(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】ボールジョイント
(51)【国際特許分類】
F16C 11/06 20060101AFI20240801BHJP
【FI】
F16C11/06 N
(21)【出願番号】P 2022530070
(86)(22)【出願日】2021-05-11
(86)【国際出願番号】 JP2021017914
(87)【国際公開番号】W WO2021251047
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2022-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2020102230
(32)【優先日】2020-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000135209
【氏名又は名称】株式会社ニフコ
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平野 陽一
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0368535(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールスタッドと、前記ボールスタッドのボールを回転可能にパネルの開口に取り付けるためのソケットとを含むボールジョイントであって、
前記ソケットは、
挿入方向に延びる軸線を中心とする円環状の基部と、
前記基部から前記挿入方向にそれぞれ突出し、突端にて互いに結合された複数の第1突出部と、
前記第1突出部の間にて、前記基部から前記挿入方向に、又は、前記第1突出部の延出端から前記挿入方向とは逆方向に突出する第2突出部とを有し、
前記第2突出部は、前記第1突出部の突端と協働して、前記ボールを回転可能に保持し、
前記第1突出部にはそれぞれ突出方向に対して側方に延出する延出部が設けられ、
前記延出部の外面には前記開口の縁部に係合する係合部が設けられ、
前記第1突出部と前記第2突出部とがそれぞれ前記軸線に対して径方向に撓み変形可能であり、
前記第2突出部の突端は前記延出部の前記挿入方向の側の側縁よりも前記挿入方向の側に位置し、
前記基部には、前記延出部に整合する位置において、前記径方向に貫通し、且つ、前記延出部に前記径方向に重なるアクセス通路が設けられているボールジョイント。
【請求項2】
前記パネルの前記開口に取り付けられているときには、前記パネルは前記係合部と前記基部との間に位置し、前記係合部と前記基部とによって挟持されている
請求項1に記載のボールジョイント。
【請求項3】
前記延出部が片持ち梁をなし、
前記係合部が前記延出部の遊端に設けられている
請求項2に記載のボールジョイント。
【請求項4】
前記延出部が、前記径方向を向く面を有する板状をなす
請求項3に記載のボールジョイント。
【請求項5】
前記基部には、前記延出部に整合する位置において、前記挿入方向に対して逆側に凹む切欠が設けられ、
前記延出部の少なくとも一部は前記切欠に前記径方向に重なり合っている請求項1に記載のボールジョイント。
【請求項6】
前記基部には、前記延出部に整合する位置において、前記径方向に貫通するアクセス孔が設けられ、
前記延出部の少なくとも一部は前記アクセス孔に前記径方向に重なり合っている請求項1に記載のボールジョイント。
【請求項7】
前記第2突出部は前記基部から前記挿入方向に突出し、
前記第2突出部の基端部の内縁には、前記径方向を向く面を有する板状の内側補強片を備える
請求項1~請求項6のいずれか1つの項に記載のボールジョイント。
【請求項8】
前記第2突出部の前記基端部の外縁に、前記径方向を向く面を有する板状の外側補強片を備える
請求項7に記載のボールジョイント。
【請求項9】
ボールスタッドと、前記ボールスタッドのボールを回転可能にパネルの開口に取り付けるためのソケットとを含むボールジョイントであって、
前記ソケットは、
挿入方向に延びる軸線を中心とする円環状の基部と、
前記基部から前記挿入方向にそれぞれ突出し、突端にて互いに結合された複数の第1突出部と、
前記第1突出部の間にて、前記基部から前記挿入方向に、又は、前記第1突出部の延出端から前記挿入方向とは逆方向に突出する第2突出部とを有し、
前記第2突出部は、前記第1突出部の突端と協働して、前記ボールを回転可能に保持し、
前記第1突出部にはそれぞれ突出方向に対して側方に延出する延出部が設けられ、
前記延出部の外面には前記開口の縁部に係合する係合部が設けられ、
前記第1突出部と前記第2突出部とがそれぞれ前記軸線に対して径方向に撓み変形可能であり、
前記第2突出部の突端は前記延出部の前記挿入方向の側の側縁よりも前記挿入方向の側に位置し、
前記第2突出部は前記基部から前記挿入方向に突出し、
前記第2突出部の基端部の内縁には、前記径方向を向く面を有する板状の内側補強片を備えるボールジョイント。
【請求項10】
前記第2突出部の前記基端部の外縁に、前記径方向を向く面を有する板状の外側補強片を備える
請求項9に記載のボールジョイント。
【請求項11】
前記第2突出部の前記径方向の外側を向く面は、前記挿入方向に略平行をなす
請求項1~請求項10のいずれか1つの項に記載のボールジョイント。
【請求項12】
前記パネルの前記開口に取り付けられているときには、前記第2突出部の前記径方向の外側を向く面は前記開口を画定する縁部に弾発的に当接している
請求項11に記載のボールジョイント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールスタッドをパネルに取り付けるためのボールジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
アンカーパネルに設けられた穴に固定されたボールソケットと、ボールソケットに回転可能に支持されたボールスタッドとを含む自動車用ヘッドランプアッセンブリが公知である(例えば、特許文献1)。特許文献1のボールソケットは、円環状のリングと、リングの片側の面にかけ渡され、協働してバスケットを構成する複数のアーチとを備えている。ボールスタッドは、シャフトと、シャフトの端部に設けられ、バスケットの内部に収容されたボールを含む。アーチはそれぞれ、アンカーパネルと係合する外向きの突起と、バスケット内に突出してボールの移動を規制する係止片とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動車へのヘッドランプ等のアッセンブリの作業効率を向上させるため、ボールスタッドが予め取り付けられた状態で、ボールソケットがパネルに取り付け可能であることが望ましい。しかしながら、特許文献1に係るボールソケットは、バスケット内の係止片のバスケット内側への移動がボールによって阻害されるため、ボールスタッドを予め取り付けた状態でアンカーパネルに取り付けようとすると、アーチがバスケット内に撓みにくく、ボールソケットの取り付けが容易ではないという問題がある。
【0005】
以上の背景を鑑み、本発明は、ボールスタッドを取り付けた状態でパネルへの取り付けが容易なボールジョイントを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明の一態様は、ボールスタッド(8)と、前記ボールスタッドのボールを回転可能にパネル(5)の開口(9)に取り付けるためのソケット(10)とを含むボールジョイント(1、101)であって、前記ソケットは、挿入方向に延びる軸線を中心とする円環状の基部(12)と、前記基部から前記挿入方向にそれぞれ突出し、突端にて互いに結合された複数の第1突出部(13)と、前記第1突出部の間にて、前記基部から前記挿入方向に、又は、前記第1突出部の延出端から前記挿入方向とは逆方向に突出する第2突出部(14、34)とを有し、前記第2突出部は、前記第1突出部の突端と協働して、前記ボールを回転可能に保持し、前記第1突出部にはそれぞれ突出方向に対して側方に延出する延出部(18)が設けられ、前記延出部の外面には前記開口の縁部に係合する係合部(15)が設けられ、前記第1突出部と前記第2突出部とがそれぞれ前記軸線に対して径方向に撓み変形可能であり、前記第2突出部の突端は前記延出部の前記挿入方向の側の側縁よりも前記挿入方向の側に位置している。
【0007】
この態様によれば、パネルの開口に係合する係合部を備えた第1突出部と、ボールスタッドのボールを保持する第2突出部とがそれぞれ基部に対して撓み変形可能となる。これにより、ボールジョイントをパネルに取り付けるときに第1突出部が開口の縁部に押圧されて軸線に近接する方向に撓んだ場合であっても、第2突出部が軸線の径方向、すなわちボール側に撓むことが防止できる。よって、ボールジョイントの取り付け時に保持部から抵抗を受けることが防止される。これにより、ボールジョイントの取り付けに要する挿入力を低減することができるため、ボールジョイントのパネルへの取り付けが容易になる。
【0008】
また、係合部が側方に延出する延出部に設けられる。これにより、係合部を軸線に対して周方向により大きくすることができるため、ボールジョイントとパネルとをより強固に係合させることができる。
【0009】
更に、第2突出部の突端が延出部の挿入方向の側の側縁よりも挿入方向の側に位置しているため、ボールジョイントの取り付け時には、第2突出部の径方向の外側を向く面が、延出部より先にパネルの開口に当接する。これにより、係合部がパネルに係合するときには、既に、第2突出部と、延出部とが開口の縁部に当接していることになり、係合時にボールジョイントに加わる荷重が第2突出部と、延出部とに分散される。これにより、荷重が延出部のみに加わる場合に比べて、作業者が組付け時に受ける抵抗力を変化し難くすることができ、違和感がなくスムーズな組付作業が可能になる。
【0010】
上記の態様において、前記パネルの前記開口に取り付けられているときには、前記パネルは前記係合部と前記基部との間に位置し、前記係合部と前記基部とによって挟持されているとよい。
【0011】
この態様によれば、パネルが係合部と基部との間に達するまでボールジョイントを挿入することによってボールジョイントのパネルへの組付が完了するため、ボールジョイントを容易に組み付けることができる。
【0012】
上記の態様において、前記延出部が片持ち梁をなし、前記係合部が前記延出部の遊端に設けられているとよい。
【0013】
この態様によれば、ボールジョイントの取り付け時に延出部がバスケットの内側に撓むため、ボールジョイントの取り付けに要する挿入力をより低減することができる。
【0014】
上記の態様において、前記延出部が、前記径方向を向く面を有する板状をなすとよい。
【0015】
この態様によれば、延出部が径方向内側に撓み易くなる。
【0016】
上記の態様において、前記基部には、前記延出部に整合する位置において、前記径方向に貫通し、且つ、前記延出部に前記径方向に重なるアクセス通路(30、103)が設けられているとよい。
【0017】
この態様によれば、アクセス通路を介して、延出部を径方向内側に押し込んで撓ませることによって、ボールジョイントをパネルから取り外すことができる。これにより、取り外し作業性が向上する。
【0018】
上記の態様において、前記基部には、前記延出部に整合する位置において、前記挿入方向に対して逆側に凹む切欠(19)が設けられ、前記延出部の少なくとも一部は前記切欠に前記径方向に重なり合っているとよい。
【0019】
この態様によれば、延出部に径方向に重なるアクセス通路を基部に設けることができる。
【0020】
上記の態様において、前記基部には、前記延出部に整合する位置において、前記径方向に貫通するアクセス孔(102)が設けられ、前記延出部の少なくとも一部は前記アクセス孔に前記径方向に重なり合っているとよい。
【0021】
この態様によれば、延出部に径方向に重なるアクセス通路を基部に設けることができる。
【0022】
上記の態様において、前記第2突出部は前記基部から前記挿入方向に突出し、前記第2突出部の基端部の内縁には、前記径方向を向く面を有する板状の内側補強片(21)を備えるとよい。
【0023】
この態様によれば、第2突出部のスタッドに対する耐摩耗性を向上させることができ、第2突出部の曲げ剛性を高めることができる。
【0024】
上記の態様において、前記第2突出部の前記基端部の外縁に、前記径方向を向く面を有する板状の外側補強片(22)を備えるとよい。
【0025】
この態様によれば、第2突出部の曲げ剛性を高めることができ、パネルの開口の縁部に対する第2突出部の耐摩耗性を高めることができる。
【0026】
上記の態様において、前記第2突出部の前記径方向の外側を向く面は、前記挿入方向に略平行をなすとよい。
【0027】
この態様によれば、第2突出部によってボールジョイントのパネルの開口への挿入が阻害され難くなるため、ボールジョイントのパネルへの取り付けが容易になる。
【0028】
上記の態様において、前記パネルの前記開口に取り付けられているときには、前記第2突出部の前記径方向の外側を向く面は前記開口を画定する縁部に弾発的に当接しているとよい。
【0029】
この態様によれば、ボールジョイントのパネルへの取り付け後に、第2突出部が軸線の径方向に撓み変形することが防止される。これにより、ボールジョイントのパネルへの取り付け後におけるボールジョイントのボールスタッドの保持性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0030】
以上の構成によれば、ボールスタッドを取り付けた状態でパネルへの取り付けが容易なボールジョイントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明に係るボールジョイントを備えたアダプタフレームによってミリ波レーダ装置が搭載された車両の模式図
【
図2】(A)
図1のIIA部分の拡大図、及び、(B)
図2(A)のIIBの拡大図
【
図3】アダプタフレームのボールジョイントが設けられた部分の斜視図
【
図4】アダプタフレームのボールジョイントが設けられた部分の側面図
【
図5】本発明に係るボールジョイントのソケットの後面図
【
図8】パネルへのボールジョイントの(A)組付時、及び、(B)組付後の変形を説明するための断面図(VI-VI断面図)
【
図9】パネルへのボールジョイントの(A)組付時、及び、(B)組付後の変形を説明するための断面図(IX-IX断面図)
【
図10】アダプタフレームの第2実施形態に係るボールジョイントが設けられた部分の斜視図
【
図11】第1実施形態に係るボールジョイントの変形例
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に、本発明に係るボールジョイントについて、図面を参照して説明する。
【0033】
<<第1実施形態>>
図1に示すように、第1実施形態に係るボールジョイント1は、ミリ波レーダ装置2を支持するアダプタフレーム4を、車体3の前面に設けられたパネル5に取り付けるために用いられる。以下、説明の便宜上、車体3に取り付けられた状態における姿勢を基準として説明を行う。
【0034】
図2(A)に示すように、アダプタフレーム4は前後方向を向く略平板状のベースプレート6と、ベースプレート6の面内方向に沿ってそれぞれ異なる方向に延びる3本の脚部7とを備えている。
【0035】
ベースプレート6には、ミリ波レーダ装置2が略直方体状のケーシングに収容された状態で固定されている。脚部7にはそれぞれボールスタッド8が設けられている。
図3に示すように、ボールスタッド8はそれぞれ丸棒状のシャフト8Bと、その先端に結合されたボール8A(金属球)とを備えている。ボールスタッド8のシャフト8Bにはそれぞれ雄ねじが設けられている。脚部7にはそれぞれベースプレート6の主面に対して略垂直をなすように(すなわち、前後に延びるように)ねじ孔が設けられ、それぞれのねじ孔にボールスタッド8が螺合されている。ボール8Aは球体であってもよく、その突端面にシャフト8Bの側に凹む凹部が設けられたものであってもよい。3つのボールスタッド8のうち、2つのボールスタッド8は、1つのボールスタッド8(以下、基準ボルト8Xと記載する)を基点として、上方(以下、この位置に設けられたボールスタッド8を垂直調整ボルト8Yと記載する)と、左右側方(正面視で左方向。以下、この位置に設けられたボールスタッド8を水平調整ボルト8Zと記載する)とに位置している。
【0036】
図2(A)に示すように、パネル5には3つの貫通孔9(開口。より詳細には、
図8(A)参照)が設けられている。3つの貫通孔9のうち、2つの貫通孔9は、1つの貫通孔9を基点として、上方、及び左右側方(
図2(A)では正面視で左方向)にそれぞれ位置している。各貫通孔9にはそれぞれ前方から後方に向けてソケット10が嵌め込まれて固定されている。各ボールスタッド8が対応するソケット10に挿入されることによってボールジョイント1が構成され、アダプタフレーム4はパネル5に結合されている。このとき、ボールスタッド8(より詳細にはボール8A)は任意の方向に回転可能にソケット10に支持されている。
図1に示すように、本実施形態では、車体3に、アダプタフレーム4のミリ波レーダ装置2の周囲を前方から覆うカバー11が設けられている。
【0037】
垂直調整ボルト8Yを螺進及び螺退させることによって、ベースプレート6が上下方向に延びる軸線として回転し、ミリ波レーダ装置2の垂直方向への傾きを調整することができる。また、水平調整ボルト8Zを螺進及び螺退させることによって、ベースプレート6が左右方向に延びる軸線として回転し、ミリ波レーダ装置2の水平方向への傾きを調整することができる。本実施形態では、
図3に示すように、垂直調整ボルト8Yのシャフト8Bの端部と、水平調整ボルト8Zのシャフト8Bの端部とにはそれぞれ、ツールによる回転操作を容易にするため、それぞれ6角柱状の操作部8Cが設けられている。
【0038】
次に、ボールジョイント1、特に、ソケット10の詳細について、
図3~
図9を参照して詳細に説明する。
【0039】
また、
図2(B)及び
図3に示すように、ソケット10は挿入方向(より詳細には、ボールジョイント1のパネル5への挿入方向)に沿って延びる軸線Xを中心として回転対称な略半楕円体状をなしている。以下の説明では、必要に応じて、軸線Xに対して直交する方向を径方向、軸線Xを中心とする回転方向を周方向、軸線Xに対して直交し、且つ、軸線Xから離れる方向を外方、軸線Xに対して直交し、且つ、軸線Xに近づく方向を内方とそれぞれ記載する。
【0040】
図3~
図5に示すように、ソケット10は、円環状(リング状)の基部12と、後方(挿入方向)に延出し、延出端にて互いに結合された複数のアーチ13(第1突出部)と、アーチ13の間にて基部12から後方に突出する保持部14(第2突出部)と、アーチ13に設けられた係止爪15(係合部)とを備える。
【0041】
図5に示すように、基部12は軸線Xを中心とする円環板状をなしている。
図3に示すように、アーチ13はそれぞれ、基部12の後面に結合され、後方に突出し、その後、軸線Xに向かって緩やかに湾曲して延びて、突端にて互いに結合されている。ソケット10には、アーチ13と基部12とによって、短軸方向に切断された半楕円体状籠状のバスケット16が形成されている。換言すれば、アーチ13の突端は互いに接続され、バスケット16の底部17を構成している。本実施形態では、アーチ13の基端は周方向に等間隔に並ぶように配置され、各アーチ13の突端、すなわち、バスケット16の底部17は軸線X上に位置している。本実施形態では、ボールジョイント1には3つのアーチ13が設けられている。
【0042】
図3及び
図4に示すように、アーチ13にはそれぞれ、突出方向に対して側方、すなわち横方向に延出する延出部18が設けられている。延出部18はそれぞれ、径方向を向く面を有する板状をなしている。延出部18は周方向における一端側(以下、基端側)において、アーチ13に結合された片持ち梁状をなしている。これにより、延出部18はそれぞれ、周方向における他端側(以下、遊端側)に径方向内側(内方)に向く荷重が加わったときに、径方向内側(すなわち、軸線Xに近づく側)に撓み変形する。荷重が解除されると、延出部18は径方向外側(すなわち、軸線Xから離れる側)に広がり、元の位置に戻る。本実施形態では、
図5に示すように、延出部18は後方から見て、アーチ13からそれぞれ左回り(反時計回り)の方向に延出し、基部12側及び底部17側に広がっている。
図3に示すように、延出部18は基部12及びアーチ13と協働して、ボールジョイント1の半楕円体状籠状の外形を形成している。
【0043】
図3及び
図6に示すように、係止爪15(係合部)は延出部18の遊端の外面(径方向外側を向く面)それぞれに設けられている。係止爪15は延出部18の遊端外面から径方向外側に突出する爪状をなしている。係止爪15は可能な限り、延出部18の遊端の縁部側に設けられることが好ましく、本実施形態では、係止爪15は、延出端(遊端)から基端側に向かって延び、延出部18の略中央に達している。但し、この態様には限定されず、係止爪15の少なくとも一部が延出部18に重なるように設けられていればよい。係止爪15が設けられる範囲は延出部18の撓み易さに応じて変更することができる。
【0044】
図4に示すように、保持部14の突端(
図4の二点鎖線Aを参照)は延出部18の挿入方向の前側(
図4のXの矢印が指す側。紙面下側)の側縁(
図4の二点鎖線Bを参照)よりも挿入方向の前側に位置している。本実施形態では、保持部14は周方向に見て径方向外側及び内側に平行な一対の辺を有する略台形状をなしている。延出部18は径方向外側を向く外面18Aと、その面の挿入方向の前側の側縁から径方向内側に延びる延長面18Bとを有している。保持部14の径方向外側の面の挿入方向側の側縁(
図4の二点鎖線Cを参照)は、外面18Aの挿入方向の前側の側縁(
図4の二点鎖線Dを参照)よりも、挿入方向の前側に位置している。
【0045】
図8(A)に示すように、ボールジョイント1がパネル5の貫通孔9に取り付けられるときには、延出部18に内方に向く荷重が加わって径方向内側に撓み、係止爪15は内方に移動する。パネル5の前面が基部12の後面に当接すると、
図8(B)に示すように、係止爪15は径方向外側に弾発的に移動し、貫通孔9の縁部に係合する。ボールジョイント1の取付が完了すると、パネル5は係止爪15と基部12との間に位置し、パネル5は係止爪15と基部12とによって挟持されている。これにより、基部12によってボールジョイント1のパネル5に対する後方への移動が規制され、係止爪15によってボールジョイント1のパネル5に対する前方への移動が規制されている。また、ボールジョイント1はパネル5の開口縁によって上下左右方向の移動が規制され、ボールジョイント1はパネル5に係止されている。
【0046】
図3及び
図4に示すように、基部12には、延出部18のそれぞれに前後に整合する位置において、前方(すなわち、挿入方向に対して逆方向)に凹む切欠19が設けられている。本実施形態では、
図4に示すように、切欠19はそれぞれ径方向に見て略方形をなし、延出部18の前縁部は切欠19に径方向に重なり合っている。これにより、ボールジョイント1をパネル5に取り付け後に、切欠19を介して延出部18にアクセスすることが可能となる。
【0047】
換言すれば、切欠19によって、基部12には、延出部18にアクセスするためのアクセス通路30が画定される。切欠19によって画定されるアクセス通路30は延出部18に整合する位置において、径方向に貫通し、且つ、延出部18に径方向に重なる。アクセス通路30によって、切欠19を介して所定のツールを挿入し、延出部18を径内側に押し出して撓み変形させることが可能となる。この変形によって、係止爪15とパネル5との係合を解除し、ボールジョイント1(より詳細には、ソケット10)をパネル5から容易に取り外すことができる。
【0048】
図3に示すように、保持部14は隣り合うアーチ13の間において、基部12後面から後方(挿入方向)に突出している。本実施形態では、ソケット10には3つの保持部14がそれぞれ隣り合うアーチ13の間に設けられている。
【0049】
図3及び
図5に示すように、保持部14はそれぞれ、基部12の後面から後方(挿入方向)に突出する保持部本体20と、保持部本体20の径方向内側に設けられた内側補強片21と、保持部本体20の径方向外側に設けられた外側補強片22とを備えている。
【0050】
保持部本体20は、周方向に向く面を有して、基部12の後面から後方に突出する板状をなしている。
【0051】
内側補強片21、及び、外側補強片22はそれぞれ径方向を向く面を有する板状をなしている。外側補強片22はそれぞれ径方向に見て周方向に延びる略方形をなし、保持部本体20の外側基端部分に結合され、保持部14の基端部分における径方向外側の面を画定している。内側補強片21はそれぞれ保持部本体20の内側基端から前後方向略中央まで延びる略方形をなし、保持部本体20の内側基端部分に結合されている。内側補強片21と外側補強片22とが設けられることによって、保持部14の基端部分の横断面はH状をなしている。これにより、保持部14の基端部分の剛性が高められる。
【0052】
図7に示すように、外側補強片22の径方向の外側を向く面、すなわち、保持部14の径方向外側を向く面は、ボール8Aの挿入前において、挿入方向(後方)に略平行をなしている。これにより、外側補強片22もまた、延出部18、基部12及びアーチ13と協働して、ソケット10の半楕円体状籠状の外形を形成している。外側補強片22の径方向外側を向く面は挿入方向に概ね平行であるものの、少なくとも、ボール8Aが挿入され、且つ、ソケット10がパネル5に取り付けられていないときには、後方に向かって径方向外側に若干傾斜しているとよい。但し、外側補強片22の径方向外側を向く面は、ボール8Aが挿入される前に予め後方に向かって径方向外側に若干傾斜していてもよく、ボール8Aが挿入されることによって、後方に向かって径方向外側に若干傾斜するように変形してもよい。
【0053】
保持部14の径方向内側にはそれぞれ、後方に向かって径方向外側に傾斜する面である受容部23が設けられている。本実施形態では、内側補強片21の前端が径方向外側に切り欠かれることによって形成されている。
【0054】
更に、内側補強片21と外側補強片22とは、保持部本体20の前縁に沿って延びる壁状の接続部24によって接続されている。これにより、保持部14の剛性が高められている。
【0055】
保持部14は、例えばボール8Aの挿入時等に、径方向外側に所定の荷重が加わると、その突端において径方向外側(すなわち、軸線Xから離れる側)に撓み変形し、受容部23が径方向外側に開かれる(
図7の実線の矢印参照)。荷重が解除されると、保持部14は元の形状に戻り、受容部23が径方向内側に閉じられる(
図7の破線の矢印参照)。
【0056】
図7及び
図9(A)に示すように、ボールスタッド8のボール8Aは受容部23によって前方から支承され、ボール8Aの前部が受容部23に受容された状態で、バスケット16内に収容されている。このとき、受容部23はボール8Aの前部側面に当接し、ボール8Aの前方及び径外方への移動が規制される。更に、ボール8Aの後面は、バスケット16の底部17に当接し、その底部17によって後方への移動が規制されている。これにより、受容部23とバスケット16の底部17との協働によって、ボール8Aはバスケット16内に回転可能に保持されている。
【0057】
更に、ボールスタッド8がパネル5の貫通孔9に取り付けられているときには、
図9(B)に示すように、保持部14の径方向の外側を向く面、すなわち、外側補強片22の外面は、貫通孔9を画定する縁部によって径方向内側に押し出されて、挿入方向(後方)に平行となっている。これにより、ボールスタッド8の保持部14は径方向外側を向く面において貫通孔9を画定する縁部に弾発的に当接している。
【0058】
本実施形態では、アーチ13の基部12との接続部分(すなわち、基端)には、他の部分よりも変形しやすい易変形部13Aが設けられている。易変形部13Aは、基部12及びアーチ13の他の部分よりも横断面を小さくすることによって形成されているとよい。易変形部13Aが設けられることで、アーチ13の突端部分が径方向内側及び外側に変形し易くなっている。同様に、保持部14の基部12との接続部分(すなわち、基端)にもまた、他の部分よりも変形しやすい易変形部14Aが設けられている。易変形部14Aは、基部12及び保持部14の他の部分よりも横断面を小さくすることによって形成されているとよい。易変形部14Aが設けられることで、保持部14の突端部分もまた径方向内側及び外側に変形し易くなっている。
【0059】
次に、このように構成したボールジョイント1の効果について説明する。
【0060】
ミリ波レーダ装置2の取付作業性を向上させるべく、ボールスタッド8をソケット10に結合させた状態で、ボールジョイント1をパネル5の貫通孔9に組付けを行うことが考えられる。ボールジョイント1をパネル5の貫通孔9に取り付ける場合には、係止爪15が貫通孔9を通過するように、アーチ13を変形させる必要がある。
【0061】
本発明では、アーチ13と保持部14とがそれぞれ基部12から突出し、両者が互いに独立して基部12に対して径方向内側に変形可能となっている。そのため、係止爪15が径方向内側に移動するようにアーチ13が変形したときに、保持部14が径方向内側に撓むことが防止される。よって、ボールジョイント1の取り付け時に保持部14から抵抗を受けることが防止される。これにより、アーチ13に受容部23が設けられて、ボール8Aを受容している場合に比べて、ボールジョイント1の取り付けに要する挿入力を低減することができる。よって、ボールジョイント1のパネル5への取り付けが容易になり、ミリ波レーダ装置2の取付作業性を向上させることができる。
【0062】
本実施形態では係止爪15は片持ち梁状をなす延出部18の遊端に設けられている。そのため、ボールジョイント1の取り付け時に、延出部18をバスケット16の内側に撓ませることによって、貫通孔9を通過する位置に係止爪15を容易に移動させることができる。よって、ボールジョイント1の取付に要する挿入力をより低減することができる。更に、延出部18は径方向を向く面を有する板状をなしているため、延出部18がバスケット16の内側へ撓むようにより変形しやすくなる。
【0063】
更に、係止爪15が延出部18に設けられることによって、アーチ13のみに設けられる場合に比べて、係止爪15の径方向により長くすることができる。これにより、ボールジョイント1とパネル5とが係合する部分の大きさをより大きくすることができるため、ボールジョイント1とパネル5とをより強固に係合させることができる。
【0064】
保持部14の突端は延出部18の挿入方向の前側の側縁よりも挿入方向の前側に位置している。そのため、取り付け時に、保持部14の径方向の外側を向く面が、延出部18より先にパネル5の開口縁に当接する。係止爪15は延出部18に設けられているため、係止爪15がパネル5の開口縁に当接して係合するときには、既に、保持部14と、延出部18とが共にパネル5の開口縁に当接することになる。
【0065】
よって、係止爪15がパネル5の開口縁に係合するときに、ボールジョイント1に加わる荷重が延出部18と保持部14とに分散される。これにより、荷重が延出部18のみに加わる場合に比べて、作業者が組付け時に受ける抵抗力を変化し難くすることができ、違和感がなくスムーズな組付作業が可能になる。
【0066】
また、
図9(A)に示すように、外側補強片22の径方向の外側を向く面は、ボールジョイント1の取り付け前に、挿入方向に略平行をなしている。そのため、保持部14によってボールジョイント1のパネル5の開口への挿入が阻害され難くなり、ボールジョイント1のパネル5への取り付けが容易になる。
【0067】
保持部14にはその基端側の内縁に沿って内側補強片21が設けられている。これにより、保持部14の曲げ剛性が高められる。更に、保持部14が径方向内側から保護され、保持部14のボールスタッド8に対する耐摩耗性を向上させることができる。
【0068】
保持部14にはその基端側の外縁に沿って外側補強片22が設けられている。これにより、保持部14の曲げ剛性が高められる。更に、保持部14が径方向外側から保護され、保持部14のパネル5の開口の縁部に対する保持部14の耐摩耗性を高めることができる。
【0069】
保持部14の径方向外側を向く面はパネル5の貫通孔9を画定する縁部に弾発的に当接している。このため、ボールジョイント1のパネル5への取り付け後に、保持部14が径方向に広がりにくく、保持部14の径方向外側への撓み変形が防止される。これにより、ボールジョイント1のパネル5への取り付け後に、ボール8Aの側面と保持部14との接触が保持され易くなるため、ボール8Aが受容部23から離脱しにくくなる。よって、ボールジョイント1のボールスタッド8の保持性能を向上させることができる。
【0070】
<<第2実施形態>>
第2実施形態に係るボールジョイント101は、
図10に示すように、基部12に切欠19の代わりに、アクセス孔102が設けられている点が、第1実施形態と異なり、他の構成については、第1実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0071】
アクセス孔102は、延出部18に整合する位置において基部12を径方向に貫通する孔である。延出部18の少なくとも一部はアクセス孔102に径方向に重なり合っている。
【0072】
次にこのように構成したボールジョイント101の効果について説明する。アクセス孔102によって、基部12には、径方向に通過し、延出部18に達するアクセス通路103が画定される。このアクセス通路103によって、ツールを挿入し、延出部18を径内側に押し出して撓み変形させることが可能となる。この変形によって、係止爪15とパネル5との係合を解除し、ボールジョイント101(より詳細には、ソケット10)をパネル5から容易に取り外すことができる。
【0073】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。上記実施形態では、保持部14は基部12から後方(挿入方向)に突出するように設けられていたが、この態様には限定されない。例えば、
図11に示すように、保持部34はバスケット16の底部17から前方、すなわち、挿入方向とは逆方向に延びて、片持ち梁状をなし、アーチ13と保持部14とがそれぞれ径方向に撓み変形可能であるように構成されていてもよい。
【0074】
上記実施形態では、ボールジョイント1は、ミリ波レーダ装置2を支持するアダプタフレーム4を車体3に取り付けるために用いられていたが、この態様には限定されない。例えば、ボールジョイント1は、4輪自動車や二輪車等のヘッドランプやテールランプ等の各種ランプ、車両の周辺の情報を取得するためのソナーや車載カメラを支持するアダプタフレームを車体3に固定するために用いられてもよい。
【符号の説明】
【0075】
1 :第1実施形態に係るボールジョイント
5 :パネル
8 :ボールスタッド
8A :ボール
10 :ソケット
12 :基部
16 :バスケット
18 :延出部
19 :切欠
21 :内側補強片
22 :外側補強片
30 :アクセス通路
101 :第2実施形態に係るボールジョイント
102 :アクセス孔
103 :アクセス通路
X :軸線