(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】ポドカリキシン及びTRA関連抗体、調製方法、並びに抗癌治療剤としての使用
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20240802BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240802BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240802BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20240802BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20240802BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20240802BHJP
A61P 13/08 20060101ALI20240802BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20240802BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240802BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20240802BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20240802BHJP
【FI】
A61K39/395 L
A61K39/395 T
A61K45/00
A61K47/68
A61P1/00
A61P1/04
A61P1/18
A61P13/08
A61P15/00
A61P35/00
C07K16/18 ZNA
C12P21/08
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022001576
(22)【出願日】2022-01-07
(62)【分割の表示】P 2019500225の分割
【原出願日】2017-03-13
【審査請求日】2022-02-02
(32)【優先日】2016-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518327291
【氏名又は名称】キュアメタ セラピューティクス,エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】CUREMETA THERAPEUTICS,LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】弁理士法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スコッパーレ,ウィリアム マイケル
(72)【発明者】
【氏名】タン,エドウィン サアベドラ
(72)【発明者】
【氏名】ジュ,ヤウェン
(72)【発明者】
【氏名】ホルムクビスト,マッツ ハラルド
(72)【発明者】
【氏名】タク,ヨンビン
(72)【発明者】
【氏名】ホルムクビスト,アン メアリー
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0273016(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0275292(US,A1)
【文献】国際公開第2015/058301(WO,A1)
【文献】Anticancer Research,2006年,Vol.26,pp.1057-1064
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3つの重鎖相補性決定領域1乃至3が夫々、配列番号1乃至3のアミノ酸配列を有し、3つの軽鎖相補性決定領域1乃至3が夫々、配列番号4乃至6のアミノ酸配列を有する、モノクローナル抗体を含む抗癌治療剤であって、
前記モノクローナル抗体は、ヒトキメラ抗体であり、Fc領域はヒトIgGに由来しており、
前記モノクローナル抗体は、TRA-ポドカリキシンに対して反応性を有しており、選択的に結合し、
前記モノクローナル抗体は、抗体依存性細胞毒性アッセイ及び補体依存性細胞毒性アッセイを介した毒性を有する、抗癌治療剤。
【請求項2】
前記モノクローナル抗体は、薬学的に許容可能なリンカー、ペイロード、及びそれらの組合せからなる群から選択される構成要素を更に含む
、請求項1に記載の抗癌治療剤。
【請求項3】
前記モノクローナル抗体は、薬物を更に含んで抗体-薬物結合体を形成する
、請求項1に記載の抗癌治療剤。
【請求項4】
胚性幹細胞に由来する分化細胞の集団から胚性癌幹細胞を標的化し、選択し、且つ消失させる、請求項1に記載の抗癌治療剤。
【請求項5】
胃癌細胞、膵癌細胞、食道癌細胞、結腸癌細胞、乳癌細胞、及び前立腺癌細胞からなる群から選択される癌細胞を標的化する、請求項1に記載の抗癌治療剤。
【請求項6】
MC-vc-PAB-MMAEのマレイミド部分が前記抗体に連結している、請求項3に記載の抗癌治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は、米国特許法第119条(e)に基づいて、2016年3月14日出願の米国仮特許出願第62/307,690号(表題「PODOCALYXIN AND TRA-RELATED ANTIBODY,METHODS FOR PREPARATION AND USES FOR TREATMENT OF AGGRESSIVE AND/OR METASTATIC CANCER」)の優先権を主張する。この出願の内容は、その全体として参照によって本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、多能性幹細胞特異的抗体及び胚性幹細胞特異的抗体に関する。本発明は更に、ポドカリキシンタンパク質の胚型に反応し、該胚型への結合活性を有する抗体に関する。本発明は更に、抗体又はその抗体フラグメントを、癌細胞を消失させ、縮小させ、又は排除する活性成分として含む癌治療剤に関する。
【背景技術】
【0003】
正常なヒト胚性幹細胞は、人体を構成する200の異なる細胞型に分化する多能性幹細胞である。胚性癌細胞(embryonal carcinoma)は、ヒト胚細胞腫瘍に由来するヒト癌性多能性幹細胞であり、正常な胚性幹細胞の悪性等価物として知られている。正常な胚性幹細胞及び胚性癌細胞は双方とも、その原形質膜の表面上に、多能性関連抗原(pluripotent-associated antigens)を発現する。少なくとも一部の多能性関連抗原が、分化中に失われて、正常な細胞及び組織で発現されず、又は低く発現されることが知られている。
【0004】
多くのヒト癌が、胚性幹細胞の遺伝子シグネチャー(gene signature)を有していること、そして正常な分化細胞中に存在しない、又は低く存在する多能性抗原及び胚抗原を再発現することが知られている。癌の起源の細胞リプログラミング理論は、正常細胞がリプログラミングして、幹細胞特性を有する原始胚様癌細胞に逆に向かう脱分化を経験することが、癌の原因であると述べている。この原始胚様癌幹細胞は、癌の起源であり、疾患進行の、そして、従来の治療法でほぼ一般的に生じる疾患耐性(disease resistant)の駆動因子(driver)であると考えられている。更に、この原始胚様癌幹細胞の治療標的化及び消失が、有意義で且つ永続的な癌治療に結びつくこととなると思われる。
【0005】
ポドカリキシンは、ヒト胚性幹細胞及び多能性癌幹細胞上で高度に発現される細胞表面糖タンパク質である。胚性細胞及び多能性細胞上で発現されるポドカリキシンタンパク質は、付加的な炭水化物群(本明細書においてTRAと称するTRA-1-60及びTRA-1-81)がポドカリキシンタンパク質に付着している。TRA炭水化物群は、胚性特異的且つ多能性特異的であり、体細胞又は分化細胞上には存在しない。ポドカリキシンの多能性バージョン及び胚性バージョンは、TRA-ポドカリキシンと呼ばれる。胚性形態及び多能性形態のTRA-ポドカリキシンが、多くの癌型で再発現されることが知られている。
【0006】
体の正常な分化細胞上ではなく、癌細胞及び正常な胚細胞の表面上で発現される多能性抗原に特異的であり、且つ反応するモノクローナル抗体を作製することができる。更に、TRA-ポドカリキシンに対して反応し、且つ該TRA-ポドカリキシンに対する特異的な結合活性を有するモノクローナル抗体を作製することができる。これらの抗体は、発症中に、そして疾患の進行中に、胚性抗原及び多能性抗原、例えばTRA-ポドカリキシンを再発現する癌の抗癌治療剤として用いられ得る。
【0007】
本発明の目的は、多能性幹細胞特異的抗体及び胚性幹細胞特異的抗体を開発することである。また、本発明の目的は、TRA-ポドカリキシン特異的抗体を開発することである。更に、目的は、抗体又はそのフラグメントを活性成分として含む治療剤又は治療組成物を開発することである。更に、目的は、治療剤又は治療組成物を癌患者に導入又は投与して、患者において癌細胞を消失させ、縮小させ、又は排除することである。
【発明の概要】
【0008】
本発明に基づくモノクローナル抗体は、3つの重鎖相補性決定領域と3つの軽鎖相補性決定領域とを有する6つの特異的アミノ酸配列を含む。
【0009】
モノクローナル抗体は、ヒト胚性幹細胞及び悪性胚性癌細胞多能性幹細胞の細胞表面原形質膜に特異的で且つ反応し得る。更に、モノクローナル抗体は、TRA-ポドカリキシンに特異的で且つ反応し得る。
【0010】
モノクローナル抗体は、口腔癌、卵巣癌、前立腺癌、乳癌、膵癌、結腸癌、胃癌、及び食道癌からなる群から選択される複数のヒト癌に対する特異性及び反応性を有し得る。
【0011】
一態様において、本発明は、重鎖及び軽鎖を含むモノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントであって、重鎖相補性決定領域1乃至3が夫々、配列番号(SEQ ID NO.)1乃至3のアミノ酸配列を有し、軽鎖相補性決定領域1乃至3が夫々、配列番号4乃至6のアミノ酸配列を有する、モノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントを提供する。
【0012】
抗体又はそのフラグメントは、組換え抗体であってよい。組換え抗体は、ヒトキメラ抗体、ヒト化抗体、及びヒト抗体からなる群から選択される。
【0013】
ある実施形態においては、フラグメントは、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFv、ダイアボディ、dsFv、及びCDRを含むペプチドからなる群から選択される。
【0014】
別の態様において、本発明は、重鎖及び軽鎖を含むモノクローナル抗体又はその抗原結合性フラグメントであって、重鎖相補性決定領域1乃至3が夫々、配列番号1乃至3のアミノ酸配列に対して少なくとも80%のアミノ酸配列類似性を有し、軽鎖相補性決定領域1乃至3が夫々、配列番号4乃至6のアミノ酸配列を有する、モノクローナル抗体又はその抗原結合性フラグメントを提供する。
【0015】
更に、軽鎖相補性決定領域1乃至3は夫々、配列番号4乃至6のアミノ酸配列に対して少なくとも80%のアミノ酸配列類似性を有してよい。
【0016】
抗体又はそのフラグメントは、組換え抗体であってよい。組換え抗体は、ヒトキメラ抗体、ヒト化抗体、及びヒト抗体からなる群から選択される。
【0017】
特定の実施形態において、フラグメントが、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFv、ダイアボディ、dsFv、及びCDRを含むペプチドからなる群から選択される。
【0018】
更に別の態様において、本発明は、上記のモノクローナル抗体又は抗原結合フラグメントを含む抗癌治療剤を含む。
【0019】
抗癌治療剤は、薬学的に許容可能なリンカー、ペイロード、及びそれらの組合せからなる群から選択される構成要素を更に含む組成物形態であってよい。抗癌治療剤は、薬物を更に含んで抗体-薬物結合体を形成する組成物形態であってよい。抗癌治療剤は、胚性幹細胞に由来する分化細胞から胚性幹細胞を標的化し、選択し、且つ排除することができる。抗癌治療剤は、胃癌細胞、膵癌細胞、食道癌細胞、結腸癌細胞、乳癌細胞、及び前立腺癌細胞からなる群から選択される癌細胞を標的化することができる。
【0020】
組成物は、裸のヒトキメラ形態の抗体で静脈内送達によって患者に投与されて、抗腫瘍抗体依存性細胞毒性を誘発してよい。或いは、組成物は、静脈内送達によって患者に投与されて、ここで、組成物は更に、癌細胞に特異的に送達される細胞毒性薬物を含んでいてよい。
【0021】
[配列表]
添付の配列表で一覧にされるアミノ酸配列は、標準的な文字略語を用いて示されており、配列表は、参照によって本明細書に組み込まれる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、多能性幹細胞特異的抗体及び胚性幹細胞特異的抗体に関する。抗体は、抗腫瘍活性を明確に示す。抗体は、正常な細胞に対して非反応性であるか又は十分に反応しないが、複数の癌細胞に対して高度に特異的であって且つ反応する。抗体は、その抗体依存性細胞毒性、補体依存性細胞毒性、及び抗体-薬物結合によって、抗癌治療剤として用いることができる。毒素と結合した抗体は、例えば、癌細胞に対する細胞毒性活性を有する。抗体は、以下に限定されないが、口腔癌、卵巣癌、胃癌、膵癌、食道癌、結腸癌、乳癌、及び前立腺癌が挙げられる多種多様な癌に対して有効である。
【0023】
本発明の抗体は、モノクローナル抗体であり、本明細書ではBstrongomab-9A又はCM-918と称する。モノクローナル抗体は、標準的なハイブリドーマ技術を用いて作製される。モノクローナル抗体CM-918の重鎖及び軽鎖の可変領域のDNA配列及びアミノ酸配列は、本明細書に記載される。相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列は、VBASE2を用いて定義した。
【0024】
モノクローナル抗体CM-918は、重鎖相補性決定領域(hcCDR)1乃至3のアミノ酸配列を、以下のように含む:
- hcCDR #1 GFTFSDFY(配列番号1)
- hcCDR #2 SRNKANDYTT(配列番号2)
- hcCDR #3 ARDGWVEAMDY(配列番号3)
【0025】
モノクローナル抗体CM-918は、軽鎖相補性決定領域(lcCDR)1乃至3のアミノ酸配列を、以下のように含む:
- lcCDR #1 QSLVHSNGNTY(配列番号4)
- lcCDR #2 KVS(配列番号5)
- lcCDR #3 SQSTHVPWT(配列番号6)
【0026】
モノクローナル抗体CM-918は、非ヒト抗体及びヒト抗体を含む組換え抗体であってよい。代替的な実施形態において、その組換え抗体は、非ヒト動物(例えば、マウス又はラット)由来の抗体、ヒト由来の抗体、ヒトキメラ抗体、又はヒト化抗体であってよい。抗体は、ヒトの細胞、例えば、多能性幹細胞及び胚性幹細胞に特異的に結合する抗ヒト抗体であるのが好ましい。より詳細には、抗体は、哺乳類由来のモノクローナル抗体であって、これにはハイブリドーマによって作製されるものが包まれる。特定の実施形態においては、抗体は、従来のハイブリドーマ技術を用いて、マウスに由来する。抗体は、以下に限定されないが、ポリエチレングリコール(PEG)等の種々の分子で修飾されてもよい。抗体はまた、細胞毒性活性を有する化学療法剤、放射性化学物質等で修飾されてもよい。
【0027】
ある実施形態において、モノクローナル抗体CM-918は、細胞接着タンパク質ポドカリキシン(ポドカリキシン様タンパク質1としても知られている)上のエピトープに対して反応性を有しており、且つこれに選択的に結合する。ポドカリキシンは、ヒトにおいて、PODXL遺伝子によってコードされる膜内在性タンパク質である。ポドカリキシンは、一部の正常な細胞において発現される、重グリコシル化された1型膜貫通タンパク質である。ポドカリキシンは、種々の癌において高度に発現されて、腫瘍マーカーとなり、その発現レベルは、種々の癌における腫瘍の攻撃性と相関する。正常な細胞におけるポドカリキシンの分子量は、約160~164kDaである。ポドカリキシンはまた、正常な胚性幹細胞及び悪性の多能性胚性癌細胞幹細胞においても非常に発現される。ポドカリキシンは、正常な胚性幹細胞の細胞表面マーカーである。ポドカリキシンは、全ての胚性幹細胞及び多能性幹細胞において、胚性特異的変異形態又は多能性特異的変異形態で発現され、これは、非多能性幹細胞及び非胚性幹細胞中に存在しない付加的な翻訳後修飾を有する。1つの知られているポドカリキシンの胚性幹細胞特異的翻訳後修飾は、TRA-1-60及びTRA-1-81(本明細書で、TRAエピトープと称する)として知られているポドカリキシンタンパク質骨格の付加的なグリコシル化である。如何なる特定の理論にも拘束されることを意図しないが、TRAエピトープは、多能性特異的且つ胚性特異的である拡張四糖ムチン型O-グリカン構造であると考えられている。胚性幹細胞及び多能性癌細胞が体細胞に分化すると、TRAエピトープは、ポドカリキシンから失われる。TRAは、正常な体細胞及び分化細胞上で発現されない。TRAエピトープを有するポドカリキシン(本明細書で、TRA-ポドカリキシンと称する)の胚性変異体の見掛けの分子量は、約200~240kDaである。TRA-ポドカリキシンは、口腔癌、結腸癌、膵癌、胃癌、乳癌、前立腺癌、脳癌、卵巣癌、及び肺癌が挙げられる多くの種類の癌において発現されることが知られている。
【0028】
本発明の幾つかの実施形態において、モノクローナル抗体CM-918は、ポドカリキシンの胚性変異体及び多能性変異体であるTRA-ポドカリキシン上に存在するTRAエピトープに対して反応し、且つこれに選択的に結合する。
【0029】
他の実施形態において、モノクローナル抗体CM-918は、TRA-ポドカリキシン上の未知のエピトープに対して選択的に結合し、且つ反応性である。更に他の実施形態において、モノクローナル抗体CM-918は、胚性幹細胞及び多能性胚性癌細胞の細胞原形質膜上で発現される未知のエピトープに対して選択的に結合し、且つ反応する。CM-918抗体のアミノ酸配列変異体が存在しており、それらの中では、重鎖CDR配列(配列番号1乃至3)の1又は複数における1つ、2つ、又は3つのアミノ酸が別のアミノ酸と置換されていることが、本発明に従って理解され、意図されている。好ましくは、これらのCM-918変異体は、TRA-ポドカリキシンに対して反応し、且つ選択的に結合し、又は胚性幹細胞の細胞表面原形質膜に対して反応し、且つ選択的に結合する。
【0030】
軽鎖CDR配列(配列番号4乃至6)の1又は複数における1つ、2つ、又は3つのアミノ酸が、別のアミノ酸と置換されているCM-918抗体のアミノ酸配列変異体もまた、本発明に従って理解され、意図されている。好ましくは、これらのCM-918変異体は、TRA-ポドカリキシンに対して反応性であり、且つ選択的に結合し、又は胚性幹細胞の細胞表面原形質膜に対して反応し、且つ選択的に結合する。
【0031】
幾つかの態様において、本発明は、配列番号1に記述されるアミノ酸配列を有する重鎖CDR1と、配列番号2及び配列番号3に夫々記述されるアミノ酸配列を有するCDR2及びCDR3を含む抗体とを提供する。更に、その抗体は、配列番号4に記述されるアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1と、配列番号5及び配列番号6に夫々記述されるアミノ酸配列を有するCDR2及びCDR3とを含む。更に、幾つかの態様において、本発明は、本明細書に記載された抗体に由来する抗体と、本明細書に記載された抗体に機能的に等価の抗体とを、1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、付加、及び/又は挿入によって組み込む。幾つかの態様において、本発明は、重鎖及び軽鎖を含むモノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントを含んでおり、重鎖相補性決定領域1乃至3が夫々、配列番号1乃至3のアミノ酸配列に対して少なくとも80%のアミノ酸配列類似性を有しており、軽鎖相補性決定領域1乃至3が夫々、配列番号4乃至6のアミノ酸配列を有している。他の幾つかの態様において、本発明は、重鎖及び軽鎖を含むモノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントを含んでおり、重鎖相補性決定領域1乃至3が夫々、配列番号1乃至3のアミノ酸配列を有し、軽鎖相補性決定領域1乃至3が夫々、配列番号4乃至6のアミノ酸配列に対して少なくとも80%のアミノ酸配列類似性を有している。更に他の幾つかの態様において、本発明は、重鎖及び軽鎖を含むモノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントを含んでおり、重鎖相補性決定領域1~3が夫々、配列番号1乃至3のアミノ酸配列に対して少なくとも80%のアミノ酸配列類似性を有し、軽鎖相補性決定領域1乃至3が夫々、配列番号4乃至6のアミノ酸配列に対して少なくとも80%のアミノ酸配列類似性を有している。
【0032】
本発明の抗体は、抗体分子全体に限定されず、抗体が細胞表面に結合する限りにおいて、低分子抗体又はその修飾型であってもよい。低分子抗体は、抗体全体の一部に、抗体フラグメントの欠損を含む。抗体分子のそのような部分的な欠損は、結果として生じる抗体フラグメントが細胞表面に結合することができる限りにおいて、許容される。抗体フラグメントは、配列番号1、2、及び3に記述される重鎖(hc)CDRと、配列番号4、5、及び6に記述される軽鎖(lc)CDRとを含むことが好ましい。低分子の抗体及び抗体フラグメントの具体例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、scFv(単鎖Fv)、dsFv、ダイアボディ、sc(Fv)2、又はCDRを含むペプチドが挙げられる。
【0033】
ダイアボディは、遺伝子融合によって構築される二価抗体フラグメントを指す。ダイアボディは、2つのポリペプチド鎖を含むダイマーである。scFvは、抗体の重鎖領域及び軽鎖領域を連結することによって得られる。scFvにおいて、重鎖領域及び軽鎖領域は、リンカー、例えばペプチドリンカーを介して連結される。可変領域を連結するペプチドリンカーは、特に限定されない。例えば、およそ3乃至25残基の任意の単鎖ペプチドが、リンカーとして用いられる。scFv-Fcは、scFvに融合したFc領域を含む低分子抗体である。scFv-Fcに用いられるscFvの起源は、特に限定されず、例えば、IgMに由来するscFvが用いられる。更に、Fcの起源は特に限定されず、例えば、ヒトIgG(ヒトIgG1その他)に由来するFcが用いられ得る。sc(Fv)2は、リンカー等を介して連結された重鎖領域及び軽鎖領域を含む単鎖を有する低分子抗体である。sc(Fv)2は、例えば、リンカーを介してscFvを連結することによって、調製される。
【0034】
抗体のフラグメントは、当該技術において知られている種々の技術を用いることによって、例えば、以下に限定されないが、抗体を酵素によって処理してそのフラグメントを形成することによって、得られる。
【0035】
細胞増殖疾患、例えば癌の治療のために、抗体がそのエフェクター活性を維持することが好ましい。詳細には、本発明に基づく抗体は、細胞表面への結合親和性及びエフェクター機能の双方を有してよい。抗体のエフェクター機能は、抗体依存性細胞媒介細胞毒性(ADCC)活性及び補体依存性細胞毒性(CDC)活性を含む。本発明に従う治療抗体は、特に、Aエフェクター機能としてDCC活性を有してよい。治療目的で用いられる本発明の抗体は、細胞毒性活性を有する抗体であってもよい。本発明に従う細胞毒性活性の例として、ADCC活性及びCDC活性が挙げられる。本発明において、ADCC活性は、標的細胞の細胞表面抗原に特異的に付着した抗体のFcドメインへのFcγ受容体を介したFcγ受容体保有細胞(免疫細胞その他)の結合によって、標的細胞に損傷を与える活性を意味する。CDC活性は、補体システムによって媒介される細胞毒性活性を意味する。
【0036】
抗体は、細胞毒性物質と結合してもよい。適切な細胞毒性物質の非限定的な例として、化学療法剤、毒性ペプチド、放射性化学物質、又は他のペイロード、例えば薬物が挙げられる。そのような修飾抗体(以降、抗体結合体と呼ぶ)は、得られた抗体を化学的に修飾することによって得られる。特定の実施形態において、修飾抗体は、薬学的に許容可能なリンカー、ペイロード、又はそれらの組合せを含む。ペイロードが薬物である場合、抗体-薬物結合体が形成される。抗体修飾のための種々の方法が当該技術において知られており、これらの方法は、本発明に従う使用に適している。
【0037】
本発明は、多能性幹細胞や胚性幹細胞のような細胞の表面に結合する抗体を活性成分として含む医薬組成物を提供する。医薬組成物は、治療的に有効な量の抗体を含む。用語「治療的に有効な量」は、抗体が、所望される治療効果又は予防効果を発揮することを可能にする抗体の量を示す。実施形態において、医薬組成物は、細胞増殖インヒビタ、特に抗癌治療剤である。本発明の細胞増殖インヒビタ及び抗癌剤は、癌を患っている又は癌をおそらく患っている対象に投与され、そして、胚性幹細胞に由来する分化細胞から胚性幹細胞を標的化し、選択し、且つ排除するのに有効であり得る。
【0038】
本発明の医薬組成物は、細胞毒性物質結合抗体を活性成分として含んでよい。本発明の医薬組成物によって標的化される疾患が癌である場合、標的化される癌は、特に限定されず、特に、口腔癌、卵巣癌、胃癌、膵癌、食道癌、結腸癌、乳癌、又は前立腺癌であってよい。
【0039】
本発明の医薬組成物は、患者に経口的に投与されても、非経口的に投与されてもよい。非経口投与が好ましいかもしれない。そのような投与方法の具体例として、注射、経鼻投与、肺内投与、及び経皮投与が挙げられる。注射の例として、静脈内注射、筋肉内注射、腹膜内注射、及び皮下注射が挙げられ、これらにより本発明の医薬組成物は、全身的に、又は局所的に投与され得る。更に、投与方法は、患者の年齢又は症候に従って適切に選択され得る。本発明の医薬組成物の用量は、例えば、1投薬あたり体重1kgあたり0.0001mg乃至1000mgの用量範囲から選択され得る。これ以外にも、用量は、例えば、1体あたり0.001乃至100000mgの範囲から選択されてよい。しかしながら、本発明の医薬組成物は、これらの用量に限定されない。本発明の医薬組成物は、当該技術において知られている標準的な、従来の方法に従って製剤化され得、そして薬学的に許容可能なキャリア又は添加剤を追加的に含んでもよい。それらの例として、以下に限定されないが、界面活性剤、賦形剤、着色剤、香味剤、防腐剤、安定化剤、緩衝剤、懸濁化剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、潤滑剤、流動促進剤、及び矯正剤が挙げられる。ルーチン的に用いられる他のキャリアが、適切に組み込まれてよい。癌細胞との接触と同時に、本発明の抗体は、癌細胞に損傷を与えることができ、又は癌細胞の増殖を阻害することができる。抗体が結合する細胞は、特に限定されない。本発明において、細胞は好ましくは、癌細胞である。
【0040】
当業者であれば、先に記載された実施形態を、広い発明概念から逸脱しない範囲で変更し得ることを理解するであろう。したがって、本発明は、開示される特定の実施形態及び以下の実施例に限定されないが、本発明の精神及び範囲内にある変更を含むことが意図されると理解される。
【実施例】
【0041】
[実施例1 モノクローナル抗体CM-918の調製]
本発明のモノクローナル抗体(本明細書では、Bstrongomab又はCM-918と称する)を、標準的なマウスハイブリドーマ技術を用いて作製した。採取したてのNCCIT細胞を滅菌PBS中に懸濁させて、マウスに腹膜内注射した。各マウスは、1注射あたり10e6個の細胞を受け入れた。2週間の間隔を空けた4回の注射の後、免疫化されたマウスの血清を、ELISA及びウェスタンブロットアッセイで試験して、タイターが陽性のマウスを同定した。次に、タイターが最も高いマウスに、プレフュージョンブースト免疫化(prefusion boost immunization)を受けさせてから2~7日後に、脾臓からB細胞を採取して、NS0又はP3X63Ag8.653マウス骨髄腫細胞に融合させた。
【0042】
ハイブリドーマを、96ウェルプレート(1融合あたり960ウェル)にプレーティングして、14日間、ハイブリドーマ融合培地で増殖させた。該ハイブリドーマ融合培地は、20%ウシ胎仔血清と、20%NCTC-109(Gibco)と、1%v/vペニシリン-ストレプトマイシンと、2mM L-グルタミンと、0.4%v/v Hybridoma Fusion and Cloning Supplement(Sigma-Aldrich)と、1×非必須アミノ酸(Gibco)と、1×HAT-Supplement(Gibco)と、20mM HEPESと、RPMI 1640培地(mod.)(1×、L-グルタミン添加)で構成した。ハイブリドーマ上清を収集して、NCCIT溶解液に対するウェスタンブロット法によってスクリーニングして、TRAに結合するIgG抗体を産生するハイブリドーマを同定した。陽性クローンをスケーリングして、96ウェルプレート中での少なくとも2ラウンドの制限希釈サブクローニングにかけて、モノクローナルハイブリドーマを単離した。サブクローニングプレートを、ELISAによってスクリーニングして、陽性モノクローナルハイブリドーマを、ハイブリドーマ培地中でスケーリングした。該ハイブリドーマ培地は、10%ウシ胎仔血清、10%NCTC-109(Gibco)、1%v/vペニシリンストレプトマイシン、2mM L-グルタミン、0.4%v/v Hybridoma Fusion and Cloning Supplement(Sigma-Aldrich)、1×非必須アミノ酸(Gibco)、1×HT-Supplement(Gibco)、20mM HEPES、及びRPMI 1640培地(mod.)(1×、L-グルタミン添加)で構成した。ウェスタンブロットアッセイでハイブリドーマ活性を確認した後、モノクローナルハイブリドーマは、10%DMSOを補ったハイブリドーマ培地でクライオフリーズされた(cryofrozen)。10% Ultra-Low IgG FBSを含有するハイブリドーマ培地で疲弊するまで培養したモノクローナルハイブリドーマの上清から、CM-918抗体を精製した。上清を遠心分離してから、45μmフィルタに通して、細胞及び細胞残渣を除去した。GE LifeSciencesのHiTrap Protein G HPカラムを用いた親和性クロマトグラフィによって、IgG抗体を精製した。精製したmAbを、Zeba Spin Desalting Column(ThermoScientific)を用いて脱塩した。重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のDNAを配列決定して、抗体のCDR領域のアミノ酸配列を、VBASE2(ヒト及びマウスの免疫グロブリン遺伝子座の生殖細胞系可変遺伝子の統合データベース)を用いることによって、定義した。
【0043】
[実施例2 CM-918抗体による多能性細胞のウェスタンブロット分析]
CM-918抗体を用いた多能性胚性癌細胞NCCIT(ATCC # CRL2073)及びヒト胚性幹細胞(ESI-017)由来の膜タンパク質サンプルのウェスタンブロットは、双方のタンパク質膜画分において、200~240kDaの分子量にて単一のぼやけたバンドを示したが、TRA-ポドカリキシンを発現しない非多能性細胞系PC3(ATCC # CRL1435)又はA172(ATCC # CRL1620)において、反応性は、検出されなかった。全く同じブロット結果が、市販のIgM抗体、抗TRA-1-60(abcam 16288)を用いて、全く同じウェスタンブロットで得られた。これらの結果は、CM-918抗体及び抗TRA-1-60抗体が、同種のエピトープに結合することを裏付ける。SDS-PAGE及びウェスタンブロッティングを、標準的な手順で実行した。リン酸バッファ中1%CHAPS洗浄剤(Sigma)中の細胞膜画分を、8%ゲル上で流して、ニトロセルロースに移した。ブロットを、1:1000のCM-918又は抗TRA-1-60抗体(1μg/mlの濃度)とインキュベートしてから、1~5000(.2ug/ml)の二次抗IGG-HRP抗体又は抗IGM-HRP抗体(Millipore)とインキュベートし、バンドを、ECL検出(Amersham Biosciences)によって視覚化した。
【0044】
[実施例3 胚性幹細胞及び多能性胚性癌細胞のCM-918抗体原形質膜染色]
胚性幹細胞(ESL017)及び多能性NCCIT胚性癌細胞を、Alexa 647(Sigma)と結合させたCM-918抗体(0.5μg/ml)で、そして抗TRA-1-60抗体(0.5μg/ml)及び抗IgM-Alexa F488抗体(Millipore)(0.5μg/ml)で染色した。Redチャンネルによる蛍光顕微鏡観察画像は、CM-918抗体が、胚性幹細胞及び多能性胚性癌細胞の原形質膜に強く結合するが、TRA-ポドカリキシンを発現しないコントロール細胞系PC3(ATCC # CRL1435)又はA172(ATCC # CRL1620)にはそうならないことを示した。Redチャンネル及びGreenチャンネル由来の重ね合わせた蛍光画像は、CM-918抗体及び抗TRA-1-60抗体の全く同じ染色オーバーラップを示し、双方の抗体が幹細胞の表面上の同じエピトープに結合することが示された。
【0045】
[実施例4 正常ヒト組織及びヒト癌でのCM-918抗体の免疫組織化学(IHC)染色]
CM-918による正常組織及び癌の免疫組織化学染色を、以下に記載するように実行した。0~3のグレーディングシステムを用いた:0は観察される染色なし;1は限局的な染色(<5%);2は中程度の染色(<50%);そして3は強い染色(>50%)。染色した組織スライドを、病理医がスコア化した。2又は3の染色スコアを、以下の癌組織で観察した:膵癌の38サンプルのうち22;前立腺癌の41サンプルのうち19;乳癌の145サンプルのうち45;卵巣癌の30サンプルのうち18;胃癌の8サンプルのうち8;結腸癌の30サンプルのうち15;肺癌の66サンプルのうち32。正常なヒト組織での発現は、骨髄を含む殆ど全ての正常な組織でのゼロ発現から、膵臓、食道、及び結腸の一部の場合における微量の限局的発現に非常に限定された。腎臓は、全サンプルでスコア化が陽性であり、CM-918染色が細管において約1%であった。スコア化が2であった唯一の正常組織は、副甲状腺であり、9サンプルのうち2つが染色スコア2であった。結果から、CM-918が多くの異なる癌で膜染色を示し、正常な組織では染色が非常に限られていることが示される。
【0046】
全ての組織を、10%緩衝ホルマリン中で24時間固定し、5ミクロンに切片化して、正に帯電するスライド上に置いた。染色の前に、スライドを60度で一晩乾燥させた。キシレン(Fisher Scientific、Cat# X3P-1GAL)中で脱パラフィンした後、切片を、100%エタノール(Eki-Chem、Cat# 4085-1GL)、95%エタノール、及び70%エタノール(Eki-Chem、Cat# 4089-1GL)に通して再水和させた。次に切片を、1×Diva Decloaker(Biocare Medical、Cat# DV2004LX)中に浸漬して、Decloakingチャンバ(Biocare Medical、モデル:NxGen)で加熱(cook)した。その後、切片を、BLOXALL(Vector labs、Cat# SP-6000)及びPowerVision Universal IHC Blocking/Dilution(Leica、Cat# BD09-15)によってブロックした。一次抗体をPBS中2μg/mlにて各スライドに作用させて、室温にて1時間放置した。PBSによって洗浄した後に、PowerVision Post Blocking(Leica、Cat# DPVO+15Post)を、室温にて20分間作用させた。次に、スライドを、PowerVision Poly-HRP抗マウス/ウサギIgG(Leica、Cat# DPVO-15HRP)と室温にて30分間インキュベートしてから、DAB(Vector labs、Cat# SK4105)で発色反応させた。スライドをヘマトキシリン(Vector labs、Cat#H-3404)で対比染色した。異なる試薬又は抗体のインキュベーションの間で、スライドをPBSによって洗浄した。組織中での標的タンパク質発現の技術的精度を確実にするために、胚性癌細胞切片を染色に含めた。ネガティブコントロール実験を、アイソタイプコントロール抗体(Biolegend、Cat# 401401)の存在下で、全アッセイと同時に行った。
【0047】
[実施例5 CM-918抗体-薬物結合体の細胞生存度用量反応曲線]
CM-919-vc-MMAE抗体薬物複合体を製造した。CM-918のPBS溶液を、TCEPで37℃にて処理して、鎖間ジスルフィド結合を還元した。MC-vc-PAB-MMAE(マレイミドカプロイル-バリン-シトルリン-p-アミノベンジルオキシカルボニル-モノメチルオーリスタチンE)の溶液を反応混合物に加えて、MC-vc-PAB-MMAEのマレイミド部分をCM-918に連結させた。結果として生じた抗体薬物複合体(ADC)を、Sephadex G50カラム上で脱塩して、残留する未反応の毒物を除去し、且つPBSにバッファ交換した(pH7.2)。薬物抗体比(DAR)を、248nmと280nmでのUV吸光度の比率から判定した。HIC(疎水性相互作用クロマトグラフィ)及びSEC(サイズ排除クロマトグラフィ)分析を実行して、DAR種分布を判定した。
【0048】
多能性NCCIT細胞、胚性幹細胞(ESL-017)、及びTRA-ポドカリキシンを発現しないコントロールPCS細胞の細胞生存度アッセイを実行した。96ウェルプレートに標的細胞を、1ウェル(90μl)あたり3×103から1×104個の細胞密度で播種して、5%CO2インキュベータ内で細胞を24時間インキュベートする。細胞を抗体(1ウェルあたり10μl)で以下のように処理する:100nMの濃度で開始して、1/2logずつ希釈し、1濃度あたり6反復とし、抗体処理のない最後のウェルをネガティブコントロールとして用いる。細胞を5%CO2インキュベータ内で24時間から7日間インキュベートする。CellTiter-Glo(登録商標)Luminescent Cell Viability Assay Reagent(Promega、カタログナンバー7572)を、使用前に室温に平衡させる。100μlのCellTiter-Glo(登録商標)Reagentを各ウェルに加えて、内容物を2分間、オービタルシェーカ上で混合して、細胞溶解を誘導する。プレートを室温にて10分間インキュベートして、発光シグナルを安定化させる。マイクロプレートリーダ(Filtermax F5、Molecular Devices、Sunnyvale、CA)で発光を記録する。
【0049】
細胞生存度アッセイの結果は、CM-918-vc-MMAE抗体薬物複合体による細胞殺滅のIC50が、NCCIT細胞について2.7nMであり、胚性幹細胞について5.6nMであって、コントロールPC3細胞では、CM-918-vc-MMAEの100nMの最大濃度まで効果が観察されないことを示した。MMAEと同様に結合したアイソタイプコントロール抗体は、100nMの最大濃度まで、3つ全ての細胞系に対して効果がない。これらの結果は、CM-918抗体薬物複合体が、多能性胚性癌細胞及びヒト胚性幹細胞を殺滅するのに非常に有効であるが、TRA-ポドカリキシンを発現しない細胞ではそうでないことを示している。
【0050】
[実施例6 結合CM-919抗体薬物で処理した多能性NCCIT癌細胞/マウス異種移植片モデル]
15頭のヌードマウスに、2×106個のNCCIT多能性癌幹細胞を皮下注射して、腫瘍を200mm3のサイズに発達させて、この時にマウスを以下の5頭の3群に分けた;5頭のマウスは、生理食塩水の注射で4回処理した;5頭のマウスは、3mg/kgのCM-vc-MMAEでQ4D×4回処理した;最後の5頭は、3mg/kgのアイソタイプ抗体コントロール-vc-MMAEでQ4D×4回処理した。これらの結果は、35日目の終了時に、生理食塩水を注射したマウス及びアイソタイプコントロールを注射したマウスの双方が、1000mm3の平均サイズの腫瘍を有したことを示す。結合CM-918抗体薬物処理マウスにおいて、5頭のマウスのうち4頭が、検出可能な腫瘍を有しておらず、1頭のマウスがおよそ25mm3の腫瘍を有した。CM-918と同様にMMAEが結合したアイソタイプコントロール抗体では、平均腫瘍サイズが1000mm3の生理食塩水処理マウスと同程度の結果が示された。これらの結果は、CM-919-vc-MMAE抗体薬物複合体が、マウスにおいて、多能性癌幹細胞腫瘍を処置するのに有効且つ有力であることを示している。
【0051】
[実施例7 CM-918抗体による抗体依存性細胞毒性(ADCC)アッセイ]
CM-918抗体を用いたADCCアッセイは、多能性癌NCCIT細胞で12~15%の細胞毒性を示し、CM-918 ADCC活性は、TRA-ポドカリキシンを発現しないコントロール細胞で2%の細胞毒性を有した。コントロールIgG抗体は、NCCIT細胞で、細胞毒性が2%であった。これらの結果は、CM-918抗体が、TRA-ポドカリキシンを発現する多能性癌細胞でADCC活性を有することを示している。
【0052】
ヒトPBMCを、健康なドナーの血液から、フィコール勾配を用いることによって精製した。標的細胞を96ウェルプレートに1×104個/ウェルにて播種して、単離したてのPBMCと、E:T=25:1又は50:1で37℃にて4時間インキュベートした。試験抗体及びIgG-Fcコントロール抗体の濃度を、190nMに固定した。共インキュベーションの後、細胞毒性、LDHアッセイで測定した。エフェクター及び標的細胞(抗体なし)コントロールによって吸光度値をバックグラウンド減算し、標的細胞のみ(自発的溶解)を0%として、そして溶解した標的細胞のみ(最大溶解)を100%としてスケーリングすることによって、標的細胞毒性パーセントを算出した。
【0053】
[実施例#8 CM-918抗体による補体依存性細胞毒性(CDC)アッセイ]
CDCアッセイを実行して、NCCIT多能性癌幹細胞について、100nM CM-918抗体による細胞毒性が18%であり、10nM CM-918抗体による細胞毒性が10%であることが示された。100nMコントロール抗体を用いたCDCアッセイのNCCIT細胞毒性の結果は、細胞毒性が<1%であった。これらの結果は、CM-918抗体が、TRA-ポドカリキシンを原形質膜細胞表面上で発現する多能性癌幹細胞に対して、CDC活性を誘発できることを示している。
【0054】
ヒト補体を、104個の標的細胞と1:4の容量比で、96ウェルフォーマットでインキュベートした。試験抗体を、190nMで開始した10ポイント1/2log希釈系列でロードした。IgG-Fcコントロール抗体のみを、190nM加えた。抗体を、標的細胞及び補体で37℃にて4時間共インキュベートした。共インキュベーションの後、細胞毒性を、LDHアッセイ(Roche)で測定した。吸光度値を補体及び標的細胞(抗体なし)コントロールによってバックグラウンド減算し、標的細胞のみ(自発的溶解)を0%として、そして溶解した標的細胞のみ(最大溶解)を100%としてスケーリングすることによって、標的細胞毒性パーセントを算出した。
【配列表】