(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-01
(45)【発行日】2024-08-09
(54)【発明の名称】金属-ポリアセタールアセンブリ
(51)【国際特許分類】
C08L 59/02 20060101AFI20240802BHJP
C08L 79/00 20060101ALI20240802BHJP
C08G 2/08 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
C08L59/02
C08L79/00 Z
C08G2/08
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019138095
(22)【出願日】2019-07-26
【審査請求日】2022-06-27
(32)【優先日】2018-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519393129
【氏名又は名称】デュポン ポリマーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ダル モリン マルタ
(72)【発明者】
【氏名】加藤 誠
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-100393(JP,A)
【文献】特開2011-178837(JP,A)
【文献】特開2000-026703(JP,A)
【文献】特開2014-051586(JP,A)
【文献】特開2011-084563(JP,A)
【文献】特開平06-322231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K,C08G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの部品のアセンブリであって、
(1)ポリアセタールを少なくとも20重量%含むプラスチック部品;および
(2)金属部品;
を含み、前記ポリアセタールがカルボジイミドを含み、
前記プラスチック部品がヒドラジド化合物を含まず、
前記ポリアセタールがホルムアルデヒドのホモポリマーであ
り、
前記ポリアセタール中の前記カルボジイミド含有率が、前記プラスチック部品の重量を基準として0.01~1重量%であり、
前記カルボジイミドが、前記プラスチック部品の重量を基準として0.025重量%よりも大きい濃度で存在し、
前記カルボジイミドが一般式RN=C=NRのものであり、前記Rラジカルが同じであるかまたは異なり、脂肪族および芳香族のラジカルから独立して選択され、
前記カルボジイミドがポリマーである、アセンブリ。
【請求項2】
前記プラスチック部品が、少なくとも50重量%のポリアセタールであるポリマー成分を有する、請求項1に記載のアセンブリ。
【請求項3】
前記ポリアセタール中の前記カルボジイミド含有率が、前記プラスチック部品の重量を基準として0.01~0.3重量%である、請求項1に記載のアセンブリ。
【請求項4】
前記カルボジイミドが、前記プラスチック部品の重量を基準として0.05重量%よりも大きい濃度で存在する、請求項
1に記載のアセンブリ。
【請求項5】
前記カルボジイミドが芳香族Rラジカルを有する、請求項
1に記載のアセンブリ。
【請求項6】
前記カルボジイミドが以下の式:
【化1】
(式中、R1、R2、R3、R4、およびR5は、独立してHおよび1~4個の炭素原子のアルキルラジカルから選択され、nは8~12の整数である)のポリマーである、請求項
1に記載のアセンブリ。
【請求項7】
前記カルボジイミドが以下の式:
【化2】
(式中、数平均分子量に基づいて、nは8および/または9である)のポリマーである、請求項
1に記載のアセンブリ。
【請求項8】
前記カルボジイミドが700より大きい分子量を有する、請求項
1に記載のアセンブリ。
【請求項9】
前記金属がステンレス鋼および炭素鋼から選択される、請求項
8に記載のアセンブリ。
【請求項10】
前記プラスチック部品がポリアセタールギアまたはホイールからなる群から選択され;前記金属部品がギア、ホイール、またはロッドであり、前記ポリアセタールギアまたはホイールは、前記金属シャフト、ギア、ロッド、またはホイールと接触するか近接しており、前記プラスチック部品は、前記金属部品の少なくとも一部と接触しているか前記金属部品から5mm以下離れている、請求項
9に記載のアセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年7月26日に出願された米国仮特許出願第62/703,526号に基づく優先権を主張する。この出願はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、金属-ポリアセタールアセンブリ、特に低減された金属腐食を示す金属-ポリアセタールアセンブリの分野に関する。
【背景技術】
【0003】
一般的に「POM」と呼ばれるポリアセタールは、機械およびコンベアベルト中のギアおよびベアリングなどの部品においてしばしば使用される。そのような部品は通常は金属と接触しているかまたは金属に近接している。特定の条件下では、POMは金属部品の腐食を誘発する場合があることが観察されている。
【0004】
POM配合物に近接した金属部品の腐食を低減させるPOM配合物が必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の態様では、本発明は、少なくとも2つの部品のアセンブリであって、
(1)ポリアセタールを少なくとも20重量%含むプラスチック部品;および
(2)金属部品;
を含み、ポリアセタールがカルボジイミドを含む、アセンブリを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明者らは、驚くべきことに、少なくとも1種のカルボジイミドをポリアセタール樹脂に添加すると、そのような樹脂から製造される部品と接触または近接する金属部品が、少なくとも1種のカルボジイミドを有さない樹脂から製造されたポリアセタール部品と接触または近接する金属部品と比べて低減された腐食を示すことを見出した。
【0007】
プラスチック部品は実質的にポリアセタール樹脂から製造される。ポリマー成分はポリアセタールのみであってもよく、あるいはこれは1種以上の他のポリマーとポリアセタールとのブレンドであってもよい。好ましくは、これは少なくとも20重量%のポリアセタール、より好ましくは少なくとも30重量%のポリアセタール、更に好ましくは少なくとも50重量%のポリアセタールであるポリマー成分を用いて製造される。特に好ましい実施形態では、ポリマー成分はポリアセタールのみである。
【0008】
本発明で使用されるポリアセタール樹脂としては、ホルムアルデヒド、ホルムアルデヒド環状オリゴマー、トリオキサン、テトラオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドなどのポリマー若しくはコポリマー、またはアルデヒドと環状エーテル若しくは環状アセタール(エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,3-ジオキサンなど)とを共重合するなどによって得られるポリマーが挙げられる。ポリアセタール樹脂は、-(CH2)nO主鎖単位(nは自然数である)および/または-(CHR-O)-単位(Rはアルキル基である)を含み、その末端基が保護されていないか、-O-CO-CH3、-OCH3、および-O(CH2)n-OHからなる群から選択されるラジカルで保護されている、直鎖のポリマーである。ポリアセタール樹脂は、約10,000~100,000、好ましくは20,000~70,000の数平均分子量を有する。本発明で使用されるポリアセタール樹脂には、必要に応じて、本発明に悪影響を及ぼさない範囲内で、熱安定剤、酸化防止剤、可塑剤、強化剤、紫外線安定剤、潤滑剤、充填剤、着色剤、顔料などが任意選択的に配合されていてもよい。
【0009】
好ましくは、本発明で使用されるポリアセタールはホモポリマーまたはコポリマーである。ホモポリマーは、モノマーとしてホルムアルデヒドのみを使用して製造される。コポリマーでは、-CH2O-基のいくつか(例えば、約1~1.5%)が-CH2CH2O-基で置き換えられている。ホモポリマーが好ましい。
【0010】
プラスチック部品は1種以上のカルボジイミドを含む。カルボジイミドまたはメタンジイミンは、式RN=C=NRからなる官能基である。本発明において有用なカルボジイミドは特に限定されず、Rラジカルは脂肪族(環状または直鎖)もしくは芳香族、または混合であってもよい。芳香族ラジカルは、少なくとも1個のC原子、または1個のヘテロ原子(N、S、および/またはO)を有する置換基を有していてもよい。
【0011】
モノマーカルボジイミドが本発明において有用であるものの、ポリマーカルボジイミドを使用することが好ましい。ポリマーカルボジイミドは取り扱いにおいて毒性が少なく、またポリアセタール中に移動する傾向が少ない。好ましいポリマーカルボジイミドは、700より大きい、より好ましくは1,500より大きい、特に好ましくは2000より大きい分子量を有する。脂肪族および芳香族のポリマーカルボジイミドを使用することができる。好ましくは、カルボジイミドは350,000未満の分子量を有する。
【0012】
好ましい実施形態では、カルボジイミドは以下の式:
【0013】
【化1】
(式中、R
1、R
2、R
3、R
4、およびR
5は、独立してHおよび1~4個の炭素原子のアルキルラジカルから選択され、nは8~12の整数である)のポリマーである。
【0014】
特に好ましい実施形態では、カルボジイミドは以下の式A:
【0015】
【化2】
(式中、nは数平均分子量に基づいて7~11、より好ましくは8および/または9の整数である)を有するポリマーである。
【0016】
ポリマーは異なる分子量を有する分子の分布であり、本明細書で特定される任意の数の繰り返し単位または分子量は数平均分子量に基づくことが理解される。
【0017】
好ましくは、すぐ上で示したポリマーカルボジイミドは、2,900~4,351、より好ましくは3,260~3626の分子量を有する。
【0018】
カルボジイミドは、好ましくは0.01~0.3重量%の濃度で存在し、より好ましくは、これはプラスチック部品の重量を基準として0.025重量%を超える、より好ましくは0.05重量%を超える、更に好ましくは0.075重量%を超える濃度で存在する。好ましくは、カルボジイミドは、プラスチック部品の重量を基準として2重量%以下で存在する。
【0019】
金属部品は、腐食しやすい任意の金属で作られていてもよい。これには鋼、特にはステンレス鋼および炭素鋼が含まれる。本発明は、使用中に高レベルの腐食を典型的に示す炭素鋼に特に適している。
【0020】
アセンブリの好ましい実施形態では、プラスチック部品は、少なくとも20重量%のポリアセタール、より好ましくは少なくとも30重量%のポリアセタール、更に好ましくは少なくとも50重量%のポリアセタール、最も好ましくは100重量%のポリアセタールから製造され、ポリアセタールはホモポリマーであり、カルボジイミドは8~9個のモノマー単位を有する式Aのポリマーであり、これは好ましくは0.075~0.3重量%で存在する。好ましくは、ポリアセタールは70kDaの分子量を有する。好ましくは、金属部品はプラスチック部品から2cm以下である。
【0021】
アセンブリの特に好ましい実施形態では、プラスチック部品は、70kDaの分子量を有する100重量%のホモポリマーから製造され、カルボジイミドは、数平均分子量に基づいて8~9個のモノマー単位を有する式Aのポリマーであり、これは好ましくは0.2重量%で存在する。好ましくは、金属部品はプラスチック部品から2cm以下である。
【0022】
このアセンブリは、プラスチック部品が金属部品と近接しているかまたは接触している、任意の機械的、構造的、または装飾的なアセンブリであってもよい。これには、例えば:
・金属シャフトまたはロッドに取り付けられたポリアセタールギアまたはホイール;
・金属ギアまたはホイールと接触しているかまたは近接しているポリアセタールギアまたはホイール;
・ポリアセタールハウジング内部の金属部品;
・金属製ハウジング内部のポリアセタール部品;
が含まれる。
【0023】
好ましい実施形態では、プラスチック部品と金属部品とは相互作用する。すなわちプラスチック部品と金属部品はそれらの表面の少なくとも一部で接触する、あるいはこれらは例えば金属シャフトに取り付けられたギアまたはホイールであるか、または金属製のホイールまたはギアによって作動する場合には動的に相互作用する。その逆、すなわち、プラスチックシャフトに取り付けられているか、またはプラスチックギアまたはホイールによって作動する金属ホイールまたはギアであることも可能である。
【0024】
閉鎖系における「~に近接して」という表現は、プラスチック部品が金属部品から10cm以下、好ましくは5cm以下、より特に好ましくは2cm以下、または1cm以下離れていることを意味する。開放系では、「~に近接して」という表現は、プラスチック部品が金属部品から5cm以下、好ましくは1cm以下離れていることを意味する。閉鎖系および開放系の両方において、好ましくはプラスチック部品は金属部品から5mm以下、より好ましくは1mm以下離れており、特に好ましくは金属部品と接触している。
【0025】
充填剤および/または添加剤
本明細書に記載のポリアセタール樹脂は、限定するものではないが、ガラス繊維およびガラスビーズなどの強化剤、炭素繊維および他の強化繊維、炭酸カルシウム、酸化物(アルミナ、シリカ、および二酸化チタンなど)、硫酸塩(硫酸バリウムなど)、チタン酸塩、カオリン粘土、および他のケイ酸塩、水酸化マグネシウム、タルク、珪灰石、他の鉱物、グラファイト、およびカーボンブラックなどの充填剤を含有していてもよい。
【0026】
本明細書に記載のポリアセタール樹脂は、潤滑剤、酸化防止剤、紫外線安定剤、熱安定剤、強化剤、造核剤、離型剤、可塑剤、帯電防止剤、界面活性剤、および着色剤などの添加剤も含有していてもよい。好適な潤滑添加剤としては、ジメチルポリシロキサンおよびそれらの誘導体などのシリコーン潤滑剤、オレイン酸アミド、ならびにアルキル酸アミドが挙げられる。他の好適な添加剤としては、ホルムアルデヒド捕捉剤、非イオン性界面活性潤滑剤、炭化水素ワックス、クロロヒドロカーボン、フルオロカーボン、オキシ脂肪酸、脂肪酸の低級アルコールエステルなどのエステル、ポリグリコールおよびポリグリセロールなどの多価アルコール、ならびにラウリン酸およびステアリン酸などの脂肪酸の金属塩が挙げられる。好適な紫外線安定剤としては、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、芳香族ベンゾエート、シアノアクリレート、およびシュウ酸アニリドが挙げられる。
【0027】
本明細書に記載のポリアセタール樹脂は、プラスチック部品の重量を基準として0~40重量%の範囲の、本明細書に開示されているかまたは当該技術分野で公知の充填剤および添加剤を、単独でまたは任意の組み合わせで、任意の重量%含んでいてもよい。本明細書では、これらのプラスチック部品は0~30重量%の充填剤および最大10重量%の添加剤を含み得ることが明確に想定されている。
【実施例】
【0028】
ベースポリマーは、DuPontにより製造された約70KDaの分子量を有するアセテートでキャッピングされたホモポリマーポリアセタールであった。カルボジイミドは以下の構造:
【0029】
【化3】
(式中、nは数平均分子量に基づいて8および/または9である)を有するポリマーであった。
【0030】
配合物で使用した全ての成分は製造元から購入し、更に精製することなく使用した。成分はドライブレンドし、190℃、スクリュー速度125rpm、35kg/時の処理量に設定したバレルを有する二軸押出機Berstorff ZE40Aで混錬した。押し出された材料をペレット化し、80℃で3時間乾燥して過剰の水分を除去した。205℃の溶融温度を得るためにバレル温度を設定して、材料をISO引張試験片へと射出した。モールドの温度は90℃に設定した。
【0031】
金属棒を用いた腐食試験
実験を開始する前に直径5mm、長さ約150mmの炭素鋼棒を洗浄し、超音波浴中のアセトンに15分間完全に浸漬することによって任意の酸化防止剤コーティングを除去した。処理が完了した後、棒をアセトン浴から取り出し、きれいな布で乾燥させ、空気中に一晩放置して微量のアセトンを全て除去した。
【0032】
気密ねじ蓋を備えた1Lのガラス瓶を腐食チャンバーとして使用した。各瓶の中に、1本の炭素鋼棒と、3本の半分に切断したPOM引張試験片と、約50mLの飽和KCl水溶液が入っているビーカーとを入れた。塩溶液を入れてチャンバーの相対湿度をRH78%に維持した。塩溶液が入っているビーカーと金属棒とが直接接触しないように注意した。棒および塩溶液のみが入っている瓶(POMなし)を対照として使用した。POMは鋼棒から約2cmの地点に配置した。
【0033】
密封した瓶を90℃のオーブン中で50時間加熱した。次いで瓶を室温まで冷却して開け、金属棒上に存在する腐食を目視で評価した。50時間暴露した後、POMを入れていない対照を含む全ての棒が複数の腐食の兆候を示す。腐食は、棒の表面に褐色/黒色の残留物が存在することによって証明される。上述したカルボジイミドをポリアセタールの配合において使用すると、棒の腐食の程度は有意に減少した。
【0034】
50時間暴露した後の腐食量を、画像処理ソフトウェアを用いて暫定的に定量化した。実験後、各棒の写真を、同じ照明条件下で固定距離に配置したCanon EOS700Dで撮影した。レンズの開放および露光時間は、できる限り最良の品質の画像を得るように調節し、全ての写真で一定に保った。
【0035】
写真は画像処理ソフトウェア(ImageJ Fiji パッケージ)で処理した。各画像を閾値処理して、腐食領域のみが強調された二値画像を形成した。腐食部分の面積の合計は、各棒の総面積の百分率として報告した。腐食面積の合計の%は、POM配合物に添加されたカルボジイミドの量に依存する(表1)。
【0036】
【0037】
表1から、カルボジイミドが存在すると腐食表面が有意に減少することが明らかである。