(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
H01G 9/035 20060101AFI20240802BHJP
H01G 9/15 20060101ALI20240802BHJP
H01G 9/145 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
H01G9/035
H01G9/15
H01G9/145
(21)【出願番号】P 2020532492
(86)(22)【出願日】2019-07-26
(86)【国際出願番号】 JP2019029374
(87)【国際公開番号】W WO2020022472
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-07-08
(31)【優先権主張番号】P 2018140626
(32)【優先日】2018-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】椿 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】久保 大輔
(72)【発明者】
【氏名】青山 達治
【審査官】木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-037950(JP,A)
【文献】国際公開第2017/159243(WO,A1)
【文献】特開2017-147466(JP,A)
【文献】特開2010-040776(JP,A)
【文献】特開2003-282367(JP,A)
【文献】特開平01-103821(JP,A)
【文献】特開2010-251518(JP,A)
【文献】特開2019-029498(JP,A)
【文献】特開2006-108650(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/00- 9/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に誘電体層が形成された陽極体と、
陰極体と、
前記誘電体層と接触し、前記陽極体と前記陰極体との間に介在する導電性高分子を含む固体電解質と、
前記誘電体層及び前記固体電解質に接触し、溶媒及び酸成分を含む液状成分とを備え、
前記酸成分は、
ポリアクリル酸及びポリメタクリル酸の少なくとも一方である第1高分子酸成分を含み、
前記導電性高分子は、スルホン酸基を有する第2高分子酸成分を含
み、
前記液状成分中の前記第1高分子酸成分の濃度が、前記液状成分中の前記第1高分子酸成分を除いた前記酸成分の濃度よりも大きい、
電解コンデンサ。
【請求項2】
前記第1高分子酸成分の重量平均分子量は、前記第2高分子酸成分の重量平均分子量よりも小さい、
請求項1に記載の電解コンデンサ。
【請求項3】
前記溶媒は、
グリセリン及びポリグリセリンからなる群から選択される一種以上を含む、
請求項1
又は2に記載の電解コンデンサ。
【請求項4】
前記溶媒は、
繰り返し単位の炭素数
が3以上のポリアルキレングリコールを含む、
請求項1~
3のいずれか一項に記載の電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般には電解コンデンサに関し、詳細には、陽極体と陰極体と固体電解質と液状成分とを備える電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
小型で静電容量が大きく、等価直列抵抗(ESR:Equivalent Series Resistance)が低い電解コンデンサが有望視されている。例えば、誘電体層を形成した陽極体と、誘電体層の少なくとも一部を覆うように形成された固体電解質層と、電解液とを備え、固体電解質層として導電性高分子を使用した電解コンデンサがある。
【0003】
例えば、特許文献1には、誘電体層を有する陽極体と、誘電体層に接触した固体電解質槽と、電解液とを備える電解コンデンサが記載されている。特許文献1の電解コンデンサにおいて、固体電解質層は、π共役系導電性高分子及び第1スルホン酸を含み、電解液は、溶媒及び酸成分を含み、この酸成分は第2スルホン酸を含む。
【0004】
導電性高分子にドーパントを反応させることで、導電性高分子に導電性が付与される。電解コンデンサの使用に伴い、電解コンデンサの等価直列抵抗(ESR:Equivalent Series Resistance)が徐々に増大することがある。これは、電解液中で導電性高分子からドーパントが徐々に離れること(脱ドープ現象)が原因と考えられる。
【0005】
特許文献1の電解コンデンサでは、電解液中のスルホン酸によって、脱ドープ現象を抑制している。
【0006】
しかしながら、例えば、電解コンデンサに高周波が加わるような状態で電解コンデンサが使用されると、電解コンデンサが発熱することがあり、この熱によって単分子のスルホン酸がエステル化されて、電解液のpHが上昇する可能性がある。そのため、特許文献1に記載の電解コンデンサでは、脱ドープ現象を長期間に亘って抑制することが困難になり、ESRの変化を抑制しにくいという場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【0008】
本開示の目的は、ESRが変化しにくい電解コンデンサを提供することにある。
【0009】
本開示の一態様に係る電解コンデンサは、陽極体と陰極体と固体電解質と液状成分とを備える。前記陽極体は、表面に誘電体層が形成される。前記固体電解質は、前記誘電体層と接触し、前記陽極体と前記陰極体との間に介在する。前記固体電解質は、導電性高分子を含む。前記液状成分は、前記誘電体層及び前記固体電解質に接触し、溶媒及び酸成分を含む。前記酸成分は、スルホン酸基又はカルボン酸基を有する第1高分子酸成分を含む。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る電解コンデンサの概略の断面図である。
【
図2】
図2は、同上の電解コンデンサが備えるコンデンサ素子を一部展開した概略の斜視図である。
【
図3】
図3は、同上のコンデンサ素子において、陽極体と陰極体の間に固体電解質が形成された状態を示す概略の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.概要
本開示の一実施形態に係る電解コンデンサ1は、
図1~3に示すように、陽極体21と陰極体22と固体電解質25と液状成分26とを備える。陽極体21は、表面に誘電体層210が形成されている。固体電解質25は、誘電体層210と接触し、陽極体21と陰極体22との間に介在する。固体電解質25は、導電性高分子250を含む。液状成分26は、誘電体層210及び固体電解質25に接触し、溶媒及び酸成分を含む。この酸成分は、スルホン酸基又はカルボン酸基を有する第1高分子酸成分を含む。
【0012】
スルホン酸基又はカルボン酸基を有する第1高分子酸成分は、導電性高分子250からドーパントが離れる脱ドープ現象を抑制することができる。またスルホン酸基又はカルボン酸基を有する第1高分子酸成分は、単分子酸成分と比べて、エステル化反応等の化学反応が生じにくい。このため、電解コンデンサ1に発熱が生じやすい環境でも、液状成分26のpHが上昇しにくく、脱ドープ現象を長期間に亘って抑制することができる。このため、本実施形態の電解コンデンサ1では、ESRが変化することを抑制することができる。
【0013】
2.詳細
2-1.電解コンデンサ
以下、本実施形態に係る電解コンデンサ1の構成を詳細に説明する。
【0014】
電解コンデンサ1は、
図1に示すように、コンデンサ素子10と、有底ケース11(以下、ケース11ともいう)と、封止部材12と、座板13と、リード線14A、14Bと、リードタブ15A、15Bとを含む。
【0015】
(1)有底ケース
ケース11は、コンデンサ素子10を収容可能なように構成されている。具体的には、ケース11は、筒状の部材であって、底部が開口しておらず、頂部が開口している。このため、ケース11の開口からケース11の内部にコンデンサ素子10を入れることができる。ケース11は、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、銅、鉄、真鍮及びこれらの合金からなる群から選択される一種以上の材料製である。
【0016】
(2)封止部材及び座板
ケース11の開口は、封止部材12で塞がれている。封止部材12は、例えば、EPT(ethylene-propyleneterpolymer)、IIR(isobutylene‐isoprenerubber)等のゴム材料、又はエポキシ樹脂等の樹脂材料製である。封止部材12は、一対の貫通孔を備える。ケース11は、その開口端近傍が内側に向かって絞り加工され、その開口端はカール加工されており、これによって封止部材12がかしめられている。さらに、この封止部材12は、座板13で覆われている。座板13は、例えば絶縁性の樹脂材料製である。
【0017】
(3)リード線及びリードタブ
一対のリード線14A及びリード線14Bは、封止部材12の貫通孔から引き出され、かつ座板13を貫通している。一対のリードタブ15A及びリードタブ15Bは、封止部材12に埋め込まれている。リードタブ15Aは、リード線14Aとコンデンサ素子10の電極とを電気的に接続している。またリードタブ15Bは、リード線14Bとコンデンサ素子10の電極とを電気的に接続している。
【0018】
(4)コンデンサ素子
以下、ケース11内に収容されるコンデンサ素子10について、詳細に説明する。
【0019】
本実施形態のコンデンサ素子10は、
図2に示すように、巻回体である。
図2に示す巻回体は、
図1に示す電解コンデンサ1からコンデンサ素子10を取り出して、一部展開した状態を示している。
【0020】
コンデンサ素子10は、陽極体21と、陰極体22と、セパレータ23とを備える。
図2に示すように、陽極体21にはリードタブ15Aが電気的に接続され、陰極体22にはリードタブ15Bが電気的に接続されている。このため、陽極体21は、リードタブ15Aを介して、リード線14Aと電気的に接続され、陰極体22は、リードタブ15Bを介して、リード線14Bと電気的に接続されている。
【0021】
セパレータ23は、陽極体21と陰極体22との間に介在している。陽極体21と陰極体22とセパレータ23とは、この状態で巻回されている。セパレータ23は、例えば、セルロース、クラフト、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ナイロン、芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、レーヨン、ガラス質、ビニロン又はアラミド繊維等を含有する不織布である。コンデンサ素子10の最外周は、巻留めテープ24で留められて固定される。
【0022】
コンデンサ素子10において、陽極体21と陰極体22との間には、固体電解質25が形成されている。この状態を示す概略の拡大図を
図3に示す。
図3に示すように、セパレータ23は、固体電解質25を保持している。
【0023】
(4-1)陽極体
図3に示すように、陽極体21は、金属箔と、金属箔の表面に形成された誘電体層210と、を含む。
【0024】
金属箔は、その表面が粗面化されている。これにより、金属箔の表面積を増やすことができ、金属箔の表面に形成される誘電体層210の面積も増やすことができる。粗面化する方法は、特に限定されず、例えば、エッチング法を採用することができる。金属箔の材料は、特に限定されないが、例えば、アルミニウム、タンタル、ニオブ又はチタンなどの弁作用金属又は弁作用金属を含む合金であることが好ましい。
【0025】
誘電体層210は、金属箔の表面を化成処理することで形成される。この化成処理によって、金属箔の表面に酸化皮膜が形成され、この酸化皮膜が誘電体層210となる。化成処理は、例えば、金属箔を処理液に浸漬した状態で、金属箔に電圧を印加する方法を採用することができる。処理液としては、特に限定されないが、例えば、アジピン酸アンモニウム溶液を用いることができる。
【0026】
(4-2)陰極体
陰極体22としては、陽極体21の製造で使用される金属箔と同様の金属箔を用いることができる。陰極体22は、その表面が粗面化されていてもよい。陰極体22は、その表面に、例えばチタン又はカーボンを含む層が形成されていてもよい。
【0027】
(4-3)固体電解質
図3に示すように、固体電解質25は、誘電体層210と接触し、かつ、陽極体21及び陰極体22との間に介在する。固体電解質25は、内部に微細な空隙を有する多孔質である。固体電解質25は、内部に微細な空隙を有する多孔質である。固体電解質25は、揮発性液状成分と、この揮発性液状成分に分散された導電性高分子250を含む高分子分散体を、コンデンサ素子10に含浸させ、コンデンサ素子10から揮発性液状成分を揮発させることで形成され得る。この場合、電解コンデンサ1の耐電圧特性を向上させられる。このため、固体電解質25は、導電性高分子250を含む。また導電性高分子250は、誘電体層210の表面の少なくとも一部に付着される。また導電性高分子250は、セパレータ23に付着される。
【0028】
上記揮発性液状成分としては、例えば、水、非水溶媒、又は水と非水溶媒との混合物を使用することができる。非水溶媒としては、プロトン性溶媒又は非プロトン性溶媒を使用することができる。プロトン性溶媒は、例えば、アルコール類及びエーテル類のうち少なくとも一方を含むことができる。アルコール類は、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール及びプロピレングリコールからなる群から選択される一種以上を含むことができる。エーテル類は、例えば、ホルムアルデヒド及び1,4-ジオキサンのうち少なくとも一方を含むことができる。非プロトン性溶媒は、例えば、アミド類、エステル類及びケトン類からなる群から選択される一種以上を含むことができる。アミド類は、例えば、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド及びN-メチル-2-ピロリドンからなる群から選択される一種以上を含むことができる。エステル類は、例えば、酢酸メチルを含むことができる。ケトン類は、例えば、メチルエチルケトンを含むことができる。
【0029】
導電性高分子250は、例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン及びこれらの誘導体からなる群から選択される一種以上の成分を含むことが好ましい。例えば、ポリチオフェンの誘導体には、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等が含まれる。導電性高分子250は、単独重合体を含んでいてもよく、共重合体を含んでいてもよい。導電性高分子250の重量平均分子量は、特に限定されないが、例えば1000~100000である。
【0030】
導電性高分子250には、ドーパントが取り込まれている。このドーパントによって、導電性高分子250は導電性を発現することができる。本実施形態では、ドーパントが第2高分子酸成分である。すなわち導電性高分子250は、第1高分子酸成分とは別の第2高分子酸成分を含むことが好ましい。この場合、ドーパントとして単分子酸成分を含む場合よりも、導電性高分子250からドーパント(第2高分子酸成分)が離れにくく、特に高温下でも導電性高分子250からドーパント(第2高分子酸成分)が離れにくい。
【0031】
第2高分子酸成分は、高分子スルホン酸であることが好ましい。この場合、導電性高分子250からドーパント(第2高分子酸成分)が離れにくく、特に高温下でも導電性高分子250からドーパント(第2高分子酸成分)が離れにくい。第2高分子酸成分は、例えば、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)及びポリイソプレンスルホン酸からなる群から選択される一種以上を含むことができる。
【0032】
第2高分子酸成分は、ポリスチレンスルホン酸を含むことが特に好ましい。この場合、導電性高分子250が、ポリスチレンスルホン酸の側鎖に、島状に分散して結合した状態となると考えられる。このため、導電性高分子250からドーパント(第2高分子酸成分)が離れにくく、特に高温下でも導電性高分子250からドーパント(第2高分子酸成分)が離れにくい。
【0033】
(4-4)液状成分
液状成分26は、コンデンサ素子10に含浸されており、具体的には、固体電解質25の複数の空隙内に液状成分26が入り込んでいる。このため、液状成分26は、誘電体層210及び固体電解質25と接触している。
【0034】
液状成分26は、電解コンデンサ1において、電解液として機能してもよい。液状成分26は、溶媒及び酸成分を含む。この酸成分の酸化作用によって、誘電体層210の欠陥を修復することができる。具体的には、誘電体層210において、陽極体21の金属箔が露出した部分を酸化させて、誘電体層210を形成することができる。
【0035】
溶媒は、例えば、グリコール化合物、スルホン化合物、ラクトン化合物、カーボネート化合物、アルコール、及びポリオールからなる群から選択される一種以上の成分を含むことができる。
【0036】
グリコール化合物は、例えば、エチレングリコール(EG)、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG)及びポリアルキレングリコールからなる群から選択される一種以上を含むことができる。
【0037】
スルホン化合物は、例えば、スルホラン、3-メチルスルホラン、ジメチルスルホキシド及びジエチルスルホキシドからなる群から選択される一種以上の成分を含むことができる。
【0038】
ラクトン化合物は、例えば、γ-ブチロラクトン、β-ブチロラクトン、α-バレロラクトン及びγ-バレロラクトンからなる群から選択される一種以上を含むことができる。
【0039】
カーボネート化合物は、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)及びフルオロエチレンカーボネート(FEC)からなる群から選択される一種以上の成分を含むことができる。
【0040】
アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、シクロブタノール、シクロヘキサノール、メチルセロソルブ、及びエチルセロソルブからなる群から選択される一種以上を含むことができる。
【0041】
溶媒は、グリコール化合物を含むことが好ましい。グリコール化合物は蒸発しにくいため、溶媒が蒸発して、ケース11と封止部材12との隙間や、封止部材12自体を通過し、液状成分26中の溶媒が減少することを抑制することができる。
【0042】
またグリコール化合物の中でも、繰り返し単位の炭素数が3以上のポリアルキレングリコールが好ましい。すなわち、溶媒は、繰り返し単位の炭素数が3以上のポリアルキレングリコールを含むことが好ましい。繰り返し単位の炭素数が3以上のポリアルキレングリコールは、ポリエチレングリコール等の繰り返し単位の炭素数が2のポリアルキレングリコールよりも長鎖であり、蒸発しにくい。このため、液状成分26中の溶媒の減少を抑制することができる。また、溶媒が繰り返し単位の炭素数が3以上のポリアルキレングリコールを含む場合、この溶媒の凝固点を低下させることができ、電解コンデンサ1を低温下で使用しやすくなる。繰り返し単位の炭素数が3以上のポリアルキレングリコールの中でも、ポリプロピレングリコールが特に好ましい。液状成分26全量に対する繰り返し単位の炭素数が3以上のポリアルキレングリコールの割合は、5重量%以上95重量%以下が好ましい。
【0043】
また溶媒は、ポリオールの中でも、水酸基を2以上含むポリオールを含むことが好ましい。この場合、液状成分26中の溶媒の減少を抑制できるので、導電性高分子250の周囲に液状成分26が存在する状態を持続できる。これにより、導電性高分子250の酸化劣化を抑制することができ、固体電解質25の劣化を抑制することができる。また第2高分子酸成分が例えば、ポリスチレンスルホン酸を含む場合、水酸基を2以上含むポリオールは、導電性高分子250中のポリスチレンスルホン酸のポリマー鎖を伸ばすことができる。すなわち、導電性高分子250を膨潤させることができる。この場合、導電性高分子250の導電性を向上させることができる。
【0044】
水酸基を2以上含むポリオールの中でも、グリセリン及びポリグリセリンからなる群から選択される一種以上が特に好ましい。すなわち、ポリオールは、グリセリン及びポリグリセリンからなる群から選択される一種以上を含むことが好ましい。この場合、溶媒がエチレングリコール等を含む場合と比べて、液状成分26中の溶媒の減少を抑制しやすい。液状成分26全量に対するグリセリンとポリグリセリンとの合計の割合は、5重量%以上95重量%以下が好ましい。
【0045】
本実施形態の酸成分は、スルホン酸基又はカルボン酸基を有する第1高分子酸成分を含む。これにより、導電性高分子250からドーパント(第2高分子酸成分)が離れる脱ドープ現象を抑制することができる。また第1高分子酸成分は、単分子酸成分と比べて、エステル化反応等の化学反応が生じにくいことから好ましい。このため、電解コンデンサ1に発熱が生じやすい環境でも、液状成分26のpHが上昇しにくく、その結果、脱ドープ現象を抑制することができる。第1高分子酸成分は、単独重合体であってもよく、共重合体であってもよい。第1高分子酸成分は、ポリマーを含んでいてもよく、オリゴマーを含んでいてもよい。
【0046】
第1高分子酸成分がスルホン酸基を有することが好ましい。この場合、導電性高分子250から第2高分子酸成分が離れる脱ドープ現象を抑制することができる。またスルホン酸基を有する第1高分子酸成分は、エステル化反応等の化学反応が生じにくい。酸成分は、例えば、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)及びポリイソプレンスルホン酸からなる群から選択される一種以上を含むことができる。そのため第1高分子酸成分は、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリアクリル酸、及びポリメタクリル酸からなる群から選択される一種以上を含むことが好ましい。
【0047】
特に第1高分子酸成分は、ポリスチレンスルホン酸を含むことが好ましい。この場合、導電性高分子250から第2高分子酸成分が離れる脱ドープ現象を抑制できる。またポリスチレンスルホン酸は、エステル化反応等の化学反応が生じにくいことから好ましい。
【0048】
また第1高分子酸成分がカルボン酸基を有する第1高分子酸成分を含む場合には、酸成分は、例えば、ポリアクリル酸及びポリメタクリル酸からなる群から選択される一種以上を含むことが好ましい。
【0049】
第1高分子酸成分は、第2高分子酸成分と同種であることが好ましい。この場合、導電性高分子250から第2高分子酸成分が離れる脱ドープ現象が生じたとしても、導電性高分子250から離れた第2高分子酸成分に代わって、第1高分子酸成分を導電性高分子250と反応(再ドープ)させることができる。このため、導電性高分子250の導電性を維持することができ、電解コンデンサ1のESRが低下することを抑制することができる。
【0050】
具体的には、導電性高分子250に含まれる第2高分子酸成分が高分子スルホン酸である場合、第1高分子酸成分は、高分子スルホン酸であることがより好ましい。また第2高分子酸成分がポリスチレンスルホン酸である場合、第1高分子酸成分もポリスチレンスルホン酸であることが好ましい。
【0051】
尚、第1高分子酸成分と第2高分子酸成分が同種であるとは、第1高分子酸成分と第2高分子酸成分とが、全く同じ組成を有する場合だけでなく、組成が類似する場合も含む。例えば、第1高分子酸成分と第2高分子酸成分とが、同じ化学構造式を有するが、それぞれの重合度が異なっていてもよい。例えば、第1高分子酸成分と第2高分子酸成分とは、類似の化学構造を有するが、一部異なる置換基を有していてもよい。
【0052】
第1高分子酸成分の重量平均分子量は、第2高分子酸成分の重量平均分子量よりも小さいことが好ましい。この場合、液状成分26では、粘度の過度な増大を抑制できると共に、アニオンが解離しやすく、またアニオンが溶媒中を移動しやすい。また導電性高分子250中では、第2高分子酸成分が移動し難く、脱ドープ現象を抑制しやすい。さらに、導電性高分子250から第2高分子酸成分が脱ドープした場合に、第1高分子酸成分を導電性高分子250と反応(再ドープ)させやすい。例えば、第1高分子酸成分及び第2高分子酸成分がポリスチレンスルホン酸である場合、液状成分26中のポリスチレンスルホン酸の重量平均分子量は、導電性高分子250中のポリスチレンスルホン酸の重量平均分子量よりも小さいことが好ましい。
【0053】
第1高分子酸成分の重量平均分子量は、100000以下が好ましい。この場合、第1高分子酸成分によって電極が腐食されることを抑制することができ、また第1高分子酸成分によって誘電体層210の欠陥を修復しやすくすることができる。
【0054】
液状成分26中の第1高分子酸成分の濃度は、10質量%以上40質量%以下が好ましく、15質量%以上35質量%以下がより好ましい。この場合、脱ドープ現象を特に抑制しやすい。
【0055】
酸成分は、第1高分子酸成分以外の成分を含んでいてもよい。第1高分子酸成分以外の成分は、酸成分に分類される。酸成分は、例えば、単分子酸成分を含むことが好ましい。この場合、導電性高分子250から第2高分子酸成分が離れる脱ドープ現象を、更に抑制することができる。
【0056】
単分子酸成分は、有機酸を含むことが好ましい。有機酸は、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、アジピン酸、安息香酸、トルイル酸、エナント酸、マロン酸、1,6-デカンジカルボン酸、1,7-オクタンジカルボン酸、アゼライン酸、サリチル酸、蓚酸、及びグリコール酸からなる群から選択される一種以上を含むことができる。
【0057】
単分子酸成分は、無機酸を含んでもよい。無機酸は、例えば、ホウ酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ホウ酸エステル、リン酸エステル、炭酸、及びケイ酸からなる群から選択される一種以上を含むことができる。
【0058】
単分子酸成分が、例えば上記の有機酸及び無機酸の複合酸化合物を含むことも好ましい。複合酸化合物は、ボロジサリチル酸、ボロジグリコール酸、及びボロジシュウ酸からなる群から選択される一種以上を含むことが好ましい。
【0059】
例えば、第1高分子酸成分がスルホン酸基を有する場合、酸成分は、スルホン酸基を有する単分子酸成分を含むことが好ましい。この単分子酸成分は、脂肪族スルホン酸及び芳香族スルホン酸のうち少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0060】
例えば、第1高分子酸成分がカルボン酸基を有する場合には、酸成分は、カルボン酸基を有する単分子酸成分を含むことが好ましい。この単分子酸成分は、脂肪族カルボン酸及び芳香族カルボン酸のうち少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0061】
具体的には、酸成分が単分子酸成分を含む場合には、酸成分がボロジサリチル酸及びフタル酸のうち一方又は両方を含むことが好ましい。特に第一高分子酸成分がポリスチレンスルホン酸を含む場合には、酸成分が単分子酸成分として、ボロジサリチル酸またはフタル酸を含むことが好ましい。もちろん単分子酸成分は、ボロジサリチル酸及びフタル酸以外の単分子酸成分を含んでいてもよい。
【0062】
液状成分26は、溶媒及び酸成分以外の成分を含むことができる。液状成分26は、例えば、塩基成分を含むことができる。この場合、酸成分の少なくとも一部を中和させることができ、酸成分の濃度を高めながら、酸成分による電極の腐食を抑制できる。
【0063】
液状成分26において、酸成分の当量比は塩基成分の当量比よりも大きいことが好ましい。この場合、脱ドープ現象を効果的に抑制できる。塩基成分に対する酸成分の当量比は1.0~30であることが望ましい。また、液状成分中の塩基成分の濃度は、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、3質量%以上10質量%以下がより好ましい。
【0064】
塩基成分は、第1級アミン化合物、第2級アミン化合物、第3級アミン化合物及び第4級アンモニウム化合物からなる群から選択される1種以上の成分を含むことが好ましい。これらの成分は耐熱性が高いため、熱による液状成分26の劣化を抑制することができる。これらの成分の例には、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、スペルミジン、スペルミン、アマンタジン、アニリン、フェネチルアミン、トルイジン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、イミダゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、4-ジメチルアミノピリジン、ジエチルジメチルアンモニウム塩等が含まれる。塩基成分は、これらの成分のうち一種以上を含むことができる。
【0065】
溶媒は、溶媒、酸成分、塩基成分以外の成分、添加剤等を含んでいてもよい。
【0066】
液状成分26のpHは4以下が好ましく、3.8以下がより好ましく、3.6以下が更に好ましい。液状成分26のpHを4以下とすることで、脱ドープ現象を抑制しやすい。液状成分26のpHの下限値は、特に限定されないが、例えば2.0以上である。
【0067】
2-2.電解コンデンサの製造方法
以下、電解コンデンサ1の製造方法の一例を、各工程ごとに説明する。
【0068】
(1)陽極体の作製
まず、陽極体21の原料である金属箔を準備する。この金属箔の表面を粗面化することにより、金属箔の表面に複数の微細な凹凸を形成することができる。金属箔の表面の粗面化は、例えば、金属箔をエッチング処理することで行うことができる。エッチング処理としては、例えば、直流電解法又は交流電解法を採用することができる。
【0069】
次に、粗面化された金属箔の表面に誘電体層210を形成する。誘電体層210を形成する方法は、特に限定されないが、例えば、金属箔を化成処理することで形成できる。化成処理では、例えば、粗面化された金属箔を、アジピン酸アンモニウム溶液等の化成液に浸漬してから、加熱するか、又は電圧を印加する。化成処理した金属箔を所望の大きさに裁断することにより、表面に誘電体層210が形成された陽極体21を作製することができる。なお、予め所望の大きさに裁断した金属箔に誘電体層210を形成することで、陽極体21を作製してもよい。陽極体21にはリード線14Aを接続する。陽極体21とリード線14Aとの接続方法は、特に限定されないが、例えば、カシメ接合又は超音波溶着などを使用することができる。
【0070】
(2)陰極体の作製
陰極体22は、陽極体21と同様の方法により、金属箔から作製することができる。
【0071】
この陰極体22にリード線14Bを接続する。陰極体22とリード線14Bの接続方法は、特に限定されないが、例えば、カシメ、超音波を使用することができる。
【0072】
必要に応じて、陰極体22の表面を粗面化してもよく、陰極体22の表面にチタンやカーボンを含む層を形成してもよい。
【0073】
(3)巻回体の作製
この工程では、陽極体21、陰極体22及びセパレータ23を用いて、
図2に示すよう巻回体を作製する。最外層に位置する陰極体22の端部を巻止めテープ24で固定する。陽極体21を大判の金属箔を裁断することで作製した場合には、巻回体に更に化成処理を施すことで、陽極体21の裁断面に誘電体層を設けてもよい。
【0074】
また陽極体21及び陰極体22から取り出されたリード線14A、14Bを封止部材12の貫通孔から引き出して、封止部材12を配置する。
【0075】
(4)コンデンサ素子の作製
この工程では、陽極体21の表面に形成された誘電体層210の表面に、導電性高分子250を含む固体電解質25を形成することによって、コンデンサ素子10を作製する。
【0076】
固体電解質25は、予め形成しておいた導電性高分子250を、誘電体層210に付着させることで形成することができる。この場合、導電性高分子250を含む高分子分散体を用いることが好ましい。高分子分散体は、揮発性液状成分と、揮発性液状成分中に分散し、ドーパントがドープされた導電性高分子250とを含む。例えば、巻回体を高分子分散体に含浸させた後、乾燥させることによって、固体電解質25を誘電体層210の表面に付着させることができる。この場合、セパレータ23の表面や、陰極体22の表面にも固体電解質25を付着させることができる。また導電性高分子250をセパレータ23に付着させることができる。この工程を2回以上繰り返してもよい。この場合、誘電体層210に対する固体電解質25の被覆率を高められる。
【0077】
(5)液状成分の含浸
次に、コンデンサ素子10に液状成分26を含浸させる。これにより、固体電解質25内の微細な空隙内に液状成分26を含浸させることができる。これにより、液状成分26は、誘電体層210及び固体電解質25に接触した状態となる。液状成分26をコンデンサ素子10に含浸させる方法は、特に限定されない。
【0078】
(6)コンデンサ素子の封止
次に、コンデンサ素子10をケース11に収納する。
【0079】
次に、ケース11の開口端近傍に、横絞り加工を施し、開口端を封止部材12にかしめてカール加工する。そして、カール部分側に座板13を配置する。
【0080】
これらの工程によって、
図1に示すような電解コンデンサ1が得られる。その後、定格電圧を印加しながら、エージング処理を行ってもよい。
【0081】
2-3.電解コンデンサの用途
電解コンデンサ1の用途は、特に限定されない。電解コンデンサ1は、例えば、自動車のECU(エンジンコントロールユニット)の基板、又はスイッチング電源等に使用することができる。この自動車としては、主として、電気自動車又はハイブリッド車等を想定するが、ガソリンエンジン車又はディーゼルエンジン車であってもよい。また電解コンデンサ1は、例えば、二輪車(電動バイクを含む)、航空機、船舶、ドローン等に用いられてもよい。また電解コンデンサ1は、例えば、サーバ装置、コンピュータ装置及び家庭用ゲーム機等のCPU(Central Processing Unit)の電源装置に用いられてもよい。その他にも、電解コンデンサ1は、例えば、通信機器及び産業機器等のFPGA(Field-Programmable Gate Array)の電源装置、並びにグラフィックボード等のGPU(Graphics Processing Unit)の電源装置等に用いられてもよい。電解コンデンサ1の用途は、これらに限定されず、多岐の分野に使用することができる。
【0082】
2-4.変形例
電解コンデンサ1の構成は、上述の実施形態の構成に限定されない。
【0083】
例えば、コンデンサ素子10が、巻回体ではなく、陽極体として金属の焼結体を用いるチップ型であってもよく、金属板を陽極体として用いる積層型であってもよい。
【0084】
例えば、固体電解質25は、高分子分散体から形成するのではなく、重合液を誘電体層210に付与し、その場で、化学重合法又は電解重合法によって形成されてもよい。すなわち導電性高分子250は、重合液を用いた化学重合法又は電解重合法によって形成されてもよい。重合液は、モノマー、オリゴマー、ドーパント等を含む溶液である。化学重合によって導電性高分子250を形成する場合には、重合液に酸化剤が添加されていることが好ましい。重合液は、例えば、ピロール、アニリン、チオフェン及びこれらの誘導体からなる群から選択される一種以上の成分を含むことが好ましい。この場合の重合液は、ドーパントを含むが、上述の第2高分子酸成分に限られず、例えば、スルホン酸基を有する単分子酸成分であってもよい。
【実施例】
【0085】
以下、実施例に基づいて本開示をより詳細に説明するが、本開示は実施例に限定されない。
【0086】
下記実施例では、定格電圧25V、定格静電容量330μFの巻回型の電解コンデンサ(Φ10mm×L(高さ)10mm)を作製した。以下に、電解コンデンサの具体的な製造方法について説明する。
(陽極体の準備)
厚さ100μmのアルミニウム箔にエッチング処理を行い、アルミニウム箔の表面を粗面化した。その後、アルミニウム箔の表面に化成処理により誘電体層を形成した。化成処理は、アジピン酸アンモニウム溶液にアルミニウム箔を浸漬し、これに50Vの電圧を印加することにより行った。その後、アルミニウム箔を裁断して、陽極体を準備した。
(陰極体の準備)
厚さ50μmのアルミニウム箔にエッチング処理を行い、アルミニウム箔の表面を粗面化した。その後、アルミニウム箔を裁断して、陰極体を準備した。
(巻回体の作製)
陽極体および陰極体に陽極リードタブおよび陰極リードタブを接続し、陽極体と陰極体とをリードタブを巻き込みながらセルロースのセパレータを介して巻回した。巻回体から突出する各リードタブの端部には、陽極リード線および陰極リード線をそれぞれ接続した。作製された巻回体に対して、再度化成処理を行い、陽極体の切断された端部に誘電体層を形成した。次に、巻回体の外側表面の端部を巻止めテープで固定して巻回体を作製した。
(高分子分散体の調製)
3,4-エチレンジオキシチオフェンと、高分子ドーパントであるポリスチレンスルホン酸(PSS、重量平均分子量10万)とを、イオン交換水に溶かし、混合溶液を調製した。混合溶液を撹拌しながらイオン交換水に溶かした硫酸鉄(III)(酸化剤)を添加し、重合反応を行った。反応後、得られた反応液を透析し、未反応モノマーおよび過剰な酸化剤を除去し、PSSがドープされたポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT/PSS)を約5質量%含む高分子分散体を得た。
(固体電解質層の形成)
減圧雰囲気(40kPa)中で、所定容器に収容された高分子分散体に巻回体を5分間浸漬し、その後、高分子分散体から巻回体を引き上げた。次に、高分子分散体を含浸した巻回体を、150℃の乾燥炉内で20分間乾燥させ、誘電体層の少なくとも一部を被覆する導電性高分子層からなる固体電解質層を形成した。
(電解液の含浸)
表1に示す電解質塩及び溶媒を、表1に示す割合で含む電解液を調製し、減圧雰囲気(40kPa)中で液状成分(電解液)に巻回体を5分間浸漬した。
(コンデンサ素子の封止)
電解液を含浸させたコンデンサ素子を封止して、
図1に示すような電解コンデンサ(実施例1~10、比較例1および2)を完成させた。その後、定格電圧を印加しながら、130℃で2時間エージング処理を行った。
【0087】
【0088】
(評価)
得られた電解コンデンサについて、初期等価直列抵抗(ESR)を測定した。
【0089】
次に、長期信頼性を評価するために、定格電圧を印加しながら125℃で5000時間保持し、ESRの変化率(ΔESR)を確認した。
【0090】
ΔESRは、初期値(X0)に対する125℃保持後のESR(X)の比(X/X0)で示した。なお、ESRは、室温の環境下で、LCRメータを用いて、電解コンデンサの周波数100kHzにおける値を測定した。
【0091】
その結果を表1に示す。
【0092】
3.まとめ
第1の態様に係る電解コンデンサ(1)は、陽極体(21)と、陰極体(22)と、固体電解質(25)と、液状成分(26)とを備える。陽極体(21)は、表面に誘電体層(210)が形成されている。固体電解質(25)は、誘電体層(210)と接触し、陽極体(21)と陰極体(22)との間に介在する。固体電解質(25)は、導電性高分子(250)を含む。液状成分(26)は、誘電体層(210)及び固体電解質(25)に接触し、溶媒及び酸成分を含む。この酸成分は、スルホン酸基又はカルボン酸基を有する第1高分子酸成分を含む。
【0093】
第1の態様によると、スルホン酸基又はカルボン酸基を有する第1高分子酸成分は、導電性高分子(250)からドーパントが離れる脱ドープ現象を抑制することができる。またスルホン酸基又はカルボン酸基を有する第1高分子酸成分は、単分子酸成分と比べて、エステル化反応等の化学反応が生じにくい。このため、液状成分(26)のpHが上昇しにくく、脱ドープ現象を長期間に亘って抑制することができる。このため、電解コンデンサ(1)ではESRが変化しにくい。
【0094】
第2の態様に係る電解コンデンサ(1)は、第1の態様において、第1高分子酸成分が、スルホン酸基を有する。
【0095】
第2の態様によると、導電性高分子(250)から第2高分子酸成分が離れる脱ドープ現象を抑制することができる。またスルホン酸基を有する第1高分子酸成分は、エステル化反応等の化学反応が生じにくいため、液状成分(26)のpHが上昇することを抑制できる。
【0096】
第3の態様に係る電解コンデンサ(1)は、第1又は第2の態様において、導電性高分子(250)は、第2高分子酸成分を含む。
【0097】
第3の態様によると、ドーパントとして単分子酸成分を含む場合よりも、導電性高分子(250)からドーパント(第2高分子酸成分)が離れにくく、特に高温下でも導電性高分子(250)からドーパント(第2高分子酸成分)が離れにくい。
【0098】
第4の態様に係る電解コンデンサ(1)は、第3の態様において、第1高分子酸成分の重量平均分子量は、第2高分子酸成分の重量平均分子量よりも小さい。
【0099】
第4の態様によると、液状成分(26)では、粘度の過度な増大を抑制できると共に、アニオンが解離しやすく、またアニオンが溶媒中を移動しやすい。また導電性高分子(250)中では、第1高分子酸成分が移動し難く、脱ドープ現象を抑制しやすい。さらに、導電性高分子(250)から第1高分子酸成分が脱ドープした場合に、脱ドープ跡のサイトに、第2高分子酸成分を再ドープさせやすい。
【0100】
第5の態様に係る電解コンデンサ(1)は、第2~第4のいずれか一の態様において、第1高分子酸成分は、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリアクリル酸、及びポリメタクリル酸からなる群から選択される一種以上を含む。
【0101】
第5の態様によると、導電性高分子(250)から第2高分子酸成分が離れる脱ドープ現象を抑制できる。またポリスチレンスルホン酸は、エステル化反応等の化学反応が生じにくいため、液状成分(26)のpHの上昇を抑制できる。
【0102】
第6の態様に係る電解コンデンサ(1)は、第2~第5のいずれか一の態様において、導電性高分子(250)は第2高分子酸成分を含み、第2高分子酸成分は、第1高分子酸成分と同種である。
【0103】
第6の態様によると、液状成分(26)では、粘度の過度な増大を抑制でき、アニオンが解離しやすく、またアニオンが溶媒中を移動しやすい。また導電性高分子(250)中では、第2高分子酸成分が移動し難く、脱ドープ現象を抑制しやすい。さらに、導電性高分子(250)から第2高分子酸成分が脱ドープした場合に、第1高分子酸成分を導電性高分子(250)と反応(再ドープ)させやすい。
【0104】
第7の態様に係る電解コンデンサ(1)は、第1~第6のいずれか一の態様において、酸成分は、第1高分子酸成分以外の成分を更に含む。
【0105】
第7の態様によると、導電性高分子(250)から第2高分子酸成分が離れる脱ドープ現象を、更に抑制することができる。
【0106】
第8の態様に係る電解コンデンサ(1)は、第1~第7のいずれか一の態様において、溶媒は、水酸基を2以上含むポリオールを含む。
【0107】
第8の態様によると、液状成分(26)中の溶媒の減少を抑制しやすい。また、液状成分(26)中の酸成分にエステル化反応等の化学反応が生じて、液状成分のpHが上昇することを抑制することができる。
【0108】
第9の態様に係る電解コンデンサ(1)は、第8の態様において、前記ポリオールは、グリセリン及びポリグリセリンからなる群から選択される一種以上を含む。
【0109】
第9の態様によると、溶媒がエチレングリコール等を含む場合と比べて、液状成分(26)中の溶媒の減少を抑制しやすい。また液状成分(26)中の酸成分にエステル化反応等の化学反応が生じて、液状成分(26)のpHが上昇することを抑制できる。
【0110】
第10の態様に係る電解コンデンサ(1)は、第1~第9のいずれか一の態様において、前記溶媒は、繰り返し単位の炭素数が3以上のポリアルキレングリコールを含む。
【0111】
第10の態様によると、繰り返し単位の炭素数が3以上のポリアルキレングリコールは、ポリエチレングリコール等の繰り返し単位の炭素数が2以下のポリアルキレングリコールよりも、長鎖であるため、蒸発しにくい。このことから、溶媒がポリエチレングリコール等を含む場合と比べて、液状成分(26)中の溶媒の減少を抑制しやすい。また、溶媒が、繰り返し単位の炭素数が3以上のポリアルキレングリコールを含む場合、この溶媒の凝固点を低下させることができ、電解コンデンサ(1)を低温下で使用しやすくなる。
【符号の説明】
【0112】
1 電解コンデンサ
21 陽極体
210 誘電体層
22 陰極体
25 固体電解質
250 導電性高分子
26 液状成分