(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】酸化膜を有する製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/455 20060101AFI20240802BHJP
C01G 15/00 20060101ALI20240802BHJP
C23C 16/40 20060101ALI20240802BHJP
H01L 21/365 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
C23C16/455
C01G15/00 H
C23C16/40
H01L21/365
(21)【出願番号】P 2020217566
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(73)【特許権者】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永岡 達司
(72)【発明者】
【氏名】西中 浩之
(72)【発明者】
【氏名】吉本 昌広
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/044489(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/013260(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0211271(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/455
C01G 15/00
C23C 16/40
H01L 21/365
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の金属がドープされた第2の金属の酸化膜(6)を有する製品(2)の製造方法であって、
一又は複数の原料溶液(23)を用意する工程と、
前記一又は複数の原料溶液のそれぞれから、ミスト(23m)を生成する工程と、
前記ミストを基体(4)の表面に供給して、前記基体の表面上に前記第1の金属がドープされた前記酸化膜を堆積させる工程と、を備え、
前記第1の金属及び前記第2の金属のそれぞれは、前記一又は複数の原料溶液のうちの少なくとも一つに溶解しており、
前記第1の金属が溶解している前記原料溶液のpHは7未満であ
り、
前記一又は複数の原料溶液を用意する工程は、
容器(50)内で酸性の液体に前記第1の金属を溶解させる工程と、
前記第1の金属を溶解させた前記酸性の液体のpHを、7未満の範囲内で調整する工程と、を有し、
前記酸性の液体に前記第1の金属を溶解させる工程では、前記第1の金属の溶解時に発生するガスによって、前記容器内が雰囲気よりも陽圧に維持される、
製造方法。
【請求項2】
前記第1の金属が溶解している前記原料溶液では、前記第1の金属の標準酸化還元電位が、水素の標準酸化還元電位よりも小さい、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の金属は、Li、K、Rb、Cs、Ba、Ra、Sr、Ca、Na、Mg、No、Md、La、Fm、Y、Ce、Nd、Lu、Sm、Gd、Yb、Es、Ac、Cf、Am、Cm、Sc、Bk、Pu、Eu、Be、Th、Np、Hf、Al、U、Ti、Zr、Mn、V、Nb、Cr、Zn、Ga、Fe、Cd、In、Tl、Co、Ni、Mo、Sn、Pbの少なくとも一つである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の金属が溶解している前記原料溶液では、前記第1の金属の濃度が1mol/L以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記容器は、Siを含まない材料で構成されている、請求項
1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第2の金属が溶解している前記原料溶液のpHは7未満である、請求項1から
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第2の金属が溶解している前記原料溶液では、前記第2の金属の標準酸化還元電位が、水素の標準酸化還元電位よりも小さい、請求項1から
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第2の金属は、Li、K、Rb、Cs、Ba、Ra、Sr、Ca、Na、Mg、No、Md、La、Fm、Y、Ce、Nd、Lu、Sm、Gd、Yb、Es、Ac、Cf、Am、Cm、Sc、Bk、Pu、Eu、Be、Th、Np、Hf、Al、U、Ti、Zr、Mn、V、Nb、Cr、Zn、Ga、Fe、Cd、In、Tl、Co、Ni、Mo、Sn、Pbの少なくとも一つである、請求項1から
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第2の金属が溶解している前記原料溶液では、前記第2の金属の濃度が1mol/L以下である、請求項1から
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
第1の金属がドープされた第2の金属の酸化膜を有する製品の製造方法であって、
前記第1の金属及び前記第2の金属が溶解している原料溶液を用意する工程と、
前記原料溶液から、ミストを生成する工程と、
前記ミストを基体の表面に供給して、前記基体の表面上に前記第1の金属がドープされた前記酸化膜を堆積させる工程と、を備え、
前
記原料溶液を用意する工程は、
第1の酸性の液体に前記第1の金属を溶解させる工程と、
前記第1の酸性の液体と別の第2の酸性の液体に前記第2の金属を溶解させる工程と、
前記第1の金属を溶解させた前記第1の酸性の液体のpHを、7未満の範囲内で調整する工程と、
前記第2の金属を溶解させた前記
第2の酸性の液体のpHを、7未満の範囲内で調整する工程と、
を有し、
前記第2の酸性の液体のpHを調整する前記工程は、pH調整後の前記第1の酸性の液体を前記第2の金属を溶解させた前記第2の酸性の液体に添加する工程を含み、
pH調整後の前記第2の酸性の液体は、前記原料溶液となる、
製造方法。
【請求項11】
第1の金属がドープされた第2の金属の酸化膜を有する製品の製造方法であって、
前記第1の金属が溶解している第1の原料溶液及び前記第2の金属が溶解している第2の原料溶液を含む、複数の原料溶液を用意する工程と、
前記複数の原料溶液のそれぞれから、ミストを生成する工程と、
前記ミストを基体の表面に供給して、前記基体の表面上に前記第1の金属がドープされた前記酸化膜を堆積させる工程と、を備え、
前記
複数の原料溶液を用意する工程は、
第1の酸性の液体に前記第1の金属を溶解させる工程と、
前記第1の酸性の液体と別の第2の酸性の液体に前記第2の金属を溶解させる工程と、
前記第1の金属を溶解させた前記第1の酸性の液体のpHを、7未満の範囲内で調整する工程と、
前記第2の金属を溶解させた前記
第2の酸性の液体のpHを、7未満の範囲内で調整する工程と、
を有し、
pH調整後の前記第1の酸性の液体は第1の原料溶液となり、pH調整後の前記第2の酸性の液体は前記第2の原料溶液となる、
製造方法。
【請求項12】
前記
第2の酸性の液体に前記第2の金属を溶解させる工程では、Siを含まない材料で構成された容器内で、前記
第2の酸性の液体に前記第2の金属を溶解させる、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
前記
第2の酸性の液体に前記第2の金属を溶解させる工程では、前記第2の金属の溶解時に発生するガスによって、前記容器内が雰囲気よりも陽圧に維持される、請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
前記酸化膜は、単結晶膜である、請求項1から
13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記酸化膜は、半導体膜である、請求項1から
14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、酸化膜を有する製品の製造方法に関する。なお、本明細書における製品とは、一定の用途及び機能を有する最終製品だけでなく、最終製品の製造過程で一時的に製造される半製品も含まれる。
【0002】
特許文献1に、半導体装置の製造方法が開示されている。この製造方法は、一又は複数の原料溶液を用意する工程と、その一又は複数の原料溶液のそれぞれからミストを生成する工程と、そのミストを基体の表面に供給する工程とを備える。原料溶液には、ドーパントである金属が溶解しており、原料溶液のミストが基体の表面に供給されることで、基体の表面上に金属がドープされた酸化膜が堆積していく。この種の技術は、ミストCVDと称されることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した製造方法では、形成された酸化膜の特性が、意図した特性から相違するという問題がある。本明細書は、製造に起因する特性のばらつきを抑制して、酸化膜を品質よく製造し得る技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
形成された酸化膜の特性が、意図した特性から相違する要因の一つは、酸化膜に含まれるドーパントの濃度が、意図した濃度から相違するためである。この点に関して、ドーパントとなる金属が溶解している原料溶液では、その金属が水酸化物イオンと反応し、水酸化物となって析出することが判明した。このような水酸化物の生成は、原料溶液に溶解している金属の濃度を意図せず低下させる。そして、原料溶液に溶解している金属の濃度が低下すれば、酸化膜に含まれるドーパントの濃度も低下する。その結果、酸化膜に含まれるドーパントの濃度は、意図した濃度から相違することとなり、酸化膜に意図した特性が得られないという前述の問題が生じていた。
【0006】
この知見に基づいて、本明細書が開示する技術では、ドーパントとなる金属が溶解している原料溶液のpHを7未満とする。原料溶液のpHが7未満であると、原料溶液における水酸化物イオンの濃度が低下する。水酸化物イオンの濃度が低下することで、ドーパントとなる金属が、水酸化物となって析出することが抑制される。これにより、原料溶液に溶解している金属の濃度を、意図した濃度に正しく調整及び維持することができる。
【0007】
上記した技術に基づいて、第1の金属がドープされた第2の金属の酸化膜(6)を有する製品(2)の製造方法が提供される。この製造方法は、一又は複数の原料溶液(23)を用意する工程と、一又は複数の原料溶液(23)のそれぞれからミスト(23m)を生成する工程と、ミストを基体(4)の表面に供給して基体の表面上に第1の金属がドープされた酸化膜を堆積させる工程とを備える。第1の金属及び第2の金属のそれぞれは、一又は複数の原料溶液のうちの少なくとも一つに溶解している。そして、第1の金属が溶解している原料溶液のpHは7未満である。ここで、第1の金属及び第2の金属は、同じ原料溶液に溶解していてもよいし、互いに異なる原料溶液に溶解していてもよい。
【0008】
上記した製造方法によると、ドーパントとなる第1の金属が溶解している原料溶液において、第1の金属が水酸化物となって析出することを抑制することができる。これにより、原料溶液に溶解している第1の金属の濃度を、意図した濃度に正しく調整及び維持することができる。その結果、酸化膜に含まれる第1の金属の濃度が安定することで、酸化膜の特性に関して製造上のばらつきを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1の製造方法で利用される成膜装置10を模式的に示す図。
【
図2】実施例1の製造方法で製造される製品2を模式的に示す断面図。
【
図3】実施例1の製造方法に含まれる各工程を示すフローチャート。
【
図4】実施例1の原料溶液23を用意する工程(S12)を示す図。
【
図5】実施例2の製造方法の各工程を示すフローチャート。
【
図6】実施例2の原料溶液23を用意する工程(S12A)を示す図。
【
図7】実施例2の原料溶液23を用意する工程(S12B)を示す図。
【
図8】実施例3の製造方法の各工程を示すフローチャート。
【
図9】実施例3の原料溶液23を用意する工程(S12C)を示す図。
【
図10】実施例4の製造方法で利用される成膜装置100を模式的に示す図。
【
図11】本明細書で例示した各金属及び水素の水溶液中における標準酸化還元電位を示すテーブル。
【
図12】本明細書で例示した各金属及び水素の水溶液中における標準酸化還元電位を示すテーブル。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本技術の一実施形態において、第1の金属が溶解している原料溶液(25℃)では、第1の金属の標準酸化還元電位が、水素の標準酸化還元電位よりも小さくてもよい。このような構成によると、第1の金属が溶解している原料溶液において、第1の金属が水酸化物となって析出することを、さらに抑制することができる。
【0011】
本技術の一実施形態において、第1の金属は、Li、K、Rb、Cs、Ba、Ra、Sr、Ca、Na、Mg、No、Md、La、Fm、Y、Ce、Nd、Lu、Sm、Gd、Yb、Es、Ac、Cf、Am、Cm、Sc、Bk、Pu、Eu、Be、Th、Np、Hf、Al、U、Ti、Zr、Mn、V、Nb、Cr、Zn、Ga、Fe、Cd、In、Tl、Co、Ni、Mo、Sn、Pbの少なくとも一つであってもよい。これらの金属は、原料溶液における標準酸化還元電位が、水素の標準酸化還元電位よりも小さくなるもの一例である。
【0012】
本技術の一実施形態において、第1の金属が溶解している原料溶液では、第1の金属の濃度が1mol/L以下であってもよい。但し、原料溶液における第1の金属の濃度は、この数値範囲に限定されることなく、意図する酸化膜の特性に応じて自由に設定することができる。
【0013】
本技術の一実施形態において、前述した一又は複数の原料溶液を用意する工程は、酸性の液体に第1の金属を溶解させる工程と、第1の金属を溶解させた酸性の液体のpHを、7未満の範囲内で調整する工程とを有してもよい。このような構成によると、原料溶液に溶解させる第1の金属の濃度を、意図した濃度に正しく調整及び維持することができる。例えば、酸性の液体に第1の金属を溶解させる工程では、酸性の液体のpHを比較的に低くすることで、第1の金属の溶解を促進させることできる。その後、第1の金属を溶解させた酸性の液体のpHを、7未満の範囲内で高くしてもよい。
【0014】
上記した実施形態において、酸性の液体に第1の金属を溶解させる工程では、Si(シリコン)を含まない材料で構成された容器内で、酸性の液体に第1の金属を溶解させてもよい。このような構成によると、原料溶液を用意する工程において、不純物であるSiが、容器から原料溶液へ混入することを避けることができる。これに対して、Siを含む材料で容器が構成されていると、原料溶液に意図せずSiが混入することがある。原料溶液にSiが混入していると、形成された酸化膜にもSiが含まれるおそれがある。酸化膜に含まれるSiは、その量が仮に微量であるとしても、酸化膜の特性に有意な影響を与えることがある。
【0015】
上記した実施形態において、酸性の液体に第1の金属を溶解させる工程では、第1の金属の溶解時に発生するガスによって、容器内が雰囲気よりも陽圧に維持されてもよい。このような構成によると、原料溶液を用意する工程において、空気中の不純物が原料溶液に意図せず混入することを抑制することができる。
【0016】
本技術の一実施形態において、第2の金属が溶解している原料溶液のpHは7未満であってもよい。このような構成によると、第2の金属が溶解している原料溶液においても、第2の金属が水酸化物となって析出することを抑制することができる。原料溶液に溶解している第2の金属の濃度を、意図した濃度に正しく調整及び維持することができ、酸化膜をより品質よく製造することができる。
【0017】
本技術の一実施形態において、第2の金属が溶解している原料溶液では、第2の金属の標準酸化還元電位が、水素の標準酸化還元電位よりも小さくてもよい。このような構成によると、第2の金属が溶解している原料溶液において、第2の金属が水酸化物となって析出することを、さらに抑制することができる。
【0018】
本技術の一実施形態において、第2の金属は、Li、K、Rb、Cs、Ba、Ra、Sr、Ca、Na、Mg、No、Md、La、Fm、Y、Ce、Nd、Lu、Sm、Gd、Yb、Es、Ac、Cf、Am、Cm、Sc、Bk、Pu、Eu、Be、Th、Np、Hf、Al、U、Ti、Zr、Mn、V、Nb、Cr、Zn、Ga、Fe、Cd、In、Tl、Co、Ni、Mo、Sn、Pbの少なくとも一つであってよい。これらの金属は、原料溶液における標準酸化還元電位が、水素の標準酸化還元電位よりも小さくなるもの一例である。なお、第2の金属は、第1の金属と異なるものとする。
【0019】
本技術の一実施形態において、第2の金属が溶解している原料溶液では、第2の金属の濃度が1mol/L以下であってもよい。但し、原料溶液における第2の金属の濃度は、この数値範囲に限定されることなく、意図する酸化膜の特性に応じて自由に設定することができる。
【0020】
本技術の一実施形態において、少なくとも一つの原料溶液を用意する工程は、酸性の液体に第2の金属を溶解させる工程と、第2の金属を溶解させた酸性の液体のpHを7未満の範囲内で調整する工程とをさらに有してもよい。このような構成によると、原料溶液に溶解させる第2の金属の濃度を、意図した濃度に正しく調整及び維持することができる。
【0021】
上記した実施形態において、酸性の液体に第2の金属を溶解させる工程では、Siを含まない材料で構成された容器内で、酸性の液体に第2の金属を溶解させてもよい。このような構成によると、原料溶液を用意する工程において、不純物であるSiが、容器から原料溶液へ混入することを避けることができる。
【0022】
上記した実施形態において、酸性の液体に第2の金属を溶解させる工程では、第2の金属の溶解時に発生するガスによって、容器内が雰囲気よりも陽圧に維持されてもよい。このような構成によると、原料溶液を用意する工程において、空気中の不純物が原料溶液に意図せず混入することを抑制することができる。
【0023】
本技術の一実施形態において、酸化膜は単結晶膜であってもよい。加えて、又は代えて、酸化膜は単結晶膜であってもよい。
【実施例】
【0024】
(実施例1) 図面を参照して、実施例1の製造方法について説明する。本実施例の製造方法は、主に、
図1に示す成膜装置10を用いて実施され、
図2に示す製品2を製造することができる。
図2に示すように、製品2は、基体4の表面上に、酸化膜6を有する。酸化膜6は、第1の金属がドープされた第2の金属の酸化物で構成されている。ここでいう製品2には、一定の用途及び機能を有する最終製品に限られず、最終製品を製造する過程で一時的に製造される半製品も含まれる。
【0025】
製品2は、例えば半導体装置又はその半製品である。一例ではあるが、第1の金属は、マグネシウム(Mg)であってよく、第2の金属は、ガリウム(Ga)であってよい。この場合、酸化膜6は、ドーパントとしてマグネシウムを含む酸化ガリウム(Ga2O3)の被膜となる。なお、基体4には、例えばガリウム鉄酸化物(GaFeO3)の基板を用いることができる。マグネシウムを含む酸化ガリウム(Ga2O3)の被膜は、単結晶膜であって、かつ、半導体膜である。但し、本実施例における酸化膜6は、これに限定されない。酸化膜6は、単結晶膜に限られず、多結晶膜であってもよい。また、酸化膜6は、半導体膜に限られず、絶縁膜や導体膜であってもよい。
【0026】
先ず、
図1を参照して、成膜装置10について説明する。成膜装置10は、ミストCVD法を用いて、基体4の表面上に酸化膜6を形成する。基体4は、前述したガリウム鉄酸化物の基板に限られず、他の半導体基板やその他の基板であってもよい。成膜装置10は、基体4が配置されるチャンバ12と、チャンバ12を加熱するヒータ14と、チャンバ12に接続されたミスト生成装置20とを備える。
【0027】
チャンバ12の具体的な構成は特に限定されない。一例ではあるが、本実施例におけるチャンバ12は、上流端12aと下流端12bとを有しており、上流端12aから下流端12bまで長手方向に沿って筒状に延びている。チャンバ12の上流端12aには、ミスト生成装置20が接続されている。チャンバ12の下流端12bには、排出管16が接続されている。
【0028】
チャンバ12内には、基体4を支持するステージ13が設けられている。ステージ13は、基体4が配置される傾斜面13aを有する。傾斜面13aは、傾斜面13aは、チャンバ12の長手方向に対して傾斜している。特に限定されないが、チャンバ12の長手方向に対して傾斜面13aが成す角度は、例えば30度から60度の範囲であってよく、例えば45度であってよい。
【0029】
ヒータ14の具体的な構成も特に限定されない。一例ではあるが、本実施例におけるヒータ14は、複数のヒータリングを有する。複数のリングヒータは、チャンバ12の長手方向に沿って配置されている。各々のリングヒータは、リング形状を有しており、チャンバ12の外周面に沿って、チャンバ12を取り囲むように配置されている。複数のリングヒータは、チャンバ12の長手方向に沿って複数のグループに区分されており、グループ毎にその動作が制御されるように構成されている。
【0030】
ミスト生成装置20は、原料溶液槽22と、水槽24と、超音波振動子26を有する。原料溶液槽22は、原料溶液23を貯留する容器である。詳しくは後述するが、原料溶液23には、酸化膜6の主たる原料である第1の金属及び第2の金属が溶解している。原料溶液槽22は、ミスト供給路30を介して、チャンバ12の上流端12aに接続されている。水槽24は、水25を貯留する容器である。水槽24の上部は解放されており、その開放された上部から、原料溶液槽22を受け入れる。原料溶液槽22の底面は、水槽24内の水25に浸漬されている。
【0031】
超音波振動子28は、超音波振動を発生する装置である。超音波振動子28は、水槽24の底に配置されており、原料溶液槽22の底面に対向している。超音波振動子28が発生する超音波振動は、水槽24内の水25を介して、原料溶液槽22内の原料溶液23に伝えられる。原料溶液23に超音波振動が伝えられると、原料溶液23の表面が振動することによって、原料溶液槽22内に原料溶液23のミスト23mが発生する。ここで、原料溶液槽22の底面は、柔軟な材料で構成された膜であるとよく、それによって原料溶液23に超音波振動が伝わり易くなる。
【0032】
原料溶液槽22内に発生したミスト23mは、ミスト供給路30を通じて、チャンバ12内へ供給される。原料溶液槽22には、搬送ガス供給路32が接続されており、ミスト供給路30には、希釈ガス供給路34が接続されている。搬送ガス供給路32は、例えばN2(窒素)といった搬送ガス33を、原料溶液槽22内へ供給する。希釈ガス供給路34は、例えばN2(窒素)といった希釈ガス35を、ミスト供給路30内へ供給する。ミスト23mは、搬送ガス33や希釈ガス35によって、適度な密度でチャンバ12内へ搬送される。
【0033】
チャンバ12内では、上流端12aから下流端12bに向けて、ミスト23mを含むガスが流れる。チャンバ12内には基体4が配置されており、原料溶液23のミスト23mが、基体4の表面に供給される。前述したように、原料溶液23には、第1の金属及び第2の金属が溶解しており、そのミスト23mには、第1の金属及び第2の金属の各イオンが含有されている。これにより、基体4の表面では、第1の金属をドーパントとして取り込みながら、第2の金属の酸化物が堆積していく。即ち、基体4の表面上に、第1の金属がドープされた第2の金属の酸化膜6が形成される。
【0034】
次に、
図3を参照して、成膜装置10を用いた本実施例の製造方法について説明する。
図3に示すように、本実施例の製造方法は、主に、原料溶液23を用意する工程(S12、S14)と、原料溶液23からミスト23mを生成する工程(S16)と、ミスト23mを基体4の表面に供給する工程(S18)とを備える。これまでの説明で明らかなように、原料溶液23からミスト23mを生成する工程(S16)は、ミスト生成装置20で実施され、ミスト23mを基体4の表面に供給する工程(S18)は、チャンバ12で実施される。これらの工程(S16、S18)は同時に並行して実施され、基体4の表面上に酸化膜6が形成されていく。前述したように、原料溶液23には、第1の金属及び第2の金属がそれぞれ溶解している。原料溶液23における第1の金属の濃度及び第2の金属の濃度をそれぞれ適切に調整することで、第1の金属がドープされた第2の金属の酸化膜6を成膜することができる。
【0035】
一方、原料溶液23を用意する工程(S12、S14)は、成膜装置10による成膜に先立って実施される。詳しくは後述するが、この工程では、pHを7未満に調整した酸性の原料溶液23が用意される。その後、原料溶液23のpHは、ミスト23mを生成する工程(S16)においても、7未満に維持される。これにより、原料溶液23に溶解している第1の金属が、水酸化物となって析出することを抑制することができ、第1の金属の濃度を、意図した濃度に正しく調整及び維持することができる。その結果、酸化膜6に含まれる第1の金属の濃度も安定することで、酸化膜6の特性に関して製造上のばらつきを抑制することができる。なお、原料溶液23のpHが低いほど、第1の金属が水酸化物となって析出することを、強く抑制することができる。この観点から、原料溶液23のpHは、5未満であってもよく、あるいは、3未満であってもよい。
【0036】
第1の金属は、上記で例示したマグネシウムに限定されない。第1の金属は、Li、K、Rb、Cs、Ba、Ra、Sr、Ca、Na、Mg、No、Md、La、Fm、Y、Ce、Nd、Lu、Sm、Gd、Yb、Es、Ac、Cf、Am、Cm、Sc、Bk、Pu、Eu、Be、Th、Np、Hf、Al、U、Ti、Zr、Mn、V、Nb、Cr、Zn、Ga、Fe、Cd、In、Tl、Co、Ni、Mo、Sn、Pbの少なくとも一つであってもよい。これらの金属を第1の金属に採用すると、第1の金属が溶解している原料溶液23では、第1の金属の標準酸化還元電位が、水素の標準酸化還元電位よりも小さくなる(
図11、
図12参照)。その結果、第1の金属が溶解している原料溶液23において、第1の金属が水酸化物となって析出することを、さらに抑制することができる。
【0037】
加えて、本実施例の製造方法では、第1の金属が溶解している原料溶液23に、第2の金属も併せて溶解している。換言すると、第2の金属が溶解している原料溶液23も、そのpHが7未満に調整されている。このような構成によると、第1の金属だけでなく、第2の金属についても、水酸化物となって析出することを抑制することもできる。従って、原料溶液23に溶解している第2の金属の濃度を、意図した濃度に正しく調整及び維持することができ、酸化膜6をより品質よく製造することができる。
【0038】
第2の金属は、上記で例示したガリウムに限定されない。第2の金属は、Li、K、Rb、Cs、Ba、Ra、Sr、Ca、Na、Mg、No、Md、La、Fm、Y、Ce、Nd、Lu、Sm、Gd、Yb、Es、Ac、Cf、Am、Cm、Sc、Bk、Pu、Eu、Be、Th、Np、Hf、Al、U、Ti、Zr、Mn、V、Nb、Cr、Zn、Ga、Fe、Cd、In、Tl、Co、Ni、Mo、Sn、Pbの少なくとも一つであってもよい。これらの金属を第2の金属に採用すると、第2の金属が溶解している原料溶液23では、第2の金属の標準酸化還元電位が、水素の標準酸化還元電位よりも小さくなる(
図11、
図12参照)。その結果、第2の金属が溶解している原料溶液23において、第2の金属が水酸化物となって析出することを、さらに抑制することができる。なお、第2の金属は、第1の金属と異なるものとする。
【0039】
次に、
図4を参照して、原料溶液23を用意する工程(
図3のS12、S14)を説明する。
図4に示すように、この工程では、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)で構成された容器50を用いる。容器50は、同じくPTFEで構成された蓋52を有しており、密閉することができる。PTFEは、シリコン(Si)を含まない材料の一例である。蓋52又は容器50の上部には、排気路54が設けられている。排気路54の断面積は比較的に小さく、容器50内で発生したガスが少しずつ排出されるように構成されている。ここでは、ドーパントとなる第1の金属がマグネシウムであり、酸化膜6の主たる元素である第2の金属はガリウムであるとする。
【0040】
先ず、蓋52をした容器50内において、0.05molのマグネシウム金属を、0.11molの塩化水素(HCl)を含む酸性の水溶液に溶解する(
図3のS12)。この手順では、Mg+2HCl→MgCl
2+H
2の反応が生じ、0.05molの塩化マグネシウム(MgCl
2)と、0.05molの水素ガス(H
2)が発生する。発生した水素ガスは、排気路54を通じて少しずつ排出され、容器50内は雰囲気よりも陽圧に維持される。なお、一連の手順は、窒素ガスの雰囲気下で行われるとよい。一方、塩化マグネシウムは、直ちに水に溶解する。また、残り0.01molのHClは、ほぼ完全に電離している。その後、その水溶液に純水を加えて全体の体積を1Lとし、そのpHを7未満の範囲内で調整する(
図3のS14)。以上により、pHが2であって、マグネシウムの濃度が0.05mol/Lの水溶液を得ることができる。これを第2の金属であるガリウムを溶解させた原料溶液23に添加することで、マグネシウム及びガリウムが溶解しているとともに、pHが7未満の原料溶液23を生成することができる。
【0041】
上記に対して、従来の手法では、0.05molの塩化マグネシウムを純水に溶解して全体を1Lにすることで、同様の溶液の調整が試みられる。この時の溶質としては、塩酸に水酸化マグネシウムを溶解して中和させ、それを濃縮することで得られる塩化マグネシウムの六水和物(MgCl2・6H2O)が利用されることが多い。しかしながら、濃縮の際の加熱処理において、容器から溶出した意図しない不純物を含むことが多い。特に、一般的な硼珪酸ガラスの容器を用いた場合、容器から微量のシリコン(Si)が溶出し、例えば酸化ガリウムの成膜においては、膜中に取り込まれるとドナーとして機能するため、酸化膜の電気特性に大きく影響する。
【0042】
また、その濃縮により六水和物のみを得ることは難しく、無水物(MgCl2)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、塩化水酸化マグネシウム(MgCl(OH))が混入することがある。加えて、六水和物(MgCl2・6H2O)は潮解性があるため、大気中の水を容易に吸収する。そのような湿気の存在下で、例えば水酸化マグネシウムも含まれていると、2Mg(OH)2+CO2→MgCO3・Mg(OH)2+H2Oの反応によって二酸化炭素が取り込まれ、更に意図しない不純物として炭素(C)の混入が起こり得る。これら不純物の混入は、定量誤差を生じさせるだけでなく、例えば、水酸化マグネシウムは塩化マグネシウムよりも水に溶解しにくく、水溶液中で無色のコロイド粒子を形成することから、均一にドープされた成膜を困難にする原因となる。
【0043】
これらの点に関して、本実施例の手順では、シリコン(Si)を含まない材料で構成された容器50を利用することで、原料溶液23にシリコンが混入することを避けることができる。また、容器50内が雰囲気よりも陽圧に維持されることで、例えば炭素といった雰囲気中の不純物が混入することも避けることができる。従って、原料溶液23における第1の金属の濃度が安定するだけでなく、意図しない不純物の混入を避けることもできる。これにより、製造に起因する特性のばらつきを抑制して、酸化膜6を品質よく製造することができる。
【0044】
(実施例2)
図5-
図7を参照して、実施例2の製造方法について説明する。
図5に示すように、本実施例の製造方法は、実施例1の製造方法と比較して、原料溶液23を用意する工程(S12A、S12B、S14)が変更されている。従って、以下の説明では、本実施例における原料溶液23を用意する工程(S12A、S12B、S14)を主に説明し、その他の共通点については、同一の符号を付すことによって説明を省略する。
【0045】
本実施例においても、原料溶液23を用意する工程(S12A、S12B、S14)では、
図3に示す容器50を用いることができる。ここでは、ドーパントとなる第1の金属を亜鉛(Zn)とし、酸化膜6の主となる第2の金属をガリウムとする。先ず、
図6に示すように、0.02molの亜鉛金属を、0.045molの塩化水素を含む水溶液に溶解する(
図5のS12A)。このとき、Zn+2HCl→ZnCl
2+H
2の反応が生じて、0.02molの水素ガスが発生するとともに、0.02molのZnCl
2と0.005molの塩化水素を含む水溶液が生成される。
【0046】
次に、
図7に示すように、同様の容器50を用いて、0.2molのガリウム金属を、0.605molの塩化水素を含む水溶液に溶解する(
図5のS12B)。このとき、2Ga+6HCl→2GaCl
3+3H
2の反応が生じて、0.3molの水素ガスが発生するとともに、0.2molの塩化ガリウム(GaCl
3)と、0.005molの塩化水素を含む水溶液が生成される。その後、ステップS12Aで生成した水溶液と、ステップS12Bで生成した水溶液とを混合し、さらに純水を加えて全体の体積を1Lとして、そのpHを7未満の範囲内で調整する(
図5のS14)。これにより、pHが2であり、亜鉛の濃度が0.02mol/Lであり、ガリウムの濃度が0.2mol/Lである原料溶液23を得ることができる。この原料溶液23を用いることで、亜鉛がドープされた酸化ガリウムによる酸化膜6を形成することができる。
【0047】
(実施例3)
図8-
図9を参照して、実施例3の製造方法について説明する。
図8に示すように、本実施例の製造方法は、実施例1、2の製造方法と比較して、原料溶液23を用意する工程(S12C、S14)が変更されている。従って、以下の説明では、本実施例における原料溶液23を用意する工程(S12C、S14)を主に説明し、その他の共通点については、同一の符号を付すことによって説明を省略する。
【0048】
本実施例においても、原料溶液23を用意する工程(S12C、S14)では、
図3に示す容器50を用いることができる。ここでは、ドーパントとなる第1の金属を亜鉛とし、酸化膜6の主となる第2の金属をガリウムとする。先ず、
図9に示すように、容器50内において、0.02molの亜鉛金属と、0.2molのガリウム金属とを、0.65molの塩化水素を含む水溶液に一緒に溶解する。このとき、亜鉛金属とガリウム金属は粒状に加工されているとよく、さらに容器50を外側から冷却するとよい。これにより、亜鉛金属とガリウム金属とを少しずつ緩やかに溶解させて、その発熱を抑制することができる。さらに、一連の作業は、高純度の窒素ガスの雰囲気化で行うとよい。
【0049】
次に、ステップS12Cで生成された水溶液に、純水を加えて全体の体積を1Lとして、そのpHを7未満の範囲内で調整する(
図8のS14)。これにより、pHが2であり、亜鉛の濃度が0.02mol/Lであり、ガリウムの濃度が0.2mol/Lである原料溶液23を得ることができる。この原料溶液23を用いることで、亜鉛がドープされた酸化ガリウムによる酸化膜6を形成することができる。
【0050】
(実施例4)
図10を参照して、実施例4の製造方法について説明する。本実施例の製造方法は、
図10に示す成膜装置100を用いて実施され、この点において実施例1の製造方法と相違する。
図10に示すように、本実施例における成膜装置100は、二組のミスト生成装置20を有しており、二種類の原料溶液23を用いることができる。従って、特に限定されないが、一方のミスト生成装置20には、第1の金属が溶解している原料溶液23をセットし、一方のミスト生成装置20には、第2の金属が溶解している原料溶液23をセットすることができる。この場合、それら二つの原料溶液23は、同じpHを有してもよいし、互いに異なるpHを有してもよい。
【0051】
以上、本明細書が開示する技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書、又は、図面に説明した技術要素は、単独で、あるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。本明細書又は図面に例示した技術は、複数の目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0052】
2:製品、 4:基体、 6:酸化膜、 10、100:成膜装置、 12:チャンバ、 14:ヒータ、 20:ミスト生成装置、 23:原料溶液、 23m:ミスト、 50:容器