(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】正極活物質、および、電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/505 20100101AFI20240802BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240802BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20240802BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240802BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240802BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240802BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/36 B
H01M4/36 D
H01M10/0566
H01M10/0562
H01M4/525
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2020028267
(22)【出願日】2020-02-21
【審査請求日】2023-01-16
(31)【優先権主張番号】P 2019105515
(32)【優先日】2019-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100143236
【氏名又は名称】間中 恵子
(72)【発明者】
【氏名】大前 孝紀
(72)【発明者】
【氏名】夏井 竜一
(72)【発明者】
【氏名】大塚 友
(72)【発明者】
【氏名】内田 修平
【審査官】多田 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-049684(JP,A)
【文献】国際公開第2014/192759(WO,A1)
【文献】特開2016-025010(JP,A)
【文献】国際公開第2019/064816(WO,A1)
【文献】特開2018-098174(JP,A)
【文献】特開2019-125575(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
10/05-10/0587
10/36-10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状構造に属する結晶構造を有するリチウム複合酸化物を含み、
前記リチウム複合酸化物において、BET比表面積が5m
2/g以上10m
2/g以下であり、かつ平均粒径が3μm以上30μm以下であり、
前記リチウム複合酸化物において、X線回折法により(003)面を反映するピークを用いて算出される平均結晶子サイズが150Å以上350Å以下であ
り、
前記リチウム複合酸化物は、F、Cl、N、およびSからなる群より選択される少なくとも一種を含有する、
正極活物質。
【請求項2】
前記リチウム複合酸化物において、前記平均粒径が10μm以上30μm以下である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記リチウム複合酸化物において、BET比表面積が7.5m
2/g以上8.1m
2/g以下である、
請求項1または2のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記リチウム複合酸化物は、Mnを含有する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項5】
前記リチウム複合酸化物は、Fを含有する、
請求項
1から4のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項6】
前記リチウム複合酸化物の平均組成は、下記の組成式(1)で表される、
請求項1から3のいずれか一項に記載の正極活物質。
Li
xMe
yO
αQ
β ・・・式(1)
ここで、
前記Meは、Mn、Co、Ni、Fe、Cu、V、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、Ag、Ru、W、B、Si、P、およびAlからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記Qは、F、Cl、N、およびSからなる群より選択される少なくとも1種であり、かつ、
前記組成式(1)は、下記の条件
1.05≦x≦1.5、
0.6≦y≦1.0、
1.2≦α≦2.0、および
0<β≦0.8
を満たす。
【請求項7】
前記Meは、Mn、Co、Ni、Fe、Cu、V、Ti、Cr、およびZnからなる群より選択される少なくとも1種を含む、
請求項
6に記載の正極活物質。
【請求項8】
前記Meは、Mn、Co、Ni、およびAlからなる群より選択される少なくとも1種を含む、
請求項
6または
7に記載の正極活物質。
【請求項9】
前記Meは、Mnを含む、
請求項
7または
8に記載の正極活物質。
【請求項10】
前記Meに対する前記Mnの割合が、59.9モル%以上である、
請求項
9に記載の正極活物質。
【請求項11】
前記Qは、Fを含む、
請求項
6から
10のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項12】
前記リチウム複合酸化物を、主成分として含む、
請求項1から
11のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項13】
前記リチウム複合酸化物は、空間群C2/mに属する結晶構造を有する第一の相と、空間群R-3mに属する結晶構造を有する第二の相と、を含む多相混合物である、
請求項1から
11のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項14】
前記リチウム複合酸化物は、前記第一の相と前記第二の相との二相混合物である、
請求項
13に記載の正極活物質。
【請求項15】
請求項1から
14のいずれか一項に記載の正極活物質を含む正極と、
負極と、
電解質と、を備える、
電池。
【請求項16】
前記負極は、リチウムイオンを吸蔵および放出しうる負極活物質、または、リチウム金属を負極活物質として溶解および析出させうる材料を含み、
前記電解質は、非水電解液である、
請求項
15に記載の電池。
【請求項17】
前記負極は、リチウムイオンを吸蔵および放出しうる負極活物質、または、リチウム金属を負極活物質として溶解および析出させうる材料を含み、
前記電解質は、固体電解質である、
請求項
15に記載の電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池用の正極活物質、および、電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、二次電池用正極活物質が開示されている。この正極活物質は、コア;前記コアを取り囲んで位置するシェル;および、前記コアとシェルの間に位置し、前記コアとシェルを連結する3次元網目構造体および空隙を含む緩衝層を含む。前記コア、シェル、および緩衝層での3次元網目構造体は、それぞれ独立して複数個の結晶粒を含む、化学式LiaNi1-x-yCoxM1yM3zM2wO2で表される多結晶リチウム複合金属酸化物を含む。前記結晶粒は、平均結晶サイズが50nmから150nmである。ここで、特許文献1では、上記化学式において、M1は、AlおよびMnからなる群より選択されるいずれか一つまたは二つ以上の元素を含む。M2は、Zr、Ti、Mg、TaおよびNbからなる群より選択されるいずれか一つまたは二つ以上の元素を含む。M3は、W、MoおよびCrからなる群より選択されるいずれか一つまたは二つ以上の元素を含む。a、x、y、z、およびwは、1.0≦a≦1.5、0<x≦0.5、0<y≦0.5、0.0005≦z≦0.03、0≦w≦0.02、0<x+y≦0.7を満たす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術においては、高容量の電池の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一様態における正極活物質は、層状構造に属する結晶構造を有するリチウム複合酸化物を含み、
前記リチウム複合酸化物において、BET比表面積が5m2/g以上10m2/g以下であり、かつ平均粒径が3μm以上30μm以下であり、
前記リチウム複合酸化物において、X線回折法により算出される平均結晶子サイズが150Å以上350Å以下である。
【0006】
本開示の包括的または具体的な態様は、電池用正極活物質、電池、方法、または、これらの任意な組み合わせで実現されてもよい。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、高容量の電池を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施の形態2における電池の一例である電池10の概略構成を示す断面図である。
【
図2】
図2は、実施例1における正極活物質の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態が、説明される。
【0010】
(実施の形態1)
実施の形態1における正極活物質は、層状構造に属する結晶構造を有するリチウム複合酸化物を含む。さらに、このリチウム複合酸化物において、BET比表面積が5m2/g以上10m2/g以下であり、かつ平均粒径が3μm以上30μm以下であり、このリチウム複合酸化物において、X線回折法により算出される平均結晶子サイズが150Å以上350Å以下である。
【0011】
以上の構成によれば、高容量の電池を実現できる。
【0012】
実施の形態1における正極活物質は、例えば、リチウムイオン電池用の正極活物質である。実施の形態1における正極活物質を用いて、例えばリチウムイオン電池を構成する場合、当該リチウムイオン電池は、3.4V程度の酸化還元電位(Li/Li+基準)を有する。また、当該リチウムイオン電池は、概ね、260mAh/g以上の容量を有する。
【0013】
層状構造に属する結晶構造は、例えば、六方晶型の結晶構造または単斜晶型の結晶構造である。また、具体的には、層状構造に属する結晶構造は、空間群C2/mおよび空間群R-3mの少なくとも一方に属する結晶構造であってもよい。
【0014】
実施の形態1における正極活物質において、リチウム複合酸化物は、空間群C2/mに属する結晶構造を有する第一の相と、空間群R-3mに属する結晶構造を有する第二の相と、を含んでいてもよい。
【0015】
空間群C2/mに属する結晶構造は、Li層と遷移金属層(「遷移金属等のカチオン元素」が占める層)とが交互に積層した構造を有する。また、遷移金属層には、「遷移金属等のカチオン元素」以外に、Liを含有することができる。そのため、空間群C2/mに属する結晶構造は、一般的な従来材料であるLiCoO2よりも、より多くのLiを結晶構造内に吸蔵することができる。
【0016】
しかし、空間群C2/mに属する結晶構造のみの場合、遷移金属層におけるLiの移動障壁が高い(すなわち、拡散性が低い)ため、急速充電時には容量が低下してしまうと考えられる。
【0017】
一方で、空間群R-3mに属する結晶構造は、二次元的にLiの拡散経路が存在するため、Liの拡散性が高い。
【0018】
実施の形態1における正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物は、上述の両方の空間群に属する結晶構造をそれぞれ有する相を含んでいてもよい。実施の形態1における正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物が、空間群C2/mに属する結晶構造および空間群R-3mに属する結晶構造の両方を含む場合、実施の形態1における正極活物質は、高容量の電池を実現でき、かつ急速充電に適した電池を実現できると考えられる。
【0019】
また、実施の形態1における正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物において、第一の相からなる複数の領域と、第二の相からなる複数の領域とが、3次元的にランダムに配列していてもよい。
【0020】
以上の構成によれば、Liの三次元的な拡散経路が増大するため、より多くのLiを挿入および脱離させることが可能となり、より高容量の電池を実現できる。
【0021】
実施の形態1における正極活物質において、リチウム複合酸化物は、上述のとおり、多相混合物でであってもよい。例えば、単相のバルク層と、それを被覆する単相のコート層とからなる層構造は、本開示における多相混合物に該当しない。また、多相混合物は、複数の相を含んだ物質であることを意味し、製造時にそれらの相に対応する複数の材料が混合されることを限定するものではない。
【0022】
リチウム複合酸化物が多相混合物であることは、X線回折(X-ray diffraction:XRD)測定または電子線回折測定によって特定されうる。具体的には、あるリチウム複合酸化物に対して取得されたスペクトルにおいて、複数の相の特徴を示すピークが含まれるとき、そのリチウム複合酸化物が、多相混合物であると判断される。
【0023】
各回折ピークの積分強度は、例えば、XRD装置に付属のソフトウエア(例えば、株式会社リガク社製、粉末X線回折装置に付属のPDXL)を用いて算出することができる。その場合、各回折ピークの積分強度は、例えば、各回折ピークの高さと半値幅から面積を算出することで得られる。
【0024】
なお、一般的には、CuKα線を使用したXRDパターンでは、空間群C2/mに属する結晶構造の場合、回折角2θが18°以上20°の範囲に存在する最大ピークは(001)面を、反映している。また、回折角2θが20°以上23°の範囲に存在する最大ピークは(020)面を、反映している。
【0025】
また、一般的には、CuKα線を使用したXRDパターンでは、空間群R-3mに属する結晶構造の場合、回折角2θが18°以上20°以下の範囲に存在する最大ピークは(003)面を、反映している。また、回折角2θが20°以上23°以下の範囲には回折ピークは存在しない。
【0026】
ここで、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物が、空間群C2/mに属する結晶構造を有する第一の相と、空間群R3-mに属する結晶構造を有する第二の相と、を有する場合、回折角2θが18°以上20°以下の範囲に存在する最大ピークが反映している空間群を完全に特定することは、必ずしも容易ではない。
【0027】
その場合、上述のX線回折測定に加えて、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた電子線回折測定を行えばよい。公知の手法により電子線回折パターンを観察することで、実施の形態1における正極活物質において、リチウム複合酸化物が有する空間群を特定することが可能である。これにより、実施の形態1における正極活物質において、リチウム複合酸化物が、空間群C2/mに属する結晶構造を有する第一の相と、空間群R-3mに属する結晶構造を有する第二の相と、を有することを確認できる。
【0028】
また、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、上述の第一の相と上述の第二の相との二相混合物であってもよい。
【0029】
実施の形態1における正極活物質では、リチウム複合酸化物のXRDパターンにおいて、回折角2θが18°以上20°以下の範囲に存在する第一の最大ピークに対する、回折角2θが20°以上23°以下の範囲に存在する第二の最大ピークの積分強度比I(20°-23°)/I(18°-20°)が、0.05≦I(20°-23°)/I(18°-20°)≦0.26、を満たしてもよい。
【0030】
ここで、I(20°-23°)/I(18°-20°)は、リチウム複合酸化物における、第一の相と第二の相との存在割合の指標となり得るパラメータである。なお、第一の相の存在割合が大きくなると、I(20°-23°)/I(18°-20°)は大きくなると考えられる。また、第二の相の存在割合が大きくなると、I(20°-23°)/I(18°-20°)は小さくなると考えられる。
【0031】
なお、I(20°-23°)/I(18°-20°)が0.05以上の場合、第一の相の存在割合が大きくなるため、充放電時のLiの挿入量および脱離量が増加すると考えられる。このため、高容量が実現できる。
【0032】
I(20°-23°)/I(18°-20°)が0.26以下の場合、第二の相の存在割合が大きくなるため、Liの拡散性が向上すると考えられる。このため、高容量が実現できる。
【0033】
このように、実施の形態1における正極活物質において、リチウム複合酸化物が0.05≦I(20°-23°)/I(18°-20°)≦0.26を満たす場合、多くのLiを挿入および脱離させることが可能で、かつ、Liの拡散性が高いと考えられる。このため、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、高容量の電池を実現可能であると考えられる。
【0034】
実施の形態1における正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物は、上述のとおり、F、Cl、N、およびSからなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよい。
【0035】
以上の構成によれば、電気化学的に不活性なアニオンによって酸素の一部を置換することで、結晶構造が安定化すると考えられる。また、イオン半径の大きなアニオンによって酸素の一部を置換することで、結晶格子が広がり、Liの拡散性が向上すると考えられる。また、上述のように第一の相と第二の相とを有する結晶内において、さらに結晶構造が安定化すると考えられる。このため、より多くのLiを挿入および脱離させることが可能になると考えられる。このため、高容量の電池を実現できる。
【0036】
また、実施の形態1における正極活物質において、リチウム複合酸化物が、F、Cl、N、およびSからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むことにより、酸素のレドックス量が多くなりすぎない。このため、酸素脱離によって結晶構造が不安定になることが抑制されるので、容量またはサイクル特性が向上すると考えられる。
【0037】
また、実施の形態1における正極活物質において、リチウム複合酸化物は、Fを含んでもよい。
【0038】
以上の構成によれば、電気陰性度が高いFによって酸素の一部を置換することで、カチオン-アニオンの相互作用が増加し、電池の放電容量または作動電圧が向上する。また、電気陰性度の高いFを固溶させることで、Fを含まない場合と比較して電子が局在化する。このため、充電時における酸素脱離を抑制することができるため、結晶構造が安定化する。また、上述のように第一の相と第二の相とを有する結晶内において、さらに結晶構造が安定化する。このため、より多くのLiを挿入および脱離させることが可能になると考えられる。これらの効果が総合的に作用することで、より高容量の電池を実現できると考えられる。
【0039】
実施の形態1における正極活物質において、リチウム複合酸化物の平均粒径は、3μm以上30μm以下の範囲である。リチウム複合酸化物を正極活物質として用いて電池を作製する場合、正極活物質を高充填化することが、電池の高容量化の一つの手段となる。実施の形態1における正極活物質では、上記範囲内の平均粒径を有する大粒径のリチウム複合酸化物が正極活物質として用いられることで、高充填化が可能となり、高容量化が達成できると考えられる。
【0040】
ここで、本開示の正極活物質におけるリチウム複合酸化物の平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)像を用いて100個のリチウム複合酸化物の粒子の粒径を測定し、得られた測定値を用いて平均値を算出することによって、求められる。
【0041】
上述のとおり、リチウム複合酸化物が大きい粒径を有する場合、高充填化が可能となり、高容量化が達成できる。しかし、平均粒径が30μmを超えるような大きい粒径を有するリチウム複合酸化物が正極活物質として用いられる場合、当該正極活物質内におけるLiの拡散長が増大し、一部のLiが充放電反応に寄与できなくなる。実施の形態1における正極活物質では、リチウム複合酸化物の平均粒径が30μm以下である。したがって、実施の形態1における正極活物質は、急速充放電時でも容量の低下を抑えて、高容量を実現できる。
【0042】
実施の形態1における正極活物質において、リチウム複合酸化物の平均粒径は、10μm以上30μm以下であってもよい。
【0043】
リチウム複合酸化物の平均粒径が10μm以上30μm以下であることにより、さらなる高容量化が達成できる。
【0044】
実施の形態1における正極活物質において、リチウム複合酸化物の平均粒径は、15μm以上25μm以下であってもよい。
【0045】
リチウム複合酸化物の平均粒径が15μm以上25μm以下であることにより、さらなる高容量化が達成できる。
【0046】
実施の形態1における正極活物質において、リチウム複合酸化物のBET比表面積は、5m2/g以上10m2/g以下である。このような高い比表面積を有するリチウム複合酸化物を正極活物質として使用することで、当該正極活物質では、Li拡散長が減少し、かつ電池構成内での電解液との接触面積が増大する。このため、急速充放電に適した電池を実現できると考えられる。
【0047】
実施の形態1における正極活物質において、リチウム複合酸化物のBET比表面積は、7.5m2/g以上8.1m2/g以下であってもよい。
【0048】
リチウム複合酸化物のBET比表面積が7.5m2/g以上8.1m2/g以下であることにより、急速充放電に適した高容量の電池を実現できる。
【0049】
実施の形態1における正極活物質において、リチウム複合酸化物の平均結晶子サイズは、150Å以上350Å以下である。
【0050】
ここで、実施の形態1における正極活物質において、リチウム複合酸化物の結晶子サイズは、XRD測定時において(003)面を反映するピークを代表にとり、シェラーの式等を用いることで算出することができる。なお、一般的には酸化物を焼成する際には焼成温度が高いほど回折線幅は狭くなり、結晶子サイズは等方的に大きくなる。
【0051】
平均結晶子サイズは、実施の形態1における正極活物質について、5個のサンプルを用いてXRD測定を行ってリチウム複合酸化物の結晶子サイズを求め、それらの平均値を算出することによって求められる。
【0052】
実施の形態1における正極活物質において、リチウム複合酸化物は、大粒径および高比表面積を両立している。このようなリチウム複合酸化物において、平均結晶子サイズが上記の範囲を満たすことにより、より高容量かつ入出力特性に優れた電池を実現できると考えられる。平均結晶子サイズが大きすぎる場合、Li拡散長が長くなり、高容量化において不利になると考えられる。一方、平均結晶子サイズが小さすぎる場合、正極活物質が十分に結晶成長していないため、高容量化において不利になることが考えられる。平均結晶子サイズが150Å以上350Å以下を満たすことにより、高容量化において不利となる上記問題が生じにくいので、高容量かつ入出力特性に優れた電池が実現できる。
【0053】
ここで、比較形態として、例えば特許文献1に記載されている正極活物質について検討する。特許文献1に記載されている正極活物質は、コア部分、コア部分周囲に位置するシェル部分、およびコア部分とシェル部分との間隙に存在する緩衝層を有している。特許文献1には、正極活物質として、BET比表面積が0.1m2/g以上1.9m2/g以下であり、平均粒径(D50)が2μm以上20μm以下であり、平均結晶子サイズが50nm以上150nm以下であることを特徴とする、リチウム複合遷移金属酸化物を開示している。
【0054】
すなわち、特許文献1に記載されている正極活物質では、本開示の実施の形態1における正極活物質のように、高充填化が期待される大粒径かつ、入出力特性に優れる高比表面積を両立するリチウム複合酸化物が実現されておらず、示唆もされていない。すなわち、実施の形態1における正極活物質は、従来技術からは容易に到達できない構成により、高容量の電池を実現している。
【0055】
また、実施の形態1における正極活物質において、リチウム複合酸化物は、リチウム以外の「遷移金属等のカチオン元素」として、例えば、Mn、Co、Ni、Fe、Cu、V、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、Ag、Ru、W、B、Si、P、およびAlからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0056】
また、実施の形態1における正極活物質において、リチウム複合酸化物は、上述の「遷移金属等のカチオン元素」として、例えば、Mn、Co、Ni、Fe、Cu、V、Ti、Cr、およびZnからなる群より選択される少なくとも1種、すなわち、少なくとも1種の3d遷移金属元素を含んでもよい。
【0057】
以上の構成によれば、より高容量の電池を実現できる。
【0058】
また、実施の形態1における正極活物質において、リチウム複合酸化物は、上述の「遷移金属等のカチオン元素」として、例えば、Mn、Co、Ni、およびAlからなる群より選択される少なくとも1種を含んでもよい。
【0059】
以上の構成によれば、より高容量の電池を実現できる。
【0060】
また、実施の形態1における正極活物質において、リチウム複合酸化物は、Mnを含んでもよい。
【0061】
以上の構成によれば、酸素と軌道混成しやすいMnを含むことで、充電時における酸素脱離が抑制される。また、上述のように第一の相と第二の相とを有する結晶内において、さらに結晶構造が安定化する。このため、より多くのLiを挿入および脱離させることが可能になると考えられる。このため、より高容量の電池を実現できる。
【0062】
次に、実施の形態1における正極活物質において、リチウム複合酸化物の化学組成の一例を説明する。
【0063】
実施の形態1における正極活物質において、リチウム複合酸化物の平均組成は、下記の組成式(1)で表されてもよい。
LixMeyOαQβ ・・・式(1)
【0064】
ここで、Meは、Mn、Co、Ni、Fe、Cu、V、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、Ag、Ru、W、B、Si、P、およびAlからなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。
【0065】
また、Qは、F、Cl、N、およびSからなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。
【0066】
組成式(1)は、下記の条件、
1.05≦x≦1.5、
0.6≦y≦1.0、
1.2≦α≦2.0、および
0<β≦0.8、
を満たしてもよい。
【0067】
以上の構成によれば、より高容量の電池を実現できる。
【0068】
なお、実施の形態1においては、Meが2種以上の元素(例えば、Me’、Me”)からなり、かつ、組成比が「Me’y1Me”y2」である場合には、「y=y1+y2」である。例えば、Meが2種の元素(MnおよびCo)からなり、かつ、組成比が「Mn0.6Co0.2」である場合には、「y=0.6+0.2=0.8」である。また、Qが2種以上の元素からなる場合についても、Meの場合と同様に計算できる。
【0069】
なお、組成式(1)において、xが1.05以上の場合、利用できるLi量が多くなる。このため、容量が向上する。
【0070】
また、組成式(1)において、xが1.5以下の場合、利用できるMeの酸化還元反応が多くなる。この結果、酸素の酸化還元反応を多く利用する必要がなくなる。これにより、結晶構造が安定化する。このため、容量が向上する。
【0071】
また、組成式(1)において、yが0.6以上の場合、利用できるMeの酸化還元反応が多くなる。この結果、酸素の酸化還元反応を多く利用する必要がなくなる。これにより、結晶構造が安定化する。このため、容量が向上する。
【0072】
また、組成式(1)において、yが1.0以下の場合、利用できるLi量が多くなる。このため、容量が向上する。
【0073】
また、組成式(1)において、αが1.2以上の場合、酸素の酸化還元による電荷補償量が低下することを防ぐことができる。このため、容量が向上する。
【0074】
また、組成式(1)において、αが2.0以下の場合、酸素の酸化還元による容量が過剰となることを防ぐことができ、Liが脱離した際に構造が安定化する。このため、容量が向上する。
【0075】
また、組成式(1)において、βが0よりも大きい場合、電気化学的に不活性なQの影響により、Liが脱離した際に構造が安定化する。このため、容量が向上する。
【0076】
また、組成式(1)において、βが0.8以下の場合、電気化学的に不活性なQの影響が大きくなることを防ぐことができるため、電子伝導性が向上する。このため、容量が向上する。
【0077】
なお、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物の「平均組成」とは、リチウム複合酸化物に対して各相の組成の違いを考慮せずに元素分析を行なうことによって得られる組成である。典型的には、リチウム複合酸化物の一次粒子のサイズと同程度、または、それよりも大きな試料を用いて元素分析を行なうことによって得られる組成を意味する。また、互いに異なる結晶構造を有する各相(例えば、第一の相と第二の相)は、互いに同一の化学組成を有してもよいし、互いに異なる化学組成を有していてもよい。
【0078】
なお、上述の平均組成は、ICP発光分光分析法、不活性ガス溶融-赤外線吸収法、イオンクロマトグラフィー、またはそれら分析方法の組み合わせにより決定することができる。
【0079】
また、組成式(1)において、Meは、Mn、Co、Ni、Fe、Cu、V、Ti、Cr、およびZnからなる群より選択される少なくとも1種、すなわち、少なくとも1種の3d遷移金属元素を含んでもよい。
【0080】
以上の構成によれば、より高容量の電池を実現できる。
【0081】
また、組成式(1)において、Meは、Mn、Co、Ni、およびAlからなる群より選択される少なくとも1種を含んでもよい。
【0082】
以上の構成によれば、より高容量の電池を実現できる。
【0083】
また、組成式(1)において、Meは、Mnを含んでもよい。
【0084】
すなわち、Meは、Mnであってもよい。
【0085】
もしくは、Meは、Co、Ni、Fe、Cu、V、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、Ag、Ru、W、B、Si、P、およびAlからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、Mnとを、含んでもよい。
【0086】
以上の構成によれば、酸素と軌道混成しやすいMnを含むことで、充電時における酸素脱離が抑制される。また、上述のように第一の相と第二の相とを有する結晶内において、さらに結晶構造が安定化する。このため、より高容量の電池を実現できる。
【0087】
また、組成式(1)において、Meに対するMnの割合が、59.9モル%以上であってもよい。すなわち、Mnを含むMe全体に対する、Mnのmol比(Mn/Me比)が、0.599~1.0の関係を満たしてもよい。
【0088】
以上の構成によれば、酸素と軌道混成しやすいMnを多く含むことで、充電時における酸素脱離がさらに抑制される。また、上述のように第一の相と第二の相とを有する結晶内において、さらに結晶構造が安定化する。このため、より高容量の電池を実現できる。
【0089】
また、組成式(1)において、Meは、B、Si、P、およびAlからなる群より選択される少なくとも1種を、Meに対して20モル%以下含んでもよい。
【0090】
以上の構成によれば、共有結合性が高い元素を含むことによって構造が安定化するため、サイクル特性が向上する。このため、より長寿命の電池を実現できる。
【0091】
また、組成式(1)において、Qは、Fを含んでもよい。
【0092】
すなわち、Qは、Fであってもよい。
【0093】
もしくは、Qは、Cl、N、およびSからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、Fとを、含んでもよい。
【0094】
以上の構成によれば、電気陰性度が高いFによって酸素の一部を置換することで、カチオン-アニオンの相互作用が増加し、電池の放電容量または作動電圧が向上する。また、電気陰性度の高いFを固溶させることで、Fを含まない場合と比較して電子が局在化する。このため、充電時における酸素脱離を抑制することができるため、結晶構造が安定化する。また、上述のように第一の相と第二の相とを有する結晶内において、さらに結晶構造が安定化する。これらの効果が総合的に作用することで、より高容量の電池を実現できる。
【0095】
また、組成式(1)は、下記の条件、
1.166≦x≦1.4、および
0.67≦y≦1.0、
を満たしてもよい。
【0096】
以上の構成によれば、より高容量の電池を実現できる。
【0097】
また、組成式(1)は、下記の条件、
1.33≦α≦1.917、
0.083≦β≦0.67、
を満たしてもよい。
【0098】
以上の構成によれば、酸素の酸化還元による容量が過剰となることを防ぐことができ、電気化学的に不活性なQの影響が十分に受けられることにより、Liが脱離した際に構造が安定化する。このため、より高容量の電池を実現できる。
【0099】
組成式(1)において、「Li」と「Me」の比率は、x/yで示される。
【0100】
組成式(1)は、1.39≦x/y≦2.0、を満たしてもよい。
【0101】
以上の構成によれば、より高容量の電池を実現できる。
【0102】
なお、x/yが1よりも大きい場合、例えば、組成式LiMnO2で示される従来の正極活物質よりも、Liが位置するサイトにおけるLi原子数の割合が高い。これにより、より多くのLiを挿入および脱離させることが可能となる。
【0103】
また、x/yが1.39以上の場合、利用できるLi量が多く、Liの拡散パスが適切に形成される。このため、より高容量の電池を実現できる。
【0104】
また、x/yが2.0以下の場合、利用できるMeの酸化還元反応が少なくなることを防ぐことができる。この結果、酸素の酸化還元反応を多く利用する必要がなくなる。また、充電時におけるLi脱離時に結晶構造が不安定化し、放電時のLi挿入効率が低下することを防ぐことができる。このため、より高容量の電池を実現できる。
【0105】
また、組成式(1)は、1.5≦x/y≦2.0、を満たしてもよい。
【0106】
以上の構成によれば、より高容量の電池を実現できる。
【0107】
組成式(1)において、「O」と「Q」の比率は、α/βで示される。
【0108】
組成式(1)は、2≦α/β≦23.1、を満たしてもよい。
【0109】
以上の構成によれば、より高容量の電池を実現できる。
【0110】
なお、α/βが2以上の場合、酸素の酸化還元による電荷補償量が低下することを防ぐことができる。また、電気化学的に不活性なQの影響を小さくできるため、電子伝導性が向上する。このため、より高容量の電池を実現できる。
【0111】
また、α/βが23.1以下の場合、酸素の酸化還元による容量が過剰となることを防ぐことができ、Liが脱離した際に構造が安定化する。また、電気化学的に不活性なQの影響を受けることにより、Liが脱離した際に構造が安定化する。このため、より高容量の電池を実現できる。
【0112】
組成式(1)において、「Li+Me」と「O+Q」の比率(すなわち、「カチオン」と「アニオン」の比率)は、(x+y)/(α+β)で示される。
【0113】
組成式(1)は、0.75≦(x+y)/(α+β)≦1.2、を満たしてもよい。
【0114】
以上の構成によれば、より高容量の電池を実現できる。
【0115】
なお、(x+y)/(α+β)が0.75以上の場合、合成時に分相して不純物が多く生成することを防ぐことができる。このため、より高容量の電池を実現できる。
【0116】
また、(x+y)/(α+β)が1.2以下の場合、アニオンの欠損量が少ない構造となり、充電時におけるLi脱離時に結晶構造が安定化する。このため、より高容量の電池を実現できる。
【0117】
また、組成式(1)は、1.0≦(x+y)/(α+β)≦1.2、を満たしてもよい。
【0118】
以上の構成によれば、より高容量の電池を実現できる。
【0119】
また、実施の形態1における正極活物質において、リチウム複合酸化物におけるLiの一部は、NaあるいはKなどのアルカリ金属で置換されていてもよい。
【0120】
また、実施の形態1における正極活物質は、上述のリチウム複合酸化物を、主成分として(すなわち、正極活物質の全体に対する質量割合で50%以上(50質量%以上))、含んでもよい。
【0121】
以上の構成によれば、より高容量の電池を実現できる。
【0122】
また、実施の形態1における正極活物質は、上述のリチウム複合酸化物を、正極活物質の全体に対する質量割合で70%以上(70質量%以上)、含んでもよい。
【0123】
以上の構成によれば、より高容量の電池を実現できる。
【0124】
また、実施の形態1における正極活物質は、上述のリチウム複合酸化物を、正極活物質の全体に対する質量割合で90%以上(90質量%以上)、含んでもよい。
【0125】
以上の構成によれば、より高容量の電池を実現できる。
【0126】
なお、実施の形態1における正極活物質は、上述のリチウム複合酸化物を含みながら、さらに、不可避的な不純物を含んでもよい。
【0127】
また、実施の形態1における正極活物質は、上述のリチウム複合酸化物を含みながら、さらに、正極活物質を合成する際に用いられる出発原料および副生成物および分解生成物からなる群より選択される少なくとも一つを含んでもよい。
【0128】
また、実施の形態1における正極活物質は、例えば、混入が不可避的な不純物を除いて、上述のリチウム複合酸化物のみを、含んでもよい。
【0129】
以上の構成によれば、より高容量の電池を実現できる。
【0130】
<リチウム複合酸化物の作製方法>
以下に、実施の形態1の正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物の製造方法の一例が、説明される。
【0131】
実施の形態1において、リチウム複合酸化物は、例えば、次の方法により、作製されうる。
【0132】
まず、Me原料物質と、塩基性化合物とを混合し、pH7以上pH8.5以下で共沈反応させて、Me含有前駆体種結晶を含む懸濁液を準備する。
【0133】
次に、上記懸濁液において、pH7以上pH8.5以下で、Me含有前駆体種結晶の粒子を成長させる。
【0134】
次に、成長させたMe含有前駆体種結晶の粒子を、リチウム原料物質およびQ原料物質と混合した後、熱処理を施す。
【0135】
上記懸濁液の作製に用いられるMe原料物質としては、例えば、MeSO4、Me(NO3)2、Me(CH3COO)2等のMeを含む化合物が挙げられる。
【0136】
上記懸濁液の作製に用いられる塩基性化合物としては、例えば、Na2CO3、K2CO3、NaHCO3、KHCO3等の炭酸塩および炭酸水素塩等が挙げられる。
【0137】
例えば、Meを含むMe原料物質を所定の濃度(例えば2mol/L)となるように純水に溶解させることで、Me源を含んだ溶液Aが作製される。また、塩基性化合物を所定の濃度(例えば2mol/L)となるように純水に溶解させることで、塩基性化合物を含む溶液Bが作製される。作製された2つの溶液Aおよび溶液Bを純水に、pHを7以上8.5以下の範囲で制御しながら滴下していくことで、前駆体としてのMe含有前駆体種結晶が得られる。Me含有前駆体種結晶を含む懸濁液中で、pHを7以上8.5以下の範囲で制御しながら、Me含有前駆体種結晶の粒子を成長させる。
【0138】
次に、リチウム複合酸化物を作製するにあたり、Li原料物質、前駆体としての上記のMe含有前駆体種結晶の粒子、および、Q原料物質を用意する。
【0139】
Li原料物質としては、例えば、Li2O、Li2O2等の酸化物、LiF、Li2CO3、LiOH等の塩類、LiMeO2、LiMe2O4等のリチウム複合酸化物、など、が挙げられる。
【0140】
また、Q原料物質としては、例えば、ハロゲン化リチウム、遷移金属ハロゲン化物、遷移金属硫化物、遷移金属窒化物など、が挙げられる。
【0141】
例えば、QがFの場合には、F原料物質としては、例えば、LiF、遷移金属フッ化物、など、が挙げられる。
【0142】
これらの原料を、組成式(1)に示したモル比となるように、秤量する。秤量した原料を、例えば、乾式法または湿式法で混合し、その後、熱処理する。
【0143】
これらの工程により、組成式(1)における「x、y、α、および、β」を、組成式(1)で示す範囲において、変化させることができる。
【0144】
このときの熱処理の条件は、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物が得られるように適宜設定される。熱処理の最適な条件は、他の製造条件および目標とする組成に依存して異なる。
【0145】
熱処理の温度は、例えば、200~900℃の範囲で、適宜変更することができる。熱処理に要する時間は、例えば、1分から20時間の範囲で、適宜変更することができる。熱処理の雰囲気としては、大気雰囲気、酸素雰囲気、または、窒素もしくはアルゴンなどの不活性雰囲気、であってもよい。
【0146】
また、熱処理は、例えば2段階以上で、分けて行ってもよい。
【0147】
熱処理の温度は、例えば、600~750℃の範囲であってもよい。例えば熱処理が2段階で実施される場合、2段階目の熱処理の温度が600~750℃の範囲であってもよい。このような温度範囲で熱処理が行われることにより、BET比表面積が5m2/g以上10m2/g以下および平均粒径が3μm以上30μm以下を満たすリチウム複合酸化物を合成しやすくなる。
【0148】
以上のように、用いる原料、原料混合物の混合条件、および熱処理条件を調整することにより、実質的に、実施の形態1における正極活物質を構成するリチウム複合酸化物を得ることができる。
【0149】
なお、上述のとおり、得られたリチウム複合酸化物が有する結晶構造の空間群は、例えば、X線回折測定または電子線回折測定により、特定することができる。これにより、たとえば、得られたリチウム複合酸化物が、空間群C2/m、および、R3-mに属する結晶構造を有することを確認できる。
【0150】
また、得られたリチウム複合酸化物の平均組成は、例えば、ICP発光分光分析法、不活性ガス溶融-赤外線吸収法、イオンクロマトグラフィー、またはそれら分析方法の組み合わせにより、決定することができる。
【0151】
(実施の形態2)
以下、実施の形態2が説明される。なお、上述の実施の形態1と重複する説明は、適宜、省略される。
【0152】
実施の形態2における電池は、上述の実施の形態1における正極活物質を含む正極と、負極と、電解質と、を備える。
【0153】
以上の構成によれば、高容量の電池を実現できる。
【0154】
また、実施の形態2における電池において、正極は、正極活物質層を備えてもよい。このとき、正極活物質層は、上述の実施の形態1における正極活物質を、主成分として(すなわち、正極活物質層の全体に対する質量割合で50%以上(50質量%以上))、含んでもよい。
【0155】
以上の構成によれば、より高容量の電池を実現できる。
【0156】
もしくは、実施の形態2における電池において、正極活物質層は、上述の実施の形態1における正極活物質を、正極活物質層の全体に対する質量割合で70%以上(70質量%以上)、含んでもよい。
【0157】
以上の構成によれば、より高容量の電池を実現できる。
【0158】
もしくは、実施の形態2における電池において、正極活物質層は、上述の実施の形態1における正極活物質を、正極活物質層の全体に対する質量割合で90%以上(90質量%以上)、含んでもよい。
【0159】
以上の構成によれば、より高容量の電池を実現できる。
【0160】
実施の形態2における電池は、例えば、リチウムイオン二次電池、非水電解質二次電池、全固体電池、など、として、構成されうる。
【0161】
すなわち、実施の形態2における電池において、負極は、例えば、リチウムイオンを吸蔵および放出しうる負極活物質を含んでもよい。あるいは、負極は、例えば、リチウム金属を負極活物質として溶解および析出させうる材料を含んでもよい。
【0162】
また、実施の形態2における電池において、電解質は、例えば、非水電解質(例えば、非水電解液)であってもよい。
【0163】
また、実施の形態2における電池において、電解質は、例えば、固体電解質であってもよい。
【0164】
図1は、実施の形態2における電池の一例である電池10の概略構成を示す断面図である。
【0165】
図1に示されるように、電池10は、正極21と、負極22と、セパレータ14と、ケース11と、封口板15と、ガスケット18と、を備えている。
【0166】
セパレータ14は、正極21と負極22との間に、配置されている。
【0167】
正極21と負極22とセパレータ14とには、例えば、非水電解質(例えば、非水電解液)が含浸されている。
【0168】
正極21と負極22とセパレータ14とによって、電極群が形成されている。
【0169】
電極群は、ケース11の中に収められている。
【0170】
ガスケット18と封口板15とにより、ケース11が閉じられている。
【0171】
正極21は、正極集電体12と、正極集電体12の上に配置された正極活物質層13と、を備えている。
【0172】
正極集電体12は、例えば、金属材料(例えば、アルミニウム、ステンレス、ニッケル、鉄、チタン、銅、パラジウム、金、および白金からなる群より選択される少なくとも1種、またはそれらの合金)で作られている。
【0173】
なお、正極集電体12を省略し、ケース11を正極集電体として使用することも可能である。
【0174】
正極活物質層13は、上述の実施の形態1における正極活物質を含む。
【0175】
正極活物質層13は、必要に応じて、例えば、添加剤(導電剤、イオン伝導補助剤、結着剤、など)を含んでいてもよい。
【0176】
負極22は、負極集電体16と、負極集電体16の上に配置された負極活物質層17と、を備えている。
【0177】
負極集電体16は、例えば、金属材料(例えば、アルミニウム、ステンレス、ニッケル、鉄、チタン、銅、パラジウム、金、および白金からなる群より選択される少なくとも1種、またはそれらの合金)で作られている。
【0178】
なお、負極集電体16を省略し、封口板15を負極集電体として使用することも可能である。
【0179】
負極活物質層17は、負極活物質を含んでいる。
【0180】
負極活物質層17は、必要に応じて、例えば、添加剤(導電剤、イオン伝導補助剤、結着剤、など)を含んでいてもよい。
【0181】
負極活物質として、金属材料、炭素材料、酸化物、窒化物、錫化合物、珪素化合物、など、が使用されうる。
【0182】
金属材料は、単体の金属であってもよい。もしくは、金属材料は、合金であってもよい。金属材料の例として、リチウム金属、リチウム合金、など、が挙げられる。
【0183】
炭素材料の例として、天然黒鉛、コークス、黒鉛化途上炭素、炭素繊維、球状炭素、人造黒鉛、非晶質炭素、など、が挙げられる。
【0184】
容量密度の観点から、負極活物質として、珪素(Si)、錫(Sn)、珪素化合物、錫化合物、を使用できる。珪素化合物および錫化合物は、それぞれ、合金または固溶体であってもよい。
【0185】
珪素化合物の例として、SiOx(ここで、0.05<x<1.95)が挙げられる。また、SiOxの一部の珪素を他の元素で置換することによって得られた化合物(合金または固溶体)も使用できる。ここで、他の元素とは、ホウ素、マグネシウム、ニッケル、チタン、モリブデン、コバルト、カルシウム、クロム、銅、鉄、マンガン、ニオブ、タンタル、バナジウム、タングステン、亜鉛、炭素、窒素および錫からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0186】
錫化合物の例として、Ni2Sn4、Mg2Sn、SnOx(ここで、0<x<2)、SnO2、SnSiO3、など、が挙げられる。これらから選択される1種の錫化合物が、単独で使用されてもよい。もしくは、これらから選択される2種以上の錫化合物の組み合わせが、使用されてもよい。
【0187】
また、負極活物質の形状は特に限定されない。負極活物質としては、公知の形状(粒子状、繊維状、など)を有する負極活物質が使用されうる。
【0188】
また、リチウムを負極活物質層17に補填する(吸蔵させる)ための方法は、特に限定されない。この方法としては、具体的には、(a)真空蒸着法などの気相法によってリチウムを負極活物質層17に堆積させる方法、(b)リチウム金属箔と負極活物質層17とを接触させて両者を加熱する方法がある。いずれの方法においても、熱によってリチウムを負極活物質層17に拡散させることができる。また、リチウムを電気化学的に負極活物質層17に吸蔵させる方法もある。具体的には、リチウムを有さない負極22およびリチウム金属箔(正極)を用いて電池を組み立てる。その後、負極22にリチウムが吸蔵されるように、その電池を充電する。
【0189】
正極21および負極22の結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、など、が使用されうる。または、結着剤として、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエタン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸、ヘキサジエン、からなる群より選択される2種以上の材料の共重合体が、使用されてもよい。さらに、上述の材料から選択される2種以上の材料の混合物が、結着剤として、使用されてもよい。
【0190】
正極21および負極22の導電剤としては、グラファイト、カーボンブラック、導電性繊維、フッ化黒鉛、金属粉末、導電性ウィスカー、導電性金属酸化物、有機導電性材料、など、が使用されうる。グラファイトの例としては、天然黒鉛および人造黒鉛が挙げられる。カーボンブラックの例としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックが挙げられる。金属粉末の例としては、アルミニウム粉末が挙げられる。導電性ウィスカーの例としては、酸化亜鉛ウィスカーおよびチタン酸カリウムウィスカーが挙げられる。導電性金属酸化物の例としては、酸化チタンが挙げられる。有機導電性材料の例としては、フェニレン誘導体が挙げられる。
【0191】
なお、上述の導電剤として使用されうる材料を用いて、上述の結着剤の表面の少なくとも一部を被覆してもよい。例えば、上述の結着剤は、カーボンブラックにより表面を被覆されてもよい。これにより、電池の容量を向上させることができる。
【0192】
セパレータ14としては、大きいイオン透過度および十分な機械的強度を有する材料が使用されうる。このような材料の例としては、微多孔性薄膜、織布、不織布、など、が挙げられる。具体的に、セパレータ14は、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィンで作られていることが望ましい。ポリオレフィンで作られたセパレータ14は、優れた耐久性を有するだけでなく、過度に加熱されたときにシャットダウン機能を発揮できる。セパレータ14の厚さは、例えば、10~300μm(または10~40μm)の範囲にある。セパレータ14は、1種の材料で構成された単層膜であってもよい。もしくは、セパレータ14は、2種以上の材料で構成された複合膜(または、多層膜)であってもよい。セパレータ14の空孔率は、例えば、30~70%(または35~60%)の範囲にある。「空孔率」とは、セパレータ14の全体の体積に占める空孔の体積の割合を意味する。「空孔率」は、例えば、水銀圧入法によって測定される。
【0193】
非水電解液は、非水溶媒と、非水溶媒に溶けたリチウム塩と、を含む。
【0194】
非水溶媒としては、環状炭酸エステル溶媒、鎖状炭酸エステル溶媒、環状エーテル溶媒、鎖状エーテル溶媒、環状エステル溶媒、鎖状エステル溶媒、フッ素溶媒、など、が使用されうる。
【0195】
環状炭酸エステル溶媒の例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、など、が挙げられる。
【0196】
鎖状炭酸エステル溶媒の例としては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、など、が挙げられる。
【0197】
環状エーテル溶媒の例としては、テトラヒドロフラン、1、4-ジオキサン、1、3-ジオキソラン、など、が挙げられる。
【0198】
鎖状エーテル溶媒としては、1、2-ジメトキシエタン、1、2-ジエトキシエタン、など、が挙げられる。
【0199】
環状エステル溶媒の例としては、γ-ブチロラクトン、など、が挙げられる。
【0200】
鎖状エステル溶媒の例としては、酢酸メチル、など、が挙げられる。
【0201】
フッ素溶媒の例としては、フルオロエチレンカーボネート、フルオロプロピオン酸メチル、フルオロベンゼン、フルオロエチルメチルカーボネート、フルオロジメチレンカーボネート、など、が挙げられる。
【0202】
非水溶媒として、これらから選択される1種の非水溶媒が、単独で、使用されうる。もしくは、非水溶媒として、これらから選択される2種以上の非水溶媒の組み合わせが、使用されうる。
【0203】
非水電解液には、フルオロエチレンカーボネート、フルオロプロピオン酸メチル、フルオロベンゼン、フルオロエチルメチルカーボネート、フルオロジメチレンカーボネートからなる群より選択される少なくとも1種のフッ素溶媒が含まれていてもよい。
【0204】
これらのフッ素溶媒が非水電解液に含まれていると、非水電解液の耐酸化性が向上する。
【0205】
その結果、高い電圧で電池10を充電する場合にも、電池10を安定して動作させることが可能となる。
【0206】
また、実施の形態2における電池において、電解質は、固体電解質であってもよい。
【0207】
固体電解質としては、有機ポリマー固体電解質、酸化物固体電解質、硫化物固体電解質、など、が用いられる。
【0208】
有機ポリマー固体電解質としては、例えば高分子化合物と、リチウム塩との化合物が用いられうる。
【0209】
高分子化合物はエチレンオキシド構造を有していてもよい。エチレンオキシド構造を有することで、リチウム塩を多く含有することができ、イオン導電率をより高めることができる。
【0210】
酸化物固体電解質としては、例えば、LiTi2(PO4)3およびその元素置換体を代表とするNASICON型固体電解質、(LaLi)TiO3系のペロブスカイト型固体電解質、Li14ZnGe4O16、Li4SiO4、LiGeO4およびその元素置換体を代表とするLISICON型固体電解質、Li7La3Zr2O12およびその元素置換体を代表とするガーネット型固体電解質、Li3NおよびそのH置換体、Li3PO4およびそのN置換体、など、が用いられうる。
【0211】
硫化物固体電解質としては、例えば、Li2S-P2S5、Li2S-SiS2、Li2S-B2S3、Li2S-GeS2、Li3.25Ge0.25P0.75S4、Li10GeP2S12、など、が用いられうる。また、これらに、LiX(X:F、Cl、Br、I)、MOy、LixMOy(M:P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれか)(x、y:自然数)などが、添加されてもよい。
【0212】
これらの中でも、特に、硫化物固体電解質は、成形性に富み、イオン伝導性が高い。このため、固体電解質として、硫化物固体電解質を用いることで、より高エネルギー密度の電池を実現できる。
【0213】
また、硫化物固体電解質の中でも、Li2S-P2S5は、電気化学的安定性が高く、よりイオン伝導性が高い。このため、固体電解質として、Li2S-P2S5を用いれば、より高エネルギー密度の電池を実現できる。
【0214】
なお、固体電解質層は、上述の非水電解液を含んでもよい。
【0215】
固体電解質層が非水電解液を含むことで、活物質と固体電解質との間でのリチウムイオン授受が容易になる。その結果、より高エネルギー密度の電池を実現できる。
【0216】
なお、固体電解質層は、固体電解質に加えて、ゲル電解質、イオン液体、など、を含んでもよい。
【0217】
ゲル電解質は、ポリマー材料に非水電解液を含ませたものを用いることができる。ポリマー材料として、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルニトリル、ポリフッ化ビニリデン、およびポリメチルメタクリレート、もしくはエチレンオキシド結合を有するポリマーが用いられてもよい。
【0218】
イオン液体を構成するカチオンは、テトラアルキルアンモニウム、テトラアルキルホスホニウムなどの脂肪族鎖状4級塩類、ピロリジニウム類、モルホリニウム類、イミダゾリニウム類、テトラヒドロピリミジニウム類、ピペラジニウム類、ピペリジニウム類などの脂肪族環状アンモニウム、ピリジニウム類、イミダゾリウム類などの含窒ヘテロ環芳香族カチオンなどであってもよい。イオン液体を構成するアニオンは、PF6
-、BF4
-、SbF6
-、AsF6
-、SO3CF3
-、N(SO2CF3)2
-、N(SO2C2F5)2
-、N(SO2CF3)(SO2C4F9)-、C(SO2CF3)3
-などであってもよい。また、イオン液体はリチウム塩を含有してもよい。
【0219】
リチウム塩としては、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiSO3CF3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)、LiC(SO2CF3)3、など、が使用されうる。リチウム塩として、これらから選択される1種のリチウム塩が、単独で、使用されうる。もしくは、リチウム塩として、これらから選択される2種以上のリチウム塩の混合物が、使用されうる。リチウム塩の濃度は、例えば、0.5~2mol/リットルの範囲にある。
【0220】
なお、実施の形態2における電池は、コイン型、円筒型、角型、シート型、ボタン型、扁平型、積層型、など、種々の形状の電池として、構成されうる。
【0221】
(実施例)
<実施例1>
[正極活物質の作製]
MnSO4と、NiSO4と、CoSO4とを、Mn/Ni/Co=6.0/2.0/2.0のモル比となるようにそれぞれ秤量した。得られた原料を、Mn+Ni+Coの濃度が2mol/Lとなるように純水に溶解し、Mn、Ni、およびCoを含む溶液(すなわち、Me原料物質を含む溶液)を得た。また、別の容器中に、KHCO3の濃度が2mol/LとなるようにKHCO3を純水に溶解して、KHCO3溶液を得た。
【0222】
次に、1Lのオーバーフローパイプを備えた反応容器に、500mLの純水を用意した。この純水に対して、Me原料物質を含む溶液を0.7mL/minで滴下し、かつpHを7.5に保つようにKHCO3溶液を滴下した。液温を60℃に保ち、Me原料物質とKHCO3との反応を8時間続けた。
【0223】
反応後、反応容器内に残った溶液を回収した。回収された溶液に対し、洗浄、ろ過、および120℃で12時間の真空乾燥を行った。これにより、正極活物質の前駆体としてのMeCO3が得られた。
【0224】
得られた上記前駆体とLi2CO3とLiFとを、Li/Mn/Co/Ni/O/F=1.166/0.5/0.167/0.167/1.917/0.083のモル比となるようにそれぞれ秤量した。
【0225】
次に、一段階目の熱処理として、得られた混合物を、400℃で10時間、大気雰囲気において熱処理した。
【0226】
次に、二段階目の熱処理として、得られた混合物を、700℃で10時間、大気雰囲気において熱処理した
【0227】
これにより、リチウム複合酸化物が得られた。このリチウム複合酸化物を、実施例1の正極活物質とした。
【0228】
得られた正極活物質に対して、粉末X線回折測定を実施した。これにより、正極活物質を構成するリチウム複合酸化物の結晶構造を解析した。
【0229】
得られた正極活物質を構成するリチウム複合酸化物は、空間群C2/mに属する結晶構造を有する第一の相と、空間群R-3mに属する結晶構造を有する第二の相との二相混合物であった。
【0230】
原料のモル比から求められる実施例1のリチウム複合酸化物の平均組成は、表1に示されているように、Li1.166Mn0.5Co0.167Ni0.167O1.917F0.083で表される。
【0231】
得られた正極活物質、すなわちリチウム複合酸化物について、BET比表面積、平均粒径、および平均結晶子サイズが求められた。結果は、表1に示されている。BET比表面積、平均粒径、および平均結晶子サイズの測定方法は、以下のとおりである。
【0232】
図2は、実施例1における正極活物質のSEM像である。
【0233】
(BET比表面積)
得られた正極活物質であるリチウム複合酸化物のBET比表面積を測定した。測定には、窒素ガス吸脱着装置である、AUTOSORB-3(ユアサイオニクス(株))を用いた。リチウム複合酸化物を50mg秤量し、測定セルに封入し、150℃で4時間真空乾燥させた後、液体窒素で冷却しながら測定を実施した。
【0234】
(平均粒径)
得られた正極活物質であるリチウム複合酸化物のSEM像を取得した。測定にはJSM-6700F(日本電子(株))を用いた。このSEM像を用いて、リチウム複合酸化物の100個の粒子の粒径を測定した。測定結果から、粒径の平均値が算出された。
【0235】
(平均結晶子サイズ)
得られた正極活物質であるリチウム複合酸化物の結晶子サイズを測定した。測定には、X回折装置である、MiniFlex(リガク(株))を用いた。結晶子サイズの測定を5箇所で実施して、その平均値を「平均結晶子サイズ」とした。
【0236】
[電池の作製]
70質量部の上述の正極活物質と、20質量部の導電剤と、10質量部のポリフッ化ビニリデン(PVDF)と、適量の2-メチルピロリドン(NMP)とを、混合した。これにより、正極合剤スラリーを得た。
【0237】
20μmの厚さのアルミニウム箔で形成された正極集電体の片面に、正極合剤スラリーを塗布した。
【0238】
正極合剤スラリーを乾燥および圧延することによって、正極活物質層を備えた厚さ60μmの正極板を得た。
【0239】
得られた正極板を、直径12.5mmの円形状に打ち抜くことによって、正極を得た。
【0240】
また、厚さ300μmのリチウム金属箔を、直径14.0mmの円形状に打ち抜くことによって、負極を得た。
【0241】
また、フルオロエチレンカーボネート(FEC)とエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを、1:1:6の体積比で混合して、非水溶媒を得た。
【0242】
この非水溶媒に、LiPF6を、1.0mol/リットルの濃度で、溶解させることによって、非水電解液を得た。
【0243】
得られた非水電解液を、セパレータ(セルガード社製、品番2320、厚さ25μm)に、染み込ませた。当該セパレータは、ポリプロピレン層とポリエチレン層とポリプロピレン層とで形成された、3層セパレータである。
【0244】
上述の正極と負極とセパレータとを用いて、露点が-50℃に管理されたドライボックスの中で、CR2032規格のコイン型電池を、作製した。
【0245】
<実施例2および3>
上述の実施例1から、二段階目の加熱温度を、表1に示された加熱温度に変更した。これ以外は、上述の実施例1と同様にして、実施例1と同様の平均組成を有するリチウム複合酸化物を合成した。このリチウム複合酸化物を、実施例2および3の正極活物質とした。
【0246】
得られた正極活物質に対して、粉末X線回折測定を実施した。これにより、正極活物質を構成するリチウム複合酸化物の結晶構造を解析した。その結果、実施例2および3の正極活物質を構成するリチウム複合酸化物は、空間群C2/mに属する結晶構造を有する第一の相と、空間群R-3mに属する結晶構造を有する第二の相との二相混合物であった。
【0247】
得られた正極活物質、すなわちリチウム複合酸化物について、実施例1と同様の方法で、BET比表面積、平均粒径、および平均結晶子サイズが求められた。結果は、表1に示されている。
【0248】
得られた正極活物質を用いて、上述の実施例1と同様にして、実施例2および3のコイン型電池を作製した。
【0249】
<比較例1>
公知の手法を用いて、炭酸リチウムと酸化コバルトとの混合物を焼成する固相法を用いて、LiCoO2で表される組成を有する正極活物質を得た。
【0250】
得られた正極活物質に対して、粉末X線回折測定を実施した。これにより、比較例1の正極活物質を構成するリチウム複合酸化物の結晶構造を解析した。その結果、比較例1の正極活物質を構成するリチウム複合酸化物は、空間群R-3mに属する結晶構造のみを有する単一相であった。
【0251】
得られた正極活物質、すなわちリチウム複合酸化物について、実施例1と同様の方法で、平均粒径が求められた。結果は、表1に示されている。
【0252】
得られた正極活物質を用いて、上述の実施例1と同様にして、比較例1のコイン型電池を作製した。
【0253】
<比較例2>
公知の共沈法を用いて、Mn0.357Co0.143Ni0.143OH2で表される組成を有する水酸化物前駆体を合成した。次に、得られた前駆体に、実施例1と同様の加熱条件により熱処理を施して、実施例1と同様の平均組成を有するリチウム複合酸化物を合成した。このリチウム複合酸化物を、比較例2の正極活物質とした。
【0254】
得られた正極活物質に対して、粉末X線回折測定を実施した。これにより、正極活物質を構成するリチウム複合酸化物の結晶構造を解析した。その結果、比較例2の正極活物質を構成するリチウム複合酸化物は、空間群C2/mに属する結晶構造を有する第一の相と、空間群R-3mに属する結晶構造を有する第二の相との二相混合物であった。
【0255】
得られた正極活物質、すなわちリチウム複合酸化物について、実施例1と同様の方法で、BET比表面積、平均粒径、および平均結晶子サイズが求められた。結果は、表1に示されている。
【0256】
得られた正極活物質を用いて、上述の実施例1と同様にして、比較例2のコイン型電池を作製した。
【0257】
<比較例3~6>
上述の実施例1から、二段階目の加熱温度を変更した。具体的には300~1000℃の範囲で加熱温度を調整し、その他は実施例1と同様にして、比較例3から6のリチウム複合酸化物を合成した。表1に、比較例3~6における二段階目の加熱温度が示される。
【0258】
得られた正極活物質に対して、粉末X線回折測定を実施した。これにより、比較例3~6の正極活物質を構成するリチウム複合酸化物の結晶構造を解析した。その結果、比較例3~6の正極活物質を構成するリチウム複合酸化物は、空間群C2/mに属する結晶構造を有する第一の相と、空間群R-3mに属する結晶構造を有する第二の相との二相混合物であった。
【0259】
比較例3~6の正極活物質、すなわちリチウム複合酸化物について、実施例1と同様の方法で、BET比表面積、平均粒径、および平均結晶子サイズが求められた。結果は、表1に示されている。
【0260】
比較例3~6の正極活物質を用いて、上述の実施例1と同様にして、比較例3~6のコイン型電池を作製した。
【0261】
<電池の評価>
正極に対する電流密度を0.5mA/cm2に設定し、4.7Vの電圧に達するまで、実施例1の電池を充電した。
【0262】
その後、放電終止電圧を2.5Vに設定し、0.5mA/cm2の電流密度で、実施例1の電池を放電させた。
【0263】
実施例1の電池の初回放電容量は、274mAh/gであった。
【0264】
実施例2および3、ならびに比較例2~6のコイン型電池についても、実施例1と同じ方法で初回放電容量を測定した。実施例2および3、ならびに比較例2~6の電池の初回放電容量は、表1に示されているとおりである。
【0265】
比較例1の電池は、次のように評価された。
【0266】
正極に対する電流密度を0.5mA/cm2に設定し、4.3Vの電圧に達するまで、比較例1の電池を充電した。
【0267】
その後、放電終止電圧を2.5Vに設定し、0.5mA/cm2の電流密度で、比較例1の電池を放電させた。
【0268】
比較例1の電池の初回放電容量は、150mAh/gであった。
【0269】
以上の結果が、表1に示される。
【0270】
【0271】
表1に示されるように、実施例1~3の電池は、240~274mAh/gの初回放電容量を有していた。この内、実施例1の電池の初回放電容量が最も高かった。一方、比較例1~6の電池は、51~221mAh/gの初回放電容量であった。このように、実施例1~3の電池は、比較例1~6の電池よりも初回放電容量が高かった。
【0272】
この理由は、実施例1~3における正極活物質を構成するリチウム複合酸化物は、BET比表面積が5m2/g以上10m2/g以下の範囲を満たし、かつ平均粒径が3μm以上30μm以下の範囲を満たしているためであると考えられる。さらに、実施例1~3における正極活物質を構成するリチウム複合酸化物は、平均結晶子サイズが150Å以上350Å以下の範囲も満たしている。
【0273】
実施例1~3における正極活物質を構成するリチウム複合酸化物は、上記のとおり、大きいBET比表面積と大きい平均粒径との両方を満たしている。BET比表面積が大きいリチウム複合酸化物が正極活物質として用いられる場合、Li拡散長が短くなり、高容量化において有利になると考えられる。また、平均粒径が大きいリチウム複合酸化物が正極活物質として用いられる場合、高充填化が可能となり、高容量化が達成できると考えられる。実施例1~3のリチウム複合酸化物では、大きいBET比表面積と大きい平均粒径との両方が実現されているので、高容量化が達成できたと考えられる。
【0274】
比較例2、5、および6における正極活物質を構成するリチウム複合酸化物は、大きい平均粒子径を有しているものの、BET比表面積が小さかった。したがって、比較例2、5、および6における正極活物質では、Li拡散長が長くなり、高容量化が困難となったと考えられる。
【0275】
なお、比較例3および4における正極活物質を構成するリチウム複合酸化物は、平均粒径が3μm以上30μm以下の範囲であって、かつ大きいBET比表面積も満たしている。しかし、BET比表面積が10m2/gを超える大きすぎる値である場合、実際の電池を作製する場合には、高充填化において不利と考えられる。その結果、比較例3および4の電池は、高容量化が困難となり、初回放電容量が実施例1の電池よりも小さくなったと考えられる。
【0276】
なお、比較例1における正極活物質を構成するリチウム複合酸化物は、3μmよりも小さい平均粒径を有していた。このため、比較例1の電池では、正極活物質の高充填化が実現できず、初回放電容量が大きく低下したと考えられる。
【0277】
また、平均結晶子サイズが大きすぎる場合、Li拡散長が長くなり、高容量化において不利になると考えられる。一方、平均結晶子サイズが小さすぎる場合、正極活物質が十分に結晶成長していないため、高容量化において不利になることが考えられる。高容量化を実現しうる平均結晶子サイズは、150Å以上350Å以下の範囲と考えられる。実施例1のリチウム複合酸化物の平均結晶子サイズは、150Å以上350Å以下の範囲を満たしている。したがって、実施例1の電池は、さらなる高容量化が実現できたと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0278】
本開示の正極活物質は、二次電池などの電池の正極活物質として、利用されうる。
【符号の説明】
【0279】
10 電池
11 ケース
12 正極集電体
13 正極活物質層
14 セパレータ
15 封口板
16 負極集電体
17 負極活物質層
18 ガスケット
21 正極
22 負極