(PBS)等を用いることができるが、これらに限定されない。
【0063】
本発明の一以上の実施形態に係る製造方法は、間葉系細胞を含む細胞集団を培養する工程を含む。
【0064】
間葉系細胞を含む細胞集団の培養する工程における細胞の播種密度は、特に限定されないが例えば、例えば500~10,000細胞/cmの密度で播種することができる。前記播種密度の下限としては、例えば500細胞/cm以上、1,000細胞/cm以上、2,000細胞/cm以上、3,000細胞/cm以上、4,000細胞/cm以上、5,000細胞/cm以上が好ましい。また、前記播種密度の上限としては、例えば10,000細胞/cm以下、9,000細胞/cm以下、8,000細胞/cm以下、7,000細胞/cm以下が好ましい。
【0065】
なお、上記培養する工程は、継代工程を含んでもよいし、異なる培養条件で複数回培養を繰り返す工程を含んでもよい。
【0066】
上記の1回の培養の培養期間としては、例えば4~10日間を挙げることができ、より具体的には、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間又は10日間を挙げることができる。
【0067】
上記の培養に用いる培地は、任意の動物細胞培養用液体培地を基礎培地とし、必要に応じて他の成分(血清、血清代替試薬、増殖因子など)を適宜添加することにより調製することができる。なお、前記基礎培地に増殖因子を添加する態様においては、増殖因子を培地中で安定化させるための試薬(ヘパリンなど)を、増殖因子に加えて、さらに添加することにより調製してもよいし、増殖因子をあらかじめゲルや多糖類などで安定化しておき、その後、安定化した増殖因子を前記基礎培地に対して添加することで調製してもよい。このように、間葉系細胞を含む細胞集団を培養するために、基礎培地に、血清、血清代替試薬又は増殖因子を添加した培地を、標準培地と定義する。
【0068】
基礎培地としては、BME培地、BGJb培地、CMRL1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)培地、DMEM培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)、ハムF10培地、ハムF12培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、及びこれらの混合培地(例えば、DMEM/F12培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium/Nutrient Mixture F-12 Ham))等の培地を使用することができるが、特に限定されない。好ましい基礎培地としてはαMEM培地が例示できる。
【0069】
基礎培地に添加し得る他の成分としては例えば、アルブミン、ウシ血清、血清代替試薬又は増殖因子などが挙げられ、血清代替試薬が好ましく、特にヒト血小板溶解物が好ましい。なかでも、血清代替試薬を含み、且つ、アルブミン、ウシ血清及び増殖因子を含まない基礎培地中で培養を行うことが好ましい。ヒト血小板溶解物の培地中の濃度の下限としては例えば、終濃度として1重量%以上、2重量%以上、3重量%以上を挙げることができる。また、ヒト血小板溶解物の培地中の濃度の上限としては例えば、20重量%以下、10重量%以下、7重量%以下が好ましい。
【0070】
また、上記の培養に用いる培地は、一般的に市販されている無血清培地を用いても良い。例えば、STK1やSTK2(DSファーマバイオメディカル社)、EXPREP MSC Medium(バイオミメティクスシンパシーズ社)、Corning stemgroヒト間葉系幹細胞培地(コーニング社)などが挙げられるが、特に限定されない。
【0071】
間葉系細胞を含む細胞集団の培養は、例えば、以下のような工程にて行うことができる。まず、細胞懸濁液を遠心分離し、上清を除去し、得られた細胞ペレットを培地にて懸濁する。次に、培養容器(例えばプラスチック製培養容器)に細胞を播種し、3%以上5%以下のCO濃度、37℃環境にて、培地を用いて培養する。上記のような培養により取得した細胞は、1回培養した細胞である。
【0072】
上記の1回培養した細胞は、例えば、以下のようにさらに継代し、培養することができる。まず、1回目の培養でコンフルエント率95%以下となるまで培養した細胞を、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)にて処理した後にトリプシンにて処理して培養容器(例えばプラスチック製培養容器)から剥離させる。本発明の一以上の実施形態で製造する細胞集団は、基材から穏やかな条件で剥離し得る細胞培養物を形成することができる細胞集団であり、トリプシン処理による培養容器からの剥離の際にも容易に剥離することができるため、トリプシン処理による細胞へのダメージを軽減することができる。また、細胞集団が基材上で細胞シートを形成した場合でも、細胞シートを基材から剥離すること、及び、細胞シートを酵素処理により崩壊させて細胞懸濁液を得ることが容易であるため、細胞へのダメージを軽減することができる。次に、得られた細胞懸濁液を遠心分離し、上清を除去し、得られた細胞ペレットを培地にて懸濁する。最後に、培養容器(例えばプラスチック製培養容器)に細胞を播種し、3%以上、5%以下のCO濃度、37℃環境にて、培地を用いて培養する。上記のような継代及び培養により取得した細胞は、1回継代した細胞である。同様の継代及び培養を行うことにより、n回継代した細胞を取得することができる(nは1以上の整数を示す)。継代培養を行う場合は、細胞をコンフルエント率95%以下となるまで培養し、上記の手順で細胞を剥離して回収し、次代の培養に用いることができる。継代回数nの下限は、細胞を大量に製造する観点から、例えば、1回以上、好ましくは2回以上、より好ましくは3回以上、さらに好ましくは4回以上、さらに好ましくは5回以上である。また、継代回数nの上限は、細胞の老化を抑える観点から、例えば、50回以下、45回以下、40回以下、35回以下、30回以下であることが好ましい。更なる継代培養を行わずに培養細胞を回収する場合は、細胞をコンフルエント率100%以上まで培養して基材上で細胞シートを形成させ、更に培養を続けて細胞シートを基材から自発的に剥離させることができる。
【0073】
本発明の一以上の実施形態に係る製造方法は、以下に示す(a)及び(b)の特性を有する細胞集団を選別する工程を含んでもよい。
(a)CD324陽性を呈する細胞の比率が70%以上であり、
(b)CD90陽性を呈する間葉系細胞の比率が90%以上である。
【0074】
前記特性を指標として細胞集団を選別する方法としては、上述したようにセルソーターにて上記(a)及び/又は(b)の特性を満たす細胞集団を選別する工程を含み、更に必要に応じて前記工程で選別しない特性を満たす細胞集団を選別できる条件下において培養する工程を含む方法を用いることができる。またセルソーター以外の選別方法として、例えばFACS、磁気ビーズによる分取などの物理的な方法を用いてもよい。
さらに、別の選別工程として、細胞集団を、上記(a)及び(b)の特性を満たす細胞集団を選別できる特定の条件下において培養する工程も挙げられる。例えば、上述した細胞集団の培養工程において、適宜好ましい培養条件を組み合わせることでも上記(a)及び(b)の特性を満たす細胞集団を得ることが可能である。この場合、上述の細胞集団の培養工程の一部又は全部が、上記(a)及び(b)の特性を満たす細胞集団を選別する工程でもある。その一例として、ヒト血小板溶解物などの血清代替試薬を添加した培地中で間葉系細胞を含む細胞集団を培養することが挙げられる。具体的にはヒト血小板溶解物を添加した基礎培地を用いるなどの適切な培養条件によって指標を満たさない細胞を淘汰し、上記指標を満たすように間葉系細胞を含む細胞集団を純化させる化学的な方法、或いはヒト血小板溶解物を添加した基礎培地などの適切な標準培地を選択して培養を行うことにより、上記指標を満たす細胞集団に変化させる方法を挙げることができる。しかしその方法は特に限定されず、培養方法等に応じて適宜選択すればよい。
【0075】
なお、上記選別の前に、上記特性を指標として、多能性幹細胞を含む細胞集団を識別する工程を含んでもよい。
【0076】
上記(a)及び(b)の特性を有する細胞集団を選別するタイミングは、特に限定されないが、例えば、培養前、培養の途中、培養後、細胞集団の回収前、細胞集団の回収後、細胞の凍結保存ストック作成前、細胞の凍結保存ストックを解凍した後、等を挙げることができる。
【0077】
上記(a)及び(b)の特性を有する細胞集団を選別する方法について、さらに詳細に説明する。
細胞集団の培養により、上記(a)及び(b)の特性を有する細胞集団を選別する方法としては、例えば、間葉系細胞を含む細胞集団を培養基材に播種し、培養基材上で増殖培養することにより、CD324陽性を呈し且つCD90陽性を呈する間葉系細胞がポジティブセレクションされ、CD324陽性を呈する細胞の比率が70%以上であり、かつCD90陽性を呈する間葉系細胞の比率が90%以上となった細胞集団を剥離・回収する方法が挙げられる。このとき、抗CD324抗体や抗CD90抗体によりコーティングした培養基材を用いて培養しても良い。間葉系細胞を含む細胞集団から、CD324陽性を呈し且つCD90陽性を呈する間葉系細胞を培養により選別するタイミングは特に限定されず、任意の継代培養において選別することができるが、初代培養において間葉系細胞を含む細胞集団から、CD324陽性を呈し且つCD90陽性を呈する間葉系細胞を選別することが好ましい。
【0078】
また、フローサイトメトリーや磁気ビーズを用いた細胞分離法により、間葉系細胞を含む細胞集団から、CD324陽性を呈し且つCD90陽性を呈する間葉系細胞を選別することもできる。
【0079】
細胞集団の選別は更に、CD326陽性を呈する細胞の比率が10%以下である細胞集団を選別することが好ましく、更に、CD73陽性を呈する間葉系細胞の比率が80%以上である、CD166陽性を呈する間葉系細胞の比率が80%以上である、CD105陽性を呈する間葉系細胞の比率が70%以上である、CD45陽性を呈する細胞の比率が10%以下である、のうち1以上、より好ましくは全て、を満足する細胞集団を選別することが好ましく、更に、CD34陽性を呈する細胞の比率が10%以下であることを満足する細胞集団を選別することが好ましい。選別した細胞集団を、更に上記の方法で培養してもよい。これらの追加の特性を有する細胞集団を選別する工程もまた、細胞集団を培養する工程と一体となった工程であってもよいし、別の工程であってもよい。これらの追加の特性を有する細胞集団を選別する工程は、上記(a)及び(b)の特性を有する細胞集団を選別する工程と一体となった工程であってもよいし、別の工程であってもよい。
【0080】
また、本発明の一以上の実施形態に係る製造方法は、前記間葉系細胞を含む細胞集団を凍結保存する工程を含むことができる。前記細胞集団を凍結保存する工程を含む態様においては、前記細胞集団を解凍後、必要に応じて前記細胞集団を分離、回収及び/又は培養してもよい。また、前記細胞集団を解凍後、そのまま使用してもよい。
【0081】
前記間葉系細胞を含む細胞集団を凍結保存するための手段は、特に限定されないが、例えば、プログラムフリーザー、ディープフリーザー、液体窒素への浸漬などが挙げられる。凍結する際の温度は、好ましくは-30℃以下、-40℃以下、-50℃以下、-60℃以下、-70℃以下、-80℃以下、-90℃以下、-100℃以下、-110℃以下、-120℃以下、-130℃以下、-140℃以下、-150℃以下、-160℃以下、-170℃以下、-180℃以下、-190℃以下、又は-196℃(液体窒素温度)以下である。凍結する際の好ましい凍結速度は、例えば、-1℃/分、-2℃/分、-3℃/分、-4℃/分、-5℃/分、-6℃/分、-7℃/分、-8℃/分、-9℃/分、-10℃/分、-11℃/分、-12℃/分、-13℃/分、-14℃/分又は-15℃/分である。かかる凍結手段としてプログラムフリーザーを用いた場合、例えば、-2℃/分以上-1℃/分以下の凍結速度で-50℃以上-30℃以下の間の温度(例えば、-40℃)まで温度を下げ、さらに-11℃/分以上-9℃/分以下(例えば、-10℃/分)の凍結速度で-100℃以上-80℃以下の温度(例えば、-90℃)まで温度を下げることができる。
【0082】
上記の凍結手段により凍結する際、上記の細胞集団は、任意の保存容器に入った状態で凍結されてよい。かかる保存容器としては、例えば、クライオチューブ、クライオバイアル、凍結用バッグ、輸注バッグなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0083】
凍結用保存液は、相対的に増殖能が高い間葉系細胞の生存率を高める観点から、0質量%より多い所定濃度のアルブミンを含有することが好ましい。アルブミンの好ましい濃度は、例えば、0.5質量%以上、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、4質量%以上、5質量%以上、6質量%以上、7質量%以上又は8質量%以上である。また、アルブミンの好ましい濃度は、例えば、40質量%以下、35質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下又は9質量%以下である。アルブミンとしては、例えば、ウシ血清アルブミン、マウスアルブミン、ヒトアルブミン等を挙げることができるが、これに限定されない。
【0084】
[4]医薬組成物
本発明の一以上の実施形態に係る間葉系細胞を含む細胞集団は、医薬組成物として使用することができる。即ち、本発明の一以上の実施形態によれば、前記細胞集団と、製薬上許容し得る媒体とを含む、医薬組成物が提供される。
【0085】
本発明の一以上の実施形態の医薬組成物は、細胞治療剤、例えば、難治性疾患治療剤として使用することができる。
【0086】
本発明の一以上の実施形態の医薬組成物は、免疫関連疾患、虚血性疾患、下肢虚血、脳血管虚血、腎臓虚血、肺虚血、神経性疾患、移植片対宿主病(GVHD)、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、放射線腸炎、全身性エリテマトーデス、紅斑性狼瘡、膠原病、脳卒中、脳梗塞、脳内血腫、脳血管麻痺、脳腫瘍、肝硬変、アトピー性皮膚炎、多発性硬化症、乾癬、表皮水疱症、糖尿病、菌状息肉腫(Alibert-Bazin症候群)、強皮症、軟骨等の結合組織の変性及び/又は炎症から起こる疾患、関節軟骨欠損、半月板損傷、離弾性骨軟骨症、無腐性骨壊死、変形性膝関節症、炎症性関節炎、関節リウマチ、眼疾患、血管新生関連疾患、虚血性心疾患、冠動脈性心疾患、心筋梗塞、狭心症、心不全、心筋症、弁膜症、創傷、上皮損傷、線維症、肺疾患、筋ジストロフィー、慢性膵炎、慢性腎炎、並びに癌から選択される疾患の治療剤として使用することができる。本発明の一以上の実施形態の医薬組成物を治療部位に効果が計測できる量投与することで、上記疾患を治療することができる。
【0087】
本発明の一以上の実施形態によれば、医薬組成物のために使用される、本発明の一以上の実施形態の間葉系細胞を含む細胞集団が提供される。
本発明の一以上の実施形態によれば、細胞治療剤のために使用される、本発明の一以上の実施形態の間葉系細胞を含む細胞集団が提供される。
本発明の一以上の実施形態によれば、前記疾患の治療のために使用される、本発明の一以上の実施形態の間葉系細胞を含む細胞集団が提供される。
本発明の一以上の実施形態によれば、患者又は被験者に投与して、心筋の再生、心筋細胞の産生、血管新生、血管の修復、又は、免疫応答の抑制のために使用される、本発明の一以上の実施形態の間葉系細胞を含む細胞集団が提供される。
【0088】
本発明の一以上の実施形態によれば、患者又は被験者に、本発明の一以上の実施形態の間葉系細胞を含む細胞集団の治療有効量を投与する工程を含む、患者又は被験者に細胞を移植する方法、並びに患者又は被験者の疾患の治療方法が提供される。
【0089】
本発明の一以上の実施形態によれば、医薬組成物の製造のための、本発明の一以上の実施形態の間葉系細胞を含む細胞集団の使用が提供される。
【0090】
本発明の一以上の実施形態によれば、細胞治療剤の製造のための、本発明の一以上の実施形態の間葉系細胞を含む細胞集団の使用が提供される。
【0091】
本発明の一以上の実施形態によれば、前記疾患の治療剤の製造のための、本発明の一以上の実施形態の間葉系細胞を含む細胞集団の使用が提供される。
【0092】
本発明の一以上の実施形態によれば、患者又は被験者に投与して、心筋の再生、心筋細胞の産生、血管新生、血管の修復、又は、免疫応答の抑制に必要な治療剤の製造のための、本発明の一以上の実施形態の間葉系細胞を含む細胞集団の使用が提供される。
【0093】
本発明の一以上の実施形態の医薬組成物の投与量としては、患者又は被験者に投与した場合に、投与していない患者又は被験者と比較して疾患に対して治療効果を得ることができるような細胞の量である。具体的な投与量は、投与形態、投与方法、使用目的、及び患者又は被験者の年齢、体重及び症状等によって適宜決定することができる。投与量は、特に限定されないが、例えば、間葉系細胞の細胞数として、10個/kg体重以上、10個/kg体重以上又は10個/kg体重以上である。また、投与量は、特に限定されないが、例えば、間葉系細胞の細胞数として、10個/kg体重以下、10個/kg体重以下又は10個/kg体重以下である。また、1回の投与量としては、間葉系細胞の細胞数として好ましくは1012個以下、より好ましくは1011個以下、より好ましくは1010個以下である。
【0094】
本発明の一以上の実施形態の医薬組成物の投与方法は、特に限定されないが、例えば、皮下注射、リンパ節内注射、静脈内注射、腹腔内注射、胸腔内注射又は局所への直接注射、又は局所に直接移植することなどが挙げられる。
【0095】
本発明の一以上の実施形態の医薬組成物は、他の疾患治療目的に注射用製剤、或いは細胞塊又はシート状構造の移植用製剤、或いは任意のゲルと混合したゲル製剤として用いることも可能である。上述したとおり、本発明の好ましい態様においては、得られる細胞集団は細胞シートの形態で基材から剥離できることから、得られたシート形態の細胞集団をそのまま(あるいは最低限の加工で)シート状の移植用製剤としても利用することができる。すなわち、シート状の間葉系細胞を含む細胞集団も本発明における一態様である。
【0096】
本発明の一以上の実施形態の医薬組成物が対象とする患者又は被験者とは、典型的にはヒトであるが、他の動物であってもよい。他の動物としては、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、サル、フェレット等の哺乳動物、ニワトリ等の鳥類が挙げられる。
【0097】
本発明の一以上の実施形態の医薬組成物は、使用直前まで凍結状態にて保存することができる。本発明の一以上の実施形態の医薬組成物は、ヒトの治療の際に用いられる任意の成分を含んでもよい。かかる成分としては、例えば、塩類、多糖類(例えば、HES、デキストランなど)、タンパク質(例えば、アルブミンなど)、DMSO、培地成分(例えば、RPMI1640培地に含まれる成分など)などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0098】
また、本発明の一以上の実施形態の医薬組成物は、間葉系細胞を含む細胞集団を、製薬上許容し得る媒体として使用される輸液製剤により希釈したものでもよい。本明細書における「輸液製剤(製薬上許容し得る媒体)」としては、ヒトの治療の際に用いられる溶液であれば特に限定されないが、例えば、生理食塩液、5%ブドウ糖液、リンゲル液、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、開始液(1号液)、脱水補給液(2号液)、維持輸液(3号液)、術後回復液(4号液)等を挙げることができる。
【0099】
患者又は被験者において間葉系細胞を含む細胞集団を用いて治療することができる疾患等の他の例、前記疾患等の更なる具体例、及び、治療の具体的な手順は、Hare et al.,J.Am.Coll.Cardiol.,2009 December 8;54(24):2277-2286、Honmou et al.,Brain 2011:134;1790-1807、Makhoul et al.,Ann.Thorac.Surg.2013;95:1827-1833、特許第5950577号公報、特表2010-518096号公報、特表2012-509087号公報、特表2014-501249号公報、特開2013-256515号公報、特開2014-185173号公報、特表2010-535715号公報、特開2015-038059号公報、特開2015-110659号公報、特表2006-521121号公報、特表2009-542727号公報、特開2014-224117号公報、特開2015-061862号公報、特表2002-511094号公報、特表2004-507454号公報、特表2010-505764号公報、特表2011-514901号公報、特開2013-064003号公報、特開2015-131795号公報等に記載された事項を参照することができる。
以下の実施例にて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例
【0100】
<比較例1>
(工程1-1:羊膜の採取)
インフォームドコンセントを得た待機的帝王切開症例の妊婦(ドナー♯1)から、胎児付属物である卵膜及び胎盤を無菌的に採取した。得られた卵膜及び胎盤を生理食塩水が入った滅菌バットに収容し、卵膜の断端から羊膜を用手的に剥離した。羊膜をハンクス平衡塩溶液(Ca・Mg不含有)にて洗浄し、付着した血液及び血餅を除去した。
【0101】
(工程1-2:羊膜の酵素処理及び間葉系細胞の回収)
上皮細胞層と間葉系細胞を含む細胞外基質層とを含む羊膜を240PU/mLコラゲナーゼ及び200PU/mLディスパーゼIを含有するハンクス平衡塩溶液(Ca・Mg含有)に浸し、37℃にて90分間、50rpmの条件にて振盪攪拌することにより羊膜を酵素処理した。酵素処理後の溶液を目開き95μmのナイロンメッシュでろ過することにより羊膜の未消化物を取り除き、間葉系細胞を含む細胞懸濁液を回収した。
【0102】
(工程1-3:間葉系細胞の培養)
上述の「工程1-2:羊膜の酵素処理及び間葉系細胞の回収」で得られた、間葉系細胞を含む細胞集団を培養容器のCellSTACK(登録商標)(コーニング社製)に播種した。播種密度は、6,000cells/cmの密度で播種した。細胞播種後は、終濃度が10%のウシ胎児血清(FBS)及び10ng/mLの塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含むαMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)にてサブコンフルエントになるまで接着培養した。培養後、CellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートしたところ、3割程度の細胞集団が剥離されずにCellSTACK(登録商標)に接着したまま培養容器に残存した。そこで、追加で5分間(合計8分間)インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させ、残存した細胞集団についても回収した。ここで取得した細胞集団は0継代目の細胞集団である。その後、前記細胞集団の1/5量の細胞集団を先の培養と同じスケールのCellSTACK(登録商標)に播種することにより、終濃度が10%のFBS及び10ng/mLのbFGFを含むαMEMにて継代培養を行った。培地交換は2~4日に1回の頻度で実施した。サブコンフルエントに達した時点でCellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートしたところ、3割程度の細胞集団が剥離されずにCellSTACK(登録商標)に接着したまま培養容器に残存した。そこで、追加で5分間(合計8分間)インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させ、残存した細胞集団についても回収した。ここで取得した細胞集団は1継代目の細胞集団である。その後、細胞濃度が2×10cells/mLになるようRPMI1640を添加した。これに等量のCP-1(登録商標)溶液(CP-1(登録商標):25%ヒト血清アルブミン=34:16の比で混合した溶液)を加え、1mLずつクライオバイアルに移した後、-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で1日凍結保存した。その後、前記凍結保存していた細胞集団を解凍し、約15,000~18,000cells/cmの密度において、前記1継代目の細胞集団をCellSTACK(登録商標)に播種し、終濃度にして10%のウシ胎児血清(FBS)及び10ng/mLの塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含むαMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)にてサブコンフルエントになるまで接着培養した。培養後、CellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートしたところ、3割程度の細胞集団が剥離されずにCellSTACK(登録商標)に接着したまま培養容器に残存した。そこで、追加で5分間(合計8分間)インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させ、残存した細胞集団についても回収した。ここで取得した細胞集団は2継代目の細胞集団である。その後、前記細胞集団の1/5量の細胞集団を先の培養と同じスケールのCellSTACK(登録商標)に播種することにより、終濃度が10%のFBS及び10ng/mLのbFGFを含むαMEMにて継代培養を行った。培地交換は2~4日に1回の頻度で実施した。サブコンフルエントに達した時点でCellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートしたところ、3割程度の細胞集団が剥離されずにCellSTACK(登録商標)に接着したまま培養容器に残存した。そこで、追加で5分間(合計8分間)インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させ、残存した細胞集団についても回収した。ここで取得した細胞集団は3継代目の細胞集団である。前記細胞集団について、細胞濃度が4×10cells/mLになるようRPMI1640を添加した。これに等量のCP-1(登録商標)溶液(CP-1(登録商標):25%ヒト血清アルブミン=34:16の比で混合した溶液)を加え、1mLずつクライオバイアルに移した後、-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で1日凍結保存した。その後、前記凍結保存していた細胞集団を解凍し、約6,000cells/cmの密度において前記3継代目の細胞集団をCellSTACK(登録商標)に播種し、終濃度が10%のウシ胎児血清(FBS)及び10ng/mLの塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含むαMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)にてサブコンフルエントになるまで接着培養した。培養後、CellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートしたところ、3割程度の細胞集団が剥離されずにCellSTACK(登録商標)に接着したまま培養容器に残存した。そこで、追加で5分間(合計8分間)インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させ、残存した細胞集団についても回収した。ここで取得した細胞集団は4継代目の細胞集団である。その後、前記細胞集団の1/5量の細胞集団を先の培養と同じスケールのCellSTACK(登録商標)に播種することにより、終濃度が10%のFBS及び10ng/mLのbFGFを含むαMEMにて継代培養を行った。培地交換は2~4日に1回の頻度で実施した。サブコンフルエントに達した時点でCellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートしたところ、3割程度の細胞集団が剥離されずにCellSTACK(登録商標)に接着したまま培養容器に残存した。そこで、追加で5分間(合計8分間)インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させ、残存した細胞集団についても回収した。ここで取得した細胞集団は5継代目の細胞集団である。その後、細胞濃度が4×10cells/mLになるようRPMI1640を添加した。これに等量のCP-1(登録商標)溶液(CP-1(登録商標):25%ヒト血清アルブミン=34:16の比で混合した溶液)を加え、1mLずつクライオバイアルに移して-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で凍結保存した。
【0103】
(工程1-4:間葉系細胞の表面抗原解析)
上記の培養方法で培養した5継代目の細胞集団に関し、フローサイトメーターを用いて各種表面抗原(CD324の陽性率、CD73の陽性率、CD90の陽性率、CD105の陽性率、CD166の陽性率、CD45の陰性率、CD326の陰性率)を解析した。その結果、CD324の陽性率は70%未満(具体的には33%)、CD105の陽性率は70%以上(具体的には93%)、CD73、CD90、CD166の陽性率はいずれも90%以上であった(具体的にはCD73:99%、CD90:93%、CD166:97%)。CD45、CD326の陰性率はいずれも95%以上であった(具体的にはCD45:100%、CD326:100%)。以上の結果から、上記の培養方法で培養した細胞集団は、間葉系細胞を含む細胞集団であることが分かった。また、比較例1の5継代目の細胞集団は、CD90陽性を呈する間葉系細胞の比率が90%以上という条件は満たすものの、CD324陽性を呈する細胞の比率が70%以上であるという条件は満たさない細胞集団であることが分かった。
【0104】
なお、本測定では、アイソタイプコントロール用抗体として、REA Control(S)APC(Miltenyi Biotec社、クローン:REA293、型番:130-113-434)を使用し、CD324抗原に対する抗体として、CD324-APC、Human(Miltenyi Biotec社、クローン:REA811、型番:130-111-840)を、CD73抗原に対する抗体として、CD73-APC、Human(Miltenyi Biotec社、クローン:REA804、型番:130-111-909)を、CD90抗原に対する抗体として、CD90-APC、Human(Miltenyi Biotec社、クローン:REA897、型番:130-114-861)を、CD105抗原に対する抗体として、CD105-APC、Human(Miltenyi Biotec社、クローン:REA794、型番:130-112-166)を、CD166抗原に対する抗体として、CD166-APC、Human(Miltenyi Biotec社、クローン:REA442、型番:130-106-576)を、CD45抗原に対する抗体として、CD45-APC、Human(Miltenyi Biotec社、クローン:REA747、型番:130-110-633)を、CD326抗原に対する抗体として、CD326-APC、Human(Miltenyi Biotec社、クローン:REA764、型番:130-111-000)を使用した。表面抗原解析は、メルク社のGuava easyCyteを用い、測定条件は解析細胞数:30,000cells、流速設定:35.4μL/minとした。また、各抗原に対する陽性細胞の比率(陽性率)は、以下の手順で算出した。
【0105】
(1)アイソタイプコントロールの測定結果を、縦軸にSSC、横軸にFSCとしたドットプロットで展開した。
(2)間葉系細胞に該当する細胞集団のゲートを設定し、その細胞集団に対して、縦軸にカウント数、横軸をAPCの傾向強度としたヒストグラムで展開した。
(3)(2)のヒストグラムにおいて、アイソタイプコントロール用抗体で測定した総細胞のうち、より蛍光強度が強い細胞集団が0.5%以下となる全ての領域(ゲート)を選択した。
(4)表面抗原マーカーに対応する抗体で測定した総細胞のうち、(3)で選択したゲート内に含まれる細胞の割合を算出した。
【0106】
<実施例1>
(工程2-1:羊膜の採取)
比較例1と同じドナー(ドナー♯1)から、比較例1と同様の手法にて羊膜を取得した。
【0107】
(工程2-2:羊膜の酵素処理及び間葉系細胞の回収)
比較例1と同じ手法にて間葉系細胞を含む細胞集団を取得した。
【0108】
(工程2-3:間葉系細胞の培養)
上述の「工程2-2:羊膜の酵素処理及び間葉系細胞の回収」で得られた、間葉系細胞を含む細胞集団を培養容器のCellSTACK(登録商標)(コーニング製)に播種した。播種密度は、6,000cells/cmの密度とした。細胞播種後は、終濃度が5%のヒト血小板溶解物(hPL)を含むαMEMにてサブコンフルエントになるまで接着培養した。培養後、CellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させることができた。ここで取得した細胞集団は0継代目の細胞集団である。その後、前記細胞集団の1/5量の細胞集団を先の培養と同じスケールのCellSTACK(登録商標)に播種することにより、終濃度が5%のhPLを含むαMEMにて継代培養を行った。培地交換は2~4日に1回の頻度で実施した。サブコンフルエントに達した時点でCellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させることができた。ここで取得した細胞集団は1継代目の細胞集団である。その後、細胞濃度が2×10cells/mLになるようRPMI1640を添加した。これに等量のCP-1(登録商標)溶液(CP-1(登録商標):25%ヒト血清アルブミン=34:16の比で混合した溶液)を加え、1mLずつクライオバイアルに移した後、-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で1日凍結保存した。その後、前記凍結保存していた細胞集団を解凍し、約15,000~18,000cells/cmの密度において、前記1継代目の細胞集団をCellSTACK(登録商標)に播種し、終濃度が5%のヒト血小板溶解物(hPL)を含むαMEMにてサブコンフルエントになるまで接着培養した。その後、CellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させることができた。ここで取得した細胞集団は2継代目の細胞集団である。次いで、前記細胞集団の1/5量の細胞集団を先の培養と同じスケールのCellSTACK(登録商標)に播種することにより、終濃度が5%のhPLを含むαMEMにて継代培養を行った。培地交換は2~4日に1回の頻度で実施した。サブコンフルエントに達した時点でCellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させることができた。ここで取得した細胞集団は3継代目の細胞集団である。その後、細胞濃度が4×10cells/mLになるようRPMI1640を添加した。これに等量のCP-1溶液(登録商標)(CP-1(登録商標):25%ヒト血清アルブミン=34:16の比で混合した溶液)を加え、1mLずつクライオバイアルに移した後、-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で1日凍結保存した。その後、前記凍結保存していた細胞集団を解凍し、約6,000cells/cmの密度において、前記3継代目の細胞集団をCellSTACK(登録商標)に播種し、終濃度が5%のヒト血小板溶解物(hPL)を含むαMEMにてサブコンフルエントになるまで接着培養した。その後、CellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させることができた。ここで取得した細胞集団は4継代目の細胞集団である。次いで、前記細胞集団の1/5量の細胞集団を先の培養と同じスケールのCellSTACK(登録商標)に播種することにより、終濃度が5%のhPLを含むαMEMにて継代培養を行った。培地交換は2~4日に1回の頻度で実施した。サブコンフルエントに達した時点でCellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させることができた。ここで取得した細胞集団は5継代目の細胞集団である。前記細胞集団について、細胞濃度が4×10cells/mLになるようRPMI1640を添加した。これに等量のCP-1(登録商標)溶液(CP-1(登録商標):25%ヒト血清アルブミン=34:16の比で混合した溶液)を加え、1mLずつクライオバイアルに移した後、-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で凍結保存した。
【0109】
(工程2-4:間葉系細胞の表面抗原解析)
上記の培養方法で培養した5継代目の間葉系細胞集団に関し、フローサイトメーターを用いて各種表面抗原(CD324の陽性率、MSCマーカーと知られているCD73の陽性率、CD90の陽性率、CD105の陽性率、CD166の陽性率、CD45の陰性率、CD326の陰性率)を解析した。その結果、CD324、CD105の陽性率は70%以上(具体的にはCD324:91%、CD105:95%)、CD73、CD90、CD166の陽性率はいずれも90%以上であった(具体的にはCD73:100%、CD90:100%、CD166:99%)。CD45、CD326の陰性率はいずれも95%以上であった(具体的にはCD45:100%、CD326:99%)。以上の結果から、上記の培養方法で培養した細胞は、間葉系細胞を含む細胞集団であることが分かった。また、実施例1に記載の細胞集団は、CD324陽性を呈する細胞の比率が70%以上であり、かつCD90陽性を呈する間葉系細胞の比率が90%以上である細胞集団であることが確認された。
なお、本測定の方法、試薬は比較例1と同じである。
【0110】
<実施例2>
以下に示す実施例2では、比較例1、実施例1と比較してドナーや酵素処理条件、培養条件が異なる間葉系細胞集団を取得した。
【0111】
比較例1、実施例1とは異なる、インフォームドコンセントを得た待機的帝王切開症例の妊婦3名(ドナー#2~#4)から、胎児付属物である卵膜及び胎盤を無菌的に採取した。
【0112】
(工程3-1:羊膜の採取)
比較例1及び実施例1と同様の手法にて羊膜を取得した。
【0113】
(工程3-2:羊膜の酵素処理及び間葉系細胞の回収)
上皮細胞層と間葉系細胞を含む細胞外基質層とを含む羊膜を480PU/mLコラゲナーゼ及び400PU/mLディスパーゼIを含有するハンクス平衡塩溶液(Ca・Mg含有)に浸し、37℃にて90分間、50rpmの条件にて振盪攪拌することにより羊膜を酵素処理した。酵素処理後の溶液を目開き95μmのナイロンメッシュでろ過することにより羊膜の未消化物を取り除き、間葉系細胞を含む細胞懸濁液を回収した。
【0114】
(工程3-3:間葉系細胞の培養)
上述の「工程3-2:羊膜の酵素処理及び間葉系細胞の回収」で得られた、間葉系細胞を含む細胞集団を培養容器のCellSTACK(登録商標)に播種した。播種密度は、1,000cells/cmとした。細胞播種後は、終濃度が5%のヒト血小板溶解物(hPL)を含むαMEMにてサブコンフルエントになるまで接着培養した。培地交換は3~5日に1回の頻度で実施した。培養後、CellStack(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させることができた。ここで取得した細胞集団は0継代目の細胞集団である。その後、細胞濃度が2×10cells/mLになるよう生理食塩液を添加した。これに等量のCP-1(登録商標)溶液(CP-1(登録商標):25%ヒト血清アルブミン=34:16の比で混合した溶液)を加え、1mLずつクライオバイアルに移した後、-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で1日凍結保存した。その後、前記凍結保存していた細胞集団を解凍し、約1,000cells/cmの密度で1継代目の細胞集団をCellSTACK(登録商標)に播種し、終濃度が5%のヒト血小板溶解物(hPL)を含むαMEMにてサブコンフルエントになるまで5日間接着培養した。その後、CellStack(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させることができた。ここで取得した細胞集団は1継代目の細胞集団である。次いで、細胞濃度が2×10cells/mLになるよう生理食塩液を添加した。これに等量のCP-1(登録商標)溶液(CP-1(登録商標):25%ヒト血清アルブミン=34:16の比で混合した溶液)を加え、1mLずつクライオバイアルに移した後、-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で1日凍結保存した。その後、前記凍結保存していた細胞集団を解凍し、約1,000cells/cmの密度で2継代目の細胞集団をCellSTACK(登録商標)に播種し、終濃度が5%のヒト血小板溶解物(hPL)を含むαMEMにてサブコンフルエントになるまで5日間接着培養した。その後、CellStack(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させることができた。ここで取得した細胞集団は2継代目の細胞集団である。前記細胞集団について、細胞濃度が4×10cells/mLになるよう生理食塩液を添加した。これに等量のCP-1溶液(登録商標)(CP-1(登録商標):25%ヒト血清アルブミン=34:16の比で混合した溶液)を加え、1mLずつクライオバイアルに移して-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で凍結保存した。
【0115】
(工程3-4:間葉系細胞の表面抗原解析)
工程3-3に記載の培養方法で培養した2継代目の細胞集団(#2~#4)に関し、フローサイトメーターを用いて各種表面抗原(CD324の陽性率、CD73の陽性率、CD90の陽性率、CD105の陽性率、CD166の陽性率、CD45の陰性率、CD326の陰性率)を解析した。その結果、CD324、CD105の陽性率は70%以上(具体的には#2、♯3、#4の順にそれぞれ、CD324:90%、87%、87%、CD105:89%、91%、74%)、CD73、CD90及びCD166の陽性率はいずれも90%以上であった(具体的には#2、♯3、#4の順にそれぞれ、CD73:100%、99%、100%、CD90:100%、99%、100%、CD166:99%、97%、98%)。CD45、CD326の陰性率はいずれも95%以上であった(具体的には#2、♯3、#4の順にそれぞれ、CD45:99%、100%、100%、CD326:99%、100%、100%)。以上の結果から、上記の培養方法で培養した#2、#3、#4の細胞集団は、全てCD324陽性を呈する細胞を含む細胞集団であることが分かった。また、実施例2に記載の細胞集団は、CD324陽性を呈する細胞の比率が70%以上であり、かつCD90陽性を呈する間葉系細胞の比率が90%以上である細胞集団であることが確認された。なお、本測定の方法、試薬は比較例1と同じである。
【0116】
<評価実験:間葉系細胞の培養基材からの剥離能の評価>
(評価1:比較例1で得られた細胞集団における評価)
比較例1の工程1-3に記載の培養方法で培養した5継代目の細胞集団(♯1)を解凍し、約10,000cells/cmの密度で5継代目の細胞集団を6ウェルプレートに播種し、終濃度が10%のウシ胎児血清(FBS)及び10ng/mLの塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含むαMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)にて接着培養を開始した。培地交換は3~5日に1回の頻度で実施した。培養5日目にコンフルエンシーが100%になったが、剥離処理を行うことなく、培養を継続した。培養4、5、6、7、10、11、12、13、14、17、21日目の細胞形態を、オリンパス社の位相差顕微鏡を用いて観察した。培養7日目にはオーバーコンフルエントとなり、細胞が隙間なく密着する状態となった。しかしながら、その後は細胞形態に目立った変化はなく、培養を開始してから21日経過しても、6ウェルプレートから細胞が自発的に剥離することはなかった(図1:培養21日目の細胞形態)。
【0117】
(評価2:実施例1及び2で得られた細胞集団における評価)
実施例1の工程2-3に記載の培養方法で培養した5継代目の細胞集団(♯1)及び実施例2の工程3-3に記載の培養方法で培養した2継代目の細胞集団(#3)を解凍し、約10,000cells/cmの密度で培養容器(6ウェルプレート)に播種し、終濃度が5%のヒト血小板溶解物(hPL)を含むαMEMにて接着培養を開始した。培地交換は3~5日に1回の頻度で実施した。培養4日目にコンフルエンシーが100%になったが、剥離処理を行うことなく、培養を継続した。培養4、5、6、7、10、11、12、13、14、17、21日目の細胞形態を、オリンパス社の位相差顕微鏡を用いて観察した。培養5日目にはオーバーコンフルエントとなり、細胞同士が隙間なく密着、一部では細胞同士は重積する状態となった。培養10日目には、細胞集団の一部分が、自発的に培養容器から剥離した(図2図3:培養10日目に観察された部分的な細胞の剥離)。剥離した細胞集団の一部分はシート状の形態であった。培養11日目では、細胞集団全体が培養容器から自発的に剥離し、一枚の細胞シートとなった(図4:ドナー#3から調製した実施例2の2継代目の細胞集団の培養11日目に観察された、剥離した細胞シートが凝集した塊状構造物)。
【0118】
以上の結果から、CD324陽性を呈する細胞の比率が70%以上であり、かつCD90陽性を呈する間葉系細胞の比率が90%以上である細胞集団は、培養容器から自発的に剥離してくることが明らかとなった。つまり、上記条件を満たす細胞集団は、剥離剤添加などの化学的手段、又はセルスクレーパーを用いて物理的に細胞集団を回収する物理的手段を講じることなく、培養した細胞集団を容易に回収することができる。これにより、本発明の細胞集団は、従来の方法で必要であった剥離工程を必要とせず、細胞へのダメージを軽減又は抑制することが可能となる。
【0119】
また、CD324陽性を呈する細胞の比率が70%以上であり、かつCD90陽性を呈する間葉系細胞の比率が90%以上という条件を満たす細胞集団は、剥離後の細胞集団を細胞シートの形態で取得することができる。つまり、本発明に記載の方法によれば、上述したような化学的手段または物理的手段を用いることなく、また培養容器に対して特別な処置を施すことなく、細胞シートを作成することが可能である。細胞シートは、作業性の観点から臨床使用に適した製剤形態であり、有用である。
【0120】
<医薬組成物の調製>
上記の実施例2で得られた間葉系細胞集団(♯2~4)の一部を医薬組成物の調製に供する。間葉系細胞2.0×10個、6.8mLのCP-1溶液(登録商標)、3.2mLの25%ヒト血清アルブミン溶液、及び10mLの生理食塩液を含有する医薬組成物(細胞製剤)を調製する。当該医薬組成物を凍結用バッグに封入し、凍結状態で保存する。なお、使用時に医薬組成物を解凍し、患者に供することができる。
【0121】
<表面抗原の陰性率、陽性率のまとめ>
表1に比較例1、実施例1、及び実施例2における表面抗原解析、継代時の酵素処理時間、及び細胞シート形成能の結果についてまとめる。
【0122】
【表1】
【0123】
<参考例>
(工程4-1:骨髄由来間葉系幹細胞の培養)
ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hMSC間葉系幹細胞、Lonza社製)を購入し、解凍して6,000cells/cmの密度でφ15cmのディッシュに播種し、Lonza社製の専用培地でサブコンフルエントになるまで接着培養した。培地交換は3~5日に1回の頻度で実施した。その後、TrypLE Selectを用いて細胞集団を剥離し、細胞濃度が2×10cells/mLになるよう生理食塩液を添加した。これに等量のCP-1(登録商標)溶液(CP-1(登録商標):25%ヒト血清アルブミン=34:16の比で混合した溶液)を加え、1mLずつクライオバイアルに移した後、-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で凍結保存した。
【0124】
(工程4-2:骨髄由来間葉系幹細胞の表面抗原解析)
工程4-1に記載の培養方法で培養した骨髄由来間葉系幹細胞集団に関し、フローサイトメーターを用いて各種表面抗原(CD324の陽性率、MSCマーカーと知られているCD73の陽性率、CD90の陽性率、CD105の陽性率、CD166の陽性率、CD45の陰性率、CD326の陰性率)を解析した。その結果、CD324の陽性率は70%以下(具体的には1%)、CD73、CD90、CD105、CD166の陽性率はいずれも90%以上であった(具体的にはCD73:97%、CD90:98%、CD105:97%、CD166:95%)。CD45、CD326の陰性率はいずれも95%以上であった(具体的にはCD45:100%、CD326:100%)。
【0125】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図1
図2
図3
図4