(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】シールド工法用裏込め材の注入方法、その注入装置、及びシールド工法用裏込め材
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20240801BHJP
B28C 7/04 20060101ALI20240801BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20240801BHJP
C04B 24/12 20060101ALI20240801BHJP
C04B 24/26 20060101ALI20240801BHJP
C04B 24/38 20060101ALI20240801BHJP
E02D 3/12 20060101ALI20240801BHJP
E21D 11/00 20060101ALI20240801BHJP
C04B 111/70 20060101ALN20240801BHJP
【FI】
C04B28/02
B28C7/04
C04B22/08 A
C04B24/12 A
C04B24/26 D
C04B24/26 H
C04B24/38 D
E02D3/12 101
E21D11/00 A
C04B111:70
(21)【出願番号】P 2023017096
(22)【出願日】2023-02-07
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000228811
【氏名又は名称】日本シビックコンサルタント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390006758
【氏名又は名称】株式会社立花マテリアル
(73)【特許権者】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000195971
【氏名又は名称】西松建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104776
【氏名又は名称】佐野 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100119194
【氏名又は名称】石井 明夫
(72)【発明者】
【氏名】近藤 紀夫
(72)【発明者】
【氏名】小泉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】加島 豐
(72)【発明者】
【氏名】大塚 孝義
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 眞彦
(72)【発明者】
【氏名】岡田 康平
(72)【発明者】
【氏名】石井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】相澤 吉宏
(72)【発明者】
【氏名】小林 修
(72)【発明者】
【氏名】三戸 憲二
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-107878(JP,A)
【文献】特開平10-237435(JP,A)
【文献】特開平08-188460(JP,A)
【文献】特開2019-077798(JP,A)
【文献】特開平01-192912(JP,A)
【文献】特開昭60-071562(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00-28/36
B28C 7/04
E21D 11/00
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント
、水、増粘剤、流動化剤及び安定剤を混合し、前記増粘剤がアミンオキシド系増粘剤、水/セメント比(W/C)が40%以上100%以下であり、調整直後及び調整3時間静置後の流動性試験のPロート流下時間が11秒以上30秒以下であるセメントジェル(A液)を作成する第1の混合工程と、
前記第1の混合工程によって混合された前記A液を、第1の配管を通して裏込め部付近まで圧送する第1の圧送工程と、
SiO
2
/Na
2
Oのモル比が1.8以上2.6以下の水ガラスを含むとともに、前記A液の化合物と同じ増粘剤を含む凝結剤(B液)を、第2の配管を通して前記裏込め部付近まで圧送する第2の圧送工程と、
前記裏込め部付近まで圧送された前記A液と前記B液を混合して裏込め材を作成する第2の混合工程と、
前記第2の混合工程によって混合された前記裏込め材を前記裏込め部に注入する注入工程と、
を有するシールド工法用裏込め材の注入方法。
【請求項2】
請求項1に記載のシールド工法用裏込め材の注入方法に用いられるシールド工法用裏込め材の注入装置であって、
セメント、水、増粘剤、流動化剤及び安定剤を混合し、前記増粘剤がアミンオキシド系増粘剤、水/セメント比(W/C)が40%以上100%以下であり、調整直後及び調整3時間静置後の流動性試験のPロート流下時間が11秒以上30秒以下であるセメントジェル(A液)を作成する第1の混合手段と、
前記第1の混合手段によって混合された前記A液を、第1の配管を通して裏込め部付近まで圧送する第1の圧送手段と、
SiO
2
/Na
2
Oのモル比が1.8以上2.6以下の水ガラスを含むとともに、前記A液の化合物と同じ増粘剤を含む凝結剤(B液)を、第2の配管を通して前記裏込め部付近まで圧送する第2の圧送手段と、
前記裏込め部付近まで圧送された前記A液と前記B液を混合して裏込め材を作成する第2の混合手段と、
前記第2の混合手段によって混合された前記裏込め材を前記裏込め部に注入する注入手段と、
を備えるシールド工法用裏込め材の注入装置。
【請求項3】
請求項1に記載のシールド工法用裏込め材の注入方法に用いられるシールド工法用裏込め材であって、
セメントジェル(A液)と水ガラスを含む凝結剤(B液)とを混合してなり、
前記A液がセメント、水、増粘剤、流動化剤及び安定剤を含み、
前記増粘剤がアミンオキシド系増粘剤、水/セメント質量比(W/C)が40%以上100%以下、調整直後及び調整3時間静置後の流動性試験方法によるPロート流下時間が11秒以上30秒以下であり、
前記B液の水ガラスのSiO
2
/Na
2
Oのモル比が1.8以上2.6以下であり、前記B液に前記A液の化合物と同じ増粘剤が混合されているシールド工法用裏込め材。
【請求項4】
前記
A液と前記B液との割合が、体積比(A液/B液)で70/30以上、98/2以下である、請求項
3に記載のシールド工法用裏込め材。
【請求項5】
前記
流動化剤が、ポリカルボン酸系重合体である、請求項
3に記載のシールド工法用裏込め材。
【請求項6】
前記
安定剤が、糖類、オキシカルボン酸及びその塩から選ばれる1種以上である、請求項
3に記載のシールド工法用裏込め材。
【請求項7】
前記増粘剤の含有量が、前記水に対して、0.1質量%以上5質量%以下、
前記流動化剤が、前記セメントに対して、0.05質量%以上1質量%以下、
前記安定剤が、前記セメントに対して、0.1質量%以上3質量%以下である、請求項
3に記載のシールド工法用裏込め材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばトンネルを築造するとき、トンネルの裏込め部(以下、テールボイドともいう。)に注入する裏込め材、その製造方法、その注入方法、及び注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、シールド工法には、シールド掘進機に設けたシールドジャッキ推進装置を用いて、シールド掘進機内の後胴で組み立てられた覆工体(セグメント)を押圧し、その反力をシールド掘進機の掘進力とすると同時に、回転カッター等で地山を掘削して掘進し、トンネルを築造する工法がある。
【0003】
上記シールド工法では、掘削断面とセグメント外周との間に発生する空隙部(以下、テールボイドともいう。)に、掘進すると同時に上記空隙部に速やかに裏込め材を注入充填し、早期に固化させることで地盤変位を最小限に抑制するようにしている。
【0004】
従来、上記シールド工法において、テールボイドに充填する裏込め材は、主に軟弱地盤を対象に様々な裏込め材が発展してきた。この裏込め材を注入する方法には、テールボイドが発生すると同時に、このテールボイドに裏込め材を充填する同時裏込め注入方法が専ら採用されてきた。
【0005】
また従来、上記裏込め材に求められる設計強度(材令28日)については、特に重要構造物や急曲線施工等の特殊条件下以外では、掘削対象土質にかかわらず、少なくとも2N/mm2以上とされている(技術マニュアルP.23参照、可塑状グラウト協会発行)。これは、比較的軟弱地盤を対象とするシールド工事で多く採用されてきたためである。
【0006】
近年、大深度、大断面のシールド工事においては、強度が高い洪積層から軟岩を掘削することが多くなるため、裏込め材の強度についても掘削対象地盤相当の強度が求められている。また近年、土被りの大きいN値50以上の洪積層、第三紀層等の未固結地盤や軟岩等で、地下水位が高い条件下の道路トンネルや鉄道トンネルを建設する事例や計画する事例が増えている。このような事情から裏込め材においても高強度の裏込め材が要求されている。
【0007】
なお、高強度の裏込め材については、例えば特許文献1及び特許文献2に記載された技術がある。そして、特許文献1の実施例には、遅延型の減水剤、増粘剤及び消泡剤を含有する水セメント比(W/C)が42%のモルタルと、水ガラス液とを混合してなる裏込め材が記載されている。特許文献1には、裏込め材として重要な性能である、注入初期の可塑状状態を表す可塑状保持時間と可塑状強度については何ら示唆されていない。さらに、特許文献1は、裏込め材に細骨材として砂を使用している。砂は産地により粒度分布が異なるばかりでなく、砂の表面水量は、管理方法により変動するものであり、圧送性能及び配合強度に大きな影響を与えるため、裏込め材として一定の品質を確保することが困難な場合がある。
【0008】
また、特許文献2の実施例には、分散剤、ミセル剤(増粘剤)、遅延剤を含有する水セメント比が31.25%のセメントジェルとジェル状骨材体と混合してなる水セメント比が50%の裏込め材が記載されているものの、1時間経過後の初期強度については、何ら示唆されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2016-166447号公報
【文献】特開2022-107878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、シールド工事の裏込め材で高強度を達成するためには、水セメント比(W/C)を小さくする必要がある一方、水セメント比を小さくすると裏込め材の粘性が高くなる傾向がありポンプで圧送することが困難になる。上記特許文献1及び特許文献2の技術では、裏込め材となる材料を別の配管を用いて圧送し、テールボイドに充填する直前に裏込め材を調製しセメントの硬化を促進することで、裏込め材の高強度化とポンプ圧送性の向上を達成している。
【0011】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2の技術であっても、セメントの分離を抑制するためにモルタルやセメントジェルの粘性がある程度高くポンプ圧送距離に限界があり、掘進延長が長距離になると圧送することができない場合があった。その場合の対策として、例えば、特許文献2には、ミキサータンクや注入ポンプを複数設置して長距離間を中継する方法が記載されている。
【0012】
本発明は、上記事情を考慮してなされたものであり、硬化後の高強度化を達成しつつ、長距離のポンプ圧送が可能なシールド工法用裏込め材、その製造方法、その注入方法、及び注入装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明の請求項1に記載の発明は、セメント、水、増粘剤、流動化剤及び安定剤を混合し、前記増粘剤がアミンオキシド系増粘剤、水/セメント比(W/C)が40%以上100%以下であり、調整直後及び調整3時間静置後の流動性試験のPロート流下時間が11秒以上30秒以下であるセメントジェル(A液)を作成する第1の混合工程と、前記第1の混合工程によって混合された前記A液を、第1の配管を通して裏込め部付近まで圧送する第1の圧送工程と、SiO
2
/Na
2
Oのモル比が1.8以上2.6以下の水ガラスを含むとともに、前記A液の化合物と同じ増粘剤を含む凝結剤(B液)を、第2の配管を通して前記裏込め部付近まで圧送する第2の圧送工程と、前記裏込め部付近まで圧送された前記A液と前記B液を混合して裏込め材を作成する第2の混合工程と、前記第2の混合工程によって混合された前記裏込め材を前記裏込め部に注入する注入工程と、を有する。
本発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のシールド工法用裏込め材の注入方法に用いられるシールド工法用裏込め材の注入装置であって、セメント、水、増粘剤、流動化剤及び安定剤を混合し、前記増粘剤がアミンオキシド系増粘剤、水/セメント比(W/C)が40%以上100%以下であり、調整直後及び調整3時間静置後の流動性試験のPロート流下時間が11秒以上30秒以下であるセメントジェル(A液)を作成する第1の混合手段と、前記第1の混合手段によって混合された前記A液を、第1の配管を通して裏込め部付近まで圧送する第1の圧送手段と、SiO
2
/Na
2
Oのモル比が1.8以上2.6以下の水ガラスを含むとともに、前記A液の化合物と同じ増粘剤を含む凝結剤(B液)を、第2の配管を通して前記裏込め部付近まで圧送する第2の圧送手段と、前記裏込め部付近まで圧送された前記A液と前記B液を混合して裏込め材を作成する第2の混合手段と、前記第2の混合手段によって混合された前記裏込め材を前記裏込め部に注入する注入手段と、を備える。
本発明の請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のシールド工法用裏込め材の注入方法に用いられるシールド工法用裏込め材であって、セメントジェル(A液)と水ガラスを含む凝結剤(B液)とを混合してなり、前記A液がセメント、水、増粘剤、流動化剤及び安定剤を含み、前記増粘剤がアミンオキシド系増粘剤、水/セメント質量比(W/C)が40%以上100%以下、調整直後及び調整3時間静置後の流動性試験方法によるPロート流下時間が11秒以上30秒以下であり、前記B液の水ガラスのSiO
2
/Na
2
Oのモル比が1.8以上2.6以下であり、前記B液に前記A液の化合物と同じ増粘剤が混合されている。
【0014】
また、本発明の請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の構成に加え、前記A液と前記B液との割合が、体積比(A液/B液)で70/30以上、98/2以下である。
【0015】
また、本発明の請求項5に記載の発明は、請求項3に記載の構成に加え、前記流動化剤が、ポリカルボン酸系重合体である。
【0016】
また、本発明の請求項6に記載の発明は、請求項3に記載の構成に加え、前記安定剤が、糖類、オキシカルボン酸及びその塩から選ばれる1種以上である。
【0017】
また、本発明の請求項7に記載の発明は、請求項3に記載の構成に加え、前記増粘剤の含有量が、前記水に対して、0.1質量%以上5質量%以下、前記流動化剤が、前記セメントに対して、0.05質量%以上1質量%以下、前記安定剤が、前記セメントに対して、0.1質量%以上3質量%以下である。
【発明の効果】
【0024】
本発明の請求項1乃至請求項7に記載の発明によれば、セメント、水、増粘剤、流動化剤及び安定剤を含み、増粘剤がアミンオキシド系増粘剤、水/セメント質量比(W/C)が40%以上100%以下、調整直後及び調整3時間静置後の流動性試験のPロート流下時間が11秒以上30秒以下であるセメントジェル(A液)と、SiO2/Na2Oのモル比が1.8以上2.6以下の水ガラスを含むとともに、前記A液の化合物と同じ増粘剤を含む凝結剤(B液)とを混合してなることから、硬化後の高強度化を達成しつつ、長距離のポンプ圧送が可能な裏込め材及びその注入方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施形態に係るシールド工法用裏込め材を適用したシールド工法用裏込め材の注入装置の構成を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態に係るシールド工法用裏込め材(以下、単に裏込め材ともいう。)について詳細に説明する。
【0027】
<裏込め材>
本実施形態の裏込め材は、硬化後の高強度を達成しつつ、長距離のポンプ圧送が可能である。その理由について以下に説明する。
【0028】
本実施形態の裏込め材は、圧送配管内でのセメントの水和反応による粘性の増加及び閉塞を抑制するために、硬化を抑制する安定剤を含むセメントジェル(A液)と、テールボイドに充填する直前にA液と混合してセメントの硬化を促進する凝結剤(B液)とを含む。
【0029】
B液は水ガラスを主成分とする液であり、長距離のポンプ圧送性に問題はないものの、A液はセメントを含有しているので、ポンプ圧送ができる流動性の付与とセメントの沈降(分離)の抑制する程度の粘性の付与を両立することが必要であり、更に流動性の低下や圧送配管の閉塞につながるセメントの硬化抑制も必要となる。
【0030】
ここで、A液の流動性を向上する流動化剤、セメントの沈降を抑制する増粘剤及びセメントの硬化を抑制する安定剤をA液に配合して注入モルタルの流動性試験方法によるPロート流下時間が11秒以上30秒以下になるように調整することにより、A液が適切な流動性となり、A液が分離することなく長距離のポンプ圧送が可能になった。
【0031】
そして、上記テールボイドに充填する直前にA液とB液とを混合して裏込め材を調製する際には、B液の水ガラスのSiO2/Na2Oのモル比が1.8以上2.6以下とした。そのため、A液のセメントの硬化反応が適度な速度で進行し、ゲルを生じることなく、高強度の硬化体が得られるようになった。なお、本実施形態の効果発現の機構は、これに限定されるものではない。
【0032】
本実施形態の裏込め材は、セメントジェル(A液)と水ガラスを含む凝結剤(B液)とを含むシールド工法用裏込め充填材であって、A液がセメント、水、増粘剤(以下、特殊増粘剤ともいう。)、流動化剤及び安定剤を含む。以下、これらの材料の具体例について説明する。
【0033】
<セメント>
本実施形態で用いられるセメントは、高炉セメント、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、エコセメント(例えばJIS R5214等)である。セメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、高炉セメントから選択されるセメントが好ましく、普通ポルトランドセメント、高炉セメントから選択されるセメントがより好ましく、高炉セメントがさらに好ましい。
【0034】
<水>
本実施形態で用いられる水は、例えば、水道水、地下水、湖沼水、河川水、海水、イオン交換水等が挙げられる。
【0035】
<水セメント比(W/C)>
本実施形態の裏込め材のA液の水とセメントとの質量比(W/C)は、40%以上100%以下である。水とセメントとの比は、ポンプ圧送性の観点から50%以上であることが好ましく、60%以上がより好ましく、さらに裏込め材の高強度化及び分離沈降抑制の観点から80%以下であることが好ましく、70以下がより好ましい。ここで、W/Cは、A液中の水とセメントの質量百分率(質量%)であり、W/C×100で算出される。
【0036】
<増粘剤>
本実施形態の裏込め材で用いられる増粘剤は、A液に粘性を付与しセメントの沈降及び液の分離を抑制する。本実施形態で用いられる増粘剤は、セルロース系増粘剤及びアミンオキシド系増粘剤から選ばれる1種以上であり、A液のポンプ圧送性の向上と分離を抑制する観点から、アミンオキシド系増粘剤が好ましい。また、アミンオキシド系増粘剤は、ひも状ミセルを形成して増粘させる観点から、ミセル剤ともいう。
【0037】
上記セルロース系増粘剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース等が挙げられる。セルロース系増粘剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びメチルセルロースから選ばれるセルロース系増粘剤が好ましい。セルロース系増粘剤は、セルロースファイバー、セルロースナノファイバー、セルロースナノクリスタルのような形態のものを使用することもできる。
【0038】
また、上記セルロース系増粘剤は、セルロースのグルコース環の水酸基がメトキシ基で置換された構造を有するものが好ましい。その場合、該セルロース系増粘剤は、分離を抑制する観点から、セルロースのグルコース環単位あたり、メトキシ基で置換された水酸基の平均個数で定義される置換度が、好ましくは5以下、より好ましくは4以下、更に好ましくは3以下、より更に好ましくは2以下であり、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.1以上、更に好ましくは0.5以上、より更に好ましくは1.0以上である。
【0039】
さらに、上記セルロース系増粘剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースやヒドロキシエチルセルロースのような、セルロースのグルコース環の水酸基がヒドロキシプロポキシ基又はヒドロキシエトキシ基で置換された構造を有するものが好ましい。その場合、該セルロース系増粘剤は、分離を抑制する観点から、セルロースのグルコース環単位あたりに付加したヒドロキシプロポキシ基及び/又はヒドロキシエトキシ基の平均モル数で定義される置換モル数が、好ましくは5以下、より好ましくは4以下、更に好ましくは3以下、より更に好ましくは2以下であり、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.1以上、より更に好ましくは0.15以上であることが好ましい。
【0040】
上記セルロース系増粘剤は、セルロースのグルコース環の水酸基が、前記範囲の置換モル数のメトキシ基と、前記範囲の置換モル数のヒドロキシプロポキシ基及び/又はヒドロキシエトキシ基とで置換された構造を有するものがより好ましい。
【0041】
セルロース系増粘剤の市販品としては、信越化学工業株式会社製のメトローズのシリーズやアスカクリーンが挙げられる。
【0042】
アミンオキシド系増粘剤としては、下記一般式(1)で表される化合物を1種以上含有する増粘剤が挙げられる。前記2種以上の化合物を含む場合は、一般式(1)中のXが異なっており、前記2種以上の化合物のうち、少なくとも1つは一般式(1)中のXのR1a又はR1bがアルケニル基の化合物である。
【0043】
【0044】
〔式中、XはR1a又はR1b-〔CONH-CH2CH2CH2〕n-で表される基である。R1a及びR1bは、それぞれ独立に、炭素数16以上22以下のアルキル基又は炭素数16以上22以下のアルケニル基である。nは1以上3以下の整数である。R2およびR3は、それぞれ独立に、炭素数1以上4以下のアルキル基又は-(C2H4O)pHで表される基である。pは、平均付加モル数であり、R2およびR3の合計で0以上5以下の数である。〕
【0045】
化合物(1)について、一般式(1)中のXが異なるとは、化合物(1)が2種である場合を例に考えると、例えば、以下のような態様が挙げられる。なお、以下の態様において、2種の化合物(1)のうち、少なくとも一方の化合物(1)のR1a又はR1bはアルケニル基である。
(i)一方のR1a又はR1bがアルキル基であり、他方のR1a又はR1bがアルケニル基である。
(ii)一方のR1a又はR1bの炭素数と、他方のR1a又はR1bの炭素数が異なっている。
(iii)一方のXがR1aであり、他方のXがR1b-[CONH-CH2CH2CH2]n-である。
(iv)Xが共にR1b-[CONH-CH2CH2CH2]n-であり、一方のnと他方のnが異なっている。
(v)前記(i)~(iv)の組み合わせ。
【0046】
一般式(1)中、Xは、R1a又はR1b-[CONH-CH2CH2CH2]n-で表される基である。
【0047】
R1aは、炭素数16以上22以下のアルキル基又は炭素数16以上22以下のアルケニル基である。
【0048】
R1aがアルケニル基の場合、炭素数は、好ましくは18以上、そして、好ましくは22以下である。
【0049】
R1aがアルキル基の場合、炭素数は、好ましくは18以上、そして、好ましくは22以下である。
【0050】
R1bは、炭素数15以上21以下のアルキル基又は炭素数15以上21以下のアルケニル基である。
【0051】
R1bがアルケニル基の場合、炭素数は、好ましくは17以上、そして、好ましくは21以下である。
【0052】
R1bがアルキル基の場合、炭素数は、好ましくは17以上、そして、好ましくは21以下である。
【0053】
nは0以上3以下の整数である。好ましくは、nは、0又は1である。
【0054】
R2及びR3は、それぞれ独立に、好ましくは炭素数1以上2以下のアルキル基又は(C2H4O)pHで表される基である。
【0055】
pは、好ましくは0以上3以下の数である。
【0056】
本実施形態では、一般式(1)中のXが異なる化合物(1)を好ましくは2種以上、好ましくは5種以下、より好ましくは2種用いる。そして、本実施形態で用いる2種以上の化合物(1)は、少なくとも1つが一般式(1)中のXのR1a又はR1bが炭素数16以上22以下のアルケニル基の化合物、つまり、一般式(1)中のXにおけるR1aとして炭素数16以上22以下のアルケニル基又はR1bとして炭素数15以上21以下のアルケニル基を含む化合物である。
【0057】
本実施形態では、化合物(1)が2種であり、上記(i)~(v)を含め、2種の化合物(1)のうち、一方が、一般式(1)中のXがR1aで且つ炭素数16以上22以下のアルケニル基の化合物であることが好ましい。すなわち、(A)成分は、前記一般式(1)で表される化合物の2種であり、前記2種の化合物は、一般式(1)中のXが異なっており、前記2種の化合物のうち、一方は、一般式(1)中のXがR1aであり且つR1aがアルケニル基の化合物であることが好ましい。
【0058】
アミンオキシド系増粘剤としては、例えば、特開2020-76022号公報に記載されたレオロジー改質剤が挙げられる。アミンオキシド系増粘剤は、例えば、特開2001-213859号公報に記載の方法で製造することができる。
【0059】
<流動化剤>
本実施形態の裏込め材で用いられる流動化剤は、A液に流動性を付与しポンプ圧送性を向上させる。本実施形態で用いられる流動化剤は、例えば、ナフタレン系重合体、ポリカルボン酸系重合体、メラミン系重合体、フェノール系重合体、リグニン系重合体及びこれらの塩が挙げられ、ポリカルボン酸系重合体が好ましい。
【0060】
ナフタレン系重合体は、例えば、縮合重合による重合体が挙げられる。具体的には、例えば、ナフタレン系化合物の、ホルムアルデヒド縮合を代表とする、アルデヒド類による付加縮合による重合体が挙げられる。ナフタレン系重合体は、アルデヒド類による縮合重合体が好ましく、ホルムアルデヒド縮合重合体がより好ましい。
【0061】
ナフタレン系重合体としては、好ましくはナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩が挙げられる。ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩は、ナフタレンスルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物又はその塩である。ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物は、性能を損なわない限り、単量体として、例えばメチルナフタレン、エチルナフタレン、ブチルナフタレン、ヒドロキシナフタレン、ナフタレンカルボン酸、アントラセン、フェノール、クレゾール、クレオソート油、タール、メラミン、尿素、スルファニル酸及び/又はこれらの誘導体などのような、ナフタレンスルホン酸と共縮合可能な芳香族化合物と共縮合させてもよい。
【0062】
ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩の市販品として、例えば、花王株式会社製のマイテイ150、デモール N、デモール RN、デモール MS、デモールSN-B、デモール SS-L、第一工業株式会社製のセルフロー 120、ラベリン FD-40、ラベリン FM-45等が挙げられる。
【0063】
ポリカルボン酸系重合体は、ポリカルボン酸系分散剤が挙げられ、ポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのモノエステルと(メタ)アクリル酸等のカルボン酸との共重合体(例えば特開平8-12397号公報に記載の化合物等)、ポリアルキレングリコールを有する不飽和アルコールと(メタ)アクリル酸等のカルボン酸との共重合体、ポリアルキレングリコールを有する不飽和アルコールとマレイン酸等のジカルボン酸との共重合体等を用いることができる。ここで、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれるカルボン酸の意味である。
【0064】
ポリカルボン酸系重合体の市販品として、例えば、花王株式会社製のマイテイ21シリーズや株式会社日本触媒製のアクアロックシリーズ等が挙げられる。
【0065】
メラミン系重合体としては、例えば、メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩が挙げられる。メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩は、メラミンにホルムアルデヒドを反応させて得られたN-メチロール化メラミンに重亜硫酸塩を反応させてメチロール基の一部をスルホメチル化し、次いで酸を加えてメチロール基を脱水縮合させてホルムアルデヒド縮合物とし、アルカリで中和して得られる化合物である(例えば、特公昭63-37058号公報参照)。アルカリとしては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア、モノ、ジ、トリアルキル(炭素数2~8)アミン、モノ、ジ、トリアルカノール(炭素数2~8)アミン等を挙げることができる。
【0066】
メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩の市販品として、花王株式会社製のマイテイ150V-2、日産化学工業株式会社製のSMF-PG、三井化学株式会社製のメルフロー、昭和電工株式会社製のメルメントF-10、日産化学社製のスーパーメラミン、フローリック社製のフローリックMS、BASFジャパン社製のメルメントF4000、メルメントF10M、メルメントF245などが挙げられる。
【0067】
フェノール系重合体としては、下記成分1、成分2、及び成分3からなり、前記成分3:(成分1+成分2)のモル比が1:0.01から1:10であり、前記成分1:成分2のモル比が10:1から1:10である重縮合生成物からなる分散剤が挙げられる。
【0068】
〔成分1〕
フェノール、クレゾール、レソルシノール、ノニルフェノール、メトキシフェノール、ナフトール、メチルナフトール、ブチルナフトール、及びビスフェノールAからなる群より選択される芳香族化合物に対して、O原子又はN原子を介して、1分子あたり平均して1から300の、オキシエチレン基及び/又はオキシプロピレン基が結合した化合物
【0069】
〔成分2〕
フェノキシ酢酸、フェノキシエタノール、フェノキシエタノールホスフェート、フェノキシジグリコール、及びフェノキシ(ポリ)エチレングリコールホスフェート、ヒドロキシ安息香酸、安息香酸、イソフタル酸、オキシナフトエ酸からなる群より選択される、少なくとも1つの芳香族化合物
【0070】
〔成分3〕
ホルムアルデヒド、グリオキシル酸、及びベンズアルデヒド、又はその混合物からなる群より選択されるアルデヒド〔ここでベンズアルデヒドはさらに、COOMa、SO3Ma、又はPO3Maの式で表される酸性基(MはH、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属、アンモニウム、又は有機アミン基であり、aは1/2、1、又は2であってもよい)を有してもよい〕
【0071】
リグニン系重合体としては、リグニンスルホン酸塩又はその誘導体が挙げられる。リグニンスルホン酸塩又はその誘導体の市販品の市販品として、例えば、BASFジャパン社のマスターポゾリスNo.70、マスターポリヒード15Sシリーズ、フローリック社のフローリックSシリーズ、フローリックRシリーズ、グレースケミカル社のダーレックスWRDA、日本シーカ社のプラスクリートNC、プラスクリートR、山宗化学社のヤマソー80P、ヤマソー90シリーズ、ヤマソー98シリーズ、ヤマソー02NL-P、ヤマソー02NLR-P、ヤマソー09NL-P、ヤマソーNLR-P、竹本油脂社のチューポールEX60シリーズ、チューポールLS-Aシリーズ、リグエース社のリグエースUAシリーズ、リグエースURシリーズ、リグエースVFシリーズなどが挙げられる。
【0072】
<安定剤>
本実施形態の裏込め材で用いられる安定剤は、A液の硬化を抑制しポンプ圧送性の低下及び配管の閉塞を抑制する。本実施形態で用いられる安定剤は、硬化遅延剤が挙げられ、例えば糖類、オキシカルボン酸系、糖系の有機化合物からなる遅延剤、もしくは例えば、リン酸塩、水酸化銅、亜鉛化合物等の無機化合物からなる遅延剤が用いられ、この遅延剤は、1種ないし、2種以上を含有してもよい。安定剤としては、オキシカルボン酸及び糖から選ばれる1種以上の化合物が好ましい。
【0073】
オキシカルボン酸は、分子中にヒドロキシ基とカルボキシ基とを有する、いわゆるヒドロキシカルボン酸である。オキシカルボン酸の炭素数は、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、そして、好ましくは18以下、より好ましくは12以下、更に好ましくは10以下、より更に好ましくは8以下であってよい。オキシカルボン酸が有する水酸基の数は、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは4以上、そして、好ましくは18以下、より好ましくは12以下、更に好ましくは10以下、より更に好ましくは8以下であってよい。オキシカルボン酸が有するカルボキシル基の数は、好ましくは1以上、そして、好ましくは12以下、より好ましくは6以下、更に好ましくは3以下であってよい。
【0074】
オキシカルボン酸としては、例えば、グルコン酸、クエン酸、グルコヘプトン酸、アラボン酸、リンゴ酸、酒石酸、及びこれらの塩から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0075】
オキシカルボン酸の塩は、ナトリウム塩などのアルカリ金属塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩が挙げられる。
【0076】
安定剤としては、長距離圧送性の観点から、グルコン酸、酒石酸、クエン酸、及びこれらの塩から選ばれる1種以上が好ましく、グルコン酸、及びその塩から選ばれる1種以上がより好ましい。
【0077】
糖としては、例えば、でんぷん、トレハロース、スクロース、マルトース、グルコース、フルクトース、デキストリン等が挙げられる。
【0078】
安定剤は、硬化遅延剤として販売されている市販品を用いることができる。
【0079】
<Pロート流下時間>
本実施形態の裏込め材のA液のPロート流下時間は、11秒以上30秒以下である。Pロート流下時間が11秒以上であるとA液の材料分離が抑制され、30秒以下であるとA液の長距離ポンプ圧送が可能となる。Pロート流下時間は、土木学会
JSCE-F 521-1999 プレパックドコンクリートの注入モルタルの流動性試験方法(P漏斗による方法)に従って測定する。
【0080】
A液のPロート流下時間は、W/Cの値、並びに増粘剤、流動化剤及び安定剤の含有量により調整することができる。A液のPロート流下時間が大きくなると、材料分離が抑制される傾向があり、Pロート流下時間が小さくなると、ポンプ圧送性が向上する傾向がある。
【0081】
Pロート流下時間は、11秒以上であり、A液の材料分離を抑制する観点から、12秒以上が好ましく、13秒以上がより好ましい。そして、Pロート流下時間は、30秒以下であり、ポンプ圧送性の観点から、25秒以下が好ましく、20秒以下がより好ましい。
【0082】
<A液の組成等>
A液の水とセメントとの質量比(W/C)は、40%以上であり、セメントの沈降量を抑制する観点から、50%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、そして、100%以下であり、Pロート流下時間を小さくする観点から、80%以下が好ましく、70%以下がより好ましい。
【0083】
増粘剤がアミンオキシド系増粘剤の場合、増粘剤のA液中の含有量は、Pロート流下時間を大きくする観点から、水と増粘剤の合計に対して(内比)、0.1質量%が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、そして、Pロート流下時間を小さくする観点から、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。また、A液の水とセメントとの質量比が70以下の場合、A液の増粘剤が無くても粘性が増加する傾向がある点から、水と増粘剤の合計に対して、1.7質量%以下がより更に好ましい。
【0084】
増粘剤がセルロース系増粘剤の場合、増粘剤のA液中の含有量は、Pロート流下時間を大きくする観点から、水と増粘剤の合計に対して、0.2質量%以上が更に好ましく、そして、Pロート流下時間を小さくする観点から、1質量%以下が更に好ましく、0.5質量%以下がより更に好ましい。また、A液の水とセメントとの質量比が70以下の場合、A液の増粘剤が無くても粘性が増加する傾向がある点から、水と増粘剤の合計に対して、0.3質量%以下がより更に好ましい。
【0085】
流動化剤のA液中の含有量は、Pロート流下時間を小さくする観点から、セメントと流動化剤の合計に対して(内比)、0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.2質量%以上が更に好ましく、そして、Pロート流下時間を大きくする観点から、1質量%以下が好ましく、0.8質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下が更に好ましい。
【0086】
安定剤のA液中の含有量は、A液の硬化を抑制する観点から、セメントと安定剤の合計に対して(内比)、0.1質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が更に好ましく、そして、強度発現性に影響を与えない観点から、3質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましく、1.5質量%以下が更に好ましい。また、安定剤のA液中の含有量は、A液調製直後から時間を経過してもPロート流下時間が所定範囲を維持する観点から、水と安定剤の合計に対して(内比)、0.3質量%が更に好ましく、0.5質量%以上がより更に好ましい。
【0087】
A液には、本実施形態の効果に影響のない範囲で、セルロース系及びアミンオキシド系増粘剤、流動化剤、安定剤以外の成分、例えば、起泡剤、発泡剤、防水剤、消泡剤等を含有することができる。
【0088】
本実施形態の裏込め材のB液は水ガラスを含む凝結剤であり、A液とB液との混合によりA液のセメントの水和反応を促進し、裏込め材の硬化を促進させる。そして、B液の水ガラスはSiO2/Na2Oのモル比が1.8以上2.6以下である。SiO2/Na2Oのモル比が1.8以上2.6以下であることにより、A液との混合後にセメントの硬化反応が適度な速度で進行するため、A液とB液とを混合してなる裏込め材はテールボイドへの充填性に優れ早期に固化することができる。このモル比は、JIS K1408で規定されるNa2OとSiO2のモル比である。
【0089】
B液の水ガラスとしては、1号水ガラス(モル比1.8~2.3)及び2号水ガラス(モル比2.3~2.6)が挙げられ、裏込め材の充填性と固化時間の観点から、1号水ガラスが好ましい。水ガラスは市販品を用いることができる。
【0090】
<B液の組成等>
B液は水ガラスを主成分とする。B液は水で水ガラスを希釈してもよい。希釈する水の量は、水ガラスに対して(外比)、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。
【0091】
また、B液は、A液との混合後の裏込め材の粘性で充填部からの逸失を抑制する観点から、増粘剤を含有させることが好ましい。
【0092】
増粘剤としては、セルロース系増粘剤及びアミンオキシド系増粘剤から選ばれる1種以上が好ましく、A液との混合性の観点から、A液で用いる増粘剤と同じ系統の化合物がより好ましく、A液で用いる増粘剤と同じ化合物が更に好ましい。このように同じ増粘剤を用いることで、増粘剤貯留プラント設備の簡素化、縮小化が可能になる。
【0093】
増粘剤のB液中の含有量は、裏込め材の粘性を増加させて充填部からの逸失を抑制する観点から、B液中、0.5質量%が好ましく、1質量%以上がより好ましく、そして、裏込め材の充填性の観点から、5質量%以下が好ましく3質量%以下がより好ましい。
【0094】
B液には、本実施形態の効果に影響ない範囲で、水ガラス及び増粘剤以外の成分、例えば、起泡剤、発泡剤、防水剤、消泡剤等を更に含有することができる。
【0095】
<裏込め材>
本実施形態の裏込め材は、セメントジェル(A液)と水ガラスを含む凝結剤(B液)とを含み、これらを混合する。A液とB液とを含むことにより裏込め材の硬化が進行し、テールボイドに充填された裏込め材は高い圧縮強度を発現することができる。
【0096】
本実施形態の裏込め材のA液とB液との割合は、裏込め材を硬化させる観点から、室温(25℃)での体積比(A液/B液)で、70/30以上が好ましく、80/20以上がより好ましく、85/15以上が更に好ましく、そして、98/2以下が好ましく、97/3以下がより好ましく、95/5以下が更に好ましい。
【0097】
また、本実施形態の裏込め材の水ガラスの含有量は、裏込め材の短期強度発現性の観点から、セメントに対して(外比)、5質量%以上が好ましく、8質量%以上がより好ましく、10質量%が更に好ましく、そして、長期強度の低下を抑制する観点から、20質量%以下が好ましく、18質量%以下がより好ましく、16質量%以下が更に好ましい。
【0098】
本実施形態の裏込め材の材令28日後の一軸圧縮強度は、シールドトンネルの強度を向上する観点から、5N/mm2以上が好ましく、10N/mm2以上がより好ましく、15N/mm2以上が更に好ましく、そして、経済的に実用的な強度を確保する観点から、40N/mm2以下が好ましく、30N/mm2以下が好ましい。
【0099】
本実施形態の裏込め材は、更にA液及びB液以外の液を混合して用いることができる。例えば、微粉末、水、及び増粘剤を混合して微粉末ジェルが挙げられる。微粉末としては、砂、炭酸カルシウム、石灰石微粉末、高炉スラグ微粉末、又は火山灰微粉末等が挙げられる。
【0100】
<裏込め材の製造方法>
本実施形態の裏込め材の製造方法は、セメント、水、増粘剤、流動化剤及び安定剤を混合し、増粘剤がセルロース系増粘剤及びアミンオキシド系増粘剤から選ばれる1種以上、水/セメント比(W/C)が40%以上100%以下であり、注入モルタルの流動性試験方法によるPロート流下時間が11秒以上30秒以下であるセメントジェル(A液)を調製する工程と、SiO2/Na2Oのモル比が1.8以上2.6以下の水ガラスを含む凝結剤(B液)を調製する工程と、A液とB液とを混合し裏込め材を調製する工程とを有する。
【0101】
A液は、Pロート流下時間が所定範囲を満たすように、所定量のセメント、水、増粘剤、流動化剤及び安定剤をミキサー等で混合することにより調製することができるものの、A液の調製は、調製してから時間経過してもPロート流下時間を所定範囲内に維持する観点から、セメントと水とを混合してセメントスラリーを調製する工程と、セメントと水を含むセメントスラリーに安定剤を添加して混合する工程とを含む、ことが好ましい。すなわち、安定剤の混合はセメントと水を含むセメントスラリーを調製した後に混合することが好ましい。
【0102】
B液は、水ガラスが主成分であるが、水ガラスに加えて、要すれば、水及び/又は増粘剤をミキサー等で混合することにより調製することができる。増粘剤のB液への配合は、水ガラスと増粘剤の分離を抑制する観点から、B液をポンプで圧送する直前又はA液との混合する直前に行うことが好ましい。
【0103】
本実施形態の裏込め材は、A液とB液とを混合することにより調製できる。A液とB液との混合は、ミキサーや配管合流を用いることができる。A液とB液は、各液のポンプでの圧送及びテールボイドにおける充填性及び硬化促進の観点から、A液とB液とをそれぞれポンプで圧送した後、テールボイドの近傍で合流させ混合することが好ましい。
【0104】
<裏込め材の注入装置の一実施形態>
図1は、本発明の一実施形態に係るシールド工法用裏込め材を適用したシールド工法用裏込め材の注入装置の構成を示す系統図である。なお、以下の実施形態では、トンネルを築造するとき、トンネルの裏込め部に裏込め材を注入する例について説明する。また、以下の実施形態では、B液に増粘剤を添加する例であって、地上においてB液と増粘剤を混合する例について説明する。
【0105】
図1に示すように、泥土圧式のシールド掘進機1は、カッタヘッド回転駆動装置2を駆動してカッタヘッド3を回転させてトンネル坑内4aの切羽を掘削する。ここで、トンネル坑内4aは、地盤5に掘削した立坑6から連続して掘削されている。この掘削された掘削土には、作泥土材添加管7からベントナイト、粘土、高分子剤、気泡材等の添加材が注入されて練り混ぜることで泥土8aが作成される。シールド掘進機1は、この泥土8aを切羽室8内に充満させることにより切羽を安定させ、スクリュコンベヤからなる排土装置9で排土しながら掘削処理を進めるようにしている。なお、切羽室8内に充満された泥土8aの圧力は、圧力計10によって計測される。
【0106】
また、シールド掘進機1は、図示しないセグメント組立装置を用いてセグメントによるセグメント覆工体11を一リング毎に組み立て、この組み立てたセグメント覆工体11から反力をとりつつ、シールドジャッキ12によってシールド筒13とともに、カッタヘッド3を押し出すことで、切羽面を掘削しながらシールドトンネルを掘進して行くように構成されている。
【0107】
そして、シールド掘進機1の後方では、上記セグメント組立装置を用いて組み立てたセグメント覆工体11と地盤5の掘削孔との間に形成される裏込め部(テールボイド)14に裏込め材14aを裏込め材注入管15の吐出口15aから注入してトンネル4を築造するトンネル施工が実施される。地上16には、発進基地17が設置され、この発進基地17の付近に立坑6が掘削されている。
【0108】
<裏込め材の注入装置の構成説明>
発進基地17には、裏込め材圧送装置20を構成するセメントジェル製造設備21と、このセメントジェル製造設備21によって製造されたセメントジェルをトンネル坑内4aに設置された後述するA液貯留・混合装置31まで圧送する圧送ポンプ29と、水ガラスを貯留する水ガラス貯留槽40と、第2の増粘剤としての特殊粘性剤を貯留する特殊粘性剤槽41と、水ガラス貯留槽40内に貯留された水ガラスと特殊粘性剤槽41内に貯留された特殊粘性剤がそれぞれ供給されて撹拌・貯留するB液撹拌・貯留槽42と、このB液撹拌・貯留槽42に貯留されたB液をトンネル坑内4aに設置された後述するB液注入装置45まで圧送する圧送する圧送ポンプ43と、が設置されている。B液撹拌・貯留槽42では、水ガラスと特殊粘性剤とが撹拌されて混合されて可塑剤(B液)が作成される。
【0109】
ここで、本実施形態のセメントジェルとは、粘稠性の低いセメントミルクから粘稠性の高いセメントペーストの全てを含むものとする。
【0110】
セメントジェル製造設備21は、セメント貯留槽22と、水貯留槽23と、特殊増粘剤貯留槽24と、流動化剤貯留槽25と、安定剤(硬化遅延剤)貯留槽26と、混合装置(ミキサー)27と、貯留・撹拌装置28とを有している。
【0111】
混合装置27には、セメント貯留槽22内に貯留されたセメントと、水貯留槽23内に貯留された水と、特殊増粘剤貯留槽24内に貯留された第1の増粘剤としての特殊増粘剤と、流動化剤貯留槽25内に貯留された流動化剤と、安定剤貯留槽26内に貯留された安定剤とが供給され、これらは混合装置27内で混合される。混合装置27内で混合されたセメントジェル(A液)は、貯留・撹拌装置28に送られて撹拌される。
【0112】
ここで、上記特殊増粘剤は、セルロース系増粘剤及びアミンオキシド系増粘剤から選ばれる1種以上であり、混合装置27内で混合されたA液は、水/セメント質量比(W/C)が40%以上100%以下、注入モルタルの流動性試験のPロート流下時間が11秒以上30秒以下である。
【0113】
貯留・撹拌装置28内のA液は、圧送ポンプ29を駆動することによりA液配管30を通してトンネル坑内4a内のA液貯留・混合装置31に圧送される。A液配管30は、地上の発進基地17の圧送ポンプ29から立坑6を経てトンネル坑内4aに設置されたA液貯留・混合装置31まで延びている。混合装置27及びA液貯留・混合装置31は、本実施形態の第1の混合手段を構成する。
【0114】
A液貯留・混合装置31に圧送されたA液は、A液注入装置32に送られ、A液ライン33を通してトンネル4の切羽付近に設置された第2の混合手段としての混合部34に注入される。圧送ポンプ29及びA液注入装置32は、本実施形態の第1の圧送手段を構成し、A液配管30及びA液ライン33は、本実施形態の第1の配管を構成する。
【0115】
また、水ガラス貯留槽40内には、上述したSiO2/Na2Oのモル比が1.8以上2.6以下の水ガラスを含む凝結剤(B液)が貯留されている。この水ガラスは、B液撹拌・貯留槽42で特殊粘性剤と撹拌されて撹拌圧送ポンプ43によりA液配管30とは別系統の水ガラス配管44を通してトンネル坑内4a内に設置されたB液注入装置45に圧送される。
【0116】
なお、本実施形態では、特殊粘性剤槽41及びB液撹拌・貯留槽42を地上の発進基地17に設置した例について説明したが、これに限らず特殊粘性剤槽41及びB液撹拌・貯留槽42をトンネル坑内4a内に設置し、特殊粘性剤槽41に図示しないポンプが設けられ、このポンプを駆動することによって特殊粘性剤槽41内の特殊粘性剤をB液撹拌・貯留槽42に供給するように構成してもよい。この場合、B液撹拌・貯留槽42の付近には、特殊粘性剤槽41が設置されている。
【0117】
また、特殊粘性剤槽41及びB液撹拌・貯留槽42をトンネル坑内4a内に設置した場合、トンネル坑内4a内には、図示しない台車がレール上を走行可能に設けられ、この台車に特殊粘性剤を収容した複数の缶体が積載されて、特殊粘性剤槽41内に上記台車にて輸送される複数の缶体に収容された特殊粘性剤が供給されるように構成してもよい。
【0118】
B液撹拌・貯留槽42でモル比が1.8以上2.6以下の水ガラスと特殊粘性剤とが混合されたB液は、第2の圧送手段としてのB液注入装置45によりB液ライン46を通してトンネル4の切羽付近に設置された混合部34に注入される。上記水ガラス配管44及びB液ライン46は、本実施形態の第2の配管を構成する。
【0119】
上記混合部34では、A液にB液が加えられて混合される。混合部34は、注入配管47を介して裏込め材注入管15に接続されている。この裏込め材注入管15は、テールプレート48に装着され、その先端部に裏込め部(テールボイド)14に向けて後方に開口された吐出口15aを有している。これら裏込め材注入管15、吐出口15a、及び注入配管47は、本実施形態の注入手段を構成する。
【0120】
<裏込め材の注入装置の作用説明>
次に、本実施形態の裏込め圧送装置20の作用を説明する。
【0121】
地上の発進基地17では、セメント貯留槽22内に貯留されたセメントと、水貯留槽23内に貯留された水と、特殊増粘剤貯留槽24内に貯留された特殊増粘剤と、流動化剤貯留槽25内に貯留された流動化剤と、安定剤貯留槽26内に貯留された安定剤とが混合装置27にそれぞれ供給されて混合される(第1の混合工程)。
【0122】
また、混合装置27内で混合されたA液は、貯留・撹拌装置28に送られて撹拌され、圧送ポンプ29を駆動することにより、A液配管30を通してトンネル坑内4a内のA液貯留・混合装置31に圧送された後、さらに混合されて貯留される(第1の混合工程)。そして、A液貯留・混合装置31に貯留されたA液は、A液注入装置32によってA液ライン33を通してトンネル4の切羽付近に設置された混合部34に注入される(第1の圧送工程)。
【0123】
また、地上の発進基地17では、水ガラス貯留槽40内に貯留されたモル比が1.8以上2.6以下の水ガラスと、特殊粘性剤槽41内に貯留された特殊粘性剤がB液撹拌・貯留槽42にそれぞれ供給され、このB液撹拌・貯留槽42で水ガラスと特殊粘性剤とが撹拌されて混合されて可塑剤(B液)が作成される。このB液は、圧送ポンプ43を駆動することに水ガラス配管44を通してトンネル坑内4a内に設置されたB液注入装置45からB液ライン46を通してトンネル4の切羽付近に設置された混合部34に注入される(第2の圧送工程)。この混合部34では、A液にB液が加えられて裏込め材14aが作成される(第2の混合工程)。この裏込め材14aが注入配管47を介して裏込め材注入管15の吐出口15aから裏込め部(テールボイド)14に注入される(注入工程)。
【0124】
上記のように本実施形態の裏込め材14は、セメント、水、増粘剤、流動化剤、及び安定剤を混合してセメントジェル(A液)を作成する上記第1の混合工程と、第1の混合工程によって混合されたA液を、第1の配管を通して前記裏込め部付近まで圧送する第1の圧送工程と、水ガラスを含む凝結剤(B液)を第2の配管を通して裏込め部付近まで圧送する第2の圧送工程と、裏込め部付近まで圧送されたA液と、B液を混合して裏込め材を作成する上記第2の混合工程と、第2の混合工程によって混合された裏込め材を裏込め部に注入する注入工程と、を有する裏込め材注入方法に用いることができる。
【0125】
また、本実施形態の裏込め材をポンプで圧送する配管の長さ(圧送距離)は、長距離のポンプ圧送が可能である観点から、0.5km以上が好ましく、1.0km以上が更に好ましく、そして、圧送する配管の閉塞を抑制する観点から2.0km以下が好ましく、1.5km以下がより好ましい。
【0126】
なお、本実施形態では、図示はしていないが混合部34を組み立てられたセグメントの裏込め注入孔に取り付け、直接裏込め部14に充填する場合もある。また、本実施形態では、裏込め材注入管15内に混合部34を設け、裏込め材注入管15内で混合するようにしてもよい。
【0127】
このように裏込め材14によれば、セメント、水、増粘剤、流動化剤及び安定剤を含み、増粘剤がセルロース系増粘剤及びアミンオキシド系増粘剤から選ばれる1種以上、水/セメント質量比(W/C)が40%以上100%以下、注入モルタルの流動性試験のPロート流下時間が11秒以上30秒以下であるセメントジェル(A液)と、SiO2/Na2Oのモル比が1.8以上2.6以下の水ガラスを含む凝結剤(B液)とを混合してなることから、硬化後の高強度化を達成しつつ、長距離のポンプ圧送が可能な裏込め材及びその注入方法を提供することが可能となる。
【0128】
より具体的には、本実施形態では、裏込め材14として必要とされる硬化後の高強度σ28=12.3N/mm2以上(表1-2参照)を達成しつつ、少なくとも1.5km程度の長距離のポンプ圧送が可能な裏込め材を提供することが可能となる。
【0129】
<実施例の説明>
以下、具体的な実施例を表1-1乃至表3-2に基づいて説明する。
【0130】
表中の成分は以下のものを用いた。
【0131】
水:水道水
セメント:高炉B種セメント(住友大阪セメント株式会社製)
流動化剤:マイテイ21HP(ポリカルボン酸系重合体、花王株式会社製)
安定剤:グルコン酸とスクロースの混合物
増粘剤A:オレイルジメチルアミンオキシド(1a)と、オレイン酸アミドプロピルジメチルアミンオキシド(1b)の混合物〔質量比1b/1a=75/25〕(アミンオキシド系増粘剤、特開2020-76022号公報の実施例9のレオロジー改質剤)
増粘剤B:メトローズ90SH-100000(セルロース系増粘剤、信越化学株式会社製)
増粘剤C:アルキルアリルスルホン酸塩とアルキルアンモニウム塩の混合物(ビスコトップ200LS-2、花王株式会社製)
1号水ガラス:市販品(製品規格モル比;1.8~2.2)
2号水ガラス:市販品(製品規格モル比;2.3~2.6)
3号水ガラス:市販品(製品規格モル比;2.8~3.3)
モル比は「SiO2モル/Na2Oモル」を示す
【0132】
実施例1
セメントジェル(A液)の長距離ポンプ圧送試験を行った。
具体的には、A液を三連プランジャーポンプ(出力22kW、最大吐出圧2.5MPa)、3インチ配管を用いて、配管長1.5kmのポンプ圧送を行い、圧送が可能かどうかを確認した。
【0133】
A液の配合は、W/C=40.7%、単位セメント量1200kg、流動化剤7.6kg〔C×0.63%(内比)〕、安定剤12.3kg〔C×1.0%(内比)〕、増粘剤B0.5kg〔W×0.1%(内比)〕を用いた。これらの材料をセメントに、流動化剤と増粘剤Bを含む水、安定剤の順にミキサーを用いて混合し、およそ8m3のA液を得た。ポンプ圧送試験は、調製直後のA液(Pロート流下時間13秒)及び調製3時間静置後のA液(Pロート流下時間27秒)を用いて行った。Pロート流下時間は、後述する方法により測定した。
【0134】
配管末端出口における目視観察により、Pロート流下時間が13秒及び27秒のいずれのA液においても配管長1.5kmのポンプ圧送が可能であることを確認した。また、Pロート流下時間が30秒を超えるとポンプ圧送が困難になる可能性があると推定された。
【0135】
ここで、配管長1.5kmにおける圧送ポンプの元押し圧力は、圧送開始直後で0.9MPaであり、3時間静置後の再開時縁切り圧力でも最大2.5MPaであり、その後の元押し圧力は1.2MPa程度であった。これらの実験データからも少なくとも配管長1.5kmの長距離圧送が可能なことを確認できた。
【0136】
また、別途、1号水ガラス114.3g、水21g及び増粘剤A4.2gからなる凝結剤(B液)を調製した。更にA液900mLとB液100mLとを混合して裏込め充填材を調製した。後述の方法で測定した裏込め充填材の28日強度は44.8N/mm2であった。
【0137】
以下の実施例では、以下に示す方法で評価した。
<評価>
(1)長距離ポンプ圧送性
実施例1のセメントジェル(A液)の長距離ポンプ圧送試験の結果と、Pロート流下時間が短いほどポンプ圧送性に優れることから、長距離ポンプ圧送性の評価についてPロート流下時間で以下の様に判断した。
【0138】
○:Pロート流下時間が30秒以下
×:Pロート流下時間が30秒を超える
Pロート流下時間は、土木学会 JSCE-F 521-1999 プレパックドコンクリートの注入モルタルの流動性試験方法(P漏斗による方法)に従って測定した。表中の「30<」はPロート流下時間が30秒を超えることを示す。
(2)ブリージング率
調製したA液について、土木学会 JSCE-F 522-2007 プレパックドコンクリートの注入モルタルのブリージング率及び膨張率試験方法(ポリエチレン袋方法)に従って、調製から3時間後のブリージング率を測定した。表中の「3<」は、ブリージング率が3%を超えることを示す。
(3)底面への堆積物
2リットルのプラスチック製容器に調整したA液を、バケツを傾けて別のプラスチック製バケツに移した際に、元のバケツの底面に残った付着物の量を目視及びスパチュラ(へら:さじ部分の大きさが40mmのもの)でこすり観察し、以下の基準で評価した。
【0139】
○:スパチュラで底面をこすった際に堆積物が観察されない
×:スパチュラで底面をこすった際に堆積物が観察される
(4)材令28日強度
調製した裏込め材をJSCE-F 506-2010に従い、直径50mm×高さ100mmの型枠に流し込み供試体を作成した。材令1日で脱型が可能であれば脱型を行い、その後水中養生を行った。材令28日になった段階で、JSCE-G 505-2010に従い、供試体の圧縮強度を測定した。
(5)ゲル性状
A液とB液を混合し裏込め材を調製した際に、裏込め材の性状を目視で観察し、以下の基準で評価した。
【0140】
○:裏込め材が均質である
×:裏込め材に不均一な部分がある
実施例1-1
【0141】
<A液の調製>
20リットルのプラスチック製バケツに入れたセメント8200gに、水4502.4gに流動化剤32.8gを混合した練水を加えてハンドミキサーで60秒間攪拌した。そこに安定剤を65.6g加え、更に60秒間攪拌した。その後、増粘剤Aを44.8g加え更に60秒混合してセメントジェルである7200mLのA液を得た。
【0142】
A液調製後にPロート流下時間を測定したところ、12.1秒であった。
【0143】
なお、Pロート流下時間は、作成したA液をプレパクトフローコーン(Pロート)に流し込み、土木学会
JSCE-F 521-1999(プレパックドコンクリートの注入モルタルの流動性試験方法(P漏斗による方法))に従って測定した。
【0144】
<B液の調製>
1リットルのプラスチック製容器に水ガラス114.3gと水21g加えてスパチュラで攪拌した。その後、A液と混合する直前に増粘剤A4.2gを加え、スパチュラで攪拌し、100mLのB液を得た。
【0145】
<裏込め材の調整方法>
900mLのA液に100mLのB液を流し込み(体積比A液/B液は90/10)、ハンドミキサーで10秒間攪拌して混合し、裏込め材を作成した。
【0146】
実施例1-2~実施例1-8及び比較例1-1~比較例1-4
表1-1、表1-2に示す増粘剤及び添加量の割合に変更した以外は、実施例1と同様にして、A液、B液及び裏込め材を調製した。
【0147】
なお、A液の増粘剤Aに代えて増粘剤Bを用いる場合は、水に流動化剤と増粘剤Bを混合した練水をセメントに加え60秒間混合後、安定剤を加えて更に120秒間混合してセメントジェルであるA液を調製した。
【0148】
比較例1-3は、増粘剤Aに代えて増粘剤Cを用いた。増粘剤Cの添加量は、便宜上、表1-1の増粘剤Aの欄に示した。
【0149】
【0150】
【表1-2】
表1-1において、*は増粘剤Cの量を示す(増粘剤A代えて増粘剤Cを使用)。
【0151】
表1-1、表1-2における各成分の配合量は、m3あたりになるように換算したものである。
【0152】
実施例1-1~実施例1-8は、長距離ポンプ圧送と低いブリージング率とを両立するのに対して、Pロート流下時間が11秒に満たない比較例1-1~比較例1-4では、長距離ポンプ圧送が可能であってもブリージング率が3を超えることが分かる。また、比較例1-1~比較例1-4では、底面の堆積物が生じたことも分かる。
【0153】
増粘剤として、増粘剤C(アルキルアリルスルホン酸塩とアルキルアンモニウム塩の混合物)を用いた比較例1-5は、ブリージング率を小さくしつつPロート流下時間を30秒以下に調整するのが困難であった。
【0154】
また、W/Cが32%の比較例1-6は、水が少なすぎて流動化剤を添加してもPロート流下時間を30秒以下に調整するのが困難であった。
【0155】
実施例2-1~実施例2-2及び比較例2-1~比較例2-3
表2に示す添加量で、実施例1と同様にして、A液、B液及び裏込め材を調製した。B液については水ガラスの種類とその量を変えて調製した。
【0156】
【0157】
【表2-2】
表2-1、表2-2における各成分の配合量は、m
3あたりになるように換算したものである。
【0158】
Na2OとSiO2のモル比が1.8~2.3の範囲にある1号又は2号水ガラスを用いる実施例2-1及び2-2では、均質な裏込め材が得られるのに対し、Na2OとSiO2のモル比が2.8~3.4の3号水ガラスを用いる比較例2-1~2-3では不均一な性状の裏込め材が得られたことが分かる。
【0159】
実施例3-1~実施例3-6
表3に示す添加量の割合に変更した以外は、実施例1と同様にして、A液を調製した。
【0160】
実施例3-7~実施例3-11
流動化剤、安定剤及び増粘剤の添加順を表3に示す順番にした以外は、実施例3-2と同様にしてA液を調製した。
【0161】
なお、増粘剤Aに代えて増粘剤Bを用いる場合は、増粘剤Bは第1工程で水と混合した。
【0162】
A液調製直後から8時間まで2時間毎にPロート流下時間の測定を行った。測定は調製直後のA液を2Lの容器に入れて置き、測定時間毎(2h、4h、6h、8h)に攪拌などの外力を加えず、そのままPロートへ流し込み測定を行った。
【0163】
【0164】
【表3-2】
表3-1、表3-2における各成分の配合量は、m
3あたりになるように換算したものである。
【0165】
実施例3-1~実施例3-4と、実施例3-5~実施例3-6とを対比すると、Pロート流下時間を確保する観点から、安定剤の添加量は、セメントに対して0.5質量%以上が好ましいことが分かる。また、実施例3-7~実施例3-9と、実施例3-10~実施例3-11とを対比すると、Pロート流下時間を確保する観点から、安定剤の混合はセメントと水を含むセメントスラリーを調製した後に混合することが好ましいことが分かる。
【0166】
<他の実施形態>
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。
【0167】
なお、本実施形態の裏込め材は、シールド掘進機1に設けられた裏込め注入管15から裏込め部14へ注入するのみならず、セグメントに設けられた図示しない裏込め注入孔から注入してもよいことは勿論である。
【0168】
また、上記実施形態では、裏込め材の主材であるA液を地上16に設置された発進基地17で製造し、圧送ポンプ29によりA液配管30を通してA液貯留・混合装置31まで直接圧送する例について説明したが、これに限らずA液配管30に設けた図示しない中継ポンプを経由して圧送するようにしてもよい。加えて、A液は、貯留タンクを有する搬送車で搬送するようにしてもよい。
【0169】
さらに、上記実施形態では、一例としてトンネルを築造するとき、トンネル4の裏込め部14に裏込め材を注入する例について説明したが、これに限定することなく、他の例としてシールド工法を用いて立坑等を築造するときの裏込め部14に裏込め材を注入する場合についても適用可能である。
【符号の説明】
【0170】
1 シールド掘進機
2 カッタヘッド回転駆動装置
3 カッタヘッド
4 トンネル(地下空間)
4a トンネル坑内
5 地盤
6 立坑
7 作泥土材添加管
8 切羽室
8a 泥土
9 排土装置
10 圧力計
11 セグメント覆工体
12 シールドジャッキ
13 シールド筒
14 裏込め部(テールボイド)
14a 裏込め材
15 裏込め材注入管(注入手段)
15a 吐出口(注入手段)
16 地上
17 発進基地
20 裏込め材圧送装置
21 セメントジェル製造設備
22 セメント貯留槽
23 水貯留槽
24 特殊増粘剤貯留槽
25 流動化剤貯留槽
26 安定剤貯留槽
27 混合装置(第1の混合手段)
28 貯留・撹拌装置
29 圧送ポンプ(第1の圧送手段)
30 A液配管(第1の配管)
31 A液貯留・混合装置(第1の混合手段)
32 A液注入装置(第1の圧送手段)
33 A液ライン(第1の配管)
34 混合部(第2の混合手段)
40 水ガラス貯留槽
41 特殊粘性剤槽
42 B液撹拌・貯留槽
43 撹拌圧送ポンプ
44 水ガラス配管
45 B液注入装置
46 B液ライン(第2の配管)
47 注入配管(注入手段)
48 テールプレート
【要約】
【課題】硬化後の高強度化を達成しつつ、長距離のポンプ圧送が可能なシールド工法用裏込め材の注入装置を提供する。
【解決手段】シールド工法用裏込め材の注入装置は、セメント、水、増粘剤、流動化剤及び安定剤を混合し、増粘剤がセルロース系増粘剤及びアミンオキシド系増粘剤から選ばれる1種以上、水/セメント比(W/C)が40%以上100%以下であり、Pロート流下時間が11秒以上30秒以下であるセメントジェル(A液)を作成する混合装置27、A液貯留混合装置31と、A液を裏込め部14付近まで圧送する圧送ポンプ29、A液注入装置32と、SiO
2/Na
2Oのモル比が1.8以上2.6以下の水ガラスである凝結剤(B液)を裏込め部14付近まで圧送するB液ライン46と、裏込め部14付近まで圧送されたA液とB液を混合して裏込め材14aを作成する混合部34と、裏込め材14aを裏込め部14に注入する裏込め材注入管15と、を備える。
【選択図】
図1