(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】押出成形機の異常検出装置
(51)【国際特許分類】
B29C 48/92 20190101AFI20240802BHJP
B29C 48/395 20190101ALI20240802BHJP
B29C 48/40 20190101ALI20240802BHJP
B29C 48/57 20190101ALI20240802BHJP
【FI】
B29C48/92
B29C48/395
B29C48/40
B29C48/57
(21)【出願番号】P 2021529919
(86)(22)【出願日】2020-05-25
(86)【国際出願番号】 JP2020020591
(87)【国際公開番号】W WO2021002119
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2023-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2019123414
(32)【優先日】2019-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003458
【氏名又は名称】芝浦機械株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾原 正俊
(72)【発明者】
【氏名】瀧 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】木田 司
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-216230(JP,A)
【文献】国際公開第2017/212881(WO,A1)
【文献】特開昭63-139705(JP,A)
【文献】特開2013-203070(JP,A)
【文献】特開2015-115540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/92
B29C 48/395
B29C 48/40
B29C 48/57
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
投入された樹脂原料を溶融して混練する押出成形機が稼働状態にあるときに、当該押出成形機の筐体の表面に設置したAEセンサの出力を取得する取得部と、
前記出力と閾値との関係に基づいて、前記押出成形機に異常が発生しているかを判定する判定部と、を備えて、
前記AEセンサは、前記押出成形機に投入された樹脂原料が流れる上流側と下流側の少なくとも2箇所、かつ、樹脂原料を混練するニーディングディスクの上流側と下流側に設置されて、
前記判定部は、
一方の前記AEセンサの出力が前記閾値を超えてから、他方の前記AEセンサの出力が前記閾値を超えるまでの時間差に基づいて、前記押出成形機の異常の発生箇所を推定する、
押出成形機の異常検出装置。
【請求項2】
投入された樹脂原料を溶融して混練する押出成形機が稼働状態にあるときに、当該押出成形機の筐体の表面に設置したAEセンサの出力を取得する取得部と、
前記出力と閾値との関係に基づいて、前記押出成形機に異常が発生しているかを判定する判定部と、を備えて、
前記閾値は、第1の閾値と、当該第1の閾値よりも大きい第2の閾値と、を含み、
前記判定部は、
前記取得部が取得したAEセンサの出力が、前記第1の閾値を超えて、前記第2の閾値を超えない場合に、未溶融の樹脂原料の圧潰が発生した、と判定する、
押出成形機の異常検出装置。
【請求項3】
前記判定部は、
前記取得部が取得したAEセンサの出力が、前記第2の閾値を超えた場合に、前記樹脂原料を上流側から下流側へ搬送するスクリュ又はバレル又は樹脂原料を混練するニーディングディスクの摩耗が発生した、と判定する、
請求項
2に記載の押出成形機の異常検出装置。
【請求項4】
前記判定部は、前記取得部が取得した前記AEセンサの出力と当該出力の移動平均値との差分値と、閾値と、の関係に基づいて、前記押出成形機に異常が発生しているかを判定する、
請求項1に記載の押出成形機の異常検出装置。
【請求項5】
前記判定部が、前記押出成形機に異常が発生したと判定した場合に、異常が発生したことを報知する報知部を、更に備える、
請求項1
から請求項
4のいずれか1項に記載の押出成形機の異常検出装置。
【請求項6】
投入された樹脂原料を溶融して混練する押出成形機が稼働状態にあるときに、当該押出成形機の筐体の表面に設置したAEセンサの出力の時間信号を取得する取得部と、
前記AEセンサの出力の周波数毎のパワーを算出する算出部と、
前記算出部が算出した周波数毎のパワーのうち、所定の周波数帯域のパワーが第3の閾値を超えている場合に、未溶融の樹脂原料の圧潰が発生したと判定する第1の判定部と、
前記周波数毎のパワーから、前記所定の周波数帯域のパワーを差し引く減算部と、
前記減算部による減算結果を時間信号に変換する変換部と、
前記変換部が変換した時間信号が第2の閾値を超えた場合に、樹脂原料を上流側から下流側へ搬送するスクリュ又はバレル又は樹脂原料を混練するニーディングディスクの摩耗が発生した、と判定する第2の判定部と、を備える、
押出成形機の異常検出装置。
【請求項7】
投入された樹脂原料を溶融して混練する押出成形機が稼働状態にあるときに、当該押出成形機の筐体の表面に設置したAEセンサの出力の時間信号を取得する取得部と、
前記AEセンサの出力の周波数毎のパワーを算出する算出部と、
前記算出部が算出した周波数毎のパワーのうち、所定の周波数帯域のパワーが第4の閾値を超えている場合に、樹脂原料を上流側から下流側へ搬送するスクリュ又はバレル又は樹脂原料を混練するニーディングディスクの摩耗が発生したと判定する第3の判定部と、
前記周波数毎のパワーから、前記所定の周波数帯域のパワーを差し引く減算部と、
前記減算部による減算結果を時間信号に変換する変換部と、
前記変換部が変換した時間信号が第1の閾値を超えた場合に、未溶融の樹脂原料の圧潰が発生した、と判定する第4の判定部と、を備える、
押出成形機の異常検出装置。
【請求項8】
投入された樹脂原料を溶融して混練する押出成形機が稼働状態にあるときに、当該押出成形機の筐体の表面に設置したAEセンサの出力の時間信号を取得する取得部と、
前記AEセンサの出力の周波数毎のパワーを算出する算出部と、
前記算出部が算出した周波数毎のパワーのうち、所定の周波数帯域のパワーが第3の閾値を超えている場合に、未溶融の樹脂原料の圧潰が発生したと判定して、前記算出部が算出した周波数毎のパワーのうち、前記所定の周波数帯域とは異なる所定の周波数帯域のパワーが第4の閾値を超えている場合に、樹脂原料を上流側から下流側へ搬送するスクリュ又はバレル又は樹脂原料を混練するニーディングディスクの摩耗が発生したと判定する第5の判定部と、を備える、
押出成形機の異常検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出成形機の異常検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
固体材料が変形する際に、それまでに蓄積していたひずみエネルギーを音波(AE波)として放出する現象が知られている。そして、従来、AEセンサによってAE波を検出して、その波形を分析することによって、材料の溶融状態の異常を検出する射出成形機の材料監視装置が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載された射出成形機の材料監視装置は、AEセンサの出力を分析することによって、未溶融の樹脂原料が変形又は剪断される際に発生するAE波を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、AEセンサを用いて、押出成形機の異常を検出する技術は存在しなかった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、押出成形機の異常を確実に検出することができる押出成形機の異常検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る押出成形機の異常検出装置は、投入された樹脂原料を溶融して混練する押出成形機が稼働状態にあるときに、当該押出成形機の筐体の表面に設置したAEセンサの出力を取得する取得部と、前記出力と閾値との関係に基づいて、前記押出成形機に異常が発生しているかを判定する判定部と、を備えて、前記AEセンサは、前記押出成形機に投入された樹脂原料が流れる上流側と下流側の少なくとも2箇所、かつ、樹脂原料を混練するニーディングディスクの上流側と下流側に設置されて、前記判定部は、一方の前記AEセンサの出力が前記閾値を超えてから、他方の前記AEセンサの出力が前記閾値を超えるまでの時間差に基づいて、前記押出成形機の異常の発生箇所を推定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る押出成形機の異常検出装置は、押出成形機の異常を確実に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図6】第1の実施形態に係る二軸押出成形機の異常検出装置のハードウェア構成図。
【
図7】第1の実施形態に係る二軸押出成形機の異常検出装置の機能構成図。
【
図8】第1の実施形態に係る二軸押出成形機の異常検出装置が行う処理の流れの一例を示すフローチャート。
【
図9】第2の実施形態に係る二軸押出成形機の異常検出装置のハードウェア構成図。
【
図10】第2の実施形態に係る二軸押出成形機の異常検出装置の機能構成図。
【
図11】第2の実施形態に係る二軸押出成形機の異常検出装置が行う異常発生位置の推定方法の説明図。
【
図12】第2の実施形態に係る二軸押出成形機の異常検出装置が行う処理の流れの一例を示すフローチャート。
【
図14】第3の実施形態に係る二軸押出成形機の異常検出装置の機能構成図。
【
図15】第3の実施形態に係る二軸押出成形機の異常検出装置が行う処理の流れの一例を示すフローチャート。
【
図16】第4の実施形態に係る二軸押出成形機の異常検出装置の機能構成図。
【
図17】二軸押出機が出力するAE出力の一例を示す図。
【
図18】
図17に示した各AE出力のパワースペクトルの一例を示す図。
【
図19】第4の実施形態に係る二軸押出成形機の異常検出装置が行う処理の流れの一例を示すフローチャート。
【
図20】第4の実施形態の第1の変形例に係る二軸押出成形機の異常検出装置の機能構成図。
【
図21】第4の実施形態の第2の変形例に係る二軸押出成形機の異常検出装置の機能構成図。
【
図22】第4の実施形態の第2の変形例に係る二軸押出成形機の異常検出装置が行う処理の流れの一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[アコースティックエミッション(AE:Acoustic Emission)の説明]
実施形態の説明の前に、稼働中の押出成形機に異常が発生したかの判定を行うために使用するアコースティックエミッション(以下、AEと呼ぶ)について説明する。AEとは、固体材料が変形する際に、それまでに蓄積していたひずみエネルギーを音波(弾性波、AE波)として放出する現象である。当該AE波を検出することによって、固体材料の異常を予測することができる。AE波の周波数帯域は、数10kHz~数MHz程度と言われており、一般的な振動センサや加速度センサでは検出できない周波数帯域を有する。したがって、AE波を検出するためには、専用のAEセンサを用いる。AEセンサについて、詳しくは後述する。
【0011】
図1は、アコースティックエミッション及びAEセンサの説明図である。
図1に示すように、固体材料Qの内部の点Pで変形や接触、摩擦等が発生すると、AE波Wが発生する。AE波Wは、点Pから放射状に広がって、固体材料Qの内部を、当該固体材料Qに応じた速度で伝搬する。
【0012】
固体材料Qの内部を伝搬したAE波Wは、固体材料Qの表面に設置したAEセンサ20によって検出される。そして、AEセンサ20は検出信号Dを出力する。検出信号Dは、振動を表す信号であるため、
図1に示すように正負の値を有する交流信号である。しかし、このままでは検出信号D(AE波W)に対して各種演算を行う際に扱いにくいため、検出信号Dの負の部分を半波整流した整流波形として取り扱うのが一般的である。また、AE波Wを分析する際には、一般に、整流波形の二乗値を所定の時間で平均化して平方根をとった値、すなわち実効値(RMS(Root Mean Square)値)として取り扱う。
【0013】
AE波Wの伝搬速度は縦波と横波とで異なる(縦波は横波よりも速い)が、固体材料Qの大きさ(伝搬距離)を考慮すると、その差は無視できるため、本実施形態では、縦波と横波の区別なく、所定の時間内に検出されたAE波Wを測定信号として分析の対象とする。
【0014】
図2は、AEセンサの概略構造図である。AEセンサ20は、
図2に示すように、シールドケース20aに内包された状態で、検出対象である二軸押出成形機30の筐体(バレル)32の表面に当接させて設置した導波棒21(ウエーブガイド)の先端に設置される。導波棒21は、セラミックやステンレスで形成されており、筐体32の内部を伝わったAE波WをAEセンサ20まで伝達させる。
【0015】
導波棒21を用いるのは、二軸押出成形機30の筐体32の表面には、樹脂原料を溶融するためのヒータ39が装着されており、200℃程度の高温になるため、筐体32に直接AEセンサ20を設置できないためである。なお、導波棒21の先端にはマグネット22が設置されており、導波棒21は当該マグネット22によって、ヒータ39の位置を避けて、二軸押出成形機30の筐体32の表面に固定される。或いは、導波棒21の先端を、ネジ留めによって筐体32の表面に固定してもよい。
【0016】
導波棒21の他端側は、AEセンサ20の受波面20bに接続される。受波面20bの上部には銅等の蒸着膜20cが形成される。そして、蒸着膜20cの上部には、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)等の圧電素子20dが設置される。圧電素子20dは、受波面20bを介して、導波棒21の内部を伝達したAE波Wを受けて、当該AE波Wに応じた電気信号を出力する。圧電素子20dが出力した電気信号は、蒸着膜20e及びコネクタ20fを介して、検出信号Dとして出力される。なお、検出信号Dは微弱であるため、ノイズの混入による影響を抑制するために、AEセンサ20の内部にプリアンプ(
図2には非図示)を設置して、検出信号Dを予め増幅した後で出力してもよい。
【0017】
AEは、微細な傷や摩擦によっても発生するため、機器の異常の兆候を早期に発見することができる。また、
図1に示したように、AE波Wは点Pから放射状に広がるため、金属製の筐体であれば、AEセンサ20を設置することによって、筐体のどの位置でもAE波Wを観測して検出信号Dを取得することが可能である。なお、検出信号Dの具体的な分析方法は後述する。また、AEセンサ20は、種類によって検出可能な信号の周波数帯域が異なるため、使用するAEセンサ20を選定する際には、検出対象となる二軸押出成形機30の材質等を考慮するのが望ましい。
【0018】
以下に、本開示に係る押出成形機の異常検出装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、これらの実施形態により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能、且つ、容易に想到できるもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【0019】
[第1の実施形態]
本開示の第1の実施形態は、稼働時に異常の発生を検出して報知する二軸押出成形機の異常検出装置の例である。特に、第1の実施形態は、二軸押出成形機30の筐体32の表面に設置した1個のAEセンサ20で、二軸押出成形機30の異常の発生を検出するものである。なお、二軸押出成形機は一例であって、本開示は、単軸押出成形機や多軸押出成形機等の押出成形機全般に適用可能である。
【0020】
[二軸押出成形機の概略構造の説明]
図3、
図4を用いて、本実施形態における二軸押出成形機30の概略構造について説明する。
図3は、二軸押出成形機の概略構造図である。
図4は、出力軸の断面図である。
【0021】
二軸押出成形機30は、歯車箱40の出力に応じて駆動される。すなわち、歯車箱40は、モータ24の回転駆動力を減速させて、二軸押出成形機30が備える2本の出力軸42を、それぞれ同じ向きに回転駆動する。出力軸42の外周には、後述するスクリュ44及びニーディングディスク46が設置されており、出力軸42の回転に伴って、二軸押出成形機30に投入された樹脂原料(ポリプロピレン等の樹脂ペレット)を可塑化・溶融させて、混練・成形を行う。押出成形機を用いた部品成形は、一般に連続的に行われて、例えば、長いチューブ状の部品が成形される。すなわち、押出成形機が24時間、1週間、1ヶ月等に亘って連続運転している状態において、異常の発生を監視し続ける必要がある。なお、二軸押出成形機30は、本開示における押出成形機の一例である。
【0022】
なお、2本の出力軸42は、二軸押出成形機30の筒状の筐体(バレル)32の内部に、一定の軸間距離Cを隔てて平行に配置される。
【0023】
図4(a)は、二軸押出成形機30のA-A断面図である。
図4(a)に示すように、出力軸42は、スクリュ44に形成されたスプライン孔43に挿入される。そして、出力軸42は、スプライン孔43と噛み合うことによって、挿通孔34の内部でスクリュ44を回転させる。
【0024】
図4(b)は、二軸押出成形機30のB-B断面図である。
図4(a)に示すように、出力軸42は、ニーディングディスク46に形成されたスプライン孔43に挿入される。そして、出力軸42は、スプライン孔43と噛み合うことによって、挿通孔34の内部でニーディングディスク46を回転させる。
【0025】
スクリュ44は、例えば、毎分300回転等の速度で回転することによって、二軸押出成形機30に投入された樹脂原料を、二軸押出成形機30の下流側に搬送する。ニーディングディスク46は、複数の楕円型のディスクを、出力軸42に直交する方向に配置するとともに、出力軸42に沿って隣接するディスクの向きをずらした構造を有する。隣接するディスクをずらして配置することによって、ディスク間で樹脂原料の流れを分断することにより、搬送された樹脂原料の混練の促進を図る。すなわち、ニーディングディスク46は、ヒータ39で加熱されて、スクリュ44で搬送された樹脂原料に剪断エネルギーを与えることによって、樹脂原料を完全に溶融させる。
【0026】
筐体32の内部には、各出力軸42が挿入される挿通孔34が設けられている。挿通孔34は、筐体32の長手方向に沿って設けられた孔であり、円筒の一部が重なり合った形状を有する。これにより、挿通孔34は、スクリュ44及びニーディングディスク46が、互いに噛み合った状態で挿入可能とされる。
【0027】
再び
図3に戻り、筐体32の長手方向の一端側には、混練されるペレット状の樹脂原料と粉体状の充填剤の材料とを挿通孔34に投入するための材料供給口36が設けられている。そして、筐体32の長手方向の他端側には、挿通孔34を通過する間に混練された材料を吐出する吐出口38が設けられている。また、筐体32の外周には、筐体32を加熱することにより挿通孔34に投入された樹脂原料を加熱するヒータ39が設けられている。
【0028】
なお、
図3の例では、二軸押出成形機30の出力軸42は、2箇所のスクリュ44と1箇所のニーディングディスク46を備えているが、スクリュ44とニーディングディスク46の数は、これに限定されるものではない。例えば、ニーディングディスク46を複数箇所に設置して、樹脂原料を混練してもよい。
【0029】
[異常検出方法の説明]
連続稼働中の二軸押出成形機30では、主に2種類の異常が発生する可能性が高い。第1の異常は、樹脂原料が充分に溶融しない状態でニーディングディスク46に達し、ニーディングディスク46において未溶融の樹脂原料が押し潰される、いわゆる圧潰の発生である。このような圧潰が発生すると、ニーディングディスク46に対する機械的負荷が上がるため、二軸押出成形機30の寿命の短縮や、最悪の場合、二軸押出成形機30が破損するおそれがある。したがって、圧潰の発生を検出した場合は、例えばヒータ39の設定温度を上げて樹脂原料の溶融を促進する等を行う必要がある。
【0030】
第2の異常は、スクリュ44又は筐体32又はニーディングディスク46の金属摩耗の発生である。ニーディングディスク46において未溶融の樹脂原料が押し潰される際、出力軸42に反力が発生する。その際、出力軸42が撓み、スクリュ44又は筐体32又はニーディングディスク46が筐体32の内壁に当接する可能性がある。このような当接が発生した場合には、スクリュ44又は筐体32又はニーディングディスク46が金属摩耗するため、金属摩耗によって発生した金属粉が、樹脂材料に混入してしまうおそれがある。出力軸42の撓み量は、未溶融の樹脂原料の量に比例する。したがって、金属摩耗の発生が検出され次第、投入樹脂量を減量やヒータ39の設定温度を上げて樹脂原料の溶融を促進する等を行う必要がある。
【0031】
第1の実施形態の二軸押出成形機30の異常検出装置50a(
図6参照)は、二軸押出成形機30の筐体32の表面に設置した1個のAEセンサで、前記した2種類の異常を検出するものである。
【0032】
発明者らの評価実験によると、スクリュ44又は筐体32又はニーディングディスク46の金属摩耗によって発生する、時刻tにおけるAE出力M(t)の大きさは、樹脂原料の圧潰の発生時に生じるAE出力M(t)の大きさと比べて、明確に大きい値になることがわかった。すなわち、AE出力M(t)の大きさを比較することによって、スクリュ44又は筐体32又はニーディングディスク46の金属摩耗か、樹脂原料の圧潰の発生か、を識別することができるとの知見を得た。
【0033】
なお、AEセンサ20は、二軸押出成形機30の筐体32に接してさえいれば、設置位置は問わないが、好ましくは、ニーディングディスク46の近傍に設置するのが望ましい。これは、スクリュ44又は筐体32又はニーディングディスク46の金属摩耗によるAE出力M(t)と比べて低い値になる、樹脂原料の圧潰の発生によるAE出力M(t)の信号を観測可能な大きさに保つためである。
【0034】
図5は、AE出力波形の説明図である。特に、
図5(a)は、圧潰が発生した場合のAE出力M(t)の例である。また、
図5(b)は、スクリュ44又は筐体32又はニーディングディスク46に金属摩耗が発生した場合のAE出力M(t)の例である。
【0035】
異常検出装置50aは、
図5(a)に示すように、AE出力M(t)が、予め設定した第1の閾値Th1を超えたことを検出した場合に、樹脂原料の圧潰が発生した可能性があると判定する。なお、第1の閾値Th1は閾値の一例である。
【0036】
また、異常検出装置50aは、
図5(b)に示すように、AE出力M(t)が第1の閾値Th1よりも大きい第2の閾値Th2を超えたことを検出した場合に、スクリュ44又は筐体32又はニーディングディスク46の摩耗が発生したと判定する。なお、第2の閾値Th2は閾値の一例である。また、異常検出装置50aは、スクリュ44又はニーディングディスク46の金属摩耗に加えて、筐体(バレル)32の金属摩耗が発生したことも検出することが可能である。
【0037】
なお、異常検出装置50aは、AE出力M(t)が第1の閾値Th1を超えたことを検出してから、例えば所定時間ta(例えば1秒間)分のAE出力M(t)をモニタして、所定時間taの間にAE出力M(t)が第2の閾値Th2を超えなかった場合に、未溶融の樹脂原料の圧潰が発生したと判定してもよい。
【0038】
なお、第1の閾値Th1は、使用する樹脂原料の種類によって異なるため、事前に、実際にAE出力M(t)を観測する評価実験を行って、圧潰の発生時に発生するAE波Wの強度に基づいて設定する。また、第2の閾値Th2についても同様に、事前に評価実験を行って、スクリュ44又は筐体32又はニーディングディスク46が金属摩耗した際に発生するAE波Wの強度に基づいて設定する。
【0039】
[異常検出装置のハードウェア構成の説明]
次に、
図6を用いて、第1の実施形態の二軸押出成形機30の異常検出装置50aのハードウェア構成を説明する。
図6は、第1の実施形態に係る二軸押出成形機の異常検出装置のハードウェア構成図である。
【0040】
二軸押出成形機30の異常検出装置50aは、二軸押出成形機30と接続して使用されて、制御部13と、記憶部14と、周辺機器コントローラ16とを備える。
【0041】
制御部13は、CPU(Central Processing Unit)13aと、ROM(Read Only Memory)13bと、RAM(Random Access Memory)13cと、を備える。CPU13aは、バスライン15を介して、ROM13bと、RAM13cと接続する。CPU13aは、記憶部14に記憶された制御プログラムP1を読み出して、RAM13cに展開する。CPU13aは、RAM13cに展開された制御プログラムP1に従って動作することで、制御部13の動作を制御する。すなわち、制御部13は、制御プログラムP1に基づいて動作する、一般的なコンピュータの構成を有する。
【0042】
制御部13は、更に、バスライン15を介して、記憶部14と、周辺機器コントローラ16と接続する。
【0043】
記憶部14は、電源を切っても記憶情報が保持される、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリ、又はHDD(Hard Disk Drive)等である。記憶部14は、制御プログラムP1を含むプログラムと、時刻tにおいてAEセンサ20から出力されたAE出力M(t)と、を記憶する。制御プログラムP1は、制御部13が備える機能を発揮させるためのプログラムである。AE出力M(t)は、AEセンサ20が出力した検出信号Dの実効値を、A/D変換器17でデジタル信号に変換した信号である。
【0044】
なお、制御プログラムP1は、ROM13bに予め組み込まれて提供されてもよい。また、制御プログラムP1は、制御部13にインストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルで、CD-ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD-R、DVD(Digital Versatile Disc)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録して提供するように構成してもよい。さらに、制御プログラムP1を、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成してもよい。また、制御プログラムP1を、インターネット等のネットワーク経由で提供又は配布するように構成してもよい。
【0045】
周辺機器コントローラ16は、A/D変換器17と、表示デバイス18と、操作デバイス19と接続する。周辺機器コントローラ16は、制御部13からの指令に基づいて、接続された各種ハードウェアの動作を制御する。
【0046】
A/D変換器17は、AEセンサ20が出力した検出信号Dをデジタル信号に変換して、AE出力M(t)を出力する。なお、AEセンサ20は、前記したように導波棒21を介して、二軸押出成形機30の筐体32を伝わったAE波Wを検出する。
【0047】
表示デバイス18は、例えば液晶ディスプレイである。表示デバイス18は、異常検出装置50aの動作状態に係る情報を表示する。また、表示デバイス18は、異常検出装置50aが、二軸押出成形機30の異常を検出した際に報知を行う。
【0048】
操作デバイス19は、例えば表示デバイス18に重畳されたタッチパネルである。操作デバイス19は、二軸押出成形機30の異常検出装置50aの各種操作に係る操作情報を取得する。
【0049】
なお、AEセンサ20は、二軸押出成形機30の筐体32の表面に、
図2で説明した構成で設置される。また、AEセンサ20は、種類によって検出可能な信号の周波数帯域が異なるため、使用するAEセンサ20を選定する際には、計測対象となる二軸押出成形機30の材質等を考慮して、発生すると予想されるAE波Wの周波数に対して高い感度を有するAEセンサ20を選定するのが望ましい。
【0050】
[異常検出装置の機能構成の説明]
次に、
図7を用いて、第1の実施形態の二軸押出成形機30の異常検出装置50aの機能構成を説明する。
図7は、第1の実施形態に係る二軸押出成形機の異常検出装置の機能構成図である。異常検出装置50aの制御部13は、制御プログラムP1をRAM13cに展開して動作させることによって、
図7に示す信号取得部51aと、判定部53aと、報知部54aとを機能部として実現する。
【0051】
信号取得部51a(取得部)は、投入された樹脂原料を溶融して混練する二軸押出成形機30が稼働状態にあるときに、当該二軸押出成形機30の筐体32の表面に設置したAEセンサ20が出力した検出信号Dを取得する。信号取得部51aは、増幅器を備えて、検出信号Dを増幅するとともに、A/D変換器17によって、アナログ信号である検出信号Dの実効値を、デジタル信号であるAE出力M(t)に変換する。
【0052】
判定部53aは、信号取得部51aが取得したAE出力M(t)と閾値(第1の閾値Th1及び第2の閾値Th2)との関係に基づいて、二軸押出成形機30に異常が発生しているかを判定する。すなわち、判定部53aは、AE出力M(t)が第2の閾値Th2を超えた場合に、スクリュ44又は筐体32又はニーディングディスク46に金属摩耗が発生したと判定する。また、判定部53aは、AE出力M(t)が第1の閾値Th1を超えた後、所定時間taに亘って第2の閾値Th2未満である場合に、未溶融の樹脂原料の圧潰が発生したと判定する。
【0053】
報知部54aは、判定部53aが、二軸押出成形機30に異常が発生していると判定した場合に、異常が発生していることを報知する。具体的には、報知部54aは表示デバイス18に、二軸押出成形機30に異常が発生していることを示す表示を行う。なお、報知部54aは、検出された異常の種類(樹脂原料の圧潰、スクリュ44又は筐体32又はニーディングディスクの金属摩耗)についても表示を行う。また、報知部54aの報知方法は、これに限定されるものではなく、
図6に非図示のインジケータを点灯又は点滅させることによって報知を行ってもよいし、
図6に非図示のスピーカやブザーから、音又は音声を出力することによって報知を行ってもよい。
【0054】
[異常検出装置が行う処理の流れの説明]
次に、
図8を用いて、第1の実施形態に係る二軸押出成形機30の異常検出装置50aが行う処理の流れを説明する。
図8は、第1の実施形態に係る二軸押出成形機の異常検出装置が行う処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0055】
信号取得部51aは、記憶部14からAE出力M(t)を取得する(ステップS10)。なお、信号取得部51aは、AEセンサ20の出力をリアルタイムで取得してもよいし、一度記憶部14に記憶したAE出力M(t)を読み出すことによって取得してもよい。
【0056】
判定部53aは、M(t)≧Th1を満たす時刻tがあるかを判定する(ステップS11)。M(t)≧Th1を満たす時刻tがあると判定される(ステップS11:Yes)とステップS12に進む。一方、M(t)≧Th1を満たす時刻tがあると判定されない(ステップS11:No)とステップS10に戻り、時刻tを更新して、取得したAE出力M(t)に対して処理を継続する。
【0057】
ステップS11においてYesと判定されると、判定部53aは、時刻t以降の所定時間ta内に、M(t)≧Th2を満たす時刻tがあるかを判定する(ステップS12)。M(t)≧Th2を満たす時刻tがあると判定される(ステップS12:Yes)とステップS13に進む。一方、M(t)≧Th2を満たす時刻tがあると判定されない(ステップS12:No)とステップS14に進む。
【0058】
ステップS12においてYesと判定されると、判定部53aは、二軸押出成形機30のスクリュ44又は筐体32又はニーディングディスク46に金属摩耗が発生していると判定する(ステップS13)。その後、ステップS15に進む。
【0059】
一方、ステップS12においてNoと判定されると、判定部53aは、二軸押出成形機30のニーディングディスク46において未溶融の樹脂原料の圧潰が発生していると判定する。その後、ステップS15に進む。
【0060】
ステップS13又はステップS14に続いて、報知部54aは、二軸押出成形機30に異常が発生していることを示す報知を行う(ステップS15)。なお、報知部54aは、検出された異常に応じた報知を行って、スクリュ44又は筐体32又はニーディングディスク46に金属摩耗が発生しているのか、樹脂原料の圧潰が発生しているのかを区別して報知するのが望ましい。
【0061】
その後、異常検出装置50aは、ステップS10で取得したAE出力M(t)に対する処理を終了する。なお、実際は、二軸押出成形機30は連続稼働しているため、異常検出装置50aは、再びステップS10に戻り、新たなAE出力M(t)を取得して、
図8の処理を継続する。
【0062】
以上説明したように、第1の実施形態の異常検出装置50aにおいて、信号取得部51a(取得部)は、投入された樹脂原料を溶融して混練する二軸押出成形機30(押出成形機)が稼働状態にあるときに、当該二軸押出成形機30の筐体32の表面に設置したAEセンサ20のAE出力M(t)を取得する。そして、判定部53aは、AE出力M(t)と第1の閾値Th1及び第2の閾値Th2との関係に基づいて、二軸押出成形機30に異常が発生しているかを判定する。したがって、連続運転中の二軸押出成形機30の異常に伴うAE出力M(t)の異常の発生を確実に検出することができる。
【0063】
また、第1の実施形態の異常検出装置50aにおいて、判定部53aは、AEセンサ20の出力が、第1の閾値Th1を超えて、第1の閾値Th1よりも大きい第2の閾値Th2を超えない場合に、ニーディングディスク46において、未溶融の樹脂原料の圧潰が発生したと判定する。したがって、樹脂原料の溶融状態を確実に検出することができる。
【0064】
また、第1の実施形態の異常検出装置50aにおいて、判定部53aは、AEセンサ20の出力が、第1の閾値Th1よりも大きい第2の閾値Th2を超えた場合に、樹脂原料を上流側から下流側へ搬送するスクリュ44又は筐体32又はニーディングディスク46の金属摩耗が発生したと判定する。したがって、スクリュ44又は筐体32又はニーディングディスク46の金属摩耗の発生を確実に検出することができる。
【0065】
また、第1の実施形態の異常検出装置50aにおいて、報知部54aは、判定部53aが、二軸押出成形機30に異常が発生したと判定した場合に、異常が発生したことを報知する。したがって、異常が発生したことを迅速に知らせて対応することができる。
【0066】
[第2の実施形態]
本開示の第2の実施形態は、稼働時に異常の発生を検出して報知する二軸押出成形機の異常検出装置の例である。特に、第2の実施形態は、二軸押出成形機30の筐体32の表面に設置した2個のAEセンサで、二軸押出成形機30の異常の発生箇所を推定するものである。なお、二軸押出成形機は一例であって、本開示は、単軸押出成形機や多軸押出成形機等の押出成形機に適用可能である。
【0067】
[異常検出装置のハードウェア構成の説明]
図9を用いて、第2の実施形態の二軸押出成形機30の異常検出装置50bのハードウェア構成を説明する。
図9は、第2の実施形態に係る二軸押出成形機の異常検出装置のハードウェア構成図である。
【0068】
二軸押出成形機30の異常検出装置50bは、二軸押出成形機30と接続して使用されて、制御部13と、記憶部14と、周辺機器コントローラ16とを備える。異常検出装置50bの基本的な構造は、第1の実施形態で説明した異常検出装置50aと等しいため、同一部位の説明は省略する。
【0069】
異常検出装置50bは、同じ仕様のAEセンサを2個備える。各AEセンサ20x,20yは、それぞれ導波棒21を介して、二軸押出成形機30に設置される。そして、AEセンサ20xのAE出力M1(t)とAEセンサ20yのAE出力M2(t)とは、それぞれA/D変換器17aでA/D変換されてデジタル信号に変換される。このとき、A/D変換器17aは、2つのAE出力M1(t),M2(t)を同じタイミングでサンプリング(例えば毎秒100回等)する。すなわち、デジタル化されたAE出力M1(t),M2(t)は、互いのAE出力の発生時刻を比較できるようになっている。
【0070】
なお、AEセンサ20x,20yは、二軸押出成形機30に投入された樹脂原料が流れる上流側と下流側に設置される。好ましくは、AEセンサ20x,20yは、樹脂原料を混練するニーディングディスク46の上流側と下流側の少なくとも2箇所に設置される。
【0071】
また、異常検出装置50bの全体の動作は、記憶部14が記憶する制御プログラムP2によって管理される。
【0072】
[異常検出装置の機能構成の説明]
図10は、第2の実施形態に係る二軸押出成形機の異常検出装置の機能構成図である。異常検出装置50bの制御部13は、制御プログラムP2をRAM13cに展開して動作させることによって、
図10に示す信号取得部51bと、判定部53bと、報知部54bとを機能部として実現する。
【0073】
信号取得部51b(取得部)は、稼働状態にある二軸押出成形機30の筐体32の表面に設置したAEセンサ20x,20yが出力した検出信号Dをそれぞれ取得する。信号取得部51bは、増幅器を備えて、検出信号Dを増幅するとともに、A/D変換器17によって、アナログ信号である検出信号Dの実効値を、デジタル信号であるAE出力M1(t),M2(t)に変換する。なお、AE出力M1(t)はAEセンサ20xの出力である。また、AE出力M2(t)はAEセンサ20yの出力である。
【0074】
判定部53bは、信号取得部51bが取得したAE出力M1(t),M2(t)が、それぞれ第1の閾値Th1を超えた時間差、又は第2の閾値Th2を超えた時間差に基づいて、二軸押出成形機30の異常の発生箇所を推定する。
【0075】
報知部54bは、判定部53bが、二軸押出成形機30の異常の発生箇所を推定した場合に、異常の発生箇所を報知する。
【0076】
[異常の発生箇所の推定方法の説明]
図11を用いて、異常検出装置50bが異常の発生箇所を推定する方法を説明する。
図11は、第2の実施形態に係る二軸押出成形機の異常検出装置が行う異常発生位置の推定方法の説明図である。
【0077】
図11(a)は、二軸押出成形機30に2つのAEセンサ20x,20yを設置した様子を示す。今、点Pにおいて異常が発生したとする。このとき、発生したAE波Wは、二軸押出成形機30の筐体32と導波棒21とを伝わって、AEセンサ20x,20yに検出される。なお、AEセンサ20xと接続する導波棒21は、点R1において二軸押出成形機30の筐体32に固定されているとする。また、AEセンサ20yと接続する導波棒21は、点R2において二軸押出成形機30の筐体32に固定されているとする。また、導波棒21の長さをLとする。
【0078】
このとき、点PからAEセンサ20xに至る経路と、点PからAEセンサ20yに至る経路とでは距離が異なる。したがって、点Pで発生したAE波Wが、AEセンサ20xに伝わるまでに要する時間と、AEセンサ20yに伝わるまでに要する時間とは異なる。
【0079】
図11(b)は、AEセンサ20xが出力したAE出力M1(t)と、AEセンサ20yが出力したAE出力M2(t)とを、時間軸を合わせて並べて表示した図である。
図11(b)からわかるように、点Pで発生したAE波Wは、先にAEセンサ20xに伝わり、やや遅れてAEセンサ20yに伝わっている。
【0080】
点Pで発生したAE波WがAEセンサ20xに伝わった時刻をt1として、点Pで発生したAE波WがAEセンサ20yに伝わった時刻をt2とすると、点Pは、時間差(t2-t1)の間にAE波Wが進行する距離だけ、AEセンサ20xに近い位置にあると推定される。
【0081】
より具体的には、筐体32の内部におけるAE波Wの進行速度をv1、導波棒21におけるAE波Wの進行速度をとv2とする。また、点Pと点R1との距離をd1、点Pと点R2との距離をd2とすると、点Pで発生したAE波Wが、時刻t1にAEセンサ20xに伝わることから、式(1)が成り立つ。
【0082】
d1/v1+L/v2=t1 ・・・(1)
【0083】
また、点Pで発生したAE波Wが、時刻t2にAEセンサ20yに伝わることから、式(2)が成り立つ。
【0084】
d2/v1+L/v2=t2 ・・・(2)
【0085】
式(1)を変形すると、距離d1は、式(3)によって算出できる。
d1=(t1-L/v2)*v1 ・・・(3)
【0086】
また、式(2)を変形すると、距離d2は、式(4)によって算出できる。
d2=(t2-L/v2)*v1 ・・・(4)
【0087】
すなわち、点Pの位置は、点R1を中心とする距離d1を半径とする円弧と、点R2を中心とする距離d2を半径とする円弧の交点の位置として推定することができる。
【0088】
第2の実施形態の異常検出装置50bは、このように、1つのAE波Wを複数の異なる位置に設置したAEセンサ20x,20yで観測して、異常の発生を検出した時間差を検出することによって、AE波Wの発生位置である点Pの位置を推定する。
【0089】
[異常検出装置が行う処理の流れの説明]
図12を用いて、第2の実施形態に係る二軸押出成形機30の異常検出装置50bが行う処理の流れを説明する。
図12は、第2の実施形態に係る二軸押出成形機の異常検出装置が行う処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0090】
信号取得部51は、記憶部14からAE出力M1(t),M2(t)を取得する(ステップS20)。なお、信号取得部51は、予め記憶部14に記憶したAE出力M1(t),M2(t)を取得してもよいし、AEセンサ20x,20yの出力をリアルタイムで取得してもよい。
【0091】
判定部53bは、M1(t)≧Th1を満たす時刻tがあるかを判定する(ステップS21)。M1(t)≧Th1を満たす時刻tがあると判定される(ステップS21:Yes)とステップS22に進む。一方、M1(t)≧Th1を満たす時刻tがあると判定されない(ステップS21:No)とステップS20に戻り、時刻tを更新して、取得したAE出力M1(t),M2(t)に対して処理を継続する。
【0092】
ステップS21においてYesと判定されると、判定部53bは、時刻t以降の所定時間ta内に、M1(t1)≧Th2を満たす時刻t1があるかを判定する(ステップS22)。M1(t1)≧Th2を満たす時刻t1があると判定される(ステップS22:Yes)とステップS23に進む。一方、M1(t1)≧Th2を満たす時刻t1があると判定されない(ステップS22:No)とステップS25に進む。
【0093】
ステップS22においてYesと判定されると、判定部53bは、時刻t1以降の所定時間ta内に、M2(t2)≧Th2を満たす時刻t2があるかを判定する(ステップS23)。M2(t2)≧Th2を満たす時刻t2があると判定される(ステップS23:Yes)とステップS24に進む。一方、M2(t2)≧Th2を満たす時刻t2があると判定されない(ステップS23:No)とステップS25に進む。
【0094】
ステップS23においてYesと判定されると、判定部53bは、時刻t1と時刻t2の時間差を用いて、スクリュ44又は筐体32又はニーディングディスク46の金属摩耗の発生位置を推定する(ステップS24)。その後、ステップS27に進む。
【0095】
ステップS22でNoと判定されるか、又はステップS23でNoと判定されると、判定部53bは、時刻t1以降の所定時間ta内に、M2(t2)≧Th1を満たす時刻t2があるかを判定する(ステップS25)。M2(t2)≧Th1を満たす時刻t2があると判定される(ステップS25:Yes)とステップS26に進む。一方、M2(t2)≧Th1を満たす時刻t2があると判定されない(ステップS25:No)とステップS20に戻り、時刻tを更新して、取得したAE出力M1(t),M2(t)に対して処理を継続する。
【0096】
ステップS25においてYesと判定されると、判定部53bは、時刻t1と時刻t2の時間差を用いて、未溶融の樹脂原料の圧潰が発生している位置を推定する(ステップS26)。その後、ステップS27に進む。
【0097】
ステップS24又はステップS26に続いて、報知部54bは、二軸押出成形機30に異常が発生していること、及び当該異常の発生位置を示す報知を行う(ステップS27)。その後、異常検出装置50bは、
図12の処理を終了する。なお、実際は、二軸押出成形機30は連続稼働しているため、異常検出装置50bは、再びステップS20に戻り、新たなAE出力M1(t),M2(t)を取得して、
図12の処理を継続する。
【0098】
以上説明したように、第2の実施形態の異常検出装置50bにおいて、AEセンサ20x,20yは、二軸押出成形機30(押出成形機)に投入された樹脂原料が流れる上流側と下流側の少なくとも2箇所に設置される。そして、判定部53bは、信号取得部51b(取得部)が取得したAEセンサ20x,20yのAE出力M1(t),M2(t)が、それぞれ第1の閾値Th1又は第2の閾値Th2を超えた時間差に基づいて、二軸押出成形機30の異常の発生箇所を推定する。したがって、二軸押出成形機30に生じた異常の発生位置を推定することができるため、異常が発生した際に、二軸押出成形機30の調整作業を効率的に行うことができる。
【0099】
すなわち、スクリュ44又は筐体32又はニーディングディスク46の金属摩耗が発生したことが検出された際には、スクリュ44又は筐体32又はニーディングディスク46の交換を効率的に行うことができる。また、圧潰の発生が検出された際には、二軸押出成形機30に対して、ヒータ39の設定温度を上げる、ニーディングディスク46の形態を変更する、出力軸42の回転速度を上げる等、樹脂原料の溶融を促進できるような調整を効率的に行うことができる。
【0100】
また、第2の実施形態の異常検出装置50bにおいて、AEセンサ20x,20yは、ニーディングディスク46の上流側と下流側に設置される。したがって、ニーディングディスク46における未溶融な樹脂原料の圧潰の発生位置を、より一層確実に検出することができる。
【0101】
[第3の実施形態]
本開示の第3の実施形態は、第2の実施形態と同様に、二軸押出成形機30の筐体32の表面に設置した2個のAEセンサ20x,20yで、二軸押出成形機30の異常の発生箇所を推定するものである。なお、第3の実施形態は、第2の実施形態とは、信号処理の方法が異なる。
【0102】
押出成形機を用いた部品成形は、一般に連続的に行われて、例えば、長いチューブ状の部品が成形される。すなわち、押出成形機が24時間、1週間、1ヶ月等に亘って連続運転している状態であっても、異常の発生を監視し続ける必要がある。AEセンサの出力を長期間に亘って監視し続けるためには、樹脂原料が連続的に投入され続ける状態、すなわち、溶融状態の樹脂原料と未溶融状態の樹脂原料とが混在している状態で監視を行う必要がある。このような状態にあっては、樹脂原料の溶融状態の変化や二軸押出成形機の動作状態の変化等に応じて、AEセンサの出力は常に変動する。したがって、AE出力の大きさを判定する際には、単なる出力の変動であるのか、それとも異常に伴う出力の変動であるのかを識別できるのが望ましい。
【0103】
第3の実施形態に係る二軸押出成形機30の異常検出装置50c(
図14参照)は、AE出力M1(t),M2(t)の状態変化に伴う変動が生じた場合であっても、異常に伴う変動のみを検出する。
【0104】
二軸押出成形機30の状態変化に伴うAE出力M1(t),M2(t)の変動は、一般に時刻に対して緩やかであるのに対して、二軸押出成形機30の異常に伴うAE出力M1(t),M2(t)の変動は、時刻に対して急激である。異常検出装置50cは、このようなAE出力の変動状態の違いを利用して、異常に伴う変動のみを検出する。観測波形の時間変化が緩やかであるか否かは、一般には周波数分析を行って評価するが、本実施形態では、異常検出装置50cの処理量を小さくするために、AE出力M1(t),M2(t)と、AE出力M1(t),M2(t)の移動平均値との差分値、すなわち、AE出力M1(t),M2(t)の変動量を用いて評価する。
【0105】
AE出力M1(t)の移動平均値は、AE出力M1(t)を平滑化した波形となる。したがって、AE出力M1(t)とAE出力M1(t)の移動平均値との差分値は、AE出力M1(t)が緩やかに変動しているときは小さい値となる。一方、前記差分値は、AE出力M1(t)が急激に変化しているときは大きい値となる。すなわち、差分値は、AE出力M1(t)の変動量を表す出力である。この出力(差分値)を、閾値と比較することによって、異常が発生した可能性のある時刻を検出することができる。
【0106】
異常が発生した可能性のある時刻を検出した後で、当該時刻以降の差分値を閾値処理することによって、第1及び第2の実施形態で説明したのと同様に、異常の種類(樹脂原料の圧潰か、スクリュ44又は筐体32又はニーディングディスク46の金属摩耗か)を判定する。なお、差分値を閾値処理する際の閾値は、第1及び第2の実施形態で説明した閾値(第1の閾値Th1及び第2の閾値Th2)を用いるが、各閾値の具体的な値は、第1及び第2の実施形態で用いた値とは異なり、事前に評価実験等を行って、出力(差分値)の状態、すなわち、元のAE出力M(t)の平滑化度合に応じて設定することができる。具体的には、差分値の平滑化度合が高いほど、第1の閾値Th1及び第2の閾値Th2は、より小さい値に設定するのが望ましい。
【0107】
[異常検出方法の説明]
以下、本実施形態における異常検出方法について、より具体的に説明する。
図13は、連続監視時のAE出力波形の説明図である。一般に、二軸押出成形機30を連続監視した際に得られるAE出力M(t)には、出力が緩やかに変動する領域α1,α2が発生する。領域α1,α2は、例えば、新たな樹脂原料を投入した場合や、二軸押出成形機30の温度が変化した場合等の二軸押出成形機30の状態変化が発生した場合に出現する。
【0108】
二軸押出成形機30の異常に伴って発生するAE波Wは、前記した状態変化に重畳する形で観測される。すなわち、
図13に示す領域β1,β2,β3が、二軸押出成形機30の異常に伴って発生する波形である。
【0109】
このように、二軸押出成形機30の異常に伴って発生する波形は、二軸押出成形機30の状態変化に伴うAE出力M(t)に重畳する形で出現するため、領域β1,β2,β3を検出するためには、可変閾値を用いた閾値処理を行うのが望ましい。
【0110】
しかしながら、二軸押出成形機30の状態変化に伴って発生するAE出力M(t)のレベルは予測できないため、本実施形態では、以下の方法によって、二軸押出成形機30の異常の発生を検出する。
【0111】
一般に、二軸押出成形機30の状態変化に伴うAE出力M(t)の変動は、異常の発生に伴うAE出力M(t)の変動に比べて緩やかである。そのため、AE出力M(t)の変動の傾向を捉えて、二軸押出成形機30の状態変化に伴うAE出力M(t)の変動と、異常の発生に伴うAE出力M(t)の変動とを識別することができる。
【0112】
信号波形の変化の傾向を分析する方法には様々なものがあるが、本実施形態では、AE出力M(t)自身とAE出力M(t)の移動平均値との差分値に基づいた識別を行う。移動平均とは、系列データを平滑化する手法の一つである。
【0113】
時刻tにおけるAE出力M(t)の移動平均値を、MA(M(t))で表すことにする。そして、移動平均値MA(M(t))は、式(5)で算出するものとする。
【0114】
MA(M(t))=(M(t-(n-1)Δt)+…+M(t))/n ・・・(5)
【0115】
ここで、Δtは、AE出力M(t)のサンプリング間隔である。式(5)は、時刻tを含むn個(n=2,3,…)のAE出力M(t)の平均値を、時刻tにおける移動平均値にすることを表す。
【0116】
本実施形態では、AE出力M(t)と移動平均値MA(M(t))との差分値Eが、予め設定した第1の閾値Th1以上であるか否かを判定する。第1の閾値Th1は、予め設定された閾値であるが、具体的な第1の閾値Th1の値は、第1及び第2の実施形態で用いた値とは異なり、本実施形態独自の値である。すなわち、本実施形態における第1の閾値Th1は、時系列データである差分値Eの中から、樹脂原料の圧潰が発生した際に生じる差分値Eを検出可能な値に設定することができる。具体的には、本実施形態における第1の閾値Th1は、差分値Eの状態、すなわちAE出力M(t)の平滑化度合に応じて設定するのが望ましい。
【0117】
差分値Eが第1の閾値Th1以上である場合は、AE出力M(t)に短時間で大きな変動が発生している、すなわち、時刻tにおいて、二軸押出成形機30に異常が発生している可能性が高いと判断する。一方、差分値Eが第1の閾値Th1よりも小さい場合は、時刻tにおいて、AE出力M(t)が安定している、又はAE出力M(t)に、二軸押出成形機30の状態変化に伴う緩やかな変動が発生していると判断する。
【0118】
なお、移動平均値MA(M(t))を計算する時間範囲は、事前に評価実験等を行って決定すればよい。移動平均値MA(M(t))を計算する時間範囲を決定する際には、二軸押出成形機30の状態変化に伴って発生するAE出力M(t)の周波数成分と、二軸押出成形機30の異常によって発生するAE出力M(t)の周波数成分とを考慮するのが望ましい。移動平均値MA(M(t))を算出する時間範囲を広く設定するほど、AE出力M(t)の高い周波数成分が除去される(平滑化効果が高い)。したがって、移動平均値MA(M(t))を算出した際に、二軸押出成形機30の状態変化に伴うAE出力M(t)の周波数成分が残って、二軸押出成形機30の異常に伴うAE出力M(t)の周波数成分がカットされるように、移動平均値MA(M(t))を算出する時間範囲を設定するのが望ましい。
【0119】
そして、差分値Eが、時刻tにおいて第1の閾値Th1以上である場合には、さらに、時刻t以降の差分値Eが、第1の閾値Th1よりも大きい第2の閾値Th2未満であるかを判定する。
【0120】
そして、差分値Eが第1の閾値Th1以上になってから、第2の閾値Th2を超えない場合は、二軸押出成形機30において圧潰が発生したと判定する。また、差分値Eが第2の閾値Th2以上になった場合は、スクリュ44又は筐体32又はニーディングディスク46に金属摩耗が発生したと判定する。第2の閾値Th2は、第1及び第2の実施形態で説明した第2の閾値Th2と同じように、予め設定された閾値である。具体的な第2の閾値Th2の値は、第1及び第2の実施形態で用いた値とは異なり、本実施形態独自の値である。すなわち、本実施形態における第2の閾値Th2は、時系列データである差分値Eの中から、スクリュ44又は筐体32又はニーディングディスク46に金属摩耗が発生した際に生じる差分値Eを検出可能な値に設定することができる。具体的には、本実施形態における第2の閾値Th2は、差分値Eの状態、すなわちAE出力M(t)の平滑化度合に応じて設定するのが望ましい。
【0121】
なお、前記した異常検出方法は一例であって、これ以外の方法で異常の発生を検出してもよい。例えば、移動平均値を用いる代わりに、AE出力M(t)の値そのものから、直接異常の発生を検出してもよい。
【0122】
すなわち、時刻tにおけるAE出力M(t)と、所定時間nΔt(n=1,2,…)だけ過去のAE出力M(t-nΔt)と、の差分値M(t)-M(t-nΔt)に対して、前記したのと同様に、所定の閾値(例えば所定値S)による閾値処理を行うことによって、異常が発生しているか否かを判定してもよい。
【0123】
この場合、過去のAE出力M(t-nΔt)と現在のAE出力M(t)との間に所定値Sを超える変動があった場合、すなわち、AE出力M(t)の急峻な変動があった場合に、時刻tにおいて異常が発生した可能性があると判定する。一方、過去のAE出力M(t-nΔt)と現在のAE出力M(t)との間に所定値Sを超える変動がない場合、すなわち、AE出力M(t)の急峻な変動がない場合には、時刻tにおいて異常が発生したと判定しない。
【0124】
そして、異常が発生した可能性があると判定された時刻tにおけるAE出力M(t)の値が、第1の閾値Th1を超えており、なおかつ第2の閾値Th2を超えない場合に、時刻tにおいて圧潰が発生したと判定する。
【0125】
また、異常が発生した可能性があると判定された時刻tにおけるAE出力M(t)の値が、第2の閾値Th2を超えた場合に、スクリュ44又は筐体32又はニーディングディスク46に金属摩耗が発生したと判定する。なお、第1の閾値Th1及び第2の閾値Th2は、前記したように、本実施形態を実施するのに適した値に設定される。
【0126】
このようにして、AE出力M(t)の値そのものを分析することによって、AE出力M(t)がレベル変動を含む場合であっても、二軸押出成形機30の異常の発生を確実に検出することができる。なお、どのくらい過去のAE出力を参照するか、すなわち式(5)におけるn(n=2,3,…)の値は、予め評価実験等を行って、異常に伴って発生するAE波Wを検出できるように設定すればよい。
【0127】
なお、発明者らは、スクリュ44又は筐体32又はニーディングディスク46の金属摩耗が発生した際には、スクリュ44又は筐体32又はニーディングディスク46と筐体32の内壁とが接触するため可聴音が観測されることを確認している。すなわち、AE出力M(t)の周波数成分を分析して、可聴周波数の成分が多く含まれている場合には、スクリュ44又は筐体32又はニーディングディスク46に金属摩耗が発生していると判定してもよい。
【0128】
異常検出装置50cは、前記した一連の判定を、AE出力M1(t),M2(t)の両方に対してそれぞれ行う。そして、異常が発生した時間差を測定することによって、第2の実施形態で説明したように、異常の発生箇所を特定することができる。
【0129】
[異常検出装置のハードウェア構成の説明]
以下、第3の実施形態に係る二軸押出成形機30の異常検出装置50cについて説明する。なお、異常検出装置50cのハードウェア構成は、異常検出装置50bの記憶部14(
図9参照)が、異常検出装置50cの全体の動作を管理する制御プログラムP3(非図示)を備える点を除いて、第2の実施形態で説明した異常検出装置50bと同じであるため、説明は省略する。
【0130】
[異常検出装置の機能構成の説明]
図14は、第3の実施形態に係る二軸押出成形機の異常検出装置の機能構成図である。異常検出装置50cの制御部13は、制御プログラムP3をRAM13cに展開して動作させることによって、
図14に示す信号取得部51bと、判定部53cと、報知部54bとを機能部として実現する。信号取得部51bと報知部54bとは、第2の実施形態で説明した異常検出装置50bが備える各部位と同じ機能を備える。
【0131】
判定部53cは、更に、移動平均値算出部55aと、閾値処理部55bと、位置推定部55cとを備える。
【0132】
移動平均値算出部55aは、AE出力M1(t),M2(t)のそれぞれに対して、移動平均値MA(M1(t)),MA(M2(t))を算出する。具体的な算出方法は、前記した通りである。
【0133】
閾値処理部55bは、AE出力M1(t)と移動平均値MA(M1(t))との差分値E1と、AE出力M2(t)と移動平均値MA(M2(t))との差分値E2とが、閾値(第1の閾値Th1及び第2の閾値Th2)以上であるか否かを判定する閾値処理を行う。具体的な処理の内容は、第1の実施形態において、判定部53aが行う処理と同じである。
【0134】
位置推定部55cは、差分値E1,E2が、それぞれ第1の閾値Th1を最初に超えた時間差、又は第1の閾値Th1よりも大きい第2の閾値Th2を最初に超えた時間差に基づいて、二軸押出成形機30の異常の発生箇所を推定する。具体的な推定方法は、第2の実施形態において、判定部53bが行う処理と同じである。
【0135】
[異常検出装置が行う処理の流れの説明]
図15を用いて、第3の実施形態に係る二軸押出成形機30の異常検出装置50cが行う処理の流れを説明する。
図15は、第3の実施形態に係る二軸押出成形機の異常検出装置が行う処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0136】
信号取得部51bは、記憶部14からAE出力M1(t),M2(t)を取得する(ステップS30)。なお、異常検出装置50cは、予め記憶部14に記憶した所定時間分のAE出力M1(t),M2(t)を処理するものとする。なお、AEセンサ20x,20yの出力をリアルタイムで取得してもよい。
【0137】
移動平均値算出部55aは、AE出力M1(t)の移動平均値MA(M1(t))と、AE出力M2(t)の移動平均値MA(M2(t))とを算出する(ステップS31)。
【0138】
閾値処理部55bは、AE出力M1(t)と移動平均値MA(M1(t))との差分値E1が第1の閾値Th1以上となる時刻t1があるかを判定する(ステップS32)。差分値E1が第1の閾値Th1以上となる時刻t1があると判定される(ステップS32:Yes)とステップS33に進む。一方、差分値E1が第1の閾値Th1以上となる時刻t1があると判定されない(ステップS32:No)と、ステップS30に戻り、時刻tを更新して、取得したAE出力M1(t),M2(t)に対して処理を継続する。
【0139】
ステップS32においてYesと判定されると、閾値処理部55bは、時刻t1以降の所定時間内に、AE出力M1(t)と移動平均値MA(M1(t))との差分値E1が第2の閾値Th2以上となる時刻t1があるかを判定する(ステップS33)。差分値E1が第2の閾値Th2以上となる時刻t1があると判定される(ステップS33:Yes)とステップS34に進む。一方、差分値E1が第2の閾値Th2以上となる時刻t1があると判定されない(ステップS33:No)とステップS36に進む。
【0140】
ステップS33においてYesと判定されると、閾値処理部55bは、時刻t1以降の所定時間内に、AE出力M2(t)と移動平均値MA(M2(t))との差分値E2が第2の閾値Th2以上となる時刻t2があるかを判定する(ステップS34)。差分値E2が第2の閾値Th2以上となる時刻t2があると判定される(ステップS34:Yes)とステップS35に進む。一方、差分値E2が第2の閾値Th2以上となる時刻t2があると判定されない(ステップS34:No)とステップS36に進む。
【0141】
ステップS34においてYesと判定されると、位置推定部55cは、時刻t1と時刻t2の時間差を用いて、スクリュ44又は筐体32又はニーディングディスク46の金属摩耗の発生位置を推定する(ステップS35)。その後、ステップS38に進む。
【0142】
ステップS33でNoと判定されるか、又はステップS34でNoと判定されると、閾値処理部55bは、時刻t1以降の所定時間内に、AE出力M1(t)と移動平均値MA(M2(t))との差分値E2が第1の閾値Th1以上となる時刻t2があるかを判定する(ステップS36)。差分値E2が第1の閾値Th1以上となる時刻t2があると判定される(ステップS36:Yes)とステップS37に進む。一方、差分値E2が第1の閾値Th1以上となる時刻t2があると判定されない(ステップS36:No)と、ステップS30に戻り、時刻tを更新して、取得したAE出力M1(t),M2(t)に対して処理を継続する。
【0143】
ステップS36においてYesと判定されると、位置推定部55cは、時刻t1と時刻t2の時間差を用いて、未溶融の樹脂原料の圧潰が発生している位置を推定する(ステップS37)。その後、ステップS38に進む。
【0144】
ステップS35又はステップS37に続いて、報知部54bは、二軸押出成形機30に異常が発生していること、及び当該異常の発生位置を示す報知を行う(ステップS38)。その後、異常検出装置50bは、
図15の処理を終了する。なお、実際は、二軸押出成形機30は連続稼働しているため、異常検出装置50cは、再びステップS30に戻り、新たなAE出力M1(t),M2(t)を取得して、
図15の処理を継続する。
【0145】
以上説明したように、第3の実施形態の異常検出装置50cにおいて、信号取得部51b(取得部)は、投入された樹脂原料を溶融して混練する二軸押出成形機30(押出成形機)が稼働状態にあるときに、当該二軸押出成形機30の筐体32の表面に設置したAEセンサ20xのAE出力M1(t)及びAEセンサ20yのAE出力M2(t)を取得する。そして、移動平均値算出部55aは、AE出力M1(t)及びAE出力M2(t)の移動平均値MA(M1(t)),MA(M2(t))を算出する。そして、閾値処理部55bは、AE出力M1(t)と移動平均値MA(M1(t))との差分値E1(AE出力M1(t)の変動量)と、第1の閾値Th1及び第2の閾値Th2と、の関係に基づいて、時刻t1において二軸押出成形機30に異常が発生しているかを判定する。また、閾値処理部55bは、AE出力M2(t)と移動平均値MA(M2(t))との差分値E2(AE出力M2(t)の変動量)と、第1の閾値Th1及び第2の閾値Th2と、の関係に基づいて、時刻t2において二軸押出成形機30に異常が発生しているかを判定する。そして、時刻t1及び時刻t2において異常が発生したと判定された場合に、位置推定部55cは、時刻t1と時刻t2との時間差に基づいて、二軸押出成形機30の異常の発生箇所を推定する。したがって、連続運転中の二軸押出成形機30の異常の発生を確実に検出することができるとともに、異常の発生位置を推定することができる。特に、二軸押出成形機30の状態変化に伴うレベル変動が発生した場合であっても、二軸押出成形機30に異常が発生したことを確実に検出することができるため、二軸押出成形機30を、長時間に亘って連続稼働させた状態で、異常の検出を行うことができる。
【0146】
また、第3の実施形態の異常検出装置50cにおいて、閾値処理部55b(判定部53c)は、時刻tにおけるAE出力M(t)と、所定時間nΔt(n=1,2,…)だけ過去のAE出力M(t-nΔt)と、の差分値(M(t)-M(t-nΔt))が所定値Sよりも大きい場合に、時刻tにおいて異常が発生したと判定してもよい。そして、閾値処理部55bは、異常が発生したと判定された時刻tにおけるAE出力M(t)が、第1の閾値Th1を超えて第2の閾値Th2を超えない場合に、時刻tにおいて樹脂原料の圧潰が発生したと判定してもよい。そして、閾値処理部55bは、異常が発生したと判定された時刻tにおけるAE出力M(t)が、第2の閾値Th2を超えた場合に、スクリュ44又は筐体32(バレル)又はニーディングディスク46に金属摩耗が発生したと判定してもよい。したがって、二軸押出成形機30の状態変化に伴うレベル変動が発生した場合であっても、二軸押出成形機30に異常が発生したことを確実に検出することができるため、二軸押出成形機30を、長時間に亘って連続稼働させた状態で、異常の検出を行うことができる。
【0147】
[第4の実施形態]
前記した第1の実施形態から第3の実施形態にあっては、未溶融の樹脂原料の圧潰と、スクリュ44又は筐体32又はニーディングディスクの金属摩耗とが同時に発生した場合に、両者を識別して検出することはできなかった。即ち、AE出力M(t)の絶対値が大きいスクリュ44又は筐体32又はニーディングディスクの金属摩耗を検出することはできるが、AE出力M(t)の絶対値が小さい樹脂原料の圧潰が発生していることを示す信号は、金属摩耗が発生した際のAE出力M(t)に埋もれてしまう。
【0148】
本開示の第4の実施形態は、未溶融の樹脂原料の圧潰と、金属摩耗とが同時に発生した場合に、両者を識別して検出することが可能な二軸押出成形機の異常検出装置50dの例である。
【0149】
なお、異常検出装置50dのハードウェア構成は、異常検出装置50aの記憶部14(
図6参照)が、異常検出装置50dの全体の動作を管理する、非図示の制御プログラムP4を備える点を除いて、第1の実施形態で説明した異常検出装置50aと同じであるため、説明は省略する。
【0150】
まず、
図16を用いて、第4の実施形態に係る二軸押出成形機30の異常検出装置50dの機能構成を説明する。
図16は、第4の実施形態に係る二軸押出成形機の異常検出装置の機能構成図である。
【0151】
異常検出装置50dの制御部13は、制御プログラムP4をRAM13cに展開して動作させることによって、
図16に示す信号取得部51aと、判定部53dと、報知部54aとを機能部として実現する。信号取得部51aと報知部54aとは、第1の実施形態で説明した異常検出装置50aが備える各部位と同じ機能を備える。
【0152】
判定部53dは、更に、FFT実行部56aと、圧潰発生判定部56bと、BPF処理部56cと、IFFT実行部56dと、摩耗発生判定部56eとを備える。
【0153】
FFT実行部56aは、AE出力M(t)に対して離散フーリエ変換を行い、パワースペクトルM(f)を算出する。具体的には、FFT実行部56aは、まず、有限長の波形を離散フーリエ変換することによって、波形の接続位置において実在しない周波数成分が発生するのをできるだけ抑制するために、AE出力M(t)に対して、ガウス窓やハミング窓等の窓関数を作用させる。そして、FFT実行部56aは、窓関数を作用させたAE出力M(t)に対してFFT(Fast Fourier Transform)を行う。なお、FFT実行部56aは、本開示における算出部の一例である。
【0154】
圧潰発生判定部56bは、パワースペクトルM(f)に基づいて、樹脂原料の圧潰が発生したかを判定する。具体的には、圧潰発生判定部56bは、パワースペクトルM(f)のうち、所定の周波数帯域のパワーが、第3の閾値Th3を超えている場合に、未溶融の樹脂原料の圧潰が発生したと判定する。なお、圧潰発生判定部56bは、本開示における第1の判定部の一例である。なお、所定の周波数帯域、及び第3の閾値Th3は、例えば樹脂原料の種類や二軸押出成形機30の運転条件等に応じて設定される。
【0155】
BPF処理部56cは、パワースペクトルM(f)に対して、所定の周波数帯域のみをカットするバンドパスフィルタ(Band Pass Filter)を作用させる。なお、BPF処理部56cは、本開示における減算部の一例である。
【0156】
IFFT実行部56dは、パワースペクトルM(f)から所定の周波数帯域のパワーを差し引いたパワースペクトルN(f)に対して、逆離散フーリエ変換を行い、時間信号であるAE出力N(t)を算出する。
【0157】
摩耗発生判定部56eは、AE出力N(t)に対して、金属摩耗が発生しているかを判定する。具体的には、摩耗発生判定部56eは、AE出力N(t)が第2の閾値Th2を超えた場合に、樹脂原料を上流側から下流側へ搬送するスクリュ又は筐体(バレル)又は樹脂原料を混練するニーディングディスクの金属摩耗が発生したと判定する。なお、摩耗発生判定部56eは、本開示における第2の判定部の一例である。
【0158】
[異常検出方法の説明]
図17、
図18を用いて、二軸押出成形機30が出力するAE出力M(t)の具体例を説明する。
図17は、二軸押出成形機が出力するAE出力の一例を示す図である。
図18は、
図17に示した各AE出力のパワースペクトルの一例を示す図である。
【0159】
本開示の発明者は、二軸押出成形機30が実際に出力するAE出力M(t)を観測して、
図17に示すAE出力波形W1,W2,W3を得た。AE出力波形W1は、樹脂ペレットを投入しておらず、金属摩耗が発生していない場合に得られるAE出力の例である。AE出力波形W2は、樹脂ペレットを投入しておらず、金属摩耗が発生している場合に得られるAE出力の例である。AE出力波形W3は、樹脂ペレットを投入して圧潰が発生しており、なおかつ金属摩耗が発生している場合に得られるAE出力の例である。
【0160】
なお、
図17は、20μsec毎のAE出力M(t)を約50000点(約1sec分)計測した結果である。
【0161】
図17の各AE出力波形を、FFTによって離散フーリエ変換すると、
図18に示すパワースペクトルX1,X2,X3が得られる。
【0162】
図18のパワースペクトルX3とパワースペクトルX1,X2との比較から、本開示の発明者は、樹脂原料の圧潰が発生すると、特定の周波数帯域のパワースペクトルが出現することを発見した。具体的には、
図18のパワースペクトルX3は、パワースペクトルX1,X2と比較すると、周波数帯域45kHz±5kHzの帯域(
図18の周波数区間G)に小さいピークを呈することを発見した。
【0163】
圧潰発生判定部56bは、パワースペクトルX3の所定の周波数帯域45kHz±5kHzの帯域において、第3の閾値Th3に対して、M(f)≧Th3を満たすパワースペクトルが存在する場合に、樹脂原料の圧潰が発生していると判定する。なお、所定の周波数帯域及び第3の閾値Th3は、前記したように、使用する樹脂原料の材質や二軸押出成形機30の運転条件等によって変動するため、事前の評価実験等によって、信号波形の特徴を確認した上で、適切な値に設定される。
【0164】
BPF処理部56cは、パワースペクトルX3に対して、周波数帯域45kHz±5kHzの帯域のパワースペクトルをカットするバンドパスフィルタを作用させる。BPF処理部56cの作用によって、パワースペクトルN(f)が得られるものとする。
【0165】
IFFT実行部56dは、パワースペクトルN(f)に対して、逆離散フーリエ変換を行う。これによって、樹脂原料の圧潰の発生に伴って発生するAE波が除去された、時間信号であるAE出力N(t)が得られる。
【0166】
摩耗発生判定部56eは、第1の実施形態で説明したように、AE出力N(t)が第2の閾値Th2を超えているかを判定する。そして、AE出力N(t)が第2の閾値Th2を超えている場合に、金属摩耗が発生していると判定する。
【0167】
[異常検出装置が行う処理の流れの説明]
図19を用いて、第4の実施形態に係る二軸押出成形機30の異常検出装置50dが行う処理の流れを説明する。
図19は、第4の実施形態に係る二軸押出成形機の異常検出装置が行う処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0168】
信号取得部51aは、記憶部14からAE出力M(t)を取得する(ステップS40)。なお、ここで取得するAE出力M(t)は、ステップS41において離散フーリエ変換が可能なサンプリング点数分の波形である。
【0169】
FFT実行部56aは、AE出力M(t)に対して離散フーリエ変換を行い、パワースペクトルM(f)を算出する(ステップS41)。なお、離散フーリエ変換は、FFTによって行う。
【0170】
圧潰発生判定部56bは、所定の周波数f1において、M(f1)≧Th3を満たすか(より正確には、所定の周波数帯域f1±Δfに対して、M(f1)≧Th3を満たす周波数が存在するか)を判定する(ステップS42)。所定の周波数f1において、M(f1)≧Th3を満たすと判定される(ステップS42:Yes)とステップS43に進む。一方、所定の周波数f1において、M(f1)≧Th3を満たすと判定されない(ステップS42:No)とステップS44に進む。
【0171】
ステップS42においてYesと判定されると、圧潰発生判定部56bは、樹脂原料の圧潰が発生していると判定する(ステップS43)。
【0172】
ステップS42においてNoと判定されるか、又はステップS43に続いて、BPF処理部56cは、パワースペクトルM(f)に対して、圧潰の発生を示す周波数帯域を除去するバンドパスフィルタを作用させて、パワースペクトルN(f)を算出する(ステップS44)。BPF処理部56cは、具体的には、圧潰の発生を示す中心周波数をf1としたとき、f1±Δfの周波数領域を除去する。
【0173】
IFFT実行部56dは、パワースペクトルN(f)に対して逆離散フーリエ変換を行い、AE出力N(t)を算出する(ステップS45)。
【0174】
摩耗発生判定部56eは、時刻t以降の所定時間ta内に、N(t)≧Th2を満たす時刻tがあるかを判定する(ステップS46)。N(t)≧Th2を満たす時刻tがあると判定される(ステップS46:Yes)とステップS47に進む。一方、N(t)≧Th2を満たす時刻tがあると判定されない(ステップS46:No)とステップS48に進む。
【0175】
ステップS46においてYesと判定されると、摩耗発生判定部56eは、二軸押出成形機30のスクリュ44又は筐体32又はニーディングディスク46に金属摩耗が発生していると判定する(ステップS47)。
【0176】
ステップS46においてNoと判定されるか、又はステップS47に続いて、報知部54aは、圧潰又は摩耗の発生を報知する(ステップS48)。なお、報知部54aは、ステップS43とステップS47においてなされた判定に基づいて報知を行うため、圧潰の発生と金属摩耗の発生とを識別して報知する。更に、報知部54aは、圧潰と金属摩耗がともに発生していることを報知する。
【0177】
なお、
図19は、説明を簡単にするため、1つのAE出力M(t)に対して異常検出を行う例を示したが、実際には、異常検出装置50dは、AE出力の先頭の時刻tを、所定時間Δtずつ加算しながら、所定時間Δtずつずれた時間区間のAE出力M(t)を取得する毎に、
図19の処理を繰り返して実行する。
【0178】
以上説明したように、第4の実施形態の異常検出装置50dにおいて、信号取得部51a(取得部)は、投入された樹脂原料を溶融して混練する二軸押出成形機30が稼働状態にあるときに、当該二軸押出成形機30の筐体の表面に設置したAEセンサ20が出力するAE出力M(t)を取得する。そして、FFT実行部56a(算出部)は、AE出力M(t)の周波数毎のパワースペクトルM(f)を算出する。そして、圧潰発生判定部56b(第1の判定部)は、FFT実行部56aが算出したパワースペクトルM(f)のうち、所定の周波数帯域f1±Δfのパワーが第3の閾値を超えている場合に、未溶融の樹脂原料の圧潰が発生したと判定する。BPF処理部56c(減算部)は、FFT実行部56aが算出した周波数毎のパワースペクトルM(f)から、所定の周波数帯域f1±Δfのパワースペクトルを差し引いたパワースペクトルN(f)を算出する。そして、IFFT実行部56d(変換部)は、BPF処理部56cが算出したパワースペクトルN(f)を時間信号に変換する。摩耗発生判定部56e(第2の判定部)は、IFFT実行部56dが算出した時間信号が第2の閾値Th2を超えた場合に、二軸押出成形機30のスクリュ44又は筐体32(バレル)又はニーディングディスク46に金属摩耗が発生したと判定する。
【0179】
したがって、樹脂材料の圧潰と金属摩耗とが同時に発生している場合であっても、それらが発生していることを、両者を識別して検出することができる。
【0180】
[第4の実施形態の第1の変形例]
第4の実施形態では、AE出力M(t)のパワースペクトルM(f)に対して、未溶融の樹脂原料の圧潰が発生したことを示す信号を検出して、当該信号の成分を除去したパワースペクトルN(f)を時間信号に変換した後、変換された時間信号の中に、金属摩耗が発生したことを示す情報が含まれているかを判定したが、この判定の順序を入れ替えてもよい。
【0181】
即ち、異常検出装置50dは、AE出力M(t)のパワースペクトルM(f)に対して、金属摩耗が発生したことを示す信号を検出して、当該信号の成分を除去したパワースペクトルN(f)を時間信号に変換した後、変換された時間信号の中に、未溶融の樹脂原料の圧潰が発生したことを示す情報が含まれているかを判定してもよい。
【0182】
金属摩耗が発生したことは、例えば、
図18において、パワースペクトルM(f)における所定の周波数帯域、例えば、周波数10kHz付近、又は200kHz付近の信号が、所定の閾値を超えているかによって判定することができる。なお、具体的な周波数帯域及び所定の閾値は、使用する樹脂原料の材質や二軸押出成形機30の運転条件等によって変動するため、事前の評価実験等によって、信号波形の特徴を確認した上で、適切な値に設定される。
【0183】
図20は、第4の実施形態の第1の変形例に係る二軸押出成形機の異常検出装置の機能構成図である。
【0184】
二軸押出成形機30の異常検出装置50eは、信号取得部51aと、判定部53eと、報知部54aとを備える。信号取得部51aと報知部54aの機能は、異常検出装置50dと同じである。
【0185】
判定部53eは、更に、FFT実行部56aと、摩耗発生判定部56fと、BPF処理部56cと、IFFT実行部56dと、圧潰発生判定部56gとを備える。
【0186】
摩耗発生判定部56fは、パワースペクトルM(f)に基づいて、金属摩耗が発生しているかを判定する。具体的には、摩耗発生判定部56fは、パワースペクトルM(f)のうち、所定の周波数帯域f2±Δfのパワーが第4の閾値Th4を超えている場合に、金属摩耗が発生したと判定する。なお、摩耗発生判定部56fは、本開示における第3の判定部の一例である。
【0187】
BPF処理部56cは、パワースペクトルM(f)から、周波数帯域f2±Δfの帯域のパワースペクトルをカットするバンドパスフィルタを作用させる。BPF処理部56cの作用によって、パワースペクトルN(f)が得られるものとする。
【0188】
IFFT実行部56dは、パワースペクトルN(f)に対して、逆離散フーリエ変換を行う。これによって、金属摩耗の発生に伴って発生するAE波が除去された、時間信号であるAE出力N(t)が得られる。
【0189】
圧潰発生判定部56gは、AE出力N(t)に対して、樹脂原料の圧潰が発生したかを判定する。具体的には、圧潰発生判定部56gは、AE出力N(t)が第1の閾値Th1を超えた場合に、樹脂原料の圧潰が発生したと判定する。なお、圧潰発生判定部56gは、本開示における第4の判定部の一例である。
【0190】
異常検出装置50eが行う処理の流れは、異常検出装置50dが行う処理の流れ(
図19参照)とほぼ同じである。異なるのは、パワースペクトルM(f)に基づいて金属摩耗が発生しているかを判定した後で、樹脂原料の圧潰が発生しているかを判定する点である。具体的には、パワースペクトルM(f)から、金属摩耗に相当する周波数帯域のパワースペクトルをカットしたパワースペクトルN(f)を算出して、当該パワースペクトルN(f)を時間信号に変換した波形に対して、第1の実施形態で説明した方法を適用して、樹脂原料の圧潰が発生しているかを判定する。
【0191】
以上説明したように、第4の実施形態の第1の変形例の異常検出装置50dにおいて、信号取得部51a(取得部)は、投入された樹脂原料を溶融して混練する二軸押出成形機30が稼働状態にあるときに、当該二軸押出成形機30の筐体の表面に設置したAEセンサ20が出力するAE出力M(t)を取得する。そして、FFT実行部56a(算出部)は、AE出力M(t)の周波数毎のパワースペクトルM(f)を算出する。そして、摩耗発生判定部56f(第3の判定部)は、FFT実行部56aが算出したパワースペクトルM(f)のうち、所定の周波数帯域のパワーが第4の閾値Th4を超えている場合に、二軸押出成形機30のスクリュ44又は筐体32(バレル)又はニーディングディスク46に金属摩耗が発生したと判定する。BPF処理部56c(減算部)は、FFT実行部56aが算出した周波数毎のパワースペクトルM(f)から、金属摩耗の発生に対応する所定の周波数帯域のパワースペクトルを差し引いたパワースペクトルN(f)を算出する。そして、IFFT実行部56d(変換部)は、BPF処理部56cが算出したパワースペクトルN(f)を時間信号に変換する。圧潰発生判定部56g(第4の判定部)は、IFFT実行部56dが算出した時間信号が第1の閾値Th1を超えた場合に、樹脂原料の圧潰が発生したと判定する。
【0192】
したがって、樹脂材料の圧潰と金属摩耗とが同時に発生している場合であっても、それらが発生していることを、両者を識別して検出することができる。
【0193】
[第4の実施形態の第2の変形例]
第4の実施形態の第2の変形例の異常検出装置50fは、パワースペクトルM(f)のみに基づいて、樹脂原料の圧潰の発生の有無、および金属摩耗の発生の有無を判定する。
【0194】
図21は、第4の実施形態の第2の変形例に係る二軸押出成形機の異常検出装置の機能構成図である。
【0195】
二軸押出成形機30の異常検出装置50fは、信号取得部51aと、判定部53fと、報知部54aとを備える。信号取得部51aと報知部54aの機能は、異常検出装置50dと同じである。
【0196】
判定部53fは、更に、FFT実行部56aと、圧潰・摩耗発生判定部56hとを備える。なお、FFT実行部56aの機能は、異常検出装置50dと同じである。
【0197】
圧潰・摩耗発生判定部56hは、異常検出装置50dが備える圧潰発生判定部56bの機能と、異常検出装置50eが備える摩耗発生判定部56fの機能とを備える。なお、圧潰・摩耗発生判定部56hは、本開示における第5の判定部の一例である。
【0198】
異常検出装置50fにおいて、圧潰・摩耗発生判定部56hは、FFT実行部56aが算出したAE出力M(t)の周波数毎のパワーのうち、所定の周波数帯域のパワーが第3の閾値Th3を超えている場合に、未溶融の樹脂原料の圧潰が発生したと判定する。また、圧潰・摩耗発生判定部56hは、AE出力M(t)の周波数毎のパワーのうち、前記所定の周波数帯域とは異なる所定の周波数帯域のパワーが第4の閾値Th4を超えている場合に、金属摩耗が発生したと判定する。
【0199】
図22は、第4の実施形態の第2の変形例に係る二軸押出成形機の異常検出装置が行う処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0200】
信号取得部51aは、記憶部14からAE出力M(t)を取得する(ステップS50)。なお、ここで取得するAE出力M(t)は、ステップS51において離散フーリエ変換が可能なサンプリング点数分の波形である。
【0201】
FFT実行部56aは、AE出力M(t)に対して離散フーリエ変換を行い、パワースペクトルM(f)を算出する(ステップS51)。なお、離散フーリエ変換は、FFTによって行う。
【0202】
圧潰・摩耗発生判定部56hは、所定の周波数f1において、M(f1)≧Th3を満たすか(より正確には、所定の周波数帯域f1±Δfに対して、M(f1)≧Th3を満たす周波数が存在するか)を判定する(ステップS52)。所定の周波数f1において、M(f1)≧Th3を満たすと判定される(ステップS52:Yes)とステップS53に進む。一方、所定の周波数f1において、M(f1)≧Th3を満たすと判定されない(ステップS52:No)とステップS54に進む。
【0203】
ステップS52においてYesと判定されると、圧潰・摩耗発生判定部56hは、樹脂原料の圧潰が発生していると判定する(ステップS53)。
【0204】
ステップS52においてNoと判定されるか、又はステップS53に続いて、圧潰・摩耗発生判定部56hは、所定の周波数f2において、M(f2)≧Th4を満たすか(より正確には、所定の周波数帯域f2±Δfに対して、M(f2)≧Th4を満たす周波数が存在するか)を判定する(ステップS54)。ここで、所定の周波数f2は、ステップS52における所定の周波数f1とは異なる周波数である。所定の周波数f2において、M(f2)≧Th4を満たすと判定される(ステップS54:Yes)とステップS55に進む。一方、所定の周波数f2において、M(f2)≧Th4を満たすと判定されない(ステップS54:No)とステップS56に進む。
【0205】
ステップS54においてYesと判定されると、圧潰・摩耗発生判定部56hは、金属摩耗が発生していると判定する(ステップS55)。
【0206】
ステップS54においてNoと判定されるか、又はステップS55に続いて、報知部54aは、圧潰又は金属摩耗の発生を報知する(ステップS56)。なお、報知部54aは、ステップS53とステップS55においてなされた判定に基づいて報知を行うため、圧潰の発生と金属摩耗の発生とを識別して報知する。更に、報知部54aは、圧潰と金属摩耗がともに発生していることを報知する。
【0207】
以上説明したように、第4の実施形態の第2の変形例の異常検出装置50fにおいて、信号取得部51a(取得部)は、投入された樹脂原料を溶融して混練する二軸押出成形機30が稼働状態にあるときに、当該二軸押出成形機30の筐体の表面に設置したAEセンサ20が出力するAE出力M(t)を取得する。そして、FFT実行部56a(算出部)は、AE出力M(t)の周波数毎のパワースペクトルM(f)を算出する。圧潰・摩耗発生判定部56h(第5の判定部)は、FFT実行部56aが算出したパワースペクトルM(f)のうち、所定の周波数帯域f1±Δfのパワーが第3の閾値を超えている場合に、未溶融の樹脂原料の圧潰が発生したと判定する。また、圧潰・摩耗発生判定部56hは、FFT実行部56aが算出したパワースペクトルM(f)のうち、所定の周波数帯域f2±Δfのパワーが第4の閾値を超えている場合に、二軸押出成形機30のスクリュ44又は筐体32(バレル)又はニーディングディスク46に金属摩耗が発生したと判定する。
【0208】
したがって、樹脂材料の圧潰と金属摩耗とが同時に発生している場合であっても、それらが発生していることを、両者を識別して検出することができる。
【符号の説明】
【0209】
20,20x,20y…AEセンサ、30…二軸押出成形機(押出成形機)、32…筐体(バレル)、42…出力軸、44…スクリュ、46…ニーディングディスク、50a,50b,50c,50d,50e,50f…異常検出装置、51a,51b…信号取得部(取得部)、53a,53b,53c,53d,53e,53f…判定部、54a,54b…報知部、55a…移動平均値算出部、55b…閾値処理部、55c…位置推定部、56a…FFT実行部(算出部)、56b…圧潰発生判定部(第1の判定部)、56c…BPF処理部(減算部)、56d…IFFT実行部(変換部)、56e…摩耗発生判定部(第2の判定部)、56f…摩耗発生判定部(第3の判定部)、56g…圧潰発生判定部(第4の判定部)、56h…圧潰・摩耗発生判定部(第5の判定部)、G…周波数区間、M(t),M1(t),M2(t),N(t)…AE出力、M(f),N(f)…パワースペクトル、t,t1,t2…時刻、ta…所定時間、Th1…第1の閾値(閾値)、Th2…第2の閾値(閾値)、Th3…第3の閾値、Th4…第4の閾値、W…AE波、W1,W2,W3…AE出力波形、X1,X2,X3…パワースペクトル