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特許7530991ワクチンアジュバントとしてのハロゲン化キサンテン
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】ワクチンアジュバントとしてのハロゲン化キサンテン
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/39 20060101AFI20240801BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240801BHJP
   A61K 39/02 20060101ALI20240801BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20240801BHJP
   A61K 31/352 20060101ALN20240801BHJP
【FI】
A61K39/39
A61P37/04
A61P31/12
A61P31/04
A61P31/10
A61P35/00
A61K39/02
A61K39/00 H
A61K31/352
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022558585
(86)(22)【出願日】2021-09-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-21
(86)【国際出願番号】 US2021052506
(87)【国際公開番号】W WO2022203718
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】17/212,723
(32)【優先日】2021-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510293969
【氏名又は名称】プロヴェクタス ファーマテック,インク.
(73)【特許権者】
【識別番号】507132329
【氏名又は名称】ユーティーアイ リミテッド パートナーシップ
(74)【代理人】
【識別番号】100086368
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 誠
(72)【発明者】
【氏名】アル ナレンドラン
(72)【発明者】
【氏名】ドミニク ロドリゲス
(72)【発明者】
【氏名】エドワード ブイ. パーシング
(72)【発明者】
【氏名】ブルース ホロヴィッツ
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-503592(JP,A)
【文献】特表平04-507403(JP,A)
【文献】特表2014-510728(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物用ワクチン組成物であって、薬学的に許容される希釈剤中に溶解または分散してワクチン有効量で存在する免疫原と、前記免疫原に対するアジュバント有効量のローズベンガル二ナトリウムと、前記免疫原と前記ローズベンガル二ナトリウムとの総重量の0.001重量%~10重量%の添加剤とを共に含有する、ワクチン組成物。
【請求項2】
前記ワクチンは抗微生物ワクチンである、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項3】
前記免疫原は、a)殺傷された微生物と、b)生弱毒化微生物と、c)1つ以上の免疫原性微生物タンパク質性配列と、d)病原菌の特定の断片と、e)トキソイドおよびウイルスベクターとからなる群から選択される、請求項2に記載のワクチン組成物。
【請求項4】
前記ワクチンは抗がんワクチンである、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項5】
容器内に存在する、請求項1のワクチン組成物を調製するための濃縮プレワクチン組成物であって、前記免疫原および前記ローズベンガル二ナトリウムの量は、前記ワクチン組成物が調製されるときに、所定量の薬学的に許容される希釈剤に溶解または分散し次第、前記ローズベンガル二ナトリウムをアジュバント添加した哺乳動物用ワクチンを提供するべく、ワクチン有効量の前記免疫原およびアジュバント有効量の前記ローズベンガル二ナトリウムをそれぞれ提供するべく予め定められている、濃縮プレワクチン組成物。
【請求項6】
前記免疫原および前記ローズベンガル二ナトリウムはいずれも乾燥している、請求項5に記載の濃縮プレワクチン組成物。
【請求項7】
薬学的に許容される希釈剤中に溶解または分散したワクチン有効量の所定の免疫原と0.001重量%~10重量%の1つ以上の添加剤とを含有する改良されたワクチン組成物であって、前記改良されたワクチン組成物は、前記免疫原と共に前記薬学的に許容される希釈剤中にやはり溶解または分散した、アジュバント有効量のローズベンガル二ナトリウムを含む、改良されたワクチン組成物。
【請求項8】
哺乳動物の免疫原特異的免疫応答の強化に使用するために、インビボで存在する哺乳動物細胞と接触するための、医薬組成物であって、アジュバント有効量のローズベンガル二ナトリウムと前記免疫応答する免疫原とを含む医薬組成物。
【請求項9】
前記免疫原はウイルスタンパク質性ペプチド配列を有する、請求項8に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2020年3月26日提出の米国特許出願第63/000231号の優先権を主張した2021年3月25日に提出された米国特許出願第17/212723号の一部継続出願である。
【0002】
背景技術
ヒトの免疫系は、自然免疫系および適応免疫系という2つの構成要素からなる。自然免疫系は、生物の生殖細胞系列にコードされており、哺乳動物における防御の第一線を構成するものであって、シグナル伝達カスケードの開始を通じて病原体および異常細胞に応答する。シグナル伝達カスケードは転写因子の活性化に繋がり、これが、樹状細胞(DC)、マクロファージ、好中球、およびナチュラルキラー細胞を含む複数の細胞型の関与によって、サイトカインおよびケモカインの産生を誘発する[非特許文献1]。
【0003】
続く適応免疫系は、獲得されるものであって、免疫原提示DCによって媒介される抗原特異的T細胞およびB細胞応答を伴う。適応免疫系は、病原体および異常細胞を中和するT細胞受容体および抗体の作用を通じて、より長期の防御を宿主に提供するのに役立つ[非特許文献1および非特許文献2]。
【0004】
腫瘍学とウイルス学とは、哺乳動物、特にヒトの自然免疫系および適応免疫系において交差する、関係の薄い分野である。疾病の病因学と兆候とは概して別個のものであるが、この交差は、一方の分野における発見を他方の分野に応用するための共通の基礎を提供する。ここでは、両分野に適用可能な新規のアプローチを、各分野において独立してなされた新発見を融合することによって統合し、新たなワクチン用アジュバントを提供する。
【0005】
現在のワクチンの欠点
ワクチンの発見および調製における最近の進歩は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)ウイルスおよびそれが引き起こす疾病であるコロナウイルス感染症2019(COVID-19)疾病との闘いに成功するべく、素晴らしいことに、記録的短期間で展開されることができている。最近分離されたSARS-CoV-2デルタ株は、より強毒性のようであるが、依然として現在利用可能なワクチンで概ね予防可能である。
【0006】
米国疾病予防管理センター(CDC)の非特許文献3によれば、ワクチン接種完了した2,875人に関して、デルタ株以前の329,865人日にわたり、調整されたワクチン有効性は91パーセントであると計算され、10人がSARS-CoV-2感染症に罹患した。デルタ株流行の時期には、ワクチン接種完了した2,352人のうち119,218人日にわたり、調整されたワクチン有効性は66パーセントと計算され、24人がSARS-CoV-2感染症に罹患した。上記の報告では、ワクチン起源は分離されなかった。
【0007】
デルタ株の流行前には、ワクチン接種完了した2,875人中10人しかSARS-CoV-2感染症に罹患しなかったが、その有病率(約0.3パーセント)は、全米の人口(約3億3300万人)がワクチン接種したならば、約999,000件に換算されるであろう。上記の記事のデルタ株後の有病数から引用した数[(24/2352)×333,000,000]を用いると、件数はおよそ340万となろう。
【0008】
B型肝炎のワクチン接種に関しては、CDCは、90パーセントを超える個人で抗体が作られるであろうと推定している。[非特許文献4]CDCは、季節性インフルエンザ(インフルエンザA型)に対するワクチンは、2004年~2005年から2019年~2020年までのシーズンでは10パーセント~60パーセント有効であったと報告している。[非特許文献5、2021年8月26日最終査読。]
【0009】
麻疹・おたふく風邪・風疹(MMR)三種ワクチンの結果は同様である。CDCは、MMRワクチンの1回投与は、麻疹に対しては93パーセント有効、おたふく風邪に対しては78パーセント有効、風疹に対しては97パーセント有効であることを報告している。MMRワクチンの2回投与は、麻疹に対しては97パーセント有効、おたふく風邪に対しては88パーセント有効であり、2回投与後の風疹については報告がない。[非特許文献6、2021年1月26日最終査読。]
【0010】
このように、多くの最新のワクチンは人口のほとんどに有効であるが、いずれも、特定の病気に対してワクチン接種したことはあってもそれらのワクチンが有効でないいくらかの被接種者を取りこぼしていることがわかる。したがって、救命のための改良がワクチンに対して行われる必要がある。
【0011】
通常使用されるB型肝炎ワクチンは、アルミニウム含有アジュバントを含んでいる。ある米国食品医薬品局(FDA)認可のB型肝炎ワクチンは、専売アジュバントを使用して効能を改良する。そのワクチンは、Heplisav-B(登録商標)という商品名で販売されており、CpG1018と呼ばれるアジュバントを含む。CG1018は、TLR9を標的とする22merホスホロチオエート結合オリゴヌクレオチドであるらしく、抗体濃度の増加を生じると言われており、ヘルパー(CD4+)T細胞集団および細胞傷害性(CD8+)T細胞集団を刺激して、強いT細胞記憶応答およびB細胞記憶応答を生成する。
【0012】
アジュバントは、ワクチン被接種者により強い免疫応答を生み出す助けとなる。米国FDAによって認可されたいくつかのアジュバントは、非晶質アルミニウムヒドロキシホスフェート硫酸塩(AAHS)、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、および硫酸アルミニウムカリウム(ミョウバン)などのアルミニウム塩を含有している。かつてAS04として販売されていたが現在は米国内では使用されていないモノホスホリルリピドA(MPL)、およびAS01と呼ばれる別のMPLは、細菌の表面から分離される。AS01は、チリ産のシャボンノキ(キラヤ・サポナリア・モリナ)から抽出される天然化合物であるQS-21も含む。目下米国FDA認可の最後のアジュバントは、スクアレンからなる水中油型乳剤であり、MF59という名称である。[非特許文献7、2020年8月14日最終査読。]
【0013】
ウイルス感染に対する炎症反応
蔓延する向性宿主細胞のウイルス感染は、感染した細胞からの炎症シグナル伝達成分(例えばサイトカイン、ケモカイン、および自然免疫応答に関係するダメージ関連分子パターン[DAMP]、ならびにT細胞および適応免疫応答の他の機能性成分)の放出によって重症の局所的または全身的な炎症反応を引き出し、感染症の局所症状または全身症状をもたらし得る。患者が適切な抗ウイルス応答をマウントすることができるようになるまでは、そのような疾病兆候を治療するアプローチ、例えば重症肺炎症反応の低減などが、抗ウイルス薬療法および/または適応免疫応答を通じて、極めて重要な疾病管理を提供し得る。
【0014】
向性細胞のウイルス感染もしくは感染した向性細胞におけるウイルスの機能的活性の予防を通じた、またはウイルス感染の際の制御されない炎症反応の調節を通じたウイルス疾患の管理にメリットがあり得るいくつかの薬剤があるものの、抗ウイルス薬剤の新たなオプションが明らかに必要とされている。
【0015】
インターフェロン
インターフェロン(IFN)とは、ウイルス、感染性微生物、および腫瘍細胞に対する細胞防御の中心となるシグナル伝達タンパク質のクラス(すなわちサイトカイン)である。[非特許文献8。]例えば、ウイルスに感染した宿主細胞は、IFNを放出して、付近の細胞に抗ウイルス防御を高めるようにシグナルを伝達する。インターフェロンは、細胞をウイルス感染から防御することによってウイルス複製を「妨害する(interfere)」能力に因んで名付けられた。[非特許文献9。]
【0016】
直接的な抗ウイルス効果に加え、IFNは、主要組織適合性複合体(MHC)の発現を増大させることによって免疫細胞(例えばナチュラルキラー細胞およびマクロファージ)を活性化すると共に抗原提示をアップレギュレーションするのに役立つ。IFNは3つのグループに分類される。
・I型IFNは、IFN-α,IFN-β,IFN-ε,IFN-κ,およびIFN-ωからなるもので、ウイルスに応答して産生され、細胞受容体に結合すると、ウイルスRNAおよびウイルスDNAの複製を阻害する。I型IFNには、がんに応答する免疫シグナル伝達と類似の役割がある。
・II型IFN(IFN-γ)はインターロイキン-12(IL-12)によって活性化され、細胞傷害性T細胞およびTヘルパー細胞によって放出される。
・III型IFNは、いくつかのタイプのウイルス感染症および真菌感染症への免疫応答に関係する。
【0017】
STING活性化および免疫活性化
小胞体(ER)に局在する膜貫通型タンパク質であるインターフェロン遺伝子刺激因子(STING)は、自然免疫の重要なレギュレーターであり、非特許文献10によって最初に報告された。非特許文献10の著者らが見出したことには、STINGはI型IFN応答を誘導し、発現に対して強力な抗ウイルス状態を発揮するのに対して、STINGの喪失は細胞をウイルス感染に対して極めて感受性にする。
【0018】
より具体的には、STINGは通常、cGMP-AMP(cGAMP)などの環状ジヌクレオチドに結合することによって活性化され、これはcGAMPシンターゼがサイトゾルDNAを認識するときに細胞内セカンドメッセンジャーとして産生される。cGAMPへの結合はSTINGを二量体化させると共にERからゴルジへとトランスロケーションさせる。リロケーションの後、STINGはセリン/トレオニンキナーゼ、TANK結合キナーゼ1(TBK1)をリクルートし、インターフェロン調節因子3[IR3]のリン酸化と、IFN-βおよびCXCL10を含むI型IFNおよびIFN刺激遺伝子のアップレギュレーションとをもたらす。[非特許文献11。]
【0019】
非特許文献12は、マウスにおけるSTING欠損は、I型IFN応答がうまくいかないことによって、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)感染症への致死感受性を生じることを示した。
【0020】
細胞が細胞内病原体に感染すると、STINGはI型IFN産生を誘導し、これは感染した細胞および付近の細胞を、I型IFNを分泌するのと同じ細胞に結合すること(すなわち自己分泌シグナル伝達)および付近の細胞に結合すること(すなわち傍分泌シグナル伝達)によって、局所感染から防御する。I型インターフェロン(IFN-I)応答は、ウイルス感染に対する効率的な防御を提供することにとって極めて重要であり得る。
【0021】
IFN-I産生は、宿主センサによる病原体関連分子パターン(PAMP)、例えばウイルス核酸などの認識によって、急速に誘発される。IFN-I誘導シグナル伝達は転写因子で収束し、インターフェロン刺激遺伝子(ISG)と呼ばれる数百の遺伝子の発現を急速に誘発する[非特許文献13において概説]。この抗ウイルスシグナル伝達カスケードは、IFN-Iに曝露されるほとんど全ての細胞型において起こる。
【0022】
ISGは、(炎症誘発性サイトカインを含む)IFN-Iによって制御される他の下流分子と共に、ウイルス複製の直接阻害から種々の免疫細胞のリクルートおよび活性化にまで及ぶ、多様な機能を有している。よって通常は、強く、タイミングが良く、局所化されたIFN-I応答がウイルス感染に対する防御の第一線として必要とされる。なぜならそれは、ウイルスクリアランスを増進し、組織修復を誘導し、ウイルスに対する長期適応免疫応答を誘発するからである。[非特許文献14。]
【0023】
非特許文献15は、STINGの二量体化がこの自然免疫系シグナル伝達に極めて重要であることを示した。非特許文献16は、防御機能には(二量体化を介した)急性STING活性化が必要である一方で、慢性活性化は反産生的な炎症反応および自己免疫疾患をもたらし得ることを示した。
【0024】
場合によっては、STINGは、宿主細胞核や感染病原体から漏出したものなど、外来DNAおよび内因性DNAの細胞内センサとして作用する。そのような内因性DNAは、全身性エリテマトーデス(SLE)またはエカルディ・グティエール症候群(AGS)など、自己炎症性疾患の原因となり得る。[非特許文献17。]興味深いことに、抗ウイルス活性に関する上記の非特許文献16に記載されているように、防御機能には(二量体化を介した)急性STING活性化が必要である一方で、慢性活性化は免疫ダウンレギュレーションをもたらし得るようである。
【0025】
上記の非特許文献17は、レトロウイルスとRNAウイルスの複製とに対する同様の活性に言及している。よって、STINGの発現および二量体化は、全ての主要なウイルスクラスの感染症に対して極めて重要な細胞防御の役割を果たす。
【0026】
抗ウイルスの役割に加え、上記の非特許文献17には、細菌感染に対抗する同様の機能も記載されている。その検証において、非特許文献17は、著者らの研究は、微生物によって利用され得るバランスである、適切な免疫応答と炎症との間の微妙な平衡状態に光を当てるものであることに言及している。非特許文献17はさらに、そうした知見は、STINGを標的とするアジュバントの開発および強くて長持ちする適応免疫応答を誘導することを意図されたワクチンの設計において、重要な意味を持ち得ることに言及している。
【0027】
こうした観察は、STINGの急性活性化が抗微生物活性(すなわち抗ウイルス、抗菌、抗真菌、または抗寄生虫)にとって欠かせないであろうことを示すものである。
【0028】
最近の研究は、STINGホモ二量体が細胞質ポリヌクレオチド、特にウイルス関連の一本鎖および二本鎖DNA(ssDNAおよびdsDNA)分子と複合することを示している。そのような二量体型STING含有複合体は、I型IFNに加え、多種多様な自然免疫遺伝子および炎症誘発性遺伝子のHSV-1媒介転写活性化にとって不可欠であることがわかった。[非特許文献18。]
【0029】
ある特定の細胞型におけるSTING活性化は、アポトーシスおよびネクローシスを含め、細胞死を誘発する。この効果は、不必要または過度な炎症性イベントを予防することおよび宿主免疫ホメオスタシスを維持することにとって極めて重要であろう。I型IFNおよび腫瘍壊死因子(TNF)産生によって表される標準的な免疫応答の他に、STINGシグナル伝達は、様々な細胞型における細胞死イベントも誘導し得る。
【0030】
現在のところ、いくつかのSTINGアゴニストが難治性悪性腫瘍を治療するために開発されている。例えば、非特許文献19における結合アミドベンゾイミダゾール(ABZI)系化合物の使用を参照されたい。
【0031】
非特許文献20は、転写因子であるIFN調節因子3(IRF3)によってI型IFN応答を活性化することのできる小分子STINGアゴニストの同定を報告した。G10とも称され構造式が下記に示されているその小分子は、ヒト線維芽細胞におけるIRF3/IFN関連転写を誘発した。
【0032】
【化1】
【0033】
この分子に対する細胞応答のさらなる試験は、複数のIRF3依存性抗ウイルスエフェクター遺伝子ならびにI型およびIII型IFNサブタイプの発現を明らかにした。これは、チクングニアウイルス、ベネズエラウマ脳炎ウイルス、およびシンドビスウイルスを含むエマージングssRNAアルファウイルス種の複製を予防する細胞状態の確立に繋がった。非特許文献20の著者らが報告したことには、G10分子はSTINGに直接的に結合はせず、ヒトSTING依存性表現型の間接的な活性化因子として作用した。
【0034】
非特許文献21は、その構造が下記に示される合成小分子である5,6-ジメチルキサンテノン-4-酢酸(DMXAA)が、
【0035】
【化2】
【0036】
STING依存性シグナル伝達経路を活性化してマウスマクロファージにおけるI型IFN優位のサイトカイン応答を誘導し、これが細胞質ウイルスヌクレオカプシドの量を低減させることによって培養マウス肝細胞およびマウスの肝臓におけるHBV複製を効率よく抑制することを報告した。DMXAAは先にマウスSTINGのアゴニストとして同定されていた。ヒトSTINGはDMXAAに結合することまたはDMXAAに応答してシグナル伝達することができなかった。[非特許文献22。]このカスケードにおけるSTINGの直接的な効果はDCに対するものと見られ、これは自然免疫系と適応免疫系との間の仲介役として役に立つ。
【0037】
STINGは、TBK1/IRF3およびNF-κB経路ならびにそれに続くIFNおよびTNF産生による免疫応答の活性化因子として認識されている。STINGは、炎症誘発性サイトカインの誘導を通じた宿主防御、自己免疫疾患、および腫瘍免疫において極めて重要な役割を果たすことが示唆される。がん免疫療法のためのSTING経路標的化の適用も試験されている。[非特許文献23。]
【0038】
非特許文献24は、がん治療におけるSTINGの活性を検証した。同文献は、抗がん免疫応答にはSTINGの活性およびI型IFN産生の刺激が極めて重要であることを多数の研究が示していると報告している。
【0039】
非特許文献24は、STINGがI型IFNに依存しない手法でも抗がん免疫を調節することを新たなエビデンスが示唆していることに言及している。例えば、STINGは、細胞死を誘導すると共にがん細胞抗原の放出を促進することが示されている。また、STING活性化は、がん抗原提示を強化し、T細胞のプライミングおよび活性化に寄与し、腫瘍へのT細胞の輸送および浸潤を促進し、T細胞によるがん細胞の認識および殺傷を増進することが実証されている。
【0040】
非特許文献24の著者らは、I型IFNがインビボおよびインビトロのいずれでも腫瘍の制御に寄与することも、多くの研究が明らかにしたと報告している。これらの研究は、I型IFNが抗腫瘍応答において中心的な役割を果たすことを示唆するものである。しかしながら、最近の研究は、I型IFNが、抗がん免疫を損なったり、がんに関して予期せぬ治療の失敗さえ引き起こしたりもし得ることを示唆している。例えば、IFN-βは腫瘍細胞におけるプログラム細胞死リガンド1(PD-L1)およびプログラム細胞死リガンド2(PD-L2)の産生を誘導することが示されており、これはがん細胞による免疫逃避に寄与し得る。
【0041】
非特許文献17は、ウイルス学のそれと大部分が対応する、STING依存性自然免疫シグナル伝達の役割を検討した。STING活性化はI型IFNの活性化をもたらし、これには適応免疫系に対するプライミング効果がある(DCによる腫瘍抗原の交差提示を通じた腫瘍抗原特異的T細胞の活性化)。マウスにおけるSTINGの抑止は悪性黒色腫へのT細胞応答ならびに免疫チェックポイント阻害薬の活性を抑止するものであり、非特許文献17は、ウイルス学で観察されるように、慢性STING活性化は腫瘍形成の増進において役割を果たし得ることに言及している。
【0042】
非特許文献17は、「STINGに抗腫瘍免疫応答の促進における鍵となる役割があることが明らかになってきている。また、腫瘍微小環境内でSTING活性を刺激することは、悪性疾患の治療の助けとなる新しい免疫治療的戦略を含み得る。」と言及して結論とした。[非特許文献25]
【0043】
非特許文献26に記載されているように、免疫機能は幼児期に急速に増加し、高齢の始まりまで成人期にわたって一定のままである。非特許文献26の著者らは、免疫系は、人が年齢を重ねるにつれ、全面的な再構築を経て減退することに言及している。この免疫老化は、高齢者に対して急性のウイルス感染症および細菌感染症のリスクを高める傾向がある。
【0044】
年齢によるSTINGの発現および活性化の変化についての直接的なデータはほとんどないようであるが、特に自然抗ウイルス免疫の仲介におけるSTINGの中心的な役割を考えると、高齢の始まりによる(すなわち60歳以上)自然免疫の全体的な減退という同じパターンを辿ると思われる。非特許文献26の著者らは、がんの罹病率と年齢との並行した増加(すなわち、先進国におけるおよそ70歳という発症の中央年齢)に言及しており、これも年齢増加に伴うSTINGの発現および活性化の減退に起因するものであろう。
【0045】
また、感染性疾患および腫瘍学における急性STING活性の生産的な成果と慢性STING活性の反生産的な結果との一貫した観察は、感染性疾患および腫瘍学的兆候の両方の治療における急性STING活性の中心的な役割を示している。
【0046】
本発明は、抗微生物活性と抗がん活性との間の関連を、微生物感染およびがん性増殖の両方についてのワクチンベースの治療を改良するための新しいアジュバントとして説明するものであり、ローズベンガルなどのハロゲン化キサンテンを選ばれたワクチンに添加するアジュバントとして使用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0047】
【文献】米国出願第17/214590号
【文献】国際出願第PCT/US21/024499号
【文献】国際出願第PCT/US2021/027702号
【文献】米国特許第7,648,695号明細書
【文献】米国特許第8,557,298号明細書
【文献】米国特許第9,107,877号明細書
【文献】米国特許第10,130,658号明細書
【文献】米国特許第11,058,664号明細書
【文献】米国特許第8,530,675号明細書
【文献】米国特許第9,273,022号明細書
【文献】米国特許第9,422,260号明細書
【文献】米国特許第9,107,887号明細書
【文献】米国特許第9,808,524号明細書
【文献】米国特許第9,839,688号明細書
【文献】米国特許第8,974,363号明細書
【文献】米国特許第7,390,688号明細書
【文献】米国特許第5,998,597号明細書
【文献】米国特許第6,331,286号明細書
【文献】米国特許第6,493,570号明細書
【文献】米国特許第10,471,144号明細書
【文献】国際公開第2020/028532号
【文献】米国特許第6,942,866号明細書
【文献】米国特許第8,017,127号明細書
【文献】米国特許第4,599,231号明細書
【文献】米国特許第5,180,806号明細書
【文献】米国特許第6,231,846号明細書
【文献】米国特許第4,544,500号明細書
【文献】米国特許第4,625,015号明細書
【非特許文献】
【0048】
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【文献】academic.oup.com/jid/article/217/5/827/4705967
【発明の概要】
【0049】
本発明は、ヒトなどの哺乳動物に投与するワクチンの免疫原へのアジュバントとしてのハロゲン化キサンテン(HX)化合物の医学的利用を企図するものである。企図されるハロゲン化キサンテン(HX)化合物は、単独で、あるいはその薬学的に許容される塩、窒素原子が非置換であるアミド、窒素原子が同一であるまたは異なるまたはアミド窒素原子と共に5員環もしくは6員環を形成する1つまたは2つのC-Cアルキル基で置換されているアミド、C-Cアルキルエステル、またはその芳香族誘導体(アミドもしくはエステル)として、用いることができる。芳香族誘導体は、独立して窒素、酸素、もしくは硫黄である0、1つ、もしくは2つのヘテロ環原子を含有する5員芳香環もしくは6員芳香環または5,6縮合芳香環系もしくは6,6縮合芳香環系を有するアルコールまたは一置換アミンから形成されたエステルまたはアミドである。ローズベンガルが好適なHX化合物であり、その二ナトリウム塩であるローズベンガル二ナトリウムが最も好適なHX化合物である。
【0050】
本発明の一実施形態は、水または0.9%生理食塩水などの薬学的に許容される希釈剤中に溶解または分散したワクチン有効量で存在する免疫原を、アジュバント有効量の上述したハロゲン化キサンテンと共に含有する、ワクチン組成物を企図する。ハロゲン化キサンテン(HX)化合物のアジュバント有効量とは、例えば、がん細胞を殺傷するために使用されるであろう細胞傷害性量よりは少ない量であるが、STING二量体化を引き起こすのに十分な量である。
【0051】
別の企図される一実施形態は、免疫原と上述のHX化合物とを含有する濃縮プレワクチン組成物を保持する、バイアル、ボトル、もしくは他の適当な手段などの容器またはコンテナである。2つの成分の量は、ワクチンが調製されるときに、所定量の薬学的に許容される希釈剤中に溶解または分散次第ワクチンを提供するべく、ワクチン有効量の免疫原およびアジュバント有効量のHX化合物をそれぞれ提供するように予め定められている。
【0052】
HX化合物をアジュバント添加した哺乳動物用ワクチン組成物および対応する濃縮プレワクチン組成物は、1つ以上の添加剤も含有し得る。例示的な添加剤には、緩衝塩、組成物に所望の容積モル浸透圧濃度または重量モル浸透圧濃度をもたらすための浸透物質、および1つ以上の追加のアジュバントが含まれる。例示的で好適な追加のアジュバントには、1つ以上の通常使用されるアルミニウム含有ワクチンアジュバント、ならびに典型的にはT細胞CD4およびCD8T細胞といったT細胞の産生を刺激する助けとなるモノクローナル抗体である1つ以上の所謂「チェックポイント阻害薬」が含まれる。そのような添加剤は、ワクチン関連の調剤において慣習となっているように、ワクチン組成物の重量に基づいて、HX化合物をアジュバント添加した哺乳動物用ワクチン組成物の約0.001重量%~10重量%、好適には0.1~10重量%の量で存在し得る。添加剤については以降で詳細に述べる。
【0053】
本発明のさらなる一実施形態は、薬学的に許容される希釈剤中に溶解または分散したワクチン有効量の所定の免疫原を含有する、改良されたワクチン組成物であり、その改良は、免疫原と共にその薬学的に許容される希釈剤中にやはり溶解または分散した、アジュバント有効量の上述のハロゲン化キサンテン(HX)化合物を含む。
【0054】
冠詞「a」および「an」は、本明細書において、その冠詞の文法的対象の1つまたは2つ以上(すなわち、少なくとも1つ)を指すために使用される。一例として、「an element」は1つの要素または2つ以上の要素を意味する。
【0055】
本明細書で引用した特許、特許出願、および論文の各々は、参照により組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
本開示の一部を構成する図面は、下記の通りである。
【0057】
図1A】ローズベンガル(RB)と30分、1時間、2時間、4時間、および24時間接触させたTHP-1急性単球性白血病(AML)細胞のウェスタンブロットの注釈付き写真であり、特定の抗体によって検出される新しい70kDaのSTING二量体バンド(点線のボックス)の出現がもたらされた。
図1B】RBと2時間、4時間、6時間、および8時間接触させたTHP-1 AML細胞のウェスタンブロットの注釈付き写真であり、特定の抗体によって検出される新しい70kDaのSTING二量体バンド(点線のボックス)の出現がもたらされた。STING二量体の存在を強調するために、図1B図1Aよりも長いフィルム露光を利用した。
図1C】RBがTHP-1 AML細胞と接触する前、その6時間後、24時間後、および48時間後の、記載されたサイトカインおよびケモカインのアッセイ量のグラフを提供する。
図1D】RBがTHP-1 AML細胞と接触する前、その6時間後、24時間後、および48時間後の、記載されたサイトカインおよびケモカインのアッセイ量のグラフを提供する。
図1E】RBがTHP-1 AML細胞と接触する前、その6時間後、24時間後、および48時間後の、記載されたサイトカインおよびケモカインのアッセイ量のグラフを提供する。
図1F】RBがTHP-1 AML細胞と接触する前、その6時間後、24時間後、および48時間後の、記載されたサイトカインおよびケモカインのアッセイ量のグラフを提供する。
図1G】RBがTHP-1 AML細胞と接触する前、その6時間後、24時間後、および48時間後の、記載されたサイトカインおよびケモカインのアッセイ量のグラフを提供する。
図1H】RBがTHP-1 AML細胞と接触する前、その6時間後、24時間後、および48時間後の、記載されたサイトカインおよびケモカインのアッセイ量のグラフを提供する。
図1I】RBがTHP-1 AML細胞と接触する前、その6時間後、24時間後、および48時間後の、記載されたサイトカインおよびケモカインのアッセイ量のグラフを提供する。
図1J】RBがTHP-1 AML細胞と接触する前、その6時間後、24時間後、および48時間後の、記載されたサイトカインおよびケモカインのアッセイ量のグラフを提供する。
図1K】RBがTHP-1 AML細胞と接触する前、その6時間後、24時間後、および48時間後の、記載されたサイトカインおよびケモカインのアッセイ量のグラフを提供する。
図1L】RBがTHP-1 AML細胞と接触する前、その6時間後、24時間後、および48時間後の、記載されたサイトカインおよびケモカインのアッセイ量のグラフを提供する。
図1M】RBがTHP-1 AML細胞と接触する前、その6時間後、24時間後、および48時間後の、記載されたサイトカインおよびケモカインのアッセイ量のグラフを提供する。
図1N】RBがTHP-1 AML細胞と接触する前、その6時間後、24時間後、および48時間後の、記載されたサイトカインおよびケモカインのアッセイ量のグラフを提供する。
図1O】RBがTHP-1 AML細胞と接触する前、その6時間後、24時間後、および48時間後の、記載されたサイトカインおよびケモカインのアッセイ量のグラフを提供する。
図1P】RBがTHP-1 AML細胞と接触する前、その6時間後、24時間後、および48時間後の、記載されたサイトカインおよびケモカインのアッセイ量のグラフを提供する。
図1Q】RBがTHP-1 AML細胞と接触する前、その6時間後、24時間後、および48時間後の、記載されたサイトカインおよびケモカインのアッセイ量のグラフを提供する。
図1R】RBがTHP-1 AML細胞と接触する前、その6時間後、24時間後、および48時間後の、記載されたサイトカインおよびケモカインのアッセイ量のグラフを提供する。
図2】投与されたローズベンガル濃度(モル濃度)の対数に対して固形腫瘍治療の評価時点までの対象におけるHX化合物の持続時間の対数をプロットする、いくつかの異なる研究のデータの両対数プロットであり、2021年3月26日に提出された特許文献1にも以前の形式で提示されている。「病巣内投与」は非特許文献27に提示されているデータを表す。「Swift 2018,2019」は非特許文献28および非特許文献29に由来する。「経口 ApcMin」は特許文献2において報告された研究からのデータである。「経口 白血病」は2021年4月16日に提出された特許文献3において述べられているデータである。
図3】記載された3つの量のローズベンガル(RB)の各々の存在下または非存在下において、等しい数のPLC/PRF5細胞の存在下で、記載される3つの免疫原性ペプチド(下記)B型肝炎ウイルスコアタンパク質(HBC)のうち1つを発現するDCと共培養されたCD8細胞の、酵素結合免疫スポットプレート(ELIspot;R&Dシステムズ社、ミネソタ州ミネアポリス)の写真複写を示す。 図3図4、および図5において、「No Pep」は「ペプチドなし」を意味する。Pep1はSEQ ID NO:1のペプチド「ATVELLSFLPSDFFPSV(HLA-A*02)」である。Pep2はSEQ ID NO:2のペプチド「FLPSDFFPSV(HLA-A*02)」である。Pep3はSEQ ID NO:3のペプチド「LPSDFFPSV(HLA-B*51)」である。PLC/PRF5は、B型肝炎粒子を発現および分泌するヒト肝がん細胞株である。「PV-10」は、0.9%生理食塩水中の殺菌した10%ローズベンガル(RB)溶液であり、図3~5で使用される濃度5μM、10μM、および20μMは、使用されるPV-10溶液から提供されるRBの濃度を意味する。
図4】PLC/PRF5細胞なしで培養されたCD8細胞から計数されるIFNガンマELIspot画像の数を対照培養についての数と共に示す、一連の棒グラフである。
図5】記載した量のRBと共に、しかしPLC/PRF5細胞の非存在下において、記載した3つのB型肝炎ウイルス(HBV)免疫原性ペプチドのうち1つを発現するDCと共培養されたCD8細胞のELIspotの写真複写を示す。
【発明を実施するための形態】
【0058】
発明の詳細な説明
本発明は、被治療哺乳動物において哺乳動物の免疫原に特異的な免疫応答を強化するワクチンおよび方法を企図するものである。その方法は、インビトロの培養プレートまたはインビボの哺乳動物の体内など哺乳動物細胞増殖支持培地に存在する哺乳動物細胞を、アジュバント有効量のハロゲン化キサンテン(HX)化合物、先に述べた薬学的に許容される塩、アミド、エステル、または芳香族誘導体、および免疫原であってそれに対する免疫応答が強化されるべきものと接触させることを広く備える。
【0059】
本発明は、より具体的には、哺乳動物用ワクチンにおいて、がん性腫瘍または微生物感染症の治療時に注入によって非経口的に投与されるときに、免疫原と併せて、内因的に存在するSTINGからのI型インターフェロン(IFN)免疫応答を誘導するアジュバントとして、ハロゲン化キサンテン(HX)化合物、特にローズベンガル二ナトリウムを使用することを企図するものである。2つ以上の薬剤(アジュバントおよび免疫原)は、好適には、通常生理食塩水のような単一の水性医薬組成物から注入によって非経口的に投与される。別々の水性医薬組成物注入液が作製されてもよく、好適には順次、または最大で互いに約4時間以内に注入が行われる。
【0060】
この免疫原性応答I型IFNは、RBもしくは別のHX化合物の腫瘍への病巣内注射によって、または特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8に示される悪性血液細胞のRBとの接触によって得られるもの、およびそのうち1つ以上の子孫とは異なる。上記の特許文献において接触されるがん性哺乳動物細胞は優先的にRBを取り込み、これががん細胞を殺傷し、その結果生じるアブレーション細胞片を、遠隔免疫応答を誘導するための自己ワクチンとして作用させる。この免疫原性応答においては、RBなどのHX化合物は、細胞を殺傷するようにではなく、STING応答を刺激するように作用する。ローズベンガル二ナトリウムが好適なHX化合物である。
【0061】
免疫応答の強化は、インビボまたはインビトロ技術によるサイトカイン、ケモカイン、抗体、B細胞、および/またはT細胞などの適切な免疫分子または細胞の比較によって判定することができる。そのような比較は、この分野において通常利用される、腫瘍の大きさやウイルス血症の範囲などの比較によって行うこともできる。
【0062】
もう1つの具体的な実施形態においては、本発明は、水または0.9%生理食塩水などの薬学的に許容される希釈剤中に溶解または分散してワクチン有効量で存在する免疫原を、アジュバント有効量の上述し以降でより詳細に述べるハロゲン化キサンテン(HX)化合物と共に含有する、哺乳動物用ワクチン組成物を企図する。ハロゲン化キサンテン(HX)化合物のアジュバント有効量とは、例えば、がん細胞を殺傷するために用いられるであろう細胞傷害性量よりは少ない量であるが、ワクチン接種した哺乳動物におけるインターフェロン遺伝子刺激因子(STING)二量体化およびI型IFN免疫応答の付随的誘導を引き起こすのに十分な量である。この量についても以降でさらに述べる。企図されるワクチンは、HX化合物をアジュバント添加した哺乳動物用ワクチン組成物の約0.001重量%~10重量%で存在する1つ以上の添加剤も含み得る。この段落に記載される免疫原とHX化合物とを含有する哺乳動物用ワクチン組成物は、以降および特許請求の範囲においては、HX化合物をアジュバント添加した哺乳動物用ワクチンと称される。
【0063】
本発明は、任意の哺乳動物用ワクチン、特にヒト用のワクチンに適用することを企図されている。好適には、ワクチン免疫原と、考えられる添加物であってHX化合物アジュバントがそれと共に溶解または分散するものとは、投与されるときに液体状であり、より好適には、その液体は少なくとも80重量パーセント水である。
【0064】
抗微生物哺乳動物用ワクチンであってHX化合物アジュバントがそれと共に製剤化されるものには、6つの通常使用されるクラス(タイプまたはグループ)がある。
【0065】
第1のグループは、殺傷されたバージョンの微生物を免疫原として利用する「不活化ワクチン」である。実例には、A型肝炎を予防するもの、季節性A型インフルエンザを予防するもの、ソークポリオワクチン、および狂犬病ワクチンが含まれる。これらのワクチンは、典型的には注射(ショット)によって投与される。
【0066】
次のタイプは「生弱毒化」微生物を免疫原として利用し、麻疹、おたふく風邪、および風疹を予防するもの(MMR混合ワクチン)、ロタウイルスを予防するもの、天然痘を予防するもの、水痘を予防するもの、および黄熱病を予防するものを含む。セービン経口投与ポリオワクチンも生弱毒化ウイルスワクチンである。
【0067】
第3のタイプは、現在利用されているCOVID-19ワクチン(例えばモデルナ社およびファイザー・BioNTech社)のような1つ以上の免疫原性微生物タンパク質性配列をコードする「mRNAワクチン」である。
【0068】
第4のグループは、「サブユニット、HBcAgタンパク質鎖の一部として抗熱帯熱マラリア原虫ハプテン配列をコードおよび発現するように遺伝子操作されたプラスミドDNAなどの組換え構造物(後述する)、多糖、および共役」ワクチンであり、これらはタンパク質、糖、またはカプシドといった病原菌の特定の断片を免疫原として使用するもので、Hib(ヘモフィルス・インフルエンザb型)病、B型肝炎、ヒトパピローマウイルス(HPV)、百日咳、肺炎球菌感染症、髄膜炎菌感染症、および帯状疱疹を予防するために用いられるワクチンによって例示される。
【0069】
第5のタイプは、病原菌自体の代わりに病原菌のうち疾病を引き起こす部分に対する免疫を作り出す「トキソイド」ワクチンである。1つの例示的なトキソイドワクチンはジフテリアを予防し、別の1つは破傷風を予防する。
【0070】
第6のタイプは「ウイルスベクター」ワクチンであり、現在のところ米国ではそのうち1つのみが緊急用に認可されていると理解される。そのワクチンとは、Johnson&JohnsonのJanssen Pharmaceutical Companies社によって開発されたSARS-CoV-2スパイクタンパク質ワクチンを発現する組換え複製不能アデノウイルス26型である。
【0071】
Heplisav-B(登録商標)抗B型肝炎ワクチン中に存在するアジュバントCpG1018は、製造業者の印刷物[非特許文献30]によれば、「TLR9発現抗原提示細胞によって取り込まれて強い免疫賦活性応答のカスケードを誘発する。これは、メモリーT細胞およびメモリーB細胞を生成するように、高度に特異的なヘルパーT細胞応答を誘導し得る。」
【0072】
TLR9免疫応答シグナル伝達カスケードがI型IFN応答の産生および炎症誘発性サイトカインの産生を含むことに注意するのは重要である。[非特許文献31。]それらの炎症誘発性サイトカインはIL-12、IL-6、IL-8、およびTNFαを含み[非特許文献32]、それらの炎症誘発性サイトカインは様々な疾患のサイトカインストームと関連している。非特許文献33、非特許文献34、非特許文献35、および非特許文献36を参照されたい。
【0073】
サイトカイン放出症候群(CRS)と称されることもあるサイトカインストーム症候群(CSS)は、制御されない免疫活性化に起因する過剰なサイトカイン放出から過剰炎症および多臓器疾患が生じる臨床状態の包括を指し、全世界の子供および大人の死亡率の原因となる伝染性、リウマチ性、腫瘍学的、および免疫療法の病因を含む。よって、放出されたサイトカインは、より多くのサイトカインをポジティブフィードバックループにおいて放出するように、より多くの白血球を絶え間なく活性化するべく白血球を誘導する[非特許文献37]。
【0074】
重症のCOVID-19患者は、サイトカインストームなどの高炎症性症候群を経験すると共に二次性血球貪食性リンパ組織球症(sHLH)を発症するおそれがあり、これは急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を引き起こす。ARDSはこうした患者において約50%の死亡率を引き起こす。サイトカインストームは、敗血症、非伝染性の全身性炎症反応症候群(SIRS)、マクロファージ活性化症候群(MAS)、および二次性血球貪食性リンパ組織球症において見られる。したがって、サイトカインストームは回避されるべきである。
【0075】
別の企図される一実施形態は、免疫原と上述のHX化合物とを含有する濃縮プレワクチン組成物を保持するバイアルもしくはボトルなどの容器またはコンテナである。2つの成分の量は、ワクチンが調製されるときに、所定量の薬学的に許容される希釈剤中に溶解または分散し次第HX化合物をアジュバント添加した哺乳動物用ワクチンを提供するべく、ワクチン有効量の免疫原およびアジュバント有効量のHX化合物をそれぞれ提供するように予め定められている。
【0076】
本実施形態においては、HX化合物をアジュバント添加した哺乳動物用ワクチンの成分は、典型的には、成分のうちいくつかまたは全ての水溶液または水分散液をフリーズドライ(凍結乾燥)することによって得られる乾燥した粉末状態である。よって、例えば、免疫原がHBsAgであるB型肝炎ウイルスの予防のための水性組成物のように、製剤化されるワクチンに水性組成物が使用される場合には、免疫原を産生するために用いられる組換えによって形質転換されたサッカロマイセス・セレビシエの増殖培地およびライセートからタンパク質性免疫原を得ることができ、それに続いて免疫原が精製されて、HBsAg含有水性組成物が凍結乾燥される。1つ以上の水溶性緩衝物質、所望の容積モル浸透圧濃度を提供する物質、二ナトリウムローズベンガルのようなHX化合物アジュバント組成物、および追加的な試薬が粉末状態で免疫原と混合されて、包装可能な、HX化合物をアジュバント添加した哺乳動物用ワクチンを調製するために注射用の水の添加および原料の溶解または分散のための攪拌ができる状態のプレワクチンを提供する。
【0077】
本発明のさらなる一実施形態は、薬学的に許容される希釈剤中に溶解または分散したワクチン有効量の所定の免疫原を含有する、改良された、HX化合物をアジュバント添加した哺乳動物用ワクチン組成物であり、その改良は、免疫原と共にその薬学的に許容される希釈剤中にやはり溶解または分散した、アジュバント有効量の前述および後述のハロゲン化キサンテン化合物を含む。上述してきた、および以降でさらに述べるワクチン添加剤も、企図される、改良された、HX化合物をアジュバント添加した哺乳動物用ワクチン組成物中に存在し得る。
【0078】
別の一態様は、微生物感染症を呈するなど治療の必要が認識される対象哺乳動物、好適にはヒトにおけるI型インターフェロン応答を誘導する方法であって、そのI型インターフェロン応答を誘導するのに有効な量のハロゲン化キサンテン、上述した薬学的に許容される塩、アミド、エステル、または芳香族誘導体を投与することを備える方法を企図する。好適なハロゲン化キサンテンはローズベンガル二ナトリウムである。C-Cアルキルエステルハロゲン化キサンテンが使用されるときには、それは好適にはC(エチル)エステルである。芳香族誘導体が使用されるときには、それは好適にはベンジル、フェニル、または2-,3-,もしくは4-ピリジル(ピリジル)エステルまたはアミドであるが、後述するように他の芳香族誘導体も企図される。
【0079】
さらなる一態様は、固形がん性腫瘍を治療するための、HX化合物をアジュバント添加した対象哺乳動物用ワクチンを企図する。この方法は、特許文献7に記載されている治療済み対象からの組成物を免疫原として利用し、それによって抗自己腫瘍ワクチンと称することができるものを作り出す。
【0080】
ここでは、免疫原とは、腫瘍特異的免疫抗がん剤組成物を含有する濃縮腫瘍特異的免疫抗がん剤調製物である。その組成物の成分は、宿主哺乳動物の1つ以上の固形がん性腫瘍内に、がん性細胞に接触し、がん性腫瘍をアブレーションし、腫瘍アブレーション細胞片抗原タンパク質を形成するように、腫瘍アブレーション量のハロゲン化キサンテン化合物またはその薬学的に許容される塩を1回以上病巣内(IL)投与することによって誘発され、その成分は、1回以上のIL投与から約1~約365日後に、宿主哺乳動物から収集される。
【0081】
IL投与前の量と比較すると、組成物は、末梢血単核(PBM)細胞である免疫細胞と、a)IL-2、TNF-α、LT、GM-CSF、IFN--γ、およびHMGB1からなる群から選択されたリンパ可溶性サイトカイン、b)末梢血単核(PBM)細胞である免疫細胞、およびc)全腫瘍細胞に表示される抗原にまたはハロゲン化キサンテン腫瘍アブレーション細胞片抗原タンパク質に結合する抗体のうち1つまたはいずれか2つである、統計的に有意に強化された濃度のハロゲン化キサンテン誘導免疫抗がん成分とを含有する。末梢血単核(PBM)細胞である免疫細胞は、濃縮腫瘍特異的免疫抗がん剤組成物を形成するように培養されインビトロで優先的に拡張されている。企図されるHXアジュバント、その量、および企図されるその他のワクチン成分は、本明細書中の他の箇所に記載される。
【0082】
ハロゲン化キサンテン(HX)化合物
本発明者らの以前の研究は、ハロゲン化キサンテン(HX)化合物および特にローズベンガル[4,5,6,7-テトラクロロ-2′、4′,5′,7′-テトラヨードフルオレセイン](RB)を、腫瘍内注射または局所適用後に強い活性を有する新規の治療薬として同定している。ローズベンガルは、特許文献9、特許文献10、および特許文献11に記載されている分子のHX化合物クラスの原型メンバーである。
【0083】
これらの分子には、特許文献12、特許文献13、および特許文献14に記載されている注射可能な抗悪性腫瘍薬としておよび特許文献15に記載されている局所皮膚科用薬としての用途を含め、いくつかの医療用途がある。RBはがんの免疫賦活療法として[非特許文献38]および炎症性皮膚疾患の免疫調整療法として[非特許文献39]の将来性をうかがわせるが、これらの分子に自然免疫の直接的活性化における提示的役割があったことはない。
【0084】
平衡透析を用いると、RBの99.8%よりも多くが血清アルブミンを欠くラットの血清中で結合し、いくつかのタンパク質が関与することを示している。正常ラットにおいては、RBの75~80%がアルブミン分画から回復され、残りの20~25%は他のタンパク質分画にある[非特許文献40および非特許文献41]。本発明者らは、超遠心分離法を用いて、RBがラットプラズマにおいて高度のプラズマタンパク質結合を示し、1μMでは99.0%、10μMでは99.2%のプラズマタンパク質結合が観察されること、ならびにこの親和性はヒトにおいてはより高く、1μM~10μMでそれぞれ99.8%~99.9%のプラズマタンパク質結合が観察されることを確認している。
【0085】
この生体分子、とりわけ糖タンパク質に対する親和性は、両親媒性であるHX化合物の固有の物理化学的性質の結果であるとみられる。例えば、RBは、水中で少なくとも10%(100mg/mL)、エタノール中で3%(30mg/mL)、および2-メトキシエタノール中で6%(60mg/mL)の溶解度を有している[非特許文献42]。
【0086】
静脈内法(IV)を介してヒトに投与されると、HX化合物は、代謝無しでおよそ30分の循環半減期で胆汁を介して排泄される。これは肝機能のIV診断としての歴史的使用に繋がった。非特許文献43による最初の臨床的実証に始まり、静脈内RBは、示差的排泄に基づく肝障害の診断として日常的に使用されるようになった。1950年代における131I放射性標識RBの導入がイメージング剤としての使用を拡張し[非特許文献44]、ガンマ線検出を介した肝臓の直接イメージングを可能にした。
【0087】
臨床的使用では、放射性ヨウ素化RBが非放射性標識RBで希釈されることが多かった。米国における既承認適応は、肝機能不全の判定における診断補助としての用途および肝臓イメージング用であり、肝スキャンにより多くの時間をとることができるように放射性標識生成物の排泄速度を遅らせるべく、最大で25μCiの用量の131I RB(およそ12mgのRB)がブロック用量の非放射性標識RB(放射性標識生成物投薬の10分前であれば100mg)と共に使用された。本発明者らは非放射性標識RBでこの処置を繰り返し、最新の臨床ツールおよび標準を用いて全身投与されるRBの安全性および薬物動態的特性を確認した。
【0088】
非特許文献45は、蒸留水に溶解し300mg/kg/日で若いオスのウィスター系ラットに経口投与されたローズベンガルの効果の研究を報告した。非特許文献45の研究者たちは成長速度に対する影響は無かったと報告したが、RBは相対肝重量の有意な減少を引き起こした。肝細胞核のRNAまたはRNA含有量へのH-UTP取り込みに対する影響については言及されなかった。同様の濃度のポンソー3RまたはアマランスがインビボでのRNA合成を刺激することが報告された。
【0089】
以下に列挙する同様に有用なハロゲン化キサンテン化合物およびそれらの薬学的に許容される塩は、互いに約3倍異なる分子量を有し得る(特許文献16、第15~16欄の表3を参照)。使用される特定のHX化合物の正確な量は、そのような各化合物の分子量またはRBの分子量に基づいて計算されるのが好適である。
【0090】
企図されるHX化合物には、特に好適であるローズベンガル(4,5,6,7-テトラクロロ-2′,4′,5′,7′-テトラヨード-フルオレセイン;RB)、エリスロシンB、フロキシンB、4,5,6,7-テトラブロモ-2′,4′,5′,7′-テトラ-ヨードフルオレセイン、2′,4,5,6,7-ペンタクロロ-4′,5′,7′-トリヨードフルオレセイン、4,4′,5,6,7-ペンタクロロ-2′,5′,7′-トリヨードフルオレセイン、2′,4,5,6,7,7′-ヘキサクロロ-4′,5′-ジヨードフルオレセイン、4,4′,5,5′,6,7-ヘキサクロロ-2′,7′-ジヨードフルオレセイン、2′,4,5,5′,6,7-ヘキサクロロ-4′,7′-ジヨードフルオレセイン,4,5,6,7-テトラクロロ-2′,4′,5′-トリヨードフルオレセイン、4,5,6,7-テトラクロロ-2′,4′,7′-トリヨードフルオレセイン、4,5,6,7-テトラブロモ-2′,4′,5′-トリヨードフルオレセイン、および4,5,6,7-テトラブロモ-2′,4′,7′-トリヨードフルオレセインが含まれる。
【0091】
上記のハロゲン化キサンテンのような、医薬化合物と共に薬学的に許容される塩を形成する、一般的に使用される薬学的に許容される酸および塩基のリストに関して、読者は非特許文献46を参照されたい。例示的なカチオンには、ナトリウム、カリウム、ならびにアンモニウムなどのアルカリ金属と、マグネシウムおよびカルシウムなどのアルカリ土類塩とが含まれる。ローズベンガルの二ナトリウム塩は特に好適である。
【0092】
上記のハロゲン化キサンテン化合物のうち1つのC-Cアルキルエステルも使用することができ、C、すなわちエチルエステルが好適である。よって、RB、エチル-レッド3(エリスロシンエチルエステル;2′,4′,5′,7′-テトラヨード-フルオレセインエチルエステル)、4,5,6,7-テトラブロモ-2′,4′,5′,7′-テトラヨードフルオレセイン、およびエチル-フロキシンB(4,5,6,7-テトラクロロ-2′,4′,5′,7′-テトラブロモフルオレセインエチルエステル)の各々を用いたインビトロ実験は、CCL-142腎腺がんに対して同様の抗腫瘍活性を示した。芳香族エステルが使用されるときには、それは好適にはベンジルまたはフェニルエステルである。
【0093】
HX化合物のカルボキシル基もアミド基を形成するために使用され得る。アミド窒素原子は、非置換[-C(O)-NH]であってもよく、C-Cアルキル基で一置換[-C(O)-NHR、ただしRはC-Cアルキル]、または2つの独立して選択されたC-Cアルキル基で二置換[-C(O)-NR、ただしRおよびRはそれぞれ独立して同一のまたは異なるC-Cアルキル基]されていてもよい。代替的には、R基およびR基がアミド窒素原子と共に5員環または6員環を形成する。
【0094】
さらに、HX化合物カルボキシル基は、エステルまたは一置換アミドである芳香族誘導体を形成し得る。そのような誘導体の芳香環は、独立して窒素、酸素、もしくは硫黄である0、1つ、もしくは2つのヘテロ環原子を含有する単一の5員芳香環もしくは6員芳香環または5,6縮合芳香環系もしくは6,6縮合芳香環系である。
【0095】
芳香環部がフェニル、ベンジル、または2-,3-,もしくは4-ピリジル(ピリジル)である芳香族誘導体が現在のところ好適である。しかしながら、他の芳香族単環および縮合環含有エステルならびにアミドが企図される。そのような芳香族エステルおよびアミド誘導体基の実例が以下に示され名前を挙げられている。ここで、ZはOまたはNHであり、線Zは環酸素または環窒素が環のいずれかの利用可能な炭素からのものであり得ることを示し、波線と交差するZ線は図示されるアルコキシ基またはアミノ基が別の分子、エステル化またはアミド化されたHX分子の一部であることを示す。
【0096】
【化3】
【0097】
特許文献9の図1sによって表される2,3,4,5-テトラクロロ-6-(6-ヒドロキシ-2,4,5-トリヨード-7-イソプロピル-3-オキソ-3H-キサンテン-9-イル)安息香酸二ナトリウム[4,5,6,7-テトラクロロ-2′,4′,5′-トリヨード-7′-イソプロピルフルオレセイン]、および位置2,3,4,5,2′,4′,5′,または7′のうち1つ以上で1つ以上の脂肪族または芳香族部分の結合を介して形成される同様の脂肪族または芳香族誘導体など、上記のHX化合物のうち1つの脂肪族または芳香族誘導体も使用することができる。
【0098】
RBの好適な形態は、以下の構造式を有するローズベンガル二ナトリウムである。:
【0099】
【化4】
【0100】
上記したHX化合物を含有する医薬組成物の医学的利用のさらなる詳細は、特許文献17、特許文献18、特許文献19、特許文献16、特許文献4、特許文献15、特許文献12、特許文献13、特許文献14、特許文献7、および特許文献20に記載されている。これらの開示は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0101】
企図されるHX、上述したその薬学的に許容される塩またはエステルまたはアミドは、典型的にはHX化合物をアジュバント添加した哺乳動物用水性ワクチン組成物中にアジュバント量で溶解または分散されて使用される。先に述べたHX分子、塩、エステル、またはアミド(化合物)のアジュバント量とは、I型IFN免疫反応を誘発する量である。そのような量は、細胞傷害性量よりも少なく好適には細胞傷害性量の約75%よりも少ないHX化合物の量でもある。
【0102】
細胞傷害性量とは、腫瘍学適応(例えば神経芽腫、白血病、悪性黒色腫、または他の腫瘍)のIC50値量であるが、感染性疾患については、細胞傷害性量は正常組織(例えば培養線維芽細胞、腎細胞など)のIC50である。特許文献8の表1および2に示されるデータは、13の小児固形腫瘍細胞株に対するインビボでのRBの使用に関するIC50値が、処理後96時間の曝露で約50~約100μM、中央値が約70μMであることを説明している。正常線維芽細胞細胞株および一次骨髄サンプルの同様の処理は、約73~143μMのIC50値をもたらし、中央値は104μMであった。同様のデータが、発明者らのうち一名と彼の研究グループによって、11の小児白血病細胞株に関して報告されており、平均IC50値は93μM、および3つの一次白血病サンプルの平均IC50値は122μMである[非特許文献47]。
【0103】
RB二ナトリウムの分子量が1,018g/モルであることを考えると、上記の細胞傷害性IC50値では、1リットル当たり約50~約100mgのRBが含まれる計算になる。これらの値はIC50値に基づいておよそ10-4~約10-5モル濃度に換算される。よって、HX化合物としてRBを基にした、HX化合物をアジュバント添加した哺乳動物用ワクチン組成物におけるHX化合物の典型的なアジュバント有効量は、1リットル当たり約35~約75mg、または約7.5×10-5~約7.5×10-6モル濃度となる。
【0104】
HX化合物の短いヒト循環半減期(約30分)は、急性STING活性化のためにこれらの分子の効果的な適用を促進し、自然免疫シグナル伝達の可能性を最大化し、その一方で反産生的な炎症反応、起こり得る自己免疫疾患、または腫瘍形成の増進をもたらし得る慢性活性化を回避する。図1C~1Rに示されるインビトロの結果からわかるように、サイトカイン産生を強化することに対するRBの効果は、16のサイトカインの各々において、48時間以内に生じた。
【0105】
免疫原
企図されるワクチンは免疫原を含有し、これはウイルス、細菌、真菌、または単一細胞寄生虫などの殺傷または無力化された感染因子であり得る。免疫原は、感染因子であってそれからの防御が求められるものに存在する、1つ以上のタンパク質またはペプチジルタンパク部分でもあり得る。免疫原はさらに、感染因子の糖類含有部分であり得る。全感染因子以外のこれらの免疫原は、ワクチンタイプの議論において前述したように、感染因子自体から得ること、合成化学を介して作製すること、または組換え技術によって作製することができる。
【0106】
免疫原はワクチン中にワクチン有効量で存在する。その量は、政府によって承認されたワクチン中に存在する免疫原の量であり得る。未承認のワクチンに関しては、その量は、ワクチンが投与される対象哺乳動物において所望の免疫応答を誘導するためにHX化合物アジュバントの非存在下で必要とされる量である。よって、防御抗体および/またはT細胞は、ワクチン有効量の免疫原を含有するワクチンの投与の結果、形成される。
【0107】
例示的なウイルス感染因子(病原体)であってそれからの防御が求められるものには、インフルエンザや、肝炎ウイルスA,B,C,およびDや、水痘帯状疱疹(水痘)、単純ヘルペス1型および2型(HSV1およびHSV2)、ヒトパピローマウイルス(HPV)などのヘルペスウイルスが含まれる。例示的なバクテリア病原体には、大腸菌、フェカリス菌、黄色ブドウ球菌などが含まれる。例示的な単細胞寄生虫は、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、ネズミマラリア原虫、またはヨーエリマラリア原虫のマラリアスポロゾイトである。例示的な真菌感染性因子は、カンジダ・アルビカンス、カンジダ・グラブラータ、カンジダ・パラプシローシス、カンジダ・トロピカリス、およびカンジダ・クルーセイを含む。
【0108】
例示的なタンパク質性免疫原および疾患関連マーカ―分子ペプチドが、公開された情報源の引用と共に特許文献21に開示されている。
【0109】
特許文献22は次のペプチジルエピトープを含む。:
マラリアB細胞エピトープ
熱帯熱マラリア原虫
三日熱マラリア原虫
ネズミマラリア原虫
ヨーエリマラリア原虫
【0110】
マラリアユニバーサルT細胞エピトープ
熱帯熱マラリア原虫
三日熱マラリア原虫
ヨーエリマラリア原虫
【0111】
特許文献23は次のペプチジルエピトープを含む。:
インフルエンザA型M2タンパク質B細胞エピトープ
【0112】
特許文献23で言及されているように、M2タンパク質はインフルエンザA型株に感染した細胞において発現する。M2タンパク質のN末端残基1~24は感染した細胞の膜を貫通して伸びる。タンパク質のその細胞外部分はM2eと称される。したがって、そのタンパク質のインフルエンザA型細胞外M2e部分を免疫原の一部として使用することは、インフルエンザ株のすべてからの防御を提供し得る。よって、インフルエンザワクチン選択の毎年の変更を回避することができる。
【0113】
特許文献24は次のペプチジルエピトープを含む。:
B型肝炎ウイルス表面抗原
【0114】
B型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)は、B細胞ポリペプチドエピトープおよびT細胞ポリペプチドエピトープの両方を提供する。特許文献24に開示されるいくつかの各エピトープタイプは、下で表中に、それらのペプチド名称、ならびにayw提供者(P49)およびadw提供者(P72およびP73)のDNAに基づいて同特許に記載されている括弧内のN末端からの配列位置と共に、提示されている。
【0115】
B細胞エピトープ
特許文献25は次のペプチジルエピトープを含む。:
ヒトパピローマウイルス(HPV)マーカーペプチド
【0116】
パピローマウイルスは、皮膚または粘膜上皮の良性、形成異常、および悪性の過剰増殖を誘導する。50型(株)よりも多くのヒトパピローマウイルス(HPV)が同定されている。ヒトにおいては、異なるパピローマウイルス型は異なる疾患を引き起こすことが知られている。例えば、HPV1型および2型は尋常性疣贅を引き起こし、6型および11型はコンジローマおよび性器扁平疣贅を引き起こす。対照的に、HPV16型、18型、および33型はほとんどの子宮頸がんに存在しており、通常のコンジローマは引き起こさないが、子宮頸部内皮に拡散して存続し、最小限の病変しか呈さない。子宮頸がんに関連するHPV型は、初感染後何年も子宮頸部内皮組織中に潜伏状態で維持され、その後、場合により進行して子宮頸がんを引き起こすと考えられる。
【0117】
特許文献25は、担体に結合されると抗体の産生を誘導するいくつかのペプチド配列を開示している。16型関連HPV配列の例示的なペプチドマーカーが特許文献25に開示されている。同特許は、18型および33型のペプチド配列、ならびにHPV6型、11型、18型、および33型のE2 ORFによってコードされた配列も開示している。
【0118】
上記のペプチジルエピトープは、典型的にはそれら自体では免疫応答を誘導するのに有効ではなく、当該技術分野においてはハプテンと称される。それらはむしろ、それ自体免疫原性であるが感染因子であってそれからの防御が求められるものに必ずしも対抗しない担体分子、通常はタンパク質に結合されなければならない。そのような担体分子の実例は、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)およびB型肝炎コアタンパク質/粒子(HBcAg)である。
【0119】
特許文献26は、それ自体が所望の感染因子に対して免疫原性である構築物を産生するためにぺプチジルハプテンが結合可能なリジンなどの添加アミン含有アミノ酸残基で修飾されたHBcAgの使用を教示している。B型肝炎コアタンパク質は自己組織化して一般に球形の粒子となり、これは約180の個々の同一のタンパク質を含む。同特許は、いくつかの感染因子について約70のペプチジルハプテンも列挙している。いくつかの炭水化物ハプテンも、標的感染因子に対する各々の効能に関する文献または特許文献と併せて列挙されている。
【0120】
特許文献27は、特にアミノ末端から141~160番目の、口蹄疫ウイルス(FMDV)VPタンパク質の一部に対応するペプチジルハプテンの担体としてのKLHの使用を教示している。KLHは、特許文献28に記載されたインフルエンザウイルスA型(H3N2)のヘマグルチニンタンパク質の一部の配列を有するペプチドハプテンの担体でもあった。
【0121】
特許文献22は、修飾されたHBcAg粒子として大腸菌中に発現した抗熱帯熱マラリア原虫免疫原を教示している。形質転換された大腸菌は、発現した各HBcAgタンパク質がハプテン配列を含有するように抗熱帯熱マラリア原虫ハプテン配列をHBcAgタンパク質鎖の一部としてコードし発現させるように遺伝子操作されたプラスミドDNAを含有していた。
【0122】
ワクチン組成物
企図されるHX化合物をアジュバント添加した哺乳動物用ワクチン組成物は、前述したように、免疫原およびHX化合物アジュバントと、1つ以上の添加剤とを含有し得るものであり、通常は含有する。そのような組成物は、典型的にはIV法による非経口投与を意図されているので、そのような組成物は電解質も含有するはずであり、好適にはおよそ生理的な重量モル浸透圧濃度およびpH値を有する。
【0123】
薬学的に許容される水性媒体中の一価の電解質イオンの好適な濃度は、約0.5~約1.5%(w/v)、より好適には約0.8~約1.2%(w/v)であり、最も好適には約0.9%(w/v)の濃度である。約0.9%(w/v)の濃度は、ほぼ等張水溶液に相当するため、特に好適である。さらなる好適な一実施形態においては、企図される医薬組成物中の電解質は塩化ナトリウムである。
【0124】
そのようなレベルの電解質は、薬学的に許容される水性媒体の重量モル浸透圧濃度を高める。よって、電解質濃度の範囲を特定する代わりに、重量モル浸透圧濃度を用いて、組成物の電解質レベルをある程度特徴付けることができる。
【0125】
マンニトールやブドウ糖のような糖などの等張化剤(または張度調整剤)、プロピレングリコール、グリセロール、およびソルビトールなどのC-Cポリヒドロキシ化合物、塩化ナトリウムまたは塩化カリウムなどの等張塩、ならびに/またはリン酸塩、クエン酸、リンゴ酸、酢酸、および他の食品酸およびそれらの塩などの緩衝剤を使用することができる。
【0126】
好適には組成物の重量モル浸透圧濃度は約100mOsm/kgより大きく、より好適には組成物の重量モル浸透圧濃度は約250mOsm/kgより大きく、最も好適には約300~約500mOsm/kgである。
【0127】
水性ビヒクルにおけるHX化合物の溶解度を最大化し、生物組織との適合性を確保するためには、薬学的に許容される水性媒体のpH値は約4~約9であるのが好適である。特に好適なpH値は約5~約8であり、より好適には約6~約7.5の間である。最も好適には、ワクチン組成物のpH値は7.35~7.45、またはより容易には、血漿のpH値である7.4である[非特許文献48]。これらのpH値では、(エステル化もアミド化もしていない)遊離カルボキシル基を含有する化合物は、低いpH値で形成される水不溶性のラクトンではなく、典型的には二塩基形態のままである。
【0128】
薬学的に許容される水性媒体のpH値は、当業者に周知の任意の適当な手段によって調節または調整することができる。組成物は、酸または塩基などの追加によって、中和またはpH値を調整することができる。ハロゲン化キサンテンまたはその生理的に許容される塩は弱酸であるから、ハロゲン化キサンテンの濃度および/または電解質の濃度によっては、組成物のpH値はバッファーおよび/またはpH修飾試薬の使用を要さないかもしれない。もっとも、組成物は、投与され次第生物環境に順応できるように、いかなるバッファーも含まない(無バッファーまたはバッファーフリーである)のが特に好適である。
【0129】
1つ以上の追加的なアジュバントが追加的な添加剤として存在していてもよい。アルミニウム含有化合物が米国で最も一般的に用いられているワクチンアジュバントである。
【0130】
免疫原(Im)重量のアルミニウム(Al)重量に対する比は、広く約0.3~約2.7mg Im/Alに及ぶ。重量比は、オキシ水酸化アルミニウムが用いられるのか、アルミニウムヒドロキシホスフェートが用いられるのか、またはその両方が用いられるのかついて、免疫原によっても異なる[非特許文献49]。
【0131】
ワクチンにおいて一般的に使用される2つのアルミニウムベースのアジュバント(ABA)がある。Alhydrogel(登録商標)はオキシ水酸化アルミニウム(AH)の半結晶形態であり、AdjuPhos(登録商標)はアルミニウムヒドロキシホスフェート(AP)の非晶質塩である。後者の硫酸塩(AAHS)も、HPVに対するワクチン接種において使用されるアジュバント系の一構成要素として挙げられている。[非特許文献50]
【0132】
アルミニウムをアジュバント添加したワクチンには、臨床的成功の長い歴史と、それに見合ったワクチン関連の有害事象の長い歴史とがある。ABAの安全性を実証することは必須要件ではないため、ワクチン接種後の有害事象は即座にABAの直接的または間接的な効果であると推測され得る[非特許文献50]。
【0133】
いわゆる「免疫チェックポイント阻害薬」または「免疫チェックポイント様阻害薬」もアジュバントとして使用することができる。免疫チェックポイント阻害薬とは、T細胞などの免疫系細胞によって、および一部のがん細胞によっても作られる、特定のチェックポイントタンパク質に結合して当該タンパク質をブロックする薬剤である。それらのタンパク質は、ブロックされていないときには免疫応答を阻害し、T細胞ががん細胞を殺傷するのを妨げることなどによって、免疫応答を食い止めるのを助ける。それらの免疫チェックポイントタンパク質をブロックすることで、免疫系への「ブレーキ」が解除されてT細胞が活性化することができる。
【0134】
有用な免疫チェックポイント阻害薬は、好適には、投与されるとそうした特定のタンパク質の作用をブロックし、それによって免疫系ががん細胞を異物として認識すると共にそれらのがん細胞を体から排除するのを補助できるようにする、ヒトもしくはヒト化モノクローナル抗体またはその結合部分(パラトープ)である。例示的な免疫チェックポイント阻害薬は抗CTLA-4(細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4)モノクローナル抗体であるイピリムマブおよびトレメリムマブを含み、これらは、CTLA-4活性をブロックすることによって免疫系のダウンレギュレーションに対抗し、ひいてはがんに対するT細胞の応答を増強するように設計されている。同様に、ピジリズマブ、ニボルマブ、ラムブロリズマブ、およびペムブロリズマブなどのモノクローナル抗体は、PD-1(プログラム死1)受容体に結合して免疫系のダウンレギュレーションに対抗し、がん細胞に対するT細胞の応答を増強する。PD-1受容体(PD-L1)の免疫チェックポイントタンパク質リガンド(PD-L1)を標的とする3つの抗体が、アテゾリズマブ、アベルマブ、およびデュルバルマブである。PD-1受容体のリガンドであるPD-L1およびPD-L2に対する抗体、例えばPD-L1に対するBMS-936559やMEDI4736(デュルバルマブ)などに関する初期研究も、免疫系のダウンレギュレーションの阻害およびがんに対するT細胞の応答の増強を示している。
【0135】
チェックポイント阻害薬様活性を有する抗体の別のグループは、細胞表面受容体OX40(CD134)と免疫反応してメモリーTリンパ球およびエフェクターTリンパ球の増殖を刺激し、それによってT細胞媒介免疫応答を刺激する。例示的なそのようなヒト化抗OX40モノクローナル抗体には現在文献中でgsk3174998(IgG1)、ポガリズマブ(MOXR0916)、MED10562と称されているものが含まれ、ヒト抗OX40 IgG2抗体にはPF-04518600(PF-8600)と名付けられたものが含まれる。
【0136】
チェックポイント阻害薬様活性を有する抗体のさらに別のグループは、免疫グロブリンおよびITIMドメインを持つT細胞受容体(TIGIT)と免疫反応するもので、CD8+T細胞、メモリーCD4+T細胞および調節性CD4+T細胞、濾胞性CD4+T細胞、ならびにNK細胞を含むリンパ球でのみ発現する[非特許文献51]。例示的な抗TIGITモノクローナル抗体は、文献中でEOS-448(グラクソスミスクライン社)、AGEN1777(ブリストル・マイヤーズ・スクイブ社)、ドムバナリマブ(AB154;ギリアド・サイエンシズ社)、およびチラゴルマブ(ロシュ社)として知られているものを含む。抗TIGIT抗体はこれまでのところ、主にがん免疫療法において利用されてきている。
【0137】
無傷のモノクローナル抗体、ならびにそのパラトープ含有部分(結合部位含有部分)であるFab領域、Fab′領域、F(ab′)領域、およびFv領域など、ならびに一本鎖ペプチド結合配列が、免疫チェックポイントタンパク質阻害薬して有用であろう。無傷のチェックポイント阻害モノクローナル抗体はヒトの体内で約1~3週間の半減期を有し[例えば、ヤーボイ(登録商標)(イピリムマブ)終末相t1/2=15.4日;添付文書12/2013;キートルーダ(登録商標)(ペムブロリズマブ)終末相t1/2=23日;添付文書03/2017]、一本鎖オリゴまたはポリペプチドはインビボにおいてより短い半減期を有する傾向がある。
【0138】
結果
ハロゲン化キサンテンはSTINGを活性化する
よく樹立された急性単球性白血病(AML)細胞株(THP-1)をインビトロでのSTING活性を研究するためのモデルとして用いて、ローズベンガル(RB)がSTING二量体化およびその結果生じるI型インターフェロン応答のプロモーターであることがわかった。細胞がRBで処理され、STINGの内因性誘導が、環状グアノシン-リン酸・アデノシン-リン酸(cGAMP)をポジティブコントロールとして使用して、ウェスタンブロット解析により評価された。
【0139】
これらの研究は、RBを100μMで、または約0.01%RBを使用して行われた。細胞培養培地へのRBの添加の前(0)、ならびに8時間後、24時間後、および48時間後に、サイトカインアッセイが行われた。
【0140】
RBの存在下でSTINGに関連するタンパク質が免疫沈降によって精製され、質量分析法によって解析された(LC-MS/MS)。RB処理された細胞からの培養上清が、Bio-Plex(登録商標)多重ビーズベースアッセイシステム(バイオ・ラッド・ラボラトリーズ社)を用いて、42の免疫サイトカインのパネルについて調査された。
【0141】
THP-1 AML細胞のRBへの曝露は、特定の抗体によって検出される新たな約70kDaのSTING二量体バンドの出現をもたらした。図1Aおよび1B(写真のゲルの破線のボックス)。cGAMPコントロールと比較して、PDL-1の誘導は認められなかった。これらの細胞におけるSTINGの免疫沈降物の質量分光分析は、熱ショックタンパク質(HSP)60,70,および90ならびに二量体化されたSTING複合体へのポリアデニル酸結合タンパク質1(PABP1)の存在を示した。
【0142】
ケモカインアッセイは、別の一組の炎症誘発性および細胞傷害性T細胞リクルートサイトカインの特異的なアップレギュレーションを示した(図1C~1R)。よって、図示するように、単球走化性タンパク質-3(MCP-3)およびIFNガンマの誘導のピークが24時間で見られ(>2倍)、IL-6、IL-8、およびインターフェロンガンマ誘導タンパク質10(IP-10)の各々ではおよそ10倍の増加がRBへの曝露後24時間で見られた。MCP-1レベルの有意な増加も認められた。
【0143】
これらの結果は、急性炎症誘発性応答および免疫応答(すなわち24~48時間以内)に繋がるRB誘導STING二量体化およびHSP会合を実証している。さらなるインビトロ研究により、RBが溶液中でのSTING二量体化を誘導すること(すなわち、効果はがん細胞内での作用に依存しないこと)が確認された。
【0144】
AMLモデルおよびその後の調査は、例えばRBなどのHX化合物が急性STING二量体化を誘導し得ることを示している。これには、STING媒介の免疫活性化が抗腫瘍療法での自然免疫系および適応免疫系の応答において、特許文献4に記載されている注射可能な抗悪性腫瘍薬によるもののような単剤免疫療法として、またはそのような薬剤が特許文献12に記載されている他の薬剤との併用療法で用いられる場合に、中心的役割を果たし得るという、腫瘍学における重要な示唆がある。
【0145】
これらの結果がさらに示すことには、HX化合物に基づくSTING二量体化の誘導には、STING媒介免疫活性化が抗腫瘍療法での自然免疫系および適応免疫系の応答において、単剤抗ウイルス薬としてまたは他の抗ウイルス薬との併用療法で中心的役割を果たし得るという、ウイルス学における重要な示唆がある。前述したように、HX分子または塩(化合物)のアジュバント量とは、STING二量体化を誘導する量(すなわちSTING二量体化誘導量)であり、さらに、細胞傷害性量よりも少なく好適には細胞傷害性量の約75%よりも少ないHX化合物の量として定義される。細胞傷害性量とは、腫瘍学適応(例えば神経芽腫、白血病、悪性黒色腫、または他の腫瘍)のIC50量であるが、感染性疾患については、細胞傷害性量は正常組織(例えば培養線維芽細胞、腎細胞など)のIC50である。
【0146】
HX化合物の短いヒト循環半減期(約30分)は、急性STING活性化のためにこれらの分子の効果的な適用を促進し、自然免疫シグナル伝達の可能性を最大化し、その一方で反産生的な炎症反応、起こり得る自己免疫疾患、または腫瘍形成の増進をもたらし得る慢性活性化を回避する。図1C~1Rに示されるインビトロの結果からわかるように、サイトカイン産生を強化することに対するRBの効果は、16のサイトカインの各々において、48時間以内に生じた。
【0147】
1回以上の全身用量の投与は、特に免疫能が低減した患者において、免疫応答を開始するのにとりわけ産生的であり得る。このアプローチは、後述するように、がんまたは微生物感染症の免疫アジュバントとしてのHX化合物の使用に等しく適用可能である。
【0148】
投薬 - 図2
0.9%塩化ナトリウム含有水性媒体中の腫瘍細胞をHX化合物に曝露すると、腫瘍リソソームにおいてHX化合物の不可逆的蓄積が生じ、十分な濃度に到達次第、免疫原性腫瘍の自己融解を引き起こしてリソソーム完全性を不安定化する[非特許文献52]。これは、こうした細胞死の免疫原性メカニズムが、(濃度)・(時間関数)に基づいて、ある範囲の曝露状態にわたり引き出され得ることを示唆しており、ここで、細胞傷害性はこれらの2つのパラメータの積に比例する[すなわち、細胞傷害性=f([HX]・t)、ただし「t」は時間である]。
【0149】
例えば、RBがある範囲の固形腫瘍(例えば悪性黒色腫、肝細胞がん、乳がん)に病巣内注射によってインビボで投与される場合、およそ25~50mg/g腫瘍組織(25~50mM)の腫瘍内RB濃度では、およそ30分以内に急性腫瘍細胞傷害性が明らかになる[非特許文献27]。
【0150】
非特許文献29は、およそ50~100μMの濃度で96時間にわたりRBとインビトロで接触後の難治性小児固形腫瘍(神経芽腫および神経上皮腫)の細胞傷害性を実証した。非特許文献29の著者らは、3つの組織供給源体からのヒト上皮細胞に対する毒性も試験し、93~143μMというIC50値を報告した。また、非特許文献28は、等価曝露下で、追加の難治性小児固形腫瘍(ユーイング肉腫、骨肉腫、および横紋筋肉腫)における細胞傷害性を示した。
【0151】
2021年3月26日に提出された親出願である特許文献1に開示されているように、継続的な経口栄養供給下でのRBへの長期の曝露はマウスApcMin大腸腫瘍モデルにおける大腸がんの形成を予防すること(予防活性)および大腸がんを阻止すること(治療活性)が示されている。治療用途では、飲料水中に1mg/mLの濃度で適宜RBを受ける症候性マウスは、未処理マウスと比較して平均生存がおよそ48%増加した(12.3±0.5週に対して9.8±0.8週)。1日当たりの飲料水消費率をおよそ2mL/10g体重と仮定すると、これはおよそ2mg RB/10g(200mg/kg)の消費に相当する。
【0152】
経口経路を介して水溶液で投与されるRB二ナトリウムの生物学的利用能は、発明者らによって行われたマスバランス試験に基づくと限定的であると思われ、0.1~1パーセントと推定することができ、0.2~2mg/kgという1日当たりの全身曝露に相当する。この量が血流を通じて分配され、その血液量が体重のおよそ10パーセントを占めると仮定すると、これは2~20μMという血液中RBの推定濃度に等しい。
【0153】
同じアプローチは、特許文献3の図1に示されるデータをプロットするのにも用いられた。特許文献3は、小児B急性リンパ芽球性白血病(ALL)腫瘍細胞株の樹立された異種移植片を持つCB17 SCIDマウスの生存を示しており、週に2回、2週連続で強制飼養によりRBを受けた2つの治療群のマウスについて治療活性が観察された。この経口RBの生物学的利用能を1%、腸通過時間を1回の投与当たり6時間、血液量を体重のおよそ10パーセントとすると、2つの治療群は推定で125~250μMという血液中RBに相当する。
【0154】
これらのデータをプロットすると、本願の図2に図示されるように、仮定された関係(すなわち、細胞傷害性=f([HX]・t))が実験結果によって裏付けられることが確認される。
【0155】
より重要なことには、この関数関係により、全身投与およびアジュバントに基づいて抗腫瘍治療効果を達成するのに適切な用量レベルおよびスケジュールの予測が可能になる。ApcMinモデルで調査されたものと同等の長期全身療法スケジュールに関しては、低いマイクロモル濃度(すなわち約10μM)の循環HX化合物がおよそ3か月の期間にわたってリソソーム蓄積および腫瘍細胞破壊を達成するのに十分であるのに対し、マイクロモルからサブマイクロモル濃度(すなわち約1μM)はおよそ12か月の期間にわたって腫瘍細胞破壊を達成するのに十分である。
【0156】
逆に、経口白血病モデルにおいて使用されるような、より高い用量レベルでの短期間または断続的繰り返し全身投薬も、細胞傷害性および腫瘍破壊を達成した。
【0157】
白血病の小児患者の治療など、特定の適応症については、本願の図2の関係は、医薬開発の当業者によって日常的に用いられる標準的なアプローチが潜在的な安全性リスクを最小化しつつ治療効果を最大化する適切な用量レベルおよびスケジュールを選択するために適用できることを説明している。
【0158】
吸収の標準的な薬物動態試験によって処方の最適化を導くことができ、それによって用量レベルおよび処方が所望の服用スケジュール通りに必要な全身曝露を達成するように調整される(例えば、数日程度の短期間曝露では血流中に約100μM、数か月程度の中期間曝露では約1~約10μM、1年以上程度の長期曝露では約<1μM以下)。
【0159】
HX化合物の二塩基塩形態は溶液中におよそ5よりも大きいpHを有して存在するが、<5のpH値ではHX化合物はそのラクトン形態に自発的に変換する。二塩基塩形態は水性媒体で高度に溶性であるのに対し、ラクトン形態は水性媒体では不溶である。
【0160】
本明細書において提供されるデータは、いくつかの白血病細胞株に対するインビトロでのRBの使用に関するIC50値が、1日から数日の曝露では約50~約100μMであることを示す。RB二ナトリウムの分子量が1018g/モルであることを考えると、上記のIC50値では、1リットル当たり約50~約100mgのRBが含まれる計算になる。
【0161】
HX化合物アジュバントに起因する細胞傷害性はここでは望ましくないので、本明細書においては細胞傷害性量よりも少ない量が使用される。図2のデータは上限を提供するために用いることができ、ハロゲン化キサンテンのアジュバント有効量はそれを下回って決定される。
【0162】
RBを用いた肝機能の古典的な静脈内(IV)診断アッセイは、1回のIV用量として100mgのRBを投与して行われた。PV-10(登録商標)RB二ナトリウム水溶液の臨床試験では、IV送達で1500mgのRBが耐容されている。標準的な成人の血液量は、およそ5Lである。よって、血液中で100mg/Lを達成するには、成人患者であれば、血流中のIC50値を達成するためにおよそ500mgのRBをIVで受ける必要があろう。循環血液からのRBの迅速なクリアランス(t1/2は約30分)により、IV投与では、循環中のRBのピークレベルを維持するために、継続的な注入が必要となり得る(すなわち、最大で数時間以上)。
【0163】
先に列挙した同様に有用なハロゲン化キサンテン化合物およびそれらの薬学的に許容される塩は、互いに約3倍異なる分子量を有し得る(特許文献16、第15~16欄の表3を参照)。使用されるRB以外のハロゲン化キサンテンの量は、そのような各化合物の公開されている分子量とRBまたはRB二ナトリウムの分子量とに基づいて計算されるのが好適である。
【0164】
HX化合物をアジュバント添加した哺乳動物用ワクチン組成物が投与される対象哺乳動物は、ヒトなどの霊長類、チンパンジーまたはゴリラなどの類人猿、カニクイザルまたはマカクなどの猿、ラット、マウス、またはウサギなどの実験動物、犬、猫、馬などの伴侶動物、あるいは雌牛または去勢雄牛、羊、子羊、豚、ヤギ、ラマなどの食用動物であり得る。
【0165】
免疫原アジュバントとしてのハロゲン化キサンテン
ウイルス感染と闘うためのもう1つの一般的なアプローチが、抗ウイルスワクチンの使用である。これらの薬剤は伝統的に、感染症を介した生ウイルスへの曝露の前に、強度を減じたもしくは不活化されたウイルスまたはウイルス免疫原に患者の免疫系を曝露することに基づいている。この処置により、ウイルスへの曝露の際に向性組織の重篤な感染症を予防することのできる適応免疫応答を患者が生み出すことが可能になる。
【0166】
ウイルスゲノムの解明は、ウイルス構造(すなわち表面タンパク質)のモデル化に基づいて合成ワクチン開発を行うことを可能にし、新規の抗ウイルス戦略の同定または合成を導く[非特許文献53]。特徴的なSARS-CoV-2表面スパイク(S)糖タンパク質の構造の発表により、この種の集中的な開発にとって重要な標的が提示され[非特許文献54]、現在使用されているワクチンの開発に繋がった。
【0167】
特に、RBおよびそのHX化合物類似体の糖タンパク質に対する極めて高い親和性により、ウイルスの向性細胞への結合を阻害すること、感染した細胞内でのウイルスのアンパッキングおよび複製を阻害すること、および免疫アジュバントとしてウイルスの免疫原性を高めることによってウイルス機能を無効にする可能性が、ウイルス表面の糖タンパク質構造と複合化する際に宿主免疫系に伝達される。高められた免疫原性は、広範囲の感染症の発症前に宿主の免疫応答を強めるべく、早期曝露の際に用いられ得る。
【0168】
アジュバント性に関するデータ
ローズベンガル二ナトリウムは悪性黒色腫および乳房のマウスモデルにおいて腫瘍特異的免疫を強化することが先に報告されている。RBの病巣内注射後の腫瘍(悪性黒色腫)に対する強化された免疫がDCの活性化によるものであろうことも報告されている。本研究では、CD8媒介の免疫の強化におけるRBの役割をさらに調査するつもりであった。B型肝炎ウイルス感染症に関係するインビトロモデルを選択し、インターフェロンガンマELIspotアッセイを用いてCD8T細胞の抗ウイルス活性に対するRBの効果を研究して、RBのI型IFN媒介アジュバント性の間接的な効果がもたらされた。
【0169】
方法
PBMCが健康な提供者の血液から分離された。
【0170】
CD8細胞が、PBMCから磁力により選別され、RPMI10%FBS+IL-7中で培養された。
【0171】
残りの細胞は、DCになるように誘導するべく、RPMI10%FBS+GM-CSFおよびIL-4中で培養された。
【0172】
4~5日の培養後、DCは、B型肝炎ウイルスコアタンパク質(HBcAg)の様々な抗原領域を表すペプチドでパルスされた。本研究におけるペプチドは、これらのペプチドがHBVに対抗するCD4T細胞およびCD8T細胞を増やす能力を持っていることを示す非特許文献55の研究論文から選択された。
【0173】
DCをペプチドで(一晩、約18時間)パルスした後、パルスされたDCはRPMI10%FBS+IL-2中で4~5日間、CD8細胞と共培養された。DC表面上の特定の抗原配列を認識するためのプライミング用のDC:CD8細胞の比は1:10であった。ローズベンガル(5~20μM)が、DC-CD8の共培養の際にそれぞれのウェルに加えられた。
【0174】
適切なインキュベーション後、プライミングされたCD8細胞は、IFNガンマELIspotプレート(R&Dシステムズ社、ミネソタ州ミネアポリス)においてRPMI10%FBS+IL-7およびIL-2中でPLC/PRF5肝がん細胞と(1:1の比で)共培養され、一晩(約18時間)インキュベーションされた。PLC/PRF5細胞は、8日間の細胞培養後、細胞表面上にHBVの蓄積によってHBV粒子を発現および分泌すると報告されている。
【0175】
結果
IFNガンマは、免疫細胞および標的組織に対する多様な、主に炎症誘発性の作用を有する、細胞媒介免疫の鍵となるモデレーターである。研究は、IFNガンマがCD8T細胞の抗腫瘍効果および抗ウイルス効果を強化することを示した。
【0176】
ELIspotプレートは、翌日(約18時間後)、製造業者によって提供されたプロトコルに従って処理され、生成されたスポットが正立顕微鏡を用いて撮影され、顕微鏡で観察され、手動で計数された。
【0177】
得られた画像は、3つ全てのペプチド条件のプライミングされたCD8細胞が、ペプチドなしのコントロールと比較して、より多量のIFNガンマを産生できたことを示している(図3)。
【0178】
結果は、CD8-DC共培養の際の5μMのRBの処理が、3つ全てのペプチドに関して、IFNガンマ産生CD8細胞の数を有意に増加させることができたことを示している。IFNガンマスポットの数は濃度の高まりにつれて減少しているので(図3および4)、RBの濃度を高めると細胞に対する悪影響があるようである。
【0179】
生成されたIFNガンマスポットは、特定の抗原を認識するようにプライミングされたCD8細胞間の特異的な相互作用の結果である。なぜなら、プライミングされたCD8細胞のみが、これらの細胞にとってのチャレンジの不在を表すPLC/PRF5細胞なしで、ELIspotプレートでインキュベーションされた条件では、より少ない数のスポットが観察されるからである。これらの細胞は、標的細胞(図3のPLC/PRF5細胞)でチャレンジしたとき、より多量のIFNガンマを生成することができた。5μMのPV-10は、CD8細胞がその標的PLC/PRF5細胞と共培養されるとき、CD8によってIFNガンマのより高い産生を誘導するようである。
【0180】
前述の説明および例は、例示を目的としたものであり、限定として解釈されるべきではない。本発明の要旨および範囲内でさらに他の変更が可能であり、当業者にはそれらの変更が明らかであろう。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図1H
図1I
図1J
図1K
図1L
図1M
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図1P
図1Q
図1R
図2
図3
図4
図5