(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】セッターと敷板とからなる焼成治具
(51)【国際特許分類】
F27D 3/12 20060101AFI20240801BHJP
C04B 35/64 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
F27D3/12 E
C04B35/64
F27D3/12 S
(21)【出願番号】P 2024525079
(86)(22)【出願日】2023-11-02
(86)【国際出願番号】 JP2023039647
【審査請求日】2024-04-25
(31)【優先権主張番号】P 2022198350
(32)【優先日】2022-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有馬 峻
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】実開平2-062399(JP,U)
【文献】中国実用新案第203837497(CN,U)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0082325(KR,A)
【文献】特開2011-052909(JP,A)
【文献】特開2005-029462(JP,A)
【文献】国際公開第2016/009849(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/033375(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/008503(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/204061(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 3/12
C04B 35/64
C04B 33/32
F27D 5/00
B22F 3/10
H01G 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セッターと、このセッターが戴置される敷板とからなる焼成治具であって、
前記セッターは、前記敷板に対する近接面Sの一部に、長手方向に略均一な断面を備える1つまたは複数の線条をなす凸部を含み、
前記敷板は、前記セッターに対する近接面Pの一部に、長手方向に略均一な断面を備える1つまたは複数の条溝部を含み、
前記セッターが前記敷板に戴置されるとき、前記セッターの凸部の少なくとも1つが前記敷板の条溝部の少なくとも1つに収容されるように、前記凸部および前記条溝部が形成されており、
ここで、
前記セッターの近接面Sの輪郭内面積(ただし、前記セッターの前記敷板への戴置の際に、前記近接面Sを垂直視するとき、敷板の輪郭からはみ出る領域の面積を除く)をbとし、
前記セッターが前記敷板に戴置されるときに、前記条溝部に収容される前記凸部の投影面積(ただし、ここでの投影面積は、前記セッターの近接面Sに平行な面における当該凸部の最大断面積を指す)の合計をaとするとき、
0.5≦(a/b)*100≦90(式A)の関係を満たす、
焼成治具。
【請求項2】
前記セッターの凸部が略平行に2つ以上形成されており、かつ前記敷板の条溝部が略平行に2つ以上形成されており、前記セッターの前記敷板への戴置の際、前記凸部の過半数が前記敷板の条溝部に収容されるように前記凸部および前記条溝部が形成されている、請求項1に記載の焼成治具。
【請求項3】
前記セッターの凸部が3つ以上の場合にはこれらの凸部は略等間隔で形成されており、および/または、前記敷板の条溝部が3つ以上の場合にはこれらの条溝部は略等間隔で形成されている、請求項2に記載の焼成治具。
【請求項4】
前記セッターの凸部の少なくとも1つの長手方向に垂直な断面の前記近接面Sに平行な方向の最大幅員Wcと、前記セッターの前記敷板への戴置の際、この凸部が収容される前記条溝部の長手方向に垂直な断面の前記近接面Pに平行な方向の最大幅員Wpとの割合Wc/Wpが2以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の焼成治具。
【請求項5】
前記敷板の条溝部の平均深さ(前記条溝部の長手方向に垂直な断面の前記近接面Pから垂直方向の最低位置までの長さについて各条溝部の平均値を指す)Dg・avに対する、当該条溝部間の垂直最短距離(条溝部が3つ以上形成されている場合は、複数の垂直最短距離の平均値を指す)Igの比率Ig/Dg・avが0.05以上600以下である、請求項2または3に記載の焼成治具。
【請求項6】
前記セッターの凸部の少なくとも1つについて、その長手方向に垂直な断面の前記近接面Sに平行な方向の最大幅員Wcに対する、その長手方向の両端部間の長さLcのアスペクト比Lc/Wcが10以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の焼成治具。
【請求項7】
前記セッターの凸部の少なくとも1つの長手方向に垂直な断面の前記近接面Sに垂直な方向の最大高さHcに対する、前記セッターの前記敷板への戴置の際、この凸部が収容される前記条溝部の長手方向に垂直な断面の前記近接面Pから垂直方向の最低位置までの深さDgの比率Dg/Hcが0.1以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の焼成治具。
【請求項8】
前記セッターの凸部の少なくとも1つの長手方向に垂直な断面の前記近接面Sに垂直な方向の最大高さHcに対する、この凸部の長手方向に垂直な断面の前記近接面Sに平行な方向の最大幅員Wcの比率Wc/Hcが0.3以上4以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の焼成治具。
【請求項9】
前記セッターが、その少なくとも一部にメッシュ状セラミックスシートを含み、
このメッシュ状セラミックスシートは、所与の間隔で配置された各条が一方向に延伸された複数条の第1線条部で構成される第1線条部層、および、前記第1線条部の各条の上に接してこれと交差するように所与の間隔で配置された、各条が一方向に延伸された複数条の第2線条部で構成される第2線条部層を含み、前記第1線条部層と前記第2線条部層とが一体的に形成されているセラミックスシート焼結体であり、
前記第2線条部層の前記第1線条部層に対する接面が、前記セッターの近接面Sをなしており、前記第1線条部層を構成する第1線条部が、前記セッターの凸部をなしている、
請求項1~3のいずれか1項に記載の焼成治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セッターと敷板とからなる焼成治具に関する。本発明は、より具体的には、セッターとこのセッターが戴置される敷板とからなり、セッターの摺動が効果的に防止され得る焼成治具に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス製の電子部品やガラスを焼成するときには、被焼成物を棚板等とも称されるセラミックスシートのセッター上に載置して焼成を行うことが一般的である。このようなセッターを用いる焼成プロセスでは、多数の被焼成物を同時に焼成する高い生産効率が要求される。そのため、焼成用の敷板または焼成用ラック等と称される部材上にセッターが戴置された焼成治具を用い、複数のセッターを所定間隔で積層させた多段組みの形態で焼成が行われている。
【0003】
セラミックス製セッターに関する従来の技術としては、例えば、窒化アルミニウムを主成分とするセラミックスより作られ、且つ表裏を貫通する多数の穴を持つ多孔板からなる加熱成型加工用セッターや、被焼成物を載置する表面側および裏面側に少なくとも凹凸形状が付与されているとともに、開口部が形成されているセラミック焼成用窯道具板などが知られている。また、被焼成物の急速な加熱および冷却を行うときにセッターに割れ等が発生することを防止するための技術として、セラミックス製の複数の第1線条部と、これと交差するセラミックス製の複数の第2線条部とを有するセラミックス格子体であって、第1線条部と第2線条部とが特定の接触形態を有するものが開示されている(一例として特許文献1参照)。
【0004】
一方、敷板等と称される焼成治具として、例えば、中央側に中空部を有する枠体と、枠体の中空部に架け渡され、中空部で互いに交差する複数の架橋部とを備え、枠体と架橋部とが一体成型されることを特徴とする焼成治具が開示されている。この焼成治具によれば、セラミックス製品の焼成による製造の生産性が向上することが報告されている。
また、他の敷板等と称される焼成治具として、特許文献2には、被焼成物が積載される平板状セッターを配置するように構成された焼成用ラックであって、表面に平板状セッターが配置されるとともに開口部を有する枠体と、枠体の中心を通過して枠体間を伸びる柱部と、枠体と柱部によって囲まれた複数の囲繞部と、囲繞部の中心から枠体または柱部に向けて伸びる複数の副柱部とを備える焼成用ラックが開示されている。この焼成用ラックによれば、積載する平板状セッターの面内温度分布のムラを低減し得ることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-193274号公報
【文献】国際公開2021/033375号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このようなセラミックス製セッターと敷板(焼成用ラック)とは、
図1に例示するように、焼成の際に、各々の敷板の上にセッターを載せ、さらに各々のセッターの上に被焼成物が配された状態で多段組みとして積層されることが多い。
図1において、Aはセッターであり、Bは多段積みで積層された敷板であり、Cは被焼成物であり、各々の敷板上にセッターが戴置され、その上に被焼成物が配されることによって、多段積みの焼成治具であるMが焼成プロセスに供される。多段積みとして積層されたセラミックス製セッターと敷板との組み合わせを、その多段積みの状態のまま保管し、さらには搬送することを要する場合もある。そのような積層操作の際や、多段積みの状態のまま搬送する際に、僅かな斜度や振動(すなわち水平方向や上下方向の動作)によりセッターが敷板上で摺動すると、その上に配された被焼成物の安定性も維持されず、被焼成物の変形や破損、焼成の不具合、電子部品等の微細な被焼成物のセッターからの落下などにつながる恐れがある。そのため、セラミックス製セッターと敷板との組み合わせの積層操作時や、それらの多段積み状態での搬送時において、セッターが敷板上で容易に摺動しない良好なハンドリング性が求められている。しかし、そのような摺動を十分に防止し得る技術はこれまで開発されていなかった。
【0007】
従って、本発明が解決しようとする課題は、セラミックス製セッターと敷板との組み合わせからなる焼成治具であって、それらの積層操作時や、多段積み状態での搬送時において、僅かな斜度や振動(水平方向や上下方向の動作)によりセッターが敷板上で容易に摺動しないような良好なハンドリング性を有する焼成治具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究した結果、セッターと、このセッターが戴置される敷板とからなる焼成治具において、敷板に対するセッターの近接面の一部に1つまたは複数の線条をなす凸部を設けると共に、セッターに対する敷板の近接面の一部に1つまたは複数の条溝部を設け、セッターを敷板に戴置する際に、セッターに設けられた凸部の少なくとも1つが敷板に設けられた条溝部の少なくとも1つに収容されるようにしたうえで、敷板に対するセッターの近接面の輪郭内の面積と、敷板の条溝部に収容されるセッターの凸部の投影面積の合計との比率が所定の範囲内になるように設計することによって、凸部が条溝部により大きな程度で収容・係合されることになり、それによってセッターの敷板上での移動が効果的に制限され、セッターの敷板上での摺動を十分に防止することが可能になり、ひいてはセラミックス製品の焼成治具としてのハンドリング性が大幅に向上することを見出し、本発明に係る焼成治具を完成させた。
【0009】
従って、本発明の典型的な一態様は、以下のとおりである:
セッターと、このセッターが戴置される敷板とからなる焼成治具であって、
前記セッターは、前記敷板に対する近接面Sの一部に、長手方向に略均一な断面を備える1つまたは複数の線条をなす凸部を含み、
前記敷板は、前記セッターに対する近接面Pの一部に、長手方向に略均一な断面を備える1つまたは複数の条溝部を含み、
前記セッターが前記敷板に戴置されるとき、前記セッターの凸部の少なくとも1つが前記敷板の条溝部の少なくとも1つに収容されるように、前記凸部および前記条溝部が形成されており、
ここで、
前記セッターの近接面Sの輪郭内面積(ただし、前記セッターの前記敷板への戴置の際に、前記近接面Sを垂直視するとき、敷板の輪郭からはみ出る領域の面積を除く)をbとし、
前記セッターが前記敷板に戴置されるときに、前記条溝部に収容される前記凸部の投影面積(ただし、ここでの投影面積は、前記セッターの近接面Sに平行な面における当該凸部の最大断面積を指す)の合計をaとするとき、
0.5≦(a/b)*100≦90(式A)の関係を満たす、
焼成治具。
【0010】
なお、本願においてセッターの凸部が敷板の条溝部に「収容」されることとは、敷板のセッターに対する近接面Pを条溝部の長手方向に垂直な断面にて水平視するとき、条溝部の最上面(近接面Pに相当する仮想面)より下方にセッターの凸部の少なくとも一部が配置されている状態を指すものとする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るセッターとそれが戴置される敷板とからなる焼成治具によれば、敷板に対するセッターの近接面の輪郭内の面積と、敷板の条溝部に収容されるセッターの凸部の投影面積の合計との比率を所定の範囲内になるように調整することによって、凸部が条溝部により大きな程度で収容・係合されることになり、それによってセッターの敷板上での移動が効果的に制限され、セッターの敷板上での摺動を十分に防止することが可能になり、ひいてはセラミックス製品の焼成治具としてのハンドリング性が大幅に向上するという利点が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、セラミックス製セッターと敷板(焼成用ラック)との多段組みによる公知の積層形態を例示する図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る焼成治具のセッターと敷板との組み合わせを示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係る焼成治具のセッターと敷板との組み合わせにおいて、セッターの敷板に対する近接面Sの輪郭内面積b、および、セッターが敷板に戴置されるときに敷板の条溝部に収容される凸部の投影面積の合計aの関係を例説する図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態に係る焼成治具のセッターと敷板との組み合わせにおいて、セッターの凸部の最大幅員Wcと、敷板の条溝部の最大幅員Wpとの関係を例示する図面である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施形態に係る焼成治具のセッターと敷板との組み合わせにおいて、敷板の条溝部の平均深さDg・avと、条溝部間の垂直最短距離Igとの関係を例示する図面である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態に係る焼成治具のセッターと敷板との組み合わせにおいて、セッターの凸部の最大幅員Wcと、その長手方向の両端部間の長さLcとの関係(アスペクト比)を例示する図面である。
【
図7】
図7は、本発明の一実施形態に係る焼成治具のセッターと敷板との組み合わせにおいて、セッターの凸部の最大高さHcと、この凸部が収容される敷板の条溝部の深さDgとの関係を例示する図面である。
【
図8】
図8は、本発明の一実施形態に係る焼成治具のセッターと敷板との組み合わせにおいて、セッターの凸部の最大高さHcと、この凸部の最大幅員Wcとの関係を例示する図面である。
【
図9】
図9は、本発明の一実施形態による焼成治具におけるセッターのメッシュ状部位を例示する図である。
【
図10】
図10は、実施例におけるV字型の条溝部が設けられた敷板と凸部が設けられたセッターとの関係の概略を例示する図面である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る焼成治具を構成するセッターは、同じく焼成治具を構成する敷板に対する近接面Sの一部に、長手方向に略均一な断面を備える1つまたは複数の線条をなす凸部を含む。他方で、本発明に係る焼成治具を構成する敷板は、同じく焼成治具を構成するセッターに対する近接面Pの一部に、長手方向に略均一な断面を備える1つまたは複数の条溝部を含む。この焼成治具において、セッターが敷板に戴置されるとき、セッターの敷板上での摺動を防止するため、セッターの凸部の少なくとも1つが敷板の条溝部の少なくとも1つに収容されるように、凸部および条溝部が形成されている必要がある。
【0014】
図2に、本発明に係る焼成治具のセッターと敷板との組み合わせの一実施形態を示す。本発明による焼成治具のセッターおよび敷板のいずれも
図2の形態に限定されるわけではなく、これは単なる一例である。
図2において、1は焼成治具(組み合わせ)、2はセッター(例示としてのメッシュ状セラミックスシートのセッター)、2Sはセッター2の敷板に対する近接面(本図では紙面裏側)、3は敷板、3Pは敷板3のセッターに対する近接面、4は敷板の基材部、5は周壁部(リブ:任意選択で設けられる)、6はセッターの敷板に対する近接面2Sに設けられた凸部(紙面裏側のため図示せず)の少なくとも一部に対応する敷板の条溝部、HLは開口部(任意選択で設けられる)を示す。
【0015】
本例示における焼成治具1の一部材であるセッター2は、略一定間隔で一方向に延伸する第1線条部で構成された第1線条部層、および略一定間隔でこれと略直行して一方向に延伸する第2線条部で構成された第2線条部層からなるメッシュ状部位で全体的に形成されている、メッシュ状セラミックスシートのセッターである。焼成治具1の他方の部材である敷板3は、略矩形の板状体である基材部4と、その周囲全体に直立して形成された周壁部5(リブ)とを備えている。また図示していないが、敷板3の基材部4は、略矩形の四隅の各々に多段積み用の脚部を有していてよいし、そのような脚部を装着可能なように構成されていてもよい。周壁部5は、周囲全体を形成する構成として例示されているが、周囲の一部であってもよい。敷板3のセッターに対する近接面3Pは、セッター2の敷板に対する近接面2Sの輪郭(周縁)の全体が収容され得る平面をなすと同時に、周壁部5は、セッター2が敷板3の近接面3Pに戴置される際にセッター2の周縁部の全体が周壁部まで所定の間隔を有するように形成されている。本図で例示されているようにセッター2がメッシュ状セラミックスシートのセッターである場合、第2線条部層の第1線条部層に対する接面がセッターの近接面2S(紙面裏側)をなし、第1線条部層を構成する第1線条部がセッターの凸部をなす。この場合、セッター2の敷板に対する近接面2Sに形成された凸部は複数存在する。敷板3のセッターに対する近接面3Pには複数の条溝部6が設けられており、これらの条溝部6の位置はセッターの複数の凸部(第1線条部)の少なくとも一部の位置に対応しており、当該箇所において凸部が条溝部6に収容され得る。このように、セッター2が敷板3に戴置されるとき、セッター2の凸部の少なくとも1つが敷板3の条溝部の少なくとも1つに収容されるように凸部および条溝部が形成されることによって、摺動に対する防止・抑制性能が付与される。また、このような焼成治具1の多段積みでは、複数の脚部の間において、また周壁部5が周囲の一部に形成されている場合はそれらの間において、またさらには開口部HLが敷板の一部に形成されている場合はそこにおいて、通気性が確保され、効率的な焼成プロセスが実施され得る。
【0016】
図3は、本発明の一実施形態に係る焼成治具のセッターと敷板との組み合わせにつき、セッターを敷板に戴置した際のセッターの複数の凸部の長手方向に垂直な断面を例示している。
図3において、7はセッターの本体(基部)、7Sはセッターの敷板に対する近接面、8は近接面7Sの一部に形成された長手方向に略均一かつ略円形の断面を備える複数の線条をなす凸部、9は敷板の本体(基部)、9Pは敷板のセッターに対する近接面、10は近接面9Pの一部に形成された長手方向に略均一かつ略円形の断面を備える複数の条溝部を示している。
【0017】
図3において、図解の容易のため、凸部8および条溝部10がそれぞれ2つ形成されている場合(セッターと敷板との組み合わせからなる焼成治具の一部のみの概略)が示されている。しかし、凸部および条溝部の個数は、それぞれ1つ以上であればよく、その個数は特に限定されない。凸部の個数は、好ましくは2個以上であり、さらに好ましくは3個以上、5個以上、10個以上、20個以上、または30個以上であってよい。また同様に、条溝部の個数は、好ましくは2個以上であり、さらに好ましくは3個以上、5個以上、10個以上、20個以上、または30個以上であってよい。凸部および条溝部の個数は、それぞれ、製造効率の観点から100個以下であってよい。
図3において凸部の断面形状は略円形として例示されているが、これに限定されない。凸部の断面形状は、例えば、略半円形、略三角形、略矩形、略台形であってもよい。凸部の形成を容易にする観点から、凸部の断面形状は略円形であることが好ましい。セッターがメッシュ状セラミックスシートである場合、凸部の断面形状は略円形である。また、
図3において条溝部の断面形状は略半円形として例示されているが、これに限定されない。条溝部の断面形状は、例えば、略V字形(略三角形)、略矩形、略台形であってもよい。凸部および条溝部のこれらの断面形状にかかわらず、本明細書にて説明される要件を満たす限りは所望の効果が奏され得る。製造効率の観点からは、凸部の断面形状は略円形(特にメッシュ状セラミックスシートを使用する場合)であってよく、条溝部の断面形状は略V字形であってよい。
【0018】
図3においては、2つの凸部8が略平行に形成されており、かつ2つの条溝部10が略平行に形成されており、セッター7が敷板9に戴置された際に、2つの凸部8の両方がそれらに対応する位置に配された2つの条溝部10の各々に収容された状態となっている。このように、セッターの凸部および敷板の条溝部がそれぞれ略平行に2つまたは3つ以上形成されており、セッターの敷板への戴置の際、凸部の過半数、好ましくは凸部の70%以上、さらに好ましくは凸部の実質的に全てが敷板の条溝部に収容されるように構成されている。このような構成によって、セッターの敷板上での摺動をより効果的に防止し、ひいてはセラミックス製品の焼成治具としてのハンドリング性をさらに大幅に向上させることができる。
【0019】
図3においては、2つの凸部8が略平行に形成され、かつ2つの条溝部10が略平行に形成された例が示されているが、他の一実施形態において、セッターの凸部が3つ以上の場合にはこれらの凸部が略等間隔に形成され、および/または、敷板の条溝部が3つ以上の場合にはこれらの条溝部が略等間隔に形成されるように構成してよい。このような構成によって、セッターの凸部が敷板の条溝部に好首尾に収容される確率がさらに上がり、それによりセッターの敷板上での摺動防止性をより一層高めることができる。
【0020】
図3において、符号bは、セッター7の敷板9に対する近接面7Sの輪郭内の面積(ただし、セッター7の敷板9への戴置の際に、近接面7Sを垂直視するとき、敷板9の輪郭からはみ出る領域の面積を除くものとする)を示す。また、
図3において、符号a1は、セッター7が敷板9に戴置されるときに、図中、左側の条溝部10に収容される凸部8の投影面積(セッター7の近接面7Sに平行な面における当該凸部の最大断面積)を示す。符号a2は、同様にセッター7が敷板9に戴置されるときに、図中、右側の条溝部10に収容される凸部8の投影面積(セッター7の近接面7Sに平行な面における当該凸部の最大断面積)を示す。このとき符号aは、凸部8の投影面積a1およびa2の合計である。
図3では、図解の容易のための例示として凸部8および条溝部10がそれぞれ2つのみ描かれているが、条溝部10に収容される凸部8が3つ以上存在する場合は、それらの投影面積axの合計(Σax)がaとなる。
【0021】
ここで、凸部8の投影面積の合計aとセッター7の近接面7Sの輪郭内面積bとは以下の式Aの関係が満たされる。
0.5≦(a/b)*100≦90(式A)
この式Aの関係が満たされる本発明の焼成治具によれば、セッターの凸部が敷板の条溝部にしっかりと安定して収容・係合され、それによってセッターの敷板上での移動が効果的に制限され、セッターの敷板上での摺動を十分に防止することができると共に、凸部の配置設計の容易性も担保され得る。また、これらの効果に伴ってセラミックス製品の焼成治具としてのハンドリング性を大幅に向上させることができる。
【0022】
式Aの関係が満たされる範囲内の一実施形態において、上記観点から、1≦(a/b)*100≦90であることが好ましく、5≦(a/b)*100≦90であることがさらに好ましく、10≦(a/b)*100≦90であることがさらにより好ましく、20≦(a/b)*100≦90であることが一層好ましく、30≦(a/b)*100≦90であることがより一層好ましく、40≦(a/b)*100≦90であることがさらにより一層好ましく、50≦(a/b)*100≦90であることがなお一層好ましく、60≦(a/b)*100≦90であることがさらにより一層好ましく、70≦(a/b)*100≦90であることが最も好ましい。
式Aの関係が満たされる範囲内の別の実施形態において、上記観点から、1≦(a/b)*100≦85であることが好ましく、5≦(a/b)*100≦85であることがさらに好ましく、10≦(a/b)*100≦85であることがさらにより好ましく、20≦(a/b)*100≦85であることが一層好ましく、30≦(a/b)*100≦85であることがより一層好ましく、40≦(a/b)*100≦85であることがさらにより一層好ましく、50≦(a/b)*100≦85であることがなお一層好ましく、60≦(a/b)*100≦85であることがさらにより一層好ましく、70≦(a/b)*100≦85であることが最も好ましい。
式Aの関係が満たされる範囲内のさらに別の実施形態において、上記観点から、1≦(a/b)*100≦80であることが好ましく、5≦(a/b)*100≦80であることがさらに好ましく、10≦(a/b)*100≦80であることがさらにより好ましく、20≦(a/b)*100≦80であることが一層好ましく、30≦(a/b)*100≦80であることがより一層好ましく、40≦(a/b)*100≦80であることがさらにより一層好ましく、50≦(a/b)*100≦80であることがなお一層好ましく、60≦(a/b)*100≦80であることがさらにより一層好ましく、70≦(a/b)*100≦80であることが最も好ましい。
【0023】
図4は、本発明の一実施形態に係る焼成治具のセッターと敷板との組み合わせにつき、セッターを敷板に戴置した際の、セッターの凸部の最大幅員Wcと敷板の条溝部の最大幅員Wpとの関係を例示している。
図4において、Wcは、セッター7の凸部8の長手方向に垂直な断面の、セッター7の敷板9に対する近接面7Sに平行な方向の最大幅員を示す。また、Wpは、セッター7の敷板9への戴置の際、この凸部8が収容される条溝部10の長手方向に垂直な断面の、敷板9のセッター7に対する近接面9Pに平行な方向の最大幅員を示す。
図4において、凸部の断面形状は略円形として例示され、条溝部の断面形状は略半円形として例示されているが、
図3について説明したのと同様にこれらの形状に限定されるわけではない。
【0024】
ここで、セッター7の凸部8の少なくとも1つの長手方向に垂直な断面の近接面7Sに平行な方向の最大幅員Wcと、セッター7の敷板9への戴置の際、この凸部8が収容される条溝部10の長手方向に垂直な断面の近接面9Pに平行な方向の最大幅員Wpとの割合Wc/Wpは、(0超であって)2以下であることが好ましい。
この割合Wc/Wpが2以下である本発明の一実施形態に係る焼成治具によれば、セッターの凸部が敷板の条溝部の底部に向かって深く収容・係合され、それによってセッターの敷板上での移動が効果的に制限され、セッターの敷板上での摺動を十分に防止することができる。また、これらの効果に伴ってセラミックス製品の焼成治具としてのハンドリング性を大幅に向上させることができる。
【0025】
割合Wc/Wpが(0超であって)2以下である関係が満たされる範囲内の一実施形態において、上記観点から、Wc/Wpは、(0超であって)1.8以下であることが好ましく、1.6以下であることがさらに好ましく、1.4以下であることがさらにより好ましく、1.2以下であることが一層好ましく、1.0以下であることがより一層好ましく、0.9以下であることが最も好ましい。
割合Wc/Wpが(0超であって)2以下である関係が満たされる範囲内の別の実施形態において、上記観点から、Wc/Wpは、0.2以上1.8以下であることが好ましく、0.2以上1.6以下であることがさらに好ましく、0.2以上1.4以下であることがさらにより好ましく、0.2以上1.2以下であることが一層好ましく、0.2以上1.0以下であることがより一層好ましく、0.2以上0.9以下であることが最も好ましい。
割合Wc/Wpが(0超であって)2以下である関係が満たされる範囲内のさらに別の実施形態において、上記観点から、Wc/Wpは、0.4以上1.8以下であることが好ましく、0.4以上1.6以下であることがさらに好ましく、0.4以上1.4以下であることがさらにより好ましく、0.4以上1.2以下であることが一層好ましく、0.4以上1.0以下であることがより一層好ましく、0.4以上0.9以下であることが最も好ましい。
【0026】
図5は、本発明の一実施形態に係る焼成治具のセッターと敷板との組み合わせにつき、セッターを敷板に戴置した際の、敷板の条溝部の平均深さDg・avと、条溝部間の垂直最短距離Igとの関係を例示している。
図5においては、2つの凸部8が略平行に形成され、かつ2つの凸部8がそれぞれ収容される2つの条溝部10が略平行に形成された例が示されている。他の実施形態においては、これに加えて、3つ以上の凸部8が略平行かつ略等間隔に形成され、かつ3つ以上の凸部8がそれぞれ収容される3つ以上の条溝部10が略平行かつ略等間隔に形成されるように構成してよい。
図5において、Dg・avは、敷板9の条溝部10の平均深さ(条溝部10の長手方向に垂直な断面の、敷板9のセッター7に対する近接面9Pから垂直方向の最低位置までの長さについて各条溝部10の平均値)を示す。ここでの平均値は、敷板9に設けられた条溝部10の数が10個までの場合はそれら全ての平均値を指し、敷板9に設けられた条溝部10の数が11個以上の場合はそれらのうちの任意の10個の平均値を指す。また、
図5において、Igは、敷板9の条溝部10間の垂直最短距離(条溝部が3つ以上形成されている場合は、複数の垂直最短距離の平均値)を示す。ここでの平均値は、条溝部10間の垂直最短距離の数が9個まで(条溝部10の数が10個まで)の場合はそれら全ての平均値を指し、条溝部10間の垂直最短距離の数が10個以上(条溝部10の数が11個以上)の場合はそれらのうちの任意の9個の平均値を指す。
図5において、凸部の断面形状は略円形として例示され、条溝部の断面形状は略半円形として例示されているが、
図3および
図4について説明したのと同様にこれらの形状に限定されるわけではない。
【0027】
ここで、敷板9の条溝部10の平均深さ(条溝部10の長手方向に垂直な断面の近接面9Pから垂直方向の最低位置までの長さについて各条溝部10の平均値を指す)Dg・avに対する、条溝部10間の垂直最短距離(条溝部10が3つ以上形成されている場合は、複数の垂直最短距離の平均値を指す)Igの比率Ig/Dg・avは、0.05以上600以下であることが好ましい。
この比率Ig/Dg・avが0.05以上600以下である本発明の一実施形態に係る焼成治具によれば、セッターの凸部が敷板の条溝部に対して、密な係合箇所を有する形で深く安定して収容・係合され、それによってセッターの敷板上での移動が効果的に制限され、セッターの敷板上での摺動を十分に防止することができる。また、これらの効果に伴ってセラミックス製品の焼成治具としてのハンドリング性を大幅に向上させることができる。
【0028】
比率Ig/Dg・avが0.05以上600以下である関係が満たされる範囲内の一実施形態において、上記観点から、Ig/Dg・avは、0.05以上500以下であることが好ましく、0.05以上400以下であることがより好ましく、0.05以上300以下であることがさらに好ましく、0.05以上200以下であることがさらにより好ましく、0.05以上100以下であることが一層好ましく、0.05以上50以下であることがより一層好ましく、0.05以上10以下であることがなおより一層好ましく、0.05以上5以下であることがさらにより一層好ましく、0.05以上2以下であることが最も好ましい。
比率Ig/Dg・avが0.05以上600以下である関係が満たされる範囲内の別の実施形態において、上記観点から、Ig/Dg・avは、0.1以上500以下であることが好ましく、0.1以上400以下であることがより好ましく、0.1以上300以下であることがさらに好ましく、0.1以上200以下であることがさらにより好ましく、0.1以上100以下であることが一層好ましく、0.1以上50以下であることがより一層好ましく、0.1以上10以下であることがなおより一層好ましく、0.1以上5以下であることがさらにより一層好ましく、0.1以上2以下であることが最も好ましい。
【0029】
図6は、本発明の一実施形態に係る焼成治具のセッターと敷板との組み合わせにつき、セッターの凸部の最大幅員Wcと、その長手方向の両端部間の長さLcとの関係(アスペクト比)を例示している。
図6は、セッター7の敷板9に対する近接面7S上に1つまたは複数個設けられた凸部8(メッシュ状セラミックシートの場合の線条部)のうちの1つを抽出し、近接面7Sに対して垂直視した概略図である。
図6において、Wcは、セッター7の凸部8の長手方向に垂直な断面の、セッター7の敷板9に対する近接面7Sに平行な方向の最大幅員を示す。また、Lcは、その凸部8の長手方向の両端部間の長さを示す。
【0030】
ここで、セッター7の凸部8の少なくとも1つについて、その長手方向に垂直な断面の近接面7Sに平行な方向の最大幅員Wcに対する、その長手方向の両端部間の長さLcのアスペクト比Lc/Wcは、10以上であることが好ましい。
このアスペクト比Lc/Wcが10以上である本発明の一実施形態に係る焼成治具によれば、セッターの凸部が敷板の条溝部に対して、より長い距離の連続的な係合箇所を有する形で安定して収容・係合され、それによってセッターの敷板上での移動が効果的に制限され、セッターの敷板上での摺動を十分に防止することができる。また、これらの効果に伴ってセラミックス製品の焼成治具としてのハンドリング性を大幅に向上させることができる。
【0031】
アスペクト比Lc/Wcが10以上である関係が満たされる範囲内の一実施形態において、上記観点から、Lc/Wcは、11以上であることが好ましく、12以上であることがより好ましく、13以上であることがさらに好ましく、20以上であることがさらにより好ましく、30以上であることがなおより好ましく、50以上であることが一層好ましく、70以上であることがより一層好ましく、100以上であることが最も好ましい。
【0032】
図7は、本発明の一実施形態に係る焼成治具のセッターと敷板との組み合わせにつき、セッターを敷板に戴置した際の、セッターの凸部の最大高さHcと、この凸部が収容される敷板の条溝部の深さDgとの関係を例示している。
図7において、Hcは、セッター7の凸部8の長手方向に垂直な断面の、セッター7の敷板9に対する近接面7Sに垂直な方向の最大高さを示す。また、Dgは、セッター7の敷板9への戴置の際、この凸部8が収容される条溝部10の長手方向に垂直な断面の、敷板9のセッター7に対する近接面9Pから垂直方向の最低位置までの深さを示す。
図7において、凸部の断面形状は略円形として例示され、条溝部の断面形状は略半円形として例示されているが、
図3~5について説明したのと同様にこれらの形状に限定されるわけではない。
【0033】
ここで、セッター7の凸部8の少なくとも1つの長手方向に垂直な断面の近接面7Sに垂直な方向の最大高さHcに対する、セッター7の敷板9への戴置の際、この凸部8が収容される条溝部10の長手方向に垂直な断面の近接面9Pから垂直方向の最低位置までの深さDgの比率Dg/Hcは、0.1以上であることが好ましい。
この比率Dg/Hcが0.1以上である本発明の一実施形態に係る焼成治具によれば、セッターの凸部が敷板の条溝部の底部に向かってより深く安定して収容・係合され、それによってセッターの敷板上での運動・移動に対する抵抗性がより大きくなって、セッターの移動が効果的に制限され、セッターの敷板上での摺動を十分に防止することができる。また、これらの効果に伴ってセラミックス製品の焼成治具としてのハンドリング性を大幅に向上させることができる。
【0034】
比率Dg/Hcが0.1以上である関係が満たされる範囲内の一実施形態において、上記観点から、Dg/Hcは、0.15以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましく、0.25以上であることがさらに好ましく、0.3以上であることがさらにより好ましく、0.35以上であることがなおより好ましく、0.4以上であることが一層好ましく、0.45以上であることがより一層好ましく、0.50以上であることがさらにより一層好ましく、0.55以上であることがなおより一層好ましく、0.60以上であることが最も好ましい。
【0035】
図8は、本発明の一実施形態に係る焼成治具のセッターと敷板との組み合わせにつき、セッターの凸部の最大高さHcと、この凸部の最大幅員Wcとの関係を例示している。
図8は、セッター7の敷板9に対する近接面7S上に1つまたは複数個設けられた凸部8のうちの1つを抽出し、凸部8の長手方向に対して垂直視した概略図である。
図8において、Hcは、セッター7の凸部8の長手方向に垂直な断面の、セッター7の敷板9に対する近接面7Sに垂直な方向の最大高さである。また、Wcは、この凸部8の長手方向に垂直な断面の近接面7Sに平行な方向の最大幅員を示す。
【0036】
ここで、セッター7の凸部8の少なくとも1つの長手方向に垂直な断面の近接面7Sに垂直な方向の最大高さHcに対する、この凸部8の長手方向に垂直な断面の近接面7Sに平行な方向の最大幅員Wcの比率Wc/Hcは0.3以上4以下であることが好ましい。
この比率Wc/Hcが0.3以上4以下である本発明の一実施形態に係る焼成治具によれば、敷板の条溝部の断面形状にかかわらず、またはその断面形状により良く対応して、セッターの凸部が敷板の条溝部に対して深く安定した収容・係合状態を形成し易くなり、それによってセッターの敷板上での移動が効果的に制限され、セッターの敷板上での摺動を十分に防止することができる。また、これらの効果に伴ってセラミックス製品の焼成治具としてのハンドリング性を大幅に向上させることができる。
【0037】
比率Wc/Hcが0.3以上4以下である関係が満たされる範囲内の一実施形態において、上記観点から、Wc/Hcは、0.4以上4以下であることが好ましく、0.5以上4以下であることがより好ましく、0.6以上4以下であることがさらにより好ましく、0.7以上4以下であることが一層好ましく、0.8以上4以下であることがより一層好ましく、0.9以上4以下であることがさらにより一層好ましく、1以上4以下であることが最も好ましい。
比率Wc/Hcが0.3以上4以下である関係が満たされる範囲内の別の実施形態において、上記観点から、Wc/Hcは、0.4以上3以下であることが好ましく、0.5以上3以下であることがより好ましく、0.6以上3以下であることがさらにより好ましく、0.7以上3以下であることが一層好ましく、0.8以上3以下であることがより一層好ましく、0.9以上3以下であることがさらにより一層好ましく、1以上3以下であることが最も好ましい。
比率Wc/Hcが0.3以上4以下である関係が満たされる範囲内のさらなる別の実施形態において、上記観点から、Wc/Hcは、0.4以上2以下であることが好ましく、0.5以上2以下であることがより好ましく、0.6以上2以下であることがさらにより好ましく、0.7以上2以下であることが一層好ましく、0.8以上2以下であることがより一層好ましく、0.9以上2以下であることがさらにより一層好ましく、1以上2以下であることが最も好ましい。
【0038】
好ましい一実施形態において、本発明に係る焼成治具において敷板と組み合わせられるセッターは、少なくとも一部にメッシュ状部位を含むセラミックスシートであり、このメッシュ状部位は、所与の間隔で配置された各条が一方向に延伸された複数条の第1線条部で構成される第1線条部層、および、第1線条部の各条の上に接してこれと交差するように所与の間隔で配置された、各条が一方向に延伸された複数条の第2線条部で構成される第2線条部層を含み、第1線条部層と第2線条部層とが一体的に形成された部位であるセラミックスシートであってよい。セッターがメッシュ状部位を一部に含む場合、セッターのメッシュ状部位以外の部位は、いかなる公知のセッターの構造が採用されてもよい。一実施形態において、全体が一体的に形成されたメッシュ状のセラミックスシート焼結体であるセッターを用いてもよい。
本発明に係る焼成治具の一実施形態において、セッター(の全部または一部)がメッシュ状セラミックスシートを含むセッターである場合、第2線条部層の第1線条部層に対する接面がセッターの敷板に対する近接面をなし、第1線条部層を構成する第1線条部がセッターの凸部をなす。
【0039】
ここで、第1線条部層と第2線条部層とが「一体的に形成された」メッシュ状の焼結体であることは、第1線条部層を構成する線条群と第2線条部層を構成する線条群とが、それらの接触箇所にて一体的な構造を成すように焼成・連結されて、容易に分離できないように形成されていることを意味する。一実施形態において、第1線条部層と第2線条部層とは、第1線条部層を構成する線条群と第2線条部層を構成する線条群とが、それらの接触箇所にて一体的な構造を成すように焼成・連結されて、容易に分離できないように形成されており、かつ、第1線条部層と第2線条部層とが、あるいは各線条部層の異なる部分同士が単一の組成から形成されていてよい。他の一実施形態において、第1線条部層と第2線条部層とは、第1線条部層を構成する線条群と第2線条部層を構成する線条群とが、それらの接触箇所にて一体的な構造を成すように焼成・連結されて、容易に分離できないように形成されており、かつ、第1線条部層と第2線条部層とが、あるいは各線条部層の異なる部分同士が異なる複数の組成から形成されていてよい。
【0040】
図9に、セッターのメッシュ状部位の一実施形態が例示されている。
図9において、メッシュ状部位11は、略一定の間隔で配置された各条が一方向に延伸された複数条の第1線条部12で構成される第1線条部層、およびこの第1線条部12の各条の上に接してこれを交差するように略一定の間隔で配置された、各条が一方向に延伸された複数条の第2線条部13で構成される第2線条部層を含む。両線条部12、13の交差角度は適宜設定され得るが、例えば第1線条部12に対して第2線条部13の交差角度を90度とすることができる。あるいは、第1線条部12に対する第2線条部13の交差角度を90度±10度の範囲で変更させることもできる。第1線条部12の断面形状は、特に限定されないが、図示されているように略円形または略楕円形であってよい。また、第2線条部13の断面形状は、特に限定されないが、図示されているように上部にて直線をなし、下部にてこの直線の両端部を起点とする曲線(すなわち、略円形または略楕円形の一部が直線状に切断された形状)をなして、第2線条部13全体の上面(すなわち第2線条部層の上面)が1つの平坦面を形成していてよい。第1線条部12および第2線条部13の断面形状は、上述された略円形、略楕円形以外に、略矩形等の略多角形、あるいはこの一部が直線状に切断された形状を採り得る。
【0041】
別の実施形態において、セッターのメッシュ状部位は、第1線条部および第2線条部を有することに加えて、一方向に向けて延びるセラミックス製の複数の第3線条部を更に有してよい(これによって第3線条部層が構成されていてよい)。このとき、本実施形態においては第3線条部が延びる方向は、第1線条部が延びる方向と同方向であってもよく、第1線条部が延びる方向に対して、斜め方向(例えば-45°よりも大きく且つ45°よりも小さい方向)に傾斜していてもよい。そして、このように第3の線条部が形成される場合、第2線条部の断面形状は略円形または略楕円形であってよく、第3線条部の断面形状は、上部にて直線をなし、下部にてこの直線の両端部を起点とする曲線(すなわち、略円形または略楕円形の一部が直線状に切断された形状)をなして、第3線条部全体の上面(すなわち第3線条部層の上面)が1つの平坦面を形成していてよい。
これと同様にして、更に第4線条部、あるいは更にそれ以降の線条部を形成することもできる。
【0042】
好ましい一実施形態において、全体が単一種の材料で一体的に形成されたメッシュ状のセラミックスシート焼結体であるセッターを用いてよい。このようなセッターを用いることにより、セラミックスシート全体の強度が非常に高くなり、またセッターの効率的な製造にもつながる。また、好ましい一実施形態において、メッシュ状部位がセラミックスシートの一部を占める場合、メッシュ状部位とメッシュ状部位以外の部位とは一体的に形成されたセラミックスシート燒結体であってよい。メッシュ状部位とメッシュ状部位以外の部位とが一体的に形成された燒結体を構成する場合、両者の原料粉を同じにすることにより、セラミックスシート全体の強度が高められると共に、焼成時の加熱・冷却の熱履歴(膨張・収縮の繰り返し)による接合強度の低下が防止され得る。
【0043】
セラミックスシートのメッシュ状部位は、一実施形態において、第1線条部と第2線条部とのいずれの交差部にても、第1線条部の断面が円形または楕円形の形状を有しており、第2線条部の断面が直線部と該直線部の両端部を端部とする凸形の曲線部とから構成される形状(略弓形状)を有しており、しかも、交差部の縦断面視で、第2線条部における凸形の曲線部の頂部と第1線条部における円形または楕円形における上向きに凸の頂部のみが接触している構成(いわゆる点接触の構成)を有することができる。
【0044】
またセラミックスシートのメッシュ状部位は、他の一実施形態において、第1線条部の断面が、第1線条部と第2線条部との交差部以外の部位にて、円形または楕円形の形状を有しており、第2線条部の断面が、交差部以外の部位にて、直線部と、該直線部の両端部を端部とする凸形の曲線部とから構成される形状(略弓形状)を有しており、かつ第1線条部と第2線条部とが、それぞれ一点のみではなく、面で接触した交差部を成している構成を備えることができる。この構成は、上記のいわゆる点接触に対して面接触の構造と称され得る。
【0045】
このような面接触による上記構造例の下位概念に相当する一実施形態において、セラミックスシートのメッシュ状部位は、第1線条部の断面が、第1線条部と第2線条部との交差部以外の部位にて、円形または楕円形の形状を有しており、第2線条部の断面が、交差部以外の部位にて、直線部と、該直線部の両端部を端部とする凸形の曲線部とから構成される形状(略弓形状)を有しており、しかも、第1線条部の平面視での投影像が、交差部にて、幅方向外方に向けて湾曲膨出した形状になっており、それによって交差部における投影像の幅が交差部以外の部位における投影像の幅よりも大きくなっている構成を有することができる。
【0046】
またセラミックスシートのメッシュ状部位は、更なる他の一実施形態において、第1線条部の断面が、第1線条部と第2線条部との交点以外の部位において、円形または楕円形の形状を有しており、第2線条部の断面が、第1線条部と第2線条部との交点以外の部位において、直線部と該直線部の両端部を端部とする凸形の曲線部とから構成される形状(略弓形状)を有しており、この焼結体は平面視での輪郭の少なくとも一部に直線辺部を有しており、第1線条部および第2線条部とこの直線辺部(外辺)とがそれぞれ独立に10度以上170以下の角度で(すなわち非直角である角度を含む幅広い角度範囲にて)交わっている構造を備えていてよい。
【0047】
またセラミックスシートのメッシュ状部位は、更なる他の一実施形態において、複数の第1線条部および複数の第2線条部に加えて、第1線条部と第2線条部とが交差することで画成される四辺形の対角線上を通るセラミックス製の複数の第3の線条部とを有し、第1線条部、第2線条部および第3の線条部によって画成される複数の三角形の貫通孔が形成されている板状のセラミックス構造体であってよい。
【0048】
メッシュ状部位がセラミックスシートの一部を占める場合のメッシュ状部位以外の部位は、特に限定されないが、例えば、微細な気孔を多数設けたセラミックス板状体(板状体の異なる領域で異なる気孔径/異なる気孔密度を有するものを含む)や、メッシュ以外の形状で第1線条部層(支持体層)および第2線条部層が配置されたシート(一例としてはいわゆる簀子状のシート)等が挙げられる。
【0049】
セッターおよび敷板の製造方法
以降にて、セッターおよび敷板の製造方法を説明するが、これらは非限定的な一例として理解されるべきである。
【0050】
本発明に係る焼成治具を構成するセッターの製造方法は、敷板に対する近接面の一部に上記要件を満たす凸部を含むセッターを製造することが可能である限りは特に限定されない。
セッターを製造するための原料粉は、特に限定されず、種々のセラミックス素材を含んでいてよい。セラミックス原料粉として用いられるセラミックス素材の例としては、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、酸化マグネシウム(MgO)、ムライト(3Al2O3-2SiO2)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si3N4)、窒化アルミニウム(AlN)、炭化ホウ素(B4C)、コージェライト(MgO/Al2O3/SiO2)、チタン酸アルミニウム(Al2TiO5)、チタン酸マグネシウム(MgTiO3)、二硼化チタン(TiB2)などの1種または2種以上の組み合わせが挙げられる。また、これらのセラミックス素材の1種または2種以上の組み合わせである原料粉を用いて製造された焼結体も自ずと、これらの素材から生じ得る組成を有することになる。原料ペースト中のセラミックス原料粉の質量割合は、ペースト全体の質量に対して、通常20質量%以上85質量%以下であってよく、30質量%以上75質量%以下であることが好ましい。
【0051】
セッターは、全体が単一の組成で形成されていてもよいし、異なる複数の組成から形成された部分の組み合わせでもよい。一実施形態において、全体が単一種の材料で一体的に形成されたセッターを用いてもよい。
以降においては、セッターがメッシュ状部位を含むセラミックスシートである場合の製造方法を中心に説明するが、これ以外のセッターについても以降の説明に準じた手法により製造され得ることを当業者は理解するであろう。
【0052】
セッターがメッシュ状部位を含むセラミックスシートである実施形態において、メッシュ状部位の第1線条部層と第2線条部層とが、あるいは各線条部層の異なる部分同士が単一の組成から形成されていてよい。他の一実施態様において、メッシュ状部位の第1線条部層と第2線条部層とが、あるいは各線条部層の異なる部分同士が異なる複数の組成から形成されていてよい。一実施形態において、全体が単一種の材料で一体的に形成されたメッシュ状のセラミックスシート焼結体であるセッターを用いてもよい。このようなセッターを用いることにより、セラミックスシート全体の強度が非常に高くなり、またセッターの効率的な製造にもつながる。
【0053】
原料ペーストに用いられるセラミックス原料粉の平均粒径は、通常0.1~20μmの範囲であってよく、好ましくは0.2~10μmの範囲であってよい。ここでのセラミックス原料粉の平均粒径は、レーザ回折・散乱法による体積累積中位径 (D50)の値である。セラミックス原料粉の平均粒径が上記範囲内であることによって、焼成後の構造的な強度・安定性が増大し、崩壊の可能性が低減された焼結体を得ることが可能になる。
【0054】
メッシュ状部位の第1線条部層および第2線条部層の前駆体である成形体を作成するための原料ペーストの媒体としては、通常、水が用いられる。水以外の媒体としては、アルコール、アセトンおよび酢酸エチルなども用いられる。これらの媒体を2種類以上混合してもよい。原料ペーストにおける媒体の質量割合は、ペースト全体の質量に対して、通常10質量%以上60質量%以下であってよく、15質量%以上55質量%以下であることが好ましい。
【0055】
メッシュ状部位の第1線条部層および第2線条部層の前駆体である成形体を作成するための原料ペーストは、任意選択で公知のいずれかの焼結助剤を適当量で含んでいてよい。また、原料ペーストは公知のいずれかの結合剤を含んでよい。原料ペーストにおける結合剤の質量割合は、原料ペーストの全質量に対して、例えば0質量%以上40質量%以下であってよく、1質量%以上40質量%以下であることが好ましい。
【0056】
原料ペーストの粘度は、線条塗工体の塗布時の温度において高粘度であることが、線条塗工体を首尾よく製造し得る点から好ましい。原料ペーストの粘度は、特に限定されないが、塗布時の温度(典型的には約25℃等の室温)において1.5MPa・s以上5.0MPa・s以下であることが好ましい。ここでの原料ペーストの粘度は、コーンプレート型回転式粘度計またはレオメーターを用いて、回転数0.3rpmにて測定開始後4分時の測定値を指す。原料ペーストには、粘性調整剤として、公知のいずれかの増粘剤、凝集剤、チクソトロピック剤などを含有させることができる。
【0057】
メッシュ状部位の第1線条部層および第2線条部層の前駆体である成形体を得るための吐出装置からの吐出量を安定させるため、原料ペーストは、例えば、公知のいずれかの可塑剤、潤滑剤、分散剤、沈降抑制剤、pH調整剤などを含んでもよい。
【0058】
このようにして得られた原料ペーストを吐出装置から平坦な基板上に吐出することによって、所与の間隔で配置された各条が一方向に延伸された複数条の第1線条塗工体を形成する。第1線条塗工体はメッシュ状部位の第2線条部に対応するものである。
吐出装置としては、例えば小型押し出し機や印刷機などの公知の種々の装置を用いることができる。これらの吐出装置は、典型的に、ノズルを有するディスペンサを備えていてよい。第1線条塗工体が吐出された後、第1線条塗工体に含まれている媒体を除去して乾燥させ、粘度を高める操作を行うことができる。媒体除去操作後の第1線条塗工体における媒体の割合は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下にまで低減されていてよい。
【0059】
次いで原料ペーストを用いて、第1線条塗工体の各条の上に接してこれと交差するように所与の間隔で配置された、各条が一方向に延伸された複数条の第2線条塗工体を形成する。第2線条塗工体は、メッシュ状部位の第1線条部に対応するものである。第2線条塗工体を形成するための原料ペーストは、第1線条塗工体を形成するための原料ペーストと同一であっても異なっていてよいが、線条塗工体形成の効率性、ならびに、生産するセラミックスシート焼結体の構造および物性の一体性の観点から、同一であることがより好ましい。
【0060】
成形体として形成される複数条の第1線条塗工体および複数条の第2線条塗工体の具体的な形状は、上述した種々のメッシュ状部位の所望の形状に適合させるように構築することができる。
【0061】
追加の一実施形態において、原料ペーストを用いて、第2線条塗工体の各条の上に接して第1線条塗工体および第2線条塗工体と交差するように所与の間隔で配置された、各条が一方向に延伸された複数条の第3線条塗工体を任意選択的に形成してもよい。任意選択の第3線条塗工体を形成するための原料ペーストは、第1/第2線条塗工体を形成するための原料ペーストと同一であっても異なっていてよいが、線条塗工体形成の効率性、ならびに、生産するメッシュ状部位の構造および物性の一体性の観点から、同一であることがより好ましい。
【0062】
このようにして得られた複数条の第1線条塗工体および複数条の第2線条塗工体を含む成形体を基板(成形体の形成作業台)から剥離して焼成治具(焼成炉)内に配置し、焼成することによって、目的とするメッシュ状部位が得られる。焼成により、複数条の第1線条部で構成される第1線条部層、および複数条の第2線条部で構成される第2線条部層を含むメッシュ状部位は、通常、各部材の接着剤による物理的結合を含まない一体的な構造物である焼結体として構築される。
【0063】
メッシュ状部位を得るための焼成プロセスは、必要に応じて、大気雰囲気中(大気圧下)で行ってもよいし、例えば窒素などの不活性ガスによる加圧下にて行ってもよい。焼成温度は、セラミックス素材の原料粉の種類に応じて適切な温度を選択すればよい。焼成時間に関しても同様である。焼成温度の非限定的な例としては、500℃以上、800℃以上、または1000℃以上であってよく、4000℃以下、3500℃以下、または3000℃以下であってよい。焼成時間の非限定的な例としては、30分以上、1時間以上または2時間以上であってよく、24時間以下、12時間以下、または6時間以下であってよい。
【0064】
セッターの一部または全部がメッシュ状部位を含むセラミックスシートである実施形態では、メッシュ状部位において、第2線条部層の第1線条部層に対する接面がセッターの敷板に対する近接面Sをなし、第1線条部層を構成する第1線条部がセッターの凸部をなすから、凸部を別途形成する必要はない。
【0065】
メッシュ状部位を含むセラミックスシート以外のセッターにおいては、セッターのセラミックスシート表面の平坦面上に、長手方向に略均一な断面を備える凸部を別途形成する必要がある。この場合、セラミックスシート(凸部以外の基部)とその表面の平坦面上に設けられる凸部とは、同じ原料(すなわち同じセラミックス原料粉および添加剤の混合物を含む原料)から形成されていても、異なる原料から形成されていてもよい。セラミックスシート(凸部以外の基部)とその表面の平坦面上に設けられる凸部とは、焼成時の加熱・冷却の熱履歴(膨張・収縮の繰り返し)による接合強度の低下およびこれに起因する凸部のシートからの剥離を抑制する観点から、同じ原料から形成されていることがより好ましい。
【0066】
例えば、表面の平坦面上に長手方向に略均一な断面を備える凸部が別途形成されたセッターのセラミックスシートは、プレス型、鋳込み成形、振動成形などの公知のいずれかの成型方法で、一体の成形体を形成した後に、メッシュ状部位の焼成プロセスについて上述したものと同様の条件にて焼成することによって製造することができる。
別法として、表面の平坦面上に長手方向に略均一な断面を備える凸部が別途形成されたセッターのセラミックスシートの製造のため、メッシュ状部位を含むセラミックスシートを製造する際に上記原料ペーストを吐出装置から平坦な基板上に吐出して第1線条塗工体を形成し次いで焼成するのと同様の手法を採用することができる。あるいは、表面の平坦面上に長手方向に略均一な断面を備える凸部が別途形成されたセッターのセラミックスシートは、セラミックスシート(凸部以外)およびその表面の平坦面上に設けられる凸部のそれぞれの成形体の形成および焼成を個別に行った後、セラミックスシート(凸部以外)の焼結体の上面の所定の領域に凸部の焼結物を、公知のいずれかのセラミックス用接着剤などで接合することもできる。このようなセラミックス用接着剤の非限定的な例としては、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂またはポリアミドイミド系樹脂を含む接着剤組成物や、アルミナなどの耐火性セラミックスおよび無機ポリマーを主成分とする無機系接着剤組成物(例えば、東亜合成株式会社製「アロンセラミック」等)などを挙げることができる。
また、更なる別法として、表面の平坦面上に長手方向に略均一な断面を備える凸部が別途形成されたセッターのセラミックスシートは、セラミックスシート(凸部以外)の成形体を形成した後、あるいはこの成形体を焼成して焼結体を製造した後に、その表面に機械加工を施して凸部を形成することによって得ることもできる。このような機械加工の例としては、特に限定されないが、ドリルやヤスリなどの刃物工具を用いた切削、研磨加工等を挙げることができる。
【0067】
本発明に係る焼成治具を構成する敷板の製造方法は、セッターに対する近接面の一部に上記要件を満たす条溝部を含む敷板を製造することが可能である限りは、特に限定されない。
敷板を製造するためのセラミックス原料粉および添加剤は、セッターについて上述された事項の中から同様に適宜選択され得る。例えば、敷板のセラミックス原料粉は、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、酸化マグネシウム(MgO)、ムライト(3Al2O3-2SiO2)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si3N4)、窒化アルミニウム(AlN)、炭化ホウ素(B4C)、コージェライト(MgO/Al2O3/SiO2)、チタン酸アルミニウム(Al2TiO5)、チタン酸マグネシウム(MgTiO3)、二硼化チタン(TiB2)などの1種または2種以上の組み合わせであってよい。
【0068】
条溝部を含む敷板は、プレス型、鋳込み成形、振動成形などの公知のいずれかの成型方法で、表面に所望の断面形状および長手方向の長さを有する条溝が穿たれた一体の成形体を形成した後に、メッシュ状部位の焼成プロセスについて上述したものと同様の条件にて焼成することによって製造することができる。
別法として、条溝部を含む敷板は、敷板の基材部(条溝を有しないもの)の成形体を形成した後、あるいは敷板の基材部の成形体を焼成して焼結体を製造した後に、その表面に機械加工を施して条溝を形成することによって得ることもできる。このような機械加工の例としては、特に限定されないが、ドリルやヤスリなどの刃物工具を用いた切削、研磨加工等を挙げることができる。
【実施例】
【0069】
メッシュ状セラミックスシート1のセッターの製造
(1)線条塗工体形成用のペーストの調製
平均粒径0.8μmの3モル%イットリア添加部分安定化ジルコニア粉65.3部と、水系結合剤としてヒドロキシプロピルメチルセルロース(平均重合度:30万g/mol)5.0部と、可塑剤として、グリセリン2.5部と、ポリカルボン酸系分散剤(分子量12000)1.1部と、水26.1部とを混合し、脱泡してペーストを調製した。ペーストの粘度は25℃において2.3MPa・sであった。
(2)線条塗工体の形成
前記のペーストを原料とし、直径4.0mmの断面円形ノズルを有するディスペンサを用いて樹脂基板上に線条第1塗工体を形成した。次いでドライヤーを用いて線条第1塗工体に熱風を吹き付け水を除去して線条第1塗工体を乾燥させた。乾燥後の線条第1塗工体の水の含有量は10%であった。引き続き線条第1塗工体に交差する線条第2塗工体を形成した。両線条塗工体の交差角度は90度とした。ドライヤーを用いて線条第2塗工体に熱風を吹き付け、水を除去して線条第2塗工体を乾燥させた。乾燥後の線条第2塗工体の水の含有量は8%であった。これらの操作によって、垂直に交差した第1線条体(線条第2塗工体の乾燥物)と第2線条体(線条第1塗工体の乾燥物)からなる格子状前駆体を得た。
(3)焼成工程
乾燥後の格子状前駆体を樹脂基板から剥離した後、大気焼成炉内に載置した。この焼成炉内で脱脂および焼成を行って、ジルコニア製のメッシュ状セラミックスシート1を得た。焼成温度は1450℃とし、焼成時間は3時間とした。メッシュ状セラミックスシート1においては、第1線条部(断面形状は略円形である)と第2線条部(断面形状は略円形の一部が直線状に切断された形状)とは、それらの交差部において点接触していた。得られたメッシュ状ジルコニア製シート1における第1線条部の最大幅員(平面視における設計方向である長手方向に対して垂直方向の長さ、すなわち第1線条部の長手方向に垂直な断面の、セッターの敷板に対する近接面に平行な方向の最大幅員)Wcは4.0mmであった。また第1線条部の断面形状は略円形であったから、第1線条部の最大高さ(第1線条部の長手方向に垂直な断面の、セッターの敷板に対する近接面に垂直な方向の最大高さ)Hcは、Wcと同じ4.0mmであると見積もられた。第1線条部間の間隔は0.1mmであった。すなわち、メッシュ状セラミックスシート1における貫通孔の寸法(目開き寸法)は0.1mm□であり、貫通孔の面積は0.01mm2であった。メッシュ状セラミックスシート1における各線条部と辺部との角度は45°であり、第1線条部と第2線条部との交差角は90°であった。メッシュ状セラミックスシート1の外形寸法は、縦300mm×横300mmであった。従って、本例において、セッターであるメッシュ状セラミックスシート1の敷板(後述)に対する近接面の輪郭内体積bは90000mm2であった(セッターの敷板への戴置の際に近接面Sを垂直視するとき、敷板の輪郭からはみ出る領域が生じないように後述の敷板を設計した)。メッシュ状セラミックスシート1の第1線条部の最大幅員Wcに対する第1線条部の長手方向の両端部間の長さLc(ここではシートの縦横寸法と同一の長さをもって代表的な両端部間の長さと定義する)のアスペクト比Lc/Wcは75であり、第1線条部の最大高さHcに対する第1線条部の最大幅員Wcの比率Wc/Hcは1.0と見積もられた。また、メッシュ状セラミックスシート1が敷板(後述)に戴置されるときに、全ての凸部(第1線条部)が敷板(後述)の条溝部に収容され得るように設計されていることを前提とした場合、条溝部に収容される凸部の投影面積の合計aは、デジタルマイクロスコープ(キーエンス製、商品名「VHX-5000」)を用いた画像解析により69600mm2であった。
本セッターの縦横の外形寸法およびこれによって決定されるセッターの輪郭内面積b、ならびに、第1線条部の最大幅員Wc(と最大高さHc)、第1線条部間の間隔、およびこれらを調整することによって決定される凸部の投影面積の合計aを表1に示す。
【0070】
メッシュ状セラミックスシート2~4および6~8のセッター、ならびに比較用セラミックスシート9のセッターの製造
セッターの縦横の外形寸法およびこれによって決定されるセッターの輪郭内面積b、ならびに、第1線条部の最大幅員Wc、第1線条部間の間隔、およびこれらを調整することによって決定される凸部の投影面積の合計aを表1に示すように変更した以外は、セッター用メッシュ状セラミックスシート1と同様に、セラミックスシート2~4および6~8ならびに比較用セラミックスシート9のセッターを製造した。
これらのセッターの縦横の外形寸法およびこれによって決定されるセッターの輪郭内面積b、ならびに、第1線条部の最大幅員Wc、第1線条部間の間隔、およびこれらを調整することによって決定される凸部の投影面積の合計aを表1に示す。
【0071】
セラミックスシート5のセッターの製造
上記セラミックスシート1についての線条塗工体形成用のペーストと同一組成の原料を用いて、縦寸法150mm×横寸法150mm(輪郭内面積b=22500mm2)のセラミックス成形体を用意した。このセラミックス成形体の表面の平坦面上に、直径1.0mmの断面円形ノズルを有するディスペンサを用いて、同原料で148mmの間隔を空けて2本の線条塗工体を形成し、次いで上記セラミックスシート1と同一条件にて焼成工程を行い、セラミックスシート5のセッターを得た。
この線条塗工体から得られたセッターの凸部の長手方向に垂直な断面の、セッターの敷板に対する近接面に平行な方向の最大幅員Wcは1.0mmであった。凸部の断面形状は略円形の一部がシートの平坦面により直線状に切断された形状であった。凸部の最大高さ(凸部の長手方向に垂直な断面の、セッターの敷板に対する近接面に垂直な方向の最大高さ)Hcは、0.5mmと見積もられた。また、セラミックスシート5の凸部の最大幅員Wcに対する凸部の長手方向の両端部間の長さLcのアスペクト比Lc/Wcは150であり、凸部の最大高さHcに対する凸部の最大幅員Wcの比率Wc/Hcは2.0と見積もられた。
本セッターの縦横の外形寸法およびこれによって決定されるセッターの輪郭内面積b、ならびに、凸部の最大幅員Wc、凸部間の間隔、およびこれらを調整することによって決定される凸部の投影面積の合計aを表1に示す。
【0072】
【0073】
敷板1の製造
原料として、アルミナを65質量部、シリカを35質量部にバインダーとしてポリビニルアルコール(PVA)を含む混合材料を用いて前駆体となる成形体を得た後、焼成温度1700℃、焼成時間4時間の焼成条件にて矩形状の敷板1を得た。敷板1の周縁全体に高さ3mm、頂部幅7mmの矩形状の周壁部を設け、これによって敷板1の表面に縦300mm×横300mmのメッシュ状セラミックスシート1が戴置されるとき、シートの全体が収まると共に、敷板の全周にわたりシートの端部と矩形状の周壁部との間に3mmの間隙が付与されるようにこれらの寸法取りを行った。
成形体にプレス型で加工を施すことによって、敷板1の周壁部を除く表面の全体に、セラミックスシート1の第1線条部である凸部の全てが収容され得るようにV字型の条溝部を設けた。この敷板1のV字型のプレス加工は、表2に示すように、敷板の条溝部の深さDg(平均深さDg・av:上述の定義に従い、この場合は任意の10個の深さの平均値)が1.00mmであり、条溝部の最大幅員Wp(条溝部の長手方向に垂直な断面の、敷板のセッターに対する近接面Pに平行な方向の最大幅員)が4.00mmであり、条溝部間の垂直最短距離Ig(この場合は各条溝部間の垂直最短距離の平均値)が0.1mmであり、比率Ig/Dg・avが0.1であるように行った。
【0074】
このようにV字型の条溝部が表面に設けられた敷板1および下記の例による敷板に、凸部を有するセラミックスシートが収容される際の敷板の条溝部の深さDgeと、セッターの凸部の長手方向に垂直な断面の、セッターの敷板に対する近接面に垂直な方向の最大高さHceとの関係の概略を
図10に例示する。この図にて、7eはセッターの本体(基部)、7Seは、セッターの敷板に対する近接面、8eはセッターの凸部、9eは敷板の本体(基部)、9Peは敷板のセッターに対する近接面、10eは敷板のV字型条溝、Hceはセッターの凸部の最大高さ、Dgeは敷板の条溝部の深さ、Dg’は敷板のセッターに対する近接面9Peから凸部8eの最低位置までの距離を意味する。
この敷板1および下記の例による敷板のようにV字型の条溝部が表面に設けられている場合には、セッターの凸部8eが敷板の条溝部10eに収容される際、
図10に示すように、セッターの凸部8eの垂直方向における最低位置と条溝部10eの垂直方向における最低位置とが接触していない。
従って、この敷板1については、敷板の条溝部の深さDgeのセッターの凸部の最大高さHceに対する比率Dge/Hceが十分な大きさとなるように、敷板のセッターに対する近接面9Peから凸部8eの最低位置までの距離をDg’のHceに対する比率Dg’/Hceが0.1以上の範囲を満たすように条溝部の設計を行った。Dg’は、凸部の最大高さHceから、セッターの敷板に対する近接面7Seと敷板のセッターに対する近接面9Peとの間(セッターの本体7eと敷板の本体9eの隙間)の垂直距離を引いて算出することができる。
【0075】
敷板2~8および比較用敷板9の製造
セッターであるセラミックスシート2~8および比較用セラミックスシート9のそれぞれの全体が収まると共に、敷板の全周にわたり上記周壁部を設けた矩形状とし、プレス型での加工によって表2に示す形状(深さDg(平均深さDg・av)、最大幅員Wp、垂直最短距離Ig、比率Ig/Dg・av)の条溝部を設けた以外は敷板1と同様に、敷板2~8および比較用敷板9を製造した。
なお、敷板2~6および比較用敷板9については、敷板1と同様に比率Dg’/Hceが0.1以上の範囲を満たすように条溝部の設計を行った(
図10を再度参照)。敷板7および敷板8については、それぞれ、比率Dg’/Hceが0.05以上および0.02以上の範囲を満たすように条溝部の設計を行った。
【0076】
【0077】
実施例1~8および比較例1:焼成治具による摺動防止性評価
セッターの上記セラミックスシート1~8および比較用セラミックスシート9を、それらの各々に対応する上記敷板1~8および比較用敷板9の上に、敷板の周壁部を除く表面の全体にシートの凸部の全てが収容されるように戴置し、セッターと敷板とが組み合わせられた実施例1~8および比較例1の焼成治具を構成した。
実施例1~8および比較例1の焼成治具の各々について、セッターの凸部と敷板の条溝部との関係を表3に示す。
【0078】
【0079】
実施例1~8および比較例1の焼成治具の各々を、下記の敷板傾斜試験および敷板振動試験に供した。
【0080】
敷板傾斜試験
上記実施例1~8および比較例1にて得られた敷板およびその上に戴置されたセラミックスシートのセッターの組み合わせからなる焼成治具について、凸部および条溝部の長手方向に対する45°の角度を有する片端部をゆっくりと上昇させていき、セッターが敷板上で摺動を始めた際の敷板の傾き角度(°)を測定し、これを敷板傾斜時のセッターの移動開始角度と定義した。本試験の角度測定機器として、アイリス株式会社製の商品名「アズワン」型番BB01Bの角度計を用いた。
敷板傾斜時のセッターの移動開始角度の評価基準は、以下のとおりとした。
AA(最良):60°以上
A(良):40°以上60°未満
B(可):20°以上40°未満
C(不可):20°未満
【0081】
敷板振動試験
上記実施例1~8および比較例1にて得られた敷板およびその上に戴置されたセラミックスシートのセッターの組み合わせからなる焼成治具を振動試験機にセットし、レベル10の強度で振動させ、セッターが敷板上で3mm摺動するまでの時間(秒)を測定し、これを敷板振動時のセッターの移動開始時間(セッター保持時間)と定義した。60Hzの振動試験機として、SINFONIA TECHNOLOGY社製の商品名「VIBRATORY PACKER,TYPE VP-40」を用いた。
敷板振動時のセッターの移動開始時間の評価基準は、以下のとおりとした。
AA(最良):50秒以上以上
A(良):30秒以上50秒未満
B(可):10秒以上30秒未満
C(不可):10秒未満
【0082】
上記実施例1~8および比較例1の各々について、敷板傾斜時のセッターの移動開始角度および敷板振動時のセッターの移動開始時間ならびにこれらの評価結果を表4に示す。
【0083】
【0084】
これらの結果から、本発明に係る焼成治具によれば、セッターの輪郭内面積に対する凸部の投影面積の比率を特定範囲内に制御することにより、セッターの敷板上での摺動を十分に防止することが可能になることが分かった。
また、セッターの凸部の最大高さHcに対する凸部が収容される条溝部の深さDgの比率を特定範囲内に制御することによって、摺動防止効果を更に高めることが可能になることも分かった。
【0085】
なお、本発明に包含され得る諸態様または諸実施形態は、以下のとおり要約される。
[1].
セッターと、このセッターが戴置される敷板とからなる焼成治具であって、
前記セッターは、前記敷板に対する近接面Sの一部に、長手方向に略均一な断面を備える1つまたは複数の線条をなす凸部を含み、
前記敷板は、前記セッターに対する近接面Pの一部に、長手方向に略均一な断面を備える1つまたは複数の条溝部を含み、
前記セッターが前記敷板に戴置されるとき、前記セッターの凸部の少なくとも1つが前記敷板の条溝部の少なくとも1つに収容されるように、前記凸部および前記条溝部が形成されており、
ここで、
前記セッターの近接面Sの輪郭内面積(ただし、前記セッターの前記敷板への戴置の際に、前記近接面Sを垂直視するとき、敷板の輪郭からはみ出る領域の面積を除く)をbとし、
前記セッターが前記敷板に戴置されるときに、前記条溝部に収容される前記凸部の投影面積(ただし、ここでの投影面積は、前記セッターの近接面Sに平行な面における当該凸部の最大断面積を指す)の合計をaとするとき、
0.5≦(a/b)*100≦90(式A)の関係を満たす、
焼成治具。
[2],
前記セッターの凸部が略平行に2つ以上形成されており、かつ前記敷板の条溝部が略平行に2つ以上形成されており、前記セッターの前記敷板への戴置の際、前記凸部の過半数が前記敷板の条溝部に収容されるように前記凸部および前記条溝部が形成されている、上記[1]項に記載の焼成治具。
[3],
前記セッターの凸部が3つ以上の場合にはこれらの凸部は略等間隔で形成されており、および/または、前記敷板の条溝部が3つ以上の場合にはこれらの条溝部は略等間隔で形成されている、上記[2]項に記載の焼成治具。
[4],
前記セッターの凸部の少なくとも1つの長手方向に垂直な断面の前記近接面Sに平行な方向の最大幅員Wcと、前記セッターの前記敷板への戴置の際、この凸部が収容される前記条溝部の長手方向に垂直な断面の前記近接面Pに平行な方向の最大幅員Wpとの割合Wc/Wpが2以下である、上記[1]~[3]項のいずれか1項に記載の焼成治具。
[5],
前記敷板の条溝部の平均深さ(前記条溝部の長手方向に垂直な断面の前記近接面Pから垂直方向の最低位置までの長さについて各条溝部の平均値を指す)Dg・avに対する、当該条溝部間の垂直最短距離(条溝部が3つ以上形成されている場合は、複数の垂直最短距離の平均値を指す)Igの比率Ig/Dg・avが0.05以上600以下である、上記[2]または[3]項に記載の焼成治具。
[6],
前記セッターの凸部の少なくとも1つについて、その長手方向に垂直な断面の前記近接面Sに平行な方向の最大幅員Wcに対する、その長手方向の両端部間の長さLcのアスペクト比Lc/Wcが10以上である、上記[1]~[5]項のいずれか1項に記載の焼成治具。
[7],
前記セッターの凸部の少なくとも1つの長手方向に垂直な断面の前記近接面Sに垂直な方向の最大高さHcに対する、前記セッターの前記敷板への戴置の際、この凸部が収容される前記条溝部の長手方向に垂直な断面の前記近接面Pから垂直方向の最低位置までの深さDgの比率Dg/Hcが0.1以上である、上記[1]~[6]項のいずれか1項に記載の焼成治具。
[8],
前記セッターの凸部の少なくとも1つの長手方向に垂直な断面の前記近接面Sに垂直な方向の最大高さHcに対する、この凸部の長手方向に垂直な断面の前記近接面Sに平行な方向の最大幅員Wcの比率Wc/Hcが0.3以上4以下である、上記[1]~[7]項のいずれか1項に記載の焼成治具。
[9],
前記セッターが、その少なくとも一部にメッシュ状セラミックスシートを含み、
このメッシュ状セラミックスシートは、所与の間隔で配置された各条が一方向に延伸された複数条の第1線条部で構成される第1線条部層、および、前記第1線条部の各条の上に接してこれと交差するように所与の間隔で配置された、各条が一方向に延伸された複数条の第2線条部で構成される第2線条部層を含み、前記第1線条部層と前記第2線条部層とが一体的に形成されているセラミックスシート焼結体であり、
前記第2線条部層の前記第1線条部層に対する接面が、前記セッターの近接面Sをなしており、前記第1線条部層を構成する第1線条部が、前記セッターの凸部をなしている、
上記[1]~[8]項のいずれか1項に記載の焼成治具。
【符号の説明】
【0086】
C:被焼成物
A:セッター
B:多段積みで積層された敷板
M:多段積みの焼成治具(上記符号C、A、B、Mは公知例を示す
図1に関する。)
1:焼成治具(組み合わせ)
2:メッシュ状セラミックスシートのセッター
2S:セッターの敷板に対する近接面(
図2の紙面裏側)
3:敷板
3P:敷板のセッターに対する近接面
4:敷板の基材部
5:敷板の周壁部(リブ)
6:セッターの凸部(
図2に図示せず)に対応する敷板の条溝部
HL:敷板の開口部
7:セッターの本体(基部)
7S:セッターの敷板に対する近接面
8:セッターの凸部
9:敷板の本体(基部)
9P:敷板のセッターに対する近接面
10:敷板の条溝部
a1:
図3中左側の凸部の投影面積
a2:
図3中右側の凸部の投影面積
Σa
x:凸部の投影面積a
xの合計
b:セッターの敷板に対する近接面の輪郭内の面積
Wc:セッターの凸部の最大幅員
Wp:敷板の条溝部の最大幅員
Dg・av:敷板の条溝部の平均深さ
Ig:敷板の条溝部間の垂直最短距離
Lc:セッターの凸部の長手方向の両端部間の長さ
Hc:セッターの凸部の最大高さ
Dg:敷板の条溝部の深さ
11:メッシュ状部位
12:第1線条部
13:第2線条部
7e:セッターの本体(基部)
7Se:セッターの敷板に対する近接面
8e:セッターの凸部
9e:敷板の本体(基部)
9Pe:敷板のセッターに対する近接面
10e:敷板の条溝部(V字型条溝)
Hce:セッターの凸部の最大高さ
Dge:敷板の条溝部の深さ
Dg’:敷板のセッターに対する近接面から凸部の最低位置までの距離(上記7e以降は、実施例における概略図を示す。)
【要約】
セッターの摺動が効果的に防止され得る焼成治具の提供を課題とする。課題は、セッターと敷板とからなる焼成治具であって、セッターは、敷板に対する近接面Sの一部に長手方向に略均一な断面を備える1つ以上の線条をなす凸部を含み、敷板は、セッターに対する近接面Pの一部に長手方向に略均一な断面を備える1つ以上の条溝部を含み、セッターが敷板に戴置されるとき、凸部の少なくとも1つが条溝部の少なくとも1つに収容されるように凸部および条溝部が形成されており、近接面Sの輪郭内面積(セッターの敷板への戴置の際に近接面Sを垂直視するとき、敷板の輪郭からはみ出る領域の面積を除く)をbとし、戴置のときに、条溝部に収容される凸部の投影面積(セッターの近接面Sに平行な面における当該凸部の最大断面積を指す)の合計をaとするとき0.5≦(a/b)*100≦90(式A)の関係を満たす焼成治具により解決される。