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特許7531203TERTを発現する非免疫原性腫瘍を有するHLA-A*0201陽性患者における癌を処置するための潜在性TERTエピトープを標的するワクチンの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】TERTを発現する非免疫原性腫瘍を有するHLA-A*0201陽性患者における癌を処置するための潜在性TERTエピトープを標的するワクチンの使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/08 20190101AFI20240802BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240802BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20240802BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240802BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240802BHJP
   C07K 7/06 20060101ALN20240802BHJP
【FI】
A61K38/08
A61P35/00
A61K39/00 H
A61P43/00 121
A61P11/00
C07K7/06 ZNA
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019561935
(86)(22)【出願日】2018-05-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-02
(86)【国際出願番号】 EP2018061602
(87)【国際公開番号】W WO2018206461
(87)【国際公開日】2018-11-15
【審査請求日】2021-05-06
(31)【優先権主張番号】17305526.0
(32)【優先日】2017-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】523304663
【氏名又は名称】クリプティック ファーマシューティカルズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】KRIPTIC PHARMACEUTICALS LIMITED
【住所又は居所原語表記】One Spencer Dock,North Wall Quay,DUBLIN 1,IRELAND
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【弁理士】
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【弁理士】
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】コスマトプロス,コスタンティノス
(72)【発明者】
【氏名】メネ-ジャメ,ジャンヌ
(72)【発明者】
【氏名】ガルー,カトリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ルージョ,オード
【審査官】濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-540483(JP,A)
【文献】JOURNAL OF CLINICAL ONCOLOGY ,Vol. 25,2006年,p. 2727-2734,DOI: 10.1200/JCO.2006.10.3465
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/08
A61P 35/00
A61K 39/00
A61P 43/00
A61P 11/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)を発現する非免疫原性の非小細胞肺(NSCLC)を有するHLA-A*0201陽性患者における癌の処置に用いるための、配列番号1の潜在性TERT572ペプチドに対するCTL応答を誘導する配列番号2のペプチドを含む組成物。
【請求項2】
TERTを発現する非免疫原性の非小細胞肺(NSCLC)を有し、配列番号2のペプチドを既にワクチン投与されているHLA-A*0201陽性患者における癌の処置に用いるための、配列番号1のペプチドを含む組成物。
【請求項3】
TERTを発現する非免疫原性の非小細胞肺(NSCLC)を有するHLA-A*0201陽性患者における癌の処置に用いるための、請求項1に記載の組成物と請求項2に記載の組成物との組合せ医薬。
【請求項4】
ワクチン投与前の非小細胞肺(NSCLC)を有する患者の血液試料において、配列番号1のペプチドに特異的なCTL応答及び/又は配列番号3のペプチドに特異的なCTL応答及び/又は配列番号5のペプチドに特異的なCTL応答が検出できないとき、前記癌が非免疫原性とみなされる、請求項1若しくは2に記載の組成物又は請求項3に記載の組合せ医薬。
【請求項5】
前記患者の血液試料が、白金ベースの第一選択化学療法の終了後2週間未満で採取されたものである、請求項4に記載の組成物又は組合せ医薬。
【請求項6】
前記患者が非扁平上皮(NSQ)NSCLCを有する、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物又は組合せ医薬。
【請求項7】
前記患者が、無喫煙習慣者又は30年未満、好ましくは25年未満、より好ましくは20年未満、更により好ましくは10年未満の喫煙習慣を有した元喫煙者である、請求項又はに記載の組成物又は組合せ医薬。
【請求項8】
前記患者が、無喫煙習慣者又は軽度喫煙者である、請求項のいずれか1項に記載の組成物又は組合せ医薬。
【請求項9】
前記患者が、配列番号2のペプチドのワクチン投与前に、白金ベースの化学療法、好ましくはシスプラチンベースの第一選択化学療法を受け、該療法に応答した患者である、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物又は組合せ医薬。
【請求項10】
前記患者が65歳を超えている、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物又は組合せ医薬。
【請求項11】
前記患者が男性である、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物又は組合せ医薬。
【請求項12】
TERTを発現する非小細胞肺(NSCLC)を有するHLA-A*0201陽性患者が、配列番号1及び2のペプチドのワクチン投与による免疫療法処置に対して良好なレスポンダーとなる可能性があるかをインビトロで決定する方法であって、前記癌の免疫原性を評価することを含み、前記癌が非免疫原性であるとき、患者は前記免疫療法処置に対して良好なレスポンダーである可能性がある、方法。
【請求項13】
前記癌の免疫原性を、前記患者の血液試料において、配列番号1のペプチドに特異的なCTL応答を測定することにより、及び/又は配列番号3のペプチドに特異的なCTL応答を測定することにより、及び/又は配列番号5のペプチドに特異的なCTL応答を測定することにより評価し、前記CTL応答が検出できないときは非免疫原性である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
配列番号1のペプチドに特異的なCTL応答を、酵素結合免疫スポット(ELISpot) IFNgアッセイにより測定する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
(i)ELISpot IFNgアッセイを行うための試薬及びプレートと、(ii)配列番号1、配列番号3及び配列番号5からなる群より選択されるペプチドと、(iii)陰性対照としての無関係のペプチドとを含む、請求項1214のいずれか1項に記載の方法を行うためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌免疫療法の分野、より具体的には抗腫瘍ワクチン投与の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
癌免疫療法は、腫瘍抗原に由来し、HLAクラスI分子により腫瘍細胞表面にて提示されるペプチドを認識する細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を刺激することを意図する。CTL標的ペプチドは、MHC分子に関する親和性に依存して、優性又は潜在性であり得る。
腫瘍関連抗原(TAA)は、頻繁に腫瘍細胞及び正常組織の両方により発現されるのに対し、ネオ抗原は腫瘍特異的であり、ほとんどの場合で患者特異的である。腫瘍が幅広く発現する抗原を依然として標的しつつTAAに対しては寛容となる問題を回避するために、本発明者らは、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)の潜在性ペプチド、すなわちHLA-A*0201分子に関して低親和性を示し、不安定なペプチド/HLA-I複合体を形成するペプチドを標的するワクチン(Vx-001)を提案した(Menez-Jamet J.ら、2016)。HLA-I親和性と免疫原性との強い相関性に鑑みて、この潜在性ペプチドは本質的に非免疫原性である。よって、癌ワクチンとして用いるため、この潜在性ペプチドは免疫原性が増強されるように最適化された。
【0003】
よって、Vx-001は2つの9アミノ酸ペプチドで構成される:腫瘍細胞が発現するWT潜在性TERT572(RLFFYRKSV、配列番号1)及びその最適化バリアントTERT572Y(YLFFYRKSV、配列番号2)。これら2つのペプチドは、アジュバントであるMontanide ISA51(登録商標)VG(高純度鉱物油(Drakeol 6VR)と界面活性剤(モノオレイン酸マンニド)との混合物)とともに、別々に投与される。最適化免疫原性TERT572Yは、大きな免疫応答を引き起こすために、最初の2回のワクチン接種で投与される。WT TERT572は、その後のワクチン接種で、TERT572Yで刺激された全てのT細胞のうち、HLA-A*0201と関連する腫瘍細胞の表面に提示されるWT TERT572に関して最高の特異性を有するものを選択するために投与される。
【0004】
Vx-001は、無作為化第IIb相臨床試験において、4サイクルの白金ベース化学療法後に疾病管理を経験した転移又は再発ステージI~IIIのNSCLC患者で試験された。患者は、TERTを発現する腫瘍を有してHLA-A*0201陽性である必要があった。この試験の主目的は全生存率であった。この試験の結果は、全体的には統計学的に有意でなかったが、患者の喫煙歴の分析及びワクチンに対する特異的免疫応答(免疫モニタリングデータ)、年齢などのような他の特徴を考慮した詳細な結果分析によって、患者の階層化が導かれ、Vx-001のワクチン投与が有益であると判明した患者のカテゴリーが同定された。
【0005】
腫瘍抗原の同定は、腫瘍ワクチン投与への道程の第一歩である。数多くの腫瘍抗原は、血中又は腫瘍中の天然に活性化された抗腫瘍Tリンパ球(腫瘍中:腫瘍浸潤リンパ球、TIL)の標的として同定された。これら抗原を、天然に存在する抗腫瘍免疫応答を増幅するために用いるという考えであった。Speiserらは、活性化された抗原特異的CD8 T細胞の存在を、ワクチン投与する患者の選択の更なる基準として加えることを提案した(Speiser DE.ら、2003)。
同様に、Salazarらは、ワクチン投与の開始時点で検出可能な既存の抗原特異的免疫応答を有する患者が、おそらくメモリ応答の上昇により全体として高レベルの腫瘍特異的T細胞免疫を達成することを証明する結果を示した。よって、著者らは、癌患者における内因性免疫応答の発生率の増加が既に示されている抗原を標的するワクチンを開発することが、ワクチンの効力及びおそらく治療効率を改善し得ることを示唆した(Salazar LGら、2007)。
【0006】
別の刊行物において、その著者らは、これら内因性応答の全体的な保有率は、更なるペプチドワクチン投与臨床試験を最適化するために情報を与え得ることを述べた(Cesson V.ら、2011)。
よって、広く受け容れられている考えは、既存の抗腫瘍免疫応答を増幅するために癌ワクチンを用いるというものであった。
しかし、数多くの臨床試験では、ワクチン誘導免疫応答と臨床応答との間に非常に弱い相関しか観察されなかった。例えば、強い免疫応答の後に必ず強い臨床応答が続くわけではなかった。更に、ほとんどの応答患者で、血中に非常に少数のワクチン誘導T細胞が観察されたが、退行している腫瘍では、ワクチン自体以外の抗原に対する抗腫瘍T細胞の重要な拡大が検出された。この観察により、癌ワクチンの作用機構についての新しい仮説が導かれた(Ma W.ら、2011、Coulie PG.ら、2014)。この仮説によると、少数の活性抗ワクチンT細胞が腫瘍に浸潤し、腫瘍細胞を攻撃する。この相互作用の結果として、これらCTLは再刺激され、局所微小環境を逆転させるサイトカインを産生する。このことにより、腫瘍中に既に存在する不活性抗腫瘍T細胞の多くが再覚醒する。(ワクチン抗原以外の腫瘍抗原を指向する)これらT細胞の動員が、腫瘍を拒絶するに必要な数をもたらす。
この仮説によれば、多重特異的内因性抗腫瘍免疫応答を刺激可能な免疫原性腫瘍を有する患者においてのみ、腫瘍ワクチンは臨床抗腫瘍活性を有し得る。
【0007】
非小細胞肺癌患者のうち、免疫原性腫瘍を有する集団は、より良好な予後を有する集団に相当する。実際、腫瘍間質における高い変異量と関連する高密度のCD4+及びCD8+ T浸潤リンパ球(TIL)が、NSCLC患者(Al-Shibli KI.ら、2008)及び他の腫瘍(Fridman WH.ら、2011)における良好な予後の指標であることが示された。この観察により、TIL分析に基づいて「イムノスコア」と同様に患者の予後に得点をつける方法(Pages F.ら、2009)又は腫瘍の免疫学的状態及び免疫療法に対する応答についての予後に関連する分子サインを同定する方法(Wang E.ら、2013)が開発された。
更に、過去数年間、免疫療法分野を強化し、いくつかの癌適応症について上市認可が得られた免疫チェックポイント阻害薬は、TILによる強い浸潤と関連する(Fehrenbacher L.ら、2016)高い体細胞非同義変異量(Soo RA.、2015)を有する腫瘍を有する患者においてのみ効果的であることが示された。最後に、良好な予後、免疫チェックポイント阻害薬の有効性及び免疫原性腫瘍と関連する高い変異量は全て、喫煙患者において同定される分子サインと強く関連することが示されたが、無喫煙習慣者(never-smoker)又は軽度の元喫煙者は、免疫チェックポイント阻害薬処置から受ける利益が乏しいことが示された(Rizvi NA.ら、2015)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、別々に投与される2つのペプチド(配列番号1及び配列番号2)で構成されるワクチンであるVx-001の投与に応答する可能性がより高い患者の選択に関する。
先行技術からの予想に反し、Vx-001の第IIb相臨床試験の精緻な解析により、処置のより良好な恩恵を受ける患者は、最悪の予後を有し、ワクチン投与開始時点で検出可能な既存の腫瘍特異的免疫応答を有さない患者(すなわち、非免疫原性又は免疫原性が乏しい腫瘍を有する患者)であることが示された。
【0009】
よって、本発明は、TERTを発現する非免疫原性腫瘍を有するHLA-A*0201陽性患者における癌を処置するための、このワクチン及びその各構成成分の使用に関する。
本発明はまた、TERTを発現する腫瘍を有するHLA-A*0201陽性患者が、Vx-001に応答する可能性が高いかどうかを決定するセラノスティクス法であって、腫瘍が非免疫原性であるとき、患者は良好なレスポンダーである可能性が高いセラノスティクス法に関する。
本発明の別の態様は、セラノスティクス法を行うためのキットである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ワクチン投与プロトコール
図2】自然免疫あり(左)又はなし(右)の患者の異なる腫瘍抗原に対する応答。
図3】全ての評価した患者の臨床転帰(OS及びTTF)。
図4】ワクチン特異的免疫応答を生じたVx-001処置患者の臨床転帰(OS及びTTF)
図5】自然免疫なしの患者の臨床転帰。
図6】自然免疫ありの患者の臨床転帰
図7】自然免疫なしの無喫煙習慣者及び元喫煙者の臨床転帰。A:無喫煙習慣者; 8.6対16.2 mo; p=0.0008; HR=0.2(0.05~0.79)。B:無喫煙習慣者及び25年間未満の喫煙習慣を有していた元喫煙者; 7.9対20.7 mo; p=0.0007; HR=0.29(0.13~0.67)。C:無喫煙習慣者及び20年間未満の喫煙習慣を有していた元喫煙者; 7.9対20.2 mo; p=0.0001; HR=0.23(0.08~0.64)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
第一の実施形態によると、本発明は、TERTを発現する非免疫原性腫瘍を有するHLA-A*0201陽性患者における抗腫瘍CTL応答を誘導するための、最適化ペプチドTERT572Y(配列番号2のペプチド)の使用に関する。
この抗癌免疫療法を行う場合、TERT572Yのワクチン投与は、潜在性ペプチドTERT572(配列番号1)に対するCTL応答を誘導する。配列番号2のペプチドの初回ワクチン投与により誘導されたCTL応答は、好ましくは、次いで、配列番号1のペプチドのワクチン投与により維持(又は増幅)される。
【0012】
本明細書において、「免疫原性腫瘍」は、腫瘍抗原に対して著しいCTL応答を誘発する腫瘍をいう。本発明を実施する場合、腫瘍の免疫原性は、患者の血液試料中のTERT572(配列番号1)に特異的なCTLの数及び/又はTERT540(配列番号3)に特異的なCTLの数及び/又は別の腫瘍抗原に特異的なCTLの数を測定することにより評価できる。例えば、腫瘍の免疫原性は、大多数の腫瘍により発現される普遍的な腫瘍抗原であるサバイビンに対するCTL応答を測定することにより評価できる(Andersen MH及びThor SP、2002)。本発明において考慮するHLA-A*0201陽性患者では、この応答は、患者の血液試料中で、エピトープたるサバイビン96(配列番号5)に特異的なCTLの数を測定することにより検出できる。
【0013】
これに対して、TERT572(配列番号1)、TERT540(配列番号3)及び/又はサバイビン96(配列番号5)に特異的なCTL応答が患者の血液試料において検出されないとき、腫瘍は「非免疫原性」とみなす。下記の実験の部に記載するIFNg ELISpotアッセイを用いて、TERT572ペプチド又は任意の他の腫瘍エピトープに特異的なT細胞を検出できる。もちろん、下記の実験の部に記載するように、腫瘍抗原たる試験ペプチドに対する応答と、無関係のペプチドに対する応答との間に著しい差がない場合、試験腫瘍ペプチドに特異的な応答がない、すなわち腫瘍は非免疫原性であるとみなす。
或いは、腫瘍の免疫原性は、腫瘍からの生検における腫瘍浸潤リンパ球(TIL)のレベルを測定することにより、例えばimmunoscoreを用いて(Pages F.ら、2009)、又は遺伝子プロファイリング法を用いて腫瘍の遺伝子発現のプロファイルを決定することにより(Galon J.ら、2013、Rizvi NA.ら、2015、Wang, E.ら、2013)評価できる。
【0014】
本明細書で用いる場合、「癌」は全てのタイプの癌を意味する。具体的には、癌は固形癌又は造血器癌であり得る。癌の非限定的な例は、扁平上皮癌又は腺癌、例えば乳癌、前立腺癌、卵巣癌、肺癌、膵臓癌若しくは大腸癌、肉腫、リンパ腫、黒色腫、白血病、生殖細胞癌及び芽細胞腫である。
本明細書で用いる場合、「処置する」及び「処置」との用語は、1種以上の療法の施行に起因する進行の遅延、癌、特に固形腫瘍の重篤度及び/若しくは期間の低減、例えば非小細胞肺癌(NSCLC)におけるクオリティー・オブ・ライフの改善、並びに/又は生存率の増加をいう。
【0015】
本発明はまた、TERTを発現する非免疫原性腫瘍を有するHLA-A*0201陽性患者における癌を処置するための天然型ペプチドTERT572(配列番号1のペプチド)の使用に関する。この免疫療法処置の枠内で、配列番号1のペプチドは、患者への配列番号2のペプチドのワクチン投与により開始されたCTL免疫応答を維持する。
本発明はまた、TERTを発現する非免疫原性腫瘍を有するHLA-A*0201陽性患者における癌の処置における、Vx-001、すなわち配列番号1及び配列番号2のペプチドの組合せの使用に関する。既に記載したように、Vx-001の2つのペプチドは別々に投与される。先ず、腫瘍抗原TERTに対する、より正確には配列番号1の潜在性TERT572ペプチドに対するCTL応答が、患者への配列番号2のペプチドのワクチン投与により誘導された後、患者への配列番号1のペプチドのワクチン投与により維持される。
【0016】
下記の実験の部に記載する好ましい実施形態によると、患者は、先ず、配列番号2のペプチドを2回ワクチン投与され、次いで、配列番号1のペプチドを4回ワクチン投与され、これらワクチン投与の間隔は3週間である(「誘導相」)。もちろん、当業者(医師又は臨床研究者)は、異なるワクチン投与プロトコールを選択できる。可能なバリエーションは、CTL応答を誘導するための配列番号2の初期ワクチン投与の数(1、2又はそれ以上)、ワクチン投与間隔(例えば、1~4週間又はそれ以上)、誘導相における配列番号1のワクチン投与数(1~10又はそれ以上)、及びワクチンの処方を含む。具体的には、Montanideとは異なるアジュバントを試験でき、場合により、プロトコールの適応が必要になる可能性がある。
【0017】
別の実施形態によると、上記の誘導相の後、患者は、配列番号1のペプチドを更にワクチン投与され、TERTに対するCTL応答が維持される(「安定化相」)。この更なるワクチン投与は、例えば、3か月ごとに行うことができる。更なるワクチン投与は、再発まで行うことができる。もちろん、当業者(医師又は臨床研究者)は、安定化相について異なるプロトコールを選択できる。可能なバリエーションは、ワクチン投与の間隔に関するもの(例えば、ワクチン投与は、毎月、2か月ごと又は特に長期の寛解の後はより低い頻度、例えば6か月ごとに行うことができる)、及び用いるペプチドを含む。実際、医師は、CTL応答を定期的にモニタリングし、応答の低下が観察されたとき、配列番号2のペプチドを再び患者にワクチン投与することを選択できる。換言すれば、医師は、患者の応答及び状態に応じて安定化相を適応できる。
【0018】
本発明者らは、腫瘍抗原に対するCTL応答が化学療法後でワクチン投与前に検出される患者もいることを見出した。これの理由は、おそらく、化学療法後の腫瘍細胞溶解が、これら患者において抗腫瘍免疫応答を誘導し得るほどの大量の腫瘍エピトープの放出を導くというものであろう。これら腫瘍特異的CTLは、化学療法直後に高く検出され得、その後、CTLの量は減少する。本発明者らの仮説は、このCTL応答が、抗PD(L)1処置のような他の免疫療法に対して完全に応答性である免疫原性腫瘍を有する患者において現れるというものである。よって、白金ベースの第一選択化学療法のような化学療法処置を受けた患者について、腫瘍の免疫原性状態は、好ましくは、前記化学療法の終了後2週間未満、例えば化学療法の終了後7日未満で評価する。
【0019】
本発明の特定の実施形態によると、ワクチン投与前で、好ましくは白金ベースの第一選択化学療法の終了後2週間未満、より好ましくは白金ベースの第一選択化学療法の終了後7日未満に採取された患者血液試料においてTERT572(配列番号1)に特異的なCTL応答が検出できない場合、腫瘍は非免疫原性とみなされる。
本発明の別の特定の実施形態によると、
ワクチン投与前で、好ましくは白金ベースの第一選択化学療法の終了後2週間未満、より好ましくは白金ベースの第一選択化学療法の終了後7日未満に採取された患者血液試料においてTERT540(配列番号3)に特異的なCTL応答が検出できない場合、腫瘍は非免疫原性とみなされる。
本発明の別の特定の実施形態によると、ワクチン投与前で、好ましくは白金ベースの第一選択化学療法の終了後2週間未満、より好ましくは白金ベースの第一選択化学療法の終了後7日未満に採取された患者血液試料においてサバイビン96(配列番号5)に特異的なCTL応答が検出できない場合、腫瘍は非免疫原性とみなされる。
【0020】
下記の実験の部に記載する本発明の別の特定の実施形態によると、患者は非小細胞肺癌(NSCLC)を有する。
下記に開示する第IIb相試験の結果に示すように、Vx-001のワクチン投与は、非免疫原性非扁平上皮NSCLCを有する患者において生存を有意に延長した。よって、本発明の別の特定の実施形態によると、患者は非扁平上皮(NSQ)NSCLCを有する。
臨床試験の結果は、無喫煙習慣者及び30年間未満の喫煙習慣を有した元喫煙者が、処置に対し、より良好に応答することも示す。
よって、本発明の別の特定の実施形態によると、患者は、無喫煙習慣者であるか又は30年間未満の喫煙習慣を有した元喫煙者である。
本発明の別の好ましい実施形態によると、患者は、無喫煙習慣者であるか又は25年間未満の喫煙習慣を有した元喫煙者である。
本発明の別の好ましい実施形態によると、患者は、無喫煙習慣者であるか又は20年間未満の喫煙習慣を有した元喫煙者である。
本発明の別の好ましい実施形態によると、患者は、無喫煙習慣者であるか又は10年間未満の喫煙習慣を有した元喫煙者である。
驚くべきことに、本発明者らは、禁煙していないが、25年前までに喫煙を開始したか又はその生涯で累積25年未満の喫煙習慣を有する患者を含む軽度喫煙者(すなわち、最大で25年間の喫煙習慣を有する個体)を選択した場合、統計的により有意な結果が観察された。よって、本発明のなお別の好ましい実施形態によると、患者は、無喫煙習慣者又は軽度喫煙者である。
【0021】
下記の実験の部に記載する本発明の別の特定の実施形態によると、患者は、Vx-001のワクチン投与前、特に配列番号2のペプチドの投与前に、白金ベース化学療法を受けたことがある。
本発明の別の特定の実施形態によると、患者は、配列番号2のペプチドの初期ワクチン投与前に、白金ベースの第一選択化学療法に対して応答した患者である(客観的応答及び安定疾病)。
下記の実験の部に記載する本発明のより具体的な実施形態によると、患者は、Vx-001のワクチン投与前、特に配列番号2のペプチドの投与前に、シスプラチンベースの化学療法(CDDP)を受けたことがある。
本発明の別のより具体的な実施形態によると、患者は、配列番号2のペプチドの初期ワクチン投与前に、シスプラチンベースの第一選択化学療法に対して応答した患者である(客観的応答及び安定疾病)。
【0022】
本発明の枠内で、他の治療スキームが企図される。例えば、Vx-001は、TERTを発現する非免疫原性腫瘍を有するHLA-A*0201陽性患者において、化学療法の前又は最中に投与できる。この場合、腫瘍の免疫原性状態は化学療法前に決定する。TERTを発現する非免疫原性腫瘍を有するHLA-A*0201陽性患者、特に患者が無喫煙習慣者又は30年未満の喫煙習慣を有した元喫煙者又は軽度喫煙者(25年間未満の喫煙習慣を有し、禁煙したか又は禁煙していない個体)であるとき、第一選択のVx-001処置も企図できる。この場合、腫瘍の免疫原性状態は、診断時に決定される。いずれの場合でも、腫瘍の免疫原性状態は、酵素結合免疫スポット(ELISpot) IFNgアッセイを用いて腫瘍抗原特異的CTLを検出することにより又は任意のその他の方法、例えばTIL検出若しくは遺伝子発現プロファイリングにより決定される。
【0023】
本発明の別の特定の実施形態によると、患者は65歳を超えている。臨床試験の結果は、実際、65歳を超える患者が処置に対し、より良好に応答することを示す。
本発明の別の特定の実施形態によると、患者は男性である。臨床試験の結果は、実際、男性患者が処置に対し、より良好に応答することを示す。
【0024】
本発明の別の態様によると、TERTを発現する腫瘍を有するHLA-A*0201陽性患者が、Vx-001のワクチン投与による免疫療法処置に対して良好なレスポンダーとなる可能性があるかをインビトロで決定する方法であって、腫瘍の免疫原性を測定することを含み、腫瘍が非免疫原性であるとき、患者はVx-001ワクチン投与の良好な候補者であるとみなされる方法である。
上記の方法の特定の実施形態によると、腫瘍の腫瘍免疫原性は、前記個体の血液試料において、配列番号1のペプチドに特異的なCTL応答を測定することにより評価され、前記CTL応答がワクチン投与前に検出できないとき、腫瘍は非免疫原性とみなされる。
上記の方法の別の特定の実施形態によると、腫瘍の腫瘍免疫原性は、前記個体の血液試料において、配列番号3のペプチドに特異的なCTL応答を測定することにより評価され、前記CTL応答がワクチン投与前に検出できないとき、腫瘍は非免疫原性とみなされる。
上記の方法のなお別の特定の実施形態によると、腫瘍の腫瘍免疫原性は、前記個体の血液試料において、配列番号5のペプチドに特異的なCTL応答を測定することにより評価され、前記CTL応答がワクチン投与前に検出できないとき、腫瘍は非免疫原性とみなされる。
【0025】
本発明による方法の特定の実施形態によると、配列番号1のペプチド又は配列番号3のペプチド又は配列番号5のペプチド又は任意のその他の関連する腫瘍特異的ペプチドに特異的なCTL応答は、酵素結合免疫スポット(ELISpot) IFNgアッセイにより検出される。
上記のように、自然免疫と免疫原性との間の相関関係は、化学療法の終了間際に自然免疫を評価するとき、より高い。よって、本発明による方法の別の特定の実施形態によると、腫瘍の免疫原性は、化学療法の終了後2週間未満、好ましくは7日未満で評価される。
もちろん、本発明によるセラノスティクス法を行う場合、腫瘍の免疫原性を評価するために任意の他の方法を用いることができる。具体的には、腫瘍からの生検中のTILの量を測定することにより、又は遺伝子プロファイリングにより行うことができる。
【0026】
本発明は、(i)ELISpotアッセイを行うための試薬及びプレートと、(ii)配列番号1、配列番号3及び配列番号5から選択されるペプチドと、(iii)陰性対照としての無関係のペプチドとを含む、上記のセラノスティクス法を行うためのキットにも関する。
本発明の他の特徴は、本発明の枠内で行われ、本発明の範囲を限定することなく必要な実験的サポートを与える以下の臨床試験及び生物学的アッセイについての記載を通しても明らかになる。
【実施例
【0027】
実験結果
材料及び方法
研究設計及び参加者
Vx-001-201研究は、フランス、ドイツ、スペイン、イタリア、ギリシャ、ポーランド、ルーマニア及びチェコ共和国の70の施設で行われた無作為化二重盲検多施設研究である。主な適格性判断基準は、a)非小細胞肺癌(NSCLC)、b)ステージIV又は再発ステージI~III、c)RECIST 1.1判断基準による白金ベースの第一選択化学療法後の疾病管理、d)HLA-A*0201陽性かどうか、e)テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)を発現する腫瘍、f)ECOG 0又は1、g)脳転移なしであった。
研究は、ヘルシンキ宣言並びに全ての適用可能な規則及び倫理的要求に従って行われた。研究は、その地方の法規に従って各研究施設を担当する独立の倫理委員会により承認された。全ての患者は、書面によるインフォームドコンセントを提出した。
評価項目
a) 主要評価項目:無作為化からの全生存率(OS)
b) 副次的評価項目:
- 無作為化からの治療成功期間(TTF)
- 12か月でのOS
c) 主探索目的
- ワクチン誘導特異的免疫応答の評価
- ワクチン特異的免疫応答と臨床応答との間の相関
【0028】
手順及びワクチン投与プロトコール
全ての選択基準を満たす患者を、第一選択化学療法の終了後4週間以内に無作為化した。
ワクチン投与プロトコールは、3週間間隔での6回のワクチン投与からなった。最適化Vx-001/TERT572Yを最初の2回のワクチン投与で用い、天然Vx-001/TERT572をその後の4回のワクチン投与で用いた。6回目のワクチン投与後に疾病管理が継続した患者は、3か月ごとにVx-001/TERT572の追加ワクチン投与を受けた。ワクチン投与は、疾病進行時に停止した(図1)。
免疫応答は、1回目のワクチン投与前(ベースライン)、3回目のワクチン投与前(W6)及び6回目のワクチン投与の3週間後(W18)に評価した。追加ワクチン投与を受けた患者は、6か月ごとに免疫応答についてモニタリングした。
【0029】
統計解析
標本サイズを算出するために、我々は、プラシーボ群のメジアンOSを9.8か月と推定し、Vx-001群のメジアンOSを15.2か月と予想した。よって、83%の検出力及び0.05の片側アルファを達成するために、(最終解析時での10%の脱落者を含めて)220名の患者を無作為化する必要があった。
プラシーボ:Vx-001比は、1:1であった。
主要及び副次的評価項目を、a)NSCLC、b)ステージIV又は再発ステージI~III及びc)第一選択化学療法後の疾病管理、d)HLA-A*0201が陽性であるか並びにe)TERT発現腫瘍の5つの主判断基準を満たす全ての患者で構成される最大の解析対象集団(FAS)において解析した。
我々は、Kaplan-Meier法を用いて、各群におけるOS及びTTFを推定し、Cox比例ハザード回帰モデルを用いて、処置効果に対するOS及びTTFに関するハザード比(HR)を推定した。
【0030】
免疫モニタリング
免疫応答を、IFNg ELISpotアッセイを用いて測定して、TERT572ペプチドに特異的なT細胞を検出した。末梢血単核細胞(PBMC)は、ワクチン投与前、W6(3回目のワクチン投与前)、W18(6回目のワクチン投与の3週間後)及び追加ワクチン投与を受けた患者についてはその後6か月ごとに採取した血液試料から単離した。PBMCは、-160℃にて保存し、研究を盲検解除するときに試験した。2×105PBMC/ウェルを、抗IFNg抗体(Diaclone)で被覆したプレートにおいて、AIMV血清フリー培地中(6連で)、TERT572又は陰性対照としての無関係のペプチド又は陽性対照としてのCEFペプチドプール又は特異的陽性対照としてのフィトヘマグルチニン(PHA)を用いて一晩刺激した。生存PBMCの存在は、PHAを用いて確認した。PBMCの質を、CEFペプチドプール(一般的なウイルス、インフルエンザ、HPV及びCMVからの多対立エピトープペプチドの混合物)に対する応答を測定することにより評価した。試料がCEFに対して応答した場合、又は同じ患者の全ての試料がCEFに応答しない場合(患者の病歴に起因するCEF反応性が存在しないことを示す)、当該試料を考慮に入れた。スポット数は、カウンタを用いて定量し、各条件について6つの値の平均を算出した。a)陰性対照平均値とTERT572又はCEF群平均値との間に10スポットを超える差があった場合、及びb)陰性対照平均値とTERT572又はCEF群平均値との間の統計的有意差(p<0.05)があった場合、血液試料はTERT572又はCEFに応答するとみなした。ワクチン投与前のTERT572応答がない患者は、研究プロトコール中にTERT572に対する応答が検出された場合、免疫レスポンダーとみなした。ワクチン投与前のTERT572反応性を有する患者は、(i)このTERT572反応性がワクチン投与後に増幅された(少なくとも2倍)か、又は(ii)患者が先ずワクチン投与前のTERT572反応性を喪失し、新しいTERT572反応性がワクチン投与プロトコールにおいて後で検出された場合にのみ、免疫レスポンダーとみなした。
他のTERTペプチド及び他の抗原に対する免疫応答も、IFNg ELISpotアッセイを用いて測定した。T細胞を検出するために用いたペプチドを、以下の表1に記載する。
【0031】
【表1】
【0032】
結果
患者
1407名の患者をスクリーニングし、221名の患者を無作為化した。スクリーニング不適格症例の主な理由は次の通りであった、a)患者がHLA-A*0201陰性であった、b) TERT発現評価に適切な生検材料がなかった、及びc)疾病が第一選択化学療法後に進行した。
31名の患者は、主選択基準を満たさなかった(25名の患者は、進行性疾病を有して研究に参加し、2名の患者はNSCLCでない腫瘍を有し、4名の患者は、転移性又は再発疾病を有さなかった)ので、最大の解析対象集団(FAS)の解析から除外した。表2は、FASの190名の患者の個体群統計を示す。
【0033】
【表2】
【0034】
患者は、化学療法の終了後4週間以内に無作為化された。
【0035】
FAS患者における免疫応答
TERT572特異的免疫応答は、166名の評価可能な患者のうち45名(27.1%)でワクチン投与前に検出された(自然免疫)。自然免疫を有する患者のパーセンテージは、プラシーボ処置及びVx-001処置患者においてそれぞれ24.1%及び30.4%であった。
自然免疫は、TERT572に限定されず、他の腫瘍抗原にも拡張された。自然免疫を有する6名の患者及び自然免疫のない3名の患者のベースラインの血液試料を、NSCLCにおいて過剰発現される6つの更なる抗原に対して試験した。TERT572に対する自然免疫を有する全ての患者が、他の腫瘍抗原(例えばTERT988、TERT540、MAGE248、HER402、サバイビン96、NY-ESO96)に対して反応性のT細胞を有したが、TERT572に対する自然免疫のない患者は、他の腫瘍抗原に対して応答せず、稀に応答が検出されたが、非常に弱いものであった(図2)。
これら結果から、TERT572に対する自然免疫を有する患者は免疫原性腫瘍を有する一方、TERT572に対する自然免疫のない患者は非免疫原性又は免疫原性が乏しい腫瘍を有することが強く示唆される。
【0036】
Vx-001処置患者において、TERT572特異的免疫応答を、ベースラインにて79名の患者、W6にて73名の患者、W18にて42名の患者、及び追加ワクチン投与を受けた16名の患者で評価した。全体では、免疫応答は、75名の患者において少なくともW6、W18又はその後に測定した。22名の患者がTERT572特異的免疫応答を示した(29.3%)。驚くべきことに、この応答は、扁平上皮(SQ)NSCLCより非扁平上皮(NSQ)において頻度が有意に高かった(36%対13.3%、p=0.037)。
ワクチン誘導免疫応答を有する患者の頻度は、TERT572に対する自然免疫ありの患者となしの患者との間で有意差はなかった(15%対36.2%、p=0.14)。
【0037】
臨床応答
FAS患者の解析により、プラシーボ処置患者とVx-001処置患者との間でOSに有意差がないことが示された(11.3対14.3か月、p=0.86、HR=0.97、95% CI 0.70~1.34)。TTF(3.5対3.6か月、p=0.36、HR=0.88、95% CI 0.66~1.16)及び12か月生存率(49.5%対58%、p=0.24)のいずれも有意差はなかった(図3)。
サブグループ分析は、男性において12か月生存率が有意に高かった(43%対61%、p=0.05)以外は、試験したいずれのサブグループでもOS及び12か月生存率に有意差を示さなかった(表3)。
【0038】
【表3】
【0039】
次いで、我々は、Vx-001誘導免疫応答と臨床転帰との間に相関関係があるかを問い、Vx-001レスポンダーのワクチン投与患者とVx-001非レスポンダーのワクチン投与患者との間でOS及びTTFを比較した。OS(13.4対21.3か月、p=0.0042、HR=0.39、95% CI 0.23~0.68)及びTTF(3.6対9.1か月、p=0.0001、HR=0.41、95% CI 0.26~0.45)に非常に有意な差があった(図4)。
次いで、我々は、別々に考慮したプラシーボ及びVx-001処置患者においてOS、TTF及び12か月生存率に対する自然免疫の影響を分析した。表4及び5は、プラシーボ処置集団において、自然免疫がOS(8.6対20.1か月、p=0.057、HR=0.59、95% CI 0.36~0.98)及びTTF(3.1対5.3か月、p=0.056、HR=0.63、95% CI 0.40~0.98)のかなり著しい延長に関連したことを示す。12か月生存率における差は、統計的に有意であった(71.4%対36.3%、p=0.006)。
対照的に、Vx-001処置患者では、OS(13.2対15.5か月、0.73、HR=0.91 95% CI 0.53~1.54)及びTTF(4.1対2.9か月、p=0.16、HR=1.4、95% CI 0.83~2.33)に差はなかった。12か月生存率にも著しい差はなかった(55%対65%、p=0.46)。
【0040】
【表4】
【0041】
【表5】
【0042】
これら結果は、免疫原性腫瘍を有する患者が、非免疫原性腫瘍を有する患者より良好な臨床転帰を有することを示す。重要なことに、免疫原性と非免疫原性腫瘍との間の臨床転帰におけるこの差は、Vx-001で処置した患者では見られなかった。換言すると、非免疫原性腫瘍を有するVx-001処置患者は、免疫原性腫瘍を有する患者と同じ臨床転帰を有した。
これら結果により、我々は、非免疫原性腫瘍を有する患者に着目することにした。表6は、TERT572に対する自然免疫なしの患者集団の個体群統計データを示す。組織学、第一選択化学療法に対する応答、第一選択化学療法、性別、年齢及び喫煙歴に関して、プラシーボとVx-001処置患者との間に不均衡はない。
【0043】
【表6】
【0044】
これら2群間でOSに有意差はなかった(8.6対13.2か月、p=0.27、HR=0.80 95% CI 0.53~1.9)が、TTFに正の傾向があり(3.1対4.1か月、p=0.10、HR=0.75、95% CI 0.52~1.07)、12か月生存率に有意差があった(55%対36%、p=0.045)(図5)。この差は、自然免疫を化学療法の終了後26日以前に評価した場合、OS(6.5対11.7か月、p=0.04、HR=0.58 95% CI 0.33~1.0及びTTF(3対4.1か月、p=0.05、HR=0.62 95% CI 0.36~1.0)で増加したが、自然免疫を化学療法後26日以降に評価した患者では有意差は観察されなかった(OS 10対13.2か月、p=0.91、HR=0.96 95% CI 0.54~1.78)(注:26日は、我々のコホートにおいて化学療法終了から患者無作為化(群への参加)までの期間のメジアンである)。
対照的に、化学療法終了後26日以前に腫瘍免疫原性を評価しても、自然免疫を有するプラシーボ処置患者とVx-001処置患者との間でOS及び12か月生存率に差はなかった(図6)(OS(21対15.3か月、p=0.31、HR=1.54 95% CI 0.61~3.88)及びTTF(5.4対2.2か月、p=0.08、HR=1.98 95% CI 0.82~4.79))。
【0045】
異なるサブグループの解析により、Vx-001は、非免疫原性NSQ腫瘍を有する患者(7.7対13.4か月、p=0.034、HR=0.58、95% CI 0.35~0.97)及びシスプラチンベースの(CDDP)化学療法で処置された非免疫原性腫瘍を有する患者(7.1対13.4か月、p=0.032、HR=0.51、95% CI 0.26~0.98)において生存を有意に延長することが示された。更に、非免疫原性NSQ NSCLCを有する患者(3.0対4.6か月、p=0.025、HR=0.61、95% CI 0.39~0.97)及び非免疫原性腫瘍を有する患者においてTTFに、第一選択化学療法後にOR(3.1対5.3か月、p=0.029、HR=0.56、95% CI 0.33~0.95)に有意差があった。
非免疫原性腫瘍を有する患者の喫煙歴は、明らかに重要なパラメータである。なぜなら、Vx-001は、非免疫原性腫瘍を有する無喫煙習慣患者(8.6対16.2か月、p=0.0008、HR=0.2、95% CI 0.02~0.79)(図7A)、喫煙習慣が無いか又は25年未満喫煙者であった非免疫原性腫瘍を有する患者(7.9対20.7か月、p=0.0007、HR=0.29、95% CI 0.13~0.67)(図7B)、及び喫煙習慣が無いか又は20年未満喫煙者であった非免疫原性腫瘍を有する患者(7.9対20.2か月、p=0.0001、HR=0.23、95% CI 0.08~0.64)(図7C)において生存を有意に延長したからである。有意な生存延長は、喫煙習慣が無いか又は25若しくは30年未満の喫煙者であった非免疫原性腫瘍を有する患者においても観察された。更に、喫煙習慣が無いか又は20年未満喫煙者であった非免疫原性腫瘍を有する患者(3.3対5.6か月、p=0.005、HR=0.39、95% CI 0.16~0.95)、及び喫煙習慣が無いか又は25年未満喫煙者であった非免疫原性腫瘍を有する患者(3.1対5.6か月、p=0.006、HR=0.43、95% CI 0.20~0.92)においてTTFにも有意差があった。
【0046】
有意性の傾向は、非免疫原性腫瘍を有する男性患者(3.1対3.7か月、p=0.09、HR=0.7、95% CI 0.46~1.06)及び非免疫原性腫瘍を有する老齢患者(3.1対4.4か月、p=0.08、HR=0.65、95% CI 0.40~1.07)において観察された。最後に、非免疫原性NSQ腫瘍を有する患者(56.7%対30.8%、p=0.036)、及び非免疫原性腫瘍を有する患者において12か月生存率に、第一選択化学療法後(59%対25%、p=0.034)、非免疫原性腫瘍を有する男性患者(56.4%対32%、p=0.03)及び非免疫原性腫瘍を有する老齢患者(57.1%対29.4%、p=0.039)においてORに有意差があった(表7及び8)。
【0047】
【表7】
【0048】
【表8】
【0049】
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図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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