(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】発注支援装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/087 20230101AFI20240802BHJP
G05B 19/418 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
G06Q10/087
G05B19/418 Z
(21)【出願番号】P 2020080494
(22)【出願日】2020-04-30
【審査請求日】2023-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000233538
【氏名又は名称】株式会社日立ソリューションズ東日本
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚原 朋哉
(72)【発明者】
【氏名】清藤 駿成
(72)【発明者】
【氏名】宗形 聡
(72)【発明者】
【氏名】木村 雅典
(72)【発明者】
【氏名】竹内 忠重
(72)【発明者】
【氏名】土井長 輝夫
【審査官】池田 聡史
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-211870(JP,A)
【文献】特開2004-295227(JP,A)
【文献】特開2000-053218(JP,A)
【文献】特開2007-140785(JP,A)
【文献】内海由博,“デマンドチェーンとサプライチェーンの融合 ~ビジネスモデルに即した在庫調整の実現に向けて~”,流通ネットワーキング,日本工業出版(株),2016年03月10日,第294号,pp.13~18
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
G05B 19/418
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PSI(生産/販売/在庫)データから需要予測を行う需要予測処理部と、前記PSIデータから品目の欠品と過剰在庫とを判定する在庫診断処理部と、を有し、さらに、
前記PSIデータと前記需要予測処理部による需要予測結果とに基づいて未来の在庫データを算出し、時間軸と在庫量とにより画定されるグラフの時間軸上において未来の在庫状況を未来の生産/販売データとともにグラフ表示させる可視化処理部と、を有し、
前記可視化処理部は、
グラフの時間軸上においてある日付の間隔で未来の日付の在庫状況の診断結果を、グラフの背景として視覚的に識別可能な形態で表示させる
発注支援装置。
【請求項2】
前記PSIデータと、前記需要予測結果とから未来のPSIデータのうち、未来の在庫データを作り、未来の日付の在庫状態を診断し、前記診断の結果において、欠品リスクが発生する日付Aがある場合、前記日付Aからリードタイム日数分より前の日付を発注日とすることを特徴とする請求項1に記載の発注支援装置。
【請求項3】
前記PSIデータと前記需要予測結果とから得られた未来のPSIデータのうちの未来の在庫データを求め、
前記需要予測結果と前記未来の日付の在庫データとに基づいて以下の処理1),2)により発注量を算出する
請求項1又は2に記載の発注支援装置。
1)生産日に入庫される在庫量を生産量とし、生産量を増やしながら生産日とそれ以降の日で在庫量を増やし、生産日前後の在庫量の変化で影響を受ける監視期間の在庫診断処理を行う。
2)1)の在庫診断処理結果が過剰状態となる手前の生産量を発注量とする。
【請求項4】
品目の発注日を手動で変更したときに、手動の変更に連動して前記診断を実施し、診断結果を表示することで手動調整を支援することを特徴とする請求項2に記載の発注支援装置。
【請求項5】
品目の発注量を手動で変更したときに、手動の変更に連動して前記
監視期間の在庫診断
処理を実施し、診断結果を表示することで手動調整を支援することを特徴とする請求項3に記載の発注支援装置。
【請求項6】
さらに、需要予測の上振れの状態又は下振れ状態で在庫診断をすることにより、
需要が上振れ・下振れした場合でも欠品や過剰とならない発注量を算出することを特徴とする請求項1から5までのいずれか1項に記載の発注支援装置。
【請求項7】
コンピュータに発注支援方法を実行させるためのプログラムであって、
前記発注支援方法は、
前記コンピュータが、PSIデータ(生産/販売/在庫)から需要予測を行う需要予測処理ステップと、
前記コンピュータが、前記PSIデータから品目の欠品と過剰在庫とを判定する在庫診断処理ステップと、
前記コンピュータが、前記PSIデータと前記需要予測処理ステップによる需要予測結果とに基づいて未来の在庫データを算出し、時間軸と在庫量とにより画定されるグラフの時間軸上において未来の在庫状況を未来のPSIデータとともにグラフ表示させる可視化処理ステップと、を有し、
前記可視化処理ステップ
において、
前記コンピュータは、グラフの時間軸上においてある日付の間隔で未来の日付の在庫状況の診断結果を、グラフの背景として視覚的に識別可能な形態で表示させる
、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発注支援技術に関し、特に品目の適正な在庫状態を維持するために、未来の在庫状態の推移を診断して結果を可視化し、発注日と発注量を自動で提案することにより、発注業務を支援する在庫管理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、顧客のニーズの多様化による多種多様な製品と部品が増加し、管理対象の在庫品目の増加、発注業務の増加につながっている。
発注業務の支援のために在庫状態を可視化する技術として、在庫推移と欠品情報の確認をする技術がある(例えば、下記特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の物流管理方法および情報処理装置によれば、情報処理装置の情報表示画面に、商品および当該商品の流通拠点を設定する第1ステップと、情報表示画面に提示された複数種の在庫管理方式の中から一つの在庫管理方式を選択する第2ステップと、選択された在庫管理方式における在庫量の時間遷移モデルの表示領域と、当該在庫管理方式のシミュレーションに必要な商品および流通拠点に関する数値情報の表示領域および入力領域の少なくとも一方、とを情報表示画面に表示する第3ステップと、情報処理装置における選択された在庫管理方式による数値情報を用いたシミュレーションの実行結果を、在庫推移を示すグラフとして可視化して情報表示画面に出力する第4ステップと、シミュレーションの実行結果に基づいて一つの在庫管理方式を決定する第5ステップと、を含む物流管理技術を提供することで、在庫日数(=期間在庫合計/期間出荷合計)や欠品率(=期間欠品数合計/期間受注数合計)の在庫推移の確認をしやすく、在庫管理方式を実際の在庫計画システムに反映させる方式設定が可能である。そのため、拠点/商品毎にきめ細かに最適な在庫管理方式を設定することができる。また、拠点/商品毎にきめ細かに在庫管理方式を設定する際のシミュレーション結果確認を画面上で簡単に行い、在庫管理方式の設定作業を効率的に行える。
また、特許文献2は、PSI(Product on, Sales and Inventory)の推移状況を畳み込みニューラルネットワークを用いて把握する技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-078487号公報
【文献】特開2019-211870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以下において先行技術等における課題について説明する。
1)課題1: 可視化情報の不足
先行技術においては、在庫推移に合わせて欠品が発生する様子を可視化しているものがある。しかしながら、可視化できるのは在庫推移から判断できる欠品の状態のみである。より良い在庫管理を行うためには、生産・販売・在庫の相互の状態を考慮して診断した結果が必要である、品目が欠品しそうであるか、また、品目が過剰状態にあるのかなどの在庫状態の診断結果の情報も可視化されていることが好ましい。
【0006】
2)課題2: 在庫状態の診断の実施回数の負担
在庫管理担当者は欠品や過剰とならない適正な在庫状態を維持する在庫管理が求められており、大量の品目に対して品目ごとの生産・販売・在庫データ(以降PSIデータと称する。)を元に在庫状態を診断する必要がある。さらに、需要予測の上振れ・下振れも考慮して在庫状態が欠品や過剰とならないように適正な在庫状態を維持するために、1つの品目に対しても複数回在庫状態の診断をする必要があり、在庫管理担当者の大きな負荷となっており、その作業負荷軽減が求められている。
【0007】
3)課題3: 診断結果の判断根拠の記録
発注業務では、通常、在庫管理担当者だけではなく発注とりまとめ部署や調達など複数人で発注の正しさをチェックすることが好ましい。判断材料としては需要予測結果に伴い変化するPSIデータと安全在庫情報が主であり、在庫管理担当者のように需要と生産・在庫の時系列の変化から任意の時点の在庫の適正度合いを診断することは難しい。そのため、在庫管理担当者の発注判断の根拠情報を知ることは難しい。
【0008】
4)課題4: 見直しされない安全在庫の信頼性の低下
不定期発注を行う場合、従来技術では商品ごとに設定した固定値の安全在庫を下回るタイミングで発注をする方式があるが、需要の変動によって安全在庫は変動しており定期的な見直しをすべきである。
しかしながら、大量の品目を扱う場合定期的な見直しは難しく、見直しされないままとなることがある。そのため、固定された安全在庫によって必ずしもよい発注日とならない課題がある。
【0009】
5)課題5: 発注量の調整負荷
不定量発注の場合、従来技術では在庫月数等の固定値を基に発注量を決定しているが、需要の変動によって必要とされる発注量は変動しており定期的な見直しをすべきである。また、需要予測の上振れ・下振れを考慮して、欠品や過剰とならない発注量を決定すべきであり、発注量の調整とそれに伴う在庫状態を診断する必要があり、在庫管理担当者の大きな負担となっている。
【0010】
本発明は、上記の課題を解決し、適正な在庫状態を維持するために、未来の在庫状態の推移を診断し結果を可視化することを目的とする。そして、発注日と発注量を自動で提案する、発注業務を支援する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一観点によれば、PSI(生産/販売/在庫)データから需要予測を行う需要予測処理部と、前記PSIデータから品目の欠品と過剰在庫とを判定する在庫診断処理部と、を有し、さらに、前記PSIデータと前記需要予測処理部による需要予測結果とに基づいて未来の在庫データを算出し、時間軸と在庫量とにより画定されるグラフの時間軸上において未来の在庫状況を未来の生産/販売データとともにグラフ表示させる可視化処理部とを有し、前記可視化処理部は、グラフの時間軸上においてある日付の間隔で未来の日付の在庫状況の診断結果(欠品や理想的、過剰等)を、グラフの背景として視覚的に識別可能な形態で表示させることを特徴とする発注支援装置が提供される。日付の間隔は、一例であり、週間隔などの所定の間隔で良い。
【0012】
在庫診断結果はPSIデータの背景、または、近傍に表示することで在庫の適正状態を把握しやすくする。診断結果はその種類(欠品や理想的、過剰等)に応じて、色や模様、記号等で表示する。
【0013】
前記PSIデータと、前記需要予測結果とから未来のPSIデータのうち、未来の在庫データを作り、未来の日付の在庫状態を診断し、前記診断の結果において、欠品リスクが発生する日付Aがある場合、前記日付Aからリードタイム日数分より前の日付を発注日とすることが好ましい。
これにより発注日を自動決定することができる。
【0014】
前記PSIデータ(入力1)と前記需要予測結果(未来の販売データ: 入力2)とから得られた未来のPSIデータのうちの未来の在庫データを求め(入力3)、前記需要予測結果と前記未来の在庫データとに基づいて以下の処理1),2)により発注量を算出するようにすると良い。
1)生産日(発注した在庫が入庫される日)に入庫される在庫量を生産量とし、生産量を増やしながら生産日とそれ以降の日で在庫量を増やし、生産日前後の在庫量の変化で影響を受ける監視期間の在庫診断処理を行う。
2)1)の在庫診断処理結果が過剰状態となる手前の(理想的な)状態となる生産量を発注量とする。
これにより発注量を自動決定することができる。
【0015】
また、表示部に表示された前記未来の在庫状況と前記未来の生産/販売データとから、前記発注日における前記発注量からそれ以降の販売量を減算して在庫量を計算して前記表示部に表示させることが好ましい。
また、表示部に表示された前記未来の在庫状況と前記未来の生産/販売データとから、前記発注日における前記発注量からそれ以降の販売量を減算して在前記発注日における発注量を計算して前記表示部に表示させることが好ましい。
品目の発注日を手動で変更したときに、手動の変更に連動して前記診断を実施し、診断結果を表示することで手動調整を支援するようにすると良い。
また、品目の発注量を手動で変更したときに、手動の変更に連動して前記診断を実施し、診断結果を表示することで手動調整を支援すると良い。
発注量を変更したときに、発注量の変化で影響を受ける監視期間で適正な在庫状態となる量を発注量として算出する在庫の適正度合いの診断を実施するようにしても良い。
これにより、在庫管理担当者の負荷を軽減することができる。
【0016】
さらに、需要予測で上振れの結果のときには適正度合いの下限以上となるような発注量とし、下振れの結果のときには適正度合いの上限以下となるような発注量とすることで、在庫状態が欠品や過剰とならないように適正な在庫状態を維持する作業が容易になる。
【0017】
本発明の他の観点によれば、PSIデータ(生産/販売/在庫)から需要予測を行う需要予測処理ステップと、前記PSIデータから品目の欠品と過剰在庫とを判定する在庫診断処理ステップと、を有し、さらに、前記PSIデータと前記需要予測処理ステップによる需要予測結果とに基づいて未来の在庫データを算出し、時間軸と在庫量とにより画定されるグラフの時間軸上において未来の在庫状況を未来のPSIデータとともにグラフ表示させる可視化処理ステップと、を有し、前記可視化処理ステップは、グラフの時間軸上においてある日付の間隔で未来の日付の在庫状況の診断結果を、グラフの背景として視覚的に識別可能な形態で表示させることを特徴とする発注支援方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、品目の未来の在庫状態の推移を診断し、診断結果を可視化するができる。これにより、発注日と発注量を自動で提案することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施の形態による発注支援装置の一構成例を示す機能ブロック図である。
【
図2】本実施の形態による発注支援処理の流れの一例を示すフローチャート図である。
【
図3】可視化処理の一例を示す表示であり、横軸が日付けなどの時間軸、縦軸が数量(在庫量など)である。
【
図4】発注日算出処理部における発注日の自動決定の処理の流れの一例を示すフローチャート図である。
【
図5】発注量算出処理部における発注量の自動決定の処理の流れの一例を示すフローチャート図である。
【
図6】
図5の繰り返し処理1の流れを示すフローチャート図である。
【
図7】
図5の繰り返し処理2の流れを示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書において、PSIデータとは、生産/販売/在庫データを指す。
以下に、本発明の一実施の形態による発注支援装置について図面を参照しながら詳細に説明する。特許文献2の内容も適宜参照して説明する。
図1は、本実施の形態による発注支援装置の一構成例を示す機能ブロック図である。
図1に示す発注支援装置Aは、各種データを格納するメモリなどのデータベースDB100と各種の処理を行うCPUなどの処理部110と、結果を表示する表示部116と、を有している。
【0021】
処理部110は、需要予測処理部111と、在庫診断処理部112と、発注日算出処理部113と、発注量算出処理部114と、可視化処理部115とを有する。
処理部110は、データベースDB100内に格納されたデータを取得して処理を行い、その処理結果として得られたデータをデータベースDB100に格納する。そして、データベースDB100内に格納された処理結果データに基づいて、表示部116にPSIデータ在庫診断結果等の発注支援のための表示をする。
【0022】
まず、過去~現在PSIデータ101(例えば、特許文献2の表1に示すようなデータ)を入力として、需要予測処理部111による任意の処理を行い、未来のPSIデータ102の予測される販売・在庫データを生成しておく。
尚、需要予測処理とは以下のものを言う。
いつどのくらい品目が売れるか、を予測する技術
入力情報例
過去の品目の売り上げデータ(周期的情報)
カレンダー(曜日・祝日・イベントの情報)
天気
予測対象の製品(品目)の類似製品のPSIデータ
出力
品目の販売予測数
【0023】
【0024】
まず、診断対象品目のPSIデータがメモリ上で保持される形式の例を表1に示す。表1には、品目コード、年月日、生産数、販売数、在庫数が示されており、特許文献2に記載されている表1に対応するデータである。
表1では、例えば、在庫管理担当者が管理する100品目について1年間(2017年4月1日~2018年3月31日)の日別のPSI実績値が示されている。但し、表1は例示であり、後述する
図3に示すデータとは、表示項目は同じであるが、実際の値等は異なっているがこの相違は本質的なものでない。
【0025】
次に、過去~現在PSIデータ101、未来PSIデータ102を入力として任意の在庫診断処理部112による処理を実施し、在庫診断結果データ103(例えば特許文献2の表2の診断結果種別に示すようなデータ)を生成しておく。
尚、在庫診断処理とは以下のものを言う。
PSIデータをもとに在庫の健全度合いを診断する技術
入力情報例
生産量
販売量:販売数、販売移動和、月次販売
在庫量:在庫数、発注残込み在庫数
休日情報
出力情報例
診断結果(以下例)
欠品
欠品リスクあり
理想的
普通
過剰在庫
超過剰在庫
【0026】
【0027】
表2は、例えばCNNモデルの学習に用いる教師データメモリ上で保持される形式の例を示す表である。
本実施の形態による教師データとは、過去に在庫診断の対象となった品目のPSIデータと、当該品目の診断結果とから構成される。表2の例では、例えば、過去に在庫診断された1,000品目に対する1年間(2016年4月1日~2017年3月31日)の日別のPSI実績値とその診断結果種別とが格納されている。1年間のPSIデータの推移状況と診断結果の関連をCNNモデルで学習するため、各品目の日々の診断結果種別には同じ値が格納されている。但し、表2は例示であり、後述する
図3に示すデータとは、表示項目は同じであるが、実際の値等は異なっている。
【0028】
診断結果種別は、メモリ上では問題なしを“0”、過剰在庫を“1”、過少在庫を“2”に対応させた数値としている。対応させる数値は過少在庫“0”、問題なし“1”、過剰在庫“2”など順序尺度を表す数値としてもよい。順序尺度とすることで、特許文献2の処理において役立つ。これは、熟練者がつけた教師ラベル(過剰在庫、など)と、システムが判定したラベル(普通)などを比較するときに、順序尺度でラベルを付けていると判定のずれ度合いを判定しやすいためである。診断結果の種別を、例えば「問題なし」、「過剰」、「急増」、「急減」、「滞留」のようにより細分化してそれぞれに対応する数値を割当てることもできる。また、表1および表2のPSIデータは数量(個数や梱数)としているが、金額など日々の実績を記録した数値であれば、数量と同様に用いることができる。
【0029】
(在庫診断結果の可視化処理)
診断結果の可視化処理部115は、以下の処理を行う。
期間ごとに診断結果を表す情報(色・模様・マーク)を表示する。
在庫量・販売量・生産量と合わせて過去の期間~未来の期間の診断結果を表示することで、発注の根拠となる情報の確認を発注者が容易できるようにする。
在庫量・販売量など条件の変更に伴い、その結果を診断し可視化することで、生産日・生産量の調整や需要予測結果の変動を把握しやすくする。
【0030】
図2は、本実施の形態による発注支援処理の流れの一例を示すフローチャート図である。
図3は、可視化処理の一例を示す表示であり、横軸が日付けなどの時間軸、縦軸が数量(在庫量など)である。
【0031】
処理が開始され(開始)、ステップS1において、需要予測処理部111が需要予測処理を実行し、過去から現在のPSIデータから需要予測情報を使い、未来のPSIデータを生成する。
ステップS2において、在庫診断処理部112が在庫診断処理を実行し、過去から現在のPSIデータと未来のPSIデータから、在庫診断結果データを生成する。
在庫診断処理部112は、現在までの生産量・販売量・在庫量から現在の在庫を診断する。
また、需要予測結果を基に未来の生産量・販売量・在庫量から未来の在庫を診断する。
【0032】
ステップS3において、過去~現在PSIデータと未来のPSIデータで、可視化処理部115が、生産、販売、在庫推移を、棒グラフ、折れ線グラフなどでPSIデータ在庫診断結果表示部116に表示させることで情報を可視化する。
ステップS4において、PSIデータ在庫診断結果表示部116に、在庫診断結果データをステップS3で可視化した領域の背景色として表示する。
以上により処理が終了する(終了)。
図3に示すように、PSIデータ在庫診断結果表示部116による可視化表示例は、在庫量R1と、販売(出荷)量L1と、を示している。
図3の左端の破線L2が現在の日付(t1)を表しており、それ以降は未来の日付を表している。
【0033】
そして、未来において、在庫量が少なくなったタイミングで在庫を増やすように部品等を入庫させる(例えばt2)。この線L3は、入庫タイミング(=生産日)と入庫量(=生産量)を示している。
また、表示の背景として、過剰在庫の期間を示す背景色R2と、適正在庫の期間を示す背景色R3とを、識別可能に表示している。
また、需要予測の上振れ・下振れ状態も診断することで、需要が上振れ・下振れした場合でも欠品や過剰とならない生産量(=発注量)を算出するようにしても良い。
現在までの生産量・販売量・在庫量から在庫を診断する。また、需要予測結果を基に未来の生産量・販売量・在庫量から在庫を診断する。
【0034】
図3に示す表示例を参照することで、生産・販売・在庫の相互の状態を考慮して診断し、品目が欠品しそうなのか、また、過剰状態にあるのかなどの在庫状態の診断結果の情報を一目で見ることができる。
このように、
図3の表示を用いれば、未来の在庫を時系列で診断し、その結果を識別できるように在庫のグラフと合わせて表示し、在庫の状態が健全であるか否かを視覚的に認識/把握できる。
【0035】
また、生産日や生産量を変更した場合、それに応じて未来の在庫を再診断し、生産日や生産量の調整に応じた在庫状態の変化を把握することも可能である。そして、発注日・発注量を自動で提案することもできる。
また、発注日又は発注量を手動で変更したときに、発注日又は発注量の手動の変更に連動させて診断を実施し、診断結果を表示することで手動調整を支援するようにしても良い。
欠品や過剰とならない適正な在庫状態を維持する在庫管理が可能であり、需要予測の上振れ・下振れも考慮して在庫状態が欠品や過剰とならないように適正な在庫状態を維持するようにすることができ、1つの品目に対しても複数回在庫状態の診断することに起因する在庫管理担当者の負荷の軽減が可能である。
また、在庫管理担当者のように需要と生産・在庫の時系列の変化から任意の時点の在庫の適正度合いを診断するための発注判断の根拠情報を知ることができる。生産計画や発注計画の見直しなどを行うことも簡単にできる。
さらに、需要予測の上振れ・下振れを考慮して、欠品や過剰とならない発注量を決定するための、発注量の調整とそれに伴う在庫状態を診断することが簡単になる。
【0036】
(発注日の自動決定処理)
図4は、発注日算出処理部113における発注日の自動決定の処理の流れの一例を示すフローチャート図である。
図4に示すように、処理を開始し(Start)、ステップS11において、処理対象日付をAとする。ステップS12において、日付Aで在庫診断処理を行う。
次いで、ステップS13において、在庫診断結果を更新する。ステップS14で、日付Aで欠品リスクがあるかどうかを判断する。販売量が多くなり在庫量が少なくなる傾向が進むことを意味する表示がなされると、欠品リスクと判断することができる。
【0037】
ステップS14において日付Aで欠品リスクが無ければ(No)、その時点では品目の発注日を決定しない(End)。
ステップS14で、日付Aで欠品リスクがあると判断される場合には(Yes)、ステップS15において、(日付A-リードタイム日数)の日付を求め、これを発注日Bとして、当該発注日Bに該当する品目を発注する(End)。
ステップS14でYes又はNoのいずれの場合も適切なタイミングで処理対象日付Aを変更しながら、当該処理を繰り返す。
【0038】
(発注量の自動決定処理)
図5は、発注量算出処理部114における発注量の自動決定処理の流れの一例を示すフローチャート図である。ここでは、特許文献2のような、PSIデータから欠品~過剰等在庫の状態を診断できる機能と、PSIデータから需要予測を行う機能とを有していることが前提となる。そして、入力として、(1)過去~現在のPSIデータ、(2)需要予測結果が必要となる。そして、入力(1)、(2)から未来PSIデータを用いる。ここで、未来の在庫データを作る予測結果は上振れ・下振れを含む複数の情報を使ってもよい。
発注量は大まかに以下の処理により求める。
1)生産日(発注した在庫が入庫される日)に入庫される在庫量を生産量とし、生産量を増やしながら生産日とそれ以降の日で在庫量を増やし、生産日前後の在庫量の変化で影響を受ける監視期間の在庫診断処理を行う。
2),1)の在庫診断処理結果が過剰状態となる手前の(理想的な)状態となる生産量を発注量とする。
但し、発注量は、上記処理1),2)により求めた値そのものに限定されるわけではなく、ある程度のマージンを持たせても良いことは言うまでも無い。
尚、在庫量を増やすとき、理想的な状態の量を%で指定し、理想的な状態を調整可能とする。
【0039】
図5に示すように、処理を開始し(Start)、ステップS21において、品目の発注による入庫日をCとする。
ステップS22において、日付C時点での在庫量をI
0とする。ステップS23において、発注後の目的とする在庫量の適正度合いを適正度合いPとする。ステップS24において、発注後の在庫の適正度合いを診断する日付をDとする。日付Dは複数あってもよい。そして、繰り返し処理として、繰り返し処理1(ステップS25)と繰り返し処理2(ステップS26)の2つのステップを実行する。
次に、ステップS25の繰り返し処理1について詳細に説明する。
【0040】
(繰り返し処理1)
図6は、繰り返し処理1の詳細な処理の流れを示すフローチャート図である。
ステップS25における繰り返し処理1では、ステップS25-1において、増加する在庫量をdI1とする。ステップS25-2において、日付Cとそれ以降の日付の在庫量でdI1だけ在庫量が増加する。尚、増加量dI1は任意に設定できる。例えば在庫数/20などである。ステップS25-3において、日付Dで診断を実施する。ステップS25-4で、日付Dで在庫量が適正度合いPになるかを判定する。日付Dで在庫量が適正度合いPになる場合には(Yes)、繰り返し処理1を終了する(End)。日付Dで庫量が適正度合いPにならない場合には(No)、ステップS25-1に戻る。
【0041】
(繰り返し処理2)
図7は、繰り返し処理2の詳細な処理の流れを示すフローチャート図である。
ステップS26の繰り返し処理2においては、ステップS26-1において、増加する在庫量をdI2とする。ステップS26-2において、日付Cとそれ以降の日付で在庫量をdI2増加させる。
ステップS26-3において、日付Dで診断を実施する。日付Dは複数あってもよい。ステップS26-4で、日付Dで在庫量が適正度合いPになるか否かを判定する。
【0042】
日付Dで適正度合いPになる場合には(ステップS26-4でYes)、ステップS26-1に戻る。そして、日付Dでの診断結果が適正度合いPにならなくなる(ステップS26-4でNo)まで処理を繰り返す。
日付Dで適正度合いPにならない(ステップS26-4でNo)の場合には、日付Cを含み、それ以降の日付で最後に増加した分の変更を取り消すために在庫量をdI2減少させ(ステップS26-5)、(過剰在庫となる手前の(理想的な)状態となる日付Cの在庫量)-(日付C時点での在庫量I0)を発注量とし(ステップS26-6)、処理を終了させる(End)。
ここで、ステップS26-4で判定する適正度合いPは、診断結果の確信度を利用し、確信度の%などの割合での指定も可能とする。これにより目的とする適正度合いPから外れてきたときに繰り返し処理を終了し、発注量を低く抑えた適正な在庫状態とすることも可能とする。また、在庫量を増加ではなく減少させることで、他の倉庫への在庫の移動や在庫の廃棄の場合の在庫量を算出することも可能である。
ここで、日付Cは在庫が入庫される生産日であり、日付Cからリードタイム日数分より前の日付が発注日であり、発注日に生産量(=発注量)分の発注をする。
以上の処理により、自動的に発注量を決定することができる。
【0043】
(実施例)
図8は、可視化の第2の表示例を示す図である。
図8は、(a)から(h)までの2行4列の表示例を含む。但し、
図8では、
図8(b)、
図8(f)以外は表示を省略している。
図8における基本的な表示は、
図3のものと同様である。
図8(b)の表示を参照すると、背景より過剰状態で生産したため(p1)、その後は超過剰(p2)になっていることがわかる。
【0044】
図8(f)の表示を参照すると、背景より過剰状態で生産しなかったため(p3)、その後は普通の状態(p4)から理想的な状態(p5)になっていることがわかる。
例えば、上記8つの表示のうち現在表示以外を過去の典型的な表示テンプレートにしておけば、過去の経験を参照して適正在庫の状態を保つように発注を支援することもできる。
【0045】
また、例えば、上記8つの表示のうち現在表示以外を種々の発注日や発注量とした場合の未来の表示をするようにしておけば、未来の状態を参照して適正在庫の状態を保つように現在の発注日や発注量を決めるための支援をすることもできる。
このように、本実施の形態による発注支援技術を用いると、現在の状況を把握することができるとともに、過去の経験を参照したり、熟練経験者の発注操作を参照したり、季節などの時期的な要因を考慮した過去の発注操作を参照したり、することができる。
【0046】
加えて、未来の在庫状態などを予測するための表示をすることもできるため、効果的な発注を行うことができる。
尚、例えば、
図8のように複数の表示を行っておき、これらのうちのいずれかを選択することで、選択した表示の場合の発注操作を実行するように構成しても良い。また、需要の上振れ・下振れの複数のパターンを並べて表示しておき、これらを参照して、適正な需要とするための参考としても良い。
【0047】
処理および制御は、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)によるソフトウェア処理、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)によるハードウェア処理によって実現することができる。
【0048】
また、上記の実施の形態において、図示されている構成等については、これらに限定されるものではなく、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【0049】
また、本発明の各構成要素は、任意に取捨選択することができ、取捨選択した構成を具備する発明も本発明に含まれるものである。
また、本実施の形態で説明した機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各部の処理を行ってもよい。尚、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
【0050】
また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また前記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。機能の少なくとも一部は、集積回路などのハードウェアで実現しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、発注支援装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0052】
A 発注支援装置
100 データベースDB
101 過去~現在PSIデータ
102 未来PSIデータ
103 在庫診断結果データ
110 処理部
111 需要予測処理部
112 在庫診断処理部
113 発注日算出処理部
114 発注量算出処理部
115 可視化処理部
116 表示部