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特許7531173全固体二次電池用無溶媒電極及び全固体二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】全固体二次電池用無溶媒電極及び全固体二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20240802BHJP
   H01M 4/60 20060101ALI20240802BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240802BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20240802BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240802BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20240802BHJP
   C07C 49/665 20060101ALN20240802BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/60
H01M4/62 Z
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M10/0565
C07C49/665
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020054925
(22)【出願日】2020-03-25
(65)【公開番号】P2021157894
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(73)【特許権者】
【識別番号】304000836
【氏名又は名称】学校法人 名古屋電気学園
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】森田 靖
(72)【発明者】
【氏名】村田 剛志
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-175681(JP,A)
【文献】国際公開第2013/042706(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13
H01M 4/60
H01M 4/62
H01M 10/0585
H01M 10/0562
H01M 10/0565
C07C 49/665
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質として式(1)および式(2)で示されるトリオキソトリアンギュレン(TOT)誘導体の少なくとも1種、導電助剤、および固体電解質を含有し、有機電解液を含有しない全固体二次電池用無溶媒電極。
【化1】
(式中、Xは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、(ヘテロ)アリール基、アラルキル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、チオール基、またはシリル基を表し、互いに同一でも異なっていてもよい。実線と破線からなる二重結合は非局在化した二重結合を意味しており、式中、●で表される不対電子および(-)で表される負電荷は、この非局在化二重結合中に存在する。式中、M(+)はアルカリ金属イオンを示す。)
【請求項2】
前記TOT誘導体のXが水素原子である、請求項1に記載の全固体二次電池用無溶媒電極。
【請求項3】
前記固体電解質は、アルカリ金属を含む請求項1又は2に記載の全固体二次電池用無溶媒電極。
【請求項4】
前記固体電解質がポリマー電解質とアルカリ金属塩との混合物である、請求項に記載の全固体二次電池用無溶媒電極。
【請求項5】
前記アルカリ金属塩がリチウム塩であり、かつ式(2)におけるM(+)がリチウムイオンである、請求項に記載の全固体二次電池用無溶媒電極。
【請求項6】
前記固体電解質は、硫化物型、ペロブスカイト型、NASICON型、及びガーネット型よりなる群から選択される少なくとも1つである請求項3に記載の全固体二次電池用無溶媒電極。
【請求項7】
請求項1~のいずれかに記載の電極を正極および負極とし、固体電解質をセパレータとして両極を相対させた構造を有するバイポーラ型全固体二次電池。
【請求項8】
請求項に記載の構造を一つの電池内に2組以上重ね合わせた構造を有するバイポーラ型全固体二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二次電池、特にバイポーラ型全固体二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池(LIB)はモバイル機器電源や電気自動車用バッテリーなどに実用化されているが、電解液として可燃性の有機溶媒を用いており、さらに正極活物質として過充電すると結晶構造が壊れて発熱する金属酸化物が用いられているため、安全性に問題がある。またこのような金属酸化物の構成元素はレアメタルであり資源埋蔵量や入手性に問題がある。
【0003】
電解液を用いない全固体電池では安全性の問題はクリアできる上、正極と負極を複数重ね合わせるバイポーラ型電池も可能となるため、電池単セルの電圧を大きくすることができ高出力化を達成できる。しかし現行の全固体電池は正極と負極に異なる材料を使用するためそれぞれを別個に製造する必要がありコストが高くなる。また正極と負極を複数重ね合わせる際には集電体の両面に正極と負極をそれぞれ形成する必要があるが、両者が異なる材料の場合、それぞれの最適プロセスが異なるため両方がベストとなる条件を設定することは不可能である。
【0004】
これに対し、一種類で正極と負極の両方に対応可能な活物質を使用すれば正極と負極を作り分ける必要がなくなり、コスト低減および製造プロセスの最適化を容易に達成できる。このような活物質候補として複数段階の酸化還元反応が可能なトリオキソトリアンギュレン(TOT)があげられるが、これまで全固体バイポーラ型電池については検討されていなかった(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Y.Morita,et al.,Nature Materials,2011,Vol.10,p.947,“Organic tailored batteries materials using stable open-shell molecules with degenerate frontier orbitals”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、全固体二次電池用無溶媒電極、及び正極と負極に同じ材料を用いてバイポーラ型全固体二次電池を作製することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決した本発明の全固体二次電池用無溶媒電極は、活物質として式(1)および式(2)で示されるトリオキソトリアンギュレン(TOT)誘導体の少なくとも1種、導電助剤、および固体電解質を含有し、有機電解液を含有しないことに特徴を有する。なお、以下、式(1)の化合物をX3TOTと表し、式(2)の化合物をM+3TOT-又はMX3TOTと表す場合がある(X、Mは式(1)、式(2)と同じ意味である)。
【化1】

(式中、Xは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、(ヘテロ)アリール基、アラルキル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、チオール基、またはシリル基を表し、互いに同一でも異なっていてもよい。実線と破線からなる二重結合は非局在化した二重結合を意味しており、式中、●で表される不対電子および(-)で表される負電荷は、この非局在化二重結合中に存在する。式中、M(+)はアルカリ金属イオンを示す。)
【0008】
上記TOT誘導体におけるXは水素原子であることが好ましい。
【0009】
上記固体電解質はポリマー電解質とアルカリ金属塩との混合物であることが好ましい。
【0010】
上記アルカリ金属塩はリチウム塩であり、かつ式(2)におけるM(+)はリチウムイオンであることが好ましい。
【0011】
本発明はまた、上記無溶媒電極を正極および負極とし、固体電解質をセパレータとして両極を相対させた構造を有するバイポーラ型全固体二次電池を提供する。
【0012】
本発明のバイポーラ型全固体二次電池は両極に同じ活物質を用いることが特徴であり、正極と負極を作り分ける必要がないため、製造プロセス簡略化と低コスト化に大きなメリットが期待できる。これに対し、従来のバイポーラ型電池は、通常、正極と負極が別であるため、製造上の難しさがあった。TOT誘導体が正極と負極の両方の活物質として使用できる理由は、1つの化合物で酸化と還元の両方向への反応が可能であるという特性による。さらに充放電に必要なアルカリ金属イオンを初めから構造中に含ませることが可能であるため、別途アルカリ金属イオンを導入する必要がないことも大きなメリットである。
【0013】
さらに本発明のバイポーラ型全固体二次電池は、TOT誘導体を活物質とする電極同士を組み合わせた上記構造を一つの電池内に2組以上重ね合わせた構造を有することが好ましい。上記構造を2組以上組み合わせることにより、一つの電池内に複数の正極-負極ペアを直列接続させることができる。このような積層バイポーラ型電池はその積層数に応じた高電圧化が可能であり、高容量かつ高出力の二次電池を製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
引火性のある有機溶媒を含まない電極を作製することができ、二次電池の安全性向上が期待できる。正極と負極の構造を同一とすることが可能であり、製造プロセス簡略化や低コスト化に寄与するのみならず、積層バイポーラ型電池を容易に製造することが可能となり、高容量かつ高出力の二次電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の実施例1に係る電池のサイクリックボルタモグラムである。
図2図2は、本発明の実施例1に係る電池の充放電特性を示すグラフである。
図3図3は、本発明の実施例2に係る電池の充放電特性を示すグラフである。
図4図4は、本発明の実施例3に係る電池の充放電特性を示すグラフである。
図5図5は、本発明の実施例4に係る電池の充放電特性を示すグラフである。
図6図6は、本発明の実施例4に係る電池の充放電特性を示すグラフである。
図7図7は、本発明の実施例5に係る電池の充放電特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の全固体二次電池用無溶媒電極は、式(1)および式(2)で示されるトリオキソトリアンギュレン(TOT)誘導体の少なくとも1種、導電助剤、および固体電解質を含有し、有機電解液を含有しない。
【化2】

(式中、Xは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、(ヘテロ)アリール基、アラルキル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、チオール基、またはシリル基を表し、互いに同一でも異なっていてもよい。実線と破線からなる二重結合は非局在化した二重結合を意味しており、式中、●で表される不対電子および(-)で表される負電荷は、この非局在化二重結合中に存在する。式中、M(+)はアルカリ金属イオンを示す。)
【0017】
Xが水素原子、ハロゲン原子、又は前記例示の基であるTOT誘導体は、Xがカルボキシル基であるTOT誘導体のものに比べて合成が容易であるというメリットを有し、カルボキシル基にアルカリ金属が塩としてトラップされるという不具合がなく、イオン伝導度を高くできる。さらにXとしては、水素原子、ハロゲン原子、メチル基、エチル基、ヒドロキシ基、メトキシ基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、チオール基などが好ましく、水素原子が特に好ましい。Xがこれら好ましいものであると、充放電理論容量を大きくでき、例えば、Xが水素原子であるTOTの理論容量(4電子分)は334mAh/gであって、XがCOOLiであるTOTの理論容量(228mAh/g)よりも大きくできる。
【0018】
上記式(1)で示されるTOT誘導体は中性ラジカルであり、不対電子が分子内のπ電子系に広く非局在化しているため室温で大気中でも安定である。また式(2)で示されるTOT誘導体はモノアニオンであり、式(1)のTOT中性ラジカルを1電子還元することにより得られる。逆に式(2)のTOTモノアニオンを1電子酸化すると可逆的に式(1)のTOT中性ラジカルを得ることができる。式中のMとしてはリチウム、ナトリウム、カリウムなどを使用できるが、電池特性に優れる点でリチウムが好ましい。
【0019】
固体電解質としては例えばLi2S-P25、Li3.25Ge0.250.754、Li2S-SiS2-Li4SiO4、Li2S-LiI、Li10GeP212、Li7311などの硫化物型、La0.51Li0.34TiO2.94などのペロブスカイト型、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO43などのNASICON型、Li7La3Zr212などのガーネット型、およびポリマー電解質を使用することができる。TOTとの親和性が高い点でポリマー電解質が好ましい。
【0020】
固体電解質はポリマー電解質とアルカリ金属塩との混合物であることが好ましい。ポリマー電解質はポリマーとアルカリ金属塩との混合物として得られるが、ポリマーとしては例えばポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸(PMAA)などのポリ(メタ)アクリル酸;ポリ2-ヒドロキシエチルアクリレート、ポリ2-ヒドロキシエチルメタクリレートなどのポリ(メタ)アクリレート;ポリアクリルアミド(PAAm)、ポリメタクリルアミド(PMAm)などのポリ(メタ)アクリルアミド;ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、およびこれらの共重合体を使用することができる。これらのうち入手性とイオン伝導性の点でポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アクリルアミド、PEOおよびこれらの共重合体が好ましく、PAA、PMAA、ポリ2-ヒドロキシエチルアクリレート、ポリ2-ヒドロキシエチルメタクリレート、PAAm、PMAm、PEOおよびこれらの共重合体がより好ましい。
【0021】
アルカリ金属塩としてはリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などを用いることができるが、電池の充放電特性が優れる点でリチウム塩が好ましい。リチウム塩としては特に限定されないが、入手性の点でLiPF6、LiClO4、LiBF4、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミド(LiTFSI)が好ましく、電池の充放電特性が優れる点でLiFSIおよびLiTFSIがより好ましい。また使用するアルカリ金属塩の金属と、上記式(2)におけるM(+)の金属が同一であることが好ましい。
【0022】
導電助剤としてはアセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラックなどのカーボンブラック、多孔質炭素材料、天然黒鉛、カーボンナノチューブ(CNT)、気相成長炭素繊維(VGCF(登録商標))、グラフェン、酸化グラフェン還元体などを使用することができるが、電池の充放電特性に優れる点でアセチレンブラック、ケッチェンブラック、多孔質炭素材料、CNT、VGCF(登録商標)、グラフェンが好ましく、アセチレンブラック、多孔質炭素材料、CNT、VGCF(登録商標)がより好ましい。導電助剤は単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。アセチレンブラックや多孔質炭素材料などの粒子状導電助剤はTOTの吸着や保持に優れ、一方でCNTやVGCF(登録商標)などの繊維状導電助剤は電導性に優れる特徴を有するため、両者を組み合わせて用いるのが好ましい。
【0023】
本発明の実施形態に係る全固体二次電池用無溶媒電極を製造する方法としては特に限定されず、上記式(1)および式(2)で示されるトリオキソトリアンギュレン誘導体の少なくとも1種、導電助剤、および固体電解質を混合し、塗布あるいは成形することにより得られる。
【0024】
混合する方法としては全ての成分を一度に混ぜてもよく、順次加えながら混ぜても良い。効率よく混合できる点で溶媒を添加することが好ましい。溶媒としては特に限定されず、例えば水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、アセトン、アセトニトリル、N-メチルピロリドン(NMP)、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチルなどを使用することができる。各成分を効率的に分散し混合できる点で水、メタノール、エタノール、アセトニトリル、NMPが好ましく、水、メタノール、エタノールがより好ましい。
【0025】
溶媒を用いて混合する場合、各種攪拌装置、ボールミル、ミキサー、超音波分散機などを用いることにより効率よく分散体を得ることができる。ポリマー電解質としてポリマーとアルカリ金属塩との混合物を使用する場合、他の成分と混合する前にポリマーとアルカリ金属塩とを予め混合しておいてもよく、他の成分と同時に両者を混合してもよい。
【0026】
電極として薄膜状に成形する方法としては特に限定されず、集電体となる金属箔や金属板に塗布し、乾燥させればよい。塗布法としては例えばバーコーティング、スピンコーティング、ディップコーティング、スプレーコーティング、スクリーン印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷などがあげられる。塗布後、適宜加熱したり減圧したりして乾燥させる。乾燥中あるいは乾燥後にプレスして電極の密度を大きくすることも可能である。溶媒を使用せずに混合した場合には、得られた混合物を直接プレスしてシート状に成形して電極としてもよい。集電体となる金属箔や金属板の種類は特に限定されず、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄などを使用でき、形状もホイル状、シート状、メッシュ状など任意のものを使用可能である。
【0027】
本発明の実施形態に係る電極の膜厚は特に限定されないが、薄いと電池容量が小さくなり、厚いと乾燥工程に時間がかかる上、高速充放電特性が悪くなる。両者のバランスの点で5μm~300μmの範囲が好ましく、20μm~150μmの範囲がより好ましい。
【0028】
本発明の実施形態に係る電極において各成分の含有量は特に限定されないが、電池の充放電特性に優れる点でTOT誘導体は、TOT誘導体と導電助剤と固体電解質との合計100質量%中、20~95重量%含まれていることが好ましく、30~90重量%含まれていることがより好ましく、30~80重量%含まれていることがさらに好ましい。TOT誘導体が多く含まれるほど電池の充放電容量は大きくなるが、多すぎると電子やイオンの移動効率が下がるため高速充放電特性が悪化する。
【0029】
導電助剤は電子伝導性の確保と電池容量の最大化のバランスをとるため、TOT誘導体と導電助剤と固体電解質との合計100質量%中、1~20重量%含まれていることが好ましく、2~15重量%含まれていることがより好ましい。粒子状導電助剤と繊維状導電助剤とを組み合わせる場合の粒子状導電助剤と繊維状導電助剤の割合(粒子状導電助剤:繊維状導電助剤)は特に限定されないが、重量比で95:5~40:60の範囲が好ましく、90:10~45:55の範囲がより好ましく、80:20~50:50の範囲が更に好ましく、75:25~55:45の範囲であってもよい。粒子状導電助剤と繊維状導電助剤を上記範囲で組み合わせれば、TOTの吸着や保持に優れ電導性に優れた導電助剤とすることができる。
【0030】
固体電解質はイオン伝導性の確保と電池容量の最大化のバランスをとるため、TOT誘導体と導電助剤と固体電解質との合計100質量%中、3~70重量%含まれていることが好ましく、10~60重量%含まれていることが好ましく、15~55重量%含まれていることがより好ましい。固体電解質としてポリマーとアルカリ金属塩との混合物を用いる場合、両者の含有比(ポリマー:アルカリ金属塩)は特に限定されないが、イオン伝導性に優れる点で重量比50:50~95:5の範囲が好ましく、60:40~90:10の範囲がより好ましく、65:35~80:20の範囲がさらに好ましい。
【0031】
本発明の実施形態に係る電極を作製する際、集電体および各成分同士の接着性を高める目的でバインダーを併用してもよい。バインダーとしては例えばポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド、スチレンブタジエンゴム、ポリアクリロニトリル、PAAなどを使用することができる。
【0032】
本発明の実施形態に係る電極においては、バインダーを含まないことも好ましい態様である。上記の導電助剤を用いているため、バインダーを含まなくても電極の作製が可能である。バインダーは充放電に関与しないため、電池の充放電容量を大きくする観点からはなるべく少量が好ましく、含まないことがより好ましい。
【0033】
本発明の実施形態に係る電極を正極および負極とし、固体電解質をセパレータとして両極を相対させた構造を有するバイポーラ型固体二次電池とすることができる。本発明によれば、同じ電極同士を固体電解質セパレータを介して相対させることで、バイポーラ型電池とすることが可能である。この場合充放電の電位の与え方によって一方が正極となり、他方が負極となる。
【0034】
上記に記載の構造を一つの電池内に2組以上重ね合わせた構造を有するバイポーラ型固体二次電池とし、バイポーラ型構造を一つの電池の中に複数層重ね合わせることも可能である。これは電池を直列接続することに相当するため、重ねる層数が大きいほど電圧を高くすることができる。
【実施例
【0035】
以下、実施例に従って本発明を説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0036】
含有量ないし使用量を表す%および部は、特に記載ない限り重量基準である。TOT中性ラジカル誘導体(H3TOT)およびTOTモノアニオン誘導体(LiH3TOT)は、2-ヨードトルエンを出発原料として非特許文献1に記載の方法で合成した。アセチレンブラック(AB)はデンカ製デンカブラック、気相成長炭素繊維(VGCF(登録商標))は昭和電工製、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)はクレハ製KFポリマー、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)は大阪ソーダ製を用いた。電極膜厚はハイデンハイン株式会社製ゲージMT1281を用いて測定した。充放電試験はCR2032コインセルを用いてバイオロジック社製充放電試験機BCS-810で実施した。
(実施例1)
<電極の作製>
活物質としてLi+3TOT-(100mg)、導電助剤としてAB(16mg)およびVGCF(登録商標)(4mg)、ポリマー電解質としてリチウムビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミド(LiTFSI)(24mg)およびPEO(56mg)、分散溶媒としてアセトニトリル(1.7g)を遊星式撹拌脱泡装置で混合し、Li+3TOT-/AB/VGCF(登録商標)/LiTFSI/PEO(50:8:2:12:28)(重量比)のスラリーを得た。このスラリー適量をφ15mmのステンレス円盤上にスピンコートして乾燥させて全固体二次電池用無溶媒電極を作製した。
【0037】
<電池の作製と評価>
上記電極2枚を、セパレータとして大阪ソーダ製LiTFSI含有PEOフィルム(φ16mm)を介して相対させ、バネと共にCR2032コインセルの中に入れてかしめることにより電池を作製した。初期状態では両極間に電気化学ポテンシャルの差がないため電圧は0Vである。この電池を0V→2.6V→0Vでサイクリックボルタンメトリーを行った結果を図1に示す。可逆的酸化還元波が観測された。次にこの電池を電圧範囲2.1-0V、レート0.1Cで10サイクル、80℃で充放電させた。充放電曲線を図2に示す。初回充電に対する不可逆容量が大きいものの二次電池として安定に動作しており、10mAh/g以上の放電容量を保っていた。
【0038】
(実施例2)
<電極の作製>
活物質としてLi+3TOT-(100mg)、導電助剤としてAB(16mg)およびVGCF(登録商標)(4mg)、ポリマー電解質としてLiTFSI(22mg)およびPEO(57mg)、分散溶媒としてアセトニトリル(1.5g)を遊星式撹拌脱泡装置で混合し、LiTOT/AB/VGCF(登録商標)/LiTFSI/PEO(50:8:2:11:29)(重量比)のスラリーを得た。このスラリー適量をφ15mmのステンレス円盤上にスピンコートして乾燥させて全固体二次電池用無溶媒電極を作製した。
【0039】
<電池の作製と評価>
上記電極2枚を、セパレータとして大阪ソーダ製LiTFSI含有PEOフィルム(φ16mm)を介して相対させ、バネと共にCR2032コインセルの中に入れてかしめることにより電池を作製した。この電池を電圧範囲1.8-0.2V、レート0.01Cで8サイクル、60℃で充放電させた。充放電曲線を図3に示す。サイクルごとに容量低下が認められるものの二次電池として安定に動作した。
【0040】
(実施例3)
<電極の作製>
実施例2で調製したLi+3TOT-/AB/VGCF(登録商標)/LiTFSI/PEO(50:8:2:11:29)(重量比)のスラリー適量をφ15mmのステンレス円盤上にスピンコートして乾燥させて全固体二次電池用無溶媒電極を作製した。
【0041】
<電池の作製と評価>
上記電極2枚を、セパレータとして大阪ソーダ製LiTFSI含有PEOフィルム(φ16mm)を介して相対させ、バネと共にCR2032コインセルの中に入れてかしめることにより電池を作製した。この電池を電圧範囲1.8-0.2V、レート0.01Cで9サイクル、60℃で充放電させた。充放電曲線を図4に示す。サイクルごとに容量低下が認められるものの二次電池として安定に動作した。
【0042】
(実施例4)
<電極の作製>
活物質としてLi+3TOT-(40mg)、導電助剤としてAB(8mg)およびVGCF(登録商標)(2mg)、ポリマー電解質としてLiTFSI(14mg)およびPEO(36mg)、分散溶媒としてエタノール(1.8g)を遊星式撹拌脱泡装置で混合し、Li+3TOT-/AB/VGCF(登録商標)/LiTFSI/PEO(40:8:2:14:36)(重量比)のスラリーを得た。このスラリーからエタノールを若干蒸発させて濃縮した後、適量をφ15mmのステンレス円盤上にスピンコートして乾燥させて全固体二次電池用無溶媒電極を作製した。
【0043】
<電池の作製と評価>
上記電極2枚を、セパレータとして大阪ソーダ製LiTFSI含有PEOフィルム(φ16mm)を介して相対させ、バネと共にCR2032コインセルの中に入れてかしめることにより電池を作製した。この電池を電圧範囲1.8-0.1V、レート0.1Cで5サイクル、80℃で充放電させた。充放電曲線を図5に示す。二次電池として安定に動作しており、サイクルごとの容量減少はほとんど認められなかった。さらにこの電池を電圧範囲を1.5-0.1Vに変えた以外は同じ条件で充放電させた結果を図6に示す。充電電圧を小さくしても問題なく充放電した。
【0044】
(実施例5)
<電極の作製>
活物質としてH3TOT(40mg)、導電助剤としてAB(8mg)およびVGCF(登録商標)(2mg)、ポリマー電解質としてLiTFSI(14mg)およびPEO(36mg)、分散溶媒としてメタノール(3.0g)を混合して超音波照射し、H3TOT/AB/VGCF(登録商標)/LiTFSI/PEO(40:8:2:14:36)(重量比)の分散液を得た。この分散液をホットプレートで200℃に加熱したアルミシートにスプレーで塗布した後乾燥させて全固体二次電池用無溶媒電極を作製した。この電極をφ15mmの円形に打ち抜いて正極とした。同様にH3TOTの代わりにLi+3TOT-を用い、負極を作製した。
【0045】
<電池の作製と評価>
上記正極と負極を、セパレータとして大阪ソーダ製LiTFSI含有PEOフィルム(φ16mm)を介して相対させ、バネと共にCR2032コインセルの中に入れてかしめることにより電池を作製した。この電池を電圧範囲1.0-0V、レート0.1C、60℃で充放電させた。充放電曲線を図7に示す。充電容量100mAh/gに対して放電容量は20mAh/gと小さいものの、両極に同じTOTを用いるバイポーラ型電池としての動作を確認できた。
【0046】
(比較例1)
<電極の作製>
活物質としてLiCoO2(85.5mg)、導電助剤としてAB(9.5mg)、バインダーとしてPVDF(5mg)、分散媒としてNMP(1.6g)を混合し、遊星式撹拌脱泡装置で混練することにより、LiCoO2/AB/PVDF(85.5:9.5:5)(重量比)のスラリーを調製した。このスラリーをギャップ300μmのバーコーターを用いてアルミ箔(膜厚20μm)に塗布し、120℃で1時間乾燥後、ロールプレス機で800kg/cmの圧力でプレスして、厚み56.6μm(アルミ箔を含む)の電極シートを得た。このシートをφ15mmの円形に打ち抜いて電極とした。この電極にLiTFSI(2mg/mL)とPEO(5mg/mL)とを含むアセトニトリル溶液56.1μLを含浸し乾燥させた。
【0047】
<電池の作製と評価>
上記電極2枚を、セパレータとして大阪ソーダ製LiTFSI含有PEOフィルム(φ16mm)を介して相対させ、バネと共にCR2032コインセルの中に入れてかしめることにより電池を作製した。この電池を充放電するため0.1C、80℃で、まず1.5Vまで充電しようとしたが電流が流れず、電圧も0Vのままで充放電不可であった。これは負極側のLiCoO2がこれ以上リチウムイオンを挿入できない状態にあるためであり、一般的に同じ金属酸化物系活物質を正極と負極に同時に用いることはできない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7