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特許7531223高効率グラフェン/ワイドバンドギャップ半導体ヘテロ接合太陽電池セル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】高効率グラフェン/ワイドバンドギャップ半導体ヘテロ接合太陽電池セル
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0352 20060101AFI20240802BHJP
【FI】
H01L31/04 342B
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021571846
(86)(22)【出願日】2020-06-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-05
(86)【国際出願番号】 US2020035672
(87)【国際公開番号】W WO2020247356
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2023-04-24
(31)【優先権主張番号】62/856,698
(32)【優先日】2019-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/924,805
(32)【優先日】2019-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/937,938
(32)【優先日】2019-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521527233
【氏名又は名称】ダイムロンド テクノロジーズ, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】グルーエン ディーター エム.
【審査官】小林 幹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0041711(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105513812(CN,A)
【文献】特開2016-108214(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0204283(US,A1)
【文献】Mei Huang et al.,“Novel hybrid electrode using transparent conductive oxide and silver nanoparticle mesh for silicon solar cell applications”,Energy Procedia,2014年,Vol. 55,p.670-678
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00-31/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽光電池セルを作製する方法であって、
箔基板を準備するステップと、
水熱合成処理を用いて、酸化亜鉛を含む複数のナノワイヤコア前記箔基板に形成すると共に、前記水熱合成処理により、前記箔基板上において酸化亜鉛の前記各ナノワイヤコア間に非導電性材料の続したコーティングを形成するステップと、ただし、前記水熱合成処理を用いて形成された複数の前記ナノワイヤコアは、整列して前記箔基板に対して垂直に延在するナノワイヤコアであって当該ナノワイヤコアの第1端が前記箔基板に電気的に接続されたナノワイヤコアを複数含み、
複数の前記ナノワイヤコアを少なくとも1つの多環芳香族炭化水素により包囲するステップと、
光起電接合部を形成するため、前記多環芳香族炭化水素のうち少なくとも一部を熱変換して、グラフェンをそれぞれ含む複数のシェルを前記各ナノワイヤコアの一部の周囲に密着するように配置するように形成するために十分な条件下に、前記ナノワイヤコア及び前記多環芳香族炭化水素を維持することにより、複数のナノワイヤコアシェル構造を形成するステップと、
前記箔基板に電気的に接続された第1の導電性電極を形成し、前記ナノワイヤコアから離れていく電子の移動を促すための第1の電気経路を設けるステップと、
前記ナノワイヤコアシェル構造の第2端においてグラフェンの前記シェルに接続された第2の導電性電極を形成し、グラフェンの前記シェルから離れていく正電荷の移動を促すための第2の電気経路を設けるステップと、
を含み、
前記非導電性材料の連続したコーティングは酸化亜鉛を含む
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの多環芳香族炭化水素は、コロネン、ナフタレン及びテルフェニルのうち少なくとも1つを含む、
請求項記載の方法。
【請求項3】
太陽光電池セルを作製する方法であって、
箔基板を準備するステップと、
水熱合成処理を用いて、酸化亜鉛を含む複数のナノワイヤコアを前記箔基板に形成すると共に、前記水熱合成処理により、前記箔基板上において酸化亜鉛の前記各ナノワイヤコア間に非導電性材料の連続したコーティングを形成するステップと、ただし、前記水熱合成処理を用いて形成された複数の前記ナノワイヤコアは、整列して前記箔基板に対して垂直に延在するナノワイヤコアであって当該ナノワイヤコアの第1端が前記箔基板に電気的に接続されたナノワイヤコアを複数含み、前記水熱合成処理により、前記箔基板上において酸化亜鉛の前記各ナノワイヤコア間に非導電性材料の連続したコーティングを形成するステップと、
複数の前記ナノワイヤコアを少なくとも1つの多環芳香族炭化水素により包囲するステップと、
光起電接合部を形成するため、前記多環芳香族炭化水素のうち少なくとも一部を熱変換して、グラフェンをそれぞれ含む複数のシェルを前記各ナノワイヤコアの一部の周囲に密着するように配置するように形成するために十分な条件下に、前記ナノワイヤコア及び前記多環芳香族炭化水素を維持することにより、複数のナノワイヤコアシェル構造を形成するステップと、
前記箔基板に電気的に接続された第1の導電性電極を形成し、前記ナノワイヤコアから離れていく電子の移動を促すための第1の電気経路を設けるステップと、
前記ナノワイヤコアシェル構造の第2端においてグラフェンの前記シェルに接続された第2の導電性電極を形成し、グラフェンの前記シェルから離れていく正電荷の移動を促すための第2の電気経路を設けるステップと、
を含み、
複数の前記ナノワイヤコアを前記少なくとも1つの多環芳香族炭化水素により包囲するステップは、前記少なくとも1つの多環芳香族炭化水素を溶媒中に溶解した溶液のスプレーコーティング、ドロップコーティング、ディップコーティング、又はスピンコーティングのうち少なくとも1つを含む
ことを特徴とする方法。
【請求項4】
酸化亜鉛の複数の前記ナノワイヤコアを前記少なくとも1つの多環芳香族炭化水素により包囲するステップの前に、複数の前記ナノワイヤコアに、当該ナノワイヤコアの表面の構造欠陥を低減するための成長後アニール処理が施される、
請求項1からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記第2の導電性電極は、少なくとも一部が太陽光に対して透過性である、
請求項1からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
グラフェンの仕事関数を減少させるために有効な物質が、グラフェンの前記シェルに接触するように配置されている、
請求項1からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記第2の導電性電極は、グラフェンの仕事関数を減少させるために有効な少なくとも1つの金属を含む、
請求項記載の方法。
【請求項8】
グラフェンの仕事関数を減少させるために有効な前記少なくとも1つの金属は、銀、アルミニウム及び銅のうち1つ又は複数を含む、
請求項記載の方法。
【請求項9】
前記第2の導電性電極は、少なくとも一部が太陽光に対して透過性であると共に、グラフェンの仕事関数を減少させるために有効な少なくとも1つの金属の粒子を含む、
請求項記載の方法。
【請求項10】
箔基板と、
前記箔基板に設けられ、ワイドバンドギャップ材料を含む複数のナノワイヤコアであって、当該ナノワイヤコアは、整列して前記箔基板に対して直に延在するナノワイヤコアであって、当該ナノワイヤコアの第1端が前記箔基板に電気的に接続されているナノワイヤコアを複数含むナノワイヤコアと、
前記箔基板上において前記各ナノワイヤコア間に設けられた非導電性材料の続したコーティングと、
グラフェン材料をそれぞれ含む複数のシェルであって、それぞれ前記各ナノワイヤコアの一部の周囲に密着するように配置されて複数のナノワイヤコアシェル構造を形成するシェルと、
前記箔基板に電気的に接続され、前記ナノワイヤコアから離れていく電子の移動を促すための第1の電気経路を設ける第1の導電性電極と、
前記ナノワイヤコアシェル構造の第2端においてシェルに接続され、前記シェルから離れていく正電荷の移動を促すための第2の電気経路を設ける第2の導電性電極と、
を備えている太陽光電池セル装置であって、
前記第2の導電性電極は、グラフェン材料の前記シェルに接触したときに当該シェルの仕事関数を減少させるために有効な少なくとも1つの材料を含み、
前記非導電性材料の連続したコーティングは酸化亜鉛を含む
ことを特徴とする太陽光電池セル装置。
【請求項11】
前記シェルの仕事関数を減少させるために有効な前記少なくとも1つの材料は、銀、アルミニウム及び銅のうち1つ又は複数を含む、
請求項10記載の太陽光電池セル装置。
【請求項12】
前記第2の導電性電極は、互いに離隔した長辺状のストリップの形態である、
請求項10又は11記載の太陽光電池セル装置。
【請求項13】
前記第2の導電性電極は、少なくとも一部が太陽光に対して透過性である材料をさらに含み、
前記シェルの仕事関数を減少させるために有効な前記少なくとも1つの材料は、一部が透過性である当該材料の少なくとも一部にある、
請求項10から12までのいずれか1項記載の太陽光電池セル装置。
【請求項14】
前記第2の導電性電極は、グラフェンの前記仕事関数を減少させるために有効な前記少なくとも1つの材料が、前記一部が透過性である材料中に分散された粒子の形態である、請求項13記載の太陽光電池セル装置。
【請求項15】
箔基板と、
前記箔基板に設けられ、ワイドバンドギャップ材料を含む複数のナノワイヤコアであって、当該ナノワイヤコアは、整列して前記箔基板に対して垂直に延在するナノワイヤコアであって、当該ナノワイヤコアの第1端が前記箔基板に電気的に接続されているナノワイヤコアを複数含むナノワイヤコアと、
前記箔基板上において前記各ナノワイヤコア間に設けられた非導電性材料の連続したコーティングと、
グラフェン材料をそれぞれ含む複数のシェルであって、それぞれ前記各ナノワイヤコアの一部の周囲に密着するように配置されて複数のナノワイヤコアシェル構造を形成するシェルと、
前記箔基板に電気的に接続され、前記ナノワイヤコアから離れていく電子の移動を促すための第1の電気経路を設ける第1の導電性電極と、
前記ナノワイヤコアシェル構造の第2端においてシェルに接続され、前記シェルから離れていく正電荷の移動を促すための第2の電気経路を設ける第2の導電性電極と、
を備えている太陽光電池セル装置であって、
前記第2の導電性電極は、グラフェン材料の前記シェルに接触したときに当該シェルの仕事関数を減少させるために有効な少なくとも1つの材料を含み、
前記第2の導電性電極は、少なくとも一部が太陽光に対して透過性である材料をさらに含み、
前記シェルの仕事関数を減少させるために有効な少なくとも1つの材料は、一部が透過性である当該材料の少なくとも一部にあり、
前記第2の導電性電極の前記一部が透過性である材料は、前記各ナノワイヤコア間に散在する
ことを特徴とする太陽光電池セル装置。
【請求項16】
請求項10記載の太陽光電池セル装置を用いて発電する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願の相互参照>
本願は、米国仮出願第62/856,698号(出願日:2019年6月3日)、同第62/924,805号(出願日:2019年10月23日)及び同第62/937,938号(出願日:2019年11月20日)に係る利益を主張するものであり、これらの各出願の記載内容は全て、参照により本願の記載内容に含まれるものとする。
【0002】
本願は一般に、太陽エネルギーを利用した発電に関する。
【背景技術】
【0003】
従来技術では、種々の太陽エネルギー変換モダリティが使用されている。例えば、従来のシステムは太陽光を直接電気に変換するために光起電接合部を用いる。また、太陽光を熱に変換し、この熱を利用して発電を行うことも知られている。例えば変換効率は、種々のモダリティの間でばらつきがあり、これら種々のモダリティの中には、性能が極めて低いモダリティも多く提案されており、高い変換効率を達成したものはない。かかる相対的な変換効率は、所与の太陽エネルギー変換システムの購入に際して事業者が予測できる投資回収に、極めて直接的に影響する。
【0004】
太陽光発電は、今や全世界で600ギガワットを超え、指数関数的に増加しており、2,3年後には1テラワットに達すると見込まれる。太陽電池セルは半導体材料により作製され、結晶性太陽電池セルでは典型的にはシリコンにより作製されている。伝統的には太陽電池セルは、高濃度の電子を有するn型層と、電子が比較的低濃度のp型層の2層を有する。太陽電池セルの片面は、例えばホウ素等のp型材料が「ドープ」されており、もう片面は、例えばリン等のn型材料がドープされて、1つのpn接合部を形成する。太陽光がn型層に当たるとn型領域から電子が放出(dislodge)され、p型領域への回路を通って電流を生成し、この電流が捕捉されて発電に利用される。非平衡熱力学的理論では、太陽電池セルの変換効率は86%程度に高くなり得ると予測されるが、実際に高効率を達成することは技術的に困難であり、かかる効率に近づく太陽電池セルは今のところ存在しない。
【0005】
現在、商業的生産における大半の太陽電池セルは、ドープされたシリコンシートの単一のpn接合部の上述のアーキテクチャに基づくものであり、そのシリコンは単結晶又は多結晶のシリコンである。太陽光の周波数スペクトルは、5,800Kの黒体の周波数スペクトルに近い。地球に達する太陽光の多くは、シリコンの1Vバンドギャップより高いエネルギーを有する光子から成り、これは、伝導に関与できる状態まで電子を励起させるために必要な最小エネルギーである。この光子はシリコンに吸収されるが、その過剰エネルギーは電気エネルギーではなく熱に変換される。また、太陽光の多くは、太陽光スペクトルのうち赤外線領域の光子から成り、そのエネルギーはシリコンのバンドギャップを下回る。この光子はシリコンに吸収されないので、シリコン太陽電池セルの変換効率はさらに低下してしまう。かかる制限により、主にシリコンから成る現在の太陽電池セルは典型的には、太陽光のエネルギーのうち約15%~20%しか電気に変換しない。シリコンソーラーパネルは、高温時にも効率が低下する。結晶シリコンセルを非晶質の薄膜シリコンの2層に挟み込んだヘテロ接合太陽電池セルが開発されている。このような追加の層により太陽光をより多く吸収することができ、21%又はそれより若干高い効率を達成することができる。
【0006】
上述の欠点を克服できるシリコン以外の太陽電池セルを開発するために、相当の努力が払われてきた。例えば、多接合太陽電池セルは約45%の変換効率に達する可能性を有することが報告されている。かかる多接合太陽電池セルは、半導体としてシリコンを用いて作製されるものではなく、リン化ガリウムインジウム、ヒ化インジウムガリウム、及びゲルマニウム等の材料を用いて複数の別個の半導体層を作製し、これら全ての半導体層が入射太陽光のそれぞれ異なる波長に応答し、多接合太陽電池セルが太陽光を電気に変換する効率は単接合セルよりも高くなる。このような多接合太陽電池セルは伝統的な太陽電池セルより数倍も高効率となる可能性があるが、かかる構成は複雑で製造しにくく、現在までその高い製造コストが、例えば屋根設置用途や太陽発電プラント用途等の大規模商業化に用いることを阻んできた。
【0007】
本願出願人の従来の研究により達成され米国特許第8586999号明細書、同第8829331号明細書及び同第9040395号明細書に開示されているもう1つの従来のアプローチは、箔基板上に成長した薄いグラフェンシェルによりコーティングされたワイドバンドギャップ材料のコアを有するナノワイヤのアレイを用いるものであり、これらのナノワイヤの長手軸は実質的に同軸の向きにされ、想定される光ビームに対して平行となるように配置されている。上記の特許は、グラフェンの高い光吸収特性と、電子拡散長が格段に短いこととにより、ナノ構造の径方向の同軸シェル/コアナノワイヤ構成における太陽エネルギー変換効率が、従来の平面状の太陽電池セル構成より向上するとの仮説を立てている。酸化チタン又は炭化シリコンナノワイヤコアを成長させる技術も開示されており、この技術は、炭化シリコンナノワイヤを高温処理し、又はメタン環境を用いて化学蒸着を行うことにより、ナノワイヤをコーティングする方法と同様である。上記の特許明細書は、同明細書に開示されている炭化シリコン/グラフェン光起電接合太陽電池セルの期待されるセル電圧が、標準的な太陽光強度では約1Vとなると報告しており、これは従来のシリコン太陽電池セルの電圧より僅かに高いに過ぎない。グラフェンベースの光起電接合部は、シリコン又はヒ化ガリウム等の他の材料を用いる太陽光デバイスの動作に不都合な高温でエネルギー変換の有用なレベルに太陽光発電機能を維持すると期待できるので、上記特許明細書は、上述のセルを第2の高温モダリティの太陽エネルギー変換の隣で併用するコージェネレーション用途に焦点を置いている。
【発明の概要】
【0008】
上記にて参考文献として挙げた特許明細書に開示されているグラフェンコーティングされたナノワイヤコアをベースとする太陽電池セル技術は、例えば太陽光発電プラントや屋根設置型ソーラーパネル等の単一モダリティの太陽光発電のために莫大な潜在的市場の要請に完全に応えるものではない。これらの用途において従来のシリコンベースの太陽電池セル技術の欠点を解消するためには、一層高い変換効率が必要となり、また、容易に入手可能な材料を用いた高費用対効果の製造手順も必要となる。それゆえ、現在の技術により達成される変換効率よりかなり高い変換効率を有する手頃な価格の太陽電池セルであって、大規模製造を経済的に実現できる太陽電池セルが発明されれば、太陽発電コストを格段に下げることができ、また、化石燃料エネルギー源に過剰に頼った結果としての環境への悪影響の技術的な解決も容易になるであろう。
【0009】
上記の要請は、以下の詳細な説明に記載されている外部がグラフェンのワイドバンドギャップ材料のナノワイヤコアを備えた高効率の太陽電池セルに属する装置により、少なくとも部分的に実現される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】複数のナノワイヤを備えた太陽光電池セルの一部の斜視図である。
図1A図1に示されているシェルによりコーティングされた1つのナノワイヤの斜視図である。
図2】一形態の太陽光電池セルの断面図である。
図3】マスク層を備えた他の一形態の太陽光電池セルの断面図である。
図4】多成分電極を備えた他の一形態の太陽光電池セルの断面図である。
図5】一形態の太陽光電池セルの平面図である。
図6】箔基板上に成長したZnOナノワイヤコアの走査型電子顕微鏡画像である。
図7】還元酸化グラフェンによりコーティングされたZnOナノワイヤコアの走査型電子顕微鏡画像である。
図8】多環芳香族炭化水素を用いてグラフェンによりコーティングされたZnOナノワイヤコアの走査型電子顕微鏡画像である。
図9】還元酸化グラフェンによりコーティングされたZnOナノワイヤコアのラマン分光法の結果である。
図10】多環芳香族炭化水素を用いてグラフェンによりコーティングされたZnOナノワイヤコアのラマン分光法の結果である。
図11】還元酸化グラフェンによりコーティングされたZnOナノワイヤコアを備えた太陽光電池セルであって、還元酸化グラフェンに接触する銀電極を用いる太陽光電池セルの電流-電圧グラフである。
図12】多環芳香族炭化水素からグラフェンによりコーティングされたZnOナノワイヤコアを備えた太陽光電池セルであって、グラフェンに接触する酸化インジウム錫電極を用いる太陽光電池セルの電流-電圧グラフである。
図13】多環芳香族炭化水素からグラフェンによりコーティングされたZnOナノワイヤコアを備えた太陽光電池セルであって、グラフェンに接触する銀電極を用いる太陽光電池セルの電流-電圧グラフである。
図14】多環芳香族炭化水素からグラフェンによりコーティングされたZnOナノワイヤコアを備えた太陽光電池セルであって、銀及び酸化インジウム錫を含む電極をグラフェンに接触させて用いる太陽光電池セルの電流-電圧グラフである。
図15】ZnOナノワイヤのシート抵抗に対する、酸素環境中でのアニール処理の結果を示すグラフである。
図16】グラフェンの光吸収係数の波長非依存性を示す、正規化された電流-照射波長グラフである。
図17】グラフェンによりコーティングされたZnOナノワイヤコアを備えた太陽光電池セルの3桁異なる2つの光強度-光電流のグラフである。
図18】整列及び「花」型成長の両方を示す、箔基板上に成長したZnOナノワイヤコアの走査型電子顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図中の各要素は、簡単化し分かりやすくするように示されており、必ずしも実寸の比率通りに示されているとは限らない。例えば、図中の要素の中には、その寸法及び/又は相対位置が、本発明の種々の実施形態の理解向上を助けるため、他の要素と比較して誇張しているものがある場合がある。また、商業上実現可能な実施形態において有用又は必要である、良く知られている通常の周知の要素については、本発明の種々の実施形態の視認を邪魔しないようにするために図示されていないことが多い。特定の作業及び/又はステップは特定の実施順序で記載又は図示されている場合があるが、当業者であれば、その順序に関してかかる特異性は実際には必要ないことを理解できる。本願にて使用されている用語や表現は、別段の特殊な意味が記載されている場合を除いて、上記の技術分野の通常の知識を有する者により認識されている通常の技術的意味を有するものである。
【0012】
ここでは、高変換効率の太陽電池セルを低コストで作製するという従来未解決の問題に対処した複数の発見の利点を組み合わせた太陽光電池セル装置を開示する。本願で開示する太陽電池セル構成及びその基礎となる原理は、例えば大規模太陽光発電プラント、屋根設置型パネル、太陽電池付き電子デバイス、太陽電池付き衛星、屋外照明、その他多くのあらゆる種類の太陽光発電用途において適用することができる。
【0013】
光起電現象により、電流と電圧との積である単位ワットの発電が生じる。電流×電圧の積が大きくなるほど、セル変換効率が高くなる。エネルギー変換効率は、電力出力を入射光パワーによって除することにより測定される。出力に影響を与えるファクタは、パワーのスペクトル分布及び空間的分布、温度、並びに抵抗性負荷である。地上温度:日射量1kW/mでのセルの性能を比較するため、IEC規格61215が用いられる。具体的には、AM(エアマス)1.5及びセル温度25℃による太陽光のスペクトル分布に近いスペクトル分布を採用する。
【0014】
セル電流の大きさは主に、セル材料の光吸収特性と照射強度とによって決まる。他方、測定されるセル電圧は主に、多数キャリアの「擬フェルミ準位」と称される差によって決まる。この点において、材料の仕事関数は、固体から当該固体の表面の直ぐ外部における真空中の一点まで1つの電子を除去するために必要な最小の熱力学的エネルギーである。仕事関数は実験により測定可能なものであり、多数キャリアのフェルミ準位に直接関係することを示すことができるものである。測定により得られるセル電圧は、太陽電池セルの実効仕事関数に拠るものである。この実効仕事関数は、太陽電池セルの光起電接合部を構成する複数の材料の「仕事関数」の差である。
【0015】
本願出願人が光起電現象の科学的原理を集中的に長期にわたって研究した結果、新たな見識が得られ、この見識から本願出願人は、高効率の太陽電池セルとは、仕事関数の差を大きくできる材料を構築して大きな開路電位を提供できるようにしつつ相当量の短絡電流を提供するため、太陽スペクトルの全部を吸収するものであるべきとの結論に至った。またセル材料は、現在の技術により提供される変換効率の数倍高い変換効率を有する太陽電池セルを実現するためには、ヘテロ接合部において有効な電荷分離を行えるものでなくてはならない。かかる結論は自明ものとは言い難いものの、上述のようなセルを構成する材料の選定や、セルの製造について解決手段が全く解明されていない現在の膨大な課題のための経済的な手法を解明することについては、それ自体でその万能な魔法といったものではない。本願にて開示する太陽電池セル装置は、高い光電流を高い光電圧で提供すると共に、現在入手可能な太陽電池セルの3倍以上の変換効率を有するように選定された材料から成る。かかる新規のセルの構造及び性能並びに当該セルを有効に動作させるために必要な製造技術については、以下詳細に説明する。
【0016】
一側面では装置は、少なくとも一部に、コーティングされた複数のナノワイヤコアを配置した箔基板を備えることができる。例えば酸化亜鉛等を含むナノワイヤコアは、グラフェンや還元酸化グラフェンのシェルの仕事関数に対して仕事関数の大きな差を示すことができ、これにより大きな開路電位を提供することができる。グラフェンベースの光起電接合部において電荷分離を促すため、箔基板上において各ナノワイヤコア間に、例えば絶縁体等の非導電性材料の実質的に連続したコーティングが形成されている。第1の導電性電極は箔基板に電気的に接続されて、ナノワイヤコアから離れていく電子の移動を促すための電気経路を設けると共に、ナノワイヤコアシェル構造の第2端においてシェルに接続された第2の導電性電極が、シェルから離れていく正電荷の移動を促すための電気経路を設ける。
【0017】
他の一側面では、本願の太陽光電池セル装置は、水熱合成処理を用いて例えば酸化亜鉛等の複数のナノワイヤコアを箔基板上に形成する方法により作製されたものである。一部のアプローチでは、ナノワイヤコアのうち少なくとも大部分が実質的に整列して箔基板に対して概ね垂直に延在する。一形態では、前記水熱合成処理が、前記箔基板上において前記各ナノワイヤコア間に非導電性の酸化亜鉛材料等の実質的に連続した絶縁体コーティングを形成する。上述のようにして形成されたナノワイヤコアには、当該ナノワイヤコアの表面の構造欠陥を低減するための成長後アニール処理を施すことができ、これは、電気的抵抗を低減しつつナノワイヤアレイのダイオード特性を改善するために有効となり得る。
【0018】
さらに他の複数の側面では、光起電接合部を形成するために各ナノワイヤコアの一部の周囲にグラフェンベースの材料を被覆する効率的かつ有効な方法を提供する。本願にて開示する太陽電池セル装置の好適な一形態では、単層のグラフェン又は数層以下のグラフェンが酸化亜鉛のナノワイヤを包囲する。本実施形態の太陽電池セル装置が際立った性能を達成するためには、酸化亜鉛ナノワイヤを被覆する超薄のグラフェンが高品質かつ高度に均一である必要がある。本願では、これを達成する新規の方法を開示し、この方法は、少なくとも1つの多環芳香族炭化水素の前駆体から熱変換によりグラフェンのシェルを形成するものである。他の一アプローチでは、かかる被覆技術は、酸化グラフェンを含む溶液によりナノワイヤコアを包囲し、その後に酸化グラフェンを熱還元することにより、各ナノワイヤコアの一部の周囲に密着するように(conformally)還元酸化グラフェンのシェルを形成することを含む。
【0019】
一側面では、グラフェンにおける酸化亜鉛とは反対側が、グラフェンの仕事関数をさらに下げるために有効な材料と接触する。かかる態様により、太陽電池セルを構成する複数の材料の仕事関数の差が増大し、オープンセル電圧を決定する拡散電位が増大する。本願では、この増大を実現する技術も開示する。例えば、グラフェンベースのシェルと接触する電極は、グラフェンと接触したときにグラフェンの仕事関数を減少させる例えば銀等の金属から形成することができる。他の一形態では、グラフェンの仕事関数を減少させることにより電流を送る機能とセル電位を増加させる機能の二重機能を達成する電極を形成するため、上述の金属は、例えば酸化インジウム錫等の部分的に透明な導電性材料中のコロイド懸濁物として設けられる。かかる構成により、本発明の太陽電池セル装置は、従来のシリコンベースの太陽電池セル構成を用いて達成できる開路セル電圧より格段に高い開路セル電圧を達成することができる。
【0020】
以下において上記及び他の被覆方法を詳細に説明する。これらの方法は、セルの特異な重要性を持つ類を見ない光電特性である。製造技術、グラフェンのコンタクトドーピング、セル直列抵抗の低減、仕事関数差の増大、及び、本願にて開示する新世代の太陽電池セルの性能パラメータの最大化に属する他の事項については、以下詳細に説明する。なお、本願の多くの箇所において酸化亜鉛を参照して説明しているが、特定の形態では酸化亜鉛に代えて、及び/又は酸化亜鉛と共に、他のワイドバンドギャップ材料を使用できることが明らかである。
【0021】
図1~4に詳細に示されると共に一般化して示されている構成を参照すると、ナノワイヤコアシェル径方向ヘテロ接合太陽電池セルの概略が示されている。図1をさらに詳細に参照すると、太陽電池セルデバイス20の詳細な一例を示している。デバイス20は、表面にコーティング24が設けられた複数のナノワイヤコア22を備えている。一形態ではコーティング24は、符号26で示すように、ナノワイヤコア22の頂部を覆う。図1Aは、1つのナノワイヤコア22及びコーティング24の一部を拡大して示す。
【0022】
デバイス20は第1の電極30及び第2の電極32を備えている。一形態では、第1の電極30は基板34を備えることができ、この基板34は、ナノワイヤコア22を成長させるためのものとすることができる。第1の電極は、全体的な電子輸送を改善し、及び/又は抵抗を低減するため、任意の数の追加の材料及び層を有することができる。例えば、第1の電極30は、基板34と、当該第1の電極30又は太陽電池セル20における他の場所の他の構成要素と、の間に適切なコンタクトを提供するためのコンタクト層36を備えることができる。第1の電極は、例えば第1の電極30において電子を集めて移動させるため等に用いられるコレクタ38を備えることができる。
【0023】
第2の電極32も同様に、1つ又は複数の異なる材料及び/又は層を有することができる。第2の電極32は一般に、当該電極32の少なくとも一部に光及び/又は光子を通すように設けられている。図1に示されているように、第2の電極32は、間に光及び/又は光子を通過させる複数のストリップ又は他の相互接続構成となっている。他の複数の形態では、第2の電極の少なくとも一部は透明、透光性等とすることができる。
【0024】
一形態ではデバイス20は、ナノワイヤコアにおける第1の電極30の隣の端部に絶縁層40を備えている。絶縁層40は一般に、コーティング24が基板34及び/又は第1の電極30の部分に接触することを防止するものである。コーティング24が第1の電極に接触できる状態になっていると、太陽電池セルにおいて短絡を生じる原因となってしまう。
【0025】
図2は太陽電池セルデバイス20の側面図である。同図に示されているように、矢印50で示されているような光が第2の電極32を少なくとも部分的に通過して、コーティング24と相互作用する。
【0026】
図3は、図2と同様の太陽電池セルデバイス52を示す。デバイス52では、基板34及び/又は第1の電極30はマスク層54を備えている。マスク層54は、例えば製造中等に一時的に、又は永続的に、基板のどの面においてもナノワイヤコア22が成長することを防止するために用いることができる。マスク層54の特徴及びその使用については、下記において詳細に説明する。
【0027】
図4は、太陽電池セルデバイス60の他の一形態を示す。このデバイス60は電極構成要素62を備えており、これは第2の電極32の一部として、及び/又は第2の電極32と共に用いることができる。電極構成要素62は、少なくとも部分的に透明及び/又は透光性の材料を含むことができる。電極構成要素62は第2の電極32上及び/若しくは第2の電極32の下方に配置することができ、並びに/又は、コーティング24に接触するように第2の電極32から少なくとも一部はみ出ることができる。例えば、図1に示されているようなマスク付きの第2の電極32の形態では、電極構成要素62は第2の電極32内のスペース間を通ることができる。さらに電極構成要素62は、ナノワイヤ22とコーティング24との間にさらなるコンタクトを提供するように、ナノワイヤ22及びコーティング24の長さに沿って延在することもできる。電極構成要素62及びその使用については、下記において詳細に説明する。
【0028】
本願にて記載されている太陽電池セルに使用できる材料は種々存在する。一般に、(1つ又は複数の)コーティングは、グラフェンやグラフェン関連の材料を含む。例えば、コーティングは一般に、単層又は数層のグラフェンを有することができる。他の複数の形態では、コーティング材料は還元酸化グラフェンを含むことができる。この点において、適用方法に依存して、複数層の還元酸化グラフェンが典型的には上述のコーティングとなる。
【0029】
グラフェンは、二次元に無限に延在する単層の炭素から成る。その炭素原子間の化学的結合は、グラファイトと非常に類似する。グラフェンは、他のどの材料にも見られない特異な光学的及び電気的特性を与える電子構造を有する。ここで重要なのは、グラフェンは他のどの材料よりも光を強力に吸収し、しかも、この強力な光吸収は太陽スペクトル全体の波長に依存しないことである。無担体のグラフェンはバンドギャップを有しておらず、電子は質量を持たないフェルミ粒子のように振舞う。いわゆるディラック点では、フェルミ準位と一致して、量子状態の密度はゼロになる。電子の移動速度は光の速度は及ばないものの相当高い速度であるから、グラフェンは量子力学ではなく量子電磁力学の法則に従う。
【0030】
ナノワイヤコアも種々の異なる材料を含むことができる。例えば種々のワイドバンドギャップ材料を用いることができる。かかるワイドバンドギャップ材料は、酸化亜鉛、ホウ素、チタン、ホウ化シリコン、炭化物、窒化物、酸化物、又は硫化物、これらの組み合わせ等を含むことができるが、これらに限定されない。ワイドバンドギャップ材料とは、少なくとも2ボルト異なる価電子帯と伝導帯とを有する材料をいう。一形態では、本願にて説明する技術や材料の組み合わせのうち少なくとも一部には、酸化亜鉛が特に適している。
【0031】
酸化亜鉛は優れた光電特性を有する。例えば、密度関数計算により、双極子により生じる双極子静電相互作用と、これに伴い電子移動の程度が僅かのみであることとに起因して、酸化亜鉛とグラフェンとの間に強い引付け電位(attractive potential)が存在し、これはナノワイヤによって増幅されることが判明した。かかる「コンタクト」相互作用は、グラフェンの例えば仕事関数等の電子的特性のうち特定のものを大きく変化させ、なおかつ、グラフェンの所望の電子構造やディラック点等の他の電子的特性は損なわない。これにより、ワイドバンドギャップのZnOの仕事関数(3.37eV)も非常に高い表面感受性を有し、選択された物質と接触したときに最大2.8eV増加することとなる。よって、グラフェンを光活性材料として機能させることができる酸化亜鉛及びグラフェンという2つの材料が接触する結果、グラフェンの仕事関数は減少するが酸化亜鉛の仕事関数は増加する。かかる仕事関数の変化は、グラフェンがZnOと接触してグラフェンがちょうど必要な分だけZnOと相互作用したときに生じる電荷の再分布に起因するものであり、その理由はおそらく、これがその同時二極性によって電子アクセプタとして機能できるようになるからであると考えられる。
【0032】
本願にて開示する太陽電池セルデバイスは、上述の理論的考察に基づき、仕事関数の差が大きくなることによりグラフェン/ZnO接合が電荷分離に好適となることができるとの推論を確かめるために開発されたものである。この推論を確かめるために行われた実験的試験の本願開示の結果により、グラフェン/ZnOヘテロ接合が実際に大きな光電流と大きな光電圧とを生じさせることができ、また、新世代の高変換効率太陽電池セルのための優れた候補材料となることが確認された。
【0033】
以下の検討においてより分かるように、本願出願人は、例えば酸化亜鉛ナノワイヤを径方向に単層又は最大で数層のグラフェン又は還元酸化グラフェンにより被覆した形態等の、pn接合ベースの新規のヘテロ接合太陽電池セルアーキテクチャとその関連製造方法とを開発した。かかるZnOナノワイヤは高い電圧を提供して電流輸送を促し、グラフェン材料は太陽光の全部のスペクトルを吸収し、ZnOナノワイヤコア内に電子が加速するときに電流を生成する。グラフェン材料は、グラフェン-ZnO界面において電荷が再分布することにより接触荷電し、これによりZnOの仕事関数が増大すると共にグラフェンの仕事関数が減少する。よって、太陽電池セルのpn接合を形成する複数の材料の仕事関数の差となる当該太陽電池セルの「実効仕事関数」は増大し、その結果太陽電池セルは、シリコンベースその他の従来の太陽電池セルアーキテクチャよりも格段に高い電圧レベルで動作することとなる。
【0034】
以下で詳細に説明及び呈示するように、本発明の思想によって、2.4V超かつ少なくとも3.5Vもの高いオープンセル電圧を示す太陽光電池セルの製造が可能になる。直列抵抗、コーティングの均一性及び再結合速度(recombination kinetics)の改善に関する最適化により、本願開示のアーキテクチャが提供する光電流レベルは、現在の太陽光発電設備にて使用されるセルの変換効率を遥かに超える変換効率を達成することとなる。
【0035】
一アプローチでは、ナノワイヤコアは、接触したときにグラフェンに対して電荷を有効に分布させる材料から成り、これによりグラフェンの仕事関数を減少させつつ当該材料の仕事関数が増大するように構成される。適したコア材料は、グラフェンによって当該材料が熱分解の触媒となり、同時に、1つ又は複数の芳香族炭化水素前駆体を、ナノワイヤを被覆する1層又は複数層のグラフェンシェルに変換する引付け電位を有することもできる。シェル/コーティング24はグラフェン材料を含み、このグラフェン材料は好適な一形態では、グラフェン又は還元酸化グラフェンを含み、好適には、コア22の少なくとも大部分の周囲に密着するように配置される。ここでいう「大部分」とは、ナノワイヤの表面積のうち50%超の面積の周囲に配置される量をいう。一般化していうと、実用可能性を持つ太陽電池セルは、複数の上述のナノワイヤコア22を備え、これらの各ナノワイヤコア22はそれぞれ、自己の周囲に配置されたグラフェン材料のシェル24を備える、ということになる。
【0036】
一アプローチでは、ナノワイヤコアは酸化亜鉛を含む。他の複数の形態では、酸化亜鉛はナノワイヤコアの約50~約100%である。ここでいう「実質的にある材料から成る」等の文言は、50%を超える量をいう。一形態では、ナノワイヤコアは実質的に酸化亜鉛から成り、これによりナノワイヤコアのうち少なくとも50%が酸化亜鉛となる。「コア22がほぼある材料から成る」等の文言は、コア22中におけるその純度が高いが、微量の不純物やドーパントを含み得ること、例えば、所望の電気的特性を付与するために設計され意図的に導入されたn型又はp型ドーパント等を含み得ること等を意味する。
【0037】
ナノワイヤは一般に、箔から概ね横方向に延在するように箔上に配置される。好適な一形態では、ナノワイヤの少なくとも大部分がその長手軸を実質的に整列させ、箔に対して概ね垂直に延在するように、ナノワイヤを配置することができる。ここでいう「実質的に整列」とは25°以内であることを意味し、「概ね垂直」とは、基板に対して70°~約110°の角度で延在することを意味する。特に、一アプローチでは上記の長手軸は実質的に同軸であり、予測される光ビームに対して平行な向きにもされる。
【0038】
得られたナノワイヤナノ構造の下部は箔基板34に取り付けられ、これにより全てのコア22が電気的に接続される。ナノワイヤの上部は、例えばグラフェン材料等のコーティングの層を支持し、これによりナノワイヤは、ナノワイヤコア22を包囲する全ての同軸のシェル24と電気的に接触する。よって、成長処理を実施することによって自動的に、コア22及びシェル/コーティング24に対する別々の電気的接続を提供する太陽電池セルナノ構造が作製される。
【0039】
このグラフェン材料のシェル/コーティング24の厚さは、用途ごとの設定によって変わり得る。しかし、セル電圧を最大限にするために好適なのは、この厚さが約1層から数層であることである。よって、多くの用途においてシェル24の厚さは非常に薄くなる。一般化していうと、光起電設備において使用される場合、層の数は特定量の光吸収を達成するために必要な分を超える必要はない。ここでは、シェル24は所与の目的のためにほぼ均一な厚さを有すると仮定するが、本願の思想は、所与の用途における設定の要請に応じて適宜及び/又は望ましい場合、シェル24の厚さについて種々の態様を包含する。例えば、一部の用途設定では、シェル24が約10層以下のグラフェン材料を有することが有用となり得る。好適な一形態では、グラフェン材料は実質的に1原子分の厚さのグラフェンであり、他の複数の形態では、厚さはナノワイヤの長さに沿って1~3層分の厚さの範囲である。グラフェン材料が還元酸化グラフェン(r-GO)である場合、好適な厚さは2~10層分の厚さとなる。
【0040】
一アプローチでは、暗電流及び多数キャリアの輸送は、同軸のグラフェン材料シェル24と箔基板34との接触を阻止することにより最小化することができる。これは例えば、グラフェンシェル24を堆積する前にナノワイヤコア22間のスペースに単層又は多層の絶縁体40を化学蒸着することにより達成することができる。これに代えて、ナノワイヤコアの水熱成長自体を行っている間に絶縁体層40を形成することもできる。これについては下記にて詳細に説明する。
【0041】
図1に示されている構成の太陽電池セル装置はZnOナノワイヤのアレイを使用するが、ZnOナノワイヤの特異な光電特性を利用することができる。バルクのZnOは絶縁体であり、極めて大きな電子移動度を有するが、その抵抗は比較的高いため、一般には太陽電池セル材料としては適していないと考えられてきた。しかしながら、バルクのZnOはその表面電気伝導度のため、非常に制限された電子輸送を示す。ZnOをナノワイヤの形態に構造化することによって表面電気伝導度は大幅に向上する。その理由は、ナノワイヤの表面積対体積の比がバルク形態のときより数桁大きくなるからであると推察される。バルクZnOと比較すると、この材料のナノワイヤは極めて優れた導電体となる。
【0042】
単層グラフェンは太陽光のうち2.3%を吸収し、この吸収は、スペクトルの赤外領域から紫外領域に至る波長に依存せずに行われる。太陽光の最大限の吸収を保証するため、ZnOナノワイヤは好適には、その全長にわたってグラフェンにより均一に被覆される。単層グラフェン被覆が入射した太陽光の全部を吸収するためには、グラフェン被覆領域は線形領域を少なくとも43倍超過しなければならない。ナノワイヤをグラフェンにより被覆することにより、太陽光が当たるグラフェン領域は容易にセルの「線形」領域より2桁増加する。一側面では、ナノワイヤ径及びアスペクト比は、この要件を満たすように選択される。これにより、ナノワイヤコアを含むナノワイヤは数百nmを超える長手方向長さを有することができる。例えば、ナノワイヤの長さは約5~約25μmの範囲とすることができ、1つの所与の太陽電池セルにおける個々のナノワイヤの長さは若干ばらつくことができる。ナノワイヤの長さは、出発材料の濃度を変えることにより調整することができる。ナノワイヤの断面径は好適には約40~約500nmであるが、本願の思想は他の径のナノワイヤを含む。ナノワイヤコアは、約10~約250のアスペクト比(長さを径で除したもの)を特徴とすることができる。
【0043】
上述のようなコアシェル軸方向ヘテロ構造を作製することにより、太陽電池セル材料の格段に縮小した「線形」領域における全太陽光束を吸収することができる。上述の太陽光発電デバイスに存在するかなりの数の上述のナノワイヤの1つ1つが、各自で有効なナノアンテナ及び光整流器として働く特異な構造を有する。半径20nmの円柱形のナノワイヤの計算により、約400nmの長さのナノワイヤにおいて全光吸収が生じることが分かる(これは可視光の波長範囲である)。よって各ナノワイヤは、太陽光発電デバイスのアンテナの集光(電磁波収集)能力と整流特性との両方を兼ね備えたものとみなすことができる。
【0044】
ナノワイヤの面密度は、本発明の思想の太陽電池セルデバイスの光学的及び電気的性能を操作するために最適化することができる。ここで面密度とは、基板面積あたりのナノワイヤ数として特徴付けることができ、又は、基板面積のうちナノワイヤにより占有される比率として特徴づけることができる。面密度は例えば、ナノワイヤアレイのSEM画像から得られたナノワイヤ径及びナノワイヤ間の距離の測定値から求めることができる。
【0045】
ナノワイヤの面密度は、例えば前駆体溶液の化学的特性、ナノワイヤを成長させるときの温度、使用される核生成種の濃度、シード層の表面粗さ及び結晶度、その他ナノワイヤアレイの水熱成長の分野において通常の知識を有する者に理解される他の条件等のファクタを操作することにより制御することができる。一形態では、ナノワイヤはそのナノワイヤの面密度が高くなるように成長する。一般に好適なのは、ナノワイヤアレイを可能な限り高密度にし、これにより太陽電池セルデバイスの面積当たりのパワー出力を最大限にすることである。しかし、面密度が過度に高いと、ナノワイヤの長さの大部分においてグラフェンによりナノワイヤを均一にコーティングすることが困難になる。グラフェンによるコーティングを行うために十分な間隔は残し、隣り合うコーティング対象のナノワイヤが互いに接触しないようにして太陽電池セルの短絡を防止しつつ、ナノワイヤの密度や間隔を可能な限り高くしなければならない。一形態では、グラフェンによるコーティング前に、成長したナノワイヤと接触する基板面積の百分率で表される面密度は、約10%~約80%であるが、適切である場合にはこれより多くすることができる。
【0046】
多くの種々の金属箔にZnOナノワイヤアレイを形成するための水熱合成処理は、当業者に知られている。よって箔基板は、ごく一部の例を挙げると、例えば亜鉛、アルミニウム、鋼又は銅を含む種々の金属を含むことができる。箔の厚さは、用途ごとの設定により変わることができる。多くの用途では、箔の厚さは、太陽電池セル装置をフレキシブルにして種々の形状の表面を覆うことができるように非常に薄くされる。しかし一般的には、箔が厚いほどその強度は高くなる。多くの用途では、箔はフレキシブルとなるために十分に薄く、かつ、使用時に裂けたり破損したりすることを回避するために十分に厚い。かかる思想は、コスト若しくは他の理由により必要な場合、及び/又は、具体的な用途の設定の要請に応じて適宜なされる箔材料や箔厚さの選択について複数の変形態様を含む。
【0047】
一アプローチでは、基板は亜鉛箔とされ、実質的に整列した酸化亜鉛ナノワイヤのアレイをナノワイヤコア22として供するように形成するために水熱合成処理が用いられる。ZnOナノワイヤは、第1の電極とオーミック接触する必要がある。一アプローチではこのオーミック接触は、酢酸亜鉛及びヘキサミンの水溶液を用いて亜鉛金属箔に水熱合成を施すことにより達成することができる。ヘキサミン(ヘキサメチレンテトラミン)が存在することにより、異方性の高い成長条件が向上する。というのも、無極性のZnO結晶面が選択的にキャッピングされるからである。この点における一例では、酢酸亜鉛50mM及びヘキサミン50mMの水溶液を100ミクロン厚の亜鉛箔に接触させて使用し、90℃で4時間で、整列したZnOナノワイヤを成長させることができるが、本例はこの点における特定の限定を示唆することを何ら意図したものではない。本アプローチを用いることにより、ナノワイヤは100~200nm径及び10~15ミクロンの長さとなり、また、箔基板上においてZnOナノワイヤコア間に非導電性の酸化亜鉛の実質的に連続したコーティングが形成された。
【0048】
他の一アプローチでは、例えば亜鉛メッキ処理等で用いられているように酸素源として水を用いて、昇温しながらZnOナノワイヤを成長させることができる。さらに他の一形態では、ナノワイヤを成長させるためにシード層を用いることができる。
【0049】
図6は、上述のようにして形成されたZnOナノワイヤアレイの一端を撮影した電界放出走査型電子顕微鏡画像である。ナノワイヤの断面形状は六角形となっており、また、ナノワイヤはその長手軸に沿って実質的に整列している。かかるZnOナノワイヤの非弾性散乱ベースのラマン振動分光分析の結果が、図9の下部分に示されている。下の曲線のE2振動モードピークが438.78cm-1にあることが、実質的に純粋なZnOであることを示唆している。
【0050】
水熱成長したナノワイヤが過度に長いと、その端部は、図18のFESEM画像の中心領域に示されている特徴的な「花状」成長パターンで外に広がり得る。セル性能に必ずしも決定的な影響を与えるものではないが、かかる花状成長パターンは、ナノワイヤをグラフェンによって均一にコーティングすることを困難にし得るので、回避するのが好適である。
【0051】
箔が電極として機能するためには、片面にナノワイヤが成長しないように保護すべきである。かかる保護は、ナノワイヤアレイを形成する前に、例えば図3においてマスク層54として示されているように、ポリマーフィルム又はコーティングにより片面を保護することによって達成することができる。その後、この保護ポリマーコーティングは、例えば多数の種々の有機溶媒のうち1つを用いて溶解すること等により除去され、この除去は典型的には、ナノワイヤをグラフェン材料により被覆した後に行われる。一形態ではこの技術は、Zn箔の片面にZnOナノワイヤが成長しないように保護するためにポリメチルメタクリレート(PMMA)を用いて適用される。ナノワイヤ成長及び被覆ステップの温度条件に耐え得る任意の代替的なプラスチックコーティング又はフィルムを使用することができる。
【0052】
箔の両面におけるナノワイヤ成長を阻止するための他の代替的な手法は、両面が接触し合うように箔を二つ折りにすることである。成長溶液はこの保護された両面に達しないように阻止され、これにより、ナノワイヤの成長が2つの露出面にのみ生じるようにすることができる。ナノワイヤがグラフェン材料により被覆された後、二つ折りにされた箔を一重の箔状態に戻す。
【0053】
太陽電池セルのパワー出力は電流に依存し、好適なのはセルの直列抵抗を最小化することである。太陽電池セルの直列抵抗は、太陽電池セルのエミッタ及びベースを流れる電流の抵抗と、電極と光起電接合部の材料との間の接触抵抗と、電極の抵抗と、を組み合わせたものである。ナノワイヤアレイのシート抵抗は、本願にて開示している太陽電池セルの直列抵抗に寄与する基本的な要素である。シート抵抗は、シートの表面に沿って流れる電流の抵抗を特徴付けるために用いられるものであり、シートの表面に対して垂直な電流の抵抗ではない。
【0054】
一アプローチでは、ナノワイヤ22に成長後アニール処理を施すことができ、これにより表面欠陥を低減して、ナノワイヤ22の表面伝導度を制御下で増加することができる。このアニール手順は、ナノワイヤ/箔複合体を酸素雰囲気中で又は他の従来の手法により加熱することから成ることができる。図15は、グラフェンによる被覆前に、酸素雰囲気中で350℃でZnOナノワイヤのアニールを最大8時間行った効果を示す。約1cmのナノワイヤアレイを形成し、従来の4点プローブ測定装置を用いてそのシート抵抗を直接測定した。アニールを2時間行った後、シート抵抗は大きく低下し、8時間後には最大で2桁低下した。
【0055】
直列抵抗がさらに低下することにより、光電流が比例的に増加する。これは、350℃超の温度でアニールを行うことにより達成できると考えられる。例えば、亜鉛箔基板を銅箔に接触させて拡散により真鍮を形成することにより融点を引き上げて、より高温の条件下で酸化亜鉛ナノワイヤにおける表面欠陥のさらなる低減を可能にすることにより、亜鉛の融点が比較的低い(約420℃)にもかかわらず上述の高い温度でのアニールを実施することができる。
【0056】
成長後アニール処理は、ナノワイヤのダイオード特性も改善することができる。ここで、ZnOナノワイヤの径方向周囲にグラフェンを被覆することにより形成されたpn接合は、主に一方向に電流を流すダイオードとして機能することが分かる。ZnOは初めはn型半導体であるが、グラフェンと接触するとZnOは過剰電子をグラフェンに送り、グラフェンは負電荷の電子を含むn型領域になると共に、ZnOは正の電荷担体を含むp型領域となる。下記にて詳細に示す実験調査により確認されたところによれば、グラフェンコーティングは太陽光の光子を吸収し、グラフェンからZnOへと電子の流れが生じる。
【0057】
酸素アニール処理の影響は、セル整流率を有意に改善することも認められた。ここで「セル整流率」とは、逆方向電流に対する順方向電流の比率をいう。400℃で8時間行ったOアニール処理の前後におけるr-GO/ZnOヘテロ構造についてのある調査では、整流率は0.52から1.82に増加し(4倍の増加)、これは逆方向飽和電流より順方向電流の方が格段に多くなったことを示唆している。整流率が良好になることは、上述のように製造されたダイオードがオプトエレクトロニクス用途に対して理想形になることについて影響を及ぼす。逆方向飽和電流が低下することは、漏れ電流を回避し、日射下で観測される電圧の低下を回避するために好適である。
【0058】
他の一側面では、太陽電池セル装置の直列抵抗を低減するための一技術として、例えばドーパントを成長溶液に添加すること等によってナノワイヤコア22にドーピングを行うことにより、ナノワイヤコア22の電気伝導度を制御下で増加させることができる。一側面では、ナノワイヤコア22の長手面の少なくとも一部に沿って1つ又は複数のドーパントを添加する。ドーパントには、アルミニウム、インジウム、塩素及びガリウムのうち少なくとも1つが含まれ得るが、これらに限定されない。かかるドーピングのアプローチは、ナノワイヤコアとコーティングとの間のグラフェン-酸化亜鉛接合部等の接合部の特性を最適化することにより、光電変換に関して最大の効率を示す太陽電池セルを得るために助けとなり得る。
【0059】
形成ステップとその後の何らかのアニール及び/又はドーピングステップの後、整列した酸化亜鉛ナノワイヤ22に被覆処理を施して、ワイヤ間のスペースにおいて当該ワイヤの長手面に沿って、またナノワイヤコア22の上面自体に、グラフェン材料を堆積させることができる。一アプローチでは、このコーティング又はシェル24は主に還元酸化グラフェン及び/又はグラフェンから成ることができ、また、コーティング又はシェル24は例えば数層から約10層以下の厚さを有する。例えばハマーズ法(Hummers method, W. S. Hummers and R. E. Offeman, JACS 1958年)を用いて、ZnOナノワイヤの被覆として用いられる酸化グラフェン(GO)の数層のマイクロメータサイズのフレークを合成することができる。酸化グラフェン(GO)を作製するためには、硝酸や硫酸を酸化剤としてのKClO3又はKMnO4と共に用いてグラファイトを周知の手法により処理する。
【0060】
ZnOナノワイヤの被覆は、整列したZnOナノワイヤのアレイ上に酸化グラフェンの水性懸濁液をドロップキャスティングし、その後に水素環境中で2時間にわたって約300℃の温度まで加熱することにより、行うことができる。これに代えて、ナノワイヤを酸化グラフェンにより包囲するために例えばドロップコーティング、ディップコーティング及びスピンコーティング等の他の種々の手法を用いることもできる。GOフレークは、水素雰囲気中で加熱されることにより熱還元される。一部の酸素が置換位置に留まって還元酸化グラフェンが得られ、グラフェンの数層が無秩序状態となる。被覆の均一性は、ドロップキャスティング前に水性懸濁液に湿潤剤としてイソプロピルアルコール又はアセトンを添加することにより向上する。短絡の発生を防止するためには、還元酸化グラフェンがZn箔又はZnOナノワイヤを担持する基板に接触しないことが望ましい。
【0061】
r-GOの薄いコーティングによってZnOナノワイヤを包囲するための他の手法も可能である。例えば、r-GOフレークの溶液を形成し又はr-GOフレークのコロイド懸濁物を作製するためにr-GOフレークを可溶化する既知の手法を用いて、ナノワイヤコーティング処理を溶液から行うことができる。かかるアプローチでは、r-GOフレークの溶液又は安定したコロイド懸濁物がナノワイヤに塗布され、不純物を除去するためのオプションの加熱処理により溶媒が蒸発することができる。これに代えて、このアプローチを用いて、グラフェンナノフレークの溶液からグラフェンをナノワイヤにコーティングすることもできる。
【0062】
図7は、水熱成長及び酸素アニール処理を施されr-GOコーティングされたZnOナノワイヤの電界放出走査型電子顕微鏡画像である。そのFESEMトポグラフィキャラクタリゼーションにより、上下方向に整列したものの近似的長さは約10ミクロンであり、一部の横向きのワイヤは、並列して上下方向に並んだZnOナノワイヤの上部に載っていることが分かる。r-GOの被覆は、ZnOナノワイヤを包むと共にその上面を覆う透明な薄層として明確に観測され、この薄層により、半導体との良好な界面接触が得られている。コーティングされたナノワイヤは、未コーティングの六角形のナノワイヤより丸みを帯びており、これはr-GOコーティングが複数層分の厚さであることを示唆している。
【0063】
この同軸ヘテロアーキテクチャにZnOコアとr-GOシェルの両方が存在することを示すため、ラマン振動分光分析も行った。かかるスペクトルの1つを、図9中上のスペクトルに示す。当該ZnOサンプルは、Zn-O結合の面内振動に起因するZnOピークE low及びE highを示した。r-GO/ZnOヘテロ構造は、面内振動によるEピークと、Zn-O結合の面外振動の特徴であるAピークと、の両方を示した。さらに、r-GOの存在を示唆するr-GO/ZnOナノコンポジットでは、欠陥に起因する「D」モードとグラファイトの「G」モードも観測された。
【0064】
図1に一般的に示されているようにパターン形成された銀電極がr-GOと接触する、本願開示の原理によるr-GO被覆ZnOナノワイヤヘテロ接合太陽光電池セルは、最大約2.4Vの開路電圧を達成した。これは、本願出願人が知っている従来のどの単接合太陽電池セルよりも格段に高い開路電圧である。比較において、シリコンベースの太陽電池セルのオープンセル電圧は、典型的には0.6Vを超えない。かかる5つのセルにAM1.5G照射の1KW/mで照射したときの電流密度-電圧曲線を、図11に示す。既知の通り、AM1.5Gは、米国の中緯度地域の年間平均全日射に近い標準的な光スペクトルであり、太陽光産業では地上太陽電池セル又は太陽電池モジュールの標準的試験又は標準的評価を行うために用いられる。(太陽光発電用途に関する最新のAM1.5G標準は、ASTM G-173及びIEC60904に反映されている。)電流電圧曲線は、標準的なケースレー・ソースメータを用いて得られたものである。個々のセルの観測された電流密度-電圧曲線の差は、例えばr-GOコーティングの均一性のばらつき並びに/又はナノワイヤの寸法及び密度のばらつき等のファクタに拠るものである可能性が高い。
【0065】
高い開路電圧(すなわち、太陽電池セルの全電流がゼロのときの電圧)が観測されたことは、その理由として、ZnOが強い電子アクセプタに密に接触したときに2.8eVに達する非常に大きな仕事関数増加が生じたからであると説明することができる。グラフェンはそのアンフォテリック(両性)特徴のため、電子ドナーとして働くZnOに対し上述の能力で機能することができる。r-GOとZnOとの間の界面電荷移動により、ZnOはグラフェンに電子を供給する。これにより、ZnOの仕事関数は約1eV増加し、r-GOに関しては仕事関数は減少する。照射時には、外部のr-GOシェル中に光子が励起子(結合電子正孔対)を生成し、存在する拡散電位に起因してヘテロ接合において励起子分裂が生じる。低仕事関数のグラフェンから高仕事関数のZnOへ、電子が輸送される。
【0066】
本願開示の基礎である調査では、グラフェンが、波長に依存する光電流に従うことにより光活性要素として機能することも確認された。図16に示されているように、ヘテロ構造により生成された光電流を正規化したもの(すなわち、光電管測定装置の感度に応じて電流を修正したもの)は、200~1100nmと幅広い波長範囲にわたって実質的に一定となる。これは、ZnOがスペクトルの可視領域の光を吸収しないため、r-GOにおいて励起子生成が生じたことを示唆する。r-GOは、200~1100nmに及ぶUV~可視~IR波長に相当する太陽光エネルギーの全部を吸収することができる。r-GOの吸収はUV領域内の290nmで最大となるが、太陽光エネルギーの大半は実際には可視光領域であり、これはZnO/r-GOヘテロ構造中のr-GOによってのみ吸収することができる。
【0067】
上述の正規化された電流データは、光生成された正規化電流が200~1100nmにわたって0.6~0.7と安定していることを示しているので、均一なr-GO被覆を有するZnOナノワイヤによって、全太陽光スペクトルにわたって太陽光エネルギーが吸収され、これにより、波長に依存せずに光電流が生成されることが観測されたと結論付けることができる。グラフェン被覆を用いずにZnOナノワイヤを使用すると、ZnOがワイドバンドギャップ半導体(3.37eV)であり、ZnOの軌道電子を価電子帯から伝導帯に光励起して電子正孔対を生成するためには太陽光スペクトルのうち紫外線部分を必要とするので、有意な光電流を生成することができない。太陽光スペクトルのほぼ全部が紫外光より低エネルギーであるため、電子正孔対を形成するための電子励起はほぼグラフェンでのみ行われる。電荷分離はグラフェンとZnOとの接合部において生じるので、最大2.4Vのセル電圧で光電流が得られる。
【0068】
図17に示されている実験結果から、光電流の大きさは3桁の範囲にわたって光強度に線形に依存することが分かる。AM1.5G光源により照射されると、単色光を用いた場合に生成される3.46nAの光電流とは対照的に、4.14μAの光電流が生成された。AM1.5G光源は、太陽光スペクトルの全ての波長を含むものである。その測定強度は、単色光源の光強度より3桁高いものであった。
【0069】
本発明のさらに他の一側面は、例えばr-GOシェル等のコーティング又はシェルの外表面(すなわち、ZnOコアとは反対側の表面)の少なくとも一部を、グラフェンに対する電子ドナーとして機能する材料に接触させることにより、オープンセル電位を増加させるというものである。好適な一側面では、電子ドナー材料は集電電極としても機能することができる。かかる電極は、例えば、セルのr-GO末端処理された(terminated)表面に配置されたパターンマスクを通じて銀ナノ粒子のペーストを堆積すること等により形成することができる。図1に示されている実施形態では、その金属は、バスバ―から垂直方向に延在し互いに離隔した縦長のフィンガ列としてパターニングされ、これにより金属とr-GOシェルとの十分な面積の接触が可能になる。図5には1cmセルのプロトタイプが示されており、同図では、セルの上部に銀層が設けられており、この銀層が、r-GOコーティングされたZnOナノワイヤアレイの上面と接触するのが示されている。太陽光が狭幅の銀フィンガ間を通過してグラフェンに照射される。その金属層は、上記のようなフィンガ列と同様、r-GOシェルとの間に面接触を形成しつつ十分な太陽光通過を可能にするように機能できるのであれば、他の幾何学的態様で設けることができる。このようにして、r-GO被覆を有し太陽電池セルデバイスの重要な構成要素となるナノワイヤアレイの高い光子吸収特性を活用することができる。
【0070】
銀はn型コンタクトドーパントとしても、また電極としても働くものである。銀電極は、開路電位を約2.4Vまで増加させるのに有効であった。いかなる理論にも限定する意図は無いが、この現象は、金属とr-GOとの間における類似の電荷再分布の結果であり得るものであり、これにより接触荷電が生じ、この接触荷電がr-GOシェルの仕事関数を、セル開路電位の観測された増加分だけ減少させたと考えられる。後述するように、この現象は、多環芳香族前駆体から作製された実質的に単層の純粋相のグラフェンのシェルを備える代替的な実施形態でも見られた。実際、単層グラフェン/ZnOナノワイヤ/銀複合体のしっかりした(judicious)接触により、開路電圧は3.5Vにまで上昇したことが認められた。他のナノワイヤコア材料でも、電極としての機能も兼ねることができる他の電子ドナーコンタクト荷電材料を用いることによっても、同様の改善を行うことができると考えられる。
【0071】
よって一アプローチとして、グラフェンベースのシェルの両面を用いてグラフェンの仕事関数を引き下げ、これにより開路電位を増加させるアプローチがある。かかる実施形態では、グラフェンコーティング又は被覆は実際に2枚の「プレート」によって荷電され、これにより極めて大きい拡散電位を生じさせる。この重要な発見の意義深い性能上の利点を銀を用いて示したが、例えばアルミニウム、銅、その他電子をグラフェンに与えることによりグラフェンの仕事関数を減少させる他の金属も同様である。さらに、ZnO等の材料は、本願にて開示する二重コンタクト荷電構成においてコンタクト荷電材料として用いることもできる。当業者であれば、本願の思想により、候補材料を用いて作製された太陽電池セルと、当該候補材料を用いずに作製された太陽電池セルと、をグラフェン材料シェルに接触させて得られたセル電圧測定結果を比較することにより、他の適切な代替的コンタクト荷電材料を特定することができる。
【0072】
二重コンタクト荷電を実現するための構成は、図1に示されているようなナノワイヤの端部に電子ドナーを接触させる構成に限定されない。例えば、電子ドナーは代替的に、ナノワイヤの長さに沿った位置に接触するように配置することができる。これらのアプローチの組み合わせも有効となり得る。他の一側面では、下記にて詳細に説明するように、選択された荷電材料を、光起電接合部のグラフェン側の電極として機能する例えば有機又は無機透明電極導電性材料等の他の材料中に導入する。
【0073】
本願開示のZnOナノワイヤコアを被覆するアプローチを再び検討すると、他の一アプローチではナノワイヤは、単層から数層までのグラフェンから成る超薄コーティングによって被覆される。コロネン、ペンタセン、ナフタレン等の多環芳香族炭化水素(PAH)は、適度な温度で例えば銅等の金属上で熱分解して単層グラフェンを形成する。しかし、ZnOナノワイヤによっても同様の結果が得られることは知られていなかった。さらなる調査により、ZnOナノワイヤの外表面の大部分において1層から数層のほぼ純粋な相のグラフェンを実質的に均一に堆積させるために有効な上述の前駆体を用いる技術の発見に至った。
【0074】
この新規に開発された被覆技術の一例として、テトラヒドロフラン中にコロネンを溶解し、Zn箔上に水熱成長したZnOナノワイヤアレイ上にドロップキャスティングした。この複合体をアルゴン雰囲気中で、200℃~400℃の温度で1~2時間加熱した。ZnOと接触するこの溶液の薄層は分解してグラフェンを形成し、残りは蒸発した。
【0075】
図10を参照すると、ラマン分光分析試験によって、約2.0のG/Dバンド強度比によって証明されるように、熱分解によって実際に高品質のグラフェンが形成されることが判明した。例えば図8に示されている画像等の被覆ナノワイヤの電子顕微鏡画像には、ナノワイヤの六角形のファセットが保存されており、これにより単層グラフェンの成長が行われたことが分かる。パッケージ密度が高い数十億又は数兆ものナノワイヤをグラフェンによって被覆するという困難な課題を解決する手段の本願開示の発見は、高効率の太陽電池セルデバイスの商業規模の製造を示唆する非常に大きな意義を有するものである。理論的な密度関数計算によりグラフェンとZnOとの間に存在することが示された約1Vという非常に強い引付け電位が、PAHからグラフェンに変換するための活性化エネルギーを引き下げ、ある意味、反応のための駆動力になると考えられる。ZnO表面は、200℃程度の低い温度で、ナノワイヤ構造表面に超薄層のグラフェンを形成することを可能にする反応のための触媒表面として機能すると考えられる。この反応は自己制限反応である。というのも、グラフェン層は表面に形成されると、次のPAH分子を触媒することができるようにZnO表面から離れるのではなく当該表面に留まるからである。上記の説明ではZnOを使用したが、他のワイドバンドギャップナノワイヤコア材料も上述の使用に適していると考えられる。
【0076】
本研究から導き出された見識に基づくと、例えば置換ベンゼン等の他の芳香族分子も、本願思想により1層から数層のグラフェンの超薄コーティングによってZnOナノワイヤを被覆するために適した前駆体であると考えられる。この技術も、理論的な密度関数計算により確認できるように、グラフェンと共に引付け電位を示す他の材料から形成されたナノワイヤに適合可能である。
【0077】
グラフェンの超薄コーティングによって高密度のナノワイヤアレイをコーティングする技術の本願開示は、高効率の太陽電池セルの製造について意義の大きい示唆を有する。AM1.5G照射の1KW/mの場合における上述のグラフェン被覆ZnOナノワイヤ太陽電池セルの開路電圧は、グラフェンの仕事関数を減少させるために金属電極によりグラフェンの接触荷電を行わなくても、約1.9Vになることが観測された。グラフェンシェルに接触する銀電極を併用することにより、オープンセル電位は3.5Vもの高電位になることが観測された。上述の太陽電池セルデバイスにおいて、r-GOにより被覆されたものと比較して高いセル電位が達成されたことは、多環芳香族炭化水素から作製された単層又は数層のグラフェンのグラフェン品質が高いことに拠るものと考えられる。接触荷電は静電現象であるから、金属層から移動した電荷はグラフェンの複数層ではなく単層に分布する。よって、この移動した電荷がグラフェン電荷の高密度化をもたらしたと推測することができる。このようにして拡散電位が増加し、これにより開路電位の増加が観測された。
【0078】
多環芳香族炭化水素を熱変換することにより得られた超薄のグラフェンコーティングは、接合部の幅を、複数層のr-GOにより被覆されたZnOナノワイヤの約8~9Åと比較して約2~3Åにまで減少させる。これは、グラフェンの高品質化と並んで、当該太陽光発電デバイスにおける単層グラフェンの優れた動作のもう1つの理由であり得る。
【0079】
さらに他の一側面では、グラフェンの仕事関数をさらに制御するために、グラフェンシェルにドーピングすることができる。特に、例えばアンモニア雰囲気中で加熱することによって窒素等のn型ドーパントをシェルにドーピングすることにより、又は他のn型ドーパントをドーピングすることにより、グラフェンの仕事関数をさらに少なくとも0.5V減少させることができ、これにより開路電位を一層増加させることができる。ここで、開路電圧が、ナノワイヤコアを構成する材料のバンドギャップを超える可能性は低い点に留意すべきである。
【0080】
3.5Vもの高い開路電圧を示すグラフェンベースナノコンポジットの太陽光発電デバイスの実現により、高効率の可能性を秘めた新しいクラスの太陽電池セルが可能になる。高いパワー変換効率を達成するためには、高い開路電圧の他、高い短絡電流も必要となる。上述のように、ZnOナノワイヤの表面に電流が流れるので、ナノワイヤの径を低減してナノワイヤの表面積対体積比を増加させるようにナノワイヤ成長条件を制御することによって、電流密度を増加させることができる。
【0081】
本願開示により製造されるデバイスの短絡電流に影響すると考えられる他の1つのファクタは、電子正孔再結合速度に関するものである。未処理(pristine)のグラフェンでは、励起子寿命は数フェムト秒を超えないとの報告がなされている。再結合速度は、ヘテロ接合部における電子輸送に非常に匹敵し得る。これに対応するため、励起子寿命を長くして光電流を増加するように働く適切なドーパントを見つけることができる。かかる1つ又は複数のドーパントをグラフェン又はr-GOシェル中に導入することにより、さらに好適な電子正孔再結合速度を達成することができ、本願開示の太陽電池セルデバイスにより生成される光電流を増加させることができる。
【0082】
他の一側面では、太陽電池セルデバイスの光電流性能は、各ナノワイヤ間に電気的コンタクトを形成するように導電性材料を導入することによって最大限にすることができる。例えば酸化インジウム錫(ITO)若しくはZnOベースの導電性透明酸化物等の透明導電性酸化物、又は透明導電性硫化物等が、上述の光電流性能の最大限化の目的に有効となることができ、また、各ナノワイヤ間に配置することができる。酸化インジウム錫を選択したのは、容易に入手可能であるからである。酸化インジウム錫は、ドロップコーティングによって薄膜として堆積した。これに代えて、例えばスプレーコーティング、スピンコーティング、物理蒸着法、電子ビーム蒸着法、又は幅広いスパッタ堆積技術等の他の多くの技術により、薄膜の酸化インジウム錫を堆積することができる。他の適した光学的透明導体には、例えばポリエチレンジオキシチオフェン-ポリスチレンスルホン酸(PEDOT:PSS)、その他有機溶媒又は水性懸濁液で堆積可能なもの等の導電性有機ポリマーが含まれる。
【0083】
導電性材料は、対向電極の全部若しくは一部を形成するようにセルの上部に配置することができ、及び/又は、アレイのグラフェン被覆若しくはr-GO被覆ナノワイヤ間のスペース(interstitial space)に配置することができる。他の一研究では、ナノメータの酸化インジウム/酸化錫をイソプロパノール中に懸濁させた懸濁物をナノワイヤアレイの上部のグラフェン末端処理された表面上にドロップキャスティングすることにより、直列抵抗の非常に大きな減少が達成された。このようにして、グラフェン被覆ZnOナノワイヤ間に電気的コンタクトが形成された。これによりセル性能に及ぼされる影響について、下記に詳細に示す実験結果を参照して説明する。
【0084】
他の一側面では、透明導電性電極材料は、グラフェンの仕事関数を減少させてセルの電圧性能及び電流密度性能の両方を向上させるために有効な金属を含むことができる。例えば、銀のナノ粒子をITO中に懸濁させたコロイド懸濁物をグラフェンナノワイヤアレイに塗布することにより電極を形成し、アレイ内の電荷移動度を改善する。これに代えて、銀又は他の金属をグラフェンコーティングされたナノワイヤアレイに設け、その後、ナノワイヤ間のスペースを埋めるようにITOの懸濁物をドロップキャスティングして太陽電池セルの上部導電層を形成することができる。
【0085】
本願開示の径方向ヘテロ接合太陽電池セルの光起電特性の最大限化における本願開示の原理の有効性を示すさらなる実験結果について、下記に説明する。図12は、亜鉛箔上に成長しコロネンの熱分解によりコーティングされたグラフェン包装ZnOワイヤのコアシェルヘテロ接合を有するセルの電流密度-電圧曲線を示している。この特定のセルでは、亜鉛基板に銅電極が電気的にコンタクトしている。ナノワイヤ間とセルの上部とにITOが堆積しており、これによりナノワイヤ間の電気的コンタクトが増大し、グラフェンコーティングに対する対向電極が提供される。各線は、セルの複数のポイントに接触し、AM1.5G照射の1KW/mにより得られた測定結果を示す。このデータから、セルのオープンセル電圧は約1.9Vもの高い電圧となり、また、短絡電流密度は低mA/cm域となったことが分かる。これらの結果により、ZnOと極薄の実質的に純粋な相のグラフェンコーティングとの表面相互作用によって、グラフェンの反対側のコンタクトドーピングが無くても高いセル電位を生じさせることができることが分かる。
【0086】
図14は、ナノワイヤアレイに銀電極を設けると共に銀電極全体にわたってITOを堆積させた点を除いて、図12に対応するセルと同様の構造の太陽光電池セルの対応する電流密度-電圧曲線を示す図である。オープンセル電圧は有意に約3.5Vにまで上昇した。これは少なくとも部分的に、銀がグラフェンシェルの仕事関数を減少させ、これによりヘテロ接合のグラフェン成分とZnO成分との仕事関数の差が増大した現象に拠るものである。
【0087】
光電流の増加におけるITOの有効性のさらなる調査を行った。この調査は、亜鉛箔に担持されるグラフェン包装されたZnOワイヤアレイと、上記の実施形態のITO電極の面内に位置するパターン銀電極と、を備えたセルを構築することにより行った。このセルの電流密度-電圧曲線を図13に示す。本セルでは3.2Vのオープンセル電圧が見られたが、その短絡電流密度は、図14に対応するITOを備えたセルで達成された短絡電流密度より有意に低かった。図14に示されている有意に高い電流密度は、少なくとも部分的に、ITOの作用に拠るものと考えられる。
【0088】
ZnOナノワイヤコアを用いた太陽電池セルについて本願に開示する原理を示したが、この思想は、例えばホウ素、チタン、ホウ化シリコン、炭化物、窒化物、酸化物、又は硫化物等の他のワイドバンドギャップナノワイヤ材料にも拡張可能である。ワイドバンドギャップ材料とは、少なくとも2Vの差を持つ価電子帯と伝導帯とを有する材料をいう。最も高い太陽電池セル電位を生成するために最も適した材料は、グラフェンに接触荷電してグラフェンと共に大きな引付け電位を示し、これにより本願開示の芳香族炭化水素分解方法による単層グラフェンシェルの形成を触媒するように機能する材料である。本願にて開示されているように電子ドナー材料を用いてグラフェンシェルの反対側の表面に接触荷電をさらに行うと共に、光起電接合部のグラフェン側の電極材料として透明導電性材料を用いることにより、従来公知の設計より有意に高い変換効率が可能な種々の高電圧太陽電池セルを提供することができる。
【0089】
まとめると、本願では、グラフェン2D層とZnOの1Dナノワイヤとにより作製された、エネルギー上有利な表面ベースの径方向ヘテロ接合太陽電池セルを開示した。この新規の太陽電池セルアーキテクチャは、AM1.5G照射により2.4V~3.5Vの範囲の開路光電圧を生成できることが実験により示された。報告されている実験結果は、短絡電流が低いミリアンペア域であることを示しているが、本願の広範な思想は、少なくとも10mAの短絡電流を有する太陽電池セルの製造を可能にするものであり、また、その短絡電流は25mAもの高電流となり得る可能性もある。開路電圧が3.5Vもの高い電圧である太陽電池セル構造の実現により、光電流を上述の範囲にまで増加させるためのさらなる最適化によって、少なくとも50%の太陽電池セルエネルギー変換効率の達成が現実的となる。変換効率の上限は、非平衡熱力学により決まると認められている85%に留まる。これは、商業的に入手可能な多結晶シリコン太陽電池セルの最大変換効率である約20%を遥かに上回る。さらに、本願開示の製造方法は、現在少量かつ非常に高価格でしか入手できないヒ化ガリウムやセレン化インジウム等のエキゾチック材料をベースとする高効率の多接合セルより低コストで、フルスケールの商業用生産に容易に適用することができる。
【0090】
太陽電池セルの光電流を増加させる技術は当該分野で知られており、本願では、具現化される太陽電池セルデバイスにおいてより高い電流を生成するための他の原理を開示している。例えば、図13及び図14に示されているように、透明導体ITOを適用することにより、生成される光電流は3桁増加した。最適な透明導電性材料を選択することにより、又は、ITOの電気伝導度を増加させるためのコロイド状の金属粒子を添加することにより、さらに高い光電流を得ることができる。ナノワイヤアレイ全体における透明導電性材料の分布を最大限にすることによっても、高い光電流を得るという結果をさらに改善することができる。表面欠陥を低減するためにナノワイヤをアニール処理することも、セル抵抗を低減させることが判明している。本願にて記載されているより高温のアニール技術等のアニール処理の改善も、抵抗をさらに低減して、より高い光電流を得ることができると期待される。さらに、利用可能な電子伝導ZnO表面積を最大限化するためにナノワイヤの径及び面密度を制御することも、電流密度を増加させることができる。これらの技術のうち1つ若しくは複数、又はセル伝導度を向上させるための他の周知のアプローチは、従来の太陽光エネルギーシステムより比較的高い変換効率を備え、エネルギー回収時間が有意に短い高電圧太陽電池セルの製造を可能にする。
【0091】
本願にて開示した費用対効果が高い高変換効率の太陽電池セルの発見は、人類にとって遠い先の未来まで利益を伴う膨大な結果をもたらす。太陽は、地球上の全人口が1年間で必要とするエネルギー需要を満足するために十分なエネルギーを、1時間で提供する。安価な太陽光パワーは、太陽が地球上のエネルギー源となる宿命を果たす日を早めるであろう。
【0092】
一部の形態では、資源無制限の環境に優しい材料を用いた大規模な経済的製造に有用なPVセルを考案することが望ましい。一部の形態では、かかるPVセルの考案は、純粋な炭素材料であるグラフェンにより被覆されたZnOナノワイヤを水熱成長により形成することによって達成することができる。研究室サイズの試作品から大規模開発まで拡張して、世界規模の数テラワットの電気需要を満足することは、前例のない難しいエンジニアリング課題である。一部の実施形態では、本願にて開示された構成は、上記の目標を達成するために適したものであり得る。
【0093】
本願にて開示した新規のPVセルは、フレキシブルで、非常に複雑な形状の表面に密着しやすいものとすることができる。1テラワットの太陽電気を発電するため、既存のPVプラントを極めて高い費用対効果で短時間で改良することは、実現可能と考えられる。中央ステーションプラント及び屋上の分散発電モジュールの両方としてPV設備に既に投資された1兆ドルもの金額を利用すれば、1テラワットではなく、3~4テラワットの太陽電気も低コストで発電することができるであろう。
【0094】
金属箔基板を用いることにより得られるフレキシビリティは、PV発電の新規市場への扉を開く。例えば、自明な用途として自動車のルーフを挙げることができる。他の用途及び実施も可能である。
【0095】
当業者であれば、上記の実施形態について、本発明の範囲を逸脱することなく、幅広い種々の改良、変更及び組み合わせを行うことができ、かかる改良、変更及び組み合わせも、本発明の思想の範囲に属するとみなすべきものである。
図1
図1A
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18