(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】ろ過装置
(51)【国際特許分類】
B01D 35/06 20060101AFI20240801BHJP
C02F 1/469 20230101ALI20240801BHJP
B01D 61/42 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
B01D35/06 G
B01D35/06 S
B01D35/06 T
C02F1/469
B01D61/42
(21)【出願番号】P 2022569359
(86)(22)【出願日】2020-12-15
(86)【国際出願番号】 JP2020046694
(87)【国際公開番号】W WO2022130489
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000176752
【氏名又は名称】三菱化工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大森 一樹
【審査官】奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/142868(WO,A1)
【文献】特開平11-137971(JP,A)
【文献】特開2005-254118(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0129654(US,A1)
【文献】特開平3-56107(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 35/00-35/30
C02F 1/469
B01D 61/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に密閉空間を有し、上部容器と下部容器とを組み合わせて成る密閉容器と、
絶縁材料で形成され、かつ前記密閉空間を上方の第1空間と下方の第2空間とに区分けするろ材と、
分離対象の粒子と液体とを含む対象処理液を前記第1空間に導入する導入部と、
複数の第1開口が設けられ、前記ろ材の上面に沿って延在
し、かつ上部容器と接触していない第1電極と、
複数の第2開口が設けられ、前記ろ材の下面に沿って延在
し、かつ上部容器と接触していない第2電極と、
前記第1電極に、前記粒子の極性と同じ極性の第1電位を供給する第1電源と、
前記第2電極に、前記粒子の極性と同じ極性であって、前記第1電位の絶対値よりも大きい絶対値の第2電位を供給する第2電源と、
を有し、
前記上部容器は、導電性を有し、かつ基準電位に接続されて第3電極となっている
ろ過装置。
【請求項2】
前記上部容器の内部を加圧し、前記第1空間の気圧を前記第2空間の気圧よりも高い状態にする加圧装置を備える
請求項1に記載のろ過装置。
【請求項3】
前記下部容器の内部を減圧し、前記第1空間の気圧を前記第2空間の気圧よりも高い状態にする減圧装置を備える
請求項1又は請求項2に記載のろ過装置。
【請求項4】
前記第1電位と前記基準電位との電位差は、前記第1電位と前記第2電位との電位差よりも大きい
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のろ過装置。
【請求項5】
前記第1電源は、定電圧源であり、
前記第2電源は、定電流源である
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のろ過装置。
【請求項6】
前記ろ材の目開きの大きさは、前記第1開口及び前記第2開口よりも小さい
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のろ過装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ろ過装置に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子流体系スラリーのろ過による固液分離において、電気浸透や電気泳動を利用して分離対象の粒子と液体を分離する方法が知られている(例えば特許文献1、2参照)。電気浸透を利用した固液分離は、電極間に挟んだケーキ層に電圧と圧力を加え、ケーキ層中の水分を電気浸透作用によりろ材を通して追い出す方法である。また、電気泳動を利用した固液分離は、電気泳動により、粒子がろ材に直接接触するように粒子を移動させて、粒子と液体とを分離する方法である。
【0003】
また、バッチ式のろ過装置として、ヌッチェ型のろ過装置が広く知られている(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公平4-13003号公報
【文献】特表2006-506223号公報
【文献】特開昭62-001416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1から特許文献3のろ過装置では、スラリー中の粒子がろ材に目詰まりし、ろ過速度の低下が生じる可能性がある。
【0006】
本開示は、ろ過速度を向上させることが可能なろ過装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面のろ過装置は、内部に密閉空間を有し、上部容器と下部容器とを組み合わせて成る密閉容器と、前記密閉空間を上方の第1空間と下方の第2空間とに区分けするろ材と、分離対象の粒子と液体とを含む対象処理液を前記第1空間に導入する導入部と、複数の第1開口が設けられ、前記ろ材の上面に沿って延在する第1電極と、複数の第2開口が設けられ、前記ろ材の下面に沿って延在する第2電極と、前記第1電極に、前記粒子の極性と同じ極性の第1電位を供給する第1電源と、前記第2電極に、前記粒子の極性と同じ極性であって、前記第1電位の絶対値よりも大きい絶対値の第2電位を供給する第2電源と、を有する。前記上部容器は、導電性を有し、かつ基準電位に接続されて第3電極となっている。
【発明の効果】
【0008】
本発明のろ過装置によれば、ろ過速度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態に係るろ過装置の構成例を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係るろ過装置において、スラリーを撹拌している状態を示す断面図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係るろ過装置において、リスラリ洗浄を示す断面図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係るろ過装置の動作を説明するための模式図である。
【
図5】
図5は、第1電極、ろ材及び第2電極の構成を模式的に示す断面図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係るろ過装置を示す等価回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0011】
図1は、実施形態に係るろ過装置の構成例を模式的に示す断面図である。
図2は、実施形態に係るろ過装置において、スラリーを撹拌している状態を示す断面図である。
図3は、実施形態に係るろ過装置において、リスラリ洗浄を示す断面図である。
図4は、実施形態に係るろ過装置の動作を説明するための模式図である。
図5は、第1電極、ろ材及び第2電極の構成を模式的に示す断面図である。
図6は、実施形態に係るろ過装置を示す等価回路図である。
【0012】
ろ過装置1は、対象処理液であるスラリー70を、固体と液体72とに分離する固液分離装置である。また、固体には粒子71が含まれる。このようなろ過装置1は、ライフサイエンス分野や、下水処理、排水処理分野等に適用できる。ライフサイエンス分野では、培養細胞、微細藻類、細菌、バクテリア、ウイルス等の微生物体培養を行うバイオ産業や、培養微生物体が体外、体内に生産する酵素、タンパク質、多糖類、脂質等の利用、応用分野であるバイオ創薬や化粧品業界、又は、醸造、発酵、搾汁、飲料等を扱うビバレッジ産業に適用できる。下水処理、排水処理分野では、難ろ過性の微細バイオマス水系スラリーで、バイオマス粒子の分離に適用できる。あるいは、ろ過装置1は、表面帯電した微粒子が電気的反発作用で高分散したコロイド粒子系スラリーで、コロイド微粒子の濃縮回収用途に適用できる。
【0013】
図1に示すように、実施形態に係るろ過装置1は、密閉容器2と、導入部3と、撹拌装置4と、加圧装置(
図1において加圧装置の供給管9のみ図示)と、第1電極31と、第2電極32と、ろ材34と、第1電源51と、第2電源52と、を備える。
【0014】
密閉容器2は、内部に密閉空間Sを有する容器である。密閉容器2は、上方に配置される上部容器5と、下方に配置される下部容器6と、を備える。
【0015】
上部容器5は、下方に向かって開口する有底筒状の部品である。下部容器6は、上方に向かって開口する有底筒状の部品である。上部容器5の開口と下部容器6の開口とが対向するように(連続するように)、下部容器6の上方に上部容器5が重ねられている。これにより、密閉容器2が構成される。なお、上部容器5及び下部容器6の断面形状(回転軸4aを垂線とする平面で切った場合の断面形状)は、円筒形又は矩形筒形などが挙げられるが、本開示のろ過装置においては特に限定されない。
【0016】
上部容器5は、導電材料で製造され、導電性を有している。上部容器5は、密閉空間Sの上方を覆う天壁5aと、密閉空間Sの側方を囲む筒状の側壁5bと、を備える。天壁5aの中央部には、筒状の支持部5cが設けられている。また、天壁5aの上方には、第3接続導体13が設けられている。
【0017】
筒状の側壁5bの下端には、外周側に突出する上部フランジ5dが設けられている。上部フランジ5dは、後述する第1接続導体11との接触を回避するため、第1接続導体11と重なる部分が切り欠かれている。さらに、筒状の側壁5bには、ろ過後の脱水ケーキ80(
図3参照)を排出するための開口部5eと、その開口部5eを閉塞する閉塞部5fと、が設けられている。
【0018】
下部容器6は、絶縁性材料で製造され、絶縁性を有している。下部容器6の底壁の上面6aには、ろ材34を下方から支持する支持板8が載置されている。支持板8は、水平方向に延在する板状の部材である。また、支持板8は、上下方向に貫通する複数の孔を有している。よって、ろ材34を通過した液体72は、支持板8を通過して、下部容器6の上面6aに付着する。
【0019】
下部容器6の底壁の上面6aの中央部には、下方に窪む排出路6cが設けられている。下部容器6の上面6aは、端部から中央部の排出路6cに向かって次第に下方に位置するように傾斜し、上面6a上の液体72が排出路6cに流れる。また、下部容器6の排出路6cに排出管9が接続されている。よって、ろ材34を通過した液体72は、排出管9を介して外部へ排出される。なお、排出管9は、図示しないバルブにより開閉されている。
【0020】
支持板8の上方には、ろ材34が配置されている。ろ材34は、水平方向に延在している。ろ材34は、密閉空間Sを、上方の空間(第1ろ室30)と、下方の空間(第2ろ室35)と、に区分けしている。また、ろ材34の上側には、ろ材34の上面に沿って水平方向に延在する第1電極31が配置されている。ろ材34の下側には、ろ材34の下面に沿って水平方向する第2電極32が配置されている。よって、支持板8には、上から順に、第1電極31とろ材34と第2電極32が積層されている。なお、詳細については後述するが、第1電極31及び第2電極32は、メッシュ状である。よって、液体72は第1電極31及び第2電極32を通過することができる。
【0021】
下部容器6の側壁は、第1電極31とろ材34と第2電極32の外周側を囲み、第1電極31よりも上方に突出している。そして、下部容器6の側壁の上端には、径方向内側に突出する下部フランジ6bが設けられている。下部フランジ6bは、ろ材34よりも上方に位置しており、第1ろ室30の壁部を構成している。また、下部フランジ6bは、第1電極31の外縁に対して上方から当接している。これにより、第1電極31とろ材34と第2電極32は、支持板8と下部フランジ6bとに挟持され、位置ずれしないようになっている。また、下部フランジ6bは、上部容器5と第1電極31との間に介在しているため、第1電極31と上部容器5とが接触しない。
【0022】
下部フランジ6bの上方には、上部容器5の上部フランジ5dが重ねられている。また、上部容器5及び下部容器6は、図示しない油圧シリンダ又はエアシリンダにより上下方向に締め付けられ、上部フランジ5dと下部フランジ6bとが強固に接触している。なお、上部容器5及び下部容器6は、油圧シリンダやエアシリンダではなく、上部フランジ5dと下部フランジ6bとを締め付ける締結具により一体化されていてもよい。また、ろ材34を交換する際、上部容器5と下部容器6とを分離する。
【0023】
下部容器6には、下部フランジ6bを上下方向に貫通する第1接続導体11が設けられている。第1接続導体11の下端は、第1電極31と電気的に接続している。第1接続導体11の上端は、密閉容器2の外部に露出している。下部容器6には、底壁を上下方向に貫通する第2接続導体12が設けられている。第2接続導体12の上端は、第2電極32と電気的に接続している。第2接続導体12の下端は、密閉容器2の外部に露出している。
【0024】
導入部3は、上部容器5の天壁5aの一部を貫通する配管である。導入部3の上流側には、供給バルブ3aが設けられている。供給バルブ3aが開状態となると、スラリー70は、導入部3を通過して第1ろ室30に供給され、ろ材34の上に堆積する。
【0025】
撹拌装置4は、鉛直方向に延びる回転軸4aと、回転軸4aの下端に支持される撹拌翼4bと、回転軸4aを駆動させる駆動部4cと、を備える。回転軸4aは、上部容器5の支持部5cに、上下方向にスライド自在に、かつ鉛直軸回りに回転自在に支持されている。
図2に示すように、スラリー70がろ材34の上に堆積された場合、回転軸4aが下方にスライドし、撹拌翼4bでスラリー70を撹拌する。これによれば、スラリー70に含まれる粒子71が均一に分散し、脱水ケーキ80(
図3参照)の固定分濃度が均一となる。また、撹拌装置4は、脱水ケーキ80を掻き出すために使用される。具体的に、撹拌翼4bの下面を脱水ケーキ80の上面に当接した状態にし、駆動部4cを駆動させる。これにより、撹拌翼4bにより脱水ケーキ80の上面が削り取られ、上部容器5の開口部5eから排出可能な大きさとなる。なお、スラリー70のろ過時、撹拌装置4は停止している。
【0026】
加圧装置は、空気や不活性ガスなどの気体を供給する装置である。加圧装置の供給管9は、上部容器5の側壁5bの一部を貫通している。よって、加圧装置が駆動すると、第1ろ室30の気圧は、第2ろ室35の気圧よりも高くなる。そして、第1ろ室30と第2ろ室35の差圧により、ろ材34の上に堆積するスラリー70は、第1ろ室30から第2ろ室35に向かう圧力が作用する。これにより、スラリー70に含まれる液体72は、ろ材34を通過し、第2ろ室35に移動する。一方、粒子71などの固体は、ろ材34を通過できない。よって、粒子71などの固体は、ろ材34の上に堆積し続け、粘性が高い脱水ケーキ80(
図3参照)となる。
【0027】
そのほか、特に図示しないが、密閉容器2は、開閉可能な排気管と、洗浄液供給管と、を備える。排気管は、開状態で密閉空間Sから気体を排出するためのものである。密閉空間Sにスラリーを供給する際、排気管を開状態とすることで、密閉空間Sにスラリーが進入し易くなる。
【0028】
図3に示すように、洗浄液供給管は、ろ過後の脱水ケーキ80を洗浄するため、洗浄液81を供給するための管である。なお、脱水ケーキ80の洗浄時(リスラリ洗浄時)、洗浄液81が供給された脱水ケーキ80を撹拌装置4で撹拌する。これにより、脱水ケーキ80が洗浄され、脱水ケーキ80は洗浄液81を吸収してスラリー70となる。そして、スラリー70となった後、撹拌装置4の駆動を停止し、加圧装置を駆動させてスラリー70のろ過を行う。これにより、洗浄された脱水ケーキ80が得られる。
【0029】
図4に示すように、第1電極31は、格子状に配置された複数の導電細線31aから成る。よって、複数の導電細線31aの間には、複数の第1開口31bが設けられている。同様に、第2電極32は、格子状に配置された複数の導電細線32aから成る。よって、複数の導電細線32aの間に複数の第2開口32bが設けられている。第1電極31は、第1ろ室30に配置されている。第2電極32は、第2ろ室35に配置されている。なお、複数の導電細線31a及び複数の導電細線32aの材質は、金属材料でもよいし炭素繊維でもよい。
【0030】
ろ材34は、複数の目開き34bが設けられたろ過膜34aである。ろ材34は、例えば、精密ろ過膜(MF膜(Microfiltation Membrane))が用いられる。ろ材34は、第1電極31と第2電極32との間に介在している。本実施形態では、ろ材34は、樹脂材料等の絶縁材料で形成されている。よって、第1電極31と第2電極32とは、ろ材34により絶縁される。なお、
図4では、第1電極31の第1開口31b、第2電極32の第2開口32b及びろ材34の目開き34bは同じ大きさで示しているが、あくまで説明のために模式的に示したものであり、第1開口31b、第2開口32b及び目開き34bの大きさは異なっていてもよい。
【0031】
図5に示すうように、ろ材34に設けられた目開き34bの径D3は、第1電極31の第1開口31bの径D1よりも小さく、かつ第2電極32の第2開口32bの径D2よりも小さい。言い換えると、複数の導電細線31aの配置ピッチと、複数の導電細線32aの配置ピッチと、ろ過膜34aの配置ピッチは、互いに異なって設けられる。例えば、第1電極31の第1開口31bの径D1は、0.5μm以上500μm以下、例えば70μm程度である。第2電極32の第2開口32bの径D2は、0.5μm以上1000μm以下、例えば100μm程度である。ろ材34に設けられた複数の目開き34bの径D3は、0.1μm以上100μm以下、より好ましくは1μm以上7μm以下程度である。
【0032】
第1電極31の第1開口31bの径D1は、第2電極32の第2開口32bの径D2よりも小さい。ただしこれに限定されず、第1電極31の第1開口31bの径D1は、第2電極32の第2開口32bの径D2と同じ大きさで形成されてもよい。このような構成により、少なくとも第1開口31b及び第2開口32bと重なる領域で、ろ材34の目開き34bは、複数の導電細線31a及び複数の導電細線32aと非重畳に設けられる。また、第1電極31と第2電極32との間の距離は、ろ材34の厚さで規定される。
【0033】
第1電極31は、第1接続導体11を介して、第1電源51の第2端子51bと第2電源52の第1端子52aと電気的に接続している。第2電極32は、第2接続導体12を介して、第2電源52の第2端子52bと電気的に接続している。また、上部容器5は、第3接続導体13を介して、基準電位GNDと電気的に接続される。つまり、上部容器5は、第3電極33を構成している。以上から、第1電極31、第2電極32、及び第3電極33は、それぞれ異なる電位となっている。
【0034】
つぎに、スラリー70について説明する。
図4に示すように、スラリー70に含まれる粒子71は、例えば、バイオマス粒子やコロイド粒子であり、粒子表面がマイナスに帯電している。具体的には、粒子71は、クロレラ、微細藻類スピルリナ、コロイダルシリカ、大腸菌、下水活性汚泥等である。粒子71の径は、適用される技術分野、分離対象の種類に応じて異なるが、5nm以上2000μm以下、例えば20nm以上500μm以下程度である。
【0035】
粒子71が分散する液体72は、水やアルコールなどが挙げられる。つまり、液体72は、極性溶媒であればよい。液体72中の一部の水分子73は、プラスに帯電している。これにより、スラリー70は、全体として電気的に平衡された状態となっている。
【0036】
スラリー70は、さらに色素タンパク質74を含んでいる場合がある。色素タンパク質74は、粒子71と同じ極性(マイナス)に帯電し、粒子71よりも小さい粒径を有する。色素タンパク質74は、10nm以上300nm以下、例えば、30nm程度である。なお、スラリー70には、色素タンパク質74が含まれていなくてもよい。
【0037】
このようなスラリー70を処理するため、第1電源51は、粒子71の極性と同じ極性の第1電位V1を第1電極31に供給している。第1電位V1は、例えば-60Vである。第2電源52は、粒子71の極性と同じ極性であって、第1電位V1の絶対値よりも大きい絶対値の第2電位V2を第2電極32に供給している。第2電位V2は、例えば-70Vである。第3電極33は、基準電位GNDに接続される。基準電位GNDは、上述したようにグランド電位であり、理想的には0Vである。なお、第3電極33に供給される基準電位GNDは、0Vに限定されず、所定の固定された電位であってもよい。
【0038】
図6に示すように、第1電源51は定電圧源であり、第2電源52は定電流源である。第1電極31と第2電極32との間に抵抗成分R1と容量成分Cとが並列に接続される。抵抗成分R1及び容量成分Cは、多数の目開き34bが設けられたろ材34により等価的に表される成分である。また、第1電極31と第3電極33との間に抵抗成分R2が接続される。抵抗成分R2は、第1ろ室30のスラリー70により等価的に表される抵抗成分である。
【0039】
第2電源52は、定電流源であるので、ろ過装置10のろ過の状態に応じて、すなわち、ろ材34の抵抗成分R1及び第1ろ室30の抵抗成分R2の変動に応じて、第2電位V2は変化する。ただし、第2電位V2は粒子71の極性と同じ極性であって、第1電位V1の絶対値よりも大きい値を維持している。
【0040】
次に、
図4を参照しながら、実施形態のろ過装置1の効果を説明する。上述したように、第1電極31は、粒子71と同じ極性(マイナス)に帯電している。よって、マイナスに帯電している粒子71は、クーロンの法則に基づいて第1電極31から斥力を受ける。
【0041】
ここで、クーロンの法則は、下記の式(1)で示される。
F=k×(q1×q2/s2) ・・・ (1)
【0042】
ここで、kは定数であり、k=4πεで表される。q1及びq2は、電荷であり、sは電荷間の距離である。すなわち、距離sが小さいほど粒子71には大きい斥力(クーロン力F)が作用する。具体的には、第1電極31に近い位置の粒子71には、より強力な斥力が発生する。
【0043】
粒子71に発生する斥力は、
図4の矢印F1に示す方向、すなわち第1電極31から離れ第3電極33に近づく方向に作用する。そして、マイナスに帯電した粒子71は、電気泳動により第3電極33側に移動する。よって、スラリー70に含まれる粒子71は、第1電極31との間に働く斥力により、数μm~数nmの範囲で第1電極31から離隔している。
【0044】
また、上部容器5全体が第3電極33を構成しているが、通常は、第1ろ室30の容積よりも小さい量のスラリー70が第1ろ室30に供給される。スラリー70は、側壁5bと接触するが、上部容器5の天壁5aと接触しない。つまり、上部容器5のうち第3電極33として機能するのは、側壁5bのみとなる。よって、粒子71に発生する斥力は、上方に向かう力(第1電極31から離れる力)と、側壁5bに近づく水平方向の力と、を合成したものとなる。
【0045】
以上から、通常のヌッチェ型のろ過装置であれば、時間の経過とともにスラリー70から液体72が分離し、最終的に、ろ材34の上面に脱水ケーキが形成され、第1電極31及びろ材34に粒子71が接触する。つまり、時間の経過とともに、ろ材34に接触する粒子71が次第に増加する。一方で、本実施形態によれば、上述したように、スラリー70に含まれる粒子71は数μm~数nmの範囲で第1電極31から離隔しているため、ろ材34のろ過抵抗が増大する時期が遅れる。この結果、ろ材34のろ過抵抗が小さい状態が長期間継続し、ろ過速度が向上する。
【0046】
また、プラスに帯電した水分子73は、第1電極31との間に引力が発生する。プラスに帯電した水分子73に作用する引力は、
図4の矢印F2に示す方向、すなわち第3電極33から第1電極31に向かう方向に作用する。プラスに帯電した水分子73は、第1電極31側に移動する。この際、第1電極31と第2電極32との間の電位差により、ろ材34を厚さ方向に貫通するように、第1電極31から第2電極32に向かう電界が形成されている。
【0047】
第1電極31側に移動した水分子73は、電界により力を受けて、第2電極32側に引っ張られてろ材34を通過する。プラスに帯電した水分子73の移動に伴って、周囲の水分子73も第2電極32側に引きずられて、電気浸透流が形成される。これにより、プラスに帯電した水分子73を含む液体72は、第2ろ室35に流れる。上述したように、粒子71は、電気泳動により第1電極31から引き離されており、粒子71が分離している液体72が排出され易い。
【0048】
このように、ろ過装置1は、第1電極31と第3電極33との間で、粒子71をクーロン力F(粒子71と第1電極31との間に発生する斥力)により移動させる電気泳動と、第1電極31と第2電極32との間の電界により水分子73を移動させてろ材34を通過させる電気浸透と、を組み合わせることで、ろ過速度を数倍から10倍以上に向上させることができる。
【0049】
また、第1電極31と第2電極32との間に形成される電界を制御することで、ろ材34を通過する粒子レベル(粒子径)も制御することができる。例えば、第1電極31に第1電位V1=-60Vを印加し、第2電極32に第2電位V2=-70Vを印加することで、第1電極31と第2電極32との間にシールドの電界が形成され、ろ材34の目開き34bよりも小さい粒径の色素タンパク質74が、ろ材34を通過することを抑制できる。
【0050】
つまり、精密ろ過膜(MF膜)相当のろ材34を用いた場合であっても、第1電源51、第2電源52及び基準電位GNDでの各電極間の電界制御により、限外ろ過膜(UF膜)、あるいはナノろ過膜(NF膜)相当まで、分離対象の粒子径を変更することができる。限外ろ過膜(UF膜)は、開口の径が10nm以上100nm以下程度のろ過膜である。ナノろ過膜(NF膜)は、開口の径が1nm以上10nm以下程度のろ過膜である。
【0051】
以上説明したように、本実施形態のろ過装置1は、内部に密閉空間Sを有し、上部容器5と下部容器6とを組み合わせて成る密閉容器2と、下部容器6に支持され、密閉空間Sを上方の第1ろ室30と下方の第2ろ室35とに区分けするろ材34と、分離対象の粒子71と液体72とを含む対象処理液(スラリー70)を第1ろ室30に投入する導入部3と、複数の第1開口31bが設けられ、ろ材34の上面に沿って延在する第1電極31と、複数の第2開口32bが設けられ、ろ材34の下面に沿って延在する第2電極32と、第1電極31に、粒子71の極性と同じ極性の第1電位V1を供給する第1電源51と、第2電極32に、粒子71の極性と同じ極性であって、第1電位V1の絶対値よりも大きい絶対値の第2電位V2を供給する第2電源52と、を有する。上部容器5は、導電性を有し、かつ基準電位GNDに接続されて第3電極33となっている。
【0052】
上記構成によれば、スラリー70のろ過中、第1電極31と粒子71との間で斥力(クーロン力F)発生する。これにより、粒子71は、数μm~数nmの範囲で第1電極31から離隔する。よって、ろ材34の目開き34bのろ過抵抗が増大する時期が遅れる。よって、ろ過速度が向上する。また、第1電極31と第2電極32との間の電界により水分子73を移動させてろ材34を透過させる電気浸透により、ろ過速度をさらに高めることができる。また、上部容器5が第3電極33と構成しているため、第3電極33を別途用意する必要がない。つまり部品点数の増加を防止できる。また、第3電極33は、基準電位GNDに接続されるので、第1電極31、第2電極32、第3電極33のそれぞれに電源を設ける場合に比べろ過装置1の小型化を図ることができる。
【0053】
また、ろ過装置1は、上部容器5の内部を加圧し、第1ろ室30の気圧を第2ろ室35の気圧よりも高い状態にする加圧装置を備える。
【0054】
これによれば、ろ過速度を向上させることができる。
【0055】
また、ろ過装置1において、第1電位V1と基準電位GNDとの電位差は、第1電位V1と第2電位V2との電位差よりも大きい。
【0056】
これによれば、第1電極31と第2電極32との距離に比べ、ろ材34を挟んで対向する第1電極31と第3電極33との距離が大きい場合でも、電気泳動により、良好に粒子71を第1電極31から離れる方向に移動させることができる。
【0057】
また、ろ過装置1において、第1電源51は、定電圧源であり、第2電源52は、定電流源である。
【0058】
これによれば、第1電源51により供給される第1電位V1により、第1電極31と粒子71との間に発生するクーロン力Fを規定することができる。また、第1電源51により供給される第1電位V1及びに第2電源52により供給される電流により、第1電極31と第2電極32との間で形成される電界強度が規定され、良好に電気浸透を行うことができる。
【0059】
また、ろ過装置1において、目開き34bの大きさ(径D3)は、第1開口31bの径D1及び第2開口32bの径D2よりも小さい。
【0060】
これによれば、ろ材34の目開き34bは、少なくとも第1開口31b及び第2開口32bと重畳する領域で、第1電極31及び第2電極32の導電細線31a、32aと非重畳となるように設けられる。これにより、水分子73は、電気浸透により良好にろ材34の目開き34bを通過することができる。
【0061】
なお、上述したろ過装置10の構成はあくまで一例であり、適宜変更することができる。例えば、下部容器6は、全体が絶縁材料により形成されているが、これに限定されない。例えば、導電性材料で形成された本体部の表面を、絶縁材料で被覆して成るものであってもよい。つまり、下部容器6は、第3電極33(上部容器5)と、第1電極31と、第2電極32と、の絶縁を確保できればよい。また、第1電位V1及び第2電位V2は、分離対象の粒子71の種類や、要求されるろ過特性に応じて適宜変更することが好ましい。
【0062】
実施形態では、上部空間5の内部を加圧する加圧装置を備えているが、本開示のろ過装置は、加圧装置に代えて下部空間6の内部を減圧する減圧装置を備えてもよい。又は、加圧装置と減圧装置の両方を備えるようにしてよい。そのほか、本開示のろ過装置は、加圧装置及び減圧装置を備えることなく、自重により液体72がろ材34を通過するようにしてもよい。
【0063】
また、実施形態のろ過装置は、支持板8を介して、第1電極31とろ材34と第2電極32を支持しているが、本開示のろ過装置は、下部容器6の底壁の上面6aで直接支持するようにしてもよい。若しくは、上部容器5が支持板8を支持し、上部容器5が第1電極31とろ材34と第2電極32を支持するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 ろ過装置
2 密閉容器
3 導入部
4 撹拌装置
5 上部容器
6 下部容器
8 支持板
30 第1ろ室(第1空間)
31 第1電極
31b 第1開口
32 第2電極
33 第3電極
34 ろ材
34a ろ過膜
34b 目開き
35 第2ろ室(第2空間)
51 第1電源
52 第2電源
70 スラリー
71 粒子
72 液体
73 水分子