(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】コロナウイルスを含む抗ウイルス活性、抗かび活性、及び抗菌活性を有する油性塗料、ならびに、コロナウイルスを含むウイルス、かび、及び細菌の消毒方法
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20240801BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20240801BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20240801BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240801BHJP
C09D 183/04 20060101ALI20240801BHJP
A01N 59/16 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
C09D201/00
A01P3/00
A01P1/00
C09D7/63
C09D183/04
A01N59/16 A
(21)【出願番号】P 2023219837
(22)【出願日】2023-12-26
【審査請求日】2024-02-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515020636
【氏名又は名称】大木 彬
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大木 彬
【審査官】堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】特許第5947445(JP,B2)
【文献】特許第7073593(JP,B2)
【文献】特許第7361965(JP,B2)
【文献】国際公開第2016/047568(WO,A1)
【文献】特開2000-264803(JP,A)
【文献】特開平10-168349(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 1/00-65/48
A01P 1/00-23/00
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と、揮発性の有機溶媒と、添加剤と、を含む油性塗料であって、
前記添加剤が、水溶性の銀(1)イオン
と、フルボ酸
と、[ポリ-オキシエチレンジメチルイミノエチレンジメチルイミノエチレン]ジカチオン水溶液
と、
前記銀(1)イオン及び
前記[ポリ-オキシエチレンジメチルイミノエチレンジメチルイミノエチレン]ジカチオンを中和し
前記銀(1)イオンを減少させず且つ毒性のない1種以上のアニオン
と、直鎖状ポリエチレンイミン
と、を含む
成分を担持した粉体
を含み、
該粉体が、珪藻土のような微粉末や吸水性ポリマーからなる水分保持力の大きい粉体であり、
前記アニオンが、硝酸アニオン及び酢酸アニオンから選ばれる1以上であることを特徴とするコロナウイルスを含む抗ウイルス活性、抗かび活性、及び抗菌活性を有する油性塗料。
【請求項2】
前記油性塗料を、対象に塗布して形成した塗膜が、該塗膜の質量を100質量%とした場合に、銀
(1
)イオンを10
-7乃至10
-4質量%含み、前記[ポリ-オキシエチレンジメチルイミノエチレンジメチルイミノエチレン]ジカチオンを[ポリ-オキシエチレンジメチルイミノエチレンジメチルイミノエチレン]ジクロライドの質量に換算して0.2乃至10.0質量%含み、前記直鎖状ポリエチレンイミンを、0.2乃至2.0質量%含み、前記塗膜に含まれる銀(1)イオンのモル当量と前記フルボ酸水溶液のカルボキシル基当量との比が1:10乃至1:100の範囲内であることを特徴とする請求項
1に記載のコロナウイルスを含む抗ウイルス活性、抗かび活性、及び抗菌活性を有する油性塗料。
【請求項3】
前記樹脂が、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、及びポリエステル樹脂からなる群の合成高分子樹脂から選ばれる1以上であることを特徴とする請求項
1に記載のコロナウイルスを含む抗ウイルス活性、抗かび活性、及び抗菌活性を有する油性塗料。
【請求項4】
前記樹脂が、シリコーン樹脂であることを特徴とする請求項
1に記載のコロナウイルスを含む抗ウイルス活性、抗かび活性、及び抗菌活性を有する油性塗料。
【請求項5】
請求項1乃至
4のいずれか1項に記載の油性塗料を、対象(但しヒトは除く)に塗布して塗膜を形成させることを特徴とするコロナウイルスを含むウイルス感染症、かび感染症、及び細菌感染症の消毒方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロナウイルスを含む抗ウイルス活性、抗かび活性、及び抗菌活性を有する油性塗料に係り、より詳しくは、銀(1)イオンの外用殺菌剤としての優れた活性を維持しつつ、銀(1)イオンの不安定性を解消させて、コロナウイルスを含む抗ウイルス活性、抗かび活性、及び抗菌活性を有する油性塗料、ならびに、該油性塗料を用いるコロナウイルスを含むウイルス、かび、及び細菌の消毒方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コロナウイルス感染症の主要な伝染経路の一つとして、不特定多数のヒトが集まる場所において、コロナウイルスに感染した患者が、咳や会話で唾を飛ばしたり、汚染された手で器物、壁、床等の対象物に触れたりすることによって、対象物をコロナウイルスで汚染し、それによって感染を拡大させていくという感染経路がある。この感染経路には、多数のヒトが集まる場所であればどこでも感染を拡大させる可能性がある。
【0003】
また、コロナウイルスで汚染された対象物は、例えば、エタノール、過塩素酸塩溶液、あるいは中性洗剤等で拭き取ればウイルスは除去できるものの、拭き取る手作業が大変であった。そのうえ、用いる薬剤の抗ウイルス活性の持続時間は極めて短いものであって、対象物をコロナウイルスから消毒された状態に保つ消毒剤といえるものではなかった。したがって、コロナウイルスに長時間有効な消毒剤を開発することが求められていた。
【0004】
ここで、銀(1)イオンは、接触したウイルス、かび、及び細菌等を死滅させるという殺菌活性を有し、そのうえに、ヒトや家畜、犬、猫など、大型の動物に対しては毒性がないという、外用の殺菌剤としての優れた生物活性も有する。
【0005】
しかしながら、銀(1)イオンは、不安定で活性が持続しないという弱点を有する。すなわち、銀(1)イオンは多くの陰イオン、特に環境中に広く存在する塩素イオンと反応して不溶性の銀(1)塩を形成し、又は光還元されて銀微粒子になって抗微生物活性を失う。このために、銀(1)イオンは、一般的な公共施設の消毒には利用できないと考えられてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5947445号公報
【文献】特許第7073593号公報
【文献】特許第4026664号公報
【文献】特許第5314555号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】「ゲル濾過法によるフルボ酸の分画とそのキレート能について」、山田秀和、米林甲陽、服部共生、森田修二、昭和47年度日本土壌肥料学会大阪大会要旨集(1975年7月26日受理)。https://core.ac.uk./download/pdf/235429797.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、銀(1)イオンの、優れた抗微生物生物活性を維持しつつ、銀(1)イオンが多くの陰イオンと反応して不溶性の銀(1)塩に変化し、あるいは容易に光還元されて銀の微粒子になって活性を失うという欠点を解消させて、銀(1)イオンを活性成分とする、コロナウイルスを含む抗ウイルス活性、抗かび活性、及び抗菌活性を有する外用の油性塗料を提供することを第1の課題とする。
【0009】
また、本発明は、銀(1)イオンを活性成分とする油性塗料を用いることによって、水性塗料や2液エマルジョン塗料より容易に銀(1)イオンが分散された塗膜を形成できる、コロナウイルスを含むウイルス、かび、及び細菌を消毒する方法を提供することを第2の課題とする。
【0010】
さらに、本発明は、前記油性塗料を、コーティング剤として塗布した場合に丈夫で美しい塗面を形成し、また床材として用いたときも美しく丈夫で滑らない床面を形成する塗料を提供することを第3の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる課題を解決するための本発明の油性塗料は、樹脂と、揮発性の有機溶媒と、添加剤と、を含む油性塗料であって、前記添加剤が、水溶性の銀(1)イオン、フルボ酸、[ポリ-オキシエチレンジメチルイミノエチレンジメチルイミノエチレン]ジカチオン水溶液、該銀(1)イオン及び該[ポリ-オキシエチレンジメチルイミノエチレンジメチルイミノエチレン]ジカチオンを中和し該銀(1)イオンを減少させず且つ毒性のない1種以上のアニオン、並びに直鎖状ポリエチレンイミンを含む添加剤成分を担持する粉体を含むことを特徴とする。
【0012】
ここで、前記粉体が水分保持力の大きい粉体であることが好ましい。
【0013】
また、前記油性塗料は、銀(1)イオンを減少させず且つ毒性のない1種以上のアニオンが、硝酸アニオン又は酢酸アニオンから選ばれる1以上であり得る。
【0014】
そして、本発明の油性塗料は、対象に塗布して形成した塗膜が、該塗膜の質量を100質量%とした場合に、銀(1)イオンを10-7~10-4質量%含み、[ポリ-オキシエチレンジメチルイミノエチレンジメチルイミノエチレン]ジカチオンを[ポリ-オキシエチレンジメチルイミノエチレンジメチルイミノエチレン]ジクロライドの質量に換算して0.2~10.0質量%含み、直鎖状ポリエチレンイミンを、0.2~2.0質量%含み、塗膜に含まれる銀(1)イオンのモル当量とフルボ酸のカルボキシル基当量との比が1:10~1:100の範囲内であることが好ましい。
【0015】
さらに、前記油性塗料は、油相に含まれる樹脂が、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、及びポリエステル樹脂からなる群の合成高分子樹脂から選ばれる1以上であり得る。
【0016】
その中でも、本発明は油相に含まれる樹脂が、シリコーン樹脂であることがより好ましい。
【0017】
そしてまた、本発明のコロナウイルスを含むウイルス、かび、及び細菌の消毒方法は、請求項1~6のいずれか1項に記載の油性塗料を、対象(但しヒトは除く)に塗布して塗膜を形成させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の油性塗料は、添加剤として銀(1)イオンを含み、コロナウイルスを含むウイルス、かび、細菌等の広範囲の微生物に対して強い抗微生物活性を有する。
その上、大部分の抗微生物活性物質はウイルス、かび、細菌等の成長を阻止する作用をもつものの、そのまま放置すると細菌等が再成長することがあるが、銀(1)イオンは、接触したウイルス、かび、及び細菌等を死滅させるという殺微生物活性を有する。
【0019】
また、本発明の油性塗料は、添加剤として、銀(1)イオンを安定化させるフルボ酸と、銀(1)イオンが光還元されて銀微粒子となって失活するのを防ぐ[ポリ-オキシエチレンジメチルイミノエチレンジメチルイミノエチレン]ジカチオンと、銀(1)イオンを減少させることがなく且つ毒性のない硝酸アニオン又は酢酸アニオンと、銀(1)イオンを塗膜の表面に分散させる直鎖状ポリエチレンイミンと、を含有するので、該コーティング剤が対象に塗布されて形成された塗膜は、銀(1)イオンの強い殺菌活性を長時間にわたって持続し、外用消毒剤としての優れた活性を持続することができるという特徴を有する。
【0020】
さらに、本発明の油性塗料は、油相のコーティング成分として高分子樹脂塗料を含むので、丈夫で美しい塗膜を形成することができる。特に本発明は、塗膜用の高分子樹脂塗料原料としてシリコーン樹脂原料を用いる事によって、丈夫で美しく滑りにくい床面を形成できるという特徴を有する。
【0021】
さらに、本発明によるコロナウイルスを含むウイルス、かび、及び細菌の消毒方法は、油性塗料を対象(但しヒトは除く)にそのまま塗布し乾固させて塗膜を形成するという簡便な方法であり、2剤式エマルジョン塗料に比べて塗付が容易であり、仕上がりがきれいである。その上、消毒された効果が長期間持続するので、対象(但しヒトは除く)を容易に、きれいに、しかも長期間消毒することができるという特徴を有する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明について詳細に記載する。この記載は、本発明を説明するためのものであって、この記載によって本発明の技術範囲を限定するものではない。本発明は、本発明の技術的範囲から逸脱しない範囲内において多様に変更して実施することが可能である。
【0023】
本発明の油性塗料は、樹脂と揮発性の有機溶媒と、添加剤と、を含む油性の塗料であって、前記添加剤が、水溶性の銀(1)イオン、フルボ酸、[ポリ-オキシエチレンジメチルイミノエチレンジメチルイミノエチレン]ジカチオン、銀(1)イオン及び[ポリ-オキシエチレンジメチルイミノエチレンジメチルイミノエチレン]ジカチオンを中和し銀(1)イオンを減少させず且つ毒性のない1種以上のアニオン、並びに直鎖状ポリエチレンイミン(例えば特許文献3を参照)を含む添加剤成分を担持した粉体を含む添加剤であることを特徴とする。
ここで、粉体としては吸水量が大きい粉体が好ましい。粉体として、例えば珪藻土のような軽量な無機物の微粉末や吸水性ポリマーを挙げることができる。
【0024】
<銀(1)イオン>
本発明の実施形態に係る銀(1)イオンは、コロナウイルスを含むウイルス、かび、細菌等の広範囲の微生物に対して強い抗微生物活性を有する。そのうえ、大部分の抗生物質が、ウイルス、かび、細菌等の成長を阻害する作用のみをもつものであって、放置すると菌が再成長することがあるが、銀(1)イオンは、接触したウイルス、かび、及び細菌等を死滅させるという殺菌活性を有し、そのうえ、ヒトや家畜、犬、猫など、大型の動物に対しては毒性がないという、外用の殺菌剤としての優れた生物活性を有する。
【0025】
そのための、本発明の第1実施形態に係るコロナウイルスを含む抗ウイルス活性、抗かび活性、及び抗菌活性を有する油性塗料は、対象(但しヒトは除く)に塗布して形成した塗膜に含まれる油性塗料の質量を100質量%とした場合に、塗膜が、銀(1)イオンを10-7~10-4質量%含むことが好ましく、さらに、5×10-7~5×10-5質量%含むことがより好ましい。もし、銀(1)イオンが10-7質量%未満では、塗膜の抗菌、抗かび、抗ウイルス活性が十分でないことがあり、また、10-4質量%を超えて加えても組成物の活性は増強されないことがあり、経済的に好ましくない。
【0026】
なお、本発明の銀(1)イオンは、銀(1)の錯イオンも含むものとする。好ましい銀(1)の錯イオンの例としては、例えばトレンス試薬(Ag(NH3)2OH)を挙げることができるが、本発明の銀(1)錯イオンは、トレンス試薬に限られるものではない。
さらに、銀(1)イオンを還元した金属銀は、貴金属アレルギーのアレルゲンになりにくく、古来より食器として用いられてきた安全な金属である。
【0027】
<フルボ酸>
また、本発明の油性塗料は、フルボ酸(例えば非特許文献1を参照)を含有することが好ましい。
ここで、フルボ酸は、化学大辞典(共立出版社、1964年)によれば、腐植土からの抽出物として得られるフミン物質の1種であって、「土壌又は石炭質から稀アルカリでフミン酸を抽出し無機酸で沈殿させたとき、酸性の上澄み液に残り、上澄み液に黄色ないし橙黄色を与える物質であり、該上澄み液からフルボ酸水溶液として抽出して乾固すると水、エタノールに可溶な無定形物質」であるフルボ酸を与える。フルボ酸は単一の化学構造式を有するものではなく「原料及び採取条件により組成、分子量が広範囲に変化し一定しないものである」とのことである。
【0028】
そして、本発明において使用するフルボ酸は、例えば非特許文献1に記載された方法で製造した精製フルボ酸水溶液を凍結乾固して使用し得る。
【0029】
また、非特許文献1に記載された方法で得られる精製フルボ酸の含有量は、凍結乾燥前のフルボ酸水溶液のカルボキシル基当量から推定することが好ましい。
ここで、フルボ酸水溶液のカルボキシル基当量は、単位量のフルボ酸水溶液中に存在するカルボキシル基のモル当量数であって、例えば[モル数/単位量]で表わすことができる。また、カルボキシル基当量は、例えば中和滴定法や標準品との比較による分光光度法によっても求めることができる。
【0030】
特許文献4及び非特許文献1に記載されたフルボ酸の構造式は、推定構造式であるが、他の報告も参照して検討すると、フルボ酸の巨視的な構造は、共通の部分構造として、構造が強固で平面的な(縮合)ベンゼン環部分と、立体配座の変化の自由度が高い炭素鎖を有する疎水性部分と、多くのカルボキシル基及び水酸基を有する親水性部分と、を有する。このためフルボ酸は、油性の樹脂原料と水との界面に多く分布し、銀(1)イオンを安定化すると推定される。
【0031】
ここで、本実施例の消毒剤組成物に含まれるフルボ酸のカルボキシル基のモル当量と、銀(1)イオンのモル当量と、の比が、1:10~1:100の範囲であることが好ましい。もし、銀(1)イオンのモル濃度とフルボ酸水溶液のカルボキシル基当量との比が1:10未満であると、フルボ酸の量が不足して銀(1)イオンが不安定になり、また、その比が1:100を超えるように多量にフルボ酸を加えても、銀(1)イオンの安定性を更に増加させることはできず、経済的に好ましくない。
【0032】
<分散剤>
本発明のフローリング用抗菌性塗材は、塗膜に銀(1)イオンを高濃度且つ安定的に分散させる目的で、分散剤を含むことが好ましい。
分散剤としては、たとえば、特許文献1にポリビニルピロリドンが記載され、また、特許文献3には、直鎖状ポリエチレンイミン構造を含む高分子物質が記載されている。
【0033】
<銀(1)イオンの分布>
そこで、分散剤の効果を検討するために、本発明の銀(1)イオン、フルボ酸水溶液、[ポリ-オキシエチレンジメチルイミノエチレンジメチルイミノエチレン]ジカチオン、該銀(1)イオンを減少させず且つ毒性のない1種以上のアニオンを含む組成物に、更に分散剤として直鎖状ポリエチレンイミン又はポリビニルピロリドンを加えた油性塗料を塗布し固化させて塗膜を製造した。
【0034】
段落[0063]に記載したように、製造した塗膜を、研磨機を用いて表面と平行に研磨し、分取し、それを液体培地に懸濁し、液体培地希釈法によって各分画の抗菌力を比較したところ、分散剤を含まない比較例2の塗膜の削りカスは、弱い抗菌活性しか示さなかったが、分散剤として直鎖状ポリエチレンイミンを含む実施例1の塗膜の表面に近い分画の削りカスは強い抗菌活性を示し、実施例5のポリビニルピロリドンを含む塗膜の表面に近い分画の削りカスも中程度の抗菌活性を示した。これらの分散剤は、疎水性の高分子樹脂層の表層に銀(1)イオン高濃度に分散させて保持しているものと考え得る。
【0035】
<銀(1)イオンを減少させず且つ毒性のないアニオン>
一方、銀(1)イオンは、不安定で活性が持続しないという問題点を有する。すなわち、銀(1)イオンは、環境中に広く存在する塩素イオンを始めとする多くのアニオンと反応して不溶性の銀(1)塩になって失活する。このため、本発明の第1実施形態に係る塗料に含まれるアニオンは、銀(1)イオンを減少させず且つ毒性のない1種類以上のアニオンであることが好ましい。
【0036】
なかでも、本発明で好ましく用いることができるアニオンとして、硝酸イオンと酢酸イオンを挙げることができる。
【0037】
<[ポリ-オキシエチレンジメチルイミノエチレンジメチルイミノエチレン]ジカチオン>
さらにまた、銀(1)イオンは、直接光還元されて銀微粒子となり抗微生物活性を失うという弱点を有する。
ところが、公知の抗菌性の第4級アンモニウム化合物である[ポリ-オキシエチレンジメチルイミノエチレンジメチルイミノエチレン]ジカチオン(CAS No 31512-74-0)に、銀(1)イオンを安定化させ銀(1)イオンの優れた抗菌、抗かび、抗ウイルス作用を持続させるという効果が見出された。(例えば特許文献2を参照)。
【0038】
しかしながら、[ポリ-オキシエチレンジメチルイミノエチレンジメチルイミノエチレン]ジカチオンは、銀(1)イオンと不溶性の塩を形成するするジクロライド塩の形態で市販されており市販品を用いることができなかった。そのうえ、遊離の2水酸化[ポリ-オキシエチレンジメチルイミノエチレンジメチルイミノエチレン]は強アルカリ性で水と分離できない粘調な液体で取り扱いが困難なので、[ポリ-オキシエチレンジメチルイミノエチレンジメチルイミノエチレン]ジクロライドの形態で秤量した後に、クロルイオンを銀(1)イオンを減少させず且つ毒性のないアニオンに交換してから用いる事が好ましい。
【0039】
[樹脂]
さらに、本発明は、前記塗膜を形成する樹脂が、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、及びポリエステル樹脂からなる群の合成高分子樹脂のうちの1以上であり得る。
このうちで、高分子樹脂はシリコーン樹脂であることがより好ましい。
【0040】
≪製造例≫
以下に、本発明を、製造例及び実施例を挙げて説明する。この記載は本発明を説明するためのものであって、本発明の技術範囲を限定するものではない。
【0041】
<ポリ-オキシエチレンジメチルイミノエチレンジメチルイミノエチレン]ジアセテート水溶液>
(製造例1)
[ポリ-オキシエチレンジメチルイミノエチレンジメチルイミノエチレン]ジクロライド10.0kgを脱イオン水30.0kgに溶解した溶液を、酢酸塩型の塩基性イオン交換樹脂をイオン交換当量より多く充填したカラムを通過させ、脱イオン水で溶出して目的のジアセテート水溶液を含む溶出液50kgを捕集し、[ポリ-オキシエチレンジメチルイミノエチレンジメチルイミノエチレン]ジクロライドの質量に換算して20%の[ポリ-オキシエチレンジメチルイミノエチレンジメチルイミノエチレン]ジアセテートを含む水溶液50kgを得た。
【0042】
[フルボ酸]
(製造例2)
非特許文献1の記載に従って、広葉樹林の表層土を取り除き、乾燥し、細粉化して得た10.0kgの腐食土を、0.1M水酸化ナトリウム水溶液と0.1Mリン酸1水素2ナトリウム水溶液の等量混合液200kgに加えて50℃で24時間緩やかに撹拌したのちろ過した。ろ液に3M硫酸を加えてpH1とし、室温に24時間放置したのち、遠心分離してフミン酸画分を除去し、粗フルボ酸水溶液を得た。該粗フルボ酸水溶液を、20.0kgの活性炭を充填したカラムに通じてフルボ酸を吸着さ、活性炭カラムを水洗したのちに0.1M水酸化ナトリウム水溶液を用いて溶出し、溶出液をアンバーライトIRA400のカラム及びアンバーライトIR120のカラムを通過させて無機イオンを除去し、精製フルボ酸水溶液8.3kgを得た。得られた精製フルボ酸水溶液のカルボキシル基当量は、中和滴定法によって、45.2ミリカルボキシル基当量/kg溶液であった。
【0043】
[添加剤]
本発明の添加剤の配合順序及び配合方法は、本発明の消毒剤組成物の製造に支障がない限り特に制限されるものではない。
例えば、[ポリ-オキシエチレンジメチルイミノエチレンジメチルイミノエチレン]ジアセテート水溶液、製造例2で製造したフルボ酸水溶液を凍結乾燥して得たフルボ酸、直鎖状ポリエチレンイミン、及び銀(1)イオンを少量の脱イオン水に溶解した溶液を加え、必要であれば銀(1)イオンを減少させず且つ毒性のないアニオンを用いたpH調整剤を加えてpHを調整し、更に珪藻土の微粉末を加え、撹拌し粉末化して添加剤を得た。
【0044】
(製造例3)
製造例1に記載のジクロライドの質量に換算して20%の[ポリ-オキシエチレンジメチルイミノエチレンジメチルイミノエチレン]ジアセテートを含む水溶液10kgと、製造例2で製造したフルボ酸水溶液8.3kgを凍結乾燥して得た粉末と、直鎖状ポリエチレンイミン100gと、硝酸銀(1)1.57gを少量の水に溶かして加え、2M酢酸水溶液又は2M水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH6.5~7.5に調整し、撹拌して均一にした溶液に珪藻土の微粉末を加え、全体量を30kgとし、全体量を撹拌し粉末化して本発明の製造例3の添加剤を得た。
【0045】
また、本発明の添加剤は、更に界面活性剤、有機溶剤、増粘剤、酸化防止剤、光安定剤、消泡剤、香料等の香料添加物を含むことができる。更に本発明の油性塗料は、顔料を含むことができる。
【0046】
≪実施例≫
<油性塗料>
(実施例1)
シリコーン樹脂60質量部と顔料10質量部と実施例1で製造した添加剤30質量部とシリコーン樹脂用シンナー100質量部とを加えて撹拌して実施例1の油性塗料200質量部を製造した。
【0047】
≪比較例≫
(比較例1)
実施例1と同様に、但し硝酸銀を加えない添加剤を用いて油性塗料を製造した。
【0048】
(比較例2)
実施例1と同様に、但しフルボ酸を加えない添加剤を用いて比較例3の油性塗料を製造した。
【0049】
(比較例3)
実施例1と同様に、但し[ポリ-オキシエチレンジメチルイミノエチレンジメチルイミノエチレン]ジアセテートを加えない添加剤を用いて比較例3の油性塗料を製造した。
【0050】
(比較例4)
実施例1と同様に、但し直鎖状ポリエチレンイミンを加えない添加剤を用いて比較例4の油性塗料を製造した。
【0051】
≪試験例≫
<試験例1>
(抗菌性試験)
〇試験概要:本発明の実施例1及び比較例1~4に係る油性塗料の抗菌活性を測定した。
〇方法
ニュートリエントブロス液体培地に、黄色ブドウ状球菌又は大腸菌の菌液を接種し、30±1℃で振盪による前培養を18時間行なった培養液を、新鮮なニュートリエントブロス培地で100倍に希釈し、該希釈液100μgを96穴のマイクロプレートに入れた。
これに、本発明の実施例1及び比較例1~4に係る油性塗料を、第1穴の銀イオン濃度が10mg/kgになるように希釈し、順次に10段階の2倍希釈を行い、得た試験液各50μLを96穴のマイクロプレートの各穴に加えた。マイクロプレートを、31±1℃暗所の環境下に48時間(大腸菌)又は24時間(黄色ブドウ状菌)に静置して培養した。該培養液を寒天含有培地に接種して菌が増殖するか否かで、菌の増殖の有無を判断し、最小阻止濃度を測定した。
測定結果を表1に示す。
【0052】
【0053】
銀(1)イオンが活性を有する実施例1及び比較例2、3、4の油性塗料は強い抗菌性を示したが、銀(1)イオンを含まない比較例1の油性塗料は抗菌活性を示さなかった。
【0054】
<試験例2>
(光安定性試験)
〇試験概要
本発明の抗菌、抗かび、抗ウイルス性消毒剤組成物を、対象物の表面に塗布して使用する場合を想定して、実施例1及び比較例1~4の油性塗料の光照射下の抗菌作用の持続性を測定した。
試験菌:S. aureus IID 1677
・試験サンプル:本発明の実施例1及び比較例1~4の油性塗料
・試験条件:実施例1、比較例1~4で製造した油性塗料をガラス試験管に入れ、試験管を栓で密封し、蛍光灯照射下(400lx)、25℃にて放置し、所定時間ごとに各サンプルの最小阻止濃度(MIC)を試験例1に準じた方法で測定した。測定結果を表2に示す。
【0055】
【0056】
表2に示すように、本発明の実施例1に係る油性塗料は、照射下(蛍光灯、400lx)120時間まで抗菌活性を維持し、比較例4に係る直鎖状ポリエチレンイミンを含まない油性塗料も実施例1と同等の120時間の抗菌活性を維持した。しかし、銀(1)イオンを含まない比較例1の油性塗料は抗菌性を示さず、光安定剤である[ポリ-オキシエチレンジメチルイミノエチレンジメチルイミノエチレン]ジカチオンを含まない比較例3の油性塗料は24時間以内に失活し、フルボ酸を含まない比較例2の油性塗料も実施例1より安定性が劣った。
【0057】
<試験例3>
(抗かび性試験)
〇試験概要:抗かび性試験を、JIS Z 2911:2010の「かび抵抗性試験方
法」:塗料の試験 に準じて行った。
・ 試験菌:Trichophyton rubrum 2659(白癬菌)
・ 試験サンプル:本発明の実施例1及び比較例1~4のコーティング剤
・ 試験方法:試験片(30mm×30mm、1サンプル各6個)に対して試験液を10.0mL/m2の割合で噴霧し、暗所で1時間風乾したのちかびの混合胞子懸濁液を10.0mL/m2の割合で吹き付け、26±2℃、湿度95%~99%に保った恒温器の中に置き、無かび状態及び空気中暗所で4週間培養し、かび発育状態を判定した。結果を表3に示す。
【0058】
【0059】
表3に示すように、本発明の実施例1及び実施例1から直鎖状ポリエチレンイミンを除去しただけである比較例4の油性塗料は、抗かび活性を示したが、比較例1~3は抗かび性を示さなかった。
【0060】
<試験例4>
(抗コロナウイルス試験)
○試験機関:一般財団法人日本繊維製品技術センター 神戸試験センター
〇試験概要
・試験サンプル:実施例1の油性塗料
・対照サンプル:リン酸緩衝液
・試験条件:
試験ウイルス:Severe acute respiratory syndro
me coronavirus 2 (SARS-CoV-2)NI
ID分離株
IID分離株:JPN/TY/WK 521(国立感染症研究所より
分与された)
感染価測定法:プラーク測定法
【0061】
〇試験結果
試験結果を表4に示す。
・試験ウイルス懸濁液濃度:2.8×108PFU/mL
【表4】
【0062】
表4に示すように、実施例1の油性塗料は、SARS-CoV-2 NIID分離株;JPN/TY/WK-521 (コロナウイルス)を阻止することが示された。
【0063】
<試験例5>
(銀(1)イオン分布試験)
〇試験概要
固体の表面内に取り込まれた銀(1)イオンが、液体中に分布する細菌に抗菌効果を有するか否かを検証するための試験を行った。
・試験サンプル: 実施例1、比較例1、及び比較例5で製造した油性塗料を塗布した抗菌性床面
・試験条件:塗膜(厚さ0.5mm)を、研磨機を用いて表面と平行に0.2mmまで研
磨して製造した研磨粉の100mgを分取し、液体培地10mLに懸濁し緩
やかに1時間撹拌したのち、試験例3に準じた倍々希釈による液体培地希釈
法によって各分画の抗菌力を比較した。
・使用培地:標準液体培地、栄研化学製薬
・試験菌、: Bacillus subutilis natto(納豆から採取)
結果を表5に示す。
【0064】
【0065】
表5に示すように、比較例1の分散剤を含まない塗膜の削りカスは、弱い抗菌活性しか示さなかったが、実施例1の、分散剤として直鎖状ポリエチレンイミンを含む塗膜の削りカスは強い抗菌活性を示し、比較例5の直鎖状ポリエチレンイミンの代わりにポリビニルピロリドンを含む塗膜の削りカスも中程度の抗菌活性を示した。よって、これらの分散剤は、疎水性の高分子樹脂層の表層に偏在して銀(1)イオンを高濃度に保持しているものと考えられる。
【0066】
コロナウイルスを用いて、塗膜内に取り込まれた銀(1)イオンが、液体中に分散されたコロナウイルスに抗ウイルス効果を有するか否かを実際に検証する試験は、安全性の見地から行うことができない。しかしながら、本試験は、固体の塗膜内に取り込まれた銀(1)イオンが液体中に分際された細菌に抗菌効果を有すこと示した。
【要約】
【課題】銀(1)イオンの、生物活性を維持しつつ、銀(1)イオンの光不安定性及び多くの陰イオンと不溶性の塩を形成して抗微生物活性を失うという不安定性を解消させることによって、コロナウイルスを含む抗ウイルス活性を有する油性塗料、及びそれを用いるコロナウイルス感染症の予防方法を提供する。
【解決手段】樹脂と、揮発性の有機溶媒と、添加剤として水溶性の銀(1)イオン、フルボ酸、銀(1)イオンを安定化するジカチオン、銀(1)イオンを減少させないアニオン、及び直鎖状ポリエチレンイミンを担持する含水性の粉体と、を含む油性塗料を提供する。
【選択図】 なし