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  • 特許-めっき皮膜、及びめっき皮膜の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】めっき皮膜、及びめっき皮膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/18 20060101AFI20240802BHJP
   C23C 18/36 20060101ALI20240802BHJP
   C25D 5/54 20060101ALI20240802BHJP
   H05K 3/18 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
C23C18/18
C23C18/36
C25D5/54
H05K3/18 H
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020170759
(22)【出願日】2020-10-08
(65)【公開番号】P2022062617
(43)【公開日】2022-04-20
【審査請求日】2023-07-10
(73)【特許権者】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佃 真優
(72)【発明者】
【氏名】長尾 敏光
(72)【発明者】
【氏名】片山 順一
(72)【発明者】
【氏名】大塚 邦顕
(72)【発明者】
【氏名】渡瀬 星児
(72)【発明者】
【氏名】中村 優志
【審査官】隅川 佳星
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-115374(JP,A)
【文献】特開平10-130856(JP,A)
【文献】特開2011-175951(JP,A)
【文献】特開2014-141712(JP,A)
【文献】特開2016-037642(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 17/06
C23C 18/00 - 20/08
C25D 5/00 - 7/12
H05K 1/03
3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき皮膜であって、
無電解ニッケル-リン(Ni-P)めっき皮膜を有し、
前記無電解Ni-Pめっき皮膜のガラス界面から1%~50%の厚みの部分における含リン率は、9.3質量%以上であり、
ガラス基板用である、めっき皮膜。
【請求項2】
前記無電解Ni-Pめっき皮膜上に、電気銅めっき皮膜を有する、請求項1に記載のめっき皮膜。
【請求項3】
めっき皮膜の製造方法であって、
(1)ガラス基板の表面に、錫(Sn)触媒を付与する工程、
(2)前記Sn触媒付与後、銀(Ag)触媒を付与する工程、
(3)前記Ag触媒付与後、パラジウム(Pd)触媒を付与する工程、及び
(6)前記Pd触媒付与後、無電解ニッケル-リン(Ni-P)めっき皮膜を形成する工程、を含み、
前記形成後の無電解Ni-Pめっき皮膜のガラス界面から1%~50%の厚みの部分における含リン率を、9.3質量%以上とする、
めっき皮膜の製造方法。
【請求項4】
前記(3)Pd触媒付与後、(6)無電解Ni-Pめっき皮膜形成前において、
(4)前記Pd触媒付与後、熱処理を行う工程、及び
(5)前記熱処理後、還元処理を行う工程、
を含む、請求項3に記載のめっき皮膜の製造方法。
【請求項5】
前記(6)無電解Ni-Pめっき皮膜形成後において、
(7)前記無電解Ni-Pめっき皮膜形成後、当該無電解Ni-Pめっき皮膜上に、電気銅めっき皮膜を形成する工程、
を含む、請求項3又は4に記載のめっき皮膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき皮膜、及びめっき皮膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器には、プリント配線板が用いられている。プリント配線板では、一般に、絶縁基材上に、無電解めっき(Ni、Cu等)を施した後、硫酸銅めっきを施すことで、回路を構成する。更に、Niめっき、Auめっき等を施し、はんだ付けをすることで、プリント配線板が形成される。
【0003】
近年、電子機器の通信高速化が進んでいる。通信の高速化には、高周波が用いられていることから、配線を形成する基材は、平滑性が重要である。そこで、平滑な基材上に、めっきを施す場合、めっきを析出させて、めっきの密着性を向上させることが求められる。
【0004】
特許文献1は、不導体材料からなる被めっき体の表面に無電解めっき方法により金属めっき皮膜を形成する金属めっき皮膜の製造方法を開示している。この技術でも、形成された無電解Ni-Pめっき皮膜は、膜厚が0.8μmである時に、リン濃度は9.2%である。
【0005】
特許文献2は、本出願人の技術であり、無電解めっき皮膜を形成した後に、電気銅めっき皮膜を形成する工程を含む電気銅めっき方法を開示している。この技術に依ると、非導電性材料の被処理物に対して、酸化亜鉛膜を形成した後、触媒金属を付与し、次いで、無電解めっき皮膜を形成した後、電気銅めっき皮膜を形成することで、非導電性材料の被処理物に対して、密着性に優れた電気銅めっき皮膜を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6277407号
【文献】特許第4977885号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の現状に鑑みて成されたものであり、その主な目的は、ガラス基板に対して良好な密着性を発揮する無電解Ni-Pめっき皮膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ガラス基板に対して良好な密着性を発揮する無電解Ni-Pめっき皮膜を有するめっき皮膜を得ることができた。本発明者等は、また、含リン率が高い無電解Ni-Pめっき皮膜を有するめっき皮膜を得ることができた。
【0009】
即ち、本発明は、以下に記す、めっき皮膜、及びめっき皮膜の製造方法を包含する。
【0010】
項1.
めっき皮膜であって、
無電解ニッケル-リン(Ni-P)めっき皮膜を有し、
前記無電解Ni-Pめっき皮膜のガラス界面近傍における含リン率は、9.3質量%以上であり、
ガラス基板用である、めっき皮膜。
【0011】
項2.
前記無電解Ni-Pめっき皮膜上に、電気銅めっき皮膜を有する、前記項1に記載のめっき皮膜。
【0012】
項3.
めっき皮膜の製造方法であって、
(1)ガラス基板の表面に、錫(Sn)触媒を付与する工程、
(2)前記Sn触媒付与後、銀(Ag)触媒を付与する工程、
(3)前記Ag触媒付与後、パラジウム(Pd)触媒を付与する工程、及び
(6)前記Pd触媒付与後、無電解ニッケル-リン(Ni-P)めっき皮膜を形成する工程、
を含み、
前記形成後の無電解Ni-Pめっき皮膜のガラス界面近傍における含リン率を、9.3質量%以上とする、
めっき皮膜の製造方法。
【0013】
項4.
前記(3)Pd触媒付与後、(6)無電解Ni-Pめっき皮膜形成前において、
(4)前記Pd触媒付与後、熱処理を行う工程、及び
(5)前記熱処理後、還元処理を行う工程、
を含む、前記項3に記載のめっき皮膜の製造方法。
【0014】
項5.
前記(6)無電解Ni-Pめっき皮膜形成後において、
(7)前記無電解Ni-Pめっき皮膜形成後、当該無電解Ni-Pめっき皮膜上に、電気銅めっき皮膜を形成する工程、
を含む、前記項3又は4に記載のめっき皮膜の製造方法。
【0015】
前記めっき皮膜が含む無電解Ni-Pめっき皮膜では、好ましくは、膜厚は0.1μm以上である。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、ガラス基板に対して良好な密着性を発揮する無電解Ni-Pめっき皮膜を有するめっき皮膜を提供することができる。
【0017】
本発明は、また、含リン率が高い無電解Ni-Pめっき皮膜を有するめっき皮膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明のめっき皮膜の密着性の評価基準を表す。
図2図2は、本発明の無電解Ni-Pめっきの膜厚による含リン率の推移を表す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0020】
1.めっき皮膜
本発明のめっき皮膜は、無電解ニッケル-リン(以下、「Ni-P」とも記す)めっき皮膜を有し、前記無電解Ni-Pめっき皮膜のガラス界面近傍における含リン率は、9.3質量%以上であり、ガラス基板用である、ことが特徴である。
【0021】
本発明の無電解Ni-Pめっき皮膜を有するめっき皮膜は、ガラス基板に対して密着性が良好で有るという効果を発揮する。本発明のめっき皮膜は、また、無電解Ni-Pめっき皮膜のガラス界面近傍における含リン率が高く、含リン率は9.3質量%以上であるという効果を発揮する。
【0022】
本発明のめっき皮膜は、また、無電解Ni-Pめっき皮膜のガラス界面近傍における含リン率が高くても、膜厚が厚いという効果を発揮する。
【0023】
本発明のめっき皮膜が有する無電解Ni-Pめっき皮膜は、ガラス基板とめっき皮膜の界面の含リン率が高く、含リン率が傾斜的に低下している、ことが特徴である。
【0024】
本発明のめっき皮膜は、好ましくは、前記無電解Ni-Pめっき皮膜上に、電気銅めっき皮膜を有する。
【0025】
本発明のめっき皮膜は、更に、電気銅めっき皮膜の密着性が良好であるという効果を発揮する。
【0026】
(1)無電解Ni-Pめっき皮膜
本発明のめっき皮膜は、無電解Ni-Pめっき皮膜を有する。
【0027】
前記無電解Ni-Pめっき皮膜のガラス界面近傍における含リン率は、リン元素としての含有率であり、9.3質量%以上である。
【0028】
本発明において、「無電解Ni-Pめっき皮膜のガラス界面近傍における含リン率」の「ガラス界面近傍」とは、無電解Ni-Pめっき皮膜の膜厚において、ガラス界面(ガラス基板の側であり、電気銅めっき皮膜とは反対の側)から、好ましくは、略1%~50%の厚みの部分、より好ましくは、略1%~25%の厚みの部分を指す。
【0029】
例えば、無電解Ni-Pめっき皮膜の膜厚を2μmとする時は、その膜厚において、ガラス基板側から、好ましくは、略1%~50%部分、つまり、略1μmの厚みの部分、より好ましくは、略1%~25%部分、つまり、略0.5μmの厚みの部分をガラス界面近傍と言う。
【0030】
無電解Ni-Pめっき皮膜のガラス界面近傍における含リン率(リン含有率)は、好ましくは、9.3質量%以上であり、より好ましくは、10.5質量%以上であり、更に好ましくは、11.5質量%以上である。無電解Ni-Pめっき皮膜のガラス界面近傍における含リン率は、高い方が良いが、上限値は、好ましくは、15.0質量%以下であり、より好ましくは、14.0質量%以下である。本発明のめっき皮膜が有する無電解Ni-Pめっき皮膜は、ガラス界面近傍における含リン率が高く、ガラスと無電解Ni-Pめっき皮膜中のリンとの親和性が上昇し、めっき密着性が向上する。
【0031】
前記無電解Ni-Pめっき皮膜の膜厚は、好ましくは、0.05μm以上であり、より好ましくは、0.1μm以上であり、更に好ましくは、0.2μm以上である。無電解Ni-Pめっき皮膜の膜厚は、厚くても密着性が得られるが、上限値は、好ましくは、3.0μm以下であり、より好ましくは、2.0μm以下である。本発明のめっき皮膜が有する無電解Ni-Pめっき皮膜は、上記範囲内であると、応力が低減され、めっき密着性が向上する。
【0032】
(2)電気銅めっき皮膜
本発明のめっき皮膜は、好ましくは、前記無電解Ni-Pめっき皮膜上に、電気銅めっき皮膜を有する。
【0033】
前記電気銅めっき皮膜の膜厚は、好ましくは、0.5μm以上であり、より好ましくは、0.7μm以上であり、更に好ましくは、1.0μm以上である。電気銅めっき皮膜の膜厚は、上限値は、好ましくは、10.0μm以下であり、より好ましくは、5.0μm以下である。本発明のめっき皮膜が有する電気銅めっき皮膜は、上記範囲内であると、応力が低減され、めっき密着性が向上する。
【0034】
(3)ガラス基板用
本発明のめっき皮膜は、ガラス基板用である。
【0035】
ガラス基板に対して、常法に従って、Sn触媒、Ag触媒、Pd触媒等の金属触媒核を付着させた後に、めっき処理を行うことが出来る。前記ガラス基板は、好ましくは、例えば、配線を形成する基材であり、通信高速化が進んでいる電子機器の作製に用いるガラス基板である。
【0036】
ガラス基板を構成するガラスは、特に限定されるものでは無く、好ましくは、例えば、ソーダライムガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等を用いる。ガラスは、また、好ましくは、強化ガラスとして用いられるアルミノシリケートガラスを用いる。
【0037】
2.めっき皮膜の製造方法
本発明のめっき皮膜の製造方法は、(1)ガラス基板の表面に、錫(以下、「Sn」とも記す)触媒を付与する工程、(2)前記Sn触媒付与後、銀(以下、「Ag」とも記す)触媒を付与する工程、(3)前記Ag触媒付与後、パラジウム(以下、「Pd」とも記す)触媒を付与する工程、及び、(6)前記Pd触媒付与後、無電解ニッケル-リン(以下、「Ni-P」とも記す)めっき皮膜を形成する工程、を含み、前記形成後の無電解Ni-Pめっき皮膜のガラス界面近傍における含リン率を、9.3質量%以上とする、ことが特徴である。
【0038】
本発明のめっき皮膜の製造方法は、ガラス基板の表面に、順に、Sn触媒の付与、Ag触媒の付与、Pd触媒の付与を行い、次いで、無電解Ni-Pめっき皮膜を形成することで、めっき皮膜を構成する無電解Ni-Pめっき皮膜は、ガラス基板に対して、密着性が良好であるという効果を発揮する。また、めっき皮膜が有する無電解Ni-Pめっき皮膜のガラス界面近傍における含リン率は9.3質量%以上であるという特徴を有する。
【0039】
本発明のめっき皮膜の製造方法は、好ましくは、前記(3)Pd触媒付与後、(6)無電解Ni-Pめっき皮膜形成前において、(4)前記Pd触媒付与後、熱処理を行う工程、及び、(5)前記熱処理後、還元処理を行う工程、を含む。
【0040】
本発明の製造方法は、前記Pd触媒の付与後、無電解Ni-Pめっき皮膜形成前において、好ましくは、更に、熱処理(例えば、600℃、5分の熱処理)、及び、還元処理(例えば、ジメチルアミンボラン(以下、「DMAB」とも記す)を用いる還元処理)を行うことで、触媒がガラス基板上で良好に拡散し、その密着性は、より良好であるという効果を発揮する。
【0041】
本発明のめっき皮膜の製造方法は、好ましくは、前記(6)無電解Ni-Pめっき皮膜形成後において、(7)前記無電解Ni-Pめっき皮膜形成後、当該無電解Ni-Pめっき皮膜上に、電気銅めっき皮膜を形成する工程、を含む。
【0042】
本発明のめっき皮膜の製造方法は、前記無電解Ni-Pめっき皮膜上に、電気銅めっき皮膜を形成すると、その電気銅めっき皮膜は、密着性が良好であるという効果を発揮する。
【0043】
(1)Sn触媒を付与する工程(ガラス基板の表面)
本発明のめっき皮膜の製造方法は、ガラス基板の表面に、錫(Sn)触媒を付与する工程を含む。
【0044】
ガラス基板に対して、常法に従って、Sn触媒、Ag触媒、Pd触媒等の金属触媒核を付着させた後に、めっき処理を行うことが出来る。用いるガラス基板は、好ましくは、例えば、配線を形成する基材であり、通信高速化が進んでいる電子機器の作製に用いるガラス基板である。ガラス基板は、好ましくは、プリント配線板、半導体パッケージ、電子部品等に使用されるガラス基板である。
【0045】
ガラス基板は、予め、脱脂処理、UV処理、プラズマ処理等の前処理を施しておくことが好ましい。
【0046】
ガラス基板の表面に、Sn触媒を付与する工程は、好ましくは、Sn触媒を含む触媒付与液を用いる。Sn触媒付与液に含まれるSn化合物(Sn触媒)は、好ましくは、塩化スズ、ホウフッ化スズ、酸化スズ、硫酸スズ、酢酸スズ、スズ酸ナトリウム等である。Sn化合物(Sn触媒)として、好ましくは、塩化スズ、ホウフッ化スズ等を用いることで、めっき皮膜がより一層十分に析出し、めっき密着性が向上する。
【0047】
Sn化合物は、1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0048】
Sn触媒付与液中のSn化合物は、Sn濃度として、好ましくは、0.01g/L以上であり、より好ましくは、0.05g/L以上であり、更に好ましくは、0.1g/L以上である。Sn触媒付与液中のSn化合物は、Sn濃度として、好ましくは、10.0g/L以下であり、より好ましくは、7.0g/L以下であり、更に好ましくは、5.0g/L以下である。Sn濃度の下限値を上記範囲とすることで、ガラス表面に十分な量のSn触媒が吸着して無電解Ni-Pめっき皮膜がより一層十分に析出する。また、Sn濃度の上限値を上記範囲とすることで、Sn触媒が過剰に吸着することなく、密着性の高い無電解Ni-Pめっき皮膜を得ることができる。
【0049】
ガラス基板の表面に、Sn触媒を付与する工程は、好ましくは、Sn触媒を含む触媒付与液を用いて、Sn触媒付与液を、ガラス基板に接触させる方法である。Sn触媒を付与する工程は、好ましくは、ガラス基板を、Sn触媒付与液中に浸漬する方法、ガラス基板の表面に、Sn触媒付与液を噴霧する方法等である。
【0050】
Sn触媒を含む触媒付与液には、その他、好ましくは、無機酸、有機酸、芳香族化合物等を含む。無機酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、ホウ酸等が挙げられる。有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸等が挙げられる。芳香族化合物としては、例えば、トルエン、エチルベンゼン、フェノール、ベンジルアルコール、カテコール、キシレン、フタル酸等が挙げられる。
【0051】
Sn触媒を含む触媒付与液のpHは、好ましくは、pH0.3~3.0であり、より好ましくは、pH0.5~2.5であり、更に好ましくは、pH1.0~2.0である。Sn触媒を含む触媒付与液のpHの範囲を上記範囲とすることで、ガラス表面に十分な量のPd触媒が吸着して無電解Ni-Pめっき皮膜がより一層十分に析出する。
【0052】
ガラス基板を、Sn触媒付与液中に浸漬する時、Sn触媒付与液の液温は、好ましくは、10℃以上であり、より好ましくは、15℃以上であり、更に好ましくは、20℃以上である。Sn触媒付与液の液温は、好ましくは、50℃以下であり、より好ましくは、40℃以下であり、更に好ましくは、30℃以下である。液温の下限値を上記範囲とすることで、ガラス表面に十分な量のSn触媒が吸着して無電解Ni-Pめっき皮膜がより一層十分に析出する。また、液温の上限値を上記範囲とすることで、Sn触媒が過剰に吸着することなく、密着性の高い無電解Ni-Pめっき皮膜を得ることができる。
【0053】
ガラス基板を、Sn触媒付与液中に浸漬する時、Sn触媒付与の処理時間は、好ましくは、数秒以上であり、より好ましくは、30秒以上であり、更に好ましくは、1分以上である。Sn触媒付与の処理時間は、好ましくは、20分以下であり、より好ましくは、10分以下であり、更に好ましくは、5分以下である。Sn触媒付与の処理時間の下限値を上記範囲とすることで、ガラス表面に十分な量のSn触媒が吸着して無電解Ni-Pめっき皮膜がより一層十分に析出する。また、Sn触媒付与の処理時間の上限値を上記範囲とすることで、Sn触媒が過剰に吸着することなく、密着性の高い無電解Ni-Pめっき皮膜を得ることができる。
【0054】
(2)Ag触媒を付与する工程
本発明のめっき皮膜の製造方法は、前記Sn触媒付与後、銀(Ag)触媒を付与する工程を含む。
【0055】
Sn触媒を付与したガラス基板に、Ag触媒を付与する工程は、好ましくは、Ag触媒を含む触媒付与液を用いる。Ag触媒付与液に含まれるAg化合物(Ag触媒)は、好ましくは、硝酸銀、塩化銀、硫化銀、リン酸銀、臭化銀、フッ化銀、ヨウ化銀、酸化銀等である。Ag化合物(Ag触媒)として、好ましくは、硝酸銀、塩化銀、硫化銀、リン酸銀等を用いることで、めっき皮膜がより一層十分に析出し、めっき密着性が向上する。
【0056】
Ag化合物は、1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0057】
Ag触媒付与液中のAg化合物は、Ag濃度として、好ましくは、0.1g/L以上であり、より好ましくは、0.2g/L以上であり、更に好ましくは、0.4g/L以上である。Ag触媒付与液中のAg化合物は、Ag濃度として、好ましくは、3.0g/L以下であり、より好ましくは、2.0g/L以下であり、更に好ましくは、1.6g/L以下である。Ag濃度の下限値を上記範囲とすることで、ガラス表面に十分な量のAg触媒が吸着して無電解Ni-Pめっき皮膜がより一層十分に析出する。また、Ag濃度の上限値を上記範囲とすることで、Ag触媒が過剰に吸着することなく、密着性の高い無電解Ni-Pめっき皮膜を得ることができる。
【0058】
Sn触媒を付与したガラス基板の表面に、Ag触媒を付与する工程は、好ましくは、Ag触媒を含む触媒付与液を用いて、Ag触媒付与液を、Sn触媒を付与したガラス基板に接触させる方法である。Ag触媒を付与する工程は、好ましくは、Sn触媒を付与したガラス基板を、Ag触媒付与液中に浸漬する方法、Sn触媒を付与したガラス基板の表面に、Ag触媒付与液を噴霧する方法等である。
【0059】
Ag触媒を含む触媒付与液には、その他、好ましくは、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸を含む。
【0060】
Ag触媒を含む触媒付与液のpHは、好ましくは、pH3.0~6.5であり、より好ましくは、pH4.0~6.0であり、更に好ましくは、pH5.0~5.5である。Ag触媒を含む触媒付与液のpHの範囲を上記範囲とすることで、ガラス表面に十分な量のPd触媒が吸着して無電解Ni-Pめっき皮膜がより一層十分に析出する。
【0061】
Sn触媒を付与したガラス基板を、Ag触媒付与液中に浸漬する時、Ag触媒付与液の液温は、好ましくは、10℃以上であり、より好ましくは、15℃以上であり、更に好ましくは、20℃以上である。Ag触媒付与液の液温は、好ましくは、50℃以下であり、より好ましくは、40℃以下であり、更に好ましくは、30℃以下である。液温の下限値を上記範囲とすることで、ガラス表面に十分な量のAg触媒が吸着して無電解Ni-Pめっき皮膜がより一層十分に析出する。また、液温の上限値を上記範囲とすることで、Ag触媒が過剰に吸着することなく、密着性の高い無電解Ni-Pめっき皮膜を得ることができる。
【0062】
Sn触媒を付与したガラス基板を、Ag触媒付与液中に浸漬する時、Ag触媒付与の処理時間は、好ましくは、数秒以上であり、より好ましくは、10秒以上であり、更に好ましくは、30秒以上である。Ag触媒付与の処理時間は、好ましくは、10分以下であり、より好ましくは、5分以下であり、更に好ましくは、2分以下である。Ag触媒付与の処理時間の下限値を上記範囲とすることで、ガラス表面に十分な量のAg触媒が吸着して無電解Ni-Pめっき皮膜がより一層十分に析出する。また、Ag触媒付与の処理時間の上限値を上記範囲とすることで、Ag触媒が過剰に吸着することなく、密着性の高い無電解Ni-Pめっき皮膜を得ることができる。
【0063】
(3)Pd触媒を付与する工程
本発明のめっき皮膜の製造方法は、前記Ag触媒付与後、パラジウム(Pd)触媒を付与する工程を含む。
【0064】
Ag触媒を付与したガラス基板に、Pd触媒を付与する工程は、好ましくは、Pd触媒を含む触媒付与液を用いる。Pd触媒付与液に含まれるPd化合物(Pd触媒)は、好ましくは、塩化パラジウム、硫酸パラジウム、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム、酸化パラジウム、臭化パラジウム等である。Pd化合物(Pd触媒)として、好ましくは、塩化パラジウム、硫酸パラジウム、硝酸パラジウム等を用いることで、めっき皮膜がより一層十分に析出し、めっき密着性が向上する。
【0065】
Pd化合物は、1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0066】
Pd触媒付与液中のPd化合物は、Pd濃度として、好ましくは、0.05g/L以上であり、より好ましくは、0.1g/L以上であり、更に好ましくは、0.15g/L以上である。Pd触媒付与液中のPd化合物は、Pd濃度として、好ましくは、1g/L以下であり、より好ましくは、0.7g/L以下であり、更に好ましくは、0.5g/L以下である。Pd濃度の下限値を上記範囲とすることで、ガラス表面に十分な量のPd触媒が吸着して無電解Ni-Pめっき皮膜がより一層十分に析出する。また、Pd濃度の上限値を上記範囲とすることで、Pd触媒が過剰に吸着することなく、密着性の高い無電解Ni-Pめっき皮膜を得ることができる。
【0067】
Ag触媒を付与したガラス基板の表面に、Pd触媒を付与する工程は、好ましくは、Pd触媒を含む触媒付与液を用いて、Pd触媒付与液を、Ag触媒を付与したガラス基板に接触させる方法である。Pd触媒を付与する工程は、好ましくは、Ag触媒を付与したガラス基板を、Pd触媒付与液中に浸漬する方法、Ag触媒を付与したガラス基板の表面に、Pd触媒付与液を噴霧する方法等である。
【0068】
Pd触媒を含む触媒付与液には、その他、好ましくは、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸を含む。
【0069】
Pd触媒を含む触媒付与液のpHは、好ましくは、pH0.3~3.0であり、より好ましくは、pH0.5~2.5であり、更に好ましくは、pH1.0~2.0である。Pd触媒を含む触媒付与液のpHの範囲を上記範囲とすることで、ガラス表面に十分な量のPd触媒が吸着して無電解Ni-Pめっき皮膜がより一層十分に析出する。
【0070】
Ag触媒を付与したガラス基板を、Pd触媒付与液中に浸漬する時、Pd触媒付与液の液温は、好ましくは、10℃以上であり、より好ましくは、15℃以上であり、更に好ましくは、20℃以上である。Pd触媒付与液の液温は、好ましくは、50℃以下であり、より好ましくは、40℃以下であり、更に好ましくは、30℃以下である。液温の下限値を上記範囲とすることで、ガラス表面に十分な量のPd触媒が吸着して無電解Ni-Pめっき皮膜がより一層十分に析出する。また、液温の上限値を上記範囲とすることで、Pd触媒が過剰に吸着することなく、密着性の高い無電解Ni-Pめっき皮膜を得ることができる。
【0071】
Ag触媒を付与したガラス基板を、Pd触媒付与液中に浸漬する時、Pd触媒付与の処理時間は、好ましくは、数秒以上であり、より好ましくは、10秒以上であり、更に好ましくは、30秒以上である。Pd触媒付与の処理時間は、好ましくは、10分以下であり、より好ましくは、5分以下であり、更に好ましくは、2分以下である。Pd触媒付与の処理時間の下限値を上記範囲とすることで、ガラス表面に十分な量のPd触媒が吸着して無電解Ni-Pめっき皮膜がより一層十分に析出する。また、Pd触媒付与の処理時間の上限値を上記範囲とすることで、Pd触媒が過剰に吸着することなく、密着性の高い無電解Ni-Pめっき皮膜を得ることができる。
【0072】
触媒付与液の添加剤
前記Sn触媒、Ag触媒、Pd触媒等の触媒付与液触媒付与液には、その他、必要に応じて、好ましくは、各種の添加剤を配合する。添加剤は、好ましくは、例えば、安定剤、pH緩衝剤、界面活性剤等である。
【0073】
安定剤は、好ましくは、例えば、硝酸鉛、酢酸鉛等の鉛塩;硝酸ビスマス、酢酸ビスマス等のビスマス塩;チオ硫酸ナトリウム等の硫黄化合物等を、1種単独で用いるか、又は2種以上を組み合わせて添加する。安定剤を添加する場合、その添加量は、好ましくは、例えば、0.01mg/L~100mg/L程度とする。
【0074】
pH緩衝剤は、好ましくは、例えば、酢酸、ホウ酸、リン酸、亜リン酸、炭酸、それらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等を、1種単独で用いるか、又は2種以上を組み合わせて添加する。pH緩衝剤を添加する場合、その添加量は、好ましくは、浴安定性等の観点から、0.002mol/L~1mol/L程度とする。
【0075】
界面活性剤は、好ましくは、例えば、ノニオン性、アニオン性、カチオン性、両性等の各種界面活性剤を用いる。界面活性剤は、好ましくは、例えば、芳香族又は脂肪族スルホン酸アルカリ塩、芳香族又は脂肪族カルボン酸アルカリ金属塩等を用いる。界面活性剤は、1種単独で用いるか、又は2種以上を組み合わせて添加する。界面活性剤を添加する場合、その添加量は、好ましくは、例えば、0.01~1,000mg/L程度とする。
【0076】
(4)熱処理を行う工程
本発明のめっき皮膜の製造方法は、好ましくは、前記Pd触媒付与後、無電解Ni-Pめっき皮膜形成前において、熱処理を行う工程を含む。
【0077】
Pd触媒を付与したガラス基板に、熱処理を行う工程は、特に限定されず、従来公知の方法に依り、熱処理することができる。熱処理を行う工程は、好ましくは、Pd触媒を付与したガラス基板加熱炉内で加熱する方法等である。
【0078】
熱処理の雰囲気は、特に限定されず、大気雰囲気、不活性ガス雰囲気が挙げられる。不活性ガスとしては、アルゴン、ヘリウム、窒素、アンモニア等である。
【0079】
Pd触媒を付与したガラス基板を、熱処理する時、熱処理の温度は、好ましくは、400℃以上であり、より好ましくは、450℃以上であり、更に好ましくは、500℃以上である。熱処理の温度は、好ましくは、800℃以下であり、より好ましくは、750℃以下であり、更に好ましくは、700℃以下である。熱処理の温度を、好ましくは、400℃以上、800℃以下とすることで、金属触媒がガラスに強固に吸着し、金属触媒を介して密着強度の高い無電解Ni-Pめっき皮膜を得ることができる。
【0080】
Pd触媒を付与したガラス基板を、熱処理する時、熱処理の時間は、好ましくは、1分以上であり、より好ましくは、2分以上であり、更に好ましくは、5分以上である。熱処理の時間は、好ましくは、60分以下であり、より好ましくは、30分以下であり、更に好ましくは、20分以下である。熱処理の時間を、好ましくは、1分以上、60分以下とすることで、短時間で金属触媒がガラスに強固に吸着し、金属触媒を介して密着性の高い無電解Ni-Pめっき皮膜を得ることができる。
【0081】
(5)還元処理を行う工程
本発明のめっき皮膜の製造方法は、好ましくは、前記Sn触媒、Ag触媒、Pd触媒等の触媒付与後、及び、前記熱処理後、無電解Ni-Pめっき皮膜形成前において、還元処理を行う工程を含む。
【0082】
熱処理したガラス基板に、還元処理を行う工程は、特に限定されず、従来公知の方法に依り、還元処理することができる。
【0083】
還元処理を行う工程は、好ましくは、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種のアルカリ、還元剤を含む還元処理液を用いて還元処理を行う方法等である。
【0084】
アルカリは、好ましくは、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種であり、この限りにおいて特に制限されない。
【0085】
アルカリ金属水酸化物としては、特に制限されず、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等が挙げられる。
【0086】
また、アルカリ土類金属水酸化物としては、特に制限されず、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム等が挙げられる。
【0087】
アルカリの中でも、好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等が挙げられ、より好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0088】
アルカリの濃度は、好ましくは0.3 g/L~100 g/L、より好ましくは、0.5g/L~10 g/L、更に好ましくは、1g/L~5 g/Lであることにより、効率よく金属触媒を還元し、密着性の高い無電解Ni-Pめっき皮膜を得ることができる。
【0089】
還元剤を含む還元処理液を用いて、還元処理液を、熱処理したガラス基板に接触させる方法である。還元処理を行う工程は、好ましくは、熱処理したガラス基板を、還元処理液中に浸漬する方法、熱処理したガラス基板の表面に、還元処理液を噴霧する方法等である。
【0090】
還元剤は、好ましくは、Sn触媒、Ag触媒、Pd触媒等の金属触媒(核)となる金属を析出させることが可能な還元剤であれば、特に限定されず、還元めっきで使用され得る還元剤を使用することができる。
【0091】
還元剤は、好ましくは、ジメチルアミンボラン、ジエチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、ヒドラジン等のアミン化合物;水素化ホウ素ナトリウム等のホウ素含有化合物;、次亜リン酸、次亜リン酸塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等)、並びにその水和物等のリン含有化合物;等である。
【0092】
還元剤は、例えば、アミン化合物であり、且つ、ホウ素含有化合物である還元剤も存在する。その場合、その還元剤を含有する場合は、アミン化合物を含有するといえ、且つ、ホウ素含有化合物を含有するといえる。
【0093】
アミン化合物は、好ましくは、アミンボラン、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体等である。
【0094】
アミンボランは、ボラン(例えばBH3)とアミンとの錯体であるアミンボラン錯体である。アミンボランを構成するアミンとしては、鎖状アミン(非環状アミン)、環状アミンのいずれでもよいが、好ましくは鎖状アミンである。ボラン錯体を構成するアミンは、好ましくは、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、メトキシエチルアミン、ジシクロへキシルアミン、t-ブチルアミン、アミノピリジン、エチレンジアミン、モルホリン、ピリジン、ピペリジン、イミダゾール等である。これらの中でも、より好ましくは、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、メトキシエチルアミン、ジシクロへキシルアミン等であり、更に好ましくは、ジメチルアミン等が挙げられる。
【0095】
アミンボランの好適な具体例は、ジメチルアミンボラン(DMAB)、ジエチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン等が挙げられる。還元剤として、好ましくは、アミンボランを用い、より好ましくは、ジメチルアミンボラン(DMAB)、トリメチルアミンボラン等を用いることで、効率よく金属触媒を還元し、密着性の高い無電解Ni-Pめっき皮膜を得ることができる。
【0096】
ヒドラジン誘導体としては、無電解めっきの還元剤として使用し得るものであれば、
特に制限されない。
【0097】
ホウ素含有化合物は、好ましくは、水素化ホウ素化合物であり、具体的には、アミン化合物でもある上記アミンボラン、アミンボラン以外のボラン錯体(ボランと他の化合物との錯体)、水素化ホウ素アルカリ金属塩(例えばナトリウム塩等)等である。
【0098】
リン含有化合物は、好ましくは、次亜リン酸、次亜リン酸塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等)、亜リン酸、亜リン酸塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等)、それらの水和物等である。
【0099】
還元剤は、好ましくは、アミン化合物を含む。アミン化合物は、好ましくは、アミンボラン、ヒドラジン、及びヒドラジン誘導体からなる群から選択される少なくとも1種を含み、より好ましくは、アミンボラン及びヒドラジンからなる群から選択される少なくとも1種を含み、更に好ましくは、アミンボラン(DMAB等)を含む。
【0100】
還元剤は、1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0101】
還元剤を含む還元処理液中の還元剤の濃度として、好ましくは、0.3g/L以上であり、より好ましくは、0.4g/L以上であり、更に好ましくは、0.5g/L以上である。還元処理液中の還元剤の濃度として、好ましくは、20g/L以下であり、より好ましくは、10g/L以下であり、更に好ましくは、5g/L以下である。還元処理液中の還元剤の濃度として、好ましくは、0.3g/L以上、20g/L以下とすることで、効率よく金属触媒を還元し、密着性の高い無電解Ni-Pめっき皮膜を得ることができる。
【0102】
熱処理したガラス基板を、還元処理する時、還元処理の温度は、好ましくは、25℃以上であり、より好ましくは、40℃以上であり、更に好ましくは、50℃以上である。還元処理の温度は、好ましくは、80℃以下であり、より好ましくは、75℃以下であり、更に好ましくは、70℃以下である。還元処理の温度を、好ましくは、25℃以上、80℃以下とすることで、効率よく金属触媒を還元し、密着性の高い無電解Ni-Pめっき皮膜を得ることができる。
【0103】
熱処理したガラス基板を、還元処理する時、還元処理の時間は、30秒以上であり、より好ましくは、1分以上であり、更に好ましくは、3分以上である。還元処理の時間は、好ましくは、15分以下であり、より好ましくは、10分以下であり、更に好ましくは、5分以下である。還元処理の時間を、好ましくは、30秒以上、15分以下とすることで、効率よく金属触媒を還元し、密着性の高い無電解Ni-Pめっき皮膜を得ることができる。
【0104】
(6)無電解Ni-Pめっき皮膜を形成する工程
本発明のめっき皮膜の製造方法は、前記Sn触媒、Ag触媒、Pd触媒等の触媒付与後、或は、好ましくは、前記触媒付与後、前記熱処理、及び前記還元処理後、無電解Ni-Pめっき皮膜を形成する工程を含み、前記形成後の無電解Ni-Pめっき皮膜のガラス界面近傍における含リン率を、9.3質量%以上とする。
【0105】
Pd触媒付与後、或は、好ましくは、還元処理後、無電解Ni-Pめっき皮膜を形成する工程は、特に限定されず、従来公知の方法に依り、無電解Ni-Pめっき皮膜を形成することができる。無電解Ni-Pめっき皮膜を形成する工程は、好ましくは、無電解Ni-Pめっき浴を用いてめっき皮膜を形成する方法等である。
【0106】
水溶性ニッケル化合物
無電解Ni-Pめっき浴を用いてめっき皮膜を形成する場合、無電解Ni-Pめっき浴は、好ましくは、水溶性ニッケル化合物を含む。
【0107】
水溶性ニッケル化合物は、特に限定されず、好ましくは、無電解Ni-Pめっき浴に用いられる公知のニッケル化合物を用いる。水溶性ニッケル化合物は、好ましくは、例えば、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、次亜リン酸ニッケル、炭酸ニッケル等の水溶性ニッケル無機塩;酢酸ニッケル、リンゴ酸ニッケル等の水溶性ニッケル有機塩等、並びにその水和物等である。
【0108】
水溶性ニッケル化合物は、1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0109】
無電解Ni-Pめっき浴における水溶性ニッケル化合物の濃度は、無電解Ni-Pめっき皮膜を形成できる範囲内であれば、特に制限されず、適宜調整することができる。水溶性ニッケル化合物の濃度は、好ましくは、ニッケル金属として、例えば、0.01g/L~100g/L程度、より好ましくは、0.5~50g/L、更に好ましくは、1g/L~10g/Lとする。水溶性ニッケル化合物の濃度が、ニッケル金属として、0.01g/L未満であると析出速度が遅くなる場合があり、100g/Lを超えると浴安定性が低下する場合がある為、上記した範囲とすることが好ましい。
【0110】
還元剤
還元剤は、次亜リン酸及び次亜リン酸塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等)からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0111】
還元剤は、1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0112】
無電解Ni-Pめっき浴における還元剤(次亜リン酸、次亜リン酸塩、及びその水和物等)の濃度は、好ましくは、35g/L~80g/L程度含み、より好ましくは、48g/L~60g/L程度含む。還元剤の濃度が、35g/L未満、80g/L以上であると無電解Ni-Pめっきの密着性が低下する場合がある為、上記範囲とすることが好ましい。
【0113】
錯化剤
無電解Ni-Pめっき浴は、好ましくは、錯化剤として、グリシン、グルコン酸塩等を含む。グルコン酸塩は、好ましくは、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等である。
【0114】
他の錯化剤は、好ましくは、ギ酸、酢酸等のモノカルボン酸又はこれらの塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等);マロン酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸等のジカルボン酸又はこれらの塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等);リンゴ酸、乳酸、グリコール酸、クエン酸等のヒドロキシカルボン酸又はこれらの塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等);エチレンジアミンジ酢酸、エチレンジアミンテトラ酢酸又はこれらの塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等);アラニン、アルギニン等のアミノ酸等である。
【0115】
錯化剤は、1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0116】
無電解Ni-Pめっき浴における錯化剤の濃度は、特に限定的ではなく、適宜調整することができる。無電解Ni-Pめっき浴は、錯化剤を、好ましくは、1g/L~100g/L程度含み、より好ましくは、2g/L~50g/L程度含み、更に好ましくは、5g/L~30g/L程度含む。錯化剤の濃度が、1g/L未満であると浴安定性が低下する場合があり、100g/Lを超えると析出速度が低下する場合がある為、上記した範囲とすることが好ましい。
【0117】
安定剤、pH調整剤、界面活性剤等
本発明の無電解Ni-Pめっき浴は、上記した成分の他、必要に応じて、無電解Ni-Pめっき浴に用いられる公知の添加剤を配合することができる。添加剤としては、好ましくは、例えば、安定剤、pH調整剤、界面活性剤等である。
【0118】
安定剤は、例えば、鉛化合物(例えば、硝酸鉛、酢酸鉛等)、カドミウム化合物(例えば、硝酸カドミウム、酢酸カドミウム等)、タリウム化合物(例えば、硫酸タリウム、硝酸タリウム、等)、アンチモン化合物(例えば、塩化アンチモン、酒石酸アンチモニルカリウム等)、テルル化合物(例えば、テルル酸、塩化テルル等)、クロム化合物(例えば、酸化クロム、硫酸クロム等)、鉄化合物(例えば、硫酸鉄、塩化鉄等)、マンガン化合物(例えば、硫酸マンガン、硝酸マンガン等)、ビスマス化合物(例えば、硝酸ビスマス、酢酸ビスマス等)、スズ化合物(例えば、硫酸スズ、塩化スズ等)、セレン化合物(例えば、セレン酸、亜セレン酸等)、シアン化物(例えば、メチルシアニド、イソプロピルシアニド等)、アリル化合物(例えば、アリルアミン、ジアリルアミン等)等が挙げられる。
【0119】
安定剤は、1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0120】
無電解Ni-Pめっき浴における安定剤の濃度としては、特に限定的ではなく、例えば、0.1mg/L~500mg/L程度とすることができる。無電解Ni-Pめっき浴の安定性を向上させる目的で、安定剤の濃度を0.1mg/L程度以上とすることが好ましい。安定剤の濃度が500mg/Lを超えると、被処理物のめっき皮膜が形成されない箇所(未析出箇所)が発生する場合がある為、上記した範囲とすることが好ましい。
【0121】
pH調整剤は、好ましくは、例えば、塩酸、硫酸、リン酸等の酸;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水等のアルカリを用いる。
【0122】
無電解Ni-Pめっき浴のpHは、好ましくは、3~12程度であり、より好ましくは、4~9程度である。めっき浴のpHは上記したpH調整剤を用いて調整することができる。pHが、3未満であると未析出が発生する場合があり、12を超えると浴安定性が低下する場合がある為、上記した範囲とすることが好ましい。
【0123】
界面活性剤としては、ノニオン性、アニオン性、カチオン性、両性等の各種界面活性剤を用いることができる。例えば、芳香族又は脂肪族スルホン酸アルカリ塩、芳香族又は脂肪族スルホン酸アルカリ金属塩等が挙げられる。界面活性剤は、1種単独又は2種以上混合して用いることができる。界面活性剤を2種以上混合して用いる場合、その混合比率は特に限定的ではなく、適宜決定することができる。
【0124】
無電解Ni-Pめっき浴における界面活性剤の濃度としては特に限定的ではなく、例えば0.01 mg/L~1,000 mg/L程度とすることができる。無電解Ni-Pめっき浴のピット防止の効果をより一層向上させる目的で、界面活性剤の濃度を0.01 mg/L程度以上とすることが好ましい。界面活性剤の濃度が1,000 mg/L以下であると、発泡による析出性の低下がより一層抑制される。
【0125】
無電解Ni-Pめっき方法
無電解Ni-Pめっき皮膜を形成する工程(無電解Ni-Pめっき方法)は、好ましくは、無電解Ni-Pめっき浴に、ガラス基板(被めっき物)を接触させる。
【0126】
被めっき物と成るガラス基板は、その表面に、Sn触媒、Ag触媒、Pd触媒等が付与されたガラス基板、好ましくは、Pd触媒付与後に、熱処理、還元処理等が施されたガラス基板である。
【0127】
めっき工程は、無電解Ni-Pめっき浴に、被めっき物と成るガラス基板を接触させる方法は、特に限定的ではなく、常法に従って行うことができる。めっき工程は、好ましくは、例えば、被めっき物と成るガラス基板を無電解Ni-Pめっき浴に浸漬する方法等が挙げられる。
【0128】
めっき処理条件(例えば、浴温、めっき処理時間等)については、無電解Ni-Pめっき皮膜が形成される条件であれば特に制限されず、適宜決定することができる。
【0129】
めっき工程における無電解Ni-Pめっき浴の浴温は、めっき浴の組成等に応じて適宜決定することができる。めっき工程における無電解ニッケル-リンめっき浴の浴温は、好ましくは、例えば、25℃程度以上とすることができ、より好ましくは、40℃~100℃程度であり、更に好ましくは、45℃~95℃程度である。浴温が25℃未満であるとめっき皮膜の析出速度が遅く、生産効率が低下する場合がある為、上記した範囲とすることが好ましい。
【0130】
めっき工程における処理時間は、特に限定的ではなく、被めっき物に必要な膜厚の無電解Ni-Pめっき皮膜が形成されるまでの時間とすることができる。めっき工程における処理時間は、具体的には、めっき浴の組成、被めっき物の種類等に応じて適宜決定することができ、例えば、好ましくは、1分~40分程度、より好ましくは、3分~20分とすることができる。
【0131】
(7)電気銅めっき皮膜を形成する工程
本発明のめっき皮膜の製造方法は、好ましくは、前記無電解Ni-Pめっき皮膜形成後、当該無電解Ni-Pめっき皮膜上に、電気銅めっき皮膜を形成する工程を含む。
【0132】
電気銅めっき皮膜を形成する工程は、特に限定されず、従来公知の方法に依り、電気銅めっき皮膜を形成することができる。電気銅めっき皮膜を形成する工程は、好ましくは、電気銅めっき浴を用いてめっき皮膜を形成する方法等である。
【0133】
電気銅めっき浴
電気銅めっきの浴種は、特に限定されず、いずれのめっき液でも使用できる。特に、硫酸銅めっき、ピロリン酸銅めっきを用いることが好ましい。銅めっきの銅イオン源は、特に限定されず、硫酸銅(II)、ピロリン酸銅(II)、青化銅(I)、酢酸銅(II)等が挙げられ、好ましくは、硫酸銅(II)、ピロリン酸銅(II)である。
【0134】
銅イオン源は、1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0135】
電気銅めっき浴における水溶性銅化合物の濃度は、例えば、銅イオン濃度として、好ましくは、1g/L~60g/L程度含み、より好ましくは、10g/L~40g/L程度である。
【0136】
電気銅めっき浴のpH範囲は、好ましくは、弱アルカリ性~強酸性の範囲である。
【0137】
pH調整剤は、好ましくは、塩酸、硫酸、リン酸、ポリリン酸等の各種の酸、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の各種の塩基等を使用する。pH調整剤は、1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0138】
電気銅めっき浴のpHの変動を少なくする為に、好ましくは、pH緩衝剤を添加する。pH緩衝剤としては公知のものを使用することができる。pH緩衝剤は、好ましくは、例えば、酢酸ナトリウム又はカリウム、ホウ酸ナトリウム、カリウム又はアンモニウム、ギ酸ナトリウム又はカリウム、酒石酸ナトリウム又はカリウム、リン酸二水素ナトリウム、カリウム又はアンモニウム、ピロリン酸ナトリウム又はカリウム等である。pH緩衝剤は、1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0139】
上記めっき浴には、必要に応じて、好ましくは、錯化剤、高分子化合物、界面活性剤、レベラー、応力減少剤、導電性補助剤、消泡剤、光沢剤等の添加剤を添加する。
【0140】
電気銅めっき方法
電気銅めっき浴の建浴方法は、特に限定されない。電気銅めっき浴の建浴方法は、好ましくは、硫酸等の酸を溶解した水溶液に、水溶性銅化合物を溶解し、その後、錯化剤、還元剤等の添加剤を配合し、最後に所定のpHに調整することにより、電気銅めっき液を調製する。
【0141】
電気銅めっきを行う際に、めっき温度は、好ましくは、10℃~60℃程度とし、より好ましくは、20℃~50℃程度とし、更に好ましくは、25℃~40℃程度とする。好ましくは、必要に応じて、めっき液の撹拌や被めっき物の揺動を行う。
【0142】
電気銅めっきを行う際に、めっき温度を10℃程度以上にすることで、より均一な銅めっき皮膜が得ることができる。電気銅めっきを行う際に、めっき温度を60℃程度以下にすることで、銅めっき皮膜の密着性及び外観を向上させることができる。
【0143】
電気銅めっきを行う際に、電流密度は、好ましくは、0.1A/dm2~20A/dm2程度とし、より好ましくは、0.5A/dm2~10A/dm2程度とし、更に好ましくは、1A/dm2~5A/dm2程度とする。
【0144】
電気銅めっきを行う際に、電流密度を0.1A/dm2程度以上にすることで、銅めっき速度が良く、目的とする膜厚を得るのに時間がかからず、経済的に有利である。電気銅めっきを行う際に、電流密度を20A/dm2程度以下にすることで、析出効率が良く、経済的に有利である。
【0145】
3.めっき皮膜の用途
本発明のめっき皮膜は、ガラス基板に対して密着性が良好であり、無電解Ni-Pめっき皮膜のガラス界面近傍における含リン率は高く、膜厚が厚い。本発明のめっき皮膜は、更に、電気銅めっき皮膜の密着性も良好である。本発明のめっき皮膜は、好ましくは、電子機器のプリント配線板に用いられる。
【0146】
電子機器の通信高速化が進んでおり、通信の高速化には、高周波が用いられていることから、配線を形成する基材は、平滑性が重要である。
【0147】
本発明のめっき皮膜は、平滑なガラス基材上に、めっきを施す場合、めっきを析出させて、良好なめっきの密着性を発揮する。本発明のめっき皮膜は、ガラス基材(例えば、配線を形成する基材)に対して、平滑性を発揮して、配線を形成することができ、通信高速化が進んでいる電子機器の作製に最適である。
【実施例
【0148】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0149】
本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0150】
<ガラス基板に対するめっき処理>
1.ガラス基板に対するめっき処理の工程
(1)脱脂工程
テクノクリアCL(奥野製薬工業株式会社製)を用いて、無アルカリガラス(3 cm×3 cm、板厚1.1 mm)の表面を脱脂した。
【0151】
(2)Sn触媒付与工程
組成及び濃度
塩化第一スズ・2H2O:0.15 g/L
ホウフッ化スズ:0.15 g/L
pH=1.8
温度及び時間
25℃、2分
【0152】
(3)Ag触媒付与工程
組成及び濃度
硝酸銀:0.8 g/L
pH=5.3
温度及び時間
25℃、1分
【0153】
(4)Pd触媒付与工程
組成及び濃度
塩化パラジウム(II):0.3 g/L
pH=1.8
温度及び時間
25℃、1分
【0154】
(5)熱処理工程
温度及び時間
高温:検討(500℃~800℃、5分~60分)
【0155】
(6)還元処理工程
組成及び濃度
DMAB(ジメチルアミンボラン):0.5 g/L
NaOH:2 g/L
温度及び時間
65℃、3分
【0156】
(7)無電解Ni-Pめっき工程
無電解Ni-Pめっき工程で使用する無電解Ni-Pめっき浴は、適切な濃度の塩化ニッケル・6H2O、次亜リン酸ナトリウム、及びグリシンを含む基本組成とし、更に錯化剤、安定剤、及びpH調整剤を加えて、適切なpHに調製した。無電解Ni-Pめっき浴中の次亜リン酸ナトリウム(次亜リン酸Na)の濃度については、表に記載する。
【0157】
温度及び時間
50℃、10分
【0158】
(8)電気銅めっき工程
組成及び濃度
硫酸銅・5H2O:200 g/L
98%硫酸:100 g/L
35%塩酸:0.15 g/L
トップルチナSFT(奥野製薬工業株式会社製の硫酸銅めっき用添加剤)
温度及び時間
25℃、6分
電流密度
1A/dm2(膜厚1 μm)
【0159】
2.ガラス基板に対するめっき処理の結果
(1)めっき皮膜の厚さ
蛍光X線膜厚計を用いて、めっき膜の厚さを測定した。
【0160】
(2)無電解Ni-Pめっき皮膜の含リン率
X線光電子分光分析装置(XPS)を用いて、無電解Ni-Pめっき皮膜の含リン率(リン含有率)を測定した。
【0161】
(3)めっき皮膜の密着性
碁盤目クロスカットテープ剥離試験に依り、めっき皮膜の密着性を評価した。
【0162】
めっき皮膜上に、1mm四方のマス目(10×10マス)をカッターナイフで入れ、その上にテープを貼り、勢いよく剥離した。評価は剥離の程度で判断した。
【0163】
図1は、めっき皮膜の密着性の評価基準を表す。
【0164】
〇評価:めっき皮膜に、剥離が無かったもの(図1の左図)。
【0165】
×評価:めっき皮膜の全マスに、剥離が有ったもの(図1の右図)。
【0166】
【表1】
【0167】
【表2】
【0168】
【表3】
【0169】
【表4】
【0170】
【表5】
【0171】
3.無電解Ni-Pめっき皮膜の評価
実施例(本発明)のめっき皮膜では、無電解Ni-Pめっき皮膜は、膜厚1.1μmにおいて、密着性は良好であった(○評価)。また、電気硫酸銅めっき皮膜は、膜厚1μmにおいて、密着性は良好であった(○評価)。
【0172】
図2は、本発明の無電解Ni-Pめっきの膜厚による含リン率の推移を表す。
【0173】
実施例では、次亜リン酸Naの濃度を増加(36 g/L~72 g/L)した無電解Ni-Pめっき浴を用いると、ガラス基板に対して、密着性が良好な無電解Ni-Pめっき皮膜を得ることが出来た。この無電解Ni-Pめっき皮膜は、ガラス基板とめっき皮膜の界面(ガラス界面近傍)の含リン率が高く、含リン率が傾斜的に低下していることが特徴であった。
【0174】
実施例では、ガラス基板上に、順に、Sn触媒付与、Ag触媒付与、及びPd触媒付与を行なうことで、ガラス基板に対して、密着性が良好な無電解Ni-Pめっき皮膜を得ることが出来た。
【0175】
実施例では、また、Pd触媒付与後に、順に、熱処理(600℃、5分)、DMABで還元処理を行うことで、触媒がガラス基板上で拡散し、その後、無電解Ni-Pめっき皮膜の形成を行うことで、ガラス基板に対して、より密着性が良好な無電解Ni-Pめっき皮膜を得ることが出来た。
【0176】
実施例では、無電解Ni-Pめっきの上に、更に、電気銅めっきを施しても、密着性が良好な電気銅めっき皮膜を得ることが出来た。
【0177】
比較例のめっき皮膜では、無電解Ni-Pめっき皮膜は、膜厚0.4μmにおいて、引き続き、電気硫酸銅めっき皮膜を形成すると、膜厚1μmにおいて、密着性は良好でなかった(×評価)。
【0178】
比較例のめっき皮膜では、無電解Ni-Pめっき皮膜は、膜厚0.6μmにおいて、密着性は良好でなく(×評価)、引き続き、電気硫酸銅めっき皮膜を形成しても、膜厚1μmにおいて、密着性は良好でなかった(×評価)。
【0179】
4.産業上の有用性
本発明のめっき皮膜は、ガラス基板に対して密着性が良好であり、無電解Ni-Pめっき皮膜のガラス界面近傍における含リン率は9.3質量%以上と高く、膜厚が厚い。本発明のめっき皮膜は、更に、電気銅めっき皮膜の密着性も良好である。本発明のめっき皮膜は、好ましくは、電子機器のプリント配線板に用いられる。
【0180】
電子機器の通信高速化が進んでおり、通信の高速化には、高周波が用いられていることから、配線を形成する基材は、平滑性が重要である。
【0181】
本発明のめっき皮膜は、平滑なガラス基材上に、めっきを施す場合、めっきを析出させて、良好なめっきの密着性を発揮する。本発明のめっき皮膜は、ガラス基材(例えば、配線を形成する基材)に対して、平滑性を発揮して、配線を形成することができ、通信高速化が進んでいる電子機器の作製に最適である。
図1
図2