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特許7531246資産価値算出システム、資産価値算出方法及び資産価値算出プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】資産価値算出システム、資産価値算出方法及び資産価値算出プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/08 20120101AFI20240802BHJP
【FI】
G06Q50/08
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023151341
(22)【出願日】2023-09-19
【審査請求日】2023-09-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391044410
【氏名又は名称】フジ地中情報株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004163
【氏名又は名称】弁理士法人みなとみらい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 寿一
【審査官】小原 正信
(56)【参考文献】
【文献】特許第7343951(JP,B1)
【文献】特開2022-003433(JP,A)
【文献】特開2023-092244(JP,A)
【文献】特開2018-014063(JP,A)
【文献】樋口 宣人, 2020年06月号トピックス 公共分野のデジタル化―AI技術を活用した水道管路劣化状況のオンライン診断,[online], 一般社団法人 行政情報システム研究所,2020年06月10日,インターネット<URL:https://www.iais.or.jp/articles/articlesa/20200610/202006_07/>,[検索日:2023年10月11日]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を供給する既設管路の資産価値を算出する資産価値算出システムであって、
管路の劣化を予測する学習済みの数理モデル、管路の属性を示す管路属性情報、耐用年数及び取得価額を記憶する記憶部と、
前記数理モデルを用いて、前記管路属性情報に基づく管路劣化予測を行い、管路の余寿命を予測する予測部と、
前記余寿命及び前記取得価額に基づいて既設管路の資産価値を算出する算出部と、
を備え、
前記数理モデルは、管路の生存時間を含むイベント情報及び管路属性情報に基づいて学習を行った、管路の生存時間を決定するためのモデルであって、
前記予測部は、管路にイベントが発生するまでの時間である生存時間を前記余寿命として決定し、
前記算出部は、前記取得価額及び前記耐用年数に基づいて算出された年ごとの減価償却額より、前記余寿命に基づく管路の資産価値を算出する、
資産価値算出システム。
【請求項2】
前記耐用年数は、会計上のルールで定める年数であって、
前記算出部は、前記余寿命に基づいて管路の資産価値を算出し、前記余寿命が管路の耐用年数と同じ又は耐用年数を超えるとき、前記取得価額を管路の資産価値とする、
請求項1に記載の資産価値算出システム。
【請求項3】
前記イベント情報は、管路にイベントが発生したタイミングに関するタイミング情報を含む、
請求項1に記載の資産価値算出システム。
【請求項4】
前記算出部は、管理を委託する対象となる複数の既設管路の資産価値を算出し、算出した資産価値の合計値を算出する、
請求項1に記載の資産価値算出システム。
【請求項5】
資産価値算出システムは、更に、弁栓を含む水道施設の資産価値の算出を行う、
請求項1に記載の資産価値算出システム。
【請求項6】
コンピュータが実行する、流体を供給する既設管路の資産価値を算出する資産価値算出方法であって、
管路の劣化を予測する学習済みの数理モデル、管路の属性を示す管路属性情報、耐用年数及び取得価額を記憶する記憶工程と、
前記数理モデルを用いて、前記管路属性情報に基づく管路劣化予測を行い、管路の余寿命を予測する予測工程と、
前記余寿命及び前記取得価額に基づいて既設管路の資産価値を算出する算出工程と、
を備え、
前記数理モデルは、管路の生存時間を含むイベント情報及び管路属性情報に基づいて学習を行った、管路の生存時間を決定するためのモデルであって、
前記予測工程では、管路にイベントが発生するまでの時間である生存時間を前記余寿命として決定し、
前記算出工程では、前記取得価額及び前記耐用年数に基づいて算出された年ごとの減価償却額より、前記余寿命に基づく管路の資産価値を算出する、
資産価値算出方法。
【請求項7】
流体を供給する既設管路の資産価値を算出する資産価値算出プログラムであって、
管路の劣化を予測する学習済みの数理モデル、管路の属性を示す管路属性情報、耐用年数及び取得価額を記憶する記憶部と、
前記数理モデルを用いて、前記管路属性情報に基づく管路劣化予測を行い、管路の余寿命を予測する予測部と、
前記余寿命及び前記取得価額に基づいて既設管路の資産価値を算出する算出部と、
としてコンピュータを機能させ、
前記数理モデルは、管路の生存時間を含むイベント情報及び管路属性情報に基づいて学習を行った、管路の生存時間を決定するためのモデルであって、
前記予測部は、管路にイベントが発生するまでの時間である生存時間を前記余寿命として決定し、
前記算出部は、前記取得価額及び前記耐用年数に基づいて算出された年ごとの減価償却額より、前記余寿命に基づく管路の資産価値を算出する、
資産価値算出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、資産価値算出システム、資産価値算出方法及び資産価値算出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
水道等の管路の普及は高度経済成長期に急激に普及しており、その時代に布設された管路の資産の更新時期が到来しているが、人口が減少しているため管路を管理する事業の需要及び収益、水道事業へ従事する人の数が減少し、古い設備の更新が進んでいない。また、近年多く発生している地震や水害等の自然災害によって管路が破損する事態も増えているため、管路を管理する自治体等の事業者は非常に苦しい状態に陥っている。
【0003】
こうした課題を解決するために官民連携が重要である。官民連携とは、政府や自治体と民間企業が協力して水道の運営や管理、更新を行うことである。これにより人材確保や技術水準の向上が図られ、水道事業の基盤を強化することができる。
【0004】
現在、官民連携を進めるための様々な事業の形態が検討されているが、官民連携を進めるため、管理の対象となる管路の価値を正しく評価する必要がある。管路は耐用年数が終了していても問題なく使用することが可能であるが、減価償却資産であるため、従来の価値の算出方法では古い管路の価値が低く評価されてしまっていた。そのため、法定耐用年数が完了した管路に関しては、それまで管路を管理していた施設所有者の事業者は管路を利用可能な管路として高く評価し、委託を受け新たに管路を管理する民間事業者等は減価償却資産として管路の価値を低く評価するなど、同じ管路に関しても評価が異なる。そのため、委託を受け新たに管路を管理する民間事業者等が古い管路などの低く評価された管路に対する維持管理費を必要以上に計上することにより、施設所有者の水道事業者へ要求する金額が高騰するなど、官民連携における連携の妨げとなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2022-3433号公報
【0006】
ここで、特許文献1に記載の発明は、管路の資産価値を算出するシステムに関して開示されているが、管路の期待収益及びライフサイクルコストに基づいて管路の資産価値を評価するシステムであるため、期待収益やライフサイクルコストを正確に把握できない管路に関しては資産価値を正確に把握することができなかった。また、期待収益やライフサイクルコストに基づく管路の資産価値は、管路の運営を行うことに関する資産的な価値であって、管路の物品としての価値を正しく把握することはできなかった。また、特許文献1に記載の発明は、管路の運営に関して、収益とコストのバランスから望ましい交換時期を提示するが、管路の利用可能な年数を提供することができなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、数理モデルを用いて求めた余寿命を利用して管路の資産価値の算出を行う新規な技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、流体を供給する既設管路の資産価値を算出する資産価値算出システムであって、
管路の劣化を予測する学習済みの数理モデル、管路の属性を示す管路属性情報、及び基準額を記憶する記憶部と、
前記数理モデルを用いて、前記管路属性情報に基づく管路劣化予測を行い、管路の余寿命を予測する予測部と、
前記余寿命及び前記基準額に基づいて既設管路の資産価値を算出する算出部と、
を備える。
【0009】
このような構成とすることで、管路属性情報に基づいて管路の現在の余寿命を予測し、それぞれの管路の状態に応じた余寿命に基づく、管路の物品としての資産価値を正確に把握することができる。また、耐用年数が終了した管路であっても、減価償却資産としてではなく、管路属性情報に基づく余寿命を予測し、その余寿命に応じた新たな価値を管路に対して提供することができる。
【0010】
本発明の好ましい形態では、前記算出部は、前記基準額に基づいて算出された年ごとの減価償却額より、前記余寿命に基づく管路の資産価値を算出する。
【0011】
このような構成とすることで、減価償却の考え方に基づきながらも、管路の現時点での属性に基づいてそれぞれの管路の属性に基づく正確な価値を把握することができる。
【0012】
本発明の好ましい形態では、前記算出部は、前記余寿命が管路の耐用年数を超えるとき、前記基準額を管路の資産価値とする。
【0013】
このような構成とすることで、余寿命が耐用年数を超える管路の場合であっても管路の資産価値を管路の価格に基づいて把握することができる。
【0014】
本発明の好ましい形態では、前記数理モデルは、管路に発生したイベントに関するイベント情報及び前記管路属性情報を用いて学習を行った学習済みのモデルである。
【0015】
このような構成とすることで、管路に発生した漏水や管路自体の属性に基づいて学習を行ったモデルを利用した余寿命による資産価値を把握することができる。
【0016】
本発明の好ましい形態では、前記イベント情報は、管路にイベントが発生したタイミングに関するタイミング情報を含む。
【0017】
このような構成とすることで、管路に発生した漏水等のイベントの発生のタイミングに基づいて学習を行ったモデルを利用して予測した余寿命に基づく正確な現在の管路の資産価値の把握を行うことができる。
【0018】
前記算出部は、管理を委託する対象となる複数の既設管路の資産価値を算出し、算出した資産価値の合計値を算出する。
【0019】
このような構成とすることで、管路を委託する場合であっても、委託を行う管路の価値を委託先に正確に提供することができる。
【0020】
資産価値算出システムは、更に、弁栓を含む水道施設の資産価値の算出を行う。
【0021】
このような構成とすることで、弁栓等の管路に関連する設備の資産価値を算出することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、学習済みの数理モデルを利用して求めた余寿命に基づく管路の資産価値を算出する新規な技術を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】システム全体の構成を示すブロック図
図2】システムのハードウェア構成図
図3】管路属性情報及びイベント情報のデータ構成の例
図4】余寿命に基づく管路の資産価値のイメージ図
図5】処理のフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照して、本発明をよりに詳細に説明する。図面には好ましい実施形態が示されるが、本発明は、異なる形態で実施されることが可能であり、本明細書に記載される実施形態に限定されない。本実施形態では資産価値算出装置の構成、動作などについて説明するが、装置などにより実行される方法、コンピュータプログラムなどによっても、同様の作用効果を奏することができる。コンピュータプログラムは、コンピュータが読み取り可能な非一過性の記録媒体として提供されてもよい。
【0025】
以下、説明する実施例において、流体の供給を行う管路の資産価値を算出する当該資産価値算出システムは、上水道管などの液体を供給する管路の資産価値の算出を行うが、流体を供給する管路に関する資産価値の算出であれば、ガスの供給を行うための本支管などの管路の資産価値の算出を行ってもよい。本実施形態において、資産価値算出システムは、既に埋設された既設管路を含む埋設された設備の資産価値の算出を行う。また、資産価値算出システムは、流体の供給に利用するポンプ設備や塩素滅菌装置等の水道設備やガス関連設備、電気設備等のその他の設備の資産価値の算出を行ってもよい。本実施形態において、以下に説明する資産価値算出システムは、管路の資産価値として管路の物品としての価値(金額)を算出する。
【0026】
管路以外の設備に関して、仕切弁や空気弁、減圧弁など、その他の埋設されている設備は、周辺の管路と同時期に埋設されるため、資産価値算出システムは、隣接する管路や周辺の管路と同様の方法で余寿命を予測し、資産価値の算出を行ってもよい。
【0027】
本実施形態において、管路劣化予測システムにおいて学習を行った学習済みの数理モデルを利用して管路劣化予測を行い、予測結果として取得した管路の余寿命を利用して管路の資産価値の算出を行うが、当該資産価値算出システムが管路劣化予測システムとしての機能を有し、管路劣化予測のための数理モデルの学習を行ってもよい。
【0028】
<システム構成>
図1は、一実施形態のシステムの構成を示すブロック図である。図1に示すように、資産価値算出システム0は、資産価値算出装置1と、端末装置2と、を備える。
【0029】
本実施形態において、資産価値算出装置1は、後述する機能構成を実現可能に構成される。資産価値算出装置1は、1又は複数の情報処理装置によって構成されてよく、資産価値算出装置1に含まれる機能構成は、その一部が資産価値算出装置1と通信可能に接続された他の情報処理装置で実現されてもよい。本実施形態において、資産価値算出装置1は、記憶部102に記憶される情報を利用して後述する各種処理を行うが、他の管路データを管理するデータベースとネットワークを介して通信を行い、取得した情報を利用して、各種処理を行ってもよい。
【0030】
また、本実施形態において、資産価値算出装置1は、事業者が管理する管路に関する情報を管理するGIS(Geographic Information System)として機能する。本実施形態において、資産価値算出装置1は、事業者が拠点内の管路に関する情報を管理するための管路情報管理部(GIS等)の機能を備える装置であって、管路の属性を示す管路属性情報及び管路に発生した漏水の履歴であるイベント情報等のデータの管理を行う。本実施形態において、資産価値算出装置1に含まれる管路DBは、事業者が管理する管路のデータベースである。なお、管路DBに格納された管路属性情報、若しくは、管路属性情報及びイベント情報に対しては、住所、座標やEPSGコード等のコード、GeohashやQuadkey等のハッシュ化位置情報、標準地域メッシュ等のメッシュコード等(これらを総称して、位置情報とする)、管路の所在を示す位置情報が1又は複数が付加されているものとする。
【0031】
端末装置2は、学習に用いるデータを資産価値算出装置1に受け渡すなど、情報の入出力に用いられてもよい。端末装置2としては、パーソナルコンピュータやスマートフォン、タブレット端末、パーソナルコンピュータなどの装置を利用することができる。端末装置2は複数台用いられてもよいし、1台であってもよい。また、セキュリティの観点等から通信可能に構成されることが望ましくない場合、端末装置2として利用されるパーソナルコンピュータ等のコンピュータ端末が後述する機能構成を実現可能に構成され、一つの装置内で資産価値算出システム0の機能が充足されていてもよい。
【0032】
また、資産価値算出システム0は、更に、気象データを提供する気象情報提供システムや地図情報提供システムなどの外部システムにアクセスし、管路劣化予測に利用するためのデータを取得して外部DBに格納する外部データ配信装置と、取得したデータが格納される外部DBと、を備えていてもよい。また、外部のデータベースより管路劣化予測に利用する情報を取得する場合、管路属性情報に対して付加された位置情報に基づいて取得した情報と管路属性情報を含む管路に関する情報を紐づける処理を行ってもよい。
【0033】
<ハードウェア構成>
図2は、ハードウェア構成図である。図2(a)に示すように、資産価値算出装置1は、処理部101、記憶部102、及び通信部103を有し、各部及び各工程の作用発揮に用いられる。また、図2(b)に示すように、端末装置2は、処理部201、記憶部202、通信部203、入力部204、及び出力部205を有し、各部及び各工程の作用発揮に用いられる。
【0034】
資産価値算出装置1としては、汎用のサーバやパーソナルコンピュータなどの情報処理装置を1又は複数利用することができる。また、資産価値算出装置1は、後述する機能構成を備えているが、資産価値算出装置1の備えた機能構成の一部が、資産価値算出装置1と通信可能に構成された別の装置に配置されてもよい。
【0035】
処理部101及び処理部201は、命令セットを実行可能なCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを有し、OS(Operating System)並びに、資産価値算出プログラム(資産価値算出装置1)、管路劣化予測プログラム(資産価値算出装置1)、又は資産価値算出装置利用プログラム(端末装置2)などを実行する。
【0036】
記憶部102及び記憶部202は、命令セットを記憶可能なRAM(Random Access Memory)などの揮発性メモリ、OSなどを記録可能な、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの不揮発性の記録媒体を有する。資産価値算出装置1の記憶部102は、管路の余寿命を算出するための数理モデル又は学習済みの数理モデルのパラメータと管路に関するデータとして管路DBを記憶する。端末装置2の、記憶部202は、資産価値算出装置利用プログラムなどを記憶する。
【0037】
通信部103及び通信部203は、ネットワークに接続するためのインタフェースを有し、ネットワークとの通信制御を実行して、他の情報処理装置や端末装置2との通信を行う。
【0038】
入力部204は、タッチパネルやキーボードなどの入力処理が可能な操作入力デバイス、マイクなどの音声入力が可能な音声入力デバイスなどを有する。出力部205は、ディスプレイなどの表示処理が可能な表示デバイス、スピーカなどの音声出力デバイスを有してもよい。
【0039】
<データ構成の例>
図3において、記憶部102に記憶され、管路の資産価値算出に利用されるデータ構成の例を示す。
【0040】
図3(a)において、それぞれの管路の特徴(属性)を示す管路属性情報のデータ構成の例を示す。本実施形態において管路属性情報は、管路に関する情報であって、管路の管理を行う事業者のデータベースなどに記憶されるデータであるが、資産価値算出装置1と通信可能に接続された端末装置2などを介して、管路の管理を行う事業者や当該システムの管理者により入力されたデータを含んでいてもよい。管路属性情報は、予測部11において管路の劣化予測に利用される管路に関する特徴量を含む。
【0041】
図3(a)に示す管路属性情報は、管路に関する情報であって、管路の布設された年度に関する布設年と、ダクタイル鋳鉄管(DIP)や普通鋳鉄管(CIP)などの管路の材料に関する情報である管種と、管路の口径と、漏水調査が行われたかなどのイベント情報の有無に関する漏水調査の有無と、に関する管路属性特徴量と管路を特定する一意なIDを含む。また、本実施形態において、管種は管路をつなぐ継手に関する情報を含む。
【0042】
また、本実施形態において、予測部11は、管路属性情報に含まれる60から70程度の管路に関する特徴量を利用して管路の劣化予測を行うが、管路属性情報に含まれる特徴量の数はこの範囲に限定されない。管路属性情報は、管路の特徴を示す情報であればどのような情報であってもよく、管路自体の特徴に関する情報や、管路の布設位置における平均気温等、管路の布設位置における気候や土壌、主要道路からの距離に関する情報等であってもよい。
【0043】
図3(b)において、記憶部102に記憶されるイベント情報のデータ構成の例を示す。イベント情報は、管路において発生した漏水などのイベントに関する情報である。本実施形態において、イベント情報は、水道事業者などの管路を管理する事業者による調査によって取得された漏水の発生履歴などのイベントに関する情報と、突発的な漏水事故が発生した管路の修理や交換を行った事業者によって取得された管路において発生済みのイベントに関する情報と、を含む。また、突発的に管路に発生した漏水(イベント)に関するイベント情報は、管路属性情報と紐づいていなくてもよい。
【0044】
本実施形態において、イベント情報に含まれるイベント種別は、管路の損傷の原因及びイベント発生の有無を示す情報であって、例えば、水道管の腐食劣化と電食漏水と振動漏水などの漏水原因に関する情報が格納される。また、漏水の発生していない管路に関しては、イベント種別として漏水無しという情報が格納される。本実施形態では、イベント情報は水道管の漏水に関する情報であるが、ガス管の破裂や破損など、その他管路や設備等で発生するイベントに関する情報であってもよい。
【0045】
図3(b)に示すイベント情報は、イベントを特定するための一意なIDである漏水データIDと、イベントが発生した管路の管路IDと、漏水原因と、タイミング情報としてイベントの発生した年度に関するイベント発生年度(漏水年)を含む。タイミング情報は管路においてイベントが発生したタイミングに関する情報である。図3(b)に示すデータでは、タイミング情報としてイベントが発生した年度に関するデータが含まれるが、管路の布設年度とイベント発生年度より取得したイベント発生までの管路の生存時間(管路の布設年度からイベント発生又は前回のイベント発生から今回のイベント発生までの時間)がタイミング情報として含まれていてもよい。本実施形態において、イベント情報とタイミング情報とは同じ漏水データIDに紐づいて管理される。
【0046】
また、記憶部102は、管路の価値を示す情報として基準額を記憶する。本実施形態において、基準額は、管路の取得価額である。また、資産価値算出装置1は、記憶部102において、管路の取得年度(布設年度)と管種とに基づいて管路の取得時の価格を基準額として特定するためのテーブルを記憶し、資産価値算出システム0は、テーブルを利用して特定した基準額を利用して管路の資産価値の算出を行っていてもよい。
【0047】
<機能構成>
図1に示すように資産価値算出装置1は、予測部11と、算出部12と、を備える。これは、ソフトウェア(記憶部などに一過的又は非一過的に記憶されたプログラム)による情報処理がハードウェア(処理部など)によって具体的に実現されたものである。
【0048】
予測部11は、学習済みの数理モデルを用いて管路の属性を示す管路属性情報に基づく管路劣化予測を行い、管路の余寿命を予測する処理を行う。本実施形態において、予測部11は、管路の属性を示す管路属性情報と、管路に起こった漏水などのイベントを示すイベント情報と、に基づいて学習を行った学習済みの数理モデルを利用して余寿命の予測を行う。
【0049】
予測部11は、劣化予測の結果として、1年以内などの所定の期間内に管路が劣化し、漏水する確率である劣化率や、管路の劣化や破損の程度を示す破損率、管路が漏水を起こすまでの想定の時間である生存時間等を劣化予測の結果として出力してもよい。また、予測部11は、管路の予測結果として取得した生存時間をそのまま余寿命としてもよく、また劣化予測の結果として出力した劣化率等の値を利用して管路の余寿命を求めてもよい。
【0050】
予測部11が数理モデルを利用して算出する余寿命は、管路の利用可能年数であって、本年度から管路に漏水等のイベントが発生するまでの時間(年数)を示す。本実施形態において、予測部11は、余寿命として管路の劣化率が閾値以上となる年度までの時間、又は生存時間分析における管路の生存時間を余寿命として取得する。本実施形態における管路の生存時間は、管路において、管路の布設または以前の漏水(イベント)発生から漏水等のイベントが発生するまでの時間である。
【0051】
本実施形態において、予測部11が管路劣化予測に利用するデータは事業者が管理する管路に関するデータベースである管路DBより取得した情報であるが、ネットワークを介して接続した外部のデータベースや、外部のネットワークに接続することがセキュリティの観点から好ましくない場合はUSB等の可搬記録媒体を介して取得した情報であってもよい。
【0052】
予測部11において、利用される数理モデルは、管路の特徴(属性)を示す管路属性情報と管路に発生した漏水などのイベントの発生に関するイベント情報の組み合わせを教師データとして学習を行った数理モデルである。本実施形態において、数理モデルは、腐食劣化や、電食漏水など、それぞれのイベント種別に基づいて学習を行ったモデルであるが、すべてのイベント種別における管路属性情報及びイベント情報を含む情報に基づいて学習を行ったモデルであってもよい。
【0053】
本実施形態において、予測部11は、生存時間分析を行い、管路の生存時間の算出を行い、余寿命として取得する。本実施形態において、予測部11は、管路劣化予測をカプランマイヤー法やCox比例ハザードモデルなどの生存時間分析の手法を利用して行うが、生存時間分析に関する手法であれば、どのような手法を用いて管路劣化予測を行ってもよい。また、本実施形態において、生存時間分析の手法を用いて劣化予測を行うイベントの種別は腐食劣化のみであるが、その他のイベントの種別に関して管路の劣化の予測を行ってもよい。
【0054】
イベントの種別とは、管路に発生したイベントの種別であって、本実施形態では、腐食劣化と、電食漏水と、振動漏水と、その他不良漏水とを含む。また、イベント種別は、漏水が発生していないという漏水無しを含む。本実施形態において、腐食劣化による漏水に関するイベント情報に基づいて学習を行った腐食劣化予測用の数理モデルや、電食漏水による漏水に関するイベント情報に基づいて学習を行った数理モデルをそれぞれ利用して、それぞれの漏水原因(イベント種別)ごとの管路劣化予測を行う。また、本実施形態において、予測部11は、イベント種別に基づいてそれぞれ対応する手法を用いて管路の劣化予測を行う。
【0055】
また、本実施形態において、予測部11は、腐食劣化以外のイベント種別に関して、イベント種別ごとに対応するイベント情報に基づいて学習を行った数理モデルを利用して管路劣化予測として管路の特定の期間における劣化率として、例えば、1年以内のイベントの発生率(1年以内に管路に漏水が発生する確率)や3年以内のイベントの発生率(3年以内に管路に漏水が発生する確率)など、の算出を行うが、劣化率が閾値以上となった年度を管路の漏水年度とし、本年度より管路の漏水年度までの時間(年数)を余寿命として取得してもよい。
【0056】
予測部11は、機械学習を行った数理モデルであれば、勾配降下法やブースティング、決定木やニューラルネットワーク、ロジスティック回帰やk近傍法など、また、複数の手法を組み合わせるような手法など、どのような手法で構成された数理モデルを利用して管路劣化予測を行い、余寿命の算出を行ってもよい。予測部11は、イベント種別ごとに異なる手法により構成された数理モデルを利用して管路劣化予測を行ってもよい。また、予測部11は、複数の数理モデルを利用して管路劣化予測を行ってもよい。
【0057】
本実施形態において、予測部11は、複数のイベント種別にそれぞれ対応する数理モデルを利用して管路劣化予測を行い、それぞれのイベント種別に対応する管路劣化予測の結果を複数取得するが、取得したそれぞれのイベント種別に対応する複数の予測結果(余寿命)のうち、イベント(漏水)の発生までの時間が最も短い予測結果を資産価値の算出に用いる最終的な余寿命として取得してもよい。また、予測部11は、イベント種別に基づく複数の数理モデルを利用してそれぞれのイベント種別ごとの予測結果を出力する際、腐食劣化などの特定のイベント種別に基づく予測結果や、複数の予測結果の平均等を余寿命として利用してもよい。
【0058】
算出部12は、予測部が求めた管路の余寿命と基準額とに基づいて、管路の資産価値の算出を行う。基準額は、管路の金銭的な価値であって、本実施形態では、工事費、設計費、人件費等を含む管路の取得価額であるが、現在の管路の価格や、管路の購入時の価格又は現在の価格から物価変動の影響を取り除いた価格等であってもよい。
【0059】
減価償却の考え方に基づくと、減価償却資産である管路の価値は、耐用年数と購入した年度(布設年)に基づいて決定され、布設年から本年度までの期間が耐用年数に近づくほど、管路の資産価値は0に近づく。一方、当該資産価値算出システム0における算出部12は、取得した管路の余寿命に基づいて管路の資産価値の算出を行うため、耐用年数が近づくなどの古い管路であっても、劣化予測の結果に基づいて管路の資産価値を正確に評価することが可能となる。本実施形態において、資産価値の算出に利用する耐用年数は法律で定める管路の耐用年数(法定耐用年数)であるが、平均的な管路の利用可能な年数等であってもよい。
【0060】
図4において、余寿命を用いた管路の資産価値の評価のイメージを示す。図4に示すイメージ図では、布設から耐用年数の半分の時間(例えば20年)が経過しているが、余寿命として耐用年数と同等の年数(40年)が劣化予測により予測結果として特定される場合の例を示す。耐用年数に基づく減価償却資産としての資産価値の算出方法では、耐用年数の半分の時間が経過しているため、管路の資産価値は、取得時の価格の半分である。一方で、余寿命に基づく管路の資産価値の算出方法では、耐用年数と同様の余寿命を有するため、取得時の価格と同様の価値を有する管路であると評価する。
【0061】
本実施形態において、算出部12は、数1に示すように、管路の耐用年数に基づいて管路の年ごと(1年間)の減価償却額を算出し、算出した年ごとの減価償却額と管路の余寿命に基づく管路の資産価値の算出を行う。本実施形態において、管路の耐用年数を40年として算出を行うが、管種ごとの耐用年数を利用して管路の資産価値の算出を行ってもよい。その場合、記憶部102は、管種ごとの耐用年数に関するテーブルを記憶していてもよい。また、管路の余寿命に基づいて管路の資産価値を算出する方法であれば、数1に示す算出方法以外であっても、どのような方法を用いて資産価値を算出してもよい。
【0062】
また、本実施形態では、公営企業会計のルールに従い、管路及び弁栓を同じ固定資産として計上するため、耐用年数が38年と設定するが、管路の耐用年数を40年、弁栓類の耐用年数を30年と設定するなど、会計上のルール等に従って管路等の設備の耐用年数を設定してもよい。本実施形態において、算出部12は、基準額と耐用年数に基づいて年ごとの減価償却額と算出し、算出した年ごとの減価償却額に基づいて管路の資産価値の算出を行うが、基準額と、管路の耐用年数及び余寿命の比率と、に基づいて算出を行う等、余寿命を利用した管路の資産価値の算出方法であればどのような方法を用いて管路の資産価値を算出してもよい。本実施形態において、算出部12は、減価償却に関する計算式に基づいて、管路の取得額から残存価格(取得価額の10%)を除いた金額と耐用年数に基づく割合(38年のため取得価額の2.7%)に基づいて年ごとの減価償却額を算出し、算出した年ごとの減価償却額を利用して管路の資産価値の算出を行う。また、本実施形態において利用する公営企業会計において、償却限度額(取得価額の95%)まで減価償却を行うため、管路の余寿命が残っていない場合であっても、算出部12は、管路の資産価値を取得額から減価償却限度額(取得額の95%)を除いた金額としてもよい。また、本実施形態において、算出部12は、数1に示す式を用い、資産価値の算出を行うが、管路の資産価値を管路の購入時の価格を上限として、管路の余寿命が耐用年数を超える場合は管路の資産価値を取得価額としてもよい。また、年ごとの減価償却額の算出方法に関して、減価償却に関する計算方法であれば、定額法や定率法など、どのような算出方法を利用してもよい。
【0063】
【数1】
【0064】
また、算出部12は、物価の変動等の影響を除いて評価を行うためのデフレータ機能を有し、物価の変動の影響を取り除いた資産価値の算出を行ってもよい。
【0065】
また、資産価値算出装置1は、管路属性情報の分類を行う分類部を備え、分類結果に基づいて、類似する管路属性情報を備えるため同じ分類に分類された他の管路の予測結果を利用して管路の劣化予測を行ってもよい。
【0066】
<処理のフロー>
以下、図5を用いて処理に関するフローを示す。
【0067】
端末装置2において、事業者等のユーザによって資産価値の算出を行う管路の指定が行われ、入力を受け付けると、資産価値算出装置1の予測部11は、数理モデルを用いて管路属性情報に基づく管路劣化予測を行い、管路の余寿命を求める。本実施形態において、予測部11は、管路DBより取得する管路属性情報を含む必要な各種情報を取得して管路の劣化予測を行う。算出部12は、管路劣化予測により取得した管路の余寿命と、基準額と、より管路の資産価値の算出を行う。
【0068】
<算出結果の利用>
以下、資産価値算出システム0により算出された資産価値の利用方法に関して説明を行う。本実施形態において、算出部12は、市区町村や特定の事業者の管理する管路、管理を委託する予定の管路など指定された範囲内に存在する管路の資産価値を全て算出し、その合計値を算出する処理を行う。資産価値算出システム0は、算出した資産価値を含む各種情報を表示処理するための表示処理部を備えていてもよく、表示処理部は、指定された管路の資産価値や指定された範囲内の管路の資産価値の合計値など、算出された資産価値を端末装置2に表示するための表示処理を行う。
【0069】
また、本実施形態において、資産価値算出システム0は、端末装置2を介して事業者等により入力された管路の指定に基づいて資産価値の算出を行うが、管路の指定方法はどのような方法であってもよく、地図上に表示される管路を押下することで選択してもよく、また、市区町村や自治体名、管路を管理する事業者名を指定して、その範囲内に存在するすべての管路、又は事業者名の場合はその事業者が管理するすべての管路を資産価値の算出を行う管路として指定してもよい。
【符号の説明】
【0070】
0 資産価値算出システム
1 資産価値算出装置
2 端末装置
【要約】
【課題】
本発明は、数理モデルを用いて求めた余寿命を利用して管路の資産価値の算出を行う新規な技術を提供することを課題とする。
【解決手段】
流体を供給する既設管路の資産価値を算出する資産価値算出システムであって、
管路の劣化を予測する学習済みの数理モデル、管路の属性を示す管路属性情報、及び基準額を記憶する記憶部と、
前記数理モデルを用いて、前記管路属性情報に基づく管路劣化予測を行い、管路の余寿命を予測する予測部と、
前記余寿命及び前記基準額に基づいて既設管路の資産価値を算出する算出部と、
を備える。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5