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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】細胞製造システム
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20240802BHJP
   C12M 1/02 20060101ALI20240802BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
C12M1/00 C
C12M1/02 Z
C12M3/00 Z
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019040036
(22)【出願日】2019-03-05
(65)【公開番号】P2020141588
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2020-08-06
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】517123221
【氏名又は名称】アイ ピース,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】伴 一訓
(72)【発明者】
【氏名】木下 聡
(72)【発明者】
【氏名】田邊 剛士
(72)【発明者】
【氏名】平出 亮二
(72)【発明者】
【氏名】中尾 敦
【合議体】
【審判長】上條 肇
【審判官】福井 悟
【審判官】天野 貴子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-19685(JP,A)
【文献】特開2008-147202(JP,A)
【文献】特開2016-185584(JP,A)
【文献】国際公開第2006/104445(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M1/00-3/10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞製造を補助するロボットと、
前記ロボットが1対多で作用を及ぼす、閉鎖系培養器を含む複数の細胞製造装置と、
記ロボットが作用を及ぼす危険領域側と前記危険領域側とは反対側の安全領域側とを空間的に分離する壁状構造と、
を備え、
前記複数の細胞製造装置は、前記壁状構造の前記危険領域側に配置され、前記細胞製造装置は、着脱可能な細胞作製用カートリッジと、前記カートリッジを駆動する駆動ベースとからなる二面的構造を備え、前記カートリッジが前記危険領域側の方を向くように配置され、前記駆動ベースが前記安全領域側の方を向くように配置され、
前記壁状構造は、前記細胞製造装置を配置可能な開口と、開口位置と閉鎖位置との間で移動可能なシャッターと、を備え、
前記細胞製造装置の各々は、前記ロボットの稼働状況に拘わらず、前記開口を通して前記安全領域側へ取出し可能であり、前記安全領域側からメンテナンス可能である、
細胞製造システム。
【請求項2】
前記カートリッジが使い捨てであり、前記駆動ベースが使い回し可能である、請求項1に記載の細胞製造システム。
【請求項3】
前記カートリッジが細胞製造工程を前記危険領域側からセンサによって観察可能な窓を備える、請求項1又は2に記載の細胞製造システム。
【請求項4】
前記壁状構造の前記危険領域側の空間に気流制御システムをさらに備え、前記気流制御システムは、前記壁状構造の排気側に配設した濾過フィルタと、前記濾過フィルタで浄化された清浄空気を前記壁状構造の外側へ排気する排気ファンと、を備え、前記壁状構造の上方から下方へ気流を流すダウンフロー制御を行う、又は前記壁状構造の下方から上方へ気流を流すアップフロー制御を行う、請求項1から3のいずれか一項に記載の細胞製造システム。
【請求項5】
記細胞製造装置が前記開口に挿入されるとき、前記シャッターが前記細胞製造装置の前進によって前記開口位置へ移動して前記細胞製造装置が前記開口を閉鎖し、一方で、前記細胞製造装置が前記開口から抜き取られるとき、前記シャッターが前記細胞製造装置の後退によって前記閉鎖位置へ移動して前記開口を閉鎖する、請求項1から4のいずれか一項に記載の細胞製造システム。
【請求項6】
前記壁状構造は前記ロボットを取囲むセルである、請求項1から5のいずれか一項に記載の細胞製造システム。
【請求項7】
前記壁状構造は前記ロボットが自走するラインに平行な壁状構造である、請求項1から6のいずれか一項に記載の細胞製造システム。
【請求項8】
前記ロボットの設置場所と前記細胞製造装置の保管場所との間で前記細胞製造装置を搬送可能なシャトルをさらに備え、前記壁状構造は前記ロボットの前記設置場所又は前記細胞製造装置の前記保管場所に設けられる、請求項1から7のいずれか一項に記載の細胞製造システム。
【請求項9】
前記駆動ベースが、駆動部と、前記駆動部を覆う外気遮断部材と、を備え、前記外気遮断部材を取除くことにより前記駆動部をメンテナンス可能にした、請求項1から3のいずれか一項に記載の細胞製造システム。
【請求項10】
前記ロボットはエンドエフェクタ近傍に第1センサを備え、前記第1センサを用いて、前記駆動ベースの状態確認、前記駆動ベースへの前記カートリッジの装着のための目標位置姿勢の補正、流体供給器に収容されている内容物の正誤確認、前記カートリッジへの前記流体供給器の装着のための目標位置姿勢の補正、前記流体供給器及び前記カートリッジの少なくとも一方の内部の液面変化の確認、誘導元細胞の分離確認、誘導因子の混合確認、培地PH値の色相分析、前記カートリッジの状態確認のうちの少なくとも一つが行われる、請求項1から3、及び9のいずれか一項に記載の細胞製造システム。
【請求項11】
前記ロボットは高倍率レンズを備えたカメラ又は超音波センサを含む第2センサを前記カートリッジに対して持ち運び、前記第2センサを用いて前記カートリッジ内の細胞又は細胞塊を計測する、請求項1から3、9、及び10のいずれか一項に記載の細胞製造システム。
【請求項12】
前記ロボットは、力センサ及びトルクセンサの少なくとも一方を用いた力制御により、前記駆動ベースへの前記カートリッジの着脱、及び前記カートリッジへの流体供給器の装着のうちの少なくとも一方を行う、請求項1から3及び9から11のいずれか一項に記載の細胞製造システム。
【請求項13】
さらに、並列に実行される複数の細胞製造装置用タスク、及び、前記複数の細胞製造装置用タスクと多対一で通信を行うロボット用タスクを有するコンピュータシステムと、
を備え、
前記細胞製造装置用タスクは、複数種類の細胞製造装置用プログラムモジュールの中から少なくとも1つのプログラムモジュールを起動し、
前記ロボット用タスクは、前記複数の細胞製造装置用タスクの要求に応じて複数種類のロボット用プログラムモジュールの中から少なくとも1つのプログラムモジュールを起動する、請求項1から12のいずれか一項に記載の細胞製造システム。
【請求項14】
記ロボット用プログラムモジュールは、
a)細胞製造エリアへの資材の搬入搬出と、
b)前記駆動ベースへの前記カートリッジの着脱と、
c)前記カートリッジへの流体供給器又は流体排出器の着脱と、
d)観察ステーションへの前記カートリッジの搬送と、
e)観察ステーションへの細胞懸濁液サンプルの搬送と、
f)前記カートリッジからの流体排出器の切り離し及び凍結と、
g)前記駆動ベースのトラブル対応と、
h)センサによる前記駆動ベースの状態確認と、
i)センサによる前記駆動ベースの動作確認と、
j)センサによる前記細胞製造装置内の観察と、
k)センサによる前記カートリッジの状態確認と、
のうちの少なくとも一つのロボット動作を伴うプログラムモジュールを含む、請求項13に記載の細胞製造システム。
【請求項15】
前記細胞製造装置用タスク又は前記ロボット用プログラムモジュールは、予め定められた標準的な工程に従って前記細胞製造装置に対する作用を与えるステップと、前記作用が前記標準的な工程通りに実施されたか否か及び期待される結果が得られたか否かの判定を行うステップと、前記作用及び前記判定を記録するステップと、を備える、請求項13又は14に記載の細胞製造システム。
【請求項16】
異なる複数種類のセンサをさらに備え、前記判定が前記複数種類のセンサを用いて行われる、請求項15に記載の細胞製造システム。
【請求項17】
記壁状構造が平面視で多角形又は円形に構成されており、
前記複数の細胞製造装置が前記壁状構造の周方向に並べて配置された、請求項1から16のいずれか一項に記載の細胞製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞製造技術に関し、特に生物学的及び物理的な安全性を確保すると共に量産化に適合した細胞製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
胚性幹細胞(ES細胞)は、ヒトやマウスの初期杯から樹立された幹細胞であり、生体に存在する全ての細胞へと分化できる多能性を有する。ヒトES細胞は、パーキンソン病、若年性糖尿病、及び白血病等、多くの疾患に対する細胞移植法に利用可能であると考えられている。しかし、ES細胞の移植は、臓器移植と同様に、拒絶反応を惹起するという問題がある。また、ヒト杯を破壊して樹立されるES細胞の利用に対しては、倫理的見地から反対意見が多い。
【0003】
これに対し、京都大学山中伸弥教授は、4種の遺伝子:Oct3/4、Klf4、c-Myc、及びSox2を体細胞に導入することにより、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)を樹立することに成功し、2012年のノーベル生理学・医学賞を受賞した(例えば、特許文献1参照。)。iPS細胞は、拒絶反応や倫理的問題のない理想的な多能性細胞であり、細胞移植法への利用が期待されている。
【0004】
iPS細胞のような誘導幹細胞は、細胞に遺伝子等の誘導因子を導入することによって樹立され、拡大培養、凍結保存される。しかし、例えば臨床用iPS細胞(GLP,GMPグレード)等を作製するには、非常に綺麗に保たれたクリーンルームを必要とし、高額な維持コストが掛かる。産業化のためには、クリーンルームの運用方法をいかに効率化してコスト削減に努めるかが課題になっていた。
【0005】
またiPS細胞の作製は手作業によるところが大きいが、臨床用iPS細胞を作製できる技術者は少ない。幹細胞の樹立から保存までの一連の作業が複雑であるという問題がある。臨床用の細胞培養では、標準的な工程(SOP:Standard Of Process)の確認と、SOPに従った操作と、SOP通りに実施されたか否かの確認、という3つのステップを行う必要があり、これらステップを人が行う事は非常に非生産的である。細胞培養は24時間毎日管理する必要があり、幹細胞の保存は何十年にも及ぶため、人材だけで管理するのは限界があった。
【0006】
そこで、高度に清浄なクリーンルームを不要とし、通常管理区域(例えばWHO-GMP規格において微生物及び微粒子の少なくとも一方がグレードDレベル又はそれ以上)で作業可能な完全閉鎖系の細胞製造装置が開発されてきた(例えば、特許文献2参照。)。また人材も排除して複雑な細胞製造工程を自動化するため、細胞製造を補助するロボットを備えた細胞製造システムが開発されている。斯かる細胞製造システムに関する先行技術としては、下記の文献が公知である。しかしながら、いずれの文献も通常管理区域で作業可能な閉鎖系細胞製造装置を用いたものではない。
【0007】
特許文献3-9には、クリーンルーム内に操作ロボットを配置した自動細胞培養装置が開示されており、特許文献10には、処理ステーション内に回転式ロボットを有する自動細胞培養継代システムが開示されている。
【0008】
特許文献11には、複数の細胞培養室と、原料処理室と、製品処理室との間で細胞搬送を行うロボットを備えた自動細胞培養施設が開示されており、特許文献12には、複数の細胞培養のうちの少なくとも一部を操作するロボットが開示されている。
【0009】
特許文献13-14には、搬送ロボットを含む搬送装置と各処理装置とが滅菌又は除染可能な密閉空間を備えていて着脱手段で連結可能な細胞培養処理システムが開示されている。
【0010】
特許文献15には、細胞培養フラスコ等の試料容器を輸送する電動ロボットを備えた試料貯蔵装置が開示されており、特許文献16には、ロボットハンドによる細胞培養容器の開栓作業を行うロボットシステムが開示されている。
【0011】
特許文献17には、紫外光線を照射させながら移動するロボットを備えた自動細胞培養装置が開示されており、特許文献18-20には、物品を移動させるロボットを備えた細胞培養インキュベータが開示されている。
【0012】
特許文献21-22には、細胞培養容器を観察位置まで移動させる第1ロボットアームと、細胞培養容器内の細胞を製品容器に移し替える第2ロボットアームと、を備える培養細胞製品の製造装置が開示されている。
【0013】
特許文献23には、細胞培養に使用する複数の機器と、細胞培養の操作を行うロボットと、複数の機器及びロボットを収容する収容部と、収容部の側面に設けた扉と、を備えた細胞培養システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特許第4183742号公報
【文献】特開2018-019685号公報
【文献】特開2006-115798号公報
【文献】特開2006-149268号公報
【文献】特開2007-275030号公報
【文献】特開2008-054690号公報
【文献】特開2008-237046号公報
【文献】特開2008-237112号公報
【文献】特開2009-291104号公報
【文献】特表2008-533989号公報
【文献】特開2009-219415号公報
【文献】特表2009-502168号公報
【文献】特開2012-147685号公報
【文献】再公表特許2012/098931号
【文献】特表2013-508673号公報
【文献】特開2018-000020号公報
【文献】特開2018-117586号公報
【文献】特表2018-510660号公報
【文献】特表2018-512889号公報
【文献】特表2018-516591号公報
【文献】再公表特許2018/147897号
【文献】再公表特許2018/147898号
【文献】再公表特許2016/170623号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
閉鎖系細胞製造装置を用いた自動細胞製造システムでは、通常管理区域で細胞製造を行うことが可能であるが、不要な汚染の可能性を低くするため、細胞製造エリアには人が立ち入らないことが望まれる。また、システム稼働中の細胞製造エリアには、いつどのように動作するか不明なロボットが存在するため、細胞製造エリアから人を隔離して安全を確保する必要がある。
【0016】
一方、培養細胞は生き物であり、適宜決まった時間に受渡し、処理し、保存されなければ死滅してしまうため、細胞製造システムは24時間停止せずに稼働し続ける必要があるが、閉鎖系細胞製造装置の万一のトラブルに備えて人が立ち入るエリアも用意する必要がある。
【0017】
また他分野の製造業とは異なり、製造物自体にバラツキがあるため、閉鎖系細胞製造装置毎に細胞製造の進捗がまちまちとなる。従って、固定のフローに沿ったシステム制御では量産化に対応できないという問題もある。
【0018】
そこで、生物学的にも物理的にも安全性を確保すると共に量産化に適合した細胞製造システムが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本開示の一態様は、細胞製造を補助するロボットと、前記ロボットが1対多で作用を及ぼす、閉鎖系培養器を含む複数の細胞製造装置と、前記ロボットが作用を及ぼす危険領域側と前記危険領域側とは反対側の安全領域側とを空間的に分離する壁状構造と、備え、前記複数の細胞製造装置は、前記壁状構造の前記危険領域側に配置され、前記細胞製造装置は、着脱可能な細胞作製用カートリッジと、前記カートリッジを駆動する駆動ベースとからなる二面的構造を備え、前記カートリッジが前記危険領域側の方を向くように配置され、前記駆動ベースが前記安全領域側の方を向くように配置され、前記壁状構造は、前記細胞製造装置を配置可能な開口と、開口位置と閉鎖位置との間で移動可能なシャッターと、を備え、前記細胞製造装置の各々は、前記ロボットの稼働状況に拘わらず、前記開口を通して前記安全領域側へ取出し可能であり、前記安全領域側からメンテナンス可能である、細胞製造システムを提供する。
【発明の効果】
【0020】
本開示の態様によれば、閉鎖系細胞製造装置が危険領域側及び安全領域側という二面的構造を備えるため、生物学的にも物理的にも安全な細胞製造システムを提供できる。また、閉鎖系細胞製造装置毎に細胞製造の進捗がまちまちであってもオンデマンドなシステム制御によって量産化に適合した細胞製造システムを提供できる。さらに、設備構造の種類に応じてメンテナンス体制も強化できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】一実施形態における閉鎖系細胞製造装置の一部分解図である。
図2】一実施形態における閉鎖系細胞製造装置の分解図である。
図3】セル型の細胞製造システムの一例を示す平面図である。
図4A】閉鎖系細胞製造装置を安全領域側へ取出す構成の一例を示す一部断面図である。
図4B】閉鎖系細胞製造装置を安全領域側へ取出す構成の一例を示す一部断面図である。
図4C】閉鎖系細胞製造装置を安全領域側へ取出す構成の一例を示す一部断面図である。
図5】ライン型の細胞製造システムの一例を示す平面図である。
図6】シャトル型の細胞製造システムの一例を示す平面図である。
図7A】シャトルが閉鎖系細胞製造装置を受取る様子を示す平面図である。
図7B】シャトルが閉鎖系細胞製造装置を受取る様子を示す平面図である。
図7C】シャトルが閉鎖系細胞製造装置を受取る様子を示す平面図である。
図7D】シャトルが閉鎖系細胞製造装置を受取る様子を示す平面図である。
図8A】シャトルがロボットの設置場所へ閉鎖系細胞製造装置を届ける様子を示す平面図である。
図8B】シャトルがロボットの設置場所へ閉鎖系細胞製造装置を届ける様子を示す平面図である。
図8C】シャトルがロボットの設置場所へ閉鎖系細胞製造装置を届ける様子を示す平面図である。
図9】ロボット用プログラムモジュールの一例を示すフローチャートである。
図10】ロボット用プログラムモジュールの一例を示すフローチャートである。
図11】閉鎖系細胞製造装置用プログラムモジュールの一例を示すフローチャートである。
図12】プログラムモジュール内のステータス送信処理によって出力され記録した情報の一例を示す図である。
図13】オンデマンド制御を行うコンピュータシステムの一例を示す構成図である。
図14A】閉鎖系細胞製造装置用タスクのフローチャートである。
図14B】閉鎖系細胞製造装置用タスクのフローチャートである。
図14C】閉鎖系細胞製造装置用タスクのフローチャートである。
図15】ロボット用タスクのフローチャートである。
図16A】細胞製造システムの稼働領域を示す平面図である。
図16B】細胞製造システムの稼働領域を示す平面図である。
図16C】細胞製造システムの稼働領域を示す平面図である。
図17】気流制御システムの一例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して本開示の実施形態を詳細に説明する。各図面において、同一又は類似の構成要素には同一又は類似の符号が付与されている。また、以下に記載する実施形態は、特許請求の範囲に記載される発明の技術的範囲及び用語の意義を限定するものではない。
【0023】
1.閉鎖系細胞製造装置
図1及び図2は本実施形態における閉鎖系細胞製造装置10を示す。閉鎖系細胞製造装置10は例えば細胞の初期化、リプログラミング、運命転換、形質転換等を行う閉鎖系細胞変換装置であり、体細胞から幹細胞への変換、体細胞から目的細胞への変換等を行う。但し、閉鎖系細胞製造装置10は単に細胞の培養、拡大培養等を行う装置でもよいことに留意されたい。閉鎖系細胞製造装置10は、高度にクリーンであるべき部分を全て内部に集約し、通常管理区域でも使用可能な細胞製造装置である。
【0024】
閉鎖系細胞製造装置10は、ロボットが作用を及ぼす危険領域側11と、危険領域側とは反対側の安全領域側12との二面的構造を備えている。これにより、閉鎖系細胞製造装置10を固定設置としたままでもロボット対閉鎖系細胞製造装置を1対多で関わり合わせられるシステム構成となる。作業対象である閉鎖系細胞製造装置10を回転させたり、移動させたりする必要なしに、閉鎖系細胞製造装置10はいつでも一定の方向でロボットと関わり合えることになる。
【0025】
閉鎖系細胞製造装置10は、細胞作製用カートリッジ20と、カートリッジ20を駆動する駆動ベース40と、を備えている。カートリッジ20の正面はロボットが作用を及ぼす危険領域側11の方を向くように配置され、駆動ベース40の背面は危険領域側11とは反対側の安全領域側12の方を向くように配置される。生物学的汚染防止の観点からカートリッジ20は使い捨てであるのに対し、駆動ベース40は使い回しできるため、閉鎖系細胞製造装置10は低コスト化に繋がる構成を備えている。但し、カートリッジ20を洗浄液等で洗浄し、また加熱滅菌、ガンマ線滅菌、紫外線殺菌等を施して高度にクリーンな状態を維持可能であればカートリッジ20も再利用してもよい。カートリッジ20は駆動ベース40に対して着脱可能であり、カートリッジ20の背面が駆動ベース40の正面に連結される。閉鎖系細胞製造装置10は安全領域側12からメンテナンス可能にした構造を備えている。
【0026】
カートリッジ20は、血液、皮膚等の体細胞から誘導元細胞の分離、分化誘導、拡大培養、細胞塊の破砕、目的細胞の回収等のうちの少なくとも1つの細胞作製工程を行うように構成されている。本例のカートリッジ20は、培養成分透過部材21と、培養成分透過部材21の一方の側に接触する培養側プレート22と、培養成分透過部材21の他方の側に接触する培地側プレート23と、を備えている。またカートリッジ20は、種々の貯液漕(図示せず)を介して培養側プレート22に流体を供給するための培養側供給プラグ24と、培養側プレート22から流体を排出するための培養側排出プラグ25と、を備えている。培養側供給プラグ24には、例えば血液、多能性誘導因子、培養試薬等の流体を収容するシリンジ、バイアル、輸液バッグ等の流体供給器(図示せず)が接続され、培養側排出プラグ25には、例えば製造中の細胞塊懸濁液のサンプル、製造後の細胞塊懸濁液等の流体を収容するシリンジ、バイアル、輸液バッグ等の流体排出器(図示せず)が接続される。
【0027】
カートリッジ20は、培地側プレート23を保持する培地保持層26と、培地流路27を介して培地保持層26に接続する培地タンク28と、培地流路27上に配置されるポンプ等の2つの流体機械29と、を備えている。またカートリッジ20は、未使用の培地を収容する流体供給器(図示せず)を接続する培地側供給プラグ30と、使用済の培地を収容する流体排出器(図示せず)を接続する培地側排出プラグ31と、を備えている。本例では培地側供給プラグ30及び培地側排出プラグ31が培地タンク28の側面に取付けられているが、培地タンク28の正面に取付けられてもよく、いずれの場合でもこれらはロボットによって操作される。なお、前述した種々のプラグは、閉鎖系を確保するコネクタであればよく、ニードルコネクタでもよいし、ニードルレスコネクタでもよい。前述した種々の流体供給器及び流体排出器は、ポンプ等の流体機械を備えることが望ましい。
【0028】
カートリッジ20は、細胞製造工程を危険領域側11からカメラ等のセンサによって観察可能な窓32をさらに備えている。センサはロボットのエンドエフェクタ近傍に設けられるか又はカートリッジ20に連結されてもよい。窓32は透明導電膜等を備えた透明樹脂、石英ガラス等で形成され、温度制御部(図示せず)が接続される。温度制御部はカートリッジ20内の温度を所定の培養温度に維持する。
【0029】
駆動ベース40は、モータ、ピエゾ素子等で構成される2つの駆動部41と、駆動部41を保持する駆動保持部材42と、駆動部41を夫々覆う2つの外気遮断部材43と、を備えている。駆動部41は、カートリッジ20内の2つの流体機械29を夫々駆動する。外気遮断部材43を駆動保持部材42から取除くことにより、駆動部41をメンテナンス可能である。また駆動部41を取除くことにより、カートリッジ20の流体機械29等のメンテナンスも可能である。あるいは後述するように、カートリッジ20と駆動ベース40とを含む閉鎖系細胞製造装置10を必要に応じて安全領域側12の方へ取り出せるようにして、これら全体をメンテナンスできるようにしてもよい。
【0030】
2.細胞製造システムの構成
細胞製造システムは、高度に清浄なクリーンルームを不要とし通常管理区域で細胞製造を行うが、閉鎖系が万一破られた場合に備え、細胞製造エリアは外界と比べて陽圧でもよい。通常環境ではあるが、不要な汚染、トラブルの可能性を低くするため、システム稼働中の細胞製造エリアには人がいない、介入もしないことが前提である。
【0031】
細胞製造エリアにおいて、細胞製造システムは、細胞製造を補助するロボットと、ロボットが1対多で作用を及ぼす複数の閉鎖系細胞製造装置と、を備えている。通常環境において、資材のハンドリング、搬送、着脱等はロボットにより行うことにより、作業品質の安定性が高まる。即ち、人手作業で往々にして発生し得る勘違いや作業ミスがなくなり、またロボットのプログラムの実行結果等を記録していくことで作業履歴を記録することも容易である。細胞製造システムの設備構成としては、例えばセル型、ライン型、シャトル型等のシステム構成を採用できる。以下では、これら設備構成について順に説明する。
【0032】
2-1.セル型
図3はセル型の細胞製造システム1の一例を示す。細胞製造システム1はセル型生産システムであり、細胞製造を補助するロボット50と、一台のロボット50を取囲むセル51と、セル51に取付けられていてロボット50が1対多で作用を及ぼす複数の閉鎖系細胞製造装置10と、を備えている。ロボット50は、垂直多関節ロボット、水平多関節ロボット等の産業用ロボットを含む。セル51は多角形、円形等の壁状構造55を備えており、セル51の壁状構造55には閉鎖系細胞製造装置10が複数配置される。セル51の壁状構造55は、危険領域側11と安全領域側12とを空間的に分離してもよい。図3では複数の閉鎖系細胞製造装置10が平面上に一段で描かれているが、紙面の垂直方向に多段に配置されてもよい。
【0033】
細胞製造システム1は、セル51を複数併設し、各セル51に連動する資材搬送機構52を備えてもよい。資材搬送機構52は例えば資材設置場所と各セル51との間で走行するシャトル53でよい。シャトル53は、走行軸レール54上を自走するシャトル、ロボット等でもよいが、無人搬送車(AGV)、ドローン等でもよい。また、資材搬送機構52は単にベルトコンベアでもよい。セル51は、走行軸レール54の片側だけでなく、両側に配置されてもよい。ロボット50は、細胞作製用カートリッジ、シリンジ、バイアル、輸液バッグ等の資材をセル51の内部へ搬入し、駆動ベースへのカートリッジの着脱、カートリッジへの流体供給器又は流体排出器の着脱等を行うと共に、使用済の資材をセル51の外部へ搬出する。
【0034】
閉鎖系細胞製造装置10は、セル51の壁状構造55の内側からロボット50がアクセス可能であると共に、セル51の壁状構造55の外側からメンテナンス可能である。壁状構造55はいわゆるロボット50の安全柵の機能も果たす。これにより、セル51の外側に保守作業員が入っても、保守作業員がロボット50から隔離され、物理的な安全性を確保できる。また、細胞製造システム1の稼働中には、セル51の内側には保守作業員が立ち入らないため、生物学的汚染も防止できる。さらに、特定の閉鎖系細胞製造装置10にトラブルが発生した場合には、システム稼働中であってもトラブルの発生した閉鎖系細胞製造装置10のみをセル51の外側からメンテナンスできる。
【0035】
図4A図4Cは、カートリッジ20及び駆動ベース40を含む閉鎖系細胞製造装置10を安全領域側12へ取出す構成を示している。壁状構造55は、閉鎖系細胞製造装置10を配置可能な開口56と、開口位置と閉鎖位置との間でヒンジ等によって移動可能なシャッター57と、を備えている。図4Aに示すように閉鎖系細胞製造装置10が開口56に挿入されているとき、シャッター57は閉鎖系細胞製造装置10の前進によって跳ね上げられて開口位置へ移動すると共に、閉鎖系細胞製造装置10が開口56を閉鎖した状態になる。また図4Bに示すように閉鎖系細胞製造装置10が開口56から抜き取られるとき、シャッター57は閉鎖系細胞製造装置10の後退によって倒れ込んで閉鎖位置へ移動すると共に、シャッター57が開口56を閉鎖した状態になる。これにより、危険領域側11及び安全領域側12の空間が自動的に隔離された状態でメンテナンスが可能となる。図4Cに示すようにメンテナンス時には、閉鎖系細胞製造装置10をカートリッジ20と駆動ベース40とに分離してメンテナンスしてもよい。
【0036】
2-2.ライン型
図5はライン型の細胞製造システム1の一例を示す。細胞製造システム1はライン型生産システムであり、細胞製造を補助するロボット50と、ロボット50が自走する走行軸レール54に平行な壁状構造60と、壁状構造60に取付けられていてロボット50が1対多で作用を及ぼす複数の閉鎖系細胞製造装置10と、を備えている。壁状構造60には閉鎖系細胞製造装置10が複数配置される。壁状構造60は格子状の安全柵等でもよいが、危険領域側11と安全領域側12とを空間的に分離する構造でもよい。図5では複数の閉鎖系細胞製造装置10が平面上に一段で描かれているが、紙面の垂直方向に多段に配置されてもよい。また閉鎖系細胞製造装置10は、走行軸レール54の片側だけでなく、両側に配置されてもよい。
【0037】
ロボット50は、比較的長い距離を自走するが、走行軸レール54上に複数のロボットが配置されてもよい。また、ガントリーを組んで別の走行軸レールを高い位置に上下反転させて設置し、ロボットを天吊り式に走行架台に取付ける構成でもよい。これにより、製造工場の床面が空くため、例えば資材の供給及び搬出のための場所として流用する等、床面積の有効活用を図ることができる。
【0038】
1台のロボット50が担当する閉鎖系細胞製造装置10の数が多い場合には、前述のセル型と比べ、ライン型の方がロボット1台に対する閉鎖系細胞製造装置の設置個数を増やし易い。またライン型の場合にはロボット50の可動範囲が広いため、ロボット50が資材を取りに行き、使用済みの資材を搬出できる。資材の供給及び搬出に関しては、セル型のように資材自体を必要な場所へ移動させることは必ずしも必要ではない。
【0039】
閉鎖系細胞製造装置10は、壁状構造60の表側からロボット50がアクセス可能であると共に、壁状構造60の裏側からメンテナンス可能である。これにより、セル型と同じく、物理的にも生物学的にも安全性を確保できる。また、システム稼働中であってもトラブルの発生した閉鎖系細胞製造装置10のみを壁状構造60の裏側からメンテナンスできる。
【0040】
2-3.シャトル型
図6はシャトル型の細胞製造システム1の一例を示す。細胞製造システム1はシャトル型生産システムであり、細胞製造を補助するロボット50と、ロボット50が1対多で作用を及ぼす複数の閉鎖系細胞製造装置10と、ロボット50の設置場所と閉鎖系細胞製造装置10の保管場所との間で閉鎖系細胞製造装置10を搬送可能なシャトル53と、を備えている。シャトル型では、ロボット50は自走せず、閉鎖系細胞製造装置10がシャトル53によってロボット50の設置場所と閉鎖系細胞製造装置10の保管場所との間で搬送される点で、ライン型とは異なる。閉鎖系細胞製造装置10の保管場所には、複数の閉鎖系細胞製造装置10が配置される壁状構造60が設けられる。壁状構造60は格子状の安全柵等でもよいが、危険領域側と安全領域側とを空間的に分離する構造でもよい。図6では複数の閉鎖系細胞製造装置10が平面上に一段で描かれているが、紙面の垂直方向に多段に配置されてもよい。
【0041】
ロボット1台が担当する閉鎖系細胞製造装置10の数がライン型と比べてさらに多い場合には、ロボット50は1台又は複数台を固定設置とし、閉鎖系細胞製造装置10を搬送するためのシャトル53を用いるシステム構成でもよい。シャトル53は、走行軸レール54上を走行するものでもよいし、AGV、ドローン等でもよい。但し、シャトル型を採用する場合には、閉鎖系細胞製造装置10(細胞作製用カートリッジ及び駆動ベースの組合せ)がスタンドアロンで動作する必要がある。例えば閉鎖系細胞製造装置10が、CPU、メモリ、バス、周辺機器(ポンプ、センサ等)等の入出力インタフェース、無線通信インタフェース等を備え、バッテリで駆動されると共に、システム全体を制御及び管理する上位コンピュータ装置と無線通信することにより、細胞製造に関する指令、製造状態に関する情報等をやり取りすることが望ましい。
【0042】
シャトル型の基本的な動作は次の通りである。多数並んだ閉鎖系細胞製造装置10は、保管場所で夫々独立して稼働しており、細胞製造に関する製造工程が夫々進んでいる。資材の搬入及び搬出、センサによる観察等、閉鎖系細胞製造装置10に対する何らかの処置が必要になった場合に、これら要求が上位コンピュータ装置に伝えられ、上位コンピュータ装置からの指令によってシャトル53が閉鎖系細胞製造装置10の保管場所まで閉鎖系細胞製造装置10を受取りに行く。シャトル53が閉鎖系細胞製造装置10を載せてロボット50の設置場所まで移動する。ロボット50は、シャトル53から閉鎖系細胞製造装置10を受取り、必要な処置を行う。この処置の間は、シャトル53は別の場所に移動して必要な別の処理を行ってもよい。ロボット50による閉鎖系細胞製造装置10に対する処置が終了したら、再びシャトル53がロボット50の前に移動し、シャトル53に閉鎖系細胞製造装置10を再設置する。シャトル53が閉鎖系細胞製造装置10を搬送し、保管場所の元の位置に閉鎖系細胞製造装置10を戻す。
【0043】
図7A図7Dはシャトル53が閉鎖系細胞製造装置10を受取る様子を示している。シャトル53は保管場所に配置された所定の閉鎖系細胞製造装置10の近傍に移動する(図7A参照。)。シャトル53はスライダ55を備えており、スライダ55が閉鎖系細胞製造装置10側に伸長し、閉鎖系細胞製造装置10を把持する(図7B参照。)。伸長したスライダ55を元に戻すことにより、シャトル53上に閉鎖系細胞製造装置10が移動する(図7C参照。)。その後、シャトル53が走行軸レール54上を走行する(図7D参照。)。
【0044】
図8A図8Cはシャトル53がロボット50の設置場所へ閉鎖系細胞製造装置10を届ける様子を示している。シャトル53がロボット50の近傍に移動する(図8A参照。)。ロボット50がアームを伸ばし、シャトル53上に載っている閉鎖系細胞製造装置10を把持し、閉鎖系細胞製造装置10をロボット50の近傍に設置された治具に搬送する(図8B参照。)。閉鎖系細胞製造装置10が載っていない状態になったシャトル53は別の処理を行うためにロボット50の設置場所から移動する(図8C参照。)。同時にロボット50による閉鎖系細胞製造装置10に対する処置が開始される。
【0045】
なお、各閉鎖系細胞製造装置10は、細胞製造工程の進捗に応じて適宜、流体供給器又は流体排出器が接続され、不要になった場合には閉鎖系細胞製造装置10から取外されるが、これら作業はロボット50の近傍に設置された治具(図示せず)に閉鎖系細胞製造装置10が設置された状態(図8C参照。)のときに行われる。ロボット50に対する資材の供給は、例えば図8Cのロボット50に対して閉鎖系細胞製造装置10とは反対側から行われるとよい。
【0046】
閉鎖系細胞製造装置10は、保管場所に設けた壁状構造60の表側からシャトル53がアクセス可能であると共に、保管場所に設けた壁状構造60の裏側からメンテナンス可能である。これにより、セル型、ライン型と同じく、物理的にも生物学的にも安全性を確保できる。また、システム稼働中であってもトラブルの発生した閉鎖系細胞製造装置10のみを保管場所に設けた壁状構造60の裏側からメンテナンスできる。
【0047】
3.細胞製造システムの動作
以下では、細胞製造エリアにおける細胞製造システムの動作の一例について説明する。
【0048】
(1)センサによる駆動ベースの状態確認
ロボット50のアーム先端のエンドエフェクタ近傍に装着した第1センサ(例えばカメラ、近接センサ、3次元視覚センサ等)を用いて駆動ベース40の状態を確認する。駆動ベース40の状態とは、例えば駆動ベース40に不要なものが装着されていないか、カートリッジ20を固定する駆動ベース40の固定具がオープンになっているか等である。
【0049】
(2)駆動ベースへのカートリッジの装着
ロボット50は未使用のカートリッジ20を供給場所で把持すると共に、所定の駆動ベース40に装着する。把持直前に第1センサを用いて供給場所におけるカートリッジ20の位置姿勢を計測すると共に、装着直前に第1センサを用いて駆動ベース40の位置姿勢を計測することにより、事前に教示したロボット50の目標位置姿勢を補正する。これにより、カートリッジ20が正確に位置決めされてなくてもロボット50はミスなく把持及び装着を実行できる。また、カートリッジ20を位置決めする特別な機構を用意する必要もないため、システム構成を非常に簡素にできる。さらに、ロボットの動作プログラムにおける事前の教示作業が大幅に低減することにも繋がる。
【0050】
一方、センサを使用しないティーチングプレイバック方式でロボットの目標位置を教示する場合は、仮に駆動ベース40が100箇所あるシステムの場合、最悪は100通りの教示を事前に行わなければならない。しかし、上記のようにセンサによって目標位置を補正する方式を採用する場合は、好適なケースでは1通りの教示を事前に行っておくだけで100箇所の駆動ベース40にカートリッジ20を適切に装着できるようになる。
【0051】
ロボット50のエンドエフェクタの根本部分に力センサを備えるか、ロボットの各関節部にトルクセンサを備えるか等により、ロボット50に力制御(コンプライアンス制御等)を行えるようにして、ロボット50が把持したカートリッジ20を駆動ベース40に装着する際には、カートリッジ20と駆動ベース40との間の嵌合部位に相対的な位置ずれがある状態でも、一方が他方に倣うようにロボット50の移動先を補正させるようにして、無理な力が発生させるのを回避しながら両者の嵌合を遂行するようにしてもよい。無理な力が発生してカートリッジ20又は駆動ベース40を破損させてしまう事故を回避できる。
【0052】
(3)カートリッジへの流体供給器の装着
血液、皮膚等の体細胞を収容する流体供給器が所定の人のものであるかを第1センサで確認した後、ロボット50が流体供給器を把持すると共に、カートリッジ20上の培養側供給プラグ24に接続する。把持直前に第1センサを用いて流体供給器の位置姿勢を計測し、接続直前に第1センサを用いて培養側供給プラグ24の位置姿勢を計測することにより、事前に教示したロボット50の目標位置姿勢を補正する。前述した力制御を同時に行ってもよい。
【0053】
(4)センサによる駆動ベースの動作確認
駆動ベース40を駆動すると、流体供給器内の液面変化、カートリッジ20の培地タンク28内の液面変化、貯液漕内の液面変化、流量変化等が起きるため、ロボット50は第1センサを用いてこれら液面変化を確認する。期待される液面変化が起こらない場合には何かしらの不具合が発生しているものとして上位コンピュータ装置にアラーム信号をポストする。
【0054】
(5)センサによる誘導元細胞の分離確認
貯液漕の中で血液、皮膚等の体細胞から誘導元細胞(例えば単核球、繊維芽細胞、体性幹細胞等)の分離が進み、上澄み層と沈降層との間に境界が現れるため、ロボット50は第1センサを用いて境界の位置を確認する。期待される上澄み層及び沈降層の夫々の量は既知であり、層変化の基準に見合った現象が確かに起きたか否かを判定する。期待される層変化が起こらない場合には何かしらの不具合が発生しているものとして上位コンピュータ装置にアラーム信号をポストする。
【0055】
(6)センサによる誘導因子の混合及び確認
ロボット50は第1センサを用いて誘導因子(例えば山中4遺伝子を含むセンダイウイルス、リプログラミング因子等)を収容する流体供給器をカートリッジ20の供給プラグ24に装着する。流体供給器の吸込又は吐出を組み合わせて、一旦流体供給器側に誘導元細胞分離液を引き込んだ後(誘導元細胞分離液と誘導因子とが混合する)、全流体をカートリッジ20の方へ吐出する制御を行う。この制御を的確に行うことが必須であるため、ロボット50が第1センサを用いて流体供給器内の液面変化、流量等を随時モニタリングする。流体供給器に対する駆動部41の吸込又は吐出及びその速度に応じた期待される液面変化、流量等は既知であり、液面変化の基準に見合った現象が確かに起きたか否かを判定する。期待される変化が起こらなかった場合は何かしら不具合が発生しているものとしてシステム側にアラーム信号をポストする。なお、誘導因子の混合及び確認は、種々の貯液漕、培養漕等で行われてもよい。
【0056】
(7)センサによる培地PH値の色相分析
培地を循環させている間、第1センサで流路上の培地側プレートの所定箇所で培地の色を計測し、センサで取得した情報に基づき色相分析することにより非接触に培地のPH値を求める。細胞が成長することにより培地のPH値が変化するが、変化の推移が期待される程度であった場合、PH値が予め定めた値に到達したら新鮮な培地を補充するタイミングになったと判定する。
【0057】
(8)センサによる細胞又は細胞塊の計測
ロボット50のエンドエフェクタ近傍に第2センサ(例えば高倍率レンズを備えたカメラ、超音波センサ等)を一時的に把持して持ち運び、カートリッジ20の培養側プレート22内の細胞又は細胞塊の個数、サイズ、形状、密度等が計測される。第2センサが高倍率レンズを備えたカメラの場合には、カメラ視野と比べて広い領域を複数回撮像する必要があるため、第2センサには撮像箇所をXYZ方向に微少移動させるXYZ駆動機構が付随する。第2センサはロボット50のエンドエフェクタ近傍に固定設置ではなく、ロボット50が第2センサをハンド等で一時的に把持し、特定のカートリッジ20に接近させ、カートリッジ20に対して第2センサを一時的に連結させてロボット50はその場から立ち去り、別の処理を実行してもよい。カートリッジ20と連結した第2センサは、XYZ駆動機構を駆動させてセンサを微小移動させながら培養側プレート22内を複数回計測する。培養側プレート22内の計測が終了したら、ロボット50が再度第2センサを把持し、カートリッジ20と第2センサの連結状態を解除して、第2センサを持ち去る。ロボット50は第2センサをロボット50の周辺に置くようにしてもよい。
【0058】
(9)センサによる細胞又は細胞塊の品質分析
ロボット50のエンドエフェクタ近傍に装着された第3センサ(例えばさらに高倍率のレンズを備えたカメラ、超音波センサ等)を用いて、カートリッジ20内の細胞又は細胞塊の状態を詳細に検査する。第3センサを用いて詳細に細胞又は細胞塊の状態を捉えることにより、細胞塊が所定の品質を維持しているかどうかを認識及び判定する。
【0059】
(10)観察ステーションへのカートリッジの搬送
ロボット50はカートリッジ20を一時的に(数十秒間から数分間というオーダーの短時間)駆動ベース40から切り離し、顕微鏡で観察可能な観察ステーション(マイクロスコープの測定台等)へ移動する。観察ステーションでさらに詳細な細胞又は細胞塊の状態計測を行ってもよい。顕微鏡観察が終了した後には、ロボット50がカートリッジ20を元の駆動ベース40の所へ戻し両者を結合させる。実際の顕微鏡観察自体は、観察ステーションにおいて別装置によって行われる。
【0060】
(11)観察ステーションへの細胞懸濁液サンプルの搬送
或いは、ロボット50は、カートリッジ20の培地側排出プラグ31を用いて細胞懸濁液サンプルを流体排出器に取出し、カートリッジ20の閉鎖系を保ったまま流体排出器を顕微鏡で観察可能な観察ステーションへ搬送する。顕微鏡観察が終了した後には、ロボット50が流体排出器を破棄する。実際の顕微鏡観察自体は、顕微鏡観察ステーションにおいて別装置によって行われる。或いは顕微鏡観察や他の検査作業が別室で人によって実施されてもよい。
【0061】
(12)カートリッジからの流体排出器の切り離し及び凍結
全ての細胞製造工程が無事終了した後、流体排出器に細胞懸濁液を注入し、ロボット50がカートリッジ20から流体排出器を切り離し、流体排出器を凍結ステーションへと搬送する。
【0062】
(13)駆動ベースのトラブル対応
駆動ベース40においてモータ等が正常に駆動されない等、トラブルが発生した場合には、カートリッジ20を駆動ベースから取外し、別の利用可能な駆動ベース40へ移動して装着する。その旨を上位コンピュータ装置に通知し、カートリッジ20と新たに組み合わされた駆動ベース40によってカートリッジ20内の細胞製造工程が適切に継続されるようにする。
【0063】
(14)センサによるカートリッジの状態確認
カートリッジ20内において一連の細胞製造工程が終了した際に、第1センサを用いてカートリッジ20内の流路、貯液漕、培養側プレート22等の所定箇所の状態を連続的に計測する。各箇所で取得した情報に基づいて、これら箇所が正常な状態か、或いは何らかの異常が生じているかを総合的に認識及び判定する。
【0064】
(15)センサによる駆動ベースの状態確認
カートリッジ20内において一連の細胞製造工程が終了した際に、ロボット50によってカートリッジ20を取外した後、第1センサを用いてカートリッジ20と結合されていた駆動ベース40内に備わるモータ、電磁弁、センサ等の状態、又は、駆動ベース40の周囲の状態を連続的に計測する。各箇所で取得した情報に基づいて、これら箇所が正常な状態か、或いは装置不良、カートリッジ20側からの液漏れ等、何らかの異常が生じているかを総合的に認識及び判定する。
【0065】
4.オンデマンド制御を行うコンピュータシステム
細胞製造では製造物自体にバラツキがあるため、本例のコンピュータシステムでは、固定のフローに沿ったシステム制御を行わず、小さい機能単位に分割されたフローから成るプログラムモジュールが予め複数用意されて、これらプログラムモジュールがオンデマンドで起動される。プログラムモジュールは大別して2種類ある。1つはロボット50の動作を伴うロボット用プログラムモジュール(以下、RPMという。)であり、もう1つは個々の閉鎖系細胞製造装置10における流体機械の駆動、センサ(カメラ、流量計、温度計等)による計測等、ロボット50の動作を伴わない閉鎖系細胞製造装置用プログラムモジュール(以下、IPMという。)である。
【0066】
図9はRPM-1のフローチャートを示す。RPM-1は実際のRPMを単純化して概念的に示したものであるが、RPM-1を実行することにより実機のロボット50が動作する。RPM-1は、必ずしもセンサを必須としないロボット動作を行うプログラムモジュールの一例であり、例えば下記のものがある。
【0067】
a)細胞製造エリアへの資材の搬入搬出
b)駆動ベースへのカートリッジの着脱
c)カートリッジへの流体供給器又は流体排出器の着脱
d)観察ステーションへのカートリッジの搬送
e)観察ステーションへの細胞懸濁液サンプルの搬送
f)カートリッジからの流体排出器の切り離し及び凍結
g)駆動ベースのトラブル対応
【0068】
RPM-1では例えば次のような処理が行われる。
(ステップS1)RPM-1が上位プログラムから呼び出されると、先ずRPM-1が上位プログラムから呼び出された旨がステータス1送信によって出力される。
(ステップS2-S5)ロボットによる動作A、動作B、動作Cが実行され、これら動作が正常終了した旨がステータス2送信によって出力される。
(ステップS6-S7)所定のセンサによってロボットが関わっている周辺の状態が計測され、計測結果がステータス3送信によって出力される。
(ステップS8)外部装置からロボットに対する所定の信号が入力される。
(ステップS9)入力された信号の内容によって条件判定が行われ、判定結果に応じてプログラム実行のフローが分岐される。
(ステップS10-S11)プログラム実行のフローが一方の場合、ロボットによる動作Dが実行され、続いて動作Dが正常終了した旨がステータス4送信によって出力される。
(ステップS12-S14)プログラム実行のフローが他方の場合、ロボットによる動作E、動作Fが実行され、続いてこれら動作E、Fが正常終了した旨がステータス5送信によって出力される。以上を経て、RPM-1の処理が完了する。
【0069】
図10はRPM-2のフローチャートを示す。RPM-2は実際のRPMを単純化して概念的に示したものであるが、RPM-2を実行することにより実機のロボット50が動作する。RPM-2は、センサを用いたロボット動作を行うプログラムモジュールであり、例えば下記のものがある。
h)センサによる駆動ベースの状態確認
i)センサによる駆動ベースの動作確認
j)センサによる閉鎖系細胞製造装置内の観察
k)センサによるカートリッジの状態確認
【0070】
RPM-2では例えば次のような処理が行われる。
(ステップS20)RPM-2が上位プログラムから呼び出されると、先ずRPM-2が起動された旨がステータス6送信によって出力される。
(ステップS21)ロボット動作Gによってセンサが培養側プレートの付近の所定箇所に移動される。
(ステップS22)センサ計測が実行される。
(ステップS23)センサで取得した情報から細胞が検出され、細胞又は細胞塊の個数、密度、サイズ、形状等が認識される。
(ステップS24)全ステップで認識された培養側プレート中の細胞に関する情報がステータス7送信によって出力される。またここで送信される情報は、後述のようにトレーサビリティを実現するためにデータサーバ等にも記録される。
【0071】
図11はIPM-3のフローチャートを示す。IPM-3は実際のIPMを単純化して概念的に示したものであるが、IPM-3を実行することにより実機の閉鎖系細胞製造装置10(即ち、カートリッジ20及び駆動ベース40が結合されたもの)が稼働する。IPM-3は、駆動ベース等の駆動、センサによる観察結果に基づく分岐制御等を行うプログラムモジュールである。
【0072】
IPM-3では例えば次のような処理が行われる。
(ステップS30)IPM-3が上位プログラムから呼び出されると、先ずIPM-3が起動された旨がステータス8送信によって出力される。
(ステップS31)次に培養側プレートの裏側の培地を循環させるためのポンプAの駆動が開始される。
(ステップS32)ポンプAが駆動された旨がステータス9送信によって出力される。
(ステップS33)続いてステータス7が受信されているかどうかがチェックされる。ステータス7はRPM-2の中の処理によって送信されるもので、ここで送信されたものは前述のようにトレーサビリティを実現するためにデータサーバ等に記録されると共に、このIPM-3に渡される。
(ステップS34)前ステップにおいてステータス7が受信されたか否かが判定され、もし受信されていなければステップS33が再度実行される。もし受信されていれば次のステップに進む。
(ステップS35)受信されたステータス7に含まれている培養側プレート中の細胞に関する情報に基づいて、所定の条件が満たされているか否かが判定される。条件とは、認識された全ての細胞の平均サイズが所定値以上になったかどうか等。条件が満たされていなければ、ステップ33が再度実行される。もし受信されていれば次のステップに進む。
(ステップS36)ポンプAを停止する。
(ステップS37)培養側プレート中の細胞懸濁液を次の工程へ送るためのポンプBの駆動が開始される。
(ステップS38)ポンプBの駆動が開始された旨がステータス10送信によって出力される。
【0073】
例示した複数種類のプログラムモジュールを連動させることにより、閉鎖系細胞製造装置内の細胞又は細胞塊の状態がセンサによって観察され、観察結果に応じて閉鎖系細胞製造装置内における細胞製造工程を進めることができる。閉鎖系細胞製造装置における細胞製造工程がどの段階まで進んだかは、貯液漕の液量、貯液漕内の上澄み液の量、培養側プレート内の細胞又は細胞塊の個数、サイズ等が所定の値に達したか否かによって判定される。上記の状態量はカメラ等のセンサによって計測され、計測結果が上位コンピュータ装置にフィードバックされる。該フィードバックの情報に基づいた上位コンピュータ装置での判断によって、適切なプログラムモジュールが起動される。
【0074】
またプログラムモジュールにおいて、ロボット、閉鎖系細胞製造装置等によって行われた作業ログを取るために随所にステータス送信を行うステップが予め仕組まれている。即ち何らかの情報伝達が行われる。このステータス送信ステップは、具体的には外部装置との入出力信号のやり取り、イーサネット(登録商標)通信や無線通信等を介した他の計算機へのデータ出力、或いはデータサーバやクラウドシステムへのアクセス等であってよい。
【0075】
図12はプログラムモジュール内のステータス1送信-ステータス5送信の処理によって出力された記録情報61を概念的に示す。図12では紙面に所定の情報が印字されたような体裁で描かれているが、データサーバやクラウドサーバに保存された電子データでもよい。記録情報61は特定の細胞製造に関わるトレーサビリティを実現するために記録される他の種々の情報の一部でもよく、記録情報61により、例えばこの細胞製造に関しては、ロボット動作Dではなく、ロボット動作E、ロボット動作Fが実行されたということが後々追跡できることになる。また、これら情報には日付、時刻等の情報を付随させてもよい。
【0076】
また、このように記録情報61は、細胞製造工程がどのような内容と順序で行われたかを示すものでもあり、予めSOPを定めておけば、実際に行われた工程の記録とSOPとを比較することにより、双方が一致しているか否か、もし一致していない場合はどのような相違があるか、その相違が許容範囲内であるか否かを判断することも可能になる。さらに斯かる判断は異なる複数種類のセンサを用いて別個に行うことにより、判断の偏りを無くしてもよい。
【0077】
本細胞製造システムでは、多数の閉鎖系細胞製造装置(例えば100×4=400個)が並行して制御され、個々の閉鎖系細胞製造装置で細胞製造工程が開始されるタイミングは必ずしも他の閉鎖系細胞製造装置と同じではなく、また各閉鎖系細胞製造装置で細胞製造工程が進む速度には差があるため、各閉鎖系細胞製造装置における細胞製造進捗はまちまちとなる。閉鎖系細胞製造装置では細胞製造の途中工程でシリンジ、バイアル、輸液バッグ等の資材が追加で装着される必要が生じるので、例えば先に示したIPM-3等の処理フローの中に必要な資材を要求する旨のステータス送信ステップを含めておき、上位プログラムにおいてそのステータスを受信し、必要な部材をシャトル等によって供給する別のプログラムモジュールを起動するようにしてもよい。これにより各閉鎖系細胞製造装置で必要とする資材を適宜オンデマンドでその閉鎖系細胞製造装置の近くまで供給できるようになる。換言すれば必要な物品だけが必要な場所にタイムリーに供給される、いわゆるJust In Timeのシステム制御が実現される。
【0078】
図13はオンデマンド制御を行うコンピュータシステムの一例を示す。概略的にコンピュータシステム70は、1乃至複数台のロボットを夫々制御する1乃至複数のロボット制御装置71と、複数の閉鎖系製造装置の駆動を制御する駆動制御装置72と、カメラ等の種々のセンサ73と、細胞製造システム全体を統括して制御する1台の上位コンピュータ装置74と、を備えている。ロボット制御装置71、駆動制御装置72、センサ73、及び上位コンピュータ装置74は有線又は無線のネットワークで相互に通信可能に接続される。
【0079】
上位コンピュータ装置74上では、n個の閉鎖系細胞製造装置(ここではI Plateと称する。I Plate #1、I Plate #2、・・・、I Plate #n)の1つ1つに対応したn個の閉鎖系細胞製造装置用タスク75が生成される。タスクとは、例えばマルチタスクOS上で起動されたプログラムのプロセス、スレッド等を意味する。また、実機のロボット(ここでは1台とする)に対応したロボット用タスク76も生成される。これら全てのタスクは時分割で並列実行される。ロボット用タスク76は、閉鎖系細胞製造装置用タスク75の要求に応じて複数の閉鎖系細胞製造装置用タスク75と多対一で通信を行う。この通信は、プロセス間通信、スレッド間通信等で実行されるが、ロボット制御装置71上でロボット用タスク76が実行されるコンピュータシステムの場合には、イーサネット(登録商標)通信、無線通信等で実行される。閉鎖系細胞製造装置用タスク75は、予め用意された複数種類のIPM77の中から1つのIPMを起動すると共に、ロボット用タスク76に要求して、予め用意された複数種類のRPM78の中から1つのRPMを起動する。
【0080】
図13A図13Cは閉鎖系細胞製造装置用タスク75の夫々のフローチャートを示している。タスクは夫々同じ構成になっている。閉鎖系細胞製造装置用タスク75における[IPM-*, C#*]と表記されたステップでは、既述のようなIPMが呼び出されて実行される。但し、IPMが呼び出される際には、その処理がどの閉鎖系細胞製造装置に対するものであるかが大事であり、C#*として指定される。例えば C#1はI Plate #1に対する処理であることを示し、C#nはI Plate #nに対する処理であることを示す。この指定により各IPMが物理的に異なる閉鎖系細胞製造装置に対して作用し、それに応じて該閉鎖系細胞製造装置が稼働する。
【0081】
閉鎖系細胞製造装置用タスク75は複数個(1~n)並列して走っているので、タイミングによっては同じIPM、例えばIPM-1が、複数同時に実行される可能性もある。もしそうなった場合、C#*の指定は異なるので、別々のタスクから呼び出されたIPM-1によって、物理的に異なる閉鎖系細胞製造装置が夫々稼働するという状況が発生することになる。
【0082】
閉鎖系細胞製造装置用タスク75における[RPM-*起動, C#*]と表記されたステップでは、ロボット用プログラムモジュールが呼び出されるのではなく、このステップ自体を実行する閉鎖系細胞製造装置用タスク75とロボット用タスク76との間で通信が行われて、ロボット用タスク76に対してRPM-*の起動が要求される。なお、その要求によるロボット動作がどの閉鎖系細胞製造装置を対象にしたものかが大事なので、C#*として指定される。またこのステップについては起動要求がなされるのみで、その閉鎖系細胞製造装置用タスク75における処理フローは先に進む。具体的には[PRM-1, C#*]のステップが実行されたら、直ちに次の[IPM-3, C#*]のステップに処理が進む。
【0083】
閉鎖系細胞製造装置用タスク75は複数個(1~n)並列して走っているので、異なる閉鎖系細胞製造装置用タスク75からのRPM-*の起動要求が複数重なることが有り得る。しかし、ロボット用タスク76および実機のロボットは1つなので、これら起動要求を同時に実現することは出来ず、早い者勝ちで順番に実行に移される。この複数重なったRPM-*の起動要求は、一般的なコンピュータシステムにおいて周知のキューと称する処理によってFirst In, First Out(FIFO)で管理される。
【0084】
図15はロボット用タスク76のフローチャートを示している。ロボット用タスク76の一例においては、ある閉鎖系細胞製造装置用タスクプロセスからのRPM-*の起動要求を受信したら、指定されたRPM-*の番号と対象とする閉鎖系細胞製造装置を示すC#*の情報に基づいて、然るべきRPM(ここでは1~mのm種類が存在するものとする。)を呼び出して実行する。これにより指定された閉鎖系細胞製造装置を対象としてロボット動作が開始され所定の作業が行われる。
【0085】
5.万一の汚染に備えた気流制御システム
図16A図16Cは細胞製造システムの稼働領域80を示している。培養中の閉鎖系細胞製造装置やロボットが置かれている空間への資材の搬入搬出はパスボックス又はパスルーム81を介して行われることが望ましい。これにより、閉鎖系が破られた等の万一の汚染が発生しても、空気の流れを制御するため、空気のダダ洩れの瞬間が作られない。
【0086】
上図を一例として、細胞製造システムの稼働領域80、パスルーム81、それ以外の領域82に分けて、これら空間の間の空気の流れを遮断可能な扉で仕切り、資材等を細胞製造システムの稼働領域に搬入する際には、適切なシーケンスを踏んで搬入を行う。
【0087】
夫々の領域は、図16Aに示すように別々の陽圧/陰圧の気圧管理がなされていてもよい。又は本開示によれば、夫々の領域で特別な気圧管理を行わない構成も有り得る。扉Aと扉Bの動作管理だけ後述のように行いさえすれば、不要な粉塵が細胞製造システムの稼働領域に吹き込むことが回避される。
【0088】
資材等を搬入する際には、先ず図16Bに示すように扉Aを開いてパスルーム81内に一旦資材等を搬入する。この時にエアーブロー等によって資材に付着している粉塵を吹き払うようにしてもよい。又は、エタノール噴霧やUV照射、過酸化水素等による消毒又は滅菌が行われてもよい。
【0089】
次に図16Cに示すように扉Aを閉じた後に扉Bを開いて細胞製造システムが稼働する領域に資材等を搬入する。搬入後に扉Bを閉じて一連の搬入シーケンスが完了する。使用済の資材を搬出する際は、扉の開閉順序を逆にすればよい。なお、細胞製造自体は閉鎖系細胞製造装置内で行われているため、各領域間の空気の遮断性はいわゆるCPC(Cell Processing Center)等のような厳密なものでなくてもよい。
【0090】
万一の場合に細胞製造エリアへ保守作業員が入る場合も、パスルーム81を経由する。又は細胞製造エリアへの資材の搬入搬出ルートと、保守作業員の進入退出ルートは異なるパスルーム、異なるルートを経由してもよい。搬入搬出する資材の1次ストックのボリュームが大量になると予想されるため、パスルーム81内に立体自動倉庫を設備してもよい。資材等のストック量が多くない場合は、立体自動倉庫のような大掛かりな装置ではなく、ロボットによる在庫品の搬入・搬出管理を行ってもよい。
【0091】
図17は気流制御システム90の一例を示している。本例の気流制御システム90はセル型の細胞製造システムに適用されている。セル51は多角形、円形等に形成された壁状構造と、開放された上側開口と、を備えており、壁状構造は危険領域側11と安全領域側12とを空間的に分離している。セル51の内側にはロボット50が配置されており、ロボット50は上方に延びるハンド等を用いてセル51の上方から資材91をセル51の内部に搬送する。またセル51の壁状構造には複数の閉鎖系細胞製造装置(図示せず)が配置されている。気流制御システム90は危険領域側11の空間に備えられており、セル51の上方から下方へ気流を流すダウンフロー制御を行う。気流制御システム90は、セル51の下方、即ち排気側に配設したHEPA等の濾過フィルタ92と、濾過フィルタ92で浄化された清浄空気をセル51の外側へ排気する排気ファン93と、を備えている。この気流制御システム90によれば、下記のメリットが得られる。
【0092】
(1)クリーンルーム不要な通常管理区域ではあるものの、セル51内で発生し得る万一の生物学的汚染を防止できる。
(2)セル51内の温度ムラ及び湿度ムラを防ぎ、閉鎖系細胞製造装置の温度上昇及び湿度上昇を防止できる。
(3)清浄空気をセル51の外側へ排出するため、バックグランドの製造環境の清浄度を上げることも可能である。排気風量の設定により、微粒子濃度を制御することも可能である。
【0093】
但し、気流制御システム90は閉鎖系が破られた際の万一に備えたシステム構成であるため、気流制御システムは必ずしも清浄度制御の必要はなく、しかも差圧管理の必要もない一般空調でも可能である。また気流制御システム90は、濾過フィルタ92及び排気ファン93を排気側に備えていれば、アップフロー制御でもよいことに留意されたい。
【0094】
6.運用上の特徴
以下では運用上の特徴について説明する。
6-1.トレーサビリティ
細胞製造過程での全てのアクション(起動されたタスクプログラム、プログラムモジュール内の処理フローの実行ログ等)、センサの計測値等の情報が全て上位コンピュータ装置に集約され、記録される。トレーサビリティを実現するため、上記の情報を含めて以下のような情報が関連付けられてデータベースに記憶される。
(1)細胞作製者の個人情報(氏名、年齢、生年月日、血液型、国籍、住所)
(2)個人の遺伝子ゲノム情報
(3)個人の家族構成
(4)個人の病歴、既往症、過去/現在の治療歴
(5)細胞作製のための採血場所、日時、採血量
(6)細胞作製過程の全てのログ(ロボット用プログラムモジュールによって出力されるステータス情報や、閉鎖系製造装置用プログラムモジュールによって出力されるステータス情報等)
(7)上記の全てのログと予め用意したSOPを比較した結果とその合否判定
(8)作製された細胞の検査結果
(9)作製された細胞の保管場所、保管予定期間
(10)保管された細胞の利用履歴
【0095】
6-2.識別情報管理及び製造記録の手法
ID管理、製造記録は下記のような幾つかの手法を採用してもよい。
(1)ホストコンピュータがリアルタイムに集中管理する方式
(2)個々の閉鎖系細胞製造装置に埋め込まれたICチップに記録させて、後程管理サーバに集約する方式
(3)細胞製造に関わる全ての資材には予め固有のIDが割り当てられ、それらIDが2次元バーコード、3次元バーコード、ICチップ等のような形式で各資材に貼り付けられ、それらIDが各閉鎖系細胞製造装置で使用される直前にカメラ等のセンサによって読み取られ、ホストコンピュータ或いは上記ICチップに転送される方式
【0096】
6-3.閉鎖系製造装置の制御手法
各閉鎖系製造装置の制御については下記のような幾つかの手法を採用してもよい。
(1)1台の閉鎖系製造装置に含まれる複数台のポンプ、多数のセンサが1つの制御システムで制御される(閉鎖系製造装置と制御システムが1対1になる)。
(2)N台分の閉鎖系製造装置に含まれるポンプや多数のセンサがFIELDシステム(登録商標)のようなネットワークシステムで制御される。
【0097】
前述した実施形態におけるソフトウェアは、コンピュータ読取り可能な非一時的記録媒体、CD-ROM等に記録して提供してもよい。本明細書において種々の実施形態について説明したが、本発明は、前述した種々の実施形態に限定されるものではなく、以下の特許請求の範囲に記載された範囲内において種々の変更を行えることを認識されたい。
【符号の説明】
【0098】
1 細胞製造システム
10 閉鎖系細胞製造装置
20 カートリッジ
21 培養成分透過部材
22 培養側プレート
23 培地側プレート
24 培養側供給プラグ
25 培養側排出プラグ
26 培地保持層
27 培地流路
28 培地タンク
29 流体機械
30 培地側供給プラグ
31 培地側排出プラグ
32 窓
40 駆動ベース
41 駆動部
42 駆動保持部材
43 外気遮断部材
50 ロボット
51 セル
52 資材搬送機構
53 シャトル
54 走行軸レール
55 スライダ
56 開口
57 シャッター
60 壁状構造
61 記録情報
70 コンピュータシステム
71 ロボット制御装置
72 駆動制御装置
73 センサ
74 上位コンピュータ装置
75 閉鎖系細胞製造装置用タスク
76 ロボット用タスク
77 閉鎖系細胞製造装置用プログラムモジュール
78 ロボット用プログラムモジュール
80 細胞製造システムの稼働領域
81 パスルーム
82 それ以外の領域
90 気流制御システム
91 資材
92 濾過フィルタ
93 排気ファン
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
図8C
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図14C
図15
図16A
図16B
図16C
図17