(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】反芻動物用メタン生成抑制組成物
(51)【国際特許分類】
A23K 50/10 20160101AFI20240802BHJP
A23K 20/158 20160101ALI20240802BHJP
A23K 20/189 20160101ALI20240802BHJP
A23K 20/28 20160101ALI20240802BHJP
【FI】
A23K50/10
A23K20/158
A23K20/189
A23K20/28
(21)【出願番号】P 2020049579
(22)【出願日】2020-03-19
【審査請求日】2023-01-10
(31)【優先権主張番号】P 2019051393
(32)【優先日】2019-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年3月28日 「日本畜産学会第124回大会講演要旨」における公開 〔刊行物等〕 平成30年3月29日 「日本畜産学会第124回大会」における発表による公開
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】591040144
【氏名又は名称】太陽油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 元
(72)【発明者】
【氏名】村山 誠之
(72)【発明者】
【氏名】岸 瑶介
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-336360(JP,A)
【文献】特開2001-231460(JP,A)
【文献】特開2018-108076(JP,A)
【文献】特開2014-210808(JP,A)
【文献】特表2009-522241(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0226445(US,A1)
【文献】特開2005-047737(JP,A)
【文献】特開2009-167233(JP,A)
【文献】加藤陽平ら,肉用牛肥育試験データに基づく飼料へのアマニ油脂肪酸カルシウム添加の経済および環境影響評価,システム農学,Vol.30 No.4,p.119-129
【文献】T. Shinkaiら,Mitigation of methane production from cattle by feeding cashew nut shell liquid,Journal of Dairy Science,2012年,Vol.95 No.9,p.5308-5316
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 50/10
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A23K 20/189
A23K 20/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸カルシウムを主成分として含む、油脂のケン化物と、シリカゲルとを含
み、
前記脂肪酸カルシウムを主成分として含む、油脂のケン化物が、(a)油脂及び(b)水酸化カルシウムを少なくとも含む混合物のケン化物であり、前記混合物中の、(b)水酸化カルシウムのモル数に対する(a)油脂由来の総脂肪酸モル数の比が2.5以上である、反芻動物用メタン生成抑制組成物。
【請求項2】
(a)油脂及び(b)水酸化カルシウムを少なくとも含む前記混合物が、(c)水、及び(d)リパーゼ
を更に含む、請求項1に記載の反芻動物用メタン生成抑制組成物。
【請求項3】
前記混合物中の、(b)水酸化カルシウムのモル数に対する(a)油脂由来の総脂肪酸モル数の比が
2.7~4である、請求項
1又は2記載の反芻動物用メタン生成抑制組成物。
【請求項4】
前記混合物が、(e)抗酸化性を有するカラメルをさらに含む、請求項
1~3のいずれか一項記載の反芻動物用メタン生成抑制組成物。
【請求項5】
(a)油脂中のトリグリセリドが、不飽和脂肪酸を主要な構成脂肪酸として含む、請求項
1~4のいずれか一項に記載の反芻動物用メタン生成抑制組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の反芻動物用メタン生成抑制組成物を含む反芻動物用飼料組成物。
【請求項7】
(a)油脂、
(b)水酸化カルシウム、
(c)水、及び
(d)リパーゼ、
を含む混合物を反応させて、脂肪酸カルシウムを主成分として含む、油脂のケン化物を生成する工程、及び
前記脂肪酸カルシウムを主成分として含む、油脂のケン化物に、シリカゲルを添加する工程、
を含
み、
前記混合物中の、(b)水酸化カルシウムのモル数に対する(a)油脂由来の総脂肪酸モル数の比が2.5以上である、
反芻動物用メタン生成抑制組成物の製造方法。
【請求項8】
前記混合物中の、(b)水酸化カルシウムのモル数に対する(a)油脂由来の総脂肪酸モル数の比が
2.7~4である、請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
前記混合物が、(e)抗酸化性を有するカラメルをさらに含む、請求項7または8記載の製造方法。
【請求項10】
(a)油脂中のトリグリセリドが、不飽和脂肪酸を主要な構成脂肪酸として含む、請求項7~9のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は反芻動物から発生するメタン生成を抑制するための、反芻動物用メタン生成抑制組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
牛などの反芻動物の第一胃(ルーメン)には多数の微生物が生息しており、反芻動物はこれらの微生物によって摂取した飼料を分解し、エネルギー源として利用する一方で、二酸化炭素やメタン(ガス)を主に呼気などから体外に排出する。
呼気から発生する二酸化炭素やメタンガスは、地球の温暖化効果に大きな影響を有すると言われており、特に、温室効果が二酸化炭素に比較し、25倍高いとされるメタンガスの排出を抑制することは環境問題の重要な課題である。地球上の反芻動物から排出されるメタンガス量は、メタンガスの全排出量に対して15~20%あるいは約40%を占めるという報告もあり、反芻動物からのメタンガスの排出を抑制することは環境保護の観点から重要な課題である。
従来、反芻動物のメタンガス排出抑制の方法として、抗生物質と特定の化合物を飼料添加物として用いる方法(特許文献1)、ユーカリ油等の成分のシクロデキストリン包摂化合物を飼料に添加する方法(特許文献2)、ネオヘスペリジンなどのかんきつ類から抽出されるフラバノングリコシドを飼料に添加する方法(特許文献3)などが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2012/160191
【文献】特開2002-281912号
【文献】WO2013/156574
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、反芻動物におけるメタンガス生成を抑制することができる、反芻動物用飼料へ添加するための組成物及びその製造方法を提供することである。
本発明の更なる目的は、飼料の消化率あるいは飼料分解による脂肪酸量を抑制することなく、メタンガス生成を抑制することができる、反芻動物用飼料へ添加するための組成物及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、脂肪酸カルシウムを主成分として含む、油脂のケン化物と、賦形剤としてシリカゲルとを含む組成物を用いることにより、反芻動物からのメタン生成が抑制されることを見いだし、本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下を提供する。
<1> 脂肪酸カルシウムを主成分として含む、油脂のケン化物と、シリカゲルとを含む、反芻動物用メタン生成抑制組成物。
<2> 脂肪酸カルシウムを主成分として含む、油脂のケン化物が、(a)油脂、(b)水酸化カルシウム、(c)水、及び(d)リパーゼの混合物のケン化物である、<1>に記載の反芻動物用メタン生成抑制組成物。
<3> 前記混合物中の、(b)水酸化カルシウムのモル数に対する(a)油脂由来の総脂肪酸モル数の比が1以上である、<2>記載の反芻動物用メタン生成抑制組成物。
<4> 前記混合物が、(e)抗酸化性を有するカラメルをさらに含む、<2>または<3>記載の反芻動物用メタン生成抑制組成物。
<5> (a)油脂中のトリグリセリドが、不飽和脂肪酸を主要な構成脂肪酸として含む、<2>~<4>のいずれか一に記載の反芻動物用メタン生成抑制組成物。
<6> <1>~<5>のいずれか一に記載の反芻動物用メタン生成抑制組成物を含む反芻動物用飼料組成物。
<7>(a)油脂、
(b)水酸化カルシウム、
(c)水、及び
(d)リパーゼ、
を含む混合物を反応させて、脂肪酸カルシウムを主成分として含む、油脂のケン化物を生成する工程、及び
前記脂肪酸カルシウムを主成分として含む、油脂のケン化物に、シリカゲルを添加する工程、
を含む、反芻動物用メタン生成抑制組成物の製造方法。
<8> 前記混合物中の、(b)水酸化カルシウムのモル数に対する(a)油脂由来の総脂肪酸モル数の比が1以上である、<7>記載の製造方法。
<9> 前記混合物が、(e)抗酸化性を有するカラメルをさらに含む、<7>または<8>記載の製造方法。
<10> (a)油脂中のトリグリセリドが、不飽和脂肪酸を主要な構成脂肪酸として含む、<7>~<9>のいずれか一に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の反芻動物用メタン生成抑制組成物を用いることにより、反芻動物の消化活動に伴うメタン生成を抑制することができる。さらに、本発明の反芻動物用メタン生成抑制組成物は、粒状であるため反芻動物用飼料にエネルギー源として容易に添加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施例1において各試料を添加したときのメタン生成量を示す。
【
図2】実施例1において各試料を添加したときの二酸化炭素生成量を示す。
【
図3】実施例2において各試料を添加したときのメタン生成量の経時変化を示す。
【
図4】実施例2において各試料を添加したときの二酸化炭素生成量の経時変化を示す。
【
図5】実施例3において各試料を添加したときのメタン生成量を示す。
【
図6】実施例3において各試料を添加したときの二酸化炭素生成量を示す。
【
図7】実施例4及び5において各試料を添加したときのメタン生成量を示す。
【
図8】実施例4及び5において各試料を添加したときの二酸化炭素生成量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の第一の態様の反芻動物用メタン生成抑制組成物は、脂肪酸カルシウムを主成分として含む、油脂のケン化物と、シリカゲルを賦形剤として含む。
【0009】
本明細書において、「反芻動物用メタン生成抑制組成物」とは、反芻動物の飼料に混合して間接的に投与するか、あるいは飼料に混合せず反芻動物に直接投与することにより、反芻動物の飼料の消化過程におけるメタン生成を抑制するための組成物である。反芻動物は、限定されるものではないが、例えばウシ、ヤギ、ヒツジなどの反芻動物である。
本発明の「反芻動物用メタン生成抑制組成物」を添加して製造される反芻動物用飼料の原料や他の添加剤は一般に使用されているものであれば特に制限はない。
【0010】
本明細書において「脂肪酸カルシウムを主成分として含む、油脂のケン化物」は、トリグリセリドを主成分とする油脂から、水酸化カルシウム等のカルシウムを少なくとも含むアルカリ溶液を用いたケン化反応により得られる、脂肪酸カルシウムを主成分として含むケン化物を意味する。前記脂肪酸カルシウムを主成分として含む、油脂のケン化物には、トリグリセリド、モノまたはジグリセリド、脂肪酸、グリセリン等の原料油脂由来の残存物が含まれていてもよい。
「脂肪酸カルシウムを主成分として含む」とは、ケン化物中の全成分の中で脂肪酸カルシウムを最も多く(主要な成分として)含むことを意味する。
また、本明細書において「油脂」は、トリグリセリドを主成分として含むものを意味する。「トリグリセリドを主成分として含む」とは、油脂中の成分の中で脂肪酸のトリグリセリドを最も多く(主要な成分として)含むことを意味する。
脂肪酸カルシウムを主成分として含む油脂のケン化物は、さらに、後述する、ケン化反応を促進するためのリパーゼ、抗酸化性を有するカラメルなどを含んでいてもよい。
【0011】
本明細書において、「主成分とする」、「主成分として含む」なる記載、あるいは「主たる構成脂肪酸として含む」等のうち「主たる構成」なる記載は、全構成成分の中で最も多く含む成分であることを意味する。さらに全構成成分の中で50質量%以上であることが好ましい。
【0012】
本発明において、脂肪酸カルシウムを主成分として含む、油脂のケン化物は、(a)油脂、(b)水酸化カルシウム、(c)水、及び(d)リパーゼの混合物のケン化物であることが好ましい。
前記脂肪酸カルシウムを主成分として含むケン化物を得るための混合物は、(e)抗酸化性を有するカラメルをさらに含んでいてもよい。
【0013】
本明細書において(a)油脂は特に制限されず様々なものを使用することができる。例えば、原料油脂として、動物、植物、または他の起源の油脂を用いてもよい。例えば、ラード、獣脂、アマニ油、キャノーラ油、ヒマワリ油、ベニバナ油、綿実油、キャノーラ油、オリーブ油、コーン油などの植物油が挙げられる。
【0014】
メタン生成をより低減することから、本発明において(a)油脂中のトリグリセリドは好ましくは、「不飽和脂肪酸を主要な構成脂肪酸として含むトリグリセリド」である。不飽和脂肪酸を主要な構成脂肪酸として含むトリグリセリドとは、少なくとも一種の不飽和脂肪酸を主たる構成脂肪酸として含むトリグリセリドを意味する。
不飽和脂肪酸を含むトリグリセリドの質量に対して、不飽和脂肪酸量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは75質量%以上であり、よりさらに好ましくは80質量%以上である。
【0015】
少なくとも一種の不飽和脂肪酸は、炭素数16以上、更に好ましくは炭素数18以上の長鎖不飽和脂肪酸であることが好ましい。また、不飽和結合の数は2以上であることが好ましい。より好ましくは、不飽和結合の数は3以上である。最も好ましくはn-3系脂肪酸である。具体的なn-3系脂肪酸の例としては、α-リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等が挙げられる。構成脂肪酸として上述した不飽和脂肪酸を含む油脂としては、アマニ油、エゴマ油、ナタネ油、大豆油、魚油、チアシード油、グリーンナッツ油等あるいはこれらの混合物、具体的には例えば、ナタネ油とアマニ油の混合油、パーム油硬質部、ナタネ油及び大豆油の混合油等が挙げられる。
また、原料油脂の脂肪酸組成中のn-6/n-3質量比が30以下、好ましくは10以下、更に好ましくは5以下、1以下のものが最も好ましい。
【0016】
例えば、原料油脂は、不飽和脂肪酸を20~95質量%含むもの、好ましくは50~95質量%含むものを用いることができる。また好ましい例として、n-3系脂肪酸を好ましくは1~70質量%、より好ましくは5~70質量%、更に好ましくは10~70質量%、最も好ましくは50~70質量%含むものが挙げられる。
原料油脂は更に飽和脂肪酸を含んでいてもよい。飽和脂肪酸量は特に限定されないが、5~80質量%、好ましくは5~50質量%の範囲程度が好ましい。
【0017】
(a)油脂は、脂肪酸カルシウムを主成分として含む、油脂のケン化物を製造するための原料混合物の合計質量に対し、65~85質量%であることが好ましく、70~80質量%であることがさらに好ましい。
【0018】
(b)水酸化カルシウムはいずれのものを用いてもよい。また酸化カルシウムは水の存在により水酸化カルシウムになるため、本発明において「水酸化カルシウム」(Ca(OH)2)(消石灰)の代わりに「酸化カルシウム」(生石灰)を用いることもできる。
脂肪酸カルシウムを主成分として含む、油脂のケン化物製造における、前記水酸化カルシウムのモル数に対する前記トリグリセリド由来の総脂肪酸モル数の比は0.8以上であることが好ましい。より好ましくは、1.8以上であり、さらに好ましくは2.5以上であり、よりさらに好ましくは2.7以上である。上限は特に制限が無いが、ケン化されていない油脂によるルーメン微生物の活性を下げないとの観点から、4以下であることが好ましい。
【0019】
モル比の計算において使用する油脂の分子量は、油脂中の脂肪酸組成の分析値を基に、各脂肪酸分子量とそれぞれの質量%を掛けたものを平均脂肪酸分子量として計算し、平均脂肪酸分子量を有する脂肪酸がトリグリセリドになったと仮定して分子量を算出する。例えば、パルミチン酸(C16:0)とステアリン酸(C18:0)が50質量%ずつ脂肪酸として含まれる油脂の平均脂肪酸分子量は、270(256×0.5+284×0.5)であるから、分子量は、そのトリグリセリドとして計算して、848(270×3-92-(18×3))である。
【0020】
(a)~(c)成分の合計質量あるいは(a)~(c)及び(e)成分の合計質量に対し、好ましくは3~20質量%の(b)水酸化カルシウムを添加する。より好ましくは4~15質量%であり、更に好ましくは5~10質量%である。
「水酸化カルシウム」の代わりに「酸化カルシウム」を加える場合には、分子量から「水酸化カルシウム」(分子量74)に換算して上記量となるように「酸化カルシウム」(分子量56)を加える。
【0021】
本発明において、「脂肪酸カルシウムを主成分として含む、油脂のケン化物」を製造するにあたり、(c)水を添加してもよい。(c)水(添加水)は、反応溶媒としての役割も果たす。また、酸化カルシウムを使用した場合には、酸化カルシウムと反応して水酸化カルシウムを提供するものである。「水」は蒸留水、脱イオン水、水道水など適宜使用することができる。
(a)~(c)成分の合計質量あるいは(a)~(c)及び(e)成分の合計質量に対し、15質量%以下の水を添加することが好ましく、12質量%以下の水を添加することがより好ましく、11質量%以下であることがさらに好ましい。また、水の量の下限値は1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましく、6質量%以上であることがさらにより好ましい。
【0022】
本発明において(c)水と、(a)油脂の質量比は、脂肪酸の二価金属塩への反応効率、得られた組成物の成形性その他の性状に影響を及ぼすことがある。特に型枠に入れる際に、油とカラメルを含む水相部が分離しやすいため、(a)油脂に対する(c)「水」の質量比は、0.05以上であることが好ましく、0.05~0.50程度であることが更に好ましく、0.07~0.30がより好ましく、0.08~0.20が更になお好ましく、0.10~0.18が更により好ましい。
【0023】
本発明において、「脂肪酸カルシウムを主成分として含む、油脂のケン化物」を製造するにあたり、(d)リパーゼを添加してもよい。本明細書において「リパーゼ」とは、動物、植物、微生物起源、何れのリパーゼを使用することができ、限定されないが、アルカリ性において油脂分解力の強く、耐熱性の高いものが好ましい。微生物起源のリパーゼとして、天野エンザイム リパーゼAY「アマノ」30SD、リパーゼR「アマノ」、リパーゼA「アマノ」6、リパーゼMER「アマノ」、リパーゼDF「アマノ」15、リパーゼG「アマノ」50、名糖産業 リパーゼMY、リパーゼOF、リパーゼPL,リパーゼPLC、リパーゼQLM,リパーゼQLC、ノボザイム社 リポザイムTL 100L、リポザイムCALB L、Palatase2000Lなどが挙げられ、リパーゼの添加量は油脂分解力により添加量を調整する事が可能である。
【0024】
本発明において、「脂肪酸カルシウムを主成分として含む、油脂のケン化物」を製造するにあたり、(e)抗酸化性を有するカラメルを添加してもよい。「抗酸化性を有するカラメル」とは、糖類を加熱処理することにより得られる抗酸化性を有するカラメルであり、特開平8-312224号に記載されるカラメルを代表的なものとして挙げることができる。
(e)抗酸化性を有するカラメルを添加する場合には、上述の(a)~(c)及び(e)成分の合計質量に対し、1~10質量%であることが好ましく、2~7質量%であることがさらに好ましい。
【0025】
本明細書において、カラメルの抗酸化性は、カラメルと1,1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジル(DPPH)との反応性により評価したものをいう。すなわち、適量のカラメルをエタノール4mlに溶解し、これに0.5mM DPPHエタノール溶液1mlを加え、37℃で30分間保持した後、517nmの吸光度を測定し、カラメル1mg当たりの吸光度の減少量を求めた。また、同様にTroroxを溶液のDPPH抗酸化性を測定し、カラメル1mg当たりのTrorox当量を求めた。脂肪酸カルシウムを含む組成物中の不飽和脂肪酸の酸化に対する安定性の観点から、3000nmolTrorox当量/ml以上であることが好ましく、4000nmolTrorox当量/ml以上であることがより好ましく、5000nmolTrorox当量/ml以上であることがさらに好ましい。3000nmolTorox当量未満の抗酸化性の低いカラメルでは、脂肪酸カルシウムを含む組成物へ多く添加する事が必要となり、粉状成型可能な脂肪酸カルシウムを製造する事が困難となるからである。
【0026】
「抗酸化性を有するカラメル」は、グルコースの高濃度水溶液を、塩基性化合物の存在下、好ましくは100℃以上、より好ましくは120~150℃で加熱することにより得られる。加熱時間は、好ましくは1~10時間、より好ましくは2~8時間程度であることが好ましい。
得られたカラメルのpHは、5以下であることが好ましい。
【0027】
塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩、酢酸やクエン酸等の有機酸のアルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩)またはアンモニウム塩、及び水酸化アンモニウムが挙げられる。
【0028】
グルコースの高濃度水溶液の加熱処理前のpHは、好ましくは7以上、さらに好ましくは8以上、最も好ましくは9以上である。反応温度(加熱処理温度)が120℃より低いと反応が充分に進行しない。また150℃より高いと反応系が固化・炭化するおそれが大きくなるだけでなく、得られたカラメルの抗酸化性が低くなるので好ましくない。好ましい反応温度は125~135℃であり、最も好ましい反応温度は130℃前後である。また、塩基性化合物の量が1質量部より少ないと反応が充分に進行しない。すなわち、抗酸化性を有するカラメルが得られない。また10質量部より多いと、反応が激しく進行し、気泡が多量にしかも短時間に発生し、反応容器からふきこぼれる恐れがあるなど危険性が生じる。反応時間が1時間未満では反応が充分に進行しない場合がある。また反応時間が長くなるにつれて、反応が進行して徐々に粘性が増加する傾向にある。
【0029】
本明細書において「賦形剤」は、前記脂肪酸カルシウムを主成分として含む、油脂のケン化物を粒状とするために添加されるものである。本発明は賦形剤としてシリカゲルを含む。シリカゲルにさらに他の賦形剤、例えば、珪藻土、バーミキュライト、ベントナイト、ゼオライト、タルク、カオリン、ケイ酸、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、無水ケイ素、天然ケイ酸アルミニウム等をシリカゲルの効果を妨げない程度において添加してもよい。
本発明の第一の態様において、賦形剤はシリカゲルである。シリカゲルは、好ましくは0.1~200μm、さらに好ましくは1~25μmの平均粒径を有していてもよい。本明細書において、「平均粒径」は、レーザー分析法(条件 ISO 13320に準拠)により測定した粒子径を意味する。
シリカゲルの平均粒径は、より好ましくは1~20μm、さらに好ましくは0.5~10μm、さらにより好ましくは1~10μmまたは10~18μmである。
【0030】
本発明の賦形剤として含まれるシリカゲルは、天産品、合成品あるいは結晶性、非結晶性のシリカを使用する事が出来、合成非晶質シリカであるCarplex(カープレックス)(エボニック社)やSipernat(エボニック社)等の商品名で販売されているものなどを用いることができる。
【0031】
本発明の第一の態様の組成物において、シリカゲルは、ケン化物質量((a)~(c)成分の合計質量あるいは(a)~(c)及び(e)成分の合計質量)(100質量部)に対して、5~100質量部程度用いることが好ましく、さらに好ましくは5~50質量部程度用いてもよい。
本発明において、本発明の第一の態様の組成物を、飼料組成物に混合して用いる場合には、適切な量を添加すればよい。例えば、飼料組成物中の基質(例えば大麦)の質量に対して、油脂ケン化物中の油脂相当量が、好ましくは1~10質量%、より好ましくは1~5質量%程度となるように加えてもよい。
【0032】
本発明の第二の態様は、上述の反芻動物用メタン生成抑制組成物を含む反芻動物用飼料組成物である。
飼料の組成は特に限定されないが、例えば、植物の茎葉を乾燥させた乾草や稲わら、さらに、乳酸発酵させて貯蔵性を高めたサイレージなどの粗飼料や、大麦、とうもろこしやこうりゃん等の穀類や大豆の搾油残渣の油粕、フスマや米ヌカなどを配合し、エネルギーや蛋白質含有量を高めた飼料である濃厚飼料を含む。粗飼料と濃厚飼料を適宜混合してmのであってもよい。
【0033】
本発明の第三の態様は、
(a)油脂、
(b)水酸化カルシウム、
(c)水、及び
(d)リパーゼ、
を含む混合物を反応させて脂肪酸カルシウムを主成分として含む、油脂のケン化物を生成する工程、及び
前記脂肪酸カルシウムを主成分として含む、油脂のケン化物にシリカゲル添加する工程、
を含む、反芻動物用メタン生成抑制組成物の製造方法、
である。
【0034】
上記方法において、(a)油脂、(b)水酸化カルシウム、(c)水、(d)リパーゼ、「賦形剤」、「脂肪酸カルシウムを主成分として含む、油脂のケン化物」及び「反芻動物用メタン生成抑制組成物」の定義や好ましい態様は上で述べたとおりである。
前記(a)~(d)を含む混合物は、(e)抗酸化性を有するカラメルをさらに含んでいてもよく、(e)抗酸化性を有するカラメルの定義及び好ましい態様も上で述べたとおりである。
【0035】
上記方法は、(a)油脂、(b)水酸化カルシウム、(c)水、及び(d)リパーゼ、好ましくはさらに(e)抗酸化性を有するカラメルを含む混合物を、適切な温度、好ましくは60℃以下の温度、で反応させて脂肪酸カルシウムを主成分として含む、油脂のケン化物を生成する工程を有する。
前記油脂のケン化物に、シリカゲルを添加することにより、本発明の反芻動物用メタン生成抑制組成物を製造することができる。
本発明の方法は、以下に限定されるものではないが、より詳細には、例えば、(a)油脂、及び(b)水酸化カルシウムを混合し、前記混合物に、(c)水、及び(d)リパーゼ、さらに任意に(e)抗酸化性を有するカラメルを加えて、適切な温度で反応を行い、その後シリカゲルを添加する。
【実施例】
【0036】
[製造例1]
25質量部の水、80質量部の糖類(グルコース)、5質量部の塩基性化合物(クエン酸ナトリウム)を混合し、130℃で3時間反応させ、最後に水40質量部を加えカラメル1を120質量部得た。
【0037】
[実施例1]
あまに種子から抽出したオイルを脱酸、脱色して精製したアマニ油78質量部に、消石灰(水酸化カルシウム)7質量部を加え、混合槽内で混合撹拌した。
前記混合物に、抗酸化性を有するカラメル(製造例1で製造したカラメル1)5質量部、水10質量部、リパーゼ(アマノAK)0.015質量部を混合し、液温を40℃に加温し、さらに30分間撹拌し、さらにシリカゲル27.3質量部を添加して、均一に混合し、試料1を製造した。
【0038】
[脂肪酸カルシウムを主成分として含む、油脂のケン化物の製造参考例1~3及び比較例1]
各成分の量を表1記載の配合量に変更し、さらにシリカゲルを加えなかったこと以外は、実施例1と同様にして製造参考例1~3及び比較例1の油脂のケン化物を製造した(表1参照)。なお、比較例1の圧ぺん大麦粉末の粒径は粒子径が大きい為、レーザー法では測定不可であり、大凡1mm以上の大きさである。表1における圧ぺん大麦粉末の量(75質量部)は、組成物を固形状(粉末)にするための最低限の量である。飼料の圧ぺん大麦のみで油脂のケン化物を添加しない場合をコントロールとした。
【0039】
【0040】
製造した各ケン化物の消化率、pH及び窒素量(表2)、並びに総VFA(揮発性脂肪酸(英: volatile fatty acid))濃度(表3)及び各ガス生成量(表4)を測定した。各測定方法は後述するとおりである。表2における「基質に対する添加量(%)」とは、飼料中の圧ペン大麦の質量に対する、添加した油脂ケン化物中の油脂相当量(質量%)を意味する。
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
<培養液の調整>
・濃厚飼料とライグラスストロー6:4で飼養したルーメンカニューレ装着の緬羊4頭からルーメン液を120mlずつ採取し、4重ガーゼでろ過し、500xgで遠心分離した上澄みを等量ずつ混合して、人工唾液で5倍希釈した培養液を調整した。
・培養液40mlに、圧ぺん大麦0.5g(乾物量)を基質とし、各製剤を加え、50mL容の遠沈管で、39℃で48時間培養した。(1処理につき3反復。)
【0045】
・測定項目
1)ガス生成量
培養0~48時間目におけるガス生成量を以下の方法で記録した。培養遠沈管内を99.9%CO2ガスで置換して嫌気条件とし、50mLのシリンジ付きシリコン栓で閉じて、培養後3、6、9、12、18、24、30、36、42、48時間時の発生ガス量をシリンジの目盛りで読み取った。シリンジは、ガスが満杯となる培養後18時間時に交換した。
【0046】
2)ガス組成
培養18時間に発生したガスのCO2とCH4の濃度をガスクロマトグラフ(条件は以下のとおり)により測定した。
・機器:ジーエルシーサイエンス社製イノルガポータブルTCDガスクロマトグラフ
・カラム:1/16×1.0mmφ×3m
ステンレスパックドカラム (充填剤 Porapak Q 80/100mesh)
・キャリアガス;He 4mL/分
・検出器;TCD
【0047】
3)消化率
乾物(DM)と粗蛋白質の消化率は、以下の方法により、測定した。
測定は、嫌気的条件下で48時間培養後の培養液中の乾物と粗蛋白質の消失量を以下の方法で、測定した。
乾物摂取量は、培養前後の乾物重量を、夫々105℃3時間乾燥させた残渣重量を測定し、培養前の重量からの変化を、消失量として求めた。
また、粗蛋白質量は、培養前後の粗蛋白質量を、ケルダール法により、求め、培養前の蛋白質量からの培養後の変化を、消失量として求めた。
【0048】
4)発酵産物
培養後の上澄みのpH、アンモニア態窒素とVFA濃度の濃度は、下記の装置と方法で測定した。
・pH;堀場製作所製ガラス電極 pHメータ
・アンモニア態窒素;コンウェイユニットを用いた微量拡散法(Conway 1962)
・VFA濃度;ガスクログラフ法により分析した
VFA濃度は、農研機構の「家畜における生化学病性鑑定のための臨床生化学的検査マニュアル」
http://www.naro.affrc.go.jp/laboratory/niah/disease/biochem/gc_vfa/index.html
に従い、サンプルの処理を行い、ガスクロマトグラフへの注入サンプルを調整した。
【0049】
ガスクロマトグラフ条件
・機器:島津製作所製GC-2014 FIDガスクロマトグラフ
・カラム、パックドガラスカラム(Thermon 3000-2% Shimalite TPA60/80 3.2mmφ×2.1m;島津製作所)
・カラム温度:120℃
・注入器および検出器温度;200℃
・キャリアガス;N2
・燃焼ガス;H2
・検出器;FID
【0050】
・統計処理
測定データはSAS(2008)のGLMプロシジャーを用いて解析した。
Yijk=μ+Ti+Lj+(TL)ij+eijk
Yijk:変数,μ:全平均,Ti:脂肪酸の効果,Lj:添加量の効果,(TL)ij+:脂肪酸と添加量の相互作用の効果,eijk:誤差である。
最小二乗平均値間の差の検定:TukeyとKramerの多重比較法(Kramer、1956)。
さらに対照区を加えた多重検定を別途行った。
【0051】
[実施例2及び比較例2~7]
油脂の量、賦形剤の種類及び量を表5に記載のとおり変えた以外は、実施例1と同様にして、粒状物を作成した(表5参照)。比較例7は製剤に含まれる含有量相当のシリカゲルのみを添加した場合である。表5において、シリカゲル、珪藻土、バーミキュライト、ベントナイト、ゼオライトの添加量は、ケン化物の固体化(粒子状化あるいは粉末化)に必要であった最低量である。
【0052】
【0053】
実施例2及び比較例2~7の各ケン化物の消化率、pH及び窒素量(表6)、並びに総VFA(揮発性脂肪酸(英: volatile fatty acid))濃度(表7)及び各ガス生成量(表8~9)を測定した。各測定方法は前述のとおりである。表6~9においてコントロールは、飼料の圧ぺん大麦のみで油脂のケン化物を添加しない場合である。
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
ガス総生成量、メタン生成量、二酸化炭素生成量の経時変化をグラフにしたものが
図3及び4である。
図3及び4から明らかなとおり、実施例2のシリカゲルを用いた場合においてのみメタン生成抑制が見られ、他の賦形剤を用いた場合にはメタン生成抑制が見られなかった。
本発明の反芻動物用メタン生成抑制組成物は、メタン生成抑制に加えて、酸化安定性、匂い、嗜好性に優れた反芻動物飼料用飼料を提供することができた。
【0059】
[実施例3]
製造参考例2のアマニ油の量及びシリカゲルの種類と量を表10に記載のとおり変えた以外は、実施例1と同様にして、粒状物を作成した(実施例3)。表11~12においてコントロールは、飼料の圧ぺん大麦のみで油脂のケン化物を添加しない場合である。実施例2と同様に、メタン産生量及び二酸化炭素産生量を測定した(表11及び12)。
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
実施例3の48時間後のメタン生成量及び二酸化炭素生成量についてグラフにした(
図5及び
図6)。
シリカゲルの粒径が8μmのものを10%用いた場合(実施例3)は、若干効果が低かったが、メタンの産生を抑制した。この結果から、油脂のケン化物に添加するシリカゲルの量によりメタン生成抑制の程度が異なることが推測される(実施例3)。
実施例3の本発明の反芻動物用メタン生成抑制組成物は、メタン生成抑制に加えて、酸化安定性、匂い、嗜好性に優れた反芻動物飼料用飼料を提供することができた。
【0064】
[実施例4及び5]
製造参考例3のアマニ油の量及びシリカゲルの種類と量を表13に記載のとおり変えた以外は、実施例1と同様にして、粒状物を作成した(実施例4及び5)。またリパーゼを加えない以外は実施例4と同様に粒状物を作成した(比較例8)。表14~15においてコントロールは、飼料の圧ぺん大麦のみで油脂のケン化物を添加しない場合である。賦形剤を用いないものを比較例2-3とした。実施例2と同様に、メタン産生量及び二酸化炭素産生量を測定した(表14及び15)。
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
実施例4、5及び比較例の48時間後のメタン生成量及び二酸化炭素生成量についてグラフにした(
図5及び
図6)。
シリカゲルの粒径が8μmのものを用いた場合(実施例4)は、125μm(実施例5)と比べて効果が低かったが、いずれもメタンの産生を抑制した。
実施例4及び5の本発明の反芻動物用メタン生成抑制組成物は、メタン生成抑制に加えて、酸化安定性、匂い、嗜好性に優れた反芻動物飼料用飼料を提供することができた。
【0069】
[実施例6]
肥育後期の去勢牛4頭を試験に用いた。各2頭ずつ、実施例4で作成した製剤の給餌区、製剤の非給餌区の2グループに分け、馴致12日間おいた後、各頭3日間、呼気の測定期間とする試験を、2回繰り返すクロスオーバー法による試験を実施した。
なお、本発明の脂肪酸カルシウム製剤(脂肪酸カルシウムを主成分として含む油脂のケン化物)は、乾物摂取あたり2質量%量を通常飼料にトップドレスし給餌した。水分、ミネラルは自由摂食とした。
【0070】
各個体の体重の応じ、下記濃厚飼料を80質量%、粗飼料20質量%となる様、給餌した。
【0071】
飼料の給餌は、定量秤量給与し、定期的に残餌量を測定し、摂取した飼料摂取量から、摂取したTDNを算出した。
また、試験期間の初日と最終日の体重測定を行い、1回目(前半)の試験は初日の体重を、また2回目(後半)の試験は最終日の体重を用いた。
ガス測定は、インラインフィルター、吸引ポンプ、流量計、吸引ビン、レーザー型携帯用ガス分析装置およびPCで構成される測定システムを用い、飼槽に、左右および前面の3面および上面をカバーする透明アクリル板(縦50cm×横80cm(飼槽の幅)×奥行50cm)を設置し、飼槽上部と飼槽下部の2か所から呼気ガスを採取した。
【0072】
測定項目は以下のとおりである。
1.飼料摂取量(DMI kg/day)
2.メタン/二酸化炭素濃度比(CH4/CO2)
3.体重(試験期間初日と最終日)(BW(kg))
【0073】
<メタン産生量の推定>
メタン/二酸化炭素濃度比(CH4/CO2)を、下記の推定式に代入して「メタン産生量」を算出した。
メタン産生量(L/日)=(熱産生量/4.9)×CH4/CO2/100×1000
上記式では、乳牛の一日熱産生量(Mcal)/一日の二酸化炭素量(L/日)を、乾乳牛に乾草給餌した際の二酸化炭素産生量と熱産生量の測定事例(https://ocw.kyoto-u.ac.jp/ja/faculty-of-agriculture-jp/5240000/lecturenote)から平均値4.9として求めて使用した。
【0074】
「熱産生量」(HP)(Mcal)は以下の考え方により算出した 。
熱産生量(HP)=成長に使われるエネルギー+維持エネルギー
=(エネルギー摂取量-維持エネルギー)×(1-0.52)+ 維持エネルギー
= エネルギー摂取量×0.48+維持エネルギー×0.52
上記式では、エネルギー摂取量の維持エネルギーへの利用効率を0.52として計算した。
成長に使われるエネルギー:HPgrowth
エネルギー摂取量:ME intake(Mcal)=TDN(可消化養分総量)intake×3.61
維持エネルギー:ME maintenance(Mcal)=AE×BW0.75
BW(kg):牛の体重
AE(Mcal):肉用牛の体重BW0.75(kg)当りの活動エネルギー量(=0.1124)(日本飼養標準 『肉用牛』(2008年版) 中央畜産会より)
【0075】
【0076】
表17
*1乾物摂取量当りのメタン産生量
*2 体重当りのメタン産生量
【0077】
実際に牛に給餌したところ、本発明の油脂のケン化物からなる組成物により、呼気中のメタン産生を抑制することができた。