(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】化粧品の保存効力試験方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/06 20060101AFI20240802BHJP
C12N 1/16 20060101ALI20240802BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20240802BHJP
A61K 8/00 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
C12Q1/06
C12N1/16 G
C12N1/20 A
A61K8/00
(21)【出願番号】P 2023134413
(22)【出願日】2023-08-22
【審査請求日】2024-02-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593084649
【氏名又は名称】TOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】山岡 隼人
(72)【発明者】
【氏名】西浦 英樹
(72)【発明者】
【氏名】森 裕美
(72)【発明者】
【氏名】古谷 大稀
(72)【発明者】
【氏名】董 哲
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-102152(JP,A)
【文献】特開2005-110638(JP,A)
【文献】中国実用新案第208328026(CN,U)
【文献】パーソナルケアハンドブック、7.防腐設計、2016年6月7日,p.886-892
【文献】第十三改正日本薬局方解説書(生薬総則その他)、4.保存効力試験法, 1996年7月10日,p.F-34~F-43
【文献】FRAGRANCE JOURNAL, 2018年10月, p.81-83
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00- 3/00
C12N 1/00- 7/08
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
G01N 21/76-21/83
G01N 33/569-33/571
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シュードモナス・エルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)、バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacian)及びエンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae)の細菌5種と、酵母のカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)とからなる6種の混合微生物を被試験用化粧品に接種して20~25℃で保管し、この保管期間中に前記被試験用化粧品から採取されたサンプルを発色試薬のテトラゾリウムブルーが添加された寒天培地に接種して培養した後、前記6種の混合微生物について被試験用化粧品の単位質量当たりのコロニー形成単位(CFU)総数を測定し、測定されたコロニー形成単位総数に対応する生菌数Aが、前記寒天培地に接種された前記6種混合微生物の理論菌数Bに対して所定数以上減少することを有効性の評価基準とする化粧品の保存効力試験方法。
【請求項2】
前記保管期間が14日以上であり、7日目に採取されたサンプルの生菌数Aの前記理論菌数Bに対する減少数が常用対数値で3.0以上であり、かつ前記保管期間14日目に採取されたサンプルの生菌数Aの前記理論菌数Bに対する減少数が常用対数値で3.5以上である請求項1に記載の化粧品の保存効力試験方法。
【請求項3】
前記寒天培地が、SCDLP寒天培地であり、かつ前記培養が、培養温度30~35℃で培養期間3日間以上の培養である請求項1または2に記載の化粧品の保存効力試験方法。
【請求項4】
前記被試験用化粧品のサンプルを寒天培地に接種すると共に、液体培地に前記同サンプルを接種して両方の培地で同時に培養し、所定期間保管された前記寒天培地にコロニー形成単位が検出されなかった場合に、前記所定期間と同じ期間保管された液体培地から採取された培養物の前記6種混合微生物の有無を画線培養法によって確認する請求項1または2に記載の化粧品の保存効力試験方法。
【請求項5】
前記被試験用化粧品のサンプルを発色試薬のテトラゾリウムブルーが添加されたSCDLP寒天培地に接種すると共に、液体培地にも前記同サンプルを接種して両方の培地で同時に培養し、所定期間保管された前記SCDLP寒天培地にコロニー形成単位が検出されなかった場合に、前記所定期間と同じ期間保管された液体培地から採取された培養物の前記6種混合微生物の有無を画線培養法によって確認する請求項3に記載の化粧品の保存効力試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、化粧品の保存効力を微生物学的に評価する各種の規格に基づく防腐効果確認試験の予備的なスクリーニングを簡易的かつ効率的に行なうための化粧品の保存効力試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、保存効力試験は、医薬品や化粧品などの製剤またはそれに含まれる保存剤の効力を微生物学的に評価する方法として、国際標準化機構(ISO)や日本薬局方(JP)に基づく化粧品の防腐効果確認試験が知られている。
【0003】
第十九改正日本薬局方には、保存効力試験法が参考情報として記載されており、「製剤に試験の対象となる菌種を強制的に接種、混合し、経時的に試験菌の消長を追跡することにより、保存効力を評価する」試験法であることが説明され、以下の表1に示されるように指定の試験菌株と培養条件が規定されている。
【0004】
【0005】
同様の保存効力試験は、国際標準化機構(ISO)によるISO11930規格にも規定されており、試験対象のサンプルの培養期間は日本薬局方に従う場合と同様であって、少なくとも4週間必要であり、実際には試験結果が得られるまでに4~5週間を要している。
【0006】
このように規定の保存効力試験には、長期間を要するので、化粧品製造業務として多くの試作品を試験するためには、できるだけ経費を抑制して短期間で効率的な製品開発を行なう必要があり、予備的なスクリーニングとして、防腐性を予測することが行なわれている。
【0007】
このようなスクリーニングとして、特許文献1には、化粧料等に対し、防腐剤などの防腐性に影響する原料に、特定の菌に対する最小発育阻止濃度で配合する濃度比を抗菌指数とし、製剤の処方において抗菌指数を算出して防腐性を予測することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、化粧品の開発では、特定の防腐剤を一切配合しないものを開発する場合や、特定の防腐剤の代わりとなる原料を複数組み合わせて処方開発を行なう場合があり、そのような複雑な処方を必要とする場合には、より安全な処方設計が求められる。
【0010】
そのため、防腐剤の抗菌指数による予測だけでなく、保存効力試験の予備的なスクリーニングを簡易的かつ効率的に行なう必要がある。
【0011】
前述のように、既定の保存効力試験には、通常、5~6週間を要するので、可及的に短い試験期間で、防腐効果について信頼性の高い判断が可能な予備的なスクリーニングを行なう必要があった。
【0012】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決して、従来の所要試験期間よりも短期間、例えば2~3週間(もしくは14~21日)またはそれ以下で国際標準化機構(ISO)や日本薬局方(JP)に匹敵する予備的な判定が可能な新規な保存効力試験方法とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した課題を解決するために、この発明では、シュードモナス・エルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)、バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacian)及びエンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae)の細菌5種と、酵母のカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)とからなる6種の混合微生物を被試験用化粧品に接種して20~25℃で保管し、この保管期間中に前記被試験用化粧品から採取されたサンプルを発色試薬のテトラゾリウムブルーが添加された寒天培地に接種して培養した後、前記6種の混合微生物について被試験用化粧品の単位質量(1g)当たりのコロニー形成単位(CFU)総数を測定し、測定されたコロニー形成単位総数に対応する生菌数Aが、前記寒天培地に接種された前記6種混合微生物の理論菌数Bに対して所定数以上減少することを有効性の評価基準とする化粧品の保存効力試験方法としたのである。
【0014】
この発明に用いる6種の混合微生物は、日本薬局方の参考情報の保存効力試験法またはISO11930規格で指定されるカビ類を含む微生物を含まず、一般的な化粧品である被試験用化粧品の保存性について、カビ類より大きな影響を与える細菌及び酵母からなる。この発明では、前記6種の混合微生物によって汚染リスクを短期間にスクリーニングし、被試験用化粧品の保存効力の予備的な判定を行なう。
【0015】
本願発明では、独自に採用したバークホルデリア・セパシア及びエンテロバクター・クロアカが、多彩な有機物の資化性および生息域の広域性を有するという性質を有しており、細菌及び酵母からなる6種類の混合微生物の全てが、前記保管期間中の20~25℃という所定温度範囲で、比較的短期間に菌数を増加させてコロニーを形成する。
【0016】
バークホルデリア・セパシアは、呼吸疾患などを引き起こす日和見病原菌として知られた土壌細菌であり、カビ類と同様に多彩な有機物を資化することができる細菌である。
【0017】
また、エンテロバクター・クロアカは、肺炎や膀胱炎の原因ともなる腸内細菌であり、健常者への感染は稀であるが、カビ類と同様に陸上及び水中環境に普遍的に存在する細菌である。
【0018】
このように皮膚に付着する可能性がある病原性細菌であるバークホルデリア・セパシア及びエンテロバクター・クロアカは、カビ類のように胞子を作らないので、他の3種類の細菌及び1種類の酵母(真菌)と同様に速やかに増減する。
【0019】
また、バークホルデリア・セパシア及びエンテロバクター・クロアカは、多彩な有機物の資化性および生息域の広域性について日本薬局方またはISO 11930規格で指定される特定のカビ類と同様な性質を有し、この発明に指標として用いることが適切な微生物である。
【0020】
これら2種の細菌を含めた前記6種の混合微生物は、被試験用化粧品に接種され、20~25℃で保管される。その際の保管期間は、好ましくは14日以上である。この保管期間中に前記被試験用化粧品から採取されたサンプルが、発色試薬のテトラゾリウムブルーが添加された寒天培地に接種され培養される。
【0021】
そして、前記保管中に、例えば7日目と14日目にサンプリングを行ない、測定されたコロニー形成単位総数に対応する生菌数Aが、前記寒天培地に接種された前記6種混合微生物の理論菌数Bに対して所定数以上減少することを有効性の評価基準とする。
【0022】
前記保管期間が、7日目に採取されたサンプルの生菌数Aの前記理論菌数Bに対する減少数が常用対数値で3.0以上であり、かつ前記保管期間14日目に採取されたサンプルの生菌数Aの前記理論菌数Bに対する減少数が常用対数値で3.5以上であることが、ISO11930規格や日本薬局方(JP)に匹敵する評価基準として好ましい。
【0023】
また、菌種別に識別可能なコロニー形成単位(CFU)を総数、または種別に充分に正確に計数できるように、サンプルを培養する前記寒天培地が、発色試薬のテトラゾリウムブルーが添加されたSCDLP寒天培地(レシチン・ポリソルベート80加・ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト寒天培地)であり、かつ培養条件が、培養温度30~35℃で培養期間3日間以上の培養であることが好ましい。
【0024】
前記6種の混合微生物のそれぞれ形成するコロニーは、テトラゾリウムブルーによって、他に偶発的に混在する微生物に比べて特異的な青色に染色され、かつ寒天培地上に菌種ごとに異なる大きさ又は形状のコロニーを形成するので、菌種別のコロニーの識別及び計数が極めて容易にできる。
【0025】
また、SCDLP寒天培地は、被試験用化粧品に含まれている防腐剤の影響を弱めて微生物を培養するので、コロニーの発現性及び形成性が向上し、所定期間保管後の被試験用化粧品に含まれている生菌数をより正確に測定することができる。
【0026】
また、化粧品の保存効力試験に加え、さらに化粧品の出荷時に求められる衛生上の検査等を厳格に行うために、所定期間保管後の被試験用化粧品に含まれているサンプル中の前記6種混合微生物などの特定微生物の生存の有無についても調べておくことも好ましい。
【0027】
そのためには、前記被試験用化粧品のサンプルを寒天培地に接種すると共に、液体培地に前記同サンプルを接種して両方の培地で同時に培養し、所定期間保管された前記寒天培地にコロニー形成単位が検出されなかった場合には、前記所定期間と同じ期間だけ保管された液体培地から採取された培養物の前記6種混合微生物の有無を、画線培養法によって確認する。
【0028】
特に、前記被試験用化粧品のサンプルを発色試薬のテトラゾリウムブルーが添加されたSCDLP寒天培地に接種すると共に、液体培地にも前記同サンプルを接種して両方の培地で同時に培養し、所定期間保管された前記SCDLP寒天培地にコロニー形成単位が検出されなかった場合には、前記所定期間と同じ期間保管された液体培地から採取された培養物の前記6種混合微生物の有無を画線培養法によって確認することにより、コロニーの形態等の視認性を向上させて、生菌数測定の精度をより向上させて確認することができる。
【発明の効果】
【0029】
この発明は、バークホルデリア・セパシア及びエンテロバクター・クロアカが、多彩な有機物の資化性および生息域の広域性を有する細菌であり、これらを含む特定の6種混合微生物が培養されて形成されるコロニーを特定の発色試薬で染色して識別し、生菌総数としてコロニー形成単位(CFU)数を比較的短期間に数値化できるので、従来の保存効力試験に所要の試験期間よりも短期間、例えば2~3週間(もしくは14~21日)またはそれ以下で国際標準化機構(ISO)や日本薬局方(JP)に匹敵する予備的な判定が可能な新規な保存効力試験方法となる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】テトラゾリウムブルーが添加されたSCDLP寒天培地における実施例1の培養状態を示す図面代用写真
【
図2】実施例1の培養状態における(a) シュードモナス・エルギノーザ、(b) バークホルデリア・セパシア、(c) スタフィロコッカス・アウレウス、(d) エシェリヒア・コリ、(e) エンテロバクター・クロアカ、及び(f) カンジダ・アルビカンスの各コロニーの典型的な形態を示す図面代用写真
【発明を実施するための形態】
【0031】
この発明の実施形態として、上記した特定6種の混合微生物を被試験用化粧品に接種して20~25℃で保管し、この保管期間中に前記被試験用化粧品から採取されたサンプルを発色試薬のテトラゾリウムブルーが添加された寒天培地に接種して培養した後、前記6種の混合微生物について被試験用化粧品の単位質量(1g)当たりのコロニー形成単位(CFU)総数を測定し、測定されたコロニー形成単位総数に対応する生菌数Aが、前記寒天培地に接種された前記6種混合微生物の理論菌数Bに対して所定数以上減少することを有効性の評価基準とする化粧品の保存効力試験方法を、より詳細かつ具体的に説明する。
【0032】
この発明では、被試験用化粧品の種類を特に限定することなく、水分または油分を含有する化粧品に対して適用でき、例えば化粧水、エッセンス、乳液、クリーム、パック、サンスクリーン剤等の基礎化粧料、リキッドファンデーション、マスカラ、アイライナー、アイシャドウ、口紅、コンシーラー、チーク、ネイルカラー等のメイクアップ化粧料、シャンプー、コンディショナー、ヘアスタイリング剤等の頭髪化粧料、ボディシャンプー等の身体洗浄料、メイク落とし、洗顔料等の外用組成物を包括し、医薬部外品である同外用組成物にも適用される。
【0033】
このような被試験用化粧品には、細菌やカビなどの微生物の増殖を防止する目的で、通常は防腐剤 (すなわち保存剤)を含んでいるが、防腐剤の含有の有無を問わず、この発明の「化粧品の保存効力試験方法」を採用することができる。
【0034】
化粧料や医薬部外品に用いられる周知の防腐剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸エステル(メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン等のパラベン類);フェノキシエタノール;アルカンジオール類;アルキルグリセリルエーテル類;グリセリン脂肪酸エステル類;サリチル酸;安息香酸ナトリウム;イソチアゾリンオン誘導体;イミダゾリニウムウレア;デヒドロ酢酸及びその塩;フェノール類;ハロゲン化ビスフェノール類、酸アミド類、四級アンモニウム塩類;トリクロロカルバニド、ジンクピリチオン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ソルビン酸、クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、ハロカルバン、ヘキサクロロフェン、ヒノキチオール;フェニルエチルアルコール、感光素類、抗菌性ゼオライト、銀イオンなどが挙げられる。
【0035】
被試験用化粧品に含まれる防腐剤による生菌数の減少効果を弱めて、化粧品の保存条件をより厳しい条件下で判定するために、寒天培地に接種するサンプルが、例えば10倍に希釈されたサンプルを採用し、化粧品に含まれる防腐剤の影響を1/10に抑えた状態で保存効力試験を行なうことが好ましい。
【0036】
また、この発明に用いる混合微生物は、被試験用化粧品に接種するために用いられるが、それらはシュードモナス・エルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)、バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacian)及びエンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae)からなる細菌5種及びカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)からなる酵母1種である。
【0037】
上記した6種の微生物のうち、シュードモナス・エルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)及びカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)は、第十九改正日本薬局方に参考情報として記載される保存効力試験法にも用いられているものであり、表1中に記載されるようなATCC株またはNBRC株を試験菌株として用いることができる。
【0038】
また、バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacian)及びエンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae)は、真正細菌のバークホルデリア目、バークホルデリア科の基準種となるグラム陰性の非芽胞形成好気性の極鞭毛を持つ桿菌であり、自然環境に常在する土壌細菌であって、日和見病原菌として呼吸器や血流による感染を起こす場合もある微生物である。
【0039】
また、エンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae)は、真正細菌のエンテロバクター目、腸内細菌科であり、グラム陰性であって通性嫌気性の周毛性で周鞭毛を持つ桿菌であり、中温性でpH4から10までの広い範囲で生育が可能であって陸上および水圏環境(水中、泥中、土壌、食品、温水処理槽)に普遍的に存在する。この細菌は、ヒトおよび動物一般の腸内菌叢にみられる共生微生物であり、感染により発症する可能性は低いが、免疫不全の場合には気道感染症の原因になることもある微生物である。
【0040】
この発明の混合微生物に用いる各種微生物は、試験菌株として以下に示すシュードモナス・エルギノーザ(NBRC 13275)、スタフィロコッカス・アウレウス(NBRC 13276)、エシェリヒア・コリ(NBRC 3972)及びカンジダ・アルビカンス(NBRC 1594)、バークホルデリア・セパシア(NBRC 14595)、エンテロバクター・クロアカ(NBRC 13535)のように、NBRC株を用いることができる。
【0041】
これらの混合微生物を被試験用化粧品に接種して均一に混合し、20~25℃で保管する。保管の温度は、この発明に用いる混合微生物の生育が可能であって、かつ化粧品の通常の保管および使用の状態を想定した温度範囲である。
【0042】
保管期間は、被試験用化粧品の種類によって適切な期間を選定すればよいが、通常は14日以上であり、長くても28日程度を目安にして、例えば、保管後2日目、7日目、14日目、28日目のサンプルを採取すれば、既定の保存効力試験(日本薬局方の参考情報の保存効力試験法またはISO 11930規格)との比較が容易である。
【0043】
採取したサンプルを培養する寒天培地は、テトラゾリウムブルーが添加された寒天培地を用いる。この寒天培地は、寒天平板培地または寒天斜面培地であってもよい。
【0044】
また、上記した被試験用化粧品の保存状態をできるだけ微生物の増殖しやすい状態として試験するために、SCDLP寒天培地を用いることが好ましく、医薬品の微生物試験法に収載されるレシチン・ポリソルベート-80加ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト寒天培地(SCDLP寒天培地)を用いることができる。
SCDLP寒天培地は、基本となる培地であるSCD寒天培地(ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト寒天)に加えて配合されたレシチン及びポリソルベート80により、防腐剤の効力を敢えて弱めて生菌の有無についても確認できる培地である。
【0045】
テトラゾリウムブルーは、還元系発色試薬の一種であり、化1の構造式に示される化合物である。テトラゾリウムブルーは、この発明に用いる6種類の混合微生物が形成するコロニーの染色性に優れているので、コロニーを明瞭に識別でき、しかもコロニー発現に影響を与えないことが、後述する参考例によっても確認されている。
【0046】
【0047】
上記培養は、寒天平板培地にサンプルを常法によって塗抹して培養してもよく、また寒天平板混釈法によって、寒天培地とサンプルとの混合物を平板状に形成して培養してもよい。
【0048】
上記寒天培地による培養は、30~35℃で少なくとも3日間培養することによって、6種類の混合微生物を充分に増殖させ、コロニー形成単位(CFU)数を充分正確に測定できる。
【0049】
この測定では、前記6種の混合微生物について被試験用化粧品の単位質量当たりのコロニー形成単位(CFU)総数を、市販の自動菌数測定装置などを用いて測定し、測定されたコロニー形成単位総数に対応する生菌数が、前記寒天培地に接種された前記6種混合微生物の理論菌数に対して所定数以上減少することを確認する。
混合微生物の理論菌数は、常法に従ってシャーレに形成されたコロニー数、接種した液量、希釈倍率から、検体の単位体積当たりの生菌数を求めることが可能である。
【0050】
また保存効力試験と同時に、画線培養法によって特定微生物の有無を確認して、衛生上の検査を行う場合には、前記被試験用化粧品のサンプルを寒天培地に接種すると共に、液体培地にも前記同サンプルの適量を接種して両方の培地で同時に培養する。
寒天培地と液体培地で同時に培養を行なう場合には、前記被試験用化粧品のサンプル100体積部のうち、例えば1/100を寒天培地に接種すると同時に99/100を液体培地に接種すれば適切な培養が可能である。
【0051】
液体培地は、混合微生物の生育に適したものであればよく、前記した寒天培地と同様の成分からなる日本薬局方の参考情報に記載されるソイビーン・カゼイン・ダイジェスト培地や、サブロー・ブドウ糖液体培地などを用いることができる。
【0052】
液体培養の条件は、寒天培養条件と同様の温度及び期間で行ない、例えば30~35℃で少なくとも3日間の培養によって、6種類の混合微生物を充分に増殖させる。そして、液体培地から採取された培養物の前記6種混合微生物の有無を画線培養法によって確認する。
【0053】
画線培養による、いわゆるエンリッチメント試験は、画線塗抹した前記同様の寒天培地を30~35℃で少なくとも18時間以上培養し、単独で形成されるコロニーの有無を確認する。液体培養の7日目またはそれ以前に採取されたサンプルについて、菌が検出されれば、再試験を行ない、さらに7日目より後、例えば8日目や14日目のサンプルについて、菌が検出されなければ化粧品の保存有効性が確認できたものとして試験を終了する。
また、本願発明の保存効力試験に加えて、カビ類についての保存効力試験が必要な場合は、カビ類についての追加試験を常法により行なう。
【実施例】
【0054】
[実施例1]
表2に示すように化粧品の保存効力試験として、シュードモナス・エルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa)(NBRC 13275)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus) (NBRC 13276)、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli) (NBRC 3972)、バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacian) (NBRC 14595)及びエンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae) (NBRC 13535)及びカンジダ・アルビカンス(Candida albicans) (NBRC 1594)からなる6種の混合微生物を用いた(表2中には、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、大腸菌、特定2種の細菌、酵母と記した)。
【0055】
すなわち、それぞれの微生物を常法により適切に培養した後、菌懸濁液を調製し、全ての菌懸濁液を等量ずつ混和し、6種混合の菌懸濁液(混合微生物液)とした。
【0056】
また、被試験用化粧品のサンプルとして、滅菌容器に20g量りとられた市販の化粧水Aを準備し、このサンプルに上記の混合微生物液0.2mlを接種し、攪拌して均一に分散させ、これを10倍に希釈して22.5℃で14日間保管した。なお、被試験用化粧品としては、予めISO11930による試験結果により合格基準に達している市販化粧水Aを用いた。
【0057】
上記保管期間における2日目、7日目、14日目にサンプリングを行ない、それぞれのサンプルを寒天培養法及び液体培養法によって同時培養する微生物試験を行なった。
【0058】
寒天培養では、還元系発色試薬としてテトラゾリウムブルー(同仁化学研究所)30ppmが添加されたSCDLP寒天培地を用いて32℃で3日間培養し、保管期間が2日目、7日目、14日目のサンプルについて、それぞれの残存生菌数を測定し、各保管期間のサンプルから培養された残存生菌数Aが、前記寒天培地に接種された前記6種混合微生物の理論菌数Bに対して所定数以上減少する減少数を常用対数値とし、その結果を表2中に示した。
【0059】
また、14日目のSCDLP寒天培地における培養状態を
図1の写真で示し、さらに前記培地表面に現れた各コロニーの典型例(a)~(f)の比較図を
図2に示した。
【0060】
【0061】
[比較例1]
実施例1で用いたサンプルと同じ化粧水Aのサンプルを用いて、一般的な保存効力(防腐性)試験法(JP)により、保存効力を調べ、試験条件と試験結果を表2中に併記した。
【0062】
[比較例2]
実施例1で用いたサンプルと同じ化粧水Aのサンプルを用いて、ISO11930による保存効力試験を行ない、試験条件と試験結果を表2中に併記した。
【0063】
表2に示された結果からも明らかなように、本願発明の細菌酵母からなる混合微生物を用いた化粧品の保存効力試験方法とISO11930との関連性を分析すると、代表的な市販化粧品類と実施例1の処方を用いて細菌・酵母混合菌接種法に供した結果、14日目までで保存効力を評価可能であることが示された。
【0064】
ISO11930試験結果で適合(クライテリアA)と判定された被試験用化粧品は、実施例1の保存効力試験方法でも所定の有効性の評価基準であるAに対するBの減少量(CFU)が常用対数値3.0以上である基準を満たしていた。
【0065】
なお、ISO11930で適合(クライテリアB)および基準外と判定された化粧品(例示は省略した)については、本願発明の保存効力試験では、すべて不適合であった。
【0066】
また、
図1からも明らかなように、テトラゾリウムブルーが培地中に30ppm程度(例えば28~32ppm)添加されたSCDLP寒天培地においては、前記所定の6種混合微生物のコロニーは、明瞭に識別できるように染色されており、コロニー形成単位(CFU)総数の測定が可能であった。
【0067】
このテトラゾリウムブルーが添加されたSCDLP寒天培地は、テトラゾリウムブルーを添加しないSCDLP寒天培地と同等に前記所定の6種混合微生物を培養可能であって、各コロニーを発現させることができ、培地表面に現れた各コロニーの形態は、
図2の(a)~(f)に示されるように、前記所定の6種混合微生物を染色度合い及びコロニーの形態から菌株(菌種)の判別が可能であると判断された。
【0068】
このように細菌酵母の混合菌接種法である実施例1は、ISO11930のクライテリアAと同等以上の保存効力があると認められ、国際標準化機構(ISO)や日本薬局方(JP)に匹敵する予備的な判定(スクリーニング)が可能な新規な保存効力試験方法であることが確認された。
【0069】
[参考例1]
シュードモナス・エルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa)(NBRC 13275)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus) (NBRC 13276)、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli) (NBRC 3972)及びカンジダ・アルビカンス(Candida albicans) (NBRC 1594)からなる4種の混合微生物を、それぞれ常法により適切に培養した後、全ての菌懸濁液を等量ずつ混和し、4種混合の菌懸濁液を調製した。
【0070】
テトラゾリウムブルー(TB)30ppmが添加されたSCDLP寒天培地に、上記菌懸濁液を寒天平板塗抹法によって接種し、32℃で3日間培養した後、コロニーの染色性とコロニーの形成性又は発現性について評価した。その評価は、良好(〇)、やや不良(△)、不良(×)の3段階評価とし、結果を表3中に示した。
【0071】
[参考例2]
参考例1において、還元性発色試薬をテトラゾリウムブルー(TB)に代えて、ニトロブルーテトラゾリウムクロライド(Nitro-TB)を用いたこと以外は、全く同様にしてコロニーの染色性とコロニーの形成性又は発現性について評価し、その結果を表3中に併記した。
【0072】
[参考例3]
参考例1において、還元性発色試薬をテトラゾリウムブルー(TB)に代えて、トリフェニルテトラゾリウムクロライド(TTC)を用いたこと以外は、全く同様にしてコロニーの染色性とコロニーの形成性又は発現性について評価し、その結果を表3中に併記した。
【0073】
【0074】
[比較例3]
実施例1において、前記6種の混合微生物に代えて、バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacian) (NBRC 14595)及びエンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae) (NBRC 13535)を用いずに、代わりにカビ類の代表例としてアスペルギルス ブラジリエンス(Aspergillus brasiliensis NBRC 9455)を用いたこと以外は、全く同様にして保管を行ない、保管期間14日目及び28日目のサンプルについてコロニー染色による視認性を確認したところ、カビについての接種当初の理論菌数に対して常用対数値で1.5以上減少させる保存効力の判定には、少なくとも28日の保管期間を要した。
【0075】
[実施例2-6]
表4に示すように、実施例1において、被試験用化粧品のサンプルとして市販の化粧水Aに代えて、市販の化粧水B(実施例2)、市販のオールインワンジェル(実施例3)、市販の化粧クリーム(実施例4)、市販のシャンプー(実施例5)、市販のリキッドファンデーション(実施例6)を用いたこと以外は、全く同様にして保管期間が2日目、7日目、14日目、28日目のサンプルについて、それぞれ残存する生菌数を測定し、各保管期間のサンプルから培養された残存生菌数が、前記寒天培地に接種された前記6種混合微生物の理論菌数に対して所定数以上減少する減少数を常用対数値とし、その結果を表4中に示した。
なお、保管期間が7日目以上で、常用対数値6.0以上の生菌数減少のある場合には、それ以上の減少のないことが明らかであるため、その時点で試験を終了した。
【0076】
【0077】
表4に示される結果からも明らかなように、実施例2-6は、水溶性、ジェル、乳化物、界面活性、油性等に特徴のある各種化粧品に対し、この発明の保存効力試験方法によって、遅くとも14日目に保存効力試験の試験結果として適切であるとの結果が得られた。
【0078】
実施例2-6で保存効力を確認された被試験用化粧品について、保存効力試験結果を確認するために、ISO11930による保存効力試験を行なった。
【0079】
同法に従って、4つの寒天培地にそれぞれ接種された4種の各試験菌(エシェリヒア・コリ、シュードモナス・エルギノーザ、スタフィロコッカス・アウレウス、カンジダ・アルビカンス)の理論菌数に対する保管日数7日目、14日目、28日目の残存生菌数から減少数を調べ、その結果を常用対数値として表5に示した。
【0080】
【0081】
表5に示される結果からも明らかなように、実施例2-6で保存効力を確認された被試験用化粧品は、いずれも国際標準化機構(ISO)11930による保存効力試験によってクライテリアAに匹敵する結果が得られるものであることが確認された。
これにより、実施例2-6の保存効力試験は、国際標準化機構(ISO)等の規定の試験に匹敵する予備的な判定が可能な保存効力試験方法であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0082】
医薬品や化粧品などの製剤またはそれに含まれる保存剤の効力を微生物学的に評価するための法令や業界等で規定される試験の予備的な試験としてのスクリーニング、衛生検査、化粧品の出荷時の検査等に利用することができる。
【要約】
【課題】好ましくは2~3週間以下、より好ましくは1週間程度以下という短期間によって、国際標準化機構(ISO)や日本薬局方(JP)に匹敵する予備的な判定が可能な新規な保存効力試験方法とすることである。
【解決手段】シュードモナス・エルギノーザ、スタフィロコッカス・アウレウス、エシェリヒア・コリ、バークホルデリア・セパシア及びエンテロバクター・クロアカの細菌5種と、酵母のカンジダ・アルビカンスとからなる6種の混合微生物を被試験用化粧品に接種して20~25℃で保管し、この保管期間中に前記被試験用化粧品から採取されたサンプルを発色試薬のテトラゾリウムブルーが添加された寒天培地に接種して培養し、比較的短期間に培養された状態で測定されたコロニー形成単位総数に対応する生菌数が、前記寒天培地に接種された理論菌数に対して所定数以上減少することを保存効力の評価基準とする。
【選択図】なし