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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】色覚補正レンズ及び光学部品
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/10 20060101AFI20240802BHJP
   A61F 2/16 20060101ALI20240802BHJP
   A61F 9/02 20060101ALI20240802BHJP
   G02C 7/02 20060101ALI20240802BHJP
   G02C 7/04 20060101ALI20240802BHJP
   G02C 9/02 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
G02C7/10
A61F2/16
A61F9/02 305
G02C7/02
G02C7/04
G02C9/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019194993
(22)【出願日】2019-10-28
(65)【公開番号】P2021002025
(43)【公開日】2021-01-07
【審査請求日】2022-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2019115299
(32)【優先日】2019-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】和田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】鴫谷 亮祐
(72)【発明者】
【氏名】稲田 安寿
(72)【発明者】
【氏名】山江 和幸
【審査官】鈴木 玲子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-183609(JP,A)
【文献】特表2016-503196(JP,A)
【文献】特開2012-201755(JP,A)
【文献】特開2012-060048(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0005452(US,A1)
【文献】特開平11-311756(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C1/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの色覚を補正する色覚補正レンズであって、
前記ユーザの目に対向する第1面、及び、当該第1面とは反対側の第2面を有する樹脂層と、
前記樹脂層の前記第2面側に配置される反射層とを備え、
前記樹脂層は、第1波長帯域の光を選択的に吸収する色材を含有し、
前記反射層は、第2波長帯域の光を選択的に反射し、
前記第1波長帯域と前記第2波長帯域とは、少なくとも一部が重なっており、
前記反射層の位置は、前記第2面を平面視した場合に前記第2面を覆う位置と前記第2面を覆わない位置とで切り替え可能である
色覚補正レンズ。
【請求項2】
前記反射層は、前記第2面に積層されている
請求項1に記載の色覚補正レンズ。
【請求項3】
前記第2波長帯域は、500nm以上570nm以下の範囲に含まれる
請求項1又は2に記載の色覚補正レンズ。
【請求項4】
前記反射層のピーク反射率は、10%以上99%以下である
請求項1~のいずれか1項に記載の色覚補正レンズ。
【請求項5】
前記第2波長帯域は、前記第1波長帯域より狭く、かつ、全域が前記第1波長帯域内に含まれる
請求項1~のいずれか1項に記載の色覚補正レンズ。
【請求項6】
前記反射層は、コロイド結晶構造体を含む
請求項1~のいずれか1項に記載の色覚補正レンズ。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の色覚補正レンズを備える光学部品。
【請求項8】
前記光学部品は、メガネ、コンタクトレンズ、眼内レンズ又はゴーグルである
請求項に記載の光学部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色覚補正レンズ及び光学部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、色覚異常者の色識別能力を補助するための眼鏡レンズが知られている。例えば、特許文献1に記載された色覚異常者用眼鏡レンズでは、識別困難である色に対応する波長領域の透過率が単調増加又は単調減少する分光スペクトル曲線を有する部分反射膜がレンズの表面に設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-303832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の色覚異常者用眼鏡レンズでは、外観の色づきが強く違和感を与えやすいという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、外観の色づきが抑制された色覚補正レンズ及び光学部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る色覚補正レンズは、ユーザの色覚を補正する色覚補正レンズであって、前記ユーザの目に対向する第1面、及び、当該第1面とは反対側の第2面を有する樹脂層と、前記樹脂層の前記第2面側に配置される反射層とを備え、前記樹脂層は、第1波長帯域の光を選択的に吸収する色材を含有し、前記反射層は、第2波長帯域の光を選択的に反射し、前記第1波長帯域と前記第2波長帯域とは、少なくとも一部が重なっている。
【0007】
また、本発明の一態様に係る光学部品は、前記色覚補正レンズを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、外観の色づきが抑制された色覚補正レンズなどを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施の形態1に係る色覚補正レンズの模式的な断面図である。
図2図2は、実施の形態1に係る色覚補正レンズの樹脂層の透過スペクトルの一例を示す図である。
図3図3は、実施の形態1に係る色覚補正レンズの反射層の透過スペクトルの一例を示す図である。
図4図4は、実施の形態1に係る色覚補正レンズの反射層の拡大断面図である。
図5図5は、実施の形態1に係る色覚補正レンズの光学特性を説明するための図である。
図6図6は、実施の形態1に係る色覚補正レンズの外観側の光強度を説明するための図である。
図7図7は、実施の形態1の変形例に係る色覚補正レンズの反射層の拡大断面図である。
図8図8は、実施の形態1の変形例に係る色覚補正レンズの反射層の透過スペクトルの一例を示す図である。
図9図9は、実施の形態1の変形例に係る色覚補正レンズの外観側の光強度を説明するための図である。
図10図10は、実施の形態1に係る光学部品の一例であるメガネの斜視図である。
図11図11は、実施の形態1に係る光学部品の一例であるコンタクトレンズの斜視図である。
図12図12は、実施の形態1に係る光学部品の一例である眼内レンズの平面図である。
図13図13は、実施の形態1に係る光学部品の一例であるゴーグルの斜視図である。
図14図14は、実施の形態2に係る光学部品の一例であるクリップオンタイプのメガネの斜視図である。
図15図15は、実施の形態2に係る色覚補正レンズの模式的な断面、及び、光学特性を説明するための断面図である。
図16図16は、人肌の分光反射率を示す図である。
図17図17は、CIE1931色度座標系における色補正を示す図である。
図18図18は、色覚補正レンズの光学特性のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では、本発明の実施の形態に係る色覚補正レンズ及び光学部品について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本発明の一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する趣旨ではない。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0011】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。したがって、例えば、各図において縮尺などは必ずしも一致しない。また、各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0012】
また、本明細書において、一致又は等しいなどの要素間の関係性を示す用語、及び、球面又は平面などの要素の形状を示す用語、並びに、数値範囲は、厳格な意味のみを表す表現ではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度の差異をも含むことを意味する表現である。また、「約」という記載は、数値又は数値範囲の±10%以内の範囲を意味している。
【0013】
(実施の形態1)
[構成]
まず、実施の形態1に係る色覚補正レンズの構成について、図1を用いて説明する。
【0014】
図1は、本実施の形態に係る色覚補正レンズ1の模式的な断面図である。図1に示されるように、色覚補正レンズ1は、樹脂層10と、反射層20とを備える。
【0015】
色覚補正レンズ1は、色覚異常者の色覚異常を補正するレンズである。一般的な色覚異常者は、先天性赤緑色覚異常者であり、赤色光に比べて緑色光を強く知覚する。色覚補正レンズ1は、緑色光の透過を抑制することで、赤色光と緑色光との知覚のバランスを保つことができ、色覚を補正することができる。
【0016】
樹脂層10は、透光性を有する板状の部材である。具体的には、樹脂層10は、透明な樹脂材料を所定形状に成型することで形成されている。例えば、樹脂層10は、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリシラザン、シロキサン、アリルジグリコールカーボネート(CR-39)、又は、ポリシロキサン複合アクリル樹脂、ポリカーボネートなどの樹脂材料を用いて形成されている。
【0017】
樹脂層10の板厚は、例えば、1mm以上3mm以下である。樹脂層10は、凸面11及び凹面12を有する。凹面12は、色覚補正レンズ1のユーザ90の目に対向する第1面の一例である。凸面11は、凹面12とは反対側の第2面の一例である。つまり、凸面11は、ユーザ90の目とは反対側の外側の主面である。
【0018】
凸面11及び凹面12の各々の曲率半径は、60mm以上800mm以下である。あるいは、凸面11及び凹面12の各々の曲率半径は、100mm以上300mm以下であってもよい。凸面11の曲率半径と凹面12の曲率半径とは異なっている。例えば、凸面11の曲率半径は、凹面12の曲率半径より小さい。つまり、凸面11と凹面12との距離、すなわち、樹脂層10の板厚は、部位によって異なっている。つまり、樹脂層10は、板厚が薄い部分と厚い部分とを有する。
【0019】
なお、凸面11の曲率半径と凹面12の曲率半径とは同じであってもよい。凸面11と凹面12との距離は、部位によらず一定であってもよい。すなわち、樹脂層10の板厚は均一であってもよい。樹脂層10の板厚は、1mmより小さくてもよく、又は、3mmより大きくてもよい。
【0020】
また、凸面11及び凹面12は、例えば球面であるが、完全な球面でなくてもよい。例えば、樹脂層10の断面視において、凸面11及び凹面12の真円度は、数μm以上十数μm以下であってもよい。また、凸面11及び凹面12の一方は、平面であってもよい。
【0021】
樹脂層10は、凸レンズ又は凹レンズなどの光を集光又は拡散する機能を有してもよい。樹脂層10の大きさ及び形状は、例えば、人が装着可能なメガネ又はコンタクトレンズなどに合った大きさ及び形状である。
【0022】
樹脂層10は、第1波長帯域の光を選択的に吸収する色材を含有する。色材は、樹脂層10内に均等に分散されている。具体的には、色材は、樹脂層10内の厚み方向及び面方向の全体に均等に分散されている。
【0023】
なお、色材は、樹脂層10内の一部の領域のみに分散されていてもよい。例えば、樹脂層10の凸面11を正面から見た場合に、色材は、樹脂層10の中央領域のみに分散されていてもよい。あるいは、樹脂層10は、厚み方向において凸面11を含む表層部分のみに分散されていてもよい。
【0024】
色材は、第1波長帯域の光を吸収する色素材料である。第1波長帯域は、色材の吸収ピーク波長を含む波長帯域である。第1波長帯域は、例えば、色材の吸収スペクトルにおいて、吸収ピークの吸収率の1/4以上の吸収率を有する範囲である。なお、第1波長帯域は、吸収ピークの吸収率の1/10以上の吸収率を有する範囲としてもよい。第1波長帯域は、430nm以上600nm以下の範囲に含まれる。色材は、可視光帯域のうち、第1波長帯域以外の光を実質的に吸収しない。例えば、色材は、第1波長帯域以外の光に対する透過率が80%以上である。可視光帯域は、例えば380nm以上780nm以下の範囲である。
【0025】
色材は、1種類以上の色素材料を含んでいる。例えば、樹脂層10には、複数種類の色素材料が混合されて分散されている。色素材料としては、例えば、ポリフィリン系色素、フタロシアニン系色素、メロシアニン系色素又はメチン系色素などを用いることができる。
【0026】
図2は、本実施の形態に係る色覚補正レンズ1の樹脂層10の透過スペクトルの一例を示す図である。図2において、横軸は波長(単位:nm)を表し、縦軸は透過率(単位:%)を表している。
【0027】
図2に示される透過スペクトルでは、波長が約430nm以上約600nm以下の範囲で、透過率が80%以下になっている。つまり、約430nm以上約600nm以下の波長帯域に透過率の谷が含まれる。当該透過率の谷が色材の吸収ピークに対応している。吸収ピークのピーク波長、すなわち、透過率の谷において最小値になる波長は約525nmである。波長が約525nmで、透過率は約5%で最小値になっている。樹脂層10の表面での反射を考慮しない場合、吸収ピークの吸収率が約95%になる。吸収ピークの半値全幅は、例えば約100nmである。
【0028】
なお、樹脂層10の透過スペクトル(吸収スペクトル)は、図2に示した例に限らない。ピーク波長は、例えば、430nm以上600nm以下の範囲内の525nmとは異なる値であってもよく、500nm以上570nm以下の範囲内の525nmとは異なる値であってもよい。また、ピーク波長における透過率は、10%未満であってもよく、10%以上であってもよい。樹脂層10は、色覚補正の対象者(すなわち、色覚補正レンズ1のユーザ90)に応じて、適切な波長の透過を吸収すればよい。
【0029】
反射層20は、樹脂層10の凸面11側に配置されている。具体的には、反射層20は、図1に示されるように、凸面11に積層されている。より具体的には、反射層20は、凸面11に接触し、凸面11の全体を覆うように設けられている。樹脂層10と反射層20とは、一体的に形成されている。言い換えると、本実施の形態では、樹脂層10と反射層20とは密着されており、通常の使用態様において分離されない。
【0030】
反射層20は、第2波長帯域の光を選択的に反射する。具体的には、反射層20は、第2波長帯域の光を反射し、第2波長帯域以外の光を透過する。第2波長帯域は、例えば、反射層20の反射スペクトルにおいて、反射ピークの反射率の1/4以上の反射率を有する範囲である。なお、第2波長帯域は、反射ピークの反射率の1/10以上の反射率を有する範囲としてもよい。本実施の形態では、第2波長帯域は、第1波長帯域より狭く、かつ、全域が第1波長帯域内に含まれる。例えば、第2波長帯域は、500nm以上570nm以下の範囲に含まれる。つまり、反射層20は、緑色光を反射する。反射層20のピーク反射率は、10%以上99%以下である。
【0031】
図3は、本実施の形態に係る色覚補正レンズ1の反射層20の透過スペクトルの一例を示す図である。図3において、横軸は波長(単位:nm)を表し、縦軸は透過率(単位:%)を表している。
【0032】
図3に示される透過スペクトルでは、波長が約550nm以上約580nm以下の範囲で、透過率が80%以下になっている。つまり、約550nm以上約580nm以下の波長帯域に透過率の谷が含まれる。当該透過率の谷が反射層20の反射ピークに対応している。反射ピークのピーク波長、すなわち、透過率の谷において最小値になる波長は約565nmである。波長が約565nmで、透過率は約46%で最小値になっている。反射層20での吸収を考慮しない場合、反射ピークでの反射率(ピーク反射率)は約54%になる。反射ピークの半値全幅は、約25nmである。
【0033】
このように、本実施の形態では、反射層20の反射ピークは、樹脂層10の吸収ピークの波長帯域(第1波長帯域)に含まれている。反射ピークの半値全幅は、吸収ピークの半値全幅より短い。つまり、反射層20は、樹脂層10の吸収ピークよりも急峻な反射ピークを有する。急峻な反射ピークは、コロイド結晶構造体によって形成される。すなわち、本実施の形態では、反射層20は、コロイド結晶構造体を含んでいる。反射層20は、コロイド結晶構造体によるブラッグ反射を利用して、入射する光の一部を反射し、残りの光を透過させる。
【0034】
図4は、本実施の形態に係る色覚補正レンズ1の反射層20の拡大断面図である。図4に示されるように、反射層20は、マトリクス材料21と、複数のコロイド粒子22とを含む。
【0035】
マトリクス材料21は、複数のコロイド粒子22の間を充填するように設けられている。マトリクス材料21は、有機材料を用いて形成される。例えば、マトリクス材料21として用いられる有機材料は、可視光帯域において高い光透過率を有する樹脂材料である。具体的には、樹脂材料として、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂、アクリル-スチレン共重合体、スチレン系樹脂、及び、ウレタン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つを用いることができる。
【0036】
複数のコロイド粒子22はそれぞれ、コロイド次元の大きさを有し、互いに同じ大きさ及び同じ形状を有する。コロイド次元とは、ナノオーダーサイズである。具体的には、コロイド粒子22は、粒径が1nm以上1000nm未満の球形の粒子である。例えば、コロイド粒子22の粒径は、150nm以上300nm以下であってもよい。
【0037】
コロイド粒子22は、無機材料及び樹脂材料の少なくとも一方を含む。つまり、コロイド粒子22は、無機材料のみから形成されていてもよく、樹脂材料のみから形成されていてもよい。あるいは、コロイド粒子22は、無機材料及び樹脂材料の両方を用いて形成されていてもよい。
【0038】
無機材料としては、例えば、金若しくは銀などの金属、又は、シリカ、アルミナ若しくはチタニアなどの金属酸化物を用いることができる。また、樹脂材料としては、スチレン系樹脂又はアクリル系樹脂などを用いることができる。これらの材料のうち1種類又は複数種類を組み合わせてコロイド粒子22の材料として用いることができる。
【0039】
複数のコロイド粒子22は、規則的に三次元に配列されることにより、コロイド結晶構造体を構成している。コロイド粒子22の中心間距離dの平均値は、例えば100nm以上500nm以下である。中心間距離dの平均値は、200nm以上350nm以下であってもよく、220nm以上300nm以下であってもよい。中心間距離dの平均値を調整することにより、所望の波長成分の光を反射する反射層20を実現することができる。具体的には、半値全幅が狭く、急峻な反射ピークを有する反射層20を実現することができる。なお、中心間距離dは、コロイド結晶構造体の表面を走査型電子顕微鏡で観察することにより確認することができる。
【0040】
また、反射層20の体積に対する全てのコロイド粒子22の合計体積の割合は、例えば、10体積%以上60体積%以下である。あるいは、当該割合は、20体積%以上50体積%以下であってもよく、25体積%以上40体積%以下であってもよい。このような範囲とすることにより、コロイド結晶構造体の光透過性及び形状安定性を良好にすることができる。隣り合うコロイド粒子22同士は接触していてもよい。
【0041】
反射層20の膜厚は、樹脂層10の膜厚より小さい。反射層20の膜厚は、例えば、10μm以上3000μm(3mm)未満である。反射層20の膜厚は、1mm以上であってもよい。反射層20の膜厚は、例えば、30μm以上50μm以下であってもよい。
【0042】
なお、反射層20としての第2波長帯域の光を反射する機能を実現できれば、複数のコロイド粒子22の形状、大きさ及び規則性は、厳密なものでなくてもよい。すなわち、複数のコロイド粒子22には、形状が球体でないコロイド粒子が含まれてもよく、大きさが異なるコロイド粒子が含まれてもよい。また、複数のコロイド粒子22の規則的な配列が乱れていてもよい。
【0043】
反射層20は、例えば、上述したアクリル系樹脂などのマトリクス材料21の原料中にコロイド粒子22を分散させ、得られた分散液を樹脂層10の凸面11に塗布して硬化させることにより形成される。なお、反射層20の形成方法は、特に限定されない。
【0044】
例えば、分散液を塗布する方法として、スプレーコート法、スピンコート法、スリットコート法及びロールコート法などを利用することができる。また、モノマーを重合させる方法は特に限定されず、加熱によって重合させてもよく、活性エネルギー線(電磁波、紫外線、可視光線、赤外線、電子線及びガンマ線など)によって重合させてもよい。活性エネルギー線によってモノマーを重合させる場合、光重合開始剤などが分散液に添加されていてもよい。光重合開始剤としては、ラジカル光重合開始剤、カチオン光重合開始剤、アニオン光重合開始剤など公知の光重合開始剤を用いることができる。
【0045】
[色覚補正レンズの光学特性]
図5は、本実施の形態に係る色覚補正レンズ1の光学特性を説明するための図である。図5には、色覚補正レンズ1をメガネとして用いた場合に、当該メガネの装着者であるユーザ90の目と、ユーザ90以外の他人91の目とを模式的に示している。ユーザ90は、色覚異常者である。図5に示されるように、色覚補正レンズ1は、ユーザ90側に樹脂層10が位置し、他人91側に反射層20が位置するように用いられる。
【0046】
色覚異常者であるユーザ90の目には、色覚補正レンズ1を、反射層20、樹脂層10の順に透過した光L2が入射される。光L2は、反射層20側から色覚補正レンズ1に入射する光L1のうち、色覚補正レンズ1を透過する光である。光L1のうち一部の光は、反射層20を通過する際に反射光L1rとして反射される。
【0047】
本実施の形態では、反射層20が緑色光を反射し、かつ、樹脂層10は緑色光を吸収する。このため、光L1に含まれる赤色成分(R)、緑色成分(G)及び青色成分(B)のうち、緑色成分は反射又は吸収されるので、光L2は、赤色成分と青色成分とを主に含む光になる。このため、色覚異常者であるユーザ90には、緑色成分が除去されることにより、赤色と緑色との知覚のバランスを保つことができ、色覚を補正することができる。つまり、色覚補正レンズ1の色覚補正の機能を充分に発揮させることができる。
【0048】
一方で、他人91がユーザ90の顔を見る場合、他人91の目には、色覚補正レンズ1を、樹脂層10、反射層20の順に透過した光L4と、光L1の一部である反射光L1rとが入射する。光L4は、樹脂層10側から色覚補正レンズ1に入射する光L3のうち、色覚補正レンズ1を透過する光である。
【0049】
光L3に含まれる緑色成分は樹脂層10によって吸収されるので、光L4は、赤色成分と青色成分とを主に含む光になる。本実施の形態では、緑色光である反射光L1rが光L4に加わるので、他人91の目には、赤色成分、緑色成分及び青色成分を含む混合光が入射する。
【0050】
ここで、図6は、本実施の形態に係る色覚補正レンズ1の外観側の光強度を説明するための図である。具体的には、図6の(a)~(c)はそれぞれ、光L4、反射光L1r、並びに、光L4及び反射光L1rの混合光の強度を示している。各図において、横軸は波長を表し、縦軸は光強度を表している。
【0051】
なお、図6の(a)は、樹脂層10の透過率の波長依存性に対応している。図6の(b)は、反射層20の透過率の波長依存性に対応している。つまり、光L4の強度が低くなっている範囲が第1波長帯域λ1に対応し、反射光L1rの波長範囲が第2波長帯域λ2に対応する。
【0052】
反射層20が設けられていない場合、反射光L1rが他人91の目に入らないので、他人91の目には、図6の(a)で示される光L4が入ることになる。このため、緑色成分が欠如しているので、色覚補正レンズ1の外観が色づいて見える。これに対して、本実施の形態では、図6の(c)に示されるように、図6の(b)で示される反射光L1rの緑色成分が混合光に含まれるため、色覚補正レンズ1の外観の色づきが抑制される。
【0053】
なお、図6の(b)及び(c)に示されるように、反射層20によって反射される光の第2波長帯域λ2は、樹脂層10によって吸収される光の第1波長帯域λ1より狭くてもよい。反射光L1rがない場合に比べて、色覚補正レンズ1の外観の色づきが抑制される。
【0054】
[変形例]
続いて、色覚補正レンズ1の変形例について説明する。以下に示す変形例では、実施の形態1と比較して、反射層20の構造が相違している。以下では、実施の形態1との相違点を中心に説明し、共通点の説明を省略又は簡略化する。
【0055】
図7は、本変形例に係る色覚補正レンズの反射層120の拡大断面図である。図7に示されるように、反射層120は、複数の誘電体膜121及び122が積層された多層反射膜を含む。反射層120は、例えば、誘電体膜121と誘電体膜122とが1層ずつ交互に積層されることで形成されている。
【0056】
誘電体膜121及び122は、互いに屈折率が異なる透光性材料を用いて形成されている。例えば、誘電体膜121及び122としては、チタン酸化膜、ハフニウム酸化膜及びシリコン酸化膜などが用いられる。各層の膜厚、材料及び屈折率を調整することにより、所望の波長の光を反射し、残りの波長の光を透過させることができる。
【0057】
図8は、本変形例に係る色覚補正レンズの反射層120の透過スペクトルの一例を示す図である。図8において、横軸は波長(単位:nm)を表し、縦軸は透過率(単位:%)を表している。
【0058】
図8に示される透過スペクトルでは、波長が約525nm以上約604nm以下の範囲で、透過率が80%以下になっている。つまり、約525nm以上約604nm以下の波長帯域に透過率の谷が含まれる。当該透過率の谷が反射層120の反射ピークに対応している。反射ピークのピーク波長、すなわち、透過率の谷において最小値になる波長は約565nmである。波長が約565nmで、透過率は約52%で最小値になっている。反射層20での吸収を考慮しない場合、反射ピークでの反射率(ピーク反射率)は約48%になる。反射ピークの半値全幅は、約55nmである。
【0059】
このように、多層反射膜を含む反射層120は、コロイド結晶構造体を含む反射層20よりも緩やかな反射ピークを有する。この場合、図9に示されるように、反射層120が反射する光の第2波長帯域λ2の一部は、樹脂層10が吸収する光の第1波長帯域λ1内に含まれていなくてもよい。
【0060】
図9は、本変形例に係る色覚補正レンズ1の外観側の光強度を説明するための図である。具体的には、図9の(a)~(c)はそれぞれ、光L4、反射光L1r、並びに、光L4及び反射光L1rの混合光の強度を示している。各図において、横軸は波長を表し、縦軸は光強度を表している。
【0061】
なお、図9の(a)は、樹脂層10の透過率の波長依存性に対応している。図9の(b)は、反射層120の透過率の波長依存性に対応している。つまり、光L4の強度が低くなっている範囲が第1波長帯域λ1に対応し、反射光L1rの波長範囲が第2波長帯域λ2に対応する。
【0062】
図9の(c)に示されるように、反射光L1rの第2波長帯域λ2の一部が第1波長帯域λ1に含まれていない場合、混合光には部分的に波長成分が含まれる。この場合であっても、吸収される第1波長帯域λ1の少なくとも一部が反射光L1rによって補われるので、色覚補正レンズ1の外観の色づきが抑制される。
【0063】
[光学部品]
上述した色覚補正レンズ1は、様々な光学部品に用いられる。
【0064】
図10図13は、本実施の形態に係る色覚補正レンズ1を備える光学部品の例を示す図である。具体的には、図10図11及び図13はそれぞれ、光学部品の一例であるメガネ30、コンタクトレンズ32及びゴーグル36の斜視図である。図12は、光学部品の一例である眼内レンズ34の平面図である。例えば、各図に示されるように、メガネ30、コンタクトレンズ32、眼内レンズ34及びゴーグル36はそれぞれ、色覚補正レンズ1を備える。
【0065】
例えば、メガネ30は、左右のレンズとして2つの色覚補正レンズ1と、2つの色覚補正レンズ1を支持するフレーム31とを備える。コンタクトレンズ32及び眼内レンズ34は、その全体が色覚補正レンズ1である。あるいは、コンタクトレンズ32及び眼内レンズ34の中央部分のみが色覚補正レンズ1であってもよい。ゴーグル36は、両目を覆うカバーレンズとして1つの色覚補正レンズ1を備える。
【0066】
なお、メガネ30、コンタクトレンズ32、眼内レンズ34及びゴーグル36はそれぞれ、上述した変形例に係る反射層120を備える色覚補正レンズを備えてもよい。
【0067】
[効果など]
以上のように、本実施の形態に係る色覚補正レンズ1は、ユーザ90の色覚を補正する。色覚補正レンズ1は、ユーザ90の目に対向する第1面の一例である凹面12、及び、凹面12とは反対側の第2面の一例である凸面11を有する樹脂層10と、樹脂層10の凸面11側に配置される反射層20又は120とを備える。樹脂層10は、第1波長帯域の光を選択的に吸収する色材を含有する。反射層20又は120は、第2波長帯域の光を選択的に反射する。第1波長帯域と第2波長帯域とは、少なくとも一部が重なっている。
【0068】
これにより、色覚補正レンズ1を、ユーザ90とは異なる他人91が見た場合には、反射層20による反射光L1rと、色覚補正レンズ1を通過する光L4との混合光が他人91の目に入射する。光L4は、樹脂層10による吸収によって第1波長帯域の成分が減少するが、減少分の少なくとも一部が、第2波長帯域の反射光L1rによって補われる。したがって、外観の色づきが抑制された色覚補正レンズ1が提供される。
【0069】
また、例えば、反射層20又は120は、凸面11に積層されていてもよい。
【0070】
これにより、樹脂層10と反射層20とを密着させることができるので、他の層が介在する場合よりも小型化及び軽量化を実現することができる。
【0071】
なお、ユーザ90が色覚補正レンズ1を使用する場合には、樹脂層10によって第1波長帯域の成分が減少した光L2がユーザ90の目に入射する。このため、色覚補正レンズ1の本来の機能(色覚補正機能)を充分に発揮させることができる。
【0072】
また、例えば、第2波長帯域は、500nm以上570nm以下の範囲に含まれる。
【0073】
これにより、緑色光の透過が抑制されるので、先天性赤緑色覚異常者の色覚を補正する色覚補正レンズ1の外観の色づきを抑制することができる。
【0074】
また、例えば、反射層20又は120のピーク反射率は、10%以上99%以下である。
【0075】
これにより、ピーク反射率を調整することで、色覚補正レンズ1の煌めき(ギラギラ感)を抑制することができる。
【0076】
また、例えば、第2波長帯域は、第1波長帯域より狭く、かつ、全域が第1波長帯域内に含まれる。
【0077】
これにより、例えば、ピーク反射率が高い場合であっても、第2波長帯域を短くすることにより、反射光L1rの光量を抑制することができるので、色覚補正レンズ1の煌めきを抑制することができる。
【0078】
また、例えば、反射層20は、コロイド結晶構造体を含む。
【0079】
これにより、コロイド結晶構造体の反射スペクトルは角度依存性が少ない。このため、正面から見たときの外観だけでなく、斜め方向から見たときの外観の色づきも抑制することができる。また、コロイド結晶構造体は急峻な反射ピークを容易に形成することができる。すなわち、反射層20のピーク反射率を大きくし、かつ、反射ピークの半値全幅を短くすることができる。このため、反射層20による強い反射、すなわち、反射光L1rの光量を抑えることができるので、外観の煌めきを抑制することができる。
【0080】
以上のように、本実施の形態に係る光学部品は、色覚補正レンズ1を備える。例えば、光学部品は、メガネ30、コンタクトレンズ32、眼内レンズ34又はゴーグル36である。
【0081】
これにより、メガネ30などの、ユーザ90が装着可能な光学部品が実現される。仮に、外観の色づきが抑制されないメガネ30をユーザ90が装着している場合には、他人91に違和感を与える恐れがある。本実施の形態によれば、メガネ30の外観の色づきが抑制されるので、他人91にとっての日常生活における違和感を低減することができる。
【0082】
(実施の形態2)
続いて、実施の形態2について説明する。
【0083】
実施の形態2では、樹脂層と反射層とが分離可能である。言い換えれば、反射層は、樹脂層に対する相対的な位置関係を変更可能である。以下では、実施の形態1との相違点を中心に説明し、共通点の説明を省略又は簡略化する。
【0084】
図14は、本実施の形態に係る光学部品の一例であるクリップオンタイプのメガネ38の斜視図である。図14に示されるように、メガネ38は、フレーム31と、2つの色覚補正レンズ201とを備える。
【0085】
2つの色覚補正レンズ201は、互いに同じ構成を有する。なお、2つの色覚補正レンズ201はそれぞれ、左目用と右目用とであるので、形状は左右で相違している。
【0086】
図14に示されるように、色覚補正レンズ201は、樹脂層10と、反射層220とを備える。樹脂層10は、実施の形態1に係る色覚補正レンズ1の樹脂層10と同じである。つまり、樹脂層10は、第1波長帯域の光を選択的に吸収する色材を含有する。樹脂層10は、主に緑色成分の光を吸収することで、その透過を抑制する。本実施の形態では、樹脂層10の凸面11には反射層20が設けられていない。
【0087】
反射層220は、樹脂層10の凸面11を平面視した場合に、凸面11を覆う位置と凸面11を覆わない位置とに移動可能である。例えば、反射層220は、メガネ38のフレーム31に対して回動可能に取り付けられている。具体的には、図14に示されるように、2つの反射層220は、フレーム31に対して回動可能に支持された軸230の両端に固定されている。これにより、反射層220を樹脂層10に近づけるように移動させることで、反射層220を樹脂層10に重ねることができる。また、反射層220を樹脂層10から離れる方向に移動させることで、図14に示されるように、反射層220が樹脂層10に重ならないようにすることができる。
【0088】
図15は、本実施の形態に係る色覚補正レンズ201の模式的な断面、及び、光学特性を説明するための断面図である。図15の(a)は、樹脂層10の凸面11が反射層220に覆われている場合を示している。図15の(b)は、樹脂層10の凸面11が反射層220に覆われていない場合(すなわち、図14に示される場合)を示している。
【0089】
図15の(a)に示されるように、反射層220は、透明基材221と、反射膜222とを備える。透明基材221は、反射膜222を支持する透光性の部材である。透明基材221は、例えば、樹脂層10と同じ透明の樹脂材料を用いて形成されている。透明基材221には、色素材料が含まれていない。つまり、透明基材221は、可視光に対して十分に高い透過率を有する。透明基材221は、透明なガラス板であってもよい。
【0090】
反射膜222は、実施の形態1に係る反射層20と同じである。反射膜222は、透明基材221に積層されている。反射膜222は、実施の形態1の変形例に係る反射層120と同じであってもよい。
【0091】
本実施の形態に係るメガネ38によれば、図15の(a)に示されるように、反射層220と樹脂層10とが重なる場合には、実施の形態1と同様に、他人91の目には、反射層220によって反射された反射光L1rと光L4との混合光が入射する。反射光L1rの緑色成分が含まれることで、色覚補正レンズ201の外観の色づきが抑制される。
【0092】
なお、反射層220に光L1が入射した場合、光L1の一部が反射光L1rとして反射されるので、ユーザ90に入射する光の強度が低下する。これに対して、図15の(b)に示されるように、反射層220と樹脂層10とが重ならない場合、反射層220による光の減衰がなくなるので、ユーザ90に入射する光の量を多くすることができる。これにより、光の量が少ない場所でもユーザ90の視認性を確保することができる。例えば、ユーザ90が一人で居る場合など、他人91からの見た目を気にしなくてよい場合に有用である。
【0093】
以上のように、本実施の形態に係る色覚補正レンズ201では、反射層220は、樹脂層10の凸面11を平面視した場合に凸面11を覆う位置と凸面11を覆わない位置とに移動可能である。
【0094】
これにより、ユーザ90の見た目の改善と視認性の確保とを状況に応じて切り替えることができる。
【0095】
なお、樹脂層10と反射層220とは、完全に分離されていてもよい。つまり、色覚補正レンズ201は、樹脂層10と反射層220とが着脱可能であってもよい。例えば、2つの反射層220を支持する軸230には、クリップ部材が設けられていてもよい。クリップ部材がメガネ38のフレーム31を挟むことで、反射層220を樹脂層10に重ねることができる。クリップ部材をフレーム31から外すことで、反射層220を樹脂層10に重ならないようにすることができる。樹脂層10と反射層220との着脱の手法は、特に限定されない。また、図15の(a)では、樹脂層10と反射層220との間に隙間が設けられている例を示しているが、樹脂層10と反射層220とは密着していてもよい。
【0096】
(その他)
以下では、上記の各実施の形態における色覚補正レンズの光学特性の設計思想及びシミュレーション結果について説明する。
【0097】
上述したように、各実施の形態に係る色覚補正レンズ1又は201は、外観の色づきを抑制することを目的としている。具体的には、色覚異常者であるユーザ90が色覚補正レンズ1又は201を使用している場合に、他人91が見たときの違和感を減らすことを目的としている。
【0098】
例えば、色覚補正レンズ1又は201がメガネ30又は38のレンズとして用いられる場合、他人91は、色覚補正レンズ1又は201を介して、ユーザ90の目及び目の周囲の肌を見ることになる。このため、色覚補正レンズ1又は201を介した人肌の色が、本来の人肌の色に近い程、他人91に与える違和感を軽減することができる。なお、本来の人肌の色とは、色覚補正レンズ1又は201を介さずに見たときの色である。したがって、色覚補正レンズ1又は201の光学特性は、人肌の色と、色覚補正レンズ1又は201の色とが重ね合わさった場合に、元の人肌の色に近くなるように設計される。具体的には、色覚補正レンズ1又は201の反射層20、120又は220の反射スペクトルの適切な条件を決定し、決定した条件を満たすように反射層20、120又は220の反射スペクトルが調整される。
【0099】
適切な条件とは、例えば、反射層20、120又は220の第2波長帯域のピーク波長が、人肌の分光反射率と色覚補正レンズ1又は201の分光吸収率とを掛け合わせた反射スペクトルから得られるCIE1931色度座標を、白色側に移動させることが可能な範囲に含まれることである。なお、CIE1931色度座標とは、CIE(国際照明委員会、Commission Internationale de l'Eclairage)によって定義されたCIE1931色空間上での座標である。
【0100】
図16は、人肌の分光反射率を示す図である。図16において、横軸は波長(単位:nm)を表し、縦軸は反射率(単位:%)を表している。図16に示されるように、人肌の分光反射率は、肌の状態によって異なるものの、概ね長波長側程、分光反射率が大きくなる。なお、人肌の色は、人種及び年齢などの影響によって異なるので、人種毎、年齢毎、又は、人種及び年齢の組み合わせ毎に、色覚補正レンズ1又は201の光学特性が設計されてもよい。
【0101】
色覚補正レンズ1又は201の設計では、例えば、図16に示される「きれいな肌」及び「加齢肌」のいずれか一方と、図2に示される樹脂層10の透過スペクトルとを掛け合わせることで、CIE1931色度座標を算出する。樹脂層10の透過スペクトルは、第1波長帯域の光を選択的に吸収する色材の吸収スペクトルに相当する。算出されたCIE1931色度座標は、図17に示されるように、CIE1931色空間内の領域301内に含まれる。なお、領域301の位置は、肌の分光反射率及び色材の吸収スペクトルに依存する。
【0102】
図17は、CIE1931色度座標系における色補正を示す図である。図17には、黒体軌跡302と、白色領域303とを含んでいる。白色領域303は、以下の表1に示される8つの公称相関色温度(nominal CCT(Correlated Color Temperature))を合わせた範囲に対応している。
【0103】
【表1】
【0104】
図17において複数の矢印304はそれぞれ、算出されたCIE1931色度座標が反射層20、120又は220によって変更される方向を示している。複数の矢印304は、算出されたCIE1931色度座標を起点として、白色領域303に向かう方向に延びている。矢印304の延長方向と、CIE色空間1931色空間のスペクトル軌跡(単色軌跡)305との交点の波長が、反射ピークのピーク波長に相当する。なお、矢印304の長さが短い程、反射率が小さくなるので、外観上の煌めき(ギラギラ感)を少なくすることができる。
【0105】
例えば、人肌の分光反射率と樹脂層10の透過スペクトルとを掛け合わせることで得られるCIE1931色度座標を(x1,y1)とする。反射層20、120又は220の反射ピークのピーク波長のCIE1931色度座標を(x2,y2)とする。この場合、(x1,y1)と(x2,y2)とを結ぶ線分(直線)が白色領域303を通過する。このように、白色領域303を通過する線分が得られるように、反射層20、120又は220の反射ピークのピーク波長が決定される。つまり、人肌の分光反射率と樹脂層10の分光吸収率とを掛け合わせた反射スペクトルから得られるCIE1931色度座標を、白色側に移動させるとは、CIE1931色度座標(x1,y1)を白色領域303側に移動させることである。
【0106】
以下では、色覚補正レンズ1又は201のシミュレーション結果について説明する。
【0107】
シミュレーションでは、人肌の色及び樹脂層10の透過スペクトル(色材の吸収スペクトル)を固定値とし、反射層20、120又は220のピーク波長及び反射率を変数として、色覚補正レンズ1又は201の外観色を算出した。なお、外観色とは、反射層側から見たときの色覚補正レンズ1又は201の色である。
【0108】
以下に示される表2は、シミュレーション結果を示している。表2において、波長(単位:nm)は、反射層20、120又は220のピーク波長である。反射率(単位:%)は、ピーク波長における反射層20、120又は220の反射率である。なお、反射ピークの半値幅は、20nmとしている。x及びyは、色覚補正レンズ1又は201の外観色のCIE1931色度座標である。波長及び反射率が入力値であり、x及びyが出力値である。つまり、波長及び反射率の複数の組み合わせの各々に対して、CIE1931色度座標(x,y)を算出している。入力値である波長及び反射率によって、CIE1931色空間内での色の変更量(具体的には、図17で示される矢印304の方向及び長さ)が決定される。出力値であるCIE1931色度座標(x,y)は、人肌の分光反射率と樹脂層10の透過スペクトルとを掛け合わせることで得られる座標(CIE1931色度座標を(x1,y1))を、決定した変更量に基づいて補正することで算出される。
【0109】
【表2】
【0110】
表2に示される比較例は、反射層20、120又は220を設けていない場合である。この場合、人肌の反射スペクトルと樹脂層10の透過スペクトル(色材の吸収スペクトル)とを掛け合わせた結果そのものが得られている。CIE1931色度座標(x,y)=(0.401,0.279)になっており、ピンク色、すなわち、樹脂層10の色の影響が強くなっている。なお、比較例に係るCIE1931色度座標(x,y)が、人肌の分光反射率と樹脂層10の透過スペクトルとを掛け合わせることで得られるCIE1931色度座標を(x1,y1)である。
【0111】
実施例1~7はそれぞれ、比較例よりも、CIE1931色度座標(x,y)が肌色に近づいている。つまり、反射層を設けることで、外観色が肌色に近づき、色覚補正レンズ1又は201の外観を自然で違和感の少ない状態にすることができる。実施例1~7の中では、実施例7が最も肌色に近い色が得られた。
【0112】
また、反射率が同じ20%で、かつ、ピーク波長が異なる実施例1、4~6を比較すると、実施例4が最も比較例の色に近く、実施例1が最も肌色に近い色が得られた。つまり、ピーク波長が短波長側である程、肌色に近づける効果が高いことが分かる。
【0113】
また、ピーク波長が同じ550nmで、かつ、反射率が異なる実施例1~3を比較した場合、実施例1が最も比較例の色に近く、実施例3が最も肌色に近い色になった。つまり、反射率が高い程、肌色に近づける効果が高いことが分かる。なお、実施例6と実施例7とを比較した場合も同様に、反射率が高い実施例7が最も肌色に近い色であった。
【0114】
以上のように、反射層20、120又は220を設けることで、色覚補正レンズ1又は201の外観が改善されることが、シミュレーションによって判明した。また、反射層20、120又は220が設けられることによるユーザ90への影響、すなわち、色覚補正機能への影響の有無についても検討した。
【0115】
図18は、色覚補正レンズ1又は201の光学特性のシミュレーション結果を示す図である。図18において、横軸は波長(単位:nm)を表し、縦軸は光の強度(任意単位)を表している。光の強度は、色覚補正レンズ1又は201の樹脂層10側で受光できる光、すなわち、ユーザ90の目に入る光の強度である。
【0116】
図18に示されるように、反射層20、120又は220がある場合、反射層20、120又は220がない場合に比べて、波長が510nm付近の光の強度が減少している。この減少以外の光の強度は、反射層20、120又は220がある場合とない場合とで同じである。したがって、色覚補正レンズ1又は201によれば、反射層20、120又は220の有無によらず、ユーザ90の色覚補正を適切に行うことができる。
【0117】
以上のように、色覚補正レンズ1又は201では、反射層20、120又は220による光の反射帯域である第2波長帯域のピーク波長は、人肌の分光反射率と樹脂層10の分光吸収率とを掛け合わせた反射スペクトルから得られるCIE1931色度座標(x1,y1)を、白色(白色領域303)側に移動させることが可能な範囲に含まれる。
【0118】
これにより、色覚補正機能を確保しつつ、外観の違和感の少ない色覚補正レンズ1又は201を実現することができる。
【0119】
以上、本発明に係る色覚補正レンズ及び光学部品について、上記の実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではない。
【0120】
例えば、樹脂層10が吸収する光の第1波長帯域と、反射層20が反射する光の第2波長帯域との包含関係は、特に限定されない。例えば、第1波長帯域が第2波長帯域に完全に含まれていてもよい。第1波長帯域の下限値は、第2波長帯域の下限値より小さくてもよく、第2波長帯域の下限値以上であってもよい。第1波長帯域の上限値は、第2波長帯域の上限値よりも大きくてもよく、第2波長帯域の上限値以下であってもよい。また、第1波長帯域と第2波長帯域とは完全に一致していてもよい。また、第1波長帯域の幅は、第2波長帯域の幅より短くてもよく、等しくてもよい。
【0121】
また、例えば、反射層20又は120のピーク反射率は、99%より大きくてもよく、100%であってもよい。また、反射層20又は120のピーク反射率は、10%未満であってもよい。
【0122】
また、色覚補正レンズ1の樹脂層10が吸収する光の第1波長帯域、及び、反射層20又は120が反射する光の第2波長帯域は、緑色の波長帯域でなくてもよい。第1波長帯域及び第2波長帯域は、色覚補正レンズ1の色覚のバランスを取るために適した波長帯域であればよい。
【0123】
また、例えば、色覚補正レンズ1の樹脂層10は、平板であってもよい。具体的には、樹脂層10のユーザ90に対向する第1面、及び、当該第1面とは反対側の第2面は、いずれも平面であってもよい。また、樹脂層10の第2面が凹面であってもよい。
【0124】
その他、各実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0125】
1、201 色覚補正レンズ
10 樹脂層
11 凸面(第2面)
12 凹面(第1面)
20、120、220 反射層
22 コロイド粒子
30、38 メガネ(光学部品)
32 コンタクトレンズ(光学部品)
34 眼内レンズ(光学部品)
36 ゴーグル(光学部品)
90 ユーザ
121、122 誘電体膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18