(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】静電成膜装置
(51)【国際特許分類】
B41F 15/08 20060101AFI20240802BHJP
B41F 15/12 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
B41F15/08 308A
B41F15/12 A
(21)【出願番号】P 2021025085
(22)【出願日】2021-02-19
【審査請求日】2023-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】596159153
【氏名又は名称】ベルク工業有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(72)【発明者】
【氏名】安藤 今朝男
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-32937(JP,A)
【文献】特開2014-208405(JP,A)
【文献】国際公開第2005/025828(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0060226(KR,A)
【文献】特開昭50-30610(JP,A)
【文献】特開昭50-149407(JP,A)
【文献】国際公開第2010/106889(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41F 15/00-15/46
B41M 1/00-3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体を静電力により対象物上に付着させる静電成膜装置であって、
前記対象物に向き合って配置されたスクリーンと、
粉体を前記スクリーンに擦り込む擦り込みローラーと、
前記スクリーンと前記対象物との間に電圧を印加する電源と、
前記擦り込みローラーの外周面に沿って湾曲する粉体ガイドカバーを備え、
前記粉体ガイドカバーの先端は、前記擦り込みローラーと前記スクリーンとの間に挟まれており、
前記粉体ガイドカバーの少なくとも先端は金属から構成されている、静電成膜装置。
【請求項2】
前記粉体ガイドカバーの先端の厚さは、40μm以下である、請求項1に記載の静電成膜装置。
【請求項3】
前記粉体ガイドカバーの先端の厚さは、20μm以下である、請求項2に記載の静電成膜装置。
【請求項4】
前記擦り込みローラーに粉体を供給するホッパをさらに備えており、
前記粉体ガイドカバーは前記ホッパから電気的に絶縁されている、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の静電成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可食性粉体や機能性粉体などの粉体を、静電力を利用して対象物に付着させる静電成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
静電スクリーン印刷装置は、食品の印刷や工業製品の製造などの様々な用途に使用されている。この静電印刷の原理について、
図4を参照して説明する。
図4に示すように、静電スクリーン印刷装置は、対象物200が載置されるコンベヤ201と、メッシュを有するスクリーン202と、スクリーン202上のロールブラシ203とを備える。対象物200はコンベヤ201によってスクリーン202下方の印刷位置に移動される。
【0003】
スクリーン202は電源DCの負極に接続され、コンベヤ201は電源DCの正極に接続されるとともに接地される。電源DCによってスクリーン202とコンベヤ201との間には高電圧が印加され、これによりスクリーン202とコンベヤ201上の対象物200との間には静電界が形成される。粉体はホッパ204から回転するロールブラシ203上に供給され、スクリーン202上に落下する。スクリーン202上の粉体は、回転するロールブラシ203によってスクリーン202のメッシュに摺り込まれ、メッシュを通ってスクリーン202の下側に押し出される。このとき、粉体は、回転するロールブラシ203との摩擦によって負に帯電する。したがって、粉体は、接地されている対象物200に引き付けられて対象物200の表面に付着し、対象物200上に均一な厚さの膜を形成する。
【0004】
このような静電印刷技術は、粉体からなる膜を均一に形成することが可能であるため、最近では、燃料電池、全固体電池、二次電池、化粧品など、さまざまな工業製品の製造にも使用されつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図4に示す静電スクリーン印刷装置では、ロールブラシ203を挟むように、2つの粉体ガイドカバー231,232が設けられている。ホッパ204からロールブラシ203に供給された粉体は、ロールブラシ203の回転によってスクリーン202まで運ばれる。粉体ガイドカバー231,232は、粉体がロールブラシ203からスクリーン202上にこぼれ落ちることを防止する。したがって、ロールブラシ203に供給された粉体のほとんどはスクリーン202のメッシュに擦り込まれ、スクリーン202上面に残留することがない。
【0007】
しかしながら、粉体ガイドカバー231,232は樹脂から形成されているため、ロールブラシ203に擦られて粉体ガイドカバー231,232が帯電する。より具体的には、ロールブラシ203が粉体ガイドカバー231,232に摺接すると、粉体ガイドカバー231,232は正に帯電し、その一方で粉体はロールブラシ203によりスクリーン202に擦り込まれて負に帯電する。このため、負に帯電した粉体は、正に帯電した粉体ガイドカバー231,232に引き寄せられ、粉体ガイドカバー231,232やスクリーン202の下面に付着してしまう。結果として、粉体は対象物200の表面に向かって飛翔しづらくなり、均一な膜の形成を妨げる。
【0008】
さらに、粉体ガイドカバー231,232の下端は、ロールブラシ203とスクリーン202との間に隙間を形成する。ロールブラシ203は、この隙間に入り込んだ粉体をスクリーン202に擦り込むことができず、粉体に摩擦帯電を起こすことができない。このような粉体は対象物200に向かって飛翔しにくく、スクリーン202の下面に残留しやすい。結果として、均一な膜の形成を妨げる。
【0009】
そこで、本発明は、粉体を対象物に均一に堆積させることができる静電成膜装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一態様では、粉体を静電力により対象物上に付着させる静電成膜装置であって、前記対象物に向き合って配置されたスクリーンと、粉体を前記スクリーンに擦り込む擦り込みローラーと、前記スクリーンと前記対象物との間に電圧を印加する電源と、前記擦り込みローラーの外周面に沿って湾曲する粉体ガイドカバーを備え、前記粉体ガイドカバーの先端は、前記擦り込みローラーと前記スクリーンとの間に挟まれており、前記粉体ガイドカバーの少なくとも先端は金属から構成されている、静電成膜装置が提供される。
【0011】
一態様では、前記粉体ガイドカバーの先端の厚さは、40μm以下である。
一態様では、前記粉体ガイドカバーの先端の厚さは、20μm以下である。
一態様では、前記静電成膜装置は、前記擦り込みローラーに粉体を供給するホッパをさらに備えており、前記粉体ガイドカバーは前記ホッパから電気的に絶縁されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、粉体ガイドカバーの少なくとも先端は金属から構成されているので、擦り込みローラーが摺接しても摩擦帯電は起こらない。粉体ガイドカバーはスクリーンに接触しているので、スクリーンと同電位となる。一方、粉体は擦り込みローラーによりスクリーンに擦り込まれることで摩擦帯電を起こし、粉体はスクリーンおよび粉体ガイドカバーと同電位となる。したがって、粉体はスクリーンおよび粉体ガイドカバーに引き寄せられず、対象物に向かって飛翔する。結果として、粉体の均一な膜を対象物上に形成することができる。
【0013】
さらに、本発明によれば、粉体ガイドカバーの少なくとも先端は40マイクロメートル以下、好ましくは20マイクロメートル以下の厚さを有するので、擦り込みローラーとスクリーンとの間に隙間がほとんどできない。したがって、擦り込みローラーは、スクリーン上の粉体のほぼ全てをスクリーンに擦り込むことができる。結果として、粉体の均一な膜を対象物上に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】静電成膜装置の一実施形態を示す正面図である。
【
図3】粉体ガイドカバーの先端(下端)を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は静電成膜装置の一実施形態を示す正面図であり、
図2は
図1に示す静電成膜装置の側面図である。静電成膜印刷装置は、対象物1の上方に配置されるスクリーン10と、スクリーン10上に置かれた円筒状の擦り込みローラー12と、粉体を擦り込みローラー12に供給するホッパ14と、スクリーン10と対象物1との間に電圧を印加する電源DCを備えている。粉体の例としては、可食性粉体や機能性粉体などが挙げられる。対象物1は特に限定されず、食品、または燃料電池、全固体電池、二次電池、化粧品など工業製品などである。
【0016】
スクリーン10は対象物1に向き合って配置されており、スクリーン10と対象物1とは非接触とされる。
図1に示すように、スクリーン10は、対象物1の上方の位置において水平に配置されている。スクリーン10には粉体が通過するメッシュ11が形成されている。粉体は、擦り込みローラー12の外周面によってスクリーン10のメッシュ11に擦り込まれる。
【0017】
擦り込みローラー12の材料としては、スクリーン10への粉体の擦込性の良さから軟質の連泡ウレタンスポンジが採用されている。
図2に示すように、擦り込みローラー12は、ローラー回転機構19に連結されている。擦り込みローラー12は、スクリーン10と平行に延びるその軸心を中心としてローラー回転機構19により回転駆動され、擦り込みローラー12の外周面がスクリーン10のメッシュ11に摺接される。ローラー回転機構19は、モータおよびトルク伝達機構(例えば、スプロケット、チェーンなど)から構成される。ローラー回転機構19は、擦り込みローラー12に直結されたモータから構成されてもよい。
【0018】
ホッパ14はスクリーン10および擦り込みローラー12の上方に配置されている。ホッパ14は、粉体を内部に収容するホッパ箱20と、ホッパ箱20の内部に配置されたホッパブラシ22と、ホッパブラシ22を回転させるブラシ回転機構24とを備えている。ブラシ回転機構24は、モータおよびトルク伝達機構(例えば、スプロケット、チェーンなど)から構成される。ブラシ回転機構24は、ホッパブラシ22に直結されたモータから構成されてもよい。
【0019】
ホッパブラシ22はホッパ箱20の底部上に置かれている。このホッパ箱20の底部には多数の孔(図示せず)が形成されている。ブラシ回転機構24がホッパブラシ22を回転させると、ホッパ箱20内の粉体はホッパブラシ22によって撹拌されながらホッパ箱20の底部の孔に押し込まれ、これらの孔を通過して擦り込みローラー12の外周面に供給される。粉体の擦り込みローラー12への供給量は、ホッパブラシ22の回転速度によって調整することができる。一実施形態では、ホッパ14は粉体をスクリーン10上に供給してもよい。
【0020】
スクリーン10の下方には複数の対象物1を水平に搬送するコンベヤ2が配置されている。コンベヤ2は、スクリーン10の下方位置に対象物1を順次移動させる。コンベヤ2としては、工場に既に設置されているベルト式コンベヤを使用することができる。スクリーン10は電源(電圧印加装置)DCの負極に接続され、コンベヤ2は電源DCの正極に接続されている。電源DCの正極およびコンベヤ2は接地される。電源DCによってスクリーン10とコンベヤ2との間には高電圧が印加され、これによりスクリーン10とコンベヤ2上の対象物1との間には静電界が形成される。
【0021】
粉体はホッパ14から擦り込みローラー12上に供給され、回転する擦り込みローラー12によってスクリーン10に運ばれる。粉体は、回転する擦り込みローラー12によってスクリーン10のメッシュ11に摺り込まれ、スクリーン10の下側に押し出される。このとき、粉体は、回転する擦り込みローラー12との摩擦によって負に帯電する。したがって、粉体は、接地されている対象物1に引き付けられて対象物1の表面に付着し、対象物1上に均一な厚さの膜を形成する。粉体をスクリーン10に擦り込みながら、図示しない揺動機構により擦り込みローラー12をその軸方向に揺動させることが好ましい。粉体の種類によっては、擦り込みローラー12によってスクリーン10のメッシュ11に摺り込まれたときに正に帯電するものがある。このような粉体を使用するときは、スクリーン10は電源DCの正極に接続され、電源DCの負極およびコンベヤ2は接地される。
【0022】
図1に示すように、対象物1の搬送方向に関して擦り込みローラー12の下流側および上流側には粉体ガイドカバー31,32が設けられている。この粉体ガイドカバー31,32の上端はホッパ14に固定されている。粉体ガイドカバー31,32の下部は、擦り込みローラー12の外周面の下半分に接触しており、擦り込みローラー12の外周面に沿って湾曲している。粉体ガイドカバー31,32の先端(下端)はスクリーン10の上面に接触しており、擦り込みローラー12とスクリーン10との間に挟まれている。
【0023】
2つの粉体ガイドカバー31,32は、擦り込みローラー12を挟んで配置されている。粉体ガイドカバー31,32は、擦り込みローラー12の軸方向に沿って該擦り込みローラー12の全長にわたって延びている。粉体ガイドカバー31,32の少なくとも先端(下端)は、ステンレス鋼などの金属から構成されている。より具体的には、擦り込みローラー12に接触する粉体ガイドカバー31,32の部分は、金属により構成されている。例えば、擦り込みローラー12に接触する粉体ガイドカバー31,32の湾曲部分が金属により構成され、他の部分は樹脂から構成されてもよい。他の例では、粉体ガイドカバー31,32の全体が金属から構成されてもよい。
【0024】
粉体ガイドカバー31,32はホッパ14から電気的に絶縁されている。例えば、粉体ガイドカバー31,32の一部が樹脂から構成されている場合は、その樹脂の部分がホッパ14に固定される。粉体ガイドカバー31,32の全体が金属から構成されている場合は、図示しない絶縁部材を介して粉体ガイドカバー31,32はホッパ14に固定される。
【0025】
ホッパ14から擦り込みローラー12の外周面に供給された粉体は、擦り込みローラー12の回転によってスクリーン10まで運ばれる。下流側の粉体ガイドカバー31は、粉体が擦り込みローラー12からスクリーン10上にこぼれ落ちることを防止する。したがって、擦り込みローラー12に供給された粉体のほとんどはスクリーン10のメッシュ11に擦り込まれ、スクリーン10上面に残留することがない。
【0026】
スクリーン10のメッシュ11に擦り込まれなかった一部の粉体は、上流側の粉体ガイドカバー32と擦り込みローラー12との間に挟まれて擦り込みローラー12の回転によって持ち上げられ、ホッパ14から新たに供給された粉体とともに再びスクリーン10に運ばれ、メッシュ11に擦り込まれる。
【0027】
擦り込みローラー12の外周面の下半分は上流側の粉体ガイドカバー32および下流側の粉体ガイドカバー31によって覆われているので、粉体はスクリーン10上にこぼれ落ちることがない。よって、スクリーン10上に溜まった粉体を擦り込みローラー12が巻き込むことがなく、スクリーン10の縁から粉体が対象物1上にこぼれ落ちることもないので、スクリーン10の上面を清掃する必要もない。結果として、静電成膜装置は、均一な粉体の膜を連続して対象物1上に形成することができる。
【0028】
図3は、粉体ガイドカバー31の先端(下端)を示す拡大断面図である。粉体ガイドカバー31の少なくとも先端は、40μm以下、好ましくは20μm以下の厚さを有している。粉体ガイドカバー32も同様の構成を有している。このような薄い先端を有する粉体ガイドカバー31,32は、擦り込みローラー12とスクリーン10との間に隙間をほとんど形成しない。したがって、擦り込みローラー12は、スクリーン10上の粉体のほぼ全てをスクリーン10に擦り込むことができる。結果として、粉体の均一な膜を対象物上に形成することができる。
【0029】
特に、本実施形態によれば、粉体ガイドカバーの少なくとも先端は金属から構成されているので、擦り込みローラーが摺接しても摩擦帯電は起こらない。粉体ガイドカバーはスクリーンに接触しているので、スクリーンと同電位となる。一方、粉体は擦り込みローラーによりスクリーンに擦り込まれることで摩擦帯電を起こし、粉体はスクリーンおよび粉体ガイドカバーと同電位となる。したがって、粉体はスクリーンおよび粉体ガイドカバーに引き寄せられず、対象物に向かって飛翔する。結果として、粉体の均一な膜を対象物上に形成することができる。
【0030】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0031】
1 対象物
2 コンベヤ
10 スクリーン
11 メッシュ
12 擦り込みローラー
13 回転軸
14 ホッパ
19 ローラー回転機構
20 ホッパ箱
22 ホッパブラシ
24 ブラシ回転機構
31,32 粉体ガイドカバー
DC 電源(電圧印加装置)