(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 5/04 20060101AFI20240801BHJP
C10M 105/04 20060101ALI20240801BHJP
C10M 105/06 20060101ALI20240801BHJP
C10M 105/38 20060101ALI20240801BHJP
C10M 107/02 20060101ALI20240801BHJP
C10M 107/24 20060101ALI20240801BHJP
C10M 107/34 20060101ALI20240801BHJP
C10M 107/38 20060101ALI20240801BHJP
C10M 107/50 20060101ALI20240801BHJP
F25B 1/00 20060101ALI20240801BHJP
C10N 40/30 20060101ALN20240801BHJP
【FI】
C09K5/04 F
C09K5/04 E
C10M105/04 ZAB
C10M105/06 ZHV
C10M105/38
C10M107/02
C10M107/24
C10M107/34
C10M107/38
C10M107/50
F25B1/00 396Z
C10N40:30
(21)【出願番号】P 2021546393
(86)(22)【出願日】2020-02-11
(86)【国際出願番号】 GB2020050308
(87)【国際公開番号】W WO2020165571
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2023-01-11
(32)【優先日】2019-02-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2019-02-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】PCT/GB2019/052290
(32)【優先日】2019-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】516030797
【氏名又は名称】メキシケム フロー エセ・ア・デ・セ・ヴェ
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】ロバート・ロウ
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特許第7218349(JP,B2)
【文献】国際公開第2020/017386(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/030508(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/098238(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/178352(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/190177(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/147338(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00- 5/20
F25B 1/00- 7/00
C10M101/00-177/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)6~12重量%のR-1132a
(b)7~13重量%のR-32
(c)55~87重量%のR-1234yf
を含む、
冷媒組成物であって、前記組成物が、R-1234yfのもの以上であるサイクル効率(成績係数(COP))を有する、冷媒組成物。
【請求項2】
7~12重量%のR-1132aを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
7~10重量%のR-1132aを含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
8~13重量%のR-32を含む、請求項1~3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
9~13重量%のR-32を含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
60~87重量%のR-1234yfを含む、請求項1~5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
75~85重量%のR-1234yfを含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が、6~10重量%のR-1132aを含む、請求項1~7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物が、60~84重量%のR-1234yfを含む、請求項1~8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が、6~9重量%のR-1132aを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物が、6~8重量%のR-1132aを含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物が、63~85重量%のR-1234yfを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物が、72~81重量%のR-1234yfを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
述べられた成分から本質的になる、請求項1~13のいずれかに記載の組成物。
【請求項15】
前記組成物が、R-1132a単独と比較して、(a)より高い可燃下限界、(b)より高い発火エネルギー、(c)より高い自然発火温度、および/または(d)より低い燃焼速度を有する、請求項1~14のいずれかに記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物が、ASHRAE Standard 34:2019によって決定される10cm/秒未満の燃焼速度を有する、請求項1~15のいずれかに記載の組成物。
【請求項17】
前記組成物が、8cm/秒未満の燃焼速度を有する、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記組成物が、ASHRAE Standard 34:2019によって決定される弱可燃性(「クラス2L」)として分類される、請求項1~17のいずれかに記載の組成物。
【請求項19】
前記組成物が、400未満の地球温暖化係数(GWP)を有する、請求項1~18のいずれかに記載の組成物。
【請求項20】
前記組成物が、150未満の地球温暖化係数(GWP)を有する、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
前記組成物が、140未満の地球温暖化係数(GWP)を有する、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
潤滑剤と、請求項1~21のいずれかに記載の組成物とを含む組成物であって、前記潤滑剤が、鉱油、シリコーン油、ポリアルキルベンゼン(PAB)、ポリオールエステル(POE)、ポリアルキレングリコール(PAG)、ポリアルキレングリコールエステル(PAGエステル)、ポリビニルエーテル(PVE)、ポリ(アルファ-オレフィン)、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、組成物。
【請求項23】
前記潤滑剤が、ポリオールエステル(POE)、ポリアルキレングリコール(PAG)およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記組成物が、12K未満の蒸発器または凝縮器内での温度勾配を有する、請求項1~23のいずれかに記載の組成物。
【請求項25】
前記組成物が、5K未満の蒸発器または凝縮器内での温度勾配を有する、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
前記組成物が、-15℃未満の温度でヒートポンプモードで動作することができる、請求項1~25のいずれかに記載の組成物。
【請求項27】
前記組成物が、-20℃未満の温度でヒートポンプモードで動作することができる、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
R-1234yfのもの以上である加熱能力を有する、請求項1~27のいずれかに記載の組成物。
【請求項29】
R-1234yfのもの以上である体積冷却能力を有する、請求項1~28のいずれかに記載の組成物。
【請求項30】
前記組成物が、-30℃未満の温度で蒸発する、請求項1~
29のいずれかに記載の組成物。
【請求項31】
前記組成物が、40℃を超える温度で凝縮する、請求項1~
30のいずれかに記載の組成物。
【請求項32】
前記組成物の圧縮器吐出温度が、置換する既存の冷媒流体の15K以内である、請求項1~
31のいずれかに記載の組成物。
【請求項33】
前記既存の冷媒流体がR-1234yfである、請求項
32に記載の組成物。
【請求項34】
車両のヒートポンプシステムにおける作動流体としての請求項1~
33のいずれかに記載の組成物の使用であって、前記車両が電気車両である、使用。
【請求項35】
車両の空調システムにおける作動流体としての、請求項1~
32のいずれかに定義される組成物の、使用。
【請求項36】
前記車両が電気車両である、請求項
35に記載の使用。
【請求項37】
前記車両が内燃機関(ICE)で動作する車両である、請求項
35に記載の使用。
【請求項38】
冷却システムまたは空調システムにおける既存の熱伝達流体の置換としての、請求項1~
32のいずれかに定義される組成物の使用であって、前記既存の流体が、R-407Cである、使用。
【請求項39】
請求項1~
32のいずれかに定義される組成物を含む熱伝達装置であって、前記熱伝達装置が、冷却装置または空調装置である、熱伝達装置。
【請求項40】
前記熱伝達装置が、住宅用もしくは商業用空調システム、列車もしくはバス用の空調システム、ヒートポンプまたは商業用もしくは産業用冷却システムを含む、請求項
39に記載の熱伝達装置。
【請求項41】
物品を冷却するための方法であって、請求項1~
32のいずれかに記載の組成物を凝縮することと、その後、冷却される前記物品の近くで前記組成物を蒸発させることと、を含む、方法。
【請求項42】
物品を加熱するための方法であって、加熱される前記物品の近くで請求項1~
32のいずれかに記載の組成物を凝縮することと、その後、前記組成物を蒸発させることと、を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒組成物、より具体的には、ヒートポンプおよび空調システム、特に電気自動車用のシステムなどの移動式または自動車用熱管理システムにおいて有用である、1,1-ジフルオロエチレン(R-1132a)、ジフルオロメタン(R-32)および2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(R-1234yf)を含む冷媒組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
先行公開文献の列挙もしくは考察または本明細書におけるいかなる背景技術も、文献もしくは背景技術が技術水準の一部であるか、または一般的常識であることの認識として必ずしも解釈されるべきではない。
【0003】
特に明記しない限り、本明細書で使用される「電気車両」という用語は、純粋な電気車両、ならびにハイブリッド車両などのいくつかの推進手段のうちの1つとして電気を使用する車両の両方を指すことを理解されたい。
【0004】
一次推進システムとして内燃機関(ICE)を搭載した車はまた、しばしば空気を冷却および除湿することによって乗客快適性を提供する空調システムを有する。そのような車は、機関からの廃熱を使用してキャビン空気を加熱することによって、低温環境において乗客加熱を提供する。
【0005】
対照的に、電気車両(EV)は、同様のキャビン加熱を提供するのに十分な量の高温熱源を有しない。代わりに、乗客加熱は、抵抗加熱システムでバッテリーエネルギーを使用することか、またはヒートポンプを使用して他の熱源からの熱をリサイクルおよびアップグレードすることかのいずれかによって達成されなければならない。EV乗客もまた暖かい温度において冷却が必要なため、一般的戦略は、空調システムをヒートポンプとして逆に使用して、必要な熱の一部または全てを適切な温度でキャビン空気に提供することである。ヒートポンプアーキテクチャの使用はより高価であるが、乗客加熱のための全体的な消費電力を低減するのに役立つことができる。
【0006】
それにもかかわらず、乗客熱快適性要件は、冬(加熱を提供することから)および夏(空調を提供することから)の両方でEVの有効な運転範囲を顕著に低減できることが知られている。したがって、車両の加熱および空調のエネルギー効率を改善することは、EVユーザーの間のいわゆる「範囲不安」を低減するのに役立つであろう。
【0007】
移動式空調に使用される既存の冷媒は、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R-134a)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(R-1234yf)、および二酸化炭素(CO2、R-744)である。
【0008】
R-134aは、1430の地球温暖化係数(GWP)を有し、新しい移動式空調(MAC)システムが150未満のGWPを有する冷媒を使用する必要があることを義務付ける新しいEU F-Gas規制を満たすために、R-1234yf(約1のGWP)を優先して徐々に段階的に廃止している。R-134aおよびR-1234yfの両方は、空調システム(ICEまたはEV車両のいずれについても)で優れたエネルギー効率の高い性能を提供するが、EVの「ヒートポンプモード」で作動するそれらの能力には限界がある。
【0009】
周囲気温は、-25℃~-30℃まで低くすることができる。R-134aおよび/またはR-1234yfの使用は、周囲温度が約-10℃を超える場合に有利であり得る。しかしながら、この温度を下回ると、それらの相対的に低い蒸気圧は、システムの容量を低減し、ヒートポンプのエネルギー効率も低減する。
【0010】
二酸化炭素は、高圧機器を必要とし(R-1234yfを使用するシステムコンポーネントのためのものよりも高いコストにつながる)、より高い周囲温度での空調動作で乏しいエネルギー効率を提供するため、現在、少数のICE車両でのみ使用されている。
【0011】
乗客安全を提供するために1,1-ジフルオロエタン(R-152a)またはプロパンなどの可燃性の高い冷媒の「二次ループ」アーキテクチャと組み合わせた使用もまた、提唱されている。この技術は、チラーが高温と低温の液体のリザーバー間で熱を移動させるいくつかのEV熱管理システムに概念的に適しているが(その際、当該液体は、キャビン空気加熱または空調を実行するために使用されている)、EVまたはICE車両で広く採用される可能性は低い。
【発明の開示】
【0012】
車製造業者は、電気車両の急速な成長を期待しているが、今後10~15年間の顕著な数のICE車両の存在を期待している。したがって、全てのプラットフォームにわたる単一の冷媒組成物の使用は、生産上の利点、ならびにより単純な製造および保守作業を提供するであろう。
【0013】
したがって、以下の特徴を提供する冷媒組成物を提供する必要がある:
(a)空調およびヒートポンプモードの両方における許容可能な性能(理想的にはR-1234yfのものよりも優れている)、
(b)R-1234yfのものと同様の可燃性特徴、
(c)約150未満のGWP
【0014】
同時に、そのような組成物は、好ましくは、約-25℃~約-30℃まで低い周囲温度でヒートポンプモードで動作する際に満足のいく性能を達成するはずである。
【0015】
本発明は、1,1-ジフルオロエチレン(R-1132a)、ジフルオロメタン(R-32)および2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(R-1234yf)を特定の量で含む組成物の提供によって、上記および他の欠陥、ならびに上記ニーズに対処する。そのような組成物は、以下、(本)発明の組成物と称される。
【0016】
本発明者らは、本明細書に開示される組成物が、空調およびヒートポンプ動作モードの両方において、R-1234yfに対して改善された性能を提供することを見いだした。このことは、これらの流体を、従来のICEプラットフォームの空調システム、またEVプラットフォームの熱管理システムでの使用に好適にする。
【0017】
少なくともこれらの組成物の臨界温度はR-1234yfのものよりも低いため、この発見は予想外である。蒸気圧縮空調サイクルの効率は凝縮温度が臨界温度に近づくにつれて低減することが、知られている。したがって、これらの組成物の性能は、R-1234yfと比較した際に、特に暑い気候で車を運転する際に必要とされるより高い凝縮温度で、より悪くなると予想されるかもしれない。しかしながら、本発明の組成物は、R-1234yfと比較して、機器において改善された効率を提供することが見いだされている。その結果、得られた性能は、冷却能力およびエネルギー効率の両方でより高い(システムへの作動入力に対する有効冷却力の比である「成績係数」と記載される)。
【0018】
さらに、本発明の組成物は、R-1234yfのものよりも高い蒸気圧を有し、したがって、ヒートポンプモードにおいて、より低い外部周囲温度での動作を可能にする。したがって、組成物は、加熱モードならびに冷却モードにおいて改善されたエネルギー消費および加熱能力を提供する。
【0019】
組成物のさらなる利点は、それらが非共沸性であり、適度な「温度勾配」を示すことである。
【0020】
次に、本発明の組成物が、詳細に記載される。
【0021】
本発明の組成物は、約6~約18重量%のR-1132a、約5~約35重量%R-32および約47~約89重量%のR-1234yfを典型的に含む。
【0022】
好都合には、そのような組成物は、約7~約12重量%、例えば、約7~約10重量%などの、約6~約15重量%のR-1132aを含む。
【0023】
典型的には、本発明の組成物は、約7~約20重量%、例えば、約8~約15重量%、好ましくは約9~約13重量%などの、約6~約30重量%のR-32を含む。
【0024】
有利には、そのような組成物は、約60~約87重量%、例えば、約75~約85重量%、好ましくは約78~約84重量%などの、約55~約88重量%のR-1234yfを含む。
【0025】
本発明の組成物は、好都合には、約6~約7重量%などの、約6~約10重量%のR-1132aを含む。
【0026】
好ましくは、そのような組成物は、約7~約30重量%未満などの、約6~約30重量%未満のR-32を含む。
【0027】
典型的には、本発明の組成物は、約60~約84重量%、好ましくは約75~約84重量%などの、約55~約87重量%のR-1234yfを含む。
【0028】
例えば、本発明の好ましい組成物のうちの1つは、約8重量%のR-1132a、約11重量%のR-32、および約81重量%のR-1234yfを含む。
【0029】
代替的には、本発明の組成物は、約6~約8重量%などの、約6~約9重量%のR-1132aを含み得る。
【0030】
有利には、本発明の組成物は、約10~約25重量%、例えば、約12~約23重量%、好ましくは約14~約21重量%、さらに好ましくは約15~約19重量%などの、約7~約28重量%のR-32を含有し得る。
【0031】
典型的には、本発明の組成物は、約63~約85重量%のR-1234yf、例えば、約67~約83重量%、好ましくは約69~約82重量%、さらにより好ましくは約72~約81重量%を含み得る。
【0032】
例えば、本発明の好ましい組成物のうちの1つは、約6重量%のR-1132a、約20重量%のR-32、および約74重量%のR-1234yfnを含み得る。
【0033】
好ましくは、本発明の組成物についての公差(好ましくは製造公差)は、R-1132aについて約±0.5重量%、R-32について約±1重量%、およびR-1234yfについて約±1.5重量%である。
【0034】
一実施形態では、本発明の組成物は、記載された成分から本質的になる。「から本質的になる」という用語は、本発明の組成物が他の成分、特に、熱伝達組成物において使用されることが既知であるさらなる(ヒドロ)(フルオロ)化合物(例えば、(ヒドロ)(フルオロ)アルカンまたは(ヒドロ)(フルオロ)アルケン))を実質的に含有しないことを意味する。「からなる」という用語は、「から本質的になる」の意味に含まれる。
【0035】
一実施形態では、本発明の組成物は、熱伝達特性を有するいかなる成分(特定される成分を除く)も実質的に有しない。例えば、本発明の組成物は、いかなる他のヒドロフルオロカーボン化合物も実質的に有しなくてもよい。
【0036】
「実質的に含まない」および「実質的に有しない」とは、本発明の組成物が組成物の総重量に基づいて0.5重量%以下、好ましくは0.4%、0.3%、0.2%、または0.1%以下の上記成分を含有するという意味を含む。
【0037】
本明細書で使用される場合、特許請求の範囲を含む本明細書の組成物について言及される全ての%量は、特に明記しない限り、組成物の総重量に基づく重量によるものである。
【0038】
重量%での成分量の数値に関連して使用される「約」という用語は、±0.5重量%、例えば、±0.2重量%の意味を含む。
【0039】
疑義を避けるため、本明細書に記載された本発明の組成物中の成分の量の範囲について記載された上限値および下限値は、得られる範囲が本発明の最も広い範囲内に属する限り、任意の様式で置き換えられ得ることを理解すべきである。
【0040】
本発明の組成物は、ゼロのオゾン破壊係数を有する。
【0041】
好都合には、本発明の組成物は、約150未満、好ましくは約140未満または約125未満などの、約400未満の地球温暖化係数(GWP)を有する。
【0042】
典型的には、本発明の組成物は、R-1132aと比較した場合、可燃性の危険性が低減されている。
【0043】
可燃性は、ASTM Standard E-681を組み込むASHRAE Standard 34(例えば、ASHRAE Standard 34:2019)によって決定され得、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれ得る。
【0044】
一態様において、組成物は、R-1132a単独と比較して、(a)より高い可燃下限界、(b)より高い発火エネルギー、(c)より高い自然発火温度、または(d)より低い燃焼速度のうちの1つ以上を有する。
【0045】
好ましくは、本発明の組成物は、23℃での可燃下限界、60℃での可燃下限界、23℃または60℃での燃焼範囲の幅、自然発火温度(熱分解温度)、乾燥空気中での最小発火エネルギー、または燃焼速度のうちの1つ以上において、R-1132aと比較して可燃性が低い。可燃限界および燃焼速度は、ASHRAE-34に規定された方法に従って決定され、自然発火温度は、ASTM E659-78の方法によって500mlガラスフラスコ中で決定される。
【0046】
好都合には、本発明の組成物は、約9cm/秒未満、例えば、約8cm/秒未満などの、ASHRAE Standard 34:2019によって決定される約10cm/秒未満の燃焼速度を有する。
【0047】
一実施形態では、本発明の組成物は、ASHRAE Standard 34:2019によって決定される弱可燃性(「クラス2L」)として分類される。
【0048】
本発明の組成物は、車両、特に電気車両のヒートポンプおよび/空調システムにおいて使用される際に、低可燃性/不燃性、低GWP、改善された潤滑剤混和性および改善された性能特性の全く予想外の組み合わせを示すことが、考えられる。これらの特性のいくつかについて、以下で詳しく説明する。
【0049】
例えば、本発明の組成物は、約10K未満、例えば、約5K未満などの、約12K未満の蒸発器または凝縮器内での温度勾配を有する
【0050】
有利には、本発明の組成物は、好ましくは大気圧を超える蒸気圧および圧縮器吸入圧力を依然として有しながら、約-20℃未満などの約-15℃未満の温度でヒートポンプモードで動作することができる
【0051】
典型的には、本発明の組成物は、R-1234yfのもの以上である加熱能力を有する。
【0052】
好都合には、本発明の組成物は、R-1234yfのもの以上である体積冷却能力を有する。
【0053】
有利には、本発明の組成物は、R-1234yfのもの以上であるサイクル効率(成績係数(COP))を有する。
【0054】
典型的には、本発明の組成物は、動作時に約-30℃未満の温度で蒸発する。このことは、-25℃~-30℃まで低い周囲気温でのヒートポンプ動作を可能にする。
【0055】
好都合には、本発明の組成物は、動作時に約40℃を超える温度で凝縮する。ベントからキャビンへの乗客の空気の流れは、理想的には約40℃~約50℃の温度に加熱されるため、このことが特に望ましい。
【0056】
典型的には、本発明の組成物の圧縮器吐出温度は、それらが置換する既存の冷媒流体(R-1234yfなど)の約15K以内、好ましくは約10Kまたは約5K以内である。
【0057】
本発明の組成物は、典型的には、機器の既存の設計での使用に好適であり、確立されたHFC冷媒とともに現在使用されている全ての種類の潤滑剤と相溶する。それらは、任意選択で、適切な添加剤の使用により、鉱油に対し安定化または相溶化されてもよい。
【0058】
好ましくは、熱伝達機器で使用される場合、本発明の組成物は、潤滑剤と組み合わされる。
【0059】
好都合には、潤滑剤は、潤滑剤が、ポリオールエステル(POE)、ポリアルキレングリコール(PAG)およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるなどの、鉱油、シリコーン油、ポリアルキルベンゼン(PAB)、ポリオールエステル(POE)、ポリアルキレングリコール(PAG)、ポリアルキレングリコールエステル(PAGエステル)、ポリビニルエーテル(PVE)、ポリ(アルファ-オレフィン)、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0060】
一実施形態では、本発明の組成物は、トリフルオロヨードメタン(CF3I)を実質的に含有しない。
【0061】
本明細書に記載される全ての化学物質は、市販されている。例えば、フルオロケミカルは、Apollo Scientific(英国)から入手することができる。
【0062】
本発明の組成物は、R-1132a、R-32およびR-1234yf(および潤滑剤などの任意選択の成分)を所望の比率で単に混合することによって調製することができる。次いで、組成物は、熱伝達装置に添加されるか、または本明細書に記載される任意の他の方法で使用されることができる。
【0063】
本発明の別の態様によれば、車両(電気車両など)のヒートポンプシステムにおける作動流体としての本発明の組成物の使用が、提供される。
【0064】
本発明の別の態様において、車両(例えば、電気車両)の空調システムにおける作動流体としての本発明の組成物の使用が、提供される。
【0065】
本発明のさらなる態様において、好ましくは既存の流体がR-407CまたはR-22である、冷却または空調システムにおける既存の熱伝達流体の置換としての本発明の組成物の使用が、提供される。
【0066】
本発明のさらなる態様によれば、本発明による組成物を含む熱伝達装置が提供される。
【0067】
好都合には、熱伝達装置は、空調装置である。
【0068】
一実施形態では、熱伝達装置は、住宅用もしくは商業用空調システム、列車もしくはバス用の空調システム、ヒートポンプ、または商業用もしくは産業用冷却システムを含む。
【0069】
本発明の別の態様によれば、物品を冷却する方法であって、本発明の組成物を凝縮することと、その後、冷却される物品の近くで当該組成物を蒸発させることと、を含む方法が提供される。
【0070】
本発明の別の態様によれば、物品を加熱するための方法であって、加熱される物品の近くで本発明による組成物を凝縮することと、その後、当該組成物を蒸発させることと、を含む方法が提供される。
【0071】
本発明は、以下の非限定的実施例により説明される。
【実施例】
【0072】
R-1132a/R-32/R-1234yf流体システムの熱力学モデルを、NIST REFPROP9.1ソフトウェアに実装されているSpan-Wagner状態方程式を使用して構築した。R-1132aの純粋な流体モデルを、沸点から臨界点までのその蒸気圧を測定し、臨界点を決定し、圧縮された液体および蒸気の密度を測定し、液体および蒸気の状態における流体のエンタルピー含有量ならびに熱容量を測定することによって導出した。次に、R-1132aとR-32およびR-1234yfとの二成分混合物の気液平衡挙動を、定容装置を使用して測定して、一連の二成分組成物の蒸気圧を約-50℃~+70℃の温度および圧力の範囲で測定した。次いで、これらのデータを回帰して、標準的なサイクルモデリング技法を使用する冷媒としての三成分混合物の性能のモデリングでの使用に好適な二成分相互作用パラメータを提供した。
【0073】
その後、冷却/ヒートポンプサイクルを、Microsoft Excelで構築し、REFPROPソフトウェアに連携させて、混合物についての熱力学的特性データを提供した。このモデルを、空調モードおよびヒートポンプモードでのR-1234yfの性能を推定するために使用した。次いで、モデルを使用して、同じ供給された冷却または加熱能力での本発明の流体の性能を推定した。
【0074】
実施例1:冷却モード性能
本発明の組成物を、基準としてR-1234yfを用いる冷却モードでモデル化した。使用したサイクル条件は以下のとおりである。
【表1】
【0075】
冷却モードでの本発明の選択された組成物の性能は、以下の表1~8に示されている。モデリングでは、組成物の成分における予想される圧力降下を、R-1234yfの指定された圧力降下の基準によって推定した。記載された冷却能力を供給するために必要な圧縮器排気量を、各流体について計算し、R-1234yfと比較した。
【0076】
性能データから、本発明の組成物は以下を提供することが分かる:
(a)R-1234yfのものと比較して改善されたエネルギー効率(成績係数として表される);
(b)R-1234yfのものよりも高い体積冷却能力。このことは、圧縮器のより小さな排気量(したがって、重量および/または空間を節約する)を使用するか、またはより低い速度で稼働する圧縮器を使用することを可能にする。より低い圧縮器速度はキャビン内の空調システムのより低い伝達ノイズに換算され、それによって乗客の快適性をさらに改善するため、低い圧縮器速度で空調を稼働する能力は、EVシステムにとって重要な利点である;
(c)蒸発器および凝縮器での適度な温度勾配。
【0077】
実施例2:加熱モード性能
次いで、モデルを使用して、以下のサイクル入力条件を使用して、本発明の選択された組成物の性能をシミュレートした。
【表2】
【0078】
選択された蒸発器および凝縮器の温度は、約-10℃での外部周囲空気および約50℃のキャビンの所望の空気供給温度での動作に対応する。
【0079】
加熱モードでの本発明の選択された組成物の性能は、以下の表9~16に示される。
【0080】
性能データから、本発明の組成物が以下の利点を提供することが分かる。
(a)R-1234yfのものよりもはるかに高い加熱能力、
(b)R-1234yfのものと比較して改善されたエネルギー効率(COPとして表される)、
(c)より高い吸引圧力、それによって、R-1234yfで実行可能/実践可能であるよりも低い周囲温度でヒートポンプを動作することを可能にする、
(d)適度な温度勾配(通常は約10K未満)。
【0081】
実施例3:実験的試験
8重量%のR-1132a、11重量%のR-32、および81重量%のR-1234yfを含む組成物を、日産リーフ電気車両の空調/ヒートポンプシステムで、冷却モードおよび加熱モード条件の範囲にわたって試験した。このシステムは、R-1234yfでの使用のために設計されている。試験を、移動式空調システムの性能の評価のためのSAE J2765規格に従って実施した。試験を、2つの状態、第1に、R-1234yfについて使用されるのと同じ圧縮器速度を用い、第2に、ブレンドが同等の冷却または加熱能力を与えるように圧縮器速度を調整して、ブレンドについて行った。
【0082】
冷却および加熱モードでの性能が、
図1および
図2に示される。凡例表記は、各試験点についての圧縮器速度(アイドル/中/高)および周囲温度を示す。冷却モードでの周囲温度は25℃から60℃であり、加熱モードでの周囲温度は-20℃から0℃であった。
【0083】
ブレンドは、実施例1および2からのモデル化された結果と一致して、冷却モードでの顕著に増加したエネルギー効率、ならびに加熱モードでの低い周囲温度での顕著に増加した加熱能力を与えたことがわかる。
【表3-1】
【表3-2】
【表4-1】
【表4-2】
【表5-1】
【表5-2】
【表6-1】
【表6-2】
【表7-1】
【表7-2】
【表8-1】
【表8-2】
【表9-1】
【表9-2】
【表10-1】
【表10-2】
【表11-1】
【表11-2】
【表12-1】
【表12-2】
【表13-1】
【表13-2】
【表14-1】
【表14-2】
【表15-1】
【表15-2】
【表16-1】
【表16-2】
【表17-1】
【表17-2】
【表18-1】
【表18-2】
【図面の簡単な説明】
【0084】
【
図1】冷却モードでのブレンドCOPを示す図である。