(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】還元スラグ処理物の製造方法、還元スラグ処理物含有コンクリートの製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 5/00 20060101AFI20240802BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20240802BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20240802BHJP
F27D 15/02 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
C04B5/00 B ZAB
C04B28/02
C04B18/14 F
F27D15/02 A
(21)【出願番号】P 2022013541
(22)【出願日】2022-01-31
【審査請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】516142403
【氏名又は名称】未来建築研究所株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【氏名又は名称】福士 智恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100205501
【氏名又は名称】角渕 由英
(72)【発明者】
【氏名】向山 敦
(72)【発明者】
【氏名】羽原 俊祐
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-089345(JP,A)
【文献】特開平01-148735(JP,A)
【文献】特表2009-529408(JP,A)
【文献】特開2018-068246(JP,A)
【文献】特開2015-036350(JP,A)
【文献】特開2021-014382(JP,A)
【文献】特開2004-292201(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
F27D 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気炉から排出される還元スラグを用いてγC
2S(γ-2CaO・SiO
2)及びメルビナイト(3CaO・MgO・2SiO
2)を主成分とする還元スラグ処理物を製造する方法であって、
前記還元スラグを、CaO、SiO
2、Al
2O
3、MgOの重量%の合計を100重量%とした化学成分においてCaOが55~62重量%、SiO
2が20~31重量%、Al
2O
3が2~15重量%、MgOが5~9重量%となるように成分調整する成分調整工程と、
成分調整された前記還元スラグを、還元雰囲気中で400~800℃の範囲において20℃/分以下の温度勾配で徐冷する徐冷工程と、を含み、
前記徐冷工程では、前記γC
2S及びメルビナイトを主成分として含む粉状の前記還元スラグ処理物を得ることを特徴とする還元スラグ処理物の製造方法。
【請求項2】
電気炉から排出される還元スラグを用いてγC
2S(γ-2CaO・SiO
2)及びメルビナイト(3CaO・MgO・2SiO
2)を主成分とする還元スラグ処理物を製造する方法であって、
前記還元スラグを、CaO、SiO
2、Al
2O
3、MgOの重量%の合計を100重量%とした化学成分においてCaOが47~62重量%、SiO
2が20~40重量%、Al
2O
3が2~15重量%、MgOが5~9重量%となるように成分調整する成分調整工程と、
成分調整された前記還元スラグを、還元雰囲気中で400~800℃の範囲において20℃/分以下の温度勾配で徐冷する徐冷工程と、を含み、
前記徐冷工程では、前記γC
2S及びメルビナイトを主成分として含む粉状の前記還元スラグ処理物(α-CaO・SiO
2を
主成分として含むものを除く)を得ることを特徴とする還元スラグ処理物の製造方法。
【請求項3】
前記徐冷工程では、成分調整された前記還元スラグに含まれるγC
2SをαC
2S及び/又はβC
2Sへ転移促進させるためのスラグ粉化防止剤を添加せず、粉状の前記還元スラグ処理物を得ることを特徴とする請求項1又は2に記載の還元スラグ処理物の製造方法。
【請求項4】
前記還元スラグ処理物は、二酸化炭素を固定化させた還元スラグ処理物含有コンクリート用の混和材であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の還元スラグ処理物の製造方法。
【請求項5】
電気炉から排出される還元スラグを用いてγC
2S(γ-2CaO・SiO
2)及びメルビナイト(3CaO・MgO・2SiO
2)を主成分とする還元スラグ処理物を得て、該還元スラグ処理物をコンクリート状にし、二酸化炭素を固定化させて還元スラグ処理物含有コンクリートを製造する方法であって、
前記還元スラグを、CaO-SiO
2-Al
2O
3、
MgOの重量%の合計を100重量%とした化学成分において
CaOが45~65重量%、SiO
2
が20~40重量%、Al
2
O
3
が5~23重量%、MgOが5~10重量%となるように成分調整する成分調整工程と、
成分調整された前記還元スラグを、還元雰囲気中で400~800℃の範囲において20℃/分以下の温度勾配で徐冷する徐冷工程と、を含み、
前記徐冷工程では、前記γC
2S及びメルビナイトを主成分として含む粉状の前記還元スラグ処理物
(α-CaO・SiO
2
を主成分として含むものを除く)を得ることを特徴とする還元スラグ処理物含有コンクリートの製造方法。
【請求項6】
前記徐冷工程では、成分調整された前記還元スラグに含まれるγC
2SをαC
2S及び/又はβC
2Sへ転移促進させるためのスラグ粉化防止剤を添加せず、粉状の前記還元スラグ処理物を得ることを特徴とする請求項5に記載の還元スラグ処理物含有コンクリートの製造方法。
【請求項7】
前記還元スラグ処理物を水、セメント及び骨材と混錬し、コンクリート状にし、
20%二酸化炭素濃度、相対湿度100%、温度40℃の養生槽にて5日間、湿空養生を行ったあとの還元スラグ処理物含有コンクリートの圧縮強度が
20MPa以上となることを特徴とする請求項5又は6に記載の還元スラグ処理物含有コンクリートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元スラグ処理物の製造方法、還元スラグ処理物及び還元スラグ処理物含有コンクリートに係り、特に、γC2S(γ-2CaO・SiO2)及び/又はメルビナイト(3CaO・MgO・2SiO2)を主成分とする還元スラグ処理物の製造方法、還元スラグ処理物及び還元スラグ処理物含有コンクリートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリートは、原材料としてセメントを大量に使用し、当該セメントの生産過程で化石燃料を利用すること等から、二酸化炭素の排出量が大きい材料とされている。そのため、コンクリートの製造にあたっては、二酸化炭素の排出量を低減することが地球温暖化対策の一環として求められている。
そうしたなかで、二酸化炭素と容易に反応するγC2S又はメルビナイトを混和材として使用し、少量の水、セメント及び骨材(細・粗)とともに混練してコンクリート状にし、高濃度の二酸化炭素を吸収させて硬化することで、大量の二酸化炭素を内部に固定したセメント系材料(コンクリート)の発明が提案されている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】盛岡実、奥山康二「中性化に対する自己防衛機能を持つセメント系材料に関する研究」、土木学会、コンクリート技術シリーズNo.74、混和材料を使用したコンクリートの物性変化と性能評価研究小委員会報告書ならびにシンポジウム講演概要集、2007年
【文献】渡辺賢三ほか「炭酸化養生によるコンクリートの高耐久化技術-EIENの開発と試験施工」、コンクリート工学、Vol.45、No.7、p.31-37、2007年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、γC2S及びメルビナイトは、カーボンニュートラル又はカーボンネガティブの社会を構築するキー材料となりうる。
一方で、γC2Sの製造にあたっては、例えば、石灰石やケイ石を混合し、成分調整を行った後に1200~1400℃で焼成して製造しており、比較的高価な材料であって大量生産することが難しいといった問題がある。メルビナイトについても同様である。
また、γC2Sやメルビナイトを製造するにあたって、石灰石の脱炭酸化処理、大量の化石燃料の使用が不可欠となるため、二酸化炭素の吸収量(固定量)以上に二酸化炭素を排出してしまい、カーボンポジティブとなる問題もある。
そのため、γC2S又はメルビナイトを主成分とする組成物を効率良く得るとともに、当該組成物の製造にあたって二酸化炭素を排出しない技術が求められていた。
【0006】
ところで、γC2S又はメルビナイトに近い化学成分を有する材料として電気炉還元スラグがある。電気炉還元スラグ、電気炉酸化スラグは、製鉄業において主原料となる鉄くずを再生する精錬工程において発生する。現状、電気炉還元スラグは、電気炉酸化スラグと混合され、付加価値の低い土工用材料として利用されている。
そのため、製鉄業及び製鋼・圧延業において電気炉から排出される還元スラグの有効利用、すなわち、付加価値の高い材料への応用が求められていた。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、電気炉還元スラグを用いてγC2S及び/又はメルビナイトを主成分とする組成物を効率良く製造することが可能な還元スラグ処理物の製造方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、上記還元スラグ処理物、及び、上記還元スラグ処理物を含有し、二酸化炭素を好適に固定化させた還元スラグ処理物含有コンクリートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究した結果、電気炉から排出される従来の電気炉還元スラグではγC2S及び/又はメルビナイトの含有量が比較的少ないところ、当該還元スラグを所定の条件下で成分調整し、徐冷することで、γC2S及び/又はメルビナイトを主成分とする還元スラグ処理物を効率良く製造可能であることを見出した。
また、当該製造方法であれば、従来のように化石燃料を使用することなく、二酸化炭素を好適に固定化させることが可能なセメント系材料(コンクリート)を実現することができ、カーボンニュートラル(カーボンネガティブ)の社会を実現可能であることを見出して、本発明をするに至った。
【0009】
従って、前記課題は、本発明によれば、電気炉から排出される還元スラグを用いてγC2S(γ-2CaO・SiO2)及びメルビナイト(3CaO・MgO・2SiO2)を主成分とする還元スラグ処理物を製造する方法であって、前記還元スラグを、CaO、SiO2、Al2O3、MgOの重量%の合計を100重量%とした化学成分においてCaOが55~62重量%、SiO2が20~31重量%、Al2O3が2~15重量%、MgOが5~9重量%となるように成分調整する成分調整工程と、成分調整された前記還元スラグを、還元雰囲気中で400~800℃の範囲において20℃/分以下の温度勾配で徐冷する徐冷工程と、を含み、前記徐冷工程では、前記γC2S及びメルビナイトを主成分として含む粉状の前記還元スラグ処理物を得ること、により解決される。
また前記課題は、電気炉から排出される還元スラグを用いてγC2S(γ-2CaO・SiO2)及びメルビナイト(3CaO・MgO・2SiO2)を主成分とする還元スラグ処理物を製造する方法であって、前記還元スラグを、CaO、SiO2、Al2O3、MgOの重量%の合計を100重量%とした化学成分においてCaOが47~62重量%、SiO2が20~40重量%、Al2O3が2~15重量%、MgOが5~9重量%となるように成分調整する成分調整工程と、成分調整された前記還元スラグを、還元雰囲気中で400~800℃の範囲において20℃/分以下の温度勾配で徐冷する徐冷工程と、を含み、前記徐冷工程では、前記γC2S及びメルビナイトを主成分として含む粉状の前記還元スラグ処理物(α-CaO・SiO2を主成分として含むものを除く)を得ること、により解決される。
【0010】
このとき、前記徐冷工程では、成分調整された前記還元スラグに含まれるγC
2
SをαC
2
S及び/又はβC
2
Sへ転移促進させるためのスラグ粉化防止剤を添加せず、粉状の前記還元スラグ処理物を得ると良い。
また、前記還元スラグ処理物は、二酸化炭素を固定化させた還元スラグ処理物含有コンクリート用の混和材であると良い。
【0011】
また前記課題は、本発明によれば、電気炉から排出される還元スラグを用いてγC2S(γ-2CaO・SiO2)及びメルビナイト(3CaO・MgO・2SiO2)を主成分とする還元スラグ処理物を得て、該還元スラグ処理物をコンクリート状にし、二酸化炭素を固定化させて還元スラグ処理物含有コンクリートを製造する方法であって、前記還元スラグを、CaO-SiO2-Al2O3、
MgOの重量%の合計を100重量%とした化学成分においてCaOが45~65重量%、SiO
2
が20~40重量%、Al
2
O
3
が5~23重量%、MgOが5~10重量%となるように成分調整する成分調整工程と、成分調整された前記還元スラグを、還元雰囲気中で400~800℃の範囲において20℃/分以下の温度勾配で徐冷する徐冷工程と、を含み、前記徐冷工程では、前記γC2S及びメルビナイトを主成分として含む粉状の前記還元スラグ処理物(α-CaO・SiO
2
を主成分として含むものを除く)を得ることによっても解決される。
【0012】
このとき、前記徐冷工程では、成分調整された前記還元スラグに含まれるγC2SをαC2S及び/又はβC2Sへ転移促進させるためのスラグ粉化防止剤を添加せず、粉状の前記還元スラグ処理物を得ると良い。
また、前記還元スラグ処理物を水、セメント及び骨材と混錬し、コンクリート状にし、20%二酸化炭素濃度、相対湿度100%、温度40℃の養生槽にて5日間、湿空養生を行ったあとの還元スラグ処理物含有コンクリートの圧縮強度が20MPa以上となると良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電気炉還元スラグを用いてγC2S及び/又はメルビナイトを主成分とする組成物を効率良く製造することが可能な還元スラグ処理物の製造方法を提供することができる。
また、上記還元スラグ処理物、及び、上記還元スラグ処理物を含有し、二酸化炭素を好適に固定化させた還元スラグ処理物含有コンクリートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】CaO-SiO
2-Al
2O
3(MgO=10重量%)の三成分系状態図である。
【
図2】γC
2S及びメルビナイトの存在量を確認し、二酸化炭素活性を確認した試験例1の試験結果を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について
図1~
図2を参照して説明する。
本実施形態は、電気炉から排出される還元スラグを成分調整する「成分調整工程」と、成分調整された還元スラグを徐冷する「徐冷工程」と、を含み、当該還元スラグを用いてγC
2S及び/又はメルビナイトを主成分とする還元スラグ処理物を製造することを主な特徴とする「還元スラグ処理物の製造方法」の発明に関するものである。
また、「還元スラグ処理物」、「還元スラグ処理物含有コンクリート」の発明に関するものである。
【0016】
<還元スラグ処理物>
鉄鋼の製造工程には、高炉・転炉法と電気炉法があり、前者からは「高炉スラグ」及び「転炉スラグ」が排出され、後者からは「電気炉スラグ」がそれぞれ排出される。
電気炉では、主原料の鉄スクラップ(鉄くず)に外部から熱を加えて溶解し、酸化精錬及び還元精錬を行い、鋼を製造する。酸化精錬時に生成するスラグを「酸化スラグ」、還元精錬時に生成するスラグを「還元スラグ」と称し、酸化スラグ及び還元スラグを総称して「電気炉スラグ」と呼んでいる。
【0017】
「酸化スラグ」は、溶鋼を撹拌しながら、酸化精錬時において生成されるスラグである。酸化スラグは、金属鉄およびスラグに固溶している鉄酸化物を30%程度含むものであって、比較的密度の高い硬質スラグである。
「還元スラグ」は、酸化精錬後、酸化スラグを排出し、消石灰などを装入し、溶鋼中の酸素を除去する還元精錬時において生成されるスラグである。
還元スラグは、高炉スラグのようなCaO-SiO2-Al2O3-MgOを主成分とする組成物である。還元スラグ中に含まれるC2Sがα相又はβ相から低温変態のγ相へ転移すると、比較的低密度であることから砂状化(粉状化)が起こり、その後のハンドリング性が困難となってしまう(例えば、塩基度CaO/SiO2の重量比が約1.5以上のスラグは、その冷却過程において2CaO・SiO2の相転移によりα相又はβ相からγ相へ転移する性質がある)。そのため、通常、フッ素系やホウ素系のようなスラグ粉化防止剤を添加し、α相又はβ相からγ相への転移を抑制し、塊状のままで冷却処理されている。
【反応式1】
【0018】
例えば、上記反応式1に示す通り、転移温度675℃域でγ相への相転移を起こし、体積が1.12倍程度となり、塊全体で膨張して粉状化が起こり、ハンドリング性が悪いC
2S材料となる。なお、逆に言えば、電気炉で排出される還元スラグにおいては、γC
2Sが得やすい環境となっている。
一般に、電気炉から排出された還元スラグ(塊状のまま冷却処理されたもの)は、酸化スラグと混合され、未反応遊離石灰(f-CaO)等の未反応成分を水和させる養生を行った後に、路盤材等の土工材料として利用されている。
【0019】
「γC
2S」は、ダイカルシウムシリケートγ相とも称され、化学組成としてγ-2CaO・SiO
2で表される材料である。また、
図1に示すCaO-SiO
2-Al
2O
3(MgO=10重量%)の三成分系状態図において「C
2S」の結晶領域の組成となっている。
γC
2Sは、二酸化炭素に活性な材料であって、通常は水和活性を有さないものの、コンクリート混和材として利用価値が高い材料である。具体的には、水、少量のセメント及び骨材(細・粗)とともにγC
2Sを混錬し、モルタル・コンクリート状にした後に高濃度(例えば5~20%)の二酸化炭素と接することによって、短期間(例えば5日程度)で通常の強度を有する硬化モルタル・コンクリートを得ることができる。このとき、コンクリート中に大量の二酸化炭素を固定することができる。
γC
2Sは、一般に、石灰石及びケイ石を粉砕し、ロータリーキルンを用いて1200~1400℃域で焼成したものを粉砕することで得られる。このとき、温度が低いと未反応なCaOが残ってしまい、温度が高いと高温変態のβC
2Sが生成することになる。特に、酸化雰囲気中で処理するほどβC
2Sが残り易くなる。
なお、主原料に石灰石を使用すること、また焼成を行うことによって多量の化石燃料が必要となる。そのため、従来の製造方法では、二酸化炭素を固定するための材料としてγC
2Sを製造しようとしても、γC
2Sを製造した時点で既にカーボンポジティブになっている。
【0020】
「メルビナイト(Merwinite)」は、化学組成として3CaO・MgO・2SiO
2で表される材料である。また、
図1に示す三成分系状態図において「Merwinite」の結晶領域の組成となっている。
メルビナイトは、γC
2Sと同様に二酸化炭素に活性な材料であって、コンクリート混和材として利用価値が高い材料である。
【0021】
本実施形態の「還元スラグ処理物」は、γC2S及び/又はメルビナイトを主成分とする組成物であって、主要な化学成分としてCaO、SiO2、Al2O3、MgOを含むものである。なお、還元スラグ由来の化学成分をさらに含むものであっても良いし、添加剤や調整剤(例えば、精錬補助剤)由来の化学成分をさらに含むものであっても良い。
【0022】
(化学成分)
還元スラグ処理物は、CaO、SiO2、Al2O3、MgOの重量%の合計を100重量%とした化学成分においてCaOが30~70重量%、好ましくは35~70重量%、より好ましくは40~65重量%、より好ましくは45~62重量%、より好ましくは47~62重量%、より好ましくは55~62重量%となると良い。
また、上記化学成分においてSiO2が10~50重量%、好ましくは15~45重量%、より好ましくは18~45重量%、より好ましくは20~40重量%、より好ましくは28~31重量%となると良い。
また、上記化学成分においてAl2O3が1~40重量%、好ましくは1~30重量%、より好ましくは2~23重量%、より好ましくは2~15重量%、より好ましくは2~13重量%、より好ましくは5~10重量%となると良い。
また、上記化学成分においてMgOが1~20重量%、好ましくは5~15重量%、より好ましくは5~10重量%となると良い。
つまりは、還元スラグ処理物が、上記化学成分においてCaOが55~62重量%、SiO2が28~31重量%、Al2O3が5~10重量%、MgOが5~10重量%、各成分の合計が100重量%となると一層好ましい。
【0023】
上記化学成分であれば、γC2S及び/又はメルビナイトを主成分(主要生成物)とし、当該主成分を多く含む還元スラグ処理物を得ることができる。
このとき、SiO2及びAl2O3の両方の成分を多くすることで、γC2S及びメルビナイトを多く含む還元スラグ処理物を得ることができる。
また、SiO2の成分をAl2O3の成分よりも多くすることで、γC2S及びメルビナイトを多く含む還元スラグ処理物を得ることができる。
また、MgOの成分をAl2O3の成分よりも多くすることで、メルビナイトを多く含む還元スラグ処理物を得ることができる。
【0024】
(結晶状態)
還元スラグ処理物は、
図1に示すCaO-SiO
2-Al
2O
3(MgO=10重量%)の三成分系状態図において「C
2S」の結晶領域又は「メルビナイト」の結晶領域の組成となっていると良い。より好ましくは、「C
2S」の初晶域の組成となっていると良い。
そうすることで、γC
2S及び/又はメルビナイトを主成分(主要生成物)とし、当該主成分を多く含む還元スラグ処理物を得ることができる。
ここで、MgO=10重量%となっているが、特に限定されるものではなく、上述した通り、MgOが1~20重量%、好ましくは5~15重量%となっていれば良い。
なお、還元スラグ処理物は、必ずしも「C
2S」又は「メルビナイト」の結晶領域の組成となっていなくても良い。例えば、
図1に示す三成分系状態図において「C
2S」又は「メルビナイト」の結晶領域周辺の組成となっていても良い。あるいは、結晶状態に寄らず、上記化学組成を有する還元スラグ処理物であれば良い。その場合であっても、γC
2S及び/又はメルビナイトを主成分とする還元スラグ処理物を得ることができる。
【0025】
<還元スラグ処理物含有コンクリート>
本実施形態の「還元スラグ処理物含有コンクリート」は、上記還元スラグ処理物を含有し、二酸化炭素を固定化させたコンクリートである。
具体的には、水及びセメントと、骨材(細・粗)と、混和材としての還元スラグ処理物とを混練し、モルタル・コンクリート状にした後に高濃度(例えば5~20%)の二酸化炭素に養生させることで還元スラグ処理物含有コンクリートを得ることができる。
上記還元スラグ処理物含有コンクリート中には二酸化炭素が大量に固定されており、当該二酸化炭素の固定量が多くなるほど、コンクリートの圧縮強度が高くなる。
【0026】
<還元スラグ処理物の製造方法>
次に、本実施形態の製造方法によって行われる「成分調整工程」及び「徐冷工程」について詳しく説明する。なお、その他の工程については公知な技術を適宜採用することとして良い。
【0027】
「成分調整工程」では、電気炉で生成される還元スラグを、上記化学組成となるようにCaO、SiO2、Al2O3、MgOの化学成分を成分調整する。
詳しく説明すると、Al2O3、MgOの成分の増加を抑えて、CaO、SiO2を主成分となるように、電気炉内に精錬補助剤を添加して還元スラグの成分調整を行う。精錬補助剤としては、例えばMn合金、FeOあるいは製鋼スラグ等が挙げられる。
なお、上記精錬補助剤の添加以外の調整手段によって還元スラグの化学成分を成分調整することとしても良い。
電気炉内においては還元雰囲気が保持されると良い。
【0028】
また「成分調整工程」では、CaO-SiO
2-Al
2O
3(MgO=10重量%)の三成分系状態図において「C
2Sの初晶域」の組成となるように成分調整すると良い。
詳しく説明すると、電気炉で生成された還元スラグは、
図1に示す三成分系状態図において「C
2S」の初晶域に近い化学組成を有することが分かっている。そこで、当該還元スラグの化学組成をC
2S(CaO:65%、SiO
2:35%)の組成点に近づくように、電気炉内に例えば消石灰、ドロマイト及び/又はシリカ質原料等を添加して還元スラグを成分調整する。そうすることで、還元スラグをC
2Sの初晶域内となるように成分調整することができる。
なお、電気炉の耐火物保護のためにMgOの供給が必要となる。当該MgOを供給することで、γC
2Sに加えてメルビナイトを共存して得ることができる。
【0029】
「徐冷工程」では、成分調整された還元スラグを、電気炉内において還元雰囲気中で徐冷し、電気炉から取り出した後には、400~800℃の範囲において20℃/分以下の温度勾配で徐冷する。
詳しく説明すると、炉内で還元雰囲気を保持するために、例えばもみ殻等で上面を覆い、断熱保温状態を保持する。また、冷風を送風することや水散布を行うことは控えることとする。なお、上記以外の保持手段によって還元雰囲気を保持することとしても良い。
このように還元雰囲気を保持することで、鉄等の金属イオンが金属に還元され、還元スラグ内に固溶することを抑制できる。γC2S及び/又はメルビナイトを多く含む還元スラグ処理物を効率良く得ることができる。
なお、γC2Sは、αC2S及びβC2Sよりも不純物の固溶限(固溶限界)が小さい。そのため、還元スラグ中に含まれるC2Sを低温変態のγ相へ転移させた状態にすることで、還元スラグ内に固溶することがより抑制され、不純物の少ない還元スラグ処理物をえることができる。
【0030】
「徐冷工程」では、β相からγ相への転移温度(約675℃)前後において加温操作や断熱操作等を行い、温度勾配を緩やかにすることで、γC2Sを多く含む還元スラグ処理物を得ることができる。仮に、冷却が早いと、βC2Sの含有量が増加し、γC2Sの含有量が減少してしまう。
そのため、具体的には、電気炉から取り出した後に、650~700℃の範囲、好ましくは600~750℃の範囲、より好ましくは600~800℃の範囲、より好ましくは500~800℃の範囲、より好ましくは400~800℃の範囲において緩やかな温度勾配で徐冷すると良い。
また、上記温度範囲において30℃/分以下、好ましくは20℃/分以下、より好ましくは15℃/分以下、より好ましくは10℃/分以下、の温度勾配で徐冷すると良い。
【0031】
また「徐冷工程」では、成分調整された還元スラグに含まれるγC2SをαC2S及び/又はβC2Sへ転移促進させるスラグ粉化防止剤を添加しないと良い。
詳しく説明すると、従来は、冷却後の還元スラグのハンドリング性を上げるため、C2Sのβ相からγ相への転移に伴うスラグの粉状化を抑制すべく、ホウ酸ナトリウム等の
スラグ粉化防止剤を添加している。しかしながら、本実施形態では、γC2Sを多く含む還元スラグ処理物を効率良く得ることを目的としている。そのため、敢えてスラグ粉化防止剤を添加せず、還元スラグの徐冷を行うと良い。
なお、スラグ粉化防止剤としては、ホウ酸ナトリウムに限られず、フッ素系やホウ素系の粉化防止剤、その他のスラグ粉化防止剤であっても良く、当該スラグ粉化防止剤を添加しないこととすると良い。あるいは、γC2Sへの転移を防止するための添加剤、調整剤を添加しないと良い。
【0032】
なお、「徐冷工程」では、成分調整された還元スラグを、電気炉内において還元雰囲気中で徐冷するところ、電気炉から取り出した後には、必ずしも還元雰囲気中で徐冷することとしなくても良い。すなわち、電気炉外では酸化雰囲気中で徐冷することにしても良い。
また、電気炉内では通常の冷却を行い、電気炉外では徐冷を行うことにしても良い。
【0033】
以上のように、「成分調整工程」と、「徐冷工程」と、その他の処理工程とを経て、電気炉から生成される還元スラグから、γC2S及び/又はメルビナイトを主成分とする還元スラグ処理物を効率良く製造することができる。
特に、本製造方法により、電気炉から排出される還元スラグを直接処理して還元スラグ処理物をえることが可能である。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例について詳しく説明する。なお、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0035】
<実施例:還元スラグ処理物>
上記還元スラグ処理物の製造方法に基づいて、
図2に示す通り、(1)化学組成、(2)結晶状態、(3)冷却方法、(4)粉化防止材の添加有無、(5)酸化還元雰囲気について異なる条件としながら、電気炉から排出される還元スラグを用いて還元スラグ処理物を作製することを試みた。
【0036】
具体的には、(1)化学組成について、CaO、SiO
2、Al
2O
3、MgOの化学成分がそれぞれ異なるように還元スラグを成分調整した。なお、還元スラグ処理物においてCaO-SiO
2-Al
2O
3-MgOの化学成分の合計が90重量%以上であることから、本実施例ではこれら含有量の合計を100重量%とみなして比率により算出した。
図1はCaO-SiO
2-Al
2O
3に、10重量%のMgOを添加した場合の三成分系状態図である。
(2)結晶状態について、
図1に示す三成分系状態図において太枠で示したC
2Sの初晶域の組成となっている場合には「〇」とし、初晶域の組成外となっている場合には「×」とした。なお、CaO-SiO
2-Al
2O
3-MgO系におけるC
2Sの初晶域の化学組成については、CaO:45~65重量%、SiO
2:20~40重量%、Al
2O
3:5~23%、MgO:5~15%となる。
(3)冷却方法について、炉内でもみ殻を上面に覆い、断熱保温状態を保って還元スラグを冷却した。なお、冷風を送風することや水散布を行うことはしなかった。このとき、還元スラグを、400~800℃の範囲において20℃/分以下の温度勾配で徐冷したものを「〇」とし、通常の冷却をおこなったものを「×」とした。
(4)粉化防止材の添加有無について、γC
2Sの生成に伴う粉状化を抑制するためのスラグ粉化防止剤(ホウ酸ナトリウム)を添加したものを「〇」とし、添加しないものを「×」とした。
(5)酸化還元雰囲気について、還元雰囲気を保持しながら還元スラグを徐冷したものを「〇」とし、還元雰囲気を保持せずに還元スラグを徐冷したものを「×」とした。
本実施例では、上記(1)~(5)について異なる条件で実施例1~実施例18の還元スラグ処理物を作製した。
【0037】
<試験例1:評価試験>
図2に示す実施例1~実施例18の還元スラグ処理物の作製を行い、γC
2S及びメルビナイトの存在量を評価するとともに、二酸化炭素活性を評価する試験を行った。
【0038】
まず、各実施例の還元スラグ処理物に含まれるγC2S及びメルビナイト(C3MS2)の存在量を評価するために、還元スラグ処理物についてCu-Kα線による粉末X線回折分析を行った。すなわち、主要なピークの検出によってγC2S及びメルビナイトの有無を判定し、γC2S及びメルビナイトの存在量を求めた。
このとき、γC2S及び/又はメルビナイトの存在が認められ、合計の存在量について最も多く含有されているものを「++++」、多く含有されているものを「+++」、相応に含有されているものを「++」とした。また、上記評価「++」~「++++」ほどではないものの、γC2S及び/又はメルビナイトの存在が認められるものを「+」とし、一方で存在が認められないものを「-」とした。
【0039】
次に、各実施例の還元スラグ処理物の二酸化炭素活性を評価するために、還元スラグ処理物を混和材として還元スラグ処理物含有コンクリートを作製し、当該コンクリートの圧縮強度を求めた。なお、当該コンクリート中に固定される二酸化炭素の固定量が多くなるほど、コンクリートの圧縮強度が高くなる。
具体的には、還元スラグ処理物をブレーン比表面積4000cm2/gとなるように公知なテストミルを用いて粉砕し、粉砕されたスラグ粒子が約50μm以下となるように粉末度を調整した。そして、水(上水道水)と、普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)と、細骨材(静岡県大井川水系陸砂、表乾密度:2.59g/cm3、F.M.:2.71)と、還元スラグ処理物とを0.5:0.5:2.0:0.5の質量比(水:セメント:骨材:還元スラグ処理物)で量りとり、混練りした。そして、4cm×4cm×16cmのモルタルを作製し、1日間の脱型後、20%二酸化炭素濃度、相対湿度100%、温度40℃の養生槽にて5日間、湿空養生を行った。養生後に、圧縮強度を測定した(圧縮強度の測定について、非特許文献2参照)。
各実施例を用いたコンクリートの測定結果に対し、コンクリート製品の実用強度の基準に基づいて、圧縮強度が20MPa以上のものを「◎」、10~20MPaのものを「〇」、10MPa以下のものを「×」とした。
【0040】
(試験例1の結果、考察)
各実施例におけるγC
2S及び/又はメルビナイトの存在量の評価結果、二酸化炭素活性の評価結果をまとめたものを
図2に示す。
試験例1の試験結果から、実施例1、4~16の還元スラグ処理物については、主要生成物としてγC
2S及び/又はメルビナイトの存在が認められた。
また、実施例1、4~12については、γC
2S及び/又はメルビナイトが相応以上に含有されていることが分かった。
【0041】
一方で、実施例2については、実施例1と同じ化学組成ではあるものの、粉化防止剤が添加されたため、二酸化炭素活性を示さないβC2Sが多く含まれ、γC2Sがあまり含有されていない、あるいは含有されていないことが分かった。すなわち、粉化防止剤の添加によって、γC2S及び/又はメルビナイトの生成が抑制されることが分かった。
実施例3については、実施例1と同じ化学組成ではあるものの、通常冷却(急速冷却)が行われたため、γC2Sへの転移が起こらず、βC2Sが含まれ、γC2Sがあまり含有されていない、あるいは含有されていないことが分かった。すなわち、冷却方法によって、γC2S及び/又はメルビナイトの生成が抑制されることが分かった。
実施例13~16については、結晶状態がC2Sの初晶域の組成外となっていたため、γC2Sのピークは検出されたものの、CaO、MgO、メリライト等が主要生成物と認められた。すなわち、結晶状態によって、γC2S及び/又はメルビナイトの生成が抑制されることが分かった。
実施例17、18については、還元雰囲気を保持せず、酸化雰囲気となったため、γC2Sの生成量が低く抑えられた。すなわち、酸化還元雰囲気によって、γC2S及び/又はメルビナイトの生成が抑制されることが分かった。
【0042】
また、試験例1の試験結果から、γC2S及び/又はメルビナイトを主要構成物とする実施例1、4~12を用いたコンクリートについて、20MPa以上の圧縮強度を有することが分かった。すなわち、二酸化炭素活性(二酸化炭素固定量)がより高いことが分かった。
実施例13~16を用いたコンクリートについては、10MPa以上の圧縮強度を有することが分かった。すなわち、二酸化炭素活性が高いことが分かった。
一方で、実施例2、3、17、18については、上記基準に基づく圧縮強度を得ることができないことが分かった。すなわち、二酸化炭素活性が低いことが分かった。
【0043】
このように、上記還元スラグ処理物の製造方法について、(1)化学組成、(2)結晶状態、(3)冷却方法、(4)粉化防止材の添加有無、(5)酸化還元雰囲気の諸条件をより最適化することで、γC2S及び/又はメルビナイトを主成分とする還元スラグ処理物、還元スラグ処理物含有コンクリートを効率良く製造することが可能であることが分かった。