(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】自己環状化RNA構造体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20240802BHJP
C12N 15/55 20060101ALI20240802BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12N15/55
C12N15/63 Z
(21)【出願番号】P 2022554679
(86)(22)【出願日】2022-03-10
(86)【国際出願番号】 KR2022003377
(87)【国際公開番号】W WO2022191642
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】10-2021-0031225
(32)【優先日】2021-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520062823
【氏名又は名称】アールズィーノミクス・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ソン-ウク・イ
(72)【発明者】
【氏名】キョン・ヒョン・イ
(72)【発明者】
【氏名】スン・リュル・ハン
(72)【発明者】
【氏名】ジ・ヒョン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ソンチョル・キム
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/134791(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0305197(US,A1)
【文献】Nucleic Acids Research,2015年,Vol.43, No.4,pp.2454-2465
【文献】Mol. Ther. ,2005年,Vol.12, No.5,pp.824-834
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己環状化RNA構造体であって、
前記構造体は、5’-IGS-リボザイム-目的遺伝子-標的部位-3’の構造を有し、
前記IGS領域は、標的部位とグアニン(G):ウラシル(U)ゆらぎ塩基対を形成し、
前記ゆらぎ塩基対を形成するグアニンは、IGS領域の5’末端に位置し、
前記ゆらぎ塩基対を形成するウラシルは、標的部位領域の3’末端に位置し、
前記リボザイムは、グループIイントロンリボザイムである、自己環状化RNA構造体。
【請求項2】
前記標的部位領域は、目的遺伝子領域と重なる、請求項1に記載の自己環状化RNA構造体。
【請求項3】
前記IGS領域の塩基配列は、前記グアニンを除いて標的部位の領域の塩基配列と逆相補的であることを特徴とする、請求項1に記載の自己環状化RNA構造体。
【請求項4】
前記リボザイムは、配列番号6の塩基配列を含む、請求項1に記載の自己環状化RNA構造体。
【請求項5】
前記構造体は、IGS領域の5’方向に延長したヌクレオチドを含むP10ヘリックスを形成する、請求項1に記載の自己環状化RNA構造体。
【請求項6】
前記構造体は、IGS領域の5’方向及び標的部位の3’方向に延長したヌクレオチドを含むP1ヘリックスを形成する、請求項1に記載の自己環状化RNA構造体。
【請求項7】
前記構造体は、P10ヘリックスを形成しない、請求項6に記載の自己環状化RNA構造体。
【請求項8】
前記構造体は、IGS領域の5’方向にAS(アンチセンス配列)領域と、
標的部位の3’方向に前記AS領域と相補的に結合することができるABS(アンチセンス結合配列)領域と、
をさらに含む、請求項1又は請求項5に記載の自己環状化RNA構造体。
【請求項9】
前記AS領域の長さは、50~400ntである、請求項8に記載の自己環状化RNA構造体。
【請求項10】
前記目的遺伝子領域は、5’末端にIRES領域を含む、請求項1に記載の自己環状化RNA構造体。
【請求項11】
前記構造体は、リボザイム領域と目的遺伝子領域がランダムな塩基配列からなるスペーサ領域に連結された、請求項1に記載の自己環状化RNA構造体。
【請求項12】
前記構造体は、目的遺伝子領域と標的部位領域がランダムな塩基配列からなるスペーサ領域に連結された、請求項1に記載の自己環状化RNA構造体。
【請求項13】
自己環状化RNA構造体を発現する、請求項1に記載の自己環状化RNA構造体。
【請求項14】
前記自己環状化RNA構造体は、
前記自己環状化RNA構造体を発現するために動作可能に連結されたプロモータを
更に含む、請求項13に記載の自己環状化RNA構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己環状化RNA構造体などに関する。
【背景技術】
【0002】
環状RNA(Circular RNA;circRNA)は、共有結合で連結された一本鎖の転写物(transcript)であって、RNA-seqデータと新たに開発された生物情報学的アプローチにより、様々な生命体で数万個を越える種類のcircRNAが確認された。真核生物において、circRNAは、mRNAからバックスプライシング(back-splicing)を介して生成され、生体内でマイクロRNA(microRNA)スポンジ(sponge)機能を実行して遺伝子発現を調節できることが知られている。circRNAが免疫原性を引き起こすか否かは知られておらず、その構造的特性によって生体内で非常に安定して存在する。
【0003】
一方、最近メッセンジャーRNA(mRNA)を用いた治療薬の開発が活発である。しかし、mRNAは生体内で容易に分解され、比較的短い半減期を有するという限界がある。このような限界を克服するために、mRNAにポリ(A)鎖(poly(A)tail)を付けて安定性を向上させるなどの研究が進められている。同様に、米国特許第10,953,033号は、circRNAの構造的特性に基づいて生体内での遺伝子発現を目的にcircRNAを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が達成しようとする技術的課題は、自主的に標的化及びスプライシング反応を行って環状化されるRNA構造体を提供することにある。
【0006】
しかし、本発明が達成しようとする技術的課題は、以上で言及した課題に限定されず、言及されていない他の課題は、以下の記載から当該技術分野の通常の技術者に明確に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、以下の構造を有する自己環状化RNA構造体を提供する。
【0008】
5’-IGS(internal guide sequence)-リボザイム(Ribozyme)-目的遺伝子(gene of interest)-標的部位(target site)-3’。
【0009】
本発明の一実施形態では、前記IGS領域は、標的部位とグアニン(Guanine、G):ウラシル(Uracil、U)ゆらぎ塩基対(wobble base pair)を形成し、前記ゆらぎ塩基対を形成するグアニンは、IGS領域の5’末端に位置し、前記ゆらぎ塩基対を形成するウラシルは、標的部位領域の3’末端に配置することができる。
【0010】
本発明の別の実施形態では、前記IGS領域は、5’-GNNNNN-3’の塩基配列を含む又はそれからなり、前記標的部位領域は、5’-N’N’N’N’N’U-3’の塩基配列を含む又はそれからなるものであり得る。前記IGS領域のNと標的部位領域のN’は、それぞれ独立してA、G、C、又はUであってもよいが、好ましくは、1つのヌクレオチド以上が、IGS領域と標的部位領域が相補的に結合することができるヌクレオチドであり得る。
【0011】
本発明のまた別の実施形態では、前記IGS領域の塩基配列は、前記グアニンを除いて標的部位の領域の塩基配列と逆相補的であり得る。
【0012】
本発明の別の実施形態では、前記リボザイムは、グループIイントロンリボザイム(GroupIintron ribozyme)であり得、前記リボザイムは、配列番号6の塩基配列を含む又はそれからなるものであり得る。
【0013】
本発明のまた別の実施形態では、前記構造体は、IGS領域の5’方向に延長したヌクレオチドを含むP1ヘリックス(helix)及びP10ヘリックスを形成することができ、ここでP1ヘリックスは、標的部位の3’方向に延長したヌクレオチドと共にIGS領域と標的部位の相補的な結合がなされる領域で形成され、P10ヘリックスは、IGS領域の5’方向に延長したヌクレオチドがリボザイムとGOI領域との間に位置する前記延長したヌクレオチドと逆相補的な配列と相補的な結合がなされる領域で形成され得る。前記P1ヘリックスを形成する延長したヌクレオチドの長さは3-ntであってもよく、P10ヘリックスを形成する延長したヌクレオチドの長さは6-ntであってもよい。
【0014】
本発明のまた別の実施形態では、前記構造体は、P1ヘリックスは形成するが、P10ヘリックスは形成しなくてもよい。
【0015】
本発明のまた別の実施形態では、前記構造体は、5’末端及び3’末端に互いに相補的に結合することができるAS(アンチセンス配列(antisense sequence))領域と、ABS(アンチセンス結合配列(antisense binding sequence))領域とを含み得る。
【0016】
本発明のまた別の実施形態では、前記ABS領域は、AS領域と逆相補的(reverse complementary)な配列からなることができる。
【0017】
本発明のまた別の実施形態では、前記AS領域の長さは、GOIに応じて可変であり得るが、10~500nt、好ましくは50nt超過400nt未満、より好ましくは150~350ntであり得る。
【0018】
本発明のまた別の実施形態では、前記GOI領域は、5’末端にIRES(internal ribosome entry site)領域を含んでもよく、開始コドン及び終結コドンを含み得る。
【0019】
本発明のまた別の実施形態では、前記構造体は、ランダムな塩基配列からなるスペーサ(Spacer)領域をさらに含んでもよく、前記スペーサ領域は、IGS領域と目的遺伝子領域との間、及び/又は目的遺伝子領域と標的部位領域との間に配置され得る。
【0020】
本発明のまた別の実施形態では、前記スペーサ領域は、ポリ(A)(poly(A))を含む又はそれからなるものであってもよく、ポリ(A)は、アデニン(A)が繰り返し連結されたポリヌクレオチドであり、前記Aは、10から50回繰り返して連結されたものであり得、好ましくは30回繰り返して連結されたものであり得る。
【発明の効果】
【0021】
本発明の自己環状化RNA構造体は、DNAベクターで発現させると同時に別のGTP処理なしに自己標的化及びスプライシング(self-targeting & splicing)反応により環状化(circularization)されてcircRNAを形成することができ、circRNAは目的遺伝子のみから構成され、目的遺伝子はIRES領域、開始コドン、及び終結コドンを含むペプチド又はタンパク質の迅速な発現が可能な長所がある。また、circRNAは、環状の構造で5’及び3’末端が露出しないため安定的かつ高い半減期を有し、miRNA、anti-miRNA、shRNA、aptamer、mRNAワクチン、mRNA治療薬、抗体、ワクチン補助剤、CAR-T mRNAなどの機能性RNAをcircRNAで調製し、細胞内で高い安定性を有するようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1A】IGS、リボザイム、目的遺伝子、及び標的部位領域のみ含む本発明の自己環状化RNA構造体が、自己標的化及びスプライシング(STS)反応によってcircRNAに形成される過程の模式図である。
【
図1B】IGS、リボザイム、目的遺伝子、及び標的部位領域のみ含む本発明の自己環状化RNA構造体が、自己標的化及びスプライシング(STS)反応によってcircRNAに形成される過程の模式図である。
【
図2A】AS、IGS、リボザイム、目的遺伝子、標的部位、及びABS領域を含む本発明の自己環状化RNA構造体がSTS反応によってcircRNAに形成される過程の模式図である。
【
図2B】トランスジーン(transgene)の翻訳を可能にするために目的遺伝子領域にIRESと終結コドンを含み、P1ヘリックス及びP10ヘリックスを形成できるように5’方向に延長したヌクレオチドをさらに含む、本発明の自己環状化RNA構造体と、構造体がSTS反応によってcircRNAに形成される過程の模式図である。
【
図2C】本発明の自己環状化RNA構造体の一態様である。
【
図2D】本発明の自己環状化RNA構造体発現ベクター調製のためのDNAテンプレートの塩基配列である。
【
図3】本発明の自己環状化RNA構造体発現ベクターの試験管内転写後に直ぐ、追加のGTP処理なしでcircRNAが発生することを確認するために、ポリアクリルアミドゲル上で電気泳動の結果である。転写後直ぐ(direct STS)に確保された試料と、追加のGTPを処理して一次及び二次環状化反応を誘導する一次及び二次STS反応工程後の試料を利用し、各試料の一部は、RNase Rを処理して線状RNA(linear RNA)を除去することによって試料中のcircRNAを濃縮して電気泳動した。
【
図4A】
図3の結果からcircRNAと推定される候補1(Candidate1)がcircRNAであることを検証したものであり、
図4Aは、前記候補1バンドからRNAを抽出してRT-PCRを行った結果である。
【
図4B】
図3の結果からcircRNAと推定される候補1(Candidate1)がcircRNAであることを検証したものであり、
図4Bは、前記候補1バンドから抽出したRNAの塩基配列分析結果である。
【
図5】
図4の結果で候補1バンドのRNAにモノマー(monomer)であることを検証したものであり、
図3の結果においてcircRNAと推定される候補1及び2バンドからRNAを抽出してMg
2+を処理してニック(nick)を誘導した後、電気泳動の結果である。
【
図6A】本発明の自己環状化RNA構造体発現ベクターが細胞内でcircRNAを生成し、circRNAが含むトランスジーンが発現されることを確認した結果である。具体的には、
図6Aは、前記自己環状化RNA構造体発現ベクターの構造である。
【
図6B】本発明の自己環状化RNA構造体発現ベクターが細胞内でcircRNAを生成し、circRNAが含むトランスジーンが発現されることを確認した結果である。具体的には、
図6Bは、ルシフェラーゼ活性分析(luciferase activity assay)を介したトランスジーンの発現を確認した結果である。
【
図6C】本発明の自己環状化RNA構造体発現ベクターが細胞内でcircRNAを生成し、circRNAが含むトランスジーンが発現されることを確認した結果である。具体的には、
図6Cは、トランスジーンがcircRNAで発現したことを検証したRP-PCR及び塩基配列分析の結果である。
【
図6D】本発明の自己環状化RNA構造体発現ベクターが細胞内でcircRNAを生成し、circRNAが含むトランスジーンが発現されることを確認した結果である。具体的には、
図6Dは、トランスジーンがcircRNAで発現したことを検証したRP-PCR及び塩基配列分析の結果である。
【
図7A】HPLCによるcircRNA精製条件及び精製結果である。具体的には、
図7Aは、ΜLtra HPLCシステムを用いたHPLC分析条件である。
【
図7B】HPLCによるcircRNA精製条件及び精製結果である。具体的には、
図7Bは、試験管内転写後に直ぐに確保した試料をカラム精製した結果である。
【
図7C】HPLCによるcircRNA精製条件及び精製結果である。具体的には、
図7Cは、前記試料にRNase Rを処理した後、カラム精製した結果である。
【
図8A】HPLCによるcircRNA精製条件及び精製結果である。具体的には、
図8Aは、カラム精製を介して確保したフラクション(fraction)でピーク(peak)を確認した結果である。
【
図8B】HPLCによるcircRNA精製条件及び精製結果である。具体的には、
図8Bは、
図8Aでピークが際立った、7番、10番、11番、12番、及び13番のフラクションの電気泳動の結果である。
【
図9】本発明の自己環状化RNA構造体において、AS領域がSTS反応及び環状化に及ぼす影響を確認したものであり、
図9は、互いに異なる長さのAS領域を含む自己環状化RNAの構造である。
【
図10】本発明の自己環状化RNA構造体において、AS領域がSTS反応及び環状化に及ぼす影響を確認したものであり、
図10は、前記RNAを発現するベクターの試験管内転写後に確保された試料の電気泳動の結果である。
【
図11】本発明の自己環状及びRNA構造体におけるスペーサ(Spacer)領域がSTS反応及び環状化に及ぼす影響を確認したものであり、
図11は、対照群スペーサ(control spacer)と様々な長さのポリ(A)スペーサ(poly(A)Spacer)を含む自己環状化RNAの構造である。
【
図12】本発明の自己環状及びRNA構造体におけるスペーサ(Spacer)領域がSTS反応及び環状化に及ぼす影響を確認したものであり、
図12は、前記RNAを発現するベクターの試験管内転写後に確保された試料の電気泳動の結果である。
【
図13】P1領域のみ含む自己環状化RNA;P1及びP10領域のみ含む自己環状化RNA;及びP1領域、P10領域、及びAS領域を含む自己環状化RNA;のリボザイムによって切断(cleavage)される領域付近の塩基配列と各領域と示したものである。
【
図14】P10及びAS領域がなく、P1領域のみ含む自己環状化RNA発現ベクター調製のためのDNAテンプレートの塩基配列である。
【
図15】
図13の各自己環状化RNA発現ベクターの試験管内転写後に確保された試料を電気泳動の結果である。
【
図16A】P10及びAS領域がなく、P1領域のみ含む自己環状化RNA発現ベクターにおいて、試験管内転写後に自己環状化RNA構造体がcircRNAに形成されることを電気泳動により確認した結果である。
【
図16B】P10及びAS領域がなく、P1領域のみ含む自己環状化RNA発現ベクターにおいて、試験管内転写後に自己環状化RNA構造体がcircRNAに形成されることを電気泳動により確認した結果である。
【
図17】本発明の自己環状及びRNA構造体におけるP1領域の塩基配列がSTS反応及び環状化に及ぼす影響を確認したものである。具体的には、
図17は、互いに異なる塩基配列のP1領域を設計したものである。
【
図18】本発明の自己環状及びRNA構造体におけるP1領域の塩基配列がSTS反応及び環状化に及ぼす影響を確認したものである。具体的には、
図18は、
図17のP1領域を有する自己環状化RNA発現ベクターの試験管内転写後に確保される試料の電気泳動の結果である。
【
図19】本発明の自己環状及びRNA構造体におけるP1領域の塩基配列がSTS反応及び環状化に及ぼす影響を確認したものである。具体的には、
図19は、AU-rich P1領域を有する自己環状化RNA発現ベクターと2-site P1領域を有する自己環状化RNA発現ベクターの試験管内転写後に確保される試料の電気泳動の結果であり、環状RNAを確認するRT-PCR電気泳動の結果である。
【
図20A】自己環状化RNA構造体の必須構成のみを簡潔に示したものであり、
図20Aは、IGS、リボザイム、及びGOI領域と3’末端にウラシル塩基のみを含むRNA構造体だけでもcircRNAの調製が可能である。
【
図20B】自己環状化RNA構造体の必須構成のみを簡潔に示したものであり、
図20Bは、GOIの3’末端にウラシル塩基が含まれている場合、単にIGS、リボザイム、及びGOI領域のRNA構造体だけでもcircRNAの調製が可能であることを示したものであり、この場合、生成されるcircRNAは、GOIのみで構成されることを示した模式図である。言い換えれば、
図20Bは、GOIのどの部位でも5つの唯一の塩基配列の後にウラシルが含まれている場合、その部分を3’末端としてGOIの3’側の残り部分をリボザイムの直後に送り、追加のウラシルなしでGOIだけで環状RNAが構成される模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明者らは、circRNAの調製ためにトランススプライシングリボザイム(trans-splicing ribozyme、T/S ribozyme)を使用して目的遺伝子を搭載したRNAが自己標的化及びスプライシング反応を行って環状化されるシステム(Circularization system by self-targeting & splicing reaction)を考案した(
図1A及び
図1B)。
【0024】
グループIイントロンリボザイム(GroupIintron ribozyme)は、2回の連続的なエステル交換(trans-esterification)反応によって標的RNAを切断した後、切断された3’末端に別に存在する転写体を互いに連結してトランススプライシング(trans-splicing)を誘導してもよい。
【0025】
ここで、本発明のシステムは、目的遺伝子(gene of interest、GOI)の5’方向に内部ガイド配列(internal guide sequence、IGS)を構成し、3’方向に標的部位を構成し、IGSが標的部位と相補的に結合するようにするが、グアニン(G):ウラシル(U)ゆらぎ塩基対を形成させて、GOIとIGSとの間に位置するリボザイム(ribozyme)による切断及び接合を誘導してcircRNAを調製することができる(
図2A及び
図2B)。
【0026】
一方、本発明者らは、グループIイントロンリボザイムのトランススプライシング効率を向上させるための以前の研究(Mol Ther.2005 Nov;12(5):824-34.)に着眼して、
図2Cに図式化されたように自己環状化RNA構造体の5’及び3’末端に互いに相補的に結合が可能なAS(アンチセンス配列)領域とABS(アンチセンス結合配列)が存在し、リボザイムの二次構造の前/後にP1及びP10ヘリックスが形成されるように自己環状化RNA構造体を設計し、T7プロモータ下でRNA構造体を発現することができるDNAテンプレート(DNA template)を調製した(実施例1)。
【0027】
次に、DNAテンプレートを挿入したベクターを調製し、これを試験管内で転写(in vitro transcription、IVT)させた後、circRNAの形成を確認した。その結果、ベクターは、自己環状化RNA構造体を発現し、RNA構造体は、GTPの追加がなくても、転写後に即座に自己標的化及びスプライシング(self-targeting and splicing;STS)反応によってモノマーのcircRNAを形成することが分かった(実施例2)。
【0028】
さらに、本発明者らは、自己環状化RNA構造体発現ベクターが細胞内でも本発明のRNA構造体を発現し、発現したRNAがcircRNAの形態で搭載した目前遺伝子を発現できることを確認しようとした。具体的には、細胞内で遺伝子(transgene)の翻訳(translation)が可能なように目的遺伝子内にIRES及び終結コドンを含ませて、ガウシアルシフェラーゼ(gaussian luciferase)を目的遺伝子内にトランスジーン(transgene)として利用してプラスミドベクターを調製し、プラスミドベクターを細胞内に形質転換してcircRNAの生成及びルシフェラーゼ活性(luciferase activity)を確認した。その結果、調製されたプラスミドベクターが細胞内で自己環状化RNA構造体を発現し、構造体は、リボザイムによってcircRNAに環状化され、circRNAで目的遺伝子が発現することを分子レベルで確認することができた(実施例3)。
【0029】
次に、本発明者らは、IVT上で即座にSTS(direct STS)反応によって効率的にcircRNAを形成できるようにRNA構造体最適化を試みた。
【0030】
先ず、具体的な試験により、IVT上のAS領域の長さによるdirect STS反応率を確認した。具体的には、AS領域とABS領域の長さが50、100、150、200、250、又は300-ntとなるように自己環状化RNA発現ベクターを調製し、ベクターをIVTさせた後、direct STS効率を確認した。その結果、200-nt以上の長さで自己環状化効率が顕著に減少することを確認することができた。一方、50、100、及び150-ntの長さで自己環状化効率は類似していたが、50又は100-ntの長さのAS領域及びABS領域を含む場合、試験管内転写反応自体が減少することを確認し、cricRNA調製効率の観点から、AS領域とABS領域の長さは、150-ntが好ましいことを確認した(実施例5)。
【0031】
一方、AS領域及びABS領域の長さにともなうcircRNAの調製効率を確認したのと同様に、IVT上でスペーサ領域の長さ及び塩基配列にともなうcircRNAの調製効率を確認した結果、その長さと塩基配列がcircRNAの調製効率に大きい影響は与えないものの、30個のアデニン(A)が連結されていることが、リボザイムとEMCV IRESの場合において、リボザイムとIRESの狭い間隔によって発生し得る構造的衝突を生じないために十分であることが分かった(実施例6)。
【0032】
本発明において、リボザイムは、連続的なエステル交換反応が可能なグループIイントロンリボザイムを用いた。グループIイントロンリボザイムは、標的部位切断後に切断された3’末端に別に存在する転写体を互いに連結してトランススプライシングを誘導するが、自己環状化RNA構造体では別に存在する転写体でないGOIの5’部位を切断された3’末端に連結することで、トランススプライシング効率を高めることが知られているP1及びP10ヘリックス領域と自己環状化RNA構造体の両末端のAS領域及びABS領域が環状化の効率にもプラスの影響を及ぼすかを確認することにした。
【0033】
具体的には、本発明者らは、P1ヘリックス領域のみ含むか、P1及びP10ヘリックス領域のみ含むか、又はP1及びP10ヘリックスとAS領域を全て含む自己環状化RNA発現ベクターを調製してベクターをIVTさせた後、direct STS効率を確認した。その結果、驚くべきことに自己環状化RNA構造体におけるP10ヘリックス領域は、P1ヘリックス及びP10ヘリックス領域の存在下でcircRNAの調製効率を低減させることが分かった。一方、AS領域なしでP1ヘリックス領域のみ含む場合でも優れたcircRNAの調製効率を示した(実施例7)。
【0034】
さらに、本発明者らは、最終産物であるcircRNAに目的遺伝子のみを残せるように、IGSのみがP1ヘリックスを形成するように自己環状化RNA構造体を設計し、様々なIGS配列でSTS反応が発生することを確認した。その結果、驚くべきことにIGS領域のみがP1ヘリックスを形成する場合でも、DNAで発現された自己環状化RNA構造体のSTS反応が誘導され、さらにIGS領域と標的部位領域とが互いに相補的でないにも関わらず、circRNAが形成されることを確認した。しかし、IGS領域と標的部位領域とが互いに相補的でない場合、所望しない部位での非特異的な反応が起こり得、望ましくない産物が生成される可能性がある。5’-GNNNNN-3’のIGS領域と5’-N’N’N’N’N’U-3’の標的部位領域とは、互いに相補的に結合が可能な塩基配列の比率が増加するほどcircRNAの調製効率が増加であり、特定配列でより高いcircRNAの調製効率を示すことが分かった(実施例8)。
【0035】
以上から、本発明者らは、
図1Aに図式化されたRNA構造体のみでSTS反応によりcircRNAを取得することができ、
図20Aに図式化された自己環状化RNA構造体は、
図20Bの模式図のようにcircRNA前駆体において、GOI3’末端にU塩基を含む目的遺伝子のみで構成されたcircRNAを形成し得ることを確認した。
【0036】
一方、P1ヘリックスは、グループIイントロンリボザイムの二次構造形成時にリボザイムの剪断(5’方向)方向に連結された塩基配列とリボザイムによって接合が誘導される転写体の3’方向の塩基配列が相補的な結合によって形成されるヘリックス構造を意味し、P10ヘリックスは、リボザイムの剪断領域とリボザイムによって切断される転写体の5’方向の塩基配列が相補的な結合によって形成されるヘリックス構造を意味する。
【0037】
本発明において、P1ヘリックスは、本発明の自己環状化RNA構造体で5’末端のIGSと3’末端の標的部位の相補的な結合によって形成することができ、P10ヘリックスは、5’末端の延長塩基配列とリボザイムの後端(3’方向)に連結された塩基配列が相補的な結合によって形成されるヘリックス構造を意味する。
【0038】
本明細書において、P1ヘリックスを形成する塩基配列をP1領域又はP1ヘリックス領域と呼び、同様にP10ヘリックスを形成する塩基配列をP10領域又はP10ヘリックス領域と命名する。
【0039】
本発明において、IGS領域の塩基配列は、5’-GNNNNN-3’であり、標的部位領域の塩基配列は、5’-N’N’N’N’N’U-3’であり、P1ヘリックスは、IGS領域と標的部位領域が互いに相補的に結合して形成することができ、ここで、重複的な表現を排除するために、P1ヘリックス領域の技術はIGS領域の塩基配列と混用して使用してもよい。
【0040】
本発明において、P1ヘリックスは、IGS領域の5’方向に延長塩基配列を含むように形成することができ、自然に延長塩基配列と逆相補的配列の塩基配列が標的部位の3’方向に延長されてP1ヘリックスを構成する。ここで、延長塩基配列が存在する場合、本明細書ではIGS領域と区分するために延長塩基配列領域をP1と表示する。P10ヘリックスの場合も同様である。
【0041】
一方、本発明において、標的部位領域は、IGS領域と相補的な結合をする塩基配列を示すものであり、IGS領域の塩基配列の設計によって目的遺伝子(GOI)領域と重なることができ、このときにも、IGS領域と相補的に結合する領域を特定するために、目的遺伝子内でIGS領域と相補的な結合をする領域を標的部位に区分して命名する。言い換えれば、本発明における標的部位は、目的遺伝子領域の一部又は全部と重なる、又は目的遺伝子とは別に存在してもよい。
【0042】
本発明において、AS(アンチセンス配列)領域は、自己環状化RNA構造体の5’末端に位置し、RNA構造体の3’末端に位置するABS(アンチセンス結合配列)領域の塩基配列と水素結合を目的とし、本発明において、AS領域は、ABS領域と必須的に共存するものであり、AS領域の不存在は、ABS領域の不存在を含む意味として理解され、同様にAS領域を含むRNA構造体は、ABS領域も含むものと理解される。
【0043】
一方、本発明者らは、自己環状化RNA構造体のSTS反応による環状化効率において、P1領域、P10領域、及びAS領域の3種構成の存否が及ぼす影響を確認した結果、P1及びP10領域とAS領域を全て含む場合、P1領域のみ含む場合、P1及びP10領域のみ含む場合の順序でcircRNAの生成量が多いことを確認し、P1領域のみ含む場合の自己環状化RNA構造体も十分な効率で環状化されてcircRNAを生成することを確認し、本発明は、P1領域のみ含む場合の自己環状化RNA構造体を提供する。
【0044】
従って、本明細書においてP1領域のみ含む自己環状化RNA構造体とは、P10領域とAS領域が存在しないことを意味し、他の構成を排除する意味で使用されたものではない。同様に、P1領域及びAS領域のみ含む自己環状化RNA構造体は、P10領域が存在しないことを意味するものである、P10領域以外の他の構成を排除する意味で使用されたものではない。
【実施例】
【0045】
以下、添付の図面を参照しながら実施形態を詳細に説明する。しかし、実施形態には、様々な変更を加えることができるため、特許出願の権利範囲はこれらの実施形態によって制限又は限定されることはない。実施形態に対する全ての変更、均等物ないし代替物が権利範囲に含まれるものと理解されるべきである。
【0046】
実施形態で使用された用語は、単に説明の目的で使用されたものであり、限定することを意図するものと解釈されるべきではない。単数の表現は、文脈上明らかに異なる意味をもたない限り、複数の表現を含む。本明細書において、「含む」又は「有する」などの用語は、明細書上に記載の特徴、数字、工程、動作、構成要素、部品、又はそれらを組み合わせたものが存在すること指定するものであり、1つ又はそれ以上の他の特徴や数字、工程、動作、構成要素、部品、又はそれらを組み合わせたものの存在又は付加の可能性を予め排除しないものとして理解されるべきである。
【0047】
別の定義がない限り、技術的又は科学的な用語を含む本発明で使用される全ての用語は、実施形態が属する技術分野で通常の知識を有する者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。一般に使用される所定の用語は、関連技術の文脈上で有する意味と一致する意味を有するものとして解釈されるべきであって、本出願で明確に定義されない限り、理想的又は過度に形式的な意味として解釈されるべきではない。
【0048】
また、図面を参照して説明する際に、図面の符号に関係なく、同一の構成要素は同一の参照符号を付与し、これらに対する重複する説明は、省略することにする。実施形態の説明において、関連する公知技術に対する具体的な説明が実施形態の要旨を不要に曖昧にすると判断される場合には、その詳細な説明は省略する。
【0049】
実施例1.自己環状化RNA設計及びRNA発現ベクター調製
自己環状化RNAは、
図2Cのように設計し、これを発現するためのDNAテンプレートに試験管内転写反応のためにT7プロモータ(promoter)配列をさらに含めた(
図2D)。DNAテンプレートは、T7 Circular Forward primer:5’-GGGATTCGAACATCGATTAATACGACTCACTATAGGGGCATCGATTGAATTGTCGA-3’(Tm=77.5℃)、及びT7 Circular Reverse primer:5’-AGATCTCTCGAGCAGCGCTGCTCGAGGCAAGCTT-3’(Tm=79.4℃)を使用してPCRで増幅し、DNAテンプレート増幅産物は、PstI制限酵素を使用してpTOP TAV2 cloning vector(Enzynomics)に挿入して自己環状化RNA発現ベクターを調製した。
【0050】
実施例2.試験管内転写及び自己環状化の確認
2-1.試験管内転写(In vitro transcription、IVT)
上記の実施例1で調製した自己環状化RNA発現ベクターをNEBのHiScribe T7 High Yield RNA Synthesis Kitを使用してメーカーのプロトコルに従って試験管内転写を行った。具体的には、20μL scale(1μg T7 DNA template、1X Reaction buffer、10mM each ATP、UTP、CTP、GTP、T7 RNA polymerase mix 2μL)で、37℃で3時間反応後、29μLのNuclease-free waterを追加した後、RNase-free DNase I(10U/μL)を1μL入れて37℃で30分反応させ、転写後に直ぐ環状化(direct STS)反応を誘導した。
【0051】
次に、自己環状化反応が完了する工程を確認するために、追加の環状化反応を誘導した。具体的には、最初の自己標的化及びスプライシング(1stSTS)反応を誘導するために、さらにNuclease-free water 28μLと20μLの5X STS buffer(50mM Hepes(pH7.0)、150mM NaCl、5mM MgCl2)、2μLの100mM GTP(最終2mM)を添加して、100μLの容量を作り、37℃で1時間の間自己環状化反応をさせた。そして、55℃で15分間加熱した後、Monarch RNA cleanup kit(NEB)を使用してカラム精製を行った。カラム精製された50μLの試料に再び20μLの5X STS buffer、100mM GTP(最終2mM)、Nuclease-free water 28μLを入れて最終100μLを作り、37℃で3時間反応させて2番目のSTS(2ndSTS)反応を誘導した。反応後に55℃で8分加熱し、Monarch RNA cleanup kit(NEB)を使用してカラム精製を行い、Nanodrop(サーモフィッシャーサイエンティフィック社(Thermo Fisher Scientific)製品)装備を使用して濃度を測定した。
【0052】
一方、反応産物で線状RNAを除去するために1番目及び2番目のSTS反応後のカラム精製された試料中の一部に対してRNase Rを処理した。具体的には、最大100μg程度のカラム精製されたIVT RNAに、10μLの10X RNase R reaction buffer(10X:0.2M Tris-HCl pH 8.0、1M KCl、1mM MgCl2)、RNase R 20 Unitを添加して(水で容量を100μLに合わせる)37℃で30分反応させた後、さらにRNase R 10 unitを添加して30分さらに反応させた後、Monarch RNA cleanup kit(NEB)を使用してカラム精製を行い、Nanodropで濃度を測定した。
【0053】
各STS工程別に得られたRNAと各工程別に得られたRNAにRNase Rを処理した試料の各250ngは、10M Urea-BPB(1X TBE)dyeと1:1で混合し、75℃で5分間加熱した後4% Polyacrylamide-7M Urea denature PAGE(50℃温度保持し、50W条件で2時間電気泳動)を行い、GelをSYBR Gold Nucleic Acid Stain製品(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)で染色してイメージクオント800(ImageQuant 800)(Cytiva社製品)を使用して分析した。
【0054】
その結果、
図3で確認できるように、RNase Rを処理するとRNase Rにうまく切断されず、豊富になるRNAバンドが現れ(候補1)、これ以外にRNase R処理にもかかわらず、明確に観察可能なバンドが確認された(候補2(Candidate2)及びNicked環状RNAと推定されるバンド)。また、追加の1
st及び2
ndSTS反応を行わなくとも、既にdirect STS反応、即ち試験管内転写反応のみでcircRNAと推定される物質が十分に作られることを確認できた。
【0055】
2-2.自己環状化の確認
次に、PAGEを行った結果、RNase Rによって切断されないRNAバンドのうち、候補1がcircRNAであることを検証するためにRT-PCR塩基配列分析を行った。具体的には、PAGEで候補1の位置のバンドを切断してつぶした後、37℃で3時間から最大16時間まで水に溶出(elution)してエタノール沈殿(Ethanol precipitation)で精製した環状RNA試料とリボザイム(ribozyme)部位とアンチセンス(antisense)部位が存在せず、環状化することができない線状RNAを対照群としてcircRNAが作られた時にのみPCR増幅が可能なプライマー(primer)を使用してRT-PCRを行った。
【0056】
逆転写(Reverse transcription;RT)は、OneScript Plus RTase(Abm社)を利用し、125ngの各RNA(対照群RNAと環状RNAと推定されるRNAにRNase Rを処理又は未処理の試料)を70℃で5分間加熱後、氷上に置き、順に5X RT buffer 4μL、10mM dNTP mix 1μL、2μM reverse primer(Circular STS R)1μL、及びOneScript Plus RTase 200Uを入れ、最終20μLの容量で50℃において15分間反応させ、95℃で5分間加熱して酵素を非活性化させた後、氷に保管した。
【0057】
次に、AccuPower Taq PCR premix(BIONEER社)を使用してPCRを行い、2μLのRT試料と20μMのCircular STS F(5’-CCCTGAGTGGCTGAGCTCAGG-3’)及びCircular STS R(5’-CAGCAAGCATACTAAATTGCCAG-3’)を1μLずつ入れ、水で20μLの容量に合わせて、95℃1分、[95℃30秒、65℃30秒、72℃30秒]35サイクル、72℃5分の条件でPCR増幅を行った。5μLのPCR産物を1μLの6X DNAローディングダイに入れて150Vで35分電気泳動した後、ゲル撮影装置(gel imaging system)(YOUNG IN SCIENTIFIC社のDavinch-Gel製品)で画像を分析した。予想されるSTS PCR産物の長さは、479bpであり、1.5%のアガロースゲル(agarose gel)(イントロンバイオ製品のRedSafe Nucleic Acid Staining Solutionが1X濃度で含有)でGeneRuler 50bp DNA ladder(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)で分析した時、環状RNAと推定されるRNA試料の場合にのみRNase R処理に関係なく予測されるサイズの特異的なPCR産物が観察された(
図4A)。
【0058】
また、得られた予想されるサイズのバンドにおいて、ゲル抽出キット(gel extraction kit)(COSMO Genetech社製品)を使用してメーカーのプロトコルに従ってPCR産物を分離及び精製し、TOPcloner TA-Blunt kit(Enzynomics社製品)を使用してクローニングし、DH5alpha大腸菌(Chemically competent E.coli、Enzynomics社製品)に形質転換し、LB-Agar(カナマイシン(Kanamycin)を含む)プレートで大腸菌コロニー(colony)を得て、プラスミドDNA(plasmid DNA)をDNA精製キット(DNA purification kit)(COSMO Genetech社製品)を使用してメーカーのプロトコルに従って抽出及び精製して塩基配列分析を依頼した結果(COSMO Genetech社のサンガー法(Sanger sequencing)サービス、業者で提供するM13R(-40)又はM13F(-20)universal primerを利用)、ガウシアルシフェラーゼ(Gaussia Luciferase)の3’とIRESの5’がSTS junction部位で正確に連結されたことを確認することができた(
図4B)。
【0059】
上記の結果から、候補1が環状のRNAであることが分かる。
【0060】
2-3.自己環状化再検証
RT-PCRにより、候補1がcircRNAであることを確認したが、理論的には、候補1がダイマー(dimer)の形態である可能性を排除することはできない。ここで、ニッキングテスト(nicking test)を行って候補1がcircRNAであることを再検証することにした。
【0061】
精製した環状RNA candidate1及び2(100ng)にMgCl2をそれぞれ最終0、2.5、5mMで混合し、最終10μLの水に存在する試料を65℃で30分間加熱し、次に氷上でしばらく保管した後、10μLの10M Urea-BPB(1X TEB)ローディングダイ(loading dye)を混合した。
【0062】
75℃で5分間加熱した後、4% Polyacrylamide-7 M Urea denature PAGE(50℃温度保持し、50W条件で2時間電気泳動)を行い、GelをSYBR Gold Nucleic Acid Stain製品(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)で染色(staining)してイメージクオント800(Cytiva社製品)を使用して分析した結果は、
図5の通りである。
【0063】
候補1の場合、Mg2+がない条件でわずかにnicked環状RNAに該当するサイズのバンドが含まれており(1092-nt)、2.5mM Mg2+条件の場合、環状RNAの位置と考えられる候補1の位置のバンドが減ることを確認し、依然としてnicked環状RNAサイズのバンドが存在することを確認した。5mM Mg2+条件の場合、nicked環状RNAバンドまで加水分解により全て消失することを確認できた。これにより、候補1、即ち環状RNAがnickingが起きたときにモノマーと予想される1092-ntサイズを経て(2.5mM Mg2+)、最終的に全て分解される(5mM Mg2+)を観察したため、候補1が環状RNAでありモノマーであることを再確認することができた。
【0064】
一方、候補2は、intact RNAのサイズである1874-ntに類似のサイズ(マーカーの2000-nt周辺)を有し、2.5mM Mg2+条件のmildなnicking条件で、候補1とは異なるnicked環状RNAのサイズである1092-ntバンドが生成されずに消失してしまったが、環状RNAではないことが分かった。
【0065】
実施例3.細胞内転写及び自己環状化確認
実施例2において、実施例1で調製した自己環状化RNA発現ベクターが試験管内で転写されてcircRNAを形成することを確認したが、ベクターが細胞内でも同様に作動するのか、さらにcircRNAが含む目的遺伝子が細胞内で円滑に発現されることを確認しようとした。
【0066】
細胞内で目的遺伝子の発現のために、目的遺伝子は、5’-EMCV IRES-トランスジーン-終止コドン-3’(5’-EMCV IRES-transgene-stop codon-3’)の構造で設計し、発現した目的遺伝子の容易な確認のために、トランスジーンにはガウシアルシフェラーゼ(G.luci)を利用した。
【0067】
上述した目的遺伝子を含む自己環状及びRNA構造体を設計し、これを発現できるDNAテンプレートをpCMVプロモータの下で発現するようにプラスミドに挿入した(
図6A)。プラスミドベクターを293A細胞にトランスフェクション(transfection)し、circRNAの生成をRT-PCR及び塩基配列分析により確認し、トランスジーンの発現は、ルシフェラーゼ活性分析を行って確認した。
【0068】
具体的には、6ウェルプレート(well plate)に2x10
5/wellで293A細胞をシーディング(seeding)し、24時間後にリポフェクタミン2000トランスフェクション試薬(lipofectamine 2000 transfection reagent)を使用して、プラスミドベクターで形質転換した。形質転換の6時間後に培養液を交換した。そして、形質転換後の12、24、及び48時間に100μL培養液を回収してG.luci activityを測定した。培養液でG.luci活性が検出され、時間の経過とともに、活性が増加することを確認し、細胞内導入されたベクターにおいてトランスジーンであるG.luci遺伝子が発現されたことを確認した(
図6B)。
【0069】
トランスジーンの発現がcircRNAの形成によるものであるかをRT-PCRと塩基配列分析により分子レベルで確認した。形質転換後の48時間時間後、プラスミドベクターが導入された293A細胞からトリゾール試薬(trizol reagent)を使用してトータルRNA(total RNA)を抽出した後、RT-PCRを行い、環状RNAが生成されたことを確認した。
【0070】
逆転写(RT)は、OneScript Plus RTase(Abm社製品)を利用し、1μgのトータルRNAを70℃で5分間加熱後、氷上に置き、順に5X RT buffer 4μL、10mM dNTP mix 1μL、2μM reverse primer(Circular STS R)1μL、OneScript Plus RTase 200Uを入れて、最終に20μLの容量で、50℃で15分間反応させ、95℃で5分間加熱して酵素を非活性化させた後、氷に保管した。
【0071】
次に、AccuPower Taq PCR premix(BIONEER社製品)を使用してPCRを行い、2μLのRT試料と20μMのCircular STS primer F(5-caaggacttggagcccatggagcag-3)と、primer R(5-tgtgccgcctttgcaggtgtatc-3)とを1μLずつ入れ、水で20μLの容量に合わせて95℃1分、[95℃30秒、65℃30秒、72℃30秒]35サイクル、72℃5分の条件でPCR増幅を行った。予想されるSTS PCR産物の長さは、479bpであり、1.5%のアガロースゲル(agarose gel)(イントロンバイオ製品のRedSafe Nucleic Acid Staining Solutionが1X濃度で含有)でGeneRuler 50bp DNA ladder(サーモフィッシャーサイエンティフィック社の製品)で分析したとき、環状RNAが存在する場合にのみ予測されるサイズの特異的なPCR産物を確認することができた。ここで、5μLのPCR産物は、1μLの6X DNAローディングダイに入れて150Vで35分電気泳動した後、ゲル撮影装置(gel imaging system)(YOUNG IN SCIENTIFIC社のDavinch-Gel製品)で画像を分析した(
図6C)。
【0072】
また、得られた予想されるサイズのバンドは、ゲル抽出キット(COSMO Genetech社製品)を使用してメーカーのプロトコルに従ってPCR産物を分離及び精製とTOPcloner TA-Blunt kit(Enzynomics社製品)を使用してクローニングし、DH5alpha大腸菌(Chemically competent E.coli、Enzynomics社製品)に形質転換し、LB-Agar(カナマイシン(Kanamycin)を含む)プレートで大腸菌コロニー(colony)を得て、プラスミドDNAをDNA精製キット(COSMO Genetech社製品)とマニュアルを使用して抽出及び精製して塩基配列分析を依頼した結果(COSMO Genetech社のサンガー法(Sanger sequencing)サービス、業者で提供するM13R(-40)又はM13F(-20)universal primerを利用)、ガウシアルシフェラーゼ(Gaussia Luciferase)の3’とIRESの5’がSTS junction部位で正確に連結された塩基配列を確認することができた(
図6D)。
【0073】
上記から、調製されたプラスミドベクターが細胞内で自己環状化RNA構造体を発現し、構造体は、リボザイムによってcircRNAに環状化され、circRNAで目的遺伝子が発現することを分子レベルで確認することができた。
【0074】
実施例4.circRNA精製
4-1.HPLC実行によるcircRNA精製の可能性の確認
人体注入のためのcircRNAの調製における免疫原性の発生を最小にするために、HPLCを用いた分析及び精製を行った。具体的には、agilent 1290 Infinity II Bio UHPLCシステムを利用し、分析条件は
図7Aの通りである。分析には、[Analytical]のグラジェント(gradient)条件を使用し、試料の分取は、[Fraction collection]の条件を使用した。
【0075】
IVTを行った後、Monarch RNA cleanup kit(NEB)を使用してカラム精製のみ行ったRNA(
図7B)とRNase Rを処理したRNA(
図7C)を分析してみると、RNase Rを処理した試料で増加するピークが存在し、これから、RNase R処理なしでcircRNAをHPLCで分離できることが分かった。
【0076】
4-2.HPLC実行によるcircRNA精製
HPLCを介してフラクションコレクション(fraction collection)の条件に示されたグラジェント(gradient)を使用して分取し、
図8Aのように各フラクションを確保した。ピークが明確な7番及び10番~13番のフラクションを4% denature PAGEで各200ngずつかけ、先の方法と同様に電気泳動を行った。
【0077】
その結果、
図8Bに確認されるように、フラクション12できれいな環状RNAが分離精製された。
【0078】
実施例5.AS(アンチセンス配列)領域の最適化
試験管内転写過程中における即座の環状化反応にAS(アンチセンス配列)領域とその逆相補的なABS(アンチセンス結合配列)領域の長さが及ぼす影響の確認を試みた。ここで、AS領域とABS領域の長さを50、100、150、200、250、又は300-ntと異なるDNAテンプレートを調製し(
図9)、実施例1と同様に各RNA構造体を発現できるベクターを調製し、実施例2と同様に37℃で3時間試験管内転写を行い、即座にSTS反応程度を4% Polyacrylamide-7 M Urea gel(20×20cm、1mm)でPAGEを実施し、相対バンド強度(Relative band intensity)で比較確認した。
【0079】
各AS領域の塩基配列は、以下の表1に示した。
【0080】
【0081】
その結果、
図10及び下の表2で確認できるように、AS50、AS100、AS150の場合、自己環状化効率がAS200以上の長さに比べて相対的に優れていた。一方、AS50とAS100は、試験管内転写反応以後に生産された全体のRNAが顕著に少なかった。従って、自己環状化RNA構造体の発現及び環状のRNA調製において、AS150が最適な長さであることが分かった。
【0082】
【0083】
実施例6.スペーサ領域の最適化
次に、試験管内転写過程中に即座の環状化反応にスペーサ領域の長さ又は種類が及ぼす影響を確認するために、互いに異なる長さ及び塩基配列のスペーサ領域を含むDNAテンプレートを調製し(
図11)、実施例1と同様に各RNA構造体を発現できるベクターを調製し、実施例2と同様に37℃で3時間試験管内転写を行い、即座にSTS反応程度を4% Polyacrylamide-7 M Urea gel(20×20cm、1mm)でPAGEを実施し、相対バンド強度(Relative band intensity)で比較確認した。各スペーサ領域の塩基配列は、下の表3と同様に、本試験でA10、A30、及びA30のスペーサは、スペーサ領域の直後にIRES挿入のために3’末端に制限認識部位(restriction site)を付加して利用した。本試験ではスペーサの3’末端にAatIIsite(GACGTC)を付加して利用した。
【0084】
【0085】
その結果、
図12及び下の表4で確認できるように、スペーサの長さとシーケンス(sequence)の違いにもかかわらず、試験管内転写過程で即座の環状化効率に大きな差は示されなかったが、自己環状化RNA構造体の発現及び環状のRNA調製において、A30が最適なスペーサ(Spacer)として動作することが分かった。
【0086】
【0087】
実施例7.自己環状化RNA構造体最適化
7-1.AS領域、P1ヘリックス、及びP10ヘリックス領域
実施例1で設計した自己環状化RNA構造体は、AS領域、P1ヘリックス、及びP10ヘリックス領域を含む。以下、各構成が試験管内転写過程中に即座の環状化反応に及ぼす影響を確認するために、
図13に図式化したように、P1ヘリックス領域のみ含むか、P1及びP10ヘリックス領域のみ含むか、P1及びP10ヘリックスとAS領域を全て含むDNAテンプレートとを調製し、実施例1と同様に各RNA構造体を発現できるベクターを調製し、実施例2と同様に37℃で3時間試験管内転写を行い、即座にSTS反応程度を4% Polyacrylamide-7 M Urea gel(20×20cm、1mm)でPAGEを行って相対バンド強度(Relative band intensity)で比較確認した。
【0088】
P1ヘリックス領域のみ含むT7 DNAテンプレートの塩基配列は、
図14の通りである。
【0089】
その結果、
図15及び下の表5で確認できるように、各ベクターが試験管内転写生成された総RNAには、大きな差はなかったが、P1及びP10ヘリックスとAS領域を全て含む場合、P1ヘリックス領域のみ含む場合、P1及びP10領域のみ含む場合の順序で環状RNA生成量が多いことが分かった。
【0090】
【0091】
7-2.P10及びAS領域を含まない自己環状化RNA構造体の環状化検証
実施例7-1の結果から、P10及びAS領域を含まないDNAテンプレート(P1構造体)で試験管内転写過程中に追加的な環状化工程なしで十分なcircRNAを調製できることが分かる。これを検証するために、実施例7-1のSTS反応後産物にRNase Rを処理して線状RNAを除去し、先の試験と同様にPAGEを行い、実施例2-2と同様にRT-PCR及び塩基配列分析を行った。
【0092】
その結果、
図16A及び
図16Bで確認できるように、P1構造体を使用して自己環状化を行った場合にも、RNase Rを処理するとRNase Rにうまく切断されず、豊富になるRNAバンドが観察され、バンドにSTS反応産物をRT-PCRと塩基配列分析を行った結果、circRNAであることを確認した。
【0093】
実施例8.P1ヘリックス領域最適化
実施例7の結果によって、P10とAS及びABSがない自己環状化構造体も十分にcircRNAを作ることができることを確認した。ここで、P1ヘリックスを構成する5’末端に存在する内部ガイド配列(internal guide sequence、IGS)と3’末端に存在する標的部位の塩基配列のみを互いに相補的に結合させれば(UとGはゆらぎ塩基対)、環状RNAが生成されるものと仮定し、それを検証することにした。
【0094】
IGS領域は、GNNNNNであり、標的部位塩基配列は、N’N’N’N’N’Uであるため、GOIにU1つのヌクレオチドのみ追加すると、最終的に生成されるcircRNAは、1つのU塩基とGOI領のみから構成される。(
図1A及び
図1B)。また、GOIの3’末端がU塩基で終わる場合、IGS領域の塩基配列をGOIと逆相補的で設計することにより最終的に生成されるcircRNAがGOI領域のみで構成されるように調製することができる(
図20A及び
図20B)。
【0095】
図17に示すようにIGSと標的部位の配列を多様に設計し、実施例1の方法でベクターを調製した後、実施例2-1の試験管内転写を行った。
【0096】
その結果、
図18~
図19及び下の表6で確認できるように、両末端が相補的(Complementary)なシーケンスを有する場合、試験管内転写後に、即座にSTS反応によって生成されたcircRNA増加を確認することができ、No-complement IGS領域を含むベクターは、非常に低いレベルのcircRNAを生成することが分かった。上記から、IGSと標的部位は、互いに相補的であれば、いずれも効率的に自己環状化反応を誘導できることが分かる。
【0097】
【0098】
以上、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明したが、当技術分野で通常の知識を有する者であれば、上記に基づいて様々な技術的修正及び変形を適用することができる。例えば、説明された技術は、説明された方法と異なる順序で実行されるか、及び/又は説明されたシステム、構造、装置、回路などの構成要素が説明された方法と異なる形態で結合又は組み合わせられ、他の構成要素又は均等物によって代替又は置換されても適切な結果が達成され得る。
【0099】
従って、他の具現、他の実施形態、及び特許請求の範囲と均等なものなども、後述する特許請求の範囲の範囲に属する。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、試験管内、細胞内、及び生体内におけるタンパク質発現のためのcircRNAの調製に用いることができ、miRNA、anti-miRNA、shRNA、aptamer、mRNAワクチン、mRNA治療薬、抗体、ワクチン補助剤、CAR-T mRNAなどの機能性RNAをcircRNAで調製するために使用することができる。
【配列表】